2023年が始まってまだ1ヶ月。それなのに、個人的な年間ベスト1映画がほぼほぼ決定する大傑作に出会うとは、夢にも思わなかった。それが2月3日より公開されている『バイオレント・ナイト』である。
まともじゃないのに全方位的に面白すぎる&感動して泣いた!
タイトルやポスタービジュアルを観て「まともなサンタさんの映画じゃないな」と思ったあなたは大正解だ。その理由を箇条書きすると以下である。
- その名の通りのバイオレンスな内容のため堂々のR15+指定
- 溢れ出るブラックユーモアに思い切り笑える
- 二転三転する展開にハラハラドキドキする
- 派手でキレの良いアクションもたっぷり
- まさかの心温まるハートフルな物語まで備えている
そんな素晴らしいエンターテインメントだったのだ。
そして、筆者は中盤のとあるシーンで「バカみたいって思われるかもしれないけど、こんな景色、ずっと見たいと思ってた……子どもの頃からずっと……!」と思って涙がポロポロとこぼれ落ちた(誇張ではなく実話)。「こんな映画いいな」「できたらいいな」と長年思っていた夢を叶えてくれたのだ(後述もするが、まるでドラえもんのように)。
ここからは核心的なネタバレを避けて、『バイオレント・ナイト』の魅力を記していこう。予備知識ゼロのまま観たい方には、「グロありの娯楽作が大好きな方(15歳以上)は絶対に観て」とだけ言っておく。
『ダイ・ハード』的状況に追い込まれるサンタさん(本物)
本作は公式から堂々と“It’s『ダイ・ハード』meets『ホーム・アローン』”と明確に銘打たれている。以下の15秒予告通りの内容なので、百聞は一見にしかず、まずは観てみるのがいいだろう(具体的なシーンを少しでも観たくない方は回避推奨)。
なぜ『ダイ・ハード』なのか、その理由を言語化すると、主人公が建物の中で、武装した犯罪者集団とイヤイヤ戦うという基本のプロットにある。『ダイ・ハード』の舞台は高層ビル内であるが、この『バイオレント・ナイト』の舞台は金持ちの屋敷の中で人質が取られている状態で、より攻略の難易度も高そうだ。
それでいて『ダイ・ハード』と明確に異なるのが、主人公がサンタさん(本物)←ここ重要であるということ。サンタさんの目的はもちろん子どもにプレゼントを届けることなのだが、トナカイがとあるアクシデントのため勝手にいなくなってしまうため、仕方なく武装した犯罪集団とのバトルを余儀なくされる、というわけだ。
まさかのドラえもん的発想のバトル!
そのサンタさんは初めこそ弱そうだし頼りない、ということもハラハラさせる。だが、彼には普通の人間にはない武器もある。それは「プレゼントを出せる大きな袋」だ。その中は異次元空間(?)か何かにつながっていて、サンタさんはそこからたくさんの子どもたちのためのプレゼント、もとい「武器になりそうな何か」を慌てて次々に出して、なんとか応戦しようとするのだ。
この状況から、何かを思い出さないだろうか……? そう、ドラえもんがピンチの時に四次元ポケットから次々と役に立たないものを間違って出し続け、ようやく「あった〜!」と役に立つ未来道具を出す、それである。ただし、ドラえもんと違って『バイオレント・ナイト』のサンタさんが袋から最終的に出すものは、子どもへのプレゼントの中でマジもんの凶器になるものである。それを出すまでのサンタさん「悪態」が実に笑えるので、ぜひ楽しみにしてほしい。
そして、そのサンタさん自身、別に戦闘力が皆無というわけでもない。彼にはとある「過去」があり、そして……その「瞬間」に、筆者は泣いた。その感動の理由には、『ブレット・トレイン』や『Mr.ノーバディ』などを手がけた製作集団「87ノース・プロダクションズ」だからこその「アクションのキレと躍動感」があったことも間違いない。
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–{『ホーム・アローン』履修済みの少女と協力する!}–
『ホーム・アローン』履修済みの少女と協力する!
さらに『ダイ・ハード』的要素がもう1つ。それは、主人公が武装した犯罪者集団と基本的には「孤軍奮闘」する一方、無線(トランシーバー)でとある人物と連絡を取り合う点だ。『ダイ・ハード』で連絡するのは警察だったが、この『バイオレント・ナイト』で通じ合うのは、サンタさんが大好きで、その存在を信じている、人質に取られている純粋な少女なのだ。
この2人がどのように間接的に協力し合い、事態の解決に挑んでいくか、ということも見所だが、さらに愉快なのは、この少女が『ホーム・アローン』が大好きだということ。『ホーム・アローン』の内容は言わずもがな、子どもが家にやってきた泥棒を、さまざまな「トラップ」にかけるコメディなのだが……この『バイオレント・ナイト』では、少女がある出来事をきっかけにして犯罪者集団から逃げ出し、そして案の定『ホーム・アローン』から学んだトラップを仕込むことになる。
それがどうなるのか……は観てのお楽しみ、というかR15+指定作品だからこその期待通りの内容になるということだけは告げておこう。思えば、『ホーム・アローン』のトラップには、ガチで死につながりかねないものも、特に『ホーム・アローン2』ではめちゃくちゃエグいこともやっていたではないか。むしろ、『ホーム・アローン』みたいなトラップを本当に仕掛けたらガチで残酷なことになるからやっちゃダメという正しい教訓も得られるくらいである(※ただし子どもは観てはいけません)。
そして、少女がサンタさんを心から「信じている」ことも物語に深く関わり、そして後述する物語の感動にもつながってくる。サンタさん(本物)が主人公かつ、『ダイ・ハード』と『ホーム・アローン』が悪魔合体した必然性が確かにあるのだ。
また、(言うまでもないが)この『バイオレント・ナイト』は『ダイ・ハード』と『ホーム・アローン』を観ていなくても全く問題なく楽しめる。めちゃくちゃ面白い映画2つが合体してサンタさん(本物)が加わったらめちゃくちゃ面白い映画ができたという前提だけで観るのもOKである。
かつてサンタさんを信じていた大人に送る、まさかの感動!
ここまで書くと、エンタメ重視で中身のない内容かと思われるかもしれないが、そんなことはない。筆者は「子どもの頃から思い描いていた光景」を観た時点で泣いたと前述したが、終盤の真っ当すぎるほどに真っ当な感動的な展開にも涙したのだから。
もちろん具体的な感動の理由はネタバレになるので避けるが、そもそもの初めこそやさぐれていたサンタさん(本物)が、自分を信じてくれる少女のために一生懸命に戦うという基本のプロットにもグッと来る。ファーストシーンのやさぐれ具合には笑ってしまうが、同時に「サンタさんだってそういう愚痴を言いたくもなるわな……」と同情をしたくなったし、だからこそサンタさんさんが大好きな少女との刹那的な友情、その純粋さにも泣かされるのである。
加えて、敵の大ボスが「スクルージ」という、『クリスマス・キャロル』の主人公の名前であることも意味深だ。『クリスマス・キャロル』におけるスクルージは守銭奴で、冷酷で、人間の愛情などと無縁の日々を送る悲しい初老の男だが、この『バイオレント・ナイト』のスクルージには……違う理由で同情してしまう方もきっといるだろう。ちなみにスクルージを演じたジョン・レグイザモは『ダイ・ハード2』に出演している。
そして、本作は「信じること」の素晴らしさを説いているとも言える。映画に限らず創作物は、「こうだったら」という夢を形にしてくれる素晴らしいもの。この『バイオレント・ナイト』は物語上でもかつてサンタさんを信じていた大人に送る最高のプレゼントだ。サンタさんが少女のため、自分をナメまくっていた武装した犯罪集団をボッコボコにする夢を叶えてくれてもいいじゃないか。映画だもの。
–{さらに『ダイ・ハード』とシンクロしているポイントも?}–
撮る映画が全て面白いトミー・ウィルコラという監督の名前を覚えて帰ってね!
ここで、この『バイオレント・ナイト』の監督・脚本を手がけたノルウェー出身のトミー・ウィルコラという名前を推しておきたい。撮る映画全部が面白いという奇跡のようなお方であり、そこには明確に作家性があるのである。一挙に紹介しよう。
『処刑山 デッド・スノウ』
雪山に来た8人に大学生が、凍土の中から復活したナチス兵のゾンビ軍団に襲われる、昔ながらの由緒正しきスプラッターホラー映画……と思いきや、なかなかに意外な展開も待ち受ける。やや陰惨なムードがありグロマシマシだが笑えるシーンもある。「海へ行けばよかった!」はあまりに名言。
『ヘンゼル & グレーテル』
誰もが知る童話をグロありファンタジーアクションへとリメイク。劇中に細い針金に突っこんだ魔女がサイコロステーキ先輩(by『鬼滅の刃』)になるシーンがあり、『鋼の錬金術師』の作者である荒川弘は、そのシーンを観た息子に「牧場にも細い針金がいっぱいあるから気をつけるんだよ!」と教えていた(参考:『百姓貴族』の4巻)。
『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』
『処刑山 デッド・スノウ』の続編だが、こちらからでも問題なく楽しめる、超グレードアップした続編。途中から参戦するのが「ゾンビオタクの女性2人男性1人」というトリオで、その内1人は『スター・ウォーズ』オタクだったりもする。この手の映画に厳しい印象があるFilmarksでも4.0点のハイスコアを記録するなど絶賛の嵐。『バイオレント・ナイト』以外ではイチオシ。
『セブン・シスターズ』
「徹底された1人っ子政策の中、7つ子が1日ごとに入れ替わって生きる」という設定で、娯楽性が高いSFサスペンスを求める方にうってつけ。ノオミ・ラパスが7つ子の姉妹を1人7役で演じている。トミー・ウィルコラ監督作の中ではコメディ要素が控えめ。なお、後に公開された中村倫也主演映画『水曜日が消えた』に似ているという指摘もあったが、実際に両者を観てみるとあまり似ていない。
『ザ・トリップ』
Netflixオリジナル作品。倦怠期を超えて心から憎しみ合っている夫婦のバトル映画。おたが互いに探りを入れながらも、殺(や)る気満々な夫婦のやり取りは滑稽すぎて笑ってしまう。そして、その後はネタバレ厳禁の予想外の方向から、さらなるとんでもない事態になっていく。
と、まあ端的に言って大体の映画が素材はB級&グロありありという、全くもって高尚さと縁遠い映画を撮るお方なのだ。だが、これらの題材を下手に撮ってしまうと安っぽくなったり粗雑になりかねない。トミー・ウィルコラ監督は、むしろ「楽しんでいってね!」と圧倒的なサービス精神でもって、素材をややジャンキーに味付けで、でも超おいしく仕上げてくれる、映画に娯楽を求める観客をおもてなししてくれるので、好感しかないのである。
そして、その最新作にして最高傑作が『バイオレント・ナイト』なのだ。これら過去作品にビビッと来た方は是が非でも観てほしいし、その入門としても『バイオレント・ナイト』はおすすめだ。
クリスマスに観られないのは残念?でも、それも『ダイ・ハード』とシンクロしている!
本作で唯一、残念だと思ってしまうことは、日本ではクリスマスシーズンに本作を劇場で観られないということだろうか(アメリカでの公開日は2022年12月2日)。「クリスマスに子どもたちがサンタさんを心待ちにして、恋人たちが浮かれている今、悪い大人はサンタさん(本物)と少女が、武装した犯罪者集団に逆襲していく映画を観るぜー!YEAHHHH!」というテンションで観られないというのは少しもったない。
だが、実はそれすらもクリスマス映画の代表でもある『ダイ・ハード』と一致していることでもある。何しろ『ダイ・ハード』の日本での公開日は1989年2月4日。2月3日公開の『バイオレント・ナイト』と1日違いなのである。
この公開日を狙ったか否かは定かではないが、「クリスマスにクリスマス映画が観られないけど、それはそれとして映画はめちゃくちゃ面白い!」という33年前に『ダイ・ハード』をリアルタイムで劇場で観た人たちと同じ感覚を味わえると言っても過言ではないではないか。いや過言か?それを信じるか信じないかはあなた次第。ぜひ、ゲラゲラ笑ってハラハラして感動して涙する、最高の映画体験をしてほしい。
(文:ヒナタカ)
–{『バイオレント・ナイト』作品情報}–
『バイオレント・ナイト』作品情報
【あらすじ】
サンタクロース(デヴィッド・ハーバー)は物欲主義な子供たちに嫌気がさし、場末のバーで飲んだくれていたが、良い子にプレゼントを届けるため、トナカイが引くソリで空を駆け回っていた。とある富豪ファミリーが盛大にクリスマスパーティーを開いていた大豪邸に降り立ち、煙突から部屋に入る。そこで鉢合わせたのは、地下の金庫に眠る3億ドルを強奪しようと潜入したスクルージ(ジョン・レグイザモ)率いる武装集団だった。富豪一家を人質に豪邸を支配する彼らを前に、サンタは見て見ぬふりで立ち去ろうとするが、すぐさま大騒動に巻き込まれてしまう。戦闘能力ゼロのサンタは、無我夢中で近くにあったクリスマスオーナメントを駆使して反撃に出る。はたしてサンタは人質を救い出し、無事にプレゼントを届けることはできるのか……?
【予告編】
【基本情報】
出演:デヴィッド・ハーバー/ジョン・レグイザモ/アレックス・ハッセル/アレクシス・ラウダー/ビヴァリー・ダンジェロ ほか
監督:トミー・ウィルコラ
上映時間:112分
配給:東宝東和
映倫:R15+
ジャンル:バイオレンス/アクション
製作国:アメリカ