2022年10月3日より放映スタートしたNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」。
本作は、主人公・岩倉舞(福原遥)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな長崎・五島列島で人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。
CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では、舞と幼なじみの貴司との関係がより描かれていく18週目~21周目の記事を集約。1記事で感想を読むことができる。
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もくじ
第82回のレビュー
第18週「親子の心」(脚本:佃良太、演出:野田雄介)のはじまりは、舞(福原遥)、貴司(赤楚衛二)、久留美(山下美月)の幼馴染3人が前進しはじめた雰囲気でした。
舞は航空機部品制作がうまくいきそうで、貴司は短歌界の芥川賞を受賞、久留美は八神先生(中川大輔)と婚約、とうめづを貸し切りにしてお祝いします。そこにたまたまいた悠人(横山裕)は「いつものメンバーやん」とクールな顔をします(悠人が万札をお祝いと言ってどかんと置いていくところが生々しかった)。
【朝ドラ辞典 いつものメンバー(いつものめんばー)】朝ドラではほぼ、いつものメンバーで成り立っている。
貴司のお祝いのはずが、久留美が婚約者を連れてきたため、すっかり久留美が主役になっています。こういうことって通常だと話題泥棒な気がしますが、久留美はこれまで苦労してきたので良いのでしょう。それに3人がとても仲の良い幼馴染だから気になりません。
「あかん胸いっぱいや」と舞は喜びます。
八神は舞と貴司がつきあっていると勘違いしますが、そうではないと知ると、お医者さんを紹介すると舞に言って、久留美に叱られます。そのときの貴司の顔……。
第81回のおわり、貴司の手を思わず舞が握ったときも、貴司は微妙な表情をしていました。気づいてないのは舞だけといった感じです。こういうことは日常でもドラマでもよくありますが、舞がそれほど鈍感に思えないので、いささかもやもやするんですよね。
お医者さんを紹介しますよ、と八神が言ったとき、雪乃(くわばたりえ)もええやんという顔をします。貴司のことを人一倍心配して、短歌の勉強までしている母親が、貴司の気持ちに全然気づいてないのも皮肉であります。それこそ灯台下暗しでしょうか。
うめづのお祝い会が終わると、舞と貴司はぶらぶらと近所の公園を歩きます。最近よく出てくるようになった公園です。柏木(目黒蓮)とお別れしたのもこの場所。舞はここを通るたび胸が疼いたりしないのでしょうか。
舞の家はうめづの隣。貴司はデラシネに住んでいて、舞がすぐに家に帰るのではなく、ちょっと夜風に当たりたいからとついてきたという雰囲気なのでしょう。じゃあねとすぐに隣の家に帰れない舞に、貴司の思いはますます募るのではないでしょうか。
舞と貴司の関係に変化が訪れるのか気になりますが、今週のサブタイトルは「親子の心」なので、恋メインではないようです。
さて。八神先生がうめづを「こんなとこで」とうっかり言って、雪乃が「こんなとこはないんちゃう」と咎める一場面がありましたが、「こんなとこ」とは別に悪い意味で言ったのではなくて、思いがけない場所という意味ではないかと思ったのと、あとで舞が「どんなとこ」(久留美のどんなとこがよかったのか)と言って「こんなとこ」「どんなとこ」の響きが合っていてリズミカルだったことはさておき。
「こんなとこ」じゃなさそうなのは、店内にたくさんサインが貼ってあることです。どうやら著名人がたくさん来店する店のようなのです。一回も出てこないですけれど。たいていいつものメンバーしかいないですけれど。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第83回のレビュー}–
第83回のレビュー
第82回ではお祝いムードだった、舞(福原遥)、貴司(赤楚衛二)、久留美(山下美月)でしたが、早くも雲行きがあやしくなってきました。
舞は航空機部品の試作をライバル会社に遜色ないものを作りますが、大量生産するとなったら対応できるのかと問われます。
製品試験の場になったライバル会社は大きく、大量生産が自社で可能です。
一方、舞たちはネジ自体も、東大阪の町工場ネットワークを駆使して力を合わせてなんとか作ったもので、もし請け負うことになったら、自社だけでなくやはり協力を得ないとならないでしょう。発注者の荒金(鶴見辰吾)は舞たちの理念が実現化の可能性もあると言いますが……。
毎回、あとから、問題に気づくパターンで、これだけ大きな仕事に当たって、実作業についてまず考えないのがIWAKURA。浩太(高橋克典)と舞の似ているところです。石橋を叩き過ぎて渡れないのも考えもので、ときには
考えずに飛ぶことも大事ではありますが、どうも舞たちは考えなさすぎではないかということはさておき。次に、貴司です。
短歌賞をとった貴司のもとに編集者・リュー北条(川島潤哉)がやってきます。アー写を熱心に撮り、
歌集売りたいなら、作者の顔が大事よ?
なんてことを言います。短歌のようなジャンルの文芸編集者にもこんな胡散臭い人がいるんでしょうか。いまやもうどこもこんな感じなんでしょうか。なんだかショックです。このひとが「切実」という言葉を使っていたのを聞いて、「切実」も紋切り型だから使わないようにしなくてはと思いました。
そして、久留美。両家の顔合わせに、八神蓮太郎(中川大輔)の母・圭子(羽野晶紀)がひとりだけやって来て、久留美との結婚はなかったことにしてほしいと言います。問題は、佳晴(松尾諭)が定職についていないからでした。
そもそもこんな店で顔合わせなんて非常識でしょう
佳晴が選んだノーサイドを、圭子は馬鹿にします。第82回で蓮太郎がうめづを「こんなところ」と言ったことと重なり、八神家と望月家の厳然とした違いを感じさせます。ただ、プロポーズがノーサイドだったことを圭子は知っているのでしょうか。
佳晴がノーサイドを選んだ理由が泣かせます。いい店だと緊張してしまうから。唯一の自信であるラグビーの話をここならできるから。
アイデンティティーだったラグビーが不運の怪我でできなくなってしまってからどれだけ経過したでしょうか。久留美が27歳ということは20年近く経っているはずです。いまだにラグビーの話しか自信をもってできない佳晴のことを理解しようとせず、頭ごなしに馬鹿にする圭子に、佳晴はタックルを仕掛けます。20年以上経過してもカラダが覚えているんですね、ラグビーを。
それにしても、八神と久留美も、結婚の前に、父母に根回ししないんだなあと、舞もそうだし、誰もかれもが場当たり的です。朝ドラって登場人物が場当たり的なことが少なくありません。慎重だと物語ってできないものなんですね。
【朝ドラ辞典 場当たり的(ばあたりてき)】後先のことを考えず、物事を進めてしまう人物は視聴者の格好のツッコミ対象である。【朝ドラ辞典 姑(しゅうとめ)】ヒロインに立ちはだかる強烈な人物。昭和の朝ドラは「いびり」が定番だったが、平成後半から令和にかけてコンプライアンスが厳しくなって「いびり」は天然記念物的存在になってきている。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第84回のレビュー}–
第84回のレビュー
面倒な親のせいで破談になるケースは物語において珍しくありません。が、破談が親のせいではないとするケースは珍しいのではないでしょうか。
いや、まあ、一方の親(八神圭子〈羽野晶紀〉)のせいなのですが……、彼女が責めた定職につかない片親・佳晴(松尾諭)は悪くないと娘・久留美(山下美月)は考え、改めてやり直そうとする八神蓮太郎(中川大輔)に結婚はなかったことにしてほしいと頼みます。
蓮太郎が「お父さんさえちゃんとしてくれたら」とか「いまのままやったら不幸」「僕が助けてあげたい」と言うことに久留美は反発します。
私の大事なお父ちゃんやねん
20年近く定職につかず、久留美は経済的に苦労してきたにもかかわらず、(いまも貯金が1年で5万円だとか)「いまでも十分幸せやで」という久留美。蓮太郎が、母を説得するため、佳晴にいい就職先を紹介したにもかかわらず、そこに就職しなくてもいいとまで言うのです。
どちらかというと、久留美のほうが朝ドラヒロイン的かもしれません。少なくとも昭和の朝ドラヒロインはこんな感じではないでしょうか。苦労して苦労してでも運命を受け入れて……みたいな。
いやでも昭和のヒロインは、苦労して、お金もちで人の好さそうな人と結婚したら、姑がきつい人でいびられるということがよくあるので、もし蓮太郎と結婚したら、あのお母さんに苦労させられるに決まっているので、お断りしてよかったといえるでしょう。
もしかしたら、あのお母さんがやばいと判断してお断りしたのかもしれません。久留美は、苦労してきた分、これ以上の不幸を避ける選択眼をもっているのかも……。
などと心の整理をつけようとしましたが、4年もつきあっていて、親の話を全然してないふたりが謎であります。八神家なんて、あの母だったら、まず、久留美を紹介しないといけない気がしますし、あの母だから、蓮太郎が紹介したくない気持ちもわからないではありません。問題を先送りしたすえ、こんなことになったとも考えられます。そこも踏まえると、やっぱり蓮太郎との結婚はあまり良いことにならないから、結婚する前に気づいてよかったということになります。
「僕が助けてあげたい」と言いながら、なぜ、プロポーズがノーサイドだったのだろう。ちょっと高級なお店で喜ばせてあげたいと思わなかったのか、ノーサイドが久留美の好きな場所だと思っていたら、父のせいで不幸になっているとは思わないのではないか。八神に一貫性がないことにもやもやします。セットの都合という事務的な理由があったとしたらそれに説得力をもたせてほしいのです。
子供の気持ち、勝手に決めつけたらあかんで
自身を久留美にとって「呪い」と言う佳晴を窘めた、うめづの勝(山口智充)の言葉のように、決めつけずにもっと考えてみましょう。
どこか不幸そうな子が好みというひとはいます。出会いの頃、食べ物をやたら差し入れていたのも、同情だったのでしょうか。ノーサイドを選んだのも、自身の広い心ではなく、久留美に合わせてあげている自分の優しさに満足していたのかもしれません。
ただ、久留美も久留美で、いまのお父さんでもいい、このお父さんを大事にしたいと思っていたとしても、結婚相手の希望も聞いて、お父さんの就職先を紹介してもらうくらいはいい気がしますよね。だってお父さんはこれまでも定職につかず、何をしたいかわからないのだから、一回、いい会社に入ってみるのも経験でしょう。
久留美にとっての幸せな結婚相手とは、いまのお父ちゃん込みで受け入れてくれる人なのでしょう。はたしてそういう人は現れるでしょうか。
佳晴 という名前だから望月家も晴れてほしいものです。
【朝ドラ辞典 呪い(のろい)】
呪いという言葉がドラマで流行ったのは朝ドラきっかけではない。「逃げるは恥だが役に立つ」(16年)がきっかけ。いまや、自分を縛ることをなにかと「呪い」というすっかり紋切り型の表現となった。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第85回のレビュー}–
第85回のレビュー
久留美(山下美月)問題は終了し、新たな問題が……。
航空機部品のテストの結果、ライバル会社に発注が決まりました。やはり、大量生産体制がIWAKURAではできないからでした。
がっかりする舞(福原遥)に比べて、めぐみ(永作博美)はにっこり微笑んでいます。
荒金(鶴見辰吾)は浩太(高橋克典)のことを知っていました。ここまでそれを言わなかったのは、人間関係で物事を進めたくなかったからでしょうか。なかなかいい人物です。
今回は発注できないが、ゆくゆく、舞の理想ーー東大阪の中小企業が力を合わせて航空機部品に参入する気はないか?と荒金は訊ねます。が、めぐみの答えはーー
夢のある話には必ずリスクを覚悟しなければなりません
先代、浩太が大きな夢見すぎて、会社にも社員にも苦労をかけたことがめぐみには忘れられないようです。確かに舞のように後先考えずに突っ走って、航空機部品の大量生産体制を慌てて作ろうとしたら、また誰かに迷惑をかける危険性はあります。
「お母ちゃんもお父ちゃんと同じ夢見てると思ってた」と舞がめぐみに言いますが、この言い方がきつくないので、母子関係がギスギスしなくていいですね。舞は「かっこいい社長さんやわ」と母の生き方を肯定します。
浩太がいたら、めぐみと舞はこんなに仲良くなかったと思いますし、めぐみがこんなに自主的にしゃべることもなかったでしょう。皮肉な話です。
全力をかけて作り上げたボルトの使いどころがなくなって、心にぽっかり穴の空いてしまったような舞に、貴司(赤楚衛二)がやさしく励まします。
あせることないよ ゆっくり気持ちの流れに任せて新しいことがみつかるまで待ったらええやん
航空機部品の道は終了しましたが、荒金は舞にまた新たな課題を持ちかけます。なにかを失うとなにかを得る。「夢のある話には必ずリスクを覚悟しなければなりません」と考えるめぐみにだからこそ、荒金は仕事を発注したのでしょう。舞の場当たり的な仕事には信頼を持てないでしょうからね。ただ舞のような無謀ながんばりもいいこともあるのもわかっているのだと思います。
朝ドラでは、なにかと主人公が無謀で無双過ぎることが少なくないですが、
「舞いあがれ!」では慎重に立ち止まることも描いています。この慎重さがこのドラマのいいところであるような気がします。
めでたしめでたし、と思ったら今度は悠人(横山裕)に心配ごとが起こっていそうです。IWAKURAの権利書をめぐみに返すと言い出して……。
IWAKURAはいつの間にか「金回りのいい工場」になっていたようです。
【朝ドラ辞典 一難去ってまた一難(いちなんさってまたいちなん)】放送期間の長い朝ドラにはつきもの
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第86回のレビュー}–
第86回のレビュー
第86回は15分のなかに内容が盛りだくさん。東大阪に舞(福原遥)を訪ねて水島(佐野弘樹)と吉田(醍醐虎汰朗)がやってきて、五島では釣りイベントが行われて大阪で物産展をやる話が持ち上がって、悠人がインサイダー取引疑惑によってテレビで大々的に報道されて……と舞い上がりかけて急降下という流れでした。
最初は、「たまたま」づくしで、水島たちがデラシネに来ます。ノーサイドとうめづ、2大たまり場がたまたま休みで、舞の家は水道の調子が悪く、デラシネの茶の間を使わせてもらいます。さすがに展開に無理があるのを書き手がわかっていて「たまたま」「たまたま」と何度も言って、不自然さを緩和しようとしているように見えます。「今日はたまたまばっかりですね」とほのぼのまとめるのは、3本立ての小編の一作みたいな感じです。福原遥がおっとりしているので「今日はたまたまばっかりですね」というセリフもハマっていました。
柏木(目黒蓮)と別れたので連絡とれないでいる舞に、「別れても仲間なんだからさ」と励ます水島。彼が言うから説得力があるのでしょうかね。パイロットの道から離れたけれど、こうやって仲間でいられるから。とはいえそれと恋とはまた違いますよね。
水島は実家のスーパーの副店長、吉田は副操縦士になって活躍していて、舞はいまの自分に少し引け目を感じますが「空も飛べるし部品も作れる」と励まされます。操縦士の資格は消滅しないようです。
制作統括の熊野律時チーフプロデューサーは、先日、取材会で「タイトル通り、空へ舞い上がっていく話なので、これから舞が空との結びつきを手に入れていくところが描かれます。最終的に、これまでやって来たいろいろなことが積みあがってやってきたことがひとつも無駄ではなかったという形で舞い上がっていきますのでお楽しみください」と語っていたので、舞が空を飛べることやネジを作れることが役立つのでしょう。それと、貴司(赤楚衛二)が「舞ちゃんはいろんなところに仲間がおって」とうらやましがるのも軽い伏線でしょう。いや、たぶん、貴司こそ、旅していたからいろんなところに仲間がいるんじゃないでしょうか……。
仲間と言われ、舞は五島を思い出します。舞の仲間は五島にもたくさんいます。舞がアドバイスした釣りイベントが大盛況。たまたま大阪から観光で来ていた熊谷百花(尾本祐菜)がすっかり島を気に入って物産展をやらないかと持ちかけます。一太(若林元太)は屈託のない百花に惹かれて……。
と、ここまでは良かったですが、悠人(横山裕)にインサイダー取引疑惑で「来週につづく」に。不穏過ぎます。
【朝ドラ辞典 たまたま(たまたま)】類語:ご都合主義
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第87回のレビュー}–
第87回のレビュー
第19週「告白」(演出:小谷高義)は重々しいムードではじまりました。天才投資家・岩倉悠人(横山裕)にインサイダー取引疑惑が浮上し、業界のルールを破ったとテレビでも大々的に取り上げられています。
テレビを見た雪乃(くわばたりえ)がめぐみ(永作博美)に電話、ネット検索するとーー 悠人の写真入りでインサイダー疑惑の記事が掲載されていました。
事務所にはテレビは置いてないんですね当たり前か……。商売やってるうめづはテレビを見ていて、舞(福原遥)たちはネットというのが時代を表して見えます。
第18週でIWAKURAの権利書を事前にめぐみに渡していたので、悠人には思うところがあったとしか思えないですね。
本人の口から聞かないことには何も判断できないと冷静であろうとするめぐみと舞ですが、当然ながら電話しても悠人は出ません。いよいよ会社にまで記者が押しかけてきて、めぐみは社員を集めて説明します。
せっかくここまで来たのに、悠人のせいでまた会社に危機が訪れたらどうしようと不安になりそうなものですが、まっさきに章(葵揚)が悠人に助けられたのだからと声をあげます。それに続いて、「人の噂も……」と藤沢(榎田貴斗)が言い出して「人の噂も75日や」と「75日の辛抱です」と社員たちが順番に言って、みんな協力ムード。人情ものの色が濃くなりました。かつて会社に捨てられた人たちも戻って来たいま、結束が強まっているようです。一言とはいえ、ひとりひとりにセリフが割り当てられていました。
悠人の味方はたくさんいます。でも、疑惑じゃなくてほんとうにやったぽく、共同経営者・高橋(マエチャン)が電話で悠人を「全部終わりだよ」「おまえが全部終わらせたんだ」となじりまくります。このマエチャンさんの電話の声演技が迫力です。声優さん?と思うような声に力があります。調べたら劇団活動をされているようです。
舞が家に戻るとたくさんの記者が待っているので帰れず、デラシネで時間を潰させてもらいます。雨が降ってきて「雨やむんやろうか」と心配していると、悠人は東大阪にいて、雨のなか、ふらふらと歩いていて、例の公園で倒れてしまいます。
倒れた悠人を真俯瞰でカメラが映します。その前にも仕事場にしているらしき部屋の天井から照明ごし、真俯瞰で悠人を映すカットがありました。第87回は上からカットの回ですね。それはともかく、大雨のなかずぶ濡れで地面に横たわる悠人に「半沢直樹」第1シーズンの第1回を思い出しました。半沢直樹(堺雅人)が雨のなか地面に倒れてる場面があるんです。そういえば、半沢直樹も実家の工場が経営破綻してお父さんが亡くなりお母さんが工場を継ぎました。この設定、テッパンなんですね。
「告白」というサブタイトルは悠人の「告白」なのか、それともほかの「告白」なのか
気になります。
【朝ドラ辞典 雨(あめ)】登場人物のどうしようもない感情を表現するのに雨が使用されることはよくある。朝ドラはスタジオで雨を降らすことが時々あるが、ロケで雨降らしをするよりは楽らしい。「半分、青い。」では雨のなかヒロインがプロポーズされてミュージカルのように踊っていた。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第88回のレビュー}–
第88回のレビュー
「拾われた男(松尾諭)が拾いました」
博多華丸
博多華丸さんの名朝ドラ受けが出ました。第88回はそれに尽きるでしょう。インサイダー取引疑惑をかけられ行方をくらました悠人(横山裕)が東大阪の地元に戻ってきて雨のなか、公園で倒れているところ、佳晴(松尾)が見つけて家で看病します。久留美(山下美月)は看護師なのでテキパキと看護します。このときの早くて冷静な口調がプロらしかったです。
その状況を、朝ドラ受けで華丸さんが端的に語りました。
念のため、「拾われた男」というのは松尾諭さんの自伝で、ドラマ化もされています。
ちなみに、悠人が倒れた公園は、舞が柏木(目黒蓮)と別れた場所で、SNSでは「柏木公園」と呼ばれています。
楽しい朝ドラ受けが出てきたり、SNSでの特別な用語などが生まれてきたりすることは人気の証でしょう。
久留美から連絡をもらってめぐみ(永作博美)と舞(福原遥)が迎えに来ます。最初は斜に構えていた悠人ですが久留美に助言されてめぐみたちと実家に戻ります。このときの悠人の素直じゃなさ。久留美にお礼としてお金を渡そうとして拒否されるのです。いきなりむきだしで現金というところに、お金としか向き合ってこなかったことが如実に表れています。
実家に戻って父・浩太(高橋克典)のノートを悠人が読むと
稼いだお金で何がしたいのか どういう生き方したいのか
と書いてありました。
お金はすべてではありません。お金は過程でしかなく、使い方に意味があるのです。富裕層の人たちはたくさん寄付している人たちもいますが、衣食住や余興に贅沢しているだけの人たちもいます。余るほど稼いだとき、どう使うのだろうとよく思いますが、ぜひ実体験してみたいものです。筆者がもし3億円手に入ったら寄付したい活動は決まっています。
あゝ寄付したい。
……話をもとに戻しましょう。父が悠人を心配していたことをノートを読んで知った悠人
の心が動きます。
ここで感心するのは、母めぐみと舞も悠人を心配します。ふたりがさすが、と思うのは、頑なな悠人にしつこく何があったか聞くのではなく、自分たちが悪いのだと自責することです。悠人はひねくれ者ですから、翻って俺が悪いんだと素直に語るのです。
こんなふうに悠人の取説をわかっていたら、ここまで家族関係こじれなかったような気がしますが、めぐみも舞も、浩太と悠人のぶつかりあいを見ていて気づいたことなのでしょう。北風と太陽作戦ですね。
【朝ドラ辞典 ネットスラング(ねっとすらんぐ)】SNSで受け手から発生する言葉がある。#俺たちの菅沼 #反省会 など。「柏木公園」もそのひとつであろう。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第89回のレビュー}–
第89回のレビュー
悠人(横山裕)は責任をとるために東京に戻ることになり、その前に、家族で食事をします。メニューはカレー。子供のとき、浩太(高橋克典)と一緒に作った思い出のメニューです。「そもそもカレーの頻度が高い」とぶつくさ言いながら、そのカレーが好きな悠人。食べながら、素直に自分の想いを言えるようになっています。
結構重たい罪だということは、めぐみ(永作博美)の表情から伝わってきます。舞(福原遥)、「手紙書く」「電話する」と、できるだけ明るく振る舞っています。
朝ドラではこれまで様々な登場人物が悪いことをしてきましたが、罪に問われず、なんで?と見ていて思うこともしばしばでした。今回は、悠人は懲役3年執行猶予5年で、罰金などの多大な負債を抱えながらも、自分のしたことに向き合ってしっかり償うようです。
東京に帰る日に、ノーサイドに悠人は立ち寄り、佳晴(松尾諭)に借りた服を返し、久留美(山下美月)にお礼を渡します。今回はお金ではなく、袋の底に手を当てて、あたたかみを感じながら、久留美はちょっとうれしい顔をします。
佳晴は悠人に、自分もなにもかもなくして絶望したけれど、「一番大切なものが残っとたんや」と励まします。佳晴にとっての大切なものとは久留美です。この言葉を聞いたときに久留美もちょっとうれしそうな顔をしています。縁談を断って父を選んだばかりですし、少女時代は、母よりも父を選んでいます。どんだけお父さんが大事なんでしょう。定職につかず、経済的に豊かに暮らせなかったのに、そんなことは関係ない。お父さんのそばにいたいと思う久留美の気持ちが、佳晴を支え続けてきたのです。
そんな久留美に悠人がお礼に渡したのは、うめづのお好み焼き。悠人の大切なものです。
なにしろ、東大阪に来たら、実家には立ち寄らず、うめづにだけは来て、必ず食べるものですから。
佳晴の大切なものと悠人の大切なものの2ショットです。
さて、悠人のターンはいったん終了し、舞と貴司(赤楚衛二)のターンに入ります。
舞と貴司ははたからみたらいい感じですが、なかなか進展しません。そんなとき、
貴司の短歌のファンだという秋月史子(八木莉可子)がデラシネにやって来ます。
デラシネのお茶の間で貴司と語り合っていた舞が思わず立ち上がって、史子を見る様子は、先客がいるアピールをしているみたいでした。
八木莉可子さん、Netflix「First Love 初恋」でヒロイン(満島ひかり)の少女期をみずみずしく演じています。幼少期を演じているのが舞の幼少期を演じた浅田芭路さんという、なかなか因縁深いキャスティングで、これからの秋月史子の活躍が気になります。
【朝ドラ辞典 罪(つみ)】登場人物が罪を犯すことが時々ある。窃盗、詐欺等。冤罪のときもある。捕まったのは「ひまわり」の主人公の弟(冤罪)、「まんぷく」の主人公の夫(3回も捕まった)、「おちょやん」の主人公の父(獄中死)など。見逃されたのは、「カムカムエヴリバディ」の主人公の兄、「ちむどんどん」の主人公の兄や息子(物議を醸した)。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第90回のレビュー}–
第90回のレビュー
突然現れた秋月史子(八木莉可子)は貴司(赤楚衛二)の短歌のファンで、自分も短歌を作っているから見てほしいと頼みます。なかなか積極的なひとであります。
舞(福原遥)が店番を交代し、貴司は奥の間で史子の短歌を講評することにします。
史子のある歌に
一番近くにおんのにどうしても伝えられない切なさ
を貴司は感じます。この感情はきっと貴司のなかにもあるものなのでしょう。
怖くて誰にも見せられない心のうちを短歌にしてきた貴司と史子。でも、
ひとに見せることで 自分の世界がまた広がっていくんですよね
と貴司は言います。
今まで誰にも見せられなかった心を貴司と共有できたことを喜ぶ史子は帰りがけに、舞に「奥さんですか?」と聞きます。「まさか」と全力で否定する舞。小さく「よかった」とほっとする史子。
その話を聞いた久留美(山下美月)は史子に貴司が取られてしまうのではないかと心配しますが、舞は自分の気持ちがよくわかっていないようです。
悠人(横山裕)のインサイダー取引問題という固い問題が解決したら、恋愛問題というやわらかい問題にシフトのようで、三角関係のムードが漂ってきたうえ、五島から来た一太(若林元太)は百花(尾本祐菜)に夢中です。
自分の気持ちを曖昧にしているにもかかわらず、舞は一太に「百花さんとつきおうてんの?」とからかいます。自分のことはわからないが他人のことはわかりやすいということでしょうか。
東大阪と五島と距離が遠いし、住む世界が違いそうですし、うまくいくのか心配になりますが、一太には幸せになってほしいです。五島が好きな同士、気が合いそうというところで気になるのは、貴司と史子も、短歌の話をしているとき、舞が入っていけなそうな、専門的な話を深く楽しそうにしていることです。
一太と桃花が共通言語でうまくいくとしたら、貴司と史子も……。そもそも舞は貴司のことを好きなのでしょうか。まずは、舞の気持ちがはっきりするところからでしょう。
サブタイトル「告白」は誰の誰への告白なのかーー。
舞の部屋で一太と舞が話しているとき、さくら(長濱ねる)がただ布団にくるまって寝ているだけでも存在していることが涙ぐましかったです。長濱ねるさんは協力的なかたなんですね。
ところで、史子の短歌も桑原亮子さんが書いていると思うので、貴司と史子の違いを出すのは複数の人物のせりふを書き分ける以上に難しそうな気がするのと同時に、ふたりが互いの短歌を褒め合うことは、桑原さんの宇宙が循環しているようでドラマティックだなとも感じます。
【朝ドラ辞典 マ―な一族(まーないちぞく)】デラシネで大樹(中須翔真)と陽菜(徳網まゆ)が買っていった「マ―な一族」は「カムカムエヴリバディ」でひなたの本棚にあった漫画。放送当時、某名作漫画のオマージュであろうと話題になった。このように番組間を小道具が縦断することが時々、朝ドラにはある。類語:使いまわし
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第91回のレビュー}–
第91回のレビュー
五島の物産展が行われることになって五島の人たちが東大阪にやってきて、あっという間に2週間が経過します。
おつかれさま会がノーサイド(物産展のディスプレイが飾られた。大きなバラモン凧も)で行われます。歓迎会はうめづでした。うめづ、ノーサイド、デラシネ、公園……この庶民的な4軒を使い回しまくっております。
みんなが見守る前で、一太(若林元太)が百花(尾本祐菜)に告白します。後ろで舞(福原遥)たちがじっと息を潜めて見守っていて、こんな状況で告白する一太は勇気あるなあ。あ、でも、子供の頃って、みんなの前で告白して、成功したら、ひやかすみたいなシチュエーションはよくありますよね。
一太は五島で生きると決めたときから、外の人には恋をしないことにしたと言います。これって舞が東大阪に帰ってしまったトラウマではないでしょうか。舞、罪な子。
一太と百花、この関係性だったら、百花は東大阪に恋人がいてーーみたいな、一太の一人相撲になりかねないところですが、百花は五島の椿の木に掛けて「ゆっくり」一太を知っていきたいと返事をします。すぐに「つきあいましょう!」じゃないところがいいですね。すぐに「ごめんなさい」じゃないところも。
百花としても、五島が好きになって、五島で暮らす可能性を視野に入れていかないといけないわけで、簡単に、今の生活を捨てて五島に行くかは簡単には決められないですものね。観光と生活には大きな違いがありますから。
そう思うと、舞と柏木(目黒蓮)の恋は若さゆえの早急さがありました。ぱっと燃えて、ゆるゆると消えていく、線香花火のような恋。後先考えずにつきあってしまったから、恋が終わったら、同期の友人として会うことができなくなってしまった。そんなだから、舞は次の恋をすることにも消極的になっています。
ほんとうの気持ちに向き合ったほうがいいと久留美(山下美月)に助言される舞ですが……。
朝ドラで、こんなふうに微妙な恋愛もよう(恋が終わったあと引きずってる感じとか友達でいられたらよかったのにという後悔)を描くのは珍しい気がします。
一方、貴司(赤楚衛二)もほんとうの気持ちに向き合えと、編集者・リュー北條(川島潤哉)に言われます。北條は「絶望」とか「怒り」とかを出してほしいと言いますが、「燃えたぎるような怒りはないです」と答える貴司。それを受けて史子(八木莉可子)は、淡いところがすばらしいんです。世の中の醜いものにあえて背を向け小さな美しいものに希望を見出しておられるんです」と反論します。「淡さ」が良さっていいですよね。
「梅津先生の一番のファンです」と史子が言ったときの舞の表情。ちょっとショックそうでした。
そんなこんなで、いろいろあった第91回ですが、次週予告が、SNSで「柏木公園」と呼ばれているいつもの公園での舞と貴司の場面が気になります。ついにほんとうに気持ちに向き合うのかーー
【朝ドラ辞典 告白(こくはく)】最大の見せ場
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第92回のレビュー}–
第92回のレビュー
第20週「伝えたい思い」(演出:工藤隆史)は朝、舞(福原遥)が鏡の前でお化粧するところからはじまりました。珍しい。舞のなかでなにかが動き始めた予感がします。
昼、うめづでランチをしていると、新聞記者の、御園純(山口紗弥加)と知り合います。
東京から転勤してきた御園は舞の会社の取材をはじめます。女性が社長で、女性の職人(土屋〈二宮星〉)がいることに興味を持ったようです。それにしても若い人には「今時間ある?インタビューさせてもらってもいいかな」とか馴れ馴れしい喋り方なのか……。そしてあからさまに女性にばかり取材……。
会社の帰り、舞がデラシネに行くと、秋月史子(八木莉可子)が来ていました。この日は貴司(赤楚衛二)の第一歌集用のための短歌の締め切りでした。
史子と貴司が仲良さそうに話しているのを見ても、舞は帰りません。幼少期の舞だったら相手を気遣ってそっと帰ってしまいそうですが、社会に揉まれて強くなった舞は自分の思いを貫く人になっているので、帰りません。ややいやな見方をすれば、幼馴染として自分のほうが仲が良い自信があるのでしょう。
ところが、短歌のことがわからない舞に対して、史子は詳しくて、ふいに引け目を感じたようで、物産展の土産を渡すと早々に帰ります。
これもややいやな見方をすれば、傘を忘れていったのは、まさか貴司に追いかけてきてほしかったから? 残念ながら追いかけてきたのは史子でした。そして、どれだけ貴司を尊敬しているか熱っぽく語ったうえ、
「先生のそばにおることを悪く思わんといてくださいね」とダメ押しします。
静かな女の戦いの気配です。
貴司の短歌が「本歌取り」であることにすぐに気づいたり、短歌の内容について深く語りあえたりする史子が有利な感じもします。なにしろ、歌のなかにこめられた「孤独」について語り合えるなんて、素敵じゃないですか。しかも、史子は、ギャンブルばかりのどうしようもない父から逃げて家出(久留美〈山下美月〉とはまた違うタイプ)、バイトしながら孤独を短歌で慰めている。ほだされてしまいそうではないかですか。
ただ、史子が短歌から読み取ったのは「孤独」そのもので、貴司は「孤独」が沈んでいく様を書いたと答えます。短歌に限らず、作品に自分の抱えている苦悩を託すのはよくあることですが、貴司は短歌によって孤独を手放そうとするーーさらに先をいっているようなのです。
現在、ドラマの考察が流行っていますが、貴司と史子のやりとりのように、短歌はまさに様々な「考察」ができます。本歌取り(オマージュ)を発見したり、用いられている言葉の意味を考えたり。伏線という概念があるかはちょっとわからないですが、上の句と下の句の関係性なんかはそれに近いかもしれません。
ちなみに貴司がちゃぶ台に置いていた「黄月」の作家・佐藤佐太郎には彼の名を冠した短歌賞があります。
【朝ドラ辞典 本歌取り(ほんかどり)】過去の朝ドラのオマージュした表現が時々ある。本歌取りと言っていい。いずれにしても、対象の作品に敬意をもったうえで、新たに作り変えることである。パクリや盗作とは別次元の創作である。関連語:引用
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第93回のレビュー}–
第93回のレビュー
貴司(赤楚衛二)は第一歌集を出すにあたり壁にぶち当たっていました。
あと10首、書かないといけないのですが、なかなか書けず、やっと書き上げたものをリュー北條(川島潤哉)は認めません。
史子「私には伝わりました」
北條「ふたりだけで通じ合ってれば」
信奉者の史子(八木莉可子)は北條の見解に反論しますが、北條は鋭く、貴司は伝えることを諦めているのではないかと指摘します。
創作において、ここはとても大事なところです。
他者にわかってもらえないことを、作品に転じて表すというやり方にもふたつあります。諦めて作品世界に閉じこもるタイプと、作品を作ることによって、わかってもらえなかったことを広くわかってもらうようにするタイプ。
史子と貴司はいまのところ前者です。北條は後者です。そして貴司には後者の可能性があると北條は考えているのです。
貴司を成長させようとする北條と、いまのままでいいと言う史子がぶつかるなかで、貴司はどちらを選ぶのかーー。
美しいソプラノを聞きたいがために少年の成長を止めるような残酷さを感じるね (リュー北條)
これ、名言でしたね。「黒蜥蜴」が美しい人を誘拐して剥製にしてしまうような感じですね。でもこれはこれで、ひとつの美意識かなと筆者は思います。殻に閉じこもって自分だけの美しいものに囲まれて生きることも否定はしたくないです。ただ、「舞いあがれ!」でやりたいことは、殻を破って成長して、たくさんのひとと繋がっていくことなのでしょう。
そのために北條は熱い恋の歌を書けと貴司に言います。
北條は自分を「俗物」と自覚しています。たくさんの人と繋がるのは「俗」になることでもあるのです。なかなか難しい話です。
北條の言ってることは、ドラマレビューを書くうえでも大事なことだと感じます。少なくとも、筆者は、たくさんの人にこのドラマは伝わるか? という視点で書いています。自分にはわかることでも、これがどれくらいの人に伝えるように表現されているか、と立ち止まって考えます。ところが、なかには、史子のような人がいて、自分はわかるの一点張りで、レビューを否定してくることがあります。史子のような人がいてもいいのです。教養があって感性もあってすてき。でも誰もがそうではないのです。
史子も「わかる」と言いつつ、解釈が貴司の真意と違っていました。要するに、真実よりも、それぞれが「わかった気」になることが大事であって、その「わかった気」になる人が増えてほしいと考えているのが北條です。
「わかった気」は悪いことではなくて、たくさんの人達がそれぞれの体験や感情に重ねられるということで、たくさんの人が「わかった気」になるものを作ることはほんとうに大変なことなのです。
リュー北條、ただの俗っぽい編集者かと思ったら、意外と骨のある人物のようで。「エルピス」の村井と同じく、SNSで手のひら返して受け入れられてました。これなんですよ、たくさんの人に受け入れられるということは。
【朝ドラ辞典 意外性(いがいせい)】やな人と思っていたひとが、実はいい人だったというパターンは大衆に好まれる。キャラ変とは違う。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第94回のレビュー}–
第94回のレビュー
新聞記者御園(山口紗弥加)が書いた記事は女性社員にフォーカスしたものでした。舞(福原遥)は長年尽力してくれている男性社員に申し訳が立たないと感じますが、御園は彼女がおもしろいと思ったことを書いたまでで、舞が伝えたいことは舞が書けばいいと言います。
御園はタメ口でぐいぐい来るのがクセつよで、苦手な人もいると思いますが、言ってることは正論です。何をどう感じようと自由ですから。そして、IWAKURAに関して、女性が多いことが特徴だと感じて世の中に伝えたいと思ったから伝えたまでなのです。
もちろん、IWAKURAは、先代ががんばって大きくしたもので、笠巻(古舘寛治)たちのいい仕事があってこそいまがあるわけですが、それを紹介しようと思ったら連載記事になってしまうでしょう。
IWAKURAには大手新聞の連載記事になるほどのパワーはないわけです。町工場の腕利きの職人といったらほかにもいるでしょうから。この人を載せたらこの人も……ときりがありません。
仕方のないことなのです。書く側としたら、たくさん話を聞いたけれど、これしか載ってないと思われてしまうこともやっぱりあります。筆者は取材もしますが、取材もされることもあり、やっぱり、大事な部分は使用されず、一般的な話しか使われなかったと残念に思うこともしばしばです。話したことがまったく使用されないこともあります。
「伝えたいことがあるならあなたが発信してみれば」と御園に言われ、舞はブログをはじめようと考えます。
いまはSNSがありますから、自由に発信できます。それぞれが感じたことを発信する時代はすてきです。ただし、最低限の常識や他者への敬意は必要と思います。
全員のことをできるだけ伝えたいと思っても伝えきれないものなのです。だからこそできるだけ、語られなかったひとがいることに思いを致す、それが創作です。たとえば、ドラマは、実話以外は、こんな人達がいたかもしれないという話です。
それこそ「舞いあがれ!」は、社長が急死して、必死に会社を継いだ妻と娘がいたかもしれないという物語です。そして、それだけがフォーカスされて、悔しかったり寂しかったりする人たちもいるかもしれないという物語です。
だれかに伝えることを考えはじめた舞は、貴司(赤楚衛二)の短歌について、「短歌にしたら一瞬が永遠になる」と言葉の真髄を悟ります。
「貴司くんの短歌好きやで」ーー貴司くんが好きやで と言えないもどかしさ。
七夕の夜、窓越しに語り合うふたり。七夕と言いながら、家と家の間の狭い空。
