4月1日(土)〜4月9日(日)東京・紀伊國屋ホールにて上演される、野田彩子原作の舞台『ダブル』。無名の天才役者・宝田多家良(たからだ・たから)を和田雅成、その代役俳優の鴨島友仁(かもしま・ゆうじん)を玉置玲央が演じる。
本作で初共演を果たしたにもかかわらず、海沿いでの写真撮影中、春風に吹かれながら「わ〜寒いね!」と自然に身を寄せ合う二人は、まるで“多家良”と“友仁”が漫画からそのまま飛び出してきたかのようだった。
「世界一の役者」を目指す“ライバルでありながら、どうしようもなく惹かれ合う特異な関係”を舞台上で表現する彼らに、作品や役をどのようにとらえ、2人の関係性を築いているのか、オファーを受けた当初の話から稽古真っ只中の今まで、じっくりと語ってもらった。
役者の間でも話題になっていた原作漫画
——今回のオファーを受ける前から原作をご存知だったのでしょうか。
和田雅成(以下、和田):はい!役者の間でもかなり話題になっていたので、僕も玲央くんも読んだことはありました。
玉置玲央(以下、玉置):初めて読んだ時は、「これ、俺の話じゃん」って思いましたね。演劇をやってる身として、あまりにも出てくる登場人物や描写にリアリティを感じたので。もしかしたら野田先生もご経験者の方かな?と思って、稽古場にいらした時に聞いたんですよ。そしたら「全然やってないです」っておっしゃったので、改めてすごいなって思いました。
——役者さんが読まれると、やはりリアリティを感じられるんですね。
玉置:共感する部分は多いですね。…あ、でも、原作で多家良と轟九十九が初めて会う場面があるじゃん。
和田:多家良が楽屋に挨拶行ったら、シュークリームを食べてた九十九が急にドラマの台詞を投げかけてくるところ?
玉置:そうそう!あんなやつは流石にいないよね。まあ、想像を優に超えてくる役者は現実世界にもいっぱいいるけど(笑)。
——お芝居経験のある、なしもそうですが、読み手によってかなり印象が変わりそうです。
和田:それこそ僕は役者だけど、最初に読んだ時は自分が演じるとは思っていなかったので、読み込みが浅くて理解が追いついていなかった部分も正直ありますね。オファーをいただいてから、改めて深く読み込めば読み込むほど、その面白さにはまっていきました。
玉置:演劇に関する知識や経験によっても感じ方は違うと思いますね。だから、同業者の人だったり、逆にまったく演劇に関係ない人が読んだら、どんな風に感じるんだろう、と気になります。
多家良役を受けたのは「友仁役が玲央くんだったから」
——改めて、今回オファーを受けた時の心境をお聞かせください。
和田:最初にお話をいただいた時は別の仕事のスケジュールを考えて、一度お断りしたんです。原作を読んでいて、簡単にはできない役っていうのはわかっていたので。やるならトコトン集中したいじゃないですか。
——そこから、やっぱりオファーを受けようと思った理由は何だったんでしょうか?
和田:それはひとえに、友仁役が玲央くんだったからです。とてもじゃないけど自分一人ではこの作品に太刀打ちできないし、稽古に入ったら何度も打ちのめされるであろう予想がつく中で、玲央くんが出演した作品を改めて見せてもらい“この人とならやれる”って直感的に思ったんですね。玲央くんとはお会いしたことは一度もないし、何の根拠もなかったんだけど。だから僕は「玲央くんが出るならやります。出ないなら、100%やりません」と、きっぱりお答えしました。
玉置:本当にありがたい限りです。そんな風に言っていただけることってなかなかないじゃないですか。僕としても思い入れのある作品だから妥協はしたくないし、願わくば何度もトライアンドエラーを繰り返して、作ったものを一度ぶっ壊して作り直す……までのことをやれる環境が整っていなきゃできないなと思っていたんです。そのうえで、面識がないのにそんなに素敵なことを言ってくれる相手なら信頼できるし、その思いに応えていく過程で、満足のいく芝居を掴めたらいいのかな。よしやるか!って、ようやく気持ちの踏ん切りがつきました。
和田:正直、まだ怖いですけどね。でも、難しいからこその楽しさっていうのかな。玲央くんが目で、空気で、そのすべてで『ダブル』の世界に誘ってくれるから、僕もその中にのめり込んでいける。早く追いついて、多家良の台詞じゃないですけど、「同じ舞台で戦えるようになりたい」です。
玉置:恐れ多いです。でも、マサ(和田雅成)がそうやって全力で受け止める気でいてくれているのがわかるし、毎回こっちも「くらえ〜!」って全力でボールを投げるようにしてるから、稽古の後はめっちゃ疲れてる。例えば、劇中で友仁が多家良に問いかける場面で、2人の距離だったり目線だったり、台詞以外の情報量がとにかく多くて。
和田:それを逃したくないから、めちゃくちゃ頭を使うんですよ。だから、とにかく稽古の後はぐったりで、なかなか疲れが取れない(笑)。でも、こんな感覚になることってめったにないので、これを乗り越えたらもっともっと広い世界を見られるんじゃないかなって思います。
–{もし別の作品で出会っていたら…}–
もし別の作品で出会っていたら…
——ライバルでありながら、惹かれ合う、という唯一無二の関係を舞台上で築くために、お二人はどのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか。
玉置:普段から、お互いフラットに向きあってる感じだよね?それがそのまま芝居にも活きているような気がする。
和田:僕たちはこの舞台で初めましてだったんですけど、顔合わせや稽古の前に2人でご飯を食べに行かせてもらったんです。だから、稽古場では無理に距離を詰めなくても、自然と気を遣わない関係になれたのかなと思います。それに玲央くんって、必要な時は近くに来てくれたり、逆にそっとしておいてくれたりもするから、すごくありがたいんです。
——ちなみに、会うまでに“どんな人なんだろう”っていう緊張のようなものはなかったですか?
和田:玲央くん、初対面の時にミルクレープ食べてたよね(笑)。
玉置:うん、お腹空いてたから(笑)。
和田:僕は割と人見知りするタイプなんですけど、玲央くんが明らかにウェルカムな状態で来てくれたので、大丈夫だなって思えました。
玉置:お互いフィーリングが合うかどうかが大事だと思ってたから、そこが合ってよかったなと思う。でもさ、もしこの作品じゃなくて違うところで共演してたらどうだったんだろう?
和田:どうなんだろうね。この役だからこそ、玲央くんも密に接してくれてるけど、違う作品で会ったら冷たそう(笑)。
玉置:さもありなんかも。俺も実は結構人見知りするのよ。人見知りの種類って色々あって、明らかに人見知りな人と、攻めることによって人見知りを隠す人がいて、俺は多分後者。だから、もし初対面が別の場だったらスッと後ろに引いて、“お願いだから関わらないでオーラ”を出してたかも(笑)。
小さな幸せや価値があるものに気付けた3年間
——一緒にいる時に、お互いのことを多家良だな、友仁だなと思う瞬間はありますか?
和田:劇中の舞台で多家良が『三人姉妹』という作品のソリョーヌイという役を演じるんですが、玲央くんはその役を実際に演じたことがあるんですよ。このお話ってとにかく複雑で、僕はなかなか理解できずに頭がパンク寸前だったんです。そんな時に玲央くんが、このシーンはこういう状況で、だから台詞はこんな風に……ってロジックを組み立ててくれたんですけど、「まさに今、この瞬間が多家良と友仁みたいだな」って思いましたね。
玉置:それを突っぱねないで、受け止めてくれるところがまた多家良だなって。僕らは今、自分と演じる役とが良い意味でないまぜになっている状態なんです。努めて演じるでもなく、自分という人間を無理やり消そうとすることもなく、もやっと柔らかい塊になってる感じ。だから、俳優然とした自我が強いタイプの人だと、僕が言ったことを「うるせえ、そんなのわかってるわ」って突っぱねるかもしれない。それをマサが受け止めてくれるから、熱意を持ってお互いやりとりができるんだと思います。
——3月からマスクの着用に関するルールが変わるなど、少しずつコロナ禍を乗り越えつつあります。そこで、最後に演劇人であるお二人に改めてこの3年間を振り返っての思いを伺いたいです。
和田:舞台が上演できないという状況もつらかったけど、それ以上に、舞台が悪者みたいな扱いを受けている時が一番しんどかったですね。
玉置:あー、特に最初の頃はあったね。
和田:別に悪いことなんてしてないのに、なんでそんな風に言われなきゃいけないんだろうって正直思ったりもしました。でも、今この3年間を振り返ってみると、悪いことばかりじゃなかったなって思うんですよね。例えば、Zoom飲みが流行ったことで、あまり一緒に飲みに行くことがなかった人との交流も生まれましたし。失ったものもあれば、新たに出合ったものもあるので、僕はあまりネカティブな感情は抱いてないです。これまで以上に、小さな幸せに気づけるようにもなりました。
玉置:この3年間をポジティブに捉えるのが難しい人ももちろんいるとは思いますけど、限られているからこその豊かさも確かにあって。それこそ、舞台を観に来てくださった方々は表情や声が出せない中、スタンディングや拍手の強さで思いを必死に伝えてくださっていました。舞台上から見えるその景色も価値があるものでしたし、やっぱり悪いことばかりじゃなかったなと、改めて思います。
(撮影=大塚秀美/取材・文=苫とり子)
–{舞台『ダブル』の作品情報}–
作品情報
舞台『ダブル』
公演:2023年4月1日(土)~4月9日(日)
会場:紀伊國屋ホール
原作:野田彩子『ダブル』(ヒーローズ刊)
脚本:青木 豪
演出:中屋敷法仁
出演:和田雅成、玉置玲央/井澤勇貴、護 あさな、牧浦乙葵、永島敬三
主催:ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ
(C)野田彩子 / ヒーローズ (C)ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ
https://www.nelke.co.jp/stage/double/