ドラマ好きライターが選ぶ、2023年冬ドラマ注目作8選

国内ドラマ

2022年秋ドラマは見逃し配信で民放歴代最高記録を樹立した「silent」、製作陣とスタッフが構想から6年の歳月をかけ、並々ならぬ覚悟で作り上げた「エルピス-希望、あるいは災い-」など、テレビドラマ史に残る名作揃いだった。こうした上質な作品との出会いは心を豊かにしてくれるが、しばらくロスに陥るのも免れない。だけど、実は2023年冬ドラマもあらすじだけで心躍る作品が目白押しだ。

冬は上質な恋愛ドラマで温まりたい

◾︎ヒロインの恋の相手を魅力的に描く大石静脚本「星降る夜に」

まずは「知らなくていいコト」でもタッグを組んだ、大石静脚本×吉高由里子主演で贈る「星降る夜に」から。二人は2024年に放送予定の大河ドラマ「光る君へ」でもタッグを組むため、注目が集まっている。本作はのどかな海街を舞台に、感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医の雪宮鈴(吉高)と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士・柊一星(北村匠海)が織りなすピュアラブストーリーだ。

“音のない世界”というワードでピンと来るかもしれないが、「silent」と同様に本作でも聴者とろう者の恋が描かれる。「silent」の想(目黒蓮)は中途失聴者であったのに対し、本作の一星は生まれつき耳が聞こえない。だからこそ「逆にのびやかで、感情豊かで、自由な魂の持ち主」と大石静は公式コメントを出していた。そんな一星の生き様が、10歳年上の鈴にも影響を与えていくという。

ラブストーリーの名手と呼ばれる大石の作品は何と言ってもヒロインの恋の相手が非常に魅力的。「大恋愛〜僕を忘れる君と」の真司(ムロツヨシ)、「知らなくていいコト」の尾高(柄本佑)、「あのときキスしておけば」の桃地(松坂桃李)など、心奪われた男性キャラは数知れず。だから彼らに惹かれるヒロインに自然と共鳴し、物語に没頭できる。一星のキャラクターも視聴者から愛されそうな予感。

(2023年1月17日から毎週火曜よる9:00〜/テレビ朝日系)


◾︎北川悦吏子が19年ぶりに描く青春ラブストーリー「夕暮れに、手をつなぐ」

TBS系火曜ドラマ枠で放送されるのは広瀬すずが主演を務め、永瀬廉が共演する青春ラブストーリー「夕暮れに、手をつなぐ」。婚約者を追って上京した片田舎出身のヒロイン・浅葱空豆(広瀬)が音楽家を目指す青年・海野音(永瀬)と出会うところから始まり、ひょんなことから一つ屋根の下で暮らすことになった2人がそれぞれの夢を追っていく。

本作には映画「流浪の月」での重厚な演技でその実力が再認識された広瀬や、「おかえりモネ」の“りょーちん”こと、亮の複雑な心情を見事に表現した永瀬はもちろん、田辺桃子や黒羽麻璃央ら演技派の若手が勢ぞろい。その脇を「君の花になる」に引き続いて出演する夏木マリや、遠藤憲一などの名優たちが固める。

また、脚本を北川悦吏子が担当している点にも注目したい。青春ドラマの金字塔「オレンジデイズ」の生みの親である北川。妻夫木聡、柴咲コウ、成宮寛貴、瑛太、白石美帆という豪華面々が体現する甘酸っぱい青春に誰もが憧れた。そんな作品を手がけた北川が19年ぶりに描く青春ラブストーリー、しかも“集大成”ときた。北川脚本の特徴である愛おしいまでにナイーブな青年や少し詩的で心に残る台詞に期待したい。

(2023年1月17日から毎週火曜よる10:00〜/TBS系)


◾︎ハンカチ必須。井上真央主演で贈るラブファンタジー「100万回 言えばよかった」

井上真央が16年ぶりにTBS連続ドラマの主演を務める。それだけでもテンションがあがるのに、その脇を固めるのが佐藤健と松山ケンイチときた。意外にも初共演となる3人が贈る「100万回 言えばよかった」は普通の恋愛ドラマではなく、ファンタジー作品であることがポイントだ。

あらすじを簡単に紹介する。相馬悠依(井上)と鳥野直木(佐藤)は元々幼なじみだったが、大人になって偶然再会。お互いを運命の相手だと確信するも、直木は悠依にプロポーズしようとした矢先に不可解な事故に巻き込まれて命を落としてしまう。そのまま魂となって現世をさまよっていた直木の前に現れるのが、霊媒体質の家系に生まれた刑事の魚住譲(松山ケンイチ)。

そんな3人が関わり合いながら、“当たり前のことは、決して当たり前ではない”というメッセージを伝えるとともに、“その当たり前がどんなに愛おしくかけがえのないものか”を改めて訴えかけるオリジナルストーリーだという。脚本を手がける安達奈緒子は、「きのう何食べた?」「おかえりモネ」でもそうだったように、人の繊細な心の機微を丁寧に紡ぐ人。それを目に見える形で表現する井上、佐藤、松山も複雑な心理表現が上手い役者だ。心を大きく揺さぶられることは間違いないので、ハンカチを用意して挑みたい。

(2023年1月13日から毎週金曜よる10:00〜/TBS系)



–{陰と陽の“ヒーロー”が現状に一石を投じる}–

陰と陽の“ヒーロー”が現状に一石を投じる

◾︎妻夫木聡が生きる意味を問いただす「Get Ready!」

Copyright© 1995-2022, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.

2004年のドラマ「オレンジデイズ」が同じく聴者とろう者の恋愛を描いた「silent」の影響で再び注目を集める中、今期は同作を手がけた北川悦吏子が「夕暮れに、手をつなぐ」で19年ぶりに青春ラブストーリーを描き、主人公を演じた妻夫木聡の最新主演ドラマ「Get Ready!」も始まる。

本作は、多額の報酬と引き換えに手段を選ばず患者の命を救う正体不明の闇医者チームを描いた1話完結&完全オリジナルの医療ヒューマンエンターテインメント。闇医者チームのメンバーには、妻夫木演じる孤高の天才執刀医・波佐間永介(通称:エース)、藤原竜也演じる波佐間の相棒で交渉人の下山田譲(通称:ジョーカー)、松下奈緒演じる凄腕オペナース・依田沙姫(通称:クイーン)、日向亘演じる若き万能ハッカー・白瀬剛人(通称:スペード)に日向亘と、気になるキャラクターが並んでいる。

日曜劇場らしいサラリーマン受けしそうな骨太ドラマという第一印象を受けるが、妻夫木演じるエースが“生き延びる価値があるかどうか”の基準で患者を選ぶという設定が目に留まった。一歩間違えたら批判を浴びそうな、繊細な問題に踏み込んでいる点が新しい。

(2023年1月8日から毎週日曜よる9:00〜/TBS系)


◾︎北川景子が空回るヒロインに「女神の教室〜リーガル青春白書〜」

フジ月9「女神の教室」の舞台は法科大学院、通称“ロースクール”だ。主演の北川景子演じる裁判官の柊木雫が、実務家教員としてロースクールへ派遣されてくるところから物語は始まる。「人を知らなければいい法律家にはなれない」という強い信念を持つ雫は、司法試験合格という目先の目標ばかりにとらわれている生徒たちに愕然。法の教科書には載っていない、人を知るための授業を通して、ロースクール生と向き合い、そしてまた彼女自身も成長していく青春群像劇となっている。

脚本を担当するのは、「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」や「ユニコーンに乗って」などで知られる大北はるか。彼女は知られざる世界を舞台にした青春群像劇が得意で、主人公が成長途中で未熟なところがありながらも、一生懸命なところに好感が持てる。今回の主人公・雫も公式の説明を見る限り、理想主義で空回りしがちなキャラになりそう。演じる北川のクールビューティーな印象とのギャップも楽しめるのではないだろうか。

(2023年1月9日から毎週月曜よる9:00〜/フジテレビ系)



–{どういう設定?一風変わったストーリーに期待}–

どういう設定?一風変わったストーリーに期待

◾︎よしながふみの名作を全ドラマ化「大奥」

個人的に最も楽しみなのが、NHK総合で放送される「大奥」だ。2021年2月に完結したよしながふみの同名コミックを実写ドラマ化。以前にもTBSテレビを中心とした製作委員会によるプロジェクトで、全3作にわたり一部映像化されたが、全19巻を映像化するのは今回が初となる。

「大奥」は、江戸幕府3代将軍・家光の時代に若い男子のみが感染する病が流行り、男性の人口が女子の1/4にまで激減。将軍職を含め、あらゆる家業が女性から女性へと受け継がれるようになったパラレルワードを描いたSF時代劇だ。斬新な設定だが、“鬼才”としか言いようのない、よしながふみの史実と創作を織り交ぜた巧みなストーリー構成力に「こっちが本当の歴史なのでは?」と思わされるほどのリアリティがある。

現時点で実写化反対の声が少ないのは「JIN-仁-」や「義母と娘のブルース」など原作ものでヒットを飛ばしてきた森下佳子が脚本を手がけるという安心感もあるだろう。徳川吉宗役の冨永愛、加納久通役の貫地谷しほり、春日局役の斉藤由貴など、すでに発表されているだけでも解釈一致のキャスト揃いだ。時代劇に抵抗がある人も、どうか初回の放送だけでも観てみてほしい。

(2023年1月10日から毎週火曜よる10:00〜/NHK総合)


◾︎忍者夫婦の斬新なラブコメ「忍者に恋は難しい」

フジテレビ系木曜ドラマ枠で新たにスタートするのが、「忍者に恋は難しい」。フジテレビゴールデン・プライム帯ドラマで初主演を務める菜々緒がなんと、“女忍者”を演じる。前番組「silent」との温度差で風邪引きそうだ。

物語の舞台は現代だが、菜々緒演じる薬剤師の草刈蛍は古来より伝統の続く甲賀忍者の末裔で、普段は正体を隠して暮らしている。一方、鈴木伸之演じる蛍の夫もまた伊賀忍者の末裔なのだ。かつて伊賀と甲賀は敵対関係にあったが、二人はそれを知らずに結婚。だが、ラブラブなのは最初だけで夫婦仲が覚めきっていたところへ、それぞれに特殊任務が舞い込むというストーリーが展開される。

泥棒一家の娘と警察一家の息子の恋を描いた「ルパンの娘」を思い出した人もいるのではないだろうか。それもそのはず、どちらも原作が横関大の小説だからだ。今回もロミジュリ的な話ではあるが、夫婦が忍者同士だけど敵対する組織に所属するという、分かり合えそうで分かり合えない関係性が新しい。菜々緒と鈴木伸之が演じるスタイル抜群、ビジュアル最強の夫婦も観ているだけで目の保養になりそうだ。

(2023年1月5日から毎週木曜よる10:00〜/フジテレビ系)


◾︎武装集団は誰が演じる?早くも話題の櫻井翔主演「大病院占拠」

櫻井翔が2021年の「ネメシス」以来、2年ぶりの連ドラ主演を務める本作の設定もかなり尖っている。舞台は、鬼の面を被った謎の武装集団によって占拠された日本が誇る大病院。理由もわからず、医師や職員たちが人質になる。そんな中、とある事件がきっかけで休職中だった櫻井翔演じる捜査官の武蔵三郎が、人質を救うために犯人に立ち向かっていくというストーリーだ。

今回、2019年と2021年に放送された「ボイス 110緊急指令室」の制作チームが集結。110番・緊急指令室を舞台にした同作について思い起こされるのは、シーズン1と2のどちらも黒幕の存在が終盤まで伏せられていたこと。今回も人質のキャストは発表されているが、武装集団のキャストは現時点で誰一人として明かされていない。公式SNSは鬼の面で隠された彼らの写真とともに年齢や性別などのヒントをツイートしており、すでに考察が盛り上がっている状況。話題作になることは間違いない。

(2023年1月14日から毎週土曜よる10:00〜/日本テレビ系)



今回は独断と偏見で厳選した8作品を紹介したが、他にも今期は「新しい!」と感じる、設定にオリジナリティ溢れたドラマが多かった。個性がぶつかり合うシーズンになるのではないだろうか。CINEMAS+でもドラマライターが様々な作品を毎週レビューしていくので、ぜひ一緒に鑑賞を楽しんでほしい。

(文:苫とり子)