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『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』が公開中だ。
結論から申し上げれば、本作は実に「映画館の意義」を再確認できる内容であった。テレビ放送されるだけではもったいない「劇場クオリティ」だった超絶技巧で大迫力のアニメを、スクリーンで堪能する喜びを大いに感じられるだろう。
ただ正直に申し上げれば、本作は良くも悪くも「映画ではない」という印象も強かった。後述する、一緒に鑑賞した5歳と6歳の保育園児の鑑賞後の言葉も、その裏付けのようにも感じたのだ。作品の魅力や特徴と共に、その詳しい理由を記していこう。
テレビアニメをつなげた内容
前提として、本作はすでにテレビ放送&配信されている「遊郭編」の第十話と最終第十一話、そしてアニメとして初公開となる「刀鍛冶の里編」の第一話(4月放送予定)をつなげて、劇場公開された作品である。
完全に新規の作品ではなく、劇場用に再編集した「総集編」でもない「テレビアニメそのまま」の内容なのである。この構成の是非は後に語るとして、「そういうものだ」と事前に知っておいたほうがいいだろう。
1つのエピソードの最初から最後までを描く映画『無限列車編』とは異なるため、一見さんにはかなり厳しい内容もしれないが、それでも後述する迫力の画と音響、悲劇的な物語の一端は十分に楽しめるだろう。
スペシャルアバンという劇場だけの特別感
とはいえ、全てがテレビアニメそのままというわけでもない。本編前に「鬼滅の刃」のテレビアニメ版の主題歌である「紅蓮華」、映画『無限列車編』のエンディング曲「明け星」を使用したスペシャルアバンも流れるのだから。
端的に言って、歌に乗せて「これまで」の物語をダイジェスト的に追った内容だ。それぞれ歌がワンコーラスで終わる程度、合計で数分程度の短いものではあるが、編集のキレは良く「劇場だけの」映像としての特別感は味わえた。
宇髄天元VS妓夫太郎の刃が超高速でぶつかる音のド迫力ぶり
おそらく「遊郭編」をすでに観た方が、もっとも「劇場」で観たいと思っていたのは「宇髄天元VS妓夫太郎」のバトルシーンだろう。もはや目で追えないほどに双方が刃を超高速で繰り出しまくる様が、耳をつんざくような「金属音」も相まって、鳥肌が立つほどの迫力を感じられたのだから。
本作は映画館での鑑賞に最適化するため、映像全編が4Kにアップコンバートされ、音楽も再ミックスされているという。映画館という場所の大きな意義は、家では実現がほぼ不可能な、全身に伝わるような「音響」でこそ作品を堪能できることにある。大画面はもちろん、その音響の価値も、ここでストレートに感じられたのだ。
劇場で観てこその「静寂」も感じられる、妓夫太郎と堕姫の兄妹の物語
鬼である妓夫太郎と堕姫の兄妹の物語も、スクリーンで観ると2人の感情がより胸に迫ってくる印象もあった。それは、映画館で観てこそ、大きく鳴るBGMや効果音だけでなく「静寂」もより感じられるからではないか。
劇中で語られている通り、彼らは竈門炭治郎と禰豆子が「そうなっていたかもしれない」存在だ。これ以上はないというほどに悲劇的であるが、それでもごくわずかに、たとえ刹那的であっても、兄弟の絆に幸福を感じさせるものだ。ぜひ、スクリーンで隅々まで堪能してほしい。
–{スクリーンで観てこその面白さを、もっとも感じたシーンはここだ!}–
無秩序な無限城の空間を堪能できる会議シーン
アニメとして初公開となる「刀鍛冶の里編」の第一話にて、最大の敵である鬼舞辻無慘と、上弦の鬼たちの「会議」が展開する。つまりはほぼ会話劇ではあり、アニメとしては地味にもなりそうなところだが、意外や意外、個人的にはこの会議こそが、もっともスクリーンで観てこその面白さを感じるシーンだった。
何しろ、上弦の鬼たちが集結しているのは、上下左右に部屋や階段が存在している「無限城」。初めから無限城を奥行き感たっぷりの「空間」として見せてくれるし、スピーディーなカメラワークで追ってくれる。劇場の椅子に座ってスクリーンを観ればこそ、まるでジェットコースターに乗って無限城の中を疾走するような感覚も味わえたのだ。
会話をしているだけなのに積極的にグルングルンとカメラを回す様は、ちょっと過剰に思えて笑ってしまうほどだったが、短い間に鬼たちのパワーバランスが変化していく様とは絶妙にマッチしていたし、その演出こそが重力も何もかもがめちゃくちゃな無限城の無秩序さを表現しているようだった。この異様な光景を作り出したスタッフたちの労力はどれほどのものだったのだろうと、少し恐れ慄いてしまうほどだ。
