<虎に翼・弁護士編 >6週~9週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、高等試験に合格した寅子が弁護士として歩みだす第6週~9週までの記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

第26回のレビュー

これまで「虎に翼」のことわざサブタイトルは、すべて女性蔑視を感じるものばかりでした。第6週のサブタイトルは「女の一念、岩をも通す?」(演出:安藤大佑)もまた、女性は執念深いと揶揄するようなものではあります。が、これに限っては、執念深いことは悪くはない印象です。

穂高(小林薫)の使った「雨だれ石を穿つ」は悪い意味ではありません。雨だれを女の執念に変えれば決して悪い意味ではない。早急な予想ではありますが、もしかして、寅子たちの奮闘によってサブタイトルもこれからちょっとずつ変わっていくのかもしれません。そうだといいなという願望です。

昭和12年、寅子(伊藤沙莉)は高等試験に挑戦。けれど、筆記試験で落ちてしまいました。

優三(仲野太賀)もまた落ちます。何度目??? 彼は緊張状態になるとお腹を下してしまうそうなのでそれを直さない限り、望みはないのでは……。

寅子も1回ではあきらめず、再度受験する気満々ですが、はる(石田ゆり子)は反対します。今年で24歳、「地獄から引き返すならいま」「男と女では状況がまったく違うんです」とはるは眉を八の字にします。

いろいろあって考えが変わったのかと思わせて、はるの心配性はあまり変わってはいないようで……。ただ、まずは反対するけれど、結局許してしまう人なのですが。

筆記試験で合格したのは、花岡(岩田剛典)稲垣(松川尚瑠輝)の2名のみ。
稲垣はこれまで影が薄かった(すみません)けれど、ここで華やかな成果を出しました。
女性では寅子たちの先輩・久保田(小林涼子)が口述試験に進めました。

結果、花岡と稲垣が合格。久保田は落ちてしまいます。

私の力不足だったと久保田が土下座していたとき、女子部新入生の募集中止が新聞に載っていました。

法改正によって女性も弁護士になれるようになったものの、女性の入学希望が年々減るばかりなうえ、司法試験に受かる女性もいないため大学の面目が立たないと考えての大学側の決断のようです。結局、女性の勉強や社会進出を心から応援するわけではなく表層的なものなので、結果が出ないとすぐに諦めてしまうのです。

すると、香淑(ハ・ヨンス)が猛然と学長(久保酎吉)たちに抗議に向かいます。これまで控えめに見えた彼女がなぜ急に強く出たのか。兄・潤哲(ユン・ソンモ)が警察?につれていかれてしまったこととも関係あるのでしょうか。

この年、日中戦争がはじまって、泣き虫の中山(安藤輪子)の夫には召集令状が来ていました。中山はかつて、勉強のし過ぎで婚約破棄されそうになって大泣きしていましたが、夫はそのときの人なのでしょうか。
最初は、なんでもかんでもちょっと泣き過ぎな気もした中山ですが、泣き虫キャラと思うと成立します。

男装のよね(土居志央梨)、令嬢の涼子(桜井ユキ)、おにぎりたくさん握る梅子(平岩紙)、メガネっ子香淑、バンカラ轟(戸塚純貴)、優男花岡等々、絵に描きやすそうな人たちが揃っています。
リアリティをぎりぎり保ちつつ、親しみやすく記号化するバランスの取り方が
巧み。
試験を受けなかった人たちにつけたテロップのデザインも工夫がしてありました。

もうひとつ新鮮だったのは、香淑と兄の韓国語での会話。朝ドラでは英語はよく出てきて、欧米文化が日本に入ってきている描写はよくありましたが、アジア文化との関わりが描かれることは近年になって増えた気がします。「ブギウギ」でもヒロインの家に中国テイストの家具を置いていましたし、猪爪家の家具もお父さんの転勤の名残らしく一部アジアンテイストになっています。いかにも昭和の日本家屋のイメージから少しずつ離れていっているようで表現の新しさを感じます。

潤哲が出てきたとき「ご無沙汰しています」とわざわざ、すでに寅子たちと面識があるように描いているのも丁寧です。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第27回のレビュー}–

第27回のレビュー

昭和12年、寅子(伊藤沙莉)は大学を卒業しました。
穂高(小林薫)の卒業の言葉が印象的でした。長らく当たり前と思っていた法律や習慣や価値観が間違っているとわかっていても、急に変えることは難しい。それでも、少しずつ、引き剥がして溶かして、新しく上塗りしていくしかない、というような内容(大意)はドラマの主題を物語っているようです。

「上塗り」という言葉をなぜ選んだのか。まったく変えてなかったことにするのではなく過去も大事にしていくということでしょうか。油絵のように、絵の下にまったく違う絵があるようなことがありますから。

「虎に翼」のおかげで法改正に興味を持つ人もいるのではないでしょうか。

ドラマが放送されている2024年現在では、法改正が行われるものとして、労働基準法、労働基準法施行規則、年金制度改正法、不正競争防止法、商標法、意匠法、景品表示法、民事訴訟法等などがあります。政治資金規正法も改正を協議中です。新しいものとしては、フリーランス保護新法が施行される予定です。

どんな法律があって、それが適正なのか否か、自分自身で考えてみるいい機会です。真面目か。

寅子は、共亜事件で関わった雲野六郎(塚地武雅)の事務所で働くことになりました。でも最初の仕事は「お茶くみ」で……。

”雲野六郎”という名前は「真田十勇士」でおなじみの名前です。同じく十勇士の根津甚八だったら小林薫と状況劇場(5月4日亡くなった唐十郎さんの主宰していた劇団)つながりだったのに。
ともあれ、名前からして、雲野はこれから活躍してくれそうな予感です。

働き始めた寅子にはもうひとつの進展が。どうやら花岡(岩田剛典)とおつきあいしているらしく、お互いの仕事の合間を見ては、共に過ごしています。
花江(森田望智)は、婚約だけでもしてはどうかと勧めます。そうしたら、仕事がだめでも結婚の道があると。さすがちゃっかりしています。

御学友たちとは勉強会を続けています。香淑(ハ・ヨンス)は甘味処・竹もとで働き始め、ますますこの店がたまり場化しています。桂場(松山ケンイチ)
よく出くわしてしまうのではないかと気になりますが。

あるとき、竹もとに特高警察がやって来て、不穏な空気に。香淑の兄の働いている出版社の同僚が反体制運動に参加していたことで捕まり、兄も関与が疑われていました。出版物も取り締まられているようです。

身内の香淑も巻き込まれていました。高等警察には 朝鮮人で思想犯の疑いのある兄を持っているから試験に受かるはずがないと言われてしまいます。優秀であれば受かるものではないようです。

香淑は兄と共に故郷・朝鮮に帰ることも考えたものの、女子部の未来のために勉強を続けたいと思って残っていました。

みんなのために。女子部のために。

朝ドラのヒロインは、まず自分のために生きる人が多く、ともすれば他者をないがしろにしたかのように見えてしまうことも多々ありました。
ドラマを見ている人には、自分を大事にして成功した人もいれば、自分を大事にした人によって傷ついた人もいて、後者はヒロインの自由さに胸を痛めることもあるのです。

もちろん、自分のためも大事です。どうしたらいいのか。何かを選択するとき、目先のことではなく、より良い未来のためにと考えることが大事ではないか。香淑の行動を見てそう思います。

せめて、いま自分が成功したとして、それは自分が頑張ったからだけではなくて、誰かが土台を作ってくれたから壁を飛び越えることができたのかもしれない。自分を先に走らせてくれた人のことを、決して忘れてはいけない。真面目か。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第28回のレビュー}–

第28回のレビュー

友情で日本に残っていた香淑(ハ・ヨンス)が祖国・朝鮮に戻ることになり、しんみり。このままでは嫌だと思った寅子(伊藤沙莉)は「素敵な場所で楽しい気持ちになって帰ってほしい」と海に行くことを提案します。

朝ドラで海の場面が出たら名場面。と思ったら、あいにく、空は曇っていて寒く、パーッと素敵で楽しいムードとは程遠いものでした。思えば、寅子たちの行く道はいつも思っていたものとは違う方向に行くと振り返ります。

でも「最後はいい方向に流れて」と香淑。この海もきっといい思い出。

かつて「ひよっこ」では水着で海と盛り上がったら雨で海にいけなかったというエピソードがあって、それもかえって良いエピソードになりましたし、曇った海で呆然と立ち尽くすのもまた一興です。

「こうやってずっと思い出をつくっていくと思っていた。5人で、いや6人でね」と梅子(平岩紙)。女中の玉(羽瀬川なぎ)も仲間と考えているのが良いですね。彼女も一緒に勉強していましたし。

涼子(桜井ユキ)は香淑の本名を聞いて、その名前(ヒャンちゃん)を呼びます。

ヒャンちゃんが帰国して、素敵な海の風景で終わるかと思えば、次は涼子の家庭問題が勃発。

彼女の父(中村育二)が芸者と駆け落ちしてしまいました。雑誌には「失踪男爵」と書かれていて、世間が揶揄しているのがわかります。

「花子とアン」では花子(吉高由里子)の親友・蓮子(仲間由紀恵)が自由を求めて駆け落ちしましたが、婿養子の男性が駆け落ちというのは興味深い。男性が女性(というか家とか権力)に抑圧されていることをここで描くとは。

自由に生きろと言って去った父・不在の家を守るため、涼子は受験を諦め、結婚することになるという皮肉。

心配してやって来た寅子たちに、涼子の母(筒井真理子)は酔っぱらいながら貴族議員院の男爵に口添えして試験に合格できるようにしましょうかと言います。何かに頼るのではなく、自分たちのちからで合格したいのだと寅子は断ります。

第27回では反体制派の者が試験に受かるわけないと特高警察が香淑に言っていましたし、実力があっても試験に受からないこともあるし、実力がなくても試験に受かることもあるという、公正な法を司るための試験にもかかわらず全然公正じゃないのです。

理想はあるけれど、なかなか思う通りにはいかない。まるであの日の海のように。

香淑、涼子が去り、さらに梅子も……。夫に離婚届をつきつけられ、子供に会わせないと言われてしまったからか試験に現れませんでした。海辺に立つ梅子の顔色がまた白すぎる。

寅子、優三(仲野太賀)よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)中山(安藤輪子)が試験に臨みます。轟も今回は受けるんですね。がんばれ。

毎回、15分のなかにいろいろなエピソードが詰まっていて、前半の話を忘れてしまいそうになるくらいで、今回も、香淑との別れが別の回かと思うように、
話があれよあれよという間に進んでいきます。とはいえ決して、それぞれのエピがぶつ切りで物足りない感じはなくて、その瞬間の満足感がちゃんとあって、エピソードの配分とつなぎ方がじつに達者。これ、ともすればただの羅列になってしまいがちですが、そうならないところは才能でもあり鍛錬の賜物でもありなにより真摯に取り組んでいるんだろうと感じます。

お腹を下しそうな優三を変顔でリラックスさせる寅子の場面も良かった。

さて、忘れてはいけないこと。ドラマから離れて現実の話です。2024年5月7日、放送法の改正案が衆議院本会議で賛成多数で可決され参議院に送られました。インターネットを通じた番組などの提供をNHKの必須業務にすることなどを柱とするものです。
法の改正が悪いことではないという気持ちにドラマを見て思っていたところに絶妙のタイミングです。はて。

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–{第29回のレビュー}–

第29回のレビュー

結局、筆記試験に梅子(平岩紙)は現れませんでした。
夫(飯田基祐)が若い女性と再婚するからと離婚を言い渡され、子供にももう会わせないと言われた梅子は三男・光三郎だけ連れて家を出たのです。

試験だけ受けて合格してから、息子をこっそり連れ出すとかはできなかったのでしょうか。
受かるか受からないかわからないから、それで息子と二度と会えなくなるのを恐れたのでしょうか。

寅子が勉強をはじめた頃、傍聴した離婚裁判は女性が離婚を申し立てて揉めていましたが、夫が離婚を決めたら女性は従うしかなかったようです。

夫は浮気したうえに梅子が仕事をする可能性も潰すとは、どういう人なのか。この時代、女性がこれほどひどい目に合っていたと思うと、梅子の手紙を読んで泣く寅子(伊藤沙莉)の気持ちがよくわかります。

梅子は残念でしたが、寅子たちは筆記試験に通過しました。

去年だって筆記試験に自信があったのに落ちたのはなぜか、桂場(松山ケンイチ)いわく、男性と女性とで同等の成績であれば男性が選ばれるから、女性は男性を凌駕するくらいでなければいけない。これは現代でもまだ残っている考え方で医学部入試の女性差別が問題になったことがありました。
女性の立場はいかに不利か。でもつまり世に出ている女性は男性よりかなり優秀な人ばかりだってことですね。

口述試験の当日、寅子は予定よりも早く月経が来て、最悪な状態で試験に臨むことになりました。
三陰交のつぼをそっと抑えているのを見て、寅子の体調に気づくよね(土居志央梨)。彼女がお店の女性たちに教わったものでした。

ツボの抑え方を女子部のみんなで覚えたのはなつかしい思い出。一緒に覚えた梅子も涼子(桜井ユキ)香淑(ハ・ヨンス)もいまはいません。

優三(仲野太賀)はことあるごとにお腹を下してチャンスを逃していますが、寅子の場合、忘れた頃に月経。梅子の離婚といい、思いがけないときに落とし穴が待っているものです。

月経の予定がズレるのは精神的なものだったりします。そのせいで大事なイベントが台無しになるという経験は、女性の多くが経験していることでしょう。
しゅくしゅくした痛みは悔しさを倍増させますし、怒りで自分を鼓舞する力も出ないし、ほんとうに厄介です。お腹を下したときの痛みと脱力感と近いといえば近いのか? 優三の腹痛は、男女がお互いのわからないことを何かに置き換えて考えてみるための設定かもしれません。

それでも寅子は口述試験にも合格しました! 男性を凌駕する力を発揮し、日本初の女性弁護士が誕生したのです。

優三は落ちて、今年で諦める決意をします。いままでは肝心のときにお腹が痛くなることを理由にしてずるずるやってきたようですが、今年は寅子のサポートで精神も安定した、にもかかわらず落ちたことを冷静に見極めるところが優三の良さです。

優三と寅子の道を分けたのは、男女差ではなく、能力差と精神力の差です。
大事なときに生理がどれほどハンデになるか。でも寅子は体調の悪さを凌駕するほど勉強していたのでしょう。そして、辛さをこらえるメンタルの強さもあった。誰もが寅子のようにはなれませんが、不利な状況を乗り越えるために努力することの大切さは学びになります。

よねが不合格であったことが残念です。あんなに強気だった彼女が……。
ひとつ思い当たる節としては、口述試験の勉強会で、話し方を中山(安藤輪子)に注意されていたことです。反抗的に感じられるような言い方はマイナスになるかもしれないと、一度落ちている久保田(小林涼子)は気にしていました。
たぶんよねは試験当日、大事なのは知識だという考えを曲げなかったのではないでしょうか。そもそも、男装している時点で、当時は理解されづらかったと思われます。よねのこれからが気になります。

ついに手にいれた弁護士の資格。その風景は、思っていたものと全然違った。これは第28回の海と同じで、晴れた海を想像して行ったらどんよりした空だったということです。でもきっと、香淑の言ったようにいいほうに向かうはず。

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–{第30回のレビュー}–

第30回のレビュー

高等試験を突破して、日本初の女性弁護士になった寅子(伊藤沙莉)
誰もかれもがお祝いしてくれます。
記者もたくさん来て取材。ひとり竹中(高橋努)は「おもしろくねえなあ」とつぶやいていました。

家に戻るとよね(土居志央梨)が待っていました(椅子はどこから)。
猪爪家の居間にはたくさんお祝いの花が飾ってあり、一見、華やいでいますが、なぜか浮かない空気が漂います。

寅子は祝われても祝われてもなんだかモヤモヤしていて、よねは試験に落ちていますから。
よねは口述試験で、弁護士になっても「トンチキ」な格好を続けるのかと聞かれ、反論したことを明かします。おそらくそれでは受かるわけもないでしょう。

「私は自分を曲げない。曲げずにいつか必ず合格してみせる」とよね。

よねを見送った寅子の口から得意の歌「モンパパ」が溢れます。
ママが大きくて強いという歌詞に、筆者はよねが重なって見えました。直言を演じている岡部たかしさんんはこの歌のだめぽいパパに寄せているのかなとも思いました。

歌だとパパが弱くてだめな人でママが強くても咎められない不思議。この歌だけが、寅子を鼓舞する応援歌のようなものなのでしょう。

祝賀会では男性ばかりが集まっています。
記者が「日本で一番優秀な御婦人がた」と持ち上げますが、寅子が「自分がこの国で一番優秀だとはまったく思いません」ときっぱり。しかもそれは謙虚からではないとまで。寅子の気持ちのいいところは変に遠慮しないで自分の良さや言い分はちゃんと表明することです。

「志半ばで諦めた友、そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかった御婦人方がいることを私は知っているのですから」という寅子の言葉には強い実感が伴います。
この数年でどれだけの女性の仲間たちの悔しさを見てきたか。仲間たちとの場面が効果的に回想されます。

「わたしたち、すごく怒っているんです」と寅子は同席した久保田(小林涼子)中山(安藤輪子)に同意を求めながら堰を切ったように語りだします。

「女ってだけでできないことばっかり」「もともとの法律が私達を虐げているのですから」

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います」

寅子は「みんなでしませんか しましょうよ」と語りかけます。久保田と中山の意思ははっきりはわかりませんが、当然、共感はしているでしょう。が、祝賀会に出ている男性陣は、穂高(小林薫)と桂場(松山ケンイチ)轟(戸塚純貴)以外はほぼ白けた顔。

たくさん記者が来ていたのに新聞記事にもなりませんでした。唯一取り上げたのは、竹中だけ。しかも好意的に(というか寅子の真意をちゃんと掲載)。彼が「面白くねえなあ」と言ってたのはどういう意味なのか。彼は寅子が世に物申すこと期待しているのかもしれません。

自分さえ受かっててっぺんとったような気分にならないヒロインっていいなあ。

寅子が心から喜べるのは、よねが好きな格好で弁護士になれるようなときが来たときでしょう。
と思いつつ、久保田と中山の立場を思うと……。

「わたしたち、すごく怒っているんです ね」と同意を求めたとき、久保田と中山の表情が映りません。ものすごく意図的に感じられるほど画角に入れていないのです。久保田と中山が寅子を支持する発言をしてほしかったし、あるいは彼女たちのそれぞれの意見も述べる場面がほしかった。寅子が会の中心になりすぎた意図を知りたい。

さて。祝賀会で穂高、桂場は寅子に好意的だった気がしますが、花岡(岩田剛典)はどうでしょう。とくに応援する動きは見えませんでした。その前に、寅子に花束を贈り、応援している旨を語ってはいます。が、「だめでも、俺がいるから」と、弁護士になれなかったら結婚すればいいという意味かと思わせる言動がありました。本来だったらときめく言葉のはずですが、寅子はどこか引っかかっているような……。

そして、寅子の記事の横には「第二次防空訓練けふ第一日」という記事が。1937年に「防空法」というものが定められ、空襲から身を守る防空訓練が行われるようになっていました。

別の意味の地獄が待っていることを示唆するようであります。

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–{第31回のレビュー}–

第31回のレビュー

「困ってる方を救い続けます。男女関係なく!」と祝賀会で宣言した寅子(伊藤沙莉)
昭和14年(1939年)の春、雲野六郎(塚地武雅)の法律事務所で司法修習生として働き始めました。

第7週「女の心は猫の目?」(演出:梛川善郎)

これまで可憐な羽織袴だった寅子はスーツに着替え、さっそうと出勤。

「男とか女とか関係なく ひとりの弁護士として鍛えていくからな」と雲野に迎えられます。

これまでは寅子と女ともだちが中心の世界で、学生だったこともあって、華やかなお着物率が高く画面が明るかったですが、今週は全体的に色味が黒っぽくなった印象です。男性が画面に増えました。事務の常盤(ぼくもとさきこ)もショートカットで黒っぽい服を着用しています。事務所にはもうひとり弁護士の岩居(趙珉和)がいます。

法学部の卒業生は皆、それぞれの道を歩んでいます。
轟(戸塚純貴)久保田(小林涼子)は錦田(磯部勉)の事務所で働くことに。中山(安藤輪子)は横浜で働いています。
花岡(岩田剛典)は裁判官になる試験を控えているところ。受かったらお祝いしようと寅子は約束します。

寅子の最初の仕事は、帝大経済学部の落合教授(樋渡真司)の著書が安寧秩序を妨害すると検察に起訴された案件です。もちろん彼女は雲野のお手伝いですが。

この頃、日中戦争中で、お国のために質素倹約する時代。轟は日の丸弁当を食し、ラジオからは金属の供出のニュースが流れてきます。社会はピリピリしていて、国民の言論にも厳しく注意を払っていたのでしょう。

寅子は役に立たなくてはと夜を徹して教授の著書すべてを読み込みます。彼女が書き出した出版記録によって初版年が明らかになり、雲野は初版から1年過ぎると時効であると無罪を証明してみせることができました。

寅子は自分の記録が役立ったことはいっさい言わず、雲野を称えます。その利他の心がすばらしい。彼女の奮闘努力は、志半ばで去っていかざるを得なかった仲間たちの思いに支えられているからで、彼女の行ったことはひとりの手柄ではなく、みんなの力、みんなのためなのです。たぶん。そういうふうに思う人たちが世の中にどれだけいるか。先頭のほうに立っている人たちがそうあってくれたら、後方にいる者たちも浮かばれるってものであります。

無罪証明に関してはる(石田ゆり子)と話しても手応えがなく、優三(仲野太賀)がいないことを残念に思います。優三は猪爪家を出て、直言(岡部たかし)の工場で働いているのです。
法律について語り合える彼の存在がいかに大事であったか――。

と、そこへ花岡が電話してきて、修習後の2回めの試験に合格したと報告。

おめでとうと喜ぶときの伊藤沙莉さんが体を左右に振る仕草が愛くるしかった。利発さと無邪気さが同居しているところが魅力のひとつです。

誰を呼んでお祝いする?という話で、「できればふたりでやらないか」「ああそれがいいんだ」と何か含みがありそうな花岡。
花岡、寅子、轟で昼休憩しているときも、轟が若干お邪魔な雰囲気ではありましたが。

「おやおやおやおや」とツッコむナレーション(尾野真千子)

寅子はきょとんとしていますが、視聴者はほとんど、花岡の真意をわかっているでしょう。なんだかにやにやしてしまう朝でした。

各裁判でいろいろな裁判長がいて、離婚裁判では栗原英雄さん、共亜事件では平田広明さん、今回はヨシダ朝さんが演じています。寅子が裁判官になるまでに、何人裁判長が出てくるか、再登場はあるのか、注目していきたい。

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–{第32回のレビュー}–

第32回のレビュー

裁判官になる試験に受かった花岡(岩田剛典)と、ふたりきりでお祝いのお食事に行くことになった寅子(伊藤沙莉)

花江(森田望智)はプロポーズがくるのではないかと大はしゃぎ。
口紅を塗っていくといいなどと助言します。

口紅などの些細なことに気づくのは「一握りの男」だと花江が言ったあと、居間で子どもたちと遊んでいる直道(上川周作)のアップと素っ頓狂な叫びのカットが挿入されて、そこからタイトルバック。直道はたぶん、一握りの男ではない。
これは、朝ドラで時々見受ける、朝ドラらしくない表現をがんばってみたんだろうなあと思われるものでしょう。

タイトルバック明け、寅子はその日のために、黄色いワンピースをはる(石田ゆり子)と花江と3人で仕立てて、当日に臨みます。当時あった型紙や作り方の載った本には「清楚なワンピース」と書いてあり、清楚系を狙ったところは、花江のアイデアでしょう。

当日、雲野(塚地武雅)岩居(趙珉和)にワンピースをひらひらさせて見せますが、彼らも一握りの男ではないようで、まったく反応しません。いや、気付いたとしても、寅子のアピールが手慣れていないので、気持ち悪いと思うのではないかと……。

常盤(ぼくもとさきこ)は何か特別なことがあるのかと気づきます。彼女は「産めよ増やせよ国のため」と書いてある雑誌を読んでいます。これが厚生省制定の「結婚十訓」の第10条にあったのです。

しかし、こんなにも鮮やかな黄色のワンピースを着てくれば、雲野も岩居も、言う言わない、あるいは、それは女ごころだと気づくかは別として、なんだその派手な格好は、とは思うでしょうけれど、そうではない。

男たちはつねにものすごくおばかさんに描かれていて気の毒になります。でも、そこには狙いがあるのだと推察します。このような描写で男性が傷ついたとしたら、女性たちはその何倍も傷ついてきたということなんでしょう。

花岡は、寅子のおしゃれに気づく「一握りの男」でした。さらに彼のそのアンテナは、女のおしゃれにだけ感度があるわけじゃないところが、「一握りの男」たる所以です。

お祝いのお食事は法曹会館のラウンジ。穂高(小林薫)桂場(松山ケンイチ)がよくお酒を飲みながら密談している大人っぽい場所です。

ほかにお店を知らないふたり。でも一度ここで食事をしてみたかったという花岡。寅子もそうで、「ちょっと大人になった気分」と喜びます。

そのとき花岡は、世帯をもつ人もいるほど自分たちはもう大人だと、さりげなく言います。ところが寅子はスルーして自分はまだ半人前、まだはじまっていない、これから経験を積んで立派な弁護士になりたいわ、と返します。

きっぱりした寅子の顔と、憂いある花岡の表情。

寅子「とにかく ここではじめての食事が花岡さんで私とっても嬉しいの」
花岡「ずるいよな猪爪は そういうことをさらっと言ってのけるから」

寅子は意外と罪な女。「世帯」という言葉は無視しながらも、さりげなく花岡への好意は伝えて、彼の心を動かします。
花岡はふっと笑って、裁判官として故郷・佐賀地裁に赴任することになったと報告します。

寅子「なかなか会えなくなるわね」
花岡「そうだね」

こういうしかなくなるふたり。そのあとふたりは言葉がありません。
寅子も言いようがなく、花岡も、自分はまだまだこれからだという寅子にはもう何も言えないのでしょう。切ない。

法曹会館の外、噴水の前で、やや別れがたそうですが、寅子が「お互いがんばりましょう」と切り出し手を差し出します。

握手した手をさっと離し、花岡は「じゃあまた」と吹っ切るようにして去っていきます。映画のようにかっこいいコートと帽子とマフラー姿の花岡は、振り返らず、片手をさっとあげてそのまままっすぐ歩いていきます。

この場面、寅子こそ「一握り」の察しのいい人ではなく、鈍い、で片付けたくなりますが、そうではない可能性も考えられます。

寅子は仕事柄察しがいいはずで、最初は気づかぬふりして結婚話に進めたくなかったのではという気もするのです。過去、見合いのときも作戦を立てて、だめなキャラを演じて、縁談を壊してきましたし。

このまま関係は曖昧に、東京で法の話のできる一番の仲良しでいられたら最高だったのが、花岡が佐賀に行ってしまうことは誤算だったのではないでしょうか。
動揺したけれど、何も言いようがありません。

一方の花岡も、ほんとはついて来てほしいと切り出したいけれど、寅子が前を向いて弁護士の道を歩もうとしているのだから、何も言えなくなった。ここで明らかに無理なことを言って困らせるのもしのびない。そんな寅子の心のうちを察する、やっぱり一握りの男なのでしょう。

寅子と花岡はさすが法曹の道を歩むだけあります。

相手の心理を読みながら、自分の有利なように話を進めていく能力が備わっていると思わせる会話による、単なる儚い恋の終わりではない意外と濃密な花岡との別れ。これが15分中の前半(8分)で終わってしまい、昭和15年(1940年)、よね(土居志央梨)が復活。試験にはまた落ちたものの、雲野事務所に手伝いに入ることになりました。

「虎に翼」では1話の前半で大きなエピソードが終わるパターンが多く、悲しみを引きずらないようになっています。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第33回のレビュー}–

第33回のレビュー

日独伊、三国同盟が結成された頃、花江(森田望智)の実家の女中だった稲(田中真弓)が猪爪家に挨拶に来ます。
田舎に帰るそうです。年齢的なこともあるし、女中を雇う余裕もなくなっている状況なのだとか。

戦争の余波が町の様子を塗り替えていきます。「ぜいたくは出来ない筈だ」という看板が興味深い。これがやがて「贅沢は敵だ」になるのでしょうか。

「ぜいたくは出来ない」時代だからか、稲は寅子(伊藤沙莉)に「すべては手に入らないものですよ」といまいちど女の幸せを再考するよう、助言して去っていきます。

弁護士として颯爽と活躍がはじまる……かと思われた寅子ですが、ここへ来て停滞。事務所に依頼に来る人達にことごとく担当を断られていました。

初の女性弁護士と世間にもてはやされても、それは国やマスコミが煽っているだけで、市民には浸透していません。女性の弁護士では不安だと感じるのです。
とくに、結婚もしていない女性には信頼がないようで……。

そんな日々が続き、あっという間に翌年の秋。
久保田(小林涼子)が先に法廷に立ちました。

女性としては日本初の快挙に寅子は「良かったという気持ちとうらやましいという気持ちがごちゃまぜの寅子です」と素直な心情をナレーション(尾野真千子)が語ります。

花岡(岩田剛典)との別れのときは寅子の心情を明示しませんでしたが、今回は、良かったと羨ましいという気持ちの混在をちゃんと表明しました。

久保田の法廷での弁護は、判事たちがいちいち笑ったりするなど、よい出来だったとは思えません。
久保田は結婚して懐妊中。弁護士であり、良き妻、良き母という存在が世間的に好印象なのであり、仕事自体に期待はされていない感じ。

女性が男性の職業に登用されているのは、戦時に国民が一丸となるために利用されている
だけなのだと竹中(高橋努)はシニカルなことを指摘します。

結局、妻であり母であることが女性として一人前の前提なのかと思い知らされる大きな出来事が――。

裁判の帰り、花岡とばったり再会。彼は美しい婚約者を連れていました。
一応、別れてから1年以上経っているのですが、視聴者的には昨日の今日なので、え?早すぎない? と困惑してしまうと思うのです。筆者はそうでした。

なんとなく気まずい花岡と寅子。でも寅子はにっこりお祝いを言います。せいいっぱいの強がりという表情でした。

好きだった男性が仕事のために都合のいい女性と結婚するというのは、「光る君へ」のまひろと道長みたいです。

「だから佐賀についていけばよかったんだ」とよね(土居志央梨)がずばり。
花岡は地元・佐賀に戻り、裁判官として社会的に認められるために最適な女性を妻にしたのでしょう。現代でも、職種にもよりますが、結婚指輪をしている男性のほうが安心されると聞きます。

昔から、いつまでもひとりでいる人よりも、結婚し子供を成した人のほうが、社会の構成員たろうとする意識の高さを感じるという考え方があり。ひとり者は社会に参加する意思が低い、あるいはその能力が欠けていると思われがちなのです。

そこで寅子は父母に土下座して頼みます。見合い相手を探してほしいと。

稲には「すべては手に入らないものですよ」と言われましたが、寅子は法の世界で一人前と認められるために、大事な仕事のために、結婚もしようと考えるのです。彼女にとってのぜいたくは、結婚しないで好きなことをすることだったけれど、ひとつ諦めて、結婚をするのです。
「結婚も仕事も」ではなく「仕事のために結婚」するのです。朝ドラにしては新しい価値観です。

よねの場合は、男装をやめずにやりたいことをやろうと意地を張っていますが、寅子は心底くだらないと思いながらも結婚することで、やりたいことをやろうとする柔軟性を獲得したわけです。

よねみたいな人のほうが好きという人もいるでしょうけれど、寅子のようなちゃっかりした考え方の人もいます。

「結婚前の御婦人に頼みたいのはお酌だろうな」と寅子に言った雲野(塚地武雅)も「弁護意外の価値観は明治のまま」とよねが怒っていましたが、彼だって共亜事件では頼りがいがあったし、お金のない人の弁護も請け負う人権派なのです。でもなぜか女性への認識はゆるい。

堅苦しく1点重視する生き方よりも、「良かったという気持ちとうらやましいという気持ち」の混在を認めて生きるほうが楽になれるのかも。

ドラマではよく、悪い人がいないから好きという価値観がありますが、絶対的に清廉潔白な人がいないドラマもいいものです。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第34回のレビュー}–

第34回のレビュー

退場かと思った花岡(岩田剛典)が再び、登場。なになに?と思ったら、よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)が待ち構えていました。

「虎に翼」は、シーンの組み合わせが独特で、それがいいテンポを作り出しています。脚本が編集的な視点も担っているのか、編集でシーンを組み替えているのかはシナリオを確認しないとわかりませんが。

よねと轟は、寅子(伊藤沙莉)に対してあんな仕打ちはないだろうと花岡に意見をします。

ふたりは寅子を不実に捨てたと思いこんでいるのです。

花岡の言い分は、猪爪とは別に将来の約束をしていたわけじゃないし、みなの気持ちを背負って弁護士になると張り切っている寅子に、佐賀に来てくれと言うことはできないというものです。

よねと轟はあの食事のシーンを見ていないから、一方的に花岡に怒っていますが、花岡の言い分も視聴者的にはわかります。少なくとも「わかるよ、おれにはわかる」と筆者は言いたい。

いまと違って、男の人とふたりきりで食事したり、親密に話をしたりすることには、深い意味があった時代と考えます。なにしろ、お見合いではじめて会った人と結婚することがポピュラーな時代ですから。

気軽な男女の友情や軽めの恋愛というような現代の価値観で、花岡と寅子について考えると、コトの本質を見失います。

花岡は花岡で、寅子が好ましいから佐賀に来てもらえたら嬉しいが、無理であろうと判断し、割り切るしかなかった。不器用な性格だし、彼は彼で傷ついているから、そのことを寅子には話せなかった。といったところでしょう。

微妙な失恋を轟にすら言えない、日本男児的に心が縛られた花岡がお気の毒になります。
その日本男児的な縛りが、轟の言う「猪爪も奈津子(古畑奈和)も侮辱する行為」になってしまっていることも否定はできませんが、寅子が社会的地位を得るために結婚しようと考えたのと同じく、花岡も社会的地位を得るために奈津子と結婚するのです。

それを寅子にもあらかじめ説明したほうが誠実ではあったかもしれません。が、「どうせ、おまえなどあいつととうてい釣り合わない」とよねが言うことはちょっと言い過ぎな気がします。よねはよねで、真っ直ぐな人だから良いのですが。

轟が一番、バランスがとれている。この人と結婚できる女性は幸せ者な気がします。
轟は寅子のお見合いについて、どう思うのでしょうか。寅子と花岡は同じようなことを考えているわけです。

寅子はお見合い相手を親に探してもらいますが、年齢的なことや職業的なことでなかなか進展しません。ようやく現れた見合い相手は、医者で、容姿的には見目麗しくはない人物でした。その写真を見て、一瞬沈黙したりして、彼女もまた人を区別しているのがわかります。

「何かビビビっと来たわけではない」という婉曲な言い方にはなっていますが、要するに好みではないけど我慢しようということ。そうして相手の好物のクッキーの焼き方を習ったりしていたら、弁護士は怖そうという理由で断られてしまいました。この医者の勘は正しい。自分が利用されているのがわかったのではないでしょうか。

医者と弁護士、他局の「Destiny」では検事と医者が恋人同士でなかなか大変そうで、医者は検事をやめて弁護士になったら結婚生活ができそうなことを言います。寅子も検事ではなく弁護士なので良さそうですが、それにしたって家事や子供をつくることや義理の父母との関わりなどと仕事を両立できると思っているのでしょうか。
籍だけいれて、あとは自由にしてよしと言ってくれる相手を探さないと難しいでしょう。

都合のいい人はなかなか現れず、弁護士の仕事も決まりません。自尊心を削られていく、これぞ地獄――そんなとき、救世主が。

優三(仲野太賀)です。

お腹を下しながら(つまり彼にとってとても真剣なことなのです)、寅子に「ぼくじゃだめですか」と申込みます。
優三は、寅子の思惑を全部わかったうえなのです。もともと寅子に好意があったから、これはもう好都合。

寅子は「この手があったか」と鼻息荒くなります。

「お互いの利害が一致して契約をしあう」という考え方、割り切って社会的な夫婦を演じるやり方はまるで、石田ゆり子さんの出ていた「逃げるは恥だが役に立つ」のようです。ただ、優三は寅子に好意があり、好きな寅子のために身を挺してくれようとしているところが、「逃げ恥」の平匡さんとは違います。

こと男女関係に関してはなぜか鈍く、優三がお腹を下してまで申し込んできた真意を理解していない寅子。はなはだ自分本位な感じですが、世の中の不当に苦しんでいる女性たちのことを思えば、トントン拍子に寅子に都合のいい展開も痛快に映るのかもしれません。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第35回のレビュー}–

第35回のレビュー

社会的地位を得るために優三(仲野太賀)と結婚することにした寅子(伊藤沙莉)
さっそく、はる(石田ゆり子)直言(岡部たかし)に報告しますと、直言は戸惑い、はるは「その手があったか」と寅子と同じことを言います。

ただ優三に結婚の「うまみ」は何か、と質問。さすがに「うまみ」という言い方は……と寅子も咎めますが、はるは真剣。

大事な寅子を託すのですから、優三の真剣さを確認したかったのでしょう。

結婚を決めた途端、運が回ってきたのか、事務所でははじめて弁護を担当できることになりました。それが、依頼人に、もうすぐ結婚すると言ったからかは定かではないですが、依頼人はしばらく迷ったすえに寅子が担当することを承諾するのです。
”佐田寅子”という名前がいいのかもしれません。

そして、はじめて法廷に立つこともできました。法廷の階段をあがる寅子の横顔は美しかった。

「紙切れ1枚でこれだけ立場がよくなる」と言う寅子に、
もともと結婚をくだらないと思っていたよね(土居志央梨)は懐疑的。

「逃げ道を手にいれると人間弱くなるものだぞ」と意見を述べます。

「逃げ道」のつもりは寅子にはないようですが、傍から見ると、そうも見えるのでしょうか。てっとり早く、弁護士として仕事したかったのもあるでしょうし、花岡(岩田剛典)の婚約が少なからず影響しているとは思いますが……。

試験に落ちてもけっして男装をやめない不器用なよねと、目的のためには手段を厭わない要領のいい寅子。どちらがいいとは決めきれません。

今週のサブタイトル「女の心は猫の目?」で、猫の目のように変わりやすいということわざでした。男だけれど花岡のほうが猫の目に見えましたが、寅子も目的はひとつ、法の道を行くことながら、「結婚しない」から「結婚する」(しかも誰でもよかった)に方針を変えました。

戦争は激しくなっていて、笹山(田中要次)も寿司屋を畳んで、国に帰ってしまいました(「ブギウギ」のおでん屋さんと同じですね)。そんな昭和16年11月、寅子と優三は籍を入れて、家族で記念写真を撮り、晴れて夫婦となりました。

もともと家族のように過ごしていた優三ですから、猪爪家で一緒に暮らすのも自然な感じ。みなにあたたかく迎えられます。

違うのは、寅子と同じ部屋であること。

はじめての夜、並んで眠るふたりはやや緊張気味。でも、優三は「指一本触れないから」と寅子を安心させます。でも、つい「僕はずっと好きだったんだけどね 寅ちゃんが」と本音が漏れました。

しばしの間をおいて「えっ?」とその言葉が気になる寅子。起きて、優三の真意を問いただしました。

お互い割り切った契約結婚であればさばさばやれそうですが、一方は好意を持っているにもかかわらず同じ部屋で過ごすことは気まずそう。優三さんのメンタルや身体状態が心配になります。

男性の辛さをこうもバッサバッサ切り捨てていくのは、そうすることで逆に男性のつらさにも気づこうよ、という意図なのかもしれません。

優三は「サザエさん」のマスオさん状態で、寅子は実家にそのまま住み、家事の負担も増えなさそうです。これなら弁護士の仕事にも支障はなさそう。優三でよかったですね。ほかの人と結婚して、その家に嫁いだらいろいろ負担があったでしょうから。かなり恵まれています。

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–{第36回のレビュー}–

第36回のレビュー

1942年。戦争はますます激化。猪爪家の食事情もさみしいものになってきています。

第8週「女冥利に尽きる?」(演出:橋本万葉)では花江(森田望智)は国防婦人会のたすきをかけていました。戦時中が舞台の朝ドラ名物・国防婦人会。前作「ブギウギ」では国防婦人会のご婦人方が、茨田りつ子(菊地凛子)の派手な服装を咎めていました。花江もそんなことに加担しているのか気がかりです。

寅子(伊藤沙莉)優三(仲野太賀)との結婚を穂高(小林薫)に報告。穂高は、優三の名前を覚えていませんでした。優三はじつにできた存在で、からかいの役割であることに耐え続けています。彼は家庭にも恵まれず、司法試験にも受からず、寅子の恋愛対象にもならないながら、いつもにこにこ穏やかです。

ドラマのなかでは女性はいつもつらいとされていますが、男女差ではなくて、選ばれる存在と選ばれない存在という差なのではないかとも思うのです。あるいは、選ばれやすい存在と選ばれにくい存在でしょうか。選ばれやすい存在は、寅子のように家が安定していて、勉強ができて、前向きで自尊心の高い人。そこに見目麗しい人も入ります。選ばれにくい存在は、優三のような人です。

現に寅子は望んだものをすべて手に入れ、順風満帆です。

でも、世間的には新婚の寅子と優三、同じ部屋で暮らしていても、いわゆる夫婦生活はありません。

いつもすぐ寝てしまう優三に、寅子は少し浮かない顔をしています。ほんとは、結婚生活に興味もあるのかも? 伊藤沙莉さんには「ひよっこ」の米子役から、恋に貪欲なキャラをかわいく演じられるというイメージもあるものですから。

一方で、寅子と優三が恋愛とか性的なことに興味のないタイプ(アロマンティック、アセクシャル)ではという読みもあります。脚本家の吉田恵里香さんがそれをテーマにした「恋せぬふたり」の作者であるからそう感じる視聴者もいるのです。昭和の時代にこの概念はなかったですが、そういう人もきっといたでしょう。

ただ、ここでアロマンティック、アセクシャル的なことを持ち込むと、話が複雑になりすぎるので、いったん置いておきたいところです。

そんなとき、寅子は両国満智(岡本玲)の親権裁判を担当することになりました。
夫亡きあと、別の男性に経済的援助をもらう形になったことで、夫の両親から訴えられているのです。義父母からの援助がなかったため、子供を養育するため仕方なくという点を寅子は主張し、見事に親権を守りました。

ところが、よくよく調書を見た寅子は、満智のお腹の子供が亡き夫の子供である可能性が限りなくないことに気づきます。

指摘された満智は「やっぱり女の弁護士先生って手ぬるいのね」と高笑い、「女が生きていくためには悪知恵が必要だと」と開き直って去っていきます。

「君の失態が誰かの人生を狂わせたことを忘れてはいかん」と雲野(塚地武雅)に言われます。

なんとももやもやした結末のままつづく――となりました。

子供が誰の子であるか、妊娠期間から誰ひとり疑問に思わない状況には、法曹界が信用できなくなります。学生のときの共亜事件では母の日記を読み込み、司法修習生のとき、言論統制事件では著作を片っ端から読んだ寅子でしたが、ひとり立ちした今、調書の読みが足りなかった。これからもっとがんばって。

真実はほかにあったという展開は、リーガルものや刑事ものに時々あります。後味の悪さが逆に鮮烈に印象に残り忘れられなくなると同時に、視聴者に考えを促すものとなり、好まれます。

このエピソードで作り手が何を優先しているか考えてみましょう。

A:エンタメ性 B:リアリティ C:テーマ性

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–{第37回のレビュー}–

第37回のレビュー

弁護した人物がかなりしたたかだったことにショックを受ける寅子(伊藤沙莉)
仕事を休んでいると、はる(石田ゆり子)直言(岡部たかし)の会社へお使いを頼まれます。

帰りがけ、直言の会社で働いている優三(仲野太賀)に呼び止められ、河原でひと休み。

優三は農家でもらった唐揚げを2個、寅子と分かち合います。そして、気に病む寅子に、人間にはいい面と悪い面があって、守りたいものがそれぞれ違う。そのために法律はあると思うと説きます。

「やなことがあったらまたこうしてふたりで隠れてちょっと何かおいしいものを食べましょ」(優三)

寅子が試験に受からなかったら、試験を受け続けたと明かす優三。彼こそ法の道に進むべきで、そのほうが世の中がよくなりそうな気がするのですが、なんで彼が法の世界にいないのでしょうか。この時点で、世の中、おかしいと思います。

ここで注目は、仲野太賀さんのセリフの発し方が、急にやわらか二枚目声になっていることです。先日までは、三枚目キャラ的な発し方でした。

正しいばかりだと疲れちゃうから肩の荷をおろすといいと言われ、寅子はたちまち恋に落ちてしまいます。

その夜? 寅子はついに優三の布団に転がりこみます。肉食べて元気になったのかも。いや、心が疲れていたとき、やさしさに触れて、すっかり優三に心が傾いたのでしょう。

優三が誠実で、ずっと寅子を見つめていて、欲望に負けず、手を出さずに忍耐していたからこそ、報われたのでしょう。よかった。よかった。

男性から女性を求めるのではなく女性から。女性の自主性を重んじた描写です。

第36回レビューでも書いたように、「ひよっこ」の米子役の印象もあって、恋に貪欲で、やや肉食系の役の印象もある伊藤沙莉さんなので、寅子から優三に迫る(といっても控えめに)図は合っています。というか、寅子は欲望の淡い人では決してなく肉食系に見えるのですが……。

おそらく、寅子と「虎に翼」は、仕事も恋も教養も手に入れたいエネルギー旺盛な人たちの希望が詰まっています。寅子が、筆者の身近にいる頑張ってるご婦人方と驚くほど重なります。あの人とかあの人とかあの人とか……。

1943年5月、寅子は妊娠し、みなに祝われます。展開早い。

一方、結婚、妊娠の先駆者・久保田(小林涼子)は弁護士を辞めることになりました。

先輩にボーイッシュな言葉遣いを改めるように言われ、「順調なの?」としとやかな口調になった久保田は翼をもがれたように見えます。
婦人弁護士なんて物珍しいだけで誰も望んでいなかったのだと絶望した久保田。仕事も家事にも満点を求められ、挫折してしまったようです。

「もう私しかいないんだ」と孤独に打ち勝とうとする寅子。

結婚して子育てしながら、仕事もしてきた世の女性のなかには久保田のようになってしまう人もいるでしょう。寅子になりたかった(なりたい)女性がたくさんいて、ドラマを応援しているのだと思います。

寅子と久保田が話をした竹もとは戦争の影響でもうすぐ閉店。こっそり桂場(松山ケンイチ)がいてふたりの話に聞き耳を立てていました。ふつう気づくだろと思いますがそれはさておき。大好きな団子はどんな味がしたでしょうか。

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–{第38回のレビュー}–

第38回のレビュー

1941年、真珠湾攻撃を指揮したことで有名な山本五十六海軍元帥は、1943年4月に戦死します。が、その死はしばらく伏され、国葬が行われたのは6月でした。

ラジオから国葬のニュースが流れている頃、直道(上川周作)に赤紙が来て出征が決まりました。
彼の「俺にはわかる」はいつだって反対になると猪爪家の人たちはわかっています。

寅子(伊藤沙莉)のお腹の中の子は男の子だという予言には「女の子」であろうとツッこんだ寅子ですが、「日本は戦争に勝って 子どもたちにとって もっともっといい国になっていく」という予言については、誰も何も言いません。

日本は戦争に勝てなかった。その事実を視聴者は知っています。でも子どもたちにとっていい国になっていくかいかないか、それは令和のいまも課題であり、結果が出たわけではありません。だからこそ、なんとも皮肉だし、切ないセリフです。

「俺寝られるかな 花江ちゃんが隣にいなくて」という直道を抱きしめ、花江(森田望智)は悲しみを笑顔で押し殺そうとします。
ここは「スンッ」ではないけれど、泣いて喚いてこんな社会のせいとそしることなく、必死で笑顔になる花江。ゴムのように柔らかくしなやかな表情筋には、花江の生き方が滲みます。

そんな頃、寅子は母校で講演会を行うことになります。
久しぶりに来た母校で、楽しかった青春時代に思いをはせると、「もう私しかいないんだ」と孤独と重責が増すばかり。

それを桂場(松山ケンイチ)に「怒りが染み付いている」と指摘され、その途端、倒れてしまいます。
指摘した桂場が、怒りが染み付いているようなすごい顔をしていました。たぶん、これは、寅子がひた隠している感情を、桂場が鏡のように映し出しているのでしょう。松山ケンイチさん、すごい。

