NHKドラマ10「大奥」のシーズン2が2023年10月3日に放送開始となった。
よしながふみの同名漫画を原作に、3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還に至るまで、若い男子のみが感染する奇病により男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描く本作。シーズン2の前半「医療編」には、鈴木杏、村雨辰剛、松下奈緒、玉置玲央、仲間由紀恵、後半の「幕末編」では、古川雄大、愛希れいか、瀧内公美、岸井ゆきの、志田彩良、福士蒼汰ら豪華俳優がキャストに名を連ねる。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
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もくじ
第11話ストーリー&レビュー
第11話のストーリー
8代・吉宗公の薨去(こうきょ)よりおよそ20年の年月が流れ―平賀源内(鈴木杏)は、長崎・出島で蘭学の習得者探しに奔走していた。それは亡き吉宗公より「赤面疱瘡」の撲滅を託された田沼意次(松下奈緒)からの内命であった。源内はそこで蘭方医・吾作(村雨辰剛)と出会い、赤面疱瘡の解明に挑むため大奥入りを誘う。大奥入りを果たした吾作は名を青沼と改め、黒木(玉置玲央)の補佐のもと蘭学の講義を始めていくが…
第11話のレビュー
8代将軍・吉宗(冨永愛)が「この国は滅びぬ」と言い残し、この世を去ってから20年。相も変わらず世の中を脅かす流行病、赤面疱瘡と戦う人たちがいた。2023年1月期に放送されたNHKドラマ10「大奥」の待望の続編が開幕。記念すべき初回の放送で描かれるのは、吉宗の悲願が導いた運命の出会いである。
よしながふみの原作とは異なり、シーズン1の終盤に赤面疱瘡の撲滅に動き出した吉宗。薬種問屋・田嶋屋に婚いだ水野(中島裕翔)や町医者の小川笙船(片桐はいり)らの力を借り、赤面疱瘡に効く特効薬を探したが、結果は敗北に終わる。しかしながら、その思いは龍(當真あみ)、のちの老中・田沼意次(松下奈緒)に引き継がれた。
舞台は明和6年(1769年)の長崎・出島。田沼から内命を受けた本草学者・平賀源内(鈴木杏)が、大奥内での蘭方医学普及に努めてくれる蘭学の習得者探しに奔走していた。なぜ、蘭学なのか。日本の医学では赤面疱瘡に太刀打ちできないと知った吉宗たち先人が、異国の薬に解明の糸口を見出したからである。「吉宗編」と「医療編」の繋ぎ方が実に鮮やかだ。
そこで、源内に才覚を見出されたのが蘭医・吉雄耕牛(飯田基祐)の弟子である吾作(村雨辰剛)。血の繋がりがないにもかかわらず、耕牛が跡目を継がせようとしていたほど、吾作は弟子の中で最も蘭語と医術に優れていた。そんな吾作が大奥入りを決めたのは、オランダ人と丸山遊女の間に生まれた“合いの子(そこには、差別的意味を含む)”の自分を懇意にすることで周囲との間に対立を生んでいた耕牛を困らせたくなかったというのもある。ただ、それ以上に「ありがとうって言われたい」という源内のシンプルで根源的な願いに共鳴したからだ。
この「医療編」において大きな見どころとなっているのが、様々な違いを超えていく友情である。特に、女性で武家育ちの純日本人である源内と、男性で奉公人、さらには日本人とオランダ人の血を引く吾作は何もかもが違う。性格だって正反対で、飄々としていて早口でまくしたてるように喋る源内に対し、吾作は基本的に口調が穏やかで真面目。ただ、同じだったのはどちらも大事な家族を赤面疱瘡で亡くしていること。赤面に至っては男性のみ感染するが、身分や人種を問わず襲いかかってくるウイルスから人々を守り、感謝されたい(承認されたい)という欲求は共通している。
その一点のみで人と人が繋がり、同志となっていくのが「医療編」と言えよう。大奥入りを果たした吾作、改め青沼と黒木(玉置玲央)もそうである。青沼が大奥で受けるのは、心ない異人差別。当時はまだ異人を目にしたことのない日本人がほとんどだったのだから無理もないが、自分たちと風貌が異なる青沼に対して大奥の男たちはあけすけに拒否反応を示す。
源内が外で赤面疱瘡の解明に努める中、大奥で最初の味方となってくれるのが黒木だ。黒木は尊敬に値しない町医者の父が蘭学をかじっていたこともあり、医者も蘭学も嫌っていたが、風熱、今でいうインフルエンザに罹患した御半下の家臣たちを懸命に看病する青沼の姿を見て気持ちを改める。「病を治すのは患者自身の持つ体の力」という考え方は父親と青沼とで共通していたが、父親のはただの“怠慢”であるのに対し、青沼の方は“謙虚”さを表していた。
どんな薬も治療も万全ではないと理解しながらも、自分にできうる限りを尽くす。その目的が金銭ではなく、あくまでも感謝である点に黒木は感銘を受けた。医師、そして蘭学の習得者ということだけで浅ましいと決めつけていた黒木の偏見が解けた瞬間である。
一方の青沼にもまた、どこかで大奥の男たちは上の者に取り入るだけの浅慮な人間という偏見が少しもなかったかと言えばそうではないだろう。確かに黒木が「皆様が気になるのは、上様のお好みやどなたに取り入ればうまく過ごせるか」と語るようにそういう部分ももちろんあるが、それは彼らがこの大奥でずっと単なる“種馬”として扱われてきたからである。それ以外のことを望ませてもらえるような環境ではない。
しかし、蘭学を学び始めた黒木が青沼に「オランダ文字が上手」と褒められ、今までにはない笑顔を浮かべていたように、誰しもが承認欲求を持っている。青沼は大奥に入り、黒木と関わることによってそれを知った。5代徳川綱吉(仲里依紗)時代の大奥総取締・右衛門佐(山本耕史)の「生きるという事は、女と男という事は、ただ女の腹に種を付け、子孫を残し、家の血を繋いでいく事ではありますまい」という台詞を、今ここで再び思い出す。「医療編」は彼のその言葉を裏付けしていくようなエピソードとなるだろう。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第12話ストーリー&レビュー}–
第12話ストーリー&レビュー
第12話のストーリー
青沼(村雨辰剛)の蘭学講義は、伊兵衛(岡本圭人)や家治の御台・五十宮も加わり賑(にぎ)わいを見せる。ある日、意次(松下奈緒)が源内(鈴木杏)を連れ立って講義部屋を訪れ、その真の目的は「赤面疱瘡の解明」と伝えられる。蘭学の習得にいっそう励む講義部屋の男たちであったが、ある偶然からその糸口を発見することに。その裏で、一橋治済(仲間由紀恵)は田安定信(安達祐実)に近づいていき…
第12話のレビュー
源内(鈴木杏)の誘いで、大奥入りを果たした青沼(村雨辰剛)。当初一人も集まらなかった彼の蘭学講義は徐々に賑わいを見せ、やがてその場所は赤面疱瘡にかからない方法を見つける学問所として機能し始める。
学びを得て、そしてそれが人のため、世のためになる可能性に目を輝かせる大奥の男たち。お調子者の伊兵衛(岡本圭人)がムードメーカー的な存在として場を沸かせ、青沼や10代将軍・家治(高田夏帆)の御台である五十宮(趙珉和)たちが温かい眼差しを向ける。一点の曇りもない彼らの笑顔を見て、胸を痛めるあなたは原作勢だ。これから彼らに降り注ぐ悲劇をすでに知っているから。「大奥」(NHK総合)第12話は早くもその悲劇の前哨戦となる回だった。
杉田玄白(小松和重)ら著名な蘭学医と共に赤面の“サボン”作りに乗り出した頃、青沼は五十宮からお礼を言われる。家治とは夫婦仲も良く、側室との間にできた子を血の繋がりはなくとも共に育ててきた五十宮。決して不幸せではないが、どこかに埋められぬ虚しさがあったという彼の思いに共感する人はきっと多いはず。人というものは社会的な生き物であって、どうしても何らかの形で社会に貢献して他者に認められたくなるものだ。前話における源内の「ありがとうって言われたい」は、その欲求を限りなくシンプルにした台詞である。
“ありがとう”で人と人が繋がっていく「医療編」の筆頭は言わずもがな源内。彼女がいなければ、この青春群像劇は始まらなかったであろう。弟が赤面疱瘡で亡くなったことをきっかけに、武家の跡を継がずに男装して遊学していた源内の心を射止めたのは田沼意次(松下奈緒)だった。源内が彼女に惹かれたのはその美しさだけではない。自分の知らないものを面白がる好奇心の強さ、お礼に口吸いでもという無礼な申し出にも笑顔で返す器の大きさ。意次の人柄に惚れた源内は、彼女にありがとうと言われるためにひた走る。
その姿が、見知らぬ男たちから必死で逃げる源内の姿にオーバーラップする場面はあまりに辛く見ていられなかった。後日、身体中にできた発疹を青沼に見せる源内。おそらく襲ってきた男たちに赤面疱瘡以外(源内は女性であるため、赤面にはかからない)の細菌を移されたのだろう。レズビアンである彼女がどれほどの苦痛を受けたのか、私たちには計り知れない。
ただ言えるのは、男たちが犯した行為は“支配欲”に基づく暴力だということ。意志を持った相手を暴力によって黙らせ、尊厳を奪い、支配下に置く。それは、青沼や源内たちが持つ“承認欲求”とは近いようで全く別のものである。自分を価値ある存在として他者に認められたいという欲求は人間なら誰しも持っているもの。あくまでもその欲求を誰かの役に立つことで満たそうとしている間はいいが、それが叶わないと知った瞬間に不当な方法で相手に自分の存在意義を認めさせようとする人もいる。
母の宗武と同じく将軍の座に固執する田安定信(安達祐実)も、彼女を巧みに操り、不要に田沼との対立を仰ぐ一橋治済(仲間由紀恵)もそう。承認欲求を暴走させた先に辿り着く“支配欲”が、青沼の会を刻一刻と崩壊に追い込んでいく。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第13話ストーリー&レビュー}–
第13話ストーリー&レビュー
第13話のストーリー
源内(鈴木杏)は赤面疱瘡の治療法を「人痘接種」と名付け、青沼たちは大奥内で接種を望む者を募る。実績を増やし、徐々に大奥内での評判を広めようと試みるが、得体(えたい)の知れない治療への理解は思うように得られず…青沼(村雨辰剛)への反発も膨らむ一方であった。そして、意次(松下奈緒)も源内や青沼を引き入れた責任を擦(なす)り付けられ…懸命に歩んできた者たちを理不尽な暴力が襲う。
第13話のレビュー
「江戸城にいる女たちよ。貴様らは、母になったことがないのか。母ならば、男子を産んだことはないのか。産んだならば、その子を赤面で亡くしたことはないのか。そういう悲しい母と子を一人でも減らすべく懸命に歩んできた者に、この仕打ちか!あまりにも理不尽ではないか!」
雨が降りしきる中、黒木(玉置玲央)が天に向かって上げた叫びに胸が締め付けられた。
予告からも辛い展開が予想されたNHKドラマ10「大奥」第13話。赤面疱瘡の撲滅に尽力したにもかかわらず、理不尽な仕打ちに遭う田沼意次(松下奈緒)・青沼(村雨辰剛)・平賀源内(鈴木杏)の3人に現代の医療従事者たちの姿を重ねた視聴者も多かったのではないだろうか。
源内が赤面感染から数日で回復する軽症患者を発見。その患者の疱瘡から取り出した膿や痂皮を未感染の男子の腕に植え付け、免疫をつけさせる治療法を、青沼たちは「人痘接種」と名付けて普及に努める。しかし、この治療法には100人に3人の確率で死亡者が出ることを正直に伝えたため、なかなか接種希望者が現れない。
そんな中、全てを承知の上で証人となったのがお針子の伊兵衛(岡本圭人)だ。彼は反発する人々の前で自ら人痘接種を行い、見事に回復を遂げて見せた。そのおかげで次々と希望者が現れ、青沼たちは順調に実績を増やしていく。
だが、不運にも人痘接種を受けた松平定信(安達祐実)の甥が100分の3の一人になってしまった。その責任を負う形で意次は老中職を免ぜられる。定信の甥を死に至らしめたこともそうだが、いわゆる天明の大飢饉で庶民の幕政に対する不満が爆発。さらに、10代将軍・家治(高田夏帆)がお匙にかなり前から少しずつ毒を飲まされており、ヒ素中毒になっていることが分かった。行き場のない人々の怒りは意次のもとに向かう。
しかし、お匙は一橋治済(仲間由紀恵)と通じており、彼女が毒を盛るように命じたのは明らか。幕政への批判が意次に向かうよう、治済が密偵を使い、市中に根拠のない噂を広めたとも考えられる。また、源内を強姦するよう命じたと見られる謎の女(佐藤江梨子)も治済と繋がっていた。治済は自身の息子である竹千代、のちの家斉(中村蒼)の人痘接種を済ませた上で自分に都合の悪い存在を排除したのである。しかも、自らの手を汚すことなく。
結果、青沼は死罪にかかり、源内は梅毒をうつされて死んだ。人痘接種に関わった意次と他の男たちも大奥を追われることに。そして、冒頭の黒木の叫びに繋がる。死の間際でも青沼と源内は自分たちがいなくなった後の世を見据えていた。一人でも多くの男子が人痘接種を受け、死の恐怖から解放される未来を願いながらこの世を旅立った。
「大奥」はフィクションだ。けれど、現実世界を生きる私たちも彼らのようにワクチンの開発に努め、また自ら接種第一号者となってくれた人たちのおかげで安心して接種を受けられ、インフルエンザや新型コロナウイルスといった様々な死の危険性から遠ざけられている。一方で、恩を仇で返すような根拠のないデマや陰謀論が蔓延しているのも事実。もちろんワクチンの接種には死亡事例があり、あらゆる副反応も現れることもあるので、接種するしないは個人の自由だ。だが、その裏には多くの人の努力があることを忘れてはいけないと黒木の叫びは思わせてくれた。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第14話ストーリー&レビュー}–
第14話ストーリー&レビュー
第14話のストーリー
3代・家光以来の男将軍として就任した家斉(中村蒼)。しかし実権は母・治済(仲間由紀恵)に握られ、政治に口を出すことは許されなかった。が、秘密裏に赤面疱瘡の研究を再開させ、男子が活躍できる世を復活させようと考え始め、過去の人痘開発に尽力した者たちを探し始める。一方で、家斉の正室の御台(蓮佛美沙子)は大奥でうまく渡り歩くが、子供たちの不審死が立て続くようになり、周囲に不信感を募らせていくのであった。
第14話のレビュー
田沼意次(松下奈緒)の失脚から数年後。亡き家治(高田夏帆)に代わって、治済(仲間由紀恵)の息子・家斉(中村蒼)が将軍職に就任した。3代・家光以来となる男将軍の誕生である。
NHKドラマ10「大奥」“医療編”の後半戦がスタートした。前回までとは雰囲気も登場人物もガラリと変わり、寂しく感じた人も多いのではないだろうか。
少し話は逸れるが、先日フジテレビの「大奥」が復活し、2024年1月期の木曜劇場枠で放送されることが発表された。こちらは、大奥を舞台に繰り広げられる女の闘いを描いた東映制作の時代劇シリーズで、よしながふみの漫画を原作にしているわけではない。
ただ人気シリーズなことには変わりなく、これまで何度も連ドラとスペシャルで放送されている。菅野美穂、松下由樹、藤原紀香、小池栄子といった名だたる女優陣が繰り広げる、毒を盛ることも厭わない激しい女のバトルに幼い頃の筆者は時折挟まれる官能的な場面に気まずさを覚えながら夢中になったものだ。その大奥に少し近しいものを感じるのが、医療編の後半戦である。
美男三千人の大奥は、美女三千人の大奥へ。幕府の悩みはもっぱら子が多過ぎること。出産という大仕事を担わねばならない女将軍にはある程度、子を作るのには限度があったものの、男将軍である家斉は種をつけるだけ(それも大変だが)なので限度がない。そのため家斉と側室の間には5年で11人の子が生まれ、財政を圧迫していた。
また、これだけ将軍の子をもうけた“御腹様”がいれば、誰が最も将軍から寵愛を受けているかどうかで揉めそうなもの。しかし、家斉の御台所である茂姫(蓮佛美沙子)が人格者であることから大奥の平和は保たれていた。茂姫の子と側室・お志賀の方(佐津川愛美)の子が同時期に亡くなるまでは。
治済が「お志賀はあなたに嫉妬していると思いますよ」と茂姫に釘を刺した直後、お志賀の方の子が風邪を拗らせて亡くなった。後を追うように茂姫の子も死亡。原因は同じく風邪だと思われたが、実際はお志賀の方から贈られてきたカステラに仕込まれている毒だった。
女優の久保田磨希が演じる毒味役の「美味でございます~」で有名なフジテレビ大奥でも、側室の子が毒殺される場面があるが、子を亡くした親の悲痛な叫びはあまりに辛くて見ていられない。また、「気に入らない者がいれば毒を盛ってしまえばいい」という前例が生まれてしまえば、みんなが疑心暗鬼に陥って大奥全体がギスギスとした雰囲気に包まれてしまう。だが、それが狙いだったのだ。治済の。
茂姫とお志賀の方を仲違いさせるため、双方の子に毒を盛ったのは治済だった。普通の人なら、その意味を考えてしまうはずだ。もしかしたら茂姫が大奥の女性たちから慕われているのが気に入らなかったのかもしれない。自分以上に大奥で権力を持たれてしまっては困るから。いや、そこまで深い意味など治済はきっと持ち合わせていないだろう。ただ暇を持て余していたから、人が嘆き悲しみ、ひいては憎み合う姿を余興として楽しもうとしたに過ぎない。
「世には人が悶え苦しむ様を楽しむ趣味のものもおるのじゃぞ」
治済の行いに気づいた茂姫から事情を聞き、にわかには信じられない家斉だったが、治済に楯突いたことで老中職を解任された定信(安達祐実)からそう言われてあることを思い出す。それは幼い頃、自分が怪我をしたせいで武女(佐藤江梨子)が治済に毒を飲まされた時のこと。あまりのショックで防衛機能が働き、家斉の記憶から消されていたのだろうが、その時たしかに治済は恍惚の表情を浮かべていた。
仲間由紀恵の美しさも相まって、治済は原作以上の恐ろしさを醸し出す。ちなみに源内(鈴木杏)を梅毒持ちの男に襲わせ、家治やその娘を毒で死に追いやった武女はこれ以上の殺生を拒み、隠居を願い出たことで治済に毒殺された。サイコパス以外の何者でもない。
前話に引き続き、地獄展開となった第14話で唯一の希望は家斉が赤面の人痘接種を再開すべく黒木(玉置玲央)の元を訪ねたこと。その行動は、ずっと母である治済に屈服してきた結果、自身の妻も子も守れなかった後悔から来るものである。
「男とて女を守れる世に変えたい」
源内と青沼(村雨辰剛)の唯一の心残りであった人痘接種の普及を、ようやく瞳に志を宿した家斉が担っていく。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第15話ストーリー&レビュー}–
第15話ストーリー&レビュー
第15話のストーリー
黒木(玉置玲央)は、再び人痘の開発に尽力して欲しいと訪ねてきた家斉(中村蒼)に納得がいかず、追い返してしまうも、伊兵衛や家族の説得により家斉と手を取り合う覚悟を持つ。不穏な動きを怪しむ治済(仲間由紀恵)の厳しい目を避けながら、家斉と黒木は翻訳局を新たに立ち上げる。再び青沼や源内、意次と夢見た「赤面疱瘡撲滅」に挑んでいくが、ついには治済の耳に入ってしまうのであった…
第15話のレビュー
ただ“退屈だ”という理由のみで、自身の孫を間引いていた治済(仲間由紀恵)は、その報いを受け、子を亡くした二人の母・茂姫(蓮佛美沙子)とお志賀の方(佐津川愛美)の執念により毒に倒れた。
「化け物でも母は母」と最後まで母親の呪縛から抜け出せなかった家斉(中村蒼)の計らいで一命は取り留めたものの、身体は動かせず、言葉も発せなくなってしまう治済。彼女にとっての地獄はこれからだ。死ぬまで本当の退屈を味わわなければならないのだから。
自業自得と吐き捨てたくなるほど、治済の極悪非道な行いで多くの者が命を落とし、残された者たちが嘆き苦しんできた。だが、それこそが。いや、それのみが治済のただ唯一の生きがいだったとも言える。ある意味では、最も哀れな人間だったのかもしれない。
家斉はそんな母親とは真逆で、したたかさこそ一切ないが、人の命を弄ぶ卑劣さもなかった。治済に毒を飲まされてもがき苦しむ武女(佐藤江梨子)の姿を目の当たりにし、ショックのあまり記憶を消してしまうほど繊細で、子を亡くして自我を失った茂姫を見捨てず向き合う優しさもある。
人が苦しんでいたら心を痛め、どうにか助けてやりたいという気持ち。決して頼り甲斐のある将軍とは言えないが、それだけは確かに持っていた家斉は家臣たちの協力を得ることができ、黒木(玉置玲央)をはじめとした青沼(村雨辰剛)の弟子たちと人痘に代わる熊痘接種を成功させた。
他者と一緒に汗をかき、何かを成し遂げたときの達成感。人と人とが愛し、愛される喜び。人の心というものを持って生まれなかった治済はそれを一生得ることができないのである。何に対しても心が動かず、唯一刺激を得られるのは人が苦しんでいる姿を見たときだけ。周りの人間は治済の恐ろしさゆえに従っているだけであり、一人として彼女を慕うものはいない。だからこそ、家斉がようやく自分の意思を持って動き出したと見るや、皆がこぞって彼女を欺くことに協力したのだろう。
第14話において、治済は「これが天下ってやつみたい。思ったより退屈」と亡き母の位牌に語りかけていた。生きている人間とは誰とも心を分かち合うことができない。それは孤独と言うより他ないが、その孤独にすら本人は気づくことがないのだ。
治済は哀しき化け物だった。そのくせ人一倍生命力があり、簡単に死ぬことすら叶わない。さらには化け物の血を孫である家慶(高嶋政伸)に受け渡し、死してもなお彼女は多くの人を苦しめることとなる。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第16話ストーリー&レビュー}–
第16話ストーリー&レビュー
第16話のストーリー
熊痘により赤面疱瘡が撲滅。男子による家督相続が広まった世へと様変わりを果たす。しかし、12代将軍・家慶は娘の家定(愛希れいか)を寵愛し、次の将軍に指名する。老中となった阿部正弘(瀧内公美)は、事あるごとに家定に呼びつけられ、やがて彼女が置かれる境遇を知ることに。何か手立ては無いかと方々に救いを求めるうちに、芳町で出会った瀧山(古川雄大)を大奥にあげることで家定を守る砦を作ろうと奔走する。
第16話のレビュー
大奥最大の悪役にして“怪物”と呼ばれた治済(仲間由紀恵)が退治されたのち、熊痘接種が正式に公儀直々の施策となったことで急速に広まり、赤面疱瘡が撲滅された。
その結果、再び男の世が訪れる。家督相続はもちろん、幕府の要職に就くのも大半が男性。今、私たちが生きる世界とそう変わらない現実が「大奥」第16話にして描かれるのだ。
「世のかじを男が取るようになってからというもの、城中も市中も風紀は乱れ、ろくなことはない!」
冒頭、老中の水野(長野里美)が阿部正弘(瀧内公美)に語った嘆きが印象的だ。3代将軍・家光(堀田真由)の時代から長らく権力を握っていた女性たちの中には守られる存在だった男性を下に見る者もいた。
治済がその良い例だろう。彼女は息子の家斉(中村蒼)が政に口を出すや否や、男という存在への嫌悪感を剥き出しにした。しかし、立場が変われば、差別される対象も変わるのが人の世の常。今度は男性が女性を力で抑えつける時代がやってくる。
腰の重い兄の代わりに家督を継いだ正弘は男性だらけの幕府で肩身の狭い思いをさせられ、のちに13代将軍となる家定(愛希れいか)は実の父・家慶(高嶋政伸)から性的虐待を受ける。特に原作にもある家定が家慶の慰み者にされる場面は実写になると、高嶋の怪演も相まって見るのも堪え難いほどに苦しい。
いつの時代も、人はどうしてこうも性別という枠にはめられて苦しい思いをしなければならないのか。そう虚しさを感じているところに登場するのが、正弘が花街・芳町で出会う瀧山(古川雄大)だ。
泥棒を捕まえようとして道に倒された正弘を助け出した時の勇ましさ。直後、正弘の前に花魁姿で現れた時の品のある艶やかさ。その両方を表現できる古川だからこそ、瀧山を演じることに意味がある。瀧山は男と女の境目をグラデーションのように曖昧にしてくれる存在だからだ。
陰間として男性と女性の両方に春を売ってきた瀧山。どちらも大事な客であり、そこに貴賎はない。男性にも女性にもホスピタリティを持って接してきた瀧山だからこそ、家督を継いだものの、己自身もいつの間にか性別にとらわれて本領を発揮できていなかった正弘の虚しさに寄り添うことができた。それは結果として、家定を苦しい状況から救い出すことにも繋がる。
瀧山との出会いをきっかけに兜の緒を締め直し、幕政で力を発揮して老中に上り詰めた正弘。そこで家定と出会い、彼女が置かれた窮状を知った正弘は、徳川家康に影武者として仕えた阿部正勝の子孫として家定を全力で守ろうとする。その手段として江戸城の西の丸に作るのが、家定のための“大奥”だ。
大奥といえば、元々は将軍の子を産み育てる場所。だが、正弘が作った大奥は家定を家慶から守るための要塞だ。そこに、正弘によって迎えられたのが瀧山である。家定の元に足を運んだ家慶に臆することなく立ち向かい、「それがしの主人は家定様にござりまする!」と言い放つ瀧山の勇ましさよ。家慶が示す有害な男らしさとは一線を画す、忠義と思いやりに満ちた強さである。だからこそ、家定も安心して瀧山を自身の分身としてそばに置くことができるのだ。
これから訪れるであろう、男も女も関係なく手と手を取り合う新しい時代の象徴となった瀧山。その役に古川をキャスティングした製作陣はいやはや素晴らしいと感心せざるを得なかった。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第17話ストーリー&レビュー}–
第17話ストーリー&レビュー
第17話のストーリー
家定の正室としてやってきた胤篤。薩摩が内部から幕政を操るために送り込んできた者として彼を警戒していた瀧山と家定だが、その美しい容姿に圧倒される。どこか掴めない胤篤に、油断はできないと心配する瀧山の一方で、家定は徐々に距離を縮めていくことに。家定の様子に安心した正弘は、意見がまとまらない井伊や堀田ら老中に挟まれながらも、家定から託された役目を果たそうと奔走する。
第17話のレビュー
福士蒼汰が、NHKドラマ10「大奥」に新たな役で帰ってきた。今年1月期に放送されたシーズン1では、3代将軍・家光(堀田真由)の側室となる“お万の方”こと、有功を演じた福士。春日局により無理やり還俗させられた自らの不幸を呪うことなく、家光の頑なな心を柔らかく解きほぐす慈悲深さ。一方、家光との間に命を宿すことができた男たちへの嫉妬に苦しむ人間臭さ。その両方を体現した福士の演技は大きな反響を呼んだ。
そんな福士が再びこの「大奥」で演じるのは、「お万の方の再来」と謳われる天璋院/胤篤。内部から幕政を操るために薩摩から13代将軍・家定(愛希れいか)の正室として送られてきた胤篤は見た目こそ有功と瓜二つだが、内面は大きく異なる。聡明でそつがなく故に掴みどころがない。しかし、人に警戒心を持たせない物腰の柔らかさがあり、彼と一度接すれば男も女も関係なく魅了されてしまう。
まるで、有功と右衛門佐(山本耕史)のハイブリッドみたいな男だ。そして有功と家光、右衛門佐と5代将軍・綱吉(仲里依紗)が互いを想い合うまでの過程をなぞるように、胤篤と家定も心を通わせていく。
開国派と攘夷派に分裂するこの世を徳川がどのように治めていくか。その上で次期将軍にふさわしいのは紀州徳川家の福子(志田彩良)か、それとも水戸徳川家の一橋慶喜(大東駿介)かなど、日本の未来について薩摩の“郷中教育”に基づき議論を深めていく二人。一方で胤篤は家定を散歩へと連れ出し、陽の光を浴びさせる。すると、どうだろう。幼い頃から実の母や父から盛られた毒がその身体から抜けていくように、家定は健康体を取り戻していった。
そうして徐々に距離が近づいていく二人を、複雑な心で見守る瀧山(古川雄大)はまるで子離れできない父親だ。薩摩の刺客として胤篤を警戒しているのもあるが、内心はほんの少し寂しいのではないだろうか。分身と言われるまでに家定から信頼され、彼女をあらゆる脅威から守ってきた瀧山。その役目をぽっと出の胤篤に取られたとあっては口惜しいのも無理はない。加えて、それは恩人である阿部正弘(瀧内公美)から与えられた役目であるから。
だが、正弘の目には仲睦まじい家定と胤篤の姿は希望として映ったことだろう。本来は薩摩と徳川という対立する立場にある二人。それでも敵意をむき出しにせず、最初は腹の中を探り合いながらでも対話や交流を重ねていくうちに、いつの間にか壁はなくなっていた。同じように人が、男と女、開国派と攘夷派、幕府と朝廷といったさまざまな違いを乗り越えていく。それこそが、正弘の目指す未来の日本だった。
しかし、正弘はその未来を待たずして病に侵され、この世を去ることとなる。「まさか己の翼が折れて飛べぬようになる日が来るなど夢にも思わなんだ」と悔しさを滲ませる正弘の姿があまりにも切ない。そんな正弘の無念を晴らしたのが陽の下で輝く家定の姿だ。徳川家康に影武者として仕えた阿部正勝のように、家定を苦しめる忌々しき過去や病を背負ってあの世に行くのだと思うことで彼女は自分の人生を美しい物語にすることができた。
誰もが遺していく大切な人の未来がどうか良いものでありますようにと願いながら空に還っていく。「大奥」は哀しくて美しい物語だ。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第18話ストーリー&レビュー}–
第18話ストーリー&レビュー
第18話のストーリー
通商条約の調印を進めていた堀田の失態に加え、腹心の正弘の死が重なった家定の心痛は尽きない。ついには床に臥(ふ)せてしまったという知らせを聞き、家定を心配する胤篤のもとに瀧山から思いもよらぬ知らせが舞い込む。開国派と攘夷派の思惑がひしめきあう中、大老に就任した井伊は、反発を強める薩摩らを尻目に、徐々に立場を強めていく。条約の締結を推し進める井伊を懸念する瀧山と胤篤の気掛かりはやがて…
第18話のレビュー
「好きだ、私はそなたが好きなのだ」
本当に愛しい人を前にしたら自然と涙が溢れてくるものなのだろう。家定(愛希れいか)が潤んだ瞳で見つめる先には、愛しい人・胤篤(福士蒼汰)の背負う流水紋が月明かりに照らされている。大奥が哀しいだけの場所であってほしくないという有功(福士蒼汰/二役)の願いは百年の時を経て果たされた。心から恋い慕う相手と肩を寄せ合い花菖蒲を眺める幸せはこの大奥で生まれたのである。
NHKドラマ10「大奥」第18話の前半は、愛し合う家定と胤篤、そして夫婦を見守る瀧山(古川雄大)の思わず目を細めてしまうような尊い時間が描かれた。
家定の腹心である阿部正弘(滝内公美)の死で明かりが消えてしまったような大奥にある日、めでたい報せが届く。家定が胤篤との子を宿したのだ。つわりで苦しむ家定は「甘いものなら」とカステラを作るが、理由は別のところにあった。それは、食指が動かず残り物を出してしまっていることを御膳所に詫びるため。その細やかな気遣いを夫である胤篤がちゃんと分かっているのがいい。たったそれだけでも、将軍として国を背負う家定の心の負担は軽くなるのではないだろうか。
さらには家定の前でちゃんとした身なりをしたいと新たに裃を誂える胤篤。彼が流水紋の意匠を選んだことで、瀧山は同じく流水紋の裃を着ることができなくなる。あまりにも残念そうな瀧山には申し訳ないが、おかげで裃を着た胤篤にトキメキのあまり冷たくしてしまう家定の可愛らしい様子を見ることができた。胤篤のことは気に入らないが、彼といて幸せそうな家定の姿をまるで父親のように温かく見守る瀧山。この時間が永遠に続けばいいのに、きっと視聴者全員が祈るような気持ちで画面を見つめていたことだろう。
胤篤もきっと、これから長く同じ時を刻める前提で懐中時計を家定に贈ったのだと思う。だが、その時間はあまりにも短かった。井伊直弼(津田健次郎)が大老となったことで次の将軍は彼が擁立する家茂(志田彩良)に決まったも同然の雰囲気が漂っていたため、家定は実の子ができたことで不満に思うものもいるだろうと大奥を控えていた。が、その間にパタリと彼女の城中での様子が瀧山や胤篤の耳に届かなくなる。
便りのないのは良い便り。そう思っていた胤篤だったが、自身の父・島津斉彬が江戸城に攻め入る途中に亡くなったという報せを届けにきた中澤(木村了)が「今江戸城に主はおらぬ。これ以上ない機会であったのに」という耳を疑うような言葉を吐く。それは、家定がすでに亡くなっていることを意味していた。
愛する家定の死を一ヶ月も後に知ることになった胤篤。井伊曰く肝臓を悪くしたことが死の原因になったというが、ああそうかと言って納得できるものではない。攘夷派の薩摩、長州の人間か。それとも井伊をはじめとする南紀派か。家定の存命を不都合に思う者たちはいくらでもいる。しかし、たとえ死の原因が毒であったとしても犯人を割り出すのはほぼ不可能だった。
怒りの矛先が見つからない胤篤に、瀧山は「己の人生を思うように生きてほしい」という遺言を残した家定が何を望んでいたかを考えるように諭す。それはいつも近くで家定を見つめていた胤篤が一番良くわかっているはずだと。それでもなお、家定の死を受け入れられない胤篤が進むべき道を照らしてくれたのは将軍職就任を控えた家茂だった。
これから国のトップに立つ上で家定が自分に望んでいたことを胤篤に聞きにきた家茂。胤篤は家定が、「日本を身分も男女の別もなく人を取り立てることで小さいけれど強い西洋列強に立ち向かう国にしたい」と願っていたこと。また、上に立つものとして最も大切な家臣や民を思う心が備わっている家茂を買っていたことを語る。すると、家茂はこう答えた。
「では、私はその志を引き継がねばならぬということにございますね。成し得る自信はございませぬが、精進いたします。これからも私をお導きいただけますか、父上様」
その瞬間、胤篤は自分が為すべきことに気づいた。それは家定が信頼していた家茂と共に、家定の志を継いでいくことだ。この時代、志半ばで世を去る者の多いこと。それでも、こうして生きている間に心を通わせた人間によって思いは後世に受け継がれていく。死してもなお奇跡は起こせることを家定は教えてくれた。
筆者が担当した取材で、「しおれている花が少しずつ息を吹き返して、最後は花開くようなイメージで演じられたら」と話していた愛希れいか。その言葉通り、辛く哀しい境遇から信頼できる家臣に救い出され、初めて誰かを好きになった歓びを全身で表現してくれた。将軍として相応しい聡明さと、ひとりの人間として恋を謳歌する愛らしさを兼ね備えた愛希の家定は多くの人の心に刻まれたことだろう。
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さて、いよいよ幕末編も佳境を迎え、最後から二番目の14代将軍・家茂の時代に突入する。井伊の暗殺によりますます弱体化する幕府は公武合体を図り、朝廷から孝明天皇の弟を家茂の正室として迎えるが、その和宮(岸井ゆきの)は女だった。この問題を家茂と、名を天璋院と改めた胤篤、瀧山の3人はどう乗り越えていくのか。最終話が見えてきて寂しくはあるが、引き続き見守っていきたい。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第19話ストーリー&レビュー}–
第19話ストーリー&レビュー
第19話のストーリー
家定亡き後、14代将軍となった家茂は、徳川に向けられた諸侯たちの反感を抑えるため、井伊が推し進めていた公武合体で和宮を迎え入れた。しかし、朝廷から降嫁してきた和宮は偽物で、しかも女性だったことが発覚。観行院や土御門から事情を聞き憤慨する瀧山だが、当の家茂は冷静に受け止め、思いも寄らぬ決断を下す。事情を知ってもなお、和宮にあたたかく接する家茂に、心配を募らせる天璋院と瀧山だが…
第19話のレビュー
家定(愛希れいか)が生前、家臣や民を思う心が備わっていると感じていた家茂(志田彩良)が第14代将軍に就任した。胤篤、改め天璋院(福士蒼汰)も彼女に見出す「相手の心に深く潜り込む天賦の才」がドラマ10「大奥」第19話では大いに発揮される。
日本が開国派と攘夷派で真っ二つに割れる中、幕府の弱体化、ひいては戦乱の世が訪れることを恐れる家茂は公武合体のために朝廷から帝の弟である和宮を正室に迎えることに。
だが、朝廷から降嫁してきた和宮(岸井ゆきの)は偽物で、しかも女性であることが判明。彼女は死んだ方がマシと言わんばかりに、降嫁を強く拒否した弟の身代わりになったのだった。
和宮が女性では家茂との子を儲けることができず、公武合体は叶わない。けれど、和宮の側仕えである土御門(山村紅葉)が言うように、下手に責を負わせればますます朝廷との亀裂は深まるばかりだ。
為す術もなくひとまず和宮が女性であることを秘密にしておくことには力を尽くす家茂や瀧山(古川雄大)。しかし、生まれも育ちも異なる公家と武家が同じ屋根の下で仲良くとは到底いかず、互いのプライドがぶつかり合う。
そんな中でも和宮に心を配り、丁重に扱う家茂。そうする理由など本来ならば無いはずだ。けれど、家茂は和宮がたとえ女性でも江戸に降ってきてくれたことに心から感謝していた。
ただでさえ、国乱の中で薩摩藩士がイギリス人を殺傷する生麦事件なども起き、外国からいつ攻められてもおかしくない現状。平穏な暮らしを望む民にとっては傍迷惑でしかないこと。そんな中で公武合体のために降嫁してきた和宮が彼らにどれほど希望を与えているかを家茂は分かっていたのだ。さらに、和宮が身代わりになったことで自害しようとしていた弟は救われ、家茂も心を痛めずに済んだ。
「そのお方がそこにいらっしゃる。ただ、それだけで図らずも救われる人間が山のようにいる。そのようなお方を世の光と呼ぶのだと私は思います」
生まれつき左手がなく、母である観行院(平岩紙)から暗い部屋に閉じ込められていた和宮。かたや、後に生まれた弟は観行院に“家の光”として大切に大切に育てられた。そんな弟が降嫁を拒否したことは和宮にとって好都合だった。自分が身代わりになれば、側仕えとして大奥入りする母親を独り占めできるから。
しかし、大奥に来てからも観行院が口にするのは弟の心配ばかり。どんなに心を尽くしても母親の光になれない、母親から愛してもらえない。そんな苦しみの中にいる和宮が家茂の言葉でどれほど救われたことか。
家定もそうだったが、「生きていてもいいんだ」と思わせてくれるのは血の繋がりがある人とは限らない。出会ったばかりの赤の他人が自分の価値を見出してくれることもある。その奇跡はこの「大奥」で家光の時代から一貫して描かれてきたことだ。
家茂と和宮の心の交流に胸が温まる一方、不安にもなるのは家茂のように包容力で誰かの痛みを包み込んできた人たちがことごとく理不尽な目に遭ってきたから。すでに将軍後見職に就いた慶喜(大東俊介)が不穏な空気を漂わせており、家茂の上洛にも嫌な予感しかしない。
本作における幸せな時間はあまりに短く、猛スピードで物語が展開されていく。今年1月からスタートした「大奥」シリーズもあと残すところ2話。脚本・演出・キャストの演技等々、全てにおいて隙のない本作が毎週観られるこの贅沢な時間をより一層噛み締めたい。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第20話ストーリー&レビュー}–
第20話ストーリー&レビュー
第20話のストーリー
弟の身代わりとして降嫁した成り行きを家茂に打ち明けた和宮。予想に反して好意的に受け止め感嘆する家茂に拍子抜けした和宮だったが、人の心に寄り添える家茂の思慮深さに触れ、次第に心が解きほぐれていく。慶喜から上洛を頼まれた家茂は、勝の助言を元に帝に直接、開国の意図を伝え説得しようと試みる。やがて和宮が総触れに現れるようになり、大奥内が落ち着きを取り戻してきた頃、京に残した息子を心配する観行院が取り乱し…
第20話のレビュー
「瀧山。生きるとは、ただ別れるだけのことなのか?」
瀧山(古川雄大)にそう問いかけた天璋院(福士蒼汰)と瓜二つだった有功が、大奥に連れてこられてから約200年。一体、何人が無念の死を遂げたことだろう。志半ばで理不尽に命を奪われた者、愛する人の顔を浮かべながら死んでいった者……。目を閉じれば、色んな人の顔が浮かび、彼らの無念を想像するだけで胸が痛む。そしてまた一人、まだこれからという人物が天へと召されていった。
3代・家光以来の上洛で、孝明帝(茂山逸平)と対面を果たした家茂(志田彩良)。勝(味方良介)の助言に従って開国の必要性を説いたところ、男性の装束で駆けつけた家茂の心意気もあり、孝明帝から理解を得ることができた。だが、家茂には頼みたいことがもう一つ。それは和宮(岸井ゆきの)の存在を明らかにし、孝明帝の妹という証となる宸翰(しんかん)を賜ることだった。
母親である観行院(平岩紙)からその存在を隠されていた和宮。結局は大奥にきても観行院の心は変わらず弟の元にあり、最終的には京都へと帰っていった。しかし、和宮の母親に執着する気持ちも薄れたように見受けられる。それは無条件に一緒にいたいと言ってくれる家茂がいるからだろう。家茂は側室も持たず、和宮との間に亀之助という養子を迎え、ともに育てることを決めた。
女性同士の家茂と和宮が血の繋がらない亀之助を父と母として囲む光景に、私は一瞬にして色んな人の顔が浮かんだ。愛する有功との間に子ができず、好きでもない相手と関係を持たなければならなかった家光(堀田真由)。同じように子を作ることを強いられ、何人もの男性と寝所をともにする必要があった綱吉(仲里依紗)。そんな綱吉を愛するがゆえに自ら手にかけた吉保(倉科カナ)。ただ一緒にいたいからいる家茂と和宮は、彼女たちの願いを代わりに叶えたとも言える。
しかし、そんな二人もまた理不尽に引き裂かれる。かねてより脚気を患っていた家茂は体調が優れない中、慶喜(大東駿介)が勝手に決めた二度目の上洛中にそのまま帰らぬ人となった。和宮の元に帰ってきたのは、家茂がお土産として買った打掛と袿が一着ずつ。二人はそれを着て、とりかえばや遊びに興じる約束をしていたが、果たされることはなかった。
最後の最後まで和宮のことを気遣っていた家茂。死に目に居合わせた志摩(中村アン)にも「心安らかに旅立ったと伝えて」と訴えていた。だが、志摩は敢えて真実を伝えた。胸をかきむしるほどに苦しみ、「親子さまに会いたい」「大奥に帰りたい」と悔やみながら死んだということを。あまりにも苦しい。けれど、そのおかげで和宮はどれほど自分の存在が家茂にとって大切であったかということを知ることができた。
生きるとは、ただ別れるだけのことではない。家光と有功の時代から多くの者たちが無念の死を遂げてきたが、彼らの願いは次の世に、また次の世にと託され続けてきた。その結果が、短い時間ではあったが家茂と和宮が肩を寄せ合い過ごした幸せな日々なのだ。だからこそ、家茂にとって大奥は帰りたい場所となり得た。
だからきっと、家茂のやり残したことも誰かが引き継いでくれる。戦を回避し、人々の平穏な日々を守ることに心血を注いだ彼女の思いを。そして大政奉還、江戸城無血開城と時代は進んでいき、ついに願いの結晶のような大奥は終焉を迎える。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{第21話ストーリー&レビュー}–
第21話(最終話)ストーリー&レビュー
第21話のストーリー
国の行く末のため、自らの身も省みずに心血を注いだ家茂が志半ばで亡くなったという知らせが入る。己の信念で私利私欲に動く慶喜の振る舞いが新たな争いの火種を生んでしまう。家茂の身を案じ、あれこれ手を打って引き留めようとしていた和宮の願いは届かず、暗い空気が流れる一方で瀧山や天璋院は、時代の移り変わりとともにかつてないほどの変化を強いられる。代々受け継がれてきた大奥はやがて…
第21話のレビュー
内憂外患を抱える日本の行く末を憂いながら、生涯を閉じた家茂(志田彩良)。彼女の願いは聞き入れられず、養子の亀之助ではなく慶喜(大東駿介)が将軍職を引き継いだ。政権は朝廷に返上した徳川だったが、処遇の悪さに業を煮やした慶喜は新政府軍との戦いに身を投じる。しかし、朝敵とみなされたくない慶喜はあろうことか尻尾を巻いて江戸で逃げ帰ってくるのだった。
家定(愛希れいか)が生前、胤篤(福士蒼汰)に語っていたように、慶喜はやはり将軍の器ではなかったのだろう。彼が守りたいのは所詮、己の地位や名誉だけで、国の民や家臣を思う心はない。そもそも薩摩が倒幕派に傾いたのも、慶喜の島津久光に対する罵倒がきっかけだった。
もはや争いを止めるためには慶喜の首を差し出す他ない状況の中、陸軍総裁に任ぜられた勝海舟(味方良介)は西郷隆盛(原田泰造)との和平交渉に臨む。そこで名乗りを挙げるのが、胤篤と和宮(岸井ゆきの)だ。二人は家定と家茂が愛した江戸の町を守るために話し合いの場に自ら赴く。それでもなお、「日本を女が統治する恥ずべき国にした徳川の当主」として慶喜の首を打ち取ろうとする西郷の覚悟は揺るがない。そんな西郷に和宮はこう強く訴える。
「この江戸は、列強にも劣らへんというこの町は、あんたが恥ずかしい言うた女将軍のお膝元で、その町の女らが育ててきたんやで。日々の営みの中で。別に歴史なんてどうでもええ。あんたらのええように歪めたらええ。けど江戸の町には傷一つ、つけんといて!」
西郷の、“女が統治する恥ずべき国”という認識は変わらなかった。しかし、外国に男子の数が減っていることを悟られぬよう、家光(堀田真由)の時代から歴代の将軍たちが男名を用いてきたことが悲しいかな、功を奏す。つまり、そのまま男が国を統治してきたと歴史を書き換えればいいと。大奥の“まこと”の姿を闇に葬り去る代わりに、和宮たちは江戸の町が火の海になるのを回避したのだ。
大奥はもともと、春日局(斉藤由貴)が徳川の権威を保つため、将軍の子を産み育てる場所として創設した。戦乱の世を生きてきた春日局は平和な世を守り繋げるにはそうするしか方法はないと考えていたのである。だが、慶喜に代わり、国の民や家臣を守ったのは今や幕府と対立する薩摩と朝廷からやってきた胤篤と和宮。徳川の血筋を引かない2人を突き動かしたのは、生前の家定や家茂の姿だ。
家定も家茂も生涯、子を持つことはなかった。つまり、彼女たちが生きていたという証拠は目に見える形では残されていない。けれど、彼女たちを愛していた者たちがいる。彼女たちが国の民や家臣のために心血を注いできた日々を知っている者たちがいる。
大奥最後の夜、瀧山は『没日録』に「今日より、大奥はここで過ごしたる各人の心を住処とす」と記した。その『没日録』も新政府軍に燃やされてしまったが、胤篤はサンフランシスコへと向かう船の中で日本初の女子留学生の一人・津田梅子に大奥の“まこと”の姿を語る。のちに女子教育の発展に寄与した彼女もまた、もうこの世にいない。しかし、その思いは現代まで受け継がれ、いまや男性と同じように教育を受けられる私たちが存在する。それを希望と言わずして何と言おう。
本作で描かれた大奥は、私たちが生きる世界の写し鏡だった。瀧山が言ったように“出口の見えぬ悲しみ”も、“この上ない喜び”もここにはある。だが、彼らのように暗闇の中でも希望を手繰り寄せたい。翼を羽ばたかせ、大空を飛び回る姿に誰かが心を救われることもきっとあるはずだから。
※この記事は「大奥 Season2」の各話を1つにまとめたものです。
–{「大奥」作品情報}–
「大奥」作品情報
放送予定
2023年10月3日(火)スタート [総合][BS4K] 毎週火曜 夜22時~22時45分
出演
<医療編>
鈴木杏/玉置玲央/村雨辰剛/岡本圭人/中村蒼/蓮佛美沙子/安達祐実/松下奈緒/仲間由紀恵
<幕末編>
古川雄大/愛希れいか/瀧内公美/岸井ゆきの/志田彩良/福士蒼汰
原作
よしながふみ
脚本
森下佳子
音楽
KOHTA YAMAMOTO
主題歌
Aimer 「白色蜉蝣」
制作統括
長谷知記 藤並英樹
プロデューサー
舩田遼介 松田恭典 舟橋哲男
演出
大原拓 末永創 川野秀昭 木村隆文