「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第41回を紐解いていく。
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納得いかない
昭和20年3月10日、東京大空襲、花江(森田望智)の両親亡くなる。
昭和20年7月、直道(上川周平)戦死。そして終戦。この間3分。これじゃあ速送りもできません。
第9週「男は度胸、女は愛嬌?」(演出:安藤大佑)のはじまり。
寅子(伊藤沙莉)は疎開先から敗戦後の上野へ、そこは荒廃し殺伐としています。戦争末期の描写が3分だったわりには上野の街のすさみ具合には力が入っています。
カフェー燈台のあった場所へ向かった寅子は、近隣の人からお店の人は亡くなったと教わります。
それはマスター増野(平山祐介)のことでしょうか。空襲のとき、よね(土居志央梨)と一緒でしたが、よねはどうなった? 呆然となった瞬間、カットが切り替わり、寅子は登戸に帰宅。
直言(岡部たかし)の会社は、戦争が終わって注文が途絶えたため従業員に暇を出し、閑散としています。どうやら彼の会社は軍需景気に助かっていたようですが、詳しくは過去作「おしん」などをご参照、という感じでしょうか。
岡部たかしさんも、はる役の石田ゆり子さんもだいぶ老けた演技をしているように感じます。
石田さんが孫のいる「おばあちゃん」役だなんて。
はるは、父を亡くした直人と直治がぐちを言わずに耐えていることに気づき、思いきり弱音を吐くよう促します。石田さんのようなこんなすてきなおばあちゃんがいるだけで幸せですね。寅子と直言はそれを立ち聞き(座り聞き)しています。
はるは「おばあちゃんにはね、ちゃーんとわかってますよ」、直人は「僕にはわかるんだ」と亡くなった直道の口癖がいつの間にか伝染っていました。もうあの「俺にはわかる」が聞けないかと思うとさみしい。
戦争が終わったのですから、優三(仲野太賀)が戻ってくるといいのですが……。
戻ってきたのは、直明(三山凌輝)でした。
帝大に行くつもりだった直明が、大学にはいかない、家族のために働きたいと言うのを聞いて、「納得いかない寅子です」とナレーション(尾野真千子)。「納得いかない」は完全に現代語ですね。
おそらく伊藤さんは、戦時中の雰囲気をそれらしく書いた台本があれば的確に演じることができる人でしょう。このドラマでは、従来のそれらしい戦時中の雰囲気描写をある程度の時間をかけてなぞることはしない選択をしたようなので、さらりとそれらしきシーンとセリフで済ませており、「日本の敗戦をひしひしと感じていました」「それでも生きていくしかありません」と語るにはやや味気なく、俳優たちも気持ちを入れづらそうに感じました。
直言の体調が悪そうな芝居も、こういう様式的にやらざるを得ないところは得手じゃないんだなあと感じます。前後左右がなく、戦争が3分間で終わってしまったのですから無理もありません。せっかくブレイク俳優として注目されているのですからここはしっかりやりきっていただくことを期待します。
戦争中のつらさとか戦争への疑問とか終わった解放感とか虚しさとか寅子の想いは明日以降、じょじょに語られるのでしょうか。
伊藤さんは赤ちゃんの抱き方は安定していたし、直明が帰ってきたとき喜びのあまり、彼をパンパンたたく動作は生き生きしていました。
(文:木俣冬)
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–{「虎に翼」第9週あらすじ}–
「虎に翼」第9週あらすじ
昭和20年。度重なる空襲から逃げるため、寅子(伊藤沙莉)と花江(森田望智)は子供たちを連れて疎開していた。やがて終戦。岡山にいた弟・直明(三山凌輝)と再会するも、働いて家族を助けると言う直明に納得できない寅子。そんな中、体調を崩していた直言(岡部たかし)がある重要な知らせを隠していたことが発覚。これまでの後悔と秘密をすべて打ち明けて、直言は安らかに亡くなる。悲しむ寅子の目に飛び込んできたのは新聞の「日本国憲法」の文字。そこには、「すべての国民は法の下に平等」だと書かれていた。
–{「虎に翼」作品情報}–
「虎に翼」作品情報
放送予定
2024年4月1日(月)より放送開始
出演
伊藤沙莉 、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、 松山ケンイチ、小林 薫ほか
作
吉田恵里香
音楽
森優太
主題歌
「さよーならまたいつか!」(米津玄師)
ロゴデザイン
三宅瑠人、岡崎由佳
語り
尾野真千子
法律考証
村上一博
制作統括
尾崎裕和
プロデューサー
石澤かおる、舟橋哲男、徳田祥子
取材
清永聡
演出
梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか