「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第49回を紐解いていく。
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歌うことは生きること
「この世がどうあろうと絶望にうちひしがれようと、歌うことは生きること」
(茨田りつ子)
「生きることは食べること」は「ごちそうさん」(13年度後期)でしたが、「ブギウギ」では「歌うことは生きること」。
いよいよ、スズ子(趣里)と茨田りつ子(菊地凛子)の合同コンサートの当日です。
まず、茨田が挨拶して、一曲。「この世がどうあろうと絶望にうちひしがれようと」と茨田は「雨のブルース」を歌います。降りしきる雨と人生を重ねた重苦しい歌を、凛とした声で歌うことで、つらい運命に抗う気持ちになります。
次は、スズ子。羽鳥(草彅剛)の作った新曲「大空の弟」。前奏は空に向かうような
高らかに勇ましいリズムですが、ピアノ1本で厳かな響きに中和されています。いやむしろ、厳かな印象が強くなっています。
歌詞は、お国のために戦地に赴き亡くなった弟への感謝と哀しみが切々と綴られています。
スズ子は「この歌は宝物や」と楽譜を愛おしそうに見つめていました。ご時世に気遣って、あくまでも、戦争に尽力した弟のために残された者は今、生かされているという兵隊さんへの感謝で、軍にとても敬意を払って聞こえます。が、一方で、弟の様子を知りたくても、新聞などでは◯◯◯部隊、◯◯◯地域などとぼかされていてわからないという嘆きも書いてあります。
素直な嘆きとして捉えてもいいし、そんなふうなことをする体制批判にもとれます。そう思うと前半の感謝も、感謝はしているけれど、そのなかに沸々と、なんでこうなったのかという困惑や、誰にぶつけていいかわからない怒りのようなものも感じられる気がして。羽鳥は、みごとに、世界の矛盾をこの歌に込めたと思います。
スズ子が「宝もんや」とあまりに素直に微笑んでいるセリフと表情にやや違和感も覚えるのですが、スズ子はあくまで純真な人で、アグレッシブなのは茨田が担当しているのかなという気もします。
実際に、趣里さんがステージ上で歌った音が使用されていて、感情が乗っているので
「大空の弟」は泣けてくるのですが、筆者的には、「大空の弟」を歌いきって、ステージに崩れ落ちながら、羽鳥に励まされて再び立ち上がり、歌い始めた「ラッパと娘」で涙腺が崩壊しました。
「大空の弟」のなかにある矛盾、抑圧が強ければ強いほど、「ラッパと娘」の理屈じゃない、陽気な音や濁音のワードが感情を押し出します。悲しいとか悔しいとかいう一言では表しきれない濁流のような感情。それが涙。叫び。
観客も待ってました!と大盛りあがり。
羽鳥のどんなときでも楽しむという思いは、まさにこれでしょう。悲しみのエネルギーに取り込まれ、心もカラダも動かなくなってしまうのではなく、歌って踊ってプラスの、生きるエネルギーに転換する。これがジャズ。知らんけど。
梅吉(柳葉敏郎)も客席でちょっと元気になっていました。六郎の亀を抱えていました。六郎の幻も出てきました。
昨日まで、一般大衆はイケイケ戦争ムードで、あまり抑圧されてるようには見えなかったので、スズ子や茨田や梅吉ほど、歌に救われた感じがしなくて。もっとスズ子や茨田の歌が、疲れ切った大衆の心を動かすほうがドラマチックではないか、と思ってしまいがちですが、他者を扇動する行為に対して極めて慎重になっているように感じます。
どんなときでも、誰でも、他者を動かすことなどおこがましい。自分が考え、自分で感じ、自分で動き、自分で変える。
スズ子は、自分の絶望を、自分で解消した、というお話なのです。
そして、観客の私たちも、自分で感じて、自分で立ち上がって、踊れ。
「大空の弟」は、羽鳥のモデル・服部良一が、スズ子のモデル・笠置シヅ子のために実際に作った数少ない軍歌で、音源は残っていないものを、孫で同じく作曲家の服部隆之さんが楽譜を読み解き、編曲したもの。歌詞も、実在のものから少しドラマ用にアレンジしたそうです。
(文:木俣冬)
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–{「ブギウギ」第10週あらすじ}–
「ブギウギ」第10週あらすじ
スズ子(趣里)は自身の楽団を旗揚げする。しかし、ジャズは敵性音楽だと言われ公演の機会は全く無かった。一方、りつ子(菊地凛子)も何度も警察に捕まり、自由に歌える場所は減っていた。ある日、スズ子と梅吉(柳葉敏郎)のもとに六郎(黒崎煌代)に関する知らせが入る。スズ子は動揺し、歌をうまく歌えなくなってしまった。そんな状況を見た善一(草彅剛)は、スズ子とりつ子の合同音楽会を開こうと提案する。
–{「ブギウギ」作品情報}–
「ブギウギ」作品情報
放送予定
2023年10月2日(月)より放送開始
出演
趣里、水上恒司 、草彅 剛、蒼井 優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎 ほか
作
足立紳、櫻井剛<オリジナル作品>
音楽
服部隆之
主題歌
中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」(作詞・作曲:服部隆之)
ロゴ・タイトル制作
牧野惇
歌劇音楽
甲斐正人
舞台演出
荻田浩一
メインビジュアル
浅田政志
語り
高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
制作統括
福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー
橋爪國臣
演出
福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠 ほか