「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では『おむすび』第5週~の記事を集約。
1記事で感想を読むことができる。
もくじ
第21回のレビュー
糸島フェスティバルも無事に終わって、清々しいはずの結(橋本環奈)ですが、海辺で浮かない顔をしています。と、そこへ四ツ木(佐野勇斗)が来て、いつもここ(海)でさみしい顔をしていると気づいていて、その理由を尋ねます。
そこで結はようやく、1995年1月17日のことを語りだします。たぶん、蓋をして誰にも語らずにきたことだと思います。
「たぶん、あの日から」
第5週「あの日のこと」(演出:松木健祐)は震災が起こった瞬間が描かれました。その前には「このあと地震の描写があります」のテロップが入りました。先週の段階で、来週は地震の描写がありますと事前に告知もされていました。
阪神・淡路大震災からは来年で30年ですが、東日本大震災からは14年、今年はお正月に能登半島地震が起こり、その記憶はまだ強く残っていますから、テロップは配慮でしょう。
主題歌に「震えたっていいよ」という歌詞があったことに気づくと、どき、となります。
90年代、神戸に米田家が暮らしていたことは第4週で描かれていました。
日めくりカレンダーの日付は95年1月16日。歩(少女期:高松咲希)と真紀(大島美優)が買い物に出かけて、結(幼少期:磯村メアリ)にもお土産をくれました。
その晩、地震が起きました。テレビが倒れたり、天井が崩れたり、かなり大きな揺れです。
気付いたときには、歩が結の上に覆いかぶさってかばってくれていました。歩っていいお姉さんだったんですね。
その後、小学校に避難します。そこにはたくさんの人達が避難してきていますが、真紀ちゃんはいません。
おむすびを差し入れに持ってきてくれた人がいましたが、結は冷たいから「チンして」とせがみます。
配ってくれた女性は雅美さんといいます。電気もガスも止まってしまってチンできないし、街も道路もめちゃめちゃで時間がかかって冷めてしまって「ほんまにごめんな」と謝ります。
生まれも育ちも神戸が地震で崩壊したのを見て、雅美さんは胸を痛め、泣いていますが、結は幼くて、地震に遭ったこともよくわかっていず、学校が休みであることを喜んだりしていて。だから、おにぎりが冷たいことも、理恵のことも理解できていないのです。
幼いがゆえの無知の残酷さ。その残酷さを主人公が背負います。なかなかヘヴィな内容です。
今週、阪神・淡路大震災当時、小学生だった松木健祐さんが演出を担当しました。
松木さんはこのようなことを語っています。
「主演をしている橋本さんが震災後に生まれた方であるということです。震災後に生まれた方が震災のことを悩みながらも一生懸命語ろうとする姿は、撮影していて胸を打たれました。このドラマをやる意味のひとつだと感じています」
(Yahooニュースエキスパート 「おむすび」激変。阪神・淡路大震災を描く重要な週の演出を、あえて若手に託した理由 」)
震災後に生まれた方が震災のことを悩みながらも一生懸命語ろうとする姿、これは松木さんにも当てはまるのではないでしょうか。
その一方で、雅美役を演じたのは、神戸で実際に被災した経験者である安藤千代子さん。いまも神戸で震災の語り部の活動を行っています。
いろいろなことが過去になっていき、体験した人が少なくなっていくなか、知ってることを伝えようとすること、知らないことを知ろうとすること、それぞれの営みの大切さを感じます。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第22回のレビュー}–
第22回のレビュー
第22回のアヴァンは第21回のショックなシーン。
せっかく持ってきてくれたおむすびを「冷たい」「チンして」と言ってしまう結(幼少期:磯村メアリ)。この場面、リピートはきついなあと思いましたが、そのあとにつづく、雅美(安藤千代子)の神戸愛のセリフはリピートすべき重要なセリフでした。
安藤さんのセリフまわしは、そこだけ古き良き朝ドラのようでした。
「おにぎりあたためますか」という北海道のバラエティ番組があります。大泉洋さんと戸次重幸さんがレギュラーで、03年からはじまりじわじわ人気を獲得しました。このように、おにぎりをあたためる習慣も地域によってはあるようです。が、おにぎりは本来冷めてもおいしい食べ物のはず。結はなぜ、チンしてほしいと言ったのかーー。
さすがに神戸で結が「おにぎりあたためますか」を見ていたとは思えません(当時関西で放送していたか不明)。
1月17日は真冬。体も冷えて、おにぎりもずいぶん冷えてしまっていたため、ついそんなことが口に出てしまったのではないでしょうか。
幼いがゆえの残酷な言葉に、愛子(麻生久美子)も雅美さんもやさしい対応だったことに着目したいです。「なに言うの!」と頭ごなしに叱りつけないところが大人の配慮です。
大人の配慮と涙の意味を全然わからないまま半分(三分の一?)に分け合ったおにぎりを食べたことを、波の音を聞きながら思い出す結(橋本環奈)。いま思えば、何言ってしまったのだと身が縮む思いでしょう。後悔してもしたりないに違いありません。
それを心配そうに見つめる四ツ木(佐野勇斗)。
再び、回想。
聖人(北村有起哉)が家に戻ると家は崩壊していました。あとから、歩(少女期:高松咲希)と結も来て、変わり果てた家と商店街に言葉もありません。今度は愛子が「言ったらあかんって言ったでしょ」と声を大きくしました。
ここでも結は、崩壊した家があの家だと思えません。
さらに容赦なく、悲劇が米田家を襲います。
姿の見えなかった真紀ちゃん(大島美優)がタンスの下敷きになって亡くなっていました。タンスの下敷きとは、なんという生々しさでしょうか。
歩はショックで何も食べられなくなってしまいました。
真紀ちゃんのことを、実家の部屋で思い出す歩(仲里依紗)。
1995年1月の出来事を、結と歩、それぞれの視点で回想しているように描く手法は、小説だと、結の章、歩の章と章が分かれているような感じです。同じ出来事でも、それぞれがどこを重要視しているのか、違いがわかります。結はいろんなことが理解できなかったことが、歩は真紀ちゃんのことが大きな傷となって、9年経っても残っているのです。
結の話を聞いて四ツ木がむせび泣きます。なんて純粋な少年なんでしょう。彼が視聴者の視線を担っています。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第23回のレビュー}–
第23回のレビュー
歩(仲里依紗)が部屋で懐かしい曲を聞いていると、階下がにぎやかに。おじいちゃん(松平健)がフェスの打ち上げをやるとハギャレンたちや陽太(菅生新樹)を呼んでいました。そこへ、結(橋本環奈)や四ツ木(佐野勇斗)もおじいちゃんに連れられてきます。
「戦いすんだらノーサイド」とおじいちゃんは明るい。でも少女の優勝にもの申していたのもおじいちゃんです。
ひみこ(池畑慎之介)も巻き込まれたひとりですが、アフロのかつらが気に入ってつけたまま打ち上げの支度を手伝っています。
あとで、四ツ木が栃木出身と聞いて、栃木弁で栃木に10年いたと言い、そのあと、京都や高知や韓国にまでいたと謎の経歴を語るひみこ。こういう謎の人、いいですね。池畑さんが短い時間ながら鮮やかにツボを抑えて演じています。
おじいちゃん永吉のあっけらかんとした性格のおかげで、愛子(麻生久美子)たちははいま糸島にいるのだと、今度は愛子の視点の回想がはじまります。愛子というか大人の視点ですね。
震災後、地元の人たちは率先してできることをやっています。とそこへ、永吉が心配して糸島からやって来て、実家に戻ることを提案したのです。
最初は、そんなつもりのなかった聖人(北村有起哉)ですが、商店街の人たちに促され、自分だけ残って復興の手伝いをし、愛子と歩と結だけ糸島に引っ越すことになりました。
「おいしいもん食べたら悲しいことちょっとは忘れられる」と、このときもおばあちゃん(宮崎美子)が言っていて、これがのちに結の口癖になったようです。
写真提供:NHK
ではここで、商店街の人たちのひとり、若林建夫役の新納慎也さんのコメントをご紹介します。
新納さんは神戸出身です。若林は、神戸市役所の職員で、米田家が営む理髪店の常連。さくら通り商店街にアーケードを設置する計画の担当者で、聖人に商店街側の責任者になるよう依頼しました。震災後、聖人に、仮設住宅があるが、仮住まいできるところがある人はそこへいってもらえると助かると役所的な観点で語りました。
Q1 出演が決まったときの気持ちは?
