<ハヤブサ消防団>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

国内ドラマ

2023年7月13日にスタートした「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)は、池井戸潤の同名小説を原作とした異色の新機軸ミステリー。都会から長閑な集落に移住してきたミステリー作家の三馬太郎(中村倫也)が地元消防団に加入したのを機に、謎の連続放火騒動に巻き込まれていく姿を描く。ヒロインの彩を川口春奈が演じるほか、共演に満島真之介、古川雄大、山本耕史らが名を連ねる。

CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。

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もくじ

・第1話ストーリー&レビュー

・第2話ストーリー&レビュー

・第3話ストーリー&レビュー

・第4話ストーリー&レビュー

・第5話振り返り・第6話ストーリー&レビュー

・第7話ストーリー&レビュー

・第8話ストーリー&レビュー

・最終話ストーリー&レビュー

・「ハヤブサ消防団」作品情報

※話数は、確認次第随時更新します。

第1話ストーリー&レビュー

第1話のストーリー

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三馬太郎(中村倫也)は、崖っぷちのミステリ作家。5年前に“明智小五郎賞”を受賞し、勤めていた会社を辞めて作家業に専念したのはよかったが、その後は新作を出すたびに初版の部数を削られ、ネットの評価も散々。担当編集者・中山田洋(山本耕史)に励まされながらも、筆の進まない日々が続いていた。

ある日、太郎は山間の集落“ハヤブサ地区”を訪れる。亡き父から相続し放置したままになっていた一軒家の様子を確認するためだったが、太郎はハヤブサの豊かな自然に心をつかまれ、この地に移住することを決意する。

新生活をはじめてまもなく、太郎は近所に住む同年代の青年・藤本勘介(満島真之介)に誘われ、地域の飲み会に参加。そこで知り合った山原賢作(生瀬勝久)、宮原郁夫(橋本じゅん)、森野洋輔(梶原善)、徳田省吾(岡部たかし)らハヤブサ地区の男たちに“消防団”への入団を勧められる。運動部に入ったこともなく非力な太郎は、自分にはまったく似合わないからと、いったんは入団を断る。

ところが直後、地区の住人・波川志津雄(大和田獏)の自宅で火災が発生。消防団の必死の消火活動を目の当たりにした太郎は、自分も新たな居場所であるハヤブサを守りたいという思いに駆られ、消防団への参加を決意する。だが、実はハヤブサ地区では今年に入って不審火が続いており、今回の火災で3件目。団員たちは連続放火事件を疑っているという。まさか、この長閑なハヤブサのどこかに放火犯がいるのか!? ゾッとする太郎だが、その矢先、住民・山原浩喜(一ノ瀬ワタル)が行方不明になるという事態が起きて…!?

そんな中、太郎は父の墓参りの際に墓地で見かけた女性・立木彩(川口春奈)と、ハヤブサ地区唯一の居酒屋で再会。ミステリアスな彼女のことが気にかかるが…!?

そして――少しずつハヤブサに馴染んできた太郎のことを、太陽光発電企業“ルミナスソーラー”の営業担当・真鍋明光(古川雄大)が鋭いまなざしで見つめていて…!?

第1話のレビュー

もしかして、この集落って私の地元がモデル?近所にコンビニすらない片田舎に実家がある筆者は思わずそう思ってしまった。

ミステリ作家の登竜門といわれる“明智小五郎賞”を受賞したものの、2作目以降は出版の度に初版の部数を削られて鳴かず飛ばず。そんな新ドラマ「ハヤブサ消防団」の主人公・三馬太郎(中村倫也)が都会のストレスから解放されるために、移住したのは亡き父の故郷である小さな集落だった。

豊かな自然に囲まれて、時間に追われることなくゆるりと暮らしたい。そんな思いで都会から田舎に越してくる人は結構いる。だけど、実際に住んでみたら付き合いで色々やらされて大変だったという声をよく聞く。本作はその代表として地元の消防団に三馬が加入させられるという設定が何ともリアルで面白い。主要都市から離れた田舎では災害時、救助の手が届くのに時間がかかるため、有志で集まった地元の人たちがその役割を一部背負っているのである。

加えて、消防団は地域交流の場にもなっており、団員同士でお酒を飲む機会が非常に多い。今日もSNSでは、消防団に入っている地元の友達がみんなで町長を囲った集合写真を挙げていた。それを地域の人と繋がれる良い機会だと思う人もいれば、煩わしいと感じる人もいるだろう。三馬は当初、後者だった。

明らかに運動神経が悪そうで、「団と名前がついているものは向いていないんです」と案に集団行動が苦手なことを匂わせる三馬。とはいえ、潔癖に人を拒絶するそぶりは一切なく、歳が近い藤本(満島真之介)から誘われたら気軽に飲みに行く。山原(生瀬勝久)や宮原(橋本じゅん)ら血の気の多いおじさんたちとも噛み合ってはいないが普通に会話もできて、みんなから可愛がられるタイプだ。中村倫也はそういう通り一遍じゃない役を演じるのが本当に上手い。虫を怖がったり、消防服を着てはにかんだり、あることに驚いて川に落ちたり、初回から三馬の他人に好かれやすい人柄がまざまざと伝わってきた。

一方で、終始本作には不穏な空気が流れる。特に表情のない白髪の女性(村岡希美)が数人を引き連れ、山の上から太陽を眺めるシーンはカルト宗教のそれを思わせた。さらに村では昔から素行が悪く、現在は住職(麿赤兒)にお世話になっている浩喜(一ノ瀬ワタル)が村八分に遭っており、決して地域の人間関係が良好とは言えないことも分かってくる。

その極め付けに、三馬に対して親切に接してくれた住人・波川(大和田獏)の自宅から出火。寝たきり状態で自ら逃げ出せない波川の妻を勇敢に救い出した消防団の働きぶりを目の当たりにして、三馬は自身も加入することを決心するも、ハヤブサ地区では今年に入ってから複数回不審な火事が起きており、放火が疑われていた。その犯人として名前が挙がっているのが、浩喜だ。波川の自宅が火事になった当日も三馬は近くで浩喜の姿を目撃しており、興味本位なのか三馬は後日彼の家を訪ねる。全く怖がりなのか、勇敢なのか分かりゃあしない。

でも、三馬が接した浩喜は決して悪い人とは言えなかった。ぶっきらぼうで口数は少ないが、野菜作りに興味があるという三馬に自分の畑で採れた野菜をわざわざ持ってきたり、芝刈り機の不調を治してくれたりと力になってくれようとしている。「越してきて良かったです」という三馬の一言に見せた笑顔から、彼が村八分に遭っても地元を愛していることが伝わってきた。

しかしながら、その笑顔が三馬の見た彼の最期の姿となる。浩喜が山間部の川で遺体となって見つかったのだ。連続放火事件に、住民の不審死とただ事ではない出来事に移住早々、次々と遭遇する三馬。その裏では三馬が墓地で見かけた彩(川口春奈)や太陽光発電企業の営業マン・真鍋(古川雄大)が不穏な動きを見せており、消防団のメンバーも含めてキャストがキャストだけに全員が怪しく見える。

三馬の一挙一動が可愛い!癒される!なんて気を抜いていたら、意表を突かれそうな本作。ワクワクとハラハラが早くも止まらない。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第2話ストーリー&レビュー}–

第2話ストーリー&レビュー

第2話のストーリー

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亡き父の故郷である山間の集落“ハヤブサ地区”で暮らしはじめたスランプ気味のミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)は連日、入団したばかりの消防団の練習に駆り出されて疲労困憊…。実は、消防団が日ごろの訓練の成果を披露する“消防操法大会”の開催日が迫っており、分団長の宮原郁夫(橋本じゅん)がピリピリしているのだ。

そんな中、太郎はハヤブサ地区を襲った連続放火事件の犯人が、先日遺体となって見つかった山原浩喜(一ノ瀬ワタル)だというウワサが出回っていることを知る。一瞬だが生前の浩喜と会話を交わした太郎は、彼がそこまで悪い人間だとは思えず、困惑。しかも、根拠のないウワサがあっという間に集落に広がったことに違和感を覚えるが…!?

その矢先、太郎は消防団のメンバーで役場勤務の森野洋輔(梶原善)から「相談がある」と声をかけられる。約束の時刻に居酒屋に出向くと、座敷には森野のほか、役場の企画課員・矢内潤(岡本篤)と、移住してからずっと気になっていた謎の美女・立木彩(川口春奈)の姿が…。相談というのは、ハヤブサの町おこし動画企画にまつわることで、矢内は作家である太郎の力を貸してほしいという。その企画は映像ディレクターである彩の発案だというのだが、彩本人の態度はどこか冷淡で…。

そして――ついに消防操法大会本番の日がやって来るが…!?

第2話のレビュー

都会の喧騒から離れ、長閑な田舎でのんびりと暮らすはずだった。それなのにいきなり消防団に勧誘され、挙句には連続放火事件と住民の不審死に巻き込まれてしまった三馬(中村倫也)。

この田舎町、どこかおかしい。そんな疑念が膨らんでいく「ハヤブサ消防団」第2話では、三馬が移住してからずっと気になっていた謎の美女・彩(川口春奈)とついに知り合う。

消防団のメンバーで役場勤務の森野(梶原善)に紹介され、初めて言葉を交わした彩は、三馬と同じく都会からハヤブサ地区に移住してきた“救世主”。というのも彩は映像ディレクターで、過疎が進むハヤブサの魅力を外にアピールするドラマ企画を立ち上げたのだった。そこで、ぜひミステリ作家である三馬に脚本を書いてもらえないかと声がかかったのである。

だけど、三馬は連載を抱えている上、消防団が日ごろの訓練の成果を披露する消防操法大会の練習でもはや手一杯。さらには住民が毎日交代で神社の境内にロウソクを灯す燈明当番や、菩提寺の行事を手伝う寺当番など、田舎独自の行事に度々駆り出されていた。

ここで、作中に登場した「菩提寺」「檀家」という言葉について少し説明したいと思う。まず特定の寺院に所属し、先祖代々の供養や葬祭を任せる代わりに、お布施などで経済的支援を行うのが「檀家」になるということ。その所属している寺院を「菩提寺」と呼ぶ。都会では菩提寺を持たない家も多いが、田舎ではまだまだ菩提寺と檀家の結びつきが強い。三馬の実家は、住民からの人望が厚い江西(麿赤兒)が住職を務める隋明寺の檀家だった。

江西は、亡くなった浩喜(一ノ瀬ワタル)の更生を助けた人物。さらにハヤブサを去った波川(大和田獏)は檀家として隋明寺に300万もの大金を寄進しており、その結びつきは強かったことが予想できる。

浩喜と波川。二人は波川が自分の土地に太陽光発電のためのソーラーパネルを設置し、景観を壊したことで以前から揉めていた。だから、浩喜は波川の自宅を放火したのではないか?という噂がここのところ住民たちの間で流れている。しかしながら、三馬が独自に調査した結果、浩喜と波川は良好な関係を築いていた。また、噂を流していたのは太陽光発電企業の営業マン・真鍋(古川雄大)である可能性が浮上。三馬は彼にえもいわれぬ疑念を抱き始める。

菩提寺と檀家の結びつき、太陽光発電、浩喜と波川の関係。さらに、第1話で初老の女性・映子(村岡希美)らが“太陽”を望む映像から推測するに、このハヤブサ地区で宗教間の対立が水面下で深まっているのではないだろうか。

太陽光発電はその名の通り、太陽の光エネルギーを電気に変換する発電方法だ。太陽の恩恵を受けている。もし、真鍋がその太陽を信仰する新興宗教をハヤブサで広めることが本来の目的だったら?当然、既成宗教に属す菩提寺と檀家の結びつきは邪魔になるだろう。寄進するために土地を売った波川、その波川とも実は仲が良く、住職にも世話になっていた浩喜が都合の悪い存在であることは間違いない。

こうした不穏な空気が充満するハヤブサ地区だが、住民たちの日常は変わらずに流れている。消防団の宮原(橋本じゅん)と山原(生瀬勝久)が犬猿の仲になったのも、学生時代の恋愛のいざこざを引きずっているだけで、特に深刻な原因があるわけじゃない。三馬と彩も田舎暮らしに対する価値観の違いで当初はすれ違うも、消防大会における三馬の奮闘がきっかけで少し心が近づいた。

橋本じゅんと生瀬勝久がそのまま学生時代を再現するシーンはコミカルだし、びしょ濡れになった三馬に彩がカメラを向ける場面は青春ドラマのような清涼感がある。こうした深刻さを感じさせない日常があってこそ、じわじわと忍び寄る暗い影が恐怖を煽る。やっぱり一つの作品の中で色んな表情を見せられる中村倫也の主演ドラマだなと思わされた。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第3話ストーリー&レビュー}–

第3話ストーリー&レビュー

第3話のストーリー

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ハヤブサ地区の町おこし動画用シナリオを書き上げたミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)は、映像ディレクター・立木彩(川口春奈)との打ち合わせに赴く。以前のそっけなさは消え、はつらつと企画を進める彩との会話に心地よさすら感じる太郎だったが、彩は“大事なこと”を太郎に隠していて――。

そんな中、太郎は亡き父が遺した昔のアルバムから、ほかの写真とは異質の雰囲気を漂わせる、美しい女性(小林涼子)のポートレートを見つける。シャクナゲの花を手に、穏やかに微笑む彼女はいったい何者なのか!? 気になった太郎は謎の女性の素性を調べはじめる。

その矢先、東京から担当編集者の中山田洋(山本耕史)が訪ねてきた。太郎の陣中見舞いというのは名目で、ハヤブサでゴルフや釣りを楽しむのが目的らしい。中山田は消防団のメンバーとも居酒屋で顔を合わせ、すっかり意気投合する。

しかし翌日、山奥の渓流まで釣りに出かけた太郎と中山田は、帰ろうとして道に迷ってしまう。その山は、かつてハヤブサで自ら命を絶った女性の幽霊が出るといわれており、周囲がどんどん暗くなる中、2人は追い詰められ……。

そして――消防団メンバーを震撼させる最悪の事件が起きて…!?

