アニメーション作家・大平彩華が語る、“AI”“NFT”で世界とつながる方法┃「ギャルの明るくて強い精神性は、コロナ禍を経た世界で求められている」

映像業界の働き方

テクノロジーの発展とともに、映像表現も進化を遂げている。最先端のカメラやソフト、AIなどの制作ツールや、多様化するメディアの中で映像クリエイターたちは「テック」とどのように向き合っているのだろうか?

今回話を聞いたのは、80〜90sアニメカルチャーへの深い愛を感じさせるアニメーション表現が話題の大平彩華。元「ギャル」でありアニメの「オタク」であることをアイデンティティに映像制作や、最近ではアーティストの草野絵美と立ち上げたNFT プロジェクト「新星ギャルバース」が世界的な人気も獲得している。

そんな彼女のキャリアを紐解くとセル画でのアニメ制作に始まっていた。そこから、どのようにNFTやAIといった最先端の技術を吸収していったのだろうか。

アニメーションはセル画から

──大平さんの作品には、日本の平成に生まれた「ギャル」と「アニメ」の要素を感じます。幼少期はどのようなものに触れてきましたか?

大平彩華(以下:大平さん):小さい時は、漫画やアニメに夢中でした。ジャンルも手塚治虫やAKIRA、ジャンプといった少年漫画も買うし、『神風怪盗ジャンヌ』など少女漫画も同時に読むような子供でしたね。実家にあった小学生時代のムツゴロウノートを見返した時に、連載漫画のように描いてて、いま思うと黒歴史です(笑)。

──最初の視覚体験として、漫画やアニメの影響があったんですね。そこからアニメーション、もしくは映像に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

大平:20歳の頃に気がついたら、実写映画に興味が湧いていて。当時は個人でも買える値段のムービーカメラを手に友人を撮ってましたね。周りにそうした映像の知識を持っている人もいなければ、YouTubeで使い方を学ぶような時代でもなかったので、独学でもとにかく何かやりたいという気持ちが先行していました。でも、色々と映像の世界を知っていくうちに映像に関係する職業になるためには、美術大学や制作会社の出身者が多いことにも気がついて。そういう人たちがいる中で、普通にやっても敵わないなと思ったんです。そこから自分の武器になるようなものを考えた時に、小さい頃から唯一無我夢中になれる絵を描くことを思い出して。他の人の努力に勝るためには自分自身が「没頭」や「ただただワクワクできる感覚」を十分に感じれるものとして、アニメーションを取り入れて実写と混ぜたら自分らしい表現が楽しめるのかなと。

──とはいえ、アニメーションも基礎的な技術が必要となってきますよね。以前のインタビューでは、セル画から学んだとおっしゃっていて驚きでした。

大平:最初のうちは、実写もアニメーションも独学で勉強していたのですが、急に途方に暮れた時期に直面したんです。アニメーションは、基本的に制作会社というチーム単位で行うことなので、一人で作ってる自分に対してあまりにも無謀すぎることをやってるように感じてしまって。でも、20代の頃だから大学に入学する程のお金もないし、どうしようかと思った時に阿佐ヶ谷の小さなアニメーションの教室を見つけて数ヶ月通いました。おじいちゃんが先生のこじんまりしているところだったので、まず最初に出てきたのは、昔ながらのライトの上にタップでつけられた紙。わたしの中では、アニメーションといえばデジタルで作画して編集するものだと思っていたので、まさか1枚ずつ手描きでスキャンするなんて想像していませんでした。かといって、おじいちゃんに「デジタルの方法を教えて欲しい」と伝えても「知らん」と言われてしまって(笑)。

──宮崎駿にデジタル教えて欲しいといってるようなもんですもんね(笑)。それでも、そこでの経験は、いまのアニメーション制作に影響してると感じますか?

大平:驚きつつも、最後短編のアニメーションを完成するところまで基礎知識を学んだおかげで、手描きの質感は吸収できたと思います。当時も手で描いたものを、家に帰ってデジタルに置き換えるような作業をiPadで応用してみて。そうした基盤がある上で、いまはiPadで描いてから、PCでプレミアやアフターエフェクトで編集するようなプロセスで制作できてると思います。

香港から帰国して、ラッパーたちと仕事

──独学で始めてから、その後クライアントワークを手に入れるまではどのような活動を行っていましたか?

大平:最初のうちは、仕事もなかなか来なかったので、なんとかポートフォリオを完成させて仕事を取れるように頑張ろうと意気込んでいて。一方で、東京での制作もなんだか嫌になって、ちょうど家の更新のタイミングだったこともあり、2017年頃に勢いで香港に行ったんです。もともと映画『ブレードランナー』のような香港のSFっぽいネオン街の風景やウォン・カーウァイ監督の作品が好きだったし、現地の同じ年齢の映像アーティストやクルーにも興味があっていつか行ってみたいなとは思っていた街でした。特に九龍城の世界観が好きなので、現地でも似たような綺麗な刑務所のような場所に住んでいましたね(笑)。誰も知り合いがいない街で集中力を妨げるものもないので、黙々と勉強しながら制作してました。夜はクラブに行けば、共通の趣味がある子と出会ってそこから何百人もの友達を作って帰ってきて。いまでも海の向こう側から、当時知り合った友達の活躍をSNS上で見れるのはモチベーションにもなりますね。

香港時代に描いたアニメーション

──帰国してから最初のクライアントワークとなった作品を教えてください。

大平:BAD HOPの当時のマネージャー兼映像ディレクターのRenichi Murakoshiがポートフォリオを見てくれたのがきっかけで、武道館公演のLED映像、Visualizer、ジャケのアートワークなどを制作しました。

川崎を拠点に、活躍するHIPHOPクルー・BAD HOP。2018年11月、日本のHIP HOPアーティスト史上最年少で日本武道館公演を成功させた

大平がビジュアルを担当したBAD HOP『Choice feat. Vingo, Yellow Pato & Bark』のMV

Vingo, Bark & G-k.i.d 『RedruM』のジャケ

大平:あとはポートフォリオで制作していた昭和的なアニメーションを見てくださったm-floのVERBALさんが声をかけてくださって、m-floのアニメーションシリーズやMV、ジャケットのアートワークなど担当させていただきました。そこからはありがたいことにトントン拍子で仕事をいただけるようになりましたね。

m-floのメンバーが出演するblock.fmの番組「Mortal Portal Radio」の様子をアニメ化した映像作品

m-flo♡chelmico 『RUN AWAYS』のMV

同作のジャケ

–{NFTを使えばアニメーションも制作できるかも}–

NFTを使えばアニメーションも制作できるかも

2022年からスタートした大平がディレクター兼リードアーティストを務めるアニメ制作を目的としたNFTプロジェクト。ギャル、メタバース、ユニバースをかけあわせながら、平成初期の少女アニメのテイストを取り入れた、背景・顔・肌・身体・洋服のパーツをランダムに組み合わせて自動生成されたNFT。その数は8,888体もあり、世界中の人が集まりホルダーとして参加できるコミュニティがあり、ギャルバースの目標である「アニメ制作」のために議論が行われている

──その後、「新星ギャルバース」(以下、ギャルバース)の活動がスタートしますよね。どのような経緯で共同創業者の草野絵美さんと話が膨らんでいったのでしょうか?

大平:ちょうどアニメーションから映像ディレクションまで活動が広がっていったタイミングで、コロナ禍に直面して。もともと草野さんとはMV制作を通して面識があったことから、お互い暇だからなんか作りたいねとカジュアルな会話から始まりました。


パートナーの草野絵美はアーティストで起業家。昭和歌謡。Emi Satellite名義で音楽活動も行っていた

大平:最初は一緒にアニメーション作りたいねという動機があったのですが、現実的に考えると制作費やチーム作りとしては難しくて実現性はぼんやりしていて。そこで草野さんから海外でNFTがどうやら流行ってるらしいと聞いたり、その後に草野さんの息子が作ったNFT「Zombie Zoo Keeper」(*)が話題になったことでインプットが増えたことをきっかけに、NFTを使えばアニメーションも制作できるかもと可能性と感じました。NFT界隈の交友関係も広がったことで、チームメンバーでもあるロサンゼルスとオーストラリア在住の2人もジョインしてくれて、テックやNFTに詳しい彼らがいるおかげで活動初期のロードマップ設計もスムーズに進みました。わたし以外の草野さん含めるメンバーのプロモーションやマーケティングの力によって、ギャルバースを8000体作るに至るまで制作に集中できたと思います。独学で続けてきたわたしにとって、初めてのチームワークだったこともあり、いまでもギャルバースでアニメーションを作りたいという最初に抱いた夢は目指し続けられています。

*…….2021年に、当時小学3年生だったZombie Zoo Keeperがゾンビを題材にしたドット絵をNFTで出品したところ、スティーブ・アオキが240万で購入するなど著名人の間で話題となる。その後、作品は売れ続け小学生ながら世界的アーティストとなった。

ギャルバースのキャラクターたち

──ギャルバースの名前の通り、キャラクターの見た目は多種多様であっても全員にギャルの精神性が宿っていますよね。現在「Y2K」のトレンドからギャルカルチャーもリバイバルを遂げていますが、大平さんが描くキャラクターのイメージは表層的ではないように感じています。実際に、10~20代でギャルカルチャーを体験した背景があるのでしょうか?

大平:言われてみれば、振り返ると10代にめちゃくちゃギャルやってて。週3で日サロに行ってアパレルショップの販売員をしているような生活でした。

ギャル時代のプリクラ

大平:でもギャルだけっていうよりも、小さい頃から好きだったアニメや漫画に対する想いは変わらなくて、「オタク」も「ギャル」もどちらのカルチャーも背負って生きていたように思います。いまの流行りだからということは関係なく、そうした平成初期の日本独特の生々しいカルチャーや時代感を体験したからこそ、自然と作品にも自分のアイデンティが現れているのかもしれないですね。いまでも自分が当時流行ったものを見て、「懐かしい!すごい好きだった!」と恋しい気持ちでテンションが上がるんです。ギャルバースの活動では、そういう感覚を思い出すように全員の心を幼少期に戻したいですね(笑)。

──ギャルバースは、そうした感覚に共感した世界中のファンダムと繋がりながらも一緒にロードマップを達成しているようなイメージです。日本のアニメカルチャーは世界的に共有できるコンテンツのひとつですが、その中でもギャルバースが注目されるようになった理由はなんだったと思いますか?

大平:NYで開催されたNFTの祭典「NFT.NYC 2022」に参加した時は、そもそも日本から参加している人が少ないことから、海外視点の日本インスパイア系のアニメ絵PFP(プロフィールピクチャー)プロジェクトが多かったです。個人的には海外から見たイメージとして忍者、侍のモチーフとか、「AZUKI」をはじめに屋号に変な名前があるのは面白いなと感じていて。萌え系路線でもやたら女性のアイコンの胸が大きいとか典型的なオタクカルチャーのイメージのPFPばかりで、それらも否定はしないのですが、単純に「女性がPFPにしたい」と思えるプロジェクトがあまりなかったんだと思います。そこにギャルバースが良い意味で目立って出てきて。実際に祭典でも「今まで自分のためのNFTが本当になかったけど、ギャルバースが出てきたおかげで私のためのPFPに出会えてすごい嬉しかった」とリアクションをいただきました。ほかにも性別や人種に限らないキャラクターのパーツや肌を描いていることから、子供の頃、魔法少女アニメなどの日本のアニメを好きだった黒人の女性にも「やっと主人公になれた」と言ってもらえて。個人的にもギャルは見た目だけじゃなくて概念だと思っているので、そうやって世界中の様々な人たちに喜んでもらえて嬉しかったです。

──大平さんの思うギャルの概念を教えていただけますか?

大平:他人の評価より自分の評価で生きることなんだと思います。「ウチ等が最強」って言い切れるくらい強い意志がギャルにはある。そうやってギャルの明るく強い精神性は、コロナ禍を経て世界が停滞していた時代にとって、自然と求められるものだったのかもしれないです。

AIをインスピレーションにアニメ制作

──最近のInstagramのポストでは、AIに大平さんのタッチを学習させてギャルバースイラストを生成していましたね。クリエイターとしてAIについて、どのように感じていますか?

大平:現在ギャルバースコミュニティ内でAI研究をしているホルダーさんがいて、実験的に私の絵をAIに学習させて絵の描けない人でもギャルバースの二次創作などを楽しめるようにする取り組みを行っています。実際にギャルバースの活動としても、ホルダーさんとのコミュニケーションツールとしてAIはうまく活用しています。

AIで生成したギャルバースのキャラクター

大平:先ほどお話した通りロードマップの最終目標である、ホルダーさんと一緒にアニメーション制作をする夢が、MVという形でようやく今年の7月末に実現しそうなんです。そこで制作のプロセスを一緒にホルダーさんと共有したいとなった時に、活用しているのが「midjouney」によるAI画像生成です。

ホルダーが提出したデザイン案

大平:例えば、ギャルバースでこれまで描いてきたキャラクターには下半身や全体の衣装が存在していないので、ホルダーさんにデザイン募集をする。従来であれば、画力がある人のみ参加可能となってしまうところをAIを使えば、その人がイメージするものをテキストベースで気軽に作ってプロジェクトに参加できるんです。しかもAI自体は、人間が考える常識的な重力や洋服の概念を超えてくれるので、ホルダーさんもわたしも予想外の発想を一緒に楽しめる機会になっています。イメージに限らず、マーケティングやプロモーションもみんなでDiscord上で考えているので、全ての過程を公開しているので本当に「みんなで作っている」という感覚ですね。

–{海外アーティストのMVを制作}–

海外アーティストのMVを制作


先日公開されたギャルバースが手掛けたシンガーソングライター・Tove LoのMV『I Like u』

MVのビジュアル

──MVについてストーリーラインなど詳細伺ってもいいですか?

大平:スウェーデン・ストックホルム出身のシンガーソングライター・Tove Loさんの新曲『I Like u』をギャルバースとのコラボMVとして、私が総監督で制作させて頂きました。もともとのギャルバースのコンセプトでもある「Mother Planet」という聖なる星が爆発して、銀河に浮かぶそれぞれの星に様々な使命を持ったギャルがたどり着いたというストーリーを元にしたくて。楽曲を聴いた時に「I like you」と相手を想うような繰り返し歌うサビが印象的でした。ギャルバースのコアコンセプトにある宇宙のイメージとサビを掛け合わせる時のインスピレーションとして、まず思い出したのが漫画『最終兵器彼女』でした。漫画の内容はある日、普通の高校生が突然人類の最終兵器になっちゃって世界で戦う一方で、10代の女子高校生としては思春期ならではの恋愛で悩む生々しさもあって。

絵コンテ

MV『I Like u』より

ギャルバースの主人公ゼロのデザイン画

大平:そこからインスピレーションを受け、常に好きな人の事を考えてる不安定な心情の少女Tove Loがある日、惑星を襲う敵の襲撃をきっかけにギャルバースとして覚醒して、敵に立ち向かうその瞬間も好きな人からの返事を待っているという、彼女の持つ強さと弱さ、ドキッとするような猟奇的な部分を魅せるようなストーリーラインで描きました。心は繊細だけど、どんどん覚醒して最後にはTove Loのアイデンティでもあるサソリのような最終形態に変化していくようなキャラクターデザインです。

 変身後のキャラデザ。MV『I Like u』より

大平:ホルダーさんとは、それぞれのシーンで出てくる背景デザインやキャラクターの衣装をAIを使って募集して、それらをインスピレーションにしながらわたしが最終的に仕上げていくようなプロセスを共有しました。ギャルバースとしての夢に合わせて、個人的にも抱いていた海外のアーティストと仕事するという夢が叶うので嬉しいです。

AIで生成した背景画のイメージ

MV『I Like u』より

──ある意味、独学で始まったクリエイターの道、チームワークで成し遂げるギャルバースの道のどちらも融合する瞬間ですね。

大平:そうですね。昔描いていた夢の点と点が徐々に結ばれ始めているような気がします。今後は世界で活躍するクリエイターになるために、音楽以外にもファッションや色々なジャンルとコラボレーションしていきたいです。

Profile

大平彩華
アニメーション作家/NFTアーティスト
ノスタルジックなアニメーションを主体とした映像作品を中心に制作し、これまでm-flo、CHAI、NOA、BAD HOP、JP THE WAVYなど多くのメジャーアーティストやHIPHOPアーティストのMVを手掛ける。また自身がディレクター兼リードアーティストを務めるアニメNFTプロジェクト『新星ギャルバース』が世界最大NFTプラットフォームopenseaで24時間ランキング1位を記録し話題を集める。
(撮影=Ryo Yoshiya、取材、文=Yoshiko Kurata)