なお、アニメで初登場となる上弦の鬼たちには豪華声優陣がキャスティングされており、それぞれが最高のハマり役&演技だった。特に玉壺(ぎょっこ)役の鳥海浩輔から滲み出るいやらしさや性格の悪さは、それだけで聞く価値がある(もちろん超褒めてる)。
【上弦の鬼解禁PV】
新たに明かされた、上弦の鬼を演じるキャストの解禁映像を公開しました。 https://t.co/NAeGRf9xMy上弦の壱・黒死牟 置鮎龍太郎
上弦の弐・童磨 宮野真守
上弦の肆・半天狗 古川登志夫
上弦の伍・玉壺 鳥海浩輔 https://t.co/DAjvqcFRAr #鬼滅の刃 #鬼滅の刃上弦集結 pic.twitter.com/xOubXTwTTc— 鬼滅の刃公式 (@kimetsu_off) February 3, 2023
超重要ポイント:甘露寺蜜璃が超絶かわいい
「刀鍛冶の里編」第一話は、通常のテレビアニメ版の2話分のボリュームがあり、炭治郎がタイトル通り刀鍛冶の里へと赴く様も十分に描かれている。ギャグ成分多めで、「遊郭編」での死闘と、口だけでなく手が出る暴力上等な会議シーンの後に観ると、なかなかに癒される内容だった。
そして、ここで何よりも重要なこと、というか観た人が満場一致で思うであろうことは、甘露寺蜜璃が超絶かわいいことだろう。
彼女は恋が大好きな女の子であり、鬼殺隊に入ったある理由は炭治郎をドン引きさせてしまったりもするが、それくらいに彼女は純粋。喜怒哀楽が激しく、泣いて悲しんだかと思えば、次の瞬間には美味しそうな晩ごはんのことを聞けば満面の笑顔になる。なんだこのかわいい生き物。
あと、小さくなった禰豆子を、まるで赤ちゃんのように「かわいいね〜」とあやす様も100点満点。おまかわ(おまえのほうがかわいいわ!)と言う他ない。花澤香菜のキャスティングと演技も国民栄誉賞レベル。そんな甘露寺蜜璃のかわいらしさを4月の放送まで待てないという方は、映画館に急ぐしかない。
全てを見届けた後、やはり初公開となるMAN WITH A MISSION × miletによる主題歌「絆ノ奇跡」の楽曲、OP映像にも高揚感があった。4月から放送の「刀鍛冶の里編」、2話以降の物語にも期待が膨らむだろう
さて、ここからは『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』について、特に作品としての構成の部分で、個人的に「むむむ……」と思ってしまった部分を記していく。少しネガティブな意見になってしまうが、ご了承いただけたら幸いである。
–{5歳と6歳の保育園児の鑑賞後の感想、それは……}–
最後にバトルがなく終わってしまう構成は子どもには不評?
筆者は「鬼滅の刃」が好きな保育園児、5歳と6歳の甥っ子と一緒に本作を鑑賞したのが、率直な感想を聞くと、それぞれ「最後に鬼と戦ってくれないから、面白くなかった」「面白かったけど、もっと観たかったのになあ」だった。観ている間は特にぐずったりはせず楽しんでいた様子だったが、残念ながら満足度そのものは高くなかったようだ。
その理由はもちろん「そういう構成になっている」からだろう。仕方がないことだが、「刀鍛冶の里編」第一話はエピソードの序盤も序盤、その場所に行くところで終わってしまうし、子どもがもっとも期待しているであろうバトルシーンはないに等しい。おそらく彼らの視点からすれば、激しいバトル→悲しいお話→会議→新たな物語の初めも初めだけで終わる、という流れだからこそテンションがどんどん下がってしまったのではないだろうか。
そして筆者個人としても、これこそが「映画ではない」という印象を持った理由である。映画はごく一部の例外を除き、2時間の映画の中で起承転結のある物語を紡ぎ、その終わりまでを見届けることができる、だからこその感動やカタルシスが得られる娯楽であり芸術だ。
だが『上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』はそうはなってはない。観る前からわかりきっていたことではあるし、そういう内容だと筆者は甥っ子2人に事前に説明してはいたのだが、やはり良くも悪くも「テレビアニメの最後と最初のところだけを観た」という印象を持つ方は多いだろう。
少しだけでも劇場のための編集をしてほしかった気も?
個人的にさらに気になったのは、テレビアニメ版をつなげた作品の特徴上、スタッフロールが複数あったこと、はたまた「前の話のあらすじ」として同じシーンが繰り返されていたことだった。1週間の放送の間隔があるテレビアニメとしては真っ当ではあるが、映画館で続け様に観ると、テンポの悪さや煩わしさを感じてしまった、というのも正直なところだ。
例えば、Disney+(ディズニープラス)で配信中の「四畳半タイムマシーンブルース」は劇場公開と配信が近い時期に行われており、劇場公開版はOPやスタッフロールを挟まない、独自の編集がされていた。個人的な好みではいえば、『上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』も、こちらと同様の「劇場でかける作品ならではの編集」をしてほしかったのだ。
とはいえ、やはりそれは個人的な好き嫌いの範疇。スタッフロールそのものが演出として機能しているところもあったし、余計な編集やカットをせずに「そのまま」提示してくれたことを感謝するファンもいるはずだ。Aimerによる「遊郭編」の主題歌「残響散歌」がかかるOP映像を、劇場で観られるのも嬉しかった。
映画館で映画を観る観客がさらに増えることを願って……
筆者は映画ファンのひとりとして「鬼滅の刃」に心から感謝していることがある。それは、コロナ禍のために映画館に足を運ぶ人が一時的にいなくなり、客足が以前のように戻るのか何もかもが不明瞭だった2020年10月に『無限列車編』がたくさんの人を映画館へと招いてくれたことだ。
『無限列車編』が映画館の経営そのものを救ったのも間違いないが、さらに重要なのは、特に子どもたちに「映画館を体験する」機会を与えてくれたことだ。彼ら彼女らにとって、タブレットで観るYouTubeが普段観ている映像であり、劇場に足を運ぶことはおろか、映画という娯楽に触れてこなかった可能性もある。前述した通り、大画面や音響、何より「みんなで一緒に観る」場所である映画館の素晴らしさを、初めて知った子どもも多いと思うのだ。
そして、今回の『上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』を観た親子連れの皆さんには、ぜひ他の作品も映画館で観てほしいと心から願う。
例えば、現在公開中の『金の国 水の国』は小学校高学年くらいから楽しめる、優しい物語が紡がれた、スクリーン映えするアニメの美しさも存分に堪能できる作品だ。
今回の『上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』でも、きっと映画館という場所ならではの「体験」を改めて知った子どもや親御さんも多いはず。すでに配信&放送されているテレビアニメの内容を含んでいるからこそ、その比較で「映画館っていいな」とより思えるのではないか。『鬼滅の刃』という作品そのものが、さらに映画館で映画を観る楽しみを拡大させてくれることを、心から願っている。
(文:ヒナタカ)
–{『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』作品情報}–
『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』作品情報
予告編
【キャスト】
竈門炭治郎(かまど・たんじろう):花江夏樹
竈門襧豆子(かまど・ねずこ)※:鬼頭明里
我妻善逸(あがつま・ぜんいつ):下野 紘
嘴平伊之助(はしびら・いのすけ):松岡禎丞
宇髄天元(うずい・てんげん):小西克幸
時透無一郎(ときとう・むいちろう):河西健吾
甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり):花澤香菜
※ 禰?豆子の「禰?」は「ネ+爾」が正しい表記。
【スタッフ】
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島 晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野 学
音楽:梶浦由記、椎名 豪
アニメーション制作:ufotable
公開日:2023年2月3日(金)
配給:東宝・アニプレックス
製作国:日本