2023年5月26日より韓国映画『THE WITCH/魔女 ―増殖―』が公開されている。端的に言って本作はめちゃくちゃ面白い!特に「サイキックアクション」「血みどろ四つ巴のバトル・ロワイアル」「ナメてた少女が実は殺人マシンでした映画」という単語にビビッとくる方は是が非にでも観て欲しい。
しかも、後述する理由もあって、予備知識なく観ても問題なく楽しめる内容でもあるし、意外な親しみやすさもあるし、138分とアクション映画としてはやや長めの上映時間ながら、テンポは良く見所が詰まっていて最後までグイグイと引き込まれる内容にもなっていた。さらなる魅力を紹介しよう。
「ナメてた少女が実は殺人マシンでした映画」がユニバース化
2018年公開の『THE WITCH/魔女』はSNSで評判が広がり、DVDレンタルと配信で推定視聴者数100万人超えを記録した。日本ではごく限られた特集上映でのみの劇場公開となっていたが、その第2作となる今回の『THE WITCH/魔女 ―増殖―』は世界124ヵ国で配給が決定し、日本でも拡大公開されることとなった。
その前作『THE WITCH/魔女』が口コミで大人気となった理由は、何よりも「ナメてた少女が実は殺人マシンでした映画」であることにあるだろう。どこにでもいそうな平凡な女子高生が、実は超強くて次々と敵を血祭りにあげていく様が実にキャッチー。映画ライターのギンティ小林は『96時間』や『ジョン・ウィック』などの作品群を「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」と命名していたが、『THE WITCH/魔女』は一見か弱い少女であるぶん、その見た目も含めたギャップをさらに楽しめるのだ。
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そして、今回の『THE WITCH/魔女 ―増殖―』は一応は続編という立ち位置なのだが、前作『THE WITCH/魔女』を観ていなくてもまったく問題なく楽しめる。なぜなら主人公も物語も完全に独立していて、この後も拡張していく「魔女ユニバース」という作品群のひとつとして位置付けられているのだから。
いわば、同一の世界観でのヒーローそれぞれの活躍を描いた超メジャーなシリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース」における、『アイアンマン』と『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』のような関係性なのである。途中参加してもOKなヒーロー映画シリーズの形式だと思って、まずは気軽に観てみることをおすすめしたいのだ。
あどけない少女と殺人マシンのギャップ萌えが乱高下
それでいて、今回の『THE WITCH/魔女 ―増殖―』は「ナメてた少女が実は殺人マシンでした映画」の魅力はしっかりと受け継がれている、いやさらにパワーアップしていると断言しよう。
まず、今回の主人公である名もなき少女は、序盤も序盤に「ボロボロの薄着かつ裸足で雪の上を歩いている」という見た目からして衝撃的、かつ「助けてあげなければ…!」と思うシチュエーションで登場する。
続いて登場するのはワゴン車に乗ったウェーイ系の見るからにクズな男どもで、おそらくは無理やり乗せたであろう女性に脅迫をしているという有様。フラグが立ってから、そのクズ男たちが車に乗せた少女にナメた態度を取ると……その後は言わずもがな、そのクズ男たちはもちろん、後には牧場の権利を強奪しようとするヤクザたちも相手にした、ご褒美のような「殺人マシンでした☆」が待ち受けているというわけである。
さらに、そんな名もなき少女と仲間、いや友達、いや家族のような関係性を築いていくのは、心優しく信念を持つ牧場主の女性と、かなりバカだけど悪人というわけでもないその弟。ちょっとアクは強くはあるが、それでもケンカしつつも仲が良い普通の兄妹が、これまで人間らしい生活をしていなかったことが想像できる名もなき少女と交流をしていくことに、なんともニヤニヤできる。やけに食いしんぼうなところを見せる少女がまたかわいいんだこれが。
今一度整理をしておくと、今回の主人公は「雪の上をボロボロの薄着かつ裸足で歩いている!かわいそう!」「クズな男たちの車に乗り合わせた!殺人マシンとして覚醒だ!」「普通の兄妹との関係性が尊い!食いしんぼうなところもかわいい!」と、まさにギャップ萌えの乱高下ぶりを楽しめるというわけだ。
ちなみに、名もなき少女を演じたシン・シアは、1408人が参加したオーディションによって発掘された新星で、なんと今回が映画初出演にして初主演。ルックスはあどけなく、華奢な身体でありながらも、底知れないパワーを持つ少女という、「神秘性」にも満ちた役柄に、シン・シアはこれ以上のない的役だ。今後の活躍も期待できる。
–{強キャラたちが集う血みどろ『ドラゴンボール』だった}–
強キャラたちが集う血みどろ『ドラゴンボール』だった
さらなる魅力となるのは、クセがありまくる「強キャラ」が続々と登場し、そして四つ巴のバトル・ロワイアルに流れ込むことだ。戦いに参加するのは以下のメンツである。
- 超人的な暗殺者養成プロジェクトの実験体である名もなき少女
- 少女の抹殺のために送り込まれた凄腕の女性工作員とその相棒の男
- アウトローな超能力者集団「土偶」
- 地元のヤクザたち
そんな連中が物理的な強さをじわじわと示していき、クライマックスでは銃撃戦、爆撃、肉弾戦、それぞれを全部盛りするアクションが展開。超人的なキャラクターがダイナミックにぶっ飛ばされたりぶっ飛ばす様は『ドラゴンボール』である。このメンツの中で地元のヤクザたちは見るからに小物でクズな悪人でほぼほぼ「やられ要因」で、戦闘力5のおっさんのようなものだが、それでも意外な奮闘を見せることにも注目だ。
前作よりもキャラクターが多い上に、撮影すべき空間が何倍にも拡張されたため、アクションシーンには「より高く、より速く、はるかに強く」という基準が設けられたそうだ。特にクライマックスの血みどろ四つ巴のバトル・ロワイアルを作り出すため、前作ではあまり使わなかったワイヤーアクションを積極的に導入しており、広大な空間を猛烈なスピードで飛び回るキャラは3DCGで表現したこともあったそう。
つまりは超現実的なバトルにはなっているのだが、それでも俳優それぞれの肉体を駆使してこそのアクションの面白さも存分にある。何しろ、キャラクターそれぞれの能力と性格、セリフなどを考慮し、キャラクター固有のアクション・スタイルは、細かくデザインされている。
それを受けて俳優たちは、各自のアクション・スタイルを完璧に身に着けるために、姿勢や歩き方、基本的なトレーニングはもちろん、ナイフや銃といった武器のイミテーション(レプリカ)を常に持ち、就寝時にも枕元に置くなどキャラクターになりきる努力をしたそう。つまり、ただ雑に戦っているだけではない、それぞれのキャラクターの戦い方のバリエーションの豊かさにも感心できるようになっている。
その作り手と俳優の努力が確かに実っている、『ドラゴンボール』的な吹っ飛び&吹っ飛ばされぶり、そこにマジの殺(や)る気に満ちた一触即発の攻防、R15+指定大納得の血しぶきトッピングも加わるという、「ありがとうございます!」と感謝したくなるくらいの大サービスが待ち受けているというわけだ。クライマックスの先に待ち受けるサプライズも含め、ぜひ劇場で見届けてほしい。
『THE KILLER 暗殺者』も合わせて観てほしい!
そんな血みどろバトルアクション韓国映画がまたもネクストレベルに到達としたと断言できる『THE WITCH/魔女 ―増殖―』であるが、困ったことに同じく血みどろバトルアクション韓国映画の傑作が、同日5月26日より公開され、大渋滞が発生していたりもする。それが、『THE KILLER 暗殺者』だ。
こちらのあらすじは「伝説の殺し屋のおじさんが妻の友人の娘が誘拐されたのでクズどもを血祭りにあげる」とさらにシンプル。2010年公開の『アジョシ』を連想させる設定で劇中にもその言及があるが、本作では守るべき女子高生が生意気で可愛げがなかったり、それでも妻を恐れて(?)彼女を救おうとする殺し屋おじさんの悲哀を感じられるという、独自の面白さも付け加わっている。
それでいて、オープニングから大見せ場を持ってきて、中盤ではあっと驚く長回しでの大殺戮があり、クライマックスにつれてボス的なキャラクターとの『リベリオン』を彷彿とさせるバトルも盛り上がっていき、予定調和にならないサプライズもあり、この手のアクション映画としてこれ以上のないほどに見所たっぷりである。
あと、PG12指定でも甘いと思わせる血しぶきドバドバ&人がいっぱい死んじゃうけど、相手はどいつもこいつも女性を売り飛ばそうとするクズどもなので全く心が痛まない。絵に描いたようなクズの言動をするクズに対して「守りたい、この笑顔」を見せてから、その後にもちろん容赦無く殺す主演のチャン・ヒョクは表情のセクシーさも含めてたまらないものがある。
それでいて、『THE KILLER 暗殺者』の上映時間は95分とタイト。「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」を期待したら、本当に期待通り、いやそれ以上のナメてた相手が実は殺人マシンでした映画を凝縮したものを出してくれた。まるで評判のラーメン屋さんでいちばん美味しいラーメンが堪能できたような感動があった。その魅力は「サイキックアクション」「血みどろ四つ巴のバトル・ロワイアル」「ナメてた少女が実は殺人マシンでした映画」をセットで138分かけて味わえる『THE WITCH/魔女 ―増殖―』と拮抗しているので、ぜひ両方観てほしい。
(文:ヒナタカ)
–{『THE WITCH/魔女 ―増殖―』作品情報}–
『THE WITCH/魔女 ―増殖―』作品情報
【あらすじ】
秘密研究所アークが何者かに襲撃され、殺戮の中でひとりの少女が生き残る。その少女は、遺伝子操作によって超人的なアサシンを養成する〈魔女プロジェクト〉の実験体だった。初めて研究所の外に出た少女は、ある姉弟と出会うことで、徐々に人間らしい感情に目覚めていく。しかし少女の秘められた力を危険視した〈魔女プロジェクト〉のペク総括は、彼女を抹殺しようとする。さらにアークを襲撃した謎の超能力者集団や、姉弟を狙う犯罪組織も加わり、哀しき宿命を背負った少女との壮絶なバトルの火ぶたが切って落とされる。
【予告編】
【基本情報】
出演:シン・シア/パク・ウンビン/ソ・ウンス/ソン・ユビン/チン・グ/チョ・ミンス/イ・ジョンソク/キム・ダミ ほか
監督:パク・フンジョン
上映時間:138分
配給:ツイン
映倫:R15+
ジャンル:アクション
製作国:韓国