朝ドラ「ブギウギ」で松永大星を演じていた撮影中か放送中に、「おむすび」出演のお話をいただいて、「また大阪に行く日々がやってくるんやな」と思った記憶があります。こんなに続けての出演は珍しいことらしいので、ありがたいし嬉しかったですね。「ブギウギ」と同じスタッフさんも多く、「ただいま〜」という感じです。松永さんがよくやっていた“グッドラック”のポーズをして迎えてくださるスタッフさんもいました。
Q2 演じる役・若林建夫について
若林さんは松永さんと真逆の役なんです。松永さんだけじゃなく、NHK だと大河ドラマ「真田丸」で豊臣秀次役、「鎌倉殿の 13 人」で阿野全成役とクセが強い役をやらせていただきましたが、この流れから想像もつかない地味な役ですね。僕が出ると視聴者の方は「なんかやるぞ」と思うかもしれませんが、神戸市役所の真面目な職員で、突飛なことはしません。…多分(笑)
僕は神戸市出身なのですが、阪神・淡路大震災が起きた時はあれほどの大地震を経験するのがみんな初めてで、何もわからなかったんです。市の職員の方も本当に困っただろうと思います。震災当時、神戸市役所にも大勢の方が避難していたのを実際に見ました。市役所内に公衆電話がいっぱい並べられていて、みんながそこに電話をしに集まっていました。職員の方は対応に奔走していたことでしょう。ドラマに描かれていない部分でも、若林は市の職員として頑張ったのだろうと思います。
Q3 阪神・淡路大震災を描くことについて
阪神・淡路大震災を描くと聞いたときにちょっとヒリヒリする独特の感覚がありました。震災時は大学生で大阪に住んでいたのですが、神戸で暮らす家族と連絡が取れなくなったのが心配で、水をかついで実家まで 9 時間近くかけて戻った経験も。途中、電車が止まっていて、徒歩も交えて神戸に辿り着きました。幸い家族は無事でしたが、避難所へ知人を探しに行ったのを覚えています。だから劇中の避難所シーンの撮影では「こんなんやったね…」と、当時を思い出しましたね。エキストラさんがすし詰め状態で、プライバシーも何もない感じがリアルでした。当時の避難所は現在の避難所の様子とはかなり違っていて、もっともっとギュウギュウでした。阪神・淡路大震災以後、少しずつ改善されたんでしょうね。ただ、「震災」は僕にとって傷であるだけでなく、誇りでもあるんです。震災当時は本当にどうなることかと思いましたし、約 30 年経つ今だから言えることですが、復旧復興して前向きに進んでいった神戸が「誇り」です。一方で、各地で大きな地震が起きるたびに大きく傷つく自分もいます。今年起きた能登半島地震の被災地のことがずっと気がかりですし、復旧復興が遅れている現状にとても心を痛めています。このタイミングで『おむすび』が放送されることで、能登をはじめとする各被災地の方々に「大丈夫だよ、必ずこうやって乗り越えられるから!この国の人たちにはそのパワーがあるよ!」と伝わったらいいなと思っています。
Q4 視聴者へのメッセージと見どころ
作品に出てきたら何かしでかすと思われがちな僕ですが、今回は何もしません…多分(笑)。神戸の復旧復興を願う、真面目な市役所職員役を楽しんでいただけたら幸いです。震災を描く作品なので、神戸や東北、能登など、各被災地の方々が悲しいことを思い出してしまうシーンもあるかもしれませんが、「いや、待てよ。これを乗り越えてきたやんか!」とパワーに変換していただけたら。日本は地震大国で何度も何度も地震に見舞われていますが、その記憶も前に進むパワーなんだと捉えてドラマを見ていただければ嬉しいです。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第24回のレビュー}–
第24回のレビュー
聖人(北村有起哉)が帰宅すると、打ち上げで大盛りあがりしています。
ハギャレンがおじいちゃん(松平健)と騒いでいるのを見て、聖人は結(橋本環奈)を台所に呼び、これまでの経緯を聞きます。
はなからギャルたちに偏見を持っていて、結が嘘をついてギャル活動をしていたことを咎めます。
でも、愛子(麻生久美子)がギャルたちをかばいます。
台所は気まずい空気が漂っていますが、客間でダイエーホークスの歌を合唱したり、四ツ木(佐野勇斗)がヨン様のポーズをしたり、楽しそう。
歩(仲里依紗)の部屋では、歩がたそがれています。うるさい家から出ようとして玄関で聖人と鉢合わせしてしまったため部屋に戻るしかなかったのです。
歩は、神戸から糸島に来た頃、ずっと塞いでいて、この部屋にこもっていました。中学にも行かず、ずっと真紀ちゃんのことばかり考えています(その頃、結は神戸から越してきたのでいじめられていて。それを助けてくれたのが陽太でした)。
でも、そうもしていられない。平成8年4月、ようやく高校に行く決意をし、初登校の朝、歩は金髪で、制服を着崩してきて、家族を驚かせます。
このときのことを、結は子ども心に覚えていたようです。
第1話の冒頭、結が高校に初登校する朝、髪の毛をいじったり、ネクタイを緩めてみようかと逡巡したり、階下に降りてきた結をおじいちゃんが「茶色にしてきたりして」と言って食卓にへんな空気が漂ったのは、歩のことがあったからということがわかりました。
劇伴がコミカルだったので、てっきりギャルコントみたいなノリかと思っていましたが、じつのところずいぶんと深刻な話だったのです。結が鏡を見て制服を着崩そうかどうしようか迷っているのは、姉のことを意識していたから、すなわち震災の傷を引きずっていたからだと思うと切なくなります。
学校で歩の格好が問題になって退学になり、学校に入り直したものの傷害事件を起こしたりと、頭が痛い聖人。
昔、不良少女ものがドラマにありましたが、聖人と歩の確執はそういうドラマのようであります。
今日は悩める聖人を演じる北村有起哉さんのコメントをご紹介します。
写真提供:NHK
Q1 出演が決まったときの気持ちは?
役者を始めた 19歳の下積み時代に無謀な目標を掲げまして、そのひとつが朝ドラのヒロインの父親役を演じたいということでした。僕がヒロインの相手役というのはちょっと無理があるかなとそこは謙虚に(笑)。冗談はさておき、父の北村和夫が『おしん』のしゅうと役を演じていたというのも理由のひとつだったかもしれません。役者として父を超えてやるという若気の至りもありました。役者をやるなら、朝ドラに出演するぐらいの役者にならないと。おこがましいですけれど、目標が高くてもそこが一つの通過点であるぐらいの役者にならないと、と思っていました。今回、ヒロインの父役が決まって僕としてはホッとしたという気持ちが強かったです。うちのおふくろもすごく喜んでくれましたね。
聖人は、最近の僕が演じてきた役柄のなかでも、裏のない真面目な普通の役です。娘に対しては異常なほど心配性ですね。ドラマですからその性格をどこかで共感してもらえるように、憎めない部分もみせないといけないと思っています。実際の僕は割とのんびりとのんきなほうなので、父親はそこまで心配するもんかなと想像しながら、それを成立させるために現場でいろいろ試しています。聖人が心配性になった理由が今後描かれますが、やりすぎかもしれないけれど、一本筋が通っていると思っていただけるのではと思います。
聖人と永吉は非常に折り合いが悪く、相当仲が悪い親子です。健さん演じる永吉とはしょっちゅう親子げんかしていますね。監督とも相談してけんかのシーンはなるべく派手にやったほうがいいと、暴れさせてもらいました。
親子げんかというのは楽しくてすごく素敵なことなのだなと感じました。僕の父はもう他界していて、振り返ってみると、生前に親子げんかをしたことがなくて。僕もこうやって親子げんかをすればよかったなと少し感傷的になり、僕にとっては大切なシーンになりました。
Q2 演じる役・米田聖人について
聖人は、最近の僕が演じてきた役柄のなかでも、裏のない真面目な普通の役です。娘に対しては異常なほど心配性ですね。ドラマですからその性格をどこかで共感してもらえるように、憎めない部分もみせないといけないと思っています。実際の僕は割とのんびりとのんきなほうなので、父親はそこまで心配するもんかなと想像しながら、それを成立させるために現場でいろいろ試しています。聖人が心配性になった理由が今後描かれますが、やりすぎかもしれないけれど、一本筋が通っていると思っていただけるのではと思います。
聖人と永吉は非常に折り合いが悪く、相当仲が悪い親子です。健さん演じる永吉とはしょっちゅう親子げんかしていますね。監督とも相談してけんかのシーンはなるべく派手にやったほうがいいと、暴れさせてもらいました。
親子げんかというのは楽しくてすごく素敵なことなのだなと感じました。僕の父はもう他界していて、振り返ってみると、生前に親子げんかをしたことがなくて。僕もこうやって親子げんかをすればよかったなと少し感傷的になり、僕にとっては大切なシーンになりました。
Q3 阪神・淡路大震災のシーンや、聖人の神戸への思いについて
エキストラさん含め、本当にリアルに学校内の避難所を再現していただきました。ここでなんとか歯を食いしばりながら頑張ったうちの一人ですから、この風景に溶け込めるようにしなければと思いました。
避難所に永吉が来て「糸島にいくぞ」と言った時に聖人はまず反対しましたが、そのシーンのテストで、予想していたものとは違う感情が出てきたんです。本当に、「それだけはできない」って思いました。こんなに悲しくて悔しい。聖人ってこういうやつなんだ、と驚きました。永吉は聖人のそういう部分を見抜いているから、「子どもとどっちをとるんだ」と迫るんですね。
ある意味、聖人は神戸に親父と離れたくて糸島から避難してきたようなもんですからね。右も左もわからない神戸でとにかくがむしゃらにやっていたんだと思います。そんな時に、セリフにもありますが地元の商店街の人たちが温かく迎え入れてくれて、多分18 歳の聖人を親身になって支えてくれたのでしょう。聖人はそういう恩を決して忘れないタイプ。ものすごく義理堅く、人並以上にそういうものを大切にするので、被災して神戸から離れることになったことを「ひどいことをした、中途半端なことをした」とより強く感じているのだと思います。
Q4 視聴者へのメッセージと見どころ
登場人物のほとんどの人が、やさしくて温かい人たちばかり。それゆえに、人から頼まれたことを断れなかったり巻き込まれたり翻弄されるヒロインが、どんどん成長していき、父親である僕と親子げんかが起きたりと日常によくあるような出来事が丁寧に描かれます。そしてこのドラマは、明るいシーンの後に、大きなうねりとともに急にシリアスなシーンが起きるなど展開が読めません。そのあたりも楽しんでいただけたらと思います。
北村有起哉さん演じる聖人は、細かい性格で、子どもを束縛してしまうタイプに見えますが、悪い人ではなく、むしろ善人すぎるくらい。生真面目で義理堅い人です。だからこそ、娘たちに厳しくなってしまうのでしょう。娘がグレてしまったのは自分のせいだと自分を責めてしまっているのを見ると、いろいろなことを背負いこみ過ぎているのだと心配になります。家族関係がいい方向に向かうことを願います。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第25回のレビュー}–
第25回のレビュー
過干渉気味の聖人(北村有起哉)の本音が炸裂した回。
なぜ、こんなに「うざい」のか。
なぜ、ストーカーみたいに駅で待ち伏せてしまうのか……。
すべての言動の意味がわかりました。
もともと悪い人ではないのはわかっていましたが、真面目過ぎただけなのです。
阪神・淡路大震災で店も家も崩壊して、亡くなった人も身近にいて、という抱えきれない大変さを味わいながら、お世話になった神戸のために働くことを優先したため、娘たちにかまってあげられず、不良になってしまったと聖人は後悔して、むせび泣きます。
それは考えすぎ。なんでも自分中心に考えすぎてしまっているところがうざいと言われてしまう所以です。
聖人の残念なところは思い込みが激しいところです。もうちょっと娘たちの気持ちに寄り添ってあげてほしい。
歩が高校時代、傷害事件を起こしましたが、歩の言い分を聞かず、暴力をふるったのが悪いと怒るばかり。
歩はギャルファッションを楽しんでいるだけでなく、警察のお世話になってしまったので、不良化したと聖人がショックを受けても仕方ないとはいえるでしょう。
愛子(麻生久美子)は冷静に「不良とはいわない」と否定します。
不良とかグレてるとかではなく、ギャルなのです。その違いがわからない
部外者ならではの勘違いはよくあることです。
愛子は元スケバンなので詳しいのだと思います。
「うざくてもうざくてもお前が不良をやめるまでうざいからな!」と開き直る聖人。
朝ドラのお父さんはダメな人が多いのが、朝ドラあるある。なかには娘にきつく当たって娘を働かせてお金をとろうとしたりするようなこともあります。が、今回の聖人のダメさは、いい人すぎて、娘を困らせてしまうという、朝ドラには新しいタイプです。
お酒が入って、過去を回想しながら、「米田家の呪いのせい」と大荒れする聖人。米田家の呪いとは、自分をあとまわしして人の世話をしてしまうことです。
自虐していう(俺は)「はりがねの豚骨ラーメン」という表現がすごい。
こういうとき、おじいちゃん(松平健)は寝たふりして関与しないようにしています。おじいちゃんなりの対処なのでしょう。
ハギャレンたちはやや引き気味に「ムスビンパパ大丈夫?」と心配しながら帰っていきます。たぶん、引いているけれど、ハギャレンたちはどんなときでもいつもニコニコしていて、やさしいし、ホッとさせられます。
父の気持ちを知った結(橋本環奈)と歩(仲里依紗)。
結はお父さんの「大演説」を聞いていて、ギャルを辞めることを決意します。
これであっさりギャル篇終了しちゃうのでしょうか。
お父さん回で、結の出番が少ない回でしたが、四ツ木(佐野勇斗)と陽太(菅生新樹)が結をはさんで対峙する場面がありました。三角関係的なハラハラ感です。こちらの展開も気になります。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第26回のレビュー}–
第26回のレビュー
第6週「うち、ギャル、やめるけん!」(演出:小野見知)のはじまり。父・聖人(北村有起哉)が娘たちの変化を心配して号泣を目の当たりにした結(橋本環奈)はギャルを辞める宣言をします。
そして翌朝、家の農業を手伝いはじめます。これから土日はギャルと遊ばず、家の手伝いをすると宣言。ギャル嫌いだし、と言っていますが無理して見えます。結はいつも心と裏腹のことをしてしまうようで。彼女が何かをやめたほうがいいとしたら、心を抑えないことだと思います。
さらに結は書道部も辞めます。
家の手伝いがあるという理由に風見先輩(松本怜生)は休部という手もあると助言しますが、そういうことではない。彼は自分にも原因があるとは思いもよらないのでしょう。
恵美(中村守里)は風見先輩に彼女がいたから?とずばり指摘します。結はそうじゃないと否定しますが、「こんな急に気持ちが変わるとかおかしいもん」は視聴者の代弁のようです。
視聴者は聖人が荒れるシーンを見ているので結が気を使ってしまった気持ちもわからないではないですが、それにしたって書道部まで辞めてしまうのは、恵美の言うように風見先輩に彼女がいたからテンションが下がったように見えてしまいます。
もともと、ゆくゆくは農業を継ぐと決めていましたから、元に戻ったわけですが、一度変化したものは完全に元通りにはなりません。
結の変化を心配する家族。でも聖人は自分が原因と言われれも昨夜のことをまったく覚えていません。お酒を飲んでいたからです。まったく人騒がせであります。
歩(仲里依紗)は気を利かせて、永吉(松平健)に相談し、すき焼きしながら緊急家族会議を行います。歩がおじいちゃんに話しかけたとき縁側でやっていたのが、缶釣りで、それがおもしろかった。
すき焼きが美味しそう。その前に、二日酔いに聞く、大根おろしの生姜汁も美味しそうでした。二日酔いするほどお酒を飲まない筆者ですが生姜汁は飲んでみたい。
このドラマは、結は栄養士になるドラマなので、じょじょに美味しそうなものの登場率が高まってきているように見えます。美味しいものがたくさん出てくることは良い傾向です。
せっかくのすき焼き会議ですが、歩が神戸に戻らないのかと切り出し、不穏な空気に。
愛子(麻生久美子)は、住む場所はどこだっていい、家族がただいまと帰ってこられる場所であればいいとあたたかいことを言いますが、聖人は神戸に帰りたいが、いまとなったら糸島にも義理があってカンタンにはいかないとくよくよ悩んでいます。
結は、歩が急に家族の本音をさらけ出させたことに苛立ちます。
自分が気を使って、やりたいことを我慢して糸島で農家をつごうとしているのに、突然戻ってきてカンタンに神戸に戻ろうと言うことに腹が立ってしまうのでしょう。結局、結が
自分のしたいことを無理に我慢しているから、ストレスが溜まってしまうのだと思います。
ちなみに、「煮詰まる」という言葉がありますが、間違いやすい言葉とされています。
焦げ付いて停滞するみたいなネガティブな意味と誤用されますが、本来は前向きに内容うを「煮詰める」という意味です。家族会議のすき焼きは、美味しく煮詰められず、誤用的に煮詰まってしまったようです。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第27回のレビュー}–
第27回のレビュー
糸島フェスでハギャレンは優勝を逃しましたが、彼女たちの頑張りはオーディエンスにちゃんと届いていました。
ハギャレンに入りたい子たちが現れました。天神のハギャレンの聖地・ゲーセンに集っていると、そこに歩(仲里依紗)がやって来ます。結(橋本環奈)を心配して、話を聞きに来たのです。
第26回ではおじいちゃん(松平健)に相談していたし、歩はなんだかんだで結のことが心配のようです。神戸時代はものすごく妹思いのお姉さんでしたし。
ハギャレンは彼女たちが知り得る限り結のことを歩に報告します。お父さん(北村有起哉)のことを気にしているのだと聞いて、歩は思うところある様子。彼女も階段に潜んでこっそりお父さんの苦悩を聞いていましたから。そして、結は歩にキレていたから。
それはそうと、「偽物のギャル」ってどういう意味ですか?とハギャレンに質問されても誤魔化して歩は去っていきます。
結は家で農業の手伝いをせっせとしています。はりきっていますが、やっぱりちょっと淋しい顔をしているような。
四ツ木(佐野勇斗)が以前、結が海で淋しい顔をしていると指摘していましたが、彼は結をよく観察していたと感じます。結に特別な感情があるのでしょう。
自分の部屋でフェスのときの衣裳を見て、あの楽しかった瞬間を思い出している顔は、まぐれもなくハギャレンに後ろ髪引かれている顔です。
その頃、米田家には歩の付き人・佐々木祐馬(一ノ瀬ワタル)訪ねてきます。彼は歩を大女優だと言います。偽物のギャルだけど、本物の女優なのでしょうか。
佐々木という人物はなんだかあやしげにも見えます。
おじいちゃんは歩が女優だということを近所に触れ回り、歩が帰ってくると、近隣の人たちが待ち構えていました。
歩は祐馬の姿を見るやいなや猛スピードで逃げます。
仲里依紗さんの走る勢いがものすごいのと、松平健さんの倒れ方が軽快なのとで、愉快なシーンになりました。
佐々木という人物はなんだかあやしげにも見えます。
一ノ瀬ワタルさん、「サンクチュアリ‐聖域‐」で主役の力士役で注目された俳優ですが、朝ドラ初出演ではなく「エール」にもゲスト出演していました。
結のことを心配した陽太(菅生新樹)が夜釣りに誘います。彼は漁師を継ぐ気はありません。
そして四ツ木がいちごジャムを届けにきます。彼も当然、結を心配しているのでしょう。
最初に会った時と同じ寂しそうな顔に戻ってると気にします。やっぱり結は心に蓋をしてしまっている。それを四ツ木はわかっているのです。陽太もたぶん、感じているのでしょうけれど。
結は「みんないつか消えてしまうけん」と意味深なことを言います。歩は「偽物」と自分のことを言い、結は「みんな消えてしまう」だから「一生懸命やっても無駄」と諦め気分で、どちらもネガティブです。
今週の演出担当・小野見知さんはアングルを見つけるセンスがいい。
