<大奥>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

国内ドラマ

よしながふみ原作の連続ドラマ「大奥」(NHK総合)が2023年1月10日よりスタート。

3代将軍・家光の時代から大政奉還に至るまで、奇病により男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描く本作には、冨永愛、中島裕翔、堀田真由、福士蒼汰、風間俊介、斉藤由貴らが名を連ねる。

CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。

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もくじ

・第1話ストーリー&レビュー

・第2話ストーリー&レビュー

・第3話ストーリー&レビュー

・第4話ストーリー&レビュー

・第5話ストーリー&レビュー

・第6話ストーリー&レビュー

・第7話ストーリー&レビュー

・第8話ストーリー&レビュー

・第9話ストーリー&レビュー

・「大奥」作品情報

第1話ストーリー&レビュー

第1話のストーリー

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若い男にのみ感染し、致死率80%に及ぶ奇病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が蔓延し、男の数が激減した江戸時代。男子の多くが、種馬としての人生を送っていた。一方、女は労働を担い、将軍職も女へと引き継がれていた。そんな中、貧乏な旗本の息子・水野祐之進(中島裕翔)は、幼馴染・信(白石聖)との結婚を諦めようと、大奥入りを決意。そこで、8代将軍・徳川吉宗(冨永愛)から最初に声がかかるのだが…。

第1話のレビュー

女将軍・徳川吉宗が存在している!

……と、思わず感動してしまった。よしながふみの大ヒット漫画を映像化したNHKドラマ10「大奥」。1月10日に放送された初回の放送は想像以上の出来で原作ファンを唸らせた。

本作は、若い男子のみが感染する奇病・赤面疱瘡の蔓延により、男性の人口が著しく減少。家光以降の将軍職も含め、あらゆる家業が女性から女性へと受け継がれるようになり、男性は“子種”として宝のように大事にされる江戸パラレルワールドを描くSF時代劇となっている。

物語の舞台になるのは、女将軍のために美男三千人が集うとされる「大奥」だ。原作通り、第1話は貧しい旗本の子息である水野祐之進(中島裕翔)が幼なじみ・信(白石聖)への身分違いの恋を断ち切るために、大奥入りを果たすところから始まる。水野はそこで、8代将軍の吉宗(冨永愛)に見初められるのだった。

原作は家光編、吉宗編、綱吉編といった風に、将軍が変わるたびに登場人物や物語に漂う雰囲気にもまた変化が少しずつ生じてくるが、中でも比較的平和で、ハッピーな結末を迎えるのがこの「8代・徳川吉宗×水野祐之進 編」だろう。

いわば、「男女逆転の大奥」という世界観をのぞきに来た人たちを容赦なく沼に引きずり落とすプロローグ的なエピソードとなっている。ここで外したら、視聴者が一気に離れていく可能性もあったが、キャスティングの妙により初回からガッチリ心を掴んだ。

今回は一巻をまるごと映像化した形になるが、おおよそシナリオは原作をそのままなぞっていく。大奥に入った後、将軍への謁見が叶わぬ御目見以下の中でも最も位の高い役職に就いた水野。何もわからず戸惑う彼の味方になってくれるのが、大奥で仕えて10年以上のベテラン・杉下(風間俊介)だ。

まだ俗世に染まりっていない若さみなぎる水野と、そんな彼を時折からかう、憂いを帯びた大人の男性だが遊び心もある杉下。まるで弟と兄のような関係を築いていく二人のやりとりが軽妙で心地が良い。

原作ではその後、こじらせ美男子の鶴岡と剣を交えた水野が、大奥の陰湿さを嘆く場面がある。しかし、そのエピソードは丸ごと省き、副島をはじめとした意地悪な古参たちはいるものの、物語全体が平和なムードに包まれた。

これによって、吉宗にとって初めての夜伽相手・ご内証の方に選ばれ、結果死罪を命ぜられる水野の青天の霹靂ごとき衝撃が強調されていたように思う。

また、「ご内証の方は打ち首になる」という事実が伏せられたまま、吉宗と水野が床を共にするのもドラマならではの演出。原作だと、ここで吉宗は水野の最後の願いを叶え、自身を幼馴染の名で呼ぶことを了承する。自分が夜伽相手に選んでしまったばかりに辛い思いをさせてしまう水野への申し訳なさが強調されるので、吉宗が水野に対して恋愛感情を抱いているか否かについてはわからなかった。

しかし、今回は吉宗がかなり水野を気に入っていることが伝わってくる。

吉宗役の冨永愛はキャスティングが発表された当初から「イメージ通り」と原作ファンから好評だったが、その寄せられる大きな期待に答えた。原作の吉宗に違わぬ威厳とオーラ。その上、冨永が演じることで吉宗の色気や無邪気な可愛らしさなどが引き出される。

特に水野に対して「私は着物や化粧に興味はないが、男に興味がないわけではないぞ」「今日からそなたは私の男じゃ」と吉宗が迫るシーンは悶えた。

だが、それほどまでにお気に入りの水野を吉宗は潔く手放す。死んだことにして幼馴染のもとに返してやるのだ。なんともいじらしい。そんな心優しき吉宗だが、大奥を取り締まる御年寄筆頭・藤波(片岡愛之助)にはちょいと灸を据える。

35歳以下の見目麗しい男子たちに暇を出す吉宗。「使わぬ種を囲い込む。この贅沢こそが上様のご威光」と杉下は水野に語ったが、そのようなものは吉宗に必要はない。幕府の財政再建のため、男子たちに外の世界で幸せを掴ませるため、吉宗は英断を下した。

抵抗する藤波に「黙りゃ!このたぬきじじい!」と一蹴する吉宗のかっこよさたるや。片岡愛之助が演じているにもかかわらず、藤波が小物に見えてしまうほど。

その後、怒りに狂う藤波に吉宗の片腕・加納久通(貫地谷しほり)が冷静な対応を見せる場面も原作のイメージ通り。柔らかい雰囲気を纏っているにも関わらず、実はとんだくせ者である久通もまた貫地谷しほりにしか演じこなせない。

原作ファンとしては、キャスティング担当者に金一封を贈りたいほどの感動がそこにあった。これは今後の家光・綱吉編も大いに期待できるのではなかろうか。

※この記事は「大奥」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第2話ストーリー&レビュー}–

第2話ストーリー&レビュー

第2話のストーリー

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謎の奇病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が流行り始めた頃、3代将軍・徳川家光が死亡。家光の乳母である春日局(斉藤由貴)は、将軍の死を隠そうと、実の息子である稲葉正勝にあることを告げる。その6年後、美しき僧・万里小路有功(福士蒼汰)は、継目祝いで訪れた江戸城で、春日局から無理やり還俗を迫られ大奥入りをすることに。有功がそこで出会った将軍・家光(堀田真由)は、なんと少女であった…

第2話のレビュー

奇病で男性の数が著しく少ない世の中で、贅沢に数百人もの美男子たちを侍らす「大奥」はなぜ生まれたのか。8代将軍・吉宗(冨永愛)は、その成り立ちからすべての出来事が記された日記「没日録」の存在にたどり着く。

そこには、徳川幕府の権威を保ち、ひいては平和な世を継続するために犠牲となった男女の恋物語があった。

ことは、“本来の”3代将軍・家光が赤面疱瘡で命を落したことに始まる。しかし、その死は家光の乳母である春日局(斉藤由貴)によって揉み消され、家光の血を唯一引く少女を家光の身代わりとして生活させることになった。

そして、その6年後、継目祝いで江戸城を訪れた僧侶の万里小路有功(福士蒼汰)が春日局に無理やり還俗させられる。のちに大奥入りを果たした有功が対面した将軍の家光(堀田真由)こそ、身代わり生活を強いられた少女だった。

男女逆転の大奥はなぜ生まれたのか。有功がなぜその大奥に連れてこられたのか。その答えが、春日局の何気ない台詞に詰まっている。それは、口答えした有功を何度も打ったせいで家光の扇子が壊れた時のこと。

春日局は家光に「どうぞ、こちらからお気に召すものをお選び下さいませ」と何本もの扇子を差し出す。いわば、大奥に囲った美男子たちは彼女にとって“扇子”なのだ。家光に子を成してもらうために、家光の好みに合いそうな美男子を手当たり次第に集めただけのこと。誰もが見惚れる美しい有功もまた、そのために連れてこられた。

第2話も前回同様、原作にある細かいエピソードは省かれているが、それによってストーリーの重厚さは失われていない。森下佳子の脚本は上記のように何気ない台詞や場面で足りない部分を補いながら、物語の世界観と人物像を観る人にわかりやすく説明する。

また、トントンと展開が足早に進んでいても、それを感じさせないほど濃密な役者陣の演技も素晴らしい。まず有功役の福士蒼汰が想像以上にはまっている。弱き者のために尽くし、決して悪意に屈しない人格者たる有功の器を抑えた演技で見事に体現した。

一方、堀田はまだ幼くも、運命に翻弄された家光の喜怒哀楽をまっすぐに表現する。どうしようもない憤りを有功にぶつけるのは、ひと目見ただけの彼に他の大人たちとは違う何かを感じたからではないだろうか。有功を気にかけていることが刺々しい態度の中にも伝わってくる家光は可愛らしくもある。二人がこれから心を通わせていくのを見るのが早くも楽しみで仕方がない。

原作ではかなりお年を召している春日局だが、斉藤由貴の変わらぬ美しさがより春日局の恐ろしさを際立てている。そして、斎藤の代名詞でもある怪演がまたこのドラマを成功に導いた。家光の死を隠すために御匙を自ら手にかける場面や、有功に死して魂となることが唯一大奥から出られる方法であることを伝える場面。ゾッとするほどの恐ろしさはありながら、戦乱の世を生きてきたからこそ、何としてでも徳川の世を守ろうとする春日局の矜持をも感じさせられる凄味に心を取られた。

吉宗編もそうだったが、メインキャストはもちろんのこと、その脇を固める役者たちのキャスティングにも一切手を抜いていない。母親である春日局の手となり足となる息子の稲葉正勝役を務める眞島秀和、心の奥底が読めない村瀬正資を演じる岡山天音と石橋蓮司らも前回の貫地谷しほり、風間俊介、片岡愛之助らに続く、安定した芝居で作品を支える。

一方で、玉栄役の奥智哉をはじめとした若手キャストの活躍にも期待したいところ。これだけ密度の高い一時間を毎週届けられるNHKの力を感じずにはいられない。

※この記事は「大奥」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第3話ストーリー&レビュー}–

第3話ストーリー&レビュー

第3話のストーリー

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有功(福士蒼汰)は、家光(堀田真由)から贈られた猫に『若紫』と名付ける。若紫の存在で家光と有功の距離は次第に縮まっていく。一方で、有功の部屋子・玉栄は有功のことを良く思わない者たちから嫌がらせを受け始める。有功もまた玉栄の変わった様子が気がかりになっていく。そんな中、有功と家光を繋ぐ若紫を巻き込んだある事件が起こってしまうのであった…

第3話のレビュー

<凍え雛 一羽身を寄せ 坊主雛 千の恵や 功有らんと願ふ>

原作にはないオリジナルの和歌をラストに入れ込んだ脚本家・森下佳子。そこに至るまでの展開も見事で、「大奥」第3話はその鮮やかな構成力に唸らされっぱなしだった。

亡き父・家光の身代わりとして生きている千恵(以下、家光/堀田真由)と、春日局(斉藤由貴)に無理やり還俗させられた元僧侶の有功(福士蒼汰)の出会いが描かれた前回。本来の人生を奪われたもの同士、何か感じるものがあるのか、家光は有功に一匹の猫を与えた。

その猫に有功は『源氏物語』に因み、“若紫”と名をつける。ここまで原作と流れはほぼ同じだったが、脚本家の森下はこの『源氏物語』をドラマでさらに膨らませていく。

なぜ猫に若紫という名をつけたのかという会話の中で明らかになるのは、家光が『源氏物語』を知らないという事実。江戸時代には広く知られるようになったこの物語を身代わりとはいえ、将軍である家光が知らないとはどういうことか。

それは、家光が江戸城に入ってから十分な教育を受けていないことを意味しているように思えた。徳川の血を引く子供を成すためだけに連れてこられた家光もとい千恵。その瞳は常に悲しみの色に染まっており、いつ爆発するやもしれぬ怒りを抱えている。

だが、有功といる時は、その悲しみや怒りが少しだけ小さくなっているような気がした。それ自体が喜ばしいことであるのに、春日局にとって家光が抱えている傷など、子を持てば治ると思っている。亡き家光の身代わりとはいえ、子供の頃から見てきた彼女に対しての愛情が一切感じられないことが悲しかった。

しかも、春日局は光源氏のように歌を詠み、家光の心を掴むよう有功にアドバイスをする。あろうことか、春日局は『源氏物語』で描かれる恋物語に家光は憧れていると思っていたのだ。

しかし、家光本人が言うように、彼女は光源氏を求める女たちの気持ちに共感できない。家光の気持ちなど御構い無しに周りが子を産むよう、どうにか本人を動かせようとしている。そのことが、『源氏物語』という“小道具”を使うことでより強調された。

女性としての人生を奪われ、男性の格好をさせられている家光。にもかかわらず、子を成せと言われる家光の「女の腹だけは貸せと言う」という台詞に脳天を撃ち抜かれたような気がした。これまで、彼女を子を産む機械、道具ではなく、ひとりの人間として大切にしてくれる人はいなかったのだ。

そこにようやく現れたのが、有功だった。家光の過去を全て知った有功の行動があまりに素敵すぎる。有功は家光に女性モノの打掛を羽織らせ、「千恵」という元の名で呼びかけるのだ。それは家光にひとりの女性として、またひとりの人間としての尊厳を再び与えたことに他ならない。

この時、有功は冒頭の和歌を家光に送った。猫である“若紫”の由来になった『源氏物語』が何段階も活用され、ここに集約される展開に鳥肌が立つ。

ちなみに原作では、「それは二羽の傷付き凍えた雛が互いに身を寄せ合うように始まった恋であった」というモノローグが抱き合う二人のシーンに添えられている。和歌はそのモノローグから創作されたものであろう。この粋な演出と、家光の子供のように泣きじゃくる姿、そしてそんな家光に慈愛に満ちた眼差しを送る有功の姿に涙が止まらなかった。

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–{第4話ストーリー&レビュー}–

第4話ストーリー&レビュー

第4話のストーリー

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思いを寄せ合い始めた有功(福士蒼汰)と家光(堀田真由)。しかし有功は春日局(斉藤由貴)からとある宣告を受ける。そして春日局は新しい家光の相手候補・捨蔵を大奥に呼び寄せてしまった。一方、有功から報告を受けた家光は、激しく取り乱すも、しばらくして、家光は捨蔵との子・千代姫を出産。母となった家光は、ある決断を行うのであった…

第4話のレビュー

かつて、こんなに心揺さぶる悪役がいただろうか。春日局に扮する斉藤由貴の名演は、きっとこの先も人々の心に残り続ける。

NHKドラマ10「大奥」第4話のテーマは“変化”だった。新型コロナウイルスのパンデミックにより世界が一変するのを目の当たりにした私たちは知っている。人は良くも悪くも変わってゆける生き物だということを。

だからこそ、村瀬(石橋蓮司)が吉宗(冨永愛)に語る「若者は大人になり、世は移り変わっていきます。けれど一方で、その流れから取り残される者が出てくるものです」という言葉に深く頷ける。3代将軍・家光の時代にも、時代の変化に順応する者と、その流れに取り残される者がいた。

愛する有功(福士蒼汰)との間に子どもができず、春日局にあてがわれた新しい夜伽の相手との間に姫君をもうけた、“家光”こと千恵(堀田真由)。彼女は娘という守るべき存在ができたことで、その娘が生きる国の情勢にも目を向け、積極的に政を治めるようになる。

この頃には赤面疱瘡で男子の人口がかなり減少しており、多くの女性が男性に代わり、家業を継いでいた。しかし、依然として武家においては女性が家督を継ぐことは許されていない。

それは女性に戦働きはできないとする春日の意向であったが、千恵だけではなく春日の実の息子・正勝(眞島秀和)や他の御中臈たちも、戦乱の世が再び起こりうる可能性は低く、時代に応じた制度改革が必要だと気づき始めている。

千恵や有功の人生を奪っただけではなく、愛し合う二人の仲を切り裂いた憎き存在ではあるが、時代についていけず大奥の中で孤立していく彼女の姿は少々いたたまれない。

そんな中、春日は病に倒れ、その看病をお褥すべりとなった有功が見ることに。有功は千恵が母となり、より麗しくなっていく姿を日々目にしながら、壊れそうな心を僧侶だった頃のように人に尽くすことで何とか持ちこたえていた。そこで思わぬ春日の過去を知る有功。

織田信長を裏切った明智光秀に仕えた斎藤利三の娘として、命を狙われる身だった春日は、いつ殺されるかも分からぬ戦乱の世を終わらせてくれた徳川家康に心から感謝している。だからこそ、徳川の威光を示し続け、ひいては家康が作ってくれた平和な世を守るためなら手段は選ばなかった。

「鬼でもなければ平気なはずはございますまい」という有功の言葉が、人の心に寄り添う姿勢が、春日の被らずにはいられなかった鬼の仮面を剥いでいく。

「あの日、わしは仏をさらってきたのじゃ。間違いばかりのババであったかもしれぬ。じゃが、そなたには気の毒であった。じゃが、そなたをさらったことだけは間違いではなかった」

原作にはない、春日の台詞が心の一番柔らかい部分に触れる。そして、有功に「どうか世が滅びるその日まで上様と共にいて下され」と懇願する春日の穏やかな表情は仏のようで、また千恵を実子のように思う母のようで涙が止まらなかった。

千恵は誰かに守られる側から誰かを守る側になり、以前よりも強くなった。いつか滅びゆこうとも、愛するものたちが存在する世を守るため。春日も同じだったのだろう。やり方は間違っていたとしても、正勝のことも、千恵のことも彼女は鬼になることで愛し抜いた。

斉藤由貴がこんなにも憎くて愛おしい春日を作り上げたくれたことに感謝しかない。

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–{第5話ストーリー&レビュー}–

第5話ストーリー&レビュー

第5話のストーリー

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嫉妬に苦しむ有功(福士蒼汰)は、家光(堀田真由)にある訴えをする。有功の気持ちを知った家光は、有功にとある役目を授ける。そして、時は流れ―5代・徳川綱吉(仲里依紗)の時代。綱吉は奔放な将軍で、大奥だけに留まらず城の外でも男を漁るほど。そんな中でも綱吉との間に子を持てずにいた御台が大奥に呼び込んだのは、大奥中が噂をするほどの美青年・右衛門佐(山本耕史)で…

第5話のレビュー

徳川の世を存続させるべく、将軍の後継を産み育てる場所として築かれた大奥。誰が上様の寵愛を受けて将軍の父となり、誰が権力を握るのか。そこには、嫉妬、羨望、孤独がつきものである。

「その思いに寄り添い、渇きを癒し、涙を洗い、時に四季を映し、慰める。水の流れのようにここにありたいと望んでいる」

大奥で生きる男たちに、そう宣言する有功(福士蒼汰)の背中には流水紋。この場所で喜びも悲しみも味わった有功だからこその決意が裃に流し入れたその模様をより一層輝かせる。

「大奥」第5話において、「三代将軍家光・万里小路有功編」が終幕。あまりにも美しいラストの余韻から抜け出せぬまま、続く「五代将軍綱吉・右衛門佐編」もスタートとなった。

「どうか世が滅びるその日まで上様と共にいて下され」という春日局(斉藤由貴)の遺言を守るため、有功は2つのことを決意する。

一つは、お付きの小僧・玉栄(奥智哉)を家光(堀田真由)の夜伽の相手に据えること。それは嫉妬に苦しむ有功が、「玉栄の子ならば我が子として可愛がれるかもしれない」と考えて出した苦渋の決断だった。

結果、玉栄と家光の間にはのちに5代将軍・綱吉(仲里依紗)となる徳子が生まれる。お玉の方と名付けられた玉栄と以外にも、すでに赤面疱瘡で亡くなったお楽の方(濱尾ノリタカ)、お夏の方(押田岳)との間にもそれぞれ子をもうけた家光。

これでようやく家光は誰にも文句を言われずに有功と愛を育めるはずだったが、二人は身体ではなく心で結ばれることを選んだ。「どうか男と女のこの恐ろしい業からわたくしを解き放ってくださいませ」という有功の願いを聞き入れ、家光は有功を夜伽の相手ではなく、新たに大奥総取締という春日が担っていた役目を授ける。

どんなにそばにいようとも触れることは叶わない。それは寂しくもあり、苦しくもあっただろう。しかし、だからこそ、二人の間には駆け引きなど必要のない美しい愛だけが残った。

家光がこの世を去る瞬間、有功はもう一度「千恵様」と呼びかける。奪われた自らの人生を、尊厳を、二人はともに取り返したのだ。運命に翻弄され続けた有功と千恵の激しい感情の波を体現した堀田真由と福士蒼汰。本作が二人の代表作として語り継がれることは間違いない。

そして、完全にロスに陥ると思われた家光編のラストから、ガラリとイメージを変えて始まったのが綱吉編だ。原作では、“さようせい様”と呼ばれた4代家綱はナレーションベースで語られ、最も江戸が華やいだ仲里依紗演じる綱吉の時代が訪れる。

玉栄は僧から言われた通りに将軍の父となり、桂昌院(竜雷太)として大奥で幅を利かせていた。綱吉の正室は公家出身の鷹司信平(本多力)だが、桂昌院とはソリが合わない。代わりに桂昌院が味方するのが、側室である伝兵衛、通称“お伝の方”(徳重聡)だ。

驚くべきは、玉栄の変わりぶり。今時の言い方ではあるが、あらゆるハラスメントを網羅した俗まみれの爺を竜雷太がじっとりと演じる。そんな桂昌院と身体の関係を持つのが、綱吉の側用人・柳沢吉保(倉科カナ)。一挙手一投足から伝わるあまりの艶かしさに一瞬何を見せられているのかわからなくなる。

そんな二人を差し置いて、“当代一の色狂い”とされるのが綱吉だ。大奥の男たちに飽き飽きしている綱吉は、腹心である牧野成貞(内田慈)の夫・阿久里(吉沢悠)にも手をつける。阿久里がのちに死亡した理由を、「生を吸い尽くされて」と吉宗(冨永愛)に説明する村瀬(石橋蓮司)に思わず笑ってしまった。

そもそも、綱吉に牧野邸を訪れさせたのは吉保の差し金。成貞を排除するためだ。そんな人々の思惑と欲望にまみれた大奥に足を踏み入れた、美青年・右衛門佐(山本耕史)もまた負けず劣らずの曲者のようで……。

将軍が変わるたびに、雰囲気から何まで様変わりする「大奥」から目が離せない。

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–{第6話ストーリー&レビュー}–

第6話ストーリー&レビュー

第6話のストーリー

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綱吉(仲里依紗)は桂昌院(竜雷太)の反対を押し切り、右衛門佐(山本耕史)を側室候補にしようとする。しかし、右衛門佐はとある理由から、綱吉への忠義を示すことのできる役目を懇願する。一方、側用人・柳沢吉保(倉科カナ)と桂昌院は、綱吉が気にかける右衛門佐をなんとか失脚させようと、あらゆる手を尽くし…。そんな折、綱吉の一人娘・松姫に悲劇が襲い、綱吉の人生の歯車が狂い始めていく。

第6話のレビュー

ドラマ「大奥」にて、NHKで初めてインティマシー・コーディネーターが導入されたというニュースが目に入った。

インティマシー・コーディネーターとは映画やドラマの現場で性的なシーンの撮影が行われる際に演じる俳優の身体的・精神的なサポートを担う専門職だ。ドラマ「エルピス ー希望、あるいは災いー」(カンテレ・フジテレビ系)や映画「エゴイスト」などの話題作で導入されたことがあって、一気に知名度が広がりつつある。

現場のスタッフのみならず、画面の前にいる不特定多数の人に自分の肌をさらけ出す。本来、それは誰かのサポートを必要とするくらい心に負担がかかること。慎重にならなければいけないが、先週から始まった「五代将軍綱吉・右衛門佐編」は過激なシーンが多い。

“当代一の色狂い”とされる五代将軍綱吉(仲里依紗)の時代を描く上で避けられないことなのだろうとボンヤリ思っていたが、明確な意思を持って制作陣も俳優もその撮影に挑んでいることがラストのシーンで分かった。

御台所・鷹司信平(本多力)との間にはなかなか子ができず、“お伝の方”こと側室の伝兵衛(徳重聡)と一人娘の松姫をもうけた綱吉。だが、松姫は身体が弱く、跡目争いは終わらない。将軍の父という座を手にするため、もしくはその存在を擁立し、実質的な権力をものにするために男たちは水面下で矛を交える。

そこに、新たに参戦したのが、信平が京から呼び寄せた公家出身の右衛門佐(山本耕史)だ。信平は右衛門佐を綱吉の側室に据えるつもりであったが、彼は将軍と褥をともにする相手としてはすでに年齢が行き過ぎていた。

代わりに右衛門佐は綱吉に、有功(福士蒼汰)以来、長らく空席となっていた“大奥総取締”のポストをねだる。右衛門佐は見た目もよく学もある。だが、公家といっても貧しい家庭に育った彼はこれまで“種付け馬”として生きるしかなかった。だからこそ、“人として”確かな力を得ることに飢えている。

そんな右衛門佐に綱吉は望む地位を与えた。父・桂昌院(竜雷太)にも「曲者」と言わしめる男に興味を持ったのもあるだろうが、その心はもっと複雑であったのではないか。

自らが持つ価値を異性に選ばれるためだけのモノとして利用されてきた右衛門佐への共感。そこから脱し、己の力をのびのびと試せる右衛門佐への嫉妬。その存在は松姫が亡くなり、再び毎夜男たちと褥をともにしなければならなくなった綱吉の心をより苦しめる。

世継ぎを生むという将軍としての天命を全うするまで、どんな時も男たちを抱き続ける。しかも、右衛門佐たちが聞き耳をたてる寝所で。

インティマシー・コーディネーターを導入しても描きたかった複数のベッドシーン。そして、目の前で男二人に愛し合うことを強要した自身の行動を咎める右衛門佐に、綱吉が自虐的に放つ「そうか、これは辱めであったか」という台詞。その全てが綱吉から奪われ続けてきた尊厳を強調させる。

ただシーンを過激にするのではなく、演じる俳優や見る人にも配慮しながら原作者のよしながふみが伝えたいメッセージをより濃く映し出す丁寧な制作にほとほと感心させられる。

※この記事は「大奥」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第7話ストーリー&レビュー}–

第7話ストーリー&レビュー

第7話のストーリー

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右衛門佐(山本耕史)は、綱吉(仲里依紗)が松姫を失った悲しみを隠し、これまでにないほどの奔放なふるまいをしていたことを知る。それでもなお桂昌院(竜雷太)から世継ぎを生むことを求められ、父の願いを懸命に応えようとする綱吉。江戸市中では赤穂事件や生類憐みの令も手伝って評判が下落し、善政をしけず世継ぎも作れない自分はなぜ生きているのかと慟哭(どうこく)する彼女を、大奥総取締・右衛門佐は優しく抱きしめる。

第7話のレビュー

「みな上様に恋をしているのでござります」

右衛門佐(山本耕史)が綱吉(仲里依紗)と褥をともにする男たちに言わせていた台詞を、こうも上手く使うとは。

右衛門佐、信平(本多力)、伝兵衛(徳重聡)、そして吉保(倉科カナ)。綱吉は「大奥」史上最も多くの人から寵愛を受けた将軍と言っても過言ではない。しかし、皮肉なことに、本人はずっと欲得なしに自分を愛してくれるのは父・桂昌院(竜雷太)だけだと思い込んでいた。桂昌院こそ、誰より己が望みのために綱吉を利用した人物だというのに。

桂昌院が敬愛する有功(福士蒼汰)は家光(堀田真由)との間に子をもうけることができなかった。しかし、世継ぎを生み、徳川の世を存続させるという将軍の役目を果たそうとする家光のため、有功は苦渋の決断を下す。玉栄(奥智哉/のちの桂昌院)と家光の間にできた子ならば、自分の子のように可愛がれる。そう思った「代わりに上様との子をなしてくれ」という有功の切なる願いは、悲しくも呪いになってしまった。

有功もまさか、自分の願いが愛する家光の子を苦しめることになるとは思いも寄らなかっただろう。桂昌院は有功を散々苦しめた徳川の血を繋ぐ将軍の使命を愛すべき娘に強いた。徳川御三家の子女を養子として迎える選択肢もあったが、もはや誰も望んでいないのに桂昌院だけが有功の願いを曲解し、貫こうとしたのだ。彼もまた春日局(斉藤由貴)と同じく、時代に取り残された悲しい人である。

春日局は力技で有功や家光を支配したが、桂昌院は綱吉を精神的な支配下に置いた。将軍の役目は子を成すことであり、そのためには男たちを虜にする器量と愛嬌が必要であると刷り込んだ。その呪いから綱吉を解放してくれたのが、のちに吉宗となる紀州徳川家の二代目藩主・徳川光貞の三女・信(清水香帆)と右衛門佐である。

地味な着物を身にまとい、自分には櫛も簪も必要ないと言う信。だが、聡明で家臣思いの彼女が人に愛されるために必ずしも美しさは必要ではないと教えてくれた。その強さは綱吉にとって、間違いなく希望になったであろう。一方で、自分が持てなかった強さを突きつけられることとなった。

どんなに己を苦しめた存在であろうとも、父を裏切ることはできない綱吉。賢さだけではない、優しさも兼ね備えた彼女の泣くように笑う姿が切ない。自信たっぷりに見えて、その実誰よりも脆さを抱えている。だが、将軍としてその脆さを必死で隠そうとする強さ。そこから溢れ出る聡明さと色気に右衛門佐も、信平も、伝兵衛も、吉保もが惹かれたのではないだろうか。

欲得抜きに自分を愛してくれる人がいると気づかせてくれたのは右衛門佐だ。年を重ね、子を成すという役目から解放されてようやく二人は結ばれた。寝所の様子は映さない。その場所での時間は愛する二人だけのものだから。

その後まもなく右衛門佐は急死。綱吉が嫉妬に狂った吉保に殺されるというラストは悲しいものであった。しかし、吉保の「佐には会えましたか?」という語りかけだけは妙に心地いい。綱吉はようやく苦しみから解放され、あの世で右衛門佐に会えた。そう思えば、少しだけ救われるような気がする。

※この記事は「大奥」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第8話ストーリー&レビュー}–

第8話ストーリー&レビュー

第8話のストーリー

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時は、8代・徳川吉宗(冨永愛)の時代へ。吉宗は久通(貫地谷しほり)から村瀬(石橋蓮司)の死を知らされる。それと同時に、吉宗が読んでいた『没日録』の続きが紛失。吉宗は村瀬の死と『没日録』の紛失に何か関係があるかもしれないと怪しむ。その一方で、吉宗は苦しむ民の為に「上米の制」や「目安箱」など様々(さまざま)な政策を打ち出し、いよいよ『赤面疱瘡』の解決へ動き出していくのであった。

第8話のレビュー

よしながふみの漫画「大奥」が全編ドラマ化されると聞いて、楽しみだなと思っていたエピソードがいくつかある。その一つが、7代将軍・家継の時代における江島生島事件だ。決して恵まれているとは言い難い容姿ゆえに不遇を強いられてきた江島と人気歌舞伎役者・生島の、ほんのひと時心通わせる瞬間とその後の悲劇に泣いた。江戸時代の「美女と野獣」とも言えるこのエピソードが私は好きで堪らない。

だから誰が江島や生島を演じるのか、密かにワクワクしていたのだが、なんと5代将軍綱吉(仲里依紗)の死去後からすっぽりと話が飛ばされ、8代将軍吉宗(冨永愛)の時代に帰ってきた。え、間部詮房と勝田左京の話とか結構濃い話あるよ?どうやって飛ばすの?と原作ファンは思うに違いない。実は今回の第8話から大幅に改変が加えられている。何が違ったか、解説していきたい。

※以下、ネタバレを含むので、原作未読の方はご注意ください

まず、原作では吉宗の前で突然ポックリ逝った村瀬(岡山天音→石橋蓮司)がおそらく老衰以外の理由で急死した。前回のラストで誰かが何者かに殺害されるシーンがちらりと映ったが、多分村瀬だろう。それに伴い、吉宗が読んでいた『没日録』における綱吉以降の記録が消える。そこに知られては困る内容が書いてあり、誰かが村瀬と『没日録』を同時に葬ったのでは?と怪しむ吉宗。急なサスペンス要素。

これも前回のラストシーンで一瞬映ったが、多分犯人は久通(貫地谷しほり)な気がする。紀州徳川家の二代目藩主・徳川光貞の三女であった吉宗がなぜ将軍の座に就くことができたのか。そこには久通の暗躍があり、それを知られては困ると手を下したのであろう。

のちに久通がこれまでの行いを吉宗に懺悔する場面があるので、その頃にでも紛失した『没日録』の続きが戻ってくるかもしれない。全編ドラマ化と最初に告知していたので、どこかで特別編として6代将軍家宣、7代将軍・家継の時代も放送されるような気がしている。それを楽しみに待とう。

さらに、原作第1巻で早々に退場した水野祐之進、改め町人・進吉(中島裕翔)を再び登場させた。進吉が薬種問屋・田嶋屋に嫁いだという設定を最大限活かし、吉宗が彼に赤面疱瘡に効く薬を探せと命じるオリジナルの展開に。最終的に彼は赤面疱瘡を一人も出していないという村に伝わる「猿の肝」に解決の糸口を見出す。

SNSでは平賀源内と青沼は出ないの?とプチパニックが起きていたが、しっかり公式ホームページのあらすじにも二人の名前が出ているので、多分「猿の肝」で赤面疱瘡は治せないという結論に持っていくのだろう。次のエピソードに繋げる布石だ。

また、原作ではそんなに目立っていなかった大岡越前守忠相(MEGUMI)の活躍を前面に押し出し、吉宗の幕府財政再建に向けた改革をより丁寧に描いた。幕府の収入である米を大名から石高1万石につき、100石を取り立てる代わりに参勤交代の江戸在府期間を1年から半年に短縮した「上米の制」。そして、庶民の声を集めるために行った「目安箱の設置」だ。

そこに、小川笙船(片桐はいり)という江戸の町医者から貧しい者たちは医療を受けることすらできないという意見書が届く。吉宗は早速視察に行き、無料で診察を受けられる「小石川養生所」の設立に奔走するのだった。この笙船も、原作に名前こそ上がっていたものの、姿は映っていなかった。

こうした改変の理由には現代の政治に対する批判的側面も含まれているのだろう。国のため、民のために尽くす者たちの姿は、私腹を肥やした政治家へのアンチテーゼとなる。特に笙船の「人は国の宝だろうに。それとも貧乏人なんか人と思っちゃおられぬのかね」という台詞に批判精神を感じた。

一方で吉宗も完全無欠の将軍ではなく、無意識のうちに大奥の男たちを種馬扱いしていることを悪役的立ち位置にいる藤波(片岡愛之助)に言わせる。「ここにおる者達は皆、上様の種馬にございます。けれど、それをあからさまにしてはあまりにも虚し過ぎる。故にあたかも情の通ったものに彩ってきたのが、ここ大奥にございます」と。かなり真理をついた台詞だ。身体目的なことをあからさまに出す奴らに聞かせてやりたい。

それはさておき、藤波の言葉を受け、どこか自分は人として欠けているのではないかと落ち込む吉宗を「何一つ欠けることがない者など、果たしてこの
世におるのでございましょうか」「ご案じのところは微力ではございますが、私が補ってまいります」とフォローする杉下(風間俊介)、素敵すぎやしないか。

大幅な改変と聞くとなんだかマイナスなイメージがあるけれど、「大奥」の場合はメッセージ性も高まり、さらにキャラクターの魅力も倍増している。さて、私がもう一つ楽しみにしているのが家重と比宮様のエピソード。来週から三浦透子演じる家重が登場となるが、果たして比宮様は出てくるのか。どうか出てほしい。

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–{第9話ストーリー&レビュー}–

第9話ストーリー&レビュー

第9話のストーリー

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吉宗(冨永愛)は、江戸で発生した『赤面疱瘡』に効くかもしれないと、ある物を試してみるが、敗北に終わる。この一件に責任を感じた水野(中島裕翔)からの訴えで、吉宗は大きな決断を下すことに。それと同時に吉宗を悩ませるのが、長女の家重(三浦透子)。家重は、体を思うように動かせない苛立ちから周囲を困らせることが多いのであった。そんな中、新たに家重の小姓となった龍(當真あみ)は将棋であることに気づく。

第9話のレビュー

「跡を頼めるか?家重」
冨永愛演じる八代将軍吉宗とその娘、三浦透子演じる九代将軍家重。この二人の抱擁に、あたたかい涙が頬を伝った。

「大奥」第9話の前半は、前回と同様にオリジナル要素が強く、吉宗と赤面疱瘡との戦いが描かれた。特に注目されたのが、進吉(中島裕翔)が発見した赤面を1人も出していない村に伝わる妙薬「猿の肝」だ。果たして、これは赤面の特効薬となるのか。

結果的に、吉宗は市中で発生した赤面の感染拡大を防ぐことはできなかった。小石川療養所に患者を隔離し、猿の肝を与えたが思わしい効果は出ず。じゃあなぜ当該の村から1人も赤面が出なかったのかといえば、それは村が山に囲まれていたからに過ぎない。まだウイルスが地方まで広がっていなかっただけなのだ。それなのに、最悪なことに進吉たちが持ち込んだウイルスによってその村から感染者が出てしまう。

ご情報に惑わされたり、むやみやたらな移動で感染が拡大したり、3年前に発生した新型コロナウイルスに振り回されていた私たちの姿と重なる。未知のウイルスはいかなる時代でも我々人間の脅威となるのだ。

これまで様々な改革を成功させてきた吉宗でさえも、言葉通じぬ相手を前に敗北を喫する。だが、この時の悔しさが洋書の輸入制限緩和に繋がった。男たちが蘭学を学ぶことも許可する吉宗。

彼女は赤面に勝つことはできなかったが、医学の発展に大いに検討し、シーズン2で描かれる医療編に登場する蘭方医の青沼や、研究者である平賀源内にバトンを繋いだのだ。そのことを一連のエピソードで強調させる実に鮮やかな構成。お見事としか言いようがない。

またここで吉宗が味わった悔しさは、後半で描かれる後継者問題にも活かされる。さあ遂にお待ちかね、家重の登場だ。通常の歴史でも言われていることだが、家重は脳性麻痺による言語・排尿障害があったとされる。この難しい役を三浦透子が生きた演技で見事に乗りこなした。大奥の家重は確かに存在していたと感動を覚えるほどに。

新たに自分付きの小姓となった龍(當真あみ)に嫌がらせレベルの要求をする家重は、確かに歪んでいる。だが、そこにちゃんと身体が思うように動かせない苛立ちや憤りが見えるのだ。一方で、将棋を指す仕草などにふと彼女の聡明さが映る。自分のことを思い、泣いてくれる龍と一緒にいる時の家重の言葉がいつもより少しだけ聞き取りやすくなるのも印象的だった。決して、未知のウイルスみたいに理解できない相手じゃない。理解しようと努めれば、誰だって本当は彼女の心の内に気づくことができるのだ。

そこに渦巻く感情を三浦透子は色鮮やかに見せてくれる。龍役の當真あみ、大岡忠光役の岡本玲の家重に向ける瞳にも嘘のない尊敬や忠義が宿っていた。原作で味わったのと同じ感動がそこにある。

後継者問題には余計な口を挟まずにいた久通(貫地谷しほり)は、一つだけ吉宗に進言する。「将軍の器とは、他のものを思う心の有る無しであると私は考えております」と。たしかに彼女がついていきたいと願った吉宗にはその心が有った。吉宗は一度だって己の利益のために動いたことはない。突っ走って周りが見えなくなるほどに、いつだって国の行く末、ひいては民のことを思っていた。

なりふり構わず赤面撲滅のために奔走し、失敗しても諦めず、反省を次に繋げる。自分たちの国のトップに立つ人はそういう方なのだという信頼と安心を、私たちはいつも求めているような気がする。だけど、なかなかそれが満たされないから、本作で描かれる吉宗の姿に恋い焦がれるのだろう。

そして、家重もそんな母と志は同じだった。「役立たずだから死にたい」という彼女の訴えを、吉宗は「生きるなら人の役に立ちたい」という叫びに変えた。

表の態度や振る舞いがそのままその人の心を映しているだけではない。これは本作がずっと描いてきたことだ。家光(堀田真由)は有功(福士蒼汰)に、綱吉(仲里依紗)は右衛門佐(山本耕史)に、そして家重は吉宗に本当の自分を見つけてもらった。吉宗にはずっと久通がいる。

どの将軍の人生も波乱万丈ではあるが、決して悲劇で終わらせない。どこかに希望を残すこの物語がやはり好きだ。次週はついに最終回。シーズン2が決まっているとはいえ、しばしの別れが寂しくて仕方ない。

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–{第10話ストーリー&レビュー}–

第10話ストーリー&レビュー

第10話のストーリー

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吉宗(冨永愛)は、大岡忠相(MEGUMI)からの手紙と、村瀬(石橋蓮司)の死と同時に行方の分からなくなっていた没日録を受け取る。戻ってきた没日録を読んだ吉宗は、これまで隠されていた衝撃の事実を知ることに。その後、吉宗は将軍の座を家重(三浦透子)に引き継ぎ、後世へと希望を託すのであった…。

第10話のレビュー

光の多いところでは、影も強くなる。NHKドラマ10「大奥」は、その光と影のコントラストで私たちの心を揺さぶった。

男子のみが感染し、ほぼ死に至る奇病・赤面疱瘡の蔓延で男女の役割が逆転した江戸。世を治める将軍職も三代家光以降、女性が担ってきた。彼女たちのために三千人とも噂される美男たちを贅沢に侍らせたのが大奥である。

目にも鮮やかな豪華絢爛な世界を舞台にしながらも、本作が描いたのは徳川の血を繋いでいくという使命のために尊厳を奪われてきた者たちの物語だった。

春日局(斉藤由貴)に攫われ、父・家光の身代わりとしての生活を強いられた千恵(堀田真由)。彼女は自分と同じように騙されて、大奥に連れてこられた有功(福士蒼汰)と恋に落ちるが、子ができなかった2人の仲は引き裂かれた。いくら心が有功と固く結ばれていようと、好きでもない男に抱かれ、子を儲けなければならないのはどれほど苦しかっただろう。

その娘である四代将軍綱吉(仲里依紗)も父・桂昌院(竜雷太)の期待に応えようと、毎晩心を殺して男たちと褥を共にした。その呪いを絶ったのが、「生きるということは、女と男ということは、ただ女の腹に種を付け、子孫を残し、家の血を繋いでいくことではありますまい!」という右衛門佐(山本耕史)の言葉だ。かつて自分も種馬としての扱いに苦しめられた彼が、世継ぎを産むという綱吉の使命を終わらせた。だが、2人は結ばれた直後に永遠の別れを迎える。

男子の数が少ない世の中で、美男三千人が集うとされた大奥は人々の憧れだった。だが、実際に大奥の中で渦巻いていたのは、ただ愛すべき者の側にいたいという願いすら叶わぬ孤独である。世継ぎを産み、育てるという大奥の目的を果たすために多くの人が自分の気持ちを押し殺してきた。同性である綱吉に思いを寄せていた吉保(倉科カナ)も然り。

そんな中、八代将軍に就任した徳川宗家の血筋ではない吉宗(冨永愛)は常に自分らしく生きてきた。千恵にとっての春日局、綱吉にとっての桂昌院のような存在はおらず、産めよ殖やせよと言われることもない。様々な改革や赤面疱瘡の撲滅に奔走する片手間に男たちを抱き、子を為す。決して搾取されない。むしろ彼女の方が無意識のうちに男たちを種馬扱いして、藤波(片岡愛之助)に諌められるほどだ。

そして晩年は、娘・家重(三浦透子)たちの父親代わりである杉下(風間俊介)と夫婦のような関係性を築いた。子種がないという杉下とは子を儲けることはできない。男女の関係も持つことはない。ただ、「一緒にいたいからいる」というそれだけのことだ。2人の関係は千恵と有功、綱吉と右衛門佐、そして吉保から見れば、羨ましくて仕方のないものであるだろう。

もちろん、吉宗の人生もずっと順風満帆だったわけじゃない。赤面疱瘡撲滅という成し遂げられなかったこともある。ただ多くの人に慕われ、自分の足りぬところを補ってくれる者たちと改革を成功させた。やり残したことだって、家重や龍(當真あみ)といった優秀な若者達に託すことができる。最後まで彼女は本作における希望の光だった。

一方で、その強烈な光の影を担っていたのが側用人の久通(貫地谷しほり)である。彼女は紀州徳川家の2代藩主・徳川光貞の三女だった吉宗を将軍にするため、多くの者たちを手にかけた。その事実を隠蔽するために、村瀬(石橋蓮司)をも「没日録」と共に葬ったのである。

彼女の罪は決して許されるものではない。だが、許してほしいなど久通は毛頭思っていないのだ。地獄に落ちようとも彼女は吉宗を将軍にする必要があった。きっと吉宗なら人々の希望の光になってくれると信じていたのだろう。実際に吉宗は後世にしっかりとバトンを繋いだ。

最後に登場した平賀源内(鈴木杏)、青沼(村雨辰剛)、黒木(玉置玲央)の3人が彼女の志を継いでいってくれるだろう。また、彼女が生きた時代のずっと先の未来を生きる我々にも国を守り繋いでいく使命は託されているのである。

「一炊の夢を見させていただきました。良き夢にございました(久通)」

私たちもこの3ヶ月間、一炊の夢を見せてもらった。この夢の続きが見られる日を恋い焦がれてやまない。

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–{「大奥」作品情報}–

「大奥」作品情報

放送予定
2023年1月10日(火)放送スタート (NHK総合)毎週火曜 よる10時~10時45分 
※初回は15分拡大

出演
3代 徳川家光(堀田真由) × 万里小路有功(福士蒼汰)
5代 徳川綱吉(仲里依紗) × 右衛門佐(山本耕史)
8代 徳川吉宗(冨永愛) × 水野祐之進(中島裕翔)

原作
よしながふみ「大奥」

脚本
森下佳子

制作統括
藤並英樹

プロデューサー
舩田遼介
松田恭

演出
大原拓 田島彰洋 川野秀昭