<下剋上球児>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

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鈴木亮平主演の日曜劇場「下剋上球児」が2023年10月15日放送スタート。菊地高弘の「下剋上球児」(カンゼン刊)を原案に、新井順子プロデューサーと塚原あゆ子演出のタッグが帰ってくる。弱小高校野球部を舞台に繰り広げられる下剋上ストーリーに期待だ。

CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。

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もくじ

第1話ストーリー&レビュー

第1話のストーリー


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2016年、3月。三重県立越山高校では、生徒や保護者からの人望も厚い社会科教師・南雲脩司(鈴木亮平)が、次年度から野球部の顧問兼監督に打診されていた。しかし、肝心の野球部は1名の部員を除いてやる気のない幽霊部員ばかり。さらに南雲は妻・美香(井川遥)と二人の子どもとの家庭での時間を大事にしたいと思っており、顧問への就任を頑なに拒んでいた。そんな中、家庭科担当の教師・山住香南子(黒木華)が越山高校へ赴任してくる。南雲と一緒に野球部を強くしたいとやる気満々の山住は、スポーツで実力がある中学生たちを受験前から勧誘。地元の有力者・犬塚樹生(小日向文世)の孫で名門クラブチームのエースだった翔(中沢元紀)も強豪校への受験に失敗して越山に入学してくることに!

なし崩し的に野球部の手伝いをしていくうちに、穏やかだった南雲の生活が大きく変わっていく・・・。

第1話のレビュー

想像以上に、驚いてしまうほどの、弱小っぷりだ。

越山高校の“ざん”は残念の“ざん”と言われてしまうほど、どこか惜しい空気が漂う高校。勉強に部活に、やりたいことを見つけて全力投球できるはずの高校生たちは、どこか人生を斜めに見ていてやる気がない。放課後は遊びかバイト、家に帰ってゲームをするか……。

とくに越山高校の野球部はひどいもので、部員はたったの一人。キャッチボールさえできずにいる日沖誠(菅生新樹)は、それでも腐らず、毎日丹念にバットを振っている。

この物語のタイトルは「下剋上球児」。ここから這い上がっていくサクセスストーリーをみせるためには、いつか訪れる勇姿とのギャップが深ければ深いほど、良い。そう考えると、2016年当時の越山高校野球部の状態は、これ以上ないほどの“底辺”である。

そんな底辺の弱小野球部に風穴を空ける存在。それが、このドラマの主人公である社会科教師の南雲脩司(鈴木亮平)だ。

元高校球児の過去をもつが、とある因縁により野球からは遠ざかっていた。野球強豪校から転任してきた家庭科教師・山住香南子(黒木華)の必死の説得により、条件付きで野球部の監督を務めることになる。

南雲を取り巻く“過去の因縁”の全貌は、1話の時点ではまだ見えていない。

高校球児だった南雲は、当時の恩師・賀門英助(松平健)の元で練習に励んでいた。しかし、努力の果てに立った甲子園の舞台で、「卑怯な勝ち方をしている」と酷評を受ける。賀門に直接「正々堂々と戦いたい」と部員全員で直談判し、自分たちの野球をやろうと意気込むが、結果は敗退。

この過去が、南雲を野球から遠ざけている原因に思えたが、どうやら違う。おそらく賀門とのあいだに、まだ見えていない確執がある。そしてそれが、彼に「教師を辞めようと思っている」と口にさせる原因でもあるようだ。

秘密を抱えた野球部監督と、ようやく揃った部員たち。投げては打たれ、おもしろいほどに打てない彼ら。しかし、これほどまでに弱小の野球部でも、不思議と「2年後の勇姿」が見える。

土の味を感じるリアルな野球シーン、そして新井順子プロデューサー&塚原あゆ子演出の味でもある、スローモーションを効果的に駆使したドラマチックな画面の見せ方。必死に組んだ練習試合では2点しか取れなかったが、それでも、2点“も”取れたと思うくらいには、彼らは“底辺”だったのだ。

日沖や、エース選手・犬塚翔(中沢元紀)を筆頭に、越山野球部はどんどん強くなる。2年後、甲子園に行く彼らの背中を見ることになる。そして、野球部の生徒を演じるキャストたちは、ほとんどがまだ名が広まる前の状態だ。野球部が強くなるのと比例して、次世代の映画・ドラマ界を担う存在が生まれてもおかしくないだろう。

※この記事は「下剋上球児」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第2話ストーリー&レビュー}–

第2話ストーリー&レビュー

第2話のストーリー


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夏の大会までの3か月間限定で野球部監督に就任した南雲(鈴木亮平)。山住(黒木華)の発案で部員の実力を測るためのフィジカルテストを実施する。翔(中沢元紀)や楡(生田俊平)ら新入生が早くも実力を発揮する中、ゆるく野球を楽しみたいだけの他の部員たちは、いきなりの本気練習でやる気を失いかけていた。

一方その頃、新入生・根室(兵頭功海)はお金のかかる野球を続けることで姉の柚希(山下美月)に迷惑がかかると悩み始め、学校を休みがちになっていた。

チームはまとまりに欠ける状態だが、賀門(松平健)率いる強豪・星葉高校との試合が決定してしまい・・・。

第2話のレビュー

冒頭から手前味噌のようで心苦しいが、まず前回のレビューからの一文を引用したい。

この過去が、南雲を野球から遠ざけている原因に思えたが、どうやら違う。おそらく賀門とのあいだに、まだ見えていない確執がある。そしてそれが、彼に「教師を辞めようと思っている」と口にさせる原因でもあるようだ。

越山高校が抱える弱小野球部を、甲子園を目指せるレベルまで鍛え上げるために、南雲(鈴木亮平)に監督の誘いがかかった。しかし、いつまで経っても南雲の返事は歯切れが悪い。

期限付きで了承するが、それさえも渋々だ。自身が監督を務めるのに及び腰で、そこには“決定的な理由”があるように思えてならない。前回1話の終盤では、恩師である賀門(松平健)に「教師を辞めようと思っている」と口にしたほどだ。

南雲の秘密が、2話で明らかになる。ここまでためらうなんて、犯罪がらみとしか思えないと推察していたが、ボールは意外なところから飛んできた。犯罪であることに変わりはないが、南雲は教員免許を持っていなかった。書類を偽造し、3年間、不正に高校教師を名乗っていたのだ。

ふと、医師免許を持っていない天才闇医者の姿がチラつくが、状況は異なる。いくら家族を養うために、まさに苦渋の決断だったとはいえ、免許を持たない人間が教師を騙るのは、擁護の余地はない犯罪行為だ。

南雲本人からその事実を明かされた山住(黒木華)は、思わず「南雲先生らしくない」と口にする。それに対し、南雲は「僕をご存知ないだけです」と返す。

人のことは、わからない。長く時間をともにしても、会話を重ねても、知らなかった一面が見えてくることがある。

ましてや、南雲と山住は知り合って間もない。協力し合って弱小野球部を立て直していこう、とエンジンをふかし始めた途端に、肝心のガソリンが入っていなかったことを知らされるようと唐突感。山住の表情に、怒りや絶望よりも先に、困惑が浮かんでいるのも無理はない。

この、圧倒されるような、南雲という人間の二面性。彼を演じるのに、鈴木亮平ほど合致するキャスティングはない。

教師として、一人の大人として、高校生たちを指導し率いる姿勢は模範そのものだった。とくに2話においては、エース投手である犬塚(中沢元紀)に続くピッチャーの素質を持った生徒・根室(兵頭功海)への気遣い、そして言葉掛けに注目したい。

家が遠いこともあり、なかなか野球部の練習に本腰を入れられない根室。祖母の具合が悪いことも重なって、練習どころか学校にさえ来られない日もあった。そんな彼を心配し、南雲は自宅まで顔を出す。ともに船での仕事を手伝いながら、出過ぎない範囲で語りかける。

「何か困ったことがあったら、なんでも遠慮なく言ってくれよ」

「みんなには3年間、なんの心配事もなく過ごしてほしいと思ってる」

きっと子どもにとって、その他大勢ではなく、たった一人の自分を眼差してくれる大人の存在は支えになる。

大人への境界線に足を踏み出しかけている彼らにとって、まだまだ尽きない心配事や不安をさらけ出してしまいたい衝動と、自分の足で立たなければいけないプレッシャーとを両天秤にかけたら、ちょうどぴったり釣り合う状態だ。

どちらにも傾けられない。甘えることも、強く在ることもできない。そんな彼らにとって、この場合は根室にとっての南雲は、不安や迷いの一部を吐露してもいいと思える相手になった。そんな説得力を違和感なく表現できる役者は、限られている。

生徒や周りの教師たち、そして視聴者の心を惹きつけたタイミングでの、南雲の身分詐称。正と誤、光と闇。無視できない二面性を抱えた彼が見据えている選択は、教師を辞めること。越山高校の“ざん”は、残念の“ざん”ではない……それを証明する日は、いつやってくるのだろうか。

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–{第3話ストーリー&レビュー}–

第3話ストーリー&レビュー

第3話のストーリー

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「教員免許を持たずに高校教師をしていた」という衝撃の事実を山住(黒木華)に打ち明けた南雲(鈴木亮平)。おまけに南雲は年度いっぱいで教師を辞めるつもりで、野球部の監督もこれ以上は続けられないという。星葉高校との練習試合で惨敗したものの、チームの今後に可能性が感じられた矢先の南雲からの話に山住は動揺を隠せない。

そんな中、バッティングセンターで地元の会社員に絡まれてしまった越山高校の生徒たち。野球部主将・日沖(菅生新樹)の弟で南雲のクラスの生徒である壮磨(小林虎之介)が相手の挑発に乗ったことで、不可抗力ながら暴力事件へと発展してしまう。

一方、南雲家では美香(井川遥)に、以前勤めていた会社から1年間だけ復帰してくれないかと声がかかっていた。子どもたちを置いて東京には行けないと話す美香に、南雲は自分が教員免許を持っていないことを言い出せず・・・。

第3話のレビュー

やはり、新井順子プロデューサーと塚原あゆ子演出のドラマは、一味も二味も違えば、一癖も二癖もある。「下剋上球児」は、表向きは“高校の弱小野球部を甲子園出場へ連れていく”スポ根熱血青春ドラマに見せているが、蓋をひらけばさまざまな仕掛けが蠢いている。

日沖誠(菅生新樹)を筆頭とする越山高校野球部が、南雲(鈴木亮平)や山住(黒木華)と手を取り合って甲子園を目指すのがA面だとすると、裏で走っているのは、もうひとつのダークな物語。無免許で高校教師を名乗っていた南雲が、夏の終わりまでそうとバレずに、野球部の監督を続けられるか……。野球部員たちは想像もしていないような軸が、同時進行している。

太陽、汗、グラウンド、高校球児たちの曇りなき掛け声。光あふれるストーリーの陰で、共犯関係となった南雲と山住はこの先、少なくとも夏の終わりまで戦々恐々としながら球児たちと接することになる。

このドラマを、ただの青春物語では終わらせない。そんな宣戦布告さえ見え隠れするようだ。

もう一点、この「下剋上球児」から目が離せない理由は、越山高校の野球部を演じる面々のキャスティングである。

日沖誠を演じる菅生新樹や、根室を演じる兵頭功海、久我原を演じる橘優輝など、ドラマフリークかつ若手役者に注目している層なら既知の顔も多い。

しかし、生徒のほとんどはキャリアの浅い新人からの起用だ。これは「前のクールに出ていた役者が、続けてまた出ている」と言われがちな日本のドラマにおいて、稀有な現象だと感じる。

だからといって、彼らには不思議と、新人独特の気負いや“頑張っている感”がない。あえてわかりやすい例を挙げるなら、子役が泣くシーンに対し「一生懸命泣いてます感があって、正視できない」といった意見が聞かれることがある。それと同等の「頑張って演技してます感」が、彼らにはない。

末恐ろしくなるほど、自然だ。全員が、それぞれ演じている生徒その人に見える、視聴者に違和感を抱かせない演技をしている。まだ認知を広げる前の彼らだからこその副産物なのかもしれないが、それを抜きにしても、役を超えた表現を見せてもらえる満足感がある。

南雲に、山住に、そして生徒たちに感情移入している。無事に甲子園で勝ち進んでほしい、「越山高校の“ざん”は、残念の“ざん”だ」と言わせた全員を見返してほしい。そう思うのと同時に、無免許で高校教師を名乗っていた南雲の、その共犯の片棒を自ら担ぐことにした山住の、心中に思いを馳せてしまう。

越山が甲子園で優勝し、かつ、南雲と山住の共犯関係もなんらかの形でお咎めなしに……だなんて、そんなご都合主義な結末にはならないだろう。私たちは、この期待と不安を、最終回まで抱えることになる。

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–{第4話ストーリー&レビュー}–

第4話ストーリー&レビュー

第4話のストーリー

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いよいよ甲子園予選1回戦の日がやってきた。越山高校の相手は、昨年夏の大会を一回戦で敗退した多気高校。監督の横田(生瀬勝久)を隠れ蓑に副部長として指揮を執ることになった南雲(鈴木亮平)は、この大会を最後に教師を辞めると決意してベンチ入りしていた。エースの翔(中沢元紀)をはじめ、久我原(橘優輝)、楡(生田俊平)ら1年生の活躍もあり越山ペースの展開に!

 
そんな中、美香(井川遥)は南雲を残し子どもたちと東京へ行くことを決意したが、事情を知らない息子の青空(番家天嵩)は東京行きに難色を示していた…。

第4話のレビュー

ついに南雲(鈴木亮平)が、教員免許の不所持や公文書偽造の罪を償うため、警察へ出頭する。美香(井川遥)や子どもたちが仕事の関係で一年間、東京へ行ってしまうタイミングを見計らっての自首だった。

共犯になることを覚悟した山住(黒木華)との約束通り、夏の終わり、甲子園の予選一回戦で惜しくも越山高校が負けてしまうのを待って、南雲は監督も高校も辞める。

越山のエース投手である犬塚翔(中沢元紀)、責任をとるため自ら試合に出ることを辞退した日沖誠(菅生新樹)、投げ続け体力を消耗しつつあった翔をサポートしたもう一人の投手・根室知廣(兵頭功海)など、選手たちは皆、100%の力を出した。

9回戦で負けてしまったが、彼らにとってはそれでも異例のこと。最後の試合に出られなかった誠のスピーチ、そして、兄の悔しさを背負う形で弟の日沖壮磨(小林虎之介)が野球部へ入った展開も含めて、熱い。

丁寧に描かれた試合のシーンも、そうだ。効果的に入るスローモーション、生徒たちの心情をあらわしたナレーション、サインや目配せも取りこぼさない。その描写すべてに、彼らを応援したくなる要素が詰まっている。

だからこそ、南雲の進退をめぐるやりとりが、そぐわないほど重く感じられる。

このドラマを見守る視聴者は、生徒たちを応援したい。奇しくも、この4話放送日は、阪神タイガースが二度目の日本一を飾った夜と重なった。相乗効果、とまではいかないが、部員一人から始まった弱小野球部にエールを送りたい。まさに「下剋上」を狙う彼らを、練習のしすぎで食事中に眠ってしまうような選手たちを、見ていたい。

なぜ、南雲は罪に手を染めたのだろう。理由はわかっている。卒業直前で単位が足りていないことがわかった。家族を養うには金が必要で、そのためにはどうしても卒業し、教員免許を取得しなければならなかった。

しかし、たったそれだけのことで、不正をしようとまで思うだろうか。家族を養わなければならない、その一点だけが彼を罪に向かわせたのか。もっと別の、まだ明かされていない理由があるのでは? そう勘繰ってしまうのは、「たったそれだけのこと」と思ってしまうのは、安全圏にいる人間の無責任な言い分なのだろうか。

南雲が警察へ自首したことによって、遅かれ早かれ生徒たちにも知れることになる。このとき、彼らは何を思うだろう。賀門英助(松平健)が言ったように「生徒たちを裏切った」ことになるのだろうか。南雲の進退と、生徒たちのこれからのこと。どちらに注目するべきなのだろう。

南雲に対する心ない噂が広まることは避けられない。キーパーソンとなるのは、南雲と共犯関係になると決めた山住の存在だ。南雲が、落ちに落ち切った底から這い上がって「下剋上」を成し遂げるのは、いつになるだろう。

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–{第5話ストーリー&レビュー}–

第5話ストーリー&レビュー

第5話のストーリー

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南雲(鈴木亮平)が無免許で教師をしていたという衝撃の事実に驚き、複雑な思いを抱える野球部員たち。混乱の中、校長の丹羽(小泉孝太郎)や山住(黒木華)は保護者たちの対応に追われていた。

そんな中、南雲の裏切りに激怒した犬塚(小日向文世)は強豪校から野球指導のできる新監督を山住に相談もなく決めてしまう。

一方、在宅で取り調べを受けることになった南雲の身にも、青空(番家天嵩)への心ない言葉や、容赦ない記者たちの追及が降りかかる。南雲は担当弁護士たちに、教師を志すきっかけとなった幼少期からの経験や、教師になってからの日々について語り始めて・・・。

さまざまな困難が降りかかる中、山住はあることを決意する。

第5話のレビュー

「本物の教師だったら、どんなによかったか」

わざわざ大学に入り直したにも関わらず、単位が足りずに卒業できないことがわかり、身分を偽って“ヤミ教師”となった南雲(鈴木亮平)。美香(井川遥)が勢いに任せて言っていたように、卒業ができないとわかった時点で、家族に相談すべきことだった。

生活していくために、家族を養っていくために、無免許であることを承知の上で教師を名乗った……。早々に罪の意識に耐えられなくなった南雲は、赴任した直後に教師を辞めることを考える。しかし、ある“成功体験”が彼の足を引き留めた。

越山高校の“ざん”は、残念の“ざん”。赴任早々、生徒指導係となった南雲は、とある女性生徒と出会う。いわゆるパパ活と称して、年配の男性とご飯を食べたり、カラオケに行ったりしている彼女。南雲はたびたび現場に突撃し、危ない行為をやめるよう働きかけていた。しかし、女子生徒の言動が改まることはない。

しかし、とある日、彼女は突然変わった。パパ活をやめ、スーパーのアルバイトを始めた。アルバイト先でもらったというお菓子を南雲に渡しながら「今までありがとう、なぐちゃん」と言う。

大袈裟かもしれないが、奇跡だと思った……と当時のことを述懐する南雲。生徒には、可能性がある。誠心誠意、生徒一人ひとりと接すれば、変わってくれることがある。南雲にとって、そんな成功体験が、どんどん“教師”を辞めにくくさせていった。

南雲がやったことは犯罪であり、彼のどんな過去や背景が描かれようと、擁護できる類のものではない。南雲自身、家庭環境に恵まれずに育ち、丁寧に世話をしてくれた教師の思い出が拭えなかった。だからこそ、自分もそんな大人になりたいと思っての行動だったのだろう。

それでも、許されない。南雲の謹慎処分は続き、起訴となるか、それとも不起訴となるかを待つ身だ。

球児たちの時間は過ぎていく。

南雲が無免許の教師だったことは知れ渡り、まさに疑心暗鬼が広がっている状態だ。新しい監督(町田啓太)が赴任してきたが、生徒のことを思いやっているとは思えない。結果、誰ひとり新入部員をスカウトしてこられず、早々にいなくなってしまった。

長い通学時間がネックとなり、電車のなかで寝入って車庫に閉じ込められてしまった根室(兵頭功海)の事件がきっかけとなり、越山高校の球児たちは南雲の自宅へ出入りするようになる。さながら合宿所のようで、時間が“あの頃”に戻ったようにも感じられるが……。球児たちと南雲の間に生まれた溝は深い。

南雲の処分が決まるか否かの瀬戸際で、どうやら山住(黒木華)にも不穏な過去があることが匂わせられた第5話。教師の、そして球児たちの“下剋上”は、まだ始まったばかりなのかもしれない。

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–{第6話ストーリー&レビュー}–

第6話ストーリー&レビュー

第6話のストーリー


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根室(兵頭功海)が南雲(鈴木亮平)の家に泊まるようなったのを機に、南雲のもとに練習後の野球部員たちが集まるようになったある日。ついに南雲の事件が検察に送致されることに。果たして南雲に下される処分はいかに・・・。

そんな中、南雲と青空(番家天嵩)は東京の美香(井川遥)の仕事場を訪ねる。久々の再会に喜ぶ南雲家だったが、そこには美香の元夫である晴哉(大倉孝二)の姿もあった。一方野球部では、南雲の後任監督が、新人を一人もスカウトできなかったことを理由に犬塚(小日向文世)によって解任され、山住(黒木華)が自ら新監督に申し出る。そして迎える夏の予選、初戦の相手は昨年ベスト8の五十鈴高校に決定! 初戦に向け、気を引き締める部員たちだったが、五十鈴高校野球部員から、横浜にいた頃の山住に関するあるうわさを聞かされる――。信頼する山住、そして南雲を野球部に戻すために部員たちは“夏に一勝”を目指していく。

第6話のレビュー

なぜ球児たちは、南雲(鈴木亮平)や山住(黒木華)のことを信頼できるのか?

無免許で高校教師を名乗っていた南雲の不起訴が決まった。時を同じくして、山住に関する“ウワサ”が球児たちの耳に入る。夏の予選で対戦相手となる五十鈴高校の部員から「山住が越山の前に勤めていた学校を辞めた理由は、部員と淫行したのがバレたから」と聞かされたのだ。

ニセの教師と、淫行のウワサがある教師。予選を前にした球児たちにとって、決して穏やかな話題ではない。それでも彼らは二人の教師を信じた。

南雲に対しては、生徒たちが主導して寛大な処罰を求める嘆願書に署名を集める活動を始める。山住に対しては、最初からそんなウワサを物ともせず、決然とした態度を貫いた。南雲に対して「ウワサを知っているか」と電話で確認はしたものの、「山住先生を信用するのか、噂を信用するのか」と強く問い返されたことにより、むやみにウワサを広めることはしなかった。

球児たちがここまで南雲と山住を信頼できる理由は、それだけの言動と姿勢を、二人が示し続けてくれたからだ。

嘘のない率直な言葉で、自分たちと向き合ってくれた。他の大人や他校の生徒は「越山の“ざん”は、残念の“ざん”」と貶すが、南雲と山住は彼らの可能性を信じ、ダメな部分はダメと言い、具体的な言葉で「どうすれば強くなるか」を教えてくれた。

確かに、無免許で高校教師を名乗った南雲は、紛うことなき犯罪者だ。彼が、どれだけ強い信念を持った人物でも、生徒一人ひとりに対し真摯に向き合っていたとしても、“教師の才能”があったとしても、罪は消えない。やってはいけないことをした過去はそのままで、多くの人を裏切ったことには変わりない。

それでも、思うのだ。南雲や山住から直接の指導を受けていた球児たちにとって、彼らは、誰よりも自分たちのことを考えてくれた教師だ。積み重ねてきたものがあるからこそ、球児たちは信じた。自分たちのことを諦めず、強くしようと力を尽くす大人に、報いようとしているのだ。

球児たちの一人が「資格って、なんやろ」と何気なく呟くシーンがある。その些細な疑問が、このドラマの根幹に関わっている気がしてならない。

結果的に、山住にまつわる生徒淫行のウワサは、まったくのデタラメだった。わざわざ越山の球児たちに接触してきた五十鈴高校の生徒が、山住を陥れた張本人だったのだ。

キツい練習に耐えられず、教師である山住に対してつい弱音を吐いてしまった。頑張っているのに「頑張っていない」と断定された、そう勘違いした結果、彼は苦し紛れの腹いせに山住を退職に追い込んだのだろう。

それでも、彼の真意はわからない。本編で山住が口にしたように、何を考えているかを推し量れないところがあった。「何を考えてるか、わからなかったから。わからない自分が情けなくて辞めたの」と、前の学校を辞めた本当の理由を語った山住は、強かった。生徒の理不尽なやり口に屈することなく、かつ、彼らの将来を守るために真実を公表もしない。

そして何より、本人に罪悪感を抱かせない。その山住の姿勢は、やはりどこまでも教師だった。だからこそ越山の球児たちは、南雲も含め、山住のことも信頼してついてきたのだ。

夏に、一勝。この目標を達成したら、南雲が越山の野球部監督として復帰する。早々に目標を達成してみせた彼らは、着実に強くなっている。

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–{第7話ストーリー&レビュー}–

第7話ストーリー&レビュー

第7話のストーリー


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2017年、夏。11年ぶりに予選1回戦を突破し念願の“夏に一勝”を手にした越山高校野球部は、続いて迎えた2回戦も強豪・伊賀商業相手に善戦。しかし楡(生田俊平)のミスからペースが崩れ、惜しくも敗北を喫する。勝てた試合を逃したショックから立ち直れず、燃え尽き気味の部員たち、そして反省から熱を出して寝込んでしまう山住(黒木華)・・・。

そんな中「一勝したら戻ってきてほしい」という部員たちとの約束にこたえ、南雲(鈴木亮平)が監督に復帰することに! 美香(井川遥)も東京から戻ってくるなど力強い援軍も得て意気込む南雲は、落ち込む部員たちを奮い立たせて実戦経験を積ませるべく、次々と他校との練習試合を組んでいく。しかしその頃、予選敗退以来部活を休み続けていた楡の身に、ある問題が起こっていた。

さらに犬塚(小日向文世)と丹羽(小泉孝太郎)は、南雲の監督復帰を快く思っておらず・・・。

第7話のレビュー

思春期の悩みは、世間や第三者からみれば小さくとも、本人にとっては世界が終わるくらいの大きさを持つ。試合でエラーをし、負けてしまったことで、楡伸次郎(生田俊平)は気を病んだ。野球部の練習からも足が遠のき、退学を視野に入れるほど思い詰める。

しかし、楡の抱える問題は、別のところにあった。成績が落ちていて、このままでは進級が危ういと釘を刺されたこと。さらには視力の低下によって、まともにボールが見えない。野球をする者にとって致命的だが、根室(兵頭功海)のようにメガネかコンタクトにすれば解決する。

しかし楡は「(メガネをかけるのは)メガネくんと言われるからイヤだ」「(コンタクトをつけるのは)こわい」と譲らない。越山高校野球部の監督に復帰した南雲(鈴木亮平)に付き添ってもらい、コンタクトを入れる練習をする楡。自分の人生を根底から揺るがす悩みは、コンタクトひとつで解決した。

「下剋上」に向け、越山高校が本腰を入れ始める。

無免許で高校教師を名乗っていた南雲に対して、まだ態度を決めきれない面があるのも否めない。元から彼を信頼している球児たちは、「資格をたくさんとった」と話す南雲に対し「偽装やないですよね?」とネタに昇華しているが、視聴者全員がついていけているかは別問題だ。

しかし、生徒や地域住民への影響を苦慮する丹羽校長(小泉孝太郎)に向けて、横田(生瀬勝久)が言った言葉も本当だ。

「あんたらはいっぺんも失敗したことないっていうんですか?」

「みっともない背中です。それ蹴っ飛ばして、何が教育者や」

一生降ろせない荷物を背負いながら、南雲は球児たちを甲子園へ連れていく。周囲の信頼を回復させるためにも、さらに強くなって甲子園優勝を目指す。南雲の監督復帰をもって、ようやく下剋上の準備が整ったのかもしれない。

目標だった「夏に一勝」さえ奇跡的に思える球児たちにとって、甲子園優勝は、高すぎる目標だ。

でも確実に、彼らは成長している。強くなっている。グラウンドに一礼を欠かさないような、直接は接していない新一年生の名前を一人残らず覚えてくるような、彼らがどれだけ成長したかを具体的な言葉で伝えてくれるような、南雲の誠実な姿勢が球児に自信を与える。

現状の課題点をしっかり意識させ、かつ、自分がどれだけ高い山を登り、どんな頂点を目指しているかを示してくれる教師。南雲は、確かに“ニセ”の教師だった。笑い話にはできない罪だ。

それでも、こんな自分に何ができるかを知ることは、勇気になる。甲子園を目指すには、それだけで十分なのだと思える。

彼らは全員で勝ちに行く。自分たちにできることを、ときにはそれ以上のことをして、てっぺんを目指す。もう誰も、「越山の“ざん”は残念の“ざん”」なんて言わない。

※この記事は「下剋上球児」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第8話ストーリー&レビュー}–

第8話ストーリー&レビュー

第8話のストーリー


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南雲(鈴木亮平)が監督に復帰して1年。越山高校野球部は“日本一の下剋上”を目指し、夏の大会で34年ぶりにベスト8に進出していた。地元の後押しを受けて準々決勝も突破した部員たちだったが、どこか緊張感を欠いており、南雲と山住(黒木華)は不安な思いを抱えていた。

迎える準決勝で対するは賀門(松平健)率いる強豪・星葉高校。南雲にとっては教員免許の一件以来決別した賀門との師弟対決。甲子園出場へ重要な一戦の先発に、南雲はエースの翔(中沢元紀)か、成長著しい根室(兵頭功海)にするかで頭を悩ませていた。

そんな中、練習中に山住に打球が直撃するアクシデントが起こる。動揺する部員に、山住は「南雲にはこのことを言わないように」と釘をさすが・・・。

第8話のレビュー

ウソをつくたびに鼻が伸びてしまうピノキオの姿には、どこか、調子に乗った天狗と似通うものがある。順調に勝ち進む越山高校野球部の球児たちは、鼻こそ伸びていないものの、いつ足元を掬われてもおかしくない状況にあった。

先発ピッチャーの座が、不動のエースだった犬飼翔(中沢元紀)から根室(兵頭功海)に移った。南雲(鈴木亮平)の恩師である賀門(松平健)率いる星葉高校との、大事な準決勝を前にして、異例の采配。「今までと同じじゃ勝てない」と告げた南雲の口ぶりは、決して軽いものではない。

それだけでも球児たちの動揺を誘うには十分だったが、加えて山住(黒木華)がアクシデントに見舞われる。練習中、日沖荘磨(小林虎之介)が打った球が右の横腹に当たってしまったのだ。星葉との試合を前に、倒れた山住は病院へ向かうことになる。

翔の祖父である犬飼樹生(小日向文世)の目の調子も、依然として悪い。手術をしなければ悪くなるいっぽうだ。当人は、仮に手術が失敗したとき、失明することで翔の勇姿が見られなくなることを懸念している。

越山の球児たちの、伸びた鼻を叩き折るような作戦変更、そして二つの病。彼らは動揺することなく、自分を強く保ったままで大事な準決勝に臨めるか。

「このチームで勝ちたい」と言った翔は、先発から外されても腐らず、「俺にできること考えます」と言った。強豪校である星葉に進学するはずだった彼は、当初は越山に来たことを後悔していた。それがいつしか、チームを背負うエースの立場として、恥ずかしくないふるまいをしようとしている。

「一日でも多く、あいつらに野球をやらせてやりたい」と言った南雲の気持ちも、変わらない。星葉に勝つため、相手の裏をかくための作戦変更だ。あえて自ら“鬼の南雲”になることで、確実に勝ちに行こうとしている。きっと南雲の視界にはもう、甲子園が見えている。

※この記事は「下剋上球児」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第9話ストーリー&レビュー}–

第9話ストーリー&レビュー

第9話のストーリー


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いよいよ運命の準決勝の日がやってきた。エース・翔(中沢元紀)を控えに回し、根室(兵頭功海)を先発で起用するという南雲(鈴木亮平)の判断に戸惑いながらも、負けられない戦いへ向けて静かに覚悟を決める部員たち。しかしそんな中、山住(黒木華)が脇腹の痛みを悪化させ、病院へと運ばれてしまう。

そして始まった試合では、賀門(松平健)率いる星葉高校もこれまでとは違う布陣で挑んでくることに。想定外の出来事の連続にミスを連発する越山高校。焦る部員たちを前に南雲が打つ手とは? 越山高校は決勝へ進むことができるのか!?

そんな中、何やら重大な懸念を抱えている様子の丹羽(小泉孝太郎)は、犬塚(小日向文世)たちにある相談を持ちかけていた。

第9話のレビュー

越山がここまで勝ち上がってこられたのは、なぜだろう?

南雲(鈴木亮平)や山住(黒木華)が途中で投げ出さず、球児たち一人ひとりの可能性を信じて指導したからか? 多くの練習試合を重ね、経験を積み、技術を磨いてきたからか? 大勢の関係者が集まって、球場で声援を送ったからか? 一人残らず全員が「勝ちたい」と思ったからか?

きっと、そのすべてだ。

彼らは「勝ちたい」と願った。それと同時に、「負けたくない」「ここで終わりたくない」「先に進みたい」と祈った。

できることは、すべてやったのだ。賀門(松平健)率いる強豪校と戦えるポジションまで這い上がってきた彼らは、十分に強い。集中を切らさず、相手の動きをよく見て、与えられた役割を守り切れば勝てる。日本一の下剋上を果たせる。

ここまで来た彼らを、多くのハプニングが襲おうと、もはやブレることはない。

先発を任された根室(兵頭功海)は、投げるごとに消耗していく。ボールを獲ろうと必死になった楡(生田俊平)と久我原(橘優輝)は衝突してしまい、怪我を負った。肋骨を折った山住は、未だ球場に戻ってこられない。おまけに、せっかく作った緑色の越山Tシャツは、受け取りの手違いで届くのがギリギリに……。

しかし、どんなイレギュラーも、越山の球児たちを揺らがせるには弱い。

「繰り返して、ただ繰り返して、ほんまに楽しかった。だから、終わるのは嫌です!」

不動のエースである犬塚(中沢元紀)に代わり、先発ピッチャーを任された根室。彼の両肩に乗ったプレッシャーの重さは想像できない。それでも、彼は折れなかった。ここで終わりたくない、と堅固な思いでマウンドに立ち続けた。

「必死かどうかは人が決めんだよ!自分の天井自分で決めんな」

強豪校相手に点数で押された序盤から中盤にかけ、南雲は一時的に“鬼の南雲”を表出させた。思うように点が取れず、イライラしていた球児たちを煽り、わざと発破をかける。「つまんない試合してんな」と一蹴された彼らは、おもしろい試合を見せてやろう、と奮起した。球児たちの性格を知り尽くしている南雲にしか、できない芸当だった。

「何があっても諦めるな、絶対に後ろ向きになるな」

「負けるなら全員揃ってる時に。2人も欠けてる時じゃない」

「帰ってこい!」

試合終盤、1対2で押されている越山。2人が塁に出ている。無事に続けてホームに帰ってこられれば、逆転優勝。日本一の下剋上まで、あと一勝のところまで行ける。

思い描いた軌跡をなぞるように、「帰ってこい!」の呼びかけに応えるように、塁に出ていた二人は帰ってきた。ベンチにいる南雲たち、応援席にいる関係者たちと同じ熱量で、同じくらいに心を寄せて、私たちも彼らを応援した。声援を送った。回を追うごとにドラマチックになる試合シーンに、胸を熱くした。

見事に勝利し、決勝へ進むことになった越山。彼らのおかげで、暑い夏をまた追体験できている。

※この記事は「下剋上球児」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第10話(最終話)ストーリー&レビュー}–

第10話(最終話)ストーリー&レビュー

第10話ストーリー

星葉高校にサヨナラ勝ちし、ついに決勝進出を決めた越山高校野球部。しかしいざ勝ち進んでも、甲子園出場には高額費用がかかることが発覚。丹羽(小泉孝太郎)は地元の有力者たちを集めて皆で頭を悩ませていた。

そんなこととはつゆ知らず、南雲(鈴木亮平)の家で決勝へと決意を固める部員たち。三年生は皆、高校生活最後になるかもしれない試合、そしてその後の進路について思いを巡らせるのだった。そんな中、大学からスカウトを受けていた根室(兵頭功海)はそのことを姉・柚希(山下美月)に言えずにいて…。さらに犬塚(小日向文世)はある決意を固めていた。

そしていよいよ決勝当日。星葉高校の応援団も越山の応援のために駆けつけてくれるなど越山高校応援ムードの中、南雲と生徒たちの“日本一の下剋上”がかかった、運命の試合がスタートする。

第10話レビュー

私たちは、不安になる。今やっていることが、果たして次に繋がるのか。懸命に打ち込んでいることが、将来、何かの役に立つのか。

南雲(鈴木亮平)や山住(黒木華)率いる越山高校の球児たちも、最初はそう思っていたかもしれない。弱い自分たちが、努力をして何になる? 頑張って練習をしたからって、“残念”の“ざん”と揶揄される自分たちが、甲子園に行くなんて夢のまた夢じゃないか。

でも、繋がった。終わらなかった。

ときに過酷な練習と試合を重ね、着実に強くなった。できなかったことが、できるようになった。ミットでボールを掴むこともできなかった球児たちが、ヘッドスライディングで鼻から血を流していた彼らが、夢と目標、そして共に志す仲間がいるおかげで強くなっていく。

このチームのために、強くなる。自分たちを信じてくれている大人たちのために、甲子園を目指す。気づいたら、このドラマを最後まで見守ってきた視聴者も含め、頑なに祈っていた。勝ちますように、報われますように、と。

甲子園を目指して戦ってきた彼らは、全員がプロの野球選手になるわけではない。部活から引退し、高校を卒業すれば、それぞれの進路へ巣立っていく。

根室(兵頭功海)のように社会人野球で活躍する者もいれば、犬塚(中沢元紀)のようにコーチを経験したあと、教師を視野に入れる者もいる。

だからこそ、高校での部活は貴重な時間だ。「青春」という二文字で終わらせるには、もったいない時期。自分がその渦中にいる間は、そのかけがえのなさに気付けない。南雲が言ったように「一生のうちにこのメンバーで野球ができるのは、今だけ」なのだ。

ともに強くなってきたメンバーで、彼らは勝ってみせた。甲子園出場がかかった予選。ここを守れば勝ち越しという場面で、音が消えた。襲いかかる期待とプレッシャーに、「勝ちたい」「甲子園に行きたい」……その気持ちだけで打ち勝った彼らは、まさに下剋上を成し遂げたのだ。

南雲は言っていた。「どんな手を使っても勝ちたくなってきた」と。彼のなかには言葉にならない、映像では表現されない思いが去来しただろう。かつて自分が涙をのみ、望まない勝ち方をした苦しい過去も含めて。そんな南雲が言う「どんな手を使っても」には、字面以上の意味がある。

下剋上を成し遂げてみせた彼らの夏は、誰にとっても忘れられない夏になった。

越山高校の球児たちの夏は、刹那的で、かつ途方もない時間が流れていた。

南雲の無免許問題、山住や久我原(橘優輝)の負傷、越山高校の資金繰り。課題が山積するなかで、球児たちがやるべきことは一つだった。目の前の試合に勝つために、練習すること。深呼吸し、集中すること。

「負けてもそこで、終わりじゃない」

「必ず次がある」

「次を目指している限り、人は終わらない」

意味のないことなんてない。無駄に終わることなんてない。部活なんて頑張っても将来の役には立てないかもしれないし、仕事なんて給料の範囲で適当にこなしていればいいかもしれない。それでも、人は終わらないのだ。次を目指している限り、夢や目標が潰えない限り。それを球児たちから教わった。

終わらない夏、終わらない下剋上。甲子園に連れていってくれて、ありがとう。

※この記事は「下剋上球児」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「下剋上球児」作品情報}–

「下剋上球児」作品情報

放送日時
2023年10月15日(日)スタート。毎週(日)夜21:00〜

出演
鈴木亮平/井川遥/黒木華/小日向文世/生瀬勝久/小泉孝太郎/松平健/明日海りお/山下美月 他

原案
「下剋上球児」(菊地高弘/カンゼン刊)

脚本
奥寺佐渡子

主題歌
Superfly

音楽
jizue

プロデューサー
新井順子

演出
塚原あゆ子
山室大輔
濱野大輝

編成
黎 景怡
広瀬泰斗

製作
TBSスパークル
TBS