『トラペジウム』を支えた“声の表現” 元乃木坂メンバーもゲスト声優に

映画コラム

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夢を叶えるということは簡単なことではない。挫折や失敗、周りからの反対など、乗り越えなければならない障害は数多くある。

しかし、それでも諦められない夢がある。私たちを駆り立てる情熱や、目標に向かって突き進む力は、夢を追い求める者にしか理解できないものなのかもしれない。

本作の中で筆者が最も印象的だった言葉は「夢を叶えることの喜びは、叶えた人にしかわからない」という一節だ。夢を実現したときの感動と達成感は、その道のりを歩んだ者だけが味わえる特別なものだと思う。

主人公がアイドルになるために課した4箇条

高校1年生の東ゆうは、“絶対にアイドルになる”という強い意志を持っている。その夢を叶えるために、彼女は自らに「4箇条」を課して高校生活を送っている。

  • SNSはやらない
  • 彼氏は作らない
  • 学校では目立たない
  • 東西南北の美少女を仲間にする

半島地域「城州」の東に位置する城州東高校に通うゆうは、自分の夢に向かって着実に歩みを進めている。他の3つの方角の高校へと足を運び、かわいい女の子と友達になるという計画は、ゆうにとってアイドルグループ結成への第一歩なのだ。

映画『トラペジウム』は、乃木坂46の元メンバーである高山一実の同名青春小説を原作にしている。制作を担当したのは、「SPY×FAMILY」や「ぼっち・ざ・ろっく!」などの人気作で知られるCloverWorksだ。

原作者の高山は、アニメ化にあたって「小説を発売した後、私が直接頂く感想は好意的なものが多かったですが、『アイドルになってからのシーンをもうちょっと見たかった』という方も結構いらっしゃいました。映画ではそこを多く描いていただいていたので良かったです」とコメントしている。

アニメならではの表現力で、原作には描かれていなかったアイドルとしての活躍や成長の物語が盛り込まれていることから、原作ファンにも新鮮な感動を与えてくれる作品になっているはずだ。

昨今、アイドルをテーマにしたアニメ作品は多い。その中でも『トラペジウム』は、「アイドルになりたい」という主人公・東ゆうの凄まじい熱量が印象に残る作品でもある。

アイドルになりたいという強い思いを持つゆうのキャラクター性は時に過剰にも見えるほどだが、その夢を追い続ける姿勢にほんの少しだけ共感できてしまった自分も否定できない。

夢を叶えるには、それなりの努力という対価がいる。努力に努力を重ねても、ようやく掴んだと思ったチャンスがするりと指の間を抜けていく瞬間だってある。ゆうが掲げるキラキラとした夢と、待ち受ける現実の厳しさのコントラストも印象的だった。

また、本作では夢の形が人それぞれであることも丁寧に描かれている。アイドルになることだけが夢ではない。愛する人と生きることや、自分のやりたいことを貫くことなど、登場人物たちが抱く夢の形は様々である。

そんな、登場人物たちの多様な夢の形に「こういう人っているよね!」という絵空事ではないリアルさを感じられるところも本作の面白さである。

元の乃木坂46のメンバーがゲスト声優に

『トラぺジウム』は、アイドルをテーマにした映画だからこそのパフォーマンスシーンも充実している。本作のエンディングテーマ曲「方位自身」は、原作者である高山一実自身が作詞を手がけており、<東西南北を 青春切符で旋回中>というフレーズが頭から離れないキャッチーなメロディーを、実力派声優陣がアカペラで歌うシーンは必見だ。

15歳のゆうを演じるのは、オーディションで抜擢された新進気鋭の声優・結川あさき。本作が初の映画にして初主演という大抜擢だが、フレッシュさを感じさせながらも、しっかりとプロとしての力量を発揮している。

次第に仄暗さを纏い始めるゆうの感情の変化に合わせて、声のトーンを巧みに操る演技も見どころの一つだ。

また、ゆうの仲間となる美少女たちも個性豊かなキャラクターばかり。西=大河くるみ役の羊宮妃那、南=華鳥蘭子役の上田麗奈、北=亀井美嘉役の相川遥花という実力派声優陣が、それぞれのキャラクターを見事に演じている。

中でも、上田麗奈演じる華鳥蘭子のお嬢様声を保ちつつ表現した歌唱シーンは圧巻だった。

さらに、人気アイドルグループJO1の木全翔也がゆうたちを支えるカメラ好きの少年・工藤真司役として出演したり、元乃木坂46の高山一実と西野七瀬が“おじいさん役”として特別出演したりするなど、豪華なキャスティングも話題を呼んでいる。

高山と西野は乃木坂46の1期生で、ファンから“たかせまる”の愛称で親しまれる仲良しコンビ。2人のアフレコが実現したことで、アニメファン以外の層からの作品への期待も高まっている。

東西南北のメンバーが掴んだ「夢の形」とは?

冒頭で、本作の「夢を叶えることの喜びは、叶えた人にしかわからない」というセリフを紹介したが、実はこの言葉には続きがある。「だから私は……」と続くゆうの言葉をどう受け止めるのか。

夢の形は人それぞれだが、その夢に向かって全力で突き進む彼女たちの姿は、誰もが共感できる普遍的なテーマを描いている。ゆうの最後のセリフを聞いたとき、あなたの心には何が響くだろうか。

夢を叶えた先にある喜びを知る彼女だからこそ発することができる言葉の意味を、ぜひ劇場からの帰り道に考えてみてほしい。

(文:すなくじら)

–{『トラペジウム』作品情報}–

『トラペジウム』作品情報

ストーリー
高校1年生の東ゆうは“絶対にアイドルになる”ために、自らに「4箇条」を課して高校生活を送っている。

1)SNSはやらない
2)彼氏は作らない
3)学校では目立たない
4)東西南北の美少女を仲間にする

半島地域「城州」の東に位置する城州東高校に通うゆうは、他の3つの方角の高校へと足を運び、かわいい女の子と友達になる計画を進める。その裏には、「東西南北の美少女を集めてアイドルグループを結成する」という野望があった。

西テクノ工業高等専門学校2年生で、高専ロボコン優勝を目指す“西の星”大河くるみ。
聖南テネリタス女学院2年生で、お蝶夫人に憧れる“南の星“華鳥蘭子。
城州北高校1年生で、ボランティア活動に勤しむ“北の星”亀井美嘉。

ゆうの計画を知り協力する男子高校生・工藤真司のサポートもあり、ゆうは3人の美少女と友達になる。
ロボコン大会や文化祭といった青春のイベントをこなしながら、ゆうは着々と「東西南北」4人の結束を固めていく。

そんな中、観光客のガイドボランティア・伊丹秀一を手伝う女子高校生たちの活動が注目され、ゆうたちにテレビ出演のチャンスが舞い込む。さらに、番組制作会社のAD・古賀萌香との出会いをきっかけに、
ゆうたち4人は徐々に仕事を得て、世の中に知られていく。

そしてついには、「東西南北」のアイドルデビュープロジェクトが始動することになる。

「私が選び抜いたメンバー。私の目に狂いはなかった。私たちが、東西南北が、本当のアイドルになるために。私がみんなを、もっともっと輝かせてみせる。」

しかし、夢への階段を登り続けていく中で、ゆうは〈大きな問題〉に直面することになる――

予告編

基本情報
■出演
東ゆう:結川あさき
大河くるみ:羊宮妃那
華鳥蘭子:上田麗奈
亀井美嘉:相川遥花
工藤真司:木全翔也(JO1)
古賀萌香:久保ユリカ
水野サチ:木野日菜
伊丹秀一:内村光良

原作:高山一実「トラペジウム」(KADOKAWA刊/『ダ・ヴィンチ』連載)

監督:篠原正寛

公開日:2024年5月10日(金)

配給:アニプレックス