3月4日(土)から独占配信がスタートするHuluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」。
プロデューサーは「ゲーム・オブ・スローンズ」の主要プロデューサーの一人で、数々のエミー賞受賞歴を誇るフランク・ドルジャー。「THE SWARM/ザ・スウォーム」はフランク・ドルジャーにとって「ゲーム・オブ・スローンズ」以来の最新作となります。
日本からも木村拓哉が日本の慈善家で海洋問題に取り組む“ミフネ財団”の創始者アイト・ミフネ役で参加することが明らかになっています。
この話題性たっぷりの大型国際ドラマ「THE SWARM/ザ・スウォーム」の配信を前に、フランク・ドルジャー本人に構想スタートからコロナ禍での撮影秘話、見どころ、木村拓哉のエピソードまで広く話を聞くことができました。
原作について、その選択理由、現代へのアップデート、映像化について
――なぜこの原作を映像化しようと思ったのですか?
もともとは2004年にドイツで「深海のYrr(原題:Der Schwarm)」というタイトルで発表された小説でした。当時から非常に重要な意味をテーマが込められていることもあってよく知られている作品でした。
5年ほど前にビジネスパートナーからこれを原作とした形で映像化の話を持ち込まれたことがきっかけで改めて小説を読み直すと、20年前に書かれたと思えないぐらい、まるで今の世界で起きていることを予期していたかのような内容で本当に驚かされました。
現在は温暖化など、自然環境・気候変動に関する様々な事実をベースにしたドキュメンタリーや作品が作られています。
そこで、私は、キャラクターが牽引するエモーショナルなドラマによって環境問題や温暖化、自然環境問題、気候変動を掘り下げられないか考えました。敢えてフィクション、エンターテインメントとして描くことで、ドキュメンタリーなどを飽きるほど見て、環境問題については十分理解したつもりになっている人の心にも響く作品になるのではないかと思いました。
――原作小説は約20年近く前に発表された作品ですが、2023年の作品にとするために工夫したこと、意識したことはありますか?
まず、科学面に関してはアップデートが必要でしたが、これについては素晴らしいコンサルタントが入ってくれていたのでとても楽でした。
また、原作が出版された当時はヨーロッパや北米では特に科学者は男性が多かったのですが、現在では女性の活躍も増えています。同時に、様々なバックグラウンドを持つ人々が科学のフィールドに入ってきているので、その多様性を表現するために、キャラクターの設定を原作から大きく変更しました。それに加えて、年齢を若くしているキャラクターもいます。
そのほか、コンサルタントと話した時に2023年から新しいエネルギー資源を見つけるために深海を掘ることができるライセンスの付与が始まると知りました。もちろん、私たちの生活には欠かせないバッテリーやチップを作るために必要な資源採掘なのですが、正しいやり方を選ばなければ環境や深海への大きなダメージに繋がってしまいます。
原作では登場人物の一人であるヨハンソン博士は、油田の掘削をしている企業から欺かれていたという設定なのですが、そういった部分は現在の状況を踏まえて、設定を変更しています。
――原作小説はかなりボリュームがありますが、それを全8話のドラマに落とし込むにあたって、どのような基準で取捨選択をされたのでしょうか?