晴れ舞台に穴を開けてしまった寅子。
医務室で、穂高(小林薫)に妊娠を明かすと、仕事をしている場合ではなく、子を生み良き母になることを優先すべきと助言されます。

「雨だれ石を穿つだよ 佐田くん 君の犠牲は決して無駄にはならない」
「人にはその時代、時代の天命というものがあって」「君の次の世代がきっと活躍を」

100年先を見ようとしている穂高。彼はかつて、自分が雨だれになった体験があるのでしょうか。一方、寅子はまだ若い。私は天粒の一粒でしかないのか、無念のまま消えていくしかないのかと、自分の目標が実現できないことを悔しく思い、怒りを爆発させます。

「私は、いま私の話をしてるんです」

仕事も結婚も子育ても存分にしたいと願う、優秀で元気なご婦人方には共感しかないでしょう。いや、ご婦人方に限ったことではありません。例えば、いまは低賃金だけど、月1万円投資をしたら、30年後には資産が倍増するというような絵に描いた餅のような話に置き換えてみましょう。
30年後も大事だけれど、いま、いまの生活を充実させたいのです。「私は、いま私の話をしてるんです」と誰もが言いたくなるはずです。

また、穂高と寅子の会話を、戦争に行く男性たちの気持ちに置き換えてみることも可能でしょう。出征していく男性たちにはまさに「雨だれ石を穿つだよ」「君の犠牲は決して無駄にはならない」「人にはその時代、時代の天命というものがあって」「君の次の世代がきっと活躍を」という言葉をかけるしかないでしょう。

寅子も、直道も、轟も、なぜ、なんのために、自分の人生を、命を、犠牲にしないといけないのか。この問題を、物語の舞台になっている戦時中の状況と直接的に重ね合わせて描かないところに工夫を感じます。寅子の心身を襲う大きなストレスは、仕事と結婚と妊娠のみならず、戦時中であることのストレスもあるはずですが、そこには触れない。

女性を登用したのも、民事の案件が減っていることも、戦争と無関係ではないはずで、状況が違えば、寅子やほかの女性たちにももっと可能性があったかもしれないけれど、そういうことは、さらりと背景として描き、ただ、寅子の生きがいや望みにフォーカスします。

優三(仲野太賀)と約束したように、こっそりおいしいものをふたりだけで食べて気を紛らわせながら寅子は「なんで私だけ、なんで私だけ」と心で悔しさを募らせます。
そのとき、「なんで私だけ」の声は、テレビを見ている多くの「私」に接続し、増幅し、拡散します。

やがて、轟(戸塚純貴)にも赤紙が来て、佐賀に帰ると言います。
よね(土居志央梨)はただ一言「死ぬなよ、轟」。ほんとそれ。
轟は、これから戦争に男性が駆り出されたら、寅子の仕事がもっと増えていくと託すように去ります。

ところが、穂高が寅子が貧血で倒れたことを、わざわざ雲野(塚地武雅)に伝えにきます。まるで寅子に仕事を休ませようとするように。

穂高というキャラクターがとてもおもしろい。一見、いい人に見えますが、法廷劇のときは、ヤジを飛ばす男子学生を放置したし、今回は、わざわざ報告に?

悪意ではないし、善意でもなさそうで。まるで不条理な世の象徴のような人であります。
小林薫さんはあたかも生活者のごとく存在しながら、暗喩のような役割を演じています。通俗と詩の世界が重なった作家・唐十郎さんと芝居をやってきた俳優だからこそでありましょう。

穂高の存在は、優三の言った、人間にはいい面もあれば悪い面もあるそのもの。

どうするべきか、何を選択すべきか、つねに考え、より良いおとしどころを探っていくことが生きること。

朝、さわやかに気分よく、の時代ではもはやなく、人間とは何か、深く思考する時代なのです。ああしんど。

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–{第39回のレビュー}–

第39回のレビュー

穂高(小林薫)雲野(塚地武雅)に報告したことで、妊娠している寅子(伊藤沙莉)は仕事を休むことになりました。

もう先頭に立ってひとりで抱えなくていいのか、と少し肩の荷が降りた寅子でしたが、よね(土居志央梨)が冷たく去っていったのが気になって、カフェーを訪ねます。

寅子はよねにも妊娠のことを伝えていなかったんですね。
視聴者が寅子に対して抱きそうな批判をよねがポンポン、寅子にぶつけます。ということは、作者はすべて織り込み済みで寅子の問題点を書いてきたというわけです。

みんなの思いを背負って――とかそれ自体は大事なことだけど、ちょっと多用しすぎとか。ついでに言うと「地獄」ってワードも使いすぎとよねにツッコんでほしい気もしますが、この多用も意識的なのかな。「はて」「地獄」「みんなの思い」3大ワード。

たったひとりで背負い込んで、でも、抱えきれず、結局男性たちに手を差し伸べてもらってすこしホッとなる、そんな寅子によねは容赦ありません。

「お前には男に守ってもらうそっちの道がお似合いだよ」
「心配ご無用、女の弁護士はまた必ず生まれる」

よねも寅子に「ひとりじゃない」と手を差し伸べていたのに、結局、結婚とか出産とか、男性の先輩たちの判断とかに依ったことを悔しく思っているのではないでしょうか。よねの気持ち、わかる気がします。

よねはカフェーで、困っている人達の法律相談に乗っていました。
口にこそしませんが試験に受からないことに焦りや悔しさを覚えているでしょうし、試験さえ受かれば自分だってばんばん働くことができると。

寅子は、志なかばで去っていった仲間たちだけでなく、よねのような人のことも考えるべきでしょう。優三(仲野太賀)だってそう。よねや優三のように、なぜか試験には受からないけれど、ほんとはすごく優秀な人っているのです。

よねのように、資格はないけど、困っている人の相談に乗ったり、何か手伝ってあげたりする仕事って大事。ブラックジャックのような闇医者じゃないけれど、こういう仕事をしている人をオリジナルのドラマで描いたらおもしろそう。

「じゃあ私はどうすればよかったの?」とよねに尋ねた寅子。

優三は素敵な人だから恋に落ちてもいいのだけれど、仕事をするための契約結婚だったわけで。なぜ子供を作ったのかなあと、はて?と思ってしまうのです。もちろん、結婚して子供もつくったうえで仕事もすることを当たり前にできる世の中であるべきです。
だから、寅子が便宜上の結婚ではなく自然に優三と恋して結婚して子供ができていたら、引っかからなかったと思うのですが、寅子は突っ走って流されていたところもあるように思います。

この感覚、おそらくドラマ的にずいぶん駆け足ではしょったからなのでしょう。たぶん、世の中で子育てしながら働いている人は、短い描写でも、がんばったけど降参だと泣く寅子の気持ちが痛いほどわかるのだろうというのも想像に難くありません。

絶望した寅子は、法律事務所を辞め、家で過ごすようになりました。子供・優未も生まれ、幸せな日々。
たぶん、久保田(小林涼子)中山(安藤輪子)もこんな気持だったのかもしれませんし、無双だった寅子が、じょじょに挫折する人たちの気持ちを実感し、寄り添えるようになっていくという意図であると思いたい。

大きな広いお屋敷も、戦争で手放すことになりました。
余談ですが、モデルの三淵嘉子さんのお父さんは、持ち家を持たずずっと借家主義だったそうです。裕福だったのになぜだろう。三淵さんのお父さんがどういう人だったのかとても気になっています。たぶん、直言(岡部たかし)とは全然違う感じの人ではないかなあと思って。

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–{第40回のレビュー}–

第40回のレビュー

あまりに短い結婚生活。いや、子供・優未が生まれるまで1年くらいあったわけですが、ドラマのなかでは快速電車のように駅を飛ばして時間が進んでしまったので、寅子(伊藤沙莉)優三(仲野太賀)の結婚生活が数ヶ月くらいに思えてしまいました。それだけいろんなことがあり、目まぐるしく時が進んでいったのでしょう。

赤紙が来て、出征する前に、やりたいことはないかと直言(岡部たかし)に尋ねられた優三は寅子とお出かけしたいとささやかな望みを言います。

お出かけと言っても戦時中、河原でお弁当を持ってピクニック的なこと。
そこで寅子は土下座して謝罪。自分の都合で契約結婚したのに、気を変えて甘えて子供を作って……と謝るのです。ここも、昨日の回と同じく視聴者の疑問へのガス抜きのためのようなセリフです。

寅子は自分のしたことをちゃんと自覚していたようです。が、さらに言わせてもらうと、子供ができたいま、嘘から出たまことではないけれど、いまやもうすっかり優三のことが愛おしく大事に思っていると言ってほしかった。「トラちゃんが僕にできるのは謝ることじゃないよ」のあと、いまは優三さんが大好きだと言ってほしかった。でも、そうじゃない、人間のいい面と悪い面を描きたいのでしょうか。

優三はそこで「はて」と遮り、「トラちゃんの『はて』便利なんだね」と寅子がやりたいように生きることが自分の喜びなのだと言うのです。なんて人! お弁当も「全部おあがり。優未にお乳をあげないとね」と言うし。彼に悪い面があるとしたらいい人過ぎることです。

好きとは言わない代わりに、おいしいものをハンブンこしたり、千人針を縫ったりします。寅年生まれの人が縫うと最強だと言われていたのです。

旅立ちのとき、優三は変顔をしようとしますが、うまくできず、寅子が追いかけていって、変顔をしてみせます。
いつしか優三と寅子は、彼らだけにしかない繋がりができあがってはいるのです。それだけで十分なのかも。

それにしてもなぜ、寅子は、出征する人に「おめでとうございます」と言ったり、「万歳」と送り出したりしないといけないのか、そういうことに「はて?」を言わないのか。いまはそういう世の中だと忍耐しているのでしょうか。

寅子は法の世界に生きているのに、社会のことをあまり考えている場面がありません。いま、戦争がなぜ行われ、どういう状況で、世界はどうあるべきか関心がないように見えます。

推測ですが、そこを書き始めると話が違う方向にいってしまうからあえて描かないのかなあと。

社会状況としては、後輩・小泉(福室莉音)という人物が訪ねて来て、女子部が閉鎖されることになったり高等試験がなくなったりしたことを報告します。新聞で報道されそうなこととはいえ一足先に知らされたってことかもしれません。このちょっとかわいらしい小泉は今後、寅子と関わってくるのでしょうか。

