<ブギウギ ・終幕編>25週~最終週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。小さい頃から歌って踊るのが大好き、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、スズ子の歌手人生の終幕を描いた25週~最終週の記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

117回のレビュー

残すところあと2週。第25週「ズキズキするわ」(脚本:足立紳)のはじまりは盛りだくさん。
若手ライバル・水城アユミ(吉柳咲良)、彼女とスズ子の奇縁。なつかしの股野(森永悠希)との再会(18、9年ぶり)。いよいよ描かれる、紅白歌合戦ならぬ「男女歌合戦」。ディレクター役が中村倫也……と、バイキング形式の朝ごはんで、ついあれもこれもお皿いっぱいに盛ってしまったようでした。

ときに1956年。「もはや戦後ではない」という言葉が流布し、時代は新たなフェーズに。と同時にスズ子(趣里)もベテランに登りつめ、登りつめたということはあとは下るしかないということで、あとから出てくる若手の脅威にさらされます。

例の鮫島(みのすけ)はまた、新人・水城アユミの台頭で「スズ子のブギは飽きた」と書きます。鮫島は、茨田りつ子(菊地凛子)と対立させたり、対立構造で物事を煽る論調が好きですねえ。

大憤慨するタケシ(三浦獠太)に「ワテの人気も落ちてきてるのは確かだし」とスズ子は言いますが、内心、気になっているようです。

そんなとき、丸の内テレビジョンの名物番組「オールスター男女歌合戦」のトリを
スズ子が任されることになりましたが、その前に、新人・アユミを出すことを了承してほしいとディレクターの沼袋勉(中村倫也)が持ちかけてきます。

新人がトリの前というのは大抜擢で、明らかに新旧対決を目論んだものです。へたしたら、スズ子が損な役回りになりかねません。あまりいい気持ちにならない、スズ子とタケシ。

余談ですが「しんきゅう」と打ったら「鍼灸」がまず出てきて、沼袋のダジャレ「鍼灸対決 お灸はおケツ」が浮かぶワケがなんとなくわかりました。

沼袋は、NHK のレジェント演出家・和田勉を意識したキャラクターのようです。
パーマ、サングラス、大声、ダジャレと、押しだしの強い人物で、でも作るドラマは濃密で深いものでした。

NHKのドラマが社会派で見応えがあるというイメージは昭和の時代に和田勉さんが作ったといっても過言ではないでしょう。それをいまだに引きずっている昭和世代は、朝ドラにも真面目なものを求めるため、「ブギウギ」のように、あえて濃密描写を省き、業界慣れしているタケシのような人間の軽薄浮薄さに注視しているドラマはなかなか浸透しづらいようです。

さて。もやもやしているところへ、懐かしい人物が。
股野がテレビ局にいて、驚きのあまりとてつもない大声をあげるスズ子。この大声はたぶん、その前の沼袋のやたらと大きな声にかぶせたものでしょう。

マネージャー業をやっているという股野。担当しているのは、水城アユミであることは想定内としても、なんとアユミは亡くなった大和礼子(蒼井優)との間にできた子供でした。お葬式のときに歌と踊りの天才になる、と橘アオイ(翼和希)に予言された子です。ほんとうにその通りになって、まさか、スズ子の前に立ちはだかるとは運命的であります。

人生の終盤に向かって、原点である大和の「あなた どうして踊るの?」の言葉がスズ子の脳裏をよぎります。なんてドラマティック。

アユミは、スズ子の大ファンだと言います。その言葉に嘘はないのでしょうけれど、まなざしと口ぶりに強さがあって、ファンだからこそ超えたいというような意気込みを感じます。これは脅威ですよ。

その頃、羽鳥(草彅剛)も、スズ子とアユミを比較した記事を読んで複雑な表情をしていました。ブギブームも消費され尽くした感は自覚していますが、飽きたとか終わったとか外野に言われてうれしいわけはないでしょう。

いつもの、心があるのかないのかよくわからない、ややあしらい芸のような麻里(市川実和子)の励ましに「よく言うよ。興味ないくせに。でもありがとう」と返す羽鳥の口調が冷めていて、仕事に関しては妻に何も期待していないのがわかります。実力勝負の仕事は自分の力で突破するしかないのです。

いつも楽しそうに明るく振る舞っていた羽鳥の、こと音楽に関しては鬼のように厳しい側面を感じてゾクリとなりました。

「流行歌は大衆の好むところにピントが合わないと終わりですからね」
(羽鳥)

流行歌はそうだけれど、流行歌が作りたいのか、大衆に背かれても自分の信じるものを作りたいのか、羽鳥は何を求めているのでしょう。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第118回のレビュー}–

第118回のレビュー

なんて寛容な社会。
愛子(このか)の誘拐未遂というか恐喝未遂犯である小田島(水澤紳吾)が息子・一(井上一輝)を連れて東京に戻ってきました。

世話してくれた親戚が北海道に引っ越すことになり、戻って来たのです。

一はけろっとしているし、スズ子は小田島と名前を聞いて「犯人」と気づくくらいのとぼけた感じで、仕事を探しているという小田島を、家事手伝いとして雇います。
小田島ははりきって庭の手入れをはじめます。

