2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、東京地裁の裁判官となった寅子が、星航一とやその家族との関係を深めていく第20週~22週の記事を集約。1記事で感想を読むことができる。
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もくじ
第96回のレビュー
寅子(伊藤沙莉)は航一(岡田将生)と「永遠を誓わない愛を試してみることにしました」と優未(竹澤咲子)に報告します。
「正式におつきあい……」と言いかけて「永遠を誓わない愛」と言い直しているので、この馴染みのない、寅子と航一、独自の関わり方のネーミングはスタイルの実践を目的としたものではなく、あくまで優未に気を使った便宜なのかもしれないとも思えます。
優未は「心配しないで、もうお母さんになんでも言えるから」と素直で、寅子を喜ばせます。寅子との溝は埋まったようです。
3人は海に行き、寅子は、「『ニコッ』じゃないのよ」と言いながら、浜辺で座っている航一を一緒に波打ち際に連れ出します。
「なるほど」「こういう場面でも溝を埋めてくるのだなと」と航一はひとりナットクしています。航一は初婚のとき、どんな感じだったのか。そして遺された子供たちとはどうやって接していたのか。
「はて」「溝を埋める」「永遠を誓わない愛」「なるほど」「ニコッ」……自分たちなりのぎこちない言葉を用いながらなんとかコミュニケーションをとろうとする不器用な人たちのつながりは、そのまま3年が過ぎ、
第20週「稼ぎ男に繰り女?」(演出:梛川善郎)は1955年にときが進みます。
寅子と航一はたまたま一緒に東京に戻ることになりました。1955年といえば、明石家さんま、桑田佳祐、堤幸彦、野田秀樹など、才能のあるクリエイターたちが生まれた年です。こういう言葉でいいかわかりませんが豊作〜。
新潟の人たちにあたたかく見送られる寅子。稲(田中真弓)はナレ死し、
入倉(岡部ひろき)はライトハウスのどこかから急に飛び出してきて「いたの?」と驚かれながら寅子に挨拶し、成長した優未(毎田暖乃)は「はて?」を使うようになっています。
3年ぶりの登戸。寅子も花江(森田望智)も髪型が変わりました。台所は屋内になり、電気洗濯機も導入されました。
直治(今井悠貴)はジャズに夢中。「おれにはわかっていたよ」とお父さんの口調にも似ています。
豊かな生活を満喫しているかと思いきや、直明(三山凌輝)は結婚してこの家で同居したいと考えていて、花江と意見が対立し、険悪になっていました。
姑みたいな義理の姉と同居したい嫁はこの世に存在しないと、花江は自分の存在を心配しているのです。結婚したばかりの頃、はる(石田ゆり子)と
うまくいかなかったことをいまだに覚えていました。
「結婚はひとつの選択肢にすぎない」と考える寅子に対して、花江は「結婚は幸せの終着点で絶対条件」と確信しています。
幸せや生活にはいろいろな形があることを提案したいがために、寅子と航一はサルトルとボーヴォワールのような自由恋愛みたいなスタイルをとり、直明は結婚しても猪爪家で義姉家族と同居したいと考える人物になっているようですが、そもそも花江は、夫が亡くなったあと、何年経ってもこの家にいられるのは、たまたま寅子が家計を担ってくれたからであり、
それはそれでいいとはいえ、自分で働こうとしないことに、とても不思議な気持ちになります。
「結婚は幸せの終着点で絶対条件」という考えが彼女を縛っているのでしょうか。
寅子はたまたま転勤があったとはいえ、そうでなければ家にいて、直明も戦争のトラウマで家を大事にしていて……と猪爪家は自分から実家を出ようとする人がいません。結婚や独立など一般例の逆張りになっていて、それが痛快でもあり、違和感でもあります。
優未が成長して、毎田暖乃さんになりました。「おちょやん」のヒロイン・千代の子供時代を演じた毎田さん。千代はエネルギッシュでバイタリティにあふれていましたが、優未は竹澤咲子さんを受け継いで、控えめででも敏い感じが良く出ていました。これからの優未の活躍に期待します。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第97回のレビュー}–
第97回のレビュー
3年ぶりに東京に戻ってきた寅子(伊藤沙莉)。
新潟で土台を作り、成長した寅子ですが、東京に残っていた人々もそれぞれ変化が起きています。
猪爪家では直明(三山凌輝)に結婚話が持ち上がっています。ただ、同居するかしないかで花江(森田望智)と揉めていました。
その花江から、よね(土居志央梨)の変化を聞いた寅子は、東京地裁出勤前に会いに向かいます。
よねはついに弁護士になり「轟法律事務所」は「山田轟法律事務所」に名称が変わっていました。名前の順番をじゃんけんで決めた回想シーンにほっこり。
自分を曲げず、何も変えず、よねのままで、みごとに弁護士になったことを寅子は喜びますが、よねは相変わらずむすっとしたまま。簡単に愛想をふりまかないところがよねらしい。
東京地裁に出勤すると、桂場(松山ケンイチ)、多岐川(滝藤賢一)、久藤(沢村一樹)が迎えてくれます。彼らはそれぞれ所長に出世しています。
法曹界の超エリート集団といったところでしょう。まぶしい。
めっちゃ盤石な派閥のなかに運良く寅子も紅一点、混ざっているわけです。「紅一点」という言葉は、ジェンダー平等を目指す令和の時代、使用することがためらわれますが、ドラマ内ではそういう雰囲気になっております。ただ、法曹界にも女性が少しずつ増えていると久藤が語ります。
寅子は桂場に、法とは「きれいな水、水源のようなもの」と以前言ったが、きれいな水、水源は法律ではなく、人権や人の尊厳ではないかと思ったと話します。桂場はそれには答えませんでしたが、寅子が去ったあと、少しだけ顔をほころばせます。新潟で、いろいろ経験や勉強を積んだと感じたのでしょう。
ただし、桂場はそのあと竹もとで、寅子と航一(岡田将生)が交際していると知ったときにはかなりまずいものを食べたような渋い顔になります。松山ケンイチさんの顔が最高でした。
「本当に彼女でいいのか」と航一に確認し、「いい年をしてそんなことを大ぴらにすべきではない」と苦言を呈す桂場。ようやく適切なツッコミ役が帰ってきてくれてホッとしました。自由な寅子には力のあるツッコミが必要なのです。漫才でいえば、千鳥のノブ、オードリーの若林正恭、博多華丸・大吉の大吉、南海キャンディーズの山里亮太、ダウンタウンの浜田雅功などのような人がいてこそ、輝くのです。
竹もとでは、梅子(平岩紙)があんこの味を引き継ぐ修業中でした。
寅子は、上司になった汐見(平埜生成)から、香淑(ハ・ヨンス)が法律の勉強を再開したと聞きます。
同級生がみんな、一度は夢やぶれたものの、再び、夢に向かっていることがほんとうによかった。
寅子は仕事も私生活も順調。優未(毎田暖乃)を連れて、航一の家族に会いに行きます。義母(再婚なので航一と血がつながっていない)・百合(余貴美子)は寅子のファンで、大歓迎。いい感じかと思ったところ、美味しいうなぎを食べながらついついおしゃべりが過ぎて、へんな空気になってしまいます。
百合はともかく、航一の子供たちの表情がかなり白けた感じに。彼らの知らない父の明るく愉快な話を聞いて、おもしろくないのでしょう。空気を読まない(読めない?)寅子らしい失態です。彼らとの溝は埋まるでしょうか。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第98回のレビュー}–
第98回のレビュー
人生には問題が山積み。
寅子(伊藤沙莉)は航一(岡田将生)の家を訪問しますが、ついおしゃべりが過ぎてしまい星家の人々をドン引きさせてしまいます。
寅子のおしゃべりの勢いに気圧されたというよりは、知らない航一の愉快な一面を見て戸惑ったというところでしょうか。
おつきあいしているかたのお家に伺ったら、まずは相手のご家族に思い出話などを聞くものであろう(相手に花を持たせる)というルール無用の寅子です(尾野真千子のナレーション意識してみました)。