麻布の家から引っ越した登戸の直言の会社の社員寮も比較的、恵まれた環境にあったのと、戦争の直接的被害はこの時期はまだないから、戦争が他人事だったというシニカルな描写かもしれません。

敵国を憎むという流れにもしないで、寅子と優三の別れの場面は英語のボーカル曲が流れ、斬新でした。
次週予告では、どうやら、戦後になるようです(第1話の冒頭に戻りそう、まだ9週ですよ?)。戦時中を舞台にしながらここまで早く戦争が終わるのも画期的。戦争をドラマで描かずとも、ニュースで世界の戦争の様子がたくさん流れていますから。

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–{第41回のレビュー}–

第41回のレビュー

昭和20年3月10日、東京大空襲、花江(森田望智)の両親亡くなる。
昭和20年7月、直道(上川周平)戦死。そして終戦。この間3分。これじゃあ速送りもできません。

第9週「男は度胸、女は愛嬌?」(演出:安藤大佑)のはじまり。
寅子(伊藤沙莉)は疎開先から敗戦後の上野へ、そこは荒廃し殺伐としています。戦争末期の描写が3分だったわりには上野の街のすさみ具合には力が入っています。

カフェー燈台のあった場所へ向かった寅子は、近隣の人からお店の人は亡くなったと教わります。
それはマスター増野(平山祐介)のことでしょうか。空襲のとき、よね(土居志央梨)と一緒でしたが、よねはどうなった? 呆然となった瞬間、カットが切り替わり、寅子は登戸に帰宅。

直言(岡部たかし)の会社は、戦争が終わって注文が途絶えたため従業員に暇を出し、閑散としています。どうやら彼の会社は軍需景気に助かっていたようですが、詳しくは過去作「おしん」などをご参照、という感じでしょうか。

岡部たかしさんも、はる役の石田ゆり子さんもだいぶ老けた演技をしているように感じます。

石田さんが孫のいる「おばあちゃん」役だなんて。
はるは、父を亡くした直人と直治がぐちを言わずに耐えていることに気づき、思いきり弱音を吐くよう促します。石田さんのようなこんなすてきなおばあちゃんがいるだけで幸せですね。寅子と直言はそれを立ち聞き(座り聞き)しています。

はるは「おばあちゃんにはねちゃーんとわかってますよ」、直人は「僕にはわかるんだ」と亡くなった直道の口癖がいつの間にか伝染っていました。もうあの「俺にはわかる」が聞けないかと思うとさみしい。

戦争が終わったのですから、優三(仲野太賀)が戻ってくるといいのですが……。
戻ってきたのは、直明(三山凌輝)でした。

帝大に行くつもりだった直明が、大学にはいかない、家族のために働きたいと言うのを聞いて、「納得いかない寅子です」とナレーション(尾野真千子)。「納得いかない」は完全に現代語ですね。

おそらく伊藤さんは、戦時中の雰囲気をそれらしく書いた台本があれば的確に演じることができる人でしょう。このドラマでは、従来のそれらしい戦時中の雰囲気描写をある程度の時間をかけてなぞることはしない選択をしたようなので、さらりとそれらしきシーンとセリフで済ませており、「日本の敗戦をひしひしと感じていました」「それでも生きていくしかありません」と語るにはやや味気なく、俳優たちも気持ちを入れづらそうに感じました。

直言の体調が悪そうな芝居も、こういう様式的にやらざるを得ないところは得手じゃないんだなあと感じます。前後左右がなく、戦争が3分間で終わってしまったのですから無理もありません。せっかくブレイク俳優として注目されているのですからここはしっかりやりきっていただくことを期待します。

戦争中のつらさとか戦争への疑問とか終わった解放感とか虚しさとか寅子の想いは明日以降、じょじょに語られるのでしょうか。

伊藤さんは赤ちゃんの抱き方は安定していたし、直明が帰ってきたとき喜びのあまり、彼をパンパンたたく動作は生き生きしていました。

※この記事は「虎に翼」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第42回のレビュー}–

第42回のレビュー

家族がそれぞれ家族を思いやって、大事な何かを隠しています。

直道(上川周作)が亡くなり、あかりが消えたような猪爪家。そこへ直明(三山凌輝)が岡山から戻ってきます。

体調を壊して寝込むことの多くなった直言(岡部たかし)の代わりに家計を助けようとする直明。寅子(伊藤沙莉)も弟だけ働かせるわけにはいかない(「納得いかない」と表現されていました)とともに働きはじめます。

お仕事は直言がみつけてきたマッチのラベル貼り。直言の会社が火薬工場をやっていたつながりでしょうか。「らんまん」でも寿恵子(浜辺美波)が内職していました。

工場で働いていた古参・重田(緒方賢一)も一緒に働きます。高齢者は雇ってくれるところがないと喜んでいます。

はる(石田ゆり子)花江(森田望智)もつくろいものをして働きます。

隠しているものその1:写真

直道が亡くなったときから寅子は、優三(仲野太賀)の写真を飾らなくなりました。第41回、直道が戦死したあと、花江の気持ちを思ってでしょう、赤い布の手提げバッグのなかに隠していたものです。それに花江は気づいていて、年が明けてから「すぐにこう言ってあげられなくてごめんね」と優三のことを話したり写真を飾ったりしていいのだと言います。

なかなか言いだせなかったのは、やはりしばらくは気持ちが整理できなかったことは想像に難くありません。こういう気遣い描写はいいなあ。

寅子は自室に優三との写真を飾りました。それぞれに個室がある分、恵まれていますね猪爪家。

そういえば、冒頭、優三を待ちながら優未と写真を見つめたとき、優未の目に涙。これってほんとうの涙なんでしょうか。赤ちゃんはよく泣きますから泣いた瞬間をみはからって撮ったとしたらすごい。

寅子は弁護士の仕事を復活させようと考え雲野(塚地武雅)を訪ねますが、戦争を経て案件が減っていて、とても頼める感じではありませんでした。雲野、それでもぷっくぷく。
それに比べて寅子は戦争中よりもやつれています。すっかり疲れが出ているのでしょう。

隠しているものその2:本

ラジオで伝わる戦後の社会状況。労働者たちが立ち上がっているとか帝大の受験が行われたとか。直明は受験を諦め、家のために働くも、やっぱり勉強が好きでこっそり台所で本を読んでいます。読んでいたのは、アドラーの「問題児の心理」。何度も読んで諳んじられるほどですが、本を売ってしまい残ったたった一冊を、何度も読むしかないのです。

家族みんなが大学に通わせられなかったことを気に病んでいるとわかっているので、余計な気遣いをさせないようにこっそり隠れて本を読んでいるという弟の気持ち。それを慮り、寅子は法律事務所を辞めたときにしまいこんだ法律書をとり出し、弟に少しでも学ぶ喜びを味わってもらえそうなものを選んで手渡します。

アドラーといえば、平成時代、アドラーの教えを解説した「嫌われない勇気」がベストセラーになりました。いまやフロイト、ユングと並ぶ心理学界の3大巨匠と言われていますが、知名度的にはフロイト、ユングが圧倒的で、それが21世紀になって日本でブームになった。その著作を早々と読んでいる直明って教養高いし先見性がある。猪爪家、すごい。

隠しているものその3:通知

昭和21年(1946年)秋のある日、直言が倒れます。その拍子に散乱した写真立てに触れた寅子に「見るんじゃない!」と叫んだそれは――。

優三に関する悲しい知らせでした。

つらい毎日、寅子のみならず、猪爪家にとって、優三が帰ってくることだけがただひとつの希望だったでしょうに。

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–{第43回のレビュー}–

第43回のレビュー

優三(仲野太賀)の戦病死の通知を、直言(岡部たかし)がひた隠しにしていました。
たまたま倒れたときに、寅子(伊藤沙莉)が見つけてしまったのですが、もしもこのまま直言が亡くなって、通知がみつからずにいたら、寅子は優三を待ち続けたでしょうか。

往診に来た医者は「もう長くはないでしょう。ご覚悟なさってください」とわりと淡々と言い放ちます。
直言はそのまま衰弱し、寝たきりになり……。
寅子は直言が隠していたことについて問い詰めることもできないまま、ただ、優三の死を抱え込んでつらそうです。

ある日の食事中、直言は家族を枕元に呼びます。そこで直言は寅子に、花江(森田望智)直道(上川周作)が亡くなっても猪爪家にいてもいいんだよなと質問。寅子は「はい」とシンプルに返事をします。

こういうとき、憲法第◯条では――とか言ってほしかったけれど、いまの寅子はそんなテンションではなく、「話は終わりましたか」と冷たく去ろうとします。そこへ花江が口を挟みます。
「いまする話 それじゃないです」「お父さんのしたこととんでもなくひどいと思う」「罵倒してもいい」「おとうさんとは生きてるうちにお別れできるんだから」等々歯に衣きせない物言いは、花江だからありです。寅子が通知を見つけた日に言いたかったであろうことを、花江が代弁したようでもあります。

花江のおかげで、わだかまってしまった父と娘の確執がほどける突破口が開けます。ナイスアシスト。

ようやく、なぜ隠したのかを話し出す直言。
「俺はこのとおり弱いだめなおろかな男なんだ」「いっつも寅に頼りっぱなしで」と謝罪。たぶん、みんなを呼んだのも、ちゃんと話したかったのに、寅子がむすっとしていたから言えなくなったのだと思います。

直言は興が乗って、結婚相手は花岡(岩田剛典)のほうがよかったと告白。
ここ、コメディ仕立てなので、スルーしそうになりますが、
結局、優三のことを結婚相手として認めてない、わりと差別的だったということが暴露されたのです。以前、優三が結婚してからも食卓から離れて食事をしていた場面が確かあったのは、そのせいだったのでしょうか。だから、通知を先に読み、隠してしまったのかもしれません。
孫もできて、夫婦仲もよかったとはいえ、契約結婚だったわけですから、父としてはもやもやがあっても無理はないともいえるでしょう。