おもしろくないのは、タケシ(三浦獠太)です。
身代金の受け渡しで小田島と格闘して、怖い目にあったタケシですから、そんな人物を家に招き入れるなどありえないとスズ子に物申します。

「この世は義理と人情や」とスズ子は答えます。
ツヤ(水川あさみ)仕込みの「義理と人情」。
スズ子は滅多にその言葉を口にしませんが、小夜(富田望生)やタケシを雇ってきたのは、そういうことです。小夜には義理はないけど人情で、タケシは、山下(近藤芳正)への義理でしょう。タイ子(藤間爽子)にも義理と人情を返しました。

「なんもないからこそ義理立てするんや。なんぞええことあるかもしれへんやろ」
(スズ子)

なんもなくても義理立て? よくわかりませんが、自分が何かしたら、相手が義理を返してくれることもあるかもしれないという逆転の発想でしょうか。「なんぞええことあるかも」というのはそういうことでしょう。ちゃっかりしてるな。
いや、でも、世間は狭い。悪いことはできない。という言葉もありますし、いつどこで助けてもらえるかわからないからこそ、出会いを大事に、他人にやさしくしたほうがいいということでしょう。

その義理と人情の対象になりそうな人物が現れます。それは水城アユミ(吉柳咲良)です。スズ子がこの道を歩む上で、指針になった大先輩・大和礼子(蒼井優)の娘だったのです。
いまをときめく新鋭で、スズ子の立ち位置を危うくする脅威であるアユミ。年末の「男女歌合戦」でスズ子のトリの前という、かなりいいポジションになることを認めただけでも、十分、義理を返したといえそうですが、更に――。

「こんなこと言えた”義理”やないんやけど」とアユミの父であり、マネージャーの股野(森永悠希)が頼んできたのは、そのとき「ラッパと娘」を歌いたいということでした。

いくら義理と人情とはいえ、大事な持ち歌を、新人歌手に歌わせるのは簡単に許可を出せません。自分のために作ってくれた羽鳥(草彅剛)にも聞かないといけないと悩んでいると、「真相婦人」に飛ばし記事が出てしまいました。

例の鮫島(みのすけ)が喫茶店でスズ子と股野とアユミが話しているのを見かけて、写真を隠し撮りし、記事を書いてしまったのです。

喫茶店の外からなんで話の詳細がわかるのか謎ですが、あとでお店の中にいた人から話を聞いて、それももとに記事をでっち上げたのかもしれません。おそろしい、鮫島。

マネージャーのタケシは自分の知らないところで大事な話を進めたすえ、記事を書かれたことで、面目を潰されブチ切れます。

こういう話は、せめてホテルのラウンジとかで。喫茶店でも個室のある店で。

スズ子はいつまでも庶民感覚なのかもしれないですし、たまに、こんなとこに芸能人が!と驚くシチュエーションもありますが(先週のTBS系ドラマ「不適切にもほどがある!」でも大衆的な喫茶店「SCANDAL」に小泉今日子が来店していました)、街の喫茶店に紅白……じゃない「男女歌合戦」に出るくらい人気のスズ子とアユミがいたら、喫茶店も大騒ぎになりそうです。

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–{第119回のレビュー}–

第119回のレビュー

「福来スズ子対水城アユミ 年末のオールスター男女歌合戦で激突!?」
という見出しで、鮫島(みのすけ)が勝手に記事を出し、水城アユミ(吉柳咲良)が「ラッパと娘」に思いいれがあり、紅白で歌いたいと申し出たと書かれてしまいました。

スズ子(趣里)は急ぎ、羽鳥(草彅剛)宅に向かいます。曲を作った羽鳥に相談しなくてはいけない案件なのに、先に世間に出てしまっては、それこそ義理が立ちません。

出かける前に水を飲むスズ子。緊張感が伝わってきます。

それにしても、鮫島、喫茶店の会談の様子を事細かに書いていますが、ほんとうにどうやって外からこんなに話の内容を聞きつけたのか。店内の人に取材したとしか思えないし、あるいは、想像で書いたらだいたい当たっていたというようなところでしょうか。

記事には、スズ子のパフォーマンスが最近抑えめとか、水城アユミには持ち歌がないとかいうような情報が書いてあり、そのへんのことはドラマ内でちゃんとやってほしいと感じました。台本に書いてなければナレーションを足せばいいのでは。うるさいおばさんでごめんなさいね(このセリフ便利ですね)。

羽鳥宅では、記事に麻里(市川実和子)も憤慨しています。

羽鳥は最初は淡々と話していましたが、スズ子が「先生がよければ」と自分の意見を曖昧にして羽鳥任せにしたことを受けて「そんなに軽く言わないでほしいな」と言ったあたりから、沸々したものを感じさせました。

