<こっち向いてよ向井くん>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

国内ドラマ

ねむようこの同名漫画を原作とした赤楚衛二主演のドラマ「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)が2023年7月12日よりスタート。本作はGP帯連続ドラマ初主演となる赤楚が、雰囲気も性格も良く、仕事もできるのに10年間彼女がいない30代の男性を演じるラブコメディだ。共演には、波瑠、生田絵梨花、藤原さくら、岡山天音らが名を連ねる。

CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。

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もくじ

・第1話ストーリー&レビュー

・第2話ストーリー&レビュー

・第3話ストーリー&レビュー

・第4話ストーリー&レビュー

・第5話ストーリー&レビュー

・第6話振り返り・第7話ストーリー&レビュー

・第8話ストーリー&レビュー

・第9話ストーリー&レビュー

・最終話ストーリー&レビュー

・「こっち向いてよ向井くん」作品情報

※話数は随時更新します。

第1話ストーリー&レビュー

第1話のストーリー

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主人公・向井悟(赤楚衛二)は母・公子(財前直見)、妹・麻美(藤原さくら)、麻美の夫でスパイス&バーを営む元気(岡山天音)と実家で暮らす33歳会社員。雰囲気良し、性格良し、仕事もできるイイ男、なのに元カノ・美和子(生田絵梨花)との別れを今も引きずって、気づけば10年恋をしていない。
 
そんなある日、向井くんの職場に中谷真由(田辺桃子)がやってきて…
「あれから10年、給料も上がったし、仕事も余裕出て来たし…今の俺なら…」
 
恋の相談相手・坂井戸洸稀(波瑠)らを巻き込み、恋愛迷子たちのラブストーリーがこの夏、始まる!

第1話のレビュー

20代で今最も勢いのある俳優といえば?と聞かれたら、おそらく5割以上が「赤楚衛二」と回答するのではないだろうか。それくらい、今やメディアに引っ張りだこの彼。あまりにも休みなく働いているので、そろそろ心配になってくる。でも彼にしか演じられない役、あるいは彼に演じてもらうために生み出された役がたくさん存在していて、順番待ちの列ができているのだろう。

一眼見ただけで誰もが「お、いい男!」と思うルックスに、爽やかな笑顔、母性本能をくすぐられるチャーミングな仕草。それなのに決して完璧な“王子様”ではない、未熟な部分を持ち合わせたキャラクターを各テレビ局が演じさせたくなるのは、彼が繊細な心理表現を得意とするからだ。

ねむようこの人気コミック「こっち向いてよ向井くん」の実写ドラマ化も、そんな赤楚くんがいてこそ実現したと言ってもいい。赤楚くんが演じる主人公の向井は、雰囲気よし、性格よしで仕事もできる33歳の会社員。それだけ聞くと普通にモテそうだし、なんならすでに結婚していそうだ。それなのに、向井は大学時代に付き合っていた美和子(生田絵梨花)と10年前に別れて以来、一度も彼女ができていない。一体なぜ?現実世界に赤楚くんみたいなかっこいい人がいたら女が放っておかないでしょ!と解せない気持ちになるが、第1話ではその原因が判明した。

「私は守りたいなんて言われたら、見下されてんなーって思っちゃいます」

美和子との破局、それは向井が放った「ずっと守ってあげたい」という一言が原因だった。きっと向井は分からないなりに、自分の若さや収入的な面で相手を不安にさせたと理解したのだろう。妹の旦那である元気(岡山天音)が営むスパイスバーの常連客・洸稀(波瑠)がそうではないことをさり気なく指摘してくれたのに、あんまりピンと来ていない彼は久しぶりの恋で似たような失敗をおかしてしまう。

ある日、向井の会社にやってきた派遣社員の真由(田辺桃子)。優しい向井は彼女に対して親切に接する中で、ある気持ちが芽生える。あれ、もしかして俺に気があるんじゃね?(※曲解)と。そこからの彼は、まるでヒーロー気取り。困っている彼女を、俺が何とかしてあげなきゃ!という気持ち一直線で行動する。

その割に自分の好意を相手に伝えようとはしないし、挙げ句の果てに彼女の前で元カノへの未練を垂れ流す始末。そもそも、いい感じの雰囲気に流されているだけで、向井が真由に惚れ込んでいる様子は一切ない。そうこうしているうちに、後輩の河西(内藤秀一郎)に真由を持っていかれてしまうのだった。

果たして、何がダメだったのか。その答えが、洸稀の「彼女が何を求めてるのか、ちゃんと彼女の立場で考えた?イメージとか、一般論で決めてない?そもそも自分がどうしたいのか、ちゃんと考えてないんじゃない?」という台詞に全て詰まっている。

今のところ、向井は「女の子ってこうでしょ」という先入観の塊だ。“女の子”は男性に守られたい。“女の子”は男性にグイグイこられるのは苦手。“女の子”は褒められたら喜ぶ。そういうイメージに基づいて行動しているだけで、そこに相手の意志も、自分の意志も含まれてはいない。

お手本にすべき人物は、実のところ身近にいる。それは向井と正反対の元気。彼は妻の麻美(藤原さくら)に綺麗な虹の写メを送りたくなっても送らない。なぜなら、麻美がそれを求めていないことを分かっているから。多分、向井は意気揚々と送るはず。“女の子”は喜ぶと思って。そんなんだから、「もう降・参(フゥ……)付き合いますか(キラッ☆キメ顔)」なんて少女漫画のような言葉が出てくるのだ。あれ、おかしいな。赤楚くんがすることなら何でも愛おしく見えると思ったのに、ちょっと引いてる自分がいる。あの時の悦に浸った表情と台詞回しはお見事だった。

一方で、これだけダメダメな向井を見せつけられても憎めないのは、やっぱり彼の演技力の賜物だ。すること為すこと全て外しているけれど、本人は大真面目なのが伝わってくるから。最初から笑わせようと思ってやってるコミカルな演技は大概笑えない。え?まじでやってんの?と嘘でも思い込ませてくれるから、外れた行動の一つひとつが面白くなってくる。かっこいいのに、恋愛下手なのが手に取るように分かり、それでも愛らしく見える。なるほど、これは赤楚くんにしか演じられない。当分彼に休む暇はなさそうだ。

※この記事は「こっち向いてよ向井くん」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第2話ストーリー&レビュー}–

第2話ストーリー&レビュー

第2話のストーリー

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33歳、実家暮らし、元カノへの思いを引きずったまま10年も恋していない向井くん(赤楚衛二)に、ついに彼女チャンス到来!?

10歳下のアンちゃん(久間田琳加)から突然のキス!
 
アンちゃんに近づくと沼に落ちる…という周囲の忠告もどこ吹く風、積極的なアンちゃんにグイグイ押されまくる向井くんは「さすがにこれは勘違いじゃないよな」と得意満面!

一方、向井くんの恋の相談相手・洸稀(波瑠)も、会社の先輩・環田(市原隼人)とのアブナイ恋にハマっていき…。
 
今度こそ大事に、誠実に…アンちゃんの気持ちに応えようとする向井くんだが…!?

第2話のレビュー

10歳も年下の女の子からのアプローチにまんざらでもない表情を浮かべ、おじさんと思われないようにLINEの文面を気にする。俳優デビューから約8年、赤楚衛二がそんなサラリーマンを演じるなんて誰が予想しただろう。いつもなら愛おしく感じるその一挙手一投足に「あちゃー」となってしまう、ある意味新鮮なドラマ「こっち向いてよ向井くん」が今夜も開幕した。

会社の後輩・真由(田辺桃子)に好かれていると盛大な勘違いをかましたが、それはそれとして久しぶりに恋のスイッチが入った向井くん(赤楚)。自称くるぶしより理想が低い男・向井くんだが、ここでホントにホントに?という疑問が湧いてくる。

向井くんが未だに心の中で語りかけてしまうほど、相当好きだった元カノ・美和子(生田絵梨花)は同性から見てもかなりモテそうだ。前回好きになりかけた真由だって、本人は意識していないかもしれないが何もかもが男ウケ抜群。極め付けには、アン(久間田琳加)である。彼女は元気(岡山天音)が営むスパイスバーのアルバイトで、向井くんより10個も年下。だけど、突然飲みに行った帰り道でキスされたことで向井くんはアンを意識し始めるのだった。

「アンちゃんって、自分で自分が可愛いことに気付いてるけど自然体を装ってる感じの馴れ馴れしい若い子?」

麻美(藤原さくら)のその一言に、それだー!と思わず叫びそうになった。向井くんが心を奪われる女の子に共通するのはきっとそれだ。自分で自分が可愛いことに気付いてる。そういう子の何が強いって、自分に自信がなかったら、ちょっと遠慮しがちな言動を自然とできること。美和子がもこもこのパジャマを着て彼氏の前でアイドルのダンスを踊れるのも、真由がピョコって可愛く登場できるのも、自分のことが好きかわからない相手に突然キスできるのも、ある程度の自信がなければできないのだ。

それが悪いことだとは思わない。だけど、そのいわゆる“あざとさ”に向井くんはとんでもなく弱い。恋愛迷子だけど、顔良し、雰囲気良し、仕事ができる向井くんなのだ。きっとこの10年間に、密かにいいなと思っていた女の子はいるはず。だけど「向井くんモテそうだしな」と控え目にしかアピールできなかった女の子の好意には全く気がつかなそうだし、そのうち向こうが脈なしと判断して消えていった恋はいくつもあったのではないか。

これは全て予想だけど、向井くんが雰囲気に流されやすいタイプだということは分かる。マッチングアプリでプロフィール文を一切見ず、写真の雰囲気で
右にスワイプしまくる向井くん。「みんな欲しいものは欲しいと願っている」と洸稀(波瑠)にアドバイスされていたが、彼はそのスタートにすら実はまだ立っていない。

向井くんはまだ自分が欲しいものが分かっていないのだ。だから自分に自信があって、素直に欲しいものを欲しがれる女の子の行動に流されていってしまう。理想が低いとか言いながら、可愛い子ばっか好きになっているように見えるのはそのためだろう。

結果的にアンちゃんとは、メッセージの頻度も、会う頻度も、お泊まりするタイミングも何もかも合わなかった。アンちゃんの好意は勘違いじゃなかったけど、向井くんはそれに応えられるほどの思いを彼女に持てなかったのである。

それなのにアンちゃんの好意を無下にはできず、必死にそれに答えようとした向井くん。好きじゃないのにとりあえず手を出して、後から付き合うほどではなかったと言い出す男よりはよっぽど誠実だ。だけど、そこに愛はあるんか? 延々と続くメッセージのラリーに君は一生ついていけるのか? どんなに仕事が忙しくても相手が満足するまでハグしていられるのか? そういう一つひとつの問いに向井くんは向き合うことができなかった。それが今回の残念ポイントだ。

何もしないでただ好きになれる日を向井くんが待ち続けている間に「2分でないなら永遠にない」とアンちゃんは別の男性に気持ちをシフトしてしまう。ショックのあまり、「今日は一緒にいてくれませんか」と洸稀にすがる向井くん。やれやれと思っていたのに、急にそんな可愛らしい姿見せるなんてズルい!ちっともキュンとしてなさそうな洸稀もすごい! この二人、付き合ったら結構うまくいきそうな気がするのだが、ダメなのだろうか。そう思いつつも、洸稀が思いを寄せている環田(市原隼人)のような手慣れた感じを思い出して、今のところはないな……と勝手に肩落とした第2話だった。

※この記事は「こっち向いてよ向井くん」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第3話ストーリー&レビュー}–

第3話ストーリー&レビュー

第3話のストーリー


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…フラれてばかりの向井くん(赤楚衛二)、恋愛をすっ飛ばしていきなり結婚!?
3年前に会ったきり音沙汰もなかったチカ(藤間爽子)から突然連絡をもらった向井くんは、いきなり結婚を申し込まれて頭の中がキャパオーバー!だって俺たち、3年前に…。
 
一方の洸稀(波瑠)は向井くんの心配をよそに環田(市原隼人)とのアブナイ関係にますます沼り。
 
麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)の関係にも暗雲が…!それぞれの恋が急展開して――。

好きか嫌いかよりも重要なことって一体何?突然求婚された向井くんの運命は…!?

第3話のレビュー

社会人になってめっきり出会いがなくなった男女は、あらゆる手段で運命のパートナーを探し求めている。マッチングアプリに、婚活パーティーに、結婚相談所。今や出会いの場はたくさんあるけれど、なかなかしっくりくる相手が見つからず、時間と労力の消費で疲弊していくケースも。

そんな“婚活疲れ”の心に沁みいるのが、普通の男女だ。うっかり沼にハマって骨の髄まで吸い尽くされるような相手でもなければ、よほど見た目に気を遣っていないとか極端に人間性が欠けているとかいう相手でもない。清潔感があり、ちゃんとした会社で働いていて、性格も穏やかで……という風に考えていくと、自ずと射程範囲にはいるのが、向井くん(赤楚衛二)である。

「こっち向いてよ向井くん」第3話は、婚活疲れ女子のチカ(藤間爽子)がゲストヒロインだ。驚くことにこの女性、かつて向井くんがワンナイトしたお相手。え、向井くんそういうタイプなの?イメージと違いますが?と一瞬混乱したが、本人的には付き合うつもりはあったけど、前回同様考えているうちに気がないと思われて向こうが離れていったパターンだった。

そんなチカから久しぶりに連絡が来たと思ったら、「不快じゃない」という理由で結婚前提のお付き合いを提案される向井くん。それってどうなのかなと思いつつも、一緒にいると妙に落ち着くチカとなら幸せな家庭を築けそうな気がしてくるのだった。同僚の中谷さん(田辺桃子)から好かれてると思ったら勘違いで、10歳年下のアンちゃん(久間田琳加)との恋は慎重になりすぎてジ・エンド。10年ぶりにスタートした恋活がことごとく失敗し、向井くんも疲れていたのだろう。

婚活疲れ女子のチカと恋活疲れ男子の向井くん。お互い疲れた心を癒せる相手であり、一見上手くいきそうだ。それに、たとえ相手のことがどんなに好きだって上手くいかない時はいかないのだから、「不快じゃない」レベルの相手と生涯のパートナーとして穏やかに時を重ねていくのも悪くはない。

だが、それはお互いの目的が結婚にある場合。チカと向井くんの場合は一方が“婚活”疲れで、もう一方が“恋活”疲れなのだ。最初の目的が、同じようで同じじゃない。向井くんはそもそも結婚がしたかったのか?恋愛がしたかったんじゃないのか?向井くんが「この人の放つ幸せな結婚オーラがすごい。そのオーラに絡め取られそう」と心で呟いているのを聞いて、こりゃまた雰囲気に流される悪い癖が出てるなと思ってしまった。

もし結婚したら苗字はどうするか。子供は何人欲しいか。そういう互いの価値観を結婚前に擦り合わせておくのはたしかに大事だ。だけど、そもそも自分たちに、もしくは自分自身に結婚が本当に必要なのかどうかを十分に検討していなければ、元気(岡山天音)と麻美(藤原さくら)のように結婚したはいいけど、そのせいで関係性がギクシャクしかねない。

その点、洸稀(波瑠)と環田(市原隼人)は今のところ、目的は結婚じゃなく恋で一致しているように見える。「やめときなよ」というのは向井くんの主観で、彼自身もしかしたら結婚というものに捉われているのかもしれない。ただ、洸稀が結婚を望まない環田に合わせているだけの可能性も十分あって、無理をしているならどこかで歪みは生まれるはず。

気持ちが盛り上がる恋だけが恋じゃないし、不快じゃない相手との恋も全然あり。だけど、不快じゃない関係性を保つためには、結婚という制度も含めてお互いが快適でいられる方法をともに選び取っていく必要があるのだろう。

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–{第4話ストーリー&レビュー}–

第4話ストーリー&レビュー

第4話のストーリー


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見た目も年齢も立派な大人の向井くん(赤楚衛二)、3年ぶりに会ったチカ(藤間爽子)と結婚を見据えたお付き合いが始まって、ついに恋愛迷子卒業!と思っていたけど…。
 
「向井さんとは年相応な大人のお付き合いができそうですね」とチカに言われ、どうしていいか分からなくなって…恋に年齢なんて関係あるの?モヤモヤする向井くんは洸稀(波瑠)に相談するが、洸稀は洸稀で環田(市原隼人)との“大人の恋愛”を楽しんでいるようで…。
 
大人の恋愛って?年相応のお付き合いって?悩める向井くん…ほんとに結婚できるの??そんな向井くんを運命の再会が待ち受ける…!!

第4話のレビュー

「ドレス、ステキでした。プリンセスみたいだった!」

向井くん(赤楚衛二)がチカ(藤間爽子)にそう言い放つ時の表情で、「赤楚衛二は、やっぱり誠実な役者だ」と思わされた。

大人の恋愛において、最も重要とされる誠実さ。だけど、大人の恋愛って何だろう?誠実であるってどういうことだろう?と改めて考えさせられた「こっち向いてよ向井くん」第4話。

「女の子ってこういうもの」と鼻から決めつけて後輩女子のナイトを気取ったり、10歳年下の女の子が全力でぶつけてくる恋心に必死で応えようとしたり、これまでの向井くんは誠実であろうとするあまりに誠実から次第に遠ざかっていったように思う。だけど、最終的にチカとの別れを呑み込んだ今回の向井くんは相手に対しても、そして自分に対しても本当の意味で誠実だった。

3年ぶりに再会したチカと、結婚を見据えた交際をスタートさせた向井くん。久しぶりに彼女ができたことにすっかり舞い上がる向井くんだったが、チカの方はそうじゃなかった。

いつから同棲を開始するか、どの式場で、どんな結婚式を挙げたいか。チカはいつも“未来”の話をする。二人は結婚を目標に歩き始めたのだから、当然といえば当然だ。だけど、向井くんが向き合おうとしていたのは二人で過ごす“現在”。手を繋いでデートして、互いをもっと好きになり、自然と結婚へと向かっていく。それが向井くんの理想であって、結婚という目標は同じでも、向井くんとチカでは熱量もスピードも全く違うことが少しずつ明らかになっていく。

そんな中、向井くんはチカに「向井さんとは年相応な大人のお付き合いができそうですね」と言われ、さらに違和感を募らせていくことに。年相応のお付き合いとは一体何なのか。モヤモヤする向井くんに気づきを与えたのは、またしても洸稀(波瑠)だった。

バツイチで再婚の意思がない同僚の環田(市原隼人)と、名前のない関係を楽しんでいる洸稀。側から見れば、環田は責任を一切負わずに女性を弄んでいる不誠実な奴と捉えかねず、向井くんもあくまで洸稀の友人として二人の関係には難色を示す。だが、冷静に考えれば環田が不誠実になるのは、洸稀が交際や結婚を望んでいる場合だけだ。彼女がそれを求めていない今、恋愛のドキドキを一緒に楽しむことが、どうして不誠実と言えるだろうか。

「大人の恋愛が何かなんて、他人が定義することじゃないけど、強いて言えば、ちゃんと自分の足で生きてきた人たちが誰かに依存したりされたりとか、そういうことじゃなくて自分の責任で相手と向き合うことじゃない?」(洸稀)

誠実であるとは、自分の責任で相手と向き合うこと。難しいけれど、それはつまり、自分にも相手にも「嘘をつかない」ということじゃないだろうか。例えば、本当は結婚したくないのに、それを隠して結婚を望む相手と交際を続けるのはあまり誠実とは言えない。逆に、本当は結婚したいのに、無理をして結婚を望まない相手と交際を続けるのも、心情としては前者よりも理解できるが、誠実ではないと言えるのではないだろうか。相手に対しても、自分に対してもだ。麻美(藤原さくら)が元気(岡山天音)にイライラするのも、彼が「自分たちがどうしたいか」ではなく、「世間が自分たちに何を望んでいるか」に目を向けるようになってしまったからだろう。

向井くんの場合、結婚したいという気持ちに嘘があるわけじゃない。だけど、彼はきっと結婚よりもまず、恋愛がしたかったのだと思う。今回向井くんが大きく成長したと思ったのは、彼がそのことに気づいて目を背けなかったことだ。自分を偽ってチカのペースに流されていくのではなく、違和感とちゃんと向き合えた。その結果、チカが結婚を焦っているのは、出産や子育てまでのタイムリミットが迫っているからだということを知る。

35歳以上で子供を産むのは高齢出産と言われ、それ以前の年齢よりもリスクが高まることは多くの人が知っているだろう。無事に生まれたとしても、二児の母である向井くんの友人が言うように子育てバスにはたくさんの“停車駅”があって、その度に体力を消耗する。だから、チカの早く結婚して、子供を産まなきゃという焦りは同性からするとよく分かるのだ。

一方で、チカには恋人と海ではしゃぐような恋愛に憧れている部分もある。頑張り続けたい仕事もある。だからこそ、妊娠や出産を未来に託す卵子凍結が選択肢に入っていたのだろう。「過去に経験できなかったことも叶わなかった夢もこれからやればいいじゃないですか」という向井くんの言葉は決して、無責任じゃない。結婚したいし、子供も産みたい。だけど……という女性なら誰もが抱える矛盾を肯定してくれる言葉だ。

チカがやりたいことを心から一緒に、と思える相手は向井くんではなかった。切ないけれど、二人の再会と別れは双方が今後を考える上で必要なステップだったように思う。印象的なのは、向井くんの以前とは異なる態度や表情だ。一見すると何も変わっていないように思うが、今はその一つひとつに真心がこもっている。微々たる変化かもしれないが、向井くんにとっては重要な変化だ。赤楚衛二はそれをちゃんと実感させてくれる。向井くんに共感した上で演じているからだろう、嘘偽りが一切ない。だから、彼は誠実な役者なのである。

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–{第5話ストーリー&レビュー}–

第5話ストーリー&レビュー

第5話のストーリー

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結婚を見据えたお付き合いをしていたチカ(藤間爽子)と別れ、再び恋愛迷子の向井くん(赤楚衛二)、久しぶりに参加した学生時代のサークル仲間との飲み会で、忘れられない元カノ・美和子(生田絵梨花)と10年ぶりに再会!
 
もしかして何かあるかも…なんていう淡い期待もむなしく、美和子は他人行儀な態度で…。「過去は過去でしかない」と洸稀(波瑠)が言うように、10年前の元カレなんてただの他人?
 
2人の思い出も全部なかったこと?寂しくて肩を落とす向井くんだが…ひょんな理由で美和子とまた会うことになり…!
一方、麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)の仲は、まさかの三角関係が勃発してますます修復不能に…。

10年ぶりの再会は予想外の展開へ!?揺れ動く恋愛迷子たちの恋の行方は…!?

第5話のレビュー

あー!そっちは沼だよ!……と、洸稀(波瑠)の目線になって心で叫びながらも思わずドキドキしてしまった。「なし、だよね?」「なし……だよ」とお互い確認し合いながら、唇を近づける向井くん(赤楚衛二)と美和子(生田絵梨花)のキスシーンに。

「こっち向いてよ向井くん」第5話では、向井くんと元カノの美和子がサークルの同窓会で10年ぶりに再会を果たす。

久々の恋愛モードに突入してから、色々な女性と出会ってきた向井くん。真由(田辺桃子)には終始紳士的な態度で接し、アン(久間田琳加)から部屋に誘われても上がらず、チカ(藤間爽子)とは手を繋ぐのも躊躇った。もしかして性欲があまりないタイプなのでは?と思うほどに、あの理性的な向井くんはどこに行ってしまったのだろう。頭ではダメだと分かりながらも、本能に抗えない向井くんに初めて“雄”を感じた。でもそれって結局、向井くんの中で美和子への思いは終わってなかったってことなんじゃないか。

そんなど本命の美和子に一応は受け入れられて、向井くんはこのまま復縁パターンを期待する。性懲りもなく美和子の部屋に何度も上がる浮かれポンチの向井くんに呆れつつも、その幸せそうな姿を見ると良かったねと思う自分もいる。洸稀じゃないけど、もはや向井くんは他人じゃない。私たち視聴者だって向井くんに幸せになってほしい。幸せになってほしいからこそ、美和子の一挙一動に意味を感じて、向井くんが心配になってしまった。

10年前まで向井くんの前でジェラピケを着ていた美和子は、ダル着にすっぴんで味付け海苔をつまみに酒を呑む。長い月日を経て美和子は、向井くんの知る彼女ではなくなった。そんな美和子の「向井くんは変わらない」という言葉が気になる。だってそれは、彼女が別れを選んだ頃の向井くんから何も変化がないということであって、問題は何も解決していないのだから。

久しぶりの元彼がそれはそれは素敵な男性に成長していて、復縁のふた文字が頭に浮かぶくらい心がトキめいたのだったら、アラサーだってふわふわのジェラピケを着る。ましてや、すっぴんなんかでいられるわけがない。だから、美和子のそれは単に久しぶりに会っても向井くんの前では素でいられるということではなく、もはや本命ではなくなった相手に自分を可愛く見せる必要はないというメッセージなんじゃないだろうか。

向井くんはこの10年間、美和子と過ごした日々を思い出にはできなかった。だけど多分、美和子はそれを宝箱にしまっていのだと思う。いや、宝箱じゃなく、そこら辺にあるクローゼットか段ボールだったのかもしれないけれど。とにかく捨てはせず一応取っておいたのだ。そしてしばらくたって久しぶりに引っ張り出したら、ちょっとだけ輝いて見えた。元々は欲しかったものなのだから、当たり前だ。だけどそれは所詮いらなくなったものであって、またしばらく経つと「ああ、ここが気に入らなかったんだよな」って気づいて再びしまわれるか、捨てられるかである。

なんて、リアルで残酷なラブストーリーなんだろう。向井くんが傷つく未来が容易に想像できて、胸が苦しい。一方で、向井くんも本当に美和子と復縁したいのかどうかはちょっと謎だ。本当に好きだったらこれまでも何かしらアクションを起こしてもおかしくないはずなのに、向井くんは何もしなかった。プライドなのか、しつこくして嫌われたくなかったのか。結果的に美しい思い出に浸るばかりで、10年も美和子を放置した。その間に美和子はきっと別の恋もしただろうし、社会に揉まれて変わってしまったよ。なのに今更プリンの口になったからって、やっぱり美味しいな、俺たちやり直さない?なんてちょっと虫が良すぎる気もする。

美和子ともう一度付き合いたいなら、物語の続きを作るなんて言わずに全く新しい物語を作る覚悟が必要なのだろう。

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–{第6話振り返り・第7話ストーリー&レビュー}–

第6話振り返り・第7話ストーリー&レビュー

第7話のストーリー

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再会をきっかけにすっかり元サヤに収まった気でいた向井くん(赤楚衛二)、なのに美和子(生田絵梨花)に元カレ呼ばわりされてノックダウン寸前…!あんなに仲良くしてたのに、付き合ってないとかあり得るの!?
 
ヤケになった向井くんは「もう会わない!」。そんな中、単身赴任中の父・隆(光石研)が向井家に帰って来て、公子(財前直見)はピリピリ、麻美(藤原さくら)はツンケン…
 
なんだか家の中が息苦しくて酸欠状態!そして洸稀(波瑠)と、環田(市原隼人)の恋にも進展が…?

結婚って何?幸せって何?10年前に別れた本当の理由って…何!?

第6話振り返り・第7話のレビュー

「独身でも、結婚してても、母になっても、好きな仕事をしても、寂しい時は寂しい」

大学の同窓会で再会を果たした向井くん(赤楚衛二)と美和子(生田絵梨花)。元カレ・元カノとはいえ、別れて10年も経ったらもはや他人。

簡単にその溝が埋められるはずもなく、第6話における共通の友人・杉(野村麻純)さんの言葉の受け止め方も2人はまるで違った。

向井くんは単純で、美和子のことがまだ好きだから、その寂しさを埋めてあげたかった。だけど、美和子はできるなら、自分の力で寂しさを乗り越えたかったのである。複雑なのは、美和子がその一方でどうにも埋められない寂しさを抱えているということ。そんな葛藤の渦中にいる彼女にとって、「やり直そう」の言葉もなく恋人ごっこに付き合ってくれる“元カレ”の存在はどれほど都合が良かっただろう。

そして、第7話で明らかになる10年前の真実。

美和子が向井くんとの別れを選んだのは、端的にいえば価値観の違いによるものだった。「独身で子供がいない=孤独で寂しい」という父親の古い価値観に違和感を覚え、「結婚しなくても幸せになれる」ことを証明したい美和子。対して、向井くんは2人に結婚という未来が訪れることを信じて疑わなかった。

なにせ、彼が憧れていたのは環田(市原隼人)なのだから。家庭を持つ覚悟として自分に高級な腕時計を買う環田のようになりたかった。大黒柱、家父長制への無意識的な憧れが、向井くんの「守ってあげたい」「何からだって守るよ」という発言に繋がっている。

美和子が向井くんに感じた違和感は、麻美(藤原さくら)が元気(岡山天音)に感じている違和感と同じだ。もっといえば、公子(財前直見)が向井くんに結婚を迫る隆(光石研)にイライラさせられるのも、もしかしたら環田が妻に離婚を突きつけられた理由も根本は同じなのかもしれない。

彼らは誠実っちゃ誠実なのである。ちゃんと仕事をしてお金を稼ぎ、大切な人を幸せにしたいと考えている。だけど、その幸せの形があまりに世間が決めた型にハマっているから窮屈なのだ。自分だけじゃなく、相手も幸せになれる最良の方法を一緒に見つけていきたい。面倒臭いかもしれないけれど、その面倒臭さは窮屈さに気づきにくい男性陣を世間の檻から解放するためでもある。

一方で、美和子は「結婚しなくても幸せになれることを証明しなければ」という枷に自ら苦しめられている節もある。美和子と洸稀(波瑠)が根本的に違うのは、まだ自分の生き方に納得できていないところ。一人でも生きていけるくらい強くなりたいけれど、誰かにそばにいてほしいとも願っている。そんな美和子に「美和子が行きたい場所に行くために向き合う相手は少なくとも俺じゃない」と別れを告げた向井くん。

彼の成長が垣間見えた一方で、気になるのは向井くんが求めているのは何なのか?ということだ。向井くんは結婚願望があるように思えて、「結婚することによって、そういう煩わしさ全般から解放されたい」という発言から推測するに本当のところは彼も結婚を心から望んではいないのではないか。行きたい場所が見えていないのは、美和子も向井くんも同じなのだ。

だけど、本当は自分が何を望んでいるのかなんて見つけるのはかなり難しい。結婚したいと思っても、それが自分の本音なのか、世間にそう思わされているのか。はたまた結婚しなくていいと思っても、結婚=幸せという価値観を押し付けてくる世間への反発なのか、そうじゃないのか。考えれば考えるほど、だんだんドツボにハマる。

「せめて自分が何をしたいか分かってないと迷子になるような気がするな」という隆の台詞があまりにも芯を食っている。価値観が多様になればなるほど、迷子になる私たち。幸せになりたいだけなのに、生きるのはどうしてこうも難しいのだろう。

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–{第8話ストーリー&レビュー}–

第8話ストーリー&レビュー

第8話のストーリー

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今いる場所から一歩踏み出そうと決めた向井くん(赤楚衛二)、10年引きずった元カノ・美和子(生田絵梨花)への未練を断ち切ったものの、さすがに喪失感が半端ない!
 
「恋に賞味期限は付きもの」と洸稀(波瑠)は慰めてくれるけど…始まった時から終わりに向かっているなんて寂しいし、いつまでもラブラブでいられる恋もあるって信じたい…。そんな向井くん、環田(市原隼人)から突然飲みに誘われて…何の話かと思ったらまさかの警告!?一方、麻美(藤原さくら)の気持ちが分からない元気げんき(岡山天音)は、ある行動に出て…。
 
恋愛っていつか終わりが来るの?友達のままならずっと一緒にいられるの?ますますこじらす恋愛迷子たちに決断の時が迫る…!

第8話のレビュー

元カノ・美和子(生田絵梨花)との10年越しの恋に決着をつけた向井くん(赤楚衛二)。その大きな喪失感を埋めてくれるのが、仕事と洸稀(波瑠)の存在だ。「微妙な時期のカップルの周りを他の女がウロウロするのはご法度」という理由でしばらく洸稀から距離を置かれていた向井くんだが、美和子とお別れしたことで以前のように気軽な飲み友達に戻る。

しかし、そこで登場してくるのが、洸稀と同僚以上、恋人未満の関係である環田(市原隼人)。元後輩の向井くんと洸稀の親しげな様子を目の当たりにして火がついた彼は、「あの子にちょっかいを出さないで欲しい」と向井くんを牽制する。いやいや洸稀との都合の良い関係に甘んじている癖に、それは流石に勝手すぎないか。

……と思いつつ、恋愛強者の環田がまだまだ若々しさが残る後輩の向井くんを脅威に感じるほど、余裕がなくなっていることに驚いた。そこまで彼を本気にさせた洸稀の手腕にただただ頭が下がる。これまでどんな恋愛をしてきたのか気になるし、真面目に恋愛指南書を出版してほしい。

それはさておき、微妙な時期のカップルの周りをウロウロする異性側になってしまった向井くん。そんな状況下で2人の会社とタイアップすることになるのが、第8話だ。立場が一気に逆転し、今度は向井くんが環田に気を使って洸稀と不自然に距離を取るようになってしまう。しかし、さすがは洸稀。百戦錬磨の彼女には全てお見通しで、環田が自分に熱を上げ始めているのも、向井くんが彼に何らかの釘を刺したであろうことにも気づいていた。

その上で、「結婚を視野に入れて付き合ってほしい」という環田の申し出を断った洸稀。彼女が環田に対して違和感を持ったのは、「(元妻の)環境を整えて“あげたくて”」という何気ない言葉がきっかけだった。つまり環田は、洸稀がバカにされてると感じてしまう“守ってあげたい男”だったわけだ。それだけじゃなくて、独占欲をまる出しにして、自分のコミュニティを断ち切ろうとする環田に洸稀は冷めてしまったのだろう。

恋人になったらもっとかっこ悪い面も見えてくるかもしれないし、自分の嫌な面も見せてしまうかもしれない。本来はそこを乗り越えることで恋が愛に代わり、2人の絆は深まっていくものだ。だけど、パフェの一番上にあるフルーツの部分だけ食べていたい洸稀は、しなしなのフレークに到達する前のバニラアイスゾーンで食べる手を止めた。彼女は出来立てのパフェみたいに、お互い着飾った状態でいられる関係を望んでいるのである。結婚願望がないわけではなさそうだが、それだと難しいのではないだろうか。

そんな彼女に聞かせたいのが、向井くんの母・公子(財前直見)の言葉だ。相変わらず、言葉足らずで元気(岡山天音)を困惑させている麻美(藤原さくら)に公子は「踏み込まずにいられる関係が本当に幸せなのかもわからないし、夫婦も家族も人間関係だからね。たかだか紙切れ一枚で離婚して、煩わしいこと全部なくなるって思ってるんだったら甘い」と忠告する。

友達も恋人も、夫婦も家族も、人間関係には別れがつきもの。洸稀は「恋愛に賞味期限がくるのは逃れられない」と言うが、それは何も恋愛に限ったことではない。ただ死別を除き、その賞味期限は話し合うことで多少なりとも伸びていくはずだ。

向井くんは再会した美和子に「一緒に考えてほしかった。私の話も聞いてほしかった」と言われたことで、それを学んだのだろう。美和子も言葉足らずだったし、向井くんも彼女の気持ちを聞こうとしなかったから10年前に2人の恋は終わった。洸稀に対する「落ち度のない人なんていないじゃない。嫌だなって思う行動を取られたら、それは嫌だよ、やめてって伝えたらよくない?」という言葉はそんな経験から出てきたものだ。洸稀が正直に自分の気持ちを伝えれば、環田も分かってくれたかもしれない。

それができなかったのは、洸稀の自信のなさにある。洸稀は以前付き合った人に「仕事の時は魅力的だと思ったけど、普段は全然普通で面白くない」と言われたことがあり、他人と深い関係になるのが苦手になってしまったのだ。

そんな洸稀が向井くんとはカラオケで一夜を共にし、一緒に朝ごはんを食べられたのは、彼がバニラアイスとフレークをパフェの本体と思っている人だから。着飾った状態ではなく、毒舌でズバズバ物を言う素の自分を面白いと思ってくれる向井くんとなら、もしかしたら洸稀は安心してより踏み込んだ関係に進めるのではないだろうか。

かたや、柿ピーのピーナッツしか食べない麻美のために、柿の種を食べ尽くす元気はパフェに例えるなら、相手が残したところ以外を全部食べてくれる男性だ。“相手のために”と言えば恩着せがましいが、元気は別に無理をしているわけじゃない。自ら進んで何かをしてあげたい、相手のために変わりたいと願う気持ちはもはや愛だ。それに気づいたタイミングで、元気に離婚届を渡された麻美。2人の関係性の賞味期限はここで切れてしまうのだろうか。

最後に、洸稀から別れを告げられた環田が一人朝ごはんを作って食べる姿に切なくなった。彼もまた向井くんのようにバニラアイスも、しなしなになったフレークも美味しいと言って食べてくれる人だったかもしれないのである。もしまた恋をすることがあったら、環田がその人と一緒に朝ごはんを食べれることを願ってやまない。

※この記事は「こっち向いてよ向井くん」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第9話ストーリー&レビュー}–

第9話ストーリー&レビュー

第9話のストーリー


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2人で朝ご飯を食べたあの日から、洸稀(波瑠)とのあやふやな関係に悩み始めてしまった向井くん(赤楚衛二)。大切な飲み友達ではあるけれど、飲んでない時だってあるし、俺たちって…何?
 
一方、麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)はついに離婚が成立!麻美は家を出ていっちゃうし、元気は抜け殻同然だし…。お互い好きなのに、夫婦じゃなくなったら、もう一緒にいることはできないの…?
 
最終回直前!怒涛の展開に難題山積の向井くん!友達って何?恋人って何?夫婦って一体…何!?

第9話のレビュー

素の自分を見せることに躊躇いがある洸稀(波瑠)が、流れで向井くん(赤楚衛二)とカラオケでオールし、一緒に朝ごはんを食べることになった「こっち向いてよ向井くん」第8話。あの日から、向井くんは洸稀を変に意識し始めていた。

向井くんと洸稀の関係はいわば、性別の垣根を超えた飲み友達。恋愛における面倒な駆け引きが必要ないからこそお互い気楽でいられるのであって、もし少しでも一線を超えてしまったらバランスが崩れ、今みたいに会えなくなってしまうかもしれない。逆に、一線を超えずに飲み友達のままでいられれば、終わりが来ることもない……とも言える。

そんな中、麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)の離婚が成立。なぜか麻美が一人暮らしを始め、書類上は赤の他人である元気が彼女の実家に居座ることになった。その理由を公子(財前直見)は「麻美は家族だから離れてても繋がってるけど、元気くんとはこうやって一緒に住んでないとホントにお別れだもん」と語る。

人と人との関係は、“名前”がなくなったら終わりなのか。それが、今回の第9話で向井くんたちに課せられたテーマだ。

美和子(生田絵梨花)が意図せず元気の店に現れ、向井くんや洸稀と4人でディベートのような会話を繰り広げる場面はとても見応えがあった。30代前半の彼らは、いわば狭間の世代。「男と女は基本的に恋愛で結びつくもの」「恋愛の行き着く先は結婚か別れの二択」「結婚や出産が女の幸せ」「結婚したら夫が大黒柱となって家族を養う」等々、旧世代の価値観と、「いや、そうとも限らない」と言い切れる次世代の価値観に挟まれ、迷子になりつつある。

だから、麻美と元気の離婚に対する意見もバラバラ。驚いたのは、麻美が婚姻関係を解消したがった理由を元気が全くもって理解していなかったことだ。元気は甲斐性がない癖に、夫っぽくする自分に麻美が愛想を尽かしたと思っている。だけど、そうじゃない。麻美はただ元気と一緒にいたかっただけなのに、結婚した途端に面倒な手続きが増えたり、元気が世間の求める立派な夫像をなぞり始めたことにモヤついたのだ。

だから、元気と離れることを望んでいたわけじゃない。そのことにピンと来ているのが、4人の中では洸稀と美和子だけだった。必ずしもそうとは言えないけれど、比較的に女性の方が麻美の気持ちは理解しやすいのかもしれない。

やっぱり、女性は男性よりも後に社会へ進出したから。男性に守られるべき存在として良くも悪くも家の中に閉じ込められていた時代があり、そこから女性は様々な権利を獲得して広い世界に飛び出していった。だけど、まだまだ旧世代の価値観が残る中で、女性だからという理由で制限されることも多い。普段からそういう違和感に直面しているから、麻美が言わんとすることが何となく分かる。

もちろん、麻美にも言葉足らずな部分はあって、それでも元気に全てを察しろとは言えない。でもどうしたって埋められない男女の違いみたいなものが見えてしまったから、麻美は根を上げてしまったのではないだろうか。

元気のことが好きだから、夫という役割に囚われずにこれまでと変わらず伸び伸びといてほしい。だけど、一方で「役割を生きない方がずっと難しい」という向井くんの意見も理解できる気がする。私たち人間は役割を与えられて初めていきいきとする部分が少なからずあって、何者でもない自分でいるのは意外と辛い。「あなたは〇〇ですよ、だからこれをやってくださいね」と言われたことに従うのは息苦しく感じることもあるが、基本は楽だ。

でも、元気は何も楽をしたかったわけじゃない。元気が店を畳むと聞いて飛んできた麻美に「私がいてもいなくても元気は元気の人生を幸せそうに生きてほしい」と言われ、彼は無理だと答える。一人で好き勝手に生きるのではなく、麻美を笑顔にしたい。元気の人生に麻美が現れてから、いつしかそれが自分の幸せになっていた。だから、できることは何でもしてあげたかったのであって、結婚したからではなく、元気は元気の意志で変わったのだ。そういう意味では、麻美の方が結婚という制度に囚われていたのかもしれない。

二人は最終的に再婚ではなく、今はただ一緒にいることを選んだ。「俺はさ、まみんをずっと好きでいればいいんでしょ?」という元気の台詞が印象的だ。夫婦とか、家族とかいう名前のある関係に甘えて相手をないがしろにする人もいる中で、名前がなくとも相手をずっと大事にしたいと思える関係は尊い。子供のこと、財産のこと。色々と考えた上で再婚の道を選ぶ未来もあるかもしれないが、どちらにしても互いを思い合える2人ならきっと大丈夫だろう。

人と人との関係は、“名前”がなくなったら終わりなのか。その問いに、NOを突きつけた本作。向井くんと美和子も恋愛では上手く結びつかなかったが、現状を報告して互いを鼓舞し合える、友達とはまた言い難い名前のない関係に落ち着いた。私たちはどうしても白か黒かはっきりさせないと気が済まないけど、白でも黒でもない、グレーのままでいる勇気を持てたら、もっと世界は広がるのかもしれない。

綺麗な虹を見たら、互いの顔が浮かぶようになった向井くんと洸稀はどんな選択をするのだろう。次週はついに最終回だ。2人が出す答えに注目したい。

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–{最終話ストーリー&レビュー}–

最終話ストーリー&レビュー

最終話のストーリー


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10年ぶりに恋をしようと頑張ってきた向井くん(赤楚衛二)、いつも一番近くにいてくれた洸稀(波瑠)の存在が、いつの間にか自分の中で大きくなっていることに気が付いて…。でも今の楽しい関係が壊れるぐらいなら、気持ちは伝えたくない…。
 
一方、前向きに離婚した麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)は、自分たちらしい幸せな暮らしを模索中。乗り越えなきゃいけないことは多いけど、2人で選んだ道だし、公子(財前直見)も見守ってくれているし、きっと大丈夫。そんな中、美和子(生田絵梨花)もある決断をしていて…。
 
思いを伝えるのって難しいし、怖い…。そんな恋愛迷子たちのゴールはどこに!?幸せに向かう気持ちが交錯する運命の最終回!!

最終話のレビュー

「カレーってさ、誰もが好きな食べ物ってイメージが出来上がってるよね」

学校の給食で大人気のカレー。だけど、実はあまり好きじゃなかったという麻美(藤原さくら)の告白に思わずハッとさせられた。

ついに迎えた「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)最終話。互いに綺麗な虹の写真を送りたくなるような存在となった向井くん(赤麻衛二)と洸稀(波瑠)は、自分たちの関係にどんな名前をつけるのだろう。友達のままか、それとも恋人に進展するか。ついついその二択に縛られていたからこそ、カレーのくだりに不意を突かれたのである。

恋愛ドラマの最終回といえば、主人公とその恋の相手が何かしらでぶつかり、一度は別れを選ぶものの、なんやかんやで結ばれる……みたいな展開をイメージする。だけど、本作では派手な展開が一切ない。これまでと変わらず、ただ淡々と描かれるのは人と人との“対話”だ。

再び会社同士のコラボが決まり、一緒にデザイナーとの打ち合わせに赴く向井くんと洸稀。アポを取っているのに何時間も待たせるデザイナー、どうなっているんだと思いつつも、待たされている間に2人が交わす会話にはちゃんと意味があった。

以前はカラオケでパフェのどの部分が好きかで議論していた彼らだが、今回も名前だけじゃ想像がつかないメニューを店員に訪ねるかどうかで盛り上がる。出てくるまでのお楽しみにしていたい向井くんに対し、食べたいものじゃなかったら嫌だから必ず聞くという洸稀。この2人はいつも意見がバラバラだ。幸せな家庭で育った向井くんは「子どもを持つことで、子どもの頃に楽しかったことを追体験できる」と思えるけど、両親が不仲だった洸稀はそうは思えないように、育った環境や培ってきた経験が違えば、価値観も違ってくる。

そうは理解していても、これだけ価値観が違うと普通ならついぶつかったり、どちらからともなく離れていくものだけれど、向井くんと洸稀はそうじゃない。一緒にいると楽しい、失いたくないと思う。その気持ちを思わず「好き」という言葉で伝えてしまった向井くんだが、彼がえらいのは、それがもしかしたら洸稀に負担をかける行為かもしれないことをちゃんと理解していることだ。

大人の男女が一緒にいると、すぐ恋愛に結びつけられることに洸稀同様、モヤっとするという人もいるだろう。男女の友情が成立すると信じていたら、相手に告白されて困ったという経験もないだろうか。恋愛感情がなかったとしても断ったら一緒にいられなくなるかもしれない。だけど、恋愛対象としては見れないけど、これからも一緒にいたいと言うのはずるい気がしてしまう。そんな葛藤を相手に負わせる可能性があるということを理解しているか、していないかでは全然違うはずだ。

向井くんは自分の気持ちを伝えたけれど、恋人になるかならないかの選択を洸稀にはさせなかった。それは彼女自身が今は恋愛や結婚というものを望んでいないことに、対話を通して気づいたからではないだろうか。その上で、自分はどうしたいか。いきなり走ってつってしまった足で洸稀の元に向かった向井くんは「一日の終わりには坂井戸さんと話がしたい」「自分と考えや価値観が違っても、全部わかり切らなくても、違うんだってことを理解して向き合っていきたいんだ」と伝える。

結論から言えば、向井くんと洸稀は名前のない関係に落ち着いた。「向井くんと過ごす時間は私も好き。だから、ありがとう」という洸稀の返事に、フラれた!と落ち込むのではなく、むしろ喜ぶ向井くん。

洸稀を既存の形に無理やり当てはめないこの作品も、向井くんも私は好きだ。この先、どちらかに好きな人や恋人がどうするの?とか、子供が欲しいなら早めに……とか、色々と思うところはあるけれど、それはタイミングが来たときに2人がどうするかを決めるべきこと。

また、本作の良さは誰かと生きることを一切否定していないところだ。今の時代、恋愛や結婚が人生に必須という価値観は薄まりつつあるが、逆に一人で生きていける、自立したかっこいい大人にならなければと自分を追い込んでしまう人もいる。それが本作においては美和子(生田絵梨花)だったが、麻美の「誰かと一緒にいるから、強くなれるってこともあると思う」という言葉が少し肩の力を抜くきっかけとなった。

そんな麻美は、元気(岡山天音)といわゆる事実婚という形で、自分たちだけの幸せの形を模索する。一方で、結婚という制度を利用している向井くんの同級生や同僚たちも幸せで、結局は人それぞれなのだ。「こっち向いてよ」の“こっち”は自分の気持ちであり、相手の気持ちでもある。「世間が」とか「みんなが」とかではなく、向き合うべきは常に“こっち”。

だけど、カレーはみんな好きだからという理由で特別な日に出されたりするように、人と人との結びつきに関してもまだまだ世間は大多数の意見に合わせようとしてくる。例えば、麻美と元気が話していたように、子供の親権や苗字はどうするかとか。2人は「お互いの名字を合体できたらいいのに」と冗談ぽく言っていたけど、本当はそんな風にそれぞれの幸せに合った選択が用意されていたらいいなと思う。

「今日は幸せでも、明日は何かに悩んでいるかもしれない。まぁ、それが人生よ」という公子(財前直見)の言葉にも含蓄があった。令和を生きる私たちには、昔よりはるかにたくさんの選択が用意されている。選ぶのは大変だし、何かを選んだからといって幸せになれるとも限らない。だけど、選べるということ自体がとても贅沢で幸せだと本作は思わせてくれた。ゴールも、正解もない、自分だけの、自分たちだけの幸せを。それこそ元気のように、頭が焦げるほど考えて生きていきたい。

そして最後に、主演を務めた赤楚衛二の健闘に触れざるを得ないだろう。こういう作品はどうしても説教くさく感じられがちだが、そうならなかったのは彼の素直なリアクションがあったからこそ。向井くんの悩める姿をリアルに、かつクスリと笑える形で演じてくれたから、私たちも一緒に難題と向き合うことができた。ストーリー・テラーとしての主人公にこれほどふさわしい役者はいない。きっと「こっち向いてよ向井くん」は代表作、あるいは名刺代わりのような作品として赤楚の役者人生に刻まれることだろう。

※この記事は「こっち向いてよ向井くん」の各話を1つにまとめたものです。

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–{「こっち向いてよ向井くん」作品情報}–

「こっち向いてよ向井くん」作品情報

放送日時
2023年7月12日(水)スタート  毎週水曜22:00~

出演
赤楚衛二/生田絵梨花/岡山天音/藤原さくら/森脇健児/内藤秀一郎/上地春奈/岩井拳士朗/若林時英/田辺桃子/久間田琳加/財前直見/市原隼人/波瑠

原作
ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社フィールコミックス)

主題歌
NiziU「LOOK AT ME」

脚本
渡邉真子

演出
草野翔吾
茂山佳則

音楽
FUKUSHIGE MARI

チーフプロデューサー
三上絵里子

プロデューサー
鈴木将大
柳内久仁子
妙円園洋輝

協力プロデューサー
宇田川寧
福井芽衣

制作協力
AX-ON
ダブ

製作著作
日本テレビ