あれやこれや一生分の懺悔(by寅子)をしはじめるお父さん。
しだいに、寅子の気持ちも軟化して、父の愛情に感謝を述べます。なんだかんだで寅子を認め育んでくれたのは父でした。

そしてそのままお父さんは――と思ったら
「まだよ」とはる(石田ゆり子)。ただ寝てしまっただけでした。真面目そうな直明(三山凌輝)が「こんな体勢で?困ったな」とツッコむのが面白かった。

いろんなわだかまりが溶け、みんな、なごやかな気持ちで直言を見送りします。

朝ドラで、誰かが亡くなる場面で、こういう展開ははじめてではないでしょうか。ずいぶん
思いきったなあと思います。
お父さんが弱くてだめ、というのは朝ドラあるあるではありますが、弱くてだめなところが魅力的に描けたのは快挙でしょう。

今週、岡部さんの衰弱演技がどうも嘘くさく、コントのように見えていたのは、この終わり方のためだったのはわかりましたし、旧態依然としたものをぶち破り、朝ドラに新風を吹かせようとしていることは讃えたい。

お父さんは当時、かなりエリートだったはずで。もちろん、欠点もあったとは思いますが、ここまで弱くてだめで寅子に頼りっぱなしではなかったのでは、という違和感もあるにはあります。でもその感覚は、男・家長はしっかりしているもの、威厳のあるものと刷り込まれてしまっているからかもしれず。このドラマはそういうことからの脱却を描いているのでしょう。

花岡の下宿を見に行ったり、知り合いに佐賀の実家にも偵察に行ってもらったりというのは岡部さんが演じているからこそぴったり。直言は弱くてだめだったけど、実家が太くて良い大学、良い会社に入って出世したすえ、汚職事件に巻き込まれ、退職し、でもうまいこと会社を起こして戦争中まではなんとか逃げ切ったのだと思うことにします。お父さん、最後まで「モン・パパ」の歌詞のような人でした。安らかに。

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–{第44回のレビュー}–

第44回のレビュー

昭和21年10月。
直言(岡部たかし)が亡くなっても「生活は続いていきます」という語り(尾野真千子)を聞くと、昨日の直言の「弱くてだめ」の自虐を思い出し、いてもいなくても生活はあまり変わらないのでは、という気持ちに。

いやいや。直言は立派なムードメーカーでした。彼がいたからギスギスしないで空気が柔らかくなっていたはずです。

なんだかんだいっても直言が猪爪家の支柱でした。それをわかっているのでしょう、直明(三山凌輝)が”大黒柱”になるため、マッチ箱作りとは違う仕事をしようと考えます。

「大黒柱」という概念になにか思うところありそうな寅子(伊藤沙莉)
でももう前みたいに「納得いかない」と言葉にはしません(この言葉も尾野真千子でしたが)。

日々無気力に過ごしていると、復員兵が訪ねてきます。彼は、優三(仲野太賀)のお守りを持っていました。優三とは病室が一緒で、復員兵の病状が悪化したとき、このお守りを持たせてくれたというのです。

「私がご利益を吸い取ってしまったんじゃないかとずっと申し訳なくて」

五黄の寅年生まれ効果はあったのかもしれません。そして優三は最後まで他者思いのいい人でした。

復員兵には悪いけれど、優三に帰ってきてほしかった。
寅子はそれでも泣くことができません。
心配したはる(石田ゆり子)が直言のカメラを売ってお金をつくり、寅子に手渡します。

はるも花江(森田望智)も、どうしようもなくなる前にこっそりお酒を飲んだりお菓子を食べたりしてガス抜きをしていたことを明かします。

はると花江はひとりでこっそり。そう思うと、かつて寅子は優三とふたりで美味しいものをこっそり分かち合っていて、仲良しで幸せだったと言えるでしょう。
いや、はると花江も、夫が死んだあとのこっそりなのかもしれません。が、夫婦でいたときもたぶん、ふたりでこっそり分かち合うようなことはなかった気がします。それがこの時代の夫婦関係、男女関係なのでは。だからこそ、寅子と優三の関係性が特別だし、このあとの法改正が大きいのです。

はるだって、直言が亡くなってかなり参っているのではないかと思いますが、娘のことを第一に考えているようです。長年、スンッとして生きてきただけあってちょっとメンタルが違うのかもしれません。

直明はガス抜きしているかなあ。優三に継いでいい人要員なので心配です。

寅子は闇市の焼き鳥屋さんで焼き鳥とどぶろくを頼みますが、食べる気がしなくてそのまま店を出ると、店員が追いかけてきて新聞紙に包んだ焼き鳥を手渡します。

その包みこそ、第1話冒頭、寅子が河原で読んでいた新聞でした。

焼き鳥のタレがついた新聞には、昭和21年11月3日に公布された日本国憲法が記されていました。ようやくすべての国民が平等になったのです。

うれしいニュース、でも、それを一緒に喜ぶ優三はいない。
「分け合って食べるって言ったじゃない」のセリフが染みます。

日本国憲法が公布されたことを寅子は、ラジオで聞きもしなかったのか。猪爪家は新聞もとれないほど貧乏になったのかも気になりますが……。焼き鳥を頼んで食べないもったいなこともしてしまうのは、すべて、それだけ寅子の心が死んでしまっていたからでしょう。

1度、法から離れたとき新聞を読まなくなった描写もありました。生きるために弁護士として働こうと思い直したこともあったわけで。どんなに心が死んでいても、法律がらみ(しかもすごく大事な)には体が反応してしまいそうと思うのですが、これも寅子の場合はそうじゃなく、そこまで心が死んでしまっていた。それが憲法公布で、どこかにつかえていた優三の死を飲み込むことができたことで、涙がようやく溢れて、心が生き返って……。

すべてはここから――。

この回、闇市のスリの勢い良さ、花江の息子・直人、直治が優未をあやしている自然な感じなど、本筋とは関係ない部分にも心がこもって見えて、そこが良かったです(安藤大佑演出)。

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–{第45回のレビュー}–

第45回のレビュー

焼き鳥が包まれていた新聞紙にあった日本国憲法を読んだ寅子(伊藤沙莉)
亡くなった優三(仲野太賀)が言っていた、「寅ちゃんのできることは、寅ちゃんの好きに生きることです」「寅ちゃんが後悔せず心から人生をやりきってくれること、それは僕の望みです」、がんばってもがんばらなくても自由でさえあればいい(大意)、それが可能な自由な国になったのです。

寅子が河原で泣いていたのは、男女平等の新憲法の誕生と、もういない優三のことを思ってのことでした。あの河原には、優三の幻が存在していたのですね。

泣いてすっきりした寅子は、家に戻って新聞に載った憲法を丹念に読みこみ、ノートにメモします。そして、家族を集め「家族会議」を行いました。

「家族会議をはじめます」と言い、第13条、14条を読む寅子は、すっかり昔のはきはきした有無を言わせぬ口調に戻っていました。

日本国憲法の公布の情報を、花江(森田望智)直明(三山凌輝)はる(石田ゆり子)も知らなかったようです。貧乏になって新聞とらなくなったのか。ラジオでもやってないのか。

当時の国民にとって日本国憲法公布は関心のないことだったのか。この場面を見ると、遠い話のように見えます。まあ、それは現代でもそんなものなのですが、すると第1話にもあり、この回でも使用されている貧しい人や女性や子供も新聞(おそらく憲法公布)を読んでいるカットと矛盾してない?とも思いましたが、公布前と公布後のテンションの違いかもしれません。

“すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。”

という第14条を聞いても、花江たちはぽかん。「自分とは関係ないと言いたいの?」と寅子は問います。現代の我々に向かって問われているような気もします。当時からこんな感じだったから、いまも国民は政治や社会に無関心なのかもしれません。

寅子はすっかり元気がみなぎり、直明に「この国は変わるの」と言い、みんなの思う「しあわせ」を確認。寅子の幸せは「私の力で稼ぐこと」もう一度法律の世界に飛び込んで人生をやりきりたいと考え、彼女の稼ぎで、直明を大学に行かせると宣言します。

「そんなもの(大黒柱)ならなくていい」という寅子。
男女は平等なので、男が全部背負わなくていいと。

「これからは家族みんなが柱になって、みんなで支えていけばいいのよね」(花江)。
鬼滅の刃か。

「無理に大人ぶる」「胸がざわざわする」いまっぽい言葉がいろいろ。

20歳はまだ子供なので大人ぶらなくていいと寅子は直明に言い、花江だって20歳の頃はおまんじゅう作りながら泣いていたとも言います。でも花江はすでに結婚していたし、十分大人だったと思うのですが(大人だって泣くし弱音を吐くこともあるだけですよね)。令和的価値観にぐいぐい寄せてきているのが気になります。これは現在選挙権を持つ年齢が下がったことを考えた場合、まだまだ守られるべき年代が大人にされているという指摘なのでしょうか。

「はて」が渦まく場面でしたが、またときは進んで昭和22年、春。
寅子は、司法省に「雇ってください」と訪ねていきます。

そして、タイトルバック。ここまで2ヶ月が壮大なアヴァンだったのです。もうちょい大音量でぐいっと入ってほしかった(個人的な感覚ですが)。

そこにいたのは、桂場(松山ケンイチ)。彼が食べていた芋は、竹もとの夫婦が売っていたものだったようです。

さあここからが本番。

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–{「虎に翼」作品情報}–

「虎に翼」作品情報

放送予定
2024年4月1日(月)より放送開始

出演
伊藤沙莉 、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、 松山ケンイチ、小林 薫ほか


吉田恵里香

音楽
森優太

主題歌
「さよーならまたいつか!」(米津玄師)

ロゴデザイン
三宅瑠人、岡崎由佳

語り
尾野真千子

法律考証
村上一博

制作統括
尾崎裕和

プロデューサー
石澤かおる、舟橋哲男、徳田祥子

取材
清永聡

演出
梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか