観ればハマる沼ーー俳優・窪田正孝に惹かれる理由とは

俳優・映画人コラム

はじめはそこまで興味がなかった人も、ある作品を観たのをきっかけに突如として、彼の深い沼から抜け出せなくなってしまうーー窪田正孝は、そんな俳優だと思う。

2022年は11月18日(金)に公開された『ある男』をはじめ、『マイ・ブロークン・マリコ』『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)第4弾 おとこのことを』『劇場版ラジエーションハウス』『決戦は金曜日』と、実に5本の公開映画に出演している。

本記事では、“窪田正孝沼”に落ちた1人である筆者が、彼の出演作や役柄を挙げつつ、魅力を語りつくしたいと思う。
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窪田正孝・三大沼作品

まず彼が演じてきた役の中で、筆者が特におすすめしたい3作品を紹介したい。もし観ていない作品があったら騙されたと思って観てほしい。そしてあなたの好きな三大窪田も教えてほしい。

■「Nのために」:成瀬慎司

(c)TBS

「一緒に帰らん?ただ、一緒におらん?」

ここで紹介する3役の中では最も、いや、唯一現実にも存在しそうなのがドラマ「Nのために」の成瀬くんだ。どちらも話題を呼んだ「最愛」や「リバース」と同じスタッフによる本作は、観返すたび胸がぎゅっとなる宝物のような作品で、今も根強いファンが多い。

主人公・杉下希美(榮倉奈々)と同じ島育ちで、将棋をきっかけに親しくなった2人は、秘密の場所で会いつつ、お互いの家庭に降りかかる問題や悩みを共有し、同志のような関係になる。だが成瀬の実家の料亭「さざなみ」が放火被害を受けてから疎遠になってしまう。お互い大学生になり、島で再会。

その後、2人は高級マンションでのセレブ夫婦殺人事件の現場に居合わせ、同じく現場にいて希美と同じアパートに住んでいた西崎(小出恵介)が逮捕された。10年後、島にいるとき希美・成瀬と顔見知りだった刑事・高野(三浦友和)が、マンションでの殺人事件には別の真犯人がいるのではないかと個人的に調べ続けていた。

成瀬くんは、いつも希美の味方でいてくれる人だった。本作は希美と成瀬の高校時代・大学生・事件から10年後と3つの時期を行き来し、その中でも高校時代のシーンがとてもいい。それぞれに大変な事情がある2人が、励まし合って支え合っている、2人ぼっちな状況に胸を打たれる。

高校ではそんなに親しそうではないのに、公園にある秘密の場所でよく会ってるのもいい。2人で自転車に乗って夜明けを見るシーン、成瀬が島を出るときに「頑張れ」と叫び合うシーンにはじーんときた。東京に出てからも、会うことはなくてもお互いがお互いの支えであることがわかる場面がたびたび出てくる。

冒頭で紹介したセリフ「一緒に帰らん?ただ、一緒におらん?」は、最終話で成瀬くんが希美に伝えた言葉だ。さまざまなことが終わり伝えたこの言葉に、さりげない優しさで、そっとそばにいてくれる成瀬くんらしさが詰まっている。言われたいドラマのセリフランキング第1位。しかも言った後に自分がしていたマフラーを巻いてくれるのである。成瀬くん……!

■「HiGH&LOW」シリーズ:スモーキー

(C)2017「HiGH&LOW」製作委員会

「だったらお前は助からない」「俺たちは家族のため、生きることを決してあきらめない。だから誰よりも高く飛ぶ」

多くの女たちの情緒を狂わせたのが「HiGH&LOW」シリーズのスモーキーだ。かくいう筆者も、スモーキーの映像や画像を見るだけで涙ぐんでしまう(重症)。

(C)2017「HiGH&LOW」製作委員会

「ヤンキーものはちょっと……」「EXILE TRIBEに詳しくないし……」という理由で敬遠する人もいるかもしれない。確かに設定に突っ込みたくなる瞬間はあるのだが、それを凌駕するほど俳優たちの演技とアクションが素晴らしいのでぜひ観てほしい。筆者も同じ理由で観るのが遅れたが、リアルタイムで観るべきだったと後悔した。

まず、何も言わずにスモーキーがリーダーを務めるチーム「RUDE BOYS」のSpecial Trailerを観てほしい。

捨てられた者たち、闇を抱える者たちが集まった“無名街”。お互いを家族と呼ぶほど絆が強い住人たち、彼らを守るために存在するのが「RUDE BOYS(キャッチコピーは無慈悲なる街の亡霊)」だ。彼らの戦闘スタイルは、身軽さを生かし、パルクールやアクロバティックな動きで相手を翻弄する。

さらに、スモーキー蹴りや締め技にはきっちりパワーもある。このアクション、ノースタントでこなしているというからすごい。

(C)2016「HiGH&LOW」製作委員会

誰よりも家族を大事に思っているスモーキーは、普段は無口でクールだが、家族が傷つける者には容赦しない。咳とともに血を吐く病気を患っているが、自分の不在時に無名街が危険にさらされるのを恐れて病院に行かない。自分を大切にしてほしいけど、家族を守ることが彼の生きる理由なのだ。

強くて慕われるリーダーでありながら、儚さや透明感も持ち合わせた稀有な存在、好きにならない理由が見つからない。歩くスモーキーの後ろにRUDE BOYSのメンバーが増えていくシーンもいいし、空を見上げるスモーキーは儚すぎて消えてしまいそう。

少しでも気になった方は、ぜひ「HiGH&LOW」シリーズを観てスモーキーの生きた証を確認してほしい。

■『Diner ダイナー』:スキン

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

「俺はこのスフレを味わうためだけに生きてるんだ」

蜷川実花×窪田正孝という時点で最高な予感しかない中で、期待通り最高だったのが映画『Diner ダイナー』。後になって、蜷川実花さんもスキンのファンと知り大変納得した。

元殺し屋の天才シェフボンベロ(藤原竜也)がシェフを営むる殺し屋しか来ないダイナー(食堂)に、ウェイトレスをするとして売られてしまったオオバカナコ(玉城ティナ)。そこで起こる殺し屋同士の殺し合い……という設定のこの作品。日々訪れる客はみんな、頭のネジが外れた殺し屋ばかり。

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

顔が傷だらけのスキン。ちょっと長い髪の毛×タートルネック、最高では……?やばすぎる殺し屋たちの中では一見まともに見えるが、やはりこの人も様子はおかしい。でもカナコに優しくしてくれたり助けてくれたりアメをくれたりする。かっこいいし母性本能をくすぐるような一面もあり、新しい扉を開かれる方も多いのではないだろうか。

印象的なのが、「スキンのスフレ」を食べるシーンだ。

スキンがお母さんに作ってもらったスフレの話をしたところ、ボンベロが再現したものを作ってくれたというスフレ。大変おいしそうで、スキンの食べる姿は我を忘れる感じと恍惚とした表情がすごくて、色気すら感じる。「俺はこのスフレを味わうためだけに生きてるんだ」と言い切るスキン、よかったねという気持ちになる。

だが「スキンのスフレ」の中には必ず何か異物が入っており、「あいつにはあれでいいんだ」とボンベロは言うし、「ボンベロが正しい、俺にはこのスフレがお似合いなんだ」とスキンも言うのであった。

(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

戦闘シーンはしっかりかっこよく、刺さる優しさがあり、寂しそうな表情が気になってしまう……沼要素満載のスキン。まだ観ていない方はぜひ観てほしい作品だ。

–{窪田正孝出演のここ数年のおすすめ作品3選}–

『ある男』など、窪田正孝のここ数年のおすすめ作品

次にここ数年の出演作品の中から、おすすめの窪田正孝を紹介したい。

■『初恋』:レオ

(C)2020「初恋」製作委員会

三池崇史監督と10年ぶりにタッグを組んだ『初恋』

突然余命宣告をされた若きボクサー・葛城レオ(窪田正孝)が、偶然出会った少女・モニカ(小西桜子)を追っていた男(大森南朋)をKOする。さっき殴った男は警察で、ヤクザと結託して金儲けをするため、彼女を利用しているという。ヤクザと警察両方に追われることになったレオは、どうせ残り少ない命だとヤケクソでモニカと行動を共にする。

(C)2020「初恋」製作委員会

顔面がどアップになるシーンが多く、あらためて彼の「目がいいな」と思う作品だった。完全に巻き込まれて大変なことになっていく中で「死ぬ気になれば何でもできる」と自分を奮い立たせて立ち向かっていく姿に勇気をもらえる。

任侠ものの殺伐としたシーンが多い一方で、どこかユーモラスでクスっとなってしまうシーンや不思議なシーンも多いため、ぜひ一度観てみてほしい。

■『マイ・ブロークン・マリコ』マキオ

(C)2022映画「マイ・ブロークン・マリコ」製作委員会

『マイ・ブロークン・マリコ』では、ブラック企業勤めのシイノ(永野芽郁)は親友のマリコ(奈緒)が転落死したと知る。マリコに暴力を振るっていた父親の元に彼女の遺骨がに渡ったと知り、実家を訪れ、遺骨を奪って逃走する。考えた結果、シイノは昔マリコが行きたがっていた海に向かう。

(C)2022映画「マイ・ブロークン・マリコ」製作委員会

メインビジュアルに写っているわけでもないし、そんなに出番は多くないだろう。そう思って観に行ったのに、あらためて「やっぱり窪田正孝、いいなぁ」と何度も思って帰ってきた。

彼が演じるマキオは、旅先でとある理由により困っていたシイノに見返りを求めず優しくしてくれる人だ。ストーリーが進むにつれ少しだけ彼について明らかになることもあるため、実際出番自体は予想通り多くはないのだが、じんわり心に残る役どころ。

窪田正孝を好きな方には絶対観てほしい作品だ。

■『ある男』谷口大祐/ある男X

(C)2022「ある男」製作委員会

愛したはずの夫は、まったくの別人でしたーー 平野啓一郎の小説を原作に、衝撃のコピーが気になる映画が『ある男』だ。

弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者の里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元の調査を頼まれる。里枝は前夫との離婚後に大祐と出会い、再婚し子どもも生まれたのだが、大祐は仕事中の事故で亡くなってしまう。それから1年後、疎遠になっていた大祐の兄が里枝の元を訪れるが、彼の遺影を見て「この人、大祐じゃありません」と言ったのだ。大祐として生きた「ある男」は一体誰だったのか、どんな理由で他人の名前を名乗っていたのか。

(C)2022「ある男」製作委員会

窪田が演じる大祐(ある男X)が他の人の名前を名乗ることになった理由は、物語の中で明かされていく。詳しくは言えないが、彼の壮絶な過去も、演じる窪田正孝も凄まじかった。

「大祐」として生きたシーンと過去のシーンが全く別人を見ているようにも思えたし「ある男X」として生きた後に「大祐」として生きたことを考えたときに生まれる感情がある。この役は彼にしか演じられなかったとすら思う。

あらためて考える、窪田正孝に惹かれる理由

(C)2017「HiGH&LOW」製作委員会

彼の演じた役とその演技を振り返ってきたが、あらためて彼のすごさに唸らされた。

まず、目がいい。「目力」とはまた違うのかもしれないが、少年のような純粋さと、意志の強さを感じる目をしている。彼の出た作品を振り返るとき、何かを見つめるところも、見上げるところも、目が忘れられないシーンが多い。そして笑うと八重歯が出て印象が柔らかくなるところもいい。

アクションも素晴らしい。童顔と細身からは想像のつかない、俊敏で力強い動きは見るたびに感動する。肉弾戦・武器・特殊能力、どれも完璧である。

そして「演技」という言葉を使うのもおこがましいと思ってしまうほどの演技力。「演じている」のではなく「その役を生きている」印象に近い。“演技”とはそういうものなのかもしれないが、これほど“本当に存在する人間のように”感じさせてくれる人もなかなかいないと思う。

巷で“リアコ枠”と言われることも、役であることを超えて彼の演じる役を好きになってしまうような引力を持っているからだろう。


唯一無二の存在感で、私たちの心を掴む窪田正孝。今度はどんな演技で、役で魅了してくれるのか、怖いけど楽しみでたまらない。

(文:ぐみ)
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