『禁じられた遊び』が2023年9月8日(金)より公開中。タイトルから1952年のフランス映画を思い出す方もいるかもしれないが、そちらとは無関係。作家・清水カルマのデビュー作である同名小説の映画化作品となっている。
結論から申し上げれば、これは面白い!しっかり怖い!エンターテインメント特化のホラー映画のひとつの「正解」とすら思えた出来栄えであるし、怖い映画に慣れていない若い方にもおすすめできる内容だった。
かつて『リング』で一世を風靡した中田秀夫監督による直近のホラー映画は、『事故物件 恐い間取り』と『“それ”がいる森』が連続して厳しい評価が寄せられた(個人的には爆笑シーンがあったので大好き)が、今回は「意外と」と言うのも失礼なほど、存分に楽しめる方のほうが多いはずだ。その理由とさらなる魅力を記していこう。
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1:これは「ホラー版ハガレン」!2つの視点で進行する物語が面白い!
あらすじはこうだ。幸せな生活を送っていた会社員の伊原直人(重岡大毅)は、突如として愛する妻・美雪(ファーストサマーウイカ)を事故で亡くしてしまう。直人の元同僚である映像ディレクターの倉沢比呂子(橋本環奈)は、その直人の一軒家で、事故から奇跡的に生還した息子の春翔(正垣湊都)と出会うのだが、彼は庭の盛り土に向かって奇妙な呪文を繰り返し唱え続けていた……。
妻を事故で失った会社員の境遇はそれだけで同情を誘うものだが、さらに息子の「死んだ母親に会いたい」という“純粋”な願いをきっかけに恐ろしい出来事が起こる。初めは不可解な電話が鳴る、グラスが突然割れるといったものから、明らかに死の危険すらある恐怖に、“元同僚の映像ディレクター”が遭遇するのだ。
こう書くと、「え?その人、元同僚っていうだけじゃん。なんで関係ないのに襲われるの?」と思うことだろう。実は、それこそが物語のミソ。息子の願いによって蘇った女性・美雪の行動の不可解さそのものが恐ろしいし、その「なぜ」を解き明かす過程こそがミステリーとして興味を引くし、切なく共感できるドラマにもついながっているのだ。
同時に、本作は「W主人公」かつ「2つの視点が同時に進行する」という物語構造を持っている。一方は妻が蘇るという異常な事態にひたすら憔悴していき正常な判断ができなくなっていくが、もう一方は冷静かつ客観的に問題の解決を目指していく。どちらの心情にも感情移入がしやすいし、それぞれの視点があってこそ真相に近づいていく様が興味を引く。純粋に「話の面白さ」を期待しても裏切られることはないだろう。
また、「少年が母親に会いたいという願いを持ち、死者を蘇らせるというタブーに触れ、大きな代償を払う」という物語の発端から、漫画「鋼の錬金術師」を連想する方もいるはず。
「『禁じられた遊び』はホラーへ振り切ったハガレン」と言っても、決して過言ではない。
2:霊媒師と弟子のコンビが大活躍!笑ってしまうほどのインパクトも楽しもう!
その話の面白さに加えて、本作は派手な見せ場が多い!ジャパニーズホラーは「じわじわ」と来るタイプの怖さを打ち出したことが多く、後述する『スイート・マイホーム』のように成功している例もあるのだが、今回は良い意味でお化け屋敷っぽくも思える、見た目にも楽しいギミックが満載の、やはりエンターテインメントに全力投球したつくりなのだ。
個人的に大好きだったのが、うさんくさい霊媒師とその弟子がほとんど特撮もののヒーローのように、呪文を唱えつつ、決めポーズ(?)もしつつ怪異に立ち向かっていく様。特に金髪でホスト風の弟子の姿は、白石晃士監督による快作ホラー映画『カルト』のオマージュに思えたし、その後の強烈なインパクトを残す活躍も含めて大好きになれたのだ。
ここはマジメなホラーを求める方はガッカリしてしまうかもしれないが、個人的には笑ってしまうほどのケレン味があって大好物。いっそ「笑えるホラー」だと割り切って観ることをおすすめしたい。
さらに、PG12指定なだけあって(過度の直接的な残酷描写は避けてはいるものの)なかなかにショッキングな恐怖シーンも待ち受けている。その容赦のなさがあってこそ、尋常でない“呪い”に立ち向かって行く主人公に同調できるので、間違いなく必要な描写だった。
さらに優れているのは美術。特に物語の発端となる一軒家で、「正常な生活ができなくなってしまう」様がリアルに描写されていたことにゾッとさせられた。とにかく、「見た目にも怖いし楽しい」ことは本作の大きな美点だろう。
–{「らしくない」様も含めてハマっている橋本環奈と重岡大毅}–
3:「らしくない」様も含めてハマっている橋本環奈と重岡大毅
本作の目玉は、やはり橋本環奈と重岡大毅のW主演。誤解を恐れずに言えば、この2人が良い意味で「らしくない」「そうは見えない」様も含めて、とても役柄にマッチしていたと思うのだ。
何しろ、橋本環奈が演じる映像ディレクターは、劇中では新進気鋭だからこその話題を集めていながらも、その仕事や人生の方向性にも迷っている役柄。橋本環奈は映像ディレクターというにはあまりに若くて可憐に見えるし、重くて大きいカメラを携えている様にどこかギャップを覚えるからこそ、むしろこの「落ち着いていない」役柄にはハマっていたのだ。
重岡大毅も声と見た目が年齢よりも若く見える方なので、良い意味でお父さんという役に慣れていないようにも、少し頼りなく思える場面もある。このことが、息子に迂闊なウソを教えてしまったり、蘇った妻に対してひたすらにうろたえてしまうといった、ちょっと情けなくもある役柄にピッタリ。
そして、朗らかな印象のある重岡大毅が、本気で憔悴しているように見える、いや常軌を逸していくようにも思える様には、恐怖と同時に切なさも覚えたのだ。
さらに、橋本環奈と重岡大毅それぞれの恐怖におののく演技は真に迫っていて見事。それまで迷いや情けなさを見せていたことがギャップになり、いざという時の言動が実にカッコよく思える場面もある。2人の新たな一面と魅力に気づけることは間違いない。
4:影の主役、それはファーストサマーウイカだ!
そして、影の主役と言えるのがファーストサマーウイカ。バラエティ番組で見かけるサバサバしたキャラクターとはまったく真逆の、そこはかとなく嫉妬心を見せる様からは“執拗”と“陰湿”という印象さえ持つ上に、どこにでもいる“普通”の豊かな人間味を感じさせる、とんでもない表現をしていたのだから。
さらに、見た目からおどろおどろしい、新たなアイコニックなホラーキャラクターと言える“美雪”を演じるにあたって、スタッフは毎回4~5人掛かりで4時間かけて特殊メイクを施したという。ファーストサマーウイカは撮影現場を楽しんでいた一方、衣服が擦れてメイクが取れてしまわないように最小限の羽織りだけを着ていたり、メイクのやり直しにならないようにトイレをできるだけ我慢したりと、フィジカル面での苦労を語っていた。
その甲斐あって、特に終盤では文字通りに“体当たり”と言える、ファーストサマーウイカの渾身の演技および、2度とは再現できないであろう見せ場を作り出すことに成功している。前述した橋本環奈と重岡大毅が素晴らしいことを前提して、その2人を上回るほどのインパクトにも期待してほしい。
他にも豪華キャストがそれぞれの持ち味を生かしていて、個人的にツボだったのが女性の部下に最悪なアプローチをしてくる上司役の新納慎也。『セフレの品格(プライド) 初恋』の時と同様の役柄というのも面白いし、やはりイヤな役が似合う方だと再認識した。
【インタビュー】『セフレの品格』城定秀夫監督インタビュー「そういう人たちもいるんだよ」が伝わればいい
5:仕掛けに気づける?それとも驚く?サービス満点のクライマックス!
本作のさらなる魅力は、実はネタバレ厳禁。クライマックスにはとある“仕掛け”があり、その伏線の回収の見事さも含めて感動すら覚えたのだ。このオチに至るまでのヒントはしっかり散りばめられているので、カンの良い人であれば気づけるかもしれないが、筆者は良い意味で気持ちよく「騙された!」と思うことができた。
しかも、そのクライマックスの見せ場こそが、やはり派手でサービス精神満点。(人によっては)良い意味で笑ってしまうほどの、もはや痛快ですらある仕掛けを楽しんでほしい。
おまけ:この秋のホラー映画の激突を見逃すな!
最後に、現在上映中のホラー映画が、この『禁じられた遊び』以外も大渋滞しているので、それぞれの魅力も簡潔に示していこう。
『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』(9月8日より上映中)
ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』の一編を映画化。船上のモンスターバトル映画としてマジメに作り上げていて面白い。
ホラーに振り切った『タイタニック』とも言えるし、船版『鬼滅の刃 無限列車編』的でもある。コロナ禍の最初期のクルーズ船の出来事を思わせるところもある。
『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』(9月8日より上映中)
白石晃士監督によるカルト的な人気を誇るフェイクドキュメンタリー『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズの8年ぶりの新作ながら、そちらを観ていなくても問題なく楽しめる。
どこかの大ヒットインディーズ映画で観たことがある気がする廃墟+αを舞台に「ええ?こんなことも!?」「あ、あんなことも!?」と驚く楽しい仕掛けが78分にぎゅうぎゅうに詰め込まれている。基本的に攻撃方法は物理。
『スイート・マイホーム』(9月1日より上映中)
同名小説を映画化した、観た後は確実に一軒家を購入したくなくなるホラー。静かに展開するからこそ「何かがおかしい」様がじわじわ来るし、あの窪田正孝の表情が脳にこびりついた。しっかり伏線を張り巡らせた物語の面白さ、映画館で映える演出を打ち出した斎藤工監督に拍手。
【インタビュー】『スイート・マイホーム』齊藤工監督と原作者・神津凛子が語るクリエイション。
それぞれベクトルが異なるホラー映画が楽しめる、今の映画館はもう「祭り」状態なのだ。秋にさしかかり涼しくなりつつある今こそ、ぜひスクリーンで恐怖をたっぷりと堪能してほしい。
(文:ヒナタカ)
▶︎『リング』『事故物件 恐い間取り』……中田秀夫監督作品を観る
–{『禁じられた遊び』作品情報}–
『禁じられた遊び』作品情報
ストーリー
「トカゲはね、尻尾が切れても、また生えてくるんだ。」
「本当?じゃあ、この尻尾からまたトカゲが生えてくるの?」
「ああ。土に埋めて、おまじないするとまた生えてくるんだよ。」
微笑ましい親子の日常。庭に響く、少年の唱えるおまじない…それは、他愛ない冗談のはずだった。が、そんな幸せな日々が一転――家族に悲劇が起きてしまう。映像ディレクター・倉沢比呂子は、かつての同僚である伊原直人の家で、庭の盛り土に向かい、不可解なおまじないを唱え続ける直人の息子・春翔を目撃する。謎の呪文、トカゲの尻尾、指、白い影、蠢く盛り土、封印された家…そして彼女の身に異常な現象が起こりはじめる。それは、子どもの純粋な願いによって解き放たれた災いだった。
この庭には、何かがいる。
最凶の禁忌が比呂子と直人に襲いかかる!
果たして、2人はこの迫りくる恐怖から逃れられるのか――?
予告編
基本情報
出演:
橋本環奈 重岡大毅(ジャニーズWEST)
堀田真由 倉 悠貴 正垣湊都 猪塚健太 新納慎也 ・ MEGUMI 清水ミチコ
長谷川 忍(シソンヌ) ファーストサマーウイカ
監督:中田秀夫
公開日:2023年9月8日(金)