松岡茉優主演の“土10”ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」が2023年7月15日放送スタート。松岡茉優演じる高校教師・九条里奈が、卒業式の日に教え子から突き落とされ、殺されてしまった。次の瞬間、彼女は1年前の始業式に戻る。自分を殺したのは誰なのか、30名の生徒=容疑者を前に、犯人探しと“最高の教育”を目指す1年が始まる。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
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もくじ
※話数は随時更新します。
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
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鳳来高校3年D組の担任教師・九条里奈(松岡茉優)は、涙一つ流れぬ卒業式を迎えていた。様々なハラスメントや人間関係に配慮が必要なこの時代に、そしてたった一つのミスが人生を180度変えてしまうこの時代に、九条は教師としてただただ適切な距離と適切な判断を選ぶだけの1年を過ごした。そんな1年に感動や感傷の想いはない。そこにあるのは無事に1年を終えたことに対しての『安堵感』だけであった。巣立つ生徒を上階の吹き抜け廊下から見つめる九条。青く澄んだ空を見つめ、心にある葛藤を吐き出すように溜息をもらし、職員室へ戻ろうとした、——— その時。九条の背中に強烈な衝撃を受ける。
上階から落下する九条。慌てふためく中、その視界に入ってきたのは、自分の背中を押したであろう何者かの『生徒の手』であった。その 『犯人の手元』には“D組 卒業おめでとう”と記された深紅のコサージュが。『……私は生徒に殺された』。そう理解し正に地面に着きそうになった……その瞬間、——— ハッ!と目を開けると、なぜかそこは3年D組の教壇の前であった。目の前には30人の生徒。黒板には『令和5年4月6日』という1年前の始業式の日付。笑顔でクラスメイトと会話をする生徒たちを見て……九条の手は震える。なぜなら、今九条の目に映る人々は——— 1年後、自分を殺す『30人の容疑者』だからだ。
自分の『死』の未来を変えるため、生徒との向き合い方を改めていく九条。しかし、教師の想いを生徒に届けるということがとても難しいこの世の中に、九条はある『覚悟』を決めることとなる。自分を殺した生徒は誰か。そしてこの1年の中で『離婚』をすることになっていた夫との関係、友人関係や職場の人間が織りなす空気。九条の人生の中に存在する全てと立ち向かう二度目の1年が、今始まる。あなたが聞きたかった言葉、巡り合いたかった人は、きっとこのドラマの中に居る。
第1話のレビュー
終盤で菅田将暉が歌う主題歌が流れてきた瞬間、彼が主演を務めたドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です」が思い出された。あのドラマが放送されたのは2019年、日テレ系列だった。世の中がコロナ禍一色になる以前だったことを考えると、たった3年ですべてが様変わりしたようにも感じられる。
しかし、人の心や行動原理は、そこまで変化しないのかもしれない。
舞台は鳳来高校。教師の一人・九条里奈(松岡茉優)が卒業式の日に、突き落とされ転落死する。しかし、彼女が地面に衝突する直前に、時間が巻き戻った。彼女がもう一度、自我を取り戻したのは……一年前の始業式だった。
自分を突き落とした腕に「3年D組卒業おめでとう」の紋章が見えたことから、容疑者は目の前に並ぶ30名の生徒に絞られる。意地悪く突っ込んで考察しようとすると、ただ3年D組の紋章をつけていただけで、真犯人は別のクラスの人間であることも考えられるが(そもそも、生徒じゃない可能性も)……。
九条は、ふたたび1年後に殺される羽目に陥らないよう、3年D組の生徒と向き合い“最高の教師”になることを宣言する。
1話のテーマは、生徒の一人・鵜久森叶(芦田愛菜)をめぐる“イジメ問題”だ。
そもそも3年D組は、いわゆる「掃き溜めクラス」と称されているほど、問題児が集まるクラスとされている。そこに、真面目に勉強をしており学業成績も良い鵜久森が在籍している背景は明かされていない。今後、その点はフィーチャーされるのだろうか。
鵜久森がイジメに遭うきっかけとなったのは“とある趣味”だそうだが、そのきっかけやイジメがエスカレートする過程も含め、しっかり説明されている割には引っかかるポイントもある。
キービジュアルに九条と鵜久森が並んで映っているのを見る限り、このドラマは彼女たちがタッグを組み、3年D組の他の生徒たちに“一矢報いる”物語なのだろう。だからこそ、視聴者には「彼女たちに感情移入し、彼女たちを応援したいと思えるトリガー」が必要だ。
今のところ、鵜久森がキャラ変し、九条を裏切る可能性も十分にある。このドラマの公式サイトも、巧みに決定的な情報を隠す仕様になっていることから、すでに1話の各所に伏線が仕込まれていると見て間違いないのでは。
今のところクラスのリーダー格は相楽琉偉(加藤清史郎)、ならびに西野美月(茅島みずき)だろう。くわえて、クラスの監視役など使いっ走りをさせられていそうな、瓜生陽介(山時聡真)や星崎透(奥平大兼)も、後々、物語に深く食い込んできそうだ。
まだ1話、されど1話。今の時点で抱く、各キャラクターに対する印象は、早ければ2話で逆転してもおかしくはない。
松岡茉優、そして芦田愛菜の表現力がこれでもかと迸った1時間だった。聞かせる長台詞、飽きさせないテンポや画面演出、考察しがいのある構成。そして、今この時代だからこそ、ドラマというエンターテイメントを通して社会に発する必要のある“メッセージ”が詰まっている。
私たちは、短絡的に反応する動物ではない。人間であるためには、どんな態度が、どんな向き合い方が求められるのか。2019年にも提起された問題が、ふたたび私たちの目の前に置かれた。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
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「私は、何でもします」——— 3年D組全員が心の底から笑って卒業できるように、そして自分自身が1年後“生徒に殺されないため”に、この教室を変えなければならない…強い覚悟を持って『2度目の1年』に臨む高校教師・九条里奈(松岡茉優)。
前回の人生で寄り添うことができなかった生徒・鵜久森(芦田愛菜)に起きていた仕打ちを文字通り“何でもして”暴きだした九条は、教室に一つの変化の兆しを与えたのも束の間、夫・蓮(松下洸平)から離婚届を突き付けられてしまう。理由も分からないまま離婚を受け入れた前回と同じ轍は踏みたくないと思う九条。でも一体どうすれば…。思い悩む九条を、突如、目出し帽をかぶった男たちが襲う!彼らの目的とは…!?