驚くべきは、優未(毎田暖乃)まで一緒になって思い出話に笑っていること。寅子の野放図を白い目で見るキャラかと思っていましたが、染まってしまったのかと驚いて視聴していると、さすがに、星家の面々の目が笑ってないことに気づいて、止めに入りました。もしかしたら、優未はこの場では仲良し母娘を演じることが最適解と判断し、上品に口元に手を当てて笑っていたのかもしれません。でも、星家のへんな空気に気づいて、身構えたと。
寅子は、星家の人々の冷ややかさに気づいていません。優秀な裁判官ですが、プライベートだと鈍くなってしまうのでしょうか。しかも、航一が「僕たち、一緒に住みますか」と持ちかけても、その真意に気づきません。ここでは優未が敏く、航一と目配せしたり、あとで、寅子にフォローしたりします。優秀で変人な母親をもった優未の精神バランスが心配になります。
一緒に住みますかと聞いて、否定されたときの「なるほど」の言い方がいつもと違うのは、岡田将生さんの巧さ。
星家は妙に薄暗くて、子供たちも影ではむすっとしていて、表に出るときにニコッと作り笑顔になっています。これもまた「スンッ」でありましょうか。
いろんな家族の形があり、航一の事情もあるでしょうけれど、これまで変わり者でふつうに子供と遊んだりすることがなかったであろう中で、急に、再婚相手らしき人物と子供との楽しい思い出を語られたら、実子的に面白くないのも当然でしょう。
一見、穏やかに見える家族たちに問題が、というのは猪爪家にもあります。
直明(三山凌輝)が結婚しても猪爪家で同居したいと言い張るのは、戦時中、ひとり離れて暮らしていたことがいまだにトラウマになっているようです。
戦場の体験がトラウマになった人物を描く物語はこれまでもありましたが、戦争で家族と引き離されたことを引きずって、誰かと一緒にいないといられないというケースは興味深い。あまり語られないけれど、こういう人もいるだろうと思わされました。でも結婚したら妻と家族になるのだから孤独ではないという認識に至らず、「理屈じゃない。とにかく怖いんだよ」と子供のようにごねているのが少し謎ではあります。それが人それぞれということでしょう。
結婚に関して理屈をまくしたてる寅子と、理屈じゃないことを主張する直明は対比になっています。
家族問題がざわついているなか、寅子は新たな仕事場で、被爆者たちが原爆被害の賠償を日本政府に求めた「原爆裁判」に関わることになりました。
史実では、1955年、広島と長崎の被爆者5人が大阪地方裁判所と東京地方裁判所で訴えを起こし、1960年から1963年にかけて9回の口頭弁論が開かれました。8年にも及ぶ審理のすえ、東京地裁は日本政府への賠償は認められないものの、「米国の原爆投下は国際法違反」と判決を下しました。寅子のモデル・三淵嘉子さんは長きにわたる裁判に唯一、すべて関わっているそうです。
ドラマでは、この裁判の弁護を引き受けたのが、雲野(塚地武雅)と岩居(趙珉和)で、雲野はさらに、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)にも手伝ってほしいと依頼します。
戦時中、経営難からよねを解雇して、それっきりだった雲野ですが、大きな問題を前に、法曹の世界に身を置く者としてここは手を組むようです。
雲野は若い世代に歴史を引き継ぐ役割を担っているのではないでしょうか。
寅子は「原爆裁判」に関わるにあたり「そもそもあの戦争とは何だったのか」と深刻につぶやきます。ちょうど戦時中のトラウマを抱えている直明にも接していますし、終戦から10年経っても何も解決していないのです。
寅子のカットのあと、航一の深刻な表情が映るのも、単にプロポーズを無視された悲しみではなく、彼の戦争の記憶(戦前、総力戦研究所にいたことが彼に影を落としている)と関係しているのかもしれません。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第99回のレビュー}–
第99回のレビュー
終戦の日の放送回は、家族の幸せを考える家族会議のお話でした。
まずは、竹もとで、寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)が今後の話をしていると、桂場(松山ケンイチ)がやって来て、ふたりの仲を良しと思っていない素振りを見せます。あらぬウワサが流れてふたりの出世に関わることを心配しているのです。
寅子としては独身同士、何も問題はないと考えるのですが……。
実際のところはどうなのでしょう。いまだとシニアの恋も珍しくない印象ですが、この時代だといい年して……とよく思われないものなのでしょうか。結婚しないで長々交際していることが当時としては印象が悪いのかもしれません。
桂場は竹もとのあんこの味にこだわり、梅子(平岩紙)の味をなかなか認めないくらいなので、新しさよりも伝統を重んじるタイプで、寅子のようなルールからはみ出すタイプが本来、苦手なのかも。それでも辛抱強く、彼女のやってることを見極めようとすぐに判断をくださないところが、桂場の法律家らしさのように感じます。
松山ケンイチさんは、桂場の老けた感じと、偏屈な感じを、カリカチュアされた表情にしてこのドラマの雰囲気にうまく合わせ、さすがだなあと思います。
そして、今度は航一が猪爪家にやってきます。寅子は得意のロールキャベツを作ります。
家族プラス道男(和田庵)までそろって、挨拶していると、直明(三山凌輝)が交際中の
田辺玲美(菊池和澄)を連れてきました。菊池さんは「ゲゲゲの女房」に布美枝の子役で出演していたかたです。
航一に、花江と直明の言い分を冷静にジャッジしてもらおうという寅子のアイデアでした。
なぜか、窓から「ごめんください」と挨拶する航一。直明と玲美もまず窓から現れます。猪爪家の玄関が狭くて絵にならないのでしょうか。ワンクッションつくることで、登場のインパクトをもたせようという意図かもしれません。
こうしてにぎにぎしく家族裁判が行われました。
昔は、道男がやけにでかくて目立っていましたが、いまや、直人(青山凌大) 直治(今井悠貴)のほうが大きく見えるようになり、すっかり溶け込んでいます。
玲美は家庭裁判所発足準備の大晦日に手伝っていた学生のひとりでした。さらに、花江が新潟に行っていたときに、猪爪家に来て、そこから交際がはじまったというのです。花江はもうびっくり。確かに自分が人生初めてくらいに家を空けたときに、女性を家に呼んで料理をつくってもらっていて、それをいままで黙っていたと知ったら、疎外感を覚えるかもしれません。
玲美がよくしゃべるのを見た道男が「寅子みたい」と言うと、航一が「寅子」とぴくりとなります。
さすが、大学出で教師をしている才女。立板に水という感じで、同居させたくないのは、結婚が気に入らないからですか?と単刀直入に聞きます。そして、そもそも花江は直明の母ではないとずばり。
「この女強い!」とナレーション(尾野真千子)。
ここからみんなの意見がどんどん出てきます。
そもそも、猪爪家は家長不在な感じで、亡き長男の嫁・花江とその子供、次男の直明、長女の寅子が同居しているのです。義きょうだいが中心になった同居、かつ妹の寅子が経済的な面を担っていることも当時としてはイレギュラーな感じでしょう。そこに血縁関係のない道男もいるし。
ある意味、新しい家族の形のモデルケースである猪爪家ですが、花江はいまさらながら「結局私が誰かに世話をしてもらうしかない」と自身の立場に悩み、息子に将来の世話をしてもらうことをあてにしているみたいだと卑下します。自分が働いて家を出るという選択を考えたことはなかったのか。世間には戦争未亡人がたくさんいたでしょう。彼女たちの生き方から影響されることはなかったのか気になります。が、ここでは寅子が働く戦争未亡人で、花江は家事と子育てに集中する戦争未亡人と違うタイプに分かれているわけです。
息子たちは、家のことをずっとやってくれた花江に感謝していて、当然老後の世話をする気満々です。以前描かれた梅子の家とはえらい違いです。
「なんていい子、いい子すぎてこわいくらい」
「直ばっかり」
と玲美は感動したりツッコんだり。
玲美(レミ)という名前と、ペラペラとよくしゃべる感じが明るい料理家・平野レミさんを思わせます。
挙げ句、「そもそも私は是が非でも結婚したいわけではありません」と言い出し……。どうなる家族裁判?
玲美や、以前出てきた寅子の後輩の女性たちはメガネをかけて聡明な話し方をし、どこか寅子のモデルの三淵嘉子さんのような雰囲気を醸しています。当時の知性的な女性像の中央値なのでしょうか。
寅子がそこにハマらないのはあえて、中央値から脱却しようと試みているのかもしれません。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第100回のレビュー}–
第100回のレビュー
「虎に翼」が100回に突入しました。
懸案の猪爪家の家族裁判は、とりあえず同居してみることでまとまります。ただ、それが絶対ではなく、その都度、それぞれの気持ちを率直に述べて、どうすることがいいか考えていく、「借家の更新みたいに」と寅子(伊藤沙莉)は提案します。
玲美(菊池和澄)はそもそも結婚にこだわっていなかったけれど、直明(三山凌輝)が優しいので結婚相手としては申し分ないと思っていて。でも、優しくて、なんでも言うことを聞いてくれる彼が唯一、自分の希望を述べたのが、家族との同居であったため、添いたいと考えたのです。
直明と玲美の相性は良さそう。
花江(森田望智)も直明にそれだけ思ってもらって幸せ義姉であります。ふつうだったら、彼女のような立場は邪魔にされがちですから。
ただ、ここで、ちょっと「はて?」と一視聴者的に思うのは、花江が同居に懐疑的なのは、自分が嫁として猪爪家に入ったとき、居づらい気持ちになり、一度は別居もしていたからでしょう。
結果的に再び、いつの間にか同居していて、義母であるはる(石田ゆり子)とも仲良くやって、最期は寅子と看取るまででした。
花江がしんどかった時期は確かにあって、玲美にはそんな思いを味わせたくないという利他の心がここでは優先されています。それはそれですばらしい。航一(岡田将生)は、玲美の気が強いから玲美がストレスになることはなく、ストレスになるとしたら花江のほうだと言って、笑い話になります。
でも花江のストレスが心配。息子の嫁ではなく、義弟の嫁という、やや距離のある、しかも口の減らない気の強い年下の人物との同居はストレスにならないのでしょうか。結局、直明の一方的な親切心を押し通しているような気が……。これって穂高(小林薫)の良かれと思っての言動を寅子が怒ったことと変わらなくないでしょうか。今回は、多数決から花江が納得する全会一致の形で決定したので、一方的ではないという理屈でしょうか。
寅子は多数決ではなく全会一致で結果を出し(最初に設定してなくてあとから全会一致に決めた)、花江が家族を全力で愛してきたから、みんなに大事にされるのだと称えます。
おそらく、邪魔者にされがちな高齢者が、そうならない可能性を描いているのだと思います。花江がなんだったらお嫁さんのように若々しく見え、いくらでも仕事もできそうな雰囲気もあるので、なぜ、”母”として家事をして、子供たちに面倒みてもらうという可能性しか提示されないのか気になってしまいました。あーもう、考えれば考えるほど、花江のパーマのようにくるくるこんがらがる! いやでも考えることが大事なドラマなのだと思います。
花江は「赤毛のアン」におけるダイアナのようです。名作「赤毛のアン」の主人公アンの腹心の友・ダイアナは、当初、アンが憧れるきれいで聡明で、服の袖の膨らみも申し分のない女の子でした。いつしか、アンが夢をどんどん叶え羽ばたいていき、ダイアナはちょっとなまっている田舎のおばちゃんにおさまって、それを自分でも卑下します。それでもアンにとってはどんなにお互いの環境が変わってもずっと「腹心の友」と特別視されるのですが、筆者は子供ごころに、ダイアナの扱いが納得できなかった。ただ、三つ子の魂百まで。どんなに環境が変わっても友情は変わらない、その麗しさは読み甲斐がありました。
「虎に翼」では、花江を演じる森田望智さんが強烈に個性的なので、家のなかにずっといても、時々、何かに不満を述べても、魅力的に輝いているので、花江のような生き方にも尊厳があると思わせます。
家族裁判は閉廷し、航一は猪爪家の人々の聞いてるところで、寅子にプロポーズします。道男(和田庵)が「寅子」と呼び捨てにしたのを聞いて嫉妬したというのです。99回でぴくりとしていたのは嫉妬の感情だったのです。
寅子は玲美と同じく、結婚に積極的ではありませんので、時間をくださいとその場で返事を保留にしました。
返事ができないまま日々が過ぎ、ある日、寅子が山田轟法律事務所に行くと、轟(戸塚純貴)が遠藤(和田正人)の肩にもたれて手をつないでうたた寝しているのを目撃します。遠藤はごまかそうとしますが、轟は寅子におつきあいしている人だとはっきり言います。
寅子はいつになく、真剣な顔でふたりを見つめます。
航一が猪爪家で「毎朝目が冷めたとき寅子さんが隣にいたら幸せだろうなと思いました」と言ってましたが、轟は目覚めたときに遠藤が隣にいる幸せを感じていたのでしょう(目が覚めたとき幸せを噛みしめる前に、目の前には寅子がいたわけですが)。その姿を見た寅子の考えに変化が起こるのか。101回以降も楽しみです。
気になる原爆裁判は準備手続きがまず行われ、クールな被告指定代理人の反町を演じているのは川島潤哉さんでした。「舞いあがれ!」のリュー北條です。川島さんは、4月期の他局のドラマ「Destiny」で元内閣総理大臣の秘書を演じていました。気難しい役が続きます。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{101回のレビュー}–
第101回のレビュー
第21週「貞女は二夫に見(まみ)えず?」(演出:酒井悠)のサブタイトルで思い出したのは「わろてんか」(2017年後期)です。夫が亡くなったときヒロインが白い喪服を着ていて、これが「二夫に見えず」ーー再婚しないという意思を表すものとされていました。遡って「あさが来た」(2015年後期)でも白い喪服が登場していて、どちらのときもレジェンド少女漫画「はいからさんが通る」で白い喪服の意味を知っていた一部の視聴者は、白い喪服の意味の重さに気持ちのざわめきを抑えることができなかったのです。筆者もそのひとり。
この時代、二夫に見えずという精神論が尊く思われるなかで、寅子(伊藤沙莉)は二夫に見えるか否かで悩んでいました。
その悩みをよね(土居志央梨)に相談しようと、小さな花束(よねが弁護士になったお祝い)をもって法律事務所を訪問すると、轟(戸塚純貴)が男性・遠藤(和田正人)をおつきあいしている人だと紹介します。男性同士の恋愛に免疫のない寅子はいささか戸惑ってしまいます。
寅子は轟と遠藤がいる前でよねに、交際相手に結婚を申し込まれたものの、いまさら結婚する必要があるか、悩んでいると相談します。
「それを私たちに話して何になるというんだ」と、よねはぶっきらぼうに返します。
その前の、よねと轟と遠藤のリアクションに注目です。
よねは独身です。少女時代に男性にひどい目に遭ったこともあるし、はっきりした理由は明かされませんが男装を貫いていて、誰かと交際経験があるようには見えません。
轟と遠藤は、まさに交際しているけれど結婚しない関係です。というか、同性婚はこの時代、認められていません。彼らが結婚したいと思っているかはここではまだ明かされていませんが、世間的に認められていない関係であることを気にしていることは確かです。
この3人に、結婚する意味を聞くことがはたしてふさわしいでしょうか。しかも、寅子が子供はすでに互いにいて、経済的にも、将来的にも独身であってもなんら困らない、などと、自身は恵まれていることを語るのです。場合によっては自慢に聞こえてしまうではないですか。
だからよねは、「それを私たちに話して何になるというんだ」とたしなめたのではないでしょうか。
寅子はそこに気づいたかどうかはわかりませんが、轟と遠藤に、自分の反応が好ましいものではなかったであろうことを謝罪します。そこは自覚していたようです。
よねに言われたように、寅子は航一(岡田将生)に率直に結婚の意味を見いだせないと相談します。が、航一は、「永遠を誓わない愛」とは法律で決められている結婚そのものだという理論を展開します。いつでも離婚できるということです。
でも問題はまだあって。もし結婚するとしたら、苗字をどうするか、寅子はひっかかりはじめます。結婚すると当然のように夫の姓を名乗ることになる。そこに寅子はひっかかるのです。過去、彼女が結婚し、佐田姓になったときは、既婚であることで社会的立場をよくして弁護士として仕事をやっていきやすくするためでしたから、苗字が変わったほうがアピールできたわけです。でもいまや、”佐田寅子”として世間で有名になっているのですから、名前が変わることにメリットを感じられません。
これが、現代でも問題になっている夫婦別姓問題です。結婚により夫の苗字を名乗ることでいろいろ不都合が起こるのです。
こんな話が大家族で語られている登戸の家の表札は「猪爪」。どどーんと表札が映されていました。「佐田」の表札は出してないんですよ。
モデルの三淵嘉子さんの三淵は再婚相手の苗字です。想像でしかないですが、再婚相手の三淵さんはお父さんも法曹界で名のあるかたなので、三淵の苗字を名乗ると印象がよくなったのではないでしょうか。三淵家の一員として法曹界で一目置かれるというような。家制度がよくないと言われる一方で、家制度がメリットになることもあるのです。あからさまに口にしなくてもそれを自覚している女性も世の中にはいると思います。
寅子にとってかつては便宜にすぎなかった「佐田」という苗字がいま、どんな意味を持つのか。それは語られるでしょうか。
この回で印象的なのは、寅子が法律に興味をもったきっかけは婚姻制度に「はて?」と疑問をもったからだったと振り返ることです。三つ子の魂百までじゃないですが、
法律家になった寅子は、婚姻制度に納得できるようになるのでしょうか。はたして、寅子は、星寅子になるのでしょうか。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第102回のレビュー}–
第102回のレビュー
第101回のレビューで寅子(伊藤沙莉)にとってかつては便宜にすぎなかった「佐田」という苗字がいま、どんな意味を持つのか。それは語られるでしょうか。”と書いたら、いきなりアヴァンで語られました。
悩んだ寅子が早く寝ると、寅子がたくさん出てきます。猪爪寅子(過去)、佐田寅子、星寅子(未来)たちが、それぞれの言い分を語ります。
佐田になったのは、結婚を世間にアピールしないと仕事にならないので苗字が変わったほうがむしろいい。と、最初は打算だったけれど、優三(仲野太賀)への愛情を感じるようになってからは、佐田の苗字にも愛着があるようで、名前を変えることに抵抗があるのです。さらに、キャリアを積んできた時間も消えてしまう気がする。
だったら、過去の猪爪寅子の尊厳はどうなる? と少女時代の寅子が割って入ってきて……。
ここで一気に、寅子の変化、成長が可視化されました。猪爪の頃は口だけでなく手も出る激情型でしたが、いまはだいぶ落ち着いています。星寅子は、もっともっと社会的地位をあげたい野心家で佐田寅子と対立しますが、寅子のなかにこういう寅子も存在しているのかもしれません。
伊藤沙莉さんがいろいろな寅子を見事に演じ分けています。
第101回から102回にかけては、司法試験の勉強をしている直人(青山凌大)が法律を諳んじる場面や、寅子の夢で、これまでの寅子を復習できる場面が効果的で、調子が出てきたように思います。
名前が変わるとその前の自分は消えてしまう? 第102回で自分が消えてしまうという感覚を、轟(戸塚純貴)にも語らせます。
轟の場合は同性愛で、寅子と違って、苗字を変える変えないということに悩むことすらできない状況に置かれています。令和のいまこそ、同性婚も認められはじめていますが、戦後はまだまだ偏見がありました。名前どころか、男性同士でつきあっていることすら世の中に公開できない方々がいたのです。
実生活では法的に守られないうえ、自分たちが死んだら、戸籍には自分たちの関係が記されていないから、その事実が消えてしまうと轟は思うのです。戸籍によって数代まで遡った家族関係がしっかりわかりますけれど、轟と遠藤(和田正人)の関係は記録されないから、100年後に誰にも気づいてもらえないということです。そういう人たちが世の中にはいるのです。
同性愛に限ったことではなく、公的な記録に残らなかった人は無数に存在します。よね(土居志央梨)がこのまま結婚しなかったら、よねの存在も記録に残り続けることはないかもしれません。彼女が弁護士として良い仕事をして、その記録が山田よねの名で残る可能性はありますが。
轟は「いま振り返れば」と過去の自分を寅子に語るなかで、よねが自分を救ってくれたと話します。誰が何をした、何を語ったか、少しでも正しく残したいという思いゆえでしょう。自分が消されてしまう側を経験した人はそういうことに誠実です。経験のない人は悪気あってもなくても他者の存在を消してしまいがちです。
すこし照れたようなよねの座ったカウンターに1本の白い花が飾ってあります。
寅子のもってきた花でしょう。花束かと思ったら1本でした。
まっすぐのびた一輪の白い花はまるでよねのようです。
だれもがそれぞれこんな花であるのだと思います。
寅子が大きな花束でなく、一輪の花を持ってきたセンスも悪くない。
寅子は再び、星家を訪ね、天丼を食べながら語らいます。
そこで、航一(岡田将生)は佐田と名乗っていいと言いだし、百合(余貴美子)が顔色を変えました。どうなる、再婚?
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第103回のレビュー}–
第103回のレビュー
「しゃべり場」とか「君の声が聴きたい」のような回。
まずは、星家で美味しい天丼をいただいたあと、結婚したらどの姓を名乗るか問題を議論します。
航一(岡田将生)は「佐田」と名乗っていいと言い、百合(余貴美子)は猛反対。
長男の朋一(井上祐貴)は星家は自分が継ぐから構わないと言います。
寅子(伊藤沙莉)は「佐田」と名乗ってと言ってもいないのに、とそもそも論。
こうなったのは、優未(毎田暖乃)が航一に相談したから。彼女は猪爪家での話し合いのとき、苗字が変わっても構わないようなことを言っていたのに、それはいい子しぐさだったのでしょうか。自分はいいけど母の思いを汲んでのこと?
優未の本音を知りたいところです。
揉めて、航一は自身の思慮の浅さを反省します。ほんとは寅子を愛する「妻」と世間に堂々公表したいにもかかわらず、どこか斜に構えてしまっていたので(本音の言えない不器用な人ですから)話がこんがらがってしまいました。
航一は極めて常識的な人で、好きになった人と結婚し、それを世間に認めてもらうものと思っているのでしょう。そしてとても寅子を愛しているようです。その情熱をうまく表現できないだけなのです。
優三(仲野太賀)も航一も、彼女のやりたいことに合わせてもらえる男性に出会えて、寅子は幸せ者であります。とはいえ、航一の場合は最終的に全部受け入れられなくなってこんがらがっているわけですが。
話を聞いた桂場(松山ケンイチ)は、裁判官は信用上、旧姓を名乗ることはできないと寅子に注意します。すると寅子は、桂場にも仕事やあんこの味にこだわりがある。人はそのこだわりを大切にすべきなのだと主張し、桂場もそれに関しては同意しました。が、旧姓は認めません。
ナレーション(尾野真千子)は司法の現場で旧姓使用が認められるのは平成29年だと語ります。長い年月がかかります。
この人が愛する伴侶ですと、世界に公表したいと思っても、それがしづらい人たちがいます。それが、轟(戸塚純貴)と遠藤(和田正人)の同性カップルです。
その轟の友人たちが集まる会に、寅子は優未と航一と参加します。
同じく同性カップルの千葉(ニクまろ)と秋田(水越とものり)と、男性から女性に性転換手術を受けた山田(中村 中)はそれぞれの状況をおにぎりを握りながら語ります。
よね(土居志央梨)は、男になりたいわけではないし、恋愛に興味がないと明かします。
世の中にはいろいろな人がいることを知る寅子と優未。
性の問題だけでなく、姓の問題。山田と山田、同じ空間に姓が同じ人(でも他人)が居合わせることだって現実ではあるわけです。フィクションの世界ではこんがらがるからそれをあらかじめ避けていると思いますが、「虎に翼」はここまで難しい問題の場面で、わざわざ同姓の人たちまで登場させるガッツに驚かされます。中村 中さん演じる山田さんの下のお名前がクレジットにはないのですが、お名前知りたい。
寅子は考えたすえ、星姓を名乗ろうと思いはじめますが、
自分が曲げたくないものを折るって、自分も折らせた相手も傷つけることなんです。
(遠藤)
遠藤が寅子に助言します。
寅子はこれまで、絶対に曲げてこなかった。遠藤のセリフで思い出すのは、穂高(小林薫)です。かつて寅子の曲げたくないものを折ったことで、寅子も穂高も傷つけあいました。
遠藤のセリフが染みる視聴者もいるでしょうけれど、寅子は自分自分で、相手の言い分は全然聞かないことが気にかかる視聴者もいるでしょう。しかも今回、珍しく航一の希望に合わせようとしているのに、止められてしまう。折り合うことが大事とはいえ、容易ではありません。
すると、航一は結婚をやめましょうと言い出します。寅子はあたふた。ただ、それは、ドラマ的な仕掛けであり、航一は婚姻届を出す結婚のことだと言い直します。
「やめましょう」で「つづく」にはさすがにしないで、15分内で答え合わせをしてくれてホッとしました。
「やめましょう」は不器用で、思ったことを言葉になかなかできない航一らしいといえばそうですが、このかた、優秀な法律家なのですよね。こんなに言動が伝わりにくくてお仕事大丈夫なのでしょうか。仕事になると明晰になるのかな。
さて、見出しにした件。今回、15分のなかで、登場人物が謝ったのは、9回です。
かつて、朝ドラでは、謝罪や感謝の言葉がないとよく言われていました。なぜか今回は逆で謝りすぎ。そして、謝ればいいものではないことを視聴者は噛みしめるのです。
ただ、桂場と寅子の「失言だった」と「失礼しました」はお互い言いすぎたことを認める冷静さと相手を尊重する気持ちがあってよかったです。
【今日の謝罪】
ごめんなさい 優未
すみません 航一
ごめんなさい 優未
ごめんなさい 航一
失言だった! 桂場
失礼しました 寅子
ごめんなさい 航一
ごめんなさい 遠藤
すまない 轟
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第104回のレビュー}–
第104回のレビュー
法的な婚姻届を出さない、事実婚にしようと提案した航一(岡田将生)に、寅子(伊藤沙莉)は今回は自分が折れると言いますが、それでは「愛情を利用した搾取になってしまう」と航一は譲りません。あくまでも穏やかに。
寅子の思いをとことん優先してくれる、すてきな航一さん。
遺言書を根拠に「夫のようなものを名乗る」と言う航一。彼は全世界に、寅子が僕の妻と公言したい人(映画祭のレッドカーペットを並んで歩くみたいなことでしょうか)なのに、
「夫のようなもの」に希望を少しだけ謙虚にするところが立派です。
遺言書を交わしたふたりは事実上の夫婦になりました。「内縁」とも言います。世の中には「事実婚」という考え方があるのですが、さすが寅子と航一は法律家だけあって、お互いが亡くなった場合、財産分与をどうするか、ちゃんと文書で記録しました。そう、事実婚ですと、遺産がもらえなかったり、各種手続きにおいても、法的な家族と認められないために不具合が生じてしまうのです。そうならないように、ふたりはしっかり手を打ったようです。
寅子と航一が事実婚を選んだのは、轟(戸塚純貴)たちのように法的な結婚を認められていない同性の恋人たちの実情を知ったこともあるのかもしれません。事実婚でも遺言書を作ることで法的な根拠になる可能性を提示してみせたのかなと。
すこし疑問なのは、寅子の想いを優先することがこのドラマの趣旨とはいえ、子供たちの立場をあまり気にかけてないことが不思議なのです。再婚にあたって、まず子供たちの置かれる状況に気を使うものとは世間が勝手に決めた常識に過ぎず、あくまでも自分がどうしたいかが優先順位の一番にくるものだということをドラマでは徹底しているようなのです。そこに引っかかりを覚えてしまうと、ドラマがすこし楽しめなくなります。このドラマを素直に享受できる人は、周囲に影響されない、自分をしっかり持っている人だと感じます。
ドラマのあちこちが気にかかってしまう人は、いつも周囲の反応を気にして自分の言動にブレーキをかけてしまいがちな人なのかなと。いや、もっと自由にやりたいことをやっていいのだと、このドラマは寅子を通して提案している気がします。ほんとうにそれは大事なことです。その一方で、いろいろ気にする人は、いろいろな可能性を考える、思慮深い、すてきな人だと筆者は思います。
新婚の直明(三山凌輝)は結婚式をあげますが、寅子はいわゆる普通な結婚式には心が踊らないようです。再婚だと式をしない人もいますね。でも、直明は寅子にもセレモニーを用意しようと考えます。直明は、寅子のみならず、家族たちが自分を大学にいかせてくれていまがあることを感謝して、その気持をなんとか表現したいと思ったようです。立派になって、結婚して、家族みんなが笑って泣いて、それが一番と噛み締める場面は心を打ちました。
直明が中心になって行った企画は、ばらばらになった明律大学女子部法科の面々を竹もとに集めることでした。
法服を着た仲間たちが勢揃い、寅子の再婚を祝います。同期も先輩たちも、みんなニコニコしているのですが、よね(土居志央梨)だけは澄ました顔。キャラが徹底しています。
皆が着ている法服は本物ではなくて、衣裳的なものでしょうか。本物は仕事以外で着るのはきっと許可されていないでしょうし(誰か教えて)。
寅子の再婚と平行して、原爆裁判の準備が着々と進行しています。昭和30年10月、第2回準備手続きが行われます。国側は賠償責任はないと主張し、原告側は広島への原爆投下は国際法に違反していると主張し、両者一歩も譲りません。
折しも法律を志した女子部卒業生たちが集まったとき、原爆裁判という重要な裁判が行われていることに意味を感じざるを得ません。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第105回のレビュー}–
第105回のレビュー
直明(三山凌輝)の粋なはからいで、明律大学法学部の仲間たちが集まりました。遠路はるばる新潟や鳥取からも寅子(伊藤沙莉)の結婚(内縁)を祝うために。そして、たとえ苗字は違っても、ふたりは夫婦なのだという判決を言い渡します。祝辞のようなものでしょう。ふつうの結婚式には心踊らない寅子ですが、この結婚式には心、踊らせました。
法服は自分たちで縫ったものだったことがわかりました。よかった、本物を勝手に着用してなくて。
「名前を変えることで、自分が失われると感じる人もいる」と名前を変えた香子こと香淑(ハ・ヨンス)が言うところに、彼女の思いを感じてしまいます。
航一(岡田将生)と直明は気をきかせて席を外し、同窓生たちだけの宴会に。
どうやって集まったか寅子に明かします。直明から梅子(平岩紙)や涼子(桜井ユキ)や香淑に手紙を出したとか。直明は香淑の連絡先を知っていた? はて? 香淑は頑なに存在を隠していたのではなかったか。それで新潟でも涼子たちを訪ねてなかったのでは。わたくし、毎日レビュー書いているのに大事なところを見逃していたら、ごめんなさい。
久保田聡子(小林涼子)は鳥取で弁護士をやっています。久保田のモデルらしい中田正子さんは実際、鳥取で弁護士事務所をやっていて、女性初の弁護士会会長にもなったそうです。結婚生活も送りながら地域に根ざした弁護活動を行った人物の物語も見てみたかった。
男性的なしゃべり方を貫く久保田を夫や子供はどう思ったのかとか。
中山千春(安藤輪子)はいまは検事をやっています。夫が……といって泣きそうになるから、みんな、悪いことを想像しましたが、夫が背中を押してくれたという流れでした。中山は、泣き上戸設定でしたね、懐かしい。こういう描き方はなんか人が悪い感じもしますが、喜劇としてはオーソドックスなものでしょう。
久保田は改めて、かつて仕事を辞めてしまい、寅子ひとりに女性弁護士の重責を負わせてしまったことを謝罪します。思えば、そこから、道が少し変わったし、寅子が大きな挫折を味わい、ずっと引きずり続けている苦い体験ではあります。
寅子と久保田の会話中、よね(土居志央梨)が微妙な表情をします。そうです、寅子とよねの関係も、あのとき、こじれてしまったのでした。よねは寅子をはっきりゆるしたと言及していませんが、なんだかんだ言いながら、こうしてつるんでいるので、心のなかではゆるしているのではないでしょうか。
男性は轟(戸塚純貴)だけが参加。一緒に事務所をやっている梅子とよねを「家族」だと言います。法的に認められない男性の恋人を持った彼にとっては、家族の概念は広いのです、きっと。
あの頃キラキラしていた女子たちは、志半ばで道が少し逸れて、環境的にも心情的にもなかなか会えずにいたけれど、それぞれの道を確かに歩んでいて、良かった。
なりたい自分になれなかったかもしれないけれど「最後にはいいほうに流れます」と香淑。あの海で彼女が語った言葉です。
寅子は今度はみんなで海に行こうと言います。玉(羽瀬川なぎ)の車椅子だってきっとなんとかなるでしょう。
竹もとの主人が、特製のあんみつを寅子にふるまいます。ウェディングケーキみたいなもの?
そして、昭和31年、春。寅子はいよいよ星家での生活をはじめることになり、猪爪家を出ます。
猪爪家の面々は心配ですが、優未(毎田暖乃)はまったく心配していない様子。航一は、寅子を愛しているから、絶対に守ってくれると信じています。
ですが、待ち受ける、星家の子供たちは、なんだか暗そうな雰囲気です。
ここでまた、はて?となったのは、そもそも、なんで星家で同居する必要があったのでしたっけ? 寅子は、優三(仲野太賀)と結婚したときも、猪爪家にいましたが、独立した家で暮らす選択肢はないのでしょうか。現実的にいえば、ドラマの都合でしょうけれど、内縁なのに星家に同居、釈然としない。年をとってきた百合(余貴美子)の面倒を見ないといけないからでしたっけ?
ともあれ、来週は、星家での生活。どうなる寅子。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
「虎に翼」をU-NEXTで視聴する
–{第106回のレビュー}–
第106回のレビュー
第22週「女房に惚れてお家繁盛?」(演出:橋本万葉)では、寅子(伊藤沙莉)と優未(毎田暖乃)が星家に入りました。
そこでさっそくはじまったのは家族麻雀。
航一(岡田将生)と朋一(井上祐貴)、のどか(尾碕真花)は、朋彦(平田満)が生きていたときは4人で卓を囲んでいたようです。とすると、朋彦が亡くなってからはやっていなかったのでしょうか。百合(余貴美子)はやらないようですし。唯一の家族コミュニケーションができなくなって、ますます家族の関係が冷えてしまったと考えられます。
ようやく麻雀ができたものの、寅子の参加ではいまひとつ盛り上がりません。寅子がうまくないのもあるし、寅子の存在が子供たちに受け入れられてない雰囲気です。
しかも、優未が航一に教えてもらってうまいのだというとき、そっと航一に近づき、それを
見る朋一たちの眼差しが……。確かに優未、あからさまでした。優未ってこういう子でしたっけ?
余談ですが、朋彦は、麻雀、花札、トランプと賭け事にも成り得るなものを好んでいたようです。頭脳戦でも将棋や囲碁ではないところが興味深いです。
星家はなんだかへんな感じで、朝ご飯は、子供たちがパンとご飯、食べたいものを食べています。そのため、百合の二度手間になっています。夜もご飯を外で食べてきてしまったり。お風呂沸かしてとか、お弁当の味に注文を言ったり。寅子は百合の負担が気になって、つい口を出し(うしろで優未があちゃーという仕草をしている)、朋一に「母親面はやめてください」と激しく拒絶されてしまいます。
でも、朋一のような態度は、寅子が猪爪家にいるときにやっていたことだと優未が指摘。自分のやってきたことがいかに他人に迷惑だったか、寅子がようやく気づきはじめます(新潟の3年はなんだったのか)。
花江(森田望智)やはる(石田ゆり子)はほんとうに寅子に寛容で、寅子は恵まれていました。それもこれも寅子の実家だったからであります。他人の家に入るのは大変です。
結婚しない事実婚とは、そういう煩わしさを回避するためのものではないかと思うのですが、なんだって寅子は、佐田のまま星家に入るのでしょう。経済的にも別居ができるのに。
結果的に、家のこともやると言いながら、百合特製の豪華なお弁当を持って、出勤できてしまうのです。なんだかなあ。
仕事場では、豪華弁当を前に、後輩の判事補・秋山(元日向坂46の渡邉美穂)の嫁としての生活の愚痴を寅子は聞きます。秋山が姑に言われているようなストレスを寅子は味わってきていませんでしたが、義理の子供たちにちくちく言われることになるのです。ドラマでは、この日の晩、朋一とぶつかる流れになっています。
一方、原爆裁判はなかなか進展しません。
国側の指定代理人の反町忠男(川島潤哉)が「これは法律問題ではなく政治問題です」
「(敗戦国の賠償請求は)放棄される宿命なんです」などと冷たく言い、雲野(塚地武雅)は
苛立ちます。政治に法は立ち向かうことができるのか。
この難しい問題と、星家の家族問題とを平行して描く、なんともチャレンジングで奥深すぎます。
寅子、百合の豪華弁当に小躍りしている場合ではない。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第107回のレビュー}–
第107回のレビュー
「顔芸」という表現が浸透したのは「半沢直樹」だと思いますが、俳優の表情筋の動かし方の豊かさを褒めるときに使用します。
「虎に翼」第107回では、俳優たちのいわゆる「顔芸」に注目してみましょう。
まず、岡田将生さんです。冒頭、岡田さん演じる航一がひとりでお酒を飲んでいるところに寅子(伊藤沙莉)が現れます。お風呂に入ろうとする寅子を引き止めて航一は話しはじめます。星家の子供たちとの溝が埋まらないことに悩んでいるのです。
寅子は明るく「ちちんぷいぷい」と欲張りで気の大きくなる魔法をかけ、お風呂に向かいます。
残った航一は、ちょっとホッとしたような顔になります。
「ちちんぷいぷい はあ」でお酒を一口飲み、「ふう ホッ」としたときの表情に注目です。
泣き笑いみたいな顔になっています。ものすごく悩みを溜めてきていて、でも出せずに無表情と「なるほど」しか言えなくて。でも寅子はスルーしないで、しかも余計なことを言わないで、ふっと心を和らげる言動をしてくれたおかげで、固まった表情が崩れるのです。
寅子、優三さん(仲野太賀)のときは変顔でした(これぞ「顔芸」でした)が、同じことはしないで、航一用に励まし方をカスタマイズしています。
次に花江(森田望智)です。優未(毎田暖乃)の入学式に出席したあと、寅子は猪爪家に立ち寄ります。花江は直明(三山凌輝)の妻・玲美(菊池和澄)が、料理の味を確認しないと愚痴ります。花江がこの家に入ったとき、味の違いが嫁姑問題になりました。が、今回は味をそもそも聞かないことが花江には不満なのです(寅子が「家族のような」をやってますが、ここでも「嫁・姑のような」と「ような」になっていて、どこもかしこも「ような」な生活です)。
思えば、花江は長男の妻で、玲美は次男の妻です。長男が亡くなって家は次男のものになっているはずですから、いまや玲美のほうが猪爪家の中心のイメージ。だからこそ、花江からレシピを引き継ぐ義務があるとも思いますし、新しく刷新するのもありでしょう。
でも、花江はもやもや。このときの顔を微妙に左右に動かし、じれている気持ちを森田さんはユーモラスに表現していました。
次は、寅子と花江の話を奥の部屋で、寝そべって聞いていた直治(今井悠貴)です。彼はいつも亡父・直道(上川周作)ふうに振る舞っています。あごに力をいれ粘りっけのあるしゃべり方が直道を思わせます。
そして、寅子は直明の頼みで、彼の生徒のための法律の勉強会に参加します。
そこに一緒に来たのが、小橋(名村辰)と稲垣(松川尚瑠輝)です。小橋のちょっと口を尖らせたように小憎らしい表情は最初のうちはいらっとしましたが、ピンとあがった前髪と共にいまやすっかりクセになってしまいました。
さて、勉強会では、最近の民事事件の判例として寅子があげた、バスの乗車の際に怪我人が出た事件で、その車掌が女性であったことに、男子生徒のひとりが、女性は働かなくていいのだから得だと言い出します。戦後10年、いまだにそんな偏見が存在していることに寅子は
驚きますが、小橋が「わかる」と言い出して……。明日は久しぶりに小橋の小憎らしさが炸裂するのでしょうか?
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第108回のレビュー}–
第108回のレビュー
平等が損になる人もいる?
優秀でも不良でもない中間にいる人が平等社会では取り残される?
なかなかいい着眼点が示されました。
勉強会に来た学生の、なぜ、女性は働かなくていいのに働くのか、という疑問を、小橋(名村辰)が肯定します。
小橋は、稲垣(松川尚瑠輝)に先に出世され、どうやらちょっとくすぶっているようです。女性ながら寅子(伊藤沙莉)は目に見えて出世頭です。男の自分の立つ瀬がない。
頑張らなくていいのに頑張る女たちに無性に腹が立つ、と小橋は声を大にします。
女性が平等を勝ち取っていくと、自分の立つ場所が失われる。女性は結婚し養われる可能性と自ら働く、ふたつの可能性を選べるけれど、男性は問答無用に働いて家を守ることを強いられている。その状況を小橋は嘆くのです。
小橋は頑張りたくないのです。平等といえば、確かに頑張らない人の自由もあるはずで、でも世の中は頑張る人が優先になっています。
そういうとき、弱そうと思われる者に怒りをぶつけると、平等な社会を拒む邪魔者になるのだと、小橋は学生に忠告します。
「一番になれなくてもさ、おまえのことをきちんと見てくれる人間は絶対いるからさ」と長い話を纏めた小橋に、寅子は「とてもいいお話だった」と称えました。
小橋が過去、寅子たちに攻撃的だったのは、弱者と思って叩いていたのでしょうか。それとも、寅子たちは強いと認めていたのでしょうか。弱者と思っていたら、意外と強かったということかもしれません。
勉強会はあっさり終了。
帰りに、秋山(渡邉美穂)が「子供を授かってしまいました」と寅子に相談します。勉強会の前に生あくびしていたのは、たぶん、体調の問題だったのでしょう。
5倍がんばって、いつもきれいな姿でなんてことないふりをしたおかげで、ようやく道が切り開けたのに諦めないといけないのかと泣く秋山。これに共感する働く女性はたくさんいるでしょう。
寅子は秋山はいま、過去、自分が味わった「地獄」にいると感じ、後輩の願いどおりにできるように動きます。
後輩は自分のような思いを味わわないように。
現在、出産の前後6週間しか産休がないところ、育児期間の時短や育休のための長期休暇を取得できるように、桂場(松山ケンイチ)に意見書を提出しました。
ところが、「時期尚早」と桂場はけんもほろろ。
これは、昔、寅子が妊娠したとき、穂高(小林薫)がまずは出産、育児に専念すべきと勧め、「雨だれ石を穿つ」だから、いまは制度が整わなくても耐えるように説いたことの繰り返しになります。
桂場だって、当時、穂高をこっそり寅子の知らないところで責めていたのに。そのとき「時期尚早」と桂場が穂高に言ったのは、最後まで寅子の味方であってあげてほしかった、育児を優先しろと言うのは「時期尚早」という意味だったようです。ややこしい。
寅子の味方だった桂場も、自分が上に立ったら「時期尚早」と保守的なことを言ってしまうのです。
「そのときとはいつですか」と問う寅子に、「あさイチ」では「いまでしょ」とやや古い流行語でツッコんで笑っていました。
回想シーンが出てくると、伊藤沙莉さんがじょじょに老けていてるのがわかります。昔は若くてはつらつとしていて、いまは大人の落ち着きがすこし加わりました。
寅子は諦めません。竹もとに女性の賛同者を集めます。
中山(安藤輪子)は結婚を祝う会にもいましたが、後輩の小泉(福室莉音)、山下(おぎのさな)、玉木(平体まひろ)、吉永(川久保晴)となつかしい顔ぶれが揃い、集まった署名を寅子に渡します。タイトルバックで踊る女性たちのような、麗しき女の連帯を待ってました!
感動シーンですが、よね(土居志央梨)が、秋山に「度肝を抜かれるほどの生ぬるさだな」と苦言を呈します。秋山とよねは司法研修所で同期で、よねが化粧をしないことを秋山は批判していたようですが、よねはお化粧しなくても肌がきれいなので大丈夫かと。
よねは「類は友を呼ぶってやつか」と寅子にも嫌味を。よねみたいな存在にちょっとホッともしました。そう、このドラマは、仕事を選んで子供を産まないという選択をする女性、あるいは子供がほしくないと考える女性についてはあまり言及されず、毎度、出産と仕事を両立させたいケースが主題になっています。それは令和の価値観として、出産が大事だからでしょう。
昭和、平成、令和と時代が変わり、少子化になったとき、その状況に歯止めをかけるため、仕事する女性も出産がしやすいような制度を整える必要性が来ることを、この時代(昭和30年代)の人たちは思いもよらなかったでしょう。先送りしていたら、大変なことになってしまったのです。
なお、ネットで調べると、女性公務員の一部(教員、看護婦、保母等)を対象とした育児休業法が成立したのは、1975年だそうです。
本日の小姑チェック
秋山の「授かってしまった」の「しまった」
航一(岡田将生)「僕の子供たちだなあと思ってしまって」の「しまって」
まっすぐ物事を言わない、ちょっと斜めに言う現代口語だなあと思ってしまいました。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第109回のレビュー}–
第109回のレビュー
育児のための就業時短や休暇に関する制度の提案を「時期尚早」と冷たかった桂場(松山ケンイチ)でしたが、上に根回してくれていました。寅子(伊藤沙莉)はこの一歩を「確実に次の一歩につなげます」と強く誓います。
若いときは、ひとりで怒って、だめにしてしまったけれど、落ち着いて考えて、適切な方法を考えて実行してみる、寅子はいつしかそういうことができるようになっていました。
桂場は、かつての穂高(小林薫)のように寅子をあきらめさせるのではなく、彼女の希望をかなえるべく尽力したのです。
誰もがこういう上司であったなら。
このドラマの趣旨は、能力のある女性の希望を、男性はできるかぎり叶えてあげるべきというものなのだと思います。悪気があろうとなかろうと、前提は、女性の話に耳を傾け、とにかく意に添うようつとめることが大事なのです。
帰宅すると、優未(毎田暖乃)と航一(岡田将生)と朋一(井上祐貴)と百合(余貴美子)が棚を導入する相談をしていました。家族が増えてものが増えたからです。優未がはる(石田ゆり子)が納戸の棚に番号をつけていたと話し、そのやり方を導入しようという話で盛り上がります。
亡くなった人を思い悲しむのではなく、楽しいことを思い出して、共有する。亡くなった人もうれしいことでしょう。
朋一は、おずおずと、新しい家族に馴染みはじめたような……。
航一も少しずつ、実子に近づいているようです。
でものどか(尾碕真花)が……。
昭和31年(1956年)の秋、ちょいちょい夜遊びしていたのどかが補導されてしまいました。
朝、のどかは遅れて朝食の席に現れます。その前は、寅子の明るさで、楽しくなっていた朝食の席でしたが、にわかに雲行きがあやしい。現実では、8時12分頃、台風が鹿児島に上陸というニュース速報が入りました。なかなかのタイミング。
のどかは寅子たちが好きになれないので、家を出ていくと言い出します。その気持はわからないではありません。籍を入れない家族のようなもの、佐田姓の謎のふたりが家に入ってある種我が物顔しているのですから鬱陶しいでしょう。しかも、これまで子供をかまってこなかった、口数の異常に少ない父が、優未には親しげなのもおもしろいわけないと思います。彼女なりに我慢して、父の好きにさせておいたけれど、ストレスが募り、爆発したのでしょう。
寅子は優未を連れていったん席を外します。
が、優未だけが戻ってきました。
優未は朋彦(平田満)が孫たちのおねだりを麻雀で勝ったら聞いていたことを覚えていて、それをやろうと持ちかけます。
優未が勝ったら、この家族のあり方をもう一度考えてほしいと。のどかは受けて立ちます。彼女が勝ったら家を出ていくと。
麻雀勝負は、久しぶりに心沸き立つ展開でした。
優未とのどかはいい勝負でしたが、途中で優未のお腹が痛くなります。優三(仲野太賀)に似てここぞというときにお腹が痛くなってしまうのです。
体調が思わしくなさそうな優未にのどかが気づいて、いったん休憩しようというやさしさを見せることにホッとします。
勝たなきゃと優未が無理にがんばろうとしたとき、寅子が呑気にたいやきを買って帰ってきます。
なにか問題があったとき、まっすぐぶつかり合うのではなく、いったん脇道に逸れたり、空気を変えたりすることがいかに大事か、勉強になります。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{第110回のレビュー}–
第110回のレビュー
のどか(尾碕真花)との麻雀勝負で優未(毎田暖乃)にいつものぎゅるぎゅる(プレッシャーでお腹が痛くなる)が出てしまい、勝負は中断。
そこでのどかは本音を吐き出します。
私の家はにぎやかで明るい家族でなく、干渉しあわず、航一(岡田将生)はニコニコしない等々であったのに、寅子(伊藤沙莉)と再婚(事実婚だけど)してからすっかり変わってしまったことを嘆きます。
この感情、たぶん、複雑で、静かで干渉し合わない空気や、無口で不器用な父に我慢しているうちに、それが当たり前になって、それが居心地よくもなっていたのに、いきなり登場した寅子たちによって父が変わり、家の空気も変わってしまったことが耐え難かったのでしょう。我慢もあるけど、一風変わった家庭というのも芸術を愛するのどかには悪いものではなかったのでは。ホームドラマのようなにぎやかで明るい家なんて平凡だと思ったのでは。しらんけど。
のどかに続いて、朋一(井上祐貴)も航一と寅子と優未に嫉妬をしたと率直に訴えました。
でも、彼はのどかよりも寅子にすでに親近感を抱くようになっていたようで、亡き母の
願いが叶ったのではないかと考えていました。
お父さんを甘えさせてあげたかった、と亡き妻は言っていたと聞いた航一は泣きそうになります。
航一は戦争の傷を抱えてしまったことで、家族と距離をとり、明るい家庭を築けなくなってしまった。もし甘えてしまったら、自分が壊れてしまっていたと告白します。
これまで長い年月、抱えていたことをようやく語った航一。戦争が終わった傷をずっと抱え、解決していない人もいるのです。
百合(余貴美子)は百合で、前の夫との間に子供ができなくてひどいことを言われたけれど、再婚して血はつながっていなくても息子と孫ができたことが嬉しかったと言います。
のどかが、寅子と優未といるほうが嬉しそうだとツッコむと、褒めてくれるからうれしいと言うのです。確かに、ふたりは着物や食事をやたらと褒めていました。
褒められたくてやっているわけではないが、褒められたらやっぱり嬉しい。「のどかさんと一緒で、私も自分を見てほしいのよ」と。誰もが求めることであります。
寅子は皆の切実な渇望を聞いて、自分がいかに両親に子供でいさせてもらえたかを実感します。確かに、寅子はのびのびと言いたいことを言ってやりたいことをやりたいようにやらせてもらっていました。
だから、時々は子供あつかいさせてもらえないかな、と申し出ます。
そして、すこしだけ家族のようなものをお休みしませんか、と提案します。
百合の「そんなむちゃくちゃな」という戸惑いには筆者は大いに同意。
正直、もうめちゃくちゃなんですよ。言いたいことはわかるしいいことも言ってるのだけれど整理されずに一気に吐き出したものを力技でぐいぐいまとめている。理解できる人もいるけれど、追いついていけない人もいる。スパルタ進学塾、あるいはものすごく痛いけどよく効くマッサージ店みたいな感じなのです。
でも、この回の狙いは、ずばり1点です。
他者のやりたいことをやらせてあげること。
星家の問題が「中学生日記」(古っ)のように、各々の意見を語り合うことで解決したあと寅子は職場で、秋山(渡邉美穂)に「秋山さんがやりたいことを選択して進んでいくこと」、そのために尽力すると伝えます。
出産して休みを十分にとったあと、戻ってきていいし戻ってこなくてもいいし、気を変えて進路を変えてもいいと寛大なことを言います。
「あのとき自分がしてほしかったことをしているだけ。つまり自分のためにやってるだけよ」
ここ感動ポイントです。
あのときとは、穂高(小林薫)がいったん子育てに専念したらと提案したときです。ほんとうにそれが寅子にはずっとしこりになった。この回で、子供あつかいさせてもらっていたというので、おそらくあれが、最初に子供あつかいされなかったのでしょう。そしてそれが桂場(松山ケンイチ)いわく「時期尚早」だった。
何度も、穂高の話が出てきたのは、このためです。ここさえ抑えておけば、この第110回は攻略できます。余計な枝葉にこだわらず、1点集中が鍵です。
これまでなんでも自由にできたのに、それをさせてもらえなかった。君はどうしたい?と
寅子の気持ちに傾聴し、こんがらがっている気持ちを整理して、最適な方向に導いてもらなかったことに、絶望した寅子は、未来ある若者たちには同じ絶望を味わせないように、
自論を押し付けず、寄り添いたいと思っているのでしょう。こんな上司がいたらありがたいですね。
こうして星家はみんなで家事分担し、和気あいあい。百合は、働き自分が自由にできるお金を持ちたいと考えはじめて……。専業主婦からの脱皮ですね。
来週は原爆裁判。その前に航一の癒えない戦争の傷を描いてあることが構成の妙であります。褒めました。
※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。
–{「虎に翼」作品情報}–
「虎に翼」作品情報
放送予定
2024年4月1日(月)より放送開始
出演
伊藤沙莉 、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、 松山ケンイチ、小林 薫ほか
作
吉田恵里香
音楽
森優太
主題歌
「さよーならまたいつか!」(米津玄師)
ロゴデザイン
三宅瑠人、岡崎由佳
語り
尾野真千子
法律考証
村上一博
制作統括
尾崎裕和
プロデューサー
石澤かおる、舟橋哲男、徳田祥子
取材
清永聡
演出
梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか