2023年6月30日より『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が劇場公開されている。
本作は2008年の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』から15年ぶりとなるシリーズ第5作目。7月13日に81歳の誕生日を迎えるハリソン・フォードは、今後も俳優業を続けることを明言しているものの、インディ・ジョーンズ役を演じるのは今回が最後となる。
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ありがとう、インディ・ジョーンズ
結論から申し上げれば、本作はとても良かった……!40年以上続いてきたシリーズの面白さと楽しさを踏襲したバラエティ豊かなワクワクするアクションが次々と展開し、後述する「老い」を描いた物語にグッと来て、インディ・ジョーンズというキャラクターの清々しい「卒業」および「引退試合」を見届けたような感慨深さがあった。
何より、古き良き冒険活劇が最新の映像技術をもってスクリーンで観られるということ、それ自体が一周回って新鮮で嬉しかった。展開がやや大味だったりもするため、誰もが認める大傑作とはいかないかもしれない。だが、少なくとも作り手の愛情と情熱がたっぷりと詰まった最終作であることは間違いない。
ちなみに筆者はドルビーシネマで鑑賞した。オープニングから夜のアクションが展開し、洞窟の中の探検や、クライマックスのとあるシチュエーションなど、暗がりを意識した画の数々が、「黒」をくっきりと見せるドルビーシネマとの相性が抜群だった。前後左右から銃撃音が聞こえる音響システムも、さらなる没入感をもたらしていたので、ぜひ選択肢に入れてほしい。
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ここからは、決定的なネタバレにならない範囲での、内容に踏み込んだ上での魅力を紹介していこう。
時代に取り残され、孤独でいるインディの物語に
本作の時代背景は1969年。アメリカとソビエト連邦の宇宙開発競争の末に、アポロ11号が人類史上初めての月面着陸に成功した年である。ここで描かれるのは、インディが年老いて、激変の時代に取り残されてしまったかのような哀愁だ。
街では盛大なパレードが行われ、若い隣人は平日の朝から騒音を鳴らし、考古学の授業の生徒の反応は歯切れがどうにもよくない。人類が大きな進歩を遂げる華やかで煌びやかな時代と相対するように、今回のインディは孤独であり、自分がいるべき居場所をなくしてしまっている、はたまた「過去」にすがっているようにも見える。
もちろん、冒険に挑み続けていたインディの物語が、それで終わるはずがない。今回も陰謀に巻き込まれ、仲間と共に命からがらの攻防戦が繰り広げられるのだが、特筆すべきは「街中のパレードの最中でも馬に乗り駆け抜ける」ことだろう。たとえ時代に迎合していなくても、冒険者たるインディの姿がそこにあったのだから。その後の「文明の利器」への皮肉っぽい言い分も面白い。
それでいて、冒険のパートナーが若い女性と少年ということは『魔宮の伝説』を思わせるし、子どもにはちょっと刺激が強い残酷な場面もあることも実に「らしい」。一方でこれまでのシリーズとは異なるインディの哀愁漂う姿に一抹の不安と寂しさを覚えるが、そのギャップがあってこそ「やっぱり彼はインディ・ジョーンズだ!」と、より強く思うことができるのだ。
–{「老い」をごまかすことなく「最後の物語」へと昇華させた}–
「老い」をごまかすことなく「最後の物語」へと昇華させた
そのようにインディというキャラクターの本質は変わらないことを示しながらも、「老い」そのものを無視したりはしない、ということも本作の大きな特徴。オープニングの直後に老いた身体を映しているし、岩壁を登る場面などでは「老体に鞭打つ」苦しさを吐露しているし、前述した「時代に取り残されて孤独でいる」心情は全体的な物語にも大いに寄与しているからだ。
そのインディを演じるハリソン・フォードは、自らスタントもこなしている。普段から食生活に気を使う他、今回の役のために自転車で65キロ近く走ったり、毎日のウォーキングをこなしたりするなど、健康的な身体ではいるようだ。しかし、それでもやはり見た目では老いているし、かつての機敏な動きはできないように見える場面もあるのも事実だ。
しかし、その俳優およびキャラクターが老いた事実をごまかしたりはせず、むしろ老いた事実を「インディの最後の物語」として昇華させていることにこそ、本作の最大の感動がある。
終盤の、ある意味では『クリスタル・スカルの王国』をも超えたトンデモな展開および、とある「選択」を迫られる場面に賛否両論はあるかもしれない。だが、個人的にはこのようなインディの「弱さ」は過去のシリーズでも少なからずあったと思えた。そして、彼が老いて孤独だからこそ、その弱さを今までよりもはっきりと見せてしまったのだと、切なくも納得はできたのだ。
その先に待ち受けていた結末はそれ自体が感動的であるし、長年シリーズを追ってきたファンであれば、もう涙が滝のように溢れてくるのではないだろうか。冒険活劇という範疇に収まらない、生きていれば誰も直面する「老いたことによる心の弱さ」と戦う、普遍的な物語が綴られているとも言えるだろう。
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なお、本作の監督を務めたジェームズ・マンゴールドは、2017年の『LOGAN/ローガン』でも、同じく年老いたかつてのヒーローの姿を哀愁たっぷりに描いていた。いぶし銀なカッコ良さと、哀愁たっぷりの姿、その両面を併せ持つ男の生き様を描くのに、これ以上の適任者はいないだろう。
「スーツに丸メガネ」の萌えを開拓したマッツ・ミケルセン
さらなる本作の魅力は、2006年の『007/カジノ・ロワイヤル』や2016年の『ドクター・ストレンジ』などでも悪役を演じてきたマッツ・ミケルセンだろう。
ただでさえ俳優部門における「イケオジ」の頂点に達している彼が、今回は「スーツ姿に丸メガネ」というさらなる萌えの開拓に成功しており、「あっ好き」とまんまと惚れた。丸メガネのキャラの総選挙企画があれば、きっと『すずめの戸締まり』の芹澤朋也と人気を二分するだろう。
しかも、本作のオープニングでは、VFXを駆使したことにより、ハリソン・フォードもマッツ・ミケルセンも、それぞれが少し若返った姿になっている。それがまた前述してきた「老い」の切なさを際立たせているわけだが、敵対する2人の「時を隔ての因縁」をも強固にしているとも言えるだろう。
その後の実年齢通りのマッツ・ミケルセンの姿はやっぱりイケオジで、やっていることが悪どいはずなのに超カッコ良く思えてくるのが良い意味で憎らしい。対するインディは、ヒーローと呼ぶにはあまりに欠点が多い、人間くさい「弱さ」を持つ人物というのが、また良い対比になっていた。その2人が、それぞれどのような結末を迎えるのかにも、ぜひ注目してほしい。
(文:ヒナタカ)
–{『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』作品情報}–
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』作品情報
【あらすじ】
考古学者にして冒険家のインディ・ジョーンズが“人類の歴史を変える力”を持つ究極の至宝をめぐり、因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラーと全世界を股にかけた争奪戦を繰り広げる。
【予告編】
【基本情報】
出演:ハリソン・フォード/フィービー・ウォーラー=ブリッジ/アントニオ・バンデラス/ジョン・リス=デイヴィス/マッツ・ミケルセン ほか
日本語吹き替え:村井國夫/坂本真綾/大塚明夫/宝亀克寿/木村皐誠/井上和彦/中村悠一/安元洋貴/藤田奈央 ほか
監督:ジェームズ・マンゴールド
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
ジャンル:アクション/アドベンチャー
製作国:アメリカ