<冴羽獠がずっと「いる」>『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』神谷明インタビュー

インタビュー

「俺を呼んだのは君だろ?」

2019年2月に公開された『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』。約20年ぶりの新作アニメーションながら観客動員100万人を超える大ヒットを記録し、『シティーハンター』という作品が世代を超えて愛されていることを証明してみせた。

それから4年の月日が流れ、9月8日(金)に最新作『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』が公開を迎えた。原作を知る人なら「エンジェルダスト」のサブタイトルにぴくりと体が反応するかもしれない。物語は主人公である凄腕の始末屋(スナイパー)・冴羽獠を語る上で欠かすことのできない彼の壮絶な過去に踏み込み、これまでのアニメシリーズで描かれることのなかった「海原神」がいよいよ姿を現す。

前作同様、今回もテレビアニメシリーズのオリジナルキャストが集結。冴羽獠役の神谷明、槇村香役の伊倉一恵、海坊主役の玄田哲章らお馴染みの面々に加えて、槇村秀幸役の田中秀幸が復帰したこともトピックのひとつ。また冴羽獠に依頼を持ちこむ動画制作者のアンジー役で沢城みゆき、そしてキーマンとなる海原役で堀内賢雄が新たに名を連ねている。

最終章に位置づけられた本作は、テレビアニメシリーズ、そして劇場版シリーズを通してこれまでにない重大な局面を迎えることになった。そんなターニングポイントとなる作品にどのような思いで向き合ったのか、冴羽獠役を務める神谷明からたっぷりお聞きすることができたのでご紹介しよう。
 

冴羽獠は「振り子」のようなキャラクター


──ついに原作の最重要人物・海原神が登場しました。本作の内容を初めて知ったとき、避けては通れないエピソードが描かれることについてどのような印象を受けましたか?

神谷明(以下・神谷):いよいよ核心に分け入ってくるんだ、という思いはありました。ただ実際にシナリオを読んでみて、背景では確かにその核心部分が流れているけど実際に海原が姿を現すのは後半部分になるんですよね。ストーリーの重要なポイントでありながら、最後は……というかたちで、とても上手なストーリーづくりになっていると思います。

アンジーのバックグラウンドにも実は重要な部分がありつつ、そんなに振りかざしているわけではないじゃないですよね。だから今回『シティーハンター』を初めて観る方にも、海原の出現によって物語の謎が解き明かされていくかたちになっているんです。いわゆる“核心”に入っていくというよりは、それを1本のドラマとして上手に作り上げたお話で、むとうやすゆきさんの脚本がとても良いなと思いました。

──前作も面白かったのですが、本作は振り幅がすごいですよね。前半はテレビシリーズの面白さが帰ってきたような、良い意味でとにかく昭和感に驚いて。それが後半のシリアスな戦いをよりドラマチックにしている印象でした。

神谷:そうですね。だから僕自身ももともと冴羽獠は振り子のようなキャラクターだと思っていて、それを楽しんでいたんです。今回は本当に振り幅が大きくて「大丈夫かな?」っていう思いもあったんですけど、気づかないうちにシリアスな方向へ上手に引きずりこまれていくというか、自然な感じですごいと思いましたね。

前半部分に関しては「よっしゃー! いつもの獠ちゃん!」という感じで演じさせていただきましたが、途中からは自分もその作品の中に取りこまれていくような感じでした。でも言ってみれば、それが『シティーハンター』の世界ですよね。シリアスなほうに向かって、グングングングン加速していった感じです。でも間にちょこちょこっとギャグではないですけどクスっとさせる部分があったりして、それも必要だなと。だから今回は全ての演出が上手いなあと思いながらやらせてもらいました。

──台本を最初に読まれたときにすぐにでも言いたい、アフレコしたいと思えるようなセリフやシーンはありましたか?

神谷:そういうふうには最初見てなかったんですよ。まず全体的なストーリーを見て、それから「獠が喋ってるかな」と確認しながら細かいところを見ていくんです。よく読んでいくと「このメインゲスト大変だぞ、誰がやるんだろう?」とか。あとアクションが非常に克明に文字で描写されていて、「これを絵で表現するのは大変だよなあ」みたいな、そんな方向から見ていました。

実は、僕は前作の「俺を呼んだのは君だろ?」っていうセリフが大好きなんです。今回も言いたかったんだけど、脚本を見たらなかったんですよ。それでちょっとわがままではあるんですけど、プロデューサーに「俺を呼んだのは君だろ?って言いたい」とお願いしたら台本に組みこんでくれて。大変申し訳ないことをしたなとは思うんですが、すごく嬉しかったですね。

──本作の予告編を見たときに「きた!」と思いました。あのセリフかっこいいですもんね。

神谷:それと台本をいただいたときに、表情やセリフの長さ、アクションといったものを入れた参考映像をいただくんです。その中に今回は部分的に音楽まで入っていて、「え?」って驚きまたしたね。普通は絵だけなんですけど、オープニングから曲が流れていてもう引きこまれるような感じで。途中途中に何曲か入って最後に「Get Wild」が流れて、なんだかジーンとしちゃいました。

絵についても普通の劇場用作品だと制作が同時進行なので、本来そんなにたくさん入ってはいないんです。でも今回は3分の2以上きれいな絵が入っていて、正直「うわ、マズい」と思ったんですよ。というのも、絵が入っているとセリフを口の動きに絶対合わせないといけなくなってしまう。ましてや劇場用ですから口が大きいじゃないですか。そういう意味ではすごく気を遣わなきゃいけないんです。でも収録のときに最初にディレクターの方から「口パクのあわせは絵を後で調整します」って言われて。やったー! という感じでした(笑)。

僕たちって「線画」といって動いてはいるけど色のついていない絵を見ながら収録することが多いんです。ただ、口の動きはセリフの音声に合わせて映像にしてくれるっていうのがあるんですよ。同時進行ですからね。それが今回は絵が完成しているものでも演技に合わせて絵を直してくれると言ってもらえたので、大変贅沢だなと思いながら吹き込みさせてもらいました。初めてですね、そんな贅沢をさせていただけたのは。

──とても興味深いです。ところで前作の感想になりますが、キャラクターみんながテレビシリーズとまったく変わらず帰ってきてくれて、感動すると同時にとても驚かされました。約20年ぶりに冴羽獠役に挑まれたわけですが、神谷さんの中にずっと冴羽獠が「いる」のでしょうか。

神谷:もうずっと! うんと若い頃のキャラクターはやっぱり無理はあると思うんです。でも実は自分で演じたキャラクターって、『うる星やつら』とか『めぞん一刻』とか、それ以降の役っていうのはすぐそのキャラになれるくらい自分の中では消化されている役なんです。

やっぱり年齢的なものがあって声の違いが若干出たりテンポがだんだん落ちたりしてきますから、そういう違いは意識していたんです。ただみなさんもそうだと思うんですけど、作品と向き合ったときに、バっと一堂に会してその声を聞くと懐かしくてね。前回の『新宿プライベート・アイズ』のときは演じる側の僕らも同じでじーんとしました。

だからメンバーが顔を合わせたときは、“元気さを喜び合う”という雰囲気がありましたね。それぞれの活躍はそれぞれで見たり聞いたりしていてわかってはいるけど、改めてスタジオで顔を合わせたときはやっぱり嬉しくて。声を聞いてもみんなそれぞれの役のままなんですよ。

実は前作のとき、「やるよ」って言われてから収録まで1年くらい時間があったんです。その間にそれぞれのやり方で、コンディションを整えてきたという話は聞きましたね。僕も前回若干の発音練習と滑舌の練習をやったんですけど、今回も同じくらい時間をかけて家で大きな声で歌ったり、言いにくい言葉を集めてしゃべってみたりっていうのはやっていました。
–{神谷明が「ずるい!」と思ったのは……}–

「賢雄ずるい!」と思いましたよ(笑)

──前作は完全なオリジナルストーリーで、今作は海原や獠の過去に触れられています。原作にある話とない話を描くという点がテレビシリーズを含めアニメ『シティーハンター』の特徴だと思いますが、原作あり・なしで演じる際に何か違いがあったり意識していることはあるのでしょうか。

神谷:演じる際に違いは特にありませんね。

ただ、前作の場合は「シティーハンターファンのために帰ってきたぞ!」という感じで音楽もつけられていたと思うんです。でも今回は、ファンはもちろん一般の方が観ても見応えのある作品に作り上げていただけたと思います。だから今回“も”自信を持っておすすめできる作品になりました。

でも原作を読んでいるファンにとって、今回の海原の登場シーンなんかも「これこれ!」っていう感じで出てくるんです。それでね、堀内賢雄さんの声がもうぴったりで! みんなもっていかれたような感じで(笑)。本当に憎んでも憎みきれないようなキャラクターなんだけど、魅力のあるキャラでもありますよね。いやあ~だからもうね、「賢雄ずるい!」と思いましたよ(笑)。見事に演じられているわけじゃないですか。やられたなあという感じで、素晴らしい演技でした。

それにアンジー役の沢城みゆきさん。アンジーも振れ幅が結構ありましたから、彼女も大変な役を見事に演じられて。敵役の関くん(ピラルクー役・関智一)や木村くん(エスパーダ役・木村昴)は言うに及ばず、ゲスト声優の山ちゃん(山里亮太)や世界さん(EXILE/FANTASTICS)に至るまでみなさん良かったですよね。キャスティングが素晴らしかったなって。そういう意味でもスタッフに感謝しましたね。これだけの素晴らしい作品ができたっていうのは、すべての部分で手を抜いていないということですから。

小室哲哉さんも改めて素晴らしい曲を作ってくれました。テレビシリーズをやっているときはお会いするチャンスがなかったんですけど、この4年間で何回か小室さんとお会いできましたね。それでお互い「『シティーハンター』に携わることができて良かったよね」っていう話をしていて。宇都宮隆くんともよく彼のコンサートに呼んでいただいておしゃべりするチャンスがありましたし、この4年間で一気にTM NETWORKのみなさんとの距離が縮まりました。

今回はすでに試写で何回か観ているのに全然観足りなくて。こんなに自分の作品を観たのは初めてです。いつもは「もうお客様のものだ、どうぞ」っていう感じで何度もは観ないんです。でも今回は自分でも楽しみたいというのと、絵や音楽、効果音やみんなの芝居を確認したいんですよね。1、2回では全然足りないんです。

試写会の前はすごく自信があったのに、だんだん不安に包まれて、次の日評判を聞いてまた胸を張ることができたというか。ものすごく良い手応えがあるのでいまはちょっと安心しています。あとは多くのみなさんに観ていただいて前回を凌ぐ興行収入を上げて、映画を作ってくださったスタッフのみなさんにも喜んでいただきたいという思いですね。
 

時代を超越して愛されるキャラクター

──『シティーハンター』は若いファンも多く配信サイトでアニメシリーズを追っている人もいると思いますが、「獠のことをこんなに好きでいてくれるんだ」と感じるようなエピソードはありましたか?

神谷:前作を親子で鑑賞したという方がいて、「いまは娘のほうがハマっています」という声をいただきました。あと『シティーハンター』をまったく知らなかった方が前作をご覧になって、改めてコミックスから全部読んで大好きになったという話も聞いてやっぱり嬉しいですよね。

僕としてはどの作品もそうなんですけど、リアルにそのキャラクターが存在するかのように思ってもらえることが最高の褒め言葉だと思ってやってるんです。

前回の『新宿プライベートアイズ』のとき、吹き込みが終わったあとでセリフのOKテイクが入った映像を見せてもらったんですね。ところが、テレビ放送当時に比べ少し声が低いことに気づきました。なので、冒頭部分をディレクターと相談して録り直しました。ですから、「待たせたな、オレを呼んだのは君だろ」は予告編と本編では声が違います。予告編では、最初に収録したセリフが使われていて……ちょっとドスが効いています。

──えっ、そうだったんですか! それは気づかなかったです……。

神谷:ほんの少しだけどテイストを変えているんです。今回はそういうことはせず、素直に自分の想像した冴羽獠の演技を、いわゆるひょうきんな部分も含めてやらせてもらいました。でもそうやって演じた冴羽獠を変わらず感じてもらえていることが嬉しいと思いますね。
–{「絶大な信頼感を持った相棒」について語る}–

槇村香は「絶大な信頼感を持った相棒」

──今作では槇村秀幸役の田中秀幸さんも復帰されて、ファンとしてそれも嬉しかったです。収録は別の部屋だったそうですね。

神谷:最初に顔合わせはしましたから、「やあやあ元気?」みたいな感じでおしゃべりはさせていただきました。秀くんとは『ドカベン』のときからずっと一緒にやってきたし、『キン肉マン』のテリーマンも演じてもらっていて。久しぶりに会ったんですけど懐かしくてね。槇村の声って包みこむような優しさがあって、秀くんそのものという感じなんです。たぶん槇村の「秀幸」っていう下の名前は、田中秀幸さんから取ったと思うんですよね。なんだか秀くんは会うと幸せな気分にさせてくれる方なんですよね。

──神谷さんがおっしゃるように田中さんの声には包容力がありますよね。とても柔らかくて優しい感じがします。

神谷:それに上手いしね。海坊主役の玄田さんもそうなんですけど、長いこと一緒に仕事をできているっていうことが嬉しいです。

──本作の中で海坊主と美樹が獠と香の関係に言及する場面があります。獠に一番近い神谷さんからふたりの関係はどのように見えているのでしょうか。

神谷:作品の中でもずいぶん描かれてはいるんですけど、いまの獠ちゃんっていうのは「もっこり!」とか言っているときも全部香がいるんですよね。香がいるからこその獠ちゃんのもっこりシーンだと思うし、闘っているときでも香がちゃんと後ろにいてくれる。もしくは香がいるから自分が傷ついたり死んだりすることはできない。やっぱり香との関係性っていうのは、作品を観ていて若干曖昧さを感じるかもしれませんけれども、おそらく獠としても絶大な信頼感を持った相棒だと思っていますね。

だから逆に言うと、きっかけさえあればもっと親しい関係になる。でもあのギリギリの線をお互い楽しんでいると思いますね。今回もお台場の観覧車に乗ってもっこりというシーンがあって、ここなら絶対来ないよなと思っていたらハンマーを持って来ましたからね(笑)。

──びっくりしました。観覧車の外から来ましたもんね(笑)。

神谷:期待を裏切らない間柄でもあるというか、そういうところがあるから獠ちゃんも遊べるっていうのかなあ……。間一髪でそれ以上いったことがないですから。だからもっこりシーンがあってもファンの方は獠ちゃんのことを大好きでいてくれるんじゃないでしょうか。

──今回の収録にあたって北条(司)先生とお話しになったり何かやり取りされたりはありましたか?

神谷:去年の12月にプライベートでもお目にかかってるんですけど、作品についての話は全然なかったですね。

普段から「北条先生」ではなく「北条さん」と呼んでお話しさせてもらっているんですけど、意外と北条さんとはお互いにテレビシリーズの頃から何も言わないんですよ。対談とかはしたんですけど、前作をやるにあたってもあまりお話ししませんでしたし。でも前作が大ヒットしたとき、北条さんとこだま(兼嗣)さんが素晴らしい笑顔をされていたんです。それがいまでも忘れられないですね、「ああ良かった」って。

──近すぎて、というのもあると思いますが信頼関係がすごいですね。

神谷:こだま総監督もそう。何も言わないですよ。言わずもがなというのかな、その信頼関係っていうのがそれぞれにありますね。

今回監督を務められた竹内一義さんも素晴らしい監督です。こだま総監督は作品全体を俯瞰で眺める役で、本編全体は今回竹内監督がやってくださったんですけど素晴らしかったです。

──前作も本作もテレビシリーズのテンションと新しいものの配合といいますか、バランスの良さに驚かされました。

神谷:僕の中ではイメージがずっと保たれているんですけど、本当にそうかといわれるとちょっと不安になるじゃないですか。でも前回も今回も台本を見た段階でポンと入っていけたのは、脚本を書かれたむとうやすゆきさんと加藤陽一さんの“シティーハンター大好き”っていう思いがあったから安心して飛び込めたのかなって思います。

テレビアニメシリーズは1987年に始まりましたけど、恵まれていますよね。だって「やりたい」と思っても36年後にできないですよ。だからどちらかというと、作っていただけたことが嬉しいですし。これが『シティーハンター』が持っている素晴らしい力だろうなと思います。

──ファンとしても同じ思いです。前作もそうですし、こうやって続編まで作っていただけたことが本当に嬉しいです。

神谷:アニメーションは総合芸術ですから。大成功を収めて、作ってくださったスタッフのみなさんと喜びを分かち合いたいですね。

──それでは最後に、シティーハンターファンへ向けてメッセージをいただけますか。

神谷:前作に引き続き、今回もみなさんの期待に違わぬ作品を作ることができたと思います。でも大元をたどれば、みなさんの応援があったからこそなんです。応援してくださるみなさんが観てくれたからこそ今回があったわけですから。そして今回も、その期待に違わぬ作品を作ってくれたからこそ僕はここに居るとも思っています。ぜひこれからも『シティーハンター』をよろしくお願いします!

(撮影・取材・文=葦見川和哉)
–{『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』作品情報}– 

■『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』作品情報

9月8日(金)全国ロードショー

出演者

冴羽獠:神谷明  槇村香:伊倉一恵
槇村秀幸:田中秀幸 野上冴子:一龍斎春水 海坊主:玄田哲章 美樹:小山茉美
来生 瞳:戸田恵子 来生 泪:深見梨加 来生 愛:坂本千夏
ピラルクー:関 智一 エスパーダ:木村 昴
アンジー:沢城みゆき 海原 神:堀内賢雄

原作

北条 司

総監督
こだま兼嗣

監督

竹内一義

脚本

むとうやすゆき

キャラクターデザイン

高橋久美子 北澤精吾

美術

谷口淳一

色彩設計

久力志保

CG監督

五島卓二

撮影監督

齋藤真次

編集

今井大介

音楽

岩﨑琢

音響監督

長崎行男

音響制作

AUDIO PLANNING U

制作

サンライズ アンサー・スタジオ

配給

アニプレックス

主題歌アーティスト

TM NETWORK
オープニングテーマ「Whatever Comes」
エンディングテーマ「Get Wild」

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