<舞いあがれ!・ 工場編>12週目~17週目の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2022年10月3日より放映スタートしたNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」。

本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。本記事では舞の父・浩太の工場が危機を迎える12週目~17周目までの記事を集約。1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

・第56回レビュー

・第57回レビュー

・第58回レビュー

・第59回レビュー

・第60回レビュー

・第61回レビュー

・第62回レビュー

・第63回レビュー

・第64回レビュー

・第65回レビュー

・第66回レビュー

・第67回レビュー

・第68回レビュー

・第69回レビュー

・第70回レビュー

・第71回レビュー

・第72回レビュー

・第73回レビュー

・第74回レビュー

・第75回レビュー

・第76回レビュー

・第77回レビュー

・第78回レビュー

・第79回レビュー

・第80回レビュー

・第81回レビュー

・「舞いあがれ!」作品情報

第56回のレビュー

第12週「翼を休める島」(脚本:桑原亮子 演出:小谷高義)舞(福原遥)が就職活動をはじめて内定をもらうところからはじまります。就活に苦戦したようですがそこはナレーションでさくっと済ませ、やっと内定がとれた喜びを中心に描くところが令和的と感じます。しんどいところを描かない、それが近年の傾向です。柏木(目黒蓮)が海外留学に行くことになり、舞と遠距離恋愛になりますが、そこもかなりあっさり。従来の物語だったら遠く離れることにくよくよする時間を割きますが、柏木と舞はかなりドライです。

ところが内定や遠距離よりももっとしんどいことが起こります。リーマンショックです。

リーマンショックによって舞の実家の工場の経営が危なくなって……。IWAKURAのボーナスは3万円……。

視聴者は現実のリーマンショックを知っているのでいやな予感しかしません。朝ドラで描かれる喪失感はこれまで「戦争」が多く、最近、「震災」が加わり、「コロナ禍」も……という状況ですが、「リーマンショック」ーー「金融危機」を題材にすることは新機軸です。戦争や震災や疫病による喪失から立ち上がっていくことだけでなく、貧しさからも立ち上がっていく、とても”今”を感じます。

舞にもさだまさしさんの不穏なナレーションがかかります。

航空学校の仲間が居酒屋で飲み会をしていると、水島(佐野弘樹)がやってきます。舞たちはいま仙台校にいて、水島は北関東の大手スーパーの御曹司設定だから、きっと立ち寄りやすいところにいたのでしょう。スーパーの惣菜をもってきて、持ち込みいいですか?と一応聞いていたけれど、注文した品数がやけに質素ななかで惣菜が目立っていて、不思議な気持ちになりました。

この居酒屋の雰囲気がお好み焼き・うめづに似ています。たぶん、セットの建物をそのまま使って内装だけ変えたのではないかという気がします。テーブル席も小上がりにして。

そのあと、うめづも出てきますが、この回は店の奥の座敷でIWAKURAの飲み会が行われます。舞たちの居酒屋とうめづの印象がアングル的に似てしまわないための工夫ではないかと勝手に想像しました(根拠はなく勝手な感想です)。

美術で思ったのは、舞たちの宿舎です。宮崎のときは倫子(山崎紘菜)がさきに窓側をとってましたが、仙台では舞が窓側。きっと不公平にならないようにしているのでしょう。

さて。居酒屋で、倫子が吉田(醍醐虎汰朗)に「気持ち、伝えなくていいの?」と聞いていました。舞と柏木がつきあっていることをおそらくみんな知っているだろうに(居酒屋でも途中、ふたりだけ席を離れて座ります)、そんなこと酷ではないでしょうか。それに、いままで吉田の気持ち描写、ほっとんど描かれてなかったですし。スピンオフ用にとってあるのでしょうか。

失恋、それも喪失感のひとつです。吉田学生にもひそやかに喪失がありました。

【朝ドラ辞典  喪失感(そうしつかん)】

朝ドラは喪失感を乗り越える物語が多い。代表的な題材は戦争。そこに震災が加わってきた。
朝ドラの初期に、戦争中の物語が多かったからか、喪失感が物語には必要と思ったからか、順番はわからない。普遍的なテーマであることは確かである。

※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第57回のレビュー}–

第57回のレビュー

リーマンショックがのしかかってきます。舞(福原遥)もせっかく決まった会社から入社1年延期の知らせをもらいます。そんなの困る〜〜と大騒ぎしないで受け入れるところが舞らしいです。

久しぶりに由良先輩(吉谷彩子)と会って話すと、先輩も前向きな考え方を示します。さすが人力飛行のパイロットを1年諦めたり、身長によって航空機のパイロットになれない事実に冷静に向き合ったり、様々な苦難を乗り越えただけあり、言ってることに説得力があります。

由良先輩のほうが航空学校の仲間たちより大人ぽく見えます。大人ぽいというか俗ぽくない。由良先輩のようにパイロットにふさわしい冷静沈着で知性的な人物が身長によってふるい落とされている現実がとても残酷に感じます。

由良先輩と話すときの舞は、飛行機に乗る喜びを心から語ります。彼氏できたんです〜というようなことは微塵も出しません。由良先輩と話しているときの舞には恋してドタバタしていたことを想像できません。憧れの由良先輩なので、たぶん、柏木(目黒蓮)よりプライオリティが高いのだと思います。

舞も心得ているのか由良にはそういう話をせず、恋の話は久留美(山下美月)とします。
現実にも、こういうことはあるように思います。話す相手によって話すことも話し方も雰囲気も変わるものです。

舞から入社が延期になったことを訊いた両親(高橋克典、永作博美)は自社もリーマンショックで大変な状況であることを言い出せません。舞にこれ以上心配をかけたくないからです。ニコニコをふだんどおりを装います。浩太は自分の思いをノートに綴っています。

舞も入社延期になって凹みながら、家族に夕飯をつくって暗い顔をしないで延期の話を語ります。部屋に戻るとちょっと凹んで柏木に電話しようかと思うけれど、サンフランシスコとの時差を考えて遠慮します。

岩倉家、全員、リーマンショックで困ってるかと思えば、悠人(横山裕)だけはリーマンショックを予言した人物として注目されていました。「大切なのは他人ではなく自分を信じることです」とかっこよく雑誌のインタビューで語っていました。予言してたら事前に父親に助言してあげたらよかったのに。

【朝ドラ辞典 猫(ねこ)】

朝ドラの主人公の家の周辺では猫の声がすることがよくある。姿を見せることは希でそのときは全国の猫好きが喜ぶ。レギュラー的に猫が出ていたのは「スカーレット」の大阪編など。「舞いあがれ!」では第56回、みじょかカフェの前に黒猫が登場した。

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–{第58回のレビュー}–

第58回のレビュー

就職がリーマンショックによる不景気によって一年延期になった舞(福原遥)は五島へーー。祥子(高畑淳子)が怪我したため手伝いをすることになりました。そこへやって来たのは、森重美知留(辻本みず希)と朝陽(又野暁仁)母子。お試し移住をするためです。五島では今後、子供たちの受け入れをしようと考えていて、その一環の企画です。

朝陽は少し変わっていて、学校に行きたくないと言ったり、せっかく出してもらったお菓子を食べなかったり、ちょっと気難しい子です。東京にいたときは、すぐに怒るからとお友達とも仲良くやれなかったとか。

むすっと愛想なく、学校にも行かず縁側で空を眺めている朝陽。舞は朝陽の横が空いているにもかかわらずそこには座らず、柱を隔てた引き戸を空けてそっと座ります。舞も子供の頃、ナイーブだったから、いきなりずかずかと朝陽のそばに近寄るなんてことはしないのでしょう。そこは心得ています。

ちょうどそこに飛行機が飛んできます。舞は引き戸を隔てたところで飛行訓練をはじめます。英語をブツブツ唱えている舞とぼーっと空を見ている朝陽。朝陽はちらりと舞を気にします。背後から祥子も見ていて「呪文のごたるな」と感心します。ここの画が印象的でした。

朝陽はそのまま夜まで同じ場所で空を見続けていて、その夜、舞には柏木(目黒蓮)から電話がかかってきて、ひととき語り合います。
「入社が1年のびた」と舞が言うと「リーマンのせいか」とすぐに理解する柏木。

今週からメインライターの桑原亮子さんの担当になっているのですが、作家によって雰囲気がこう変わるのかと驚きます。航空学校編ではおせっかいでドタバタして見えた舞がナイーブで飛行機大好きキャラに戻り、ネタキャラのようだった柏木も配慮のある落ち着いた人物に見えます。学校を卒業して大人になったと解釈することもできますが、縁側のゆったりした、野良猫に近づいていくときのように朝陽と距離をちょっとずつ縮めていく時間の描写などは作家の個性だと感じます。

「飛行機とおんなじやで 後ろ向きには進まれへん」という飛行機に掛けた言葉も印象的です。

朝陽が縁側で白い布に赤い実を並べはじめ、足りなくなったら舞がそっと補充する場面も、情緒がありました。ちょうど舞はパイロットの勉強中で「乗員の信頼を得るようにすること」の項目を読んでいたところで、朝陽への気遣いはパイロットの道のひとつでもあるようです。

朝陽は赤い実を並べ続け、舞は今度は椅子を庭に置いて航空訓練をはじめると、朝陽が真似をはじめます。興味のあることはすぐに覚えてしまう、独特の優れた能力があるようです。

と、そこへ、紙飛行機が。貴司(赤楚衛二)でした。五島に来ているけれどケータイを持っていないそうで、舞が手紙を出したのを読んだのでしょう。そのいでたちは少し八木(又吉直樹)に似てきたようにも見えます。

何かと思わせぶりに出てくる貴司。舞は柏木一筋なのでしょうけれど、視聴者としては貴司の存在も気になります。

【朝ドラ辞典 ゲストキャラ(げすと)】

朝ドラに限ったことではないが、レギュラー登場人物のほかにゲストとして限られた期間だけ出演する登場人物がいる。
一話完結の連ドラだと各回にゲストが出るのが当たり前だが、朝ドラはたまにゲストが主になる番外編的なターンがある。『舞いあがれ!』の第12週の森重母子はそのパターンであろう。

※この記事は 「 「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第59回のレビュー}–

第59回のレビュー

祥子(高畑淳子)の家にふらりと現れた貴司(赤楚衛二)は、休みを利用して泊まりに来たのです。
お土産はミカン。ふだんは五島で漁港やミカン農家などで働き、遺跡発掘の仕事もしていると言って舞(福原遥)を驚かせます。貴司は手紙で舞が来ていることを知って来たのでしょう。
テーブルで、祥子と舞はミカンを食べているのに貴司は手をつけないのは、さんざん自分は食べているからなのでしょう。

縁側では今日も黙々と朝陽(又野暁仁)が赤い実を白い布に並べています。舞はそれが星座だと気づきます。朝陽は星が好きでとても詳しいのでした。

貴司がミカンを持ってくると「土星は食べない」と言う朝陽。赤い実(南天)と比べるとミカンは土星の大きさだと知って舞は驚きます。空の好きな舞ですが、そのさらに上の宇宙のことは知りません。世界には知らないことがいっぱいあるのです。肉眼で見えない星のように。

舞と朝陽のぽつりぽつりと話す間に、ちち、ちちと鳥の声が合いの手のように入ります。それがなにかいい雰囲気です。
舞、貴司、朝陽の3人が静かに並ぶと何か共有できているように見えます。じつにゆったりしていて、わいわい早口で何かを語らなくてもいい空気ができあがっています。

基本的に口数が少なく、でも言いたいことはあって、それを文字にしている貴司。
舞は基本的にはのんびりしているようですが、航空学校のおしゃべりな人たちとも合わせることのできるバランサータイプのようです。
朝陽はふだんは黙っていますが、得意なこと好きなことになると饒舌です。

”まわりにあわせなくていい、堂々と行きたらよか” と祥子の言葉が舞や貴司を支えています。

祥子は就職延期に関して悩んでいる舞とお酒を酌み交わします。「真夜中のパーティや」と喜ぶ舞。幼い頃はできなかったことができるようになった祥子と舞。

祥子は、嵐が来たとき、家にじっとしている間はできることをコツコツやりながらじっと晴れるときを待つことを語ります。

いつかは空も晴れる。それまででくっことばやればよかとじゃなかか

向かい風を受けて飛ぶ凧、難を転じる南天、日中は太陽に隠れている無数の星、ものごとには波があって、一見不利に見えることでもいつか必ず報われると信じていたいものですね。

【朝ドラ辞典  旅人(たびびと)】

「舞いあがれ!」の貴司のようにたまに登場する旅人キャラ。「とと姉ちゃん」の主人公のおじさん鉄郎(向井理)や「カムカムエヴリバディ」の兄・算太(濱田岳)など。俳優のスケジュールの事情であろうか。

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–{第60回のレビュー}–

第60回のレビュー

ようやく打ち解けてきた朝陽(又野暁仁)を囲み、舞(福原遥)は航空訓練、貴司(赤楚衛二)は短歌を考えています。ふたりしてブツブツ言っているので「変人にはさまれてる」と言う朝陽。自分のことは棚に上げて。それにしても朝陽をはさんで3人並んだ舞と貴司はお似合いに見えます。柏木(目黒蓮)が見たら嫉妬しそうな光景です。

島に来たばかりのときと比べて気分のほぐれてきた朝陽。学校には行かないけれど星空クラブには行ってみようとしますが、その直前、急に行かないとごねだします。舞と貴司が辛抱強く、朝陽に寄り添うと、もやもやをじょじょに表現できるようになっていきます。そういうときも気持ちの大きさを太陽や地球に例える朝陽。彼の靴下が星柄なのも星が好きで気に入っているのでしょう。

貴司の提案で気持ちを言葉に書き出せるようになって、元気に星空クラブにも行けるようになりました。嫌いだったかんころ餅も食べられるように。この流れは舞が子供のときに五島に来て、元気になったことと似ています。

朝陽の「新しい一歩」を喜ぶ祥子(高畑淳子)に、木戸豪(哀川翔)は島も新しい一歩に踏み出さないといけないと言います。
島に若者の仕事はないため、出ていかざるをえないという深刻な若者離れに悩んでいて、若者が島に残れるようなアイデアを考えるのが課題になっています。朝陽のような子供の受け入れも島活性化のひとつ。

そういう意味ではさくら(長濱ねる)のみじょカフェは若者の地元での仕事の成功例でしょう。さくらは女手ひとつでカフェを切り盛りしています。ほんとうは「むっちゃん」という恋人と経営する予定だったらしいのですが、彼の姿は一向に見えず。エア彼氏説もあります。さくらはむっちゃんとの星の思い出を舞に勝手に語りだし、「舞ちゃんの聞き上手〜」とひとりで舞いあがります。

気のいい人達ばかりの五島での楽しい生活のなかに、1本の不穏な電話がーー。浩太(高橋克典)に心配事が起こったようで、次週予告を見ると舞に本格的な向かい風が吹いてきそうな気配が濃厚。珍しくベタなヒロインいびりもありそう? 

貴司の好きな星は北極星、暗い夜空で目印になる星。昔のひとは星を頼りに飛行機を飛ばしたのだと言う舞。どんなに暗い夜でもきっと星が導いてくれるはずです。

【朝ドラ辞典  出てこない人(でてこないひと)】

話題にはなるが当人が一向に現れないキャラとして「おかえりモネ」の宇田川さん、「カムカムエヴリバディ」のおぐら荘住人・鈴木などがいる。「舞いあがれ!」のむっちゃんもそのひとり。いつか登場するか、最後まで登場しないか、ドラマを見る楽しみのひとつになっている。

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–{第61回のレビュー}–

第61回のレビュー

【朝ドラ辞典 年末年始(ねんまつねんし)】

年間、毎日、月から金まで(土曜日は総集編)を放送している朝ドラだが、年末年始だけ少し一週間ほど休みになる。「舞いあがれ!」も年末は28日水曜日まで。
通常、週5ないし6回単位で物語が構成されているが、年末だけは回数が減ることがある。「本日も晴天なり」(81 年)のアンコール放送(22年BSプレミアム)ではその週単位感を守り、あえて75回までで一旦休止し、翌週76回を放送するという当時の放送に準拠した区切りで放送した。75回と76回の間に時代が飛ぶからというのもあるだろう。

第13週「向かい風の中で」は浩太(高橋克典)が倒れ、舞(福原遥)は急遽五島から東大阪に戻ります。お正月休みに入るこのタイミングで、年末年始もやもやしたままだったらどうしようかと思いました。なにしろサブタイトルが「向かい風の中で」です。向かい風、うっとおしいですね。でも浩太は胃潰瘍で、一週間ほどで退院できます。

入院中の浩太は元気そうで、浩太がいつも自分の心境を記しているノートの素朴な言葉を舞が音読し「声だすな」と恥ずかしがる浩太の場面などはほっこりしました。ここで注目は、浩太も思いを言葉にして綴っていることです。貴司(赤楚衛二)朝陽(又野暁仁)のように。

浩太は明るく社交性のある人物ではありますが、それでもなお自分の夢やアイデア、ちょっとした思いをノートにたくさん書いています。思いが溢れすぎて書き出さざるを得ないのでしょう。“言葉に記す”は「舞いあがれ!」の密かな通奏低音な気がします。

浩太の病状にはとりあえずホッとしましたけれど、IWAKURAの経営危機は変わりません。舞も家の事情を知らされます。社員の給料も貯金から出している状況だそうで……(貯金いっぱいあるんですね)。たぶん、浩太の明るさは無理して元気に振る舞っているのでしょう。いつも以上に声が高く明るかったので。だからこれからも心配ごとは続くでしょう。どこかからの電話に出ない章(葵揚)の態度も気になります。

それにしても、舞はお父さんっ子。めぐみ(永作博美)と話すときより浩太と話しているときのほうがのびのびと楽しそう。朝ドラでは母と娘の絆を手厚く描くことのほうが多いので珍しいシチュエーションです。それは同性ゆえの愛憎も込みなときもあって、父と娘のほうが気楽でいられるということもあるもので、舞と浩太の形もある種のリアリティがあるように思います。

一方、父と息子の関係は難しい。リーマンショックを予言した男・悠人(横山裕)が見舞いに来ますが、浩太に手厳しいことを言ってさっさと帰ってしまいます。男性主役の朝ドラでは「エール」のように父と息子の関係も描かれることがありますが、女性主役で、父と息子をしっかり描くのは珍しい。
今後の浩太と悠人の関係も注視していきたいです。

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–{第62回のレビュー}–

第62回のレビュー

「ええ仕事は機械の手入れからはじまる」

↑これが浩太(高橋克典)の口癖。手塩にかけて大きくしてきたIWAKURAが経営難に陥り、社員のリストラを余儀なくされます。まずネジの最終点検、梱包を担当しているパートの中年女性3人に辞めてもらうことになります。その仕事を誰がやるか? めぐみ(永作博美)は手一杯ということで舞(福原遥)が引き受けます。そうですよ、めぐみの仕事が増えたらまた第1週のようにボロボロになってしまいますから。

浩太の会社を案内される舞。大きくて立派な工場だなあと感心する舞ですが、これが躍進状態のときなら盛り上がるでしょうけれど、会社が風前の灯のときですから、ちょっとさみしく感じてしまいます。まあ、こんな立派な会社をなくしてはならないという思いにもつながるのかもしれませんが。

ベテランパート3人に仕事を教わる舞。母がやっているのを見たことはあったとはいえやるのははじめて。おずおずとやっていると西口(マエダユミ)に「こないなお嬢ちゃんにうちらの後釜がつとまるんやろか」と言われてしまいます。これは先週の次週予告にも出てきたもので、朝ドラ久々の「いびり」かと思ったら、それは一瞬でした。パートさんたちは潔く辞めていき、舞に

商品梱包の仕事は最後の砦や

と名言を残していきます。

よくよく見返すと、「こないなお嬢ちゃんにうちらの後釜がつとまるんやろか」も語尾が微妙にきつくない、心配してるだけのようにも聞こえるのです。

引き継ぎのときに「素人でもできる仕事や思われてるから真っ先に切られんねやろ」(入江〈那々實あぐり〉)「うちらがどないな思いで働いてきたかもしらんと」(日高〈林英世:「カーネーション」で岸和田ことば指導を担当されています。〉)と嘆きもしますが(当然です)、誰でもできる仕事ではない、機械では気づけないネジの傷を目視してはじく。それが会社の信頼に繋がっているのです。

経営状況が悪化すると末端から切っていく、賃金を安くするため新人に入れ替えるなどがまず実践されますが、末端は誰でもいいわけではなく、自覚をもって工夫して仕事をしている人たちが支えているのです。それを切ったり変えたりしてしまったら土台が崩れてしまう。これをやって平気な経営者は自分だけお金を儲けたいと思っている個人主義のひとです。社会のことを見ていません。

浩太はそれをわかっていないひとではありません。経営が上向いたらまた呼び戻そうと考えているようです。とはいえ、3ヶ月前くらい猶予がほしいですよね。1ヶ月もなく辞めてもらっているように見えましたけれど。3ヶ月ほど、浩太の貯金から支払っていたから許してねということでしょうか。

舞はなにわバードマン活動でみんなの思いを背負って飛ぶことを知っています。パートさんの思いも背負ってねじを梱包しないとなりません。

大事なパート3人にクレジットでは苗字しかなかったのがちょっと残念と思いましたが、劇中出てくる履歴書には西口智子、日高多恵子と名前がありました。きっちり志望動機が書いてあって真面目なやる気のある人達だと思わせます。

【朝ドラ辞典 いびり】

かつては姑、小姑の嫁いびりが定番であったが、最近は視聴者のストレスになるようなしんどい描写は減っている。

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–{第63回のレビュー}–

第63回のレビュー

3人の優秀なパートさんがいなくなったあと、たったひとりでねじの検品&梱包を行う舞(福原遥)。髪の毛もちゃんとうしろで一本に束ねています。最初は束ねないで視聴者のツッコミを呼ぶ、もはやお約束ですね。でも束ねようと思ったらゴムやシュシュ持ってこなかった〜しもた〜という経験は誰しもあることでしょう。

お約束といえば、3人の中年女性のいびりがあるかと思いきや、なかったと安堵した矢先、若い女性社員・山田紗江(大浦千佳)が「『私、頑張ったぁちゅう』アピールかと思いました」と不意に舞へ嫌味を言います。社長のお嬢さんにそんなん言います? ただでさえリストラに怯えているはずなのに社長の心象悪くしてどうするのでしょうか。そのあと、社長には感じよく挨拶していて、こわかったー。

いびりは、本格的には描かないけれどアクセントとしては必須アイテムのようです。大量のねじのなかの不良品のようなもの?

西口(マエダユミ)に「最後の砦」と言い残された舞は、なかなか見つけられない程度の不良品をその慧眼で発見します。

舞が雑炊をつくって浩太と食べる場面は、このドラマのテーマを語る重要な場面でした。

「舞は不良品探してる時でもええとこ見つけるんやな」
浩太(高橋克典)は舞を褒めます。

だからきっと山田の嫌味も舞にとっては、ほかのひとたちのあたたかみに気づくものなのでしょう。

「パイロットはリレーのアンカーやねん」と言う舞は浩太も工場のパイロットだと讃えます。

そう、3人は無念にも辞めさせてしまったけれど、あとに残った社員を守らなくてはいけません。結城(葵揚)は3人の子供をもつ身で転職すべきか悩んでいます。古川輝海(中村靖日)は寝たきりの母の看病をしながら働いています。料理も裁縫も得意。笠巻(古舘寛治)は長年、IWAKURA に身を捧げてきた職人です。

みんなの生活と思いを背負って責任もって空を飛ぶ、うえに立つひとはその認識が重要です。
なんとか光明が見えてきたとホッとしたのもつかの間、悠人(横山裕)がやってきて、不穏なセリフをつぶやきます。予告もまた、気になるもので、年明けはどうする「舞いあがれ!」? 2023年は1月4日(水)からです。

【朝ドラ辞典 髪を束ねる(かみをたばねる)】

労働にあたり長い髪は束ねるのが常識。マナーの点からいってもそうだし、単純にうつむいたとき顔にかぶる髪の毛が煩わしいからだ。ところがなぜか朝ドラでは主人公が束ねないときがあり、SNSでツッコミが入る。これはもうドラマと視聴者のコール&レスポンスという伝統なのだろう。

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–{第64回のレビュー}–

第64回のレビュー

2023年のはじまり。第14週「父の背中」(演出:田中正)のはじまりです。
悠人(横山裕)が帰って来ました。

帰って来たといっても仕事で、とうそぶく悠人。仕事半分、父・浩太(高橋克典)の仕事を心配しているところもあるのでしょう。

単純に兄の帰還に喜ぶ舞(福原遥)は工場を案内します。

悠人は工場の音もニオイも好きじゃないけれど舞はそれらが好き。さすが、飛行機好きです。機械音やオイルのニオイにまみれてきただけあります。
悠人はさりげなく機械の価格を聞いています。さすがやり手の投資家です。こうやって会社の状況を調査しているのでしょう。

悠人はいったん、うめづに好物のお好み焼きを食べに行きますが、ちゃんと家に夕飯を食べに来ます。

最初は久しぶり4人家族が集まってほっこりしていますが、じょじょに悠人と浩太が対立をはじめます。

工場を売ることを勧める悠人。簡単にはそんなことできない浩太。
ふたりは平行線で、気まずくなって「帰れ!」「帰るわ!」と喧嘩別れになります。

実家あるあるですね。
実家を出て行った子供が、なかなか実家に戻らない。家の近所まで来ていても
立ち寄らないのは、忙しいのもあるけれど、なんだか寄る気が起こらない。でも本当は気にはなっている。いざ、実家に来ても、親と考え方を巡ってすぐに対立して苦い気持ちで家を出る。

なんでこうなってしまうのか……というやりきれない気持ちを、めぐみ(永作博美)と舞が語り合います。

「悠人も家のこと心配してくれてるんやろうけど あんな言い方したらお父ちゃん傷つくやんか」と嘆くめぐみに舞は、
「せやけど、お兄ちゃんも傷ついてるのとちゃうかな」と想像します。

他人の気持ちを慮ることが得意な舞。この思いやりがギスギスした親子喧嘩に違う視点をもたらします。沸騰してふきこぼれそうになった鍋に水をいれたようにすうと穏やかなものになります。しんどいことは好まれないから描かないようになっている昨今ですが、触れないのではなく、あるものはあると描いた上で別の視点を提示する。ここにトライしているエピソードが新年第一話めであったことに希望を感じます。

また、この流れは、悠人が以前贈ってきた謎の金の置物がきっかけになっています。いま、10倍になっているから売ればいいと言い、その流れから工場を売ったら良いと言い出します。いきなり本題に入らず、ちょっと脇道から行くところがいですね。

カフェノーサイドで舞がしょんぼりしているとき、久留美(山下美月)が「アイスえらいことになってるで」と溶けたアイスで舞の心情を心配するところも文学的。

リーマンショックの傷は深いですが、作者の筆致は豊かです。

投資家・悠人の投資教室は、いきなり「損切り」。なかなかシビアーでした。

【朝ドラ辞典 帰郷(ききょう)】

ご当地ドラマ色の濃いドラマなので、主人公がいったん地元を出ても、なにかと帰郷し、故郷、実家の良さを味わうことが定番となっている。

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–{第65回のレビュー}–

第65回のレビュー

とてもしんみりした回でした。仕事はじめ2日目、どうしていいのやら……。

リーマンショックで経営難に陥っている実家のために舞(福原遥)はなんとかしたいと思っていますが、兄・悠人(横山裕)は、いずれ航空会社に勤務して
工場を継ぐわけではないのだから、無責任だと指摘します。なんてドライな悠人。でもこれも真理で、実家の工場の問題に限ったことではなく、世の中ではこういう問題がつきまといます。誰かが困ったとき助けたい気持ちはあるけれど最後までつきあえるか問題です。とことんつきあえないと中途半端と逆に批判されたりともすれば偽善とまで言われることもあります。被災地に関しても、何かしらのボランティアに関してもこういうことが往々にしてありますね。

落ち込んだ舞は柏木(目黒蓮)に国際電話します。遠距離の恋人の声を聞くだけで励みになる……のでしょうか。工場の状況を考えると、遠い恋人ということすらうまくいかない状況の暗喩のように思えます。ひょっとして柏木って寂しさの概念?と思えてしまうほどです。紅白歌合戦では福原遥さんと目黒蓮さんが主題歌を歌うback numberを紹介していたのですが。

「研修中だけどいろいろ学んでる」、うーん時間がなかったのかな、このセリフ。もうちょっと具体的な学びのワードがあったら良かったのに。

新規の仕事の可能性が出てきたものの、いよいよ会社の状態は悪く、さらにリストラが必要と追い込まれていく浩太(高橋克典)。社員たちはいつ首を切られるか戦々恐々で、社員の山田(大浦千佳)はまたしても舞にきつい嫌味を言います。でも舞は別に給料をもらっているわけではないと思うのですが、ほかに当たる人がいないから、社員のストレス緩和ーーサンドバッグの役割も舞に課せられた仕事なのかもしれません。舞が意地悪言われても山田に気遣い話しかけるのは自分の任務がわかっているからなのかもとフカヨミ。

そうこうしていると、初期メンバーの章(葵揚)が他社に行くと言い出します。以前からあやしい電話がかかってきていましたし、子供が3人いるので
仕方ないのです。こういったエピソードでよくありがちなのは、こんな状況での裏切りですが、そこまでひどい話にはなりませんでした。いや、むしろ、章はちゃんといい仕事をして会社に報いてから辞めるのです。先に船から降りる側にも正当な理由があり、共に働いてきた者たちの情は変わりません。浩太は残念がりつつも章を送り出します。

「もう一緒に働かれへんちゅうこっちゃ」「おまえがいてくれへんようになったら寂しいわ」とどこまでも人情派の浩太。「寂しい」とか言わず明るく見送ればいいのにとも思いますが、ストレートに「寂しい」と言ったほうが泣ける場面になるという作り手側の判断でしょう。

