梅雨明け以降に猛暑も待ち受けている今、涼しさを少しでも感じたい時には、クーラーが効いた映画館でホラー映画を観てみるのもいいだろう。実は、この2023年7月に公開されるホラー映画は実に“攻めた”、それでいてエンタメ性抜群の快作が勢揃いしているのだ! 一挙7作品を紹介しよう。
1:『先生!口裂け女です!』(7月7日より公開中)
バイク窃盗に手を染める高校生たちが、原付の持ち主の口裂け女から推定時速50キロで追いかけられることから始まるアクション&コメディ(ここ重要)&ホラーだ。その後は予想を裏切る展開の連続でまったく飽きさせない、作り手が楽しく映画を作っていることも伝わってくる、サービス精神満点の娯楽作となっている。初めこそ軽薄な泥棒だった主人公たちに、いつしか感情移入できるようになる物語運びも上手い。
『ジョン・ウィック』ばりの本格的な格闘アクションも繰り出され、PG12指定相当のバイオレンスもなかなか趣味の良いギャグへと昇華。「令和に口裂け女…!?」な時代錯誤っぷりは劇中の登場人物もツッコんでおり、それをアツい展開に生かしていたことも感動した!ナカモトユウ監督は『一文字拳』『はらわたマン』『いけにえマン』『死霊軍団 怒りのDIY』(オムニバス映画『DIVOC-12』の一遍)と撮る映画すべてが面白いので、義務教育として覚えて帰って帰っていただきたい。
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2:『Pearl パール』(7月7日より公開中)
スターに憧れるも田舎町で抑圧を受け続け精神を歪めていく、「ここではないどこか」に行けない苦しみを綴った悲しいホラー……!1918年というスペインかぜが大流行した年代を描いており、コロナ禍を連想させるのも興味深い。現在はAmazonプライムビデオで見放題の『X エックス』の前日譚だが、こちらから観てもまったく問題なく楽しめるだろう。
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誰もが絶賛するであろうことは、主演のミア・ゴスの演技力。劇中の境遇は不憫そのもので同情もしたくなるが、寄り添うことにどうしても拒絶反応が出てしまうほどの狂気を見事に体現していた。詳しくは観てほしいので書かないでおくが、映画という媒体の「観続けるしかない」特性を活かしたあの「長さ」に、今までにない複雑な感情が渦巻いた。R15+指定であり、直接的な残酷描写および性描写があるのでご注意を。
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3:『バイオハザード:デスアイランド』(7月7日より公開中)
ご存知、世界的な人気を誇るサバイバルホラーゲーム『バイオハザード』のCGアニメ映画。他のシリーズとの物語の繋がりはほとんどないので予備知識なしで観てもOKだが、人気キャラクターが一堂に会する『アベンジャーズ』的な豪華さがあるので、ゲームのファンであればより楽しく観られるだろう。
序盤から派手かつハイスピードなバイクアクションで「掴み」はバッチリ。主な舞台である、元刑務所であるアルカトラズ島での攻防はいっさいの出し惜しみなしの見せ場が詰まっていた。悪役の良くも悪くも共感できない言い分に対して「早よ撃て」ツッコミたくなることはご愛嬌。クライマックスにはもはや笑ってしまうほどの「やりたい放題」な大サービスも待っていた。
4:『ヴァチカンのエクソシスト』(7月14日公開)
実在のエクソシストであるガブリエーレ・アモルト神父の回顧録の映画化作品。つまりは「実話もの」であるのだが、お堅い印象はまったくない。まるで『呪術廻戦』か『ドラゴンボール』かと思うほど、派手に吹っ飛んだりする見せ場が満載のホラーとなっていた。悪魔の仕業だけでなく、精神疾患の可能性を考えてたり、教会全体の問題についての言及があるなど、現実的な視点も十分にある。
ちなみに、ジュリアス・エイバリー監督は米軍兵士たちVSナチスの化け物な『オーヴァーロード』や、シルベスター・スタローン主演のヒーローもの『サマリタン』など、エンタメ特化のアクション映画で定評があるお方だ。なお、PG12指定相当のショッキングな描写と、悪魔が性的な罵倒の言葉を吐くことにはご注意を。そして、大柄なラッセル・クロウがちっちゃなスクーターに乗る姿がかわいい。それでいてドアを蹴り破るなど物理的にも強い。ギャップ萌えとはこういうものである。
映画『#ヴァチカンのエクソシスト』#ラッセル・クロウ ×愛車スナップ特集?
神父の愛車はランブレッタのスクーター?
スクーターを乗りこなし、颯爽と走る姿がシブくてカッコイイ?✨
7月14日(金) 全国の映画館で公開?️#ラッセル・クロウvs悪魔 #恐怖の実話 pic.twitter.com/OKCjkrdwXB
— ソニー・ピクチャーズ映画 公式 (@SonyPicsEiga) June 27, 2023
–{18禁ハイジ、アニメのコスプレの殺人鬼、そしてあの日本のマンガの影響も?}–
5:『マッド・ハイジ』(7月14日公開)
児童文学『アルプスの少女ハイジ』に大胆にもほどがあるアレンジをほどこした復讐劇。低俗かつ見世物的な意味を持つ「エクスプロイテーション映画」であることをはっきりと打ち出しており、レーティングは堂々のR18+指定。クラウドファンディングで約2億9000万円もの資金集めに成功したおかげもあってか、血飛沫飛び散るバイオレンスを惜しげもなくぶちまけた内容となっていた。予告での吹き替えが大好評だったため、マジで内田真礼主演の吹き替え版が上映されるのも最高である。
くしくも、同日公開は宮崎駿監督作『君たちはどう生きるか』。その宮崎駿も参加していたアニメの『アルプスの少女ハイジ』とはまったく別ベクトルの解釈をした『マッド・ハイジ』との巡り合わせは、運命的なものを感じさせる。まるで「君たちはどう生きるか」という問いに対し、映画だからこそ許される「やはり暴力…!暴力は全てを解決する…!」を火の玉ストレートで投げてきたような感じだった。
6:『PARALLEL -パラレル-』(7月21日よりテアトル新宿で1週間限定公開)
美少女キャラのコスプレ殺人鬼と、虐待のトラウマを持つ少女が織りなす、「異色のスプラッターラブストーリー」と銘打たれた作品。殺人鬼の行動原理が創作物と絡む様は菅田将暉&Fukase主演の『キャラクター』も思わせたが、それよりもさらに極端な作風で、唯一無二の映画を作る気骨を存分に感じる、侮れない一本となっていた。
殺人鬼の「アニメの世界へ行きたい」衝動は、アニメならずとも創作物に触れたこことのある人であれば、少なからず共感を覚えてしまうのではないか。もちろん、どれだけひどい世界に生きようとも、根本的に殺人は許されないことだからこその、切なさと悲しさも際立つ物語にもなっていた。青と赤がビビッドに強調された画の数々は、スクリーンで堪能する意義も存分にあるはずだ。
7:『イノセンツ』(7月28日公開)
大友克洋のマンガ「童夢」にインスピレーションを受けた、親たちの目の届かないところで隠れた“力”に目覚めていく、4人の少年少女を追うサイキックスリラーだ。まるで是枝裕和監督作品のように子どもが子どものままの姿を描いており、だからこその子どもが持ち得る残酷性に戦慄した。同じく超人的な能力を手にした、少年の哀しい姿を描いた映画『クロニクル』が好きな人も気に入るだろう。
主人公である9歳の少女には言葉を話せない自閉症の姉がいて、彼女の愛憎入り混じる心理も表現されている。つまり、『コーダ あいのうた』のように、明らかに「ヤングケアラー」を描いた物語でもあるのだ。序盤から淡々と、しかし着実に「積み上げていく」作劇の上手さ、そして「じわじわと忍び寄る」恐怖演出の見事さ。「音」も重要なので、映画館で観てこその作品だろう。終盤ではずっと涙を流していた、個人的にはここで紹介した中でもイチオシの傑作だ。
他にも注目のホラー映画が続々!
筆者は未見ではあるが、スマッシュヒットをした『きさらぎ駅』の宮本武史が脚本を担当した都市伝説ホラー『ヒッチハイク』も7月7日より公開中。『パラドクス』のアイザック・エスバン監督による「おばあちゃんが怖い」系ホラーの『イビルアイ』も7月28日に公開されるなど、やはりこの7月はホラー映画が充実しているのだ。
余談だが、最近は『スマイル』『スクリーム6』『死霊のはらわた ライジング』といった、高い評価を受け大ヒットしたはずのホラー映画が、日本では劇場公開なし(スルー)となり、ホラー映画ファンからの悲しみの声が続々と寄せられていた。もちろん配信やソフトで映画を観るのもいいのだが、劇場の暗く集中できる最高の環境でホラー映画を観られるという機会を逃さないでほしいのだ。
(文:ヒナタカ)