注目の若手俳優・林裕太が主演映画『ロストサマー』で示した“現在地”と“これから”

インタビュー

中澤梓佐・麻美・椿弓里奈・関口アナンの同い年の俳優4人が設立した「889FILM」が、結成6年目にして初めて長編映画を手がけた。

題して、『ロストサマー』。舞台は、人情味あふれる高知の街。メインキャラクターは3人。他人の金品を自分のものにしながら、当てもなくふらつく若者・フユ。妻に先立たれるも、生前の彼女が自分に課したルーティーンを律儀にこなす老人・秋。立派な一軒家に住んでいながら、夫には見向きもされず寂しさを抱く主婦・春。年代も立場も違う男女が、移ろう季節の中で偶発的にめぐりあい、いつしかそれぞれ微かにして確かな希望を抱きはじめるさまをきめ細やかに描く滋味深き一篇が、堂々の完成を見た。

本作で主人公・フユを演じた林裕太は、若き実力派と脚光を浴びているネクストブレイク候補の1人。気づけば姿を目で追っている不思議な魅力を放つ彼に、作品についての話はもちろん、芝居との向き合い方や役者として今後目指す地平など、じっくりと多々語ってもらった。

年上の役も「自分の経験や感じ方の延長線上で芝居をしたい」

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──髪の色が違うだけで、全然印象が変わりますね。

林裕太(以下、林):あ……黒い髪のほうが幼く見えますか?

──いえ、『ロストサマー』で演じた主人公・フユの金髪姿のほうが、あどけなく見えました。

林:あっ、本当ですか? 役でそういう風に見ていただけると、うれしいです。

──わりと林さんご本人は実年齢よりも年下に見られることが多いですか?

林:そうですね、結構若く見られがちです。でも、特にそこに対して何か思うわけでもなくて。むしろ、学生役をできる間にたくさんやっておきたいなと思っているので、そう考えると有利なのかな、と──(笑)。

──なるほど。ただ、役者さんはご自身の年齢に対して無自覚だったりしませんか? 役によって年齢も変わりますし……。

林:そうかもしれないです。ただ、『ロストサマー』のフユに関しては明確な設定がされていて、撮影していた当時の僕と同じ年齢ということになっていました。ちょうど、22歳になったばかりだったんですけど。

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──そうだったんですね。そういった細やかなディテールは、お芝居に作用したりするものなのでしょうか?

林:どうだろう……年齢的なもので言うと結構ざっくりというか、『ロストサマー』のフユの場合は、あんまり年齢を意識しなくてもいいのかなっていうふうに捉えていました。でも、普段ほかの役を演じるときは──16歳から22歳ぐらいまでの間で言うと、どの年齢にもそれぞれハイライトがあるんですよ。高校に入った年、高校を卒業するタイミング、大学生活を過ごしているとき、周りが就職し出した時期……と、その時々で焦りがあったり、考え方も変わってくるので、その辺の年齢設定が細かくあると役に入るにあたっては助かったりしますね。

──人生で通ってきた年齢であれば、経験の引き出しから芝居に反映させることもできるでしょうけれども、『アクターズ・ショート・フィルム3』(WOWOW)で中川大志監督が演出を手がけた『いつまで』では、年上の役でした。そういう場合は……?

林:自分の中で大人びているところであったり、先輩の話を聞きつつ「自分がもう少し大人になったら、こういう考え方になるんじゃないかな」と想像したり考えながら、演じようと心がけてはいて。なるべく、自分の経験や感じ方の延長線上で芝居をしたいんですが、どうしても難しいときは想像して、大人っぽい所作だとか自分の子どもっぽい動きを隠そうと意識して演じます。

林裕太が現場で一番大切にしていること

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──なるほど。あの…初出演した映画『草の響き』(21年)の斎藤久志監督から「演じるな、芝居をするな」と言われたそうですが、その言葉が今も心に残っていたりします?

林:今、僕が現場で一番大切にしているのは、「自分に起こることに対して正直であること」なんです。それが斎藤さんがおっしゃっていた「芝居をしないこと」に通じるのかな、と思っていて。もちろん事前に準備をしますが、それは現場に立ったときに準備段階でできるはずのことを考えながら芝居することを避けたいからなんですよ。考えずに演じるためには、現場に立つ前に準備できることをできる限りしておいて、本番では無意識に動けるような状態にまで持っていくことが必要なんじゃないか、と。そこで初めて「演技をせずに芝居する」域に足を踏み入れられるのかなと思っているんです。

ただ、準備したからといって緊張してしまったり、「自分は、こうしたい」と芽生えた作為がなかなか払拭できなくて苦戦したりする場合もあって。準備したことを一度捨てて本番に臨むというのは、そのくらい難しいことですが、忘れずに心がけていることの1つではありますね。

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──そういう意味では、おそらく『ロストサマー』の芝居は難しかっただろうなと想像していて。というのは、セリフが高知の方言で構築されていたから、どうしてもアクセントやイントネーションを意識せざるを得なかったんじゃないかな、と……。

林:おっしゃる通りで、実際そこが大変でした。「ここでアドリブでひと言足して、新しいことを起こしてみたい」という気になっても、「でも……土佐弁では何て言うんだろ!? 言っちゃって大丈夫かな?」って躊躇してしまうという──。そういう事情から、『ロストサマー』ではセリフでのアドリブはあんまりないんです。ただ、方言を話すことによって役の輪郭がハッキリするので、スラスラと話せるようになっている自分をイメージしながら覚えていく時間は楽しかったですね。で、自分では完璧のつもりで本番に臨んでみたら、中澤(梓佐=メインキャストの1人・春役にして『ロストサマー』のプロデュースを手がける。高知出身で、方言指導も担当した)さんから「全然違う」とダメ出しされて、「うわっ、マジか……」って落ち込むという(笑)。イントネーションを直すことはできても、芝居になるとまたニュアンスが変わってきてしまうので、そういった面で苦労しました。

──意識下から離れた芝居をしたいのに、意識下に置く必要がある……みたいな矛盾を抱えている、と?

林:だからこそ、地方が舞台の作品で準備に時間を掛けられる場合はできる限り事前に現地に入って、住んでいらっしゃる人たちとたくさんお話をすることで、“生活の中で生きている言葉”を身につけることが大事なんだな、と今回の作品では実感しました。

「100%の気合いを監督の作品に寄り添わせることが大事」

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──確かに……。なお、『ロストサマー』の麻美監督の演出や言葉で、印象に残っていることはありますか?

林:麻美さんはありがたいことに、僕のやることに対して信頼を置いて、基本的には自由に演じさせてくださったんです。それを僕の芝居に対するリアクションや態度で示してくれたので、心強かったですね。カットが掛かった後に「よかった」「最高だった」と言葉を掛けてくれることが、フユを演じる上で力になったと言いますか……。なので、「ここはこういうふうにしてほしい」「ここは、こういう気持ちで」といった演出は、ほとんどなかったと記憶しています。すごく大事なシーンを撮ったとき、フォロー的な意味合いで少し言われたぐらいで、とにかく自由度が高い現場だったなという印象ですね。

──それはオーディションではなく、『草の響き』での芝居を評価されて、フユのイメージにピッタリだとキャスティングされたことも大きかったんでしょうね。

林:そうだったとしたら、ただただありがたい気持ちしかないですね……。

──ただ、役者さんの性(さが)として「演じたく」なってしまう、表現欲がむくむくと首をもたげてくる場合もあると思うんです。

林:確かにそこは難しいんですけど、自分はどの作品でも気合いを入れて取り組むことを前提としていて。気合いを入れることと自我を見せることは、意味合いが違うじゃないですか。僕の場合は100%の気合いを監督の作品に寄り添わせることが大事だと考えていて、その方向性で芝居をしていけば空回りしなくて済むのかな、と──けっして多くはない経験ながらも感じていたりもするんです。それは現場の環境だったり、監督やスタッフの方々、俳優部のみなさんとの関係値によって変わってもきますが……。

──「こういうことをすれば、盛り上がるんじゃないか」みたいに欲をかくと、かえって空回りする……的な感じですか?

林:要求されたら精一杯応えようとしますけど、それも準備をしていなければできなかったりするので、「もしかしたら、こういう要求があるかも」と予測して、こっそり準備をすることも必要なのかなと思ったりもします(笑)。
–{どんな生き方をしていても変わらない“人生の目標”とは?}–

どんな生き方をしていても変わらない“人生の目標”

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──そういった準備の段階で、林さんは台本にたくさんのことを書き込むといったこともするんですか?

林:僕は台本そのものに何かを書く感じではありませんが、余白のページに人物関係のことだったり、物語からは見えないような設定を勝手に想像して書き込むことはしています。その背景が色濃ければ役の深みも増していくと思うので。ただ、単純に書き込む量で言うと、僕はそんなに多くないほうだと思います。結構ホンを読み込んで、シーンを想像しては頭の中で反芻して……ということを繰り返す中で、どういう感情がわき起こるのか向き合ってみたり、自分の経験してきたことから似たようなことがなかったか探りながら役づくりをしていくので──。でも、そうやって準備したことをいかに本番では捨てて、その場に立てるかということになってくるので……いろいろと大変な思いをしながら芝居に取り組んでいます。

──ご自身なりのメソッドを話してくださったことに感謝します。これは、そもそもの話になってしまいますが、芝居の世界に入ったきっかけが現在の所属事務所で先に活動していた櫻井健人さんと、大学で知り合ったことだったそうで……。

林:知り合ったのはもっと早くて、高校でも同級生だったんです。ただ、芝居には興味があったので、大学で演劇学を専攻すれば「それしか道がなくなる」という思いで進学しました。選択肢が多いと楽な道に行ってしまいがちな性格なので……道を絞れば役者になるしかなくなると思って。その流れで櫻井に相談をしたら今の事務所を紹介してもらって養成所に入ることができた、というのがざっくりとした流れです。今、考えてみるとめちゃめちゃ運が良かったなって(笑)。

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──これを聞くのはナンセンスかもしれませんが、もし俳優になっていない世界線を生きていたとしたら、今ごろ何をしていたと思いますか?

林:どうしていたのかな……? 大卒1年目の年齢なので、就職して社会人としてがんばっている周りの友達から話を聞いたりしたときは、自分がもし役者になっていなかったらどうなっていたかを考えることもあります。たとえば……僕の兄がバリバリに働いているので、負けないように張り合おうとしていたかもしれませんね(笑)。ただ、どんな生き方をしていたとしても人生の目標としているのは、「自分の家族を持って、幸せな家庭を築きたい」ことなので、そのためにもまずしっかり生活力をつけたいなと考えていて。だから、きっとがむしゃらに会社員としてがんばっていたのかな──と思いつつ、就職した人たちから「お前は俺たちの苦労を知らないだろう?」と言われてしまったら返す言葉がないという……。

──どんな仕事をしていても、相応に大変なことや苦労がありますよね。そこを踏まえて、役者さんという職業における喜びや幸せを、どこに感じますか?

林:個人的な感覚ですが、芝居を通して俳優さんや監督、スタッフの方々と交流するのが楽しいんです。会って間もない人たちと、その場でバッと世界観をつくりあげていくことに面白さを感じますし、その瞬間的な創造を切り撮って映し出してくださる方々がいて、見てくださる方々もいる──と思うと、すごくやりがいのある仕事を今の自分はできているんだな、と。映画を見て「よかったよ」「面白かったよ」といった評価や言葉も本当に励みになりますし、アドバイスをいただけることもありがたいと思っていて。それは発したものをちゃんと受け取ってくださったからこそ、返してくれるものがあるんだと考えているからなんです。それによって自分も頑張ろうと思えますし、生きる喜びにもなる。そういった辺りが、僕にとっての役者としての幸せですかね……。

林裕太の抱く、俳優としての理想像

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──その話の流れで『ロストサマー』の感想を言わせていただくと、だんだんフユのことが愛しくなるというか……チャーミングに思えてくるんですよね。特に、秋に心を開いたであろう瞬間を映した桂浜でのシーンで、一気にフユが好きになりました。

林:ありがとうございます(笑)。僕もあのシーンが大好きなのですごくうれしいですし、桂浜が美しかったのもあって、忘れがたいものになりました。ロケ地の高知は食べるもの全部美味しいのと人もみなさん優しくて、それだけですでに好きだったんですけど、ちょっとした自己催眠と言いますか……「フユはこの街で生きてきたんだ、ここで育ってきたんだ」って考えると、その地域に対して自然と愛着が増してきて、その地で生きてきた人間に近づける気がするんです。反対にスケジュールの都合などで東京にいったん戻らざるを得なかったりすると、やっぱり“住み続けてきた感覚”がリセットされてしまうんですよね。そういった……ロケ地にずっと居続けられることのありがたみを、『ロストサマー』では感じました。

──含蓄がある話です。それと……秋を演じた小林勝也さんはまさにレジェンドたる存在ですが、ご一緒したことでさまざまなことを感じられたのではないでしょうか?

林:勝也さんは、もう立ち姿からして素敵でした。79歳でいらっしゃいますが歩くのも速いですし、タバコもお酒もたしなんでいて、ご本人もすごく力強い方でいらっしゃって。演じてくださった秋という人物がフユの全部を受けとめて、なおもスクッと立っているキャラクターでしたが、勝也さんご自身に通じるところがあるように僕は思っていて。『ロストサマー』は若いスタッフさんが多い現場でしたが、勝也さんは温かい目で見ていらっしゃって、現場がどういう状況かを受けとめた上で僕たち若い役者に力添えしてくださったんです。その姿に安心感を覚えましたし……それは勝也さんだからこその安心感であり、そこに人としての魅力が詰まっているんだなと思いました。

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──小林勝也さんのような素敵な役者さんは1つの指標にもなり得ますが、林さん自身が現在抱いている理想像というのは……?

林:さっきも話題に上がりましたが、最初に出演した『草の響き』という映画で「演じない芝居」というものがあることを知って、それをモットーにやってきて今の自分がある、と実感していて。でも、ここ最近は作品を見ている人の目をちゃんと気にしないといけないことと、監督が求めていることに応えていくこと、ある程度の分かりやすさを落とし込んだ芝居をすることを、疎かにしちゃいけないなと思ってもいるんです。それと、技術をきちんと身につけることの必要性を感じてもいて。そこを意識し始めた当初は、自分が芝居でウソをついているような違和感を覚えたりもしましたが、「どうすれば真実味を帯びていくのか?」と考えて、悩み続けながらも芝居をしていくことで、スキルやテクニックによって芝居がウソになるわけじゃないことが体感的に分かってきた気がしていて。そういった技術を身につけた上で、本番ではいっさいを捨てて演じたり、ある程度チョイスして芝居に使ったり──と、完全に自分でコントロールできる俳優になっていきたいです。

──キャリアを重ねはじめた頃は感覚で芝居をしていた役者さんたちも、ある時期を経るとテクニックやスキルを身につけたい……と、お話になることが多い気がします。

林:理想としては、自分の持ち味とほかの役者さんたちの芝居における持ち味が、セッションを重ねるように混ざり合っていくことなんですが、それを能動的に楽しめる役者に自分がなっていけたら、最高だなと思っていて。巧くて、なおも良い芝居をできるようになりたいので……これからも精進します。

(ヘアメイク=七絵/撮影=Marco Perboni/取材・文=平田真人)
–{映画『ロストサマー』作品詳細}–

■映画『ロストサマー』作品詳細

10月13日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

出演

林裕太 小林勝也
中澤梓佐 廣田朋菜 関口アナン 椿弓里奈 土屋壮
豊満亮 細川佳央 奥津裕也 水嶋ミナ 萩原正道 吉牟田眞奈
橋野純平 松浦祐也

監督・脚本

麻美

プロデューサー

椿弓里奈 中澤梓佐 

企画・製作・配給

889FILM