そんなに一緒に働きたい、あるいは人を辞めさせたくないと思うのであれば、
いっそ会社をいったんなくしてしまえばいいのではという気もしないではありませんが。悠人はそういう発想だと思います。一方、従業員全員仕事をなくすよりはリストラがまだマシなのではないかというめぐみ(永作博美)の発想(一応辛そうではありましたが)。ちょっと待て。切られる側にしてみたらたまったものじゃないですよ。お金がないよりも不要だと思われることは最高にきついですからね。人がほんとうに死ぬのは忘れられたときという言葉がありますが、不要な人として選ばれたのは死んだも同じですから。なんてことを思う視聴者もいるから、お話を作るのは難しいものです。

弱った浩太に、いざとなったらお好み焼きを一緒にやろう、「うめづいわくら」で漫才でもという勝(山口智充)の笑いにくるんだ人情と、なんといっても章がいい仕事を残して辞めていくことです。切られると愚痴るより、こういうほうが断然気持ちいいです。

【朝ドラ辞典 紅白歌合戦(こうはくうたがっせん)】

その年の朝ドラに出た俳優が紅白になんらかのゲストで出るのは恒例。司会や審査員や主題歌を歌ったアーティストの紹介をしたり。「あまちゃん」や「ひよっこ」などは出演者総出で大掛かりな寸劇を行った。

※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第66回のレビュー}–

第66回のレビュー

工場の起死回生を目指して、新製品のネジを本注文の前に作り始めた浩太(高橋克典)。ところが、取引先の設計が変わって取引がなくなります。もし注文されたら納期に間に合わないから先に作り始めたことが仇になりました。こういうことって町工場でなくてもあります。例えば、企画が通る前に書き始めてと編集者に頼まれて書いていたら企画が通らなかったなんてこともあります(涙)。

本注文を待つか先に動くか、どちらにしてもリスクがある。そんなときどちらを選ぶかーー。人生、選択の連続です。攻めるか守るか、攻めに出た浩太は選択を誤ってしまいました。でもこれは紙一重のことで誰が悪いわけでもありません。

そうまでして守りたかった工場。浩太が愛する仲間と積み上げてきたノウハウがある場所で浩太の話を聞く舞(福原遥)は、もっと手伝いたいと思うようになります。飛行機、どうした? と客観的には思いますよね。でもちょっと待って。こういうときは情にほだされてしまうものですし、舞がしたいことはたくさんの人たちの思いを背負っていくことであって、飛行機もそのひとつなのだと思います。

浩太とめぐみは、悠人(横山裕)にもほんとうの夢を叶えてほしいと言います。ドライな金融業だって彼のやりたいことで、それを夢ではないと断じてしまうのはいかがなものかとも思いますが、パイロットや金融や製造業という表面的な職業のことではなく、なぜそれをしたいのか、そのことの本質を見ることが大切なのです。つまり、舞も飛行機を作る→飛行機を操縦する→町工場を再生したい という変遷は決してブレてはいないのです。職業は彼女の夢(人生観)の本質に気づいていく過程なのです。

飛行機を作る→飛行機を操縦する→町工場を再生したい
胃潰瘍で入院する→復帰する→心臓発作で死亡

ともすればこれを物語と思ってしまいがちですが、これは物語ではありません。→やじるしの部分に物語があるのです。「舞いあがれ!」は→部分を書いています。これが「丁寧に描く」ということです。場面場面の人と人との心情のみならず、主人公の人生の道程(→)を丁寧に描くのです。

第66回の丁寧さは、死に至るまでのストロークです。浩太が突然に逝ってしまいます。病院で一瞬ポカンとして「うそや」と言いながらどんどん感情が昂ぶっていき医者にすがるめぐみ。永作博美さんの迫真の演技で涙が出ましたが、ドライなことを言えば、浩太の死は物語上必要な点です。胃潰瘍になって復帰してとひねりを入れてはいるものの、文字にすると、前述した「胃潰瘍で入院する→復帰する→心臓発作で死亡」と事務的な味気ないものに過ぎません。が、そこへ至る前に、めぐみ(永作博美)が働きすぎて工場で寝てしまい浩太が心配して探しに来てくれたという過去のエピソードを舞に語ります。それが、浩太の死と重なるようになっています。夜、めぐみが心配して電話すると浩太が出ません。心配して工場に見にいくと、事務所で倒れている。めぐみを心配してくれた浩太と、浩太の死に間に合わなかっためぐみ。だからこそ余計に哀しみが募ります。

また浩太の選択も、悠人に「損切り」するように助言されたり、彼が自分を信じることだと雑誌のインタビューで自信満々に語っているのを読んだりするなかで、損切りはしたくないし、俺だって自分を信じて勝負に出るのだという、父として、同性の男としてのプライドだったのではないかと思うと、また悲しくなるのです。

ひとりの父親の死に至るまでにじつにたくさんの心情が読み取れます。これが物語の楽しみです。

【朝ドラ辞典 死(し)】

たいてい途中で誰かが死に、それが主人公のターニングポイントになる。主人公の死で終わることもある。

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–{第67回のレビュー}–

第67回のレビュー

第66回で浩太(高橋克典)が突然亡くなり愕然としてからの、第15週「決断の時」(演出:田中正)は五島の祥子(高畑淳子)が訃報を聞いて急ぎ、東京に向かうところからはじまります。

祥子が出かけにふと仏壇のある部屋を振り返ると、浩太の記憶が蘇ります(この現在と過去のカットのつなぎがなめらか)。駆け落ちから何年もしてやっと和解しておいてよかったですよね。もしずっと確執があったままだったら駆けつけることもなかったでしょう。

貴司(赤楚衛二)も一緒に行きます。「なんで?」と浩太の死因を聞くときの語調が柔らかくてよかったです。

お葬式から帰ってくるめぐみ(永作博美)、祥子、舞(福原遥)悠人(横山裕)、貴司、勝(山口智充)雪乃(くわばたりえ)。いつもの路地がさみしげです。

めぐみ「こがんなことになって こがんつらいことってあるとやろか 母ちゃん よう耐えられたねえ 父ちゃん 死んだとき」

祥子「めぐみがおったけん まだ中学生で めぐみばちゃんと育てんばち それだけば考えて夢中で働いとった」

めぐみはいまになってようやく祥子の気持ちに気づきます。確執はとっくに溶けたようでしたが、大事な人が亡くなったときの気持ち、そのとき、自分のために頑張ってくれたのだと知るのです。
同じような経験をしないとわからないことってあるものです。それを2代続けての伴侶の死から描きます。祥子もめぐみも夫が早逝して、女手ひとつで生きていく。それが才津家の女の宿命? と思うと、舞も?と思ってしまいますね。舞はまだ結婚すらしていませんが。

第67回、回想への入り方がなめらかだった場面がもう1回あります。舞が疲れて帰宅して玄関で浩太の靴を見て、三和土で座って靴を磨いていたことを思い出し、たまらなくなります。「父ちゃん、もうおらん」と号泣する舞に寄り添うめぐみ。第1週で、シンクの前に座って泣いていためぐみに寄り添う浩太の場面を思い出しました。お葬式の帰りも、このシーンも、ずっと夕暮れ。NHKの演出家さんはこういうシックな場面がうまいですね。

浩太の死の哀しみを癒やす間もなく彼の残した会社をどうするかめぐみは迫られます。悠人は売るの一点張り。祥子が心配して「人間やバカ力でることもあっとぞ」と例の「向かい風」を例えに助言しますが……。悠人の凧はどこへいったでしょうか。

めぐみは自分が経営者になって浩太も守りたかった会社を守ろうと考えます。まるで祥子がめぐみを守るために頑張ったように。もちろん子育ても大変ですが会社はかなり大変だと思いますが……。

銀行の人から書類にサインを求められ、めぐみは緊張のあまり判をつくのに失敗します。一瞬、騙されるのでは……と不安になりました。

【朝ドラ辞典 母(はは)】

主人公を産み育てる、朝ドラには欠かせない存在。父は早逝したりだめな人が多かったりするが、母は強く頼れる存在であることが少なくない。なかには母が早逝するパターンもある(「おひさま」など)。劇中、主人公がやがて母となることも多い。普遍性の象徴のようにも感じる。

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–{第68回のレビュー}–

第68回のレビュー

「舞ちゃんの操縦する飛行機に家族が乗っていたあのシーンは幻だったのか」という「おはよう日本」の朝ドラ送りのごとく、舞(福原遥)の進路は急激に変化していきます。

まるで航空学校の訓練で天候悪化により帯広空港から釧路空港へ急遽、着陸地が変更になったようなものです。そう、人生にはいくつもの進路変更がつきもので、そのときどう冷静に行うかが大事です。

浩太(高橋克典)が亡くなり、めぐみ(永作博美)が社長代行を務めることになります。その矢先、頼りにしていた古川(中村靖日)が辞めてしまいます。この状況で自主的に辞める社員があまりいないのは、退職金も期待できないし、不景気で再就職がままならないからしがみつくしかないのかもしれません。
章(葵揚)といい、優秀な人は船を降りていきます。笠巻(古舘寛治)だけが頼り。

「逃げるの早、もうおしまいやな」と、山田(大浦千佳)が感じ悪いことを言いながら居座っていることに毎度いらっとしますが、古川がいなくなったらますます山田をリストラするわけにもいかなそうです。古川を責めるように言うのは意外と愛社精神があるのでしょうか。そのうちそういうところが出てくるのかもしれませんが、ここまで厭味ったらしい人物に設定しなくてもいいのでは……。いい人しか出てこないとスパイス足りないとも言えますが。

社長代行になったもののどうしようもない感じで、めぐみは早々に「たたむわ」と諦め気味です。舞は祥子(高畑淳子)に「よう探したらできることはある」と自分のやれることを探すことを教わって(祥子はお弁当を作っています)、努力していますが……。

工場をたたむことになって落ち込んでいる舞に、柏木(目黒蓮)から電話がかかってきます。「お父ちゃんがおらんようになって工場までなくなるとかほんとしんどいわ」とかなりはっきり口にする舞。でも柏木が「そっち行こうか」と言っても舞は気を使って断ります。

断られても行ってあげてほしい。パイロットとはなかなか時間がとれないものなのかもしれませんが、貴司(赤楚衛二)がすぐに戻ってきたこととどうしても比べてしまいます。
「パイロットになって親孝行すればいい」という励ましもどこか的外れな気がして……。どうなっていくのでしょうか、遠距離恋愛。

【朝ドラ辞典 遠距離恋愛(えんきょりれんあい)】

遠距離恋愛はなにかとドラマティック。『カムカムエヴリバディ』(21年後期)では安子が岡山、稔が大阪と離れた際は文通し思いを深めた。娘のるいは、愛する錠一郎がデビューの準備で東京に行き、滞在先のお嬢様の出現で不穏なムードになる。
『おかえりモネ」(21年前期)ではモネと菅沼がやたら入れ違いになって遠距離を続けた。
恋愛ではないが、夫が単身赴任先で浮気するのは『青春家族』(89年)。『おひさま』(11年)のヒロインの夫も一時期、自宅を離れて、ヒロインを心配させた。

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–{第69回のレビュー}–

第69回のレビュー

社長代行になったものの、経営がうまくいくとは思えないため、めぐみ(永作博美)は会社を畳むことにしました。社員はそのまま雇ってもらえるように工場を買って残してくれるところを探します。そんなふうにうまくいくかどうか……。

諦めきれない舞は、パイロットになるべきか、工場を守るべきか、悩み続けます。柏木(目黒蓮)の言うようにパイロットの夢を諦めないでほしいと願う久留美(山下美月)と「トビウオは水のなかにおってもトビウオや」と言う貴司(赤楚衛二)。ここでも2択で、心が決まりませんが、浩太の残した「歩みノート」を読んで心が動き、悠人(横山裕)に投資してほしいと頼みに行きます。が、悠人は頑なで……。

浩太(高橋克典)と喧嘩したまま二度とあえなくなったと傷をえぐる舞に向けた、悠人の険しい表情が印象的でした。やっぱり気にしているのでしょうね。

信用金庫が視察に来る日、めぐみと舞が工場を掃除するために早めに出勤すると社員たちが工場の掃除をしていました。この工場にこんなに人がいるのはじめて見ました。たぶん、これが通常なんでしょうけれど、いつもはそんなに人を入れて撮影できないのでしょう。

亡き浩太の心・「ええ仕事は機械の手入れから」をみんな引き継いでいる社員たちの明るい表情に、信用金庫の人たちも活気があると好印象です。

逆にそれでめぐみはやっぱり会社を続けるという気持ちになってしまいました。失いかけたものが惜しくなる気持ちは誰しもあるもので、だから断捨離は進まないわけですが会社という大きなものをやっぱり続けると決断することはかなりヘヴィーです。

この大きな決断ーー畳むから続けるまでが、まるで部屋の断捨離の「捨てる」から「残す」箱に入れ替えるように、15分の間に展開するストロークの短さは朝ドラならではです。いやむしろお金がからむ問題はじつはスピードが命、待ったなしなのでしょう。ゆっくり考えている時間はないのです。

めぐみが華奢で小柄なので大丈夫か心配になりますが、祥子(高畑淳子)が亡き父の職業・船を引き継いだわけは「あん船に乗ればいまもまだふたりで働いちょる気がすっとさ」と、父を忘れないためであった話を聞いて強く影響されたのでしょう。

夢に向かうとか、誰かのためにとか、前向きな話ではありますが、亡くなった人のことを決して忘れないという思いもこのドラマにはそっと織り込まれています。これこそが朝ドラだなあと感じます。

【朝ドラ辞典  田舎から誰か来る(いなかからだれかくる)】

朝ドラでは主人公の地元からはじまって上京してセカンドステージとなる。ご当地ドラマの側面もあるので主人公がたまに地元に帰るエピソードが不可欠。あるいは、地元(田舎)から遠路はるばる親や幼馴染が上京してくるというエピソードも。「舞いあがれ!」では祥子が浩太の死をきっかけに上京してきて、めぐみや舞や悠人に重要な言葉を投げかけて帰って行った。

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–{第70回のレビュー}–

第70回のレビュー

浩太(高橋克典)の生命保険っていくらなんだろう……と生臭いことを考えてしまいました。活気に満ちた工場の様子を見て会社を続けようとめぐみ(永作博美)は考え直しました。当座の資金は浩太の生命保険でつなぎ、まずはリストラをはじめます。
浩太はリストラしたくなくて頑張っていたのに、工場を残すためにはリストラしないとならなくって、社員は戦々恐々です。

笠巻(古舘寛治)は社長はリストラしないようにがんばり過ぎて亡くなってしまったのだと社員たちに言い含めます。笠巻さんは自分が残れると思っているからこんなことを言うのでしょうか。いや、むしろ、出世欲のない腕のいい職人だから真っ先に辞めるという選択肢もあるし、やっぱり最古参としてめぐみの右腕にならないといけないという責任も感じているかもしれません。物語的にはこの人がいなくなるということはありえないでしょう。

リストラしないで済むように仕事を増やそうとしましたが、慣れないめぐみが社長になったことで信用が下がって仕事が減ってしまいます。
致し方なく、社員数人に退職勧奨をはじめます。

素直に了承する人、なぜ俺なんですか?とねちねち言いながらも受け入れる人、辞めませんとつっぱねる人と様々です。

この場に、舞(福原遥)がいることが謎。経営に大きく関わってないのに、まったく仕事に詳しくないのに、めぐみの手伝いということでいるのでしょうけれど、浩太を信頼して勤めてきたのに、残った妻と娘が会社をある意味乗っ取って、社員のクビを切っていくと思われても仕方ない気がします。

ちょっと粘った人は「お嬢ちゃんもこんなこと手伝うて大変やな」と言って去っていきます。「お嬢ちゃん」に嫌味がこもっているように感じました。

退職勧奨のシーンで終わってしまって、なんだかもういたたまれません。「あさイチ」でも「かける朝ドラ受けがないですね」と博多華丸さんが弱った顔をしていました。博多大吉さんは、「何が苦しいって悪い人がひとりもいないんですよ」と辛そう。そう、リストラをお願いするほうも心苦しくてしょうがないのが伝わってきますから。おもしろく受けられなくて「力不足」「申し訳ない」と頭を下げる流れに。この正直な受け、しかも自分たちの「力不足」ということにして丸く収めるところがさすがの技です。

それにしてもこれほどしんどい展開を描くのもトライでしょうか。でも朝ドラだから明日になったら解決するんじゃないかと予想しますが、さて?

毒舌の山田(大浦千佳)は、事務仕事のできる人がほかにいないから辞めさせられないと思って態度が大きいのでしょうか。

【朝ドラ辞典 朝ドラ受け(あさどらうけ)】

朝ドラのあとに放送される「あさイチ」にて司会が今見た朝ドラの感想を述べること。「ゲゲゲの女房」(10年)からの伝統になっていて、司会が変わっても受け継がれている。いまでは朝ドラと朝ドラ受けをセットで見ることで朝ドラが完成するようにも考えられているところもある。朝ドラをツッコむ習慣を作り出した要因とも言える。

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–{第71回のレビュー}–

第71回のレビュー

先週の父の死に続き、今週の金曜日も衝撃でした。舞(福原遥)と柏木(目黒蓮)が……。
これについては後述しますが、そこも含めて舞は迷走しているように見えます。

会社存続のために3人、リストラをすることになり、2人は承知してくれましたが、小森(吉井基師)だけ辞めることを拒否しています。2人の再就職先をめぐみ(永作博美)が決めてきたので、むしろ意地を張っている小森のほうが損な気もしますが……。

舞は諦めず小森の説得しますが、舞の説得を圧力かけていると言ったり「俺はそんなにこの会社にとっていらん人間なのか」と問いたりします。笠巻(古舘寛治)いわく、プライドが傷ついたのではないかとのこと。地道にコツコツ会社のために尽くしてきたのに、全員解雇ではなく、数人だけというのはたしかに傷つきます。

それではじめて舞は、小森がどういう人であったか知ることからはじめ、彼の個性を売り込もうとします。近所の職人仲間のおじさんたちに聞いて、紹介してもらい、その人に小森の仕事を見てもらったうえで、再就職の話を持ちかけます。
自分の仕事を認めてもらったため、ようやく小森の心が動きます。
でもこれ、章(葵揚)のときのように向こうから自主的に誘いが来たふうにしたほうがもっと良かったのでは……と思いますけど、舞と小森が和解しないといけない流れだから仕方ないんでしょうね。

若干、もやもやしながら見ていると、そんなもやもやは吹っ飛ぶような展開が待っていました。
忙しくて、柏木の電話にも出なくなっていた舞を心配して、ついに柏木が訊ねてきます。遅いけど。しかも、たった一回、会いに来て、話したことは、なんと別れです。

舞はパイロットを目指さないと決めたら、目指す道が違うから分かれる。わかるようなわからないような選択です。まあ、そういうこともあるのはなんとなくわかりますけれど……。柏木は、航空エリートの家に生まれているから、つきあう人や結婚する人は航空関連であることが前提だったのでしょうか。お互い、航空関連の話をして高めあっていきたいということで、そこから外れた舞とはもうつきあえない。舞も舞で、パイロットの道を目指さないならもう柏木とつきあえないことを自覚しているのです。
柏木も、舞も、どちらも相手に未練を残してないのがすごい。昔のドラマだったら、どちらかがすがりつきそうなものですがこれが現代の恋愛もの?

それにしても柏木、亡くなった浩太(高橋克典)に挨拶して隣の布団で寝たにもかかわらず、まったく責任もとうという気持ちはないようで……。書き方はソフトだけれど、愛情の薄い人物としか読み取れない気がしますが、どうなんでしょうか。

別れの場所・公園のセットに気合が入ってました。美術さん、おつかれさまです。

【朝ドラ辞典  失恋(しつれん)】

朝ドラのヒロインの初恋はたいてい実らない。

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–{第72回のレビュー}–

第72回のレビュー

「向かい風に立ち向かう舞ちゃんとめぐみさんの挑戦がはじまりました」
(ナレーションさだまさし)

第16週「母と私の挑戦」(演出:原田氷詩)のはじまりのナレーションはじつに端的でした。めぐみ(永作博美)が社長になり、舞(福原遥)はハカタエアラインの内定を辞退し、会社の再建をめぐみと共にがんばることになります。報酬なしで働くのでしょうか。社員の人たちは舞が内定断って会社に全力を注ぐと聞いて一瞬驚きますがすぐに冷めた態度になります。自分たちにはまったく関係ないという感じです。

めぐみの社長体勢で経費削減と在庫処理、人員整理を行い、融資の返済期限を半年延ばしてもらい、それまでに経営を立て直すことになります。
在庫処理と人員整理って似てますよね。胸が痛いです。

舞は梱包のみならず営業に行くことになりました。まずは電話営業。断られたら、飛び込み営業。先輩社員・藤沢(榎田貴斗)にならってがんばりますが、やったことのない営業をひとりでやるのはなかなか大変で……。

営業に力入れますとめぐみは言ってますが、そもそもIWAKURAって営業力が不足してないでしょうか。営業部員少な過ぎますよね。これまで長年のつきあいでやってきて営業いらなかったのかな。

飛び込み営業して、目の前で居留守使われてもがんばる舞。
以前、浩太(高橋克典)が営業にいって信頼関係を勝ち得た会社にも行ってみます。が、「お世話になりましたんや」と言うからなにかしてくれるかと思いきや、簡単に信用できないと厳しい。会社の製品を理解しているのかと問われ、舞は勉強する気になります。単純に人情話で解決しないところがいいですね。

「無駄に張り切ってはるわ」と山田(大浦千佳)は相変わらず毒舌。
山田はメイクしながら舞のまじめな話を聞いたりして。口も悪いうえに、合コン三昧で、仕事中に口紅塗っているのって態度悪い。

まじめに考えると、舞に彼氏いるか聞くことは、同性同士ならハラスメントにならないのでしょうか。残念ながら、ドラマの時代設定、2009年時点ではまだハラスメント意識は日本では根付いていませんでした。さかんに言われるようになり制度が整っていくのは10年代に入ってからです。それ以前は山田のような存在がはびこっていたのであります。いくら仕事ができたとしてもこんな人はまず最初に辞めてもらってほしいですが、「あさイチ」でもそのうち、いいところが出てくると思って見ているようで……。そういうお約束(感じの悪い人もあとから変わる)前提で見ていないとやっていられません。

なぜ山田がリストラされないのか。こういう憎まれっ子キャラがアクセントになっているのはわかります。たぶん、このひとがいないと、いまの展開、リアルにしんど過ぎるのです。どこにぶつけていいかわからないもやもやを山田腹立つ〜、リストラされろ〜と思うことで視聴者の気持ちが解消できるのだと思います。いなくてはいけないキャラなのです。

向かい風のなかでも、「これから忙しくなるやろうけど晩ごはんは一緒に食べような」と舞がめぐみに言いながら夕飯を食べるところなんかは朝ドラらしさなのだろうなあと思います。

【朝ドラ辞典 転職(てんしょく)】

朝ドラのヒロインが職業を変わることはよくあることなので気にしてはいけない。

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–{第73回のレビュー}–

第73回のレビュー

営業の説得力を高めるため舞(福原遥)はネジの勉強をはじめます。笠巻(古舘寛治)によるねじ教室が開かれ、そこにめぐみ(永作博美)も参加します。
「ようやるわ」としらけている山田(大浦千佳)ですが、職人の土屋(二宮星)も「ネジ好きなんで」と参加します。

夜、帰宅しても舞は勉強を続けます。その場所が自分の部屋ではなくて、浩太(高橋克典)が使っていた土間ぽい物置のような、いわゆる男の隠れ部屋的な場所です。そこでお父さんを偲んでいるのでしょう。
と、そこへ、悠人(横山裕)がふらっとやって来ます。
食卓ではカレーのにおいがして、「カレーあるけど」「いらん」というやりとりをしていると(たぶん悠人はちょっとカレーに惹かれている)、めぐみが帰ってきて雪乃(くわばたりえ)からもらった梨を悠人に「お父ちゃんにお供えしてあげて」と渡します。それも拒む悠人。

カレーと梨という素朴なアイテムを使いながら、悠人が相変わらず素直になれない様子をていねいに描写します。最近、こういうところを省略しがちな作品も多いですが、やはりこういうところが大事だと思います。

本題は、悠人がめぐみに、工場の土地にマンション建てたらどうかと提案することです。彼は彼なりに心配していますが、その表現がねじれきって、うまくいきません。きっとお辛いことでしょう。

兄は屈折しまくって淀んでいますが、舞はまっすぐ澄み切っています。久留美(山下美月)八神(中川大輔)とつきあうことになり「ハッピーハッピーハッピーやで」(by津田〈たくませいこ〉)な状態ですが、柏木(目黒蓮)と別れた舞に気を使ってそのことを言わないようにしていました。舞は全然気にせず心から久留美の幸せを祝います。その背景には、貴司(赤楚衛二)からすてきな短歌が書かれたはがきが送られてきたからというのもあるでしょう。歌人でもある脚本家・桑原亮子さんの書く短歌はホンモノ感に溢れています。

久留美もほんとうにいいひとで、自分の話ばかりしてしまったと舞の話を聞こうとします。こんなに穏やかで気を使い合う友人関係、すてきですよね。

いい人間関係のなかでがんばる舞。第73回はようやく上向いてきたように感じますが、相変わらず山田だけいやな感じ。合コンの前にマニュキュア塗って乾かしています。いまのIWAKURAの状況でこんなに暇な社員を残しているのって、よっぽど山田が仕事が速くて正確な優秀な人物だということなのでしょうか。

【朝ドラ辞典 二宮星(にのみやあかり)】

「カーネーション」(2011年度後期)でヒロイン糸子の子供時代を演じた俳優。成人糸子役の尾野真千子と共演しているタイトルバックも印象的で、視聴者に愛され、のちに糸子の次女役も演じた。2002年、大阪生まれ。11年経って二十歳になり、「舞いあがれ!」で朝ドラに再び出演した。


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–{第74回のレビュー}–

第74回のレビュー

舞(福原遥)めぐみ(永作博美)がネジの勉強をはじめたことをきっかけに状況が上向いてきました。年末年始にかけてしんどい展開でしたが、ようやくほっと一息つけた感じがします。

舞はネジをかっこいいとうっとりしたりして(第72回)、やっぱり機械工学が好きなのだと思います。もうちょっと極端に理系キャラに描いても面白かったかなと思いますが、それはそれ。

浩太が心をこめて作った太陽光発電のためのネジをお守りに持って営業に向かった舞は、勉強の成果である豊かな商品知識で、とうとう営業先の心を動かします。その姿はまるで浩太(高橋克典)が乗り移ったかのようで……。物事に対する真摯な姿勢が浩太の本質なのでしょう。

一方、めぐみ。藤沢(榎田貴斗)がリーマンショックのとき、とにかく仕事を入れようと単価の安すぎる仕事をとってきてしまったため、逆にやればやるほど経営を圧迫していた案件をなんとかしようと動き出します。

めぐみに関してはツッコミどころが多々あって……。大学を中退して結婚してからずっと浩太の会社を手伝っていたにもかかわらず、会社の仕事に関する理解がかなり不足しているうえ、会社の人たちも、めぐみをかなり軽視しているのを見るにつけ、いままで何をやっていたのか……と思いますけれど、事務的な仕事をしていたら、職人関係のことはまったくわからないものなのかもしれません。それと、リストラしたから、職人たちは不信感を抱いたのかも……。

経費削減と在庫処理をしたと言っていたのに、赤字を出している仕事がまだ残っていたというのもよくわからないのですが……。そのへんのもやもやをふっ飛ばすような、めぐみの目覚ましい活躍がありました。
藤沢と共にめぐみは値上げ交渉に向かいます。会社の社長は意地悪い対応をしますが一歩も引きません。主婦が家計を見直すようなことしかできない、とばかにされても「主婦が家庭守るように、社長は会社守らなあきません」と返します。
ねじの勉強をしたからこそ、値ごろ感がわかり、どこでもこの安価ではできないとわかったうえで強気で交渉に出ます。さらに、一方的にお願いするのではなく、相手のことも考えてますよ〜という感じを出します。
「新しい価格は弊社の職人たちのもつ技術への正統な対価やと思っております」
ときっぱり仕事に誇りを持ってお願いして交渉成功。かっこいい〜。

藤沢はそのときの様子を会社に戻って皆に伝えます。
「われ、文句あんのけ」と啖呵切ったと話を盛って、
「われ?」「奥さんそんな柄わるうないやろ」とツッコまれます。こうして、伝説はつくられていくのでしょう。

山田(大浦千佳)まで、舞が仕事をとれたと見たら、様子が変わってきました。調子いい人だなあ。

【朝ドラ辞典 ドジっ子(どじっこ)】

舞はコーヒーのお盆をひっくり返したり、勉強に夢中になって遅刻しそうになってケータイを忘れたり、時々ドジっ子になる。
ドジっ子キャラが愛される場合もあるし、嫌われる場合もあり、さじ加減が大事。


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–{第75回のレビュー}–

第75回のレビュー

舞(福原遥)が薄型テレビのネジの受注をもらって帰社すると、社員がみんな私服に着替えて待っていました。山田(大浦千佳)は図面を見るまで信用できないからと言います。相変わらず、口が悪く、お嬢さん呼びもどこか小馬鹿にして聞こえますが、舞が大口の取引を成立させたとあれば見る目も変わるようです。

喜んだのもつかの間、ネジの設計ができるひとがいません。そんなアホな……。この会社、どういうふうに人員整理したの? と思ったら、辞めた章(葵揚)から託されたという尾藤(中村凛太郎)が名乗りをあげました。

おお!と盛り上がったら、機械が壊れて、振り出しに戻ります。

上がったり下がったりウェーブの高低が激しい。

納期まであと1ヶ月。さてどうする?というところで舞が章に電話、協力を要請します。
章が正規の仕事のあとに手伝ってくれると聞いたほかの職人たちは、辞めていった者に図面を渡すなんて……とぶつくさ言います。
章に合わせたら残業になりますから。残業手当なんてつかないですから。

そのとき真っ先に、手伝うと手をあげたのがーー山田でした。
どよどよーー。
さらに手伝うと言うのが、土屋(二宮星)
女性ばっかりです。彼女たちに引っ張られて、みんな章といっしょにネジ開発に励みます。

こういう人情もの、みんな大好きですよね。とはいえ、山田が残ってもなんの意味もないと思ったら、買い出しなどを率先してやります。遅くまで残って働いていますから、なにか食べたいですものね。それってめぐみ(永作博美)や舞が気づくことなのでは……。

山田という人を印象づけたいがために状況を捻じ曲げている感じに引っかかるひとと、気づいていても気にしないひと、そんなこと気づきもしないひとが世の中にはいます。

章に戻って来てほしいけれど、彼に給料が出せないことを悩むめぐみはついにある決意をーー。

山田に辞めてもらって章に戻ってもらったほうがいいとどうしても思ってしまいます。第74回から75回にかけて山田がようやく意地悪じゃなくなってホッとしているひと、大喜びのひと、いろいろでしょう。個人的には、山田のような抜け目ない、状況によって態度を変える人物は苦手です。意地悪な態度を改めて好意的な態度になれば万事解決ってこともないと思うからです。勤務態度が悪いのは事実なので。

これが経営安泰な会社だったらともかく、明日をもしれない会社にぶつくさ言いながら居座って合コン三昧していて、意地悪していた社長の娘が儲け仕事をもってきたらすぐ食いついて手伝うと言い出す、というバランスの悪いひとをなぜ描くのか。

でもIWAKURA全員が清らかな善人だったらそれはそれで禅寺のようで居心地悪いので、やっぱり山田みたいなひとがいていいのでしょう。それが俗世です。

【朝ドラ辞典 一致団結(いっちだんけつ)】

朝ドラに限ったことではないが、なにかあって、関係者が一致団結するのは感動ポイント

※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第76回のレビュー}–

第76回のレビュー

会社の運転資金がほしい、めぐみ(永作博美)悠人(横山裕)に工場を買い取ってほしいと投資の話を持ちかけます。売ってそのまま工場を続け、うまくいけばそのまま、万が一うまくいかなくなったら悠人がいつでも工場を好きにできるということです。

お金ができて助かるけれど、さらに重責がのしかかります。
「なんや力沸いてきたわ」と舞(福原遥)も逆に闘志を燃やします。才津家の女たちは、祥子(高畑淳子)を筆頭に、火事場の馬鹿力が出るタイプのようです。

章(葵揚)に手伝ってもらってネジの試作を続け、ついに完成。IWAKURAが一体になっている雰囲気に、浩太の言葉を思い出す舞。

久しぶりに仕事の楽しさを味わった章は、IWAKURAに戻ってくることになりました。会社辞めてバイトしてたわけでもないのにこんなに簡単に戻ってこれるのかしら? とも思いますが、章は笠巻(古舘寛治)と共に長年IWAKURAにいたひとだからこれでいいのです。

舞は仏壇に、はじめてとった仕事ーーねじをお供えします。
悠人も力を貸してくれた、とめぐみは報告します。そう、悠人もなにやかんや言いながら、外側から家族を心配しているのです。

お父ちゃんがいたら……と思いを馳せるめぐみですが、お父ちゃんが亡くなったからめぐみも舞も自立し、悠人も少し素直になったのでしょう。ちょっぴり皮肉な話でもありますね。

年末年始、辛い話が続き、浩太だけは戻っては来ませんが、みんなに幸せが戻ってきました。貴司(赤楚衛二)も東大阪に戻って来て、短歌が今月の新聞に載って、八木(又吉直樹)もふらっと戻って来てデラシネを託します。五島でも、朝陽(又野暁仁)がすっかり生き生きして、島で子供を受け入れる活動をしようとしているみんなの励みになります。久留美(山下美月)も八神先生との交際が順調。

貴司の短歌の、”陽だまりのほうへ寝返り打つ” という言葉どおりの回でした。でもこの短歌、寝返り打つのが昆布というのが、新聞の評どおり「着眼点がいい」ですよね。しかも「開いていく」という下の句。明るいほうに向かったうえに開いていく、心身ともに開放された感じがする、短歌の出来の良さが光り過ぎていてやばい。

それと、エンド5秒草刈正雄さん。21日放送の土曜ドラマ「探偵ロマンス」に探偵・白井三郎役でご出演です。違うドラマのほうが気になってどうする!?
つながりがないわけではありません。草刈さんは「なつぞら」で、高畑淳子さんと同志的な役を演じていました。

【朝ドラ辞典  エンド5秒(えんどごびょう)】

毎日の放送のあと、5秒間は視聴者参加のコーナー。毎シリーズ、テーマを決めて、視聴者の投稿を紹介する。作品のテーマに沿ったものが多い。「舞いあがれ!」では飛ぶがテーマになっている。

【朝ドラ辞典 草刈正雄(くさかりまさお)】

「なつぞら」(2019年)でヒロインなつ(広瀬すず)の祖父・泰樹を演じて、絶大な人気を博した。

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–{第77回のレビュー}–

第77回のレビュー

第17週「大きな夢に向かって」(演出:野田雄介)は2013年の夏になり、状況がずいぶん変わりました。舞(福原遥)は営業部のエースになったとナレーション(さだまさし)が報告します。営業部の先輩はどうしたんでしょう、出世して現場から退いたのでしょうか。それはともかく舞は言動がしっかりしてきました。もともと機械が好きだから自信をもって商品知識を披露し提案します。飛行機の絵を描いていたことも手伝ってか、図もうまい。車も運転しています。自立した人という感じです。

舞はめぐみ(永作博美)のことを「社長」と呼んでいます。それが当たり前。つまり、IWAKURAはすっかり通常営業になったということです。安定してきたので従業員を増やそうとして、以前リストラした人たちを呼び戻します。一度断られたネジの検品パートの人たちを舞が熱心に頼んで戻ってきてもらいました。ひとりはすでに戻ってきていました。こういうのはほっこりしますね。

ただ、イケズキャラ・山田(大浦千佳)とはすっかりふつうに話すようになっているのは、そうなると張り合いないと思ってしまうのが視聴者の身勝手。でも、山田、表情が柔らかくなって、あたたかいリアクションしていて、キャラ変しすぎ。やっぱりあの時期はリストラが怖くて、人が変わったようにピリピリしていただけなのでしょうか。合コンはどうしたんでしょうか。

推測ですが、作家は山田の描写にはさほど興味がないのだろうと思います。デフォルトのキャラですからね。心がこもっているのは、貴司(赤楚衛二)です。歌人として順調に活躍しています。貴司の短歌は脚本家の桑原亮子さんが作ったものだそうで、大変すてきではありますが、それを褒めるセリフを自分で書いくとき、どういう気持ちなのかなと気になります。
「ひととちゃうとこ見てる そこがいいねん」と自画自賛になるわけですよね。でも、いい歌なので自画自賛してもOKです。
貴司は舞に料理(ナポリタン)も作ってくれます。仕事で疲れて立ち寄る場所ですてきな男子がナポリタン作ってくれる。最高じゃないですか。

デラシネに、かつての貴司のような少年が来ています。ずっとここにいたそうですが、友達が「たこせん食べにいこ」と言うと気を変えます。この友達は気難しい少年の扱いを理解しています。五島にも、東大阪にも、社会に馴染めない子供の受け入れ場所があります。

そして舞は父の悲願をかなえようと考え始めます。飛行機から遠く離れたように見えて、再び、飛行機に近づいてきました。お父ちゃんの夢かなえたいと言いつつ、自分の夢もまだ捨てきれていないのではないでしょうか。

【朝ドラ辞典 時間経過(じかんけいか)】
主人公の人生、半生を描く長いドラマなので途中、時間が一気に飛ぶときもある。

【朝ドラ辞典 ナポリタン(なぽりたん)】
喫茶店の定番。「あまちゃん」(13年)のナポリタンを「あばずれの食い物だよ」というのは名セリフ。昔のドラマや映画の不良はナポリタンを食べると春子(小泉今日子)が言う。

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–{第78回のレビュー}–

第78回のレビュー

舞(福原遥)はおとなしく見えてなかなかガッツがあります。IWAKURA の経営が安定してきたら、父・浩太(高橋克典)の悲願である航空機の部品づくりを目指そうと考えはじめます。高い山に昇ることに燃える性分は、人力飛行機を操縦するときからありました。つつましそうに見えて、高く高くーーと高みを目指すキャラなのです。要するに「てっぺん」目指す、なにわのヤンキー的なひとなのです(若干偏見)。兄・悠人(横山裕)が金髪なのも、そう思うとわかりやすい。じつは、岩倉家、オラオラ系なのではないでしょうか。回想シーンで悠人が黒髪だったのが、こんな時代もあったなーと懐かしく思いました。

そんな舞と比べて、貴司(赤楚衛二)は意外と気弱です。短歌賞に応募するにあたり、短歌は自分のすべてだから、それを審査されると思うと緊張してしまうようです。あちこち、旅してきて、五島の灯台で野宿(たぶん)するくらいのたくましさのある人ですが、心はとても繊細です。だから、舞の無邪気な前向きさに救われるのです。

ガツガツ働く舞が仕事で疲れてデラシネに来ると、貴司が料理を作る(第77回)というのは、なかなかいい関係性だと思えます。
デラシネ常連になっている子供が、「なあ、ふたりつきあってんの?」と訊くのも無理はありません。でも、舞は即行「友達」と否定します。福原さんがおっとりしっとり、ビジュアルもお嬢様ふうにしているから、そう見えないのですが、舞はわりと、さばさばした、恋よりも機械と戯れることが好きな人なんだと思います。

舞が買ってきた食材を「見せて」とのぞいて、料理のアイデアを提案する貴司の場面が、なんともいい雰囲気でした。

西のひとには、女性がやたらと元気で、男性がやらかい感じの組み合わせをよく見る気がしていて(個人調べ)、舞と貴司ってそういう感じがします。貴司って京都の老舗も若旦那役が似合いそう。

ほんとうは舞もナイーブ設定だったはずですが、飛行機と出会って強さが際立っていった感じがします。

さて、舞は、飛行機部品に参入しようと猛勉強をはじめ、セミナーに参加して、浩太が昔つとめていた大手企業・菱崎重工の事業本部長の荒金正人(鶴見辰吾)に出会います(荒金という苗字が猛々しい印象)。飛行機部品の道が開かれそうで……。

荒金は、各々、プライド高く思惑のある中小企業が力を合わせることが可能かと訊くと、舞は自信満々にできると言う。人々を束ねていこうとするのもどこかオラオラ系ですよね。

【朝ドラ辞典 新キャラ(しんきゃら)】

朝ドラに限ったことではないが、話の途中で新キャラが出てくると、
新展開がはじまる予感がして、空気が変わる。大きな転換の場合、有名俳優がキャスティングされ、貫禄の登場となる。

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–{第79回のレビュー}–

第79回のレビュー

菱崎重工の荒金(鶴見辰吾)がさっそくIWAKURAにやって来ました。
舞(福原遥)が営業から社に戻ると、山田(大浦千佳)藤沢(榎田貴斗)が大騒ぎしていて、舞が荒金を知っていたのでびっくりというほのぼの展開です。ところで、藤沢くんは舞に営業部のエースの座を奪われたのでしょうか。いや、藤沢はそもそもエースというキャラではなさそうでしたね。

荒金はさっそく、航空機部品の正式な発注を見据えた試作を打診しますが、めぐみ(永作博美)は航空機部品への参入に乗り気ではありません。舞は図面を見せてもらいます。

ここで注目したいのは、“正式な発注を見据えた試作”と確認しているところと、部外秘の図面を見てもいいものか確認するところです。過去、正式な発注を見据えた試作と確認しないで浩太(高橋克典)は会社を危機に陥らせました。また、部外秘のネジの図面を、他社の社員だった章(葵揚)に見せて相談に乗ってもらっていました。過去、こういうのあり?と視聴者が疑問に思ったところを、ちゃんとわかってやってますよ〜的にここで回答しているような形です。

もうひとつ言及してほしいのは、ほかの工場はどうなっているかについてです。5年前にいまの工場を作ったとめぐみが荒金に話していて、そういえば、前の工場はどうしたのだろう? と思った視聴者もいるのではないでしょうか。工場を増やして会社を大きくしたはずで、会社の危機のとき、前の工場だけ売るというような対策は考えられなかったのか。それは当然やったうえで困窮していたのか。リストラするときに工場も手放したのか。工場いくつかあったわりに社員が少ないしいつも同じメンツしかいない。などといろいろ疑問が沸いてきます。

さて、笠巻(古舘寛治)たちも航空機部品に対して消極的でしたが、舞が「どうしてもこれやりたいんです」と懸命に頼みます。その情熱に動かされ「お父ちゃんも頑固だったけどあんたそれ以上やな」と苦笑いの笠巻。めぐみも許可します。

「見せてあげたいなあ」「リーダーは舞なんやで」とめぐみは仏壇に涙ながらに語りかけていると、雪乃(くわばたりえ)がお土産を持ってきます。
母親同士の会話は、子供が27歳にしていまだ独身であることです。今週は「ふたりつきあってんの?」(第78回)といい、この会話といい、舞と貴司(赤楚衛二)の関係を意識させます。なんか展開ありそうな予感……。
飛行機の夢も気になりますが、人間関係も気になります。

【朝ドラ辞典 後出し(あとだし)】

ある出来事に関して、その瞬間には言及しないで、あとからその出来事に付随する情報を描くことがよくある。フックがついて、印象に残るのと、物語が物切れにならず、繋がって思える効果がある。

【朝ドラ辞典 仏壇(ぶつだん)】
主人公の家の必須アイテム。亡くなった人と繋がる大事なもの。

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–{第80回のレビュー}–

第80回のレビュー

夢の航空機部品づくりを目指し始めた舞(福原遥)ですが、なかなか成形が難しい。辞めた小森(吉井基師)の再就職先である長井金属の機械を貸してもらえないかと考えます。

舞と笠巻(古舘寛治)がうめづに長井社長(や乃えいじ)を呼んで待っていると、意味深なカメラワークで、やって来たのは小森でした。ちょっと気まずい感じがあります。小森に帰ってきてほしいけれど、長井に義理があるでしょうし、なにより意地もあるでしょう。めぐみ(永作博美)は一度、復帰を打診したようですが、帰らないと言っているようです。会社ってそんな簡単に行き来できないですよね。

長井の機械を借りることになって舞が工場に行くと、なんと長井は廃業するそうで……。うめづに長井を向かわせたのは、IWAKURAに戻る話ができるように気を利かせてくれたのかもしれないですね。

でも小森は一度、要らないと言われた身、いくら再就職先を探さないとならないからと言って、ホイホイ戻れません。

それにしても、小森さんは不運です。リストラされたうえに、再就職先が4年で潰れてしまうなんて……。長井さんは跡継ぎがいないから潰すと言うのですから、誰かに(それこそ小森に)任せたらいいのにと思うのは短絡的でしょうか。

視聴者的にはこの流れは小森が戻ってくるお膳立てと感じますが、IWAKURA は生き残って、長井金属は廃業、この差が哀しい。

時代と状況が変わっていくなか、どうやって生き残っていくか、悩むのは東大阪の町工場だけでは有りません。五島でも寂れていく島をどう活性化するかが早急な課題です。

さくら(長濱ねる)はいち早く、ちょっとおしゃれなカフェをつくって、みんなの憩いの場になっています。観光客より地元の人が集まって見えますが、たぶん、観光客も地元民にも愛されているのでしょう。

注目は、さくらが例のむっちゃんとどうやら結婚したようであることです。
カフェには「むっちゃんのきまぐれパスタ」というメニューもあり、存在していることを匂わせます。「夫婦になってもデートは必要」というせりふや指輪、クレジットで苗字も変わっていました。

五島の人たちが町おこしのアイデアを語り合う場面は活気がありました。
高畑淳子さんと鈴木浩介さんは劇団青年座同士(鈴木さんはすでに退団)なので息ピッタリに感じます。

【朝ドラ辞典 顔出ししないひと(かおだししないひと)】

名前だけ出て来て顔が出てこない人物がたまにいる。「おかえりモネ」の宇田川、「カムカムエヴリバディ」の鈴木くんなど。出てこないが妙にキャラが立っていて人気キャラになる。

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–{第81回のレビュー}–

第81回のレビュー

長井金属工業の機械を借りてニッケルねじの試作を繰り返す舞(福原遥)たちですが50回やってもうまくいかず悩んでいると、小森(吉井基師)が手伝ってくれてうまくいきそう。

97年の歴史を誇った長井金属工業の機械が役に立ってよかったと考えるべきか……。うめづで内々の送別会が行われました。たぶん、IWAKURAとしてのお礼の会みたいなものでしょう。長井金属の人たちは小森以外、ひとりもいないので。東大阪の町工場仲間との大々的な送別会も別途行われるのでしょう。

長井社長(や乃えいじ)が「普通の女の子に戻ります」と剽軽なことを言います。それだけ辛いのでしょう。97年、あと3年で100年だったのに惜しい。だからこそ、飲み会みたいなこともあまりやりたくなく、ひっそりとやりたかったのかもしれません。この会すら断っていたかもしれないと想像してしまいます。なにしろ、会社をたたむこともあまり言ってなかったようですし。

長井さんの存在意義は、小森を4年間、雇っていたことにもあります。リストラするしかなかった小森を引き受けて、ここまで給料を払ってきたのです。小森を引き受けてくれていなかったら、今回のピンチに小森が助けてくれることもなかったでしょう。

小森を引き取ったばかりに廃業……っていうわけではなくもっと大きな問題なのでしょうけれど、なんだかもやもやします。そこで考えたのは、IWAKURAは意地でも辞めない選択をする例であり、長井は潔く辞める選択の例。どちらも人生にはあるということなのです。長井のような選択もあっていい。

というところで、あっていいの例としては、もうひとつ、行きつけの店ノーサイドでのプロポーズです。久留美(山下美月)八神(中川大輔)にプロポーズされましたが、元バイトしていた店。それもとてもカジュアルな。
熊野律時チーフプロデューサーは、よく知っている店がいい、と語っています。例えば、月9「監察医 朝顔」では、行きつけのもんじゃ焼き店でプロポーズされたヒロインはいささか不満げでした。その気持ちもわからなくないし、そういうのがない久留美は久留美で本当にいい子だなと感じます。これもまた、どちらでもいいのでしょう。それぞれの価値観の違いを尊重したいと思います。

貴司(赤楚衛二)は短歌賞を受賞。状況が一変しそうな予感?

舞も貴司も久留美も27歳が転機になりました。

【朝ドラ辞典  プロポーズ(ぷろぽーず)】

人生で大事な転機。たいていは男性のほうから言い出すが、「ごちそうさん」(13年度後期)ではヒロインから言った。「あなたを一生食べさせます。だからわたしを食べさせてください」(第24回)

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–{「舞いあがれ!」作品情報}–

「舞いあがれ!」作品情報

放送予定
2022年10月3日(月)~

<総合テレビ>
月曜~土曜: 午前8時~8時15分 午後0時45分~1時(再放送)
※土曜は一週間を振り返ります。

日曜: 午前11時~11時15分(再放送)
翌・月曜: 午前4時45分~5時(再放送)
※日曜、翌・月曜は、土曜版の再放送です。

<BSプレミアム・BS4K>
月曜~金曜: 午前7時30分~7時45分
土曜: 午前9時45分~11時(再放送)
※月曜~金曜分を一挙放送。

出演
福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月 、目黒蓮、高杉真宙、長濱ねる、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、鈴木浩介、哀川翔/吉川晃司、高畑淳子 ほか


桑原亮子 、嶋田うれ葉、佃 良太

音楽
富貴晴美

語り
さだまさし

主題歌
back number「アイラブユー」

制作統括
熊野律時、管原 浩

プロデューサー
上杉忠嗣 三鬼一希 結城崇史ほか

演出
田中 正、野田雄介、小谷高義、松木健祐 ほか