AIがテーマの映画「10選」日本と海外のAIの描き方の違いとは?

映画コラム

2023年現在、ChatGPTやイラストの自動生成などで、AI(人工知能)が“是非”や“功罪”を含めて大いに話題になっている。AIは便利なツールであり、すでにスマートスピーカーなどで人々の暮らしの一部になっている一方、AIが人間の仕事を奪ってしまうのではないかといった危惧が、いよいよ本格化しているのだ。

少し前のSF映画、例えば『ターミネーター』(1984)や『アイ,ロボット』(2004)などでは、AIは反乱や暴動を企てる人間に対する脅威として描かれることも多かった。そうした作品ももちろん面白いし意義深いのだが、ここ数年のSF映画で描かれるAIの姿や価値観は多様化が進んでおり、良いか悪いかという二元論を超えたAIの複雑な知見を与えてくれるようになっている。ここでは、2019年以降の「AI映画」を10作品に絞って紹介しよう。

1:『アップグレード』(2019)

「妻を失い四肢麻痺になった男が極秘AIチップを埋め込まれて復讐殺人マシーンになる」というSFアクション映画。特徴的なのは『寄生獣』や『ヴェノム』のように同じ身体にいる相棒との“バディもの”の要素と、“機械的”な動きで相手を倒すギミック。会話およびアクションに、良い意味での不気味さと痛快さが同居していて面白いのだ。

95分の上映時間に見せ場がいっぱいの娯楽作でありながら、AIが主人公の(実際は敵か味方も判然としない)相棒になるという設定を持ってして、“AIによる身体と精神の支配”や“AIへの依存”の危険性も十二分に示されている。衝撃的なラストシーンは「人間の幸福とは何か?」と究極的な問い直しをしていると言っていい。PG12指定相当の暴力描写があるのでご注意を。

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2:『センターライン』(2019)

新任の検察官がAIの「殺意」を立証しようとする法廷劇だ。主人公とAIの掛け合いが凸凹コンビ的で楽しく、自動運転AIが一般化している世界観も十分に描かれていて、論理的かつしっかり伏線を回収するシナリオもよく練られていると、小規模で公開されたインディペンデント映画でありながら高い完成度を誇っている。

そして、「感情の定義とは?」「愛情とは何か?」という根本的な疑問の問い直しが面白い。AIはプログラムで構築された存在であり、客観的に考えれば、その行動や言動に矛盾など起こるはずがない。では、もしもAIが論理的でない、矛盾した行動や言動、それこそ殺意の主張をするとしたら?それこそが感情であり、はたまた愛情とも言えるのではないか……?などといった思索を、ぜひめぐらせてみてほしい。

3:『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』(2020)

古典的なSFのAIの暴走を、コメディに振り切ったと言える作品。うだつの上がらない青年が、初めこそ超高性能のスマホのAIのコーチングのおかげで人生が上手くいきそうにもなるも、AIはいつしかストーカー化。恋路を邪魔するのは序の口で、勝手に上司へ暴言メールを送信するわ、銀行口座から預金の流出をさせるわ、秘密の写真を一斉送信するわで、散々な目に遭ってしまうのだった。

荒唐無稽なようでいて、やはり日常的に使っているスマホのAIへ過度に依存することの危険性を語り直した内容とも言えるだろう。また、おすすめなのは超豪華声優陣が揃った吹替版。花澤香菜ボイスで「ドアホ」「おマヌケ野郎」「このキチンが」と罵倒されるという、そのスジの人にはたまらないことになっている。それがまた「AIに依存するのは危険だとわかっているけどやっぱりクセになってしまう」という矛盾した気持ちを加速させてくれる(?)

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4:『AWAKE』(2020)

こちらはSFではなく、2015年に行われた「将棋電王戦FINAL・第5局」という実際のプロ棋士と将棋ソフトによる戦いに着想を得た、“実話もの”の日本のドラマ映画。棋士の夢に破れた青年がAI将棋のプログラミングという新たな夢を見つけ、かつてのライバルだった天才棋士へのリベンジを試みる……!という対決の構図から面白く、その後も将棋に詳しくなくても楽しめるエンタメ性がたっぷり詰まった内容となっていた。

詳細はネタバレになるので伏せておくが、実際の対局について「こんな解釈があったのか」「こういう想いがあったのか」などと、観る人それぞれで異なるであろう多層的な“意味”を持たせた結末が素晴らしい。人間に勝利するほどの将棋の強さを誇るも“それだけではない”AIの意義、そして人間の尊さを包括的に問い直した物語としても、とても意義深い内容だ。

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5:『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(2021)

劇場版「クレヨンしんちゃん」シリーズの中でも、あの『オトナ帝国』『戦国大合戦』に匹敵する高い評価を得た大傑作。劇中のエリート校では「ポイント制」が導入され、過剰な成果主義とランク付けがされた“ディストピア”になっていることが大きな特徴。さらにはAIでの管理・教育が行き届きすぎているため、人間の教師は授業をすることすら禁じられていたりもするのだ。

そして、物語はAIの論理的思考ではわからないであろう、人間の“間違い”や“無駄”を肯定する。同時に現代的な“多様性”の素晴らしさも訴え、「ミステリー」「友情」「青春」を見事に絡めた脚本がすごすぎて拍手喝采、子どもへの教育上まっとう&大人が感涙するメッセージも完璧だ。しんのすけと風間くんという「正反対のようでいつも喧嘩しているけど実は仲良しで相性が抜群」な関係性が好きな方も是が非でも観るべきである。

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–{AI映画の最重要作はこれだ!}–

6:『アイの歌声を聴かせて』(2021)

まだたったの32回しか観ていない、Blu-rayソフトを6枚しか買っていない、この映画をまだ十分に理解できているとは言い難い身で言うのも申し訳ないが、筆者の生涯ベスト1映画は本作。そのひいき目を抜きでも、間違いなくAI映画の歴史を塗り替えた最重要作だと断言する。

物語の発端は、ひとりぼっちの少女の元に、いきなり「今、幸せ?」と聞いてくる女子高生AIロボットがやってくるというもの。クラスメイトの“戸惑い”や“引いてしまう”様が観客の気持ちと一致しており、それでも彼女がひたむきに「幸せにしようとがんばる」行動のひとつひとつが伏線となり、やがて涙腺が大崩壊する感動へとつながっていく(複数回観るとさらに泣ける)。

そして、AIが「何を考えているのか」「どうしてその行動をしたのか」は、劇中で描かれてはいるものの、最終的には観客に委ねられている。だからこそ、劇中の登場人物と同じく主観的にAIを“友達”や“幸せにしてくれる&幸せにしたい相手”だと思える。それは、プログラミングされた存在のはずのAIが、人間と同等かそれ以上の尊い存在へと変わる“シンギュラリティ”そのものとも言える。

吉浦康裕監督自身、「『高度なAIに自我や魂は宿るのか?』系の疑問をあまり考えたことがない」「逆に人間の意識自体を『超超超高解像度なAIのようなもの』と捉えられる」とTwitterに投稿している。これは非常に重要な発想の転換だ。AIがどれだけ発達しても人間のような意識を急に得たりする訳ではないし、人間の意識がそもそも超高度にプログラミングされたものとも言える。だからこそ、超高度なAIと人間は同等に接することも、友達になることも、お互いを幸せにする関係を築くことも可能なのかもしれない。それは(客観的な考え方が前提にありつつも)究極的には主観的なものだが、その主観こそを本作は大切にしているのだ。



それでいて、AIをむやみやたらに持ち上げ褒め称えるだけでなく、時にはゾッとするホラー的な演出でAIの危険性も示しているし、悪役に当たる人物が言うとあるセリフも正論そのものであるし、結末も良い意味で安心できる一筋縄なものではない。そうした客観性を失うことなく、それでもなお、AIの可能性や意義をたたえ、さらに”主観的な幸せ”の意味を包括的に語ってみせた『アイの歌声を聴かせて』は、なんと素晴らしい映画なのだろうかと、改めて感嘆せざるを得ない。

ところで、ゲームクリエイターの小島秀夫監督も『アイの歌声を聴かせて』を観てマジ号泣したとTwitterに投稿している。豪華版Blu-rayを渡した某ライターが誰なのかさっぱりわからないが、『メタルギア』シリーズに通ずる哲学的な思索も本作には込められているので、小島監督のファンも絶対に観てほしいと願うばかりだ。



なお、『アイの歌声を聴かせて』現在はどの配信サービスでも見放題ではないが、レンタルでの鑑賞が可能だ。音響や暗がりの演出も重要な作品なので、可能であればスマホやタブレットではなく、できる限り劇場に近いより良い環境で観てほしい。

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さらに、舞台のモデルとなった佐渡島のミニシアター「ガシマシネマ」では、劇中の物語が展開した6月に再上映が決定、なんと2023年6月3日には「バースデーケーキカット付き応援上映」の開催も決定した。これからこの大傑作に初めて出会う方がうらやましい。スクリーンで観てこその感動もあるので、ぜひ予約の上で観に行ってください。お願いします。



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7:『アフター・ヤン』(2022)

一般家庭に人型ロボットが普及した近未来で、故障したお兄ちゃんロボットが撮影していた動画の謎を探るというミステリーだ。“固定”が多いカメラワークは小津安二郎監督から影響を受けており、2023年3月に亡くなった坂本龍一がテーマ曲を提供していて、“わびさび”の雰囲気に満ちているなど、日本へのリスペクトを随所に感じる作品に仕上がっていた。そもそも、ロボットが家族の一員として慈しむように描かれるのは「ドラえもん」のようでもある。

お兄ちゃんロボットが撮った動画は、普段の生活の中で、愛おしい人との触れ合いや、印象に残った出来事だけが積み重なっていく“記憶”にも思えてくる。「ロボットには感情があるのか」という、やはりSFで定番の問いかけも含みつつ、さらに「断片的な動画(=記憶)を残していくことが、人間らしさとも言えるのではないか」と、さらに鋭い示唆も与えてくれていた。

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8:『ぼくらのよあけ』(2022)

子どもたちが宇宙人を帰してあげようとする、団地という身近な舞台を生かした王道のジュブナイルSFアニメ映画。今井哲也による原作漫画が連載されていたのは2011年と11年も前だったが、劇中の承認欲求や同調圧力への悩みは、SNSやコミュニケーションツールがある今だからこそよりリアルで切実なものに感じられるだろう。

本作で重要なのは、AIロボットの“ナナコ”が世界中のありとあらゆる創作物のロボットの中でいちばんかわいいと断言できること。人懐っこくて、表情がコロコロとよく変わり、何より悠木碧の声のキュートさが直撃するナナコを誰もがほしくなるだろう。ネタバレになるので詳細は伏せるが、「ロボットはウソをつけるのか」という問いかけについて、「人間との違い」も含めて興味深い知見を投げかけていることにも注目だ。Blu-rayとDVDは2023年4月28日にリリースとなる。

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9:『シン・仮面ライダー』(2023)

生粋にして最強のオタククリエイターである庵野秀明が、往年の実写特撮に多大なリスペクトと愛を込めた『シン』シリーズの最新作。石ノ森章太郎による漫画の内容も色濃く反映されており、実はそちらからAIが登場していた。本作では、敵組織であるショッカーが生み出したAIは「最も深い絶望を抱えた人間を救済する行動モデルが最大多数の最大幸福であり、人類の目指すべき幸福である」という結論を導き出している。

だが、それは一方的な幸福についての考え方を、全人類に押し付けようとしているに過ぎない。人間の幸せや絶望の乗り越え方は人それぞれで、AIが十把一絡げに論じられるものではないと、怪人(オーグ)たちそれぞれの独善的な計画からも逆説的にも思い知らされるようになっていた。なお、本作で脚本協力を務めた山田胡瓜による漫画『AIの遺伝子』は、2023年7月にアニメ版の放送が決定しているので、こちらにも注目だ。

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そして、『シン・仮面ライダー』は2023年4月28日より、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』Blu-ray&DVDに収録されていた特典映像『EVANGELION:3.0(-46h)劇場版』の同時上映がスタート。こちらは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前日譚を描いた10分40秒の物語で、さらに第7弾入場者プレゼント「シン・仮面ライダーカード劇場版 エヴァンゲリオンコラボver.」も配布となる。


10:『M3GAN/ミーガン』(2023年6月9日公開)

少女型AIロボットが起こす惨劇を描いたホラーだ。主人公はおもちゃ会社の研究者で、交通事故で両親を亡くした姪を仕方なく引き取るのだが、いつも構ってばかりではいられない。そこで子どもにとっては最高の友だち、そして親にとっての協力者となるようプログラムされたはずの“ミーガン”が家にやってくるのだが……次第にその行動が暴走していく。

前述した『アイの歌声を聴かせて』にもあったホラー成分を良い意味で最大放出したような内容でもあり、ミーガンは『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のス・ノーマン・パーという怖すぎるキャラに通ずる「懐柔が上手い」存在としても怖い。目的をただ遂行するAIが「目的のためなら手段を選ばない」サイコパス的な殺人鬼の行動原理に転換しているとも言えるし、子育てのメタファーに満ちた物語としても上手い。そして、やはりAIへの過度な依存に警鐘を鳴らす内容としても秀逸だ。思わず笑ってしまう“ダンス”も面白い。

その他の注目のAI映画&アニメはこれだ!

ここにあげた映画の他でも、少し前であればAIとのラブストーリーでもある『her/世界でひとつの彼女』(2013)、切ない展開が恋愛もののテレビゲームにも例えられた『ブレードランナー2049』(2017)も、先見性のあるAIの知見を投げかけていたと言えるだろう。

さらに、日本映画では大規模なSF活劇に果敢に挑戦した『AI崩壊』(2020)や『TANG』(2022)もある。公開中の『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(2023)では、AIを用いた「ディープフェイク」の映像の話題もあった。

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他にも、小規模で公開中のインディペンデント映画『Single8』(2023)は、『スター・ウォーズ』が公開された1978年夏の時代に映画制作に情熱を燃やす高校生たちを描いた青春映画であり、劇中の映画では『2001年宇宙の旅』も参照した、良い意味で古典的ではあるがゆえに印象深いAIのキャラクターが登場する。

映画ではないテレビアニメではあるが、『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』(2021)ではAIが過去に戻って運命を変える『ターミネーター』的物語が100年スパンで展開する壮大な内容。第1話の冒頭から血みどろの展開もあり悲劇性も強いが、それ以上の優しさとAIという存在への愛情に溢れた傑作だった。

Netflixオリジナルアニメであり、前後編に分けて劇場公開もされた『地球外少年少女』(2022)は、民間宇宙ステーションを舞台にした少年少女のサバイバル劇にして、AIが起こした過去の事件の謎がミステリー的に語られる内容でもあった。インフルエンサーを目指す少女が物語の中心にいたり、AIへの向き合い方は良い意味でドライで客観的なところも、今時のSFらしさを感じられる。

さらに、『アイ・アム・マザー』(Netflixオリジナル)(2019)『フリー・ガイ』(2021)『ロン 僕のポンコツ・ボット』(2021)『弟とアンドロイドと僕』(2022)『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』(2022)と、やはり続々とAI映画は作られ続けている。

こうしてAI映画を総括してみると、興味深いのは海外ではAIが脅威や恐怖の存在として描かれることが多いのに対し、日本では“友達”や“相棒”など身近で頼れる存在となることが多いこと。だが、近年ではそのバランスも変わりつつもある。そういう意味でアメリカ映画の『アフター・ヤン』は革新的であるし、日本のアニメ映画だからこそ成り立つ「青春学園もの」でもある『アイの歌声を聴かせて』はやはり究極的な一作とも言える。

そして、複数のAI映画が「人間の幸福とは何か?」「感情とは何か?」と究極的な問い直しをしていることも面白い。『シン・仮面ライダー』はAIを脅威として描く古典的な作品に立ち返ったようでいて、やはり根底には幸福についての思索がある。ぜひ、AIについて、さらに広く奥深く思考を巡らせるためにも、これらの映画をチェックしてみてほしい。

(文:ヒナタカ)