2022年10月3日より放映スタートしたNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」。
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事では主人公・舞が大学生になった4週目~7周目の記事を集約。1記事で感想を読むことができる。
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もくじ
第16回のレビュー
韻を踏んではじまった第4週「翼にかける青春」(演出:田中正)。舞(福原遥)、18歳。大学に入って、飛行機を作る勉強(航空工学)をはじめました。さっそく、サークル勧誘で、人力飛行機サークル・なにわバードマンの部室を訪ねます。
勧誘されたとき、飛行機興味ありませんか?とチラシをもらったとき、飛行機のサークル!って飛びつかず、友人がイケメン(佐伯功/トラウデン都仁)目当てについていくあとをちょこちょこ追いかけていく形であることが、舞らしい気がしました。
やっぱり飛行機が好きなのがよくわかるのが、主翼を見たときのまなざし。恋するようなときめきを感じました。福原さんの魅力は、ほんのちょっと眉根が寄って眉が若干下がってるところ。張りのあるお顔立ちで眼ヂカラも強く元気いっぱいなのですが、顔に力がみなぎりすぎると圧が強くなり過ぎるところ、若干、申し訳なさそうな眉で中和しています。
ぐいぐいいかず、おずおずと主翼に触れようとして「あかん!」と由良冬子(吉谷彩子)に声を出され、びくっとした瞬間に、主翼を一枚壊してしまいます。
サークルの紅一点らしき由良。キツそうで、ああ、物語によくある、ヒロインにきつく当たるライバル的存在? と一瞬不安になりましたが、はたして?
今後を占うヒントとして、シネマズプラスマガジンで行った福原遥さんのインタビューで、吉谷さんにしてもらって笑顔になったエピソードがあります。それを読むと、役のうえでもいい関係になるのではないかという気がしています。WEBでも読めるのでぜひ、ご覧ください。
念願の“朝ドラ”ヒロインに。福原遥「舞を演じることで勇気をもらっています」
さて、第3週までの子供編は、近年の朝ドラの子供編にしては長いほうで、じっくり描かれました。子供編が良いと、大人編の導入部では違和感を覚えることがままあります。
「舞いあがれ!」はどうだったでしょうか。福原さんの舞は、前述したように、子供時代のちょっと気弱な雰囲気を残していて、違和感ありませんでした。
貴司(赤楚衛二)も文系のはずがなぜかSEになっていましたが、ナイーブな雰囲気は少年時代のままでやはり違和感ありませんでした。まじめなワイシャツ姿がまた清潔感あって良し。
久留美(山下美月)は明るくちゃきちゃきに育ったようで、若干、子供時代と違う印象ですが、幼馴染、3人ともナイーブ系だとバランスが良くないので、致し方ない気がします。でも、相変わらず、お父さん(松尾諭)は職を転々としているようで、実は幼馴染みの3人のなかでは最も家庭環境が恵まれていないはずで、内面とふるまいのギャップは大きい、難しい役どころと思われます。
やっと買ったケータイで久留美が電話をかけてきたとき舞の返しが「嬉しい これでいつでも電話できるな」と言う言葉なのが、微笑ましかったです。嬉しいって自分ごとのように喜ぶのが良き。そのとき、一目惚れした主翼の絵をせっせと描いているところも注目です。
大人編になると、子供時代の無邪気さがなくなり現実的になり過ぎて、興味が持てなくなることがあります。子供時代の出来事は比較的誰もが経験することですが、大人時代は主人公の行動が多様化してしまうため、興味のないジャンルに向かうと共感しづらくなりがち。大学、サークル、飛行機……と来ると偏って見えますが、どうやら舞は子供の頃の純粋さを持ち続けているので、大人編も失速する心配は……ない気がします。
【朝ドラ辞典 進学(しんがく)】主人公が成長して大学に進学するか就職する。朝ドラでは高校を出て進学することが多い。戦中戦後が舞台になることが多く、当時は進学したいけれど家庭の事情で就職せざるを得ないことが描かれる。現代を描いた「半分、青い。」「おかえりモネ」「カムカムエヴリバディ」(ひなた編)のヒロイン、も高校を出て就職していた。「舞いあがれ!」は大学に進学する珍しいヒロイン。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第17回のレビュー}–
第17回のレビュー
舞(福原遥)は大学の人力飛行サークルなにわバードマンに入り、翼を支える骨リブの型紙を作るお手伝いをはじめます。最初はうまくいきませんが、要領を教えてもらったらできるようになりました。
楽しくなってきたところへ、コンテスト出場の書類審査で不合格になった通知が届きます。盛り上がっていた気持ちが急降下……。
何が悪かったのか。女性パイロット・由良冬子(吉谷彩子)が「色物枠」と思われたのではないかなんて意見も出ます。ひどい、色物枠だなんて。
でもバードマンとしては、由良は男とか女とか関係なく、パイロットにふさわしい能力を持った者であり、彼女の体格に合わせて飛行機が設計されていました。
男であろうと女であろうと、それぞれ個性は別々です。身長も体重も身体能力もみんな違います。バードマンのメンバーも由良以外全員男性ですが、みんな違った雰囲気です。とはいえ、顔と名前は筆者はまだ覚えきれていませんが……。