「ラッパと娘」は羽鳥とスズ子の歌なのだから「もっと大切にしてほしいね」と言い、
水城アユミの実力なら「君は戻る場所がなくなるかもしれないよ」とまで。
それを麻里は「意地悪」と表しましたが、羽鳥はスズ子を挑発したのかもしれません。

スズ子が帰ったあとの羽鳥の顔はなんとも渋い顔でした。

今日のスズ子はこれまでのスズ子と違ったと羽鳥が感じたように、麻里は、羽鳥もいつもと違うと指摘します。「言い過ぎていたらごめんなさいね」と付け加えながら。

悩んだスズ子は、りつ子(菊地凛子)に相談します。どうやら、場所が例の喫茶店。
大衆的な喫茶店に見えて、実はスターの集う隠れ家的な喫茶店なのでしょうか。そう考えれば、鮫島は常にこういう場所に張り込んでトクダネを獲得していると考えることができます。

そこでりつ子は、スズ子の心情(羽鳥に止めてもらいたかった)を鋭く指摘し、発破をかけます。

基調はのんきなホームドラマ的なムードで、葛藤や苦悩が直接的に描かれないので、え、そんなことになってたの? と驚くことが多々あります。

それは、愛子(このか)もそうで、彼女の気持ちを一(井上一輝)が代弁する役割を担っています。鮫島の記事や一やりつ子のセリフで、状況や心情が補完されているのです。

スズ子は、「ラッパと娘」のレコードを聞きながら、

「あの娘はどんなふうに歌うんやろ」(スズ子)

と思いを馳せます。ドラマティックな、引きのある終わり方でした。

ほんと、水城アユミの歌が早く聞きたい(この間、「うたコン」で「ヘイヘイブギー」をすてきに歌ってましけど)。

ところで、いつものスズ子らしさとは何でしょう。ワテがワテが、という我の強さです。子供の頃から、ほしいものはとりにいくタイプでしたが、いまの彼女はかなり控えめです。これが鮫島の記事にある「寄る年波」でしょうか。

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–{第120回のレビュー}–

第120回のレビュー

スズ子(趣里)アユミ(吉柳咲良)との歌勝負に不安を抱えています。
同じころ、愛子(このか)は体育の授業でクラスメイトと徒競走をやって負けるのがいやで、学校を休みたいと言い出します。

母と娘がそれぞれ、勝負を前に悩んでいました。

スズ子は、あたかも愛子を励ますように話しながら、おそらく自分に言い聞かせているのでしょう。負けそうな勝負をわざわざして傷つくよりも、逃げてもいいのではないかと。でもその一方で、逃げたことは一生つきまとい、結局自分を苦しめることになるのもわかっていました。

花田家の食卓ではスズ子、愛子、大野(木野花)小田島大(水澤紳吾)一(井上一輝)タケシ(三浦獠太)は食事をしながら、逃げるか、立ち向かうかについて語り合います。タケシは「逃げるが勝ち」という言葉もあると言い、自分なんか逃げて逃げてここまで来たと自慢します。

全然、威張れることではありません。が、勝負に挑んで勝つことがいいこととも言い切れません。大ヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」を思い出すような場面でした。さすがに「逃げるは恥だが……」の文言は出しませんでしたが。「やられたらやり返す」は出したのに。

話を戻しましょう。
結局、答えは出ません。どちらでもいいという感じで収まります。

タイトルバック明け。スズ子はもう一度、羽鳥(草彅剛)を訊ね、「ラッパと娘」を改めて聞いていい歌だと再認識したこと、この歌をアユミがどう歌うか「ズキズキワクワクした」と言います。劇伴は高らかに鳴るラッパのメロディ。

歌合戦で、アユミと歌うことを楽しみたいと前向きになったスズ子。

浮かない顔をしていた羽鳥もようやく、明るい顔になりました。羽鳥はもともと、音楽を楽しむ主義者です。楽しい気持ちになれば万事OKなのです(たぶん)。

スズ子が「ラッパと娘」を他人に手渡してしまうのがいやだったのでしょう。それをスズ子が「ラッパと娘」が最高の歌だと認め、スズ子以外の人にも歌ってもらい、歌の可能性を広げることにズキズキワクワクすると言って、羽鳥を刺激し、機嫌をとったということでしょう。

その足でスズ子は丸の内テレビにいって、アユミは「ラッパと娘」、自分は「ヘイヘイブギー」を歌うと、プロデューサーに告げます。

沼袋勉(中村倫也)も大満足。もともとこの仕掛けを企画したのは彼。思うように収まりました。「この業界、悪いやつが必要なんだ」と得意満面にうそぶきます。

中村倫也は、主役もできるし、脇役もできます。
沼袋勉役を演じるにあたり、キラキラ感をとっぱらい、芝居のうまいバイプレイヤーが少し下衆い演出家を作り込んで演じているような演技をしています。その居ずまいはまるで、小田島役の水澤紳吾や、辛島を演じた安井順平、おでん屋の親父を演じた坂田聡、アホのおっちゃんを演じた岡部たかし、ゴンベエを演じた宇野祥平のようです。映画や演劇で腕を鍛えあげてきた名バイプレイヤー枠に自分を置いているような雰囲気も含めて巧みだと感じます。

スズ子が帰宅すると愛子が泣いていました。結局負けてしまったのです。
スズ子は

「逃げても逃げなくてもどちらでもいい どっちにしろ人生は大変な道のりや」(スズ子)

と愛子に言い聞かせます。「ヘイヘイブギー」は愛子のための歌。スズ子は愛子のために歌いたいと考えています。愛子が母と同じく勝負で悩んでいる流れが、ここで生きてきます。

この回は、スズ子がいかに納得するかということと、母と子の愛情を、15分かけて描いています。展開をつくらず、ひとりの人の脳内でぐるぐる考えていることをアヴァンとエンディングに分けて書いています。「〜と大野さんは思う」「〜とワテは思いますねんで」と口調も同じになってしまっています。「〜と僕なんかは思います」も以前使用されていました。

スズ子は「負けて悔しい思いしたほうが多分ええねん」と愛子に話します。
負けたら、もう歌手としてダメだと引導を渡されるかもしれなくて、不安であったけれど
生きていくなかで一番必要な、前向きな「好奇心」を発揮して、立ち向かうのです。

アヴァンに出てきた、大野さんの、逃げたいと思ったときはたいてい、やったほうがいい、と自分ではわかっていることだという言葉はなかなか名言でありました。そして、大野さんが台所仕事しながら歌う「ラッパと娘」が東北なまりでなかなか味わいがありました。小夜(富田望生)を思い出しました。アメリカでどうしているでしょう。

さ。いよいよ歌合戦!

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–{第121回のレビュー}–

第121回のレビュー

鮫島(みのすけ)が、スズ子(趣里)水城アユミ(吉柳咲良)の記事をまた書きました。「女の決闘」と相変わらず大げさな見出しをつけて。

「鮫野郎」と憤るタケシ(三浦獠太)に、スズ子はこれも仕事なのだから「おもしろおかしく書かなあかんのや」と鷹揚な態度をとります。すっかり、気持ちが落ち着いたようです。

大晦日、いよいよ「オールスター男女歌合戦」。
お留守番を小田島父子(水澤紳吾、井上一輝)に任せてでかけます。大野(木野花)はあとから愛子(このか)と会場に行くのです。

スズ子が楽屋でメイクをしていると、股野(森永悠希)とアユミが挨拶に来ます。
ここで、スズ子はわだかまりをすっかり流し、懐の大きさを見せました。歌を楽しもうという域に達しているのです。

アユミが「ラッパと娘」を披露。若くはつらつとして、パンチのある声と踊りを、スズ子は涙を流しながら見つめます。

ただ、アユミは終始挑むような態度でパフォーマンスをし、歌い終わったあとも、ものすごい形相です。彼女はいったいなぜこんなにも大先輩のスズ子をライバル視する? 若気の至りで、スズ子の歌が好き過ぎて勝つことに囚われてしまったのでしょうか。

それでもスズ子はアユミの歌に感動しています。
そして、出番。歌合戦のトリであります。
「わてもう爆発しそうや」と茨田りつ子(菊地凛子)に言って楽屋を出ていくスズ子。
「ヘイヘイブギー」を明るく楽しく歌います。客席には愛子が「マミー最高や」と大喜び。

スズ子の歌を楽しむ姿勢に会場は大盛りあがり。家でテレビを観ている小田島父子も立ち上がって踊りだしました。

小田島父子はすっかり、スズ子の家に居座っていますが、住み込みなのでしょうか。というか、スズ子は留守を任せて、泥棒される心配はまったくないのか。このへん、大阪のお風呂屋さん・はな湯時代の、誰でもウェルカム感を思わせます。
あんなに困窮していたのに、よかったね小田島父子。

深掘りすると、スズ子の粘着的な娘愛が、娘を喜ばしたい一心で、一をそばに置いているような気もしなくないのですが……。

「ブギウギ」は語らないことが多すぎて、視てるほうがいくらでも妄想を膨らませることができてしまいます。アユミの心情もミステリー過ぎて、いろいろ想像してしまいます。

スズ子の歌が皆の心に響くのは、愛子への愛が普遍的だからなのでしょうか。そのへんもしっかり語られないので、愛子への愛を貫いているのか、激しいライバル心で歌ったアユミよりも、包むような愛情で歌ったスズ子に軍配が上がったということなのか、なんなのかよくわからない。

しかも、若いとは言えミュージカルに出て歌や踊りが本職の吉柳さんと、バレエをやっていたとはいえ歌は本格的にやるのがはじめての趣里さんでは、何がスズ子が圧倒的なのかわかりづらいのです。

歌がうまければいいというものではなく、心であるということなのかもしれませんが、それも視た人の裁量に任されています。まったく押し付けがましくないドラマにもほどがある!

