<ブギウギ・大阪編>1週~5週までの解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。小さい頃から歌って踊るのが大好き、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、ヒロイン・スズ子の大阪での少女時代、さらに梅丸少女歌劇団のスターとなっていくまでを描いた1週~5週目までの記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

・第1回レビュー

・第2回レビュー

・第3回レビュー

・第4回レビュー

・第5回レビュー

・第6回レビュー

・第7回レビュー

・第8回レビュー

・第9回レビュー

・第10回レビュー

・第11回レビュー

・第12回レビュー

・第13回レビュー

・第14回レビュー

・第15回レビュー

・第16回レビュー

・第17回レビュー

・第18回レビュー

・第19回レビュー

・第20回レビュー

・第21回レビュー

・第22回レビュー

・第23回レビュー

・第24回レビュー

・第25回レビュー

・「ブギウギ」作品情報

第1回のレビュー

朝ドラこと連続テレビ小説、109作めの「ブギウギ」。
第1週「ワテ、歌うで!」(演出:福井充広)は、昭和23年、東京のステージで活躍中の、未来の福来スズ子(趣里)の姿からはじまりました。

鈴子は働くシングルマザーです。

仲間の歌手・茨田りつ子(菊地凛子)に助けられている様子。
そして、ステージに迎えに来る指揮者の羽鳥善一(草彅剛)

「ズキズキワクワクしてるんだ」とか「ツゥリーツゥーワンゼロ」とか羽鳥さんはノリのいい人です。「スリー」ではなく「ツゥリー」(threeでtだからですよね)なのは台本に書いてあったのを草彅さんがおもしろがってそのまま読んでいるそうです。脚本家の足立紳さんのX(旧Twitter)に書いてありました。羽鳥の個性が出ていてすてきですね。

「ズキズキワクワク」は「東京ブキウギ」の歌詞にあるワードです。心が「ズキズキ」って痛いほど刺さるってことでしょうか。パンチのある言葉です。

「東京ブキウギ」を歌い踊る福来スズ子で盛り上がり、さらにタイトルバックで盛り上がりは最高潮に。主題歌「ハッピー☆ブギ」は朝を元気にしてくれそう。

冒頭は主人公の活躍する未来像。これで、この物語がどこに向かっているかわかります。そして、ときは遡り、大正15年の大阪。

福来スズ子になる前の花田鈴子(澤井梨丘)は大阪の下町のお風呂屋さん・はな湯の娘。歌が大好きで、番台でお客さんの前で歌っています。

澤井さんが、趣里さんとそっくり。そっくり過ぎて、趣里さんが子供時代をやってもいいのではと思うほど。いやいや、でも十代の澤井さんだからこその無邪気さがとても良いです。連ドラ出演初だそうです。がんばれ。

お風呂屋さんに集まってるお客さんは、常連さんが多いようで、町の憩いの場になっているのでしょう。朝ドラ名物:たまり場です。

冒頭で、鈴子が赤ちゃんにキスしていたのは、お父ちゃん・梅吉(柳葉敏郎)の影響でしょう。彼はお母ちゃん・ツヤ(水川あさみ)に積極的に愛情表現をしています。

いろんなユニークな人たちが集まっています。三谷昌登さん、楠見薫さんなど、朝ドラ常連俳優がいっぱい。鈴子の人格形成がここで成されたと感じさせます。

お金をもってないのにお風呂に入れてもらえる謎の「アホのおっちゃん」(岡部たかし)について、お母ちゃんは「義理と人情」と言います。このおっちゃんに花田家はどんな義理があるのでしょうか。

ほかに記憶がなくはな湯で働いているゴンベエ(宇野祥平)も気になります。
ほんとうにいろんな状況の人がいて、でも、みんな楽しく暮らしている雰囲気がとてもすてきです。

学校でも鈴子は元気で、男の子たちとメンコをやっても強い。
日本舞踊も習っていて……と、わりと好きなことをのびのびさせてもらえる環境には恵まれているようです。

授業のはじめに、生徒たちが礼をしたとき一斉に机に頭をぶつけるところが、吉本新喜劇だったら、強調するところなのでしょうけれど、さらりと控えめな扱いだったことが逆におもしろかったです。

歌と踊りと楽しい登場人物たちで、毎日楽しい朝が迎えられそうです。

【朝ドラ辞典2.0  高瀬耕造アナウンサー(たかせこうぞうあなうんさー)】
NHK随一の朝ドラ好きアナウンサーとして知られる。朝ドラの昼の再放送終わりにはじまる午後1時のニュースで見せる表情に、朝ドラを見たあとの心情が現れていると話題になったことをきっかけに、「おはよう日本」では朝ドラ送りをまめに行い、名物化させた。朝ドラ好きなアナウンサーとして、番組の解釈や解説などもさすがの詳しさで、朝ドラの特番の司会なども担当した。大阪局に異動になり、大阪局制作の「ブキウギ」ではついに朝ドラの語りを担当することになった。関連語:ナレーション 語り

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第2回のレビュー}–

第2回のレビュー

愉快でにぎやかな主題歌ではじまる「ブキウギ」。いきなりわあっと登場人物がたくさん出てきますが、じょじょに整理されていく親切設計になっています。

まず、「アホのおっちゃん」と呼ばれる謎の人物(岡部たかし)。いつも、お金があったのに失くしてしまったと明らかな嘘をついてただ風呂にありついています。

疑問に思う鈴子(澤井梨丘)に、ツヤ(水川あさみ)は彼に対して”義理と人情”があるのだと説明します。

そこで、花田家が大阪で銭湯を営んでいる歴史が紐解かれます。以前は香川にいて、大阪にやってきて、梅吉(柳葉敏郎)の発案で銭湯をはじめた。初日にお客さんが来るか心配だったところ、アホのおっちゃんが最初のお客さんになってくれた。

現代の感覚だと、お金のない薄汚れた感じの人物が一番風呂っていうのは、逆効果な感じもしますが、明治、大正の頃はおおらかだったのでしょう。おっちゃんもただ風呂なだけでなく看板を作ってお返しをしています。

貧乏神が福の神に転じるみたいな寓話は昔からよくあります。「ブキウギ」の世界は、古き良き感覚の残った世界観なのだと思います。

だから、水川あさみさんが大阪出身で大阪弁がナチュラルで心地よいと思ったら、香川出身設定かい!と思っても、15年の間にすっかり大阪弁が馴染んだんだなとおおらかな心で受け入れたい。

”義理と人情”を学んだ鈴子は、さっそく級友のタイ子(清水胡桃)に義理と人情を返そうとします。鈴子が転校してきたときにタイ子のおかげで楽になったことを義理と考え、タイ子がひそかに好きな男子・松岡との仲を取り持とうとするのです。

そこで、タイ子の家庭の事情が明かされます。お母さんは妾で、お父さんがいつも家にいるわけではなく、たまに来る。こういう家庭環境もこの時代には珍しくありませんでした。

鈴子はぐいぐいとおせっかいしますが、タイ子は自分の出生のこともあって引き気味。

【朝ドラ辞典2.0:妾(めかけ)】
明治、大正時代を舞台にした朝ドラに登場する属性。「澪つくし」のヒロイン(沢口靖子)は妾の子設定で、父や本妻との独特の関わりが描かれた。が、最近は妾を持つことにネガティブな印象があるため描写を避け、「あさが来た」では、ヒロイン(波瑠)の夫(玉木宏)のモデルには妾がいたが、ドラマでは強い意思で持たないことを選択する流れになった。「らんまん」の寿恵子(浜辺美波)の母(牧瀬里穂)も彦根藩の家臣の妾設定で、寿恵子にもお金持ちの家の妾になる話が持ち込まれるエピソードがあった。

アホのおっちゃんにも何か事情があると梅吉は慮り、タイ子の家庭にも事情があります。そして、ツヤにも何かありそうなのが、香川での出来事。

気に病むことのあるタイ子と比べて、やなことがなにもない鈴子。それはお母ちゃんのおかげであると無邪気に言う鈴子に、ツヤはすこし複雑な顔をします。

鈴子が赤ちゃんのときのことをツヤが思い出していると、その背後に西野キヌ(中越典子)がいて、ものすごーく暗い顔をしていました。このキヌという人物は何者なのかーーこの謎もまたゆくゆく明かされることでしょう。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第3回のレビュー}–

第3回のレビュー

義理と人情を実行しようとする鈴子(澤井梨丘)タイ子(清水胡桃)松岡(湯田大夢)への恋を応援しようとしますが、空回りして……。

お祭りの帰り、松岡の友人たちが、鈴子が松岡を好きだと勘違いして大騒ぎ。弟の六郎(又野暁仁)が空気を読まず、松岡を好きなのはタイ子だと言って、場を混ぜっ返します。

子どもたちは残酷で、芸者の子、妾の子と囃し立て、鈴子は怒り出し、六郎はへんなタイミングで転び、わちゃわちゃに。

子供時代ってこんなふうにあけすけだったような気もしますが、みんなの見てる前で、
誰が誰が好きという話になったり、芸者の子、妾の子で悪い?と主張したり、おもらしした話をしたり、客観的に見てるといたたまれない気持ちになったのも正直なところです。

鈴子が、かなり暴力的に男子たちに食ってかかっていきます。

「カーネーション」や「おちょやん」ではヒロインが腕っぷしと負けん気の強いヒロインでした。が、最近は控えめなキャラが増えています。「舞いあがれ!」はおとなしめ、「らんまん」はしっかり者でしたが乱暴な口調ではなかった。「カムカムエヴリバディ」の3代目は時代劇好きで刀を振り回していましたが乱暴なイメージはありませんでした。鈴子のような言動が激しめ、しかもちょっとおせっかい過ぎるヒロインは久しぶり。ちょっとベタ過ぎなキャラ造形な気もしますが、絶滅するのも惜しいので、適度にこういう人物が出てきていいかと思います。

鈴子のおせっかいのおかげで、タイ子はすっきりして、芸者や妾の子だからと遠慮することをやめるのです。これで鈴子の恩返し(義理返し)は完了。

「おまえらいいな」と言う松岡が好感触。残念ながらほかに好きな子がいて、タイ子の気持ちに応えることができませんが、ちゃんと帽子を脱いでタイ子に敬意を表する態度は清潔感ありましたし、タイ子を見つめる瞳が、ヒロインの相手役の眼差しのようでした。

松岡役の湯田大夢さん、「舞いあがれ!」短歌教室・少年1役を演じていたそうです。
ほかに「心の傷を癒すということ」壮介(子ども時代)役も。これからの活躍に期待です。

不思議な浮遊感ある六郎役の又野暁仁さんは「舞いあがれ!」の朝陽くんを演じていました。コミュ障だった朝陽くんも印象的でしたが、六郎も、喧嘩を止めに入ろうとして(?)でいきなりすっ転ぶという斬新な動きや「胸がちくぅ〜」という言い回しの余韻が独特です。

ほか、第3回で印象的だったの田山先生(大塚宣幸)。鈴子が歌う姿を絵に描いてくれます。それだけでいい先生なんだろうなあと感じます。全員に描いてやれよという気もしますが。

鈴子は、第3回のお祭りで写真を見た、花咲歌劇団のことは忘れていましたが、先生は、彼女が歌ったり踊ったりすることに才や興味がありそうと見抜いている。そして鈴子も、自分が将来なにをしたいか考えはじめます。歌劇団のことを忘れていたのも、彼女なりの気遣いで、風呂屋を手伝うのが当然と思い込んでいるのかも?  

【朝ドラ辞典2.0 将来(しょうらい)】
朝ドラはたいてい主人公の幼少時からはじまり、ある段階で、将来、なにをするか進路を考える局面がある。進学か就職か、結婚か仕事か、仕事だったら何の仕事か、家を継ぐのか、継がないのか等々、様々な選択肢のなかから何かを選び取ることが、ドラマの題材になる。ドラマの冒頭は、主人公が夢を達成した将来の場面からはじまることもしばしば。
関連語:仕事、進学 
やりたいこと 
夢、未来

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–{第4回のレビュー}–

第4回のレビュー

ツヤ(水川あさみ)は、自分で進む道をみつけてすごいと褒めていましたが、

学校の先生には歌を歌ってる似顔絵を描かれ、友人・タイ子(清水胡桃)にも、歌がうまいので、花咲歌劇団に入るといいと言われ、だんだんその気になっていく鈴子(澤井梨丘)

さらに、風呂屋で働いている(居候?)のゴンベエ(宇野祥平)にも風呂を炊きながら鈴子の歌を聞くのが楽しみと言われ、じつはまわりから攻められている感じです。

風呂場の掃除をしながら、そこをステージのようにして歌い踊る。お風呂屋さんになると決めていた鈴子が、風呂屋一択の可能性から、歌って踊るという別の可能性を見つけた瞬間の舞台としては、実家の風呂場は格好の場所です。風呂屋から花開くスターの予兆。

でも、花咲歌劇団受験にはお金もかかります。両親におずおずと相談すると、ツヤも梅吉(柳葉敏郎)も応援体制です。

梅吉は元々、映画を作りたくて香川から大阪に来たので、娘がエンタメの職につくことに理解があります。

あれしろこれしろ言わないで、子供に自分自身で道をみつけさせることはなかなかできることじゃないが、鈴子は自分で見つけたすごい、と感心する梅吉ですが、だから教師、タイ子、ゴンベエがあれしろこれしろと言ったわけではないけれど、うっすら影響を与えていたことを知りません。若干親ばかです。でも、なんだかあったかいムードなのでいいのです。

しっかり者のツヤは、なんとかお金を工面しようと決意。

なんでこんなに子供に寛容なのでしょうか。

まだはっきり明かされていませんが、ふたりの子供に関係しているようです。

出産の際、香川に帰っていたツヤ。戻ってきたときにはふたり連れていて、梅吉は「双子やったか?」と首をかしげますが、不問に付します。梅吉ってとってもおおらかです。

もうひとりの子(男子)は早くに亡くなって、いまは鈴子と、その後生まれた六郎(又野暁仁)のふたり。

第2回の、中越典子さんが出てきた意味深な場面もありますし、絶対に何かあるーー。

関連記事:「ブギウギ」中越典子の思わせぶりな暗さが気になる<第2回>

ツヤと梅吉が鈴子を大事に愛情深く育てている理由が明かされるときは、いつでありましょうか。

朝ドラでは家が貧しくやりたいことを我慢しないといけない主人公も少なくないなか、「らんまん」に続いて、好きなことをやれる環境にある鈴子。さっそく花咲歌劇団をお受験します。

試験には、ツヤも付き添います。

鈴子はのびのびと、歌い踊り、面接では饒舌過ぎるほど語り、自己アピール。

自信満々でしたが、結果はーー。

自分よりも歌も踊りも下手な子が受かっていると、受験番号と人物をちゃんと認識していたのか、発表の掲示板の前で喜んでいる子の顔を見てそう思ったのか。いずれにしても、鈴子は歌も踊りもしゃべりもうまいのに……。

ひじょうに門戸が狭いこともありますが、もしかして、出来レース的なもの? いやいや、たぶん、おしゃべり過ぎたのがいけなかった気がします。何度も練習しましたアピールにも面接官は辟易していた気がします。

言動から、鈴子はおせっかいででしゃばりでがさつな印象も受けますが、「恋はやさし野辺の花よ」を歌う声は繊細で美しい。鈴子の心は清らかで優しいのでしょう。

さて、この回、印象的なのは謎のゴンベエ。記憶を失ったまま花田家で働いています。
花田夫婦が、鈴子だけ溺愛しているわけでなく、誰彼問わず、慈愛ある夫婦であることがわかります。

自分が何者なのかわからないゴンベエが、鈴子の歌を聞いてると何かを思い出す気がするというのも、鈴子の歌が聞く人に希望を与えるポテンシャルを持っているという、おそらく物語の根幹がここで示されています。

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–{第5回のレビュー}–

第5回のレビュー

「ブキウギ」の初週が終わりました。ヒロイン・鈴子(澤井梨丘)が将来やりたいことを、歌や踊りと認識し、邁進する流れをかなりスピーディに5回で描きました。

朝ドラでは、ヒロインがいろいろ進路に迷うものという先入観がありましたが、第一週からいきなり進路が決まりました。前作「らんまん」も最初から植物一直線でしたから、迷わず一直線が最近の朝ドラのトレンド?

 参考:朝ドラ辞典 展開早い

タイ子(清水胡桃)に勧められて、花咲歌劇団を受験した鈴子ですが、試験は自信満々だったのに落ちてしまい、ショック。

 モデルの笠置シヅ子さんの自伝「歌う自画像 私のブギウギ伝説」では、宝塚歌劇を受けたものの、体格検査で、痩せていたのと器官が弱かったのがいけなくてハネられたと書いてありますが、鈴子はどうだったかといえば、第5回で、身長が足りなかったと自己申告していました。

 なにはともあれ、人生はじめてくらいの挫折を味わった鈴子でしたが、梅吉(柳葉敏郎)が連れていってくれた梅丸少女歌劇団のレビューに感動し、再度入団試験にトライすることに。

映画館の幕間に、演目を上演するということがあったんですね。映画もレビューも両方見られるということなのでしょうか。お得な感じです。

このとき上映していた映画はバンツマこと阪東妻三郎主演の「乱闘の巷」(1926年)。バンツマは田村正和さんのお父さんです。

 映画のあと、華やかなレビュー「胡蝶の舞」を見て、「サブイボが立った」と運命的な出会いをしたかのような鈴子。

舞台衣裳がアールデコふうというのでしょうか、モダンですてきでした。蒼井優さんと、梅丸〜のモデルであるOSK 日本歌劇団の人気俳優・翼和希さん、そしてOSK の劇団員の方々が参加している、すてきなショーでした。演出は、OSKの演出も実際に手掛けている荻田浩一さんで本格的。

笠置シヅ子さんの自伝だと、ドラマのような運命的な感じではなく、宝塚を落ちた悔しさと、このままでは芸妓になることになるが気が進まないため、梅丸少女歌劇団のモデル、松竹楽劇部に押しかけ入団したとあります。そのへんの流れはわりと駆け足で書いてありますが、ドラマだと、試験の日を間違えていて、また今回もだめか……と思ったらーーというアップダウンが何回かある展開で、劇的になっています。

また、ドラマの鈴子は芸者という仕事をリスペクトしていますが、笠置さんは、自分がやるとなったら気が進まないと思っていたという相違が興味深いです。

それにしても、張り切って行ってみたら、試験は終わっていた……とはショックですよね。楽しみな演劇公演の日程を間違えていたらやりきれないのと同じ。

 でも、あとから猛然と追いかけてきたツヤ(水川あさみ)の援護もあって鈴子は歌を披露。花咲のときよりも謙虚に真摯に歌っていた気がします。

 歌劇団の音楽部長・林(橋本じゅん)があっさり入団を認めてくれます(歌わせてくれたのもこのひと)

こんなふうにふわっとした会社、なんだかいいなあ。

ツヤも梅吉も、鈴子思いで、ほんとうにいいなあ。

合格をキスで喜ぼうとする梅吉や町内の人たち。第1回の冒頭のキスとリンクさせていたのでしょうか(もともと梅吉はキス魔ぽい)。

第2週は、早くも梅丸少女歌劇団での日々。華やかなショーとその裏側の光と影を見せてもらえそうです。蒼井優さんの活躍にも期待。

 林は鈴子に可能性を見出したのか。彼はいい人なのか、どうなのか。林を演じているのが、朝ドラ「ひらり」(92年)の小林役でブレイクした橋本じゅんさんなので、きっと林もいい人でしょう。

【朝ドラ辞典2.0 橋本じゅん(はしもと・じゅん)】

 劇団☆新感線で、古田新太と並ぶ看板俳優。92年、朝ドラ「ひらり」の気のいい医師役で全国区の人気に。が、その後、しばらく俳優業を休んで渡英。帰国後は、再び舞台を中心に活動する。映像でも活躍し、朝ドラでは「なつぞら」「エール」に出演している。熱く人情味ある役に定評がある。「エール」ではスピンオフの閻魔様役と演出家役と2役演じ、話題になった。

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–{第6回のレビュー}–

第6回のレビュー

第2週「笑う門には福来る」(演出:泉並敬眞)は、鈴子(澤井梨丘)が梅丸少女歌劇団(USK)に入団し、さっそく修行がはじまります。
USK のモットーは強く たくましく 泥臭く 艶やかに
「艶やかに」の響きに「ちりとてちん」の「底抜けに〜」を思い出しました。

同期に桜庭辰美(木村湖音)白川幸子(小南希良梨)がいて、鈴子は3人で行動するようになります。

幸子は大きな乾物屋さんのお嬢様でお弁当が豪華。辰美はお昼ごはんの時間、ひとりぽつんとしていて、何か事情がありそう。

幸子はあからさまに、ぶっきらぼうな辰美が好きじゃなさそうで、鈴子は何か嫌われることをしただろうかと気にしています。

USKは目下、映画館の幕間のレビューしか上演していませんが、いつか単独公演を行うことが目標。トップスターの橘アオイ(翼和希)や、大トップの大和礼子(蒼井優)が活躍していて、鈴子は大和の優雅な踊りに憧れます。
教育係の橘はものすごく厳しいので、優雅な大和にあこがれてしまうのでしょう。

先輩に話しかけるときは「お話させてもらってもよろしいでしょうか」とお伺いを立てないといけないとか、USKは体育会系という感じ。いまならハラスメントになりそうな厳しさです。レッスンだけでなく、掃除洗濯などもやります。公演中は裏の仕事も任されます。

鈴子が花咲歌劇団を落ちた理由は背が低いからで、USK でも小柄なほうであることを気に病みます。背が低いから背が低いからと何度も言っているのは、負け惜しみな感じもしますが、実際、新人たちと並ぶとほんとうに小柄でした。

蒼井優さんが、先週の第5回で初登場して、踊っていたとき、目を奪われる動きで、今週はさらにその素敵な踊りをたくさん披露します。

蒼井さんと踊りというと、岩井俊二監督の「花とアリス」でバレエを踊る場面が鮮烈でした。踊っている身体の叙情性が天下一品であります。
ご結婚、出産後の復帰作で踊りのある役を選んだのは、原点に返ったというふうにも見えます。

一方、凛々しい、橘役の翼さんは、USKのモデル、OSK日本歌劇団の現役スター。
今回、テレビドラマ初出演。番宣番組で舞台と映像の違いを語っている様子が新鮮でした。

【朝ドラ辞典2.0 3人組(さんにんぐみ)】

主人公の友人は、唯一無二のひとりの親友がいるパターンと、3人組のパターンがある。友人3人組は「おひさま」「スカーレット」「エール」などがある。ふたりだと対立はしないものの、どうしても対称的な関係になりやすいが3人だとバランスが良い。
関連語:3人きょうだい

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–{第7回のレビュー}–

第7回のレビュー

USKに入って1ヶ月、修業の厳しさに、ひとりまたひとりと辞めていきます。

残った研究生は、鈴子(澤井梨丘)桜庭辰美(木村湖音)白川幸子(小南希良梨)の3人。

いろいろな作業を3人でやらないとなりません。毎日、大量の洗濯物があります。が、辰美はさっさと帰ってしまいます。稽古中でも居眠りしたりして、なにかと態度が悪いのは、どういうことなのかーー。

林部長(橋本じゅん)から桜庭の家庭の事情を聞いた鈴子。

家の仕事を手伝っているから稽古で疲れが出てしまうようです。経済的に恵まれていないうえ、母親が病気で、お昼のお弁当をちゃんと用意できないことを気遣った鈴子は、お弁当を一個余分に作ってもらい、渡しますが

「余計なこと」と辰美を怒らせてしまいました。

出た、おせっかいヒロイン。これでは、辰美のプライドを傷つけてしまいます。

「辰美ちゃん、でかいし」と言うのも余計でしょう。

タイ子(清水胡桃)は、おせっかいなところが鈴子の良さと励まし、余計なおせっかいがいつか役に立つだろう、と予言します。これは、何かのフラグでしょうか。

鈴子は、家の手伝いしながらがんばる桜庭や、家では劇団活動を反対されている幸子より恵まれているのだと感じます。鈴子の場合、家族は応援してくれるし、お金の心配もありません。

デビューしたら、月給20円がもらえます。

昭和2年の20円はどれくらい?

「明治大正昭和値段史年表」(朝日新聞社)によると、昭和元年〜3年の劇場観劇料の最高料金が8円とあります。資料提供は帝国劇場とあるので、帝国劇場の1等席でしょう。いまだと、上演中の「チャーリーとチョコレート工場」のS席1万6千円です。

鈴子たち3人は先輩たちの本番の手伝いをすることに。でも、どこかのんびりした幸子が足を引っ張ることに……。

大事な衣裳の羽を洗濯したまま置いてきてしまうという大失態をしてしまい、橘アオイ(翼和希)は羽のないままで踊ることに。

 毅然と踊る橘ですが、羽がないとどうにも落ち着きません。とてもお気の毒な感じでした。

 終演後、ミスは全員の責任(ひとつの舞台は全員で作るものという理念のもとに、全員が確認することになっているのでそれを怠っていた。ちょうど3人の仲がぎくしゃくしていたから協力体制がなってなかったのでしょう)と、橘に厳しく叱られて、幸子と辰美の関係は激しくギスギスします。

最近の朝ドラは、ギスギスした関係を避ける傾向にあったように感じますが、久々に、絵に描いたように、ぎゃあぎゃあといがみあう場面が登場しました。

ギスギスと、主人公のおせっかいと、最近好かれないシチュエーションの2本立てですが、大丈夫でしょうか。 

思い詰めた辰美、いらっとするのんきさの幸子、甘やかされて育ったため色々わかっていない鈴子。3人共、困ったものです。

さて。
林部長が、飲むか、といつも愛飲しているマムシの生き血を鈴子たちに勧めますが、マムシの生き血と聞いて震え上がる鈴子。

 赤ワインかと思ったらマムシの生き血……おそろしい。たぶん、マムシ酒のことなんじゃないかと思いますが、「生き馬の目を抜くような」厳しい芸能界と「生き血」が微妙にかかっているのでしょうか(考え過ぎ?)

ちなみに焼酎1.8リットルは、昭和元年で81銭。

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–{第8回のレビュー}–

第8回のレビュー

桜庭辰美(木村湖音)白川幸子(小南希良梨)の仲が悪いので、しわ寄せが鈴子(澤井梨丘)に回ってくるという寸法で、ふたりがほったらかした掃除や洗濯を鈴子がやるはめに。

疲れた鈴子は、憧れの大和礼子(蒼井優)がひとり残って稽古をしているところを見かけ、思い切ってお話する機会を得ます。

大和さんは、橘アオイ(翼和希)が羽を忘れた3人をなぜあんなに怒ったか説明。お客様のためという考えが根底にあるからと言うのです。確かに、第7回で、羽のない橘が登場したとき、客席から落胆の声が漏れていました。

演者は毎日やっていることですが、観客にとってはその日限り。高くないチケット代を出して見に来たにもかかわらず、完璧でない日に当たってしまった日にはたまりません。まあアクシデントのほうが貴重で、得したと思うこともあるにはありますが、それって観劇慣れしている人のほうに多く、はじめてお芝居を見る、みたいな人にとっては、圧倒的ないいものを見て、感動したいですよね。

「あなたどうして踊るの?」と問う大和。

ひととき、現実を忘れるために観客は見に来る。大和の言葉は、これからエンタメの世界に入っていく鈴子にとって、重要です。

そのために、演者たちは、毎日徹底的に稽古を積んでいるのです。

橘は人一倍、梅丸愛の強い人だと大和は理解していて、鈴子も感化されます。

大和から、レッスンで怪我した足を守るための布をもらった鈴子。それをきゅっと足に巻き、さらにレッスンに励みます。こうなると、3人のなかで、鈴子が一歩リードという印象。

大和を超えるかもしれない、と林(橋本じゅん)が梅丸少女歌劇団の大熊社長(升毅)にこっそり話かけます。たぶん、その視線は鈴子を捉えていたと感じますが。鈴子は、超優秀な大和と、劣等生で頑張りやの橘のハイブリッドという雰囲気。

そして、いよいよ劇団の単独公演を行うことが決まりました。
長年、がんばってきた大和や橘は感動にむせび、鈴子も張り切ります。ど新人なのに一番に声をあげたりするところが(林に注意される)、周囲を(視聴者も)苛立たせるだろうなあと思いますが……。

降って湧いた鈴子たちのデビュー話。これで、ギスギスした鈴子、辰美と幸子の仲も良くなる? と思いきや、デビューできるのはたったひとりだけ、ということで、ますますギスギスしはじめます。

鏡を見ながら、大和の言葉を反芻しながら、考える鈴子。
ある日のレッスン中、突如、鈴子が、梅丸愛は3人のなかで負けないと言い出します。この流れはいささか唐突な気はしましたが……。なぜなら、鈴子の梅丸愛の具体性が見えないから。でも、これも、意識的に描いているのだと思います。幼いので、愛とはまだ何かわからない。大和や橘の言葉だけが先行しているのでしょう。真の愛を知るのはいつの日か……、などと、上目線で見ていたら、鈴子に異変がーー。
ど、どうした???

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–{第9回のレビュー}–

第9回のレビュー

梅丸愛は負けないと宣戦布告した鈴子(澤井梨丘)でしたが、急に倒れてしまいます。
熱々先生(妹尾和夫)の診断によると、百日咳で、デビュー公演には完治は間に合いそうにありません。

ライバルがひとり減ったとはいえ、桜庭辰美(木村湖音)白川幸子(小南希良梨)も元気がありません。

「舞台はひとりでやるもんちゃうぞ」と橘アオイ(翼和希)がふたりに愛ある言葉を。

弱り目に祟り目ではないですが、アホのおっちゃん(岡部たかし)六郎(又野暁仁)にへんなことを吹き込みます。鈴子と六郎がほんとうのきょうだいではないという衝撃事実。

六郎はどうも空気が読めないようであることは、タイ子(清水胡桃)の恋愛話のときも唐突に真実を言い出して場を固まらせていました。今回もーー。

アホのおっちゃんもほんと余計なことを言うなあと苦笑してしまいますが、その言い方が傑作。

六郎は「カッパの子」で、鈴子は「クジラの子」。

アホのおっちゃんは、お金もなくふらふらしていますが、頭の回転はいい人なのでしょう。物事のギリギリのところを攻めて、でも決していき過ぎない、そこを楽しんでいる感じが魅力的です。

とはいえ、ほんまのきょうだいじゃない、は衝撃。でも鈴子は熱が高いので、まっすぐ受け止めることができないのが不幸中の幸いでした。

ツヤ(水川あさみ)梅吉(柳葉敏郎)はこそこそと話しています。襖が半開した隙間の画が秘密の話感を醸し雰囲気あります。

病気がうつることを気にせず看病するツヤと臆病で近づけないけど廊下でずっと見守っている梅吉。夫婦のいいコンビネーションです。

熱が高くてつらい鈴子が桃を食べたいと希望し、ツヤが買いに出ますが季節外れでどこにも売っていません。ところがなぜか、ゴンベエが……。

「記憶にございません」
(ゴンベエ)

カッパの子とクジラの子も寓話的ですが、さらに寓話的な展開。でも、記憶のないゴンベエの個性が見事に生きました。

悪気はないけど困った、アホのおっちゃん、
謎のゴンベエ、
「熱々」ばかり言ってて、もしかしたらやぶかもしれなないお医者さん……

花田家を取り巻く人達の個性が生きた回でした。

六郎も、さらに彼らしさを発揮します。

桜庭辰美と白川幸子が見舞いに来たとき、鈴子が名演技をするのですが、そこでまたも口を滑らして……。

サブタイトル「笑う門には福来たる」も回収され、すべて丸く収まったほのぼの回。
最終回かと思った、は朝ドラあるあるですが、週の終わり回のようでした。

まだ1回、残っていますが、第10回はデビュー公演? 3人が雨降って地固まって団結する?

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第10回のレビュー}–

第10回のレビュー

百日咳かと思ったらただの風邪だった鈴子(澤井梨丘)は、わずか一週間で稽古に復帰。レッスンに励むと、3人のうちひとりではなく、3人共デビューできることに。(もしかして林〈橋本じゅん〉は最初から3人デビューさせようとは思っていて、でも緊張感を与えようと、ひとり選抜すると言ったのかも? あるいは3人が結束して頑張ったので気を変えたのか……)

役は「水の雫」。鈴子たち3人は「切磋琢磨、一心不乱、一生懸命 努力」します。
このときの鈴子のモノローグが「一生懸命」が「イッショケンメイ」(一所懸命)に聞こえましたが、
字幕だと「一生懸命」でした。

一生懸命は、人生かけて、という印象。一所懸命は、ひとつのことをつきつめるというニュアンスです。歌舞伎の世界では「一所懸命」が使用されていたとか。舞台芸術を突き詰めるという意味だったのでありましょう。
鈴子の「イッショケンメイ」という発音からは演劇人の気迫を感じました。

デビューが決まり、芸名を考えることになりました。
ツヤ(水川あさみ)が「笑う門には福来たる」から「福来スズ子」と名付けます。
サブタイトル「笑う門には福来たる」は、第9回で回収されたかと思いきや、第10回にも繋がっていました。2度に渡って使用する、高度な脚本です。

桜庭辰美(木村湖音)は桜庭和希、白川幸子(小南希良梨)はリリー白川と、それぞれ芸名が決まります。桜庭和希は、作家の桜庭一樹さんを思い出してしまいましたが、橘アオイ役の翼和希さんからとったのでしょう。翼さんは、10月12日(木)の「あさイチ」に柳葉敏郎さんと共にゲスト出演。滝に打たれたり、動物を見て声をあげたり、素直なリアクションがとても魅力的でした。

そして、いよいよ梅丸少女歌劇団の初単独公演の幕が上がります。
華麗な歌と踊りが展開します。これが「胡蝶の舞」にも増して豪華で、1本の作品として見どころがありました。

鈴子、辰美、幸子が、フリンジいっぱいの衣裳で水の雫に扮して思いきり踊るところは、子役の最後の見せ場を、めいっぱい盛り上げました。客席からの拍手は、子役ちゃんたち、よくがんばったという拍手のようにも思えました。
子役パートが終わると寂しいのが、朝ドラあるある。

そして、公演中、6年が経過し、自然に、趣里に変わっていました。もともと、澤井さんが趣里さんに似ていたので、趣里さん?澤井さん? とこんがらがりましたが、客席の六郎(又野暁仁→黒崎煌代)が明らかに成長していたので、年月が流れたことがわかりました。

本番前、緊張する鈴子に、メイクをしてあげる大和礼子(蒼井優)。こういうふうに先輩や先生からメイクを施してもらうことはとても誇らしいことであります。

礼子は、お客様を「じゃがいも」だと思うことにしていると言います。「じゃがいも」は失礼と感じる人も、なかにはいそうという配慮なのか、じゃがいもが好きだから食べてやる〜という意味だと付け加えられていたことが、現代的な感覚であります。

メイクした澤井さんは、化粧映えがして、オリエンタルな魅力がありました。これをきっかけに活躍してほしいです。

さあ、第3週からはいよいよ趣里さんです!

お客さんが「生きる力をもらいにくる」(by大和礼子)劇場での日々がはじまります。
どうやら、ほぼほぼ、週に1回は、ショーの場面が登場するらしいです。名作「てるてる家族」再来の予感。

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–{第11回のレビュー}–

第11回のレビュー

第3週「桃色争議や!」(演出:福井充広)からはいよいよ趣里さんの登場です。

「四季の宴」の”季節は廻る”という歌に乗って、季節は6回巡って、梅丸少女歌劇団に入団して6年、福来スズ子として活動中。未だ脇役ですが、後輩もできて、かつて橘アオイ(翼和希)が厳しかったのと同じように、集団責任を問うのでした。でもまあ、それはかわいいほうで、ギスギス感はありません。
趣里さんの大阪弁はかわいいおばちゃんという感じです。

それより、後輩の秋山美月(伊原六花)のほうがギスギス感があります。

花咲歌劇団から移ってきて、男役をやっている美月は芸に厳しく、同僚にダメ出しをして萎縮させます。

伊原六花さんは、大阪府立登美丘高校ダンス部のキレッキレの「バブリーダンス」のセンターで、注目され、俳優デビューしました。

ダンスといえば伊原さん。「ブギウギ」ではきりっと短髪、オールバック、男役のいでたちでステージに立つ姿がかっこよかったけれど、ダンスを披露してほしいです。

同期のリリー白川(清水くるみ)は可愛さで、役がついていますが、スズ子と
桜庭和希(片山友希)は未だ脇役。自分の売りを探しているところです。リリーは可愛さをフルに使っていますが、スズ子は彼女のような開き直りができません。

スズ子が自分の”売り”を探していることと、時代の不景気が重なります。「売上半分やでー」とはな湯で常連たちがぼやいています。梅吉(柳葉敏郎)アホのおっちゃん(岡部たかし)みたいなのがそこらじゅうに増えたと言います。

易者(なだぎ武)は占い客が減ったと言いますが、不景気のときのほうが占いにすがる人は多そうですが……。

昭和8年、「蟹工船」で有名な労働者について書くプロレタリア作家・小林多喜二が特高に検挙され、拷問を受け亡くなった年です。
日本が国際連盟を脱退したのもこの年です。

昭和4年、世界恐慌が起こり、労働者たちにとって経済的に厳しい時代、労働者の運動が盛んになっていました。

梅丸株式会社も人気劇団とはいえ、不況のおり、新展開を模索して、大和礼子(蒼井優)が演出を行うことになります。が、彼女もまた、肩に力が入って、場をギスギスさせ、アオイに注意されてしまいます。

いろいろ心配なこともあるなか、スズ子の個人の生きる道はいずこーー。

礼子は、続けていれば、いつか必ず見つかるからと助言します。

自分は何をするために生まれてきたのかーー。ゴンベエ(宇野祥平)は相変わらず記憶を取り戻していませんが、器用に裁縫の才を発揮し、六郎(黒崎煌代)のために亀の帽子を作ります。六郎は、学校が好きではなくて、行っていないようです。

不況、労働運動、不登校、自分探し と朝ドラに繰り返し出てくるキーワード。
これらをどう料理するかが作り手の腕の見せ所。”繰り返していたらいつかは飽きられる”という林(橋本じゅん)の言葉はたぶん、朝ドラ作り手も同じことを思っているに違いありません。

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–{第12回のレビュー}–

第12回のレビュー

演出をやることになった大和礼子(蒼井優)は妥協のない厳しい稽古を続け、スズ子(趣里)も追い詰められていきます。

先輩後輩関係なく、役のつくチャンス。だからこそ、才能の有無があらわになって誰もが悩みます。

花咲歌劇団から移ってきた美月(伊原六花)は礼子も一目置く才能の持ち主で、
稽古でも見本になって、同じ男役の桜庭和希(片山友希)は焦りを隠せません。

「才能ないならやめえ」と美月に発破をかけられた新人たちもすっかり萎縮してこのままでは辞めてしまいそうなので、スズ子は教育係として必死につなぎとめます。

そんなスズ子に、新人ちゃんたちは「なんで才能ないのに続けられるんですか」と率直な疑問をぶつけます。きつい。

「才能なかったら続けたらあかんのか」
スズ子だって崖っぷち。圧倒的な礼子や、やたらとかわいく、能天気で、食べても太らない”お宝体質”のリリー(清水くるみ)を見てると、自分の売りが見いだせず、悩みます。

美月もお宝体質で(それにしてもすごく食べてた)、才能ある人は、食べても太らない体質も合わせ持っているのでしょうか。まあスズ子の体型を見てると彼女もお宝体質だと思いますが。

劇団のピアノ奏者・股野(森永悠希)は、ほかにやりたい場所があったけれど、
梅丸でやっていて、片手間でやってることを悩んでいます。

才能とは何か。若者が悩んでいるなか、梅吉(柳葉敏郎)は映画の台本を懲りずに書いています。誰にも認められてないのに、「才能もないのに書くんが偉いやろ やめたらそこで終わりや 続けるんが一番むずかしい」という開き直りは清々しい。柳葉さんの無垢な笑顔に説得力があります。

続けることも才能のひとつ。これは、礼子の言葉「続けることが一番大変なんだけどね」と重なっています。

2015年から朝ドラレビューを毎日書いてる筆者も、続けることが大変なのはよーくわかります。いや、それよりも朝ドラ自体が、1961年からはじまって、ずっと続いているのだから、この言葉の説得力は絶大です。

頑張る才能
落ち込まない才能
続ける才能
食べても太らない才能

才能にもいろいろな才能があるということ、たとえ優秀と認められなくても努力を続けることの大切さを物語った第12回ですが、「お宝体質」というワードが強烈で、そればかり印象に残ってしまいました。こういうワードを思いつくのも才能としかいいようがありません。

さて。趣里さんに代わった途端に、盆踊りみたいなものを歌って踊ったり、「コラあ、先輩やぞ」と後輩をどやしつけたり、「やかましわ」と言ったり、ものすごーくコテコテの大阪ぽくなってきました。大阪ネイティブでない趣里さんが、頑張ってやってるのを感じるので、応援したい。

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–{第13回のレビュー}–

第13回のレビュー

大和礼子(蒼井優)は初演出の秘策(?)にラインダンスを取り入れることにしました。

上品そうな大和さんがラインダンスをはじめたというのが意外性ありますが、みんながひとつになるし、楽しいと思ってのこと。一矢乱れず、みんなで足を上げるために厳しいレッスンが続きます。

慣れない動きに、みんなへとへと……。そこへ、1週間休んでいた桜庭和希(片山友希)が辞めると言い出して……。

3ヶ月、1年、3年、5、6年……と続けていく間には都度都度、転機が来るもの。和希もここまで6年やってきたものの、強力な後輩が現れて、限界が見えてきたのでしょう。お母さんの病気は6年経ってもよくなっていないようです。

好きなことを辞めるには勇気がいると、梅吉(柳葉敏郎)が理解を示します。
梅吉が続けていられるのは、ツヤ(水川あさみ)のおかげです。こういう人に出会ったから梅吉は幸運です。

梅吉のエピソードは、脚本の足立紳さんの映画「喜劇愛妻物語」と重なります。そこでも水川あさみさんが愛妻を演じています。主人公(濱田岳)が映画の脚本家で、なかなか仕事が得られず……という設定です。水川さんの愛妻(鬼嫁)ぶりが強烈です。映画では夫婦が四国へシナリオハンティング旅行に行くのですが、「ブギウギ」は梅吉とツヤが四国・香川から大阪に出てきました。いろいろ重なっていて面白いです。

足立さんとしては、梅吉とツヤの話のほうが書きやすいのだろうなあという気がします。好きでやっているけど結果が出ず、でも諦めきれず、ずっとすがり続けている。そのいじましさが、若い娘さんたちよりも断然出ています。

なんもしてない梅吉が、な〜んもしてないけど、憎めない人物になっています。お酒ばかり飲んで、ほんとうになんにもしてないけど、いいこともしてないし、悪いこともしてないのが救いです。彼が悪いことをしないで済むのはツヤのおかげでありましょう。

梅吉の映画の夢はいつか花開くのでしょうか。それとも、梅吉はこのままで、エンタメの夢は娘のスズ子(趣里)が継ぐということでしょうか。

梅つながりで、梅丸少女歌劇団の団員たちは、スズ子を筆頭に決して優秀とはいえない人たちも多いです。すぐ落ち込みすぐギスギスして……。それをなんとかひとつにしたい礼子も「誰も辞めさせたくないの」「みんなで楽しくやりたい」という単純なことしか言えません。でもその単純さは切実で。
「永遠に修業や」という橘アオイ(翼和希)がみんなを盛り上げます。

第3週に入って、スズ子が、威勢良い音頭みたいな歌を歌っています。「恋はやさしい野辺の花よ」を朗々と歌っていたスズ子がいつどこから、音頭を愛唱歌に変えたのか、それがのちのブギの道につながりそうな気がしますが、そのギアチェンジの瞬間を知りたい。

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–{第14回のレビュー}–

第14回のレビュー

ラインダンスでみんなの気持ちが楽しく、ひとつになりかけたとき、不況で、突然の賃金や人員の削減が行われました。

稽古が厳しく辞めるーと言って引き止められていた新人ちゃんたちも解雇になってしまいます。自主的に辞めるのと解雇と比べたら、自分から辞めたほうがまだ自尊心が傷つかなくてよかった気がします。解雇はきつい。

何度も辞める辞める言っていた桜庭和希(片山友希)はもともと経済的に苦しかったので、賃金削減されてはやっていけないため、辞めようと決意します。

この状況に立ち上がったのは大和礼子(蒼井優)。「会社側の一方的な通告を必ず撤回させて辞めていった人を戻します」と、これをきっかけに待遇改善の嘆願書を提出すると決意しました。

礼子が語るとき、「強く逞しく泥臭く艶やかに」のスローガンが大きく映りました。礼子は「強く逞しい」。

団員たちが立ち上がったことが「桃色争議」として新聞に載ります。

桃色争議って恥ずかしいと思うスズ子(趣里)
「桃」だけど実質「アカ」ではないのかと心配する梅吉(柳葉敏郎)。アカとは共産主義のことです。この頃、人民に平等に行き渡らせるという考え方は遠ざけられていて、熱心な活動をする人は警察に取り締まられていました。

第11回のレビューで、昭和8年に起こった出来事として、“「蟹工船」で有名な労働者について書くプロレタリア作家・小林多喜二が特高に検挙され、拷問を受け亡くなった”ことを例にあげましたが、そういう時代なのです。やりすぎると、小林多喜二先生のようになってしまう……。市民がおそれを成すのも無理はありません。

ある日、社員がスズ子の家に、あやしい男が現れます。まさか、警察? と思ったら、梅丸の社員で。一時金を出すと言うのですが、それによって争議活動をやめるようにという条件つきだったため、スズ子はきっぱり断ります。

なかには股野(森永悠希)のように一時金に目がくらんだ人もいて……。こうやって経営者たちは労働者の団結を崩し、思い通りにしようとするのです。

一時金を出す余裕があるなら、みんなに分配すればいいという憤りには、ぶんぶん、首を縦に振りたい気持ちでした。

昭和初期、100年近い前の話ですが、なんだか今の時分にも似ている気がしませんか。庶民の訴えはちっとも届かず、たまに一部に一時金が出され、根本的な制度はなにも変わらない。

礼子はついにストライキを決意。対して、橘アオイ(翼和希)は公演を楽しみにしているお客様のためにストはしたくないと主張します。

自分たちや、これから舞台をやりたい人たちのためと、お客様のため。どちらの考えも間違いではありません。だからこそ悩ましい。

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–{第15回のレビュー}–

第15回のレビュー

会社の上層部の横暴にストライキを行う決意をする大和礼子(蒼井優)に、お客様のためにストライキを反対する橘アオイ(翼和希)

ふたりが話し合うロッカールームに花が飾ってあるところに、彼女たちの心の清らかさを感じます。賃金削減状況なのに花を飾り続けるってすてきです。
 
社会的理想に燃える礼子もすてきですが、お客様を優先し、お客様には現実を見せることなく夢を見ていただこうとするアオイがとてもとてもすてきでした。ストライキは「最悪の現実や」というセリフが印象的。「ひとりになっても踊る」というアオイ。さすが、羽がなくても踊っただけはあります。

はじめて連続ドラマに出演した翼和希さんが初々しく、ワンシーンワンシーン、全力で演じているので胸を打ちます。いや、もちろん、蒼井優さんだって趣里さんだって全力だと思います。揺らがない信念をもった表情をする蒼井さん、「なんやさっきから聞いとったらコラァー」と凄んだり、真面目なのに「ストライキ」を「ストライク」と間違えたりするスズ子を懸命に演じる趣里さん。おふたりとも、切実さが伝わってきます。ただーー。

やっぱり映像ではじめて見る翼さんのフレッシュさが勝るのです。感情がビシビシ、発泡水のように弾けて見えました。

要するに、全員、ものすごい緊張感でいい演技をしていて、それぞれの生きる道を求める本気度がビシビシ伝わってくる回でした。

前にもレビューに書いた気がしますが、「あさイチ」にゲスト出演したとき、滝に打たれているときの全力や、動物を見て、声にならない声を挙げている表情など、一挙手一投足がフレッシュな、翼さん。きっとファンになった人は多いと思います。彼女が所属するOSKを観にいきたくなりました。

話を戻します。

ストライキなんてしたら、ただでは済まない。なんとしても止めたい。「絶対に行かせへん うちは うちは あんたのことを……」(片方の目が隠れているアップがまたすてき)と通せんぼするアオイを、そっと抱きしめる礼子。ふたりが長年、育んできた感情が滲みます。

その前に、スズ子(趣里)たちが、アオイは礼子が好きなのだという話をしていましたが(好きを指摘したのはリリー白川〈清水くるみ〉)アオイの“好き”はどの好きなのでしょう。友情の好きなのか、恋に近い好きなのか。

はっきりしないところがまた余韻があってよかったです。

 一方、礼子が好きと言っていた股野(森永悠希)は、礼子の意思に反して一時金を受け取っているへたれであります。音楽家をやる場所がほかになくて仕方ないのです。一時金を惜しそうにした梅吉(柳葉敏郎)といい、男性陣はへたれに描かれています。そして、ツヤ(水川あさみ)はなぜ、へたれの夫・梅吉を支え続けるのかというと「女の意地」。映画の夢を捨てられない梅吉と同じく、ツヤもまた、梅吉への愛が捨てられないってことなのでしょう。「ブギウギ」はたぶん、やめられない人たちの物語なのです。

 礼子は、アオイの意思を尊重しますが、自分の意思も曲げません。お客様を大事にする前に自分を大事にすることと礼子は考えています。

そして、ストライキに突入。仲間たちと山寺に籠城します。なんで、山寺……。

 週末は、華やかなラインダンスが見られるかと思いきや、来週までお預けとは、いけずーー。

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–{第16回のレビュー}–

第16回のレビュー

第4週「ワテ、香川に行くで」(演出:鈴木航)と、謎の香川行きを匂わせつつ、依然として労働争議(桃色争議)問題が解決していません。

礼子(蒼井優)が中心になって山寺に籠城。なんで山寺?と思いましたが、人目につかず、たくさんの人数で寝食できて、練習もできる広い空間がある、ということではないでしょうか。

”駆け込み寺”というものがあるように、困ったときに駆け込む場所という認識もあります。ひととき現実を忘れる場所であるのが、劇場。つまり、現実社会と切り離された場所という意味で、寺と劇場はどこか似ています。また、”修業”する場所という意味でも。

寺に、新聞記者が取材にやって来ます。記事に娘・スズ子(趣里)のことも載って、梅丸少女歌劇団の生徒たちの親が寺に押しかけて来ます。

梅吉(柳葉敏郎)ツヤ(水川あさみ)は応援気分で、リリー白川(清水くるみ)のお父さんはお怒り気味。趣里がリリーの男遍歴の話をしてしまうのはご愛嬌。

ツヤは「妙なスター性があると思うんですよ」と親バカを発揮します。
礼子は、親の反対を押し切って、この仕事をはじめたので、親子が集まって語らう姿をしんみり見ています。

と、ここで浮かび上がって来るキーワードはーー

”親子”です。

梅丸株式会社の社長(升毅)は、15歳の礼子が親の反対を押し切って歌劇団に入団したときのことを
思い出していました。社長が親代わりのようなものだったでしょう。大切に育んできた礼子に反抗されて思いは千々に乱れていることでしょう。

たぶん、賃金削減、人員削減するなかで礼子は厚待遇だとおもいます。礼子は自分のことだけでなく仲間のことも平等に大切にしたくて、社長の庇護のもとから飛び出したのでは(勝手な想像ですが)。

USKでは、連日、公演再開を求める観客たちが劇場に集まっていて、林部長(橋本じゅん)アオイ(翼和希)たちが謝罪していました。アオイが出てきたら、ファンが喜んでしまいそう。アオイはひとりでも舞台に立つと息巻いていましたけれど、さすがにひとりでは公演を実施できないようです。

アオイの苛立ちは、股野(森永悠希)に向きます。一時金に目がくらんで、好きな礼子を裏切ったことではなく、彼に信念が見えないからです。アオイはお客様のため、礼子は自分自身のため(それがまわりまわってお客様のためになる)という信念のもとに各々行動しています。股野は、なんのためにピアノを弾いているのか。すてきなメロディが迷いで乱れます。

当初、股野の存在感は薄かったですが、だんだんと存在感が濃くなってきました。彼もまた、突出した才能があるわけでも、人物的に目立つものがあるわけでもないけれど、ピアノが好きなのでしょう。不器用な人たちが集まった「ブギウギ」の登場人物らしい人物であります。

「あんた、礼子のこと好きなんやろ」と股野に問うアオイ。
「橘さんかて、大和さんのこと」と返す股野。
股野とアオイ。礼子をめぐる、ある意味、ライバルであります。

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–{第17回のレビュー}–

第17回のレビュー

ストライキ中、お寺でラインダンスの練習している劇団員たちはとても楽しそう。自然のなかで、解放的になって、スズ子(趣里)は、秋山(伊原六花)の「あんな(楽しそうな)顔はじめてみた」と驚きます。

一方、梅丸歌劇団のレッスン場で、ひとりでラインダンスのレッスンを続けている橘アオイ(翼和希)
ストライキはやらないけれど、ひとりで公演ができないから、さぞもどかしいでありましょう。
がたいのいい橘だけど、ひとりではレッスン場は広すぎます。そしてラインダンスはひとりではちょっと寂しい。ラインダンスはひとりでは成立しないのです。

すみっこに座って礼子や仲間と撮った写真を見つめていると、股野(森永悠希)がやって来て、決意を語ります。股野がずんずん前身してくる距離が、橘がすみっこにいるから長くとれて効果的です。

股野はそれから、山寺に礼子に会いに行きます。途中でへばってしまうことから、劇団員たちがいかに丈夫かが見て取れました。

歌劇団を辞めると報告した股野は、もうひとつ重要な告白を。

股野「僕は大和さんのことが好きです」
礼子「今は…それどころじゃないので」

と、唐突……。

ドラマ上では、ちらほら、彼の想いが描かれてきたとはいえ、ストライキ中の礼子に言うのは、場違い。でも、辞めて、もう会えなくなるとなれば、言うしかないということでしょうか。

礼子は優しいので、どやしつけたり、ばかにしたりはせず、あくまで穏やかに、やんわり、保留にします。

唐突といえば、橘も。

自分が辞めることですべてを丸く収まらせてほしいと頼むのです。スターの礼子を戻すために。
いや、あなたがいなくなったら劇団の人気は落ちますよー。自分の価値をわかってないですよー。
橘さんが辞めても何もいいことはないのをわかってなくて、辞めますと言ってしまう橘のまっすぐさも好ましい。

礼子を梅丸に採用し、授業料も無料と便宜をはかってくれた大熊社長(升毅)が、ついに苦渋の決断をします。

その決意を伝えるために、林(橋本じゅん)と橘が山寺にやって来ました。

林はかごいっぱいの蛇の生き血の瓶をもってきて、皆に配ります。皆、あとで飲みますと遠慮気味。

ほんとにこれ、生き血なのでしょうか。そして、こんなに大量に配れるほど安価なのでしょうか。
というよりも、山寺にこもった少女たちに、すてきなスイーツなどを差し入れする気のない林のワイルドさ。でも嫌いになれない、人の良さが彼にはあります。

「ブギウギ」は、誰にもいい面がある、みたいに、わかりやすくいい面を紙芝居のように見せるのではなく、へんなこと言ったりやったりしているのに、嫌いになれない、なんだかほっこりする、そういう一枚の絵のなかに滲んでくる描き方をしていて、すごくいいなあ。

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–{第18回のレビュー}–

第18回のレビュー

ストライキの成果があり、大熊社長(升毅)は要求を飲むことにしました。

でも、それには大きな代償が……。

条件は、大和礼子(蒼井優)が辞めること。

社長は礼子をとても大事にしていたので、苦渋の選択です。肉を切って骨を断つ的な?

事情を知らず、ストライキに勝ったと大喜びのスズ子(趣里)たちでしたが、うっきうきで、家に戻り、稽古場に戻ったら、礼子が辞めることを知ります。そのうえーー

橘アオイ(翼和希)までが辞めることに。

責任をとって辞める礼子を、ひとりで辞めさせるわけにはいかなというアオイ。それをスズ子は礼子がいない梅丸はアオイにとって価値がないものと解釈します。きっとそれもあるでしょう。

スズ子は号泣。「そんなやったらストライキなんかせんほうがよかったわ」「こんなとこ梅丸なんてなくなってまえばええわ」とまで絶叫し、アオイに頬を叩かれます。

この場面の趣里さんの演技が切実で、胸を打ちました。叫んでいるけど、ちゃんと腹から声を出していて、感情先行ではなく、言葉をしっかり届けています。それでいて、どうしようもない深く悲しみの感情が伝わってくる。言葉に感情が乗っているのです。これぞ演技です。さすが、趣里さん、舞台で鍛えているだけあります。

礼子が素直に「辞めたくないなあ」と言うのもいい。こういうとき、たいてい、本音を言わないままになるものですが、思いもよらず自分だけ辞めさせられることになったときの礼子の動揺や後ろ髪惹かれる気持ちなどが出ることがよかった。誰しもそんなに完璧に潔くなれるものではないのです。

スズ子は、礼子とアオイのショーを見て、梅丸にあこがれて、ふたりに育まれてここまで来たのです。
そりゃあ哀しさいっぱいです。

でも、礼子が劇団員を守るために体を張ったのだから、梅丸を守っていかないといけないとアオイに叱咤されて、思い直すスズ子。

スズ子は浮かれて帰宅した日とは反対に、がくりと帰宅し、家の風呂につかり、「四季の宴」を歌います。「長くて短い一年」「季節はめぐる」等の歌詞に、楽しかった日々が蘇り、切なく聞こえます。

そして、桜庭和希(片山友希)や、新人3人が戻ってきて、みんなで心機一転がんばる。

礼子の置き土産のラインダンスを披露するスズ子たち。

まさに「強く、逞しく、泥臭く、艶やかに」のダンス。
一糸乱れぬ、美脚の動きに、元気をもらいました。

スズ子が懸命に踊ったあとの笑顔が、悲しみに耐えて笑っている感じだからこその感動がありました。

蒼井優さんと翼和希さんも一緒に踊ってほしかった。

スターの礼子とアオイがいなくなったら、客激減しそうだけれど、そこはラインダンスで引き止めたちいうことでしょう。礼子は若い劇団員たちを守ったうえに、みんなが輝き、梅丸が存続する作品も残したのです。

余談ですが、大熊社長は熊五郎という名前なんですね。熊2段重ね。

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–{第19回のレビュー}–

第19回のレビュー

桃色争議からの哀しい別れを経て、1年。スズ子(趣里)に心配の種が再び。サブタイトルの「ワテ、香川に行くで」らしくなってきました。

スズ子がいよいよ香川に行くことに。そこにはスズ子と六郎(黒崎煌代)との秘密が隠されていそうです。

香川とは、ツヤ(水川あさみ)の実家です。スズ子が生まれたとき、里帰りしていました。

あるとき、実家の妹からツヤに手紙が来て、お得意先の白壁の次郎丸家の法事にスズ子に来てほしいとあります。

その頃、六郎が、幼い頃、アホのおっちゃん(岡部たかし)が言っていた、六郎がカッパの子で、スズ子がクジラの子、という話を蒸し返しはじめます。

かなり昔の話を「こないだ」という独特の回路をもっている六郎を、
スズ子は「あほ」と言いますが、

「たいていはそういうところが大嫌いになるはずやけどそういうところが好きやねん」
(スズ子)

とも言うのです。

あほなところを無理に好きになろうとしているわけではなく、ほんとうに好きなんだろうと思います。そこが「ブギウギ」の良さであります。

六郎のあほなところは好きですが、スズ子と六郎はほんまのきょうだいじゃないと言いはるのことには辟易。六郎の突き抜けたあほさは、家族の誰にも似ていないと、スズ子は、六郎こそ、花田家のほんとうの子供ではないのではないかと疑いはじめます。

視聴者は、これはスズ子の大いなる勘違いだということがわかっています。

スズ子が自論を確信し、自分が実の子ではないと思いもよらず、六郎のことを心配すればするほど、可哀想でもあり、ちょっと滑稽でもあるという、ぜんざいに塩こぶ、のような酢豚にパイナップルのような、美味しくないと思う人と美味しいと思う人に分かれるような、不可思議な力が発動します。

ストレートに、スズ子がほんとうの子じゃない疑惑で話を進めず、スズ子に勘違いさせてひとひねりしているところがうまい。

ちょうど、スズ子は、争議による待遇改善で得られた一週間の休暇に、香川に行くことになります。

ツヤは法事に、スズ子だけでなく六郎も一緒に行かせます。ひとりで行かせることで秘密が発覚することをおそれたのでしょう。

ツヤと梅吉(柳葉敏郎)はお見送り。子供たちだけで行かせたら、絶対なにか起こると思うのですが……。ツヤが一緒に行って真相を誰かから語られないか目を光らせたほうがいいと思うのですが、ツヤが行くほうが問題になりそうと梅吉が子どもふたりで行かせることを発案します。弟がいれば、先方が気を使うという考えでしょうか。なかなか微妙なアイデアです。

「不安からは何も生まれへん」
(梅吉)

梅吉は相変わらず楽天的です。でも、この考え方は大事でもあります。

さて、冒頭に、東京編のキーマン・羽鳥善一(草彅剛)が登場しました。東京に向かっているところのようです。このひとも楽天的そうな印象です。

草彅さんが出てくると問答無用に画面が明るくなります。本格的な登場は、香川エピソードの後とおもいますが、待ち遠しい限りです。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第20回のレビュー}–

第20回のレビュー

白壁の家と呼ばれる次郎丸家の法事に出ることになったスズ子(趣里)は、六郎(黒崎煌代)と連れ立って香川にやってきます。

ツヤ(水川あさみ)の実家ではみんな孫を別け隔てなく歓迎しますが、どちらかといえば、スズ子に親しげに接しているような印象。でもそれは六郎がややコミュニケーションが得意ではなく独特のリアクションだからとも言えます。

小学校以来の田舎。父母もいない中でよく親戚と親しげに振る舞えるなあと思ってしまいますが、そこがスズ子のあっけらかんとしたところでしょうか。

ちらし寿司を食べながら、ツヤと梅吉(柳葉敏郎)の過去を知るスズ子たち。実は、梅吉は役者を目指していたこと、ツヤが梅吉が好きで、追いかけて上京したこと……。

ツヤと梅吉が不在だからこそ知る真実。それはふたりから聞かされていたことと逆でありました。

「逆や、逆」
ほかにも、思い込んでいたことと逆なことがあることを、スズ子はこのとき、思いもよりません。

何も知らずにスズ子は、六郎が、彼とスズ子がほんとうのきょうだいではないことを蒸し返そうとするたび、必死に話題を変えます。親戚の人々も何やら微妙な空気。微笑ましいドタバタ展開ですが、本質的には、笑えない、切実な話であるのですが……。

そして、法事の日。

白壁の次郎丸家はとても大きい(ツヤの実家もそれなりに大きい家でした)。

当主の次郎丸(石倉三郎)は酔って、スズ子に踊ってくれないかと言いだします。スターにそんなこと言うのは失礼と咎められると、お金なら払うと言い出し……。酔っているからとはいえ、お金を払えばいいという考えや、踊らせたり御酌させたりと、現代ならハラスメント扱いされるようなことであります。

でもスズ子は、そこにカチンとはならず、にこにこと「金毘羅船々」を歌い踊り、みんなを盛り上げます。

興が乗った次郎丸は、真実を口にして、スズ子は愕然。
実は、スズ子は、次郎丸家の子であるという衝撃の(視聴者はすでに察している)真実!

このとき、六郎が、次郎丸の家にたくさんの動物がいることを喜んで、うさぎを抱えてきたりして、そのうち、数羽の鶏を座敷に放って、場が混乱するなかでスズ子が真実を知るという流れになっています。

スズ子の驚きや混乱を、宴会場と化した法事と、鶏たちの乱入の狂乱で表しています。ただただ、筋を進めるのではなく、その出来事に合った何かを起こすところがよくできた脚本であります。筋とセリフだけでは面白くない。身体感覚にアプローチしていくことが肝要です。

ツヤの母・トシを演じている三林京子さんは、「スカーレット」で、
貴美子(戸田恵梨香)が大阪に働きに出たとき、家政婦の先輩として厳しくあたたかく教えてくれた大久保さんで絶大な支持を得ました。

三林さんは大阪出身なので、大阪弁も自然で、大阪の人のたくましさが感じられます。今回は、職業婦人ではなく、家の女当主として、どっしり構える、前作「らんまん」の松坂慶子さん的な雰囲気で、大久保さんとはまた違う雰囲気です。どんな役でも三林さんが演じると安心感があり、魅力的です。真実を話そうとする次郎丸の耳を掴む動きとか最高でした。

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–{第21回のレビュー}–

第21回のレビュー

「(スズ子は)菊三郎さんの子じゃけん」という、横溝正史的、旧家の因縁話のようなムードではじまった第5週「ほんまの家族や」(演出:鈴木航)

でも、そのあとに挿入されるタイトルバック、主題歌のブギのノリの破壊力は、仄暗い横溝ムードをなきものにします。ブギの明るさってすごい。

でも、主題歌終わりはまた、しっとりムード。自身の出世の秘密を知ったスズ子(趣里)は白壁の家を飛び出し、林の中を猛スピードで駆けていきます。

そのまま、一夜を林のなかで過ごしたスズ子は、隣村のキヌ(中越典子)の嫁ぎ先を訪ねます。
一晩、林の中は物騒だし(せめて夏でよかった)、よく、キヌの家がみつけられたな、と思いますが……。

キヌの家には小さな男の子がふたり。スズ子と父親違いのきょうだいですね。

キヌはスズ子を手放した事情を語ります。

白壁の家の女中だったキヌは、菊三郎の子供を身ごもったが、白壁の家はキヌを認めず、解雇され実家からも見離され、困っているときに、ツヤ(水川あさみ)が出産のために実家に戻ってきて。

ツヤの家で一緒に産もうと助け舟を出したところから、運命の歯車が……。

幼いうちは、一年に一度、ツヤが里帰りして、キヌとスズ子を会わせていましたが、次第に遠ざかってしまい……。キヌが再婚したからということもあるでしょうけれど、ツヤの実子が亡くなって、スズ子への愛情が深まって……というツヤの心情を思うと、そっちのドラマが見たくなります。ドロドロな感じ。

小学校にあがる前とはいえ、スズ子にキヌとの記憶が全然ないのも妙な気もしますが、例の「れんげ摘もうか、たんぽぽ摘もか」の歌は、キヌが歌っていたものであったことがわかり、この歌だけは記憶していたこと、つまり、スズ子の歌の才能の開花は、キヌからもたらされたものだったという、切っても切れない親子の血のつながりを、しっとりと、感じさせました。

さらに、キヌは、菊三郎の形見の時計をスズ子に託します。
「ウチ アホやから」スズ子の気持ちも考えず、事情を話してしまい、「アホやから」何かあったらお金に替えて、と時計を渡すくらいしかできない。

キヌは「アホやから」歌うことくらいしか、子供に愛情表現できなかったのだとおもいます。切ない。

誰でも、十分にお金をかけて満たされた生活を送ったり、高等な教育を受けたりできるわけではないのです。当たり前にそういうふうに育ったひとは、その価値観でものを見て、教育のない者の言動に眉を潜めますが、教育の行き届かない人たちというのは一定数いるのです。そのため、いい家の跡取りの子供を宿して捨てられてしまったりする。それを軽んじたり非難したりは誰もできない。

スズ子がもし、キヌと暮らしていたら、芸能の仕事に進むこともできなかったかもしれません。そういうことを言葉にしないで、さらりと描いている「ブギウギ」。このへんはブギというよりブルースという印象です。

時計を渡したときに、はじめて娘の手に触れるキヌ。もう2度と触れることのない娘の手を名残惜しく、長いこと触れています。その手の感触にスズ子は何を思ったでしょうか。

こんなふうに画で見せる場面が、いくつもあって、それが足立紳さんの演出のすてきなところです。
映画ぽいというのでしょうか。ちょっと上等な感じのする朝ドラです。それも、高級旅館の格式高そうな朝ごはんではなくて、無口で腕のいい調理人のまかないという感じ。

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–{第22回のレビュー}–

第22回のレビュー

実の母・キヌ(中越典子)と話をしたスズ子(趣里)。実の父の形見の時計をもらってツヤ(水川あさみ)の実家へととぼとぼと戻ります。

 キヌの話を頭のなかで反芻し、河原で、キヌとツヤと3人で遊んでいるときのことを思い出したのか、妄想したのか。「おかあちゃんも来てー」と呼ぶスズ子はキヌとツヤ、どちらを「おかあちゃん」と認識していたのでしょうか。

 実際、河原にたどりつくと、子どもたちが水遊びをしていて、スズ子は一緒に川に入って(なぜか足袋は脱がないのは足を守るためでしょうか)、ばしゃばしゃとしているとひっくり返って、横たわり、仰向けになります。

 「胸が、おなかが、体中が、熱うて、張り裂けそうやった」

 熱い体とこころを川に浸し、鎮めるスズ子を俯瞰的に撮った印象的なカットです。

ただ泣くよりもスズ子のやりきれなさが伝わってきした。

 ツヤの家につくと、六郎(黒崎煌代)が心配して出迎え、びしょ濡れのスズ子を甲斐甲斐しく拭きます。このときの六郎は、いつもの頼りない感じではなく、頼りがいありそうでした。

「大丈夫や、バラバラになんかせえへん」と抱きしめます。

バラバラにならないようにぎゅっと抱え込むという行為はエモい。

 ただ、思わず「お母ちゃん」と呼ぶスズ子に「六郎や」と言ってしまうところは、いつのもすこしとぼけた六郎でした。六郎が、状況をわかってるようなわかってないような感じだから、救われるのかも。

 そののち、スズ子は、六郎に、今回、判明した出生の秘密をふたりだけの秘密にしておこうと言い、ふたりだけの秘密ができたことを六郎は喜びますが、これまでのことを思うと、秘密を守っておけるのか、ちょっとあやしい。

 帰ってきたスズ子と六郎を見てもらい泣きしているトシ(三林京子)が、手ぬぐいで顔を隠すのがかわいらしかった。ベテランのかたにかわいらしいというのも失礼な気もしますが、なんかかわいくて。

 第21回では「食べながら待つしかない」と名言を語ったトシ、帰って来たスズ子と食事を共にしながら、ツヤはスズ子をみんな自分のものにしたかったのだと説明します。
それと、本当の子供のほうが大切と正直に言うところも。でも、それは逆説的で、だからこそ、ツヤにとっては
スズ子が本当の子供に思えているのだという意味であることも。含蓄あります。

 ツヤはいつしかスズ子をほんとうの子どもと思って愛情が深くなっていたのかと思うと、つらい話であります。キヌがスズ子を引き取るといつ言い出すか気が気ではなかったでしょう。だんだん実家に寄り付かなくなって、このまま何もなかったことになれば……と思ったのか。育てられないキヌの代わりに預かったとはいえ、ある種、子供を奪ったことにもなるので、その罪悪感はかなりのものでしょう。ずっとすっきりしないまま抱えてきたツヤの気持ちを思うと、ほんとうに胸がズキズキします。

 スズ子も絶対的にほんとうの母と信じていたツヤが他人だったと知って、かなりショック。大阪に戻ってきたときの、ツヤとスズ子が微妙にギクシャクしていて、でも、すぐに何もなかったように振る舞う。心にズキズキきます。

 思いがけない体験をした休暇が終わり、スズ子は稽古場で「アラビアの唄」を歌いながらお掃除。この歌は「わろてんか」(17年度後期)でリリコ(広瀬アリス)も歌っていました。1927年(昭和2年)に発表されたジャズ風歌謡曲。この曲のカップリング曲が「私の青空」だったそうです。

曲名と同じタイトルの朝ドラがありました。「私の青空」(00年度前期)は現代が舞台のシングルマザーの物語でした。スズ子のモデルである笠置シヅ子さんもシングルマザー。「アラビアの唄」のほうを選曲したことは意味深であります。また、「私の青空」は家族の歌なので、いまのスズ子にはちょっとつらく、「アラビアの唄」のほうがさみしい気持ちに寄り添う曲だったのかもしれません。

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–{第23回のレビュー}–

第23回のレビュー

スズ子(趣里)が出生の秘密を知ってから3年、家庭では何事もなかったように過ごし、仕事は順調
のように見えますが、スズ子のなかで何かがうごめいています。

梅丸少女歌劇団ではスズ子の歌と秋山(伊原六花)の踊りの2本柱が売りになっていますが、スズ子は秋山の引き立て役のような気がして……。

はな湯の常連にも秋山の踊りがいいと言われ、落ち込むスズ子。
ツヤ(水川あさみ)に対しても、秘密を知る前のように屈託なくふるまえないことがあり、それをツヤは敏感に察します。

迷うスズ子に何か変化の兆しが近づいてきます。

ひとつは、「別れのブルース」を歌う茨田りつ子(菊地凛子)の存在。
最近よく聞くこの曲は、辛気臭く暗い曲ですが、スズ子は心惹かれます。
この曲を、羽鳥善一(草彅剛)が作曲しているのですが、まだスズ子はそれに気づいていません。

ツヤは、スズ子が「別れのブルース」に惹かれるのは、自分たちに「別れ」のときが近づいているのではないかと不安を覚えますが……。

もうひとつは、大和礼子(蒼井優)の結婚と妊娠。
礼子は股野(森永悠希)と結婚して、出産を間近に控えていました。

礼子は、スズ子や秋山の苛立ちのようなものを、お互いへの嫉妬ではなく、自身に対する物足りなさ、もっと何かやれるんじゃないかという気持ちと理解します。同業者だからこそわかる感覚でしょう。

礼子自身も、歌劇団を辞め、結婚し、踊りを教えていて、でもそれだけでは満たされなかったのでしょうけれど、子供ができたことで何か変わる感じを獲得していました。
股野のピアノも変わったと。

確かに、子供ができると作るものが変わるアーティストはいます。
例えば、先日、筆者が水野美紀さんにインタビューしたとき、子供ができてから作るものが変わったとおっしゃっていました。

礼子の話を聞いて、「赤ん坊を作れっちゅうことですか」といきなり飛躍するスズ子。
それよりまず恋愛などが先でしょう。
スズ子は、つけまつげを長くすることからはじめます。

それにしても、桜庭和希(片山友希)は初期は最も野心をもっていたように見えましたが、いまは、すっかり足るを知るというように、淡々としています。リリー白川(清水くるみ)と3人組で切磋琢磨するかと思いきや、3人は同じ劇団の同期でも、それぞれ違うほうを向いている感じです。

脚本の足立紳さんは、男たちの友情や、夫婦の腐れ縁みたいなものを、生活感をもって描く作家ですが、女性の友情には淡白な感じがします。股野が、礼子が好きで、泣き落としのようにして結婚まで持ち込んだという、男の願望のようなエピソードのほうに何か神経が向いているように感じてしまう。それはそれでいいのですが。

礼子が股野に泣き落とされてしまうのが、やや釈然としないような気もしますし、いや、ひじょうに優秀な女性が、大きな仕事を止めた喪失感から、ちょっと気弱な男にほだされてしまうというのも現実にはあるんだろうなあという気もします。

トップスターの地位を思いがけず失ったとき、自分はこんなもんじゃないという忸怩たる思いがあり、妻や母になることで自身の進歩と変化があると信じるというある種の負けん気が礼子には見えます。
一見おとなしそうに見えながら、ウチに秘めたエネルギーの強さが隠しきれない蒼井優さんがそれを見事に演じています。

一方、桜庭のほうは、生活のために歌劇団に入り、生活が安定したから、それで満たされているように見えます。

誰もが同じように高い志をもって芸事に邁進するのではなく、挫折や諦念や惰性のようなもので生きている人も世の中にはいる。「ブギウギ」ではさすがに惰性は描いていないけれど。理想的には生きられない人のことをさらりと描いている気がします。

東京から、演出家の松永大星(新納慎也)と制作部長・辛島一平(安井順平)がやって来ます。スズ子の人生に何かがもたらされそうな予感……。

第23回で印象に残ったのは、林部長(橋本じゅん)。礼子とスズ子が話しているとき、後ろでずっと
反応している。それが気になって気になって。ずっとみんなを気にかけている人なんですね。

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–{第24回のレビュー}–

第24回のレビュー

東京から視察に来た松永大星(新納慎也)辛島一平(安井順平)は梅丸少女歌劇団のレビューを見て、スズ子(趣里)秋山美月(伊原六花)を東京の梅丸楽劇団に来ないかと誘います。

ちょうどスズ子も秋山も、いまの自分に満足していなくて、自分を変えたくて、何かしたいと思っていたところ。勝負したいと考えます。なんで、私じゃないのと苛立つリリー白川(清水くるみ)はお約束。

タイ子(藤間爽子)も背中を押してくれたので、さっそく父母に相談すると、思いがけない反応が……。

梅吉(柳葉敏郎)はすんなり賛成しますが、ツヤ(水川あさみ)が猛反対。

これまでずっと、スズ子のやりたいことをなんだって全力で応援してくれたツヤがなぜ……。

やっぱり、本当の親子じゃないから? なんて疑心暗鬼もよぎりますが、六郎(黒崎煌代)は、本当の家族だからこそ、離れたくないのだと言います。鋭い。

ここのところ、六郎が大活躍です。ふだんは少しズレた言動をしがちですが、感性が豊かで、ものごとの本質を捉える人物なのです。すばらしい。

ツヤの気持ちを想像すると、本当の家族ではないから、離れていると、縁が切れてしまうのではないかというおそれがあるのではないでしょうか。これまでスズ子を目に入れても痛くないほどかわいがっていたのは、本当の子じゃないからという矛盾からで。

いろんな後ろめたさや心配と、止められないあふれる愛情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、スズ子を過保護のように扱っていたツヤの苦しい思いを、スズ子はなかなか理解できないでしょう。

スズ子のほうは、このまま実家にいると、気まずいので、なんとかしたかった。
東京に出れば、日々の気まずさは味わなくていいし、ツヤがいつものように全力で応援してくれたら、
家族愛を再認識できると思っていたのでしょうけれど……。

本当の家族であることをツヤとスズ子、互いが実感するには、遠く離れても切っても切れないものがあることを自覚することなのでしょう。

一緒にいるだけが家族ではないのです、たぶん。

もやもやするスズ子は易者(なだぎ武)に占ってもらうと、信じられないことが起こる、と言われます。

いつも当たらない占いが、このときだけ当たってしまい……。

かなり衝撃的な、信じられない出来事でした。いや、もう、レビュー書いてるどころじゃない。何も手につかないほどの脱力感を視聴者にくらわす出来事であります。

第23回で、あんなにキラキラ、将来に思いを馳せていた大和礼子(蒼井優)が……。

東京から来たユーモラスな視察のふたり(セレブな松永と小市民的な辛島の組み合わせが絶妙)で盛り上げて、スズ子とツヤの母子の確執で心を揺らして、久しぶりのタイ子の日本舞踊がしっとり色香があって素敵で、大和さんのことをすっかり失念していたところに、ドカン!と来た。

15分のなかに、いろんなことがあって、濃密な回でした。

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–{第25回のレビュー}–

第25回のレビュー

突然の大和礼子(蒼井優)の訃報。梅丸少女歌劇団でお別れ会が行われました。
礼子はもともと腎臓の調子が悪かったところ、出産を機に悪化して、死に至ったのです。

再会したときは、そんなふうに見えず、心身ともに満たされていたようでしたが、辛さをひた隠していたと思うとまた泣けます。

礼子は、己の体の限界を感じているからこそ、宿った命をこの世に送り出したいと思ったのかもしれません。

赤ん坊を見て「きっと歌と踊りの天才になるわあんた」と頭をなでる橘アオイ(翼和希)の思いはいかばかりか。知らせを聞いたときは、おそらくかなり逆上したことでしょう。でもいまは粛々と、会に出席しています。

「急すぎて涙も間に合わへんわ」、というのは、桜庭和希(片山友希)。そういうことってありますね。

そこへ、縁を切っていた礼子の両親が現れて、お父さん(上杉祥三)のほうは、娘が劇団に入りさえしなければこんなことにならなかったとだけ言って去っていこうとします。ど修羅にならなくてよかった。

スズ子(趣里)の「大和さんはお二人に育てられたんやなって」という言葉が、たぶん、ご両親の救いになったことでしょう。そして、スズ子もまた、自分のなかで、何かが整理されたのでしょう。

東京に行く決意をするのです。

ツヤ(水川あさみ)は、梅吉(柳葉敏郎)に、これまで彼にも話していなかったスズ子への強烈なまでの愛を吐露します。自分は「身勝手でずるい」と。

梅吉に「おなごの意地」と執着していることといい、ツヤは愛情が深く、欲深い人なのかなと感じます。誰かを愛して尽くしている自分が好き、なタイプかも。

そして、もし、実の息子が死んでなかったら、ここまでスズ子を自分だけのものにしようと思わなかったかもしれないなあ、なんてことを筆者は思いました。

ツヤの告白を聞いて、梅吉は自分も「身勝手でずるい」のだと返します。ツヤがふたりの子供を連れ帰ってきたとき、問いただすことをせず、そのまま面倒になることを避けて、事実に触れずにいたからです。

何も聞かないでいてくれることは、ときにとてもありがたいことではありますが、重大な問題を隠蔽してしまうことにもなります。物事を明確にしないと、存外、そのままになってしまう。そういうことって世の中にあふれています。

梅吉は梅吉で、俳優業に、脚本と、やりたいことがうまくいっていませんが、誰かが諦めろと言わない限り、自分では終われない。ツヤが引導を渡す人ではないので、そのままにしていられる。一方、ツヤは梅吉にスズ子のことをツッコまれないので、救われている。じつは、似たもの夫婦。はっきりさせたくないことをはっきりさせずにいられる関係であったということです。この関係、理想とは言い難いですが、こういう、くされ縁のような関係もあるというのがいいと感じます。

そこへスズ子がやってきて、東京に行くと宣言。大和さんの死によって、大和さんの意思を継ぎたい思いや、やりたいことをやらなくては(命短し恋せよ乙女的な)という思いに駆られたのでしょう。
ツヤもようやくスズ子の希望を認めることができました。

血は繋がっていないけれど、花田家はみんな「根性なし」(ツヤだけは根性あり)なところが似ているということで、雨降って地固まります。

さあ、いよいよ東京へーー。

余談ですが、この回、印象的だった場面があります。
股野(森永悠希)のところに礼子の両親が現れたとき、アオイが一歩退くときのしゃきっとした感じと、股野とアオイとスズ子たちが立ち話しているとき、リリー白川(清水くるみ)も一緒に立ち話のなかに入らず、手前でお客さんに挨拶しているように描くことで、画面に立体感が出ていること。
全員、棒立ちだと興ざめですから。そうならなくてよかった。

※この記事は「ブギウギ」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「ブギウギ」作品情報}–

「ブギウギ」作品情報

放送予定
2023年10月2日(月)より放送開始

出演
趣里、水上恒司 、草彅 剛、蒼井 優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎 ほか


足立紳、櫻井剛<オリジナル作品>

音楽
服部隆之

主題歌
中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」(作詞・作曲:服部隆之)

ロゴ・タイトル制作
牧野惇

歌劇音楽
甲斐正人

舞台演出
荻田浩一

メインビジュアル
浅田政志

語り
高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)

制作統括
福岡利武、櫻井壮一

プロデューサー
橋爪國臣

演出
福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠 ほか