<ブギウギ ・戦後編>16週~19週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。小さい頃から歌って踊るのが大好き、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、戦後、楽団を解散したスズ子に転機が訪れる16週~19週までの記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

第72回のレビュー

第16週「ワテはワテだす」(脚本:櫻井剛)は、スズ子(趣里)は新たなターンに突入、俳優に挑戦することになりました。

新キャラとして、喜劇王・タナケンこと棚橋健二(生瀬勝久)が登場します。この人がなかなか曲者のようで……。

楽団解散から3ヶ月。いろいろ変化が起こっています。小夜(富田望生)が付き人を辞めて姿を消し、愛助(水上恒司)は大学を卒業し、村山興業に就職し、宣伝の勉強中。

髪型がぱりっとしてスーツ着て帽子かぶった姿はかっこいい。
小夜のことも、今はそっとしておいたほうがいい。気の迷いということもあると助言するところなんて、大人の配慮です(でもそのせいで、スズ子が家を見に行ったときにはすでに小夜は家を出てしまっていたのですが……)。

愛助に対して、スズ子は「これ、朝ごはんなんやから新聞閉じ」なんて、お母さんみたいです。ネクタイは窮屈と緩めているところも、母の前で息子がじれているみたいに見えました。

見た目や声は少女のようなのに、ちぐはぐなところがスズ子らしさなのかもしれません。

なにしろ「コペカチータ」という謎の歌を、羽鳥(草彅剛)に託されるのですから。不思議なリズムはスズ子にしか歌えないと羽鳥は期待をかけます。

「コペカチータ」がスズ子のモデルである笠置シヅ子の持ち歌です。「コペカチータ」とは「ラッパと娘」のなかの「バドジズデジドダ」みたいな、意味をもたない謎のワードでしょうか。羽鳥はいったいどんな曲を作ったのか、聞くのが楽しみです。

さて。タナケンこと棚橋健二は、笠置シヅ子と共演していたエノケンこと榎本健一がモデルなのでしょうか。公式ではモデルとはうたっていませんが、名前が似すぎているし、「孫悟空」や「猿飛佐助」はエノケンの代表作でもあるのです。

モデルと公言したりしなかったりの違いは何なのか気になります。以前、ある番組で聞いた話は、遺族や関係者と連絡がとれないときはボカしていたようです。「ブギウギ」のスタンスがそうかはわかりません。

それはそうと、エノケンの劇団には菊谷栄という座付き作家がいまして。「ブギウギ」で山下マネージャーを演じている近藤芳正さんは三谷幸喜さんの傑作「笑の大学」で菊谷栄をモデルにした人物を演じています。山下がものすごく熱心に、タナケンの芝居にスズ子を出させようとする様子に、「笑の大学」の近藤さんを思い出してしまうのです。

山下にタナケンとの仕事を勧められたスズ子ですが、実際に会ったタナケンは気難しく、無礼な印象。スズ子は怒りを前面には出さないながらも、断る気満々でしたが、羽鳥が音楽監督で、新曲「コペカチータ」を用意しているものだから、やるしかなくなります。
怒っていても、我慢して感情を小出しにしているスズ子は立派だなあ。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第73回のレビュー}–

第73回のレビュー

舞台の面談を終え、家に帰ったスズ子(趣里)は、タナケン(生瀬勝久)が感じ悪いという話を愛助(水上恒司)にしたところ、舞台を下りたら無口で神経質な芸人や落語家はよういると、そんなことで仕事を断るのはもったいないと言われます。

なぜかスズ子は世間知らずな感じに描かれています。育った梅丸少女歌劇団が清らかな場所だったということでしょうか。ということで、この日、久しぶりに、後輩の秋山(伊原六花)が上京してきて、旧交を温めます。

待ち合わせでスズ子を発見し、秋山は、「福来さん!」と手をぱっと上げます。この生真面目な感じは、精神のまっすぐさを感じさせます。待っているスズ子も背筋を伸ばして、上品なお嬢様ふうです。彼女たちの清らかな明るさが梅丸少女歌劇団らしさなのだと感じます。

秋山も、スズ子がタナケンと共演と聞いて、タナケンの大ファンなのだと興奮気味。それでスズ子もまんざらでもなくなり、稽古に臨みますが、やっぱり、タナケンの態度に釈然としないものを感じます。しかも、共演者からも嫌味を言われ……。

華やかな芸能界の裏側――村山興業には神経質で無口な芸人がいると愛助は言っていました。たしかに、筆者も取材でお笑いの方々に取材をしたとき、テレビで見ていると明るく楽しい人達と思ったら、うつむいたまま全然話してくれないと焦ったことが何度もあります。

見本誌の漫画をずっと読んでいた人もいました。痛い経験により、お笑いの人の取材が苦手になったこともありますが、そういうときどう対処するかがライターの腕の見せ所なのであります。

また、タナケンと違って、裏表のない、いたって穏やかな感じのいい人達もいます。とくに最近の若い世代はかつての、舞台の上と下ではまるで違うという人は減ったようです。そう思うと、舞台を下りたとき、全然違う人もなつかしく思います。

愛助の話にスズ子は半信半疑な感じですが、音楽や歌劇の世界にはタナケンのような人はいないのでしょうか。いるでしょう。ぱーっと華やかで明るくすてきにやさしそう人が、舞台を下りたら意地悪というような人。これも筆者は経験があります。この手の苦い経験談は、ライターの同業者ではよく話題になります。でも芸能人に限ったことではなく、一般人にも裏表の激しい人はたくさんいます。

話をドラマに戻します。
秋山と再会し、梅丸少女歌劇団の人たちの様子を聞いていたスズ子は、いなくなった小夜(富田望生)の姿を見かけた気がして、闇市を探しに走ります。

米兵と腕を組んでいる姿にパンパンになっているのではないかと不安に……。
稽古の帰り、小夜がサム(ジャック・ケネディ)と歩いているところを発見。

視聴者的には、あのやさしそうなサムが小夜をパンパンにするとは思えませんが、スズ子は、はなから小夜が騙されていると疑います。愛助のときの小夜とスズ子の立場が逆転したようです。

でも、もしかしたら騙されてしまったのかも……と視聴者としても気になります。「さてどうなることやら」と高瀬耕造アナの声が響いてくるようです。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第74回のレビュー}–

第74回のレビュー

舞台の稽古がはじまりましたが、スズ子(趣里)はうまくできず、共演者には文句を言われ、タナケン(生瀬勝久)からは何も言ってもらえずで。
相手にされないのはしんどいとストレスを感じます。

これまで、大和(蒼井優)羽鳥(草彅剛)も鍛えてくれたと回想しますが、羽鳥も最初は教えることなく、そうではないそうではないと言ってスズ子を戸惑わせていたはず。

喉元すぎれば熱さ忘れる。たぶん、タナケンもスズ子の演技にピンとこないけれど、彼女らしさは彼女自身が気づくしかないと思っているのでしょう。タナケンがこうして、と言ったらそれはタナケンの想定内の面白さになってしまう。想定外のものを出したいのでしょう。

だから、ほかの俳優の役を取り替えてみたら、天井を見てセリフを言ったのが想定内で面白かったということなのです、たぶん。

役を代えられてしまった俳優は、スズ子の間が悪いせいだと怒りますが、山下(近藤芳正)はスズ子に独特の可笑しみがあると励まします。それには愛助(水上恒司)も同意します。でも、洗濯物を干している趣里さんに独特の可笑しみがあるかというと、そんな感じはあんまりないような…。

趣里さんはどちらかというと、ミステリアスな雰囲気で、現在公開中の映画「ほかげ」(塚本晋也監督)の陰なイメージのほうが魅力のような……。でも、姿勢よく生真面目で、常に力の入ったキチキチした身振りは個性的ではあり、好感ももてます。「ブギウギ」で新たな面を開拓しているところと思えば応援したい。

間の良さといえば、タイトルバックに入るときの、役が代わった人のボケとタナケンのツッコミ。この鮮やかさは気持ち良いです。

過去の自分を忘れているといえば、スズ子の小夜(富田望生)への態度です。小夜がサム(ジャック・ケネディ)と仲良くしていることが許せず、ガミガミ言います。以前は、小夜に、スズ子と愛助の関係を否定され、閉口していたはずが、今回はスズ子が小夜みたいになっています。

