“若さ”と“円熟”、どちらのジャッキーがお好み?<人生の集大成『ライド・オン』公開!>

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アジアを代表するアクションスターであり、世界中に影響を与え続けるレジェンド俳優ジャッキー・チェン。ブルース・リー亡き後の香港映画を牽引し、ジェット・リーやドニー・イェンら次世代の俳優が登場して以降もその存在感は絶大だ。

そんなジャッキーも気づけば今年70歳。1970年代からリアルタイムで活躍を追ってきたファン(あるいはテレビで盛んにジャッキー映画が放送されていた世代)からすれば、全盛期と比べてどうしても“老い”を感じる瞬間も多いだろう。

しかし、年を重ねたからこそ放たれる魅力もあるのではないか。ということで今回は、「1990年代までのジャッキー作品と2000年代以降のジャッキー作品、どちらがお好み?」というテーマでそれぞれおすすめのタイトルを紹介していきたい。

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『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)

■ジャッキーのエネルギーをすべてぶち込んだ傑作アクション

数多くのタイトルが並ぶジャッキーのフィルモグラフィにおいて、本作は間違いなくトップクラスの知名度を誇るだろう。原案を担当して自らメガホンを握り、主演に加えて武術指導もこなしたジャッキーのほとばしる才気には惚れ惚れしてしまう。

本作は香港国際警察と麻薬密輸をおこなう巨大シンジケートの対立を描いており、ジャッキーの体を張ったアクションが随所に盛り込まれている。2階建てバスでのスタント、斜面に建つバラック小屋を破壊しながらのカーチェイス、ショッピングモールで電飾を破壊しながらポールを滑り降りる命懸けのシーンは特に有名だ。

大ヒットを記録した本作はその後シリーズ化され、『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』でもジャッキーが監督・主演を兼任(続く『ポリス・ストーリー3』『ファイナル・プロジェクト』はスタンリー・トンに監督の座をバトンタッチ)。

第3作に参加したミシェル・ヨー(当時はミシェール・キング名義)を主演にスピンオフ『プロジェクトS』が制作されるなど、本シリーズの影響は多岐にわたった。

▶︎『ポリス・ストーリー/香港国際警察』を観る

『ツイン・ドラゴン』(1992)

■ジャッキーが2人いる時点で既に面白い

かつて「え?シュワちゃんが妊娠!?」なんてインパクト大な作品(『ジュニア』)があったが、「え? ジャッキーが双子!?」の衝撃度も負けていない。ジャッキーという存在の時点で既にキャラ立ちしているので、なるほど確かに「ジャッキーを2人にしよう」という発想はなかった。

本作は双子の赤ちゃんが人質事件に巻き込まれて生き別れとなり(わかる)、28年の時を経た再会と(わかる)、2人が巨悪に立ち向かう(わからない)姿を描いたコメディアクション。一人二役のジャッキーとマギー・チャンの豪華な組み合わせだけでなく、ツイ・ハーク監督×リンゴ・ラム監督という香港の名匠同士が強力タッグを組んだ作品でもある。

ジャッキー演じる兄のマーと弟のボミーは、双子ながら育った環境もあって性格は正反対。片や将来有望の指揮者に片や喧嘩自慢の自動車修理工ということで、2人がタッグを組むファイトシーンも単純に「ジャッキーが2倍」というわけにはならないのが面白い。

余談だが、本作はジョン・ウーやバリー・ウォンなど豪華&多すぎるカメオ出演陣も見もの。90年代のジャッキー作品らしいノリを存分に楽しめる1本だ。

▶︎『ツイン・ドラゴン』を観る

『シティーハンター』(1993)

■“ジャッキー映画”として観れば普通に面白い

フランス実写映画、そしてアニメ映画にNetflix実写映画と新作が発表されるたびに黒歴史として話題に上げらることが多い、悪名高きジャッキー主演の香港実写版『シティーハンター』。

確かに「なぜそうなる」とツッコみたくなるシーンのオンパレードで、ファンから総スカンを食らった理由も頷ける(筆者自身原作の大ファンだ)。

たとえば槇村秀幸が殺され、妹の槇村香が冴羽獠のパートナーになる展開は映画も同じ。しかし映画では槇村の死が完全にコメディ調で描かれているため、感傷も何もあったものではない。さらに劇中でなぜか「ストリートファイター」のコスプレバトルも始まる始末。しかもコスもバトル描写もやたらハイクオリティときた(なぜそこにエネルギーを注いだ)。

もはや原作の原型をとどめていない名ばかりの香港版『シティーハンター』だが、ちょうど脂が乗りきった純粋なジャッキー作品として観れば、これはこれで楽しめてしまう自分がいる。

香港の名クリエイター、バリー・ウォン印の軽妙なタッチは相変わらず癖になるし、なんだかんだいってもやはり「強いジャッキー」を見ることができるのが嬉しいのだ。
–{2000年代突入!増していく“円熟味”}–

『ドラゴン・キングダム』(2008)

■ジェット・リーとの夢の共演!

(C)2008 J&J Project LLC

カンフー映画ファンにとって悲願とも言える「夢の共演」が、まさか2000年代に突入してから叶うと誰が予想できただろう。ジャッキー・チェンとジェット・リーという、香港映画のレジェンド2人の共演にして競演。まさかハリウッド映画が実現してくれるとは思いもしなかった(しかもアクション監督がユエン・ウーピン)。

ロブ・ミンコフ監督が手がけた本作は、マイケル・アンガラノ演じるカンフー映画ファンの高校生ジェイソンが主人公。不良グループとのトラブルをきっかけにある事故に巻き込まれてしまった彼は、古き時代の中国を彷彿とさせる世界で目を覚ます。

その世界で出会うのが、飲んだくれのルー・ヤン(ジャッキー)とサイレント・モンク(リー)。2人の強さに憧れたジェイソンは弟子入りを志願し、過酷な修行をおこなう中で内なる自分と向き合っていくことになる。

本作は古典的名作『西遊記』をモチーフにしており、クライマックスのファンタジー感溢れるバトルが見もの。なのだが、たっぷり時間を割いて描かれる手練れ感ダダ漏れのジャッキー&リーの手合わせシーンは、カンフー映画ファンへのこの上ないご褒美となったに違いない。

▶︎『ドラゴン・キングダム』

『カンフー・ヨガ』(2017)

■人は虚無だ虚無だと言うけれど

(C)2017 SR MEDIA KHORGOS TAIHE SHINEWORK PICTURES SR CULTURE & ENTERTAINMENT. ALL RIGHTS RESERVED

後期ジャッキー映画としては久しぶりに話題を呼んだ『カンフー・ヨガ』だが、残念ながら評価されてのバズりではなく、SNS上で観客から「虚無」と表現されたことで注目を集めた作品だ。公開当時のタイムラインに、悲鳴ですらない、生気を失った声ならぬ声が並んだことは今でもはっきり覚えている。覚えているぞ。

しかし、本作の監督を務めたのは『ポリス・ストーリー3』をはじめ『レッド・ブロンクス』『ファイナル・プロジェクト』などジャッキー作品の常連でもあるスタンリー・トン。ハリウッドに招かれ、あのレスリー・ニールセン主演でコメディ映画『Mr.マグー』を手がけた人物でもある。

(C)2017 SR MEDIA KHORGOS TAIHE SHINEWORK PICTURES SR CULTURE & ENTERTAINMENT. ALL RIGHTS RESERVED

『カンフー・ヨガ』は財宝をめぐってジャッキーが中国・ドバイ・インドと相変わらず世界を股にかけて冒険するストーリーが展開。たとえば『プロジェクト・イーグル』のような、ひと昔前のジャッキー作品を彷彿とさせるテイストともいえる。

そのためジャッキー作品に馴染みがあればあるほど虚無どころか懐かしさがあふれ、ラストでインドらしく楽しそうに踊る笑顔のジャッキーについこちらも頬が緩んでしまう。ジャッキーファンの筆者にとっては、後期作品の中でも特別なタイトルだ。

▶︎『カンフー・ヨガ』を観る

『ザ・フォーリナー/復讐者』(2017)

■こんなジャッキー見たことない

 (C)2017 SPARKLE ROLL MEDIA CORPORATION STX FINANCING, LLC WANDA MEDIA CO., LTD.SPARKLE ROLL CULTURE & ENTERTAINMENT DEVELOPMENT LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

後期ジャッキー作品どころか、ジャッキー作品の中でこれほどシビアな表情を見せたアクション映画はレアではないだろうか。なおかつシワが刻まれた「この時のジャッキー」だからこそ生み出すことができた、ある種の悲壮感が強い印象を残す。

爆破テロ事件で大切な娘を亡くし、たったひとりで犯行組織に復讐するクワン(ジャッキー)の姿を描いた本作。元アメリカ特殊部隊工作員という設定が生かされ、徒手格闘だけではない“プロ”の戦術が散りばめられているのも特徴だ。

 (C)2017 SPARKLE ROLL MEDIA CORPORATION STX FINANCING, LLC WANDA MEDIA CO., LTD.SPARKLE ROLL CULTURE & ENTERTAINMENT DEVELOPMENT LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

舞台はロンドンということもあり、アイルランドのテロ組織との緊張した関係性も本作のエッセンスとなっている。さらにテロ組織と北アイルランド政府の内情が絡むなど一筋縄ではいかないストーリーが展開し、真相解明が遅々として進まずクワンを復讐の鬼へと駆り立てていく。

また本作は、ジャッキーとピアース・ブロスナンの競演も見もの。普段のコメディ調作品でブロスナンが共演していればさぞ愉快な映画になっていたかもしれないが、東西を代表する名優同士の対峙によって生まれる緊張感は格別だ。

▶︎『ザ・フォーリナー/復讐者』を観る

『プロジェクトV』(2020)

■チームプレイの良さが引き立つ快作

(C)2020 SHANGHAI LIX ENTERTAINMENT CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

いよいよ2020年代に入り、さらに渋さを増したジャッキーの新たな一面を楽しめるのが『プロジェクトV』。

スタンリー・トンが『カンフー・ヨガ』に続いて監督・脚本・武術指導などを務めており、9度目のタッグとなったことからも、いかにジャッキーが厚い信頼を寄せているのか伺えるのではないだろうか。

本作でジャッキーが演じるトン・ウンテンは、国際特殊護衛部隊「ヴァンガード」の創設者。部隊のトップでありながら、いざとなれば自らも危険な前線へ飛び出していく男だ。

(C)2020 SHANGHAI LIX ENTERTAINMENT CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

とはいえヴァンガードメンバーのロイ(ヤン・ヤン)やホイシュン(アレン)、ミヤ(ムチミヤ)、コンドル(ジュー・ジャンティン)も優秀な人材。各々特化した能力にフォーカスしたシーンが多く、ジャッキー主演作にして“チームプレイ”の良さをしっかり押し出している。

また本作はロンドンをはじめアフリカ・中東・ドバイなどで撮影を敢行。ワールドワイドな展開と同時に繰り広げられる、各国のロケーションを活かしたスタンリー・トン印の怒涛のアクションを堪能してほしい。

▶︎『プロジェクトV』を観る

まとめ

さすがのジャッキーも寄る年波には抗えず、どうしてもアクションのキレが落ちてしまうのは仕方のないところ。しかし若かりし頃はあふれんばかりのエネルギーを放出し、年を重ねれば重ねるほど円熟味を放って、新たな表情を見せてくれている。筆者にとっては、そのどちらも“ジャッキーの魅力”として変わりはしない。

いや、むしろ70歳にして現役でアクションスターという看板を背負い続けていることに、敬意の念は増すばかり。

今回は数ある名作からたった7作しか紹介できなかったが、どの年代、どのストーリーにもその瞬間のジャッキーだからこそ出せるオーラがある。ジャッキーが辿ってきた長く険しいアクション映画道は、きっとこの先も続いていくに違いない。

(文:葦見川和哉)

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『ポリス・ストーリー/香港国際警察』

『ツイン・ドラゴン』

『ドラゴン・キングダム』

『カンフー・ヨガ』

『ザ・フォーリナー/復讐者』

『プロジェクトV』