<虎に翼 最終章編 >23週~最終週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら

2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、第23週~24週の記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

第111回のレビュー

「あんな最期あるかね?」
「あさイチ」で博多大吉さんが朝ドラ受け。

人権派弁護士の雲野(塚地武雅)が急逝してしまいました。

4年もかかった原爆裁判の準備手続きが終わり、翌年2月にいよいよ第一回口頭弁論が行われることになったときで、気合を入れて梅子(平岩紙)のおにぎりをつかんだところで倒れ、そのままーー(塚地さんの倒れ方がじつに見事)。

「あさイチ」にゲスト出演した塚地さんは「天国からお届けしております」と挨拶していました。

今朝の「あさイチ」は博多華丸大吉、塚地武雅の芸人3人のトークでとてもしっくりするムードでした。やっぱり話芸のプロ同士。

話をドラマに戻します。
戦争前後はいろいろ遺恨もあったけれど、寅子(伊藤沙莉)もそれなりにお世話になった雲野です。でも、原爆裁判の判事を担当する寅子は、よね(土居志央梨)に注意されてお葬式出席を遠慮しました。

第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」(演出:梛川善郎)
昭和34年から35年へ時間が駆け足で進みますが、時の流れのなかで主要人物がじょじょに変化しています。

雲野は亡くなり、すし屋の笹山(田中要次)道男(和田庵)の様子から元気ではないのではないかという気がします。裁判の傍聴にも来なかったので(原爆裁判に一般の傍聴がゆるされていたかはわかりませんが)。

寅子は更年期の症状が出てきているように見えますし、百合(余貴美子)は物忘れが顕著になってきました。のどか(尾碕真花)の名前が出てこないのはショック。
極めつけは、原爆裁判に遅れて傍聴にやって来た竹中記者(高橋努)。ずいぶんと白髪頭になって、動作もゆったりしています。

戦後から15、6年が経過していますし、年をとるのも無理はありません。むしろ、登場人物たちが変わらなすぎる。花江(森田望智)なんて孫もできたのに、白髪染しているのでしょうか。若々しい。
道男や直明(三山凌輝)は出てきたとき、大人過ぎていたので、最初から何歳なのかよくわからないし。

更年期、物忘れと、高齢者がぶちあたる問題をまぶしても、やや唐突で実感わかないところ、ものすごーく老いた人物が出てきて、ようやく年月を感じます。玉手箱を開けたらおじいさんになった人、みたいにも見えますが。

一方で、優未(毎田暖乃)が高校生になって、大人ぽくなりました。毎田暖乃さん、また別の優未役が登板したのかと一瞬思うほど、雰囲気を変えています。今回、あまり活躍の場がないですが、役割の認識と仕上がり具合が
徹底しています。すばらしい。

つまり、世代交代が起こっているけれど、あの戦争についてはまだ解決していない。新たな世代が引き継いでいかないといけない状態を描いているのだと思います。

「決して風化させないためにいま動かねば」
(雲野)

倒れる間際の雲野の言葉はまるで遺言のようでした。

長崎地裁で判事補をしている朋一(井上祐貴)が星家に送ってきたはがきは長崎の平和の像で、寅子の裁判を応援しているかのように見えます。

さて、今一度塚地さんの話。
塚地さんは目下、朝ドラ出演者が9人も重なって出ている「新宿野戦病院」(フジテレビ)にも出演していて、「あさイチ」でも「まごころ病院に」といじられていました。

昨日は、日本テレビの24時間テレビで、能登の応援に、能登が舞台だった朝ドラ「まれ」(15年度前期)が取り上げられていて、塚地さんがナレーションをやっていました。塚地さんは「まれ」にも出ていたのです。すっかり朝ドラファミリーとして欠かせない存在となっているように見える塚地さん。次に出演されるのはいつでしょう。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第112回のレビュー}–

第112回のレビュー

「そろそろあの戦争を振り返ろうや。そういう裁判だろ」(竹中)

原爆裁判が本格的にはじまりました。
改めて、原爆裁判とはなにかというと、広島、長崎で被爆した方々が国に補償を求め起こした裁判ですが(実際にあったことをドラマにしています)、第111回で、雲野(塚地武雅)が言っていたように、1件の訴えを認めたら、次々と補償を求めてくる人が現れるので、国としては認めることができないようなのです。

国側の指定代理人の反町忠男(川島潤哉)は感情を一切押し殺し、事務的に物事を進めるタイプに見え、なかなか手ごわいです。第111回ではひとり黙々とお弁当を食べている姿が印象的でした。

雲野亡きあと、岩居(趙珉和)を助け、よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)が原告の弁護を受け持つことになりました。

第一回口頭弁論の終了後、よねはすれ違いざま、寅子に「意義のある裁判にするぞ」と語りかけます。判事と原告側弁護士なので馴れ合いは禁物です。

と、ここで気になったのは、寅子は更年期で疲れがとれず、暑がりになって扇子が手放せないのですが、同じ年であるよねはいつまでも少女のようであります。結婚や出産をしてない分、精神年齢が若いということはあるかもしれませんが、体調に変化はないのでしょうか。

ひとりやけに老けている、傍聴に来た竹中記者(高橋努)は雲野にこの裁判を記録して世に伝えてほしいと頼まれたと言います。雲野の本気を見る思いです。
竹中は体は衰えているようですが、百合(余貴美子)のような物忘れはないようでなにより。でも、岩居たちに囲まれてベンチに座って話し込んでいるだけで、彼らに取材しているふうに見えませんが大丈夫? そこはベテラン、メモをとらなくても大丈夫なのかも。

星家では、百合の調子がますますおかしい。物忘れが激しいうえ、気性がとても穏やかだった百合が、急に不機嫌になったりします。

心配した航一(岡田将生)は老年性痴呆症ではないかと推察し、図書館で調べたことを寅子に見せます。航一はメモ、ぎっしり。

航一はまた、寅子(伊藤沙莉)が最近、疲れやすいのは、更年期障害ではないかとも指摘し、書籍を手渡します(ドラマの順番的には寅子の更年期指摘が先で百合の話はそのあと)。さすが、総力戦研究所のメンバーに選ばれただけはある。洞察力と調査力に長けています。

航一もまたよねと同様、若々しく、更年期(男性にも更年期があるといわれはじめたのは近年)もなく、記憶に衰えもないようです。

それから1年半が経過。百合の症状は進行しているようで、銀行に勤務しているのどか(尾碕真花)をまだ大学生だと思い込んでいたり、自分がのけものにされていると被害妄想をしたり。

そのたび、空気はざわつきますが、寅子たちはできるだけ平常心で接します。手が回らないところはお手伝いさんを頼んで、日中の世話はお任せしています。お手伝いの吉本(山野海)のはっきりゆっくりした話し方やきびきび無駄のない動きは慣れた人感がよく出ていました。短い出番のなかすばらしい。

余貴美子さんが、警戒心をあらわにしたかと思うとふわっと機嫌がよくなる、黒から白へと極端にひっくり返るのではなく、濃淡のある変化を表現されて目が離せません。朝から濃密なお芝居でした。

8月、原爆投下が国際法に違反しているか、国側は国際法学者の嘉納隆義(小松利昌)教授の鑑定、原告側は保田敏明(加藤満)教授の鑑定を求めることになりました。それぞれの意見があって――。
ここでは竹中が鋭い目つきでメモをとっていました。
寅子は法廷では汗をかかないのでしょうか。しんどいと思うのですがクールにふるまっています。

小松さんは「らんまん」で主人公の家の番頭のほか、「純と愛」や「まんぷく」等、加藤さんは「ちゅらさん」や「エール」に出演している朝ドラでおなじみの俳優さんたちです。

ここのところ気になるワードは「あの戦争」。あの戦争はなんだったのか、あの戦争を振り返ろう、と寅子や竹中が言います。彼らの思いは語られませんし、「あの」の具体的な記憶も語られません。なかには、そこを描いてほしいと思う視聴者もいるでしょう。でもここは、抽象的な表現によって、視聴者それぞれに考えさせようという意図を感じます。そして、昭和の「あの戦争」が2024年にも続いている「あの戦争」に接続するようにも思えるのです。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第113回のレビュー}–

第113回のレビュー

第112回でよね(土居志央梨)が、国際法学者の嘉納隆義(小松利昌)に「原告はいまを生きる被爆者ですが」と問いかけたことを受けるかのように、寅子(伊藤沙莉)は「いま苦しんでいる被爆者はどこに助けを求めればよいかとお考えですか」と問いかけます。でも、嘉納は法学者として答えられることはないと返しました。

この場にいる誰もが、感情としては被爆者へに想いを寄せるものの、法的にどうしようもないという忸怩たる思いを抱えているように見えます。

弁論が終わったあとの法廷で国側の指定代理人の反町忠男(川島潤哉)と嘉納が語り合います。
反町はあくまでも、被爆者個人への同情から国際法を拡大解釈するわけにはいかないと淡々としています。

「法は法それだけです」
(反町)

感情を排し、法律に準ずる意思を示す反町に、嘉納はお互い大変なものを背負わされているねとつぶやきます。立場が違っていたら、このふたりの言動も変わるのでしょう。本来最も優先しないといけないのは被爆者の苦しみを少しでも救うことであるはずなのに、国民を守るために法律があるはずなのに、法律が優先で、被爆者の苦しみは後回しになる。なんとも理不尽です。

この原爆裁判は長々やっていてもまったく注目されてもいなかったのですが、ふたりの法学者の鑑定が行われた記事を竹中(高橋努)が雑誌で発表すると、にわかに注目が集まり、傍聴人がどっと増えました。その記事の見出しは「被爆者はどこに助けを求めればいいのか」です。
雲野(塚地武雅)の願いが届いたのです。

が、甘味処で桂場(松山ケンイチ)は、寅子に、上から原爆裁判は早く終わらせるよう言われたと告げます。
無力感に苛まれる寅子。航一(岡田将生)も記事を読み、胸のうちにためているものを夫の僕に少し分けてくれないか、と言ってくれますが、星家では、百合(余貴美子)はお財布がないと騒いでいます。痴呆症が進行しているのです。

仕事でも家庭でも無力感を覚えることばかり。さらに寅子自身は更年期で、身体の変化に戸惑っていて……。例えば、急に家電が一斉に壊れることがあるように、ヘヴィな案件が重なるときは重なるものと言いますが、寅子にのしかかるこの3つの案件はかなり重い。でも、聡明な夫もいるし、家族で乗り切るという流れになっているようです。

原爆裁判は、被爆者のひとり広島の吉田ミキさんが証人尋問に立ってくれることになりました。なかなか法廷に立つことを承諾する人がいないのは、注目されたくないという心情ゆえ。轟(戸塚純貴)は法廷に立つことでひとり矢面に立たされる危険性もあることを懸念します。

「どの地獄で何と戦いたいのか 決めるのは彼女だ」
(よね)

「なぜいつも国家の名のもとに個人が苦しまなければならないのか。すべて国民は個人として尊重される」
(寅子)

まずは個人の問題――離れていてもよねと寅子の考えていることは共鳴し合っています。この時点で判事がかなり原告寄りなのはいいのかよくわかりませんが。

星家では、百合子の痴呆症に最もやりきれなくなっているのはのどか(尾碕真花)でした。百合子がシチューを腐っていると鍋ごと捨てて大騒ぎになっているところに帰宅して、家に入るのをためらって玄関先でタバコを吸っているのを、優未(毎田暖乃)がとがめます。
すると、百合子は、のどかをかばうのですが、のどかは迷惑そうで、銀行勤務なんてしたくなかったのに、百合子に勧められてしぶしぶだったことを恨んでいるようで。いまさらそのことを蒸し返します。

優未は、最も関係性の薄い百合子の世話をしているのに、百合子は優未を邪険にしてのどかを大事にする(痴呆症になるまえは優未をかわいがっていたのに、心の奥にしまってあった長いこと一緒に暮らしたのどかへの情や責任感などが増幅したのでしょう)。それも耐え難いでしょうし、のどかがいつまでも
大人にならないことにも苛立って、「バカ!」と罵り、蹴りまで入れてしまいます。
カッとなると、暴力にうったえてしまう、昔の寅子のようです。
どうなる星家。

のどかは学生の頃からむしゃくしゃすると、玄関先でタバコを吸っていました。兄・朋一(井上祐貴)も。玄関という人の出入りのある場でタバコを吸っていたら目立つと思うのですが(匂いも残るだろうし、ふつうは裏庭とかではないかと)、なぜ玄関なのか。セットの問題としてしまうと身も蓋もないので、立派な家の正面玄関を汚すという背徳行為を楽しんでいるのではないかと考えてみました。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第114回のレビュー}–

第114回のレビュー

家族の問題と原爆裁判を平行して描きます。

痴呆の症状が進行している百合(余貴美子)の世話をしないのどか(尾碕真花)に業を煮やした優未(毎田暖乃)はのどかを蹴っ飛ばして家を出ていってしまいます。
職場に山本(山野海)から報告の電話がかかってきて頭を悩ます寅子(伊藤沙莉)
湧いてくるイマジナリー猪爪家の人々を追い払っていると、汐見(平埜生成)が怪訝そうな目で見ます。

優未はよね(土居志央梨)たちの事務所に来ていました。
優未の言い分を聞いて、遠藤(和田正人)が、怒る気持ちはわかるが手や口を出したら、その責任をとらないといけないと諭します。
迎えに来た寅子は事務所の外でそれを聞いて感無量、拍手しながら入ってきて、優未を抱きしめます。
「いきなり湧いて出てきてうるさい」というよねのツッコミがナイス。

家に戻るとのどかと航一(岡田将生)が夕飯(カレー)を作って迎えます。
のどかも仕事でくさくさしていて、百合に気遣う余裕がなかった。こういうことってどこの家にもあるでしょう。
いろいろあるけれど、同居を選んだのだからみんなで協力して百合の面倒を見る。星家の問題はいったん解決です。

口や手を出してなんの責任も負わない人にはならないでほしいと言われたにもかかわらず、優未がのどかを蹴ったことを謝らなかったのは、何かの暗喩なのでしょうか。

そして原爆裁判です。1962年(昭和37年)1月、証人として被爆者・吉田ミキ(入山法子)が広島からやってきましたが、法廷に立つことに躊躇があるようです。彼女は原爆によって顔にやけどを負っていて、好奇や同情の目にさらされることに躊躇があるのです。

よねの凜とした美しさを褒める吉田。彼女は昔、美人コンテストに優勝したこともあったという。つるっときれいな白い肌といまの自分をついつい比べてしまうのでしょう。

入山さんはこれまで朝ドラでは、「エール」でカフェの女給、「らんまん」で芸者と、女性の仕事が限られていた時代に自分なりに働いてきた人物を演じています。「ゲゲゲの女房」では劇団の女優兼座付き作家で、すこし先進的な役でした。

今回の吉田は戦争の犠牲者の代表です。
裁判に立って世間の同情を買うことが目的であることはわかっているものの、同情されるのもつらいことです。

「声をあげた女にこの世界は容赦なく石を投げてくる」「だからこそ心から納得して自分で選択したことでなければ」と言うよね。
でも、苦しさと辛さを伝えたいのも吉田の本音。

結局、吉田は裁判に欠席し、手紙を轟が代読します。吉田は美しさ以外にも身体に様々なダメージを受けていました。
ここで「虎に翼」の名劇伴「You are so amazing」が包み込むようにかかります。

「ただひとなみに扱われて穏やかに暮らしたい」(吉田)
被害を被っている者が世間に訴えると、なぜ逆にますます損害を被ることになるのか。世の中ってほんとうにヘンです。

轟が吉田が法廷に立つことを心配したのは、彼が同性愛者であり、何かと他者の好奇の目を避けて生きているからでしょうか。
原爆裁判に関わっている人が、轟をはじめ、よね、汐見とみんな、社会からこぼれ落ちて苦しんでいる者たちです。よねは男性の力に屈服させられたことがあり、汐見の妻は朝鮮人であることを伏せて暮らしています。法律で「平等」を謳っているにもかかわらず、平等ではないことを身に染みて知っている人達です。

よねの「声をあげた女にこの世界は容赦なく石を投げてくる」というセリフが、原爆裁判においては、男女関係ないと思うので、女性問題にまとめてしまうと、視聴者が「はて?」にならないだろうかと気にかかりました。原爆の問題に、フェミニズムやルッキズムも混ざっているような。吉田とよねの場面に#MeToo運動も想起してしまう。もちろん、 すべてが社会の不平等からはじまっていて、その究極が戦争という考えは理解できます。

誰でもなんとかできてしまう困ったとき頼れる料理・カレーとは違って、具材をどんどん放り込んで魔法のカレールー入れて煮込んでもみんなが食べられる社会派エンタメにはならないのです。たとえどんなにすばらしい考えでも、一個、一個、分けて論じていかないと伝わりにくくなって(わかる人にしかわからない)もったいない気がします。つまり、冴えたやり方を考えだすことが大事なのではないかと思うのです。それが一番むずかしいから、まずは声をあげる、なのでしょうけれど。

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–{第115回のレビュー}–

第115回のレビュー

今日も更年期と痴呆症と原爆裁判。
こんなにいろいろ盛り込んで、と渋滞で受け止めきれないと思う視聴者もいるでしょう。でもよくよく考えてみたら、どんなことも個々のつらさや悲しみであり、これ、すべて平等、ということであり、深いです。

1963年(昭和38年)、判事補の漆間(井上拓哉)が判決文を書き上げました。原告に賠償請求する権利は法的に不可能と汐見(平埜生成)が言いますが、寅子(伊藤沙莉)は粘ります。判決文にもう少しだけ書き加えてはどうかと。

職場では頭が痛い問題が続き、家に帰れば、百合(余貴美子)の痴呆症が進行しています。
寅子は、なにげなく、更年期のために月経の苦しみから解放されることを喜ぶ自分がいると話しかけます。おそらく寅子は、自分自身もこれまでと身体の状態が変わってしまったことに戸惑いを覚えながら、前向きに考えていることを、百合とも共有したかったのではないでしょうか。

すると、ぼんやりバナナを貪っているように見えた百合でしたが、自身の心と体が動かない状態を自覚し、もどかしく思っているようで、夫のもとにいきたいと言い、「ごめんなさい」を繰り返します。前向きに捉える次元を超えて、心も体もコントロールできなくなったことが悲しくて悔しくて。百合はかつて美しく聡明であったので、このギャップは誰よりも自分が辛い。いつかこういう日が誰もにも訪れるかと思うと、心がちくりとなりました。メガネが汚れている感じもリアル。

「私ね 苦しいっていう声を知らんぷりしたりなかったことにする世の中にしたくないんです」(寅子)

このセリフのように、寅子は、被爆者の声も、義母の声も、等しく聞いて考えたいと思っているのでしょう。
百合だけでなく、傍聴マニアの寿司屋の笹山(田中要次)も老いて歩けなくなっていることを寅子は道男(和田庵)から明かされます。笹寿司のおじさんは家族が面倒をみているのでしょうか。状況がわかりませんが、ここにもまた老いの苦しみがあります。
ようやく、あんこに、桂場(松山ケンイチ)のお墨付きを得た梅子(平岩紙)は、いっしょに和菓子と寿司の店をやらないかと道男を誘います。

そして、判決の日。判決主文をあとにまわし、判決理由を先に読み上げるという異例のやり方を行いました。なので、竹中(高橋努)などは驚きます。

原爆投下は国際法からみて違法な戦闘行為であったことを述べながらも、損害賠償は請求できないという
内容でした。
記者はそこですぐに出ていこうとしますが、汐見の声が引き止めるかのようにいっそう強くなり、記者たちは席に戻ります。

ここから4分間にわたる判決理由の文書を汐見が読み上げます。

「国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により国民の多くの人々を死に導き傷害を負わせ不安な生活に追い込んだのである」からはじまって、締めはこちら↓

「我々は本訴訟を見るにつけ政治の貧困を嘆かずにはいられないのである」(判決文)

なかなかシビアーなことを国家に突きつけています。
いまは司法の世界では解決できないけれど、立法と行政ーー国会と内閣が考えるべきところであるのではないかと一石を投じようとしたことが伝わってきます。

結果的には国側の勝訴で、訴訟費用は原告側の負担。やりきれません。

これは、原爆投下に関することではありますが、令和現在の国家と国民のことにも思えてしまうのです。

原爆裁判の判決文は日本反核法律家協会のホームページに裁判記録とともに掲載されています。

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–{第116回のレビュー}–

第116回のレビュー

原爆裁判は国側が勝ちましたが、裁判をきっかけに国民の注目を浴び、被爆者救済の制度を求める気運が高まります。竹中(高橋努)は長い長い記者生活ではじめての本を出すことができました。なかなかご苦労されたようですが、著書が出せて良かった。残念ながら、寅子(伊藤沙莉)の本は出すことができなかったようです。

「またどこかでな、佐田判事」とはじめて「お嬢ちゃん」でなく「佐田判事」と認めて竹中は去っていきます。

寅子が、よね(土居志央梨)たちの事務所に行くと、弁護士チームは祝杯(負けたから祝ではないか)をあげています。
寅子が黙って頭を下げるのは、判事のひとりとして、国が勝つ判断をしたからでしょう。よねは寅子に「黙って飲め」とお酒を注ぎます。敗訴とはいえ、できるかぎりのことはやって、世論をすこし動かしたことは、まず一歩とよねたちには悔いはないようです。

「被爆者の方々が救われたわけじゃない」と寅子は無念そう。
判決文をもう少し考えようと粘ったのも寅子で、具体的に問題に言及しませんが、いろいろ考えるところがあるようです。

航一(岡田将生)は「あげた声は判例は決して消えない」「苦しいことは分けあいながら、これからももがきながら一歩一歩です」とやさしく励まします。彼は裁判のとき、外で聞いていて、口元をかすかに震わせていました。総力戦研究所にいながら未然に戦争を回避できなかった、原爆を想定できなかったことなどの責任をずっと引きずっているのでしょう。

寅子は自分の思いと違う判決を選択しないとならないとき、裁判官でいることに疑問なり苦悩なりしないのでしょうか。それでも裁判官を仕事と選ぶ理由は何なのか。そういうドラマも見て見たかった。

第24週「女三代あれば身代が潰れる?」(演出:梛川善郎)は原爆裁判以降、年月が急速に過ぎていきます。

痴呆症に苦しんだ百合(余貴美子)は2年後に亡くなったとナレ死(ナレーション:尾野真千子)。

【朝ドラ辞典:ナレ死(なれし)】
登場人物が亡くなるとき、死の瞬間を描かず、ナレーションで「亡くなりました」と紹介すること。はじまりは定かではないが、大河ドラマ「真田丸」のとき、SNSで「ナレ死」と盛り上がって以降、定着したワード。亡くなるときに、涙の別れの芝居場があったほうが感動はするが、あっさり「ナレ死」も逆に印象に残るようになった。

1943(昭和68年)年、多岐川(滝藤賢一)は病で手術し自宅療養、いまだ多岐川の家に同居している汐見(平埜生成)香淑(ハ・ヨンス)の娘・薫(池田朱那)は学生運動に没頭し、自身の出自が朝鮮であることを隠されていたことに怒ります。開けて1944(昭和69年)、猪爪、星家は大家族化し(ゴッドファーザーみたいだけどマフィアではなく法曹界のエリート一族というまばゆさ)、寅子に孫ができ、優未(川床明日香)は大学院で寄生虫研究をしています。

ナレーションでも「寄生虫?」と驚いているように、
なかなか唐突感ありますが、寅子のモデルである三淵嘉子さんの息子さんが寄生虫の研究をされていたそうで、そこは史実を取り入れたようです。

そして、寅子は、久藤(沢村一樹)が所長になった家庭裁判所で、少年部の部長になって、未成年による凶悪犯罪などに取り組んでいます。
家庭裁判所にはいまだに、花岡(岩田剛典)の妻の描いたチョコレートを分け合う絵が飾ってあります。チョコを分け合っている絵と、航一の「苦しいことは分けあいながら」のセリフが重なって見えました。

そんなある日、桂場(松山ケンイチ)が第五代最高裁長官になったニュースがテレビから流れます。
テレビを見ている航一が、テレビのなかにもいるというシュールな場面。航一ってもう定年退職したのかと思ったら、まだ現役なんですね。登場人物が何歳なのかよくわかりませんが、少なくとも寅子がおばあちゃんになっています。

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–{第117回のレビュー}– 

第117回のレビュー

冒頭、暗がりで女性のすすり泣く声が聞こえます。
新聞記事によれば、この女性・斧ヶ岳美位子(石橋菜津美)が父親を殺した状況のようです。
その弁護の依頼がよね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)のところに来ました。
なかなかヘヴィな事件です。

1968年(昭和44年)、桂場(松山ケンイチ)が最高裁長官に上り詰めました。
その就任祝いと多岐川(滝藤賢一)の快気祝いを兼ね、寅子(伊藤沙莉)久藤(沢村一樹)はできたばかりの寿司と和菓子の店・笹竹に集います。

老いと病による衰えをみごとに演じる滝藤賢一さん、
大出世したのにむすっとしている表情を絵に描きやすい顔で演じる松山さん(顔には染みメイク)。
このドラマーーとくに台本から読み取ると松山さんが最も読み取って演じていると思います。
滝藤さんは台本が求めているものを超えて、人間のリアルを追及しようとしている。これが余貴美子さんにも通じるものがあります。
いろいろな演じ方があり、ふたりとも優秀な表現者であることがわかる場面です。

法曹エリートが、寿司と団子の庶民的なお店に集まって、ほかの客たちとかなり近いところで団子を頬張っている。 60代くらいの人たちで貫禄もある人たちだったら、個室に集まりそうですが、そうはしない。これすなわち平等? 

昭和40年代の定年は55歳と思っていましたが、それは一般職。公務員は64歳。
たぶん60代の航一(岡田将生)は最高裁調査官室の中枢として調査報告を最高裁判事に行う業務を担当していました。
岡田将生さんはたぶん、年齢不詳キャラを演じているようです。
汐見(平埜生成)はメガネをかけて老けた感じを出しています。
航一の息子・朋一(井上祐貴)も長崎から戻ってきて最高裁で働いています。
キラキラのエリート集団、華麗なる一族的でありますが、あんまりそうは見えません。

その頃、学生紛争が盛んになっていて、東大生が安田講堂を占拠しました。この時代、学生が社会改革を目指して戦っていたのです。令和のいまでは考えられないことであります。

たぶんNHKの貴重なアーカイブ・ニュース映像が流れ、そこだけものすごく生々しい。
星家では、学生紛争の映像を見ながら、このなかに未成年の子もいる、というセリフがはさまれます。
寅子が家庭裁判所で未成年の事件を扱っているからこその視点です。

寅子は、よねに呼ばれて、事務所に出向くと、汐見と香淑(ハ・ヨンス)がいて、娘の薫が安田講堂事件に関わっていて逮捕され、その事件を香淑が受け持ちたいと揉めていました。
香淑はコツコツと学んで、司法修習を終えていたのです。
たとえば、岡田惠和さんや宮藤官九郎さんの脚本だったら、この揉めて平行線のところをおもしろおかしく書くことに尺をとるでしょう。が、吉田恵里香さんは「揉めています」「平行線で」という説明で終えて話を進めてしまいます。描きたい出来事がたくさんあるのでしょう。

そこに新顔がいます。あとで彼女は「私 実は父親殺しちゃって」とドキリとなることを明かします。
冒頭の殺人事件の容疑者・美位子で、尊属殺人の罪で起訴され保釈中の身でした。

「尊属殺人の依頼を受けたということは」とは尊属殺人の弁護の依頼ってことです。

尊属殺人とは、親を殺すことで、罪が重いのです。これは「虎に翼」の前半で一度やっていました。
寅子の上司・穂高(小林薫)は第68回で、尊属殺人の重罰規定を違憲と主張しました。年下の者が年上の者(子供から見て祖父母、父母、叔父叔母)を殺す尊属殺に関して、刑が重いのは平等の法律に反するのではないかと問われていたのです。昭和25年(1950年)のことです。

第70回で、尊属殺について「20年後、世間を騒がすことになります」とナレーション(尾野真千子)で言われていました。その20年後がやってきたのです。

結局、穂高の意見は認められず、合憲となったのですが、このとき、寅子が「判例は残る」「おかしいとあげた声は決して消えない」と言っているのです。
第116回でも同じ言葉を航一が言っていました。第68回で航一が悩む寅子に「うまくいかなくて腹が立っても意味はあります」と言っていて、たぶん、寅子の「判例は〜〜」のセリフは航一に言われたことから浮かんだものだと思われます。

寅子にとって航一はとても影響力をもたらしているのです。

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–{第118回のレビュー}–

第118回のレビュー

冒頭は、女性法曹の会の集まり(@竹笹)で、最高裁人事局で出た発言を共有します。
女性は裁判官に向いていないというもので、中山(安藤輪子)よね(土居志央梨)が怒りを爆発させます。
まず、中山が泣き出し、よねが「先輩、早いです」とたしなめますが、次は「よねさんも早い」と寅子がたしなめます。結局、理由その4は中山が泣き叫んでかき消されてしまいました。
梅子(平岩紙)が、時代が進んでも何も変わっていないと悔しそう。

でも中山は検事で、よねは弁護士。女性が向いてないのは、裁判官という話題で、憤慨すべきは寅子なのに、ふたりが逸っています。法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)に女性が向いていない、ではないけれど、彼女たちにとっては同じことなのでしょう。

この場面で印象的だったのは、寅子が老眼鏡をかけて記録を読むことです。ざあますメガネ的なものがお似合いでした。そして梅子は、117回あたりからかなりお年寄りの所作になっています。平岩紙さんも老いの演技をちゃんとやっているグループです(老いの演技をするグループ、余貴美子、滝藤賢一など)

中立であるべき法曹界で女性差別がまかり通るように、意外と中立ではなく、安全保障に関する集会は有罪で、別件の教員の集会は無罪となったりと、同じ公務員なのにこの差はなんだと朋一(井上祐貴)が家で憤慨しています。それを聞いた寅子は、人間は変化を過剰におそれるもので、例えば男女平等が進んだかと思えばぶり返しがくる(先述の女性裁判官批判のような)もので、「なかなか変わらなくても声をあげていくことに意義がある」と諭します。

それから、政民党が、最高裁の判決に偏りがあるとして人事に介入してきます。それを桂場(松山ケンイチ)があくまで司法の独立を厳守すると反論します。
謝罪に来たのは政民党幹事長秘書・反町(川島潤哉)。彼は原爆裁判のときは国側の代表でした。国家という大きなものは具体的に出てきませんが、淡々と粛々と実務をこなしている反町を通して、何かを感じさせるようになっています。

反町の話を無視して桂場は、椅子のカバーを音を立てて整えます。この食えない感じがいい。
この回、出来事が渋滞で、総集編かと思うように、ナレーションで出来事が進んでいくので、松山さんのような芝居が入ると、アクセントになります。

桂場は共亜事件のときも、国家側に流されなかったためしばらく左遷のようになっていました。その悔しさもあって頑ななのかもしれません。1回酷い目に遭っているのに、己を曲げないところは実に立派です。

学生運動の学生たちは法廷で血気盛ん。法曹界が荒れています。
学生運動に参加した、香淑(ハ・ヨンス)の娘・薫(池田朱那)は釈放され、香淑は弁護する問題はあっさり終了。なんやねん。

よねは、女性に向いていないと言われる性犯罪の事件を担当しています。尊属殺に問われている美位子(石橋菜津美)は一審で情状酌量となります。が、きっと控訴されるとよねは覚悟を決めています。そうすると弁護料がさらにかかってしまいますが、美位子は母に頼らず自分でなんとかしようとしています。

このように裁判の問題がたくさんあるなか、のどか(尾碕真花)の結婚問題も勃発して、こういうときの航一(岡田将生)はおろおろと人間臭い。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第119回のレビュー}– 

第119回のレビュー

第118回から一転、ほのぼのホームドラマふうなはじまり。
寅子(伊藤沙莉)が帰宅すると、のどか(尾碕真花)が交際相手でロン毛の吉川誠也(松澤匠)を家に連れてきたところで、でも玄関先で躊躇しています。

居間では、優未(川床明日香)航一(岡田将生)が深刻な顔で話をしていました。そのまま玄関先で、ふたりの話を朝ドラ名物・立ち聞きすることになる寅子、のどか、誠也。

第118回で優未が寅子に話そうとして話せなかった、大学院をやめたいということを、航一に相談します。
寄生虫の研究をこのまま続けても、男女問わず席は少なく、このままでは好きな研究が嫌いになってしまいそうだというのです。

航一は9年頑張ったのだからもったい、諦めないほうがいいと助言しますが、そこに寅子が割って入ります。「航一さん、黙って」と。

かつて穂高(小林薫)は寅子が妊娠しても無理して働いて倒れたとき、しばらく子育てに専念したほうがいいと助言し、寅子を憤慨させました。
今回は、航一が、道を諦めるなと言っても、それもだめなのです。
つまり、本人が決めることを、他人が介入してはいけないということ。

たとえ、ゆく先が地獄であっても、本人が選ぶべきであるということは正論だし、じつはとても大変なことでもあります。結果がどうあれ、誰のせいにもできないから。あのひとが言ったのに〜とは言えません。

「努力したすえに何も手に入れられなかったとしても立派に生きている人たちを知っています」
という理想論を、航一は、抽象的で情緒的だと感じます。確かに。
航一は現実的で、勉強を続ければ何かしら職につけると思っているのでしょう。
「この年齢で何者でもない彼女に社会は優しくない」と「この年齢で」「何者でもない」とわりと差別的なことを言います。悪気はなく、彼もまた穂高の道を歩んでいるのがわかります。

ただ聞いてほしいだけなのに意見を言われることがいやだという考え方は、ネットでもしばしば話題になります。相談される側が気をつけないといけません。男女問わず「傾聴」が大事です。

寅子の話を聞いた、のどかと誠也はたちまち影響されます。
ほんとは、絵を描いている誠也は芽が出ないので、諦めて就職し、のどかと結婚することにしましたが、
やっぱり、絵を描くことを辞めないことを決め、のどか自身は結婚や出産に興味がないので、このままつきあうだけでいいと考えます。

「自分の人生を自分のためだけに使いたい」
(のどか)

これはなかなかパワーワードです。

人、それぞれ、いろんな生き方があることを、星家の人々が体現します。
寅子と航一は事実婚、のどかは結婚も子供も興味ないが結婚。優未は自分探し。

誠也は長髪にスーツを着てきています。それが金八先生のようだとSNSで言われていました。
たぶん、ふだんスーツは着ないけれど無理して着てきたのでしょう。まったく似合っていません。
就職しようとは思ったけれど、髪の毛はまだ切れなかったのでしょう。自分のアイデンティティーとして。
いや、でも、せめて束ねてすっきりさせても良かったのでは。70年代のロン毛=アーティストの記号化過ぎ。

結局、優未は大学院を中退し、自分がキラキラできる道を考え中。
急に歌を大きな声で歌ったりして。キャラ変? 
本気で浮かれているのか、大学院を辞めても楽しいと強がっているのかは不明です。

ホームドラマと並行して、リーガルドラマのほうでは、少年法の改正が行われているところ。
桂場(松山ケンイチ)は公害問題に取り組んでいます。未成年や公害に苦しんでいる人たちに法律がうまく機能するように、寅子や桂場が奮闘していただきたい。まずは優未やのどかのようにいろんな選択をできる余裕のある人たちばかりではないので、余裕のない人たちのためにいい社会にしてほしいものです。いやそれは政治の問題か。

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–{第120回のレビュー}–  

第120回のレビュー

大人気の「虎に翼」もあと2週間。いろいろまとめに入っている感じです。
第120回は、香淑(ハ・ヨンス)が朝鮮人としての自分を取り戻し、家裁のために生きた多岐川(滝藤賢一)が亡くなります。

戦後から長く朝鮮人であることを隠し日本人のふりをして暮らしていた香子でしたが、娘・薫(池田朱那)が真実を知ったことで、出自を明かすことを決心します。

薫が、母の出自を知ってショックを受けたのは、第116回。
学生運動に没頭する薫は、その正義感から母に反発しました。
「朝鮮人である自分は捨てたって……。自分の生まれた国が、自分の血が恥ずかしいって思ってたってこと?」「それって、だって安全な場所に加害者側に立って、今までずっと見て見ぬふりしてきたってことじゃない。最低だよ!」と娘になじられ、香子もいろいろ考えたのでしょう。

そして、薫は恋人に、朝鮮人の血が入っていることで結婚を拒まれきれいさっぱり別れます。新潟編でも、異国の人だからと結婚をゆるさない風潮があることが描かれていました。その点、汐見(平埜生成)は香淑が朝鮮人でも愛し続けました。

病で臥せっている多岐川の枕元で薫が別れ話をしていると、そこへ、小橋(名村辰)稲垣(松川尚瑠輝)が見舞いに来て……。いつものように、汐見は香子を隠そうとしますが、彼女はついに同級生の前に身をさらします。

「薫の前で崔香淑を取り戻してみたい」

ついに、姿を現した同級生を前に「(汐見の妻が)実在してよかった」と喜ぶ小橋。「実在しないんじゃないかって話していた」というのです。そりゃあ20年近く顔を見ることがなかったら、そんなことを思ってもおかしくはありません。法曹界の集まりにも一回も出てこないってことですよね。絶対にどこかからバレるだろうと思いますが、そこはドラマです。

香淑の決意を「愛だな」と微笑む多岐川は、岡山と鹿児島という赴任先からわざわざ来た小橋と稲垣を抱きしめ労います。
長年、ともに家裁で仕事をしてきた情を感じる場面です。
「愛」をずっと強調してきた多岐川は、やっぱり「愛」が人を救うことを実感しているように見えます。

寅子がもってきた法務省の少年法の改正要項に一瞬、顔を曇らせた多岐川ですが、どうすべきか意見を述べるのときには、顔に光があたり、最後まで少年たちに大いなる希望をもっていることがわかります。力強く清らかです。

多岐川は抗議案を作成したから家に取りに来いと電話を桂場(松山ケンイチ)にかけます。が、桂場は来ず、代わりに(?)香淑の兄の潤哲(ユン・ソンモ)が来て、兄妹の再会。
「みんな悪くて悪くない」と和解し、日本人も朝鮮人もわだかまりなく、多岐川、汐見、香淑、薫と楽しくご飯を食べます。

その後、多岐川が亡くなったと久藤(沢村一樹)が桂場に報告、少年法の抗議案を託します。
「頼んだからな桂場」とイマジナリー多岐川が現れて……。

正直、いろんなことが箇条書きで進んでいくので(自分が朝鮮人と日本人のハーフだったと知った薫の感情などもこれほど容易に済まないのではないかと思ってしまうのですが)、俳優たちもただただそれをなぞることで手一杯のように見えるなか、滝藤賢一さんだけは書かれたもの以上のものを見せているように感じます。たくさん調べて台本にものすごく書き込みをして臨んでいるだけある気迫。彼の場面では照明もカメラマンも気合が入って感じ、まるで別のドラマのようです。

残った、最後の演技派は、松山ケンイチさんのみーー。まさに「頼んだからな桂場」です。

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– –{第121回のレビュー}–

第121回のレビュー

第25週「女の知恵は後へまわる?」(演出:橋本万葉)では1970年になりました。
深刻な問題がいろいろ。
よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)が担当している尊属殺の問題は、第二審で実刑が言い渡されました。

桂場(松山ケンイチ)は、司法の独立を目指していますが、寒河江幹事長(外山誠二)が最近の司法は公正を欠いているのではないかと圧力がかかります。桂場より背が低い幹事長、でもまったく負けてない迫力があります。さすが文学座のベテラン俳優。あえて、身長差を出して撮っていることに、人間力を信じているのを感じます。

桂場も上から目線で対抗します。
前からむすっとしていた桂場ですが、最近はまったく愛嬌が失せています。上に立つ者のプレッシャーは相当もののようです。

対して、調査を担当している航一(岡田将生)は白髪はすこしあるものの、驚くほど若い。桂場の若い秘書みたいに見えますが、設定の年齢はそんなに変わらないのではないかと……。例えば、郷ひろみさんがやたらと若く見えるように、世の中には若見えする人もいるとはいえ、桂場と航一の空間は時空が歪んで見えました。

寅子(伊藤沙莉)は少年法改正に反対していますが、議論の前に改正ありきで話が進んでいます。
少年法の改正は少年の犯罪が凶悪化しているので厳罰化をしようとしているのですが、多岐川(滝藤賢一)の遺言で、愛をもって少年犯罪に当たるためにも少年法改正に反対したい寅子たちです。

でも、上は圧をかけてきて、上の考えと違うことをしている若者を左遷させたり……。これからの司法について勉強会を開いていた朋一(井上祐貴)が家裁に異動になりました。最高裁から家裁と聞いて、え、となる寅子と航一。寅子に気遣う朋一の様子から、家裁が法曹の世界でやや軽視されているのかなと感じさせます。でも、多岐川がやってきたように家裁の仕事は重要なのです。

ドラマがはじまったときはジェンダーの問題が注目されていた「虎に翼」ですが、残り2週間となったいま、急に男性たちの物語が立ち上がってきます。国会や内閣などの権力から司法の独立を守る戦いはNHKスペシャルのようです。そこになかなか寅子が中心になっていかないのがなんとももどかしい。
いま再放送中の「オードリー」でヒロインよりも大竹しのぶが主人公のように見えていた感じに近いような気がします。

重苦しい話のなかで、少しの救いは、香淑(ハ・ヨンス)が弁護士になって、原爆の被害に遭って法的支援を受けていない朝鮮人や中国、台湾の人たちのために働こうと考え、汐見(平埜生成)も判事を辞めて弁護士になり、娘の薫(池田朱那)も弁護士になり、家族で弁護士事務所を開くことにしたこと。

判事だと公正を考えないといけないけれど、弁護士であれば、とことん正しいと信じたことを弁護することができる。それはそれで大変ではあるとは思いますが、弁護士は困っている人を助ける仕事というイメージが世の中にはありますので、精神衛生上、いいような気がします。繰り返しますが、実際はそんなに簡単なことではないとは思いますが。

「最後はいいほうに流れていくわね」と梅子(平岩紙)が微笑みます。
こういうとき、ニコニコ聞いている寅子は、判事の仕事についてどう思っているのか、彼女の自分の仕事に対する思いが見えてこないのが少し物足りなく思えます。それもこれも多岐川や桂場が妙に強烈に描かれているからなのですが。ここにジェンダーの問題が見え隠れしているようにもふと思うのです。うがった見方かもしれませんが。

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–{第122回のレビュー}–  

第122回のレビュー

朋一(井上祐貴)の家裁異動、少年法改正、家裁のことなど問題山積みの寅子(伊藤沙莉)。 思い余って、桂場(松山ケンイチ)に物申しに行きます。 司法の独立のためにはやむなしで、朋一たちが連帯すると、少年法を政治の介入から守ろうとすることの邪魔にもなるというような詭弁を言う桂場に、「純度の低い正論は響きません」と寅子はかつて彼に言われたことを言い返します。 第25週は最終回が近いので、過去を思わすものがちょいちょい出てきます。 121回の梅子(平岩紙)が言った「いいほうに流れる」もかつて、香淑(ハ・ヨンス)が言った言葉でした。 寅子は「穂高イズム」はどこにいったと桂場を挑発します。いまの桂場は、若く希望のある判事たちを、雨だれにすることもなく切り捨てたと。 かつて、寅子は「雨だれ石を穿つ」という穂高(小林薫)の言葉に、自分たち女性が雨だれになることを強いられたと恨んでいました。 雨だれのようにコツコツと時間をかけて状況を打破する精神もわかってはいる(じょじょにわかるようになった)ものの、自分を犠牲にすることなくいまの自分を大切にしたいと思ってやってきたのです。 遠い未来のために自分は犠牲になってもいいという理想論よりもいま自分がやりたいことをやるべきかという考え方は、「虎に翼」で最も難しい問題で、「なぜ人を殺してはいけないのか」と並ぶほどではないかと思います。 さらにそこに、自分の理想のために雨だれにもならない人を作り出すトップ(桂場)の傲慢さ。 そうまでしないと、司法を守れないと桂場は追い詰められているようで。 でも、正直なところ、寅子は自分のやりたいことを、運良くやれてきているだけで、最高裁長官・桂場の立場はわかってないのではないでしょうか。が、わかってなくても思ったことを言うことが大事なのかもしれません。いま、桂場は上り詰めて、誰も彼に助言する人もいないでしょうから。 ぎりぎりとした顔をする桂場に、イマジナリー多岐川(滝藤賢一)が現れ、桂場の考える司法の独立はおそまつでさみしいと嫌味を言います。法を守ろうとするあまり、人間関係を切り捨てていいものか。 少年法の改正案では、これまで二十歳を基準に少年と成人を分けていたのを、18、19歳まで引き下げること。 寅子たちが18、19歳の少年に大事にしている調査がされなくなることに、寅子たちは反発します。 その頃、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)の事務所では美位子(石橋菜津美)の尊属殺の件で、奮闘中。尊属殺とは、年上の家族を殺すことは重罪というもので、なぜ、その行為に及んだかが問われない。明らかに、美位子の動機は殺意を抱いても致し方ないものがあるのに。 少女の頃、ひどい目に遭ったことのあるよねは、尊属殺を合憲とすることに苛立ちを隠せません。 少年法の引き下げといい尊属殺といい、法というのはときに守ってもらえるものですが、ときに法に縛られて人間に不利益を与えることになるのですから、容易に頼ってばかりもいられません。法を司る寅子たちは、どう向き合っていくのか、これがドラマの最終目標でしょうか。俺達の戦いはまだこれからだ、になるしかない気はしますが。 久藤(沢村一樹)が「タッキー(多岐川)に会いたいね」と言っていたら、「あさイチ」に多岐川役の滝藤賢一さんがゲスト出演でした。

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–{第123回のレビュー}–

第123回のレビュー

少年法改正案について、寅子(伊藤沙莉)は職場の若者たちと話したり、猪爪家で家族討論会を行ったりしながら考えていきます。

「正直私はピンと来てないわ」と花江(森田望智)が言いますが、視聴者も花江の気持ちに近いのではないでしょうか。
寅子が家裁に勤務していること、もともと、上司・多岐川(滝藤賢一)が家裁に深い愛情を注いでいて彼女がその理念を継いでいるからというのもあるわけですが、寅子と家裁の仕事がいまひとつ結びつかず、少年法改正案の議論がドラマのなかで浮いているように感じてなりません。

問題視されているのは、少年犯罪が年々凶悪化しているので、少年法によって凶悪犯罪を行った少年まで罪が軽くなるのはいかがなものかという意見もあるからです。寅子たちはそうはいっても少年たちに丁寧に聞き取り調査を行って、対話と歩み寄りを大事にしているので改正法には反対なのです。
でも若い世代は、寅子たちの時代に、きちんとシステム化しないで、個人の努力で対話と歩み寄りをしてきてしまったことも問題ではないかと冷静に指摘します。

ピンと来ないといえば、直明(三山凌輝)が実家を出ることを決めたことです。
あんなに、家族が離れることを恐れていた直明がふっきれたらしく、「自分のなかの戦後がやっと終わったというか」と言うのです。

みんなで暮らしたいと言い続けた直明の気持ちがよーく理解できる視聴者はどれくらいいるでしょうか。というのは、直明の中心のエピソードがほぼなく、寅子が直明の話を聞いているだけだったので、彼の心情に寄り添いづらかったからかなと……。脇役なので仕方ないのですが……。

何をきっかけに彼の戦後が終わったのか。時間なのか。子供が大きくなったからなのか。そもそも、結婚して自分の家族ができるから、家を出ても新しい家族ができるわけで、それが結婚と独立というものであり。ドラマの都合で猪爪家を大家族として描かないといけなかっただけとしか思えないのが、残念でありました。最初から近所に別居すれば済む話を20年以上も経って、いまさら近所に引っ越すのです。謎であります。むしろ今度は子供たちが、住み慣れた家から引っ越したくないと言い出す気がします。

直明の考えがどうも理解できないという視聴者(筆者)もいるくらいですから、少年法改正が必要か不要か、決まらないのも無理はないでしょう。

その頃、寅子の家に、同期が集まります。香淑(ハ・ヨンス)が弁護士になったことに刺激を受け、涼子(桜井ユキ)も司法試験を受けることにして、同期が応援に集まりました。みんなで問題を解いていると学生時代を思い出します。いくつになっても心は変わりません。

変わらないといえば、寅子は、20年ほど前、新潟で出会った美佐江(片岡凜)にそっくりの女子高生・美雪と出会います。「もしかして佐田先生ではないですか」と美雪から声をかけてこられて寅子がびっくり。ぎくり。寅子が有名人だから顔を知っていたということなのですが……。

あまりに美佐江にそっくりで、彼女の担当らしい音羽(円井わん)の腕にミサンガがないか確認してしまいます。
20年前という遠い記憶ですが、ミサンガのことも強烈に覚えていたとは、よっぽど印象に残った少年事件だったのでしょう。

寅子は優未のやりたいことをやらせてあげることを優先しながらも、内心、優未が大学を辞めて、雀荘と笹竹で働いていることを心配していてもやもやしているようで、つねにあらゆる意見を公正に見極めないとならない判事という仕事についたがために、心が疲弊してしまわないか、心配になります。そのうえ、未解決な美佐江にそっくりな人物が出てきて……。
寅子は、それでも法律の仕事が好きだから、どんなに問題山積みでも颯爽と明るく生きていけるのでしょうか。回想を見ると、女子部時代が一番生き生きと気がしてしまいます。最終回までに寅子の純粋に明るい笑顔を見たい。

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–{第124回のレビュー}–

第124回のレビュー

20年前、新潟にいた美佐江にそっくりの美雪(片岡凜・二役)は、大事な手帳をとった同級生の少年を駅の階段で突き落としたことで罪に問われていました。

悪いことをしたと反省している美雪を、寅子(伊藤沙莉)は不処分とします。
でもその顔はなんだかすっきりしないように見えます。
美雪が美佐江に似ているからでしょうか。
美雪の泣き方は演技のようでした。20年前、美佐江もしれっとした顔で、仲間に犯罪を行わせていました。ふたりには何か共通するものがあるように感じます。

実際、調査すると、少年が美雪に意地悪をしたと認めたので、突き落としたのも無理はないようなのですが……。この調査結果などを音羽(円井わん)と話している部屋に花岡(岩田剛典)の妻の描いたチョコレートの絵が飾ってあり、そういえば、寅子も花岡を突き落としたようなものだったことを思い出しました。場合によっては寅子だって、罪に問われたかもしれません。でも、あのとき、寅子は花岡に怒っていたので、美雪の言い分も理解できるのかもしれません。ただ、美雪の場合、なにか邪念があるようにも見える。でも疑わしきは罰せずじゃないですが、美雪の心の内を知ることは難しい。ひじょうに哲学的な問題であります。

音羽は少年法改正について寅子に反論したことを出過ぎた物言いだったと反省しますが、寅子は「すべて正しくなければ声をあげてはいけないの?」と返します。なんでも思ったことは言ってみたほうがいいということです。寅子はそうやって生きてきました。第一、正しさとは誰が決めるのか、そこに法律があるのでしょうけれど、法律も完璧ではありません。

少年法の対象年齢の引き下げは正しいのかそうではないのか。

尊属殺もそうです。美位子(石橋菜津美)の問題はなかなか解決しません。でも轟(戸塚純貴)、時間がかかっているということは可能性もあるのではないかと前向きです。

美位子は、このまま、ふたりの事務所に居候できればいいと考えていましたが、よねは、彼女が事務所に訪れる不幸な案件を聞いて、心を慰めていることを指摘、そういうことはしてはいけないと諭します。
ふだん、人を殺したとは思えないけろっとした態度をとっているのは、そうせざるを得ないからだとよねはわかっていました。そうしないとあまりに苦しいのは、自分が若いとき、男性から酷い目にあったことがあるからです。なんでもなさそうに振る舞い続けないと保っていけない苦しさを誰よりもよねはわかっていました。でもよねは人を殺めることなく、黙々とひとりで生きてきました。

涼子(桜井ユキ)が司法試験に合格しますが、弁護士にはならないと言います。
弁護士になれなかったのではなくなれるけれどならないという選択の自由を手にすることが「世の中への私なりの股間の蹴り上げかた」だと言うのです。
なれなくてかわいそうと憐れまれるのではなく、なれたけどならないという意地。

「いつも心によねさんを住まわせてきましたのよ」と涼子の言う意味は、よねが、男装を続けることで司法試験に受からなかったことを言っているのでしょうか。よねはたぶん、女性の服と言葉遣いにして口頭試験を受けたら受かっていたのではないか。でも自分のままで試験に受かるまで粘った。すべて、自分の道は自分でコントールする。自分で責任を持つのは大変だけれど、かっこいい。
ちなみに、よねはかつて小橋(名村辰)が失礼な態度をとったとき「股間を蹴り上げ」ています。よねは小橋、寅子は花岡と、自分たちを軽視した男子に歯向かってきました。それと、意地悪された同級生を突き落とす美雪の心情が重ならないこともありません。

でもよねは、寅子や女子部の仲間たちがいます。仲良くしているのを見ると「心がポカポカする」と轟は喜びます。

目には目を、歯には歯を? という哲学的なことを考えさせられていると、今度は朋一(井上祐貴)が裁判官を辞めて弁護士になるとか離婚するとか人生の転機を迎えます。来週最終回とは思えない、問題だらけです。

毎日朝ドラレビューをはじめて9年半ですが、こんなに各回をまとめづらいドラマははじめて。簡単にはまとめられない密度と複雑さのあるドラマを作る気概を感じます。

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–{第125回のレビュー}–

第125回のレビュー

航一(岡田将生)は意を決したように桂場(松山ケンイチ)を訪ねます。
話の流れから、朋一(井上祐貴)が家裁を辞める問題に関することを何かお願いに来たのかと思ったら、尊属殺に関することでした。

尊属殺とは、親殺しは重罪になることです。殺しに至るには理由もあるわけで、かつて穂高(小林薫)が違憲を唱えました。が、無念にも合憲とされて(昭和25年)、いま(昭和46年)に至ります。
それを今回、美位子(石橋菜津美)の義父殺しの事件で、今一度、考え直すときが来たのです。

時期尚早とつっぱねる桂場に、航一は激しく意見します。
興奮して頭に血が上ったのか、鼻血を出して倒れてしまい、寅子(伊藤沙莉)が迎えに来たとき、桂場の膝の上で寝ていました。
長いことを膝を貸していた桂場は足が痺れて立ち上がれず……。

どシリアスのあとのコメディ展開はありとして、鼻血が出るほど激するって、航一、いま、何歳でしたっけ? 60代に近いはずですが、岡田将生さんが若すぎて、血気盛んな若者の話に見えてしまいました。

話が飛びますが、次週予告で、尊属殺の大法廷にて「いけ〜!山田(土居志央梨)〜!」と轟(戸塚純貴)が叫んでいるのを見ても、これは若者が主人公のドラマだと感じます。朝ドラは主人公が晩年になるとゆったり落ち着いてしまっておもしろみが欠けていくため、もがき苦しみ躍動する若者のドラマ化したほうが感情移入できるでしょうから、あえて年齢は高齢でも若い感覚で描くというのはひとつのアイデアではあると思います。

航一と寅子が家に戻ると、子どもたちが高級肉を買って待っていて、エリート星家は贅沢に肉とワインで盛り上がります。最高裁長官の家系の良家がこんなにもちゃらっとしている。どこも同じ人間ということかもしれません。エリートの人たちの残念な言動を我々庶民はよく見ていますから。

年が開けて昭和47年、家裁に美雪(片岡凜)の祖母・佐江子(辻沢杏子)が訪ねてきて、美雪が美佐江の娘であることを寅子に明かします。美佐江は一冊の手帳を残して亡くなっていました。

その手帳には、新潟では無双だった美佐江が、東京に出てきてから新潟のときのようにいかなくなった悩みが綴られ、あの人を拒ばなければ何かが変わっていたのだろうかと思いを馳せているのを読んだ寅子は愕然となります。

「あの日、あと一歩だったのに それなのに それなのに私は…… 私のせいで」

あの日とは、第91回、美佐江が寅子に「なぜ人を殺していけないのか」と問いかけたとき、娘・優未がやって来たため、美佐江から娘をかばうようにしてしまい、美佐江の気分を害してしまったことがありました。
それっきり彼女とは関わりがなくなったはずで、寅子は、美佐江との対話の可能性を閉ざしてしまったのだと、20年経って気づいたのです。

劇的な展開ですが、ちょっとわからないのは、家裁では調査が大事とされているにもかかわらず、美雪の身元や生い立ちのようなものを寅子が事前に知ることはなかったのでしょうか。少なくとも母が亡くなり祖母が面倒を見ているということは認識したうえで関わっているとは思うので、母親はどうしたのだろう、母親の名前は美佐江ーー美佐江? とかなりそうなものですが。このドラマは一筋縄ではいかないところばかりです。あと一週!

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–{第126回のレビュー}–

第126回のレビュー

「虎に翼」もいよいよ最終週。毎週、女性にまつわるネガティブなことわざがサブタイトルになっていましたが、最終週は「虎に翼」(演出:梛川善郎)。この意味は、最終回を迎えたとき、あらためて考えてみることにして、先に進みましょう。

美雪(片岡凜)の母だった美佐江の残した手帳の手記を寅子(伊藤沙莉)は読み、思春期の美佐江の葛藤や絶望に、あのとき、彼女を恐れ警戒せず、もっと寄り添っていればと後悔します。
祖母の佐江子(辻沢杏子)は、再び補導された美雪が、母と同じ道をたどらないように寅子に頼ります。

ここでは美佐江の文章の才能に注目です。
「あの人を拒まなければ何か変わったの?」と書いたのを、寅子は即座に自分と考えます。でも、「あの人」とははたしてほんとうに寅子のことでしょうか。

読んだ人、それぞれがこれは私かも?とか、あの人かも?と想像を膨らますことができる書き方。この抽象性、これぞ文学的であります。その不思議な魔力によって誰もが自分のこと(あるいは自分が特別)かもと思ってしまう、この技を使って、過去、美佐江は仲間たちに犯罪を行わせていました。ミサンガを特別の証として皆の腕に結びながら。
死してなお美佐江は、寅子をまんまと罠にハメているとも言えるのです。

そして、このドラマもまた、ある種のテクニックを使って、当初から、寅子は私だ、これは私のことを書いた物語だ、と多くの視聴者に思わせることに成功しています。

他者に、自分を支配されることなく、自分の意思を大切にすることを主張する物語の一方で、他者の支配がじわじわと押し寄せてくる、そこに気づくことこそ、このドラマの意義であると思うのですが、皆さん、いかがでしょうか。

美雪と美佐江の問題に頭を悩まし、家で晩酌をしていると、航一(岡田将生)が「ちちんぷいぷい」と
以前、寅子が航一を励ましたように、無理をして、おまじないをかけます。アラ還の男性(しかも明治生まれの)がこんな幼稚なことをするのか、岡田将生さんも辛かったのではないでしょうか。お気の毒でなりません。が、令和のいま、考えると60歳くらいの人たちもずいぶんと見た目も言動も若いので、絶対やらないとは言い切れません。例えば、郷ひろみさんのような無邪気な68歳もいらっしゃいますし。

と、そこへ、朋一(井上祐貴)がやって来て、離婚して、法曹界もやめて、家具職人になると言い出します。はて? でありますが、自分のほんとうにやりたかったことをやろうと思ったのでしょう。大学院を辞めて、雀荘でバイトする優未と同じようなものでありましょう。

星&佐田家はよくわからない感じになっているなか、山田轟弁護士事務所のよね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)はブレない。人権派弁護士として粛々と働き続けています。
尊属殺人の裁判が最高裁大法廷で行われることになり、よねが口頭弁論を行います。

ときに1972年、5月。
よねは尊属殺は違憲と訴えます。穂高(小林薫)が昭和25年(1950年)に違憲を訴えたとき、道徳原理を根拠にしたことを引き継ぎます。
被告・美位子(石橋菜津美)が義父から被った酷い行為を畜生道に堕ちたと言い、もしも、義父を守り、美位子の行為を重罪にするなら、この社会と我々も畜生道以下、クソだと。

「無力な憲法を、無力な司法を、無力なこの社会を嘆かざるを得ない」
(よね)

よねの弁論の中身は、一部、実際の事件のものを使いながら、よねらしい部分を加えているようで(クソとか)、これがこれまでの、共亜事件、原爆裁判のように、実際の事件の判決文そのままのときとは違います。
「嘆かざるを得ない」は原爆裁判の「政治の貧困さを嘆かずにはおられない」と似ています。これは実際の弁論でも言われているようです。いつでも、誰かが、法廷で現状の社会を嘆いているのです。

傍から見たら、義父の行為が酷すぎて、尊属殺は合憲と主張し続けることには無理があるように思いますが、法律で決められたことだから、と頑として考えを変えないのかと思うと、法律ってなんだ?と疑問が沸くばかり。嘆かざるをえなくなるのも無理はありません。もちろん法律のおかげで守られていることもあるのでしょうけれど……。最終週で、改めて法律とは何かを考えさせられます。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第127回のレビュー}–

第127回のレビュー

「先生はどうしてだと思います? どうして人を殺しちゃいけないのか」

寅子(伊藤沙莉)は補導された美雪(片岡凜)と面接します。ここで美雪は寅子にこう問いかけました。まるで、20年前の美佐江(片岡凜)と同じです。

第92回で、美佐江は「佐田先生は心から納得する答えが出せます? どうして悪い人からものを盗んじゃいけないのか。どうして自分の体を好きに使ってはいけないのか。どうして……人を殺しちゃいけないのか」と聞き、寅子はそれに答えることができませんでした。

法律家である寅子に、鮮やかに論理的に回答してほしかったという思いが残っていましたが、今度こそ、寅子は回答できるのでしょうかーー。

寅子は言葉を尽くして、長いこと考えてきたことを美雪に語ります。いやあ、人を殺してはいけないに決まっていると当然思いますが。だったら、なぜ、戦争はなくならないのか、みたいな話につながる、なかなか、難しい問題です。

寅子が、人を殺してはいけない理由は、亡くなったら言葉も交わせないし触れ合えない。あと、「わからないこそやらない」。

まるで、子どもにお母さんが答えているみたいな答えで、案の定、美雪は「そんな乱暴な答えで母は納得しますかね」と薄ら笑い。そして、持っていたナイフを取り出します。

緊迫の瞬間! 

美佐江をはじめとして異質な子は手に負えなかっただけではないかと問い詰める美雪に、「美佐江さんはとても頭は良かったけれど、どこにでもいる女の子だったと思う」という寅子。これは、よね(土居志央梨)が、自分の過去の悲劇や、尊属殺に追い込まれた美位子(石橋菜津美)の悲劇を「ありふれた悲劇」と言ったこととも似ているように感じます。

さすがに美位子の事件はありふれてないだろうというツッコミの声もありますが、ここではつまり、なにごとも特別視せず、フラットに考えることが大事なのではないかと提案しているのではないでしょうか。特別、特異、異質みたいにバイアスをかけて人も出来事も見ないことが、平等の第一歩なのかなとこの場面を見て思いました。

誰もが特別で、一部の誰かだけが特別じゃない。

「特別」ということに美佐江がこだわって、東京に来て特別じゃなくなったことで絶望しました。彼女の執念が娘美雪に伝搬して、特別な存在にならなくてはいけないと思って犯罪に走ってしまったらしき美雪。
ありきたりなことを拒絶する美雪に、ありきたりでもいいのだと寅子は言います。
特別でもありきたりでも、ひとりひとりを尊重しようとするのです。

寅子は、怯みながらも、最後まで美雪に向き合います。ここで怯んだら、かつての美佐江と同じことになると思ったのではないでしょうか。寅子は第73回で、担当していた女性から刃物で切りつけられたことがあります。一回、こわいめにあっているから、よけいに怖がってしまいそうなところ、必死で耐える寅子は立派です。

美佐江の本音が聞けないのは、美佐江が死んでしまったから。死んだら終りだということ。人を殺してはいけない回答の、これが寅子の決定打になります。

美雪はしばらく施設に入ったのち、不処分となります。20年かけた寅子の課題がひとつ解決したようです。いや、ほんとうに、美雪の心から悪意がなくなったかはちょっとわからないですが……。

たくさんの中学生の問題を「3年B組金八先生」で書き続けた小山内美江子さんだったら、こういう題材をどう描いたでしょうか。

音羽(円井わん)とこの件や家裁の今後について意見を交わしあった寅子は「その後の世代のことは、音羽さん達が決めればいいわ」と託します。音羽さんたちが決めればいいわもなんだか無責任な気もしないではありません。最終週、なかなかまとめるのに苦慮しているような気が……。

そして、昭和48年8月、最高裁大法廷における尊属殺の判決の日がやってきます。ひとり深刻を引き受け続ける桂場(松山ケンイチ)の表情の迫真。

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–{第128回のレビュー}–

第128回のレビュー

4年もかかった尊属殺の裁判にいよいよ判決が下る日がやってきました。

よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)が出かける前に寅子(伊藤沙莉)が事務所に応援にやってきます。

ふたりは出かけていき、事務所に残った寅子に、美位子(石橋菜津美)が問いかけます。
寅子も一緒に外に出るのがふつうだと思いますが、尊属殺に寅子が関わっていないけれど主人公として活躍させる必要があるので(なにせ最終週ですから)、なぜか事務所で美位子と語り合うことにしたのでしょう。

もし判決が破棄されたら、美位子は釈放される。そのことを、美位子は「私、人を殺したんですよ」とすこし罪悪感を覚えています。このときの美位子の目が印象的。

前回に続き、ここでもまた、人を殺すとはどういうことなのかの問いがあります。ここで寅子はなかなかすごいことを言います。

何かしらの罪を償いたいと思うことは、「あなたの尊厳を全て奪って何度もあなたの心を殺してきた相手を肯定してしまいかねない。あなたができることは、生きて、出来る限りの幸せを感じ続けることよ」

わかるような、わからないような、大変哲学的な話であります。

作者は、ドストエフスキーのようななかなか読解できないしかも長いものを書きたかったのでしょうか。哲学的難問をかみくだいて、大衆に向けて描いてきた朝ドラにしては、なかなか異例であります。

そして、大法廷。桂場(松山ケンイチ)が尊属殺を違憲としました。23年の時を経て穂高(小林薫)が残した課題がついに解決したのです。このときのよねの嬉しそうな表情も印象的でした。

土居志央梨さんのリアクションの演技はいつも絶品であります。心がすごく動いているのが伝わってきます。

裁判のあと、桂場がチョコを食べるのは、寅子が花岡(岩田剛典)と分け合ったチョコを思い出させます。法律の純粋さを信じている人達の心の象徴のような、あのチョコレートです。第49回で、法律に従って闇の食料を買わず痩せていく花岡に、子どもにわけてと寅子は外国人からもらったチョコを半分割って手渡しました。花岡の妻が花岡の死後、チョコの絵を描き、それが家裁にずっと飾ってあります。桂場は家裁の人ではないですが、法律を尊ぶ者としての気持ちは共通でありましょう。チョコといえば松山さんの代表作Lと、「デスノート」説もありますが。

こうして桂場は、翌月、定年退職します。

さて、尊属殺が違憲となり、歴史がひとつ塗り替わりました。法律事務所で祝杯をあげながら、次は、轟と遠藤(和田正人)のような同姓愛者の婚姻が法的に認められるようになることを願います。その実現はもっと先の話になります。

よねたちも頑張った。寅子も頑張る。少年法改正についての審議会で寅子が言葉を尽くします。「味方」「寄り添う」という言葉を曖昧な言葉と失笑されても、前向きにさらに抽象的な「愛」について話し合いを続けます。

その結果、改正が見送られます。実際のところ、こんな抽象的な話で少年法の改正が議論されたのかはなはだ疑問でありますが。
こんな感じだったら、ゆくゆく改正されても仕方ない気がしてしまいますね(暴論でごめんなさい)。たぶん、実際は全然違うんじゃないかと思いますが。

美位子は、新潟の涼子(桜井ユキ)のところで働くことになりました。

寅子は、美位子と優未(川床明日香)が人生に失敗したと考えるのを強く否定し、

「自分を責めて辛くなるくらいなら、周りのせいにして楽になって!」と主張します。

わかる気もするし、ちょっとおそろしい考え方でもあります。はた迷惑なことになる危険性を秘めております。

ここでは優未がツッコミ役として「とんでもないほうに話を持っていくの」と言ってくれてホッとしました。「あさイチ」でも寅子の発言に疑問を呈していました。

おそらく、失敗したと卑下する美位子を励ましただけであり、寅子も自分は母としては失敗していると、落ち込んでいるのです。

つまり、寅子はつい大きく出てしまうけれど、あとで反省している気の弱い、決して、無双なわけじゃないということかもしれません。そういう人、いますよね。

「あさイチ」ではこれまで朝ドラに前のめりで肯定的だった博多華丸さんが、「虎に翼」に関しては見逃していることがちょいちょいあり、今回は、桂場はなぜ板チョコを食べるのかとクビをかしげ、大吉さんが花岡のことを覚えていました。やっぱり朝、一回見るだけではちょっとわかりにくい作りなのだと思います。華丸さんが楽しめる朝ドラに戻ってほしい。

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–{第129回のレビュー}–

第129回のレビュー

「みんなが好きなことをしてみんなが応援していれば我が家は安泰だわ」(花江)

どんな人生も肯定する。それが「虎に翼」なのだと思う、最終回ひとつ前。

優未(川床明日香)が人生に失敗したようなことを言うのを聞いて、そんなことないと言いながら、そんなことを思わせてしまった自分は母の役割を果たしてないのではないかとクヨクヨし始めた寅子(伊藤沙莉)

そこに優未が戻ってきて、今度は寅子を励まします。今、自分が色々なことをやっているのは好きなことがたくさんあるからで、拠り所をたくさん持ったほうがいいと寅子に言われたからであると感謝を述べます。

安定思考で生きるのもいいけれど、そうじゃなくてもいい。興味を持ったことはなんでもやってみればいい。とはいえ、優未は実家暮らしで、その実家が太過ぎるほどなので、高等遊民という贅沢が可能なのですが、その事実にはドラマは触れないのです。

この感動の母娘のシーンで流れるのは、優三(仲野太賀)のテーマ曲ともいえそうな洋楽。優未が外出した後、小上がりに優三が現れます。優三が寅子に望んだ、自由な生き方を、娘もしていることを優三は満足そうです。

イマジナリー優三の姿に寅子は涙しながら微笑みます。寅子は優三さんと一緒にいる時が一番いい顔をしている気がします。素直な顔になる。おそらく腑に落ちて演じることができるのだと思います。

そして唐突に、寅子が横浜家庭裁判所の所長に出世します。女性で初めて家庭裁判所の所長になったという栄誉です。
早退して猪爪家に報告に行き、その晩は家族で宴会。
花江(森田望智)はもういつでも死んでも悔いはないようなことを言います。彼女は社会に出て男性と肩を並べて仕事することには興味がなく、家の仕事を生涯やっていきたいと願っていて、それが叶いました。それを寅子のおかげと感謝しますが、寅子は、花江自身のおかげだと言い換えます。

確かに花江のように主婦を極めることも尊い。それもスーパー主婦でもなく、平凡なところがこのドラマの良さかもしれません。世の中には、スーパーな主婦ばかりではないですから。

そして笹竹で、女子部が集まって寅子の出世祝いが行われます。なぜかいつも女子部に轟(戸塚純貴)が混ざっています。寅子が57歳くらい設定なので、みんなアラカンでしょう。梅子(平岩紙)は70歳に近く、うとうとしてばかり。これはこの間まで再放送されていた「オードリー」(00年後期)のうどん屋の主人(佐川満男)も年老いて居眠りばかりしていたことと重なります。

梅子は老いを演じていますが、女性陣はほぼ老いて見えません。轟もこういう声の大きなおじいちゃんいるなあと思わせますし、なんといっても桂場(松山ケンイチ)の老け方は見事です。

定年を迎え、久しぶりに笹竹に来店。
寅子が法とは船のようなものと考えていると語りかけると、桂場は「私は今でもご婦人が法律を職にすることも学ぶことも反対だ」と不穏なことを言い出して……。最後まで捻くれていますね。

「人生という船旅を快適に」という寅子のセリフ、ポエムCMみたいで、ちょっと笑ってしまいました。

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–{最終回のレビュー}–

最終回のレビュー

前回、笹竹で桂場(松山ケンイチ)が額に桜の花びらをつけながら、むすっとした顔で、女性が法に携わるのも学ぶのもよしとしていないと自論を語ったところで続くになって、最終回。時間が飛んで、平成11年(1999年)の星家。男女共同参画社会基本法が施工された年です。

なんだか様子が違います。優未(川床明日香)は独身のまま、自宅で着付けと茶道教室をやりながら、雀荘と寄生虫の雑誌の編集と花江(森田望智)とひ孫の面倒を見ています。雀荘とは雀荘でも働いているってことでしょうか。

花江はもうだいぶ年をとって(たぶん85歳)、介護寸前でしょうか。軽く描いてますが、お年寄りと幼児の世話って大変そう。自宅でできるお仕事を持ててよかった。編集者もフリーということでしょう。平成11年だと、これほど自宅ですべてを賄えることは難しかったような気もします。コロナ以降かなと。副業をたくさん持つとか小商い的な概念もコロナ以降、定着しました。優未は時代の先をいっていたのかもしれません。

神田の聖橋を歩いていると、美雪(片岡凜)がケータイで、突然解雇されたと愚痴の電話をしています。それを通りがかりに耳にした優未は、労働基準法を引いて、弁護士を紹介します。
電車の窓に貼ってある過払い金のCMのよう。
急に出会った人から「法律はあなたの味方です」なんて言われてもこわすぎますが、苗字が「佐田」だったので、美雪は信頼したのかも? でもこの件で優未は自分にすこし自信を持てるのです。

寅子(伊藤沙莉)はすでに亡くなって15年が経っていて、幽霊的なものが優未を心配してまとわりついています。
冒頭、元気に体操しているとき、頭で「連続テレビ小説」の文字がはじかれているのが面白かった。

航一(岡田将生)はついに年齢相応に老けていて(80代ですから)、自らの意思で施設に入るようです。優未は花江の世話だけでなく航一の世話もしていたのでしょう。やっぱり大変。でも全部好きなことなのかもしれません。

ここで、航一がいっこうに老けなかった理由は、寅子の主観ではそう見えていたのではないかと思いました。吉田恵里香さんにインタビューしたとき、キャラクターの名前のつけかたを聞いたのですが、フルネームを必ずつけることはなく、主人公視点で考えて、例えば「優三さん」「ヒャンちゃん」みたいに主人公がどう呼ぶかで名前をつけることがあるとおっしゃっていました。もしかしたら、見え方も主人公主観なんじゃないかと思ったのです。自分自身も、いつまでも若く考えていて、見た目があまり変わらなかったのではないかと。桂場がしっかり老けているのは、寅子にとって彼はそういう人だったということなのではないでしょうか。ただこれは脚本で指定しているわけではなく、演出家の考える範疇かと想像します。台本からそういうふうに解釈したのではないでしょうか。

寅子のモデル・三淵嘉子さんは60歳で亡くなっていて、つまり、第129回で寅子は57歳くらいだったので、まもなく亡くなったということです。生きた、愛した、戦ったという生涯であったのでしょう。

寅子が横浜の家庭裁判所の所長になって奮闘するエピソードも見たかった。法律の話は、漠然とした概念ばかりで、実務的なことがほぼ描かれていなかったのが残念。
三淵さんは、家裁に入ったとき、出張相談回をやったり、バザーをやったり、家裁の調停室のカーテンや壁をきれいにしたり、廊下に音楽をかけたりしたと、「偉人の年収How much」でやっていましたし、ドラマの取材を担当した清永聡さんにインタビューしたとき、街で被爆者のための募金活動に参加していたと話してくれました。寅子にもなにかいろいろ活動してほしかった。

遡って、あの日、笹竹で桂場に、寅子は、他人から強いられるのはいやだが、自分の意思で、雨だれになることを選択するのはいやではないと語っています。さすが弁が立ちます。129回で、法律を船に例えたときも、考えは変るかもしれないがいまはそう考えていると言っていました。なにごとも臨機応変、その場その場で詭弁を弄して生き抜いていく主人公の姿があります。正しくなくても間違っていてもいいという物語なので、これはこれで痛快です。法律は守ってくれると言いつつも、その反面、ひじょうに脆くて危うく、人間を守るどころか縛り苦しめることになるんじゃないかと、法律に携わる人は決して正しいわけじゃないと、ちょうど、昨日、58年もの長きにわたって議論された袴田事件で被告の袴田さんに無罪判決が出たニュースを見ながら、思いました。でも、58年かけて真実にたどりついたのですから、諦めたものでもないのでしょう。

ドラマのラストは、米津玄師の主題歌が流れ、なつかしい名場面が映し出され、
最後は寅子が「さよーならまたいつか!」と口パクで、どこへともなく去っていきます。100年先に、人々が自由平等でありますように。

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–{「虎に翼」作品情報}–

「虎に翼」作品情報

放送予定
2024年4月1日(月)より放送開始

出演
伊藤沙莉 、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、 松山ケンイチ、小林 薫ほか


吉田恵里香

音楽
森優太

主題歌
「さよーならまたいつか!」(米津玄師)

ロゴデザイン
三宅瑠人、岡崎由佳

語り
尾野真千子

法律考証
村上一博

制作統括
尾崎裕和

プロデューサー
石澤かおる、舟橋哲男、徳田祥子

取材
清永聡

演出
梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか