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「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第38回を紐解いていく。
不穏なセリフ
研究室の人たちに冷たくされて「さみしいがよ」としょげる万太郎(神木隆之介)でしたが、竹雄(志尊淳)の叱咤激励によって気持ちを立て直すことができました。
竹雄は、万太郎を甘やかさず、彼の立ち位置をはっきり指摘し、そのうえで、万太郎の良さもちゃんと伝えます。
竹雄はなかなか鋭くて、自由ということの重さを知っています。好きにすることは孤独になることでもあるけれど、それでも好きなことを選ぶことで真の自由が手に入るのです。
どんなに悪い人でも(万太郎は悪くないけど)、竹雄のように客観的な人がそばにいることで、相対化することができますから、万太郎にとって竹雄はなくてはならない存在です。
竹雄に請われ、似顔絵を描いた万太郎。でもその絵は微妙なもので、竹雄は「いやがらせじゃないですろうか」とむくれます。
植物の絵はあんなに精密なのに、人間の絵はなぜ……。でも、そのおかしな似顔絵も人の心を動かすことになろうとは……。
心をいれかえ前向きになった万太郎。自分にできることーー東京中の植物採集しようとします。研究室に来たときは靴を履いていた万太郎ですが、草鞋姿になっています(タイトルバックの万太郎も草鞋です)。洋服と草鞋の組み合わせ、なかなかおもしろい。
冷たくされた学生たちにも明るく接し、藤丸(前原瑞樹)にシロツメクサを渡します。
藤丸にはではなく、兎に、と聞いて、心が動いた様子。
一方、野宮朔太郎(亀田佳明)は「うまくやってるじゃないですか」と嫌味なことを言います。が、そんな彼も、竹雄の似顔絵に吹き出して、そこから態度を軟化します。
植物の絵はちゃんと描けることに驚いた野宮は、自分の絵を万太郎に見せます。それは西洋絵画の技法に沿った陰影のあるものでした。
絵を笑ったおわびに、ひとつと、気になる言葉を残す野宮。
「逆らってはいけませんよ」
気になるーー。
物語の流れの緩急のつけ方が巧すぎる。
万太郎は、植物を愛する者同士、志を同じくする者として、西洋に遅れをとっている植物研究の進歩を目指そうという広い心を持っていますが、どうやら、意外とこの研究室は、そういう理想ではなく、権威の下で生き残ることが優先されているらしい。それは自由とは真逆です。はたして、東大植物学研究室はほんとうにそんな淀んだ場なのでしょうか。万太郎のこれからが気になります。
その頃、寿恵子(浜辺美波)は、女は玉の輿に乗ってこそという昔ながらの考えをする叔母みえ(宮澤エマ)に、そんなことに興味ないし、馬琴が好みだと言い、「じじいじゃないの」と呆れられます。
寿恵子が尊敬する作家・馬琴は、長い年月をかけて物語を書き、目が見えなくなっても口伝で書き続けた。やりたいことを貫いた人物で、万太郎と重なるのでしょう。
物語のそこここに、好きなことをやるというテーマが隠れています。
長田育恵さんは、2時間くらいの舞台作品をいくつも描いてきて、演劇界の芥川賞とも言われる岸田戯曲賞の候補にもなるくらいの実力のある作家です。
原作もののまとめがうまいとか、民放ふうのがちゃがちゃした連ドラを書くのがうまいとか、それもひとつの才能ですが、「らんまん」のように密度が高いのにしっとりしていて、そのうえ、うねりがあって、川の流れが滞らないように進んでいくものが描ける作家の朝ドラが見られることが幸せです。
(文:木俣冬)
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–{「らんまん」第8週あらすじ}–
「らんまん」第8週「シロツメクサ」あらすじ
東京大学に通い始めた万太郎(神木隆之介)は、標本の整理などを楽しくこなす一方で、学生たちから部外者扱いを受け落ち込んでいた。竹雄(志尊淳)から喝を入れられ、元気を取り戻した万太郎は、東京の草花をもっと知ろうと、倉木(大東駿介)の案内で植物採集をすることを思いつく。泥だらけでイキイキとした表情で大学にやってくる万太郎。その姿を見た学生の波多野(前原滉)と藤丸(前原瑞樹)の気持ちは少しずつ動き始めるのだった。そんなある日、白梅堂へ立ち寄った万太郎は寿恵子(浜辺美波)と会話をする中で、いつか日本中の植物の名を明かし植物図鑑を作りたい、という新たな目標を見つける。
–{「らんまん」作品情報}–
「らんまん」作品情報
放送予定
2023年4月3日(月)より放送開始
作
長田育恵
音楽
阿部海太郎
主題歌
あいみょん「愛の花」
語り
宮﨑あおい
出演
神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子、寺脇康文、広末涼子、松坂慶子、牧瀬里穂、宮澤エマ、池内万作、大東駿介、成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純、中村蒼、田辺誠一、いとうせいこう ほか
植物監修
田中伸幸
制作統括
松川博敬
プロデューサー
板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出
渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか