長澤まさみ主演の“月10”ドラマ「エルピス—希望、あるいは災い—」が2022年10月24日放送スタート。
本作は長澤演じるスキャンダルで落ち目となったアナウンサーと若手ディレクターらが連続殺人事件の冤罪疑惑を追いながら、“自分の価値”を取り戻していく社会派エンターテイメント。共演は鈴木亮平、眞栄田郷敦ら。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
■ドラマ「エルピス」インタビューも掲載中!
もくじ
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
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大洋テレビのアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)は、かつてゴールデンタイムのニュース番組でサブキャスターを務め、人気、実力ともに兼ね備えた女子アナだったが、週刊誌に路上キスを撮られて番組を降板。現在は、社内で“制作者の墓場”とやゆされる深夜の情報番組『フライデーボンボン』でコーナーMCを担当している。そんなある日、番組で芸能ニュースを担当する新米ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)に呼び止められた恵那は、ある連続殺人事件の犯人とされる死刑囚が、実は冤罪かもしれないと相談される。
両親が弁護士という裕福な家庭で育った拓朗は、持ち前のルックスも手伝って、仕事の実力とは裏腹に自己評価が高く、空気が読めない男。とある理由で報道、ましてや冤罪事件とはもう関わりたくないと思っている恵那の気持ちなどお構いなしに、事件の真相を追うために力を貸してほしいと頭を下げる。しかし、拓朗がそこまで躍起になるのには、ある事情があって…。
拓朗によれば、冤罪疑惑はある有力筋から得た情報だという。だが、かつて自分が報道したこともある事件だけに、にわかには信じられない恵那。そのうえ事件が起きたのは10年近くも前で、犯人とされた男の死刑もすでに確定している。恵那は、すでに風化した事件を掘り起こすことは得策ではないと一蹴するが、それでも拓朗は懲りずに、新入社員時代の指導担当で報道局のエース記者・斎藤正一(鈴木亮平)を頼る。そして、事件当時の話を一緒に聞きに行こうと無邪気に恵那を誘うが…。
第1話のレビュー
2016年から企画が進んでいた「エルピス—希望、あるいは災い—」。連続テレビ小説「カーネーション」や「今ここにある危機とぼくの好感度について」(以下、いまぼく)など、いわゆる“社会派ドラマ”と呼ばれる作品を多く世に送り出してきた脚本家・渡辺あやが、初めて民放ドラマに乗り出す。
あらゆる障壁と戦いながら、数年かけて企画をやりとりしてきた佐野亜裕美プロデューサーとは、当初ラブコメを作る想定で話が進んでいたそうだ。しかし、盛り上がるのは政治の話ばかり。「いっそ社会派をやったほうがお互い情熱をもって完走できるんじゃないか」(「CINEMAS+MAGAZINE」より)と思うに至り、書き上げられたのが本作である。
舞台はテレビ局。異様に自己肯定感が高く、自身をエリートだと信じて疑わないプライドだらけの若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)は、どこか「いまぼく」の真(松坂桃李)を彷彿とさせる。ちょっとやそっとじゃ拭えないコンプレックスを拗らせていそうなあたり、もっとも今後の変化が楽しみなキャラクターだ。
物語は、彼が落ち目の女子アナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)に“とある冤罪事件”を持ち込むところから、大きく始動する。
少女連続殺人事件の犯人として逮捕され、死刑が確定している松本良夫。彼は冤罪であり、真犯人は別にいるという。その真相究明を手伝ってほしい、というのが岸本の依頼だった。
実はこの岸本、自身が担当する深夜バラエティ番組「フライデー・ボンボン」に出演中の女性タレントを口説いてしまい、その音声データをヘアメイクの大山さくら(三浦透子)に買われてしまったのだ。音声をばら撒かない代わりに「ちょっと手伝ってほしい」と持ちかけられた案件が、件の冤罪疑惑だったのである。
ディレクターとしての未来を死守するため、報道番組の経験がある恵那を頼ったり、報道番組に掛け合ったり、通るはずのない企画書を練ったり……。自己保身のために、人はここまでできるのだろうか? と思えるほど、岸本の必死さは半ば滑稽に映った。
その様子と反するように、と言えば気の毒だが、面倒ごとを持ち込まれた側である恵那の心境は、少しずつ変化していく。
同じく報道畑出身である、政治部・官邸キャップの斎藤正一(鈴木亮平)との“路チュー”スキャンダルにより、ニュース番組から深夜バラエティ番組へ飛ばされた恵那。彼女のメンタルは少々深刻気味にやられていて、頻繁に嘔吐を繰りかえすシーンが出てくる。
嘔吐しては、水を飲む。その繰りかえし。しつこいようにも思えてくる描写は、何かの暗示と考えるほうが自然である。せっかく作った企画書を無下に突きかえされた岸本が、恵那に対し弱音を吐く終盤のシーンにて、その暗示を解き明かすヒントとなる台詞が出てくる。
「おかしいものは、おかしいじゃん」
「おかしいと思うものを、飲み込んじゃダメなんだよ」
「私はもう、飲み込めない、これ以上」
そのあと彼女は、この連続殺人事件の真相究明に、本格的に手を貸すことを宣言する。おかしいと思うものは、違和感を覚えるものは、もう飲み込まない。嘔吐したあとに水を飲むシーンには、彼女の悲痛な叫びが反映されていると感じる。
恵那が息も絶え絶えに声を荒げたように、きっと誰もがもう「分かりたくありません!」と叫びたい。覚えた違和感をそのままにしておきたくない。なかったことにして、流したくない。
テレビ局の裏側、報道現場の背景、政治の闇……。さまざまな「触れてはいけないもの」を真っ向からテーマとして据える制作陣の胆力と勇気に、受け手である私たちも心して臨まねばならないだろう。
岸本がこれからどんな変化を遂げるのか。もちろんその点にも興味は尽きないが、恵那の心境についても無視できない。
いくら岸本からの懸命な訴えを聞いたからといって、彼女がこのネタに本腰を入れる理由には足らないだろう。また、新たに山中で見つかった遺体は、かねてより行方不明と報道され続けていた少女のものだった。恵那は、だいぶ序盤からこの少女にまつわる報道を気にかけていたように見えるが……今後の展開において、重要な伏線となるだろうか?
組織が大きくなればなるほど、目上の人間に“忖度”をするのが自然となりつつある世の中。そんな世間に大きく堂々と「待った!」をかける社会派ドラマに、私たちは文字どおり、目が離せなくなるに違いない。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
「真犯人は野放しになっている」——、拓朗(眞栄田郷敦)の言葉がまるで何かの合図だったかのように、行方不明になっていた中学2年生の女子生徒が遺体で発見される。首には、かつて世間を騒がせた連続殺人事件の被害者と同じく絞められた痕があり、遺体発見現場も同じ神奈川県八頭尾山の山中。これは偶然か、それとも——。
当時犯人として逮捕・起訴された、松本良夫死刑囚(片岡正二郎)の冤罪を訴えていた拓朗の言葉に、わずかな可能性を見た恵那(長澤まさみ)は、番組で過去の事件を調査報道したいと考える。しかし、プロデューサーの村井(岡部たかし)に取り合ってもらえるはずもなく、恵那はひとまず、一人で事件を洗い直すことに。そして、当時14歳で、逮捕当日に松本の家で保護されたヘアメイクのチェリーこと大山さくら(三浦透子)が書きためた裁判記録をもとに、松本が殺人を犯したとされる日の足取りを確認すると、検察側のある主張に違和感を覚える。
一方、事の重大さに気づき、一度は真相究明から手を引いた拓朗だったが、恵那が本格的に動き出したことを知り、自分も手伝いたいと申し出る。中途半端な覚悟に呆れつつも、とりあえず戦力として拓朗の力を借りることにした恵那。するとその矢先、担当弁護士の木村卓(六角精児)を通して面会を申し込んでいた松本死刑囚本人から、恵那宛てに手紙が届く。さらに、思いもよらない人物から1本の電話がかかってきて…。
第2話のレビュー
松本良夫(片岡正二郎)は無実であり、女子連続殺人事件の真犯人は別にいる。この物語の主軸はその点にあるのだが、もう一点、考えたいポイントがある。恵那(長澤まさみ)の余命についてだ。
1話の時点で、彼女の体調が悪いらしいことは十分に描かれていた。繰り返される嘔吐、必死に水を飲み込む様子、人間にとっての生命維持活動である「食べる」「寝る」が上手くできなくなっている側面など。
筆者はこの点を、これまで何事かに違和感を覚えてもやり過ごしてきた恵那が、「おかしいことはおかしいと言う」と覚悟を決めた心情の表れであり、一種のメタファーだと論じた。
しかし、おそらく違う。もっと切羽詰まった具体的な、命を脅かす病が関係している可能性がある。その理由のひとつに、斎藤正一(鈴木亮平)が挙げられる。
恵那は若くして報道番組のサブキャスターとなり、期待の大型新人と目されていた。しかし、スキャンダルのせいで降板。低視聴率の深夜バラエティを担当することになった。
この、いわば熱愛スキャンダルの相手が斎藤である。路上キスの写真を撮られたこと、恵那から斎藤に別れを告げたことなどは、1話の時点で明かされていた。この別れの理由に違和感があるのだ。
普通なら、スキャンダルの原因となった写真のせいで、関係を続けることが難しくなったと考えるのが妥当ではないだろうか?
それを、わざわざ「恵那が斎藤をフった」と名言しているということは、恵那の側になんらかの「のっぴきならない理由」があったとするのが自然である。
そして、彼女がそう長くは生きられない病であると仮定すれば、恵那と斎藤の破局にも納得がいく。病を隠したい、余計な心配をかけたくないと考え、恵那は詳しい理由を告げずに身をひいたのではないだろうか。
無視できないポイントとして、1話で恵那自身が言っていた「でないともう、死ぬし、私」のセリフもある。
このまま素知らぬ顔をしていたら、報道を担っていた身として精神が持たない……といった意味の比喩とも受け取れるが、文字通りの意味だとしたら?
それに、彼女は長い期間を費やして断捨離をしている。ベッドやソファなど大きな家具もなく、広い部屋には最低限のものだけ。引越しを予定している様子もない。将来を見越して身辺整理をしているのかもしれない。
しばらく行方不明と報道されていた少女・中村優香が遺体で発見された、新たな事件も気になる。恵那の体調には関連しない部分だろうが、彼女は物語の序盤から少女の事件を気にしている様子だった。
岸本(眞栄田郷敦)から冤罪事件の真相究明について持ちかけられた直後からだが、果たしてこの時点で少女についての報道が、そこまで気になるものだろうか?
すべて、余命が短いと自覚している人間が、「最後くらいは」と誠実に何かをやり遂げたいとする心の動きに通じるものを感じてしまう。
松本良夫が冤罪であることは、ますます真実味をもって視聴者にも提示される。
事件当時、彼はどのように過ごしていたのか。逮捕された瞬間や、取調べの様子なども丁寧に描かれた。恵那と松本は、担当弁護士・木村(六角精児)を通して手紙のやりとりをするまでに。
そこには「私は絶対に、娘さんたちを殺めたりなどしておりません」と切実な思いが綴られていた。
遺体遺棄現場の近くで、20代のロン毛男が目撃された情報があったにも関わらず、松本の件が出た途端に方針転換をした警察とマスコミ。
1話から徹底して、警察の「冤罪」や「死刑」に対する姿勢、そしてマスコミの報道体制に疑問を投げかけている本作。原発や東京オリンピックなど、見ているこちらがヒヤヒヤするような描写も多い。
しかし、私たちは、いや私たちこそ、目を背けてはいけない。
きっとこのドラマが放送に至った背景には、多くの時間と労力が隠れている。
受け手である私たちにできることは何か。まずはそれを考えることが、「おかしいことはおかしいと言う」の第一歩になるのではないだろうか。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
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恵那(長澤まさみ)は、一刻も早く松本良夫死刑囚(片岡正二郎)の冤罪(えんざい)を証明しなければと焦りを募らせる。そんななか、弁護士の木村(六角精児)から新聞記者の笹岡まゆみ(池津祥子)を紹介された恵那と拓朗(眞栄田郷敦)は、新聞社が保有する当時の事件資料を手に入れることに成功。まゆみは政治部の記者だが、聞けば、一連の殺人事件の現場となった八頭尾山に思い入れがあり、事件について個人的に調べたところ、真犯人による犯行の可能性に行きついたという。
強力な助っ人の登場に勢いづいた恵那は、早速、資料をもとに12年前に事件の捜査に関わった八飛署の刑事・平川勉を訪ねる。しかし平川は、すでに最高裁で判決が下されていることを理由に、「犯人は松本で間違いない」の一点張り。実際に取り調べを行った刑事にも話を聞こうとするが、すでに退職して所在は不明だった。
ところが2週間後、拓朗が思わぬ方法で居場所を突き止め、恵那は松本の自供を引き出したとされる山下守元警部にインタビューを敢行。核心をつく質問に、どこか歯切れの悪い返答をする山下の様子を見て、恵那は当時の取り調べに、ある疑念を抱く。そして、撮影した映像を拓朗と編集していると、編集室のドア越しに、斎藤(鈴木亮平)が中の様子をうかがっていて…。
第3話のレビュー
死刑が執行された3人のなかに、松本良夫(片岡正次郎)は入っていなかった。ホッと胸を撫で下ろしたところで、第3話に登場する3人の新キャラを振り返りたい。
まず、木村弁護士(六角精児)から紹介された政治部の記者・笹岡まゆみ(池津祥子)。まさにマシンガントークというやつで、なかなか刺激的なキャラクターに恵那(長澤まさみ)と岸本(眞栄田郷敦)は圧倒されてしまう。
八頭尾山に思い入れがあり、個人的に事件を調べている彼女のおかげで、恵那たちは多くの情報を得た。当時、松本死刑囚の取調べを担当した刑事にインタビューが叶ったが……。やはり、松本は冤罪ではないかと思わざるを得ない内容だった。
この勢いに乗り、被害者遺族にコンタクトを取ろうとするが、難航する。
なんとかインタビューが実現した井川純夏(木竜麻生)は、被害者の一人・井川晴美の姉。
井川晴美は、犯人と思しき人物とともに八頭尾山に入る姿を目撃されている。彼女は下着を売る商売をしていたのではないか、と無責任な憶測をされていた。
まるで、それなら被害を受けても仕方ない、と言わんばかり。自己責任を押し付ける風潮には、冷静な姿勢で臨みたい。
「何がなんでも、信じるわけにはいかないって思ってきました」
純夏の強い言葉に後押しされた恵那。順番が前後するが、彼女はもうひとり、無視できない人物と接触している。暗い、高架下のような場所で、民芸品を売るような店で出会った謎の男(永山瑛太)だ。
目元に怪しい光が宿る男。髪は長く、20代に見ようと思えば見られる。あからさまに、八頭尾山で目撃されている真犯人のプロファイリングと一致する。
しかし、彼を真犯人と決めつけるのは、まだ早い。
明らかに「この人が真犯人ですよ〜」とミスリードを誘う見せ方なのである。
この謎の男が出現したシーンは、まるまるカットされても物語の展開に支障がない部分だ。
ドラマ「最愛」と同じように、序盤で伏線らしきものを散りばめておき、良きタイミングで必要なものだけ回収する手法であることを、私たちは視野に入れておこう。
3人の新キャラにより、いっそう物語が加速した。
次回以降のキーとなるのは、精魂込めて作ったVTRを騙し討ちのように放映した余波が、どのように物事に影響するか。
そして、「話したいことがある」と言って恵那の自宅にやってきたにも関わらず、一夜を過ごしただけで帰っていった斎藤(鈴木亮平)の真意やいかに、といったところか。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
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恵那(長澤まさみ)の画策により、被害者遺族ら事件関係者にインタビューした映像が『フライデーボンボン』で放送された。拓朗(眞栄田郷敦)すら知らなかった恵那の“奇襲”に、村井(岡部たかし)たちスタッフはぼうぜん。オンエア後、放送不適切と判断されたVTRを独断で流した恵那は、名越(近藤公園)から厳しい叱責(しっせき)を受ける。一方で、特集への反響は想像以上に大きなものとなっていく…。
恵那たちが次に着目したのは、犯人逮捕の決め手にもなった重大な目撃証言。事件当時、目撃者の西澤正は、「男が慌てたように山道から駆け降りてきて、自転車で立ち去る様子を見た」と証言したが、恵那らが申し込んだ取材にはかたくなに応じようとせず、拓朗は西澤の言葉にどこかうさんくささを感じる。そして、証言がうそなら再審もあり得るはずだと息巻くが、そこには“開かずの扉”と呼ばれる司法の高い壁が…。
そんな矢先、恵那は弁護士の木村(六角精児)から、松本死刑囚(片岡正二郎)に関する衝撃の事実を聞かされる。
第4話のレビュー
深夜番組「フライデーボンボン」内のコーナー「エナーズアイ」で、松本良夫(片岡正二郎)の冤罪特集VTRをゲリラ的に放映した恵那(長澤まさみ)。
事前に知らされていなかった岸本(眞栄田郷敦)含め、視聴者である我々もヒヤヒヤしたが、視聴率&世間の評判は上々。局長直々に、2回目への後押しもいただいた。
結果的に「おじさんのメンツは丸潰れ」であるからこそ、これからはより慎重に下手に進めねばならない。
なんてったって、「おじさんのメンツとプライドは地雷」なのだから。
「コンポストみたいなこの職場から、自分の仕事を取り戻」すためにも、よりこの冤罪事件に本腰を入れ始める恵那と岸本。
この第4話において、恵那、そして岸本それぞれの「戦うべき敵」の存在が明らかになった。
恵那は、もちろんこれ以上、権力者に押し潰され自身の仕事を見失わないように注力せねばならない。数字と評判さえ保っていれば、理不尽な言い分を飲み込む必要はなく、正しいことができるのだ。
彼女にとって、斎藤正一(鈴木亮平)も厄介な相手である。
彼は前回、恵那に「特集の放送を止めさせ」ようとしていたらしい。それを伝えにわざわざ恵那の自宅まで来たにも関わらず、彼女が弱っているのを見て取りやめたのだ。
斎藤は恵那の心の動きを分かりきっている。恵那自身もそれを痛感しているからこそ「敵いっこない」のだ。
あの状況で「それじゃ、なんでベッド買ったの?」と聞かれ、答えられる人間がいるだろうか。私たちは、鈴木亮平に、勝てない……。
さて、岸本にとっての敵は、過去だ。
彼が中学生だった頃、同級生がイジメを苦に自殺した。岸本はその同級生と友人関係であり、ハッキリと、イジメについて相談を受けていたらしい。
「自分がイジメられるのが怖い」と思った岸本は、自身の母に相談した。しかし、イジメの主犯格が「学年で一番の有力者の息子」だったことから、具体的な対策はなされなかった。結果、悲しい事件に繋がってしまったのだ。
岸本は、ずっと自分のことを「勝ち組」だと思いながら生きてきた。しかし、それは母親からの、そして自身による洗脳によって、そう思い込んできただけなのかもしれない。
長いものに巻かれ、マジョリティの意見に賛同し、権力に負け続けてきた者たち。上手く世渡りをしてきた多数派を「勝ち組」と呼ぶような社会に、未来はあるのだろうか。
明らかに、岸本の目は変わった。
それを真正面から見据えた恵那は「脳天から真っ二つに切られたような気がした」。自身の愚かさ、惨めさ、情けなさを痛感して……。器の小ささを突きつけられたとき、人はどうしようもなく逃げたくなるのかもしれない。
松本良夫の再審請求は棄却されてしまった。番組の影響により、またもや権力からの圧が降りかかるのか。
この事実を前に絶望した一人が、その末に、悲しい選択をしてしまったのかもしれない。
しかし、番組の影響はネガティブなものに限らない。被害者の一人、井川晴美(葉山さら)の姉・純夏(木竜麻生)は、恵那に電話をくれた。放送してくれてありがとう、と。
権力と戦うことを諦めない者たちが、逃げずも隠れもせずに立ち向かった先にあるのは、納得できる結末であってほしい。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
松本死刑囚(片岡正二郎)の再審請求が棄却され、責任を感じたチェリー(三浦透子)が自殺を図る。しばらくすると、拓朗(眞栄田郷敦)たちも特集の続編を制作することを禁じられ、あらがえない大きな力に脅威を感じた恵那(長澤まさみ)は、制作中止の理由も問わぬまま、上層部の決定を静かに受け入れる。だが、世間の反響が大きく視聴率も良かっただけに、拓朗はどうしても納得できない。
行き場のない正義感をまとった拓朗は、単独で、事件の目撃証言をした西澤(世志男)の身辺を調べ始める。すると、西澤がかつて、事件のあった八頭尾山のふもとの町に住んでいたことが判明。さらに現地で聞き込みを続けると、西澤の息子・健太の親友だという男が現れ、西澤の新たな顔が浮かび上がってくる。そこに、いちるの望みをかけた拓朗は、男を介して、ある人物に接触を試みることに…。
一方の恵那は、元恋人の斎藤(鈴木亮平)と再び良好な関係を築き始めていた。その矢先、同期で報道部の滝川雄大(三浦貴大)から、斎藤が警察に多大な影響力を持つ、とある大物政治家と親密な関係であることを聞かされて…。
第5話のレビュー
一発逆転、決定的で最強の真実を掴んだ岸本(眞栄田郷敦)。
予告では完全に闇落ちしていた彼。どうなることかと思ったが「がむしゃらに動いていたほうが、楽だから」といった理由で文字通り動きまくっていたら、状況を覆すネタを手にした。
松本(片岡正次郎)逮捕の決め手となった、八頭尾山での目撃証言。唯一「松本を見た」と証言した西澤正と、「若くて髪の長い男を見た」と証言したその他の人。この食い違いを、岸本は掘っていった。
独自取材の末、西澤の元妻とコンタクトを取ることに成功。
井川晴美(葉山さら)が亡くなった日、西澤は酒に酔って寝ていた。激しいDVに悩まされていた元妻は、さんざん暴れて寝てしまった元夫の姿をよく覚えているという。八頭尾山で松本の姿を見られたはずがない、あれは嘘だった、とカメラの前でハッキリと口にした。
加えて、あの日は「獅子座流星群の日だった」という回想も、晴美の姉・純夏(木竜麻生)の話と一致する。
西澤が嘘をついた理由は、金に目が眩んだため。松本の誤認逮捕を揉み消すべく、国家権力が動いた可能性が浮上する。
再審拒否された松本、責任を感じ自死を図ったチェリー(三浦透子)、上からの圧力によって本件から離脱した恵那(長澤まさみ)。岸本が掴んだ最強の一発逆転ネタは、状況をガラリと一変させる力を秘めている。
ここでキーパーソンとなるのは、謎の男(永山瑛太)と斎藤(鈴木亮平)か。
謎の男は、一度だけ恵那と会話して以来、姿を潜めている。どうやら、あの店も畳んでしまったようだ。仮に彼が真犯人だとしたら、どうやってそれを暴くかがキーとなるだろう。
そして、斎藤である。
一発逆転ネタを有した岸本に対し「先に俺に相談してほしい」と先手を打った斎藤。彼は副総理の大門と懇意にしている。親切な顔をしながら、権力で真実を握り潰そうと動く可能性は、大いにある。
恵那と斎藤は復縁し、どうやらプロポーズまで済ませたようだ。いつ「じゃあなんでソファ買ったの?」と言い出してもおかしくない状況にある。
権力をとるか、恵那をとるか……。斎藤もまた、究極の二択を迫られる日がくるのかもしれない。
一発逆転ネタを「フライデーボンボン」で流す機会は失われた岸本。
だが、恵那から「君は、本当にすごいことをしたね」と純度100%の賛辞を受けたことで、食欲と睡眠欲が戻ってきた。彼の中に長いこと燻っていた、同級生を助けられなかった後悔が、少しずつ癒えはじめていることを祈りたい。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
目撃証言の虚偽を暴いた拓朗(眞栄田郷敦)一世一代のスクープは、
再審への足掛かりになるはずが、予想外の事態を巻き起こし…。
恵那(長澤まさみ)は古巣の番組へ凱旋出演!?
西澤正が「松本死刑囚(片岡正二郎)を見た」というのはうそだった—。逮捕の決め手となった目撃証言が覆されたことで、再審は現実味を帯び、恵那(長澤まさみ)は再び奮い立つ。さらに、拓朗(眞栄田)がつかんだこの事実は、かつて報道局に在籍していた村井(岡部たかし)の魂にも火をつけ、事が事だけに報道部に任せるべきだという恵那や名越(近藤公園)の言葉をよそに、村井は『フライデーボンボン』で大々的に報じると宣言する。
オンエア後、日本の司法を揺るがす新事実に世間の反応はすさまじく、あらゆるメディアが動き出し、情報提供者である西澤の元妻・吉村由美子も不安を隠せない。さらに、恵那たちの考えがいかに甘かったかを思い知らされる、取り返しのつかない事態が起きてしまう。
社内では緊急幹部会が行われ、この大事な局面に、恵那が局の看板番組である『ニュース8』に“事件を追っていた記者”として出演することが決まる。本来なら古巣への凱旋出演を喜ぶところだが、恵那の中には、斎藤(鈴木亮平)が副総理大臣の大門(山路和弘)とつながっていると知ったときから、ある疑念が。その不安を払拭するべく、恵那は出番を待つばかりであった…。
第6話のレビュー
松本(片岡正二郎)を逮捕するきっかけとなった目撃証言は、金のためについたウソだった。
西澤正の元妻による証言が、深夜バラエティ「フライデーボンボン」で特集されるや否や、世間は大混乱。岸本(眞栄田郷敦)が掴んだとっておきの“一発逆転ネタ”が、停滞した状況を一気に動かしたのだ。
村井(岡部たかし)が強行突破したこともあり、いよいよ報道部も黙っちゃいられない状況である。松本が冤罪かもしれない、このネタを扱わないわけにはいかないと、恵那(長澤まさみ)の古巣である「ニュース8」で本格的に取り上げることになった。
しかし、事態は良い方向ばかりには流れない。
これを機に、身の危険を感じた西澤本人は逃亡。彼から新たな証言を取ることは、難しくなってしまった。つまりそれは、松本の冤罪を晴らすための新たな捜査も、厳しくなってしまったことを意味するはず。
「この事実を、いかに正しく広く視聴者に伝えるか」……恵那のポリシーは立派だが、正しいことをする者は常に矢面に立つことになる。社会はそういう風にできていると、痛感させられる。
そして、本格的に権力に盾ついたフライデーボンボンは打ち切りに。村井は子会社へ左遷、岸本は経理部へ異動になってしまった。
せめてもの救いは、恵那がニュース8に返り咲いたことか。
熱愛スキャンダルでニュース8を降板になった恵那としては、どんな流れであれ、報道番組に戻れたことは快挙だろう。「アナウンサー」という枠に逃げ込まず、自身の責任から逃げ出さなかった報いが、しっかり返ってきたとも解釈できる。
しかし、報道畑に戻ったことによって、彼女には時間と気力の余裕がなくなった。
これまでのように、岸本と一緒になって、松本冤罪事件を調べることはできないだろう。彼女もまた忙しさの波にのまれ、斎藤(鈴木亮平)のように「大事なことを忘れ」てしまうのではないか?
そう、厄介なのは斎藤なのである。
銀座の寿司店で、そっと恵那に指輪を渡す斎藤。確か前回くらいで、左手薬指に指輪をしている恵那の姿が見られたので、陰でちゃんとプロポーズしていたのか……と思いきや。
「大事なことを、絶対に言葉にしない」
と、きたもんだ。このシーンを目撃した8割強の方には同意いただけるはずだが、言葉にするのを億劫がる人間をパートナーに選ぶとロクなことがない。
大門副総理と濃いめに繋がっている斎藤は、松本の件が明るみに出るや政治部官邸キャップから退いた。上司からの「大門さんのところに行くのか?」の問いには明確に答えなかったが、その直前に、自ら別れを告げるメッセージを恵那に送っている。
これは、もう、そういうことだと思って間違いないのかもしれない。
大事なことは言葉にしない。それなのに、別れの言葉はしっかり文面にして送りつける斎藤。せめて直接会って、顔を見ながら言ってほしいとも思うが……メッセージだけであれだけ過呼吸気味になってしまう恵那には、それは酷なことなのかもしれない。
斎藤が選ぶのは、恵那か、それとも権力か。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
再審への突破口となるか!?飛び込んできた奇跡的なニュースに期待が高まる恵那(長澤まさみ)!
つながる点と点——。その先に、ある人物の存在が浮かび上がる!
副総理大臣の大門(山路和弘)が八飛市出身だと気づいた恵那(長澤まさみ)は、新聞記者のまゆみ(池津祥子)に大門の身辺調査を依頼。かつての斎藤(鈴木亮平)の言動から、警察に対し絶大な力を持っていた大門が、事件に何らかの形で関与しているのではないかと考えたのだ。
一方、経理部へ異動した拓朗(眞栄田郷敦)もまた、引き続き事件を追っていた。しかし、新たな手掛かりは何も得られず、調査は八方ふさがり。このままでは松本死刑囚(片岡正二郎)を救い出すどころか、事件は風化してしまう——。落ち込む拓朗が村井(岡部たかし)に愚痴をこぼしていると、そこへ、とんでもないニュースが飛び込んでくる——!
やがて、まゆみの協力により大門に関わる重要人物のリストを手に入れた恵那は、ある仮説を立証すべく、多忙な自分に代わってその人物たちを調べてほしいと拓朗にリストを託す。局の看板アナウンサーに返り咲き、もはや自分とは違う世界の住人となった恵那の態度に、不満とどこか寂しさを感じる拓朗。するとその矢先、拓朗の元に意外な人物から電話がかかってきて…。
第7話のレビュー
「エルピス」第3話のレビューにて、筆者は「謎の男(永山瑛太)を真犯人だと決めつけるのは、まだ早い」と書いた。7話にて、前言撤回させてもらいたい。
かつて「言うことは何もない」と主張していた、あの刑事。過去に松本(片岡正二郎)を捜査し、死刑囚にした刑事のうちのひとりが、岸本(眞栄田郷敦)に連絡してきた。
そして、松本は無実、真犯人は別にいる、とはっきり口にしたのだ。
ここまで見守ってきた視聴者は、ほとんどがその可能性を信じてきたはずである。しかし、こうも決定的な展開を見せられると、ついに物語も佳境に差し掛かっているのだと痛感する。
恵那(長澤まさみ)は、報道番組「ニュース8」の看板アナウンサーに復帰した関係で、なかなか時間がとれない。そんな彼女の代わりに、岸本が動く。独自の捜査を重ねるうちに、かつて、あの謎の男が店を出していた付近で、やたらと「本城」の名を聞くことに思い至る。
本城は不動産会社を営んでおり、ここら辺一帯はみんなお世話になっている、と喫茶店のマスターから情報を得る岸本。
なんと、本城は大門副総理と懇意の間柄だという。そして、あの謎の男は本城家の長男・彰であることが判明。パズルのピースが完全にハマったわけだ。
あの刑事は、こうも言っていた。「何がなんでも真犯人を逮捕させたくないようだった」と。確実に、上層部の企みが動いている。
シンプルに考えるなら、オイタをしてしまった長男を助けるため、お父さんが親友の副総理に頼んで罪をチャラにしてもらった……といったところか。
まるで、韓国ドラマ「梨泰院クラス」に出てきた、人を轢き殺した長男を助けるべく警察に口利きをする父親のようである。どの国にも、権力を私的に使おうとする図があることを示唆しているようだ。
ここまで来たら、あとはもう真相解明に向けて突っ走るだけ。誰もがそう思うタイミングで、なんと松本のDNA再鑑定が人を食ったような結果に終わる。再鑑定不可……。おそらくは動かぬ証拠が出たはずであるが、大門副総理の圧により揉み消されたのだろう。
真実はすぐ掴める距離にあるはずなのに、なかなか、遠い。
大門副総理の存在をなんとかしなければ、この事態は動かないように思われる。そうすると、やはりキーパーソンとなるのは斎藤(鈴木亮平)か。
退社し、フリーとなった斎藤は、朝の情報番組で政治解説をするポジションになっていた。このまま大門側についてしまったら、屈強な壁を崩すのは、ますます厳しくなってしまうだろう。
せっかく恵那が買い戻したベッドやソファも無駄になってしまう。早いところ、二人には再びヨリを戻してもらいたい。斎藤に人の心が残っているのなら、恵那のためにどう動くべきかわかるはず。彼女に贈った指輪の意味を、今一度考え直してもらいたいものだ。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
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向けられた疑惑の目!地元有力者の息子・本城彰という男は何者か?
聞き込みを重ねた拓朗(眞栄田郷敦)は、女子中学生の死に隠された超重要証言にたどり着き、またしても事件の真相に近づこうとしていた。
しかし、恵那(長澤まさみ)の反応は妙に鈍く、二人の間にはひたすら気まずさが漂っていた…。
かつて迷い込んだ商店街で、暗がりのなか、えたいの知れない雰囲気と危険をはらんだ瞳で恵那(長澤まさみ)を惑わせた男——。その人物こそが、大門副総理(山路和弘)の有力な支援者である「本城建託」社長の長男・本城彰だという。あの男には何かある——。そう直感した恵那に頼まれ、拓朗(眞栄田郷敦)が調べると、彰に対する地元の評判は上々。だが一方で、その存在があまり知られていないことも分かった。八頭尾山で3人目の女子生徒が殺されてから、再び犠牲者が出るまでの12年間、彰は海外を転々としていたという。
連続猟奇殺人の犯人について、ある“仮説”を立てた拓朗は、再び八飛市で聞き込みを行い、最後に殺された中村優香と親しかった高岡ひかるにたどり着く。ひかるは、亡くなった優香をどこか快く思っていない様子だったが、拓朗がある質問をすると、当時のことをぽつりぽつりと話し始めた…。さらに、ひかるの携帯電話に残されていた写真が、拓朗をさらに突き動かすことになる。
事件の真相に近づこうと突き進み、興奮気味に報告をしてきた拓朗に対して、恵那の反応は妙に鈍かった。強いいら立ちを隠せない拓朗はついに、恵那に“本心“を問い詰めたが、返ってきた言葉は…。
第8話のレビュー
真実とは、なんだろう。このドラマを見るたびに、考えさせられる。恵那(長澤まさみ)も岸本(眞栄田郷敦)も、松本(片岡正二郎)の冤罪事件を解決すべく、真犯人を見つけようと思っている。
その気持ちは一緒のはずなのに、立場が違うだけで、真実に対する姿勢も異なるように見えるから不思議だ。片や報道番組の看板アナウンサー。片や経理に飛ばされ、後に解雇通告を受け退社に追い込まれた一社員である。
恵那としては、好きなように動きたくとも、あらゆる制約がそれを許さない。看板アナウンサーゆえに、番組の行く末を背負っている身だ。スタッフ全員の生活がかかっている。いくら特ダネがあっても、そうホイホイと扱うわけにはいかないだろう。
松本が逮捕された後、八頭尾山で行方不明となり、遺体となって見つかってしまった中村優香。彼女と仲が良かった(本人は「親友じゃない」と言い張るが)高岡ひかるに接触が叶った岸本は、さらに本城彰(永山瑛太)の存在に迫っていく。
どうやら、ひかると優香は、本城彰をめぐって関係が悪化したらしい。ふたりとも彼に思いを寄せていたことから、言い合いになった。優香はたびたび、ひかるの自宅に遊びに来ていたようだが、ひかるから「出ていけ!二度と来るな!」と言われた日から姿を消し、その10日後に遺体となって見つかった。
松本を取り調べしていた刑事が、優香の持っていたスマホから本城彰の写真のみ消していた事実も明らかに。やはり、警察側は本城彰が真犯人だと、確信を得ていたのだ。なのに、隠した。その事実は、重い。
加えて、優香が所持していたストール、そして過去の被害者のひとりである井川晴美(葉山さら)のスカート、双方に付着していたDNAが一致した。
岸本が、3軒もまわってDNA鑑定を依頼したため、結果は確実である。しかし、「ニュース8」は取り合ってくれない。「スクープじゃなく、後追いであれば扱える」の一点張りである。
恵那に一縷の望みをかける岸本だが、反応は変わらない。彼女としても苦しい立場ゆえに、相容れないふたりである。ここで思い出されるのは、回想シーンでも出てきた恵那のセリフだ。
「本当に正しいことなら、道は開けていく」
そして、味方も増えていくはずだ、と。
恵那が率先して動けていた時期は、この言葉も信じられた。しかし、今となっては、岸本だけじゃなく我々視聴者にとっても疑わしい言葉になってしまっている。
状況は八方塞がりで、まさに岸本の周りには敵だらけ。ここから打開できる道なんて、見出せるのだろうか。
すっかり姿を見せなくなったチェリー(三浦透子)も、今回は存在感を消していた斎藤(鈴木亮平)の存在も気になる。このドラマの行く末が、この国の“真実への向き合い方”を示唆している気さえするのに。果たしてあと数話で、納得のいく結末が見られるのだろうか。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
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拓朗(眞栄田郷敦)反撃のカギは村井(岡部たかし)!?
側近の告発で、真犯人逮捕を阻止しようと水面下で暗躍する副総理・大門(山路和弘)の息の根を止める!?
DNA鑑定の結果をもってしても、本城彰が真犯人である事実は公にすることが許されず、行き場のない憤りを抱えた拓朗(眞栄田郷敦)は、さらに、刑事の平川(安井順平)を脅迫した疑いで会社を解雇されてしまう。この一件で、背後に真実を闇に葬ろうとする巨大な力を感じた恵那(長澤まさみ)は、無力な自分になすすべもなく、再び心身のバランスを崩していく——。
一方、大門副総理(山路和弘)の娘婿で秘書の大門亨に接触を図った村井(岡部たかし)は、拓朗にジャーナリストを名乗らせ、亨と引き合わせる。村井によると、亨は真面目で正義感が強く、決して政治家の秘書に向いているとはいえない男。実際、過去には村井の力を借りて大門の告発を試みたこともあるという。結局、最後は権力と忖度に屈したという当時の話を聞いた拓朗は、志こそ違えど、村井も今の自分と同じように、目の前にある真実を握りつぶされたことがあると知り、驚く。
そして、自分はこのまま終わらせるわけにはいかないと、本城逮捕の最大の壁である大門を排除する作戦に打って出る。亨もまた、いずれ大門の右腕となるであろう斎藤(鈴木亮平)の存在が決め手となり、ある覚悟を決めていて…。
第9話のレビュー
どれだけ「真実」を追い求めても、デカすぎる権力にひねり潰され、なかったことにされる。今日もどこかでそんな不条理が起こっており、けれど、「なかったことにされる」のだから私たちには見えない。
岸本(眞栄田郷敦)が退職に追い込まれたのは、決して自ら辞表を出したのではなく、八飛署の刑事にハメられたから……といった見方が有力。
岸本が贈賄&脅迫のダブルパンチで、現在はふたたび実家に戻り引きこもりになっている事実に、恵那(長澤まさみ)は懐疑的な目を向ける。岸本がそんなことをするだろうか、そう疑う人間が一人もいなくなってしまったら、いよいよ本当に岸本は「孤独」だ。
結果的に、岸本は週刊潮流に拾われ、ジャーナリストとして新しい道を歩むことに。最重要人物である大門副総理(山路和弘)の娘婿・大門亨(迫田孝也)への接触に成功、くわえて、過去に大門らが「強姦事件を揉み消した過去」について証言をとるにまで至ったが……。
それが世に出る直前で、亨は「病死」。実際のところ、自死に見せかけられて殺されてしまったのだ。
相手は強大で、恐ろしい。「権力」と一言でまとめてしまえば簡単だが、大きくなりすぎた力は、人の命を奪うことになんの後ろめたさも覚えなくなる。「都合が悪いから」、そんな理由で消されてしまっては元も子もない。
「友達は真実だけだ」と岸本は言うが、真実を追い求めることと、自身の命を守ること、天秤にかけたらどちらが重いのだろうか。そしてきっとこの問題は、長い歴史のなかで連綿と問い続けられてきたものだ。
大門亨が亡くなった理由について察知した村井(岡部たかし)は、汚いやり方をする大門側に対し、そして何事も知らぬ存ぜぬで通そうとする報道姿勢に対して怒りを向ける。
1〜2話では、ただのうるさいセクハラカラオケおじさんだと思っていた村井だが、回を増すごとに好感度が上がっていく。誰よりもジャーナリズム魂を熱く燃やしていたのは、村井だったのだ。
対して、斎藤(鈴木亮平)の好感度は下がっていく一方である。村井が斎藤に対し「引き返すなら、今だ」と言ったとおり、これ以上、大門側に肩入れするなら未来は危うい。
彼には早いところ恵那の元へ引き返してもらい、彼女に渡した指輪の意味合いについて、あらためて言葉にしてほしいところだ。せっかくのベッドだって、このまま買い戻し損にはしてほしくない。
次週の最終回にて、「真実」への向き合い方が問われる。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{最終話ストーリー&レビュー}–
最終話ストーリー&レビュー
最終話のストーリー
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巨大な力の前になすすべもない拓朗(眞栄田郷敦)と、一度は希望を失い、諦めることを選んだ恵那(長澤まさみ)。それぞれが出した答えは…。
闇に葬られた“真実”が白日の下にさらされる日は来るのか!?
大門亨が死んだ。大門副総理(山路和弘)の娘である妻と離婚し、事務所も退職し身ひとつになった亨が命を懸けて、大門に対するレイプ事件“もみ消し”疑惑を告発しようとしていたことを知る拓朗(眞栄田郷敦)は、その死の意味を理解し、言葉を失う。
一方の村井(岡部たかし)は、亨の正義を踏みにじり、自らの保身のため、身内の死をもってすべてに終止符を打とうとする大門のやり方、さらに、権力という名の悪から目をそらし、平然と報道を続けるマスコミのあり方に怒りを爆発させる。
『ニュース8』のスタジオに殴り込んできた村井のただならぬ様子を見た恵那(長澤まさみ)は、その真意を知りたいと、拓朗の元を訪ねる。しかし、亨を死に追いやったことに責任を感じ、かつての村井の忠告の意味を嫌というほど思い知らされた拓朗は、恵那の言葉に虚無感といら立ちを覚え、今度こそ、この一件から手を引くと宣言する。深い失意と恐怖に襲われる拓朗の言葉に、恵那が出した答えは…!?
最終話のレビュー
心が折れる瞬間には、音がする。
物理的に「心が」「折れる」なんてことはないのだけれど、人が絶望するとき、どうしたって勝てない相手だと痛感した瞬間などは、ほんとうにポキッと折れる音が聞こえる。
恵那(長澤まさみ)も、岸本(眞栄田郷敦)も、そんな音を聞いてきたのだろう。とりわけ、大門副総理(山路和弘)の秘書を務めていた大門亨(迫田孝也)が、自殺に見せかけられ消された件に対しては、文字通り立ち上がる気力さえなくなった。
もう諦める、もう勝てない。強大すぎる敵を前に、すべてを投げ出そうとする岸本。彼の姿を見て、またもや恵那の心に火がともる。
「当たり前の人間の、普通の願いが、どうしてこんなに奪われ続けなきゃいけないのよ」
国を背負って立つ者として、その責任の大きさは計り知れない。しかしそれが、国を、国民を守るための大義名分として、真実を覆い隠す理由になるだろうか。大門側がやろうとしていることは、言ってしまえば身内の失態を取り繕っているだけ。
そのために命を落とした人間、そして、冤罪を着せられ命を奪われようとしている人間がいる。
人間不信になってもおかしくない壮絶な出来事を前に、この人なら信じられると思える相手と出会うこと。それを奇跡と言わずに、なんと表現できるだろうか。
「希望って、誰かを信じられるってことなんだね」
恵那にとって、その相手=希望が岸本だった。元はと言えば、彼がこの話を恵那に持ちかけなければ、今でも深夜バラエティ番組「フライデーボンボン」は続いていたかもしれない。何も変わることのない現状があるだけ。村井(岡部たかし)だって、いつまでもただの「セクハラカラオケおじさん」だったかもしれないのだ。
報道番組「ニュース8」のキャスターに返り咲いたことをきっかけに、冤罪事件から距離を置いているように見えた恵那。しかし、大門側の特大スキャンダル・強姦事件の揉み消しについて、番組のトップニュースで報道することを決意する。
「信用を裏切るってさ、その人から希望を奪うってことなんだよ」
覚悟を決めた恵那は強いし、カッコいい。慌てて斎藤(鈴木亮平)が、もっともらしいことを並べたて説得するが、もう流されることはない。交換条件として「本城彰(永山瑛太)が真犯人である証拠について報道させろ」と提示。折れた斎藤は、それを了承する。
あとは怒涛の展開だ。もはや言い逃れはできない、決定的な真実が世間に公表されるや否や、松本(片岡正二郎)は釈放された。チェリー(三浦透子)とともに、カレーとケーキを食すシーンは、今後も折に触れ思い出すだろう。
恵那は「ニュース8」のキャスターを続投。村井と岸本は会社を立ち上げ、独自に報道の姿勢を追い求める。斎藤は斎藤で、わかりやすく政治を解説するポジションを守っているようだ。
恵那が言ったように、本当は「正しい」も「正しくない」も、ないのかもしれない。人によって見方も意見も変わるし、立場によって正誤も変わるものだ。
しかし、だからと言って、各々の正しさを見極め、追求することをやめてしまったら。それこそ、この国はどうなってしまうのだろうか?
真実を求め、正しく在ろうとする者たちは、腹が空く。松元とチェリーが、カレーとケーキを食べたように。恵那、岸本、村井が牛丼をかっ食らったように。物語を物語のままで終わらせず、私たちも全身全霊で、正しさを見つめ直すときなのだ。このドラマから得たものは、大きい。
※この記事は「エルピス—希望、あるいは災い—」の各話を1つにまとめたものです。
–{「エルピス—希望、あるいは災い—」作品情報}–
「エルピス—希望、あるいは災い—」作品情報
放送日時
2022年10月24日(月)スタート。毎週(月)夜22:00〜 ※初回15分拡大
出演
長澤まさみ/眞栄田郷敦/三浦透子/三浦貴大/近藤公園/池津祥子/梶原 善/片岡正二郎/山路和弘/岡部たかし/六角精児/筒井真理子/鈴木亮平
脚本
渡辺あや
演出
大根 仁
下田彦太
二宮孝平
北野 隆
音楽
大友良英
制作協力
ギークピクチュアズ
ギークサイト
制作著作
カンテレ