目立っているのは、部長の鶴田葵(足立英)と設計者の刈谷博文(高杉真宙)。
鶴田はやわらかい雰囲気でみんなを包み込む感じ、刈谷はクールな頭脳派という感じで対照的ですが、飛行機のことになると熱くなります。
コンテストに出ることができない代わりに、自主的に女性パイロット記録に挑もうとしたときの口ぶりがとても熱っぽかったです。
1987年アメリカでライトイーグルが記録した15.44キロメートル、女性パイロットの世界記録
刈谷のセリフ、ただ、データを語ってるだけなんですが、すごい記録とはそこに至るまでの苦労を想像して、重みを感じます。そして、明るい希望も。
この記録を超えることができるか。青春の思い出に記録飛行に挑もうとするバードマンたち。一回降下した機体がまた上向いてきましたよー。
さて、第17回で感じたのは、回り道してもいいということです。
貴司(赤楚衛二)は、文学の道を諦めてはいませんでした。SEをやりながら好きなことをやりたいと考えているようです。久留美(山下美月)はバイトしながら看護学校に通っています。
誰もが好きなことに邁進できるわけではありません。目的のために別のことをしているうちに目的がずれてしまうことも多々あるものですが、目下、貴司も久留美も、別のことをやっているとより目的に対する思いが募って頑張れるようです。
幼馴染のなかでは舞が一番恵まれていて、飛行機を作るための学校に通えて、サークルでも飛行機を作ることを経験できています。舞も、バイトして部費を稼ごうと考えるようになりました。
由良はコンテストの準備に1年かけてトレーニングを重ねてきて、これからは記録飛行のためにまだまだトレーニングを続けています。夢に向かってコツコツ、ちょっとずつ、回り道でもいいから近づいていくのです。
【朝ドラ辞典 男と女(おとことおんな)】朝ドラでは女性主人公が多いため、男性社会のなかで、女性も社会進出していこうと考えて張り切る物語が多く書かれる。例えば「カーネーション」は祭りのだんじりを女性が引けないことを悔しく思ったヒロインはミシンをだんじりに見立てて洋裁の仕事に励むようになる。「あさが来た」では夫がふらふらと遊んでいて、ヒロインのほうが事業に興味を持っているという逆転が描かれた。女性は結婚して夫を支え子供を生み育てることが当たり前と考えられていたなか、そうではない価値観を模索してきたのだ。「舞いあがれ!」では一步進んで、「女とか男とか関係ない」(刈谷)というセリフが登場した。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第18回のレビュー}–
第18回のレビュー
貴司(赤楚衛二)の家のお好み焼き店・うめづで、舞(福原遥)がお好み焼きに舌鼓を打っているところへ、兄・悠人(横山裕)がふらりと入って来ます。
雪乃(くわばたりえ)に芸能人みたいと言われる悠人。横山さん、芸能人ですものね。
東京の大学(東大)に行って、家に全然連絡を入れない悠人。まずは、家に帰ろうと舞に引っ張られてしぶしぶ戻ります。
ふらっと戻ってきたわけはいい会社の内定が決まったかららしい。なんだかんだ言いながらも悪い息子ではないのです。お好み焼きを「最高」と食べたときの笑顔なんて実に素直でした。でも、浩太(高橋克典)の夢をもって働いている様子を批判します。
悠人は仕事に夢なんて必要ない主義。大事なのはお金。で、株を学んですでに2000万円貯めました。就職する前に早くも老後に必要な分をクリアーです。これからもっと増やしていくそうです。
超現実的な悠人と夢を大切にする浩太。
浩太は、悠人に大きな夢を持つことを教えたいと考えます。純粋な人ですねえ。
超現実的な悠人と夢を大切にする舞。
飛行機を作る夢をもって人力飛行機サークルに入った舞は、リブ作りから、フェアリング(発泡スチロールでコクピットを作る)の作業に移行します。
トレーニングから帰って来た由良(吉谷彩子)に「おつかれ」と言われ、にんまりする舞。すっかり由良先輩に憧れちゃっているようです。このときの福原さんの表情が絶妙にかわいい。
サークルは夢に向かう人達の気持ちが一丸となってなめらかな球体のようです。
まずは家に帰って心配する母親(めぐみ/永作博美)に顔を見せろと、雪乃がとても真っ当なことを言うことも合わせて、この世界には秩序があります。
自然の摂理と違うのは、大学生の悠人を40代の横山裕さんが演じていることです。
フィクションにはこのような現実とは違うけれど、みんなが了解して済ますことがあります。それをあえて、ツッコむやり方もありますが、「舞いあがれ!」ではあまりツッコむ気になりません。なぜかというと、おそらく、物語がスムースに流れていて、40代が大学生をやっていても、そういう裏のことが気にならず、物語に没頭できるのです。
横山さんがナチュラルだというのもあるでしょう。それと、前々作「カムカムエヴリバディ」ですでに深津絵里さんが40代後半で18歳を演じていたのでもう慣れたというのもあるでしょう。
それより気がかりなのは、悠人が株をやっていることです。2000万円を10倍にすることを目標にしているようですが、株は浮き沈みが激しいので、とても心配です。
あと気になるのは、舞の食べてるお好み焼きの乗ったお皿がきれい過ぎること。
【朝ドラ辞典 兄(あに)】主人公にはたいていきょうだい(兄姉弟妹)がいる。ヒロインと弟(「ちゅらさん」「おちょやん」「カムカムエヴリバディ」のひなた編)、ヒロインが三姉妹(「とと姉ちゃん」「まんぷく」「エール」)、ヒロインと姉(「あさが来た」)、ヒロインと妹(「おかえりモネ」)など、様々な家族構成がある。「舞いあがれ!」「ちむどんどん」「カムカムエヴリバディ」と3作続いて、兄が家庭に波風を立てることが続いている。「舞いあがれ!」の悠人は頭はいいが反抗的、「ちむどんどん」の兄・賢秀は借金ばかりしていて、「カムカム」ではラジオの窃盗や店の運転資金を持ち逃げした。でも朝ドラではどんなことがあっても家族の絆は強い。関連用語:弟、姉、妹
※この記事は「作品名」の各話を1つにまとめたものです。
–{第19回のレビュー}–
第19回のレビュー
舞(福原遥)、はじめてのサークル飲み会。お店は、ずっと留年している無口な空山(新名基浩)のバイトしている居酒屋。
大学生の飲み会といったらこんなものじゃなくもっとぐちゃぐちゃとごみごみとしている気がしますが、なにわバードマンは極めて品行方正のようです。
これまで紅一点だった由良(吉谷彩子)はオタサーの姫的にならず、孤高の人という感じで、舞が入ってきても誰も興味をもっているふうがありません。
舞も、勧誘のとき、ほかの女子がイケメン・佐伯(トラウデン都仁)に惹かれて部室まで来たような、浮いた感じは一切なし。
飲み会で玉本(細川岳)が舞に聞いたのは「鶴田か由良かどっちが気になる?」でした。「どっちにしろ三角関係やな」と。
鶴田か刈谷(高杉真宙)か、ではなく鶴田か由良なのです。
舞が気になっているのは由良でした。同性の先輩に憧れる、あるあるですね。でも、それよりも飛行機に夢中な舞。好きな飛行機の絵をスケッチブックに描いていて、その通さに、部員たちは盛り上がります。ただただ飛行機が好きな人たちばかり。
「潤いがほしい」という玉本の気持ちもわからなくはないですね。
でも「人の恋愛で潤わんといてください」と佐伯は厳しい。
鶴田と由良はふたりきりでテーブルを囲んでいます。鶴田は由良が好きらしいのですが……。
部員たちは、鶴田派、刈谷派があるようです。といっても権力争いみたいなギスギスしたものではなく、好きな先輩という感じ。
「最高に仕上がった飛行機と最高に仕上がった由良が未来で待ち合わせしとると」と知的な刈谷派か、
「翼が折れても心は折れへん」と素朴な鶴田派か。話す言葉に性格が出ています。
なににしても、サークル=恋愛 という安易な流れにはならないようで、そういうのが好きな人はがっかりかもしれませんが、恋愛ものに興味ない人にはホッとします。ただこんな舞がいつか恋することがあるのかは気になります。
飲み会で親睦を深めた 俺たちなにわバードマン。
由良はトレーニングに励み、舞は彼女の飛行機に挑む気持ちを知ります。
子供のとき野球をやっていた由良、だんだんと男性に体力で勝てなくなっていったとき、女性パイロット・アメリア・イアハートを知り憧れたのだそうです。
男とか女とか関係ないと言うものの、体格や体力の差異は歴然としたもので、そこをどう埋めていくか、それが女の闘いのひとつだと思います。男の人でも小柄な人がいますから、結局は男女差ではなく個々の問題ですけれど。要するに、自分の個性を最大限に活かせるものを見つけることが大事なんでしょう。
さて、テスト飛行。
夜中、準備して、朝、広い滑走路を走る舞たちが清々しい。
美しい朝、美しい飛行機、
翔んだ! と思ったら…… どうなる由良?
【朝ドラ辞典 女性パイロット(じょせいぱいろっと)】女性パイロットを主人公した朝ドラは1976年、朝ドラ第17作「雲のじゅうたん」がある。時代は大正、ヒロイン真琴(浅茅陽子)は利根飛行学校で学び、日本人初の女性飛行士になる。大正時代の複葉飛行機を復元し撮影したことが注目された。ヒロイン真琴はオリジナルキャラクターで、実際、日本で活躍した特定の女性飛行士をモデルにしてはいないと言われている。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第20回のレビュー}–
第20回のレビュー
由良(吉谷彩子)はテスト飛行で骨折して全治2ヶ月となってしまいました。
「先輩がたの最後の夏、こんなふうに終わらせたくないんです」と由良は怪我を治して
もう一回トライすると言いますが、かなり難しそうで……。
悔し泣きする由良を見守る鶴田(足立英)の背中に「飛べ!」の文字があって切ない。
第19回で「飛んだ!」と滑走路をみんなで走ったときがあまりに晴れやかだったので、その反動はきつい。部室に重い空気が立ち込めます。
もう一度、トライしようと言う鶴田に対して、「もう終わりたい(博多弁)」とすっぱり諦め、引退を決意する刈谷(高杉真宙)。
鶴田の案は、男たちと比べて由良と体型が近いほうの舞(福原遥)をパイロットにして再挑戦することですが、刈谷としては、入ったばかりの舞ではトレーニングが間に合わないし、不安要素のあるトライをしてまた失敗することを懸念するのです。
鶴田が由良の夢を叶えたい(引き継ぎたい)と粘るのは、第19回でどうやら鶴田が由良に恋ごころを抱いていることが語られていたことで、彼の強い思いの出どころがなんとなくわかります。それが恋だけだと私情過ぎて白けますが、部員思いであることもわかるので人情の人だということでなっとくできます。
一方の刈谷は、あまりにもきっぱりと諦めてしまいます。「なにわの天才」と讃えられていた刈谷ですから、自信があるだけに折れると弱いのかもしれません。論理的過ぎて、情が入る余地のないタイプなのでしょう。
和気あいあいだったのにギスギスしてしまうなにわバードマン。
舞は、みんなの夢を叶えるために由良の代わりにパイロットになるか迷います。
でもめぐみ(永作博美)は「みんなのために舞が無理するの?」と問います。
鶴田と刈谷、舞とめぐみ、ふたつの考えが対立して……。
舞が見舞いに行くと、由良は、みんなの期待を背負うことの重さを語ります。楽しいことが大事と思っていたけれど楽しいだけではいられないことを知る舞…。
なかなか決断できずにいると、これまで一言もしゃべらなかった空山(新名基浩)が部室でしゃべりだします。
7つ……これまでに僕が触れた人力飛行機は7つ
空山は人力飛行機が好きなあまり、留年を続けて7年大学にいましたが、そろそろ故郷・宮崎に帰らないとならなくなり、「僕が触る最後の人力飛行機」なのだそう。
これまでの7つの人力飛行機の思い出を語る言葉には、心がこもって聞こえました。
7年の間、卒業していった人たちが、その都度、心を込めてきた飛行機のノウハウと情熱が蓄積されているのです。おそらくですが、空山は人力飛行機も好きだし、みんなで力を合わせてなにかすることが好きなのでしょう。
余談になりますが、実感のこもったセリフを語った新名さんご本人も宮崎出身。刈谷の高杉さんは福岡出身で博多弁を喋っています。大阪の学校には西の人たちが集まってくる感じがリアルです。
さて。
「みんな」というのはいまここにいる「みんな」ではなく、通り過ぎていった人たちも含めての「みんな」。そう思うとますます責任は重い。でも、だからこそ、背負う意味もあります。
そして舞は決断します。テスト飛行失敗、由良の骨折、空山の想い……ちょっと展開が早くて、すべてが舞の今後の活躍のためのお膳立てのようにやや見えてしまいましたが、舞があっけらかんとしてなくて、どこかためらいを感じさせることで緩和されています。
【朝ドラ辞典 展開早い(てんかいはやい)】朝ドラでは、なにか事件が起こっても、次の回では即解決ということが少なくない。問題を引っ張り過ぎると視聴者にストレスがかかることへの配慮からだろうか。この展開の早さは作り手の腕の見せどころで、鮮やかに解決して気分よく見ることができる場合、心配したのになにこの展開……とがっかりする場合がある。マニュアル的にこの展開を行うと後者になる。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第21回のレビュー}–
第21回のレビュー
テスト飛行で負傷した由良(吉谷彩子)の代わりにパイロットになろうと決意した舞(福原遥)。鶴田(足立英)に相談すると、反対されます。舞が思うよりももっと大変だからです。
実際、由良のやっていたトレーニングをやってみると、ほんのちょっとで汗だくに……。
「由良は210ワットで1時間半こぐつもりやった」でも舞は3分でもくたくた。
それでもやりたい舞。
「みんなで作ったスワン号、私が飛ばしたいんです」と真剣な舞に、ちょっと時間くれるかと保留する鶴田。ここで、「飛ばしたいんです」「よし!頼む!」とならないところが良き。
パイロットをやっていいとまだ言われてないにもかかわらず、舞はトレーニングのためにさっそくロードバイクを買いに行きます。舞の意思の強さの現れです。
冷静に見れば、主人公が活躍するために、由良が怪我する流れになっているわけで、この主人公ファースト感を薄めるためには「私がやります」というよりも、まわりにやってと頼まれて仕方なく……という流れのほうがカドが立たない気はします。でもそうしなかったのは、舞が自分の意志で動くことの大切さを描いているからではないでしょうか。
大事なのは飛行機のパイロットになることではなく、舞が自分の意思で、みんなの思いを背負おうと思うことなのです。
部員で多数決をとってみたら、全員賛成。無口な空山(新名基浩)が真っ先に賛成してくれました。
ロードバイクはなかなか高価な品で悩みますが中古でいいものを発見。久留美(山下美月)が値切ると協力してくれました。
さて、大人編になってから、ちょっと気になっていたことといえば、久留美のキャラ変です。
子供時代の久留美はクールビューティー系でした。ところが成長したら、バイタリティーある人に。クールな久留美が名残惜しく、「まかしとき」とぐいぐいおっちゃんに根切り交渉に向かうような、積極的で明るくチャキチャキした感じの久留美にまだ慣れない視聴者もいるでしょう
10年の間に久留美に何が……。それを想像することは難しくはありません。
父子家庭で、しかもお父さん(松尾諭)が定職につかず、経済的に苦労しているからしっかり者になるしかなかったのではないでしょうか。人は変わるものです。変わってないのは、さらさらストレートロング。そして、舞との友情。
子供編と大人編で変わるのは俳優だけでなく舞台も変わることがよくあります。子供編のときは地元の自然満載だったのが、大人編になると職場のセットになって抜け感がなくなりがちですが、「舞いあがれ!」は大人編で自然は減りましたが、街の様子もロケを多用しています。
古本屋デラシネの路地に入る前の商店街や、第21回の自転車ショップや、電車が走る脇の道など。なんだかふつーのドラマみたい! 朝ドラがふつーのドラマじゃないとは言いませんが、家、職場とセットが多く、べたっと平面的な印象なのです。それが今回はとても広がりを感じます。良き良き。
前述した、汗だくの舞のシーンも実際に舞がトレーニング機器で身体を動かしたことで肺がばくばく大きく動いているのがわかります。汗は水をスプレーしてそう見せることも可能ですが、呼吸はそれっぽくやるのは難しいです。「舞いあがれ!」はこういう自然な描写が多いところが魅力のひとつです。
【朝ドラ辞典 キャラ変(きゃらへん)】長い物語のなかで、あれ、このひと、こういう言動するキャラだったっけ?と疑問に感じることがたまにある。とりわけ子役から大人へ俳優が変わったときに起こりがち。人は月日や環境で変わるものということもあるし、ちょっとした都合のときもあるのでそっとしておくこと。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第22回のレビュー}–
第22回のレビュー
舞(福原遥)がパイロットをやることになり、サークルを引退した刈谷(高杉真宙)を連れ戻しに行きますが、「おまえが飛べるわけなか」とけんもほろろ。
由良が1年かけたものを2ヶ月でやれるわけないと言うのです。
刈谷はよくも悪くも頭が良すぎて、いろんなことが見えてしまうのでしょう。そういう意味では先が見えない人たち(ほかのバードマンの人たち)のほうが無謀に挑んでいけるものです。
一歩ずつ登っていったらいつかは山の頂上にたどりつける
家の玄関で靴を磨きながら浩太(高橋克典)が舞に言います。
浩太は浩太で自分の夢のために人工衛星に関わっている会社の工場見学に参加して、刺激を受けたのです。前向きな父の姿に励まされる舞。
玄関で靴磨きしながら話す父娘。いいシチュエーションです。第1週のキッチンのシンクの前の床座りする浩太とめぐみも良かったですし、この回の上がり框に座った浩太と舞も良かったです。なにげない場所選びが「舞いあがれ!」はセンスがいい。
ホームドラマは居間やダイニングばかりではなく、家族だからこそ、一緒にいてもいい場所があります。「負けへんでー」という浩太の気持ちと靴を磨く動きが希望を感じさせます。
無謀なチャレンジには困難がつきもの。
女性の体と一口にいっても千差万別、由良(吉谷彩子)と舞の体もだいぶ違っていて、
設計を変えなくてはならなくなりました。
刈谷が戻ってこないから、玉本(細川岳)が代わりにやりますが、なかなかうまくいかず、部内がぎくしゃく……。
舞が病院へ由良の見舞いに行くと先客がいて……。刈谷です。彼は自分の設計ミスだと責任を重く受け止めていました。
最初は頑なだった刈谷ですが、設計を変えると聞いて血相変えて戻ってきます。そして、わりとあっさり復帰。ちょっと拍子抜けなくらい。
まあこれ、朝ドラあるある「展開早い」です(朝ドラ辞典第20回参照)。
戻ってきたのはいいけれど、スパルタで、舞に5キロ体重を減らせとか、トレーニングの目標値を上げるとか、厳しい。理想のためには妥協しない刈谷の眼鏡がキラリ、とクールに光っています。
ドラマ上は舞は、由良と体重が5キロ差があるようですが(身長差もあるから)、演じている福原遥さんはとても華奢なので5キロ痩せるのはかなり大変そう。しかも2ヶ月で。
実際、リアルに5キロ痩せるようなデ・ニーロ・アプローチはしないと思いますが、気は使っていそうです。お好み焼き屋や居酒屋のシーンでお皿にあまり食べ物が乗ってなくて食が細そうに見えました。食事シーンを何度もカット割って撮るとたくさん食べることになると聞きますから、俳優は用心するようです。演技以外でも気を使うことがあって大変!
【朝ドラ辞典 病院(びょういん)】朝ドラに限ったことではないが、ドラマでは病院、病室がよく出てくる。以前、筆者が訊いた話しだと、病室のセットはシンプルで作りやすいため、ドラマの後半、スケジュールがなくなってくると病室シーンを作りがちなのだとか。入院患者が寝ていて、見舞い客がその前に立つという画もだいたい決まっているから、撮りやすそうではある。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第23回のレビュー}–
第23回のレビュー
ドキュメンタリー番組のパロディのようにはじまりました。
なぜ? という語り(ばらもん凧/さだまさし)の質問にカメラ目線で答える刈谷(高杉真宙)から順になにわバードマンの面々をカメラが移動しながら追っていく場面はとてもなめらか。
なにわバードマンの部員たちもだいぶ印象に残ってきましたが、ここで改めて紹介することで由良(吉谷彩子)から舞(福原遥)にパイロットが代わり、新たな気持ちで取り組む結束力が伝わってきます。由良が少しお気の毒ではありますが、なにわバードマンwith舞という感じ。
舞はトレーニングとダイエットに励みます。お昼ごはん一瞬で終わった……と持て余す昼休みの間を祖母・祥子(高畑淳子)へ電話をかけることで紛らわします。
五島列島の人々が久しぶりに登場。みなさんお元気そうです。
さくら(長濱ねる)が念願のカフェをOPENさせていました。さくらもコツコツと夢を叶えたことはきっと舞には励みになったことでしょう。舞の頑張りが、なにわバードマンの人たちを思ってのみならず、遠い五島列島の恩人たちのことへの思いも込められているように感じ、とてもあたたかい気持ちになります。あの一太くんも元気にやってるようです。
舞が目下、苦しんでいるのは食事制限。お弁当はちょっとだけ。祥子が送ってくれたジャムも我慢しようとしますがこれは食べてしまいます。お好み焼きは、特製プロテイン入りの油と炭水化物抜きのねぎ焼き。その甲斐あってあと目標体重の半分までいきました(減らす分の半分)。
お好み焼き・うめづで、久しぶりに幼馴染3人が集まりますが、貴司(赤楚衛二)は「干からびた犬」という言葉を書いていて、それは自分だと言い、舞たちを心配させます。
干からびた犬、なかなか強烈な負を感じさせるワードです。
楽かと思って入った会社が本業のSEだけでなく営業もやらされていてその成績が最下位で悩む貴司。そのわりに仕事の合間に、舞の家の工場のホームページ作成を手伝っているのですが……。
「息ができないほどしんどいときに生まれるのが詩や」
古書店の八木(又吉直樹)にそう言われて、気持ちを切り替える貴司。「干からびた犬」という詩的な言葉も怪我の功名なのでしょう。日曜劇場だと、貴司のような人はノルマに苦しんで苦しんで追い詰められていきがちですが、「舞いあがれ!」では工場がピンチになった浩太(高橋克典)も大丈夫でしたし、貴司もそこまで悪いことにはならないのではないでしょうか。
貴司は仕事の苦悩を言葉にし、舞は肉体の苦悩がやがて飛ぶことで昇華されるはず。そのとき、舞の行為は詩になるのです。
【朝ドラ辞典 食事(しょくじ)】朝ドラには食事シーンがよく出てくる。基本、ホームドラマなので食卓が主な舞台になる。また、食が題材になり、ヒロインが料理を作る物語もちょくちょくある。家族や仲間たちが食事をしながら語り合う場面では美味しそうな食事が出てくる。舞台になった地域ならではの食も見どころのひとつ。朝ドラに出てくる食べ物は美味しいという評判だと聞く。だが俳優たちは食べながらセリフを話すのがなかなか至難の業。聞いた話だと食器を移動させるときなど音をさせないように気を使っているそうだ(少なくとも「おしん」の頃はそうだった)。これらができると芸達者。しかもワンテイクでOKではなく何度か同じ場面を演じるので何度も食べないといけない。ほのぼの見えて演じてるほうは気が抜けないのである。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第24回のレビュー}–
第24回のレビュー
今朝はまたミサイルのニュースで本放送がなくなりました。
舞(福原遥)は一生懸命、ダイエットとトレーニングをしていますが、体重が増えてショック。ダイエットにありがちな停滞期でしょう(舞の場合リバウンドか)。
急に痩せると体が警戒して体重が落ちなくなることがあります。でもそこで諦めず続けていくとまたストンと体重が落ちる。ダイエット経験のある人にはわかることですね。
体重はなんとか減りますが、トレーニングの成果がいまひとつ。体重を急激に減らすため食べてないのに体力出るわけないと思いますけれど、そう思うとアスリートって大変ですね。
落ち込んでいるところへ由良(吉谷彩子)がやって来ます。松葉杖で歩けるようになったのです。
由良は舞を琵琶湖に誘います。
鶴田(足立英)に車を出してもらって、由良は車に乗り、舞はロードバイクで行きます。これもトレーニングみたいなもの?
琵琶湖について、由良と舞は湖を見ながら語り合います。鶴田は席外し。
びっくりしたのが、湖で風に吹かれる気持ちよさを味わうことに舞が申し訳なさを覚えていることです。みんなは狭い部屋で飛行機を直しているのに、と。
なんてええ子!
苦しむ舞を由良は励まします。
飛行機は向かい風を受けて 高〜く飛ぶんや
ばらもん凧と同じです。飛ぶものってみんなそうなんでしょうか。人間がジャンプするときも深く体重を落としてその反動で飛ぶので、そういう原理なのでしょう。負荷がかかればかかるほど飛ぶ力は大きくなる。そう思うと、今、なにか苦しんでいるとしたら、やがて反動が来て上向く希望があります。
日が暮れて舞が部室に帰ると、「おかえり」となにわバードマンの面々が待っていて……。
由良につきあってもらって必死で頑張る舞を見て、同期の部員たちは舞に少しでも楽になるようにコクピットを作り直すことを提案。せっかくここまでやったのにまた作り直すのは大変なことですが、舞を少しでも楽にさせたいという思いやりを忘れないことはすてき。
舞は湖で仲間を思い、仲間も舞を思う。その麗しい思いの結晶が飛行機であり、飛ぶことなのです。こういうことをこそばゆく思う人もいるかもしれないですが、善行は誰にも迷惑はかかりませんし、心がささくれません。糖質を摂ったほうがいいと由良に言われ「ジャム食べていいですか」と聞いて、許可されるとなんとも嬉しい顔をするのも微笑ましいですが、こういう可愛げが苦手な人もいるかもしれませんが……。「舞いあがれ!」の醸すムードは、朝の白湯のよう。白湯って刺激はないけれど、体にいい。
今朝は本放送がなく、明日4日に第24、25回と連続放送になります。
テスト飛行、成功するように祈る気持ちで明日へーー
【朝ドラ辞典 停滞期(ていたいき)】朝ドラを書くことはマラソンのようなものと語る作家は少なくない。朝ドラはダイエットとも同じ? 長丁場なのでときには停滞期もある。そこを抜けるとぐっと面白くなる……という保障はない。視聴者はただただ見守るしかないのである。「舞いあがれ!」はまだはじまったばかり。まったく停滞の気配はない。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第25回のレビュー}–
第25回のレビュー
小さなネジの、大きな夢。
舞(福原遥)の父・浩太(高橋克典)の会社のCIです。コツコツ長年、努力して株式会社になりました。
お父さんが子供に負担をかけず、へんな個性をふりまかず、実直に働き、ニコニコと
笑顔で、社員や仲間や妻に信頼されている姿っていいですね。
朝ドラではお父さんが頼りないことが多い時代はもう終わりにして、これからは父の復権、規範を見せるようにしてほしい。そんな気分になりました。
舞が黙々とロードバイクを走らせ続ける画がちょいちょい挟まれます。長い道を黙々と走る、一見楽そうで、体力使っている、白鳥が優雅に見えて水面下では足を必死に動かしているというようなものでしょう。それが、単に舞のトレーニングシーンではなく、なにわバードマンの人たちの歩みであり(人力飛行機の“スワン”号のネーミングも白鳥の泳ぎから来ているのかも?)、なんなら浩太と会社の歩みにも見えてきます。なにしろ、浩太の夢は、飛行機の部品を作ること。舞の飛行機に乗る夢と重なっています。
娘の頑張りが、父親に若い頃の夢を取り戻させたのです。
舞はトレーニングに忙しいけれど、自宅で家族の分の料理(サラダ)を作り、腕あげたねと褒められます。さほどの料理ではない気もしますが、味付けがきっと絶妙なのでしょう。味気ないダイエット食ではなく、美味しいダイエット食。それと、ここはサラダづくりの腕前よりも家族で舞のダイエット料理を食べることが重要です。
サークルも家族もいいひとぞろい。作品によっては、こんなに恵まれている主人公なんて……と鼻白むこともありますが、「舞いあがれ!」では不思議にそういう気分にならず、筆者は良かったねえ〜としか思いません。
コロナ禍とかウクライナ戦争とか不景気とか世の中がしんど過ぎるから、庶民がコツコツ夢に向かって幸せを手にする大きな夢をもった人たちの、小さな物語が必要な時代が来ている気がします。
唯一、この穏やかな生活の影といえば、悠人(横山裕)。ひとり東京で薄暗い部屋で株をやっています。いまのところ儲かっているようですが、浮き沈み激しいですからねえ……。株式会社IWAKURAの株はこれから上がるでしょうか。
【朝ドラ辞典 自転車(じてんしゃ)】人物の躍動感を出すために有効な小道具であり、朝ドラでは女性の自立を表現する小道具でもある。「純情きらり」「あさが来た」「カムカムエヴリバディ」などでヒロインが自転車に乗っている。とりわけ「あさが来た」ではヒロインがまだ女性が自転車を乗りこなすことが珍しいとされていた時代に颯爽と乗りこなしていく。「カムカム」では初代ヒロイン安子が初恋の相手と自転車を練習するシーンが印象的に描かれた。「舞いあがれ!」ではロードバイクに進化。女性の自立を超えて、人類の進化の象徴のように見える。
【朝ドラ辞典 8時15分(はちじじゅうごふん)】「舞いあがれ!」第24回はミサイルのニュースによって本放送が休止になり、翌日、第24と第25回が連続で放送された。第25回は8時15分はじまり。2010年「ゲゲゲの女房」で8時はじまりになるまでは8時15分開始だった。8時開始になってから低迷していた朝ドラ人気が復活したと言われている。関連語:8時
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第26回のレビュー}–
第26回のレビュー
第6週「スワン号の奇跡」(演出:小谷高義)は舞(福原遥)のテスト飛行。
「行きます!」といえばガンダムのアムロを思い出します。
はじめて飛ぶ感動を味わい(走っている誰か一人転んでましたね)、由良(吉谷彩子)に操縦がうまいと褒められたものの、ペダルが思いのほか重く感じ、プロペラを加工しようと刈谷(高杉真宙)は考えます。そんなとき役立つのが、浩太(高橋克典)の工場。部品を加工してもらえないかと相談することに……。
早くも舞のやってることと家の工場が繋がりました。
お父さんは飛行機のネジが目標ですから、娘に協力できることがちょっとうれしそうですが、気になるのは舞が恋をしているのではないかということ。工員の結城章(葵揚)から待受を見てにやついていたと聞いたのです。年頃の娘をもつ父としては気が気ではありません。
工場にやってきた刈谷、鶴田(足立英)、玉本(細川岳)の誰かが待受になっているのではないかと緊張感が走ります。
刈谷から舞は「意外としつこい」と聞いてめぐみ(永作博美)も、ん? となりますが、色恋のしつこさではなく、飛行機への静かな情熱です。舞のベタつかない粘りによって、誰もの心が解放されていく。舞はまるで「北風と太陽」の太陽のような人なのです。
制作統括・熊野律時チーフプロデューサーのインタビューでも
福原さんがいると、あたたかい陽だまりができて、そこにみんなが集まって、福原さんを真ん中にして一緒ににこにこおしゃべりしながらお茶を飲む、そういう空気感なんですね。
福原遥さんのことをこう語っていましたが、ほんとうにそんな感じがします。
制作統括・熊野律時インタビュー「『舞いあがれ!』は善人しかいない、日常をすくいとっていく物語に」