第3話のレビュー

生瀬勝久、橋本じゅん、岡部たかし、梶原善と、味のある年配の俳優を贅沢に集めた「ハヤブサ消防団」。ミステリーとコメディの配分が絶妙な本作において、彼らは常に采配を振るっている。しかしながら、第3話では三馬(中村倫也)の担当編集・中山田を演じる山本耕史がその采配を奪い取り、いつも以上の乱気流を巻き起こした。

さすがは「おっさんずラブ」を生み出したテレビ朝日。厄介で愛くるしいおっさんを描くのがどうしてこうも上手いのだろう。ハヤブサ地区を訪れ、まるでハワイ旅行にでも来たかのように観光を満喫する中山田。三馬とのゴルフでは軽口やちょっかいをかけ合って笑い、居酒屋では郁夫(橋本)や賢作(生瀬)ら消防団のメンバーに人見知りを発揮したかと思えば、酒を酌み交わして友情を深める。

そこで生み出される、どこまでが台本で、どこからがアドリブなのか分からない好テンポの会話が実に心地よい。三馬を演じる中村の冷静にツッコミを入れつつも、その場を楽しんでいる感じもなんて可愛いのだろう。思わずケラケラ笑いながら、癒されてしまった。そう、このドラマがミステリーなのを一瞬忘れるくらいに。

だが、何十年も前に自殺した女性の幽霊が出るという山で三馬と中山田が遭難したあたりから雰囲気が一気に変わっていく。二人は消防団のメンバーに助けられるも、確かに目撃したのである。山陰からこちらを見つめる不気味な初老の女性(村岡希美)を。

彼女は公式サイトの相関図で映子という名前で登場しており、第1話から今まで一切口を開いていないにもかかわらず、そのあまりにミステリアスな風貌で強烈なインパクトを残している。彼女は一体、誰なのか。そのヒントとなるのが、今回三馬が亡き父が遺した昔のアルバムで見つけた一枚の写真だ。

そこにはシャクナゲの花を手に微笑む美しい女性(小林涼子)が写っており、調べた結果、かなり昔に幼い子供を残して命を絶った倫子という女性によく似ていることが明らかとなる。その娘・展子が成長した姿を三馬の父が何らかの形で撮影したのでは……と。

印象的だったのは映子が山をさまよう冒頭のシーンに、倫子が川に飛び降りるシーンが重ねっていたこと。映子=展子の可能性もあるが、何らかの形で繋がっていることは間違いないだろう。ラストでは、映子が彩(川口春奈)とともに展子と思わしき女性の写真が飾られた神棚を見上げる衝撃のシーンも映し出された。町おこしの動画制作で三馬と着実に距離を縮めている彩。企画自体は町長の村岡(金田明夫)に却下されたものの、彼女はその事実を三馬に隠している。ただ言い出しづらいだけかと思ったが、何か目的があるのかもしれない。

さらに今回衝撃だったのは、賢作の家が放火されたこと。煙を吸って意識を失った賢作を必死で心臓マッサージする郁夫の姿に思わず泣かされた。いつもはいがみ合っている二人だが、そこには確かな友情が存在しているのだ。

一方で、賢作が自宅に設置した防犯カメラには犯人と思わしき姿が写り込んでおり、その人物が乗り込んだ車の助手席にはハヤブサ消防団の帽子が。まさか、消防団の中に犯人が?と普通なら思ってしまうが、それはミスリードの可能性が高い。なぜなら勘介(満島真之介)はずっと三馬のそばにいたし、他のメンバーは防犯カメラに写っていた姿と体格が一致しないからである。彼らの絆を信じたい自分がいるのも事実だ。いつまで経っても東京に帰らない中山田と同様、ハヤブサ地区の奇妙な魅力にすっかり取り憑かれてしまった。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第4話ストーリー&レビュー}–

第4話ストーリー&レビュー

第4話のストーリー

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亡き父の法要のため“随明寺”を訪れたミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)は、これまで放火された人々は寺への寄進額がいずれも飛びぬけて高いことに気がつく。この奇妙な共通点が示す真実とは…!?

その矢先、編集者の中山田洋(山本耕史)から聞いた情報に、太郎はがく然とする。中山田は最近、消防団メンバーとメールのやりとりをしているせいでハヤブサ地区の情報通になっていたが、太郎が脚本を執筆した町おこしドラマ企画が町長・村岡信蔵(金田明夫)のダメ出しを受けて中止になったというのだ。

ただひとり真実を知らされていなかった太郎は、立木彩(川口春奈)を問いただす。彩は完成した脚本を町長に見せて考え直してもらうつもりだったと訴えるが、太郎はウソをつかれたことがやるせなく、2人は険悪に…。

そんな中、村岡がドラマのかわりに考案した町おこしイベントが開催された。ハヤブサに残る伝説にちなんでツチノコを捜索するという催しで、消防団の面々も駆り出される。太郎たちはそこで、村岡にドラマ企画の再考を直談判する彩を見かけて…!? さらに、村岡に挨拶する太陽光発電企業“ルミナスソーラー”の営業スタッフ・真鍋明光(古川雄大)の姿も目撃。ルミナスソーラーは、町の中枢にも巧みに入り込んでいるようで…!?

やがて、太郎と彩の関係に急展開!――しかし、太郎を絶望の淵に突き落とす衝撃の事実が発覚する!

第4話のレビュー

草原で白装束の子供たちがフルーツバスケットを楽しんでいる。平和な光景にもかかわらず、映画『ミッドサマー』を思わせるような狂気が胸に迫るその映像は彩(川口春奈)の夢だったーー。彩が目覚めると、そこは太郎(中村倫也)の自宅。二人は一夜を共にしたようで、少し気まずそうに言葉を交わす。

あれれ、もしかして1話分見逃したかも?と誰もが一瞬思ったに違いない。「ハヤブサ消防団」第4話は二人の関係が急展開を迎えたところから始まり、その理由を頭から振り返る斬新な構成となった。そんな今回の見どころは、太郎と彩のラブストーリーに絡めたミステリーである。

ハヤブサ地区の町おこしドラマ企画を通し、少しずつ距離を縮める太郎と彩。お互いが気になり始めているのは明白だが、まだまだビジネスモードが抜けない。そんな大人の恋を加速させる上で欠かせないのが、対立からの和解である。

対立のきっかけは、彩がドラマ企画を町長・村岡(金田明夫)に却下されたにもかかわらず、その事実を脚本担当である太郎に伝えていなかったこと。外の人間なのにハヤブサ地区に詳しくなった中山田(山本耕史)からそのことを知らされた太郎は、彩に不信感を持ってしまう。そこで活躍するのが、消防団のおじさまたちだ。

もはやビジネス不仲の賢作(生瀬勝久)と郁夫(橋本じゅん)、その仲介役である役場勤めの森野(梶原善)と終始おふざけ担当の徳田(岡部たかし)。ふざけているようで不思議と頼もしさがある彼らは今回、ハヤブサ地区を毛嫌いする村岡による公益資金の私的利用を突き止めた。それをもって本人に揺さぶりをかけ、ドラマ制作に合意させたのである。

そんな“おじさまアベンジャーズ”の働きもあり、無事に仲直りすることができた太郎と彩。夜道で蛍を眺め、落雷被害を防ぐためにあらかじめブレーカーを落とした暗い部屋でお互いのことを語り合う……。田舎の舞台設定を十二分に生かしたロマンチックなシチュエーションで心を通わせる2人。キスのきっかけはイマイチわからなかったが、一旦結ばれたということにしておこう。

しかし翌朝、踊り出したいくらい浮かれていた太郎は雷に打たれたような衝撃を受けることに。中山田から、彩が新興宗教「アビゲイル騎士団」の元信者という情報が寄せられたのである。アビゲイル騎士団は数年前、教祖と幹部3名が信者12名を拷問の末に殺害するという凄惨な事件を起こした危険な教団。冒頭で流れた映像も彩の夢などではなく、実は彼女がかつて制作した教団のPR動画だったのだ。

まさかの事実に驚きを隠せない太郎。そしてこの第4話でもう一つわかったのが、放火の被害に遭った人たちの共通点だ。彼らは地元の寺院・随明寺への寄進額が飛びぬけて高い熱心な檀家だった。また、その多くが火災後に土地を真鍋(古川雄大)が勤める太陽光発電企業「ルミナスソーラー」に売っていたことがわかる。結果的に集落はどんどんソーラーパネルで埋まりつつあった。

真鍋が以前、彩のアパートを訪れていたのも気になるところ。二人にもし繋がりがあるとするならば、それはアビゲイル騎士団なのではないだろうか。だとしたら真鍋がソーラーパネルの普及に努めているのも、彩がハヤブサ地区の町おこしに前のめりなのも一種の宗教活動に思えてくる。

ミステリーを主軸にしながらも、ラブストーリーやコメディの要素も巧みに盛り込んでいる本作。そこでやはり効いてくるのが太郎役・中村倫也の存在であり、場面に応じて切り替わる表情が非常に魅力的である。探偵のごとく真相究明に努める際の凛々しい表情、彩を見つめる憂いを帯びた瞳、虫を前にした時の気の抜けた顔。その一つひとつから目が離せない。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第5話振り返り・第6話ストーリー&レビュー}–

第5話振り返り・第6話ストーリー&レビュー

第6話のストーリー

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映像ディレクター・立木彩(川口春奈)の過去を受け入れ、交際をスタートしたミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)。苦戦していた連載小説も最終回の評判はすこぶるよく、彩とともに過ごす何気ない日々に幸せを感じていた。

そんな中、太郎は太陽光発電企業“ルミナスソーラー”の営業員・真鍋明光(古川雄大)が集落の一軒の家に出入りしているのを見かける。その家は、江西佑空(麿赤兒)が住職を務める“随明寺”に多額の寄進し、かつルミナスソーラーから土地の売却を持ちかけられている5軒のうちの1軒、つまり、太郎が次に放火のターゲットにされるのではとにらんでいた家のひとつだった。

その直後、太郎の背後に現れたのは…なんと消防団メンバーの山原賢作(生瀬勝久)。実は、賢作は3年ほど前から真鍋の姿をハヤブサ地区で見かけ、不審に思ってひそかに見張り続けていたらしい。

2人は消防団に集合をかけ、真鍋が連続放火に関わっているのではないかという推理を伝える。消防団員たちは次の放火の標的を探るべく、手分けして5軒に聞き込みを開始。太郎は並行して中山田にもルミナスソーラーについて調べてもらうが――その矢先、警告なのか、太郎の住む“桜屋敷”で炎が…!?
はたして消防団は次なる放火事件を防ぐことはできるのか!?

しかし、太郎は衝撃の真実に気づく。「連続放火犯は、消防団の中にいる」――!?

第5話振り返り&第6話レビュー

前回の「ハヤブサ消防団」は、いわば彩(川口春奈)の“過去編”だった。上司に手柄を奪われたのがきっかけで、世間から危険視されている新興宗教団体「アビゲイル騎士団」に入団した彩。社会に絶望した若者をカルトが取り込む。そんなのはありふれた出来事であって、彼女は騙された被害者に過ぎない……という風に太郎(中村倫也)は処理したのだろう。彩の過去を受け入れ、正式に交際をスタートするに至った。

だけど、視聴者の中で彩への疑いは完全に晴れたわけではない。なぜなら、第5話のラストにおいて太郎の部屋で展子(小林涼子)の写真を見つけた彩が不敵な笑みを浮かべていたから。以前も彩は映子(村岡希美)とともに神棚に飾られた展子の写真を眺めていた。もしや展子は「アビゲイル騎士団」で教祖、もしくは深い関わりのある人物で、彩もまだ団体と切れていない?そんな想像が頭をよぎる。

続く第6話は、小説『都会で鳴く郭公』の連載も無事に終了し、晴れやかな気持ちで彩と何気ない日々を過ごす太郎の姿で幕を開けた。その幸せそうな表情を見ていたら、どうか彩に抱く不信感が勘違いで終わってほしいと思わされる。そもそも怪しいとはいえ、彩にこれまでの犯行が可能なのだろうか。火をつけることはできたとしても男性で、しかもガタイの良い浩喜(一ノ瀬ワタル)を殺害できるとは思わない。実行犯は別にいる?だとしたら今一番怪しいのは、やはり太郎が目をつけている真鍋(古川雄大)だ。

これまで放火された家は、いずれも“随明寺”に高額寄進をしている有力な地主。その多くが火事の後に土地をルミナスソーラーに売却していたことから真鍋の犯行が疑われている。もし太郎の推測が当たっていたら、真鍋から現時点で土地の売却を持ちかけられている5軒も被害に遭うかもしれない。太郎と消防団の仲間の調べでそのうちの1軒が売却を拒否していることが明らかとなり、次の標的とみて彼らは周囲を見張ることに。

しかし、なぜか真鍋は消防団の動きに気づいていた。逆に警察から怪しまれてしまった太郎たちは、そこで真鍋には放火時のアリバイがあることを知る。では一体、放火犯は誰なのか。そんな中、真鍋の「『郭公は都会で笑う』の出版を楽しみにしている」という発言で、ある核心を得る太郎。実は出版に当たって小説のタイトルが『都会で鳴く郭公』から『郭公は都会で笑う』へと変更になったのが、変更後のタイトルを知っているのは消防団の仲間だけだったのである。

誰かが真鍋に情報を漏らしている可能性がここで浮上。さらにそれぞれのアリバイをそれとなく随明寺の住職・江西(麿赤兒)に調べてもらった結果、おそらく犯人が絞り込まれたようだ。ここで少し、消防団員について分かっていることをおさらいしておきたい。

1. 藤本勘介(満島真之介)
波川と賢作の家が火事に遭った際に太郎と一緒にいたことから一応アリバイはある。ただ、“口が軽い”というキャラ設定が怪しい気も。実行犯ではないにしろ、お調子者に見せかけて指示役の可能性もある?

2. 山原賢作(生瀬勝久)
放火の被害者であり、自作自演の可能性は低い。ただ展子と同じく苗字が“山原”なのが、気になるところ(単にこの集落に多い苗字なのかもしれない)。

3. 宮原郁夫(橋本じゅん)
怪しさ満点。太郎と中山田(山本耕史)が「誰が怪しいか?」という話をしていた時に、名前が出ていなかったのが怪しい。だけど、賢作の家に仕掛けられた防犯カメラにうつる人物の体型と一致はしない。

4. 森野洋輔(梶原善)
役場勤めで団員の中では一番の常識人。気が弱そうなので、誰かに指示されている可能性は十分にある。例えば、真鍋と強固な関係を築いている村長の村岡(金田明夫)とか。

5. 徳田省吾(岡部たかし)
脅しなのか、太郎の家が放火された際に使われたとされる“ベンジン”。着物のシミ取りにも使用されるそうなので、呉服店を営む徳田が犯人の可能性は高い。

……とまぁ、そこそこ全員怪しいのが辛いところ。それは彼らに限らず、彩もやたら協力的な江西も、もはや中山田でさえ怪しく見えてくる始末(ベンジンに指紋をベタベタつけるし)。改めて誰が裏切ってもおかしくない脚本の構成とキャスティングの妙に唸らされる。

一方で、ここまで一人ひとりに愛情を持たせておいて、消防団の誰かが犯人だったらシンプルに辛い。次週は東京でサイン会を開く太郎に消防団のみんながついていくようだが、そんな楽しい修学旅行みたいな中で犯人が明かされるのか。良い意味で(?)鬼畜な展開に身震いする。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第7話ストーリー&レビュー}–

第7話ストーリー&レビュー

第7話のストーリー

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最新作の書籍化を記念してミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)のサイン会が都内の書店で開催されることとなり、それにあわせて藤本勘介(満島真之介)、徳田省吾(岡部たかし)、森野洋輔(梶原善)、宮原郁夫(橋本じゅん)、山原賢作(生瀬勝久)らハヤブサ消防団のメンバーも東京へと研修旅行にやって来た。一同は久々の旅行、そして大都会に大はしゃぎする。

だが、食事の席で勘介は自分たちが不在の間にハヤブサで火事が起きないか心配だと不安をもらす。それを聞いた太郎は意を決して「放火犯は今、ハヤブサにいない」ことを告げ、太郎の推理によって突き止めた連続放火犯の名を一同の前で明かす。消防団メンバー全員ががく然とする、その人物とはいったい…!?

ところがその直後、さらなる衝撃の事態が太郎たちに襲いかかる! 同じ頃、立木彩(川口春奈)が残るハヤブサ地区でも、不気味な異変が起きていて…。

第7話のレビュー

ハヤブサ消防団の楽しい研修旅行が、まさかこんなことになるなんて……。第7話では、考えうる限り最悪の結末が私たちを待ち受けていた。

最新作『郭公は都会で笑う』の出版を記念し、東京でサイン会を開くことになった太郎(中村倫也)。それにあわせ、勘介(満島真之介)、徳田(岡部たかし)、森野(梶原善)、郁夫(橋本じゅん)、賢作(生瀬勝久)らハヤブサ消防団のメンバーも研修旅行と称して東京にやって来る。

まるで、中学生男子みたいに慣れない東京の景色にはしゃぐ彼ら。その光景はいつもと変わらず微笑ましいのに、今回に関しては胸がちくりと痛んだ。それもこれも、前話でハヤブサで発生した連続放火事件の犯人が団員の中にいることがほぼ確定したからである。

太郎の家に火をつけた人物が乗る軽トラの特徴的なエンジン音、火をつけるのに使ったであろう液体ベンジン、放火発生時のアリバイ。太郎はそこから導き出した犯人を、あらかじめ複数のメンバーに伝えていた。そして、みんなは犯人が分かっていて、“あえて”研修旅行の行き先を東京にしたのである。

キリストが食事中に弟子の裏切りを予言する「最後の晩餐」をイメージしているのだろうか。旅行の夜、高級レストランで全員が集う中、太郎は自身の推理を展開する。使徒ユダは、徳田だった。

とはいっても、本人の行動に仲間を裏切る意図は全くなかった。自分に嫌疑がかかっているにもかかわらず、焦る様子も弁解するようなそぶりも一切見せない徳田は淡々とこれまでの人生を振り返る。若い頃にずっと憧れていた東京に半年ほど暮らしていたことがあるという徳田。しかし、父親が倒れて呉服屋を継ぐことになり、何も成し遂げられないまま、ハヤブサに戻った。

「このまま年取って人生終わるんかーって怖なった。(中略)もうちょっと俺の人生、何かあるはずやって。それが何かを知りたかったんや」

徳田はもともとハヤブサの人間だが、状況的には彩(川口春奈)と同じ。都会の競争社会に敗れ、田舎でのスローライフを選んだものの、自分自身がそのことに納得し切れていなくて虚しさを抱えている。華やかな人生への“憧れ”、対して不幸せではないが、平凡な人生を歩んでいることへの“劣等感”、「でも、ここから巻き返されるのではないか」というほのかな“期待”。誰しも持ちうる、この感情に時折上手く付け入るのが宗教だ。

彩に居場所と役割を与え、賞賛し、甘い夢を見せた新興宗教「アビゲイル騎士団」。徳田もその信者だったとまだ決まったわけではない。ただ、放火を目撃したことで、口封じのために殺されたであろう浩喜(一ノ瀬ワタル)を徳田は“必要な犠牲”と捉えている。「ハヤブサに戻ったら、みんなには特別に全部話す」と語るその表情に後悔や悲しみの色はなく、むしろ生き生きとしており、“洗脳”という2文字が頭をよぎった。

序盤から、ずっと嫌な予感はしていたのである。登場人物たちの会話でやたらと取り沙汰されていたのは、過疎が進む田舎の現状。健作が「このままやったら消滅しちまうでな」と嘆いたとき、徳田が神妙な面持ちで頷いていたのだ。もしかしたら、彼はその状況を打破すべく、何者かにそそのかされて間違った方向に進んでしまったのではないか。

その答え合わせをする前に、東京の海で徳田が遺体となって発見された。真鍋(古川雄大)がどうやら人を使って徳田を尾行させていたようで、浩喜のように口封じで殺された可能性は高い。他殺か、自殺か。それも物語を紐解く上では重要なことだが、今、私たちの目の前に転がっているのはただ「徳田が死んだ」という事実だ。郁夫が警察署の前で叫ぶ「もうおらんのやぞ!」という言葉がじわじわと心を蝕んでいく。

6人揃っての研修旅行は今回が最初で、最後となってしまった。失意の中、残されたメンバーがハヤブサに戻ってくるとあちこちが若者で賑わっている。憩いの場である「居酒屋サンカク」も満員。そこで一人の客が放った「サンカクじゃなくてマルに変えたらどうですか」という言葉に勘介が文句を言った途端、その場にいる全員が責め立てるような視線を向ける。彼らが腕につけていたのは、アビゲイル信者の証である紫のスカーフ。そして、アビゲイルのマークは“マル”だ。

その後、徳田のExTubeに一本の動画が上がる。自分がみんなと一緒にハヤブサには戻れないことを察していたのか、予約投稿していたのだ。画面を通して、「もうちょっとやで。ハヤブサが活気付く時がくるんや!」とフォロワーである団員たちに告げる徳田。それは今、この状況を予言していたかのように。やはり、彼はアビゲイルの信者だったのではないだろうか。

となれば真鍋も信者の可能性が高く、3年前から活動の拠点候補としてハヤブサ地区に下見に訪れており、その際に出会った徳田を自分たちの世界に引きずり込んだのだろう。ハヤブサを選んだのは、徳田が「導かれている」と感じたあの古いポートレートに映る展子(小林涼子)の存在が関係しているのかもしれない。

地域の過疎化が進んでいる状況を逆手に取り、新興宗教が街を乗っ取る。全くあり得ないことではなく、油断していたらこの先あちこちで起きるかもしれない身近な恐怖に戦慄した。一応言っておくが、信仰は自由だ。しかしながら、種々問わず、他人の不幸を招くような自由が認められるはずもない。

「僕たちと一緒にいたときの省吾さんの姿がぜんぶ嘘だったとはどうしても思えません」という太郎の言葉はその通りで、徳田はみんなと過ごす時間を心から楽しんでいた。そこに嘘偽りはなかったはずだ。だって、消防団の中に犯人がいると分かるまで疑いようもなかったのだから。それほどまでに、いつも彼が浮かべていた笑顔は本物だった。

でもそれは、彼が自分のしてきたことに少しの罪悪感も抱いていなかったことの裏返しでもある。むしろ、徳田にとってはいいことをしているつもりだったのだろう。ハヤブサのためにも、大好きなみんなのためにもなると思っていた。

徳田はスランプから抜け出すためにハヤブサに移住してきた太郎だったかもしれないし、もっといえば、私たちの身近な人、あるいは私たち自身がいつの間にか同じ状況に陥る可能性は十分にある。岡部たかしが徳田を飄々として、実は気が弱く、ちょっとインテリを気取った愛すべきキャラクターに仕立ててくれたからこそ、その恐怖を教訓と共に味わわせてくれた。物語の中でも、現実世界でも、もうこんな哀しいことは起きてはだめだ。

一つだけ怖いのが、太郎たちがいない間にタイミングよくアビゲイルの乗っ取りが進んでいたこと。まるで東京行きが仕組まれていたかのようだ。もう消防団の中に信者はいないと思うが……この嫌な予感は流石に杞憂であってほしい。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第8話ストーリー&レビュー}–

第8話ストーリー&レビュー

第8話のストーリー

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東京から戻り、多くの人でにぎわうハヤブサ地区に驚いたミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)は混乱しながらも、映像ディレクター・立木彩(川口春奈)の家へと急ぐ。ところが、太郎の前に現れたのは、“アビゲイル騎士団”の後継団体、“聖母アビゲイル教団”の弁護士・杉森登(浜田信也)と太陽光発電企業“ルミナスソーラー”の営業員・真鍋明光(古川雄大)だった。杉森は、彩は自分たちの仲間であり、もう太郎には会わないと宣言。当の彩も一瞬だけ姿を見せるが、太郎から目をそらしてすぐに扉の向こうに消えてしまう。

ハヤブサ地区に集まっているのは、単なる観光客ではなく、聖母アビゲイル教団の信者たちであることは明白だった。すでにハヤブサ地区の空き家に多数の信者が入居をはじめており、その浸食の速さに消防団のメンバーは驚愕。このままではハヤブサが教団に乗っ取られてしまう…。危機感を募らせた消防団は、八百万町の町長・村岡信蔵(金田明夫)に働きかけるが…!? そして、太郎は教団がなぜハヤブサという土地を選んだのかが腑に落ちないでいて…。

そんな中、太郎の家に突然、ハヤブサ地区に住む白髪の女性・映子(村岡希美)が現れ…。その後、映子を追うかのように彩が太郎に会いにやって来る。久々に対面した彩に、太郎は「ぜんぶ嘘だったんですか」と問いかけるが、彩の返答は…!?

第8話のレビュー

「アビゲイルは私に特別なものを与えてくれました。私は、私を救ってくれたアビゲイルのために生きていこうと決めたんです」

アビゲイルに洗脳され、罪のない人々の家に火を放ったと見られる徳田(岡部たかし)。ハッキリとした真実を語ることなく彼は帰らぬ人となり、太郎(中村倫也)は消防団のメンバーたちと意気消沈のままハヤブサに戻る。そんな彼を待ち受けていたのは、恋人である彩(川口春奈)の“裏切り”だった。

突然多くの人で賑わうハヤブサの異変に気づき、すぐに彩のマンションへと向かう太郎。すると現れたのは、アビゲイル騎士団の後継団体「聖母アビゲイル教団」の弁護士である杉本(浜田信也)と、ルミナスソーラーの真鍋(古川雄大)だった。気まずそうに目をそらす彩の姿に太郎は愕然とする。ハヤブサに逃げてきたと言っていた彩は、まだアビゲイルと繋がっていたのだ。

裏切りといっても、当の本人である彩にそのつもりは一切なかった。徳田と同じで、彼女はただアビゲイルに与えられた使命を全うしたに過ぎない。数年前、教祖と幹部3名が信者12名を拷問の末に殺害するという凄惨な事件を起こした後、新しいアビゲイルを作ると決意した杉本。そんな彼に彩が与えられた使命は、聖地となるハヤブサに移住し、素性を隠して暮らすというものだった。

ハヤブサの大半を怪しまれることなくアビゲイルの領地とするため、熱心な信者の一人である真鍋がソーラーパネルの会社を設立。たまたまハヤブサに住んでいた仲間の徳田と手を組み、有力な地主たちの家を放火した。さらには彼らに目撃者である浩喜(一ノ瀬ワタル)の殺害まで命令する一方、彩に対しては「何もしなくていい。あなたがハヤブサにいることに意味がある」と言う杉本。

彼が汚いことは全て別の信者に負わせ、彩を特別扱いするのはなぜなのか。また、なぜハヤブサが新生アビゲイルの聖地として選ばれたのか。その2つの理由が、「聖母の帰還」という第8話のタイトルに隠されていた。

結論から言えば、ハヤブサは聖母誕生の地。そして、その聖母は太郎が自宅倉庫で見つけた写真に映る山原展子(小林涼子)だった。幼い頃に母親を亡くした展子はハヤブサで生まれ、その自然と一体になることで「この世は始まりも終わりもない循環する円環構造である」と知る。そこから、全ての同志が互いを慈しみ、終わりなき孤独から救済される安寧な“円の世界”を築き上げたのだった。

都会の競争社会に敗れた徳田と彩もまたその教えに救われ、円環構造の中に取り込まれた。ただ2人が圧倒的に違ったのは、徳田はあくまでも信者の一人であり、彩は教祖から特別なものを見出された存在だったこと。彼女の何がそう思わせたのかは分からないが、教祖は彩を“聖母の生まれ変わり”と直感したのである。

権力に握りつぶされた彩にとって、自分は特別な存在であると思わせてくれるその場所は甘美な魅力を持っていたに違いない。どうして人は明らかに怪しい宗教にハマってしまうのか。いつも不思議で仕方がなかった。でも人間に「誰かに自分を価値のある存在として認めてもらいたい」という承認欲求がある限り、誰でもそこに足を踏み入れる可能性はあるのだろう。

円の調和を乱すものにはシャクナゲを贈ることで警告を、改めぬものには鉄槌を食らわすーー。自分たちの言いなりになる人しか仲間として認めないアビゲイルは、かなり排他的だ。しかし、全く理解できないわけではない。なぜなら円の世界が崩壊すれば、自分たちは再び社会に放り出されるのだから。誰もが自分を価値のある存在として認め、愛してくれるとも限らない社会に。

だからこそ、調和を保つためなら意味のある犠牲として裏切り者には裁きを下すし、善と信じて疑わない自分たちの世界に家族や友人、恋人など大切な人間を引き込もうとする。此の期に及んで「仲間になれば、三馬さんと私の毎日は続きます」と太郎を勧誘する彩の無邪気な言葉。そして、それを拒絶する太郎に見せる失望の表情が怖かった。

彼女は他の人と同様に、自然な流れで太郎と恋に落ちた。愛しているから太郎の才能をもっと活かせる場所に連れていきたい。太郎も自分を愛してくれているなら、きっと全てを受け入れてくれる。そう信じて疑わなかったのだろうということが、彼女の一挙一動から伝わってきた。前回の岡部たかしもだが、川口春奈も洗脳された人間の特徴をあまりによく捉えている。

さらに今回、明らかになったのはアビゲイルがハヤブサにおける2人の有力者をすでに取り込んでいたこと。一人は町長の村岡(金田明夫)であり、信者を愛人として送り込むことで彼を思う通りに動かしていた。

そして、もう一人はなんと住職の江西(麿赤兒)。太郎の調査で彼は展子の兄であることが分かる。複数人の住民が随明寺から離檀し、アビゲイルに改宗したとみられるが、住職でなおかつ人望も厚い江西なら彼らをそそのかすのは容易であっただろう。改めてアビゲイルという宗教団体がこれだけ順調に信者を増やし、またハヤブサを自分たちの活動場所として乗っ取っていく流れを自然な形で描く本作の作り込み具合に驚かされる。

最終回を前に怒涛の展開が続き、これまでの牧歌的な太郎と消防団員たちのやりとりが失われたのは寂しい。いまや太郎の前で空気を読まず彩の目的を考察したり、桜屋敷に突然現れた映子(村岡希美)をお化けと勘違いして怖がる中山田(山本耕史)のブレない姿勢だけが救いだ。

それにしても、映子はなぜ太郎の元を訪ねてきたのか。杉本に対してあまり好意的とは思えない視線を向けていたのも気になるところ。アビゲイルからハヤブサを守るための鍵はもしかしたら彼女が握っているのかもしれない。どのような形になるかは分からないが、ラストにはアビゲイルの脅威から逃れ、平穏を取り戻したハヤブサで太郎ら消防団員たちの笑い声が聴きたいものである。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{最終話ストーリー&レビュー}–

最終話ストーリー&レビュー

最終話のストーリー

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“随明寺”住職・江西佑空(麿赤兒)が“聖母アビゲイル教団”を受け入れたことにがく然とする、ミステリ作家・三馬太郎(中村倫也)。その矢先、太郎たち消防団は近々、教団が“聖母降臨”の儀式を行う予定だと知る。彼らは発足以来、江西の亡き妹である山原展子(小林涼子)を神格化し“聖母”として崇めてきたが、その後継者として新たな聖母を擁立する計画を企てているようだった。太郎は、その“新聖母”こそ、立木彩(川口春奈)だと直感。そして、儀式は皆既日食の日に開催されるに違いないと推理する。

ハヤブサ消防団は、儀式を阻止しようと一致団結。急きょ東京から駆けつけた中山田洋(山本耕史)はこれ以上踏み込むのは危険だと心配するが、太郎は「ハヤブサは僕らハヤブサ分団で守らなければなりません」と宣言。一同も大きくうなずく。

そして儀式当日――。太郎は作家である自分にしかできないある方法で、彩を止め儀式を制止しようとするが、はたして太郎の言葉は彩に届くのか…!?  このままハヤブサは教団に乗っ取られてしまうのか!? ついにハヤブサに襲いかかる陰謀のすべてが明らかに…!

最終話のレビュー

円の調和を乱す者にはシャクナゲを贈ることで警告を、改めぬ者には鉄槌を食らわす。アビゲイルの信者たちは教本に従い、都合の悪い存在を排除してきた。しかし、それは聖母・展子(小林涼子)の本意ではなかったことが「ハヤブサ消防団」最終話で明らかとなる。

展子はどのような人生を歩み、なぜアビゲイルを作ったのか。教本には書かれていない彼女の過去を知るのが、随明寺住職・江西(麿赤兒)とアビゲイルの信者である映子(村岡希美 )だ。江西は展子の異母兄妹、映子は展子とハヤブサで育った幼馴染だった。

展子は江西の父親とその愛人である母との間に生まれた子供。母が崖から飛び降り亡くなった後、彼女は父親に引き取られたが、毎日のように暴力を振るわれていたという。そんな展子に唯一優しくしていたのが、兄である江西。彼は展子のことを可愛がっていたが、彼女は1年半ほどで子供のいない遠い親戚の家の元へ出されたそうだ。

新しい家でも辛い目にあった展子は、ある日一人で元の家を訪ねてきた。きっと江西のことを心から信頼していたのだろう。だが、江西は父親が怖くて手を差し伸べられず……どうやら大人になってからも、万引きや売春などの犯罪に手を染め、幸せとは言い難い人生を送っていた展子への申し訳なさと後悔に今でも彼は苛まされている。

だが、太郎(中村倫也)の家に再び訪ねてきた映子の証言で明らかになるのは、何度もくじけそうになりながらも懸命に生きる展子の姿だ。映子が大人になり再会した頃の展子は病におかされ、入退院を繰り返していた。それでもなお、厳しい環境でも育つシャクナゲのように威厳を放つ展子に映子は尊敬の念を持ち、のちに彼女が身を置くアビゲイルの門を自ら叩いて熱心な信者となったのだ。

しかし、展子はただ教団に利用されたに過ぎない。彼女が余命僅かなのをいいことに、特別な力を持った聖母として崇めた当時の幹部たち。死してもなお、信仰の対象として利用され続けた彼女が病床で願っていたのがハヤブサへの帰還だ。江西は展子の遺骨を返してもらう代わりに、アビゲイルの乗っ取り計画に協力しただけで、太郎たちを裏切ったわけではなかった。教団の異様さに気づいてしまったことで監視下に置かれた映子もまた、心を閉ざしたふりをして、じっと崩壊の日を待ち続けてきたのである。

全ての真相を知り、「ハヤブサは僕らで守らなければ」と立ち上がるハヤブサ分団。タイトルバックに太郎、勘介(満島真之介)、賢作(生瀬勝久)、郁夫(橋本じゅん)、森野(梶原善)の5人が横一列に並ぶ場面は映画『アルマゲドン』のワンシーンを彷彿とさせた。彼らはまさに、ハヤブサのヒーローだ。

本作がスタートした直後は、閉鎖空間である田舎ならではのジメッとした人間関係、そしてその結果として起こる不可解な事件が描かれると思っていた。実際にハヤブサのような山間部を舞台にした作品は、そういう田舎の負の部分を見せるものが多い。だが、このドラマは違う。過疎が進み、住民が減り、観光客がほとんど訪れない場所にも希望はあると教えてくれた。ハヤブサの希望は、不便を補うように支え合い、ともに生きる人々。その一人である勘介の「みんなと楽しく過ごせたら満足」というささやかな願いを壊す権利は誰にもない。

省吾(岡部たかし)が勘介のようには思えず、承認欲求を満たすために自ら本来あった幸せを壊すに至ったことは残念で仕方がない。だけど、心に隙が生まれる瞬間は誰にだってある。そこに付け入る人がいることが問題なのだ。杉森(浜田信也)は省吾をはじめ、競争社会からあぶれた人たちに仲間と役目を与えてきた。それ自体は決して間違ったことではないが、杉森にとって信者たちは恩に報いろうと、何でも言うことを聞く都合の良い駒でしかない。だからこそ、平気で排除できてしまうのであって、「みんな家族」という彼の言葉は詭弁だ。

「作家人生をかけて断言します。あなたに人々を救う気はない。あなたにあるのは歪んだ支配力だけです」

杉森と対峙し、そう断言する太郎。演じる中村倫也の力強い眼差し、聞き取りやすい低音、落ち着きのセリフ運びが一つに集約され、言葉一つひとつに説得力をもたらした。一方で、新聖母として擁立されようとしている彩(川口春奈)を救おうと、「山原展子の生涯」という一夜にして書き上げた脚本とともに彼女を説得する太郎からは感情が溢れ出す。作家としての知的で理路整然とした一面と、ハヤブサで出会った大切な人たちとのやりとりの中で彩り豊かな感情が溢れる人間味。対極とも言えるその2つを両立しながら、中村倫也が作り上げた三馬太郎という主人公はこの上なく魅力的だった。

そしてそんな太郎が、いつしかアビゲイルと同じくらい大切な存在になっていたという彩。「彩さんも展子さんと同じただの一人の人間」「弱くたっていいじゃないですか」「僕と一緒にいてください」という太郎の愛情あふれる言葉、そしてハヤブサという場所を守りたいという展子の執念が生み出したとも言える彼女の霊が、彩の心を変える。聖母降臨の儀式が行われる皆既日食の日、彩は防災無線を通じて「ハヤブサ地区で連続して起きた火事はユートピアを作るために私たちアビゲイルが起こした放火です」と教団の罪を告発した。

その後、暴走する真鍋(古川雄大)から彩を守り、猟銃で撃たれる太郎だったが、消防団の仲間に救い出される。「ハヤブサは僕が守る」という子供の頃の決意を太郎は果たしたのだ。

警察に連行される直前、居酒屋「サンカク」で悠々と鶏ちゃん焼きを味わう杉本の姿や、怪しい怪しいと言われていた中山田(山本耕史)が少し様子がおかしいただの善良な編集者だったこと。さらに事件から数年後、アビゲイルの残党により擁立された新たな聖母としてカメオ出演した“ちゃんみな”など、言及したい点はたくさんあるが、何よりハヤブサにかつての平穏が戻ってきたことが喜ばしい。

池井戸潤の小説に脚色を加え、事件の真相に迫っていくドキドキだけじゃなく、ハヤブサ分団をはじめ、登場人物たちのやりとりで私たちを和ませてくれた本作。個性あふれる、愛おしい登場人物たちを演じてくれたキャストたちにも大きな拍手を送りたい。またどこかでハヤブサの彼らに会いたいものである。

※この記事は「ハヤブサ消防団」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「ハヤブサ消防団」作品情報}–

「ハヤブサ消防団」作品情報

放送日時
2023年7月13日(木)スタート。毎週木曜夜21時~

出演
中村倫也/川口春奈/満島真之介/古川雄大/岡部たかし/梶原善/橋本じゅん/山本耕史/生瀬勝久/麿赤兒/村岡希美/小林涼子/福田転球/金田明夫/大和田獏/一ノ瀬ワタル

原作

池井戸潤『ハヤブサ消防団』(集英社)

主題歌
ちゃんみな『命日』(NO LABEL MUSIC / WARNER MUSIC JAPAN)

脚本
香坂隆史

音楽
桶狭間ありさ

ゼネラルプロデューサー
三輪祐見子(テレビ朝日)

プロデューサー
飯田サヤカ(テレビ朝日)
木曽貴美子(MMJ)
小路美智子(MMJ)

演出
常廣丈太(テレビ朝日)
山本大輔(アズバーズ)
ほか

制作協力
MMJ

制作著作
テレビ朝日