一方、3年D組の教室は週明けから様子が一変。今まで鵜久森を無視していた生徒たちが、何事もなかったように笑顔で鵜久森に話しかけてくるのだ。奇妙なほど『普通』な教室の空気…。そんな中、親の借金に苦しめられている瓜生(山時聡真)の『ある瞬間』が気になった九条は家庭訪問と称して瓜生のアパートに乗り込む。そこで九条が見た光景は——— 。お金の価値、友情の真意を問う、涙の授業が始まる———
第2話のレビュー
必ず題材になるだろうと思っていた、いわゆる「毒親」エピソード。今回のメインキャラとなる瓜生陽介(山時聡真)は、14歳の頃からバイトをし、その給料をすべて家に入れていた。母親はあからさまに無職(または水商売か)で、息子の陽介が持ってくる現金を高い化粧品や洋服につぎ込んでいる。まだ小さい弟が二人いるにも関わらず。
前回、瓜生は九条里奈(松岡茉優)から現金を騙し取っていた。金のことで困っているのは、あながち嘘ではなかったのだ。
九条は「なんでもする」最高の教師だ。西野美月(茅島みずき)らによる、鵜久森叶(芦田愛菜)へのイジメ行為は、表面上、落ち着いている。しかし、瓜生を取り巻く不穏な動きを、わかっていて見過ごす九条ではない。放っておいたら、一年後の卒業式の日、殺されてしまうかもしれないのだから。
家のこと、金のことで困っている瓜生に対し、九条は「そうやってずっと待つんですか?向こうが変わってくれることを。そんなに大人なんて、期待できる存在ですか?」と説得。瓜生の母親にも対峙し、変な小細工はなく、真正面から問題に向き合った。
瓜生は悩んでいた。困っていた。14歳の頃からアルバイトをし、稼いだ金はすべて母親に渡していたが、それが家族のために使われることはない。母親の化粧品や洋服、果ては知らない男のために消えていた。そんな現状に、ほとほと困り、それでも何も言えずにいた。相手が母親だったからだ。
“愛する息子たち”のために、母親=大人が変わってくれることを、心のどこかで期待していたのだろう。
九条が言い放った「大人なんて、期待できる存在ですか?」は、もちろん瓜生の心も動かしただろうが、むしろ大人の側にこそ刺さる言葉ではないだろうか。「子どもの手本になれる生き方をしています!」なんて堂々と言える大人が、どれくらい存在するか知れない。
母親に対し、言いたいことは言えたのか、と九条から問われた瓜生は、最後の最後でようやく決壊した。「許すわけねえだろ!俺のほうが!あんたのしてきたこと全部!」「許さない、絶対に許さない」と涙ながらに訴える瓜生の姿は、早くもこのドラマの名シーンとして語り継がれることになるはずだ。
問題は簡単には解決しない。ドラマだから、綺麗に終わりがついたように見えてしまうが、この母親が改心するかは断言できない。瓜生が決死の覚悟で伝えた思いも、なかったことにされるかも知れない。
それでも、瓜生は許さなくていい。母親がしてきたこと、されてきたことをひっくるめて「ずっと許さない」選択ができる。そして、母親を許さないと決めた彼は、鵜久森に許されない。“被害者”であるからといって、“加害者”である立場は消えないからだ。
手を染めた悪事はそう簡単に消えてくれない。背負った責任から逃れるのではなく、その重みにどう耐え続けるか、難しさと覚悟を提示するドラマだ。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
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「九条里奈を殺害する」——— 3年D組の黒板に九条(松岡茉優)への殺害予告が書き込まれ、学校は騒然となる。野次馬が現れ、教員室も慌てふためき、誰もが口にした。『犯人は一体誰なのか……!?』と。D組の面々は相楽(加藤清史郎)たちを疑うが、相楽はそのことを否定。生徒たちもその犯人については誰も分からないままで——— 。
一方、九条はその犯行の様相から自身に殺害予告を行ったと推察した『ある生徒』の前へと立ちはだかる。そして、その生徒へと真っすぐに告げる。「あなたがこの現状を変えたいのならば……『何でもする』」と。
一方の相楽たちは、この殺害予告が何者かに大々的に行われた形跡から既に教室への監視カメラの起動がストップされていることに気づく。そして、生徒同士の目論見により、『九条里奈担任はく奪』の嘆願書を取りまとめ、九条を教室から追放することに成功する。九条は、学校に居られなくなったことにより、この問題を解決するために鵜久森(芦田愛菜)を信頼する味方として『頼る』と宣言。その想いを受け取った鵜久森は、勇気を抱き、『ある行動』を開始する——— 。
諦めることを、想像することを、やめる覚悟はあるか——— 。教室を追われた九条の魂の授業が始まる!!
第3話のレビュー
九条(松岡茉優)に殺害予告を出したのは、工学研究会の部員である眉村紘一(福崎那由他)と日暮有河(萩原護)だった。てっきり相楽琉偉(加藤清史郎)を中心とする一派の仕業かと思っていたところへ、まさかの展開。
なんでもする、と腹を決めた九条は、起こった問題をなあなあにはしておかない。さっそく二人を呼び出し、理由を聞く。
眉村と日暮は、ふつふつと不満を溜め込んでいた。九条がおかしなことをしたせいで(教室にカメラをつけるなど)、彼ら工学研究会の部室に相楽たちが入り浸るようになってしまった。好きなものに没頭できる聖域のような場所が侵害されれば、誰でも気分は良くないだろう。
彼らは、その恨みを相楽たちではなく、“おかしなことをした”九条に向けたのだ。黒板に大きく殺害予告を書けば、誰かしら行動を起こしてくれる。おかしくなった日常が、元に戻る。
九条は言う。なぜ、誰かがどうにかしてくれるのを待つばかりなのか。なぜ顔と声を出して、九条自身に直接意見を言わなかったのか、と。眉村・日暮は返す。「僕らなんかが声をあげても、勝手なことをするな、調子に乗るなと攻撃されるからです」と。
彼らは諦めている。声なんかあげたって無意味で、行動すればするだけ痛い目を見ると。そんな彼らに九条は「僕らなんかと、自分を下に感じるその順番は、一体どこにあるんでしょうか。少なくとも私の目には、お二人の順番を示す数字など、どこにも書いてあるようには見えません」と真っ直ぐに伝える。
学校は特殊な場所だ。年齢が一緒というだけの人間たちが十把一絡げにされる。育ってきた環境も、物事に対する考え方や趣味嗜好も違う生徒たちが、同じ箱に入れられ同じ教育を受ける。問題が起きないほうが不思議なのかもしれない。
クラス内ヒエラルキーも、よくよく考えれば不思議なものだ。目には見えないのに、そこには確実に、ある。教室に入った瞬間に肌で感じる格差、階級。眉村と日暮が感じる「俺らなんて」といった諦めは、そういった“言葉にできない空気”から醸成されたものだ。
九条からの言葉を受け、眉村たちは少しずつ気づき始める。
なぜ自分たちは、こうも遠慮しているのか。入学当初はクラス内のヒエラルキーなんて感じなかった。交流していくうちに少しずつ、気づいたら、いつの間にか、“それ”は確実にあったのだ。
「あいつら、勝手に楽しくしてりゃいいじゃん」「なんでわざわざ俺らの邪魔して笑うんだよ」……この気づきがすべてで、九条の言葉が引き金となる。
「あなた方にとって、彼らに嫌われるということは、そんなに嫌なことなんでしょうか?」
九条は言う。自分を蔑ろにした人間を尊重する理由はどこにあるのか? 人に嫌われることは、時に傷つくこともある。けれど、そんな人間がどこで何をしているかなんて、知りもしない日々が訪れる。
眉村たちは、これ以上余計なことをすると「ネクスト鵜久森(芦田愛菜)」にするぞ、と相楽たちに脅されていた。しかし、反対に、お願いだから自分たちをちゃんとハブってくれ、と土下座までして請うた。相手も会話もせずに、関わらないでくれ、と。
本来であれば、気が合わない人間同士なんて、必要がない限りは関わり合わずに生きていったほうがいい。なかには「価値観の合わない相手の話を聞くことで、人間性が磨かれる」といった考え方もあるが、気の合う人間同士でだって人間性は磨こうと思えば磨けるのではないか。
無視してくれ、関わらないでくれ、と懇願された相楽たちの表情は、なんとも形容し難いものだった。ふと、ドラマ化もされた漫画「ミステリと言う勿れ」内に出てくる、とある話が浮かぶ。イジメ問題における“加害者”と“被害者”のうち、心のケアが必要なのは前者のほうである、と。
そう考えると、もっとも心のケアが必要なのは相楽だろう。クラスのヒエラルキーの頂点に立ち、他の生徒を見下し、何事も思い通りにならないと気が済まない。十中八九、彼は家庭に何かしらの問題を抱えているはずだ。
関わらないでくれ、と頼まれた相楽たちは、今後どんな動きに出るのか。眉村や鵜久森らに働きかけるほど、彼らに自ら積極的に“構っている”ことになってしまう。それはきっと、相楽自身のプライドが許さない。プライドをこじらせた彼が、これ以上深みにハマらないことを祈る。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
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「私……今、2周目の人生なんだ」——— 九条(松岡茉優)は、離婚の話を撤回してくれた夫・蓮(松下洸平)にこれまで自分が体験した『2週目』の人生を打ち明ける。とは言え、こんな話を簡単に信じてもらえるわけがない……そう思っていたが、蓮の口からは意外な言葉が飛び出てくる——— 。
それから1か月、3年D組には静かな時間が流れていた。鵜久森(芦田愛菜)は東風谷(當真あみ)と阿久津(藤﨑ゆみあ)と仲を深め、ついに週末に一緒にお出かけをすることに。鵜久森の周りは緩やかに良い変化を見せ始めていた。その光景にイラ立つ西野(茅島みずき)たちのグループは、九条の担任変更に失敗してからというもの、次の一手を出すこともできず、相楽(加藤清史郎)も不気味な沈黙を続けている。
そんな中、前回西野からの指示にミスを生んでしまった江波(本田仁美)は、常に友人の顔色をうかがって過ごす日々を送っていた。友達という『居場所』を失うことを必要以上に怯える江波。——— と、そんな中、江波は幼馴染の浜岡から想いを告げられ、その返答に迷っている最中だった。すると突然、教室に校内放送が鳴る。——— 「3年D組の江波さん、化学準備室まで来てください」。その声の主は九条であった。
「何?急に呼び出して」…なぜ呼ばれたのか全く心当たりのない江波に、九条が問う、「昨晩、浜岡修吾さんという方から交際を申し込まれましたか?」。急に事実を突きつけられ驚く江波。九条は自身の1周目の人生と状況が変わっていないことを確信すると、「その方とは金輪際、関りを断ってください」と告げる。訳が分からずあっけにとられる江波に、九条は衝撃の未来を告げる…「2023年8月31日。江波さんが持っていたカッターナイフで、浜岡さんを刺すことになる日です」——— と。
人を愛するとは何か、自分自身が『居場所』と感じるものは何か。寂しさが覆いかぶさるこの世の中へ、すべての世代に胸の高鳴りを与える第4話……始まる。
第4話のレビュー
いわゆるタイムループものには、いくつかの“お決まり”がある。
大体の作品に共通しているのは「タイムリープの原因となった事件があること」、そして「複数のタイムリーパーがいること」。
この「最高の教師」において、もちろん前者は「九条里奈(松岡茉優)が卒業式の日に殺されたこと」である。合わせて後者の可能性も十分にあると考えると、もう一人のタイムリーパーは星崎透(奥平大兼)ではないだろうか。
4話放送後、視聴者の予想は一気に“星崎真犯人説”になだれ込んだ。これまでの主な星崎登場シーンといえば、鵜久森(芦田愛菜)を吊し上げる仮の学級会において、九条が教室にやってくることを事前に知らせたときのみ。あとは良くも悪くも中立的に、場の空気を静観しているだけだった。
彼の様子が変わったのは3話の最後。九条や鵜久森らが準備室で昼食を摂ろうとしているときに、「こんなところでたまってたんだ〜」とフラットに入ってくる。このとき、学校生活がとてもつまらなく退屈だと思っていたが、九条先生が“ヤバい”おかげで、最近はまったくそんなことがない……と彼自身が告げている。
そして、九条本人に「先生の映画を撮らせてください」と頼む。何を言っているのかわかりません、と少し驚き気味に返している九条の様子を見ると、一周目では起こっていなかったやりとりなのだろう。
もちろん星崎が「映画を撮らせて」と言い出したのは、九条が2周目の人生において“本気の授業”を始めたからに他ならない。
しかし、星崎の絶妙なポジションは1周目でも大差なかったはず。問題児ばかりが集められたという3年D組において、片方に偏らず飄々と立ち回る彼の姿は、1周目の九条の目にも入っていたのではないか。
現時点で、九条の中における星崎の重要性が高いようには見えない。言ってしまえば彼女は、卒業式の日に自分を殺す“容疑者”から、早々に星崎を外しているように見える。それは、彼が特段、九条への恨みに繋がるような事件を1周目で起こしていなかったからだろう。
星崎=真犯人、というよりは、彼は九条と同じくもう一人のタイムリーパーなのではないか。そして、九条を殺した真犯人の正体を知っている。
そう仮定すると、九条と同じタイミングでタイムリープした星崎が、最初は様子見のために中立を保ち静観していたのも納得できる。九条がどうやら愉快なことをやっている、自分を殺した真犯人を2周目の人生で見つけようとしているのでは? と察した星崎は、“九条派”に入り「映画を撮らせてくれ」と宣言することで、自身がカメラを持ち歩く姿に違和感がないようにした。
4話の終盤、居酒屋にカメラを忘れたら予想外の映像が撮れた……と鵜久森たちに告げるシーンも、伏線の宝庫である。
そもそも彼はカメラを忘れたのではなく、意図的にカメラを仕掛けている。スイッチを入れるシーンが入っていたのは、それを視聴者へ知らせるため。
九条と栖原竜太郎(窪塚愛流)が“未来の日付”について話しているシーンが撮れたのも、星崎自身がタイムリーパーであり、栖原や江波美里(本田仁美)をめぐる事件のことを知っていたからではないか。
撮れた映像だけで「ピンときちゃって」「九条先生はタイムリーパーなんじゃないか」と当たりをつけられるのも、自身も同じ状況だからと考えれば合点がいく。得意げに話す星崎を見る、鵜久森の意味深な目線も気になるところだ。少々無理やりだが、鵜久森も“人生2周目”だとしたら……?
星崎=真犯人説よりは、もう一人のタイムリーパー説を推したいところ。しかし、あまりにも学校生活や人生そのものがつまらない、と嘆いた星崎が、平和な学校生活に刺激を求めて九条を殺した、いわゆる“愉快犯”だと考えることもできる。
そもそも真犯人が3年D組の生徒だとは限らない。そうなると、このドラマが根底から覆されることになってしまうが。
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–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
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九条(松岡茉優)にとって『地獄』と称されることになる2学期が始まり、鳳来高校は一か月後に文化祭を控える状況となっていた。——— と、そこで九条は突然文化祭でのある催しの責任者に瑞奈(詩羽)を指名する。学外でプロとして音楽活動をしている瑞奈はそもそも文化祭に参加する意識もなく、その提案に驚きを示す。
そんなことをしている暇はないし、そもそもクラスの皆と交わることなく日々を過ごしてきた。その上、皆からはその風貌や行動に対して“変だ”“非常識だ”“調子に乗ってる”と批判されてきた学生生活を送っていた。なのになぜ自分が…と戸惑う瑞奈だったが、その文化祭の催しに引退公演を行う予定であるダンス部の生田(莉子)から「有名人風吹かせて私たちの青春をぶち壊すのだけはやめてね」とにらまれ、ますますやる気をなくしてしまう。その担当を断るため九条を追いかけた瑞奈は、そこで九条に告げられる。「文化祭前日、ある問題が生じ、今年の文化祭はなくなります。それを止められるのは瑞奈さん、あなただけです」——— と。
非常識と呼ばれる人、変り者と呼ばれる人、そんな人の中にある誰にも理解されない『大切なモノ』。調子に乗ってると揶揄される人たちへ送る応援歌が始まる。そして……最後にはこの物語を揺るがす『ある事実』が判明することになる——— !
第5話のレビュー
名ドラマには、名シーンが必要だ。瑞奈ニカを演じる詩羽が、文化祭の体育館イベントにて歌い上げた椎名林檎の「17」。この、聴く側にさまざまな感情を巻き起こらせるシーンは、間違いなく「最高の教師」の名シーンとなり得る。
プロのアーティストとして音楽活動をしている瑞奈。普段は口数も少なく、これまでの登場シーンも限りなく少なかった。5話にて、ついに彼女に焦点が当てられる。九条(松岡茉優)の1周目の人生において、文化祭は直前で中止になっていた。その原因となったのが、瑞奈だったのだ。
瑞奈は変わっている。とにかく目立つ。プロのアーティストとして表舞台に立っていることも関係しているが、幼い頃から、好きなことをしたり好きなものを選んだりするだけで「変だ」と言われ続けてきた。
自分自身のことを知りもしないのに、勝手なイメージで各々の常識を押し付けてくる声に反発するように、彼女は「誰かに必要とされるアーティスト」を目指している。
しかし、有名人である瑞奈を一目見ようと押しかけた人々によって場はパニックとなり、開催直前にして文化祭は中止に。2周目の人生では、そんな事態を何としてでも防ぐべく、九条が動く。鍵となるのは、やはり瑞奈自身である。九条は、彼女を体育館イベントの責任者に命ずる。
予想通り、反発は起こった。とりわけ拒否反応を示したのは、生田やよい(莉子)だ。繰り返された言葉は「調子に乗ってるから」……。実際のところ、相楽(加藤清史郎)の差金によって、3年D組は襲撃に遭っている。せっかくの文化祭の準備をズタズタにされ、クラスの雰囲気は最悪に。
それも、生田にとっては、有名人だからって調子に乗るからこういうことになる、という文脈になる。
九条は、いつもの調子で生徒たちに“授業”をした。そもそも、調子に乗るのは悪いことなのか? なぜ自分と違うからといって、糾弾の対象に置くのか? 自分たちと違う道を歩む人は、別人ではない。悩むし涙も流す、れっきとした人である……。
人の想像力は、良い方向に働くこともあれば、悪い方向に作用することもある。実際に話したこともない、顔も名前も知らない相手の“悪評”が聞こえてきただけで、いともたやすく心はそちらに引っ張られる。勝手なイメージで、無邪気に無自覚に、相手にレッテルを貼る。
2019年に放送されたドラマ「3年A組」が発した根本的なメッセージは、「悪意に塗れたナイフで、汚れなき魂を傷つけないように」だった。知りもしないことを知ったふうに言わない。尖った言葉で相手の心を刺さない。もっと、もっと、人に優しく在ることを徹底的に説いた。
瑞奈が歌う「17」を聴きながら、必死に歌う彼女を見ながら、きっと私たちはこれまで使ってきた“言葉”を振り返っただろう。誤解を恐れずに言うなら、この世に生きている人間は全員、無自覚なナイフで人を刺したことがある……。
歌を聴きながら涙を流した生田のように、どれだけ間違えてもやり直せる。そして、他者を許容し、自分自身をもっと認められるようになる。立ち上がったここからがスタートだと、九条の言葉は教えてくれる。
今回、物語の根幹を揺るがす、ある事実も明らかになった。鵜久森(芦田愛菜)もまた、九条と同じく“人生2周目”だったのだ。前回のレビューで、星崎(奥平大兼)こそが2周目では? と考察したが、まさか鵜久森だったとは。こうなってくると、真犯人の予想がふたたび、ブレてくる。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
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文化祭の打ち上げの際、東風谷(當真あみ)から不意な想いを吐露された鵜久森(芦田愛菜)。その言葉を受け、何かを返そうとした——— その瞬間、東風谷は漏れ出てしまったその想いに戸惑い、飛び出してしまう……。東風谷を見失う鵜久森。その雑踏の中、鵜久森は自身に起きた『二周目』の人生を思い返していく。
一方の九条(松岡茉優)は、鵜久森と共にいつものようにお昼ご飯を一緒にしていた際に……打ち明ける。
「鵜久森さんも……同じですよね?」と。自分自身が『二周目』であること、そして鵜久森もそうであること。互いに起きた不可思議な現象を確かめ合う二人。そして二人はもう一つ共通して感じる『感覚』を語る。それは、「3回目は絶対にない」、そう確信的に感じていること。だからこそ、私達は未来を変えるために今を必死に生きているのだと。
そんな中、独りで想い悩む東風谷の元を訪ねる九条。急な休学を申し出た東風谷に対し、それはなぜかと尋ねる。そして、想い悩む生徒に向けていつものように『覚悟』をもって「私にできることは、何でもします」と真っすぐに告げる——— 。
……鵜久森は自身に問う。「自分はなぜこの二周目の人生」が与えられたのかと。そして……一つの答えを出す。その時、彼女の中で「叶えたい」と願っていた自分の「希望」の全てが叶えられたことに気づく。そして、鵜久森がそう気づいた時、彼女の中にはもう一つ、変えようのないある『感覚』が襲う——— 。
人は生きる。生きれば悩む。悩み、落ち込み、俯く時もある。だが、一人の生徒は全力で伝える。この世界に対して最も強く思う、一つの『願い』を。今を生きる全ての人に、一度でいいので見ていただきたい。私達の想いは、ここにある——— 。
第6話のレビュー
鵜久森(芦田愛菜)も九条(松岡茉優)と同じく、2周目の人生を生きていることがわかった矢先、彼女が亡くなってしまった。1周目と同じ日付、何者かに呼び出されて立入禁止区域に足を踏み入れた鵜久森は、とある人物と揉み合った末に落下してしまう。
その場所は、九条が1周目の人生で、3年D組の生徒から突き落とされた“吹き抜けの廊下”と同じ場所だった。九条と鵜久森が同じ場所で亡くなったことに、意味はあるのか。
大きな疑問として残るのは、鵜久森が訪れたときは立入禁止に指定されていたにもかかわらず、九条が亡くなった卒業式の時期は開放されている様子だったこと。単に、2023年10月にたまたま工事がおこなわれていただけのことだろうか。
なぜ、わざわざ鵜久森を立入禁止区域に呼び出したのか。そもそも、呼び出した人物は誰か?
順当に考えると、もっとも怪しいのは相楽(加藤清史郎)。6話の冒頭、「もうこのあたりで普通になろう」と持ち出し、相楽は鵜久森に謝罪した。しかし、鵜久森は「心のない謝罪は受け取れない」と拒否。またもやイライラさせられることとなった相楽は、浜岡修吾(青木柚)に依頼し、鵜久森になんらかの制裁を加えた……?
確かにこう考えるのが自然なのだが、少々予想しやす過ぎる展開でもある。呼び出された場所に到着し、待っていた相手を見た瞬間に鵜久森は「あなたがこんなこと」と言った。初対面ではなく、面識がある人間だと思っていいだろう。
3年D組のクラスメイトはもちろん、鵜久森は4話「拝啓、世界に居場所が無いと思う貴方へ」で浜岡と知り合っている。対面したのが、相楽、もしくは浜岡本人であっても不自然ではない。
もう一点気になるのは、鵜久森と謎の人物が、何かを奪い合っている様子があること。鵜久森自身、もしくは九条にとって不都合のある“何か”を相手が持っていて、それを奪い返すために鵜久森は向かっていった。揉み合った末に誤って落ちてしまったのだとも考えられる。
鵜久森の死に関わった人間は、九条を突き落とした人物と考えて間違いないだろう。
イライラをこじらせた相楽がつい手を出してしまったのか。相楽の依頼を受けた浜岡(もしくはその仲間)がこっそり学校内に侵入した末の犯行か。この場合、文化祭の一件があるため「部外者はそうそう校内に侵入できないのでは?」といった考察は無意味だろう。
もしくは、九条が2周目の人生を生きている唯一の物的証拠(映像)を持っている星崎透(奥平大兼)か?