サムがアメリカに帰ると聞いて怒り、サムが小夜にプロポーズしたら、「あかんあかん」と猛反対。でもサムはやたらと不躾なスズ子を怒らず、小夜の家族と思い込みます。

「小夜ちゃんとられるの悔しい」とスズ子。
「ブギウギ」における家族観は、過剰な愛情、手元に置いておきたいという執着のようです。ツヤ(水川あさみ)が基点になっているのだと感じます。スズ子がツヤ化しはじめています。本来、ずっと孤独で寂しかった小夜がプロポーズされてうれしい局面のはずが、スズ子がガミガミ反対して、小夜の喜びが抑制されてしまいます。不憫やわあ。

かなり極端に描かれてはいますが、意外とこういう感覚って身内の間であるように思います。親がなにかと干渉してきてぶつかってしまうということはありがち。心配だからこそ反対してしまい、でもその気持ちは相手には伝わらず喧嘩になってしまう。

このまったく洗練されていない極端にいびつで素朴な感情は、厄介ですが、味わいではあります。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第75回のレビュー}–

第75回のレビュー

小夜(富田望生)サム(ジャック・ケネディ)がスズ子(趣里)を訪ねて来ます。

サムは「お邪魔します」を「おジマします」と間違えています。そこは誰もツッコまず、スルーされています。

スズ子が小夜のどこが好きかと問い詰めたときの答えはこれ。

「小夜は素直です。正直です。チョコレート食べたい。焼きとん美味しい。私も元気なります。小夜は私の太陽です」

これが日本人同士の会話だったらふざけてるのかと思いそうですが、サムが外国人で「おジマします」とか言ってしまう人だから、ボキャブラリーが少なく、たどたどしいのだということで済む気がします。

小夜は、自分らしく生きるためにサムと新天地に向かうことを決めました。
親に捨てられ、奉公先で苦労し、天涯孤独の身でした。そんな彼女に希望を与えたのがスズ子の歌で、この人のそばにいたら、救われるとすがったところ、スズ子が優しかったのでそばに置いてもらえました。

付き人としてスズ子の世話をしながら、背中を見て、芸や振る舞いを学べば、もしかして歌手になれたかもしれません。スズ子は梅丸少女歌劇団で先輩たちのお世話もしていました。レッスンもありましたが、裏の仕事を手伝うことがスズ子の学びになったのです。

小夜は学ぶという発想はなく、ただそのままスズ子と友達のようになってしまった。スズ子が上下関係にこだわらないからでしょう。でもこのままだと、自分というものがないままになってしまうことに気づけたのが、サムとの出会いでした。

サムと一緒だと小夜らしくいられるのでしょう。チョコレートも焼きとんも食べたいものを食べて愉快に生きていける。英語の勉強もきっと、歌より楽しかったのでしょう。

どこで何をしていても、自分らしく、素直に、正直に。
スズ子のほうも、芝居の稽古で、開き直って、自分らしさ――大阪弁で芝居をはじめます。原節子のようなお上品さはスズ子らしくない。いつもの大阪弁でがなったら、ついにタナケン(生瀬勝久)が反応しました。

「僕を誰だと思っているんだい。喜劇王タナケンだよ。幕が上がりゃあ舞台は役者のものだ。玄人も素人も関係ない。好きにやればいい。何をやっても僕が全部受けてあげるよ」(タナケン)

タナケンは、おもしろいことが起これば、それをいくらでも受けて、舞台を盛り上げることができるのです。

そこからスズ子は楽しくなっていきます。やっぱり、羽鳥(草彅剛)と同じパターンです。素直に正直にスズ子らしく振る舞えば、天才クリエーターたちは刺激を受けて、力を発揮するのです。

スズ子の才能を見出し、伸ばしたということでもありますが、羽鳥やタナケンは自分の作品をおもしろくするためにスズ子みたいな規格外の存在を欲しているわけです。ウィンウィンってことですね。

相手の芝居を受けていくらでもおもしろくできるというタナケン。演じている生瀬さんもそういう俳優のような気がします。例えば、「トリック」。生瀬さんは、主演の仲間由紀恵さんの個性をもり立てて、よりおもしろくしていました。そして御本人の役が主役になったスピンオフが生まれるまでに人気が高まったのです。生瀬勝久の実力です。

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–{第76回のレビュー}–

第76回のレビュー

「舞臺よ!踊れ!」の本番がはじまり、拍手喝采を浴びました。

愛助(水上恒司)小夜(富田望生)が客席ですごく嬉しそうに見ている表情が良かった。ふたりとも、心からスズ子のステージを喜んでいるように、演技なのに、その瞬間、はじめて見たように反応していて、空気を上げていました。

劇の流れがスズ子の新曲「コペカチータ」のためのものという感じで(セット替え衣裳替えも、ど派手)、これだとスズ子中心の作品としか思えません。なのになぜ稽古のとき、脇役の人たちはスズ子を立てずに威張っていたのでしょう。

きっと彼らにも矜持があるので、人気歌手が主役的な役で来ても、媚びないということなのかも。

タナケン(生瀬勝久)のモデルとは公言されていませんが意識はしているであろうと思われる、喜劇王エノケンは浅草の演劇ですが、この劇中劇はNHK大阪局が作っているからか、どことなく吉本新喜劇調に見えました。気のせいでしょうか……。

あとでタナケンが「いいねえ西の言葉は」と言っているのは、生瀬勝久さんが関西出身なので実感がこもっています。

スズ子役の趣里さんは関東のかたで、関西弁をがんばってしゃべっていて、生瀬さんは関西出身なのに
東京の演劇人の役を演じているという、不思議なことになっています。

”自分らしく”がテーマの第16週「ワテはワテだす」ですが、実際演じている人達は、本来の自分と違うものをしっかり演じているのです。

スズ子が自分らしく大阪の言葉で演じきって、得意な歌を歌って踊って、新たな扉を開いたとき、小夜はサム(ジャック・ケネディ)と共にアメリカへ旅立ちます。

別れ際、スズ子は小夜ちゃんを「ほんまの家族」と言い、「ほんまにええ子」と大肯定していましたが、実際のところ、小夜ちゃんはとくに何もしてない、むしろ何もできない子でした。ただ、明るくバイタリティーがあること、たまに、大事なときに優しくあたたかくスズ子を慰めてくれること、など、素朴な魅力がありました。たぶん、スズ子にはそれで良かったのでしょう。

スズ子は大阪のはな湯で、ほぼ何も役に立っていないけど愛されていたアホのおっちゃんとか、一応働き者だけど素性のわからないゴンベエとか、何もしないで夢ばかり語っているお父ちゃんとかと共に暮らしてきたので、一般的に役に立つとか優秀とかいうことに重きを置いていないのでしょう。

こういう心の広さは大事だし、無償の愛を声高にメッセージ的に言わないのも、「ブギウギ」の良さだと思います。

さて、「ワテはワテ」と認識したスズ子ですが、いよいよ愛助の母トミ(小雪)が結婚をゆるしてくれそうになったものの、その条件が、スズ子のスズ子らしさを奪うようなもので……。
スズ子は、愛を取るのか、仕事を取るのか――。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第77回のレビュー}–

第77回のレビュー

愛助(水上恒司)の母・トミ(小雪)がいよいよスズ子(趣里)と愛助の結婚を認めてくれることに……と思ったがぬか喜び。それには条件がありました。

結婚を機に歌手を引退することで……。

矢崎(三浦誠己)に急にそんなことを伝えられても、はいそうします、とは即答できず。

スズ子は戸惑い、スズ子のファンの愛助はそんなこと許容できずムキになります。

ムキになるといえば、スズ子に相談された羽鳥(草彅剛)の剣幕の激しさ。歌手を辞めるなんて絶対認められないと、ふだん使っていない大阪弁で大騒ぎ。が、それは彼女のためというより自分のためであると、妻・麻里(市川実和子)が手厳しく批判します。

羽鳥は草彅剛さんのお力で”笑う鬼”というキャラを、鬼の部分をあまり気にならないようにソフトにくるんでいるので、あんまり気にならないですが、麻里が言うように、存外自分本位です。自分というか音楽本位。

すばらしい音楽のために生きている羽鳥は、価値観が一般人とはちょっと違うものの、麻里の視点によって、調子に乗らないように済んでいます。そこがいい。ともすれば、天才芸術家は一般人の気持ちがわからず、勝手に振る舞いがち。

天才芸術家に限ったことでなく、朝ドラのヒロインにも無双感によって時々、嫌われてしまうことがあります。気づきを与える人がそばにいることで、バランスが取れるのです。

スズ子も、楽団を作っても、表面的には彼らのために自分が働くようなところは見せず、愛助に夢中で楽団ほったらかしみたいなことや、香川に戻った父やお世話になった下宿夫妻のことを思い出さず、視聴者に批判されそうなところもあります。でも、趣里さんがあまりグイグイ演じず、どちらかといえば健気さが滲むので、行き過ぎずに済んでいます。