第4週では米田家の家の間取りがわかるようなアングルがあったし、今回は四ツ木が米田家に来る前、作業場を、母屋側からうんと引きで撮っていたり、蛍光灯をわざわざ背後に入れていたりしてセットでも単調に見えません。若手演出、がんばれ。一生懸命やることは無駄ではありません。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第28回のレビュー}–
第28回のレビュー
家族すき焼き会議のあと、いったん、静かになった米田家ですが、皆、それぞれなにかわだかまりみたいなものを抱えながら過ごしています。
結(橋本環奈)はギャルと書道をやめ、粛々と農業の手伝いをしています。書道に関しては、今一度、風見(松本怜生)に休部ということにしてまた戻って来るといいとやさしく言われますが、そういう気持ちにはなりません。
書道部に関しては、もともと書道に興味がないのに、すてきな風見に惹かれて勝手に盛り上がってしまった自分が恥ずかしいのだと思います。
ギャルに関しては、あれ以来、口をきいていなかったりさぽん(田村芽実)が下駄箱に忍者のように現れて結を驚かせ、「このくだり、久々」と喜びながら、結に手帳を渡します。
それを浜辺で開くと、なかは、この数ヶ月の楽しかった日々が写真やプリクラや絵で記録されていました。
ギャルはデコるのが得意なので、紙の上でも見事にデコっています。
「うちら一生マブダチ」の文字に心打たれる結。
アルバムってどうしてこんなにエモいのでしょうか。
ハギャレンの子たちは、純粋にやさしくていい子たちで、ただニコニコしている姿に心洗われるようです。
そこへまた、四ツ木(佐野勇斗)が現れます。
そして、甲子園に行く宣言。
結がどうせ何を頑張っても消えてしまうからと諦めムードなことに対して「俺が一生懸命やることの意味を証明してやっから」という理由です。
結は「熱血スポーツ漫画かよ」とうざがります。
「俺は消えねえ」というのは、古いドラマですが、亡くなった恋人のことが忘れられない主人公(浅野温子)に「僕は死にましぇん」と言って、走る車の前に飛び出した武田鉄矢さんを思い出しました。「101回目のプロポーズ」は1991年のドラマです。「おむすび」は2004年の設定なので、四ツ木も子どものときに見ていたのかもしれません。いや、まだ幼児のはずだから記憶にないでしょう。再放送? ってそんな想像は無意味ですね。
「おむすび」の視聴層がどのあたりなのか。トレンディドラマ世代なのか、もっと若い世代なのか、気になります。
結がさみしい顔をしていると四ツ木が言うのは「キャンディ・キャンディ」の丘の上の王子様的です。この漫画は長く読みつがれていますが、やっぱり古い作品です。この漫画は「あさが来た」のときに意識したと言われていて、朝ドラ制作において無関係なものではないのです。
ついでに記すと、甲子園は「タッチ」かなと。これも古い漫画ですが古典的名作です。ドラよりも漫画のほうが息が長くあとの世代にも読み継がれていきます。
四ツ木の熱い思いを聞いた結ですが、その直後にバタリと倒れてしまいました。
高校時代から行きつけのバーで働き始めた歩(仲里依紗)のもとに家から電話がかかってきて、歩はまた猛スピードで家に帰ります。
歩がカウンターのなかで働いている姿がやけに様になっていました。
結が倒れた理由は過労。農業を頑張りすぎたようです。やっぱり書道やギャル活動を掛け持つよりも農業という労働はいかに大変であるかがわかります。
眠っている結は、子どもの頃の夢を見ていました。
ものすごく心配する歩。いまはお互い、意地を張っていますが、姉妹がほんとうはとても大事に思っていることがわかります。早く仲直りできるといいですね。
米田家は基本、みんな意地っ張りで素直になれない人たちです。誰に似たのか。おじいちゃん(松平健)か。そういえば、先祖の遺影はみんな松平健さんです。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第29回のレビュー}–
第29回のレビュー
こじれた関係がじょじょにほぐれていく回。
米田家にたずねてきた佐々木佑馬(一ノ瀬ワタル)は、歩(仲里依紗)のマンションに合鍵で入り、母(麻生久美子)の年賀状の住所を頼りにここまでやって来たと語ります。
それを傍らで聞いていたおじいちゃん(松平健)は「合鍵?」とピクリ。
芸能事務所のマネージャーなら、合鍵を持っていてもおかしくはないのでしょうけれど、芸能の世界を知らない一般人からしたら、何か特別な関係なのでは?と疑ってしまいそうです。
佑馬はあまりにも歩にペコペコしていてマネージャーというよりも付き人のように見え、歩とは釣り合わない印象です。どうにもちぐはぐしていますが、たぶん、関係性のわからなさは狙いなのでしょう。
歩は仕事をほったらかして実家に戻ってきているようです。現場を空けてもゆるされてるなんて相当大物なのでしょうか。まったくそうは見えませんが。
「まだ時間あるでしょ」と歩は過労で寝ている結(橋本環奈)の部屋へ。そして「ごめんね」とこれまで結の心をかき乱したことを謝ります。
真紀ちゃんのお墓参りに行きたくて、でもひとりでは行けなくて、家族みんなとだったら行けるかもしれないと思っていたと歩は告白します。
1995年の1月のあの日以降の生活を回想している場面に、画面に2024年11月7日の地震のテロップが入るという偶然がありました。
ドラマのなかでは、糸島では阪神・淡路大震災のことがなかったかのように中学の同級生たちが振る舞っていることに違和感を覚える歩がいます。この場面で、一瞬、上履きのカットが入ることで歩のうつむき気味な心境を感じました。
ここでの生活を受け入れたら、ほんとに真紀ちゃんがいなくなっちゃう気がして、中学にいけなくなった歩。
それが突然、金髪ギャルに激変し、高校に通いはじめたことには理由がありました。
真紀ちゃんが、高校卒業したら東京に行ってギャルになりたいと思っていた。その夢を自分が叶えようと決意したのです。
警察に捕まったのも、不良化したわけではなく、お金をとられている子を助けようとしたら、悪い子のほうに怪我をさせてしまった。それも真紀ちゃんだったら助けると思って、無理して頑張ったと結にすべて話す歩。
なんでそのとき、説明しなかったのかと結が問えば、
「反抗期じゃん」。
ちょっと後出しと屁理屈が過ぎるようにも思いますが、それだけ真紀ちゃんのことがショックだったのでしょう。真紀ちゃんに免じてゆるす(何目線)。
歩は、真紀ちゃんだったら、真紀ちゃんだったら、と真紀ちゃんがやりたかったことを
想像しなぞり、「ただ真紀ちゃんの人生を行きただけ」でした。だから「偽物」と何をしても落ち着かない気持ちでいた。どんなにがんばっても、支持されても、本物のギャルにはなれない。それは真紀ちゃんにはなれないということであり、つまり真紀ちゃんの不在の絶望はどうしたって解消されることはないのです。
真紀ちゃんの記憶を消さないようにするとますます悲しみが募るばかり。それはとてもつらいことだったと思います。
頑張っている歩にファンがついて、彼女がリーダーのようになってギャル軍団が天神を闊歩する、その場面はとてもかっこ良かった。
そしていまでは大女優? ハギャレンたちもすっかり崇め奉っています。でもどうやら「大女優」説にも真相がありそうで……。明日の展開に期待しましょう!
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第30回のレビュー}–
第30回のレビュー
歩(仲里依紗)は大女優ではない。では何なのか? ということで種明かしが行われました。
場所をスナックひみこに移しましてーー。
米田家とハギャレンと佑馬(一ノ瀬ワタル)が集合する前で、歩はまず浜崎あゆみの「Boys&Girls」を歌います。
「あんまりうもなかね」とひみこ(池畑慎之介)がぼそり。
このうまくなさだと歌手でもないようです。
歩は意を決して、「みんな見て」とカラオケの画面を指さします。「Boys&Girls」のカラオケビデオのなかに歩が映っていました。
ここで、第11回のカラオケシーンを見直してみましょう。
まず女性の足元が出てきます。そして顎下の横顔、後ろ姿。「間奏12秒」のところではムードたっぷりに振り返り、そこから正面向きで歩いてくる金髪の女性。顔が絶妙に映っていませんが、いま見返せば、仲里依紗さんの体型や歩き方なのです。
ここですでに気づいていた人がいたらすごいです。
歩は東京に出てしばらくモデルをやっていましたが、現在はカラオケビデオ出演を生業にしていたのです。
震災で亡くなった真紀ちゃんの夢を叶えようとしていたけれどいつの間にか流れ流れて俳優業とはいえ決して売れっ子とは言えない立ち位置です。
このなんとも言えない華やかさとは無縁のしょぼさがリアルです。
実際、この国の大半の人がトップに立てることはなく、中くらい、あるいはもっと下のほうにいます。だからこそ、あゆの歌が染みるわけで。
みんな、ひとときカラオケで歌って気持ちを晴らして生きているわけです。
結(橋本環奈)が代わって歌い、歩を励まそうとします。
続けて、るーりー(みりちゃむ)、「うちらも歌おう〜」と無邪気に振る舞い、場を和ませました。いや、ほんと、どんなにギスギスしていても、ハギャレンが無邪気なので救われます。
ハギャレンと歩と結がそろって「Boys&Girls」を歌います。満面の笑顔で。
ちなみに歌は、第11回を見返すとハギャレンのほうが歩よりうまかった。ですが、仲里依紗さんは、わざとヘタに歌っていたらしいです。ここでプロ並みにうまかったら、歩のコンプレックスが感じられなくなってしまいますから、音程が少しズレているくらいのほうが、いまの歩の冴えなくてやりきれない状況が伝わってきます。
続けて歌った結もあんまりうまくなくて、姉妹そろって歌があんまりうまくないという、なんともほろ苦い場面でした。根本ノンジさんの書くものは時々こういう場末感が滲みます。ほのぼの系作家のように思われていますが、「フルーツ宅配便」みたいなものが良かったりします。
帰宅して、歩の部屋で歩と結は2人で語り合います。
すっかり、わだかまりが溶けたようです。
今度は歩が結の蓋していた心を開ける番です。
「子どもの頃みたいにやりたいこと思いきりやればいいじゃん」と歩が背中を押します。
子どものときに、セーラームーンみたいに変身したかった結に戻って、歩に手伝ってもいらって髪を巻いて、大きなひまわりをつけて、キラキラと派手な格好をして、階下に下りていきます。
そして父母に、ギャルも書道もやりたいと宣言します。
頑固なお父さんもついに「好きなことばやれ」と認めます。
思えば、お父さん(北村有起哉)は理容師で、他者の髪をデザインする仕事です。その娘たちも着飾るのが好きで、似ているのです。
次週予告では、「栄養士になりたい」と結が声をあげていました。いよいよ本題に入っていきそうです。結は「Boys&Girls」の歌詞のように、輝き出して、はばたきだして、もう誰にも止めることはできないのです(たぶん)。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第31回のレビュー}–
第31回のレビュー
紆余曲折を経て、心の整理がついたらしき結(橋本環奈)。これからは好きなことを思いきりやることにして、第7週「おむすび、恋をする」(演出:野田雄介)ではファッションとヘアメイクをがらり変えました。
髪の毛先を巻いて、大きなアクセサリーをつけ、ピンクのシャツにミニスカートと、これまでとは激変です。そうしたら態度まで変わって、前はなんとなくおどおどしていたのが、すっかり堂々となりました。たぶん、こっちのほうが橋本環奈さんのキャラに合っています。
ハギャレンに復活、「チョーアゲ〜!」ともうためらわずに言えます。
ただ、制服はさすがに着崩さず、でも髪型はツインテールになりました。
四ツ木(佐野勇斗)はギャルファッションの結にも引くことなく、むしろ「すんげえいいぞ!」と好感触。人を外見で判断しないいい人です。いや、実はギャルぽい子が好みだったのでしょうか。
結は、自分がこんなふうに元気になったのも四ツ木のおかげでもあるので御礼をしたいと申し出ると、スタミナ不足に悩んでいると言うので、スタミナのつくお弁当を作ることにします。
自分じゃわからないので、そこはおばあちゃん(宮崎美子)とお母さん(麻生久美子)の知恵を借ります。最初は、自分が疲れやすいからスタミナつけたいのだと嘘をつき、お弁当を2個作ってほしいと頼みます。育ち盛りだから2個食べるって明らかにバレバレの嘘。
翌朝、結はさも、自分発のように四ツ木にスタミナ弁当を渡します。
豚のレバーのお弁当。豚のレバーはなんでスタミナに効くのか?と四ツ木に聞かれて答えられない結は、図書館で調べます。
いまだと、スマホでなんでも検索できてしまいますが、この頃はまだそれができないので、豚の栄養価や料理のレシピは本を読んで調べないとなりません。
スマホでなんでも検索できるっていい時代になりました。
お弁当が高評価だったので、毎日作ることに。
最初は毎日2個作ってほしいとおばあちゃんたちに頼みますが、四ツ木の御礼の手紙が空のお弁当箱についていて、バレてしまいます。
じつに微笑ましい展開です。結のキャラ激変のみならず、ドラマもほのぼの展開に激変(第1週のはじまりもそんな感じでしたが)。
結は自分でお弁当を作ることにして、四ツ木とメアドを交換し、お弁当の感想をもらうことにします。
感想メールが楽しみで、感想をもらうとにっこにこ。
そこからは、自分で図書館で料理の本を借りるなどして研究に余念がありません。こうして人のために何かできることの喜びを知っていくのでしょう。
あっという間に、料理本に載ったメニューを作り終わってしまうほど熱心です。
ところが、結のお弁当が逆に四ツ木の足を引っ張ることに……。
ある日、結の家に四ツ木の野球部の監督・中西(真砂京之介)がやってきて、「うちのエースを潰す気ですか」と訴えます。弁当を食べたことで太ってしまいパフォーマンスに問題が生じていたのです。
四ツ木は寮で出された食事と弁当をどちらも食べていたことが判明。そう言われたら、結に弁当箱を返したあと、微妙に浮かない顔をしていました。もしかしてギャルファッションも結の気持ちを慮って褒めているだけかも。
好きな人が作ってくれたものを、美味しい美味しいと喜んで見せ、彼女のすることに対して決してネガティブなことを口にしないのは恋愛初期にありがちです。
監督は、ふたりがつきあっているのでは? と疑いますが、ふたりは全否定。でもそのときの態度も気があっていて、愛子はにやにや。
当人たちは認めないけれど、周囲にはふたりがとっても仲良いのがわかってしまうという素朴な展開です。こういうのなんだかとってもなつかしい感じがします。20年前ってこんな高校生の恋愛ってすれてなかったのでしょうか。
ところで、結はお弁当づくりに夢中なようですが、ギャル活動や書道活動はできているのでしょうか。自作のスタミナ弁当で、元気に頑張れているのかもしれません。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第32回のレビュー}–
第32回のレビュー
「俺が甲子園に行ったら米田結が好きだって告白する」
(四ツ木翔也)
お弁当は禁止されましたが、結(橋本環奈)と四ツ木(佐野勇斗)の距離がぐんぐん縮まっていきます。
夜、改めて謝りに来た四ツ木。
結が経験した地震の話を聞いたあと、彼なりにいろいろ調べて。調べれば調べるほど結や家族がどれだけつらかったか想像したと。それで、「いつか消えてしまう」から「一生懸命やっても意味ない」とやさぐれていた理由がわかったと、凛々しく語ります。
だからお弁当を要らないとは言えなかった誠実な四ツ木に、結は「やばいやばいやばい」と結は自分の恋ごころが止まらなくなっていることに焦りはじめました。
自分の心に蓋をしないことにしてギャルファッションになったのに、なぜか恋を認めようとしない結。
とうとうハギャレンにけしかけられて告白したときの、四ツ木の返事がこれ↑でした。
振られた……とがっかりする結にハギャレンたちは、でもそれって好きと言ってるではないかと指摘します。確かに。好きだけど交際はお預けということです。
「ヨン様っておバカ様なん?」というスズリン(岡本夏美)のセリフが端的。
四ツ木は見た目はかっこいいし、野球もうまいけれど、素朴すぎる人であります。
なんとなく「あまちゃん」の大吉(杉本哲太)と少しかぶって見えてきます。
今日は、四ツ木翔太役の佐野勇斗さんのコメントをご紹介します。
写真提供:NHK
Q1 出演が決まったときの気持ちは?
インタビューを受ける際に「将来の夢は何ですか」とよく聞かれるので、グループとしての夢はドームツアー、僕個人としての夢は朝ドラに出たいとずっと答えていました。祖父母がずっと朝ドラを見ていて、僕も遊びに行った時に一緒に見たりしていました。その時に「これに出て欲しいな」と言われていたのをずっと覚えていたので、祖父母孝行できたらと。仕事を通して家族や身近な人を喜ばせたいという気持ちが大きいですね。なので今回出演が決まって、家族もとても喜んでくれました
Q2 演じる役・四ツ木翔也について
翔也は本当に純真でド直球の愛すべきキャラクターで、応援したくなります。翔也と僕は共通点が多いんです。
翔也はノートに目標を書いて、その実現に向かって努力していますが、僕も日記に夢や目標を書くことを何年も続けています。「朝ドラに出たい」という目標も日記に書いていました。ほかにも、ウソをつけなくて周りに「アホやん」なんて言われたり、涙もろかったりするところも自分と似ているなと思います。純粋すぎてちょっと抜けているのが翔也の可愛いところなので、力まずに自然体で演じることを意識しています。
栃木ことばについては、最初は難しいだろうと思っていたんです。ところがやってみたら、すごく得意で!先生にも「栃木出身だと思うくらい話せている」と言ってもらいました。さすがに、とっさに栃木ことばでアドリブを言うのは難しいですが(笑)。
野球の練習もたくさんしました。小学校の時にソフトボール部に入っていて、父親も野球が好きで、ドームにもよく観戦に行っていました。なので、お話しをいただいた時は、正直できると思っていたんです。ところがソフトボールは下手投げなので、いざ上から投球する練習をはじめたら、結構難しくて。翔也は140キロを投げるピッチャーなので、できるだけ速い球を投げるために、たくさん練習をしました。先生に教えてもらうだけでなく、他の仕事の合間にキャッチボールをしたりして、最終的に 120 キロ近くまで投げられるようになっています。
Q3 結と翔也の関係性について
翔也にとって結は、ずっと「なんだか気になるし、気付けば考えてしまう存在」でした。結と翔也は何度も出くわしますし、その度に翔也は結のことをとても気にしているんですが、翔也はかなり初心(うぶ)なのでそれが恋だとは気づいていないんです。最終的に翔也がしっかり恋に落ちたのは、結が手をけがしながらも毎日弁当を作ってくれた時だと思います。
結は“与える人間”なんです。はじめて二人が出会ったシーンも、結は泣いている子どものために帽子を拾おうと海に飛び込んでいます。人のために行動することができる。僕自身も、エンターテイナーとして誰かに感動やエネルギーを与える人間になりたいと思っているので、 結のそういうところが素敵だと思います。結はそれを呪いだと言いますが、翔也は“米田家の呪い”にほれたんだと思います。
結を演じる橋本さんとの共演は2回目です。本人も気付いていないかもしれませんが、“環奈”から“結”に切り替わる瞬間があって、その時にこちらもスイッチを入れてもらえるというか、引っ張ってもらえる感覚があります。
ヒロインだから連日撮影する量も多いのですが、セリフもしっかり準備しているし、周りに気遣いもして現場の空気を作ってくれます。本人からしたら当たり前のことなのかもしれませんが、裏でしっかり努力をしているところを尊敬しています。
Q4 視聴者へのメッセージと見どころ
僕自身が人間関係などを大事にしたいと思っているので、“結”の名前のとおり“つながり”を大切にする物語なのが素敵だと思っています。物語が分かりやすく、元気で明るい登場人物が多いので、朝から楽しんでいただけると思います。
今週放送される、翔也が夢について話すあるセリフがとても良いんです。演じている僕自身も翔也に励まされました。翔也の夢に向かってまっすぐな姿を見て、「自分も頑張ろう」と思っていただけたら嬉しいです。
青春、恋、の回だった第32回。
陽太(菅生新樹)と恵美(中村守里)の関係がなにげに甘酸っぱくて注目しています。
結が好きな陽太をたぶん恵美は好きなんだろうなあと思うのですが、陽太は気づいていない。でもいつも恵美は陽太の横にいます。堤防に座っているふたりが清涼飲料水のCMのようでした。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第33回のレビュー}–
第33回のレビュー
アヴァンで、「うち四ツ木くんのことが」と結(橋本環奈)が言いかけたら「ごめんなさい交際できません」と四ツ木(佐野勇斗)が断っていたのを見て、結に気持ちはすぐ気づく聡さはあるのだなあと思いました。頭のなかは結が好きで、きっと結も自分が好きと思い込んでつきあう気満々ながら、甲子園に行くまでは忍耐を自分に強いている真面目キャラなのでしょう。いちいち先走るタイプかもしれません。
こうして結と四ツ木はメル友になりました。結はメールでせっせとスタミナのつく情報を送ります。
栄養に関心を持ち始めた結は、おじいちゃん(松平健)の食事にも口を挟み始めます。
それからあっという間に2年が経過。えええ。
「一瞬で高3になった気がする」と結のセリフはそのとおり。
平成18年(2006年)、結も四ツ木も高校3年生になり、結局、甲子園にはまだ行けず、最後の夏を迎えます。
甲子園に行ったら好きだと告白すると言っていたのに、告白できないまま……。
ハギャレンは、結とリサポン(田村芽実)以外は社会人になっています。ハギャレンの数はすっかり増えてルーリー(みりちゃむ)たちはOGとなっています。ファッションがすこし大人ぽくなりました。
リサポンは進学してギャル研究を極めたいと考えていますが、結は進路を考えていませんでした。
せっせと料理の勉強をしているけれど、それを進路にとはまだ結びつかないようです。そういえば書道はやめたのでしょうか。
愛子(麻生久美子)は思いついたことをなんでもやってみればいいとアドバイス。自分が結の年齢のとき、歩がお腹にいたので、母になる選択しかなかったことを明かします。愛子がやけに若く見えるのは、十代でお母さんになったからだということがわかりました。聖人(北村有起哉)とはどういう交際だったのか……。
聖人も娘にはうるさいことばかり言うけれど、若いときは自由にやっていたようです。聖人のキャラ造形がへんにリアルで、理想的ないい人でもないし、かといって理想的な悪い人でもない、どっちつかずなところがそれこそものすごく庶民的で、北村有起哉さんだから演じられているのだと思います。
一方、愛子のキャラもこれまでの朝ドラにはいない感じの人です。なにしろ元スケバンです。
テレビドラマとは、例えば、下町の定食屋にいる人達が見るものを想定して作ると言われていたと聞いたことがあります。これは民放のプロデューサーの話です。朝ドラは始まった頃は一億中流家庭とされていた時代の専業主婦でした。
「おむすび」の場合、町のファミレスや、駅前の庶民的なカフェ的な視聴者設定なんじゃないかと思います。以前筆者が大阪の中心からちょっと電車に乗ったところの駅前のドーナッツ屋さんで時間をつぶしていたとき、若い女性が活発におしゃべりしている会話を聞く気はなくとも耳に入り、カルチャーショックを受けたことがあります。そのとき下町の定食屋という設定に合点がいったのです。
歩と結を育て、聖人を支え、神戸で被災したあとも家族と共に糸島で生活してきた愛子は、最近、得意な絵を生かしてブログを始めました。パソコンが普及し、ネットが進化すると、家にいながら余暇に特技を活かせるようになっていきます。SNSで火が点いて、絵でも文でも人気作家になった、それまでは一般人だった人たちもいまではたくさんいます。愛子のブログもいつかブレイクするかも。リサポンと合作するといいかもしれません。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第34回のレビュー}–
第34回のレビュー
高校3年の夏、最後の挑戦。
四ツ木(佐野勇斗)は必ず選抜戦で勝って甲子園に進出し、そして結(橋本環奈)を甲子園に連れて行くと宣言します。
結は四ツ木の試合を応援に行き、ハギャレンを率いて、応援ダンスでバックアップします。
ハギャレンの後輩たちが増えていたので様になっていました。
イケイケヨン様!と華やかなダンスが効いたのか、四ツ木は絶好調。
つまり、結の高校は早々と選抜で敗退しているということでしょう。
陽太(菅生新樹)の野球熱はもう冷めてしまったのでしょうか。3年だから早々引退しちゃったのか。ちなみに、菅生さんは本日の「あさイチ」にゲスト出演して、博多華丸大吉さんたちにいろいろツッコまれていました。髪が坊主からだいぶ伸びてました。そして糸島紹介を担当してました。