一時は真犯人説も出たほど存在感を増した彼だが、6話では不自然なほど出演シーンがなかった。星崎自身も4話において浜岡と知り合っているため、物語には描かれていない部分で交流を深めていてもおかしくはない。
相楽と浜岡、そして星崎。不穏なトライアングルができそうな陰で、別の真犯人候補が躍り出てくる可能性は、どれくらい残されているだろう。
鵜久森の死の未来を、変えることはできなかった。戦友を失ってしまった九条は、今後どのように動くのか。自分の死の未来を、変えることはできるのか。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
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鵜久森(芦田愛菜)が非業の死を遂げて以来、休校が続く鳳来高校。校内の立ち入り禁止区域で起こった悲劇は世間の注目を集め、教員たちはマスコミの対応に追われるが、鵜久森の身に一体何が起きたのか…その真相は依然として分からないまま。
かけがえのない教え子を亡くして失意の九条(松岡茉優)は、運命を変えられなかった自分を責めながら鵜久森の葬儀に出かける。そこで出会った鵜久森の母・美雪(吉田羊)から受けた意外な言葉に、ふさぎ込んでいた九条の心は突き動かされることに……。さらに、夫・蓮(松下洸平)の支えにも胸を打たれ、やがて顔を上げる九条……!鵜久森の死を“運命”で片付けてはいけない…。彼女を『命を失った生徒』ではなく、『最後までその命を燃やし生き抜いた生徒』であったと証明するため、九条は29人の生徒が待つ3年D組の教室へと向かった——— 。
誰かと『向き合う』とは何か。取り返しのつかない出来事に残された者はどうすべきなのか。
鵜久森という一人の生徒を通して、一生忘れることの出来ない魂の授業が、今ここに開講する……。
第7話のレビュー
2019年に放送された日テレ系ドラマ「3年A組ー今から皆さんは、人質ですー」のスタッフが多く関わっている本ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」。伝えようとしているメッセージは、約4年前から変わっていない。
九条(松岡茉優)が発する切実な「変わるんです。まずはじめに、この教室が」の声に、「3年A組」の教師・柊一颯(菅田将暉)の声が重なって聞こえてくる。「変わるんだよ」「変わってくれ」……悪意にまみれたナイフで、汚れなき弱者を傷つけないように。“人質”にした生徒たちの前で、彼は繰り返し訴えていた。
鵜久森(芦田愛菜)が亡くなった。その事実を学校側は、事故、もしくは“自身が選んだ行動”の可能性もあるとして、世間に発表する方向に傾きかけていた。一度も姿を見せない校長は、電話越しに我修院教頭(荒川良々)へ「警察がそう見解を出しているなら、好都合」とまで告げている始末だ。
当の3年D組の生徒たちは、どうするか。九条はいつものように冷静に、淡々と、“授業”をする。
鵜久森が亡くなってしまったことに対し、全員が無関係ではいられないこと。彼女がこうなってしまった理由に、向き合うこと。向き合うとは、すべてを曝け出し、都合の良いように見てみぬフリをせず、勝手な憶測で物事を語らず、“考える”ことなのだ、と。
「3年A組」一颯の決め台詞もそうだった。「Let’s Think」。反射的に行動するのではなく、思ったことをそのまま口に出すのではなく、一度頭のなかをクルッと回転させ、パッと捉え直すことが大事なのだと説いていた。
しかし、相楽(加藤清史郎)が言っていたように、「向き合う」「考える」と一口に言っても、その具体が見えてこない。鵜久森の死に向き合うこと、それはすなわち犯人探しをすることなのか?
その問いに、九条は真摯に告げる。「もっとも避けるべきなのは、彼女を憶測で語ること」「思う、だろう、違いない……。そんな言葉で彼女を語ることは、言葉を失ってしまった人への冒涜だと思いませんか?」と。
勝手に抱いていたイメージで「きっと◯◯に違いない」と推測した事柄は、いったいどれほどの精度で合致するのだろうか。人は複雑で、そう簡単には理解できない。わかりやすい言葉でまとめられない。だからこそ、“早く”答えを出すのは危険である。
九条や我修院の真摯な姿勢は、しっかりと生徒に届いた。鵜久森はもう言葉を持たないが、変化し、考える責任があると知った3年D組の生徒たちはきっと、「なんでもする」と覚悟を決めた大人たちに報いてくれる。
二週目の人生を生きていた鵜久森が亡くなった理由に、相楽や浜岡(青木柚)が関係している可能性は高いだろう。星崎(奥平大兼)が、鵜久森が亡くなった当日の朝、学校に侵入する制服姿の浜岡を映像にとらえている。
不自然じゃない流れで考えれば、相楽に依頼された浜岡が鵜久森と接触し、揉みあった末に落ちてしまった筋書きが考えられるが……。そもそも、浜岡の映像を持っていた星崎自身も、十分怪しい。そして、鵜久森が二週目の人生を生きている事実を、本人から聞いて知っていた東風谷(當真あみ)も、おそらく無関係ではない。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
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「我々は、全力でその理由と向き合いたいと思っています」——— 。九条(松岡茉優)と3年D組の本気がもたらした学校の記者会見は、鵜久森(芦田愛菜)の母・美雪(吉田羊)の心にしっかりと届く。自分も今以上に向き合わなければ…と顔を上げる美雪。しかし、向き合うべきは娘を追い込んだ“何か”ではない。あの日、娘は何をするためにあの場所へ行ったのか、最後にどんな顔をしたのか、ただそれが知りたい。だからこの件で誰かが追い詰められるようなことは望まない…。そんな美雪の思いを九条も力強く受け止める。
——— だが、教室では一つの『事実』を獲得した生徒達がある人物を追いつめる。クラス全員から疑いの目を向けられたのは、——— 相楽(加藤清史郎)。浜岡(青木柚)が鵜久森の事件の日に学校に来ていたこと、そしてその浜岡と相楽が繋がっていたこと……、それが露見した教室内で、相楽はクラス全体を凍り付かせる衝撃の一言を口にする。「アイツは、俺のせいで死んだ」——— と。
彼のその一言の意味とは何か——— 。自分の『本当』を曝け出せない貴方へ。過去に、自分に、見て見ぬフリを続けた人物は、全てと向き合う一日を過ごす……。彼は本当に……犯人なのか!?
第8話のレビュー
「憶測でさまざまなことを決定するのはやめましょう」
「人の意見は得てして、そう考えるほうが自然だというほうへ流れていく」
2019年放送の日テレ系列ドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です」で、とある容疑がかけられた教師がSNS上で炎上しかかる描写があった。柊一颯(菅田将暉)のおかげで食い止められたが、「何事もなくてよかった」では済まされない。多くの憶測、噂、勝手な想像が一人歩きをはじめ、一人の人間が社会的に抹殺されるところだった。
人は弱い。驚くほどに、絶望的に弱すぎる。一人では生きていけないし、隣の人が「右」と言ったらそれにならう。自分がこうだから相手もこう、となんの疑いもなく信じるし、自分では何も考えず、9割が支持している意見をそのまま自分のものにする。
鵜久森(芦田愛菜)が亡くなった一件から、相楽(加藤清史郎)に対する風向きは強まる一方だった。九条(松岡茉優)は繰り返し、憶測や先入観でものを語ることを避けるよう訴えるが、やはり相楽への疑いが薄まることはない。
九条が相楽に投げかけた言葉は、彼の最後の“支え”をへし折った。
「弱い自分を隠すのに必死で、楽しい自分、幸せな自分を見せつけるのに必死で、ずっと目をそらし続けた。その結果、無自覚なフリをして、人を傷つけた。自分がひどい人間になっていると本当は気づきながら、知らないフリをして笑った」
「傷つく人がいるのをわかっていながら、どうして自分のプライドを大事にできるんですか?」
相楽がこれまで、必死に自分の顔に笑みを張り付けながら防御してきた“プライド”を、ズタズタにした。見なければ、言葉にしなければ、なかったことになる諸々に焦げつくような光を当て、誤魔化すことを許さなかった。
相楽は、クラスメイト全員の前で本当のことを話した。文化祭をめちゃくちゃにした事件は、やはり相楽が浜岡(青木柚)に金を払ってやらせたこと。しかし、鵜久森が亡くなった一件には関わっていない。少なくとも、彼が直接何かをしたわけではない。
鵜久森の位牌に向かって、泣き、慟哭し、喉からも血を流しかねない必死さで、相楽は「ごめんなさい」と繰り返す。しかし、遅すぎる。遅い、遅い、何もかもが遅い。彼の言葉は鵜久森に届かず、永遠に許されない。それさえも、背負っていかなければならない。
相楽に対しては、変わる最後のチャンスを与え、他のクラスメイトに対しては、憶測や先入観で人を断罪しないよう「考え続けること」を促す。九条の“授業”は、どちらに肩入れすることもない。
悪いことをした人間には、謝ること。謝ることしかできないこと。謝ったうえで許されないこともあると教える。そして、傷ついた人間には、“許さない”という選択肢もあることを提示し、それを選ぶことを責めもしない。
物語は佳境に差しかかる。この流れに乗って考えるなら、黒幕は浜岡だ。しかし、繰り返し思い出そう。「憶測で物事を決定してはいけない」「人は得てして、そう考えるほうが自然だと思う意見に流れていく」……ふと立ち止まり、考えをめぐらせることが、傷つく人を減らす一歩になると信じている。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
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鵜久森(芦田愛菜)の事件の後で雲隠れしていた浜岡(青木柚)を、迫田(橘優輝)たちが発見。「事件の日…なんで学校にいたんだ?」…問い詰める迫田に、浜岡は人に頼まれたからだと答える。その人物は…3年D組の『ある生徒』だと言う。その人物の依頼で学校へと侵入したと告げる浜岡。その真偽は——— 。
迫田らの報告を受けた九条(松岡茉優)は、学校に忍び込んだ浜岡が鵜久森にとって“誰にも知られたくない何か”を見つけたのではないかと推察。鵜久森が命を燃やして守ろうとしたのは、一体何だったのかと頭を巡らせることに。
翌日、九条と3年D組はその「ある生徒」から直接話を聞こうとするが、その人物は登校をしなかった。
その時、九条の頭を“最悪”の状況がよぎる……もしもその人物が罪の意識に苦しめられ、絶望していたとしたら……。慌てて教室を飛び出し、捜索に走る九条!生徒に“最悪の終わり”を選ばせては、絶対にいけない…!九条と同じ思いのD組全員も教室を飛び出して——— !
ついに、一つの事件の『真相』へと迫る第9話。人は、その罪をどう背負うべきか。償うべきか。そして……、
命を燃やした生徒は、最後どんな『顔』をして過ごしたのか。一つの罪の真理に迫る、衝撃の第9話。
第9話のレビュー
鵜久森(芦田愛菜)の死に直接関わっていたのは、西野美月(茅島みずき)だった。
鵜久森が強い意志を持ち、「なりたい自分になるために」生きることを決めた瞬間から、クラスの空気が変わるのを肌で感じ取った美月。自分の立場が危うくなることを動物的本能で感じ取った彼女は、浜岡(青木柚)から声をかけられたことを機に、金を渡して“依頼”をしてしまう。
浜岡は、いつも九条(松岡茉優)がいる化学準備室にカメラを仕掛けることを提案。偶然、鵜久森と東風谷(當真あみ)が、ある秘密について話をしている場面が撮れてしまった。これまで、なぜ東風谷が鵜久森に思いを寄せている、個人のセクシュアリティに関わる描写を入れたのか掴みきれていなかったのだが、この核となる展開に繋げるためだったのだとわかる。
美月は、その映像データを使って、鵜久森を脅した。すべては、教室の空気が変わって形成が逆転すること……言ってしまえば、自分の思い通りにことが進まなくなる現実を、退けたかったがために。
鵜久森は最後の瞬間まで、美月を“変えよう”としていた。
「ちゃんと言うけど、西野さん、おかしいよ。誰かを傷つけて笑ってることの、何が楽しいの?」
「標的を作って笑ってる時間なんて、大切な人生の無駄な時間でしかない」
以前、工学研究会の眉村(福崎那由他)と日暮(萩原護)が、相楽(加藤清史郎)に言っていたことを思い出す。「お願いだから自分たちをちゃんとハブってくれ」と彼らは土下座までして懇願した。それほどまでに、彼らは相楽を“ちゃんと”嫌っていたのだ。
鵜久森から美月に向けられた感情も、おおよそ似たようなものだったかもしれない。それでも鵜久森は、なりたい自分になるため、東風谷を尊重するため、そして、自分を攻撃してくる美月にさえも向き合うため……たった一人であの日、立ち入り禁止の場所へ向かったのだ。
そんな鵜久森の姿勢とは裏腹に、美月、そして優芽(田鍋梨々花)や桐子(田牧そら)は実に甘すぎる。
まず美月は、鵜久森に対して自分が何をしたか、そして、それに対する謝罪の言葉よりも先に、「この二人は関係ない」と優芽、桐子を擁護。そして、あたかも浜岡がけしかけたのがすべての要因だとでも言うような話し方をした。
「そんなつもりじゃなかった」と涙ながらに話す美月の様子は、見方によっては反省している風にもとれるが、九条は逃がさない。
「あなたたちが、たやすく人を区別し、見下し、傷つけてきた。その日々のおこないが繋がって、こんなことが起きたんです」
「そんなつもりじゃないその言葉が、その行動が、どれだけ相手の心に積もっていくのか。それを想像しないから、こんなことが起きたんです」
「自分を守るために、人を傷つけることが癖になっている。無自覚な動物そのものです」
人によっては、九条の言葉は強すぎる、と思うかもしれない。美月たちが加害者であることに変わりはないが、いつだって、加害者の権利を主張する声は挙がるものだ。公平で公正で平等な視点を持つ人なら、なおさら、美月たちの事情や心理を慮ろうとするだろう。
しかし彼女たちは、償おうと思っても相手がいないと言い、償う方法がわからない、どう生きていったらいいのかわからない、と言って泣くのだ。加害者は謝るときでさえ、わからない、わからないとばかり繰り返す。
考えることを放棄し、自分の正当性ばかりを主張し、償う方法さえ他人から教えてもらおうとする。その態度こそ、九条が言った「無自覚な動物」に値する。
彼女たちができることといえば、鵜久森のことを忘れないこと、そして、“許されないまま”生きていくことだけなのかもしれない。
美月たちが罪を告白したことで、鵜久森の件は収束しかけている。最終回が近くなってきたこのタイミングで、視聴者の脳裏にはあらためて、あの疑問が舞い戻ってくるだろう。
卒業式の日、九条を突き落としたのは誰なのか?
相楽が浜岡に言っていたことから、「美月たちの教室での現状を浜岡に伝えた人物」がいると推測できる。そうなると、メタ的な見方をしてしまえば、これまであまり物語に関与してこなかった(=出番が極端に少なかった)生徒がいきなり浮上してくるとは考えにくい。
そうすると、やはり……少々愉快犯のようなポジションで回遊していた星崎(奥平大兼)の真犯人説が、再び浮上してくるのではないだろうか?
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{最終話ストーリー&レビュー}–
最終話ストーリー&レビュー
最終話のストーリー
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1年前、突如与えられた2周目の人生。生徒に突き落とされた自らの死の未来を変えるため、“何でもする”覚悟を決めた九条(松岡茉優)は、ただひたすらに駆け抜けた。この世界を「変えよう」と。その思いに、これまで無自覚に人を傷つけ、無自覚に我慢をし、無自覚に見過ごしてきた3年D組の生徒たちも一人、また一人とその「本気」を解放してきた。
そして再び迎える、“あの卒業式の日”…。九条は1年前と同じ場所で、………“あの人物”と対峙する!
果たして九条の前に現れるのは誰なのか!?その「運命」の結末は!?
「変わらない」と諦める貴方へ……、九条が贈る最後の授業—— 。言葉の1つ1つを貴方に目掛けて懸命に送り出す、魂込めた最終回!!
最終話のレビュー
ネット上の考察班からは、初期の段階(2〜3話あたり)から「真犯人は星崎(奥平大兼)では?」と予想されていた。少しだけ愉快犯じみた言動が目立つこと、他の何人かの生徒のように大きな問題は起こさない代わりに、上手いこと主要人物と顔馴染みであることなどから、比較的、予想は簡単だったように思う。
このドラマの秀逸なところは、真犯人が予想通りだったとしても、それで面白さが半減しない点にある。
一週目の人生で九条(松岡茉優)を突き落としたのが星崎で、二週目の人生でもそうだった。きっと多くの人がそう考えていたにもかかわらず、「見応えのあるドラマだった」と充足感に満ちている。その理由は、最終回を彩るのにふさわしい結末だったから、そして、そこに至るまでの道のりが丁寧に描かれた脚本だったからだろう。
星崎の目からは、この世界が灰色に見えていた。
彼の口からポツポツと語られた、自転車のブレーキをかけずに、全速力で坂を駆け降りる遊びについてのエピソードが興味深い。みんなが笑ってくれると思って、全力で駆け抜け身体全体でぶつかって見せたら、引かれてしまった。その瞬間から、周りとズレている自分を実感するようになった。
実際に彼は言っていた。つまらない教室を変えてくれたのは先生だ、と。九条を主人公に映画を撮りたい、とまで言っていた星崎の気持ちに、偽りはなかっただろう。それでもいつしか、せっかく色のついた景色から、また少しずつ色彩が失われていくのを見るのは、どれだけの絶望を伴っただろうか。
星崎は、九条を突き落としたあと、世界や自分自身に対する虚しさを抱えながら、自らの命さえも捨てようとしていた。「まずは自分だけが、自分の思いを信じてあげる。そうすればきっと、変えようと動けるはず」……そんな九条の渾身の言葉も、今回ばかりは、彼にだけは届かない。必死の説得も届かず、星崎は渡り廊下から身を投げてしまう。
しかし、星崎を助けるため、九条の夫・蓮(松下洸平)やクラスメイトたちがやってきた。その姿を見ながら、彼は言う。「色がついてる」と。
ギリギリのところで助け出された星崎の心は、きっと今後も迷うだろう。色がついては消え、またもや、白黒の世界で生きていくことに恐怖を感じるかもしれない。
それでも彼は、クラスメイト全員が自分を助けるために走り、「俺たちのために、死ぬな」と言ってくれたことを忘れない。彼らの後ろに見えている、真っ赤な夕焼けの色を忘れない。
まさに、急死に一生を得た九条。その後、不意にあらわれた浜岡(青木柚)によって刺されてしまうが、なんとか命を繋ぎ留めた。
この物語は、一度は生徒の手によって命を失いかけた九条が、ふたたび一年間をやり直す過程で“最高の教師”を目指す話だった。そして同時に、九条にとっての“最高の教師”とは誰かを、実感する話でもあった。
彼女は、生徒によって殺され、そして、生かされたのだ。最高の教師は、生徒自身のことでもあった。
九条が発するメッセージ、そして生徒一人ひとりの苦悩が解き放たれていく様が、丁寧に描かれた脚本。ドラマ「3年A組」とリンクしたこの物語は、今後も折に触れ、脳裏をかすめていくだろう。迷うとき、悩むとき、何もかも嫌になって、投げ出してしまいそうになるとき。彼らの言葉がきっと、頭のなかで響く。私たちが、私たちの人生において、もっとも良い選択をするために。
※この記事は「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」の各話を1つにまとめたものです。
–{「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」作品情報}–
「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」作品情報
放送日時
2023年7月15日(土)スタート。毎週(土)夜22:00〜
出演
松岡茉優/芦田愛菜
松下洸平/荒川良々/長井短/細田善彦/犬飼貴丈/
奥平大兼/山下幸輝/茅島みずき/窪塚愛流/加藤清史郎/當真あみ/山時聡真 他
音楽
松本晃彦
演出
鈴木勇馬
二宮 崇
チーフプロデューサー
田中宏史
プロデューサー
福井雄太
鈴木 努
秋元孝之
制作協力
オフィスクレッシェンド
制作著作
日本テレビ