さて、麻里は、トミの条件を聞いて「どうして残酷な選択を強いられないといけないの?」と、トミだって同じ女性なのに……と疑問をいだきます。
「我慢するのはいっつも女でしょう おかしいわよそんなの」とも。

トミは朝ドラ「わろてんか」(2017年度後期)の主人公てん(葵わかな)と同じ人物をモデルにしたキャラなので、彼女の人生をおさらいしますと、吉本興業をモデルにした大阪の興行会社の御曹司(松坂桃李)と結婚し、彼が早逝したため、女手ひとつで会社を切り盛りし、大きくします。彼女の場合、はなっから夫の夢についていく感じでした。

どんなときでも笑うんやという信条で、苦しいときもニコニコして、会社の人たちのお母さんになっていたてんのことを思うと、仕事を辞める選択を強いられてもそれを受け入れるだろうと想像できます。ただ、てんとトミ、雰囲気がぜんぜん違いますが。

坂口(黒田有)が、村山興業が家族的な会社で、トミは厳しいけれど、受けなくてしょげてる芸人にみつ豆を食べさせてくれるようなあたたかみもある人なのだと言っていました。てんだったら、みつ豆差し出してくれそう。トミもきつそうですが、村山という会社を第一で、会社を守るために厳しいだけだと思います。

ここで「みつ豆」をチョイスした脚本がいい。みつ豆、なんだかほっこりします。あんみつではないところもいい。いかつい坂口の口から「みつ豆」とワードがぽそっと出るのがまた微笑ましい。

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–{第78回のレビュー}–

第78回のレビュー

結婚か歌手を辞めるか、瀬戸際に立ったスズ子(趣里)

でも愛助(水上恒司)は芸能界の日本の損失だと猛反対。それなら自分が村山の家を出ると言い出して、坂口(黒田有)を困らせます。

歌を辞めるなんて思いもよらなかったスズ子ですが、愛する愛助のためなら辞めてもいいような気持ちになっていきます。

愛助にも世界の芸人を集めたショー(「わろてんか」におけるマーチンショー的なもの)をやる夢があり、スズ子はその大きな夢を叶えてほしいと思うのです。

振り返れば、スズ子が愛助に心惹かれた瞬間はたぶん、屋台で、ショーをやる夢を聞いていたときでした。

「歌手をしてない自分が想像がつきません」と言いながら、辞める決意を固めはじめたスズ子。

家で料理をしながら「ラッパと娘」を歌い踊りはじめます。食器の音などが入った「ラッパと娘」台所バージョンです。

やっぱり歌が楽しい。ほんまに辞めるんか、とふと立ち止まり考えます。

どんなときでもスズ子のそばには歌がある。布団を干すときも歌っていました。ただ、これは、家庭で専業主婦していたって歌ったり踊ったりできるということでもあるかもしれませんが。

と、そこへ羽鳥(草彅剛)が訪ねてきました。

「福来くん、ちょっと激情にかられるところがありそうだから」

スズ子が激情にかられて歌手を辞めてしまうのではないかと心配して、やっぱり辞めないでほしいと説得しに来たのです。

「〜〜〜彼(愛助)に直接伝えたくてここに来てしまったというわけなんだ」

長い長いセリフは、羽鳥がスズ子の家に来た理由の説明でした。長い説明セリフは敬遠されるのが常ですが、草彅剛さんの話し方が楽しいので、気になりませんでした。

結局、羽鳥は自分のやりたい「ジャズ・カルメン」という、オペラをジャズミュージカル仕立てにした画期的な作品のためにスズ子が必要で、辞めてもらっては困ると思っているのです。

麻里(市川実和子)が心配するとおり、羽鳥は自分の音楽のことばかり考えています。

今度は愛助が帰ってきて、羽鳥に大いに同調。愛助と羽鳥が、スズ子をどれだけ買っているか激論(?)する場面は弾みました。好きなものについて話すときは楽しいものです。

こうなったら、スズ子が歌を辞めずに結婚することを愛助自ら母トミ(小雪)に談判に行くしかない。希望に燃えた、その瞬間、状況は一変します。

愛助の異変に、スズ子は気を失って……。

こういうとき気を失ってしまうとはメロドラマのヒロインみたいです。

スズ子の場合、どんなときでも、ワテやりまっせ的な感じで、この場合も、気丈に真っ先に駆け寄り病院病院とテキパキ動きそうな人かと思いましたが、そうではありませんでした。ここまでずっとがんばって支えてきたから、ショックが大きかったのでしょう。

ちなみに、村山興業のモデルであろう吉本興業は、戦前の昭和9年(1934年)に「マーカスショー」というアメリカから招聘したエンタメショーを行っています。チャップリンやキートンが来たわけではないですが、ダニ―・ケイが参加していました。

「ブギウギ」の世界線ではこのショーが行われたか定かではありませんが、愛助はこれを見て、僕ももっとすごいものをやりたいと思ったのかもしれません。いずれにしても愛助の夢を叶えさせてあげたいものです。

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–{第79回のレビュー}–

第79回のレビュー

こうなったら、トミ(小雪)に直訴だと愛助(水上恒司)が立ち上がった、そのとき、咳き込んで血痰が……。

働いて疲れも溜まっていて、再発してしまったのです。

再び入院した愛助のもとに、トミが血相変えてやって来て、大阪に連れて帰ると宣言します。

愛助とスズ子(趣里)を引き離そうとするトミ。結婚は認めてないけれど、スズ子はあくまで世話係と考えていたらしく、世話係としては信頼していたけれど、

「そやけど それはわての間違いでしたわ」
「そやから間違いやったわ あんたがこないなるまで気づかないのはおかしい」
と、考え直したのです。

たしかに、ずっと一緒にいたら、かすかな兆候にも気づくに違いないと思ったりもしますが、なかなかそうもいかないもので、病は突然、顔を出すものです。

ただ、愛助の場合、ちょっと咳をしても、大丈夫かなあ、と鋭敏に反応してもおかしくはないとは思いますが。とはいえ、そんなこというトミこそ、もっと早くに自分から東京に来て、様子を見るべきで。
まあ、人は勝手なもの、という話しです。

しょんぼりするスズ子に愛助は甘いものが食べたいとねだり、スズ子はがんばって闇市で買い物をしておはぎを作ります。このおはぎづくりがなんだか無様な感じで、第78回の音楽劇仕立てのお料理場面もおぼつかない感じだったのですが、あんまり家事が得意ではないのでしょうか。

そして、甘いものが食べたいで思い出したのが、以前、スズ子が愛助のお祝いに買い物に行った際、小夜がもらったチョコレートをその場で食べてしまったことです。

お祝いの食材がそろわなかった分、チョコを愛助に食べさせてあげようとは思わなかったのかなあとずっと気になっていました。今回、甘いものが食べたい、というセリフで、視聴者としては、愛助は甘いものが嫌いじゃないことがわかり、もし私がスズ子だったら胸がチクリとなった気がします。

ここでおはぎを作って食べてもらったことで、あのときの贖罪ができたような。
でも、愛助が、なんの役にも立っていないとしょげているスズ子に役割を与えてくれたと解釈します。そうかも。愛助は気遣いの人。

やりそびれたことをこの際、やる。そんな感じがしたのは、このやりとりも、です。

スズ子「お母さんは自分の命よりも愛助さんのことを愛しています ってダジャレじゃおまへんで」
愛助「わかってるがな」

このセリフも、愛助が登場したばかりの頃にあっても良さそうなネタ的なものです。やりたかったけど、尺の都合等でできなかったことを、ここでまとめてやってみた、そんな気がしました。だからこそ、よけいに、愛助の退場が近いのか?と思ってざわざわします。

愛助は、自分の体は自分が一番よく知ってるからと、大阪に帰る前に、箱根で一泊しようと誘います。

先週の予告にあったロケ場面です。筆者はてっきり、今週はずっとロケなのだと思って期待していたのですが、明日やっと抜けのいいロケシーンを見ることができそうです。楽しみ。

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–{第80回のレビュー}–

第80回のレビュー

愛助(水上恒司)が大阪に行く前に、スズ子(趣里)と箱根で一泊。
湖のほとりで、ひととき思う存分楽しむふたり。

思えば、このふたり、出会ってすぐ、戦争が激化して、それから愛助の結核が再発したりと、落ち着かない日々でした。

そもそも、トミ(小雪)にふたりの仲を認めてもらっていませんから、常にすっきりしないものを感じていたことでしょう。

相変わらずトミには認めてもらえていないし、愛助の病気も心配ではありますが、美しい風景を散策している間は、心から楽しめたことでしょう。写真もバンバン撮ります。

蓄音機とかもいいものをもっていたし、カメラもいいものを持っていそうな愛助ですから、スズ子の写真をふだんからたくさん撮っていそうですが、撮影はここで初めてです。

水上さんと趣里さんが心底楽しそうで、のびのびしていました。

愛助「スズ子さん 早く来ないと僕は消えてしまうよ〜」
スズ子「お待ちになって〜 愛助さーん」

お芝居仕立てなのでしょうけれど「早く来ないと僕は消えてしまうよ〜」はなんだかいやな予感がします。

でも愛助は、将来のことを夢見ています。子供ができたらまたここに来たい。子供は4人はほしい。
そんな夢を語ります。

そのとき、スズ子がちょっと表情を変えて、何かを話そうとしますが、引っ込めます。
ここ、しばらく引っ張ります。箱根から帰ったあと、スズ子は、山下(近藤芳正)坂口(黒田有)と仕事の打ち合わせ中、トイレに立って……。ここも意味深。

そのあと病院に行ったようで、「愛助さん、やっぱりやったで」と愛助の丹前に語りかけます。はっきりしないうちにぬか喜びさせてはいけないと思ったのでしょう。慎重なスズ子。

そして、まず報告したのは山下と坂口。彼らの表情がすごい。トミが許していないおつきあい、かつ、スズ子は仕事がいっぱい。問題山積みという顔です。

簡単にはいかない話ですが、スズ子の報告の手紙を読んだ愛助がさっそくトミに話してしまい……。
(ここで、愛助の好物がおはぎであったことがわかります)

矢崎(三浦誠己)から電話がかかってきて、
「社長、怒髪天らしいですわ」という坂口の「怒髪天」というワードが、トミのはげしい形相を想像できておもしろい。

淡々としてキレ者感のある、でも忠実そうな矢崎、見た目はこわくて押しが強いけれど、デレたらかわいいところがあって、愛情深そうな坂口、おっとりしていて調子のいい、遊びにも長けた山下と、三者三様で、村山興業の層の厚さを感じます。

基本は、トミと先代である彼女の夫の家族的な経営によって育まれてきたいい会社なのでしょう。
三浦さん、黒田さん、近藤さん、3人がキャラが立たせていて、とてもいいグルーヴ感を作っています。

今朝の「あさイチ」は、六郎こと黒崎煌代さんと林部長こと橋本じゅんさんがゲスト出演。史実では、笠置シズ子さんに牛の血を飲ませていた人がいるという衝撃の話をじゅんさんが語っていらっしゃいました。
ちなみに、史実では、笠置さんと吉本頴右さんが行ったのは、琵琶湖だそうです。ロケ地はどうやら
西のほうらしいですよ。たぶん、月曜のクレジットに出ていた長浜近辺ではないでしょうか。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第81回のレビュー}–

第81回のレビュー

山下(近藤芳正)が大阪に談判に向かいましたが、話は平行線。
トミ(小雪)はひじょうに真面目な人らしく、筋を通さないといられないようです。

まあ、たぶん、とにかく愛助(水上恒司)スズ子(趣里)の仲を認めたくなくて、屁理屈をこねているような気がします。

山下が土下座して頼んでも「くさい芝居やめなはれ」と取り合いません。

トミは忙しくて自分で愛助をかまう時間がない分、山下やスズ子のように愛助と関係性を深めた人物に嫉妬しているのではないでしょうか。

山下のことも愛助を甘やかしたとして辞めさせてしまっていました。
でも、学校に行かない愛助に演芸や映画を見せたことで、愛助は世界の喜劇人を呼んでショーを作るという大きな夢を抱くようになった。そのショーにはスズ子も参加して歌うイメージがあるのかもしれません。

世界の一流のエンターテナーを見極める目をもった愛助には、スズ子の才能も何にも代えがたいものに映っているのです、きっと。

愛助はスズ子に手紙を書き、山下はまたくさい芝居で、手紙を朗読して聞かせます。
朗読されなくても、よこしなはれ!と奪い取って読んだほうが早い気もしますが。第81回は山下さんフィーチャー回なのでしょう。

スズ子は取り急ぎ、「ジャズカルメン」をやる方向で話を進めます。
羽鳥(草彅剛)は「はらぼてのカルメン」いいかもと、「なんだかできるような気がする」と気楽に構えていますが、妻・麻里(市川実和子)は猛反対。

麻里に紹介してもらった病院で、万全な体制を組んでもらうことができました。

看護師・東役で登場したのは、友近さん。朝ドラだと「あさが来た」(15年度後期)でヒロインあさ(波瑠)に忠実に仕える女中・うめ役でした。友近さんがいると、なんだか安心感があります。場も明るくなります。これで、妊娠中の公演も大丈夫? 

麻里も「3人産んだ私が全力でスズ子さんの面倒を見るわ」と頼もしい。

よく、舞台公演が終わったあとに、実は妊娠中だった、みたいなことが明かされますが、ほんとうに大丈夫なのでしょうか。適度に動いたほうがいいとはいいますが、演劇ってけっこう動きますよね。というか、そもそも、スズ子の歌は激しい踊りが売りになっています。でも、モデルである笠置シズ子さんは実際、妊娠しながら舞台に立っていたそうです。すごいですね。滑って転んだりしなければ大丈夫ということなのかもしれません。

それにしても、スズ子は、実家の母ツヤ(水川あさみ)ももういないし、父・梅吉(柳葉敏郎)は行方知れず? で、愛助の母には反対され、唯一の味方の愛助は入院中。友人とも全然連絡をとっていなそうで、小夜ちゃん(富田望生)もアメリカ。頼れる人が全然いない状況で、はじめての出産とはじめての作品に挑むとは、かなり不安がいっぱいでしょう。全然、そういうふうに見えないように、ふわっとしてあるのは、悩みがリアルだと視聴者が見たくなくなってしまうから気を使ってくれているのでしょう。

でも、いよいよ次週は、ふわっとできない、シリアスな問題に直面しそう。覚悟して見なくては。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第82回のレビュー}–

第82回のレビュー

昭和22年のお正月。愛助(水上恒司)が大阪に戻って1ヶ月。
ひとりさみしく三鷹の家にいるスズ子(趣里)のもとへ、山下(近藤芳正)がおせちを持って訪ねてくれました。

ささやかなお料理ですが、山下の気遣いが染みます。昆布巻は「養老昆布」で「よろこぶ」。不老長寿や子孫繁栄の願いのこもったお料理。山下が、愛助の回復と無事出産を祈っているのだと感じます。

スズ子は「ジャズ・カルメン」の稽古を進めています。
羽鳥(草彅剛)は「恋をしている人が歌うと違うね」などとノリノリ。周囲も心配していたけど、小島プロデューサー(田村裕)も満足。

ええ? そうなの? ぽっこりお腹が大きい妊婦がカルメンを歌い踊る姿はそんなに魅力的でしょうか。妊婦さんを差別しているわけではなくて、心配になってしまうからです。かすかなお腹の膨らみならまだしも、ドラマだとかなりぽっこりしているので。

笠置シヅ子さんの自伝によりますと、妊娠6ヶ月で「スイング・カルメン」をやっていました。ただ、”スカートとショールと扇でカムフラージュして”と書いてあります。ドラマだと、お腹をあえて目立たせて売りにしているように見えます。

当時は目立たせないようにして、妊婦に労働させていたのでは……という芸能界の過酷さを感じたりなんかもします。

その公演前に週刊誌の記者・鮫島鳥夫(みのすけ)が稽古場に潜入し、写真を撮って雑誌に「父親は誰?」というような記事を掲載しました。

記者が逃げていくとき、小島が言う「こっちはもみ消しのプロだ」っていうセリフが芸能界と週刊誌の抗防はこの頃からあるのだなあと感じます。

雑誌に写真が載ったことで、愛助もスズ子の最近の姿を見ることができて、不幸中の幸いだったかもしれません。

愛助はなんとしても「カルメン」を見に行こうと思っていますが、なかなかそうもいかず……。

トミ(小雪)に命じられ、愛助の世話をしている矢崎(三浦誠己)だけはマスクをしているところが正直者であります。ほかの人達はなぜかマスクをしないので。それは愛助に気を遣っているのでしょうけれど。

それにしても、愛助がこんなに具合が悪いのに、結婚を認めてあげないトミの意地っ張りもどうかしている気がします。元気になってほしいなら、楽しい気持ちにさせてあげるのが一番なのに。

そして、本番、ヒロインはお腹が大きいけれど、共演者や演出や照明が本格的で、とてもかっこいいステージになりました(演出:荻田浩一先生)。遠くの席だったらお腹に気づかないかも? ちなみに、この記事のサムネイル写真はちょうどお腹が見えないようになっていて、とてもかっこよく見えます。

趣里さんも、紫の衣裳や黒いハットが妖艶でお似合いでした。目線が決まってた!
趣里さんはこういうちょっと陰影のあるもののほうが似合う気がします。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第83回のレビュー}–

第83回のレビュー

「腹ボテカルメン」として好評を博した「ジャズ・カルメン」。
愛助(水上恒司)は一目見たいと願ったものの、体調がおもわしくなく、断念することに。

自分の体は自分が一番よくわかっていると、以前、豪語していた愛助ですが、わかってるのかわかってないのか。上京して観劇などできるはずのない体調の悪さに気づいているから最後に一目見たいのか、まだ絶対に治ると希望を失っていないのか。

医者は「辛抱のしどころです」とだけ。

いずれにしても、愛助はスズ子(趣里)に心配をかけないように、風邪を引いてしまったのでいけなくなったとウソの手紙を書きます。
すごく辛いのに、弱音を吐かず、明るく振る舞う愛助が切ない。

スズ子のほうも、本当はすごく不安なのに、愚痴めいたことを手紙に書くことはいっさいありません。

スズ子と愛助の思いやる心が美しい。

感染症というと、令和のいまだとコロナ禍が思い浮かびますが、いまは、リモートでお互いの顔や声を確認できるし、なんなら演劇だって配信で見られます。

昭和は人と人との物理的距離がとても遠くて、不便でした。それと比べて、いまはとてもありがたい時代であります。

「會いたかった」「會いたかった」と手紙に書くスズ子がかわいらしくて、三十代のおばちゃんにはまったく見えず、とても若く思えます。恋をしているときは、年齢なんてないというエイジレス表現なのでしょうか。

ジャズ・カルメンの衣裳も、バレエの発表会のようにも見えなくもないのは、勝手な想像ですが、若い視聴者に感情移入してほしいと思ってのことなのかなと思います。それには趣里さんはぴったりです。

少女のような趣里さんに対して、アダルトな魅力を振りまくのが、茨田りつ子(菊地凛子)です。

千穐楽の楽屋にふいに現れ、「出た」とスズ子はおばけのような扱いをします。そこでりつ子は衝撃の告白を。

じつは、出産経験があり、産んだ子供は実家にあずけていると言うのです。

子供の父親は秘密。茨田りつ子、ミステリアス過ぎます。

これはりつ子のモデル・淡谷のり子さんの実話に基づいた設定のようですが、戦前戦後の日本はなんだか混沌としているのを感じます。東北の裕福な家に生まれながら没落し東京に出てきて歌手を目指した淡谷さん。ヌードモデルをやってお金を稼ぐこともあり、男性に酷い目にあったこともあるようです。いったいどんな恋をして、子供を産むに至ったのか。

茨田りつ子は、歌のために、子供を手元におかず実家にあずけているという、業を見せます。

子供を自分の手で育てていないことが唯一の後ろめたさだと自覚をしているりつ子の話を、羽鳥(草彅剛)は朝ドラあるある「立ち聞き」して、りつ子の歌の魅力の源泉にひとりナットクしたようです。

スズ子は、子供が生まれたらどうするのでしょうか。

目下、愛助は、籍を入れようと頑張っているわけですが……。
手紙は、ついに、封書からハガキになってしまい……。

このへんを掘り下げていくと、ものすごく重々しい話ですが、「ブギウギ」では重苦しさを極力取り除き、おそばのようにのど越し良く飲み込めるドラマになっています。

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–{第84回のレビュー}–

第84回のレビュー

「ジャズ・カルメン」が成功して3ヶ月、ということは妊娠9ヶ月。
スズ子(趣里)のお腹もかなり大きくなりました。

依然として、愛助(水上恒司)からはハガキが来るだけで、なかなか会えそうにありません。
ハガキの文面も日に日に短くなっていきます。

心配でならないスズ子。「なんやおかしい」と感じて、大阪に行こうとしますが、いつ産気づいてもおかしくない時期なので、医者は許可してくれません。

ハガキしか愛助の様子を知る手立てがないので、大阪に行ったきり、いつかいつかと先延ばしにされたまま、という状況は、もしかして籍を入れるつもりはなくてこのままなし崩し的に関係性を終わらせてしまう作戦なのでは?と不安を感じてしまいそう。

でも、愛助はほんとうに体調が悪化していて、そんな姿をスズ子に見せたくないと思っているのです。心配させたらお腹の子にも悪いと。

懸命に元気に振る舞いますが、文字は乱れるし、文面は短くなるしで、ごまかしようもないところがつらい。水上さんが、健康的なかたであることが、このとき、逆に効果的な感じがします。もともと病気がちな人はたぶん、自分の弱さを受け入れていますが、健康的な人ほど、ふいに弱っていく自分を他者に絶対に見せたくないと思いそうです。

愛助の葛藤は、健康的な水上さんが演じているかから、逆説的に切実に伝わってくる気がします。

スズ子のためにも、子供のためにも、元気になりたい。病気が回復したら体を鍛えて、親子3人で楽しく暮らしたい。そんな愛助の願いが胸を締め付けます。

東京と大阪、離れている間に、お腹はすいかのように大きくなっていきます。

思い余って、麻里(市川実和子)に相談に行きます。この日は羽鳥(草彅剛)がいなくて、ゆっくり、
女同士の話しができました。

はじめての子供・カツオがお腹にいたとき、羽鳥は音楽のことばかり考えていて、麻里は孤独でしたが、お腹の子が支えだったという話が、スズ子には支えになりました。

丹前に、愛助の無事を祈るスズ子。丹前とお腹を触れ合わせる仕草に、見ていて涙が出そうになりました。

子供ができたけど、お相手は病気で……というのは、スズ子のモデルの笠置シヅ子さんの実話です。
こんな悲しい話が実際にあったと思うと、つらくなります。そして、今、残っている笠置さんの写真や動画は、底抜けに明るい笑顔のものが多くて、こんなふうに笑っている人に、こんな悲しい体験があるのだと思うと、複雑な気持ちになりますし、笠置さんはすごい人だなとも思います。
潔癖で、恋愛経験も少なくて、仕事一筋だった笠置さんの、唯一の本気の恋だったとか。それもすごい。だからこそ輝くのでしょう。

必死にハガキを書いて、また咳して、血を吐いて……の場面の絶望感がハンパなかった。

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–{第85回のレビュー}–

第85回のレビュー

愛助(水上恒司)スズ子(趣里)へのハガキに、だいぶようなってきたとか、病院の食事が美味しい、お腹の子供の名前を考えるのは楽しみ。予定日には絶対に帰る、などと書いてきたのは、予定日が近づいてきているから、スズ子を安心させようという気遣いでしょうか。

でも、実際の愛助は、病院で用意された食事にも手がつけられなくなっていました。
スズ子も彼が無理しているのは気づいているようですが、ここまで悪化しているとは思っていなかったことでしょう。

愛助が手紙を読む声の穏やかさ明るさと、実際の表情のギャップがすごい。

病院で寝ているばかりで、治療しているのかしてないのか、手がつけられないほど悪くなってしまったのか、状況がよくわかりませんが、トミ(小雪)は「絶対に死なさへん」「大阪中の医者を集めてでも治したる」と最後まで希望を捨てません。

でも、八方手を尽くしていたようにも見えず。この病院に入院した時点で、かなり悪かったのでしょう。とにかく悲しい。

「あんた病気治したら、お母ちゃんなんでも言うこと訊いたるわ」
いやいや、トミさん。もう、いますぐ、結婚を許してあげればいいではないですか。
なんで、ここだけ、頑ななのか。

史実の、結婚を認めてもらえなかったというところを守ると、トミが、病気が治らないのをわかったうえで、結婚を認めてないみたいに見えてしまいますよね。トミとしては、希望をもたせるために、治ったら結婚、と言っているのでしょうけれど。結婚許可されて安心して、急に気力が失くなったらいけないと思ってのことなのでしょう。でも……。

そして、電話があるにもかかわらず、1回も電話はしない謎。
これもまた、電話したら、弱々しい声を聞かれてしまうという、愛助の意地なのかもしれません。

史実はどうかわかりませんが、ドラマの愛助は、弱さを見せない、強がりなところがあります。スズ子への思いやりでもあるでしょうし、それが愛助の生き方なのだと感じます。

しとしとと雨が降ってきて、愛助が危篤となり、山下(近藤芳正)坂口(黒田有)がそれを知らせるべきかどうか迷いながら、スズ子の家に来ると――。スズ子の陣痛がはじまっていて、大慌てで病院へ――。

丹前を抱きしめながら出産するスズ子。その頃、愛助は、最期の力を振り絞って手紙を書いています。
このときの、愛助の真剣な眼差しが、これより死に赴く特攻隊の覚悟の顔のように強く、美しい。

無事、女の子が生まれて、山下と坂口が大喜び。さっそく坂口が大阪に電話をかけます。このときの、
山下、坂口、電話を受けた矢崎(三浦誠己)の表情が喜びと悲しみを深く物語っていました。
とくに、坂口。冗談を言ったあとの、愕然とした表情の差異が名演技。

表情といえば、なんといっても、赤ちゃん。スズ子とみつめあう、あどけない表情に悲しみを一瞬、忘れました。

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–{第86回のレビュー}–

第86回のレビュー

赤ちゃんが無事生まれましたが、その頃、愛助(水上恒司)はすでに亡くなっていました。
出産から2日。このことをいつどのように話すか、山下(近藤芳正)坂口(黒田有)は思案にくれています。

のんきに見舞いに来ている羽鳥(草彅剛)の傍らで、なんともいえない顔をしているふたり。
その後、羽鳥には事実を話し、スズ子(趣里)にも意を決して……。

全然会えないままで、どんどん手紙の文面も乱れ短くなっていて。それでも、まさか亡くなるとは思ってもいなかったスズ子。ふたりの報告を聞いて、言葉もありません。

一晩ずっと、眠れない状態で過ごします。

翌朝、矢崎(三浦誠己)が大阪からやってきます。愛助から預かった、スズ子の名義の預金通帳と、最期の手紙を渡します。

手紙には愛助がつけた子供の名前が書いてありました。

子供に名づけたことと預金通帳を残したのは、スズ子のモデルである笠置シヅ子さんの史実にもあることです。

笠置さんは大スターで、お金がありそうですが、9歳も年下の吉本頴右さん(愛助のモデル)がせっせとお金を溜めて結婚後の生活のことを考えていたことが、誠実な人柄を感じさせるいい話でありませんか。

手紙には、箱根旅行での写真も同封してありました。愛助の屈託のない笑顔と、手紙の「ごめんなさい」の言葉が胸を打ちました。

愛助がつけた名前は、男の子だったら、強くなってほしいから「兜(かぶと)」、女の子だったら、愛にあふれてほしいから「愛子」。
こんな状況ですが、女の子でよかったと思ってしまいました。いや、「兜」も悪くはないですが……。
「ブギウギ」は、どんなにシリアスな展開でも、どこかに、ふわっと違う手触りを入れてくるのが特徴です。山下と坂口の振る舞いもそのひとつです。また、産婦人科の壁に貼ってある妙に存在感のある動物たちの絵もそんな気がします。それらが救いになっています。

ちょうど愛子が泣き出して、スズ子は「愛子」「愛助さん」と交互に名前を呼び、愛子と一緒に生きていこうと決意します。

愛助が亡くなったことはとても悲しい。けれど、子供を残してもらって、「愛」の字を受け継げて良かった。
これが、創作ではなく(名前は違いますが)、実際にあったことなのですから、まったく事実は小説より奇なりです。

史実といえば、笠置さんの自伝に、頴右さんがラッパを吹いて、笠置さんが歌う夢を見たと書いてあります。ドラマでは、夢は夢でも、親子3人で楽しく暮らしている夢でした。シャボン玉が空に舞い上がる画がすてきで悲しい。

スズ子は夢うつつのなかで、子守唄のように「ラッパと娘」を愛子に歌って聞かせます。いつものパンチのある「ラッパと娘」とは違った、スズ子の、シャボン玉のようにすぐに空にかき消えてしまいそうな繊細な声が涙をそそります。

この歌は、一見、ノリノリで楽しそうですが、「悲しいお方も」と悲しい人にも歌いかけているもので、ものすごく悲しいなかで歌って悲しみを吹き飛ばすもの。

実のところ、悲しみに寄り添ったバージョンこそ、この歌の本質ではないかという気さえします。そして、そっちのほうが趣里さんの声には合っているような気がします。

趣里さんの主演映画『ほかげ』は彼女の特性・憂いが全面的に生かされた映画です。が、得意な憂いばかり演じるのではなく「ブギウギ」では、あえて、憂いを乗り越える演技に挑んでいる。そこが、このドラマの意味なのだと思います。

次週は、悲しみを乗り越え、新たなフェーズにスズ子が向かいそうです。
羽鳥はいても立ってもいられず、スズ子のところに行こうとしたとき、麻里(市川実和子)が「スズ子さんがあなたを必要とするときが来る」と言っていましたが、そのときが来るのでしょう。

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–{第87回のレビュー}–

第87回のレビュー

愛子が生まれて3ヶ月、ということは愛助(水上恒司)が亡くなって3ヶ月。
スズ子(趣里)は、居間に、母ツヤ(水川あさみ)や愛助の写真を並べて、手を合わせます。

愛子に授乳しているときに、山下(近藤芳正)がやって来て、「すんまへんこんな格好で」と照れるところは、母親あるあるで微笑ましい。生々しく授乳の画を見せなくても、なんとなく伝わってくるものがありました。

山下はかしこまって、これからは「スズさん」と呼ぶと切り出し、スズ子はプロポーズかと思ったと返します。

愛助を失い、ひとりになったスズ子を支えようと、山下は強く決意したのでしょう。

「スズさん」とは、より親しみを込めたことと、あと、これまで「福来さん」と呼び続けたことは、愛助との結婚を認めてなかったようなもので、ちょっと反省したのかなと想像しました。でも「村山さん」ではないので、「スズさん」。

ようやく、”家族”のようになったということなのでしょう。トミ(小雪)の考える会社と家族が一緒な感覚。

山下はそろそろ仕事を……と勧めますが、スズ子はまだそんな気になれず……。ひとりになると泣いてしまう。でも懸命に泣かないように務めるのです。

と、そこへトミが訪ねてきました。最初は、村山興業にスズ子が呼び出されたのですが、行く前に、トミのほうがやって来ました。それは、育児が大変なスズ子を慮ってのことです。

「お母ちゃんかて行きとうないわ」と言っていたら来てしまうという間の悪さ。

小雪さんの赤ちゃんの抱き方は堂に入ってました。

「わては間違うてたんやろか」と問いかけるトミ。うん、間違えてたと思うぞ。結婚を許してあげるべきだった。

しばし自分語りをし、反省するトミに、スズ子はこう言います。

「家族や夫婦に間違いなんてあらしまへん」
(スズ子)

家族や夫婦に間違いなんてない。なかなか寛大な考え方です。とすれば、家族や夫婦に限ったことでなく、誰にも間違いなんてないと思いたいところです。

ようやく、トミとスズ子の対立が終了(一方的なトミの対抗心ではあったわけですが)して、雪解けと思ったところへ、トミは愛子を引き取りたいと言い出します。一瞬、ひやっとなりました。

でも、当然、スズ子は断り、トミはあっさり折れ、「また歌うてくださいね」と優しく語りかけます。

「あんさんとわてはおんなじ男をとことん愛した仲や」
(トミ)

山下のプロポーズにも似た「スズさん」呼び。トミの「おんなじ男を愛した仲」と、家族や夫婦に間違いなんてない、という考え。短い15分のなかに、これでもかと描き込まれた濃密な人間関係。決してこれがスタンダードではないと思うのだが、こういう生き方をしている人たちも確かに世の中にはいるのだろう。

愛助を挟むと母特有の嫉妬心や独占欲や、会社の社長としての強烈な理念がもたげてくるものの、個人的には福来スズ子の歌は好き。愛助がいなくなったら、素直に歌は応援できるのです。
まったく人間とは、感情によって矛盾をたくさん作り出し、一筋縄ではいかないものなのです。

でも、そこに間違いなんてない。

そして、正しいということもない。

全部、そういうものとしてしか存在しない。

トミとスズ子がちゃぶ台を前に向き合って、話す。ただその形があるだけ。

そして、スズ子は、また歌いはじめるのです。

第19週のサブタイトルは「東京ブギウギ」。

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–{第88回のレビュー}–

第88回のレビュー

トミ(小雪)と和解し、「また歌うてくださいね」と言われたスズ子(趣里)
愛子のためにも再び、歌おうと考え始めます。
そこで、羽鳥(草彅剛)を訪ね、新曲を作ってほしいと頼みます。

スズ子はこれまで、一度たりとも、自ら積極的に、歌を作ってほしいと言ったことのなかったので、羽鳥はびっくり。それだけスズ子が生きなくては、と強く思っている証拠に違いありません。

ツヤ(水川あさみ)、弟・六郎(黒崎煌代)愛助(水上恒司)と、大切な人を次々亡くしたスズ子。それでも愛子のために生きなくてはいけない。

しんどいことを微に入り細に入り描くことを避けているかのような物語で(たぶん、視聴者がしんどいものを受け入れることが苦手なので)、スズ子の苦悩があまり詳細に描かれていませんが、自ら新曲を望む、という行為で、スズ子がいかに追い詰められて、現状を打破しようと考えているかが伝わってきました。

急に母になったスズ子。見本になる母はとっくにいないし、身近にも、女性が少ない(おっさんが多い)。
そんなとき、麻里(市川実和子)が手をさしのべてくれます。

愛子が熱を出したりして、スズ子がもう手一杯になっているところへ、麻里が手伝いに……。

「気持ちええ なんちゅう楽なんや〜」
久しぶりに、布団に大の字になって眠るスズ子(布団の気持ちよさがひしひしと伝わってきました)。
目が覚めたら、台所で麻里が働いていて、それがツヤに見えてくるのです。

市川さんが、すごく楽しそうに、手慣れた感じで家事や育児をしていて、ひだまり!という感じで素敵でした。

その頃、スズ子は、ツヤとトミが亀をめぐって喧嘩している夢を見ていました。

スズ子はいま、自分が”母”になったことによって、母の存在を改めて実感しているようです。

「美味しいですわ 何もかも美味しいですわ」と大喜びのスズ子。

根菜は母乳にいい、という話や、散歩の話など、さりげない会話がよかった。これを書いたのが男性脚本家であるのが、すこし不思議な気もしました。

男性女性を分けてはいけない時代ですが、これまでの朝ドラでは、男性脚本家の書くものは、男性のもつ社会的関心事のようなものが節々に出てきて、家事育児に関する描写に積極的ではなかった気がします。

例えば「なつぞら」(2019年度前期)では、ヒロインのはじめての育児の大変さは、ナレーションで語られていましたが、いささか説明的で、このあたりでヒロインの子育てを書かないといけないというプラン感のようなものが前面に出てしまい、書きづらいのかなと感じたものでした。それが「ブギウギ」では、実感が伴う会話になっていた。育メンが当たり前になってきた時代の変化を感じます。

子供が子供を愛でる描写も、ちょいちょい出てきて、それもすごく日常にある風景だなとおもいます。

休んで少し落ち着き、満たされたスズ子は、愛子に、昔、ツヤが歌ってくれていた『れんげつもか たんぽぽつもか」の子守唄を歌います。この歌によって、スズ子が”母”になっていくのを感じさせます。

子守唄はもともと実の母が歌っていたものでしたので、スズ子は実の母キヌ(中越典子)のことも思い出したのかもしれません。

思えば、スズ子は、実の母から離れ養父母に育てられた身の上。今回、愛子も、父である愛助が亡くなって天涯孤独。トミに引き取られることははっきり拒否し、ひとりで育てていくことにしたいま、ひとりで育てることができなかった実の母の気持ち、育ててくれたツヤの気持ちをいま、ひしひしと感じる――そんな場面なのではないでしょうか。

ところで。生意気な反抗期だったカツオ(中谷悠希)がいい子に変わっていました。近所にいい見本になる年上の人がいるらしい。そうやって子供は影響を受けて成長していくのですね。

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–{第89回のレビュー}–

第89回のレビュー

思わせぶりに足元が映って、梅吉(柳葉敏郎)が香川から三鷹にやって来ました。

お父ちゃん、テンション高くて、場がぱーっっと明るくなります。羽鳥(草彅剛)もそうで、柳葉さんと草彅さんが「ブギウギ」を明るくしてくれてるなあと感じます。

新聞の集金と偽って玄関を開けたら、ホンモノの新聞の集金がいたという間の悪さ。第87回の「プロポーズかと思った」などもそうで、「ブギウギ」は、あえて滑った笑いを描いている気がします。そこが新鮮だし個性的。たしかに世の中、そんなにうまいことおもしろいことの言える人は多くはないです。うまく言えたらプロになっているでしょう。

「生きとったか 知っとたけどな」と、離れていた間もスズ子(趣里)と梅吉が連絡をとりあっていたことをさらっと一言で済まします。

本日、各所で出ているネットニュースに、手紙のやりとりはしていた裏設定があると出ていると思います。筆者もそういう記事を書きました。そう、梅吉とスズ子は手紙のやりとりをしていたようです。

梅吉の口から、おでん屋台の伝蔵(坂田聡)、下宿の小村夫妻(ふせえり、隈本晃俊)はどうしているのか、という疑問が出ました。いままで誰も口にしなかったことを梅吉が言う。一瞬、ホッとしましたが、皆さん、行方知らずのようで、ショック。伝蔵は屋台を閉めてそのあとわからないというニュアンスではありましたが。

行方知らずだからこそ、誰も口にしなかった。そして距離のある梅吉だから言えたという設定でしょうか。このように微妙に繊細な気遣いがたまに見え隠れするのですが、そうかと思うとベタなところも多く。ベタな表現と繊細な表現のバランスは少し気になるところではあります。でもそれも個性。

トミ(小雪)麻里(市川実和子)、梅吉と順々に来て、手助けや励ましをスズ子にもたらす週。これはすこし寓話的にも見えます。

久しぶりに、食卓を囲む父と娘。一生くいっぱぐれないように、とお食い初めの儀式を愛子にする梅吉。のんきに何もしないでいたようだった梅吉も、こういう伝統を知っていて、スズ子に伝えるのです。さらに「子育てはもっと優雅にのんびり」と助言も。

「孫より我が子のほうがどんだけかわいいか」と、スズ子を気にする梅吉の率直さと、いまだにツヤの不在を抱え立ち直れていない梅吉とスズ子は、愛する者に先立たれた者同士として、唯一、スズ子の喪失を受け止められる存在になります。でも、ここでも、それをことさら強調しないで

梅吉「かわいそうやなわし」
スズ子「自分かいな」

と茶化す。そこが良さです。

梅吉はついに、写真館をやって繁盛させて、お小遣い(祝儀)も娘にわたすことができました。

スズ子「ありたがく」
梅吉「もらうんかーい」

のタイミングもばっちり。

そして、別れの花吹雪。
いかにも商業演劇の花道コーナーのように大きく盛り上げることなく脱力の効果音でさらっと終わるのも良かったです。

こうして、スズ子復活の下地が着々と作られます。

羽鳥は、スズ子の頼まれた新曲をひねり出しながら、これまでのことを思い出して……。

場面変わって、なぜか急に列車の中。

通勤に疲れた人たちの姿と、列車のリズムから、何か閃く!

下車して喫茶店に飛び込み、紙ナプキンに譜を書き出し、スズ子の家に駆け込んできて……。

この状況を整理すると、作曲に悩み、スズ子の家に行こうとして三鷹行きの列車に乗っていたということでしょうか。羽鳥のモデル服部良一さんの自伝を読むと、ほかのお仕事の帰り、電車のなかで、閃き、途中下車して、喫茶店でナフキンをもらって書き留めたとありました。ドラマも別日なのかもしれません。

生まれた曲は「福来くんの復興ソングであると同時に日本の復興ソングでもあるんだ」
(羽鳥)

という「東京ブギウギ」、早く聞きたい。

「これ(作詞)は藤村じゃないよね」の藤村は、「センチメンタルダイナー」の作詞をした、宮本亞門さんが演じていた人。彼もいま何をしているのか。何をしているかといえば、梅丸楽劇団の制作部長の辛島(安井順平)はどうしているのか。頑なに語られない人はあとから出てくる法則と考えたら、いつか出てくる?