このドラマではその瞬間、描かれないけれどあとから描かれることが多々あるので陽太のこともここではまだ判断できません。
結も書道部活動をしているようには思えませんでしたが、活動していて、卒業した風見先輩(松本怜生)の前で、見事な書を書いてみせます。でも、その文字も断片的にしか映らず、なんと書いたのかわかりませんでした。これも野球の応援場面で全貌がわかります。背景に貼ってあった「翔」の文字ですね。四ツ木翔也の「翔」です。
さて、結局、四ツ木は最後の最後で打たれてしまい、敗北。
甲子園に行けなくて大泣きしていた四ツ木を心配し、翌日、いつものところで会うと、四ツ木はケロッと就職して社会人野球をやってプロを目指すといいます。「切り替え早っ」と結はびっくり。
「(計画は)んなもん書き換えればいいべ」
「人生は思い通りにはいかねえ」
「最終的に夢にたどりつければそれでいいべ」
四ツ木のあっさりしたひたすら前向きな考え方には見倣うべきところはあると思います。
プロになったら告白すると告白をさらに先延ばしにしようとする四ツ木に、結は、もう告白しているようなものだとむくれます。
はっと気づいた(やっぱりおバカ様なん?)彼は結に「じゃあ米田結の答えは?」と尋ねます。
「好きだよばーか」と捨てセリフのようにして自転車で走り去る結。
だって2年前に結から告白しようとしていたのに……。
「よっしゃー俺達両思いだべ」と大喜びの四ツ木。
なんとも気恥ずかしい青春。ここもまた、すてきな海と山に囲まれた風景のなかで清涼飲料水のCMのようでした。
結はにっこにこで、家に戻って、これまでの2年間、たまった、四ツ木用のレシピとお弁当につけてくれた手紙を並べて満足そう。2年の愛の記録です。
そして、レシピを見て何か進路を思いついた様子で……。
本人のなかではまだ混沌としているのでしょうけれど、視聴者はわかっています。栄養士を目指すことを。結、とっとと自覚してくれ。
その頃、お父さん・聖人(北村有起哉)の元に、神戸の福ちゃん(岡嶋秀昭)から久しぶりに電話がかかってきて、聖人は神戸に出かけます。久しぶりの神戸、すっかり復興した商店街に空きができたので、帰ってこないかと持ちかけられたのです。
聖人の進路も変更しそう?
お父さんは四ツ木と比べてやたらとくよくよしています。彼に四ツ木の数パーセントほどの軽みが加われば、生きやすいことでしょう。余計なお世話ですが。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{第35回のレビュー}–
第35回のレビュー
結(橋本環奈)はこの2年、四ツ木(佐野勇斗)のために料理を研究してきたことから、栄養士になりたいと思いつきます。
困ってる人を助けないといられないのは米田家の呪いではなく、誰かを支えることが自分に向いていると気づいたのです。
さっそく、聖人(北村有起哉)と愛子(麻生久美子)に相談すると、ふたりとも賛成してくれます。
常になにかと気に入らない聖人もこればっかりは文句を言いませんでした。
ちょうど聖人にもやりたいことができたところです、
神戸に戻って床屋を再びやりたい。
心はほとんど神戸なのですが、糸島でも仕事を任せられているし、永吉(松平健)や佳代(宮崎美子)のことも気になって、まだぐちゃぐちゃ言っていますが、「いまいかんと一生後悔する」と佳代が背中を押します。
父母が高齢になって地元に戻るケースはよくありますが、これから父母が高齢になっていくときに地元を出ていく子どもというのもなかなか珍しいケースなのではないでしょうか。
あとは、永吉にいつどう言うか……。
言えないまま、半年が過ぎて、はや3月。
結は、4月から神戸で栄養士の専門学校に入らないとなりません。
結も愛子も神戸に行く準備は整えているのに、ひとり聖人はタイミングがあるのだと及び腰。
自分が最も神戸に行きたいのに、妻や子に支度を任せて、物事を先送りする聖人。ほんとに困った人であります。
ようやく永吉に話をする流れは、深刻ではなく、コミカルなものでした。
鯛を釣って機嫌のいい永吉に、いまがチャンスと心の声で焚きつける愛子たち。それでも言い出せないでいると、四ツ木が来て、引っ越しの話しをしてしまいます。
聞いてないと怒り出す永吉。
でも、真剣に聖人が自分の気持ちを語り、これは理解してくれる展開?と思ったら、
「いかん!」
「いま完全にいいっていう雰囲気だったよね」という愛子。いや、ほんとに。
こうして永吉の許可を得ないまま、糸島を去ることに……。
出発の日、永吉はひとり畑作業をしていて。
結と永吉が、広い畑のなかで語らいます。
遠くに山が見える広大な畑。すてきな風景でありました。
永吉は、家族が離れるのがさみしいのだと言いますが、結局は結に説得されて、諦めます。
考えてみたら、永吉が「いかん!」と言って聖人を怒らせなければ、まだ聖人はくよくよしていたかもしれません。もしかして、聖人の背中を押すために、わざと「いかん」と言ったのかも?と思ったりもしますが、たまたまなのでしょうか。
永吉の言動は不可解であります。
それを脚本の不味さと片付けるのはもったいない。
やさしいところと、頑固なところが、グラデーションになっているのでしょう。
この手の頑固だけどやさしいおじいちゃん像も、一昔のドラマだと心情の切り分けがはっきりしていましたが、偽悪的に頑固オヤジを演じているわけではなく、ほんとうに頑固で、でも優しさもあって。
その優しさも意識的に優しいわけではなく、岩から滲み出てる水のように滲み出てしまうという、無意識のレベルで言動している人間の不思議な魅力を松平健さんが、すてきに演じています。
来週は神戸編! 糸島の雄大できれいな自然が見られなくなるのが惜しい。
※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。
–{作品情報}–
作品情報
放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始
出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。
【結の家族・米田家の人々】
米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。
米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。
米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。
【福岡・糸島の人々】
四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。
古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。
風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。
宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。
真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。
佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。
田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。
柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。
ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。
草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。
大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。
佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。
大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。
飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。
作
根本ノンジ
音楽
堤博明
主題歌
B’z「イルミネーション」
ロゴデザイン
大島慶一郎
語り
リリー・フランキー
制作統括
宇佐川隆史、真鍋 斎
プロデューサー
管原 浩
公式サイト