その間に、史子(八木莉可子)が押しかけ女房的にデン!と鎮座し、日に日に存在感を増していきます。
【朝ドラ辞典 当て馬(あてうま)】恋愛ドラマに不可欠な存在。本命のふたりの間に障害があると、逆にふたりの恋の炎が燃えるという重要かつ残念な役目。ただし熱演すると視聴者からは支持されることもある。俳優としてはステップアップになる。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第95回のレビュー}–
第95回のレビュー
なかなか新作ができない貴司(赤楚衛二)。激しい恋の歌(相聞歌)を期待するリュー北條(川島潤哉)に、三百首のなかにひとつだけ恋の歌があると史子(八木莉可子)は指摘します。
君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた
は、万葉集にある狭野茅上娘子の歌の本歌取りであると史子は気づいていました
君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも
本歌取りについては、第92回にもすでに出てきていて、貴司が本歌取りをしながら新作を作っている下地ができていました。92回では、ちゃぶ台に佐藤佐太郎の「黄月」が置いてあって、名前を冠した短歌賞があるから敬意を評して美術スタッフが置いたのかなと思いましたが、優れた歌集を傍らにおきながら本歌取りをしている描写なのかもしれません。
短歌編集者・北條も気づかなかったことに気づけた史子は貴司と「孤独」を介して特別な絆があると誇らしげに言いますが、この唯一無二の一本の恋が誰に向かっているのか、なぜ、気づこうとしないのか。いや、史子はほんとうは「つつしみ」深い、この歌の真実に気づいているのです。でも気づかないふりをして、自分が貴司の「灯火」になりたいと考えるつつしみのなさ。
でも、「舞いあがれ!」はそんな史子を批判することはありません。めぐみ(永作博美)に恋をしたらわがままであっていいと言わせているからです。確かに、めぐみは浩太(高橋克典)と一世一代の恋をして、故郷を離れ、愛する浩太と苦労をともにしました。
めぐみは舞にもわがままになるよう助言します。
その頃、舞は、貴司と史子が急接近していくことへの不安を抱えながら、IWAKURAのブログ開設に懸命になっています。新聞で取り上げてもらえなかった男性社員のことを紹介しようと、最初は笠巻(古舘寛治)にインタビューを試みます。職人は黙ってネジを作るものという矜持で最初は固辞した笠巻でしたが、舞の意欲にほだされて語り始めます。
「ほっといたら消えてしまうその(職人の)気持ちをなんとか残して伝えたいんです」舞
ひとの思いを聞くことで、ひとに思いを伝えることを舞は体感していきます。
史子に私は気持ちを伝えます、と宣戦布告され、どうする?
さて、貴司の本歌取りですが、激しい情念がこもった元歌にくらべ、じつにやさしく淡い感じがしますが、「千億の星」ですからね 一つの星ではなく、宇宙いっぱいの星に祈っているのは、彼なりに大きな欲望で「君」を包もうとしているのでしょう。
でもこれ、視聴者的には最初から隠しきれない恋の歌だってわかっていたのではないでしょうか。だって、そんなふうにだれかのために祈ることなんてなかなかできないし、そもそも、短歌はがきは舞にしか送っていないんです。どんなに大変な生活をしてきたかわからない久留美には送ってない。
このドラマを褒めるとしたら、最初からバレバレの恋歌の真実を明かす手間を、本歌取りという仕掛けを作って描いたことです。しかも、本歌取りの精神を、本命の舞から、自分の物語に作り変えようとする史子の恋と創作のまぜこぜになった激しさとして描いているようにも見えます。本歌どりするなら、本歌を超える勢いでいかないと。
スジなんて誰でもある程度書けます。重要なのはビーフシチューにブランデーをいれるようなひと手間です。
【朝ドラ辞典 創作(そうさく)】朝ドラの主人公は作家であることも多く、創作の苦しみを味わう。エピソード「エール」は作曲家、「なつぞら」はアニメーター、「おちょやん」は俳優、「半分、青い。」では漫画家を志したが挫折した。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第96回のレビュー}–
第96回のレビュー
いっこうに歌ができない貴司(赤楚衛二)が「拒絶されるのがこわいんです」と言うのは、まるで舞(福原遥)に告白して「拒絶されるのがこわい」と言ってるようでした。
リュー北條(川島潤哉)が「なんで隠すの 心の奥までさらけ出しなよ そんな及び腰だから(以下略)」「意気地なし」「もったいないよね 梅津さん、せっかくのマグマに蓋しちゃって」等々、言葉を尽くして励ましているのも、短歌のことではなくて、恋愛についてのようにも思えます。
北條「なんで書かないんだよ」
貴司「書かないんじゃなくて書けないんです」
は
北條「なんで告白しないんだよ」
貴司「告白しないんじゃなくて告白できないんです」
に置き換えられますね。
貴司は子供の時から舞のことを想っていて、でも彼女はどんどん遠くにいってしまい、恋人もできてしまい、別れたとはいえ、次につきあってほしいとはなかなか言えなかったのでしょう。本を作ったら少しは自信がつくと思ったのかもしれません。
恋と短歌が重なり合って得も言えないムードが出来上がっています。
短歌の専門用語「本歌取り」がツイッタートレンドにあがり、今日は「仮面ライダーも本歌どり」とたちまち活用されて、朝ドラによって短歌の知識が一般に一気に広まりました。短歌業界のひとはどんなお気持ちでしょうか。
今週は「相聞歌」「本歌取り」と専門用語が出てきましたが、短歌にはほかにも、ひとつの言葉にふたつの意味をもたせる「掛詞」や、ふたつの関係ある言葉を使用する「縁詞」などの用法があります。
「舞いあがれ!」は「本歌どり」「掛詞「縁詞」などが脚本を紡ぐうえで染み付いているように感じます。ひとつのものごとをシンプルに書くのではなく、例えば、恋と創作、恋と夢がくるくると絡まり合って空に上って心が広がっていくようなイメージです。
柏木(目黒蓮)の存在も、舞のパイロットの夢の象徴のように感じる描写は、夢の消失とともに消えてしまいましたが、貴司と舞は長い時間をかけて、ようやく近づいていきます。
史子(八木莉可子)は舞の家を訪ね、部屋に飾ってあった、例の「千億の星」のはがきを見つけて、舞に歌の意味を伝えます。
史子は探偵みたいで、歌に込められた真実を探り当てました。歌人になるのもいいけれど、評論家になるのもいいかもしれません。
史子が恋を諦め去って行ったあと、舞は、貴司が昔からずっと自分を見つめ支え続けていてくれたことに気づき、矢も盾もたまらず貴司に会いに行きます。
そして、例の柏木公園でーー。最後の1首ができました。
でも柏木公園で良かったのか……。貴司は、この公園で舞が柏木と別れたことを知らないと思うので、知ったら複雑な気持ちになりそうです
思いを言葉にする大切さが描かれた「舞いあがれ!」ですが、この件だけは舞は墓場までもっていったほうがいいでしょう。
柏木公園、人間の悲喜こもごもが集まってくる磁場のある所ですね。
【朝ドラ辞典 プレミアムトーク(ぷれみあむとーく) 】「あさイチ」のコーナー。朝ドラ終わりに出演者がゲストで登場し裏話を語ることが恒例になっている。関連語:土スタ(土曜スタジオパーク)
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第97回のレビュー}–
第97回のレビュー
第21週「新たな出発」(演出:田中正)では2015年3月、舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)が結婚。告白の次の回で結婚。告白まではゆっくりだったけれど結婚までは超展開速かった。
貴司が無精ひげそってさっぱりしてました。
結婚式の披露宴(二次会?)会場はいつものノーサイドです。これまでご縁のあった人たちが集まってきます。五島からもたくさん。現実的に考えると、物産展の撮影と合わせたのでしょう。
山田(大浦千佳)と藤沢(榎田貴斗)が「お似合い」と言われてまんざらではない様子であることに驚きました。ほかに、佳晴(松尾諭)と道子(たくませいこ)がかなり長い春という感じです。倫子(山崎紘菜)はフランス人パイロットの婚約者がいるようです。由良先輩(吉谷彩子)はおひとりさまの星。
佳晴は来ないかと思わせて、悠人(横山裕)を連れてきます。東京まで迎えに行ってきたのでしょうか。
顔を出したものの、にぎやかな場所をすぐに出ていき、例の公園に佇む悠人を心配して追いかけてきた久留美(山下美月)はぽつりと言います。
大事な友だちと大事な友だちが家族になりましためっちゃ嬉しくてちょっとさみしいです
(久留美)
わかる、わかりますよ。舞、貴司、久留美……3人幼馴染だけれど、貴司は短歌はがきを舞にしか送っていませんでしたし……。それはともかく、久留美は破談になっていますから、ちょっとさみしい気持ちになるのは無理もないでしょう。
このうえもない幸せの傍らに、さみしさや哀しさもあります。
岩倉家に2世帯暮らしすることになった舞と貴司。表札に「梅津 岩倉」とあり、勝(山口智充)が「梅津岩倉や」としんみりします。
亡き浩太(高橋克典)が事業に失敗していたとき、勝が一緒にお好み焼き屋をやろうという流れから「梅津岩倉」で漫才やろうという笑い話になったことがありました。それがこういう形で実現したのです。
ただ、主人公と幼馴染が結婚してハッピーではなくて、そこにいろんな歴史や気持ちがあることをちゃんと描くところが、貴司の短歌のようです。
貴司と舞が岩倉家をリフォーム(リノベーションとはどう違うのか)して2階に住むとは堅実です。きれいないまどきのお部屋になっています。ベッドまわりは見せないのが生々しくなくていいですね。
2階を夫婦の住居にしたということは悠人の部屋を壊してしまったんですね。家とはそういうものとはいえ、悠人、帰ってこられない……。
そういえば、貴司関係の友人知人がひとりもいませんでした。リュー北條(川島潤哉)くらい呼べばよかったのに。
【朝ドラ辞典 祝宴(しゅくえん)】これまでの出演者が一同に介してお祝いするエピソードが一回はある。たいていは結婚式。ひたすらに幸せな回。【朝ドラ辞典 最終回かと思った(さいしゅうかいかとおもった)】話がいい感じにまとまって、最終回のような回類語:大団円
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第98回のレビュー}–
第98回のレビュー
【朝ドラ辞典 新婚生活(しんこんせいかつ)】ヒロインが波乱万丈のすえ、結婚するとしばらくは夫婦のほのぼのした生活が描かれる。このまま出産してホームドラマ化して終わってしまうと良作にはならず、なにかしら一波乱、必要。類語:平和な日常
舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)が結婚し、岩倉家の2階をリフォームして暮らし始めました。
婿に入ったわけではないが、妻の家に住むのは「サザエさん」のマスオさん状態です。
貴司はノーサイドの二次会ではみんなの写真を撮る係になっていて、新婚生活でも舞とめぐみ(永作博美)の傍らでおとなしくしています。もともとおとなしい人物とはいえ、こんなに会話が弾まないものなのでしょうか。小津安二郎の映画のような静けさであります。
もともと大阪が舞台のドラマにしては、会話が弾まない「舞いあがれ!」。でも大阪だからどの家庭も吉本みたいにポンポン会話が弾むわけではないでしょう。むしろ、親しい者同士のほうが会話は少ないとも言えます。それにしても、静かで穏やかですよね。やっぱり小津安二郎を思い出してしまいます。
平和な日常だね
血が騒がない?
(リュー北條)
リュー北條(川島潤哉)は貴司を焚き付けます。たぶん、家庭に埋没したら短歌ができなくなると心配しているのでしょう。
でも、岩倉家は、暇そうな貴司に家事を任せようとはしません。自分の時間を持ってほしいと考えます。理想的な関わりですね。
さて、IWAKURAにも変化が訪れます。長年、会社に尽力してきた笠巻(古舘寛治)がギックリ腰をきっかけに退職することになりました。第20週の舞のブログのインタビューで69歳だったことがわかりました。本来とうに退職していいところ、働いていたわけです。
IWAKURAが年配の社員を大事にしていることがわかります。働きたい希望者にはいつまでも働いてもらう懐の深さ。あるいは、働き手が足りないのでいてもらわずを得なかったか。
いずれにしても笠巻は働きたくて働いていたわけですが、カラダにがたが来ていました。渋かっこいい職人キャラだった笠巻さんががぜん、さみしい老人キャラに。妻を亡くし、嫁と孫と離れ、寂しい生活を送っていることが判明します。
孫と作りたくてプラモデルが家にたくさんあるという状況が孤独を物語ります。そんな話を訊いたら舞はまたいてもたってもいられなくなるのです。
「おはよう日本関東版」では天気のニュースで朝ドラ送りはありませんでしたが、関西版では由良先輩がパイロットになったことを喜んでいました。確かに。由良先輩は自分の夢を叶えたのです。第98回では北條が史子(八木莉可子)が歌人として活躍をはじめたと伝えます。おひとりさまでも失恋してもそれぞれの道を歩んでいるのです。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第99回のレビュー}–
第99回のレビュー
東大阪の町工場には問題がいろいろ。景気も悪いし、人手不足で、近隣住人から騒音の苦情も出て肩身の狭い思いをします。
街の人と工場との心の壁を壊したい。住人に理解を得たいと考えた舞(福原遥)は、御園(山口紗弥加)の提案でオープンファクトリーをやろうと考えます。
めぐみ(永作博美)と貴司(赤楚衛二)に応援されて、2代目社長たちの集まる勉強会で提案してみます。集まりはいつものうめづ。うめづによく集まっていて浩太(高橋克典)や笠巻(古舘寛治)と仲がよく、何かと舞に手助けしてくれた曽根(蟷螂襲)が2代目(井之上チャル)に、古田(湯浅崇)も2代目に(同じく湯浅崇)になっています。皆さん、引退したんですねえ。
でもみんなノリ気ではありません。唯一、的場(杉森大祐)が興味をもってくれましたが……。
舞はデラシネでオープンファクトリーの企画書を作ります。たぶん、日曜日なんでしょう。うん、日曜日なんでしょうね。
休みの日も仕事に没頭する舞(勝手に休みと思い込んで書いてますが平日だったらおかしいですものね)。
第98回で、貴司がめぐみと舞に比べて暇そうなことが語られていましたが、彼は彼なりに、歌集も重版し、ただ暇してるわけではないことが描かれています。
大樹(中須翔真)と陽菜(徳網まゆ)も来ていて、宿題をやっています。貴司は大樹たちに短歌を教えることに興味を覚えます。
自分だけの歌を作ることを大樹たちに語る貴司。舞と同じく、貴司も、人々がそれぞれ個性を持って、自分だけの言葉で自分の思いややりたいことを世の中に発信することの手伝いをしようとしはじめています。
陽菜が洒落にならない「すかんぴん」生活を送っていたことがわかりますが、その超悲惨さも短歌にして笑い話にします。なんかすごいですけど、いつもこの手の物語を見ていて、つらいことを笑い話にしないといられない世の中ってどうなんだろうと思ってしまうのです。
もうそろそろそうも言ってもいられない時代に来ている気がするからです。こういうことを描けていたのは、世の中がそれなりに豊かだったからじゃないか。じっさい辛さを隠すために笑いにもっていく人はいるでしょうけれど、つらいときこそ笑おうと物語のなかで提案するのは作りての傲慢じゃないか。つらいひとはそれを隠し通すために笑っているんじゃないかとか、考えてしまうのです。朝から辛気臭い話ですみません。
テーマが先行して、登場人物が全員そのテーマに向かってしまっているため、なんとなく、PRドラマのような印象があるし、オープンファクトリーに関して、御園がさらっと提案して、舞が個人的には乗りきれないのですが、悪いことをPR しているわけではないし、時々、心の奥に刺さってくるものもあるのが救いです。
的場に紹介されて舞が会った安川龍平(駿河太郎)は、なにわバードマンの伝説の先輩でした。空山(新名基浩)が詩のように飛行機のことを語った名場面に出てきた安川先輩に偶然出会う。世の中狭い、という驚きの出会いって誰もが経験したことは一度や二度あるでしょう。そういうことを描くのは計算されて描いてあったとしてもわくわくするものです。
【朝ドラ辞典 駿河太郎(するがたろう)】「カーネーション」で糸子(尾野真千子)の夫を演じた。朝ドラ辞典 蟷螂襲(とうろうしゅう)BK朝ドラの常連俳優。「だんだん」「てっぱん」「カーネーション」「純と愛」「ごちそうさん」「マッサン」「べっぴんさん」「まんぷく」「おちょやん」「舞いあがれ!」で10作め。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第100回のレビュー}–
第100回のレビュー
100回まで来た「舞いあがれ!」で思うのはコネの大切さです。家柄、地元、大学などの関係性が人生を左右すること、よくありますよね。
実家の町工場を継いだ舞(福原遥)は新聞記者・御園(山口紗弥加)のアイデアからオープンファクトリーを行うことにします。そこで協力してもらったのは、町工場仲間の紹介で出会った東大阪の役所の人、なんと、なにわバードマンの伝説のOB・安川(駿河太郎)でした。
さらにその安川が、なにわバードマンのOB仲間・渥美士郎(松尾鯉太郎)に声をかけます。舞と渥美は同じ時期に活動をしていて、再会になります。なにわ大学の准教授になっている渥美が生徒を連れてきて、企画はどんどん広がっていきます。
ひとりでは小さなことしかできなくても人が集まると規模が大きくなっていきます。その場合、役所、大学、大手新聞社、というひじょうに有力なところを抑えることが大事です。ふわっと描いていますがけっこう生々しいです。
こうして、オープンファクトリーに補助金がもらえることになって、やる気のなかった町工場の人たちもやる気になっていきます。
舞、安川、渥美が集まったからか、オープンファクトリーでは飛行機を作ることになります。飛行機のデザインで盛り上がる舞、安川、渥美。
大きな物事を成し遂げるにはコネが大事なのです。
それを貴司(赤楚衛二)が「スクラム」という言葉で表現します。
「スクラム」といえば、ラグビー。佳晴(松尾諭)を思い出します。もともと東大坂にはラグビー場があってラグビーが盛んですから、この言葉のチョイスは親しみが湧きやすいでしょう。
人間関係を築くのが得意な舞に比べて、貴司はコネなどない、人間関係を紡ぐのが苦手ですが、子供を集めて短歌教室を開くことにします。
最初はしぶい顔をしていたリュー北條(川島潤哉)も、イケメン歌人が子供を集めて教室を行うことは絵になって商売に結びつくと肯定的になります。
貴司もいままでひとりでしたが、舞が傍にいるので、彼女の助言を聞いて夢が広がっていきます。もっともこのふたりは、結婚前からデラシネで語り合っていたので、やってることはあまり変わっていません。
例の公園で短歌教室が行われます。大盛況。
ちょっとくらいはみだしてもええねん
(貴司)
社会にまとまっていく人たちとちょっとはみだす人。どちらでもいいのです。
貴司がうらやましいのは、結婚して、家に妻と義母、隣に父母がつねにいてうっとおしいときもあるとは思いますが、デラシネという逃げ場があり、そこにいけばひとりになれます。
結婚によって経済的に負荷がかかることもなく(新居もいらない、妻は自立している)、好きなことを好きなようにやれる。人間関係はうまくいかず、サラリーマンにも向いてなかったけれど、楽に生きられる道を順調に歩んでいます。ええなあ。
【朝ドラ辞典 コネ(こね)】人間関係がものをいうことがよくある反対語:ネコ
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第101回のレビュー}–
第101回のレビュー
東大阪の町工場の技術が集まった飛行機ができました!
小さな模型ですが象徴的ではあります。それぞれの工場の得意分野の技術が部品になって、それが集まってかっこいい飛行機になって、みんなの夢を乗せて空を翔ぶというイメージです。
うめづでランチしながら舞(福原遥)が打ち合わせしていると、飛行機のかっこよさに興味を引かれたほかの工場のひともさらに技術の提供を申し出ます。こうやって東大阪の町工場の結束力が強まっていきます。
でも模型飛行機はまだ空を飛びません。いつ飛ぶでしょうか。
オープンファクトリーの開催日の前に、笠巻(✳︎古舘寛治)が退職します。
笠巻は69歳(25歳で入社、44年間勤務している)なので、腰もいためたし、70歳をきっかけにしたということでしょうか。
日本の定年は90年代以降、60歳でしたが、2013年に65歳まで継続できるようになり、2021年には、定年を70歳まで継続できるように努力目標化する流れになっています。高齢化社会、まだまだ働けるようになっているのです。笠巻は65歳まで継続制度をさらに超えて働いていたことになります。IWAKURAは時代を先取りしていたんですねえ(「舞いあがれ!」はいま、2015年設定)。
最後の日、事務所に挨拶に来る廊下で、かぶっていたIWAKURA の帽子を脱ぐワンアクションが笠巻の心情を感じさせます。
事務所では花を渡して見送るだけです。よく、見送らなくていいと言うかたもいるようですから、笠巻もそうなのでしょう。
長年務めた工場を背にしてひとり歩いていくカットは撮影してほしかった気もしますが、笠巻にはまだ出番があります。
オープンファクトリーで飛行機の部品の組み立てを教える係です。最初は渋っていた、孫の正行(高田幸季)も参加することになりました。舞が娘の佐知子(吉田真由)に頼んだのです。
当日は、各工場、分かれてオープンファクトリーが行われ、舞や笠巻は、例の公園の前のビルで飛行機づくり体験を行います。
孫のほか、子供がふたり参加していますが、笠巻は孫にだけ教えています。この流れが謎。
そして、ネジをどうやって作るの?と興味を孫がもっても、工場見学の流れになってないことも謎。
勝手な想像では、工場見学をして、工場のどこかで体験学習もするものと思っていたので、公園の前の空きビルの一室で、飛行機だけ作って終わり? それともそのあと工場見学に?
舞が目指したのは住民と工場との心の壁を壊すことでした。ここで壊すことができたのは、笠巻と孫の心の壁でした。それだけでも十分、いいことではありますが。
舞はやる気で、もっとパワーアップしたオープンファクトリーをやろうと盛り上がり、次週予告では起業に向かうようです。どういう形にせよ、早く舞い上がってほしいですね。
✳︎古舘寛治さんの(たち)は土口
【朝ドラ辞典 家族の確執(かぞくのかくしつ)】ホームドラマである朝ドラ、家族がいつもうまくいってるとは限らない。なんらかの原因でうまくいかない家族もある。それをどうやって解決するかがドラマになる。【朝ドラ辞典 引退(いんたい)】高齢化社会になってドラマでも高齢者の描き方に変化が。「べっぴんさん」では使用人が老後に冒険の旅に出る展開があった。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{「舞いあがれ!」作品情報}–
「舞いあがれ!」作品情報
放送予定
2022年10月3日(月)~
<総合テレビ>
月曜~土曜: 午前8時~8時15分 午後0時45分~1時(再放送)
※土曜は一週間を振り返ります。
日曜: 午前11時~11時15分(再放送)
翌・月曜: 午前4時45分~5時(再放送)
※日曜、翌・月曜は、土曜版の再放送です。
<BSプレミアム・BS4K>
月曜~金曜: 午前7時30分~7時45分
土曜: 午前9時45分~11時(再放送)
※月曜~金曜分を一挙放送。
出演
福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月 、目黒蓮、高杉真宙、長濱ねる、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、鈴木浩介、哀川翔/吉川晃司、高畑淳子 ほか
作
桑原亮子 、嶋田うれ葉、佃 良太
音楽
富貴晴美
語り
さだまさし
主題歌
back number「アイラブユー」
制作統括
熊野律時、管原 浩
プロデューサー
上杉忠嗣 三鬼一希 結城崇史ほか
演出
田中 正、野田雄介、小谷高義、松木健祐 ほか