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–{第90回のレビュー}–

第90回のレビュー

列車のなかで閃いて、喫茶店で紙ナプキンに書き込んで、完成した「東京ブギウギ」。

コロンコロンレコードの佐原(夙川アトム)もこれは売れるとやる気になり、どうやって売り出すか考えます。まずはレコードか。と、山下(近藤芳正)がレコーディングのとき、本場の米兵に聞かせたらどうかと提案し、あれよあれよという間に、そういう流れに。

前例のないことをやってみるという企画にワクワクして小躍りする、羽鳥(草彅剛)と山下のノリがいい。坂口(黒田有)とふたりのときも軽妙だったし、近藤芳正さんがノリを引き出しているんじゃないかと感じます。その場が躍動、活性化することが大事なのです。

羽鳥が作詞を依頼したのは、「センチメンタル・ダイナ」の藤村(宮本亞門)ではなく、丸い眼鏡の鈴木ちゃんという人物で、羽鳥は「鈴木ちゃん」「鈴木ちゃん」と気安く呼びますが、スズ子(趣里)はピンと来てない様子。でも会ったことがあると羽鳥は言います。

いろんな人の安否は語らないけれど、出てこない「鈴木ちゃん」についてはこんなふうに
情報をセリフにぶっ込んでくる自由さ。これぞブギウギなんでしょうか(ウソ)。

鈴木ちゃんという人のモデルは、鈴木勝という人物で、ジャーナリスト。仏教哲学者・鈴木大拙の息子でした。結果的には、羽鳥のモデル・服部良一と共作になったようですが(服部良一の自叙伝より)。

そこで生まれたのは「ズキズキワクワク」という謎のワード。ウキウキワクワクではなく「ズキズキワクワク」。「ズキズキ」のインパクトが強烈であります。

そして、米兵さんに歌を聞かせる日。ガタイがデカくて無愛想な米兵さんが集まってきます。スズ子は空元気を出しながら、歌うと、米兵さんはノリノリ。

スズ子「兵隊さんも楽しんで!」
しーん
スズ子「笑てえや」
の間合いが面白かった。

米兵の反応に、これは絶対にイケると確信した佐原は、コンサートと同時にレコード発売を決めました。

その日を楽しみにしながら、有楽町の街を歩くスズ子と山下。ガード下は、復興の最中で、まだ少し、荒みながら、人々はなんとか生きようとしています。

いまは終戦から2年め。
復興描写はもっと前から描いていてもよかったのではないかと思ったので、ヤフーニュースエキスパートで、制作統括の福岡利武さんに取材したところ、スズ子の住んでいる三鷹では空襲がなかったので焼け跡が描けなかったとのことでした。

正直、唐突に出てきたなあとは思いましたが、「東京ブギウギ」を中心に描くことを選択したのでしょう。

スズ子の前に靴磨きの少年・達彦(蒼昴)が現れました。「おばさんお金持っているでしょう。いい靴履いてるもん」と話しかけます。「あさイチ」では博多大吉さんが少年のかわいさに注目していました。

この少年のように、街には貧しい人たちが溢れていますが、スズ子たちはとても恵まれているほうなのです。スズ子は愛する人を失ってしまったけれど、経済的にはかなり恵まれている。日本には、もっとたくさんのものを失った人たちがそこらじゅうに存在しているのです。

朝ドラではたいてい、主人公が戦争で経済的にも困窮することが多いのですが(「おしん」は夫が軍需景気で潤っていましたが)、そうではない側を今回は描いているようです。

戦後、芸能界の人たちは、存外、恵まれていたということでしょう。たしかに、いまだって芸能人は超富裕層です。だからこそ、貧しい庶民をひととき慰める歌を作る義務がある。

「生きる希望になるんやから」と愛助(水上恒司)も言っていました。

さあ、スズ子、ズキズキワクワクさせてくれ。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第91回のレビュー}–

第91回のレビュー

コンサートのための稽古が続きます。
が、スズ子(趣里)は愛子を連れて稽古場に来ているため、愛子の世話をするため何かと稽古が止まってしまいます。

コロンコロンレコードの佐原(夙川アトム)は、子守を雇う費用も辞さないのですが、スズ子はできるだけ自分で面倒を見たい。

羽鳥(草彅剛)麻里(市川実和子)に頼めばいいと言いますが、スズ子は3人もの育児をしている彼女には頼めないと気遣います。

抜本的な解決策がみつからないでいると、茨田りつ子(菊地凛子)がやって来て、みんなで面倒見ればいいじゃないと一刀両断。

りつ子はこれまでのことを見てないから仕方ないですが、山下(近藤芳正)なんて、かなり協力的なのに、男性陣が全然協力してないって論調はどうかと。

バックダンサーの女性陣もいるし、レコード会社や興業会社の女性社員も少しはいるだろうし、みんなが少しずつ協力する流れを描いても良かった気がします。佐原や小島(田村裕)が気が利かない人たちの役割を担うのはありで。

モデルの笠置シヅ子さんはどうやって、こういう状況を乗り越えたのでしょう。
「自分勝手なんだよスターさんは」と文句を言ってる関係者の声を黙って耐える、悲劇のヒロインのようだったのか。それとも、すんまへんなあ、これでも食べてとお弁当を奮発したりしたのではないか。こういうときは、うな重や、いまなら叙々苑焼肉弁当を出すしかないと思うの。

とにかく、できるだけひとりで育てたいスズ子。
いっときも離したくないのだと、りつ子に言います。それは、自分がもらいっ子だったから。

おそらくですが、ツヤ(水川あさみ)がスズ子を実母から預かったっきり、そのままにした体験が、スズ子の頭にこびりついているのでしょう。

自分自身が、他人のツヤにすっかりなついてしまったわけですから、愛子を誰かに預けたら、自分と同じになりかねない。その心配が強烈にあるのでしょう。

情を育てるのは、血ではない、一緒に過ごした時間なのです。
だからこそ、みんなで育てるということも可能なのです。

この状況を見ていると、NHK大阪局は、「まんぷく」(2018年度後期)のときから、スタジオに託児所施設などを準備して、育児しながら出演できるようにしたことを思います。「まんぷく」のヒロイン・安藤サクラさんが、大阪に子連れで来て、主演をやりきった。そういう実績があるから、仕事しながら育児する母親を、みんながバックアップするという考えには説得力を感じます。

さて。いよいよコンサート当日。
昭和23年1月、本番前の楽屋で、スズ子はばっちりつけまつげをつけて準備万端にしていると、りつ子がやって来て、本番中は愛子を見てくれることになりました。

このシーンは、第1話の冒頭の印象的な場面ですが、再撮したそうです。
菊地凛子さんの表情がかなり初回と違っています。

りつ子は、スズ子とは正反対で、自分の子を実家に預けっぱなしで、仕事を選んでいます。その贖罪なのか、愛子を丁寧に面倒見ます。ちょっとイイ話ふうですが、これをりつ子の実子が見たら、拗れそう。私のことは面倒見てくれず、他人の子は面倒見るのかよって。

みんないろいろ事情があり、すべてをきれいごとにはできないもの。
そんなとき、ガード下に、タイ子(藤間爽子)の姿が……。結婚して東京に出ていき、ツヤが亡くなったとき、妊娠していた彼女はいま、何をしているのか……。なんだか様子がおかしい。

やっぱり、まったく語られていない人はあるとき、ふいに出てくる法則が朝ドラにはある気がします。

【朝ドラ辞典  消息不明(しょうそくふめい)】
朝ドラでは、途中で出てこなくなる登場人物がいる。それまで濃密に主人公に関わっていたにもかかわらず、その後、まったく話題にのぼらなくなるので、視聴者があの人はどうしたのか、手紙のやりとりくらいしないものだろうかと、毎度やきもきする。しばらくすると、ふいに再登場し、実は手紙のやりとりはあったということが説明されたり、されなかったり。推測にすぎないが、あの人どうしているんだろう、と思い出してもらうために、あるいは、サプライズ的に再登場したときの喜びを大きくするため、あえて消息に触れないようにしているのではないか。
関連語:【後出し (あとだし)】【再登場 (さいとうじょう)】

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「ブギウギ」作品情報}–

「ブギウギ」作品情報

放送予定
2023年10月2日(月)より放送開始

出演
趣里、水上恒司 、草彅 剛、蒼井 優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎 ほか


足立紳、櫻井剛<オリジナル作品>

音楽
服部隆之

主題歌
中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」(作詞・作曲:服部隆之)

ロゴ・タイトル制作
牧野惇

歌劇音楽
甲斐正人

舞台演出
荻田浩一

メインビジュアル
浅田政志

語り
高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)

制作統括
福岡利武、櫻井壮一

プロデューサー
橋爪國臣

演出
福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠 ほか