<ブギウギ ・恋愛編>11週~15週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。小さい頃から歌って踊るのが大好き、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、梅丸楽劇団から独立したスズ子が戦争が続く中で運命の相手・村山愛助と恋に落ち、戦中を生き抜く11週~15週の記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

第51回のレビュー

第11週「ワテより十も下や」第51回は、昭和18年6月5日、山本五十六海軍元帥の国葬が行われた日からはじまりました。

山本五十六とは開戦きっかけになった真珠湾攻撃をはじめた人です。ラバウル基地を立った山本がソロモン諸島ブーゲンビル島の上空で搭乗機を米軍戦闘機に撃墜されたのは4月18日のことでした。

チズ(ふせえり)は「行軍は無敵なのに元帥死んじまって大丈夫か」となかなか毒のあることを言う。警察に連れていかれないか心配になります。が、もはや、戦争に勝ったら景気がよくなるなんて浮かれてはいられない状況です。

戦争の終わりは見えず、子供たちも戦争に協力的に育てられている印象。この状況を語る「ブギウギ」のナレーションが、NHK の高瀬耕造アナであった必然性を、戦争関連の解説で感じるのもなんだか皮肉めいていますが、アナウンサーらしい淡々とした語りが、感情ではなく情報を伝えているのがいい感じです。高瀬アナは冷た過ぎず、あったか過ぎずで程よいです。

スズ子(趣里)は楽団員たちと地方公演に精を出しています。

愛知にやってきたスズ子は地元の人たちに歓待されます。営業スマイルで地元の人たちと握手、握手、握手。

ステージでは羽鳥(草彅剛)が餞別に作ってくれた「アイレ可愛や」を歌い、客を喜ばせます。牧歌的なこの歌は、趣里さんの声質にも合っているように思います。

好評のうちにステージを終えて楽屋でホッとしていると、一人の学生(水上恒司)が連れてこられます。なんだか挙動不審というか不器用というかで、へんな人という印象ですが、スズ子は亡くなった六郎(黒崎煌代)を思い出します。とても純粋そうな瞳が似ているような気もします。

学生はその後、スズ子の泊まる宿にも現れます。タイミング悪く、小夜(富田望生)が宿代を紛失してしまい大騒ぎになっているときで、小夜は彼を疑ってかかります。いや、お金もってたら、わざわざ訊ねてこないでしょう。

濡れ衣を着せようとしたお詫びに、スズ子は彼を夕飯を一緒に、と誘います。そこで、スズ子と同じ大阪出身であることがわかり、「島之内」「ああええとこやな」みるみる距離が縮まって……。でも、年齢が、10歳も違うので、スズ子はあくまでも弟のような気持ちになっています。

小夜はなぜか、あからさまな敵意をむき出しに。番犬が見知らぬ人物を警戒しているみたいです。富田さんのくるくる変わる表情がいい。

あと、今週、急に活躍をはじめたのは、五木(村上新悟)です。やたらと低い渋い声の人物ですが、地方公演の地域ごとに、懇意な女性がいるらしい、モテ男であることを隠しません。なんか、いい声すぎて胡散臭く、エア恋人なんじゃないかと疑ってしまいます。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第52回のレビュー}–

第52回のレビュー

スズ子(趣里)の前に突然、現れた青年・村山愛助(水上恒司)
スズ子の大ファンだと言います。
梅丸楽劇団での「ラッパと娘」を見て、心打たれたことを滔々と語ります。
真面目に褒めながら、「こんなおもろい生き物」と言ってしまうところもご愛嬌。

不器用だけど、好青年ふう。宿代の半分も出して去っていった愛助は何者。
偶然、帰りの汽車でも乗り合わせます。
でも小夜(富田望生)は泥棒呼ばわり。追いかけて来たに違いない、「この世に偶然はねえ」と疑います。

混んでる汽車のなかで、泥棒、泥棒と、証拠もないのに大騒ぎするのは、感心しません。
同席の少女チセが愛助をかばいます。お芋もくれたと。

スズ子は、貧乏な学生さんと思い込んでいますが、宿代は半分払い、芋を譲り、と気前がいいというか、羽振りがいいというか。

その愛助を、たまたま居合わせた軍人が「坊っちゃん」と呼び、うやうやしく接します。
なんと、愛助は有名な村山興業の御曹司でした。

お金持ちだから宿代の半分くらい払えてしまう。でも、けっしてえらぶらず、むしろ謙虚。おとなしいのは、食事の席で「僕は戦地は……」と言っていたので、カラダが弱くて戦地に行けないのかもしれません。そこが六郎(黒崎煌代)とは違います。しかし、スズ子は、六郎を亡くしたのに、戦地に行くでしょ、と世間話のように切り出すのが意外な気もしますが。

村山興業の御曹司と聞いた途端、五木(村上新悟)が態度を急に軟化させます。まったく調子のいい人です。

汽車で偶然、隣り合わせる、知り合いの軍人が現れる……と、これは、朝ドラ名物「ご都合主義」
であります。それはともかくとして、村山興業は、吉本興業をモデルにしているとは明言してはいませんが、暗黙でそういう感じです。

つまり、「わろてんか」のヒロインてん(葵わかな)が切り盛りしていた北村笑店とほぼ同じです。「わろてんか」では、てんの息子は準也で成田凌さんが演じていました。

愛助の正体がわかったところで、小夜が失くしたお金を見つけます。足袋のなかに入っていたなんて、お風呂にも入らず、寝る時も脱がなかったのでしょうか。不自然過ぎる。これは、愛助登場に合わせた吉本新喜劇的なドタバタのノリ?(偏見?)と思いましたが、考えてみれば、ないないと大騒ぎしたすえ、意外なところにあったという経験は誰しもあるものです。

小夜のドタバタなふるまいを、スズ子の歌う「ふるさと」が一気に浄化します。
少女のリクエストで歌うスズ子を、汽車の乗客たちは、しんみり聞き惚れます。一井(陰山泰)のトランペットの伴奏がさらにムードを高めました。

汽車の走行がずいぶんと静かで、まるで汽車が停まってしまったのかと思うような雰囲気でしたが、スズ子の歌で、世界が一瞬、止まったようなイメージかもしれません。

汽車に乗り合わせた人たちは、それぞれの目的地に向かっています。少女が、故郷を離れ岡山に行くのがちょっと寂しく思っているように、楽団の人たちは東京で公演できないから地方を転々と回っていて。汽車に乗る人は皆、目的に向かう希望や不安を抱えています。スズ子の「ふるさと」はそんな心に染みて、汽車のなかはひととき、永遠になったのです。

放送後の「あさイチ」では水上恒司さんがゲスト出演。大阪弁の難しさを語っていました。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第53回のレビュー}–

第53回のレビュー

地方巡業の合間、久しぶりに大阪に帰ったスズ子(趣里)。
真っ赤なおしゃれな衣裳を着て、スターの貫禄です。
なつかしいはな湯。戦争で、看板の金属は拠出されたらしく、木製に変わっている(「ツヤさんのはな湯」になってるのが泣ける)ものの、常連たちは健在。

「みんな変わらへんなあ」とスズ子は言いますが、じつは少し変化が起こっているようで……。

ゴンベエ(宇野祥平)光子(本上まなみ)に子供が誕生していたことは想定内として、まったく思いもよらなかったのが、アホのおっちゃん(岡部たかし)アサ(楠見薫)の結婚。しかも手をつないでベタベタしていたことにはかなりの衝撃を覚えました。アサ、60歳の高齢結婚です。

熱々先生(妹尾和夫)がぽっくりいって(これもびっくり)、キヨ(三谷昌登)を含めての三つ巴の恋愛バトルを繰り広げたとかいう流れは、皆さん、あまりにも手近で済ませ過ぎていませんか。でも、常連の方々は、いつもはな湯でつるんでいて、ほかの交流がなさそうなので、紅一点のアサに集中してしまうことも、なんとなくリアルな感じもしないではありません。

朝ドラでは終盤、うちうちで結ばれる展開もあります。直近では「舞いあがれ!」がそうでした。ヒロインを含んだ3人の幼馴染が家族になってしまうのです。ヒロインと幼馴染の男性、ヒロインの兄と幼馴染の女性が結婚しました。

また、「ひよっこ」では、おひとりさまの星のようだった、和久井映見演じる愛子が、佐々木蔵之介演じる省吾と結婚します。ふたりとも、愛する人を失った傷を抱えていたけれど、もう一度、新しい人生を生きようとするいい話なのですが、おひとりさまの星でいてほしい気もしたものです。

「ブギウギ」に近いのは「あまちゃん」でしょう。田舎の男女がくっついたり離れたりを繰り返すという状況でした。「ひよっこ」や「舞いあがれ!」のようなふんわり、やさしい世界の話ではなく、肉体的な欲望に抗えない、腐れ縁的な関わりの生々しさ。まあ、ふんわりしても、生臭くても、ひとはひとりでは生きられないということです。

スズ子は梅丸少女歌劇団も訊ねます。リリー(清水くるみ)桜庭(片山友希)秋山(伊原六花)と再会して、キャッキャウフフ。

「ごっついきれいになったわ」「うれしいわ〜」という大阪弁の会話がそれっぽいです。

洋食屋のジャルジャルが夜逃げしていたという、あってもいいけど、なくてもよさそうな出来事をわざわざ描いているのも良かったです。

スズ子が大阪の空気を思い切り吸って、東京に戻って来ると、愛助(水上恒司)からの大量の手紙。なんと、はな湯にも行って、常連たちの話に耳をそばだてたとか、スズ子を天使とたたえ、「天使の原点を知った思い」とか書いています。

「どっかおかしくないとこんだけの手紙書けねえべ」

小夜(富田望生)、よく言った。梅吉(柳葉敏郎)とハメを外しすぎたり、お金を失くしたり、なんとなくうざい小夜でしたが、今回の小夜はなかなかいい。

下宿まで訊ねて来た愛助に「手籠めにすっきだな」「奉公先で何度も危険な目にあった」などと自身の経験から、愛助を目の敵にします。

チズ(ふせえり)も、吾郎(隈本晃俊)も愛助を睨んでいます。

スズ子は「ええ年のおばちゃん」と謙遜していますが……。

趣里さんが少女のようで、おばちゃん感がまったくないので、アイドルを追いかけてくる濃いファンみたいな雰囲気です。

水上さんが好青年なので、中和されているとはいえ、スズ子の夢の中で亀を持って迫ってくる感じが、なんかやばかった。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第54回のレビュー}–

第54回のレビュー

スズ子(趣里)は、小夜(富田望生)を連れて、愛助(水上恒司)の部屋を訪れます。
洋風のおしゃれな外観で、母の知り合いの家を間借りしているそうです。
見た目より中が広く大きいような気もしましたが、きっと奥行きがあるのでしょう。

それにしても昭和初期の家の庭には、たいていソテツが一本生えています。なぜなのかーーと思ったら、どうやら風水的にいいようです。

大きな扉を開けると、広い部屋は本やレコードで散らかりまくっていました。
小夜はまた「泥棒」が入ったと言い出します。おそらく小夜はボキャブラリーが少なく、なんでも「泥棒」と言ってしまうのでしょう。

よくこんな散らかった部屋に憧れの人を呼ぶなあ。小夜とスズ子が片付けようとすると、散らかって見えても自分のなかでは整理整頓されているのだと言いますが、結局、「どこやったかなあ」といろいろ探していたから、整理されてないじゃん。散らかす人は、こういう屁理屈を言うものです。ただし、ほんとうに散らかっているようで、整理されている人もいます。

スズ子の売れなかったレコードをかけようとして、梅丸少女歌劇団時代から知っていたような話を喜々としてします。どれだけスズ子のファンなのか。お坊ちゃんだから子供の頃から観劇などもたくさんしていたのでしょう。彼が信頼する評論家の二葉百三郎とは、有名な映画評論家の双葉十三郎をもじったものでしょう。

最初は、小夜がうるさいからか、小夜を連れて愛助と会ったスズ子ですが、あっという間に小夜抜きで、おでん屋デート(?)。

おでんを食べながら、愛助の身の上話を聞きます。そこで愛助は、外国から芸人を集めてショーをやりたいと夢を語ります。
これは、もしや、「わろてんか」でヒロインてん(葵わかな)の息子・隼也(成田凌)がやろうとしていたマーチン・ショーのことでしょうか。

吉本興業のマーカスショーをもじったマーチン・ショー。「わろてんか」放送当時、なかなか、このショーが行われる場面が出て来なくて、視聴者はじりじり。高瀬アナが朝ドラ送りで「そろそろいい加減に見たいなという感じなんですけれども」と視聴者の思いを代弁してくれたと、話題になりました。

高瀬アナが「ブギウギ」で語りをやることになったことは因縁だったのかもしれません。
はたして今回はショーのシーンはあるでしょうか。

すっかり、小夜抜きで、会うようになったスズ子と愛助。でも、村山興業の東京支社の偉い人・坂口(黒田有)が、愛助をたぶらかすなと釘を刺しに来ました。この坂口がかなりこわい感じの人で……。

趣里さんが上品なお嬢さんふうなので、おばちゃんが年下の青年をたぶからしているいやらしい感じはまったくしません。モデルの笠置シヅ子さんはどんな感じだったのだろうと想像が膨らみます。たぶん、趣里さんと水上さんのような節度ある爽やかさではなく、どちらかというと、アホのおっちゃんとアサみたいなあけすけな感じだったんじゃないかと想像してしまいますけどね。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第55回のレビュー}–

第55回のレビュー

弟のように思ってたが、いつの間にか……。
スズ子(趣里)
、はじめての本格的な恋。
松永(新納慎也)以来の、ときめき。しかも、今回は初めて相手からはっきり告白されたのですから、まっしぐらになりそうなところ、どうもエンジンがかかりません。いろいろハードルがあるのです。

昭和18年、10月、戦況は厳しくなる一方で、学徒出陣。ついに20歳以上の文化系学生まで動員することになりました。

チズ(ふせえり)は、スズ子のことを好きな愛助(水上恒司)のことを心配します。
当然、スズ子も心配です。

五木(村上新悟)は愛助の母であり、村山興業の社長・トミがこわいから、愛助と関わらないでほしいとスズ子に懸命に頼みます。それにしても五木はなぜ「〜〜よ」って女性ぽい語尾なのか。

スズ子はまた歌の調子が悪くなります。スズ子は感情に素直になれないと声が出なくなってしまうようですね。

悩んで、おでん屋で、小夜(富田望生)に相談しますが、「夢を語る男は信用できねえ」とばっさり。確かにスズ子の父・梅吉(柳葉敏郎)もそんな感じですし……。

小夜はこう見えて、苦労人。男に言い寄られた経験は何回もあって、たいていその場かぎり、いつもだまされてきたと言います。あっけらかんと話しますが、たぶん、いやな目にたくさん遭ってきたのでしょう。

小夜に反対されても、スズ子の心は止まりません。学徒出陣の新聞見て、愛助も戦地に行くと思ったら胸がきゅうっとなった、と気持ちは揺れています。そりゃあ、弟・六郎(黒崎煌代)が亡くなっているのですから、心配は大きいことでしょう。いや、もっと、戦争に対して過敏になってもいいくらいなのでは……。

そもそも、三十代で、それなりのスターで、だからといって箱入り娘のように守られている感じでもないのに、こんなに初心な感じでいられるものでしょうか。なんかもうちょっとちゃきちゃき陽気な大人でも良いような。前のほうがもっとちゃきちゃきしていたような気もします。

 初心で良識あるお嬢様のようなスズ子が悩んでいると、伝蔵(坂田聡)は「浮ついた話するな」「へんな歌、歌ってるくせにつまらないこと気にしやがってよ」と叱ります。彼は戦争で、屋台が続けられなくなりそうで気に病んでいるのです。

とか言いながら、「大事なのはおめえの気持ちだろ」といいこと言ってスズ子の背中を押すのが伝蔵らしい。「なかなかいい目をしていた」と愛助を褒めますが、そのあとの「若いときの俺とそっくりだ」は、スズ子も小夜も完全スルーでした。

 下宿の夜の窓辺にもたれたスズ子は、すっかり恋する顔になっています。

 翌朝、決心して、愛助の部屋を訪問すると、坂口(黒田有)が来ていて、ついに周りから攻めるのを諦め、愛助に直接話をしていました。学徒出陣を例に出し、愛助の心を揺さぶります。

坂口は、スズ子が手練れで、愛助をたぶらかしている、ええかげんな人、愛助を利用している、などという偏見の数々を聞いて、我慢ならずに「ええ加減にし」と部屋に入りーー。

世間から見たら、スズ子はやっぱり、坂口のような印象を持つけれど、本当のスズ子は、こんなに純粋で少女のような人だったということなのでしょう。

水上さんは、公開中の映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」では、特攻隊員役で、凛々しさを振りまいています。この映画のヒロインは「舞いあがれ!」のヒロインだった福原遥さんです。

カラダが丈夫な役も丈夫でない役も、水上さんは常に、真っ正直な人物が似合う俳優です。

そして、黒田さんの低音からしっかり発される大阪弁は、ある種の大阪弁の理想形という感じで安心します。

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–{第56回のレビュー}–

第56回のレビュー

第12週「あなたのスズ子」というサブタイトルで、今週はますます恋愛パートになりそうですが、はじまりは不穏でした。

「大事なのはおめえの気持ちだろう」と伝蔵(坂田聡)に背中を押され、スズ子(趣里)愛助(水上恒司)の自宅を訊ねるとーー

坂口(黒田有)が愛助にスズ子との交際を止めているところ。スズ子のことを悪し様にののしる声を聞き、辛抱たまらず、部屋に飛び込みます。

交際の申し込みを受けようと思って来たスズ子でしたが、カラダの弱い愛助が学徒出陣に参加できないことを悩んでいることを聞いて、やはり今はそれどころじゃないと思いとどまります。

それでも、相変わらず、坂口はふたりの仲を心配して、手切れ金まで持ってきます。

邪魔が入れば入るほど、燃え上がる恋心。

でも、戦争は進行していくばかり。
スズ子いきつけのおでん屋も、伝蔵(坂田聡)が閉める決意をします。最近、具が大根しかなくなっていましたからさもありなん。

頭にきりっと巻いていた手ぬぐいをとって首にかける。その仕草だけで、伝蔵がステージを降りるのだということが伝わってきます。坂田聡さん、渋い、いいお芝居をされます。

坂田さんは、かつてジョビジョバというグループで活動していました。脚本家としても活躍するマギーさんをリーダーとした6人グループで、ひとりひとりがとても個性的で、小劇場のスターでした。

ジョビジョバは笑いは巧い芝居によってできるものだと実感できる、演技巧者ばかりの集まりで、活動休止後、皆さん、個々に、名バイプレイヤーとして活躍されています(ひとりは僧侶、ひとりはサラリーマンになられました)。最近はまたジョビジョバ活動も行っているようです。

朝ドラ初出演だった坂田さん。強い印象を残してくれました。朝ドラ常連になってほしいです。

さて。いつもはわりと楚々としているスズ子ですが、いざとなると乱暴な口調でまくしたてます。本質はこっちで、ふだんは猫をかぶっているのでしょうか。

かつて、「カーネーション」の糸子(尾野真千子)は繊細さと豪胆さの矛盾が見事に描かれていましたが、豪胆さの部分を苦手に思う視聴者もいたようです。最近とみに、うるさいと嫌われる傾向が激しくなって(小夜〈富田望生〉がまさにそれ)いますから、演者のほうで抑えめにしているのかもしれません。だから、今回のように、たまに乱暴口調になると、やや唐突感を覚えるのかなあという気もします。

ところで。愛助は知り合いの家に間借りしていて、水回りとかは部屋を出て別にあるのでしょうけれど、生活感が全然わからず(食事はどこでしているのかとか)、知り合いがいる気配もないし、この家はどうなっているんだろうと気になっております。

【朝ドラ辞典2.0   毎朝新聞(まいあさしんぶん)】
朝ドラで出てくる新聞名はたいてい「毎朝新聞」

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–{第57回のレビュー}–

第57回のレビュー

果物でも人間でも上等なものほど傷みやすいのです。母があんたを上等な人間に育てたんです。
ここ泣いて笑うとこでっせ。
(トミ)

愛助(水上恒司)に、トミ(小雪)から手紙が届きます。そこに書いてあったのがコレ↑。

トミ、なかなか、ユニークな人のようです。

「あんたはそのままでええのです」という手紙の内容から、自由にすればいいというニュアンスを読み取った愛助は、スズ子(趣里)とつきあう決意を固めます。

でもそれを聞いた坂口(黒田)は社長に殺される、と縮み上がります。

トミは、愛助が学徒出陣に出られない劣等感や後ろめたさに関して励ましただけで、交際のことはこれっぽっちも考えてないのでしょう。

この大いなる勘違いの場面。笑うとこでっせ。

勇気をもらった愛助は、スズ子が巡業に出発しようとしているとき、事務所に訊ねて来て、楽団のみんなが見ているなかで告白します。そして、スズ子も、交際の申し込みを「どうぞよろしうお願いします」と受け入れます。

スズ子は、羽鳥(草彅剛)の家を訪ね、彼と麻里(市川実和子)にも背中を押されていたのです。羽鳥はいつでもスズ子を縛る鎖を外して自由にしてくれる人であります。

奇しくも、愛助には母が、スズ子には羽鳥が、自分の思うまま自由であれ、と応援されていたのです。

交際をすることにしたスズ子と愛助の前で、ガレージの扉が開いて、楽団がファンファーレで囃し立てます。が、これでめでたしめでたしとはなりそうにありません。続きを見守りたいと思いますが、ここで気になったのは、愛助はマザコンで、結局、スズ子はトミの代わりなのではないか疑惑です。

トミが愛助を溺愛しているのは十分わかります。愛助は彼女のお膳立てで東京で暢気に暮らしていますし、母の手紙に勇気づけられてもいます。そのことについては、この年になって母親の手紙に励まされているのは恥ずかしい、「親に頼ったへなちょこ」と気にはしているようではありますが……。

そしてスズ子。彼女が愛助の告白に答えるとき、「部屋はきれいにしてはるやろか ちゃんとごはんは食べてるやろか」と心配していたと言うのです。なんだかおかんみたいです。そもそも9つも上だし(趣里さんだとそう見えないんですが)。

愛助は、病弱で劣等感をいだきながら生きてきて、励ましてくれるのが母だったけれど、スズ子の歌や踊りにも励まされてファンになって。東京で母がいない分、スズ子に依存してしまったのではないかなあと。

この女性に甘える感じ、ツヤ(水川あさみ)に甘える梅吉(柳葉敏郎)と近いものがあります。
足立紳さんの持つ、男女の関係描写のカードが少なすぎる。でも、そのしょうもないパターンの面白さというジャンルなんだと思いますし、朝ドラで、男性の甘えたい願望視点がこうも前面に出ているのは、極めて画期的といえるでしょう。

小夜(富田望生)にたびたびの激しいツッコみをさせて、彼女に視点が行くようになって、この物語に隠された女性に対する視点の偏りがうまいことボカされているという、実に巧妙なところは要注意であります。でもこれも個性なので、筆者は嫌いじゃありません。

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–{第58回のレビュー}–

第58回のレビュー

昭和19年。ついに交際することになったスズ子(趣里)愛助(水上恒司)

楽団の面々が囃し立てて、愛の口づけを煽ったとき、愛助がその気になって唇に指を触れているのが、はっきり言って、ちょっとキモかった。いや、でも、水上さんだから、ギリ、微笑ましく思えるのだと思います。

つきあうことになったばかりで、スズ子は巡業に旅立ちます。見送る愛助。
バリバリ働くスズ子に、待つ愛助。通常の男女とは逆です。年齢も逆です。

巡業先で「アイレ可愛や」を歌うスズ子。趣里さんの「はー」の合いの手がかわいい。お客様のために歌って力をもらっていると言いながら、心は愛助にあるような気がします。

ギャラの代わりにじゃがいもをもらったり、服装や化粧がまだ華美だと注意されたりしても、スズ子はへこたれません。愛助のことを思うと元気になるようです。恋の力は強い。

「あなたのスズ子」と手紙に書いて、ふふふ、となるスズ子。
受け取った愛助も、ふふふ。

ふたりのため世界はあるの、状態です。つきあいはじめって、こんな感じで、嬉しくてたまらないものであります。

巡業を終えて、やっと会えたふたりですが、小夜(富田望生)が邪魔しに来ます。
スズ子と愛助があまりにラブラブで、見ているとこそばゆい。だから、小夜がかき回してくれたほうが、見やすいです。

小夜はスズ子と愛助を認めると言っていた気がするのに、また邪魔しているのは、五木(村上新悟)に命じられたからのようで。小夜は、ほんとに野性的な人。理屈で生きてない感じです。

小夜の態度も、愛助の仕草も、わりとお行儀のいい朝ドラにしては、珍しい、ナチュラルに俗っぽくて。それが嫌いという人もいるとは思いますが、こういう人たちは現実に確実にいるという点では重要であります。

幸せ絶頂のスズ子ですが、楽団の経営状態が悪く、困った五木は坂口(黒田有)と悪巧みをはじめます。五木と坂口の狙いは、スズ子と愛助を別れさせること。密談している場面は、
違うドラマが始まったのかと思いました

朝ドラあるあるで、時々、ふいにドラマの雰囲気が変わることがあります。五木と坂口は、時代劇の悪代官みたいでした。ふたりとも声が低い。むだに良すぎる低音ヴォイス対決。

五木は坂口からお金をもらっており、単刀直入にスズ子に別れるよう頼みます。簡単には了解するわけもなく、五木は別れたフリしてくれと誤魔化しますが、スズ子はOKしません。

お金をもらってしまっている手前、困ってしまう五木。これからどうなるの〜? と心配ですが、これまでの「ブギウギ」を見ていると、ヘヴィなことにはならなそうな気がします。違うドラマだったら、五木が坂口に滅多打ちに合いそうですけど、きっとそんなことはないに違いない。

ただ、スズ子のモデルの笠置シヅ子さんも愛助のモデルのかたとのつきあいに猛反対されていたそうなので、シンプルにスズ子と愛助がラブラブで済むわけではなさそうです。まだ、トミ(小雪)さんが残っていますし。早く、トミ対スズ子を見たい。

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–{第59回のレビュー}–

第59回のレビュー

長野に巡業に出たスズ子(趣里)。そこには、五木(村上新悟)を「父ちゃん」と呼ぶ少年(三平)が……。その母親ナツは、各港に女あり、の五木の女性のひとりなのでしょうか。

ナツに五木は、スズ子を育てていくと大風呂敷を広げていることがわかります。「子供も日本各地にいるのかねえ」と、楽団員たちも、ちょっと批判的です。

五木は、第58回で、「俺だって食わせなきゃいけない相手……」とスズ子に言いかけていました。それがこの女性と子供なのかーー。

五木がナツにお金を渡しているところを目撃するスズ子。

三平は五木の子供ではないけれど、五木はナツと三平のことが大事なようで、各地の女性と縁を切ったとスズ子に語ります。

五木はどこまで本当のことを言ってるのか、ちょっとわかりません。
こういうとき、じつは、各地に女性がいる、というのは冗談と言いそうなものなのに。そこは撤回しないのです。

スズ子は、五木が、本当の子供じゃない三平に情を抱いていると知って、たぶん、自分の家庭のことを考えたのではないでしょうか。お金をいくばくか支援すると申し出ます。

もともと、スズ子がこの楽団を作ったのだから、彼女が楽団員を食べさせないといけないような気もしますから(茨田りつ子はそうしているような気がするので)、当然の配慮かもしれません。スズ子が、楽団の経営事情をあんまり考えてない感じがしますが、まあ、よく、芸能人が、マネージャーにいっさいを任せていて、お金を持ち逃げされる事件もあるようですから。

五木も、置き手紙を残し、お金を持ち逃げして、ナツと三郎と3人でどこかに行ってしまいました。

朝ドラ名物 展開早い。であります。

ナツと三平が突然出てきて、突然、五木と去っていく。びっくりです。

ナツの夫は戦争で亡くなって苦労して、五木がほっとけなくなってしまったという事情で、それは戦時中、みんな貧しくて困っている一例、そして、スズ子も五木も、こんなご時世に、愛だの恋だの言ってる愚かな、でもすてきな人たちという部分を、このパートが担っているようですが、あまりに駆け足じゃないでしょうか。

これが一時間ドラマのワンエピソードだったら、もうすこし、五木とナツと三平のドラマが描けたでしょうけれど。なにしろ15分ですから…。

五木がいなくなった代わりに、新キャラも出てきます。

愛助(水上恒司)が、スズ子の役に立ちたいと、新たなマネージャーを紹介します。愛助の爺やだった山下達夫(近藤芳正)です。

近藤芳正さんは、朝ドラ常連。「ブギウギ」で8作めであります。

山下は愛助の父代わりで、小さい頃から甘やかして育ててことがよくわかる、ふたりの会話が楽しそうでした。駆け足でも長い歴史を、演技で感じさせることも可能であるということです。近藤さん、さすがであります。

村山興業の敏腕社員だったらしき山下に、愛助がこっそりスズ子のマネージャーを頼むことで、トミ(小雪)の怒りが爆発。いよいよ、トミが、スズ子と愛助の前に立ちはだかるか。

ところで。結婚については愛助はまだ考えてないという言葉に、スズ子が若干、微妙な反応だったように見えました。30歳過ぎたスズ子には結婚が視野にあるけれど、そこが9歳差、まだ学生の愛助との温度差でしょうか。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第60回のレビュー}–

第60回のレビュー

愛助(水上恒司)がこっそりやっていることなど、トミ(小雪)にはお見通しでした。大阪から東京にやって来て、愛助をたしなめます。

愛助が反発するので、トミはついに、スズ子(趣里)と直接会うことに。

が、トミは、二言三言、言葉を交わしたあと、「あとはようふたりで話しなはれ」と言って去っていきます。

愛助は、交際を認めてくれたと思いますが、スズ子にはわかりました。
きっぱり別れろ、という意味であることが。

ふるまいも見た目も少女のようなスズ子ですが、芸能生活が長いだけはあり、トミが暗に匂わせた厳しさに気づきます。ここで、ふたりで、勘違いしていたら完全にバカップルですからホッとしました。

それでも愛助はナットクできず、「僕は今この瞬間、福来さんが好きなんです。交際したいんです」と口角泡を飛ばし、「ぎょうさんつば飛びましたがな」とスズ子は笑います。

「つば」という生々しい描写のあとのふたりは、夕暮れの愛助の部屋の片隅で寄り添います。かいらしいカップルです。

結局、山下(近藤芳正)がマネージャーになる件は、トミによって白紙に。山下は何しに出てきたのか。近藤さんの無駄遣いではないのか。いや、でも近藤さんがキャスティングされているということは、きっとまた出て来てくれるに違いありません。

昭和19年の暮れになると、東京は敵機襲来に怯えるようになりました。でも、どんなに大変なときでも、生理現象には勝てません。

トイレにこもったスズ子を急かす愛助はどさくさのなかで、思わず「スズ子」と呼び捨てにします。そして出てきたスズ子をお姫様抱っこして、避難に走る愛助。

浪漫もへったくれもありませんが、ストレートにロマンチックに描くのが恥ずかしいのかも。

幸い空襲警報はすぐに解除され、部屋に戻ったふたりは、厠話で大笑い。スズ子は「スズ子と呼んで」とねだり、その流れで、キスに至ります。厠、笑いで、完璧にリラックスしたなかで、ふたりは幸せの絶頂に浸ります。天にも登る気持ちというはこのことでしょう。

ところが、愛助が咳をして、血を吐きました。15分のなかで、上がったり下がったり、高低差が激しい。アトラクションに乗っている気分です。でもそれは最新鋭のアトラクションではなく、浅草花やしき的な素朴な感じであることも、「ブギウギ」らしいところです。

予告によってそれが「結核」の兆しであることがわかってしまいました。心配!愛助の健康状態が気になりますが、彼のつばを思い切り浴びたり、キスしたり、スズ子にも感染するのではないかと見てるほうは気が気ではありません。

愛助は、自分の体調が良くないにもかかわらず(前から咳していたし)、スズ子にうつすことは心配しないのだなあと。ジブリの「風立ちぬ」の場合、結核のヒロインはうつすことを心配して、主人公が気にしないという情熱を見せました。愛助は若さも手伝い、健康のことを忘れてしまうほどスズ子に夢中なのでしょう。

【朝ドラ辞典2.0 トイレ(といれ)】

滅多にないが、ごくたまに登場する生活にはなくてならないもの。呼び方は、お便所、お手洗い、厠など、その都度違う。
「梅ちゃん先生」(12年度前期)ではヒロイン梅子(堀北真希)はたびたび、トイレに行きたくなる描写があった。第7回では、梅子がたくさん食べすぎてお腹が痛くなって、お便所に立つ。第8回では、田舎に買い出しに行く列車のなかでトイレに行きたくなるという連続描写。第73回では、お父さん(高橋克実)がトイレにこもり、梅子が「お手洗いに入りたい」と困る。
「おひさま」(11年度前期)第8回では、ヒロイン陽子(井上真央)と育子(満島ひかり)、真知子(マイコ)が、英語教師オクトパス(近藤芳正)がなにかにつけて「女のくせに」と言うことへの抗議を込めて白紙の答案を出したことで、罰としてお便所掃除をさせられる。それを機に3人は永遠の友情を誓い、「お便所同盟」(白紙同盟)を結んだ。その時の記念として便所の取っ手が大切にされる。
「ブギウギ」ではスズ子が空襲警報中に便意を催し厠にこもり、愛助を心配させた。
類語:お便所、厠(かわや)、お手洗い

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第61回のレビュー}–

第61回のレビュー

第13週のサブタイトルが「今がいっちゃん幸せや」(脚本:櫻井剛)では、スズ子(趣里)愛助(水上恒司)が三鷹で暮らすことになります。ただし、with小夜(富田望生)

それまでも、愛助の下宿に入り浸っていたスズ子でしたが、ついに堂々と同棲開始。ただし、それは結核の愛助の世話をするためです。

「今がいっちゃん幸せ」と言っても、手放しではなく、愛助は結核を患っているのでした。

ふいに結核になったわけではなく、前から結核で、最近は良くなって治ったと思っていたと言う愛助。そんなんで、よく、スズ子とべったりしているなあ。歌手としてのスズ子が好きなのだったら、彼女にうつることをもっと気にしてほしい。

でも、若いし、結核が治ったうえ、スズ子と恋ができて、嬉しかったのでしょう。

第61回ではキスはなく、額をくっつけるだけでした。この控えめな距離感がもどかしくて、いい感じです。

入院したとき、うつることも気にせず、スズ子がつきっきりで看病して、疲れて居眠りしてしまうところも健気でした。寝ているスズ子を愛おしそうに背中をなでる愛助の姿はたしかに「今がいっちゃん幸せや」そのものでありました。

「へばりつく」と言って片時も愛助のそばを離れないスズ子。空襲警報が鳴っても
病床に残ります。そんなスズ子に、愛助はプロポーズ。

献身的なスズ子の様子に打たれた坂口(黒田有)は、三鷹で一緒に暮らすように手はずを整えました。あんなにうるさく反対していたにもかかわらず、ころっとふたりの味方になってしまう。病院に顔を出したときの坂口の表情がすっかり柔らかくなっていました。

推察するに、坂口は仕事熱心で、トミ(小雪)の命令一筋でやってきたのでしょう。でも、スズ子が野心家ではなさそうだったので、気持ちが変わったのでありましょう。愛助のことも心配だから、面倒見てくれる人がいるのはありがたいということもあるでしょう。

でも、トミには、はっきり言い出せずにいます。どうせすぐにバレてしまうと思いますが。

スズ子のモデル・笠置シヅ子も結婚して引退してもいい気持ちだったらしいとか……。伝説の歌手として知られていますが、じつは仕事ーー歌がすべてではなく、愛する人のほうが大事な人であったのかもしれません。

スズ子の母ツヤ(水川あさみ)が愛情優先の人だから、スズ子もそういうふうに育ったとしてもおかしくありません。

ドラマでは、ただただスズ子と愛助が一途で純粋で二羽の小鳥のようにかわいく見えますが、笠置シヅ子の自伝を読むと、愛助のモデルである、吉本興業の御曹司・エイスケはもうちょっと世慣れている印象です。なかなか結婚にまで至らなかったのも実家の財産問題など、シビアーな話もあったりして。このへんのことをドラマで見たかった気もしました。

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–{第62回のレビュー}–

第62回のレビュー

「見てください、あそこで布団干しているのは、福来スズ子やで スイングの女王やで」

スズ子(趣里)愛助(水上恒司)の看護を献身的に行ったからか、愛助はじょじょに良くなっていました。

カラダの調子が良くなってふと気づく、スター・スズ子を家で働かせていていいものかということ。
「歌って踊るのがスズ子さんの幸せやろ」

もっと早くに気づかんかい。と思いますが、若いし、大好きな福来スズ子とつきあえるようになって舞い上がる気持ちもわかります。手に入ってはじめてわかる、スズ子はこんなところにいる人ではないということ。でも、目の前で、あのスズ子が鼻歌歌って踊る姿を自分だけが見ていられるというのは、ファンとしてはたまらないでしょう。思わず、自分まで踊りだしてしまいます。

仲睦まじいふたりにほだされて、スズ子と愛助を応援する気になった坂口(黒田有)トミ(小雪)に、ふたりの仲を認めてもらうように頼みにいきます。

「わては言い訳聞かされるのが一番嫌いなんや」
「わては嘘つかれるのが一番嫌いなんや」
「わては屁理屈聞かされるのが一番嫌いなんや」

トミはきっと「ここ笑うとこでっせ」と心で思っていたことでしょう。

言い訳も嘘も屁理屈も抜きで本音でトミに頼み込んだ坂口。
交際は認めてもらえなかったけれど、山下(近藤芳正)をマネージャーにつけることは認めてもらえました。

トミは福来スズ子の実力は認めているのでしょう。

その頃、羽鳥(草彅剛)は上海にいました。
そこで出会った、音楽家・黎錦光(浩歌)

羽鳥と黎錦光が食事をしている店で、日本の軍人が横暴な態度をとったところ、店員が日本語をわからないふりをして交わします。それを見て、羽鳥は日本人を恥じますが、黎錦光は、日本人にも中国人にもいろいろな人がいると諭します。ここは
重要であります。日本人だからとか中国人だからとかではなく、言動は個人個人の特性からくるものです。

いろいろな言語があって、わからない人はわからない、わかる人にはわかるというのは、先日草彅さんが主演した「デフ・ヴォイス法廷の手話通訳士」にも重なります。草彅さんがそこで演じた役は、聞こえない親をもつ聞こえる子供・コーダであることを生かして手話通訳士になり、聞こえる者と聞こえない者の橋渡しをします。「ブギウギ」の羽鳥は上海で、日本人と中国人の間で、何を見つめるのでしょうか。

黎錦光は実在の人物であり、李香蘭のヒット曲「夜来香」を作曲しています。羽鳥のモデル・服部良一と上海で友情を育みました。

浩歌(HAOGO )さんは「中国で最も有名な日本人」と言われています。中国人かと思ったら日本人なのです。以前は矢野浩二さんという名前で活動していました。
中国で活躍しているとはいえ、日本人だからなのか、いかにも中国人が日本語をたどたどしく話しているふうでした。

22年、松下洸平さんが服部良一を演じた音楽劇「夜来香ラプソディ」は2人(+李香蘭)の友情物語でした。服部良一の上海滞在中の出来事はかなりの情報量で、これだけでひとつの物語ができてしまうものです。「ブギウギ」ではどの程度扱われるのか。できればたっぷりやっていただきたい。

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–{第63回のレビュー}–

第63回のレビュー

スズ子(趣里)愛助(水上恒司)の物語と、羽鳥(草彅剛)の上海の物語、大きな話をひとつのドラマで並行して描くというチャレンジが行われています。

山下(近藤芳正)が正式にマネージャーになり、慰問公演がはじまりました。スズ子は
地方に慰問に行きながら、愛助を看病。自分のことをやってる時間はなさそう。

スズ子がこんなに懸命なのは、母ツヤ(水川あさみ)の看病ができなかったこと、六郎(黒崎煌代)をひとりで死なせてしまったことが心残りだったから。愛助は、スズ子ができなかった家族孝行の対象になっているようです。

おかげで、愛助は快方に向かいます。いや、でも、こんなに簡単に?

京都に慰問に行ったとき、東京に空襲が。公演を中止にするか迷ったすえ、スズ子は楽しみに来てくれているお客様のために歌うことを決めます。

このとき、楽団の人たちの気持ちはどうだったのでしょう。リーダーはスズ子なので、最終的には彼女のお気持ち優先でしょうけれど、楽団の人たちには家族もいるでしょうし。彼らの心のざわつきや、スズ子が彼らを気にかける描写がほしかった。

公演を終えて、急いで帰って来たスズ子と小夜(富田望生)は焼け野原になった東京に呆然とします。

この回の冒頭、銀座で空襲があったと新聞を読む愛助に、スズ子は朝からそんな話はご飯がつかえると、避けようとしていました。銀座と聞いたら、劇場はどうなったかとか、そばにあった下宿は……とか気にかけないのだろうかと視聴者は思います。

いくらしんどいことを避けたい視聴者とはいえ、スルーしないでほしいこともあるのです。が、この回の場合、坂口(黒田有)と愛助の楽しい場面(「フーフーしたろか」)、スズ子と愛助が愛情をかわす場面などが優先されたのでしょう。そして、愛助が一番大事だけど、皆様のスズ子でいないといけない葛藤が重要視されたことは想像に難くありません。

軽演劇仕立ての音楽劇として楽しい「ブギウギ」ですが、ちょっと最近、朝ドラの悪いパターンにハマって来ている気がします。筆者は朝ドラを15年から毎日レビューしているので、調子のいいときとそうでないときのパターンはなんとなくわかります。

脚本を練る余裕がなくなって、プロットにある要素を取り急ぎ羅列しておくしかないのは、朝ドラがはじめての作家、かつオリジナルをあまり書いていない作家にありがちです(ほとんど誰でもまずはじめてなんですが)。

今回の作家陣は、朝ドラははじめてながら、それぞれ名作を手掛けている経験豊富な方々。ただ、やっぱり、戦時中に、スズ子と羽鳥、ふたりの物語を同時進行させないとならなくて苦戦しているのではないでしょうか。それを大いなるチャレンジとして見守っていきたいと思います。

その頃、上海で羽鳥は、軍の要請でコンサートを行うことに。軍の思惑には賛同したくないけれど、自分なりのコンサートを企てようと考える羽鳥。このエピソード、
モデルの服部良一さんの史実としてもすごく魅力的なのです。作家としてはこっちを手厚く書きたくなるだろうなあ。

朝ドラ辞典2.0  要冷蔵(かなめ・れいぞう)

クレジットに「要冷蔵」とあると目を引く。「ようれいぞう」ではなく「かなめれいぞう」。大阪出身で、「カーネーション」「ごちそうさん」「あさが来た」「べっぴんさん」「わろてんか」「まんぷく」と主に大阪局制作の朝ドラに出演している。「ブギウギ」では愛助を診察する医者役で出演した。

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–{第64回のレビュー}–

第64回のレビュー

年内最後の「ブギウギ」は空襲が激しくなっています。
京都から戻ったスズ子(趣里)は、東京駅周辺なのか、焼け野原になっている様に呆然。慌てて三鷹に戻ると、愛助(水上恒司)は無事でした。三鷹までは空襲が来なかったようです。でも、遠くの空が真っ赤に染まって、三鷹まで来そうだったと言っていました。

大阪にも空襲があって、はな湯やUSKの人たちもどうなったかわわからないとスズ子は怯えます。トミ(小雪)は芦屋の別邸に避難して無事だったそうですが、芸人たちの安否がわかりません。いや、だから、下宿や梅丸楽劇団の人たちはどうなっているのか……。

スズ子は愛助と一緒にいたくて、慰問の話を断ります。

スズ子の、好きな人となにがなんでも一緒にいたくて、ほかのことを見失ってしまう感覚は、ツヤ(水川あさみ)に似ています。前半、ツヤの物語をかなり手厚く描いていたのは、常識にとらわれず、愛一筋の情動が、このドラマを貫いているということなのでしょう。

本来、ドラマティックなはずで、ツヤでは成功していたことが、スズ子だと、なんだか唐突だし、勝手な人に見えてしまうのはなぜなのか。たぶん、趣里さんの演技がやけに少女ぽくて甘えん坊お嬢様のように見えるからでしょう。

しっかり者でいろんなことを耐えて我慢してきて、でも明るく振る舞ってきた女性が、いっとき恋人との生活にすべてを賭けたいと思うような、矛盾に欠けている気がして、
共感できないのです。

趣里さんの少女性は、十代や二十代の若い世代のかたには共感できるかもしれませんが、笠置シヅ子さんがモデルだと思って見ているおばちゃん視聴者には難しい。

そんなとき、三鷹にも空襲が。逃げ込んだ防空壕では恐怖と不安で皆、ギスギスしています。赤ん坊が泣くことに我慢ならない男性が声を張り上げます。
スズ子が「アイレ可愛や」を歌うと、赤ん坊は泣き止みました。

泣き声は敵機に聞こえてしまうと心配するのに、歌声や手拍子は問題ないのか、という疑問はさておき、防空壕がスズ子の歌声で浄化されました。

赤ん坊の母親は「アイレ可愛や」を教えてほしいとスズ子に頼みます。この歌、ヒット曲じゃないのか、そもそも、福来スズ子は有名人ではないのか、という疑問もさておきます。

愛助は「みんなスズ子さんの歌で正気に戻っていく。スズ子さんの歌には力がある」と感慨無量。銃後の人たちの生きる希望のために歌ってほしいと頼みます。

つまりスズ子は、個人の幸福を追求したいけれど、それができない。スズ子は他者のために歌っていく宿命があるということ。それはとても孤独な道を歩んでいくことになるはずです。

残りの3ヶ月、スズ子の孤独な戦いが待っているのだろうなあという気がします。
これまで少女ぽかったスズ子が、おばちゃん視聴者も共感するような、いろんな苦しみを内包しながら明るく輝く、光と影をまとった陰影深い人物へと変容していくのは、きっとこれから。それが長い物語の醍醐味であります。ゆっくり楽しみましょう。

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–{第65回のレビュー}–

第65回のレビュー

「音楽が時勢や場所に縛られるなんて馬鹿げている。音楽は自由だ。誰にも奪えないことを僕たちが証明してみせよう」
(羽鳥善一)

2024年、最初の「ブギウギ」はまだ戦時中の暗い時期です。

第13週「戦争とうた」(作:櫻井剛 演出:福井充広)は4日、5日の2回のみ。そこに、富山のスズ子、鹿児島のりつ子、上海の羽鳥と、3箇所で、それぞれの戦争との向き合い方が描かれました。

スズ子(趣里)は悩んでいます。

楽団と共に富山県高岡市に慰問に来ましたが、おりしも大きな空襲があったところで、旅館では被災者を受け入れていました。

沈んだ人々を見て、スズ子は自分の歌を聞いてもらえるだろうかと心配します。

悲しいときこそ、歌が人々の心に火を灯すのだという考えもあります。一方で、エンターテインメントは役にたたないのはないかという考えもあります。

戦争の時代に限らず、現代の私たちも、震災やコロナ禍で、エンタメは不要不急か否か、という問題に直面しています。

おりしも、2024年の元旦、石川県で大きな地震があり(令和6年能登半島地震)、富山も影響を受けていて心配です。藤子屋とは高岡出身の藤子不二雄からとったであろうと楽しく見られたはずが、そうもいきませんでした。

旅館で働く静枝(曾我廼家いろは)は、夫を戦争で失い、ひとり娘・幸(眞邊麦)をひとりで育てています。日本は戦争に勝つだろうかと不安に思うスズ子に対して、静枝は勝たなくては夫の死が無駄になると考えています。

茨田りつ子(菊地凛子)も少し揺れています。

鹿児島の海軍基地に慰問に来たりつ子は、軍歌を歌うことを期待されますが、軍歌は性に合わないと拒み、軍人を閉口させます。

りつ子はこのご時勢に反して、衣裳も派手なものでいこうとしています。何事も抑えめでという考えの一方で、華やかなものがいっときの心の支えになることもある。そういう考えでこれまでやってきたのです。

でも今回は、特攻隊の青年たちのために歌うコンサートです。いつ特攻に出ることになるかわからないと彼らのために何ができるのかーー。彼らの望む歌を歌うことにするりつ子。果たして、特攻隊員たちは何を希望するでしょうか。

羽鳥善一(草彅剛)には迷いはありません。

上海に渡った善一は、日本政府が国策のために開催する音楽会を利用して、音楽は時勢も場所も関係なく、自由であることを証明しようと試みます。

中国人である黎錦光(浩歌)の作った「夜来香」にアメリカの音楽ブギをアレンジした「夜来香ラプソディ」を作り、音楽会で演奏することで、民族の違いなど関係なく、音楽で混ざり合うという趣向です。

ところが、コンサートの模様はドラマでは描かれませんでした。セリフで「大成功」と言うだけ。がーん!っと思ったら、大成功の余韻に、コンサートの立役者となった李香蘭(昆夏美)が「夜来香ラプソディ」を披露します。

プロのミュージカル俳優である昆夏美さんののびやかで艶やかな高音は、お正月にふさわしかったです。

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–{第66回のレビュー}–

第66回のレビュー

スズ子(趣里)りつ子(菊地凛子)がそれぞれ慰問に出かけている頃、広島では原爆が落とされて、
日本中を震撼とさせていました。

スズ子は富山・高岡、りつ子は鹿児島の海軍基地へ、それぞれの慰問先で人々に歌を届けます。

りつ子は、特攻隊の若者たちから「別れのブルース」をリクエストされました。

ブルースは敵性音楽であり、軍の上層部的には士気を高める軍歌を望んでいたものの、これから戦いに赴く者たちの希望ですから、止めることはできませんでした。

上官の人たちだって、本心から敵性音楽を禁じたいわけでも軍歌が好きなわけでもないかもしれません。裏で泣いていましたし……。やむにやまれぬ状況が、人々の本当の気持ちを出せないようにしているのです。

特攻隊の方々は最後に、我慢しないで聞きたい歌を聞けたので、良かったと思うべきなのか……。いや、歌が聞けたって、戦いに身を捧げるなんて、悲しすぎます。りつ子は無力感に苛まれ、涙を流します。

若者たちはりつ子の歌を聞いたあと、笑顔で、「もう思い残すことはありません」「晴れ晴れといけます」と言います。これは哀しみに蓋をしているような気がしますが、とことん我慢して軍歌を聞くよりは半歩前進している気がします。

特攻兵のエピソードは、りつ子のモデルである淡谷のり子の実話だそうです。壮絶ですね。

高岡では、夫が戦死した静枝(曾我廼家いろは)がスズ子の歌「大空の弟」を聞いて、涙を流します。
これまで、夫はお国のために命を捧げたのだからと「つらくはないのです、悲しくもないわ」と意地を張っていた部分があった静枝ですが、スズ子の歌を聞いて、哀しみの感情を思い切り出すことができました。

歌というのは、癒しであり、楽しく元気な気分になるものであると同時に、思い切り悲しい気持ちも増幅できる。つまり、自分の感情に正直になれるという効能もある。自分の感情に素直になれずに抑えていると、心身によろしくありません。

静枝は哀しみを自覚したのみならず、夫との幸福な思い出も思い出し笑顔になります。

スズ子は羽鳥(草彅剛)から感情に正直に歌うようにアドバイスされてきています。だからこそ、スズ子の歌は、聞く人の感情を引き出すものになっているのではないでしょうか。

「歌わな」と決意するスズ子はきっと、多くの人たちのために「歌わな」と思ったことでしょう。

スズ子と楽団たちは北陸を慰問してまわる予定でしたが、金沢に行く予定は取りやめになります。
「戦況もよろしくないいまでは慰問どころとないんとちゃいますか」という山下(近藤芳正)のセリフを聞いて、2024年の今と偶然にも重なってしまったことに、驚くばかりです。

新聞を見た坂口(黒田有)の「もう日本中、どこおっても危ないとこだらけや」というセリフも、他人事ではない気持ちになりました。

戦争も災害もなく、誰もが安心に生きられることを祈るばかりです。

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–{第67回のレビュー}–

第67回のレビュー

朝ドラ辞典2.0 【玉音放送(ぎょくおんほうそう)】

戦時中が舞台になる朝ドラでは必ず出てくる場面。1945年8月15日、日本が戦争に負けたことを天皇陛下がラジオで報告する声を主人公や周囲の人たちがどう聞くかで、ドラマのまなざしが感じられる。

泣く人、泣かない人、様々で。例えば「カーネーション」(11年度後期/脚本:渡辺あや)では、ヒロイン糸子(尾野真千子)が放送を聞いたあと「お昼にしようけ」と台所に立つ。その淡々となにげない言動が逆に印象的だった。「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」の部分がよく使用されるが、「カムカムエヴリバディ」(21年度後期/脚本:藤本有紀)では違う部分を使用している。「ブギウギ」では小夜(富田望生)が、言ってることがよくわからないという反応をする。当時、ラジオの音声がよく聞こえなかったことは事実のようだ。

戦争が終わった。スズ子(趣里)は呆然としながら、心は東京に残した愛助(水上恒司)のことでいっぱい。予定していた慰問公演も中止になり、富山を発ちます。

スズ子「ほなら帰ろう」
一井「そうだな家に帰ろう」

一井(陰山泰)の「家に帰ろう」が染みました。”家”は日常の象徴であり、戦争という非日常からふだんの生活に戻るという意味に聞こえて、ホッとしました。

帰りの列車は混んでいて、盗みを働こうとする人も混じっています。スズ子の荷物に手を出した人物を小夜が見咎めます。愛助のときは完全な勘違いでしたが、小夜のように常に疑いの心を持って生きていることが役に立つこともあるのです。小夜はおそらく、奉公先でとてもつらい目にあっていて、他人に心をゆるさない性分になっていたのだろうと思う場面でした。

三鷹に帰ると、愛助も坂口(黒田有)も無事でした。ただ、食べるものがなく、愛助は畑をはじめます。野球をやっていた水上恒司さんは骨格も筋肉もしっかりしていて、畑仕事の動作が難なくたくましく見えます。病弱な文系青年には見えないですが、実実な人柄が透けて見える感じは役に合っています。

畑をはじめても収穫までは時間がかかります。それまで、じゃがいもができたらどう調理するか、ほかにはどんなものを植えたいか、想像して、ひとときやり過ごす、スズ子、愛助、小夜。楽しいことを想像することは大事です。

その頃、上海では、日本が負けたので、日本人の立場が危うくなっていました。さすがの羽鳥(草彅剛)もメンタルがやられ、どんなにお酒を飲んでも酔えなくなっていますが、黎錦光(浩歌)はおめでとう、と微笑みます。音楽を通して国境はないことを示そうとした人たちですが、ことは簡単ではありません。羽鳥のもとに、拳銃を構えた中国人がやって来て……。どうなる羽鳥。

緊張感のある第15週「ワテらはもう自由や」のはじまりでしたが、一箇所気になることがありました。二村(えなりかずき)がいなかった。玉音放送のときと、「帰ろう」と決めるときにいないことはあまり気にならなかったのですが、藤子屋を出発するとき、背中を向けている二村らしき人物がいることが逆に気になってしまい……。二村はいる体(てい)でもえなりかずきさんはいないのだなあと。

背を向けて泣いてるふうだった二村。彼は誰よりも敗戦がショックだったのでしょうか。

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–{第68回のレビュー}–

第68回のレビュー

終戦から 3ヶ月、愛助(水上恒司)が学業に復帰することになり、スズ子(趣里)はお祝いしようと、闇市に買い物に向かいます。

でも、物価は高く、たいした食材は買えません。そこへ、米兵が、チョコレートを配りに来ます。子どもたちは「ギブミーチョコレート」と群がります。

小夜(富田望生)も覚えたての英語でねだり、チョコをゲット。スズ子とふたり、チョコを頬張り英気を養いました。

そこへ、今度は宝くじ売りが現れます。1等は10万円。
スズ子は愛助のお祝いに、夢を買います。

プレゼントに宝くじって、お金のない男子にありがちな発想だなあと、筆者は知人を思い出し苦笑しました。女性にもいるかもしれませんが。

さて。続・朝ドライフ、おなじみ、お金の当時の価値コーナー。戦後になったので、資料を「戦後値段史年表」(週刊朝日編)に変更しまして(明治、大正の項目をなくして編纂されたもの)を見てみます。

それによりますと、昭和21年に地方くじの第 1号が登場し、そのとき、1枚10円で1等は1万円。一等10万円になるのは昭和22年です。ほかに賞品が、柱時計、ラジオがありました。
昭和22年で、おみくじが10円です。占いするより、未来を買うほうがいいかもしれないです。

昭和21年ではダイヤモンドが35万円です。10万円が高価なのだからどれだけ高価なのでしょうか。
当時のうな重の値段が不明ですが、昭和23年だと並で250円。10万円あったら400回食べられます。
江戸前鮨なら30円です。うなぎがいかに高価かわかりますね。
資料によると、寿司もうなぎも、昭和16年〜終戦まで統制により営業が禁止されていたそうです。解禁になったときうれしかったでしょうね。

愛助は10万円あれば、チャップリンやキートンを日本に呼んで興業したいと夢を語り、小夜とスズ子はうなぎがいいなあと思います。

なんとなくではありますが、女性を素朴な感性に押し込めてそれを微笑ましいふうに描くこの感覚は、「カーネーション」の糸子の「お昼にしようけ」とは似て非なるものであります。

ただ、小夜の貧しいゆえの発想や、スズ子の徹底的な庶民感みたいなところも否定すべきではないとも感じます。この感覚の違いの問題は朝ドラを語るうえで興味深く、慎重に考える必要があります。

食べることばかり考えているスズ子や小夜。もらったチョコレートを愛助にもって帰ってあげようとは思わなかったのでしょうか、という視聴者の反応は想定内で、あえて、隙を作っているのかもしれません。

この、間違い探し的な構成は近年の朝ドラに顕著ですが、なくてもいいような気もしています。ふつうに常識的なことは1秒くらいでさらっと入れてもいいのではないでしょうか。

戦災孤児の描写はあまりに段取り的で、丁寧で繊細な安達もじり演出をなつかしく思いました。現代の子役たちはこの芝居をどう思って演じているのでしょう。

戦争を知らない彼らが演じながらなにかを考える、当時を知らない視聴者が見てなにかを考えることがなければ、描く必要はあるでしょうか。
放送週に記載します。

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–{第69回のレビュー}–

第69回のレビュー

終戦から3ヶ月、コンサートができることになりました。
スズ子(趣里)はさっそく、楽団事務所へ。
一井(陰山泰)の自宅のガレージを事務所化した場所は焼けることなく無事でした。今日は
えなりかずき(二村役)さんもいました。

最初の曲は何にしよう、もちろん「ラッパと娘」です。
これを歌って踊ってこそ、福来スズ子の復活なのです。

愛助(水上恒司)も大喜び。なにしろ彼は福来スズ子の大ファンです。
批評文を読み上げるように、福来スズ子のすばらしさを語る姿は濃いファンそのもの。

「戦争によって止まっていた時間が再び動き出す」
なにかのキャッチコピーのようです。

たどたどしい大阪弁と文語調の言葉が、愛助の独特のキャラクターを作り上げています。ともすればやばい人になりかねないところ、水上さんの清潔感や誠実さが勝っています。

こうして、あっという間にコンサート当日。
スズ子は、真っ赤な派手な衣裳に袖を通し、久しぶりに長いつけまつ毛をつけます。でも久しぶりなので心ここにあらず。小夜(富田望生)の心配がむしろ邪魔で、楽屋から追い出します。

と、そこへ茨田りつ子(菊地凛子)が現れました。
お互い、戦争を生き抜いたことを労って……。

家が戦争で焼けてしまったりつ子。そのうえ、慰問先で、特攻隊の若者たちに何もできなかった悔いも抱えたまま……。

なぜ、りつ子にばかり重圧が重なっているのでしょう。暗い歌ばかり歌っているから呼び寄せてしまうのでしょうか。

りつ子「歌は人を生かすために歌うものでしょう。戦争なんてくそくらえよ」
スズ子「ほんならこれからはわての歌で生かさな」

スズ子はりつ子を励ましながら、自分自身を鼓舞し、やる気を漲らせます。

ステージに立ったりつ子の歌は、以前に増して、深みのあるものになっていました。特攻隊の人たちのことを思うと、これまでただ微動だにしないで歌っていたものが、自然に、柔らかな動作や表情になっていきます。マイクをぐっと握り、2番まで謳い上げました。

観客はじーんっと聴き惚れています。

ここで、気づいたことがありました。
最近の「ブギウギ」の戦後の焼け跡描写は、なんだかリアリティーがなく、いかにもスタジオに簡易セット建て込みましたという、作り物感丸出しで、もう少し汚しに手を加えることができるのではないかと思って見ていました。が、これは意図的なものかもしれません。そこには深い狙いが感じられます。

というのは、「ブギウギ」の世界では、本来作りものであるステージ上こそが”ホンモノ”という考えのもとに作られている節があるからです。

つらいとき、ステージを見て、活力をもらう、それがエンタメです。

エンタメのひとつであるドラマ自体が作りものですから、リアルだリアルじゃないという観点もナンセンスであり、そこにホンモノを見出すとしたら、俳優の一瞬の表情にしかありません。

菊地凛子さんの心をこめて歌っている表情には力があり、それだけがホンモノなのです。
彼女の歌う姿を見ている間、戦後の貧しい虚無的な風景は、ウソに見えるのです。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第70回のレビュー}–

第70回のレビュー

茨田りつ子(菊地凛子)が歌い終わり、次はスズ子(趣里)の番。長らく、動かずに歌わせられていたので、むずむずして、「もう我慢できへん」と爆発的に「ラッパと娘」を歌い踊ります。

客席も大盛り上がり。

カメラがラフなアングルで撮影し、躍動感を表します。スズ子をぐっと煽った画に勢いがありました。

福来スズ子とその楽団たちは、演奏のとき、すごくいい表情をしているので、曲の良さが感じられます。

一井(陰山泰)はやっぱり渋くて洒落た感じがあって、二村(えなりかずき)は一瞬の決めの表情の付け方の勘が抜群にいい。

三谷(国木田かっぱ)はいつも背後から優しくスズ子を見ながら弾いていて、安心感があります。四条(伊藤えん魔)は演劇活動のほかにバンド活動もしているから、音楽に乗ってる感じにリアリティーがあります。弦楽器をやっているようなのですが、役ではドラム。スティック回しが華麗です。

この最高の演奏を羽鳥(草彅剛)が客席から立って見ています。公演終了後は、スズ子とりつ子の楽屋に駆けつけました。

上海で銃を突きつけられて、どうなったのかと心配でしたが、なんとか助かったようです。
そのへんの話はスピンオフ「羽鳥善一の華麗なる冒険」みたいなものをぜひ制作していただきたいです。

麻里(市川実和子)と子どもたちも自宅も無事でした。麻里さんはもうひとり赤ん坊も生まれていました。戦争中、夫がいなくて、出産して……とさぞ大変でしたでしょう。そんなとき、スズ子は愛助(水上恒司)のことばかり考えていたんですね。戦時中は皆、自分のことだけでせいいっぱい、半径1メートルくらいのことしか考えられなかったのかもしれません。

客席には愛助もいましたが、彼は楽屋には来ません。秘密の交際だからでしょうか。
スズ子が帰宅すると、玄関に正座して待っていて、彼女のパフォーマンスを絶賛します。
妻が三つ指ついて待っている、というのとは逆パターンです。

音楽のある楽しい日常が戻って来ました。でも、街には米兵がうろついていて、戦争以前とは少し違います。小夜(富田望生)は、英語を勉強中。宝くじは外れてしまいましたが、
たばこと替えてもらって、宝くじを一枚買ってくれたサム・ブラウン(ジャック・ケネディ)にお返しします。意地汚い小夜にしては、義理と人情のある行為です。

サムはお礼のお礼に(?)小夜を食事に誘います。意地汚い小夜ですから、食べ物と聞いたら、尻尾を振ってついていきます。あんなに、男は最初のうちはやさしいがすぐに変わるとか言っていたのに。こんなふうに目先の欲望に流されやすいからひどい目にあってきたのでしょう。
サムが日本人女性を騙してひどいことをする人かはわかりません。いまのところはいい人のように見えています。

「バッド・ラック!」 小夜は「グッド・ラック」を間違えて覚えているみたいです。BAD ENDになりませんように。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第71回のレビュー}–

第71回のレビュー

昭和21年(1946年)、1月。福来スズ子とその楽団は引っ張りだことなり、スズ子(趣里)は大忙し。
愛助(水上恒司)も負けじと学業に精を出します。

スズ子が体のことを心配して反対するのを遮る水上さんのセリフの被せ方に、反射神経の良さを感じました。

楽団の仕事がすごく忙しいなか、三谷(国木田かっぱ)四条(伊藤えん魔)小夜(富田望生)の様子がおかしい。

三谷と四条は、ほかの楽団と掛け持ちをしていて、小夜はサム(ジャック・ケネディ)と会っていました。

三谷と四条のみならず、一井(陰山泰)二村(えなりかずき)にも引き抜きの話が来ていることを知ったスズ子は、楽団を解散することにします。

マネージャーの山下(近藤芳正)に相談もせず、
「突然ですが、福来スズ子楽団は解散します」といきなり宣言。

楽団をはじめたのはスズ子だから、終わるのもスズ子の判断とは思います。でも、4年間も一緒にやってきたのだから、「解散しようかと思うけどどう?」と相談するのが筋ではないのでしょうか。

楽団の皆さんに実力があって引きも切らないから、困らないと好きなときに好きな音楽で食べていけるから、解放して差し上げようと思ったのでしょうけれど。福来スズ子は、サムも知っているくらい有名なのだから、彼女の楽団にいたほうが稼げそうな気がします。

その疑問は、「俺たちは楽器鳴らして戦争を生き抜いた」という一井のセリフで、解決します。このセリフがこの楽団の存在意義を端的に表していました。つまり、そもそもが、戦争で音楽の仕事がなくなって、急づくりで集まって肩寄せあってがんばったということなのです。

寄せ集めの人たちがふんばって生き延びて、戦後はそれぞれの道に戻り、バラバラになっていく。これからはスズ子はひとり、山下をマネージャーに、小夜を付き人にして、活動を続けていこうとしましたが、小夜が辞めると言い出します。たぶん、サムとの関わりなのでしょう。

小夜は、サムの前で歌を歌ったけれど、ヘタで、街の人たちに笑われてしまいました。スズ子にあこがれて弟子にしてほしいと頼みこんだものの、全然、歌を勉強する様子もなかったのは、もしかして、つらい奉公から逃れる手段なだけだったのかもしれません。

人前で歌ってみて、下手なことを自覚して、これ以上、スズ子のところにいるわけにはいかないと思い直したのかも。

番組の制作統括・福岡利武チーフプロデューサーに、以前、取材したとき、小夜は、スズ子がどんな人でも広い心で受け入れる人物であることを表現するための存在でもあるというようなことを語っていました。

小夜や楽団の人たちという行き場のない人たちをスズ子が集めて、一緒に生き抜いていこうと旗振りになったというエピソードだったと考えると、すっきりする気がします。

怪我した小鳥を鳥かごで飼って、怪我が治ったら、自然に戻すように、戦後、それぞれの生き方ができるようになった人たちを、スズ子は解放したのです。

日帝劇場の「ハイ・ライト」コンサートで、やけに楽団の皆さん、いい表情をしていたのはこれが最後の見せ場だったということだったとわかり、しみじみした気持ちになりました。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「ブギウギ」作品情報}–

「ブギウギ」作品情報

放送予定
2023年10月2日(月)より放送開始

出演
趣里、水上恒司 、草彅 剛、蒼井 優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎 ほか


足立紳、櫻井剛<オリジナル作品>

音楽
服部隆之

主題歌
中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」(作詞・作曲:服部隆之)

ロゴ・タイトル制作
牧野惇

歌劇音楽
甲斐正人

舞台演出
荻田浩一

メインビジュアル
浅田政志

語り
高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)

制作統括
福岡利武、櫻井壮一

プロデューサー
橋爪國臣

演出
福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠 ほか