2023年7月7日(金)深夜11時15分より、ドラマ『警部補ダイマジン』が毎週金曜日にスタートした。結論から申し上げれば、本作は第1話からめっちゃ面白い!
正統派の「ダークヒーローもの」のようでいて、ツイストの効いた展開も持ち合わせたエンターテインメントとして存分におすすめできる。特に、生田斗真と向井理のファンには是が非にでも観ていただきたいし、三池崇史監督作が好きな映画ファンにもおすすめしたい理由がある。その魅力を記していこう。
[※本記事は広告リンクを含みます。]
【関連記事】「警部補ダイマジン」生田斗真、三池監督、向井理登壇の記者会見レポート
第1話から早々に弱みを握られてしまうダークヒーロー
主人公は警視庁捜査一課のエース・台場陣(生田斗真)。その名をもじって「ダイマジン」とも呼ばれる正義感が強い熱血漢……と思いきや、彼は裏で法律では裁けない犯人を自らの手で殺害している、有体に言えば人殺しなのだ。
なるほど、客観的には殺人という最悪の手段を使いながらも、自らの信念を貫き通そうとする、スタンダードなダークヒーローものなのだろう……と思いきや、これが第1話の早々から予想していた展開と異なっていた。
なにしろ、ダイマジンは頭脳明晰かつ冷淡な警視正・平安才門(向井理)にその殺人を犯した事実を知られてしまい、強制的に“特命捜査対策班”に異動させられ、警察が手を出せない犯人を「秘密裏に始末」することを命じられ、さらなる予期せぬ事態にも遭遇するのだ。
そんなわけで、闇に紛れるダークヒーローが悪党を手玉に痛快無比な大活躍!な内容ではなく、第1話の早々からイヤなやつに弱みを握られて従わざるを得なくなるという、主人公のちょっと情けないコミカルさ、もっと言えば「ダークヒーローらしくない」ところも魅力的なのだ。
ダークヒーローなのに親しみやすい主人公
こうしたダークヒーローものの主人公はクールであったり、もしくは人間味に欠けているパターンが多いと思うのだが、この『警部補ダイマジン』の主人公はまったくそんなタマではない。良い意味で人間くさくて親しみやすい、なかなか珍しいダークヒーロー像を提示していた。
殺人を犯したそのタイミングで「完全犯罪、成功…!」と言う様からちょっとバカっぽさがあると思っていたが、その後はひょうひょうと振舞っているようで実は間が抜けていてスキだらけ。それでいて、自らを顧みず誘拐された子どもを助けようとする真っ当さも持ち合わせていて、人殺しであるはずなのに、どうしても好きになってしまうのだ。
もはや漫才的でもある生田斗真と向井理の掛け合い
その人間くさいダークヒーロー、しかも見た目は40歳のボサボサ髪のおじさんに、生田斗真がピッタリというのも意外だった。何しろ生田斗真は映画『脳男』で「感情を見せない」ダークヒーローも見事に演じており、今回はダークヒーローという肩書は共通していても、コミカルなところが多くて憎めない、まったく正反対と言っていい役柄なのだから。
さらに、向井理が冷徹かつ「上の立場」な役に徹しているというのも大きい。「え?(そんなこと言って)いいの?バラしちゃいますよ」といった言い分が良い意味でイヤらしく、その抜群のルックスだからこその、こっちこそがサイコパス的な怖さも持ち合わせているのだから(それでいて、彼にも人間臭さを感じさせる場面もある)。
彼らの掛け合いはほぼほぼコメディであり、生田斗真がボケで向井理がツッコミをする漫才のように見えるほど。しかも、彼らは敵同士というわけでもなく、「ひょっとして、いいコンビにもなれるのでは?」と今後の関係性も気になる作りにもなっているのだ。
また、もうひとりの重要人物である、主人公を殺人犯と疑う刑事・七夕夕夏を土屋太鳳が演じている。第1話の時点では顔見せ程度だったので、今度にどうメインの物語にも絡むのか、その活躍に期待したい。
ちなみに、このドラマの原作は同名のマンガ。7月12日まで期間限定無料公開がされている第1巻を読んでみると、主人公が助けた幼女に犯人だと勘違いされたことへの返答が違っていたり、向井理が生田斗真に「実例」を示すために思い切りスリーパーホールドを仕掛けるなど、細かいところで面白い改変がされていた。ドラマと合わせて読んでみるのもいいだろう。
–{三池崇史監督のエクストリームさは「完全版」で観られる?}–
三池崇史監督のエクストリームさは「完全版」で観られる?
本作のさらなる注目ポイントは三池崇史が監督を手がけていること(倉橋龍介も監督に名を連ねている)。なるほどエンタメ性マシマシのケレン味のある演出や、良い意味で極端な人物描写などに三池崇史監督イズムを十分に感じることができたし、後述するまさにダークヒーローを描いた3本の映画を連想させるところもあった。
とはいえ、多くの三池崇史監督作で打ち出されている、過剰なまでのバイオレンス描写や、引いてしまうほどの悪趣味なギャグなどは今回は控えめ。おかげで万人におすすめしやすい内容となっているとも言えるのだが……ひょっとすると、それは筆者が今回観た「地上波版」に限った話なのかもしれない。
実は、このドラマ『警部補ダイマジン』は、「濃厚すぎる未公開シーンを追加した本編」に「メイキング&インタビュー」も追加した『警部補ダイマジン完全版』が、TELASA(テラサ)で独占配信がされることが決定している。
その完全版について、生田斗真は「よりヤバいものが観たい方は、完全版へどうぞ」とコメントし、三池崇史監督も「『地上波版』あっての『完全版』。そんな仕掛けになっています。ふたつでひとつのエンターテインメント。そして、1+1=3になる興奮を体験してください」などとも語っている。
「完全版」が具体的にどういう内容になっているかは定かでないが、「三池崇史監督らしいエクストリームさ」が、完全版ではより濃厚に表れているのではないかとワクワクするのだ。
おすすめの三池崇史監督のダークヒーロー映画3選
最後に、このドラマ『警部補ダイマジン』と同様に(あるいは別ベクトルの)ダークヒーローを描いた、おすすめの三池崇史監督の映画を3本紹介しよう。
1:『十三人の刺客』(2010)
1963年の同名映画のリメイク。文字通りに13人の刺客、つまりはダークヒーローが暴君を殺害するために団結し、血みどろの戦いへと赴くバイオレンスな時代劇だ。稲垣吾郎演じる悪役がトラウマ級の恐ろしさで、PG12指定ではやや甘いショッキングなシーンもあるが、それも作品に間違いなく必要なものだった。現在は配信で観る手段がないようで、ソフトを購入するかレンタルするしかないのがもったないところだ。
2:『藁の楯』(2013)
孫娘を殺された大富豪が「殺人犯を殺したら10億円を払う」という新聞広告を打ち出し、その殺人犯を警視庁SPのメンバーが「守り続ける」様を追ったサスペンス。正直に言ってツッコミどころは多いのだが、スケールを感じさせるアクションや、醜悪な殺人犯を演じ切った藤原竜也がものすごいインパクトを残している。賞金を狙う多数の人間に対する敵になろうとも、一時的な感情に流されることなく「悪人を守る」選択をし続ける主人公の姿は、確かにダークヒーローと呼べるものだった。
3:『初恋』(2019)
こちらの主人公は余命宣告を受けながらも、ただ追われていた少女を助けようとするプロボクサー。ヤクザたちの抗争に巻き込まれる人々の、濃厚な一夜を綴った群像劇となっていた。主人公を演じた窪田正孝だけでなく、とんでもないキレ演技をするベッキーも見どころ。個人的には三池崇史監督の最高傑作が本作であり、PG12指定相当の(やっぱり)バイオレンスな描写と悪趣味なギャグ以外は万人におすすめできる。
また、三池崇史監督はダークヒーローはもとより「悪人」描写にも定評があり、怖いお兄さんやおじさんが登場するヤクザ映画は得意中の得意。2012年の『悪の教典』に至ってはイケメンで善人に見える伊藤英明だからこその、最悪のサイコパスの殺人犯を誕生させることにも成功していた。
そんな「悪さ」を描くことも上手い三池崇史監督の「らしさ」は、今回の『警部補ダイマジン』では前述したように端正な見た目なのにイヤらしい性格をした向井理のキャラクターにも存分に感じることができた。だからこそ、三池監督作が好きな映画ファンにも、ぜひ『警部補ダイマジン』を楽しんでほしいのだ。
(文:ヒナタカ)