杉野遥亮主演の“水10”ドラマ「ばらかもん」が2023年7月12日放送スタート。GP帯連ドラ初主演となる杉野遥亮が、長崎・五島列島で島民たちと交流し心を開いていく若き書道家・半田清舟を演じる。同名原作漫画も大人気で、いかにハートフルな世界観を体現できるか注目されている。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
もくじ
※話数は随時更新します。
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
都会生まれ、都会育ちの半田清舟(杉野遥亮)は、高名な書道家・半田清明(遠藤憲一)を父に持ち、新進気鋭の書道家としてもてはやされてきた。だが、ある賞を受賞した祝いの席で、清舟は美術館の館長で書道界の重鎮・八神龍之介(田中泯)から「実につまらない字だ」と批判されたことに激高。マネージャー・川藤鷹生(中尾明慶)の制止を振り切って館長につかみかかる。清明は、そんな清舟に「お前は書道家の前に、人間として欠けている部分がある」と告げ、長崎県・五島列島で生活して頭を冷やせと命じる。
五島福江空港に降り立った清舟は、バスもタクシーもいない田舎感にあぜんとしながらも、初めて会った島民・琴石耕作(花王おさむ)の運転するトラクターに乗り、やっとの思いで目的地の七ツ岳郷に到着。郷長の木戸裕次郎(飯尾和樹)に古びた一軒家を案内されるが、誰も住んでいないはずなのに、室内には人の気配が…。
そこにいたのは近所の小学生・琴石なる(宮崎莉里沙)。なるは村の悪ガキたちと、この家を基地にしていたのだ。 書の修行をするため、静かな一人きりの時間を過ごせるかと思いきや、なるを始め、勝手に家に上がり込んでくる自由奔放な島民たちとの人付き合い、慣れない田舎の一人暮らしに翻弄されてしまう清舟。
しかし、清舟は、耐性のない日常に戸惑いつつも、島民たちに助けられ、励まされ、少しずつ心の成長をし、新たな書の境地を拓いていく。この夏、日本を元気にするハートフル“島”コメディー開幕!
第1話のレビュー
父親は有名な書道家・半田清明(遠藤憲一)。「七光り」「賞をとるためにコネを使った」と判を押したようなやっかみを向けられる息子・半田清舟を演じるのは、若手役者のなかでも独特の地位を築きつつある杉野遥亮だ。
半田清舟は書道家の雅号で、本名は半田清。父親の名前から一文字“欠けている”ことも、彼が密かに抱える劣等感に通じている、と考えるのは行き過ぎだろうか。
影響力のある美術館の館長・八神龍之介(田中泯)からの「手本のような字」という評価に激高し、掴みかかってしまった半田は、しばらく長崎は五島列島で頭を冷やすようにと言いつけられてしまう。
都会に慣れた半田にとって、空港を出た先にタクシーが停まっていないことも、バスの間隔が数時間も空いていることも、許可なしに村民がズカズカと自宅へ上がり込んでくることも、何もかもがカルチャーショック。
しかし、半田にとっては良い薬、とも言えるだろう。このドラマは、「お手本」や「基本」にがんじがらめになり、型に嵌まり込んでしまった半田が、五島やそこに暮らす人たちとの交流をとおして、少しずつ“柔らかく”なっていく物語だから。
思っていたよりもコメディ色が強めだが、軽快すぎるわけではなく、バランスがちょうどいい。杉野演じる半田の真面目さ、気難しさ、なんだかんだ言って悪くはなりきれない持ち前の素直さが、良い塩梅で表現されている。
そして、子役の宮崎莉里沙演じる琴石なるが、また良い。かわいらしさも交えた、ルールに縛られない自由さと奔放さが、飯田との良い掛け合いを生んでいる。
半田はこれまで、父のようになりたいと憧れ、理想の書道家になるよう努力してきた。「親の七光り」と影で言われようが、持って生まれた才能以上の時間と労力をかけてきたに違いない。お手本や基本が“褒め言葉”だった世界から、いつの間にか、「賞をとるために書いた字」「平凡という壁を乗り越えようとしたか」と一段違う道を示唆されるようになっていた。
きっと半田は、この五島で試される。
嵌まった型から抜け出ることを。壁を越えることを。
その先に見える景色を確かめるために。
「見ようとしないと見られない」「この壁を越えなきゃ、何も見られないぞ」……なるのそんな言葉が、半田を鼓舞する。
防波堤を越えた先に見えた夕日は、綺麗だった。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
清舟(杉野遥亮)が長崎・五島列島に移住してから1ヵ月が過ぎようとしていた。そんな折、清舟のもとにマネージャーの川藤鷹生(中尾明慶)から電話が入る。ある書道展に応募した清舟の作品が、準賞だったという知らせだった。自信作だっただけに大賞がとれなかったことにショックを受ける清舟。しかも、大賞に選ばれたのは18歳の新人・神崎康介(荒木飛羽)の作品だと知り、呆然となる。
そこに、郷長の木戸(飯尾和樹)と高校生の息子・浩志(綱啓永)がやってくる。近く行われる町民体育祭で七ツ岳郷が万年最下位から脱出するために、清舟にゼッケンの文字を書いてもらいたいのだという。書展の結果に落ち込む清舟はそんな場合ではないと断ろうとするが、郷長は「団結力のためには新しいゼッケンが必要なんだ」と告げると、大量のゼッケンを押しつけて去って行く。
そんな中、福江島を豪雨が襲う。家の雨戸は吹っ飛び、携帯は水没し、風呂は壊れるなど、散々な目に遭う清舟。書展の結果も相まって、更に落ち込んでしまう。なる(宮崎莉里沙)は気分転換に清舟を村の餅拾いの行事に誘い出して‥‥。
第2話のレビュー
冒頭から、女子小学生に服の裾を引っ張られ困る杉野遥亮、宇宙人だと勘違いされ突き飛ばされる杉野遥亮、防犯ブザーを鳴らされる杉野遥亮、18歳の新人に負けて目に見えて落ち込む杉野遥亮、台風で台所の窓が割れ、雨漏りし、挙げ句の果てに停電して泣く杉野遥亮……と、ファンが見たい杉野遥亮のオンパレードだった。
五島での生活も一ヶ月目に入った半田(杉野遥亮)、田舎での生活も慣れたもの……と思いきや、初めての台風に涙目状態。スマホを水没させ、大事なデータが入ったパソコンも雷にやられてしまえば、現代に生きる大の大人は全員、泣きたくもなるだろう。
ましてや半田は、自身のことを「書道をとったら何も残らない」人間だと思っており、おまけに満を辞して書いた大作は大賞を逃したばかり。18歳の新人に負けたと知っては、自己肯定感もダダ下がりである。
ちょっと扱いが面倒な存在になりかけている半田にも、五島の人たちは優しい。台風のなかでも窓の補強をしに来てくれたり、近くで雷が落ちたことを心配してやってきたり、ガス風呂が壊れたと相談すれば五右衛門風呂の入れ方を教えてくれたり。
あれだけ煩わしいと思っていた島の人間関係に、半田はわかりやすく救われ、癒されていく。
2話ではとりわけ、新船を祝う伝統の餅まきシーンが必見だった。視聴者でも、田舎出身か都会出身かで感想が真っ二つに分かれるだろう。本編でも、上ばっかり見ていたら餅は取れない、チャンスは意外にも下に落ちているとアドバイスを受ける。確かに、投げられる餅を空中でキャッチするよりも、人の手を逃れ地面に落ちた餅を狙うほうが効率が良い。
餅に群がる島民たちを見ながら「世の中には取れる人間と、取れない人間がいる」と人生を悟る半田。地面に落ちたチャンス=餅を狙え、と言われても「それでも取れなかったら?」と不安は拭えない。そんな彼に差し出された言葉が、とても優しい。
「その時はな、どうぞお先に、譲ってやって、もっと大きな餅を狙え」
餅まきで人生を悟った半田は、その後、島でおこなわれる体育祭のためにゼッケンに文字を入れた。徹夜で、参加する島民たちのぶんを仕上げた。島の暮らしに慣れてたまるか、と反発していた心が、島民たちの優しさによってほぐれている。
半田にとって、餅まきが「不覚にも、ちょっと、楽しかった」からだろうか。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
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半田清舟(杉野遥亮)が暮らす五島列島に、マネージャーの川藤鷹生(中尾明慶)がやってくる。川藤は、書道展で清舟を差し置いて大賞を受賞した若干18歳の書道家・神崎康介(荒木飛羽)と一緒だった。
同じ頃、清舟は墨汁を買うために新井商店に向かっていた。店の前にいた琴石なる(宮崎莉里沙)は、店長が不在だから何か買うときは奥の部屋にいる新井珠子(近藤華)に声をかけるよう告げる。清舟は、墨汁を手にとり、珠子に声をかけるが、何の反応もない。おそるおそる店の奥へ入っていき、珠子の部屋を開ける清舟。すると珠子は、異様なまでの集中力でマンガを描いていた。珠子が描いたマニアックなマンガを見た清舟は、「独自の世界観があってかっこいいよ」と伝える。そんな清舟の言葉に心が動いた珠子は、今度自分が描いたマンガを読んでほしい、と頼み……。
清舟が去った後、新井商店に川藤と康介が清舟の家の場所を尋ねにやってくる。店の前で貝殻を並べて売っていたなるに、清舟のことを尋ねる川藤たち。するとそこに、木戸浩志(綱啓永)と山村美和(豊嶋花)が通りかかる。事情を知った美和は、康介が清舟の悔しがる姿を見るためにわざわざやってきたものと思い、二人を清舟に会わせるな、とこっそりなるに伝える。
一方、川藤たちのウワサは村の大人たちの間にも広がっていた。郷長の木戸裕次郎(飯尾和樹)たちは、村人とともに不審者捜しを始め……。
第3話のレビュー
このドラマの魅力は、登場人物たちの素直さと、メッセージがまっすぐ伝わってくるところだ。
半田(杉野遥亮)に憧れ、東京へ連れ戻そうとする18歳の天才書道家・神崎康介(荒木飛羽)は少々屈折しているように見えるけれど、それも半田を崇めるがゆえ。半田のようになりたい一心で、これまで彼が登場した雑誌をコレクションしたり、本人に会いたいがために賞に応募したりと、行動基準がわかりやすい。ただ、感情表現が少し周りくどいだけで。
半田が己の悩みと向き合い、この島で何かを見つけようとしていることもわかる。明らかに、半田はこの島に来て変わった。島の環境、そして、なる(宮崎莉里沙)たちを始めとする島民たちとの交流から、素直に学びを得ている。
「人が成長するためには、ライバルってもんが必要だろ」と言って、わざわざ神崎を連れてきた画商の川藤鷹生(中尾明慶)も、さすが半田の中学生時代からの幼馴染だ。彼の悩みの根源や、前を向くスイッチの入れ方をよくわかっている。
川藤は言う。「若いもんの役目は、失敗することを恐れずに、新境地を拓くってことなんじゃねえのか?」と。書道界で巨匠といわれる父の背中を見て育ち、書く字もそっくりになった半田にとって、基本に沿った字で賞をとるのは“成功”を意味した。そして、“失敗”はわかりやすく“悪”だった。
川藤の言葉、そして神崎というライバルの存在が、半田に気づかせる。「半田清舟じゃなければ書けない字を書きたい」と。
この島に来てからというもの、許可なく上がり込んでくる島民たちや、予期しない台風の影響、思うように拾えない餅まき、せっかくのタイを釣り損ねるなど、予定調和とはいかない暮らしを味わっている半田。
基本に沿うことで安心し、結果を出してきた半田は、ようやくこの島で何かを見つけようとしているのかもしれない。脱線し、“遊ぶ”ことで、自分にしか書けない字を模索しようとしている。
川藤はぜひ、失敗は恐れなくていい、という教えを、新井珠子(近藤華)ことたまちゃんにも教えてあげてほしい。内緒で漫画を描いている彼女が、ようやく勇気を出して半田に見てもらおうと決心した。結局3話では、川藤や神崎が来てしまったことでひと騒動あり、それが叶わなかったのだ。
若者の役目は、新境地を拓くこと。失敗してなんぼ、という真っ直ぐすぎるメッセージはそのまま、このドラマの魅力であり、唯一無二の色となりつつある。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
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ある日の朝、半田清舟(杉野遥亮)が目を覚ますと、両脇には何故か山村美和(豊嶋花)と新井珠子(近藤華)が添い寝していた。そして足下には琴石なる(宮崎莉里沙)が…。
驚いて飛び起きた清舟は、カギをかけても家の中に入ってくることが出来る理由を尋ねた。すると、悪びれた様子もなく、合鍵を取り出してみせる美和。実は、美和は勝手に5本も合鍵を作っており、木戸浩志(綱啓永)含めてみんなで共有していたのだ。しかも、そのうちの1本はどこかで落としてなくしてしまったのだと言う。あ然となる清舟。美和と珠子は、そんな清舟を気にも止めずに、夏休みの宿題で習字をやらないといけないから教えて欲しい、と頼み込む。
清舟は「オレが教えるからには、絶対入賞させてやる!」と宣言し、さっそく熱血指導を開始。するとそこに、清舟にマネージャーの川藤鷹生(中尾明慶)から電話が入る。聞き耳を立てていた美和たちは、清舟が「そのときは帰るよ、東京に」と話しているのを聞いてしまう。
そんな折、書展に向けた作品が書けず、スランプに陥った清舟は港で出会った美和の父・巌(宍戸開)から趣味で買った中古船の船体に船名を書いて欲しいと頼まれる。船の登録名は“唯我独尊丸”。清舟は、筆ではなく刷毛、墨ではなくペンキ、紙ではなく船体と、いつもとはまったく違う条件の下、失敗は許されないというプレッシャーに襲われ…。
第4話のレビュー
坂元裕二脚本のドラマ「カルテット」(2017/TBS系列)にて、松たか子演じる真紀が、満島ひかり演じるすずめに投げかけた有名なセリフがある。「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます」。
「ばらかもん」第4話にて、郷長・木戸(飯尾和樹)が半田(杉野遥亮)に対し「笑いながら仕事をする人」と評するシーンを見て、笑いながら仕事をする人も生きていけるな、と思った。
たまに、みんなどうやって生きているんだろう、と不思議に思う瞬間がやってくる。
テレビをつければ暗いニュースばかり流れていて、SNSで「炎上」という言葉に触れない日はなく、仕事ではままならないことばかり。せっかく家族や友人に会っても文句や愚痴が止まらない自分を俯瞰しては「人生ってしんどい……」としみじみ思う。
「ばらかもん」に出てくる登場人物たちを見ていると、なんだか、心の水位が上がる気がする。みんなそれぞれ悩んでいることはあるし、苦しいときもあるのだろうけれど、でも、七転八倒しながらも助け合い、前を向くことを諦めていない姿に、自分も頑張れるかも、と思うのだ。
半田のスランプは続いていた。好きに、自由に、自分の思ったとおりに字を書く。口にするのは簡単だけれど、手は動いてくれない。好きに字を書けたら、それが自分の字だ。自分の字さえ書けたら東京に戻る、と心づもりまでできているのに、肝心の字が書けない。
気分転換に散歩へ出た半田は、道中で出会った島民たちの手伝いをする。自ら進んで、というより、島民たちの手腕によって自然な流れで手伝わされてしまうのだが、やっているうちに楽しくなってくる半田がかわいらしい。
石垣をつくったり、寺の寄付者の名前を書いたり、船名をペンキで大書したり。
いくら書道家といえど、船にペンキで名前を書くのは未体験。慣れない仕事を前に「失敗してはならない」とプレッシャーに潰されそうになる半田。しかし、なる(宮崎莉里沙)を始めとする子どもたちが小さな手形をつけたことで、気持ちが固まる。
手形を道標のようにして、思い切りよく字が書けたのだ。
都会を離れ、気の良い島民たちとの交流を通じ、人のあたたかさを知り、星空の美しさに心を動かされる。2023年夏クールにおいて、この「ばらかもん」は誰も傷つけず、安心して見られる平和なドラマの筆頭といえるのではないだろうか。
その後、半田は吹っ切れたように自分の字を書いた。眼前いっぱいに広がる、抜けるような星空を浴び、自分の字を見つけた。「星」という字を書くときも、彼は笑っていた。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
半田清舟(杉野遥亮)が突然島から姿を消した。それを知って大きなショックを受け、道ばたに倒れ込んだまま動けなくなってしまう琴石なる(宮崎莉里沙)。久保田陽菜(寺田藍月)とケン太(大浜謙太郎:加藤叶和)は、そんななるを無理矢理起こすと、今後の対策を話し合うために木戸浩志(綱啓永)や山村美和(豊嶋花)、新井珠子(近藤華)と合流することに。
同じ頃、東京に戻った清舟は、マネージメントを手がけてくれている『川藤美術芸術舎』で川藤鷹生(中尾明慶)と会っていた。ここで清舟は、以前、自身の書を酷評されて頭に血が上り、掴みかかってしまった相手である美術館館長の八神龍之介(田中泯)と会う約束になっていた。八神にきちんと謝罪をして、島で書いた書を見てもらうためだった。だが、約束の時間が近づくにつれ、「酷評されたらどうする?」とどんどん自信がなくなっていく清舟。
ほどなく、八神がやってくる。腰が悪いこともあり、杖をつきながらゆっくりと歩いてくる八神に、島のヤスば(野村ヤス:鷲尾真知子)の姿が重なり、思わず手を差し伸べる清舟。八神は、そんな清舟の謝罪を受け入れると、さっそく新作の書『星』を見るが…。
一方、浩志や美和たちは、清舟との思い出話をしているうちにどんどん寂しくなってしまう。「たくさん遊んでもらったのに、ありがとうも言ってないよ」というなるの言葉に、美和は、みんなで東京へ行こうと言いだし…。
第5話のレビュー
五島で自分史上最高の書を仕上げた半田(杉野遥亮)は、書展の準備のためいったん東京に戻ったが……島で書いていたような自由な感覚が取り戻せず、またもやスランプに。
驚くほど、思っていた以上に、人は環境に左右される生き物だ。田舎から上京したとたん、これまでに味わったことのない膨大な選択肢を前に、無敵になったような気持ちになる。初めての海外旅行で、いかに日本が小さな島国なのかを思い知る。
そんなふうに、人は周囲を取り巻く環境、そしてどんな人々に囲まれているかで、柔軟に変化する。かつて八神館長(田中泯)に食ってかかった半田も、歳を重ねた館長の体を思いやり、素直に謝れるようになっていた。スランプに陥ったのは、ある意味では島のせい。しかし、半田の人間性を変えてくれたのも、やっぱり島のおかげだ。
島にいなきゃ、良い字を書けないのだろうか。思いなやむ半田のために、またもや一肌脱いだのは川藤(中尾明慶)だった。
なる(宮崎莉里沙)たちと電話をつなぎ、半田は東京にいながらにして五島の空気に触れた。何も言わずにいなくなってしまった半田に対し、なるたちは次々と不満を口にするが、早く帰ってきてほしいと望む愛情も感じられる。
半田はインスピレーションを得る。東京に戻ってくる直前、島に住む村人たち全員の名前を書いてきた。フラッシュバックするのは、人々との交流。島を訪れた最初こそ、慣れない環境に文句と弱音が止まらなかった半田だが、いつしか村人たちとのやりとりは、彼のなかで何にも代えられない厚みと高さになっていた。
それはまるで、一つひとつの石を丁寧に組み上げてつくった、石垣のように。
新しく得たインスピレーションによって半田が書いた字は、村人たち全員の名前を組み合わせたもの。「こんな字、書いたの初めてだよ」とそっと呟く半田は、その書のタイトルを「石垣」とした。「俺が今、いちばん大切に思ってるものだ」。
環境によって、人は変わる。良くも悪くも、変わってしまう。島にいないと良い字が書けない、と思い悩んでいた半田は、東京でも納得のいく書を仕上げた。彼のなかに、いつでも取り出せる位置に、島の思い出や村人たちとの交流がおさめられている証拠だと感じる。
秋冬にかけて、半田はふたたび五島に戻る。なるたちも、それを心待ちにしているのだが……。ここで、新たな壁が。半田の母・えみ(長野里美)が、島に戻るのは許さない、このまま東京にいればいいと主張し出したのである。
島でも東京でもモテモテの半田。無事に島へ戻り、なるたちと再会できるのだろうか。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
東京に戻った半田清舟(杉野遥亮)は、琴石なる(宮崎莉里沙)や木戸浩志(綱啓永)、山村美和(豊嶋花)、新井珠子(近藤華)ら、島で出会った人たちの名前がぎっしり書かれた書『石垣』を完成させた。清舟がなるたちとの約束通り、島に戻ると言うと、母親のえみ(長野里美)が「島に行くことは許さない」と反対する。川藤鷹生(中尾明慶)や神崎康介(荒木飛羽)にも清舟の説得を頼むえみ。清明(遠藤憲一)は、そんなえみをたしなめるが…。
同じ頃、美和と珠子が通う中学校では、夏休みの課題だった習字の結果が貼り出されていた。珠子が金賞で美和が銀賞。清舟の家でみんながくつろぐ中「1位と2位じゃ雲泥の差」と落ち込む美和。それはまるで康介に負けた時の清舟のようだった。その時、なるが分厚い封筒に気づく。それは美和と珠子が今までに書いた書だった。
夕方、清舟たちは、改めてえみと話し合う。清舟が島で入院したことを持ち出し、軟禁してでも阻止すると主張するえみ。すると、黙って話を聞いていた清明が、自身も島で生活した経験があると明かす。
一方、なるたちは清舟を出迎えるため、彼がいない間、散らかし放題だった家を片付け始める。段ボールに「いるもの」「いらないもの」と書いて、分別していく一同。そのとき、糸まき車が見つかった。それは美和が“手作りおもちゃの達人”と言われるヤスば(野村ヤス:鷲尾真知子)から作り方を教えてもらったものだった。
第6話のレビュー
半田(杉野遥亮)が島に帰ってきた。半田の母・えみ(長野里美)はギリギリまで反対していたが、父・清明(遠藤憲一)の「離れることで息子が成長できるなら、それが一番じゃないか」と説得されたことで、ようやく折れる。島暮らしによって人間性も成長した半田を見て「成長したのは、書道だけじゃなかったんですね」としみじみ言う、えみの横顔は、ようやく子離れしかけている親の表情に見えた。
半田の書展の結果は、圏外だった。川藤(中尾明慶)が言うように、「あいつが本当に書きたいものを書いた」結果だったが、半田の反応は上々。自分にとって必要な結果だった、と俯瞰でとらえられるようになった彼は「普通が一番」とまで言えるようになっており、確かに、書道以外の部分まで成長している。
清明が「ずっと一番をとってきたあいつにとって、失望する結果だったと思うか?」と言っていた。第三者からみれば、トップに居続けた若き才能がランキング入りさえ逃したのは、前途多難だと思うだろう。しかし、半田は笑った。もう、2位を取って血の底まで落ち込んでいた頃とは、違う。
半田が島に帰ってきてまもなく、野村ヤス(鷲尾真知子)通称:ヤスばが亡くなった。半田にとって、ヤスばとのやりとりは数えるほどだったかもしれないが、餅まきの際にもらった言葉は半田の心に残っている。
ライバルに打ち勝つことだけを考えるのではなく、いったんは順番を譲り、自分はいつかやってくるであろう“さらに大きな餅=チャンス”を狙う……。ヤスばに教えてもらった心構えだ。このアドバイスは、確実に半田の成長に繋がっている。
半田は、彼女からはもらうばかりで、何ひとつ返せていないと言った。しかし、寂しがりのヤスばは、きっと傍で見ている。半田が旗に書きつけた村人たちの名前を。そして、それらが風にたなびく大名行列の様子を。
ヤスばと一緒にいられた時間は短いが、これからも、島民たちのなかに残っているヤスばと過ごしたいと思う、と言える半田。そして、ヤスばが「笑った顔がいっちゃん好き」と言ったから、葬式でも泣かずに笑顔でいた、なる(宮崎莉里沙)。
きっと、どちらも強くて、時に弱い。成長したかと思えば、自分のことが嫌になるくらい失敗する日もあるだろう。しかし、一人じゃないと思える事実そのものが、驚くほど心を救ってくれることがある。島に帰ってきた半田は、これからも島民たちと笑い、ぶつかり合いながら、自分の字と向き合っていく。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
神社の前を通りかかった半田清舟(杉野遥亮)は、琴石なる(宮崎莉里沙)と久保田陽菜(寺田藍月)に出会う。清舟が宿題をやっていないと言うなるを注意すると、「大きくなったら“やくそうけんきゅうか” になる」と言って、石段に空いた穴に野草を詰め込みゴリゴリとつぶし始めるなる。何とその穴は、ヤスば(野村ヤス:鷲尾真知子)が子どものころからあり、同じようにままごと遊びに使われていたらしい。世代を超えて受け継がれていることに感慨を覚える清舟。
同じ頃、東京の半田家では、清明(遠藤憲一)が川藤鷹生(中尾明慶)に休暇を申し出ていた。だが、超一流ホテルから館内に飾るために清明に作品を書いて欲しいという依頼を受けていた川藤は、休んでいる暇はないのでは、と言って反対する。すると、半端な作品を書くわけにはいかないのだから、そのための準備期間だと思ってほしいと返す清明。実は清明が休暇をとって行こうとしていたのは、清舟が暮らしている五島列島だった。そこにやってきた妻のえみ(長野里美)は、自分も一緒に行くと言い、清舟にお見合い話を切り出そうとする。
両親が島に来るとの連絡を受けた清舟は、なるや山村美和(豊嶋花)たちに、家への立ち入り禁止を命じる。だが、すぐにそんなことは無理だと気づいた清舟は、ひとつだけ言っておくと前置きし、「ウチの母さん、すごく面倒くさい人だから」と忠告する。
それから数日後、清明とえみ、川藤が五島列島にやってくるが……。
第7話のレビュー
人から言われた言葉は、良くも悪くも心に残る。とくに幼少期や、自身の至らなさを痛感しているタイミングなどに入ってきた言葉は、意思に反していつまでも巣食うもの。半田(杉野遥亮)にとってのそれは、八神館長(田中泯)から言われた「つまらない字だ」だった。
ルールに則った、規則正しい、つまらない字。半田の書に対するその評価が、ずっとずっと、心を縛り付けていた。本編では描かれずとも、筆を持つたびに半田を悩ませ続けていたに違いない。
半田の父・清明(遠藤憲一)と母・えみ(長野里美)が五島にやってきた。休暇をとって息子の顔を見たい気持ちが大半だっただろうが、清明自身も島から力をもらい、書に反映してきた過去がある。懐かしい島の風を感じたくなったのかもしれない。
半田にとっても、なぜ父親が自分を島に寄越したのか、その理由を探っていた。親子揃ってなる(宮崎莉里沙)たちに書道の特別教室を開くことになった流れで、なんと半田親子が書道対決をすることに。図らずもその場で、半田にかけられた“呪い”が解かれることになる。
「親父は感情が顔に出ないぶん、書道で表現してると思うんです。だから、人の心を揺さぶる字が書けて。俺は一生追いつけないんだろうなって」……父・清明に対するジレンマを打ち明けていた半田。遠すぎる父の背中、越えようとするなんて10年早い、まだまだ期待には応えられない。「つまらない」と烙印を押された己の字ごと、半田はコンプレックスから逃れられないでいる。
そんな息子に対し、清明は言った。
「お前の字は本当に美しくて、規則正しい。そして、素直な字だ」
つまらない字なんかじゃない。教えを真摯に反映させた素直な字であり、努力と意地で人の心を打つ字だと、“呪い”を塗り替えてくれたのだ。
島にきたおかげで、半田は確実に変化している。東京では感じられない空気の心地よさと空の広さ、島民たちとの交流。それらを通して気持ちよく伸びやかに、柔らかく広がった半田の心が、書に反映される。
半田はずっと、なぜ父が自分をこの島に寄越したのかを気にしていた。きっと清明も、書道における暗黙の“こうあるべき”にがんじがらめになった心を、この島でたおやかに伸ばした。そんな過去を、息子にも追体験させたかったのではないだろうか。
「私は息子にとっての、生涯のライバルでいたい」……この言葉はきっと、息子の半田にとってはこれ以上ない“贈り物”だ。新しく塗り替えられた心で半田は、さらにもっと良い書を書くに違いない。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
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半田清舟(杉野遥亮)は、山村美和(豊嶋花)や新井珠子(近藤華)に誘われて、サプライズで琴石なる(宮崎莉里沙)の誕生日パーティーを開く計画を立てる。しかし、清舟はプレゼントを用意しておくようにと言われ、何を用意したらいいか困ってしまう。
清舟はケン太(謙太郎:加藤叶和)に何がいいか相談をしている最中、なるが陽菜(寺田藍月)から何が欲しいかと聞かれていたので、聞き耳を立てるが、「飛行機が欲しい」と答えたのを聞いて、ますます何がいいか分からず、困ってしまう。
そんな折、高校卒業後の進路について悩んでいた木戸浩志(綱啓永)は、清舟に相談を持ちかける。料理人になろうと決意したものの、周りからの反対もあり、踏み出せないという浩志。なぜ書道家になったのかと尋ねられた清舟は、一度だけケーキ屋になりたいと思ったことがあると打ち明ける。
偶然通りかかって清舟たちの会話を聞いていた美和と珠子は、清舟に一緒になるの誕生日ケーキを作ろうと言い出して…。そして迎えたなるの誕生日、清舟はなるの後ろをついてくる、見知らぬ男性(岡田義徳)がいるのを見つけてしまう。
第8話のレビュー
“家族”の定義にまつわる映画やドラマが増えている。直近で言えば、是枝裕和監督の作品が顕著だ。『そして父になる』(2013)、『万引き家族』(2018)、『ベイビー・ブローカー』(2022)など、血の繋がりはない“疑似家族”を主題に、人と人の関係性に克明に光を当ててきた。
この「ばらかもん」を象徴するようなキャラクター・なる(宮崎莉里沙)は、祖父と暮らしている。これまで表立って、親の存在は描かれてこなかった。しかし、ここにきて父親・優一郎(岡田義徳)が登場。なるに対して身分を明かさず、謎のおじさんとして振る舞う。
当然、半田(杉野遥亮)は困惑する。なるに「自分が父親だ」と名乗らなくていいのか。肉親だと示したうえで話をしなくてもいいのか。父親は飄々とした態度を崩さず「何を話していいのかもわからない」「観察してるほうが有意義」などと言うばかり。
海の仕事をしているおかげで、島に寄れるのは長くて数日。きっと、離れている間のもどかしさ、別れる瞬間の寂しさを、なるに背負わせるのが忍びないのかもしれない。血の繋がった親なのに、いや、親だからこその身勝手さにも思える。優しさのフリをした、エゴだ。
本来、他人がどう生きようが関係ないと無関心を貫いてきた半田だが、島に来てからというものお節介度合いが増している。
親の話は一ミリも出さず、いつものように明るくあっけらかんとした様子のなるが、殊勝に思えたのかもしれない。せっかく顔を合わせた親子を前に「なんとかしてやりたいが、ただのお節介か?」と悩む半田。ここまで見守ってきた視聴者としては、人間関係に介入するかしまいか逡巡する半田そのものが、微笑ましく思えてならない。
「家族じゃないからって、他人にはならないんじゃないか?」
私たちは、無意識に線引きしてしまう。大事な人を思うとき、手を貸したいと思うとき。「でも、家族でもないのに……」「他人の私がここまでしていいのだろうか」と、にわかに自分の立ち位置を気にしてしまう。介入する“権利”や“資格”が自分にあるのだろうかと悩むとき、人は、一歩を踏み出すのに躊躇する。
しかし、結果的に半田は、お節介を焼くことに決めた。優一郎に対し、ギリギリまで、なるに身分を明かさなくていいのかと水を向ける。近くにいてやらなくていいのか、と問いかける。
優一郎は、最後まで娘に対し、自分が父だと告げることはなかった。しかし、代わりに、自身の名前が書かれた半紙をなるに託す。それは、かつて半田の父・清明(遠藤憲一)が書いたものだった。
自分の誕生日に必ず贈られてくる、飛行機の模型。なるは言葉にせずとも、その送り主に覚えがあった。これまで涙を見せることのなかった彼女が「また来年も、飛行機をくれるかな」と泣く。半田はしっかりと、なるの目を見ながら「他人だけどな、お前には俺がついてる」と伝えた。その頼もしい言葉はきっと、父のいない寂しさを埋め、癒してくれる。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
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半田清舟(杉野遥亮)は、一流ホテルを父・清明(遠藤憲一)の作品で彩る準備を手伝うため、東京に行くことになった。それを知り、一緒に行くと騒ぎ出す琴石なる(宮崎莉里沙)。清舟から東京行きを反対されたなるは、誕生日に清舟からもらった「なんでもいうこときくけん」で東京同行を説得する。
東京へ向かう日、清舟となるは、何故か空港で神崎康介(荒木飛羽)に出会う。康介は、川藤鷹生(中尾明慶)からこき使われることに耐えられなくなり、逃げてきたのだと言う。清舟は、そんな康介に仕方ないから家を使わせてやると言って自宅の鍵を手渡す。
到着早々、手伝いに駆り出された清舟は、川藤の事務所に新たに所属することになった書道家・佐久間圭(佐々木一平)を紹介される。個展を開くという佐久間の打ち合わせに参加した清舟は、書道家の作品を支えるプロの仕事を目の当たりにし…。
清舟が疲れ果てて帰宅すると、なるが部屋の隅でどんよりしていた。清舟が遊んでくれるのをずっと待っていたらしい。そんな折、部屋にこもって作品作りに集中していた清明が、清舟を部屋に呼んだ。そこで清明は、東京に戻って来るよう、清舟に告げる。清明の側で仕事を手伝いながら、プロの書道家としての勉強を始めろ、と言うのだ。
あくる日、清舟はなるを連れて動物園に遊びに行く。だが清舟は、清明の言葉が頭から離れず…。
第9話のレビュー
父・清明(遠藤憲一)の仕事を手伝うため、一時的に東京へ戻った半田(杉野遥亮)。「なんでもいうこときくけん」を発動し、なる(宮崎莉里沙)も一緒についてきた。ともに買い物をしたり、動物園へ行ったりと、今回はとくに微笑ましいシーンが続く。この二人には、20年後も一緒に動物園へ行ってもらいたい。ホワイトタイガーを見て喜んだ思い出話をしてほしい。
なるの遊び相手はそこそこに、父の仕事をその目で見ながら、自身の将来について考える半田。島の若者たちはそれぞれ、浩志(綱啓永)は料理人になる夢を、珠子(近藤華)は漫画家になる夢を、美和(豊嶋花)は家業を継ぐ将来(?)を視野に入れている。
半田が悩む姿を見ながら、視聴者それぞれが、各々の立場で自身を省みるだろう。自分は何者なのか。自分には何ができるのか。そもそも、何がしたいのか。
書道家として書と向き合いながら、半田はたびたび、壁にぶつかってきた。その壁はほとんどが、父によってつくられたものだった。書道家としての道を歩むということは、偉大な書道家である父と否応なしに比べられ続ける、ということ。自分にとっての「書」とは何かを突き詰める前に、半田は、「親父みたいには無理だ」と思ってしまっている。
なるを含め、島に住む人たちは全員が半田を「先生」と呼ぶ。
なぜ、彼らはなんの疑問も持たず、なんのためらいもなく「先生」と呼ぶのか。
こう言ってはなんだけれど、きっと、彼らに深い意図はない。書道の先生だから。えらい書道の先生の息子だから。書道が上手だから。みんなが「先生」と呼ぶから。それでも、いつだって突破口は、当たり前と思われていた穴をさらに深く掘り進めたところにあるものだ。
「お前にとって、俺はなんの先生なんだ? 俺はなんなんだ?」
半田は、なるにそう訊ねた。捉え方によっては、とんでもなく哲学的な問いかけだ。なるは小学生らしく悩み、そして実にシンプルにこう答える。「半田先生は半田先生! それ以外は思いつかないな」と。
年齢を重ねるごとに、ただそこに“在り続ける”ことができなくなるのは、なぜだろう。学校を卒業し、仕事をし、人によっては結婚したり家族をつくったりする。そのたびに増えていく“肩書き”は、ときに力をくれるが、ときに足枷にもなる。いま立っている場所が正解なのか、進もうとしている方向は合っているのか、わからなくなる。
なるの答えは簡単だった。気軽にポンと与えられた回答は、半田の心までシンプルに整える。
島に戻るか、東京に帰って本格的に書道家になる勉強に励むか。選択を迫られた半田は、父に向かってはっきりと言った。「俺、書道家やめます」……。
肩書きを捨てた半田は、この先、どこに向かうのだろう。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第10話ストーリー&レビュー}–
第10話ストーリー&レビュー
第10話のストーリー
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半田清舟(杉野遥亮)は書道家をやめると宣言し、琴石なる(宮崎莉里沙)と五島列島に帰る決意を固める。旅立ちの日、マネージャーの川藤鷹生(中尾明慶)は、「ウチとの契約を切るってどういうことだ?」と清舟に怒りをぶつける。清舟は、村で書道教室を開き、なるたちの先生になって村に恩返しがしたいという自分の思いを伝えた。だが川藤は納得せず、金にならないヤツとは付き合うだけ無駄だと言って去ってしまい、なるは、このまま清舟と川藤との関係が終わってしまうのではないかと落ち込む。
五島に戻った清舟となるを出迎えたのは、仕事から逃げて清舟の家に滞在していた神崎康介(荒木飛羽)だった。康介は、書道家をやめることを清舟に伝えるが、清舟から「オレもやめるぞ!」と言われて固まってしまう。
そんな中、美和(豊嶋花)は実家の酒店が経営難で巌(宍戸開)が畳もうとしているようだと悩みを周囲に打ち明ける。さらに、清舟は、浩志(綱啓永)が長崎にある料亭の採用試験に落ちてしまったことを郷長(飯尾和樹)から聞き…。
第10話のレビュー
書道家をやめる、と宣言し、島で書道教室を開くことにした半田(杉野遥亮)。新しい一歩を踏み出した彼の行く先は、これで順風満帆……とはいかない。人数の限られた村で、月謝1万円の書道教室にどれだけの人が集まるか。教室の設立費用や、月々にかかる経費はいくらになるか。半田ひとりでそれら諸々が整うはずもなかった。
「後ろ向きな決断じゃない」「俺は、ちゃんとこいつらの先生になって、村に恩返ししたいんだ」と大見得を切ったものもの、生徒集めの段階で行き詰まる半田。結局、ケンカ別れのようになった川藤(中尾明慶)に頼ることになる。
画商としてはもちろん、一人の友人としても半田を支えてきた川藤。半田が書道家をやめ、島で書道教室を開くと宣言したときの衝撃を、彼は受け止めきれずにいた。
半田を東京へ無理やり連れ戻す覚悟で乗り込んだ川藤だったが、やがて、自ら厳しい道を進もうとする半田の姿にほだされる。半田らしさを二の次に、書道教室らしい教室を目指そうとする半田に、すかさず彼は言う。
「お前、なに良い先生になろうとしてんだよ」
「お前の道じゃないと、俺はついていかないぞ」
書道家としての半田は、基礎を重んじ、綺麗で型に嵌まった字を書こうとしていた。お手本に倣うのが、もっとも良い道だと信じ込んでいたのだ。
けれど、島にやってきてからの半田は、どんどんそのセオリーを崩していく。厳密にいえば、そこに暮らす人々のおかげで崩れざるを得なかったのだが……。彼の書く字は、どんどん“らしく”なっていった。
川藤の一声で、半田はまたもや、見失いかけていた自分を取り戻す。彼が歩こうとしている道は、厳しい道だ。周りから見れば、とくに川藤から見れば、ただ「逃げて遠回り」しているだけに見えるかもしれない。それでも、それは、半田が選んだ道……「誰も通ったことのない道」なのだ。
島の若者たちも、それぞれ、まだ見えない将来に向かって一歩を踏み出そうとしている。美和(豊嶋花)は実家の酒店を継ぐこと、珠子(近藤華)は漫画家になること、そして浩志(綱啓永)は、料理人になること。
未来への確信ではなく、覚悟を持って前に進むことが、どれほど怖いことか。それでも彼らは、まだ知らない領域に向かっていく。自分なりの道をつくり、自分だけの人生を生きるため。
人との出会いが、人生に影響を与える。見えなかった将来が、ほんの少しだけ掴めたように感じる。迷って、逃げて、また前を向く。きっと人生は、その繰り返しだ。このドラマは、挫折や失敗を土台にして立ち上がる術と、困ったときに助けてくれる“人”のあたたかさを教えてくれる。
最終回、彼らが向かった先では、どんな景色が見えるだろう。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
–{最終話ストーリー&レビュー}–
最終話ストーリー&レビュー
最終話のストーリー
半田清舟(杉野遥亮)が、五島列島に来て一年が経とうとしていた。清舟が立ち上げた書道教室も少しずつ軌道に乗ってきていた。そんなある日、琴石なる(宮崎莉里沙)は、父親の優一郎(岡田義徳)から送られてきたスマートフォンを見つめていた。それに気づいた山村美和(豊嶋花)と新井珠子(近藤華)は、自分たちがなるの親子関係に首を突っ込んでもいいのか、と清舟に相談する。
一方、書道教室での練習中、なるは清舟に「先生はもう、字を書かないのか?」と尋ねる。すると清舟は、しばらく考えた後、「お前らの書く字が俺の書く字だと思っている」と返し、なるたちはさみしさを感じる。
そんな折、七ツ岳郷に売り出し中の若手アイドルゆな(椛島光)と、カメラマンのアキオ(今井悠貴)がやってくる。ゆなたちは『突撃!田舎生活!』という企画の取材でやってきていた。田舎の温かさをテーマにした撮影で、泊めてくれる村人を探していた二人は偶然通りかかった清舟に家に泊めて欲しいと頼みこみ…。
最終話のレビュー
終わってしまった。「ハートフル島コメディ」と銘打たれたとおり、仕事や夢に向き合いつつ悩む半田(杉野遥亮)の様子や、五島のみんなとの交流に心が温まる「ばらかもん」が、ついに最終回。考察も恋愛もないけれど、毎週水曜の夜、確実に私たちは癒されていた。
父のように立派な書道家になる夢を、いったん保留にした半田。彼は島で書道教室を立ち上げ、そこに通う子どもたちを指導することで、自分の夢を若い世代に託した気持ちでいたのかもしれない。「お前たちの書く字が、俺の字だと思ってる」の言葉に、その思いが込められているように思う。
料理人になる夢をもった浩志(綱啓永)は、調理師学校に通うため東京へ。漫画家になる夢をもった珠子(近藤華)は、思いきって応募した作品が佳作をとる。父の酒屋を継ぐと決めた美和(豊嶋花)は、店を畳んだ父の次のステップに気を揉んでいたが、活路がひらけたことで安心を取り戻した。
そして、なる(宮崎莉里沙)はようやく、優一郎(岡田義徳)のことを「お父さん!」と呼べた。
半田が未来を託そうとした子どもたちは、どんどん成長し、各々の夢や目標を見出して、そこに向かって進み始めている。半田自身も、決して自分の字を模索することを諦めたわけではなかった。
島に住んで、一年。季節を一巡りし、もう一度、春を迎えた。新一年生が入ってこない小学校では、代わりに「一年先生」として、半田の歓迎会がおこなわれる。企画者は、子どもたち。
メインイベントとして、教室中を覆うほどの大きな紙と、体全体で抱え持つような長さの筆を渡された半田。子どもたちや島の人々が見守るなか、見事な「楽」という字を書いてみせた。
「先生には、先生の字を書いてほしい」
いつだって、なるの言葉には裏表がない。下手な忖度がないからこそ、真っ直ぐに届く。きっと半田は、これからもなるたちの先生で居続けるし、立派な書道家になる夢も同時並行で追い始めるだろう。
この物語は最終回を迎えた、けれど、夢や目標を叶えるために進み、ときには迷ったり止まったりする半田やなるたちは、生き続ける。そんな彼らは、思い出したように繰り返すのだ。「きばれよ!」と。
※この記事は「ばらかもん」の各話を1つにまとめたものです。
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–{「ばらかもん」作品情報}–
「ばらかもん」作品情報
放送日時
2023年7月12日(水)スタート。毎週(水)夜22:00〜 ※初回15分拡大
出演
杉野遥亮/宮崎莉里沙/田中みな実/綱 啓永/豊嶋花/近藤 華/山口香緖里/飯尾和樹(ずん)/田中 泯/荒木飛羽/中尾明慶/遠藤憲一 他
原作
ヨシノサツキ『ばらかもん』
(ガンガンコミックスONLINE/スクウェア・エニックス刊)
脚本
阿相クミコ
金沢達也
演出
河野圭太
植田泰史
木下高男
北坊信一
音楽
眞鍋昭大
宗形勇輝
主題歌
Perfume『Moon』(Polydor Records)
企画
上原寿一
プロデュース
髙丸雅隆
高橋眞智子
制作協力
共同テレビジョン
制作著作
フジテレビジョン