あと1週!

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–{第122回のレビュー}–

第122回のレビュー

大晦日の歌の祭典「オールスター男女歌合戦」でトリを飾ったスズ子(趣里)
歌い終わったあと、楽屋で燃え尽きていると、感動したタケシ(三浦撩太)が「福来スズ子の第2章の始まり」と大騒ぎ。

そこへ股野(森永悠希)アユミ(吉柳咲良)が訪ねてきます。
アユミはスズ子の歌に感銘を受け、自分はまだまだと思い知らされ、スズ子への尊敬を新たにした様子です。

ブギの女王・福来スズ子の底力を見せつけ、マスコミもこぞって賞賛しますが、当人のテンションだけは低い。自分にしかわからないものがあるのです。

スズ子は歌手引退を決意。羽鳥(草彅剛)に報告に向かいます。
テレビのスズ子を見て、何かを感じていた羽鳥ですが、引退を決意したとまでは想像していなくて、顔色を変えます。
ここで一旦、動揺を隠すようにお茶を飲みました(芸が細かい)。

「確かに水城アユミはすごかったね。僕も聞き入ってしまったよ。君がそんな水城アユミからエネルギーをもらって歌えたというのはよくわかるよ。僕だって彼女の声には熱くなった」と認めつつ、
「でもね僕は君を引退させないよ」と宣言します。

「今まで作ってきた歌を全て葬り去ることになる。歌を殺すことになる」
「そんなことは僕は絶対に許さないよ」と畳み掛けるように言う時の草彅さんの表情と声音が実に迫真です。
目の凄みにぞくりとなります。

「歌手を引退すると言うのなら僕は君と絶縁します」

今までにない羽鳥の表情。自分の歌をものすごく大事にして、その歌はスズ子がいてこそ成立したもので、それがスズ子の引退によって葬り去られることを本気で怖れているのが伝わってきます。でもそれを剛速球でスズ子にぶつけ過ぎないように懸命に口調を柔らかく抑制している。
冷静と熱情の間にいる、これぞ真の表現者という演技です。

何かを考えている横顔のもみあげには白髪があり、それに合った、少し老いた表情にもなっています。
たった一人で、ドラマ全体のレベルを底上げする草彅剛。
いくら主要な役とはいえ、時々しか出ないにもかかわらず、この仕上がり。素晴らしいとしか言えません。

興味深いのは、羽鳥とスズ子はアユミの凄さに気づいていることです。

世間は、アユミより断然スズ子が凄かったと騒いでいて、なんならアユミのことなどスルーしているくらいですが、長年、芸の道を歩んできた者にはわかるのです。
スズ子の最後のパワーはアユミからもらったものであったこと。その大きな力はやがて世の中を席巻するであろうと、スズ子と羽鳥はわかっているのです。それが目が高い、ということです。

スズ子は、タケシや家族にも引退しようと思っていると明かします。
当然ながらタケシは認めません。

タケシがアユミの才能に気づいてないのは、彼がぜんぜん成長してなくて、ただ芸能界に染まってしまっただけだということです。間近でスズ子を見ていても気づけなかったんですね。多分、山下(近藤芳正)だったら気づいたのではないでしょうか。

お目が高いのは、一(井上一輝)。スズ子のことより三橋満男のことばかり言っていました。三橋満男とは多分、三橋美智也がモデルでしょうか。「男女歌合戦」のモデルであろう、第7回NHK紅白歌合戦に初出場しています。

アユミもまた、どんなに楽曲が素晴らしくても、歌う者と一体化しない限り、本物にはならないこと。その人の物語と曲が融合していないと本当の感動にはならないことを若くして気づいているのです。だから自分でなければ歌えない持ち歌を歌おうと決意を新たにしたのでしょう。

最終週のサブタイトルは「世紀のうた 心のうた」。それは何かを噛み締めながら、1週間を楽しみたいと思います。

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–{第123回のレビュー}–

第123回のレビュー

スズ子(趣里)の引退発言がさまざまな波紋を呼びます。
が、感情的になったタケシ(三浦撩太)はすぐに反省し、謝罪に来ました。

どこでも長続きしなかったタケシはスズ子の歌に励まされ、成長したこと。それは自分だけではなく、日本中の多くの人たちがそうだったこと。だから、このままフェードアウトするのではなく会見を開いて挨拶した方がいいと提案します。

珍しくタケシが役に立ちました。
流されやすくお調子者ではありますが、悪い人ではないのです。

そして、スズ子は引退会見の場へ――。

最終週なので、これまで描ききれなかったけど、描いておきたかったことがここぞとばかりに描かれます。

最たるものがスズ子と羽鳥(草彅剛)の関係です。

第123回で、スズ子に歌を辞めさせないと激昂した羽鳥。いつもご陽気な彼がそこまで感情的になるというのは、それだけスズ子が特別であるということです。

スズ子にとって羽鳥は師匠で、家族ぐるみで彼女を大事にしてきたわけですが、一時期、それ以上の関係を疑われて記事にされたこともあったほどです。

でも、スズ子と羽鳥に関しては、ほぼ、常に麻里(市川実和子)が立ち会っていて、状況を把握してきているので、変な疑惑が沸く要素がありません。風通しのいい関係なのです。

スズ子が会見を決め、再び羽鳥家に訪れると、拗ねた羽鳥は外出していました。
そこで、スズ子は改めて麻里と語り合います。

麻里は冗談まじりに、スズ子と羽鳥の関係に「やきもちを焼いてしまいそう」と明かします。
何もないのはわかりつつ、それでも自分が入っていけない領域があるのは面白いものではありませんし、不安を感じることもあるでしょう。それを溜め込んでしまうとドロドロしてしまいますが、ここでこういうふうに言えることでスッキリ。

そういうふうに言えるのも、スズ子の人間性でしょう。湿っぽさとか狡さみとか、裏の顔がなく、信頼できる人なのです。

家を開けた羽鳥はりつ子(菊地凛子)に例の喫茶店で会っていました。
彼もまたタケシと同じく、言い過ぎたことを反省しています。

いつもは麻里に助言をもらっている羽鳥ですが、音楽に関することは彼女とは分かち合えないため、りつ子に話を聞いてもらったのでしょう。

りつ子はすでに羽鳥の絶縁宣言をスズ子から聞いていました。りつ子はスズ子の悩みも聞いてあげていたのです。誰よりも孤独に生きているようで、誰よりも親切なのがりつ子であります。

そして、りつ子は羽鳥とスズ子の誰にも介入できない特別な存在を強調する役割を果たします。

りつ子も麻里も、羽鳥とスズ子が苦しめばいいと、からりとした嫉妬を滲ませました。

今日の注目ポイントは
◯喫茶店のりつ子の相変わらず派手なファッション。
◯スズ子がりつ子のモノマネをしたこと。

◯りつ子が「私は歌い続ける」と宣言した場面の劇伴が「別れのブルース」のインストだったこと。名曲。その後、羽鳥のことを思って、羽鳥のシーンに切り替わると、「東京ブギウギ」をピアノで弾いていること。その旋律がまたいい。わずかな時間ながら素敵な音楽劇になっていました。

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–{第124回のレビュー}–

第124回のレビュー

スズ子(趣里)の引退会見が行われました。スズ子はピンクのスーツで首元に赤いスカーフを巻いて、おしゃれな感じです。

寝耳に水の出来事に、たくさんの記者が詰めかけました。当然、鮫島(みのすけ)もいます。彼は写真も撮っているのに前列には並ばないんですよね。ちょっと後ろにいます。

最初に、タケシ(三浦撩太)が感極まって自分の経歴を長々披露し、スズ子に窘められるところはお約束。

スズ子が辞める理由は「いままでのようなパフォーマンスができへんようになってきた」ということ。
「自分が一番輝いていたときをそのまま残したい」という、自分に厳しい人なのです。

きれいな話でまとめようとしたスズ子でしたが、そこに鮫島が、スズ子が言いづらそうな質問をぐいぐいしてきます。
やはり水城アユミ(吉柳咲良)が脅威だったのではないか。そして、
羽鳥(草彅剛)はどう言っているのか。

大事なところを忖度しないで聞く鮫島、優秀な記者であります。
彼のそのしつこい取材の原動力は、スズ子の歌が好きだったということだったようで、「さみしくなるな」と言い「最後に、一曲聴かせてほしいな」とまでねだります。

残念ながらスズ子には冗談で交わされてしまいますが、鮫島も帽子を脱いで、慰労の拍手を贈るのでした。

鮫島がスズ子を認めていたことは、最初のステージ(「ジャズ・カルメン」)の反応で見てとれます。どんなもんだ?と斜に構えて客席にいた彼が、おお、という顔で真剣に見始める演技をみのすけさんはやっていました。

おそらく、捻くれ者なのと、雑誌を売るために、逆説的な取材の仕方でスズ子を応援してきたのでしょう。

こういうふうに、最後、この人にもいいところがあったというツンデレみたいな表現を好む視聴者も多いでしょうけれど、最後までやな記者でも良かったような気もしないではありません。ネズミ男的な人がいたほうがスパイスになるので。「ブギウギ」が「サザエさん」みたいに永遠に続く場合、「鮫島〜」としっちゅう言われるトラブルメーカーみたいなサブキャラになるに違いない。

みのすけさんは、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん率いるナイロン100℃の主要メンバーで、前身の劇団健康の旗揚げから参加している古参です。筋肉少女帯の初期メンバーでもあり、ドラムを担当していました。サブカル最盛期の人であります。

鮫島はいやな感じの役で、こういうクセのある役はお手の物なのですが、演劇では、あの少し高いきれいな声で、ものすごく純真で切なくさせるような役が素敵だったりもします。だからこそ、下衆い雑誌記者のようで、それだけじゃない面のある人物を少ない出番で担えたのでしょう。

無事に引退会見を終えたスズ子のもとに、驚いた秋山(伊原六花)が大阪からやって来ます。いつもの、芸能人に関心のない喫茶店は「珈琲をどうぞ」という名前らしいです。
秋山は、まだまだ現役を続けながら後輩を育てています。

すっぱり辞める(俳優はやるけど)スズ子、歌一筋のりつ子(菊地凛子)、後輩も育てる秋山と三者三様です。

歌手を辞めるという決断を世間に公表した夜、スズ子は、愛子(このか)のほか、血のつながっていない家族のような人たち――タケシ、大野(木野花)小田島(水澤紳吾)一(井上一輝)と過ごしていることに感無量。

「みなさんはわての宝物です」
歌より家族という物語なのですね。スズ子は最も幸せだった、はな湯という原風景を求め続けてきたのかもしれません。

でも、羽鳥はひとり難しい顔をしていました。まだ羽鳥とスズ子の問題は解決していません。

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–{第125回のレビュー}–

第125回のレビュー

スズ子(趣里)が引退会見した記事を読み、浮かない顔の羽鳥(草彅剛)
彼に助言するのは麻里(市川実和子)です。
一方、スズ子にはりつ子(菊地凛子)がいて。「あなたたちは何やってるのよ」と釘を刺します。
スズ子が会いに行こうとすると、ちょうど羽鳥が訊ねて来ました。

お互い、相手が気になっているのに行動できず、誰かに背中を押してもらってやっと動き出し、ようやく会ってももじもじ。応接間で向き合っている感じはまるでお見合い。

なんだか恋愛関係みたいにも見えますが、師弟関係です。まあ限りなく恋愛に近い別の関係というのもあるとは思いますが。

スズ子も羽鳥も、不器用で洗練されない言動がなんだか似すぎていて……。似ているからこそ、ここまで一緒にやってきたのかもしれません。

音楽がすべての羽鳥。歌と愛子がすべてのスズ子。そこには一直線になりますが、あとのことはうまくできない。そんなふたりが、いままで胸の奥にしまって語らずにきた言葉を一気に吐露します。

羽鳥は、ブギの代名詞がスズ子になってしまったことに嫉妬を覚えていたこと。
スズ子は、羽鳥にとって最高の人形でいたかったこと。年をとってそれができなくなったいま、引退を考えたこと。

つまり、スズ子が羽鳥の音楽の最高の体現者になろうとがむしゃらにがんばったため、ブギの代名詞となり、仕掛け人の羽鳥の影が薄くなってしまったのでしょう。そんなことはなくて、羽鳥も人気作曲家になったわけですが、作曲家はセンターに立てないのはやむなし。喝采は常にスズ子が浴びています。

しかも、スズ子がブギを歌い過ぎて、ブギが飽きられてしまった。羽鳥の大事なブギが日本であっという間に消費されてしまったことが羽鳥には悔しかったでしょう。

監督と俳優とか、編集者と作家、コーチと選手とかにもありがちな、人形使いと人形問題。
朝ドラでは、夫と妻も「人形の家」を例えにその関係性を問うことが少なくありません。

雇用者と被雇用者もそうで、どうしても上下関係ができあがりがちです。そして、上になった人が下の人を思うままにする。そうではなく、皆、対等なのだという話で、音楽はまさに誰もを対等にするものだと羽鳥は思ってやってきたのに、気づけば、自分が人形遣いのようになっていたということに愕然となるのです。

羽鳥がスズ子にこれまで「ありがとうございました」と感謝を丁寧に低姿勢で言ったのは、
一方的な人形遣いじゃ決してないことの現れです。
彼もまた、スズ子に作ってもらった。

ただ、羽鳥はスズ子を人形と思っていた自覚はないとはいえ、その兆候が、前半ありました。
自分の目指すジャズやブギを体現してくれる最高のパフォーマーとして、彼はスズ子に夢中になっていましたから。スズ子が正しく表現したから、日本にジャズやブギが定着したのでしょう。

想像するに、外国の雰囲気まんまではなく、日本や大阪の民衆の要素をもったスズ子の身体に融合したから成功したのだとは思います。あくまでこれは、モデルである笠置シヅ子のパフォーマンスを見て筆者が思ったことですが。

羽鳥はほかの歌手ともつきあいがあり、いい曲をたくさん作っていますが、ここでスズ子は、これまでほかの作曲家とは仕事をしなかったとをはじめて語ります。そうなのです、モデルである笠置シヅ子も服部良一の曲しかほぼ歌っていないのです。

自伝によると、「独立してから十年間に先生以外の作曲者のものはたった二曲しか歌っておらず」とあります。すごく一途な人です。

羽鳥に、愛助(水上恒司)に、愛子(このか)に、と常に一途な人なのです。羽鳥には恋愛感情をいっさい抱くことがなかったのか、気になっちゃいますよね。

身近な人と縁遠いスズ子の人生に一番長く伴走したのが、おそらく羽鳥。ふたりが作りあげてきたこれまでの、密度の濃い道。最終回、どんなふうに楽しく終わらせてくれるでしょうか。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{最終回のレビュー}–

最終回のレビュー

歌手引退を決意したスズ子(趣里)は、羽鳥(草彅剛)たっての希望で引退コンサートを開催することになりました。

たった一日のラストコンサート、チケット争奪戦であったことでありましょう。関係者だけでも埋まってしまいそう。

実際、たくさんのなつかいしい人たちが会場に詰めかけました。
梅丸少女歌劇団の同期のリリー(清水くるみ)、桜庭(片山友希)、後輩の秋山(伊原六花)、先輩の橘(翼和希)、林部長(橋本じゅん)から梅丸楽劇団の辛島(安井順平)、初恋の人・松永(新納慎也)、元マネージャーの山下(近藤芳正)、出世した坂口(黒田有)等々。

リリー、桜庭、秋山は楽屋にやってきて、スズ子と大騒ぎ。年をとってお母さんになっても
会えば娘時代に戻ってキャッキャする。こういうのはわかりみが深いです。

当然、大野(木野花)、愛子(このか)も来ていて、今回は小田島父子(水澤紳吾、井上一輝)も客席にいます。羽鳥家も。

アメリカの小夜(富田望生)、大阪のタイ子(藤間爽子)はお手紙を送ってきています。
そして、大きなテレビ画面で目をこらして見ると……

色とりどりの花の札にはな湯、楽団一同、おでん屋(坂田聡)、下宿夫妻(隈本晃俊、ふせえり)の名前が。

ただこれは公式X(旧Twitter)で紹介されなければ、たぶん、ほとんどの視聴者が気づかなかったのではないでしょうか。

筆者は、43インチ、19インチ、iPhone15、MacBookAir13インチのモニターでそれぞれ確認しましたが、43インチでかろうじて見えましたが、あとははな湯しか可視化できませんでした。気づけませんでしたが香川の人たちからも何か送られて来ていたでしょうか。

ここが分岐点です。

気づかなかった場合、おでん屋・伝蔵と小村夫妻は行方知れずのままで、人生においてそういうこともある。ひっそりと心の片隅に思い続けて生きていくものなのだ、などとしんみり思ったことでしょう。

気付いた場合、行方知れずだったけれど、生きていたのだ、よかったとほっこりした気持ちになったことでしょう。

どちらでもいいからあえて大きく映すことはなかったのでしょうけれど(あるいは手紙のようにアップも撮ったけど編集で選択しなかったか)、伝蔵と小村夫妻の行方を解釈自由にした選択基準は適切であったのか。そこは物語を描くうえで問われる気がします。

かつて、はな湯では、熱々先生(妹尾和夫)のその後をおもしろおかしく描いていたのだから、「アメリカン・グラフィティ」方式で、その後を描いてほしかった気もします。

でも、かの「あまちゃん」だって海女カフェでの鈴鹿ひろ美のコンサートに全員揃ってなかったですから。どんなに思っていても、全員揃うなんてことは人生にもないものです。

おっと。ここだけでいつもの文字数くらいになってしまいました。

スズ子のラストコンサートのラストソングは「東京ブギウギ」。

「ブギウギ」初の生演奏で生歌の収録に挑戦したそうです。だから趣里さんのその場の感情が歌に乗っていて、いつもと違いました。

ゆったりしたアレンジからはじまって、スズ子がちらっとピアノ演奏する羽鳥を見ると、
「トゥリーツーワンゼロ」のおなじみの合図で、ぐっとテンポアップ。

観客号泣。

指揮者は服部隆之さんでした。

歌い終わって、スズ子は、手にキスすると、そのままステージの床に触れました。間接キス。昔、山口百恵さんがラストソングのあと、マイクをステージに置いて去っていったパフォーマンスが伝説になりましたが、そんな感じです。

このアクションは、実際、当時のスターさんがやったことを荻田浩一さんがヒントにしたらしいです(振付家の木下菜津子さんにYahooニュースエキスパートで取材したときに伺いました)。

コンサートが終わると、いつもの日常の食卓風景。スズ子、愛子、大野、小田島父子。
義理と人情についてひとくさりしたあと、スズ子はごはんを元気に「おかわりや!」。
最後のせりふは、大野の「やられだ〜」でした。

視聴者的にもいろいろな意味で「やられだ〜」でした。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「ブギウギ」作品情報}–

「ブギウギ」作品情報

放送予定
2023年10月2日(月)より放送開始

出演
趣里、水上恒司 、草彅 剛、蒼井 優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎 ほか


足立紳、櫻井剛<オリジナル作品>

音楽
服部隆之

主題歌
中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」(作詞・作曲:服部隆之)

ロゴ・タイトル制作
牧野惇

歌劇音楽
甲斐正人

舞台演出
荻田浩一

メインビジュアル
浅田政志

語り
高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)

制作統括
福岡利武、櫻井壮一

プロデューサー
橋爪國臣

演出
福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠 ほか