これまで手掛けてきた「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ジョン・アダムズ」、「ROME[ローマ]」の制作の経験から学んだ事が一つあります。
それは何があってもキャラクターに焦点を当てるということです。ストーリーは常にキャラクターからの視点で描かれなければならないと考えています。
原作は科学的な説明が非常に多いのですが、それらをすべて映像化するのは難しいものです。今作では登場人物たちがそれぞれの場所で異変の原因を調べていきます。その過程でキャラクターの強みや弱みが反映されているエピソードを重ねていき、キャラクターの成長に繋がっていないエピソードは原作からカットするというアプローチをしました。
さらに、全体的にストーリーをシンプルにしています。本作をディザスターもの(自然災害を描くパニックもの)としては描きたくなかったのですが、原作の後半3分の1はそういった方向に向かっていきます。映像化にあたっては物語にとって必須になる部分だけを抽出し、科学者たちがいかにこの未知なる存在と向き合っていくのか、人間と自然界や海との関わり合いをドラマとしてしっかり描くことを意識しました。
Huluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」の見どころについて
――映像で特にこだわったところを教えてください。
主に2つの点にこだわりました。
まず1つ目は“海”をキャラクターとして扱うこと。「THE SWARM/ザ・スウォーム」では登場人物たちが海で起きたことに対してリアクションをすることで物語が進行していきます。そういった背景もあり、海を1つのキャラクターとして描くことが重要でした。そのため、屋外のシーンはなるべく海に近いところを撮影場所として選び、視覚からも音からも海という存在を感じられるように工夫しています。
2つ目は、海のシーンは場所によってビジュアルやサウンドを全く異なるものに変えているという点です。海というものが美しくも危険な場所であり、人間よりもはるかに力強い存在であるということを表現しようとも思いました。
※「THE SWARM/ザ・スウォーム」ではヨーロッパ最大級の水中スタジオ(LITES WATER STAGE & FILM STUDIOS)で撮影が敢行され、世界トップレベルの大迫力映像、精巧かつ大掛かりなVFXが次々と畳み掛ける映像を体験することができます
――「THE SWARM/ザ・スウォーム」の一番の見どころは何でしょうか?
先ほど申し上げたように、私はこの作品をディザスターものにするつもりはなく、モンスターもの(怪物を扱った作品)としてアプローチすると決めていました。
ドラマをご覧になった方は、モンスターは海の中に潜んでいません。そのモンスターとは一体何なのかは観てのお楽しみですが、きっとその展開に驚かれるのではないでしょうか。エンターテイメント作品として楽しみながらも、最終的にはそういった気付きを得て、感動してもらえるような作品になっていればと思います。
–{国際的なプロジェクトの在り方、そして木村拓哉について}–
コロナ禍後の国際的なプロジェクトの在り方について
――撮影現場で印象に残っていることはありますか?
ドラマの制作中、ずっと心に残っていたことがあります。今回、パンデミックの最中での撮影だったので、クランクイン前の顔合わせはZoomで行なわれました。終わった後にある役者さんから電話がかかってきて、「今回のスタッフとキャストの顔をZoomで見た時に、まさに今の世界の多様性をそのまま反映したかのようなスタッフ・キャストだった」と言われたことがとても印象的でした。
温暖化の影響というのは、世界各国誰しもが等しく晒されている脅威であり、さらに、キャストやスタッフも今現在の世界の多様性を表している。これはまさしく真の意味で「THE SWARM/ザ・スウォーム」が国際的な物語なのだということに気づかされ、とても嬉しく思いました。
――これまで「ゲーム・オブ・スローンズ」など大規模なプロジェクトを手掛けてこられましたが、今回の「THE SWARM/ザ・スウォーム」はさらに国際的なプロジェクトとなりました。これまでの作品との違いや難しさ、面白さなどありましたら教えてください。
どの企画にも挑戦はつきものです。「THE SWARM/ザ・スウォーム」に関しては新しい音の使い方にチャレンジしました。本作はモンスターものとして描いていますが、視聴者は最後の最後までその姿を見ることがないので、生命体が発する音や海の音のリアル感にこだわり、見えないけれども感じることのできるキャラクターとして表現しました。
また、本作に取り掛かったのはパンデミックが起きる前だったのですが、世界各国にいるキャラクターがお互いに連絡を取るという設定を考えた時に、ビデオ通話をどのように映像で表現するかというのは課題の一つでした。ビデオ通話のシーンはただ単にモニターに顔が映っているというのではなく、アップにしたり、色々な形の表現を試行錯誤したりしながら作っていきました。
それから、いかに視聴者にとってリアルな世界の物語だと感じてもらえるようにするかというのもチャレンジの1つでした。ファンタジーや超自然的な要素を含む物語ですが、うまくバランスをとってリアリティーを失わないように表現するのが難しいポイントです。実はこれは「ゲーム・オブ・スローンズ」の時も悩みました。「THE SWARM/ザ・スウォーム」は様々な部分で新しいチャレンジができた作品となりました。
――ドイツ、フランスをはじめ各国の放送局が参画しています。その中で日本から初めてHulu Japanが参画したことの意義や期待することなどを教えてください。
私が「国際的」と言われる作品に関わり始めたのは主にHBOの作品が中心だったのですが、当時は北米やヨーロッパなど限定された国だけが関わっているにもかかわらず、「国際的」と呼んでいることが多かったです。
私の制作会社、インタグリオ・フィルムズを創立した時に「国際的な企画というのは、場所やキャストよりも、その題材がより多くの国の人々にとってインパクトがあり、感情面に響くかどうかが重要だ」と言ったことを覚えています。
その点、まさに今回の「THE SWARM/ザ・スウォーム」は真の意味で国際的な作品と言えるのではないかと思います。原作ではヨーロッパを中心に描かれており、アメリカや日本、中国が悪役的に描かれているのですが、先ほど申し上げたようにそういった作品にはしたくありませんでしたし、今回ご一緒したパートナーの方々はそういった私の意見に賛同し、信頼して下さいました。
また、Hulu Japanとは別の企画も進めており、それはさらに多くの国々が関わるプロジェクトとなっています。今作の制作を通じて、“国際的な作品がどういうものなのか”を改めて再定義することができました。
日本から参加の木村拓哉について
――木村拓哉さんが演じたミフネという役について教えてください。
今回のストーリー終盤で、科学者たちが国際委員会に訴えて北極海に船を出そうとするのですが、費用が出せないと断られてしまいます。その時に頼る相手が必要だと考えていました。金銭的な支援をして科学者たちを後押しする役割を果たすキャラクターは、海と深く関わりのある国の方がいいなと思いました。そこで思い出したのが、先進国の中でも特に海と深い関わりを持つ日本です。
また、リアリティーのあるキャラクターにしなくてはとも思ったのです。木村さん演じるミフネは原作の後半で非常に重要な役割を果たす米軍総司令官の女性ジュディス・リーを、木村さんのイメージに合わせて作り変えたキャラクターです。ミフネは海運業で富を築きましたが、同時に海へダメージを与えてしまったことも自覚していて、科学者たちを支援することが、自分自身が海に与えてしまったダメージを払拭する、そして世界を救うためのチャンスだと考えています。
――木村拓哉さんとご一緒してみていかがですか?
木村拓哉さんと一緒にお仕事をさせていただいたことは、とても素晴らしい経験でした。木村さんについてはハッとさせられた部分が3つあります。1つ目は年齢を重ねていて大人の成熟した権威を表現できる感性、2つ目は知性が感じられること、最後にスクリーン上の存在感でした。現場では撮影はとてもスピーディーに進行していき、複雑なシーンもあったのですが、見事に演じ切ってくださいました。他のキャストともとても良いバランスでしたし、演技も見ごたえのあるものとなっています。
※木村拓哉に加えて、世界各国から選りすぐられた豪華俳優陣が集結しました。
主要キャストにはアレクサンダー・カリム(映画「ゼロ・ダーク・サーティ」)をはじめ、セシル・ドゥ・フランス(映画「スパニッシュ・アパートメント」)、レオニー・ベネシュ(ドラマ「ザ・クラウン」)、ジョシュア・オジック、バルバラ・スコヴァ(映画「アトミック・ブロンド」)、シャロン・ダンカン=ブルースター(映画「DUNE/砂の惑星」)が出演しています
――撮影中の木村拓哉さんとのエピソードがあれば教えてください。
撮影を通じて特に感心したのは、ミフネのオフィスの撮影シーンでの出来事です。
2日間かけて色々なシーンの撮影をしたのですが、ビデオ通話をしているシーンや、グリーンバックで背景を変えるなど、様々なことをしなければなりませんでした。撮影現場から離れた場所に木村さんの控室を用意していたのですが、撮影が終わった後、彼が控室に行ってから5分後くらいにすぐメイクさんと衣装さんを引き連れて撮影現場に戻ってきて、「控室を用意してくれるのはとても感謝しているけど、行ったり来たりする時間がもったいないから、撮影場所にスペースを用意してくれればそこでメイク直しや着替えをするよ」と言ってくれたのです。セットの角の方に椅子を置いてカーテンをかけてスペースを作り、そこでメイク直しや着替えをしてくれたので、通常は移動も含めて30分かかる所を5分で衣装替えができるようになりました。
そのおかげで色々なアングルで撮影ができたし、監督と共に演技を深めていくことができました。普段、大スターとお仕事をしている自分の経験からすると、作品や演技がどうこうというよりも、自分がどう扱われるかの方が大事、という方は結構いらっしゃいますが、木村さんは全くそうではありませんでした。自分がやりやすい環境にこだわるのではなくて、時間を無駄にせず、より良い作品を作りたいという思いからそういったことを仰ってくださり、これが本当のプロフェッショナルだなと感心しました。
Huluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」について日本へのメッセージ
――「THE SWARM/ザ・スウォーム」を楽しみにしている日本の視聴者にメッセージをお願いします。
まずは作品を楽しんでいただきたいです。そのために、2つ重要なポイントがあります。
1つ目は原作では割とはっきりと「善人」「悪人」を分けて描いているのですが、ドラマでは絶対にそのような描き方はしたくなかったため、みんな善悪のバランスが取れたキャラクターとして描いています。気候変動や海を守るために、我々全員が行動することができるのだということを伝えたかったからです。ドラマの中に「海が死ねば我々も死ぬ」という、あるキャラクターのセリフがあります。今まで皆さんが環境に対してどう振る舞ったのかは別にして、本作を見る事で、環境に対してまた違った向き合い方ができるようになればと思っています。
2つ目は原作では年配のキャラクターが多いですが、ドラマでは若いキャラクターに設定を変更していることです。現実の若い世代の人々中には、環境に対するダメージがあまりにも大きすぎて、希望がないんじゃないか、もう何をしても無駄なんじゃないかと思っている方もいると思います。そんな方々にも、作品を見終わった後に、まだまだ私たちにもできることがある、と感じてもらえれば嬉しいです。
コロナ禍を経て、改めて定義される国際的エンターテイメントコンテンツ
Huluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」は20年前の小説を現代的にアップデートして映像化した企画であると同時に、コロナ禍を経て創られた作品でもあります。
2020年前後からスタートしたエンターテイメントは大なり小なり、コロナ禍の影響を受けているでしょう。
今や、エンターテイメントコンテンツの制作は、コロナ禍と共存していく方法論しかなく、「THE SWARM/ザ・スウォーム」もまたその一本であることは確かです。
そのうえで世界各国から話題性と実力を持ったキャスト・スタッフが集結しました。
コロナ以前の状況に戻ることはもはや難しいのでしょうが、それでも新たな環境で、新たに定義づけされたエンターテイメントコンテンツが拡がっていきます。
「THE SWARM/ザ・スウォーム」はまさにその“最初の一歩”と言えるでしょう。
環境問題をエンターテインメントに落とし込んだ物語、世界各国からの人気と実力を兼ね備えたキャストに加えて、コロナ禍後のエンターテインメントのあるべき形を知ることができるという意味でもHuluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」は必見のドラマシリーズです。
(取材・文=村松健太郎)
■Huluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」番組情報
3月4日(土)Huluで独占配信スタート(全8話)
スタッフ
製作総指揮:フランク・ドルジャー
監督:バーバラ・イーダー
原作:「THE SWARM」フランク・シェッツィング著
脚本:スティーヴ・ラリー
制作:インタグリオ・フィルムズ、ndFインターナショナル・プロダクション