視聴者は舞がまったく恋愛に興味なく飛行機一筋であることを知っています。やがて浩太も真相を知りますが、この展開がじつに素朴でした。
そうそう、肝心の部品の加工は、ベテラン工員・笠巻(古舘寛治・たちは土口)がみごとにやってくれました。
風を感じることからはじまり、仲間と家族のあたたかさに触れた一週間のはじまりでした。
都合よく主人公の実家で飛行機の金属加工ができる。最初はここでは無理となりながら、できる技術をもった人がいたという、ここだけ取り出すと、ご都合主義ですが、登場人物がみんな真面目で純粋なので好意的にスルーできます。となると、結局はふだんの行いが良ければなにかあっても大目に見てもらえるということになります。
【朝ドラ辞典 ご都合主義(ごつごうしゅぎ)】主人公の都合のいいようにものごとが進むこと。朝ドラではわりと多い。許容されるときとされないときの差は、主人公のふだんの言動による。日頃、謙虚で利他的であると大目に見られるが、日頃自己主張強めだと批判にさらされがち。これもまた視聴者の勝手な都合である。【朝ドラ辞典 古舘寛治(ふるたちかんじ)】
大阪府出身の俳優。演出も行う。一時期、ニューヨークで演技の勉強をしていた。朝ドラでは「ごちそうさん」(2013年後期)で結婚詐欺師の役でインパクトを残す。「ちむどんどん」(2022年前期)でリニューアルオープンした沖縄料理店・ちむどんどんの客を演じた。【朝ドラ辞典 赤津(あかつ)】「まんぷく」(2018年度後期)に出てきた塩軍団のひとり。ヒロインの母・鈴(松坂慶子)のお気に入りとなりなにかと「あかつー」と呼ばれていた。演じているのは永沼伊久也で、「舞いあがれ!」のなにわバードマンの一員・西浦役で出演しているが、赤津とは外観をまったく変えて現れ、朝ドラファンを驚かせた。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第27回のレビュー}–
第27回のレビュー
記録飛行3日前。舞(福原遥)は目標体重まで落とすことができました。
達成感いっぱいで舞が部室にいると、由良(吉谷彩子)がやって来ます。
ここ、さりげなくポイント高い場面です。
舞が先輩に報告が……と言いかけて、由良が松葉杖なしで歩いていることに気づき、祝います。由良も松葉杖から解放されたばかりで自分語りしたいだろうけれど自分の話を続けることなく、舞に報告ってなに?と話を戻すのです。
舞は自分が体重が落ちた喜びを誰かに伝えたいけれど、由良の変化に気づいてその話題を優先し、由良は松葉杖がいらなくなったことが嬉しいけれど、舞が何が言いたそうなことを優先します。
自分のことを優先しないで、他人に気遣い合うことで、結果的にどちらの話も聞いて喜ぶことができるのです。
舞と由良はいい関係でほんとうによかった。
記録飛行の前日の部室でたこ焼きパーティーも同じ構造になっています。
体重が無事落ちた舞は炭水化物を食べてもいいことになり、何を食べようかそればかり考えていました。そんなとき、目の前にたこ焼きが! 夢中で食べて大喜びで明日がんばります!となりそうなところ、たこ焼き作っている部員たちの「華麗なる連携プレー」が中心となり、試験飛行が終わったら、このチームもばらばらになっていくことを思い、ちょっとしんみりする部員たちの気持ちを舞が受け止めていきます。
主役とは中心になって自分を主張することではなく、まわりの人達の気持ちを背負うということなのです。
刈谷(高杉真宙)は炭水化物は頭の回転を鈍くすると言い野菜を焼いて食べています。でも炭水化物を食べないと頭が働かないとも言いますよね。朝、原稿を書くには炭水化物と筆者は認識していました。迷ったときのネット頼み。検索するとーーおおむね、炭水化物に含まれる糖質が脳を活性化すると書かれています。ただし、食べすぎは良くなく、ほかの栄養素も取ることで脳がしっかり機能するようです。
こじつけると、炭水化物をエンジンとすると、ほかの栄養素ーー部品と共に動くことではじめて飛行機は飛ぶ、みたいなことでしょうか。
飛行機を飛ばすことを奇跡と騒ぐ部員たちに、クールな刈谷は奇跡でもなんでもない物理法則で説明できると水を差す……ように見えてーーみんなの力の結集が飛行機を飛ばすのだと言います。
明日全員が集合してスワン号を飛ばす、ただそれだけのことたい。けどそれを奇跡って言うんじゃなかとか。
たこ焼きのひとつひとつが部員たちの魂のように見えました。それを食べて、舞は空を飛ぶ。
試験飛行当日、空を飛ぶ鳥を見ながら、会話する由良と舞
由良「あんなふうに空飛びたいなあか、かんたんに飛びすぎてなんか腹立つか」
舞「どっちもです」
この会話もなかなか含蓄あります。物事をポジティブに見るか、ネガティブに見るか、それはその人の心のありようです。じつのところどっちもあるのが健全なのではないでしょうか。
【朝ドラ辞典 奇跡(きせき)】思いがけないことが起きること。クライマックスに準備されている。例えば、「あさが来た」の最終回。「カムカムエヴリバディ」の”岡山の奇跡”など。ご都合主義とはちょっと違う。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第28回のレビュー}–
第28回のレビュー
ハラハラドキドキして、泣ける回でした。
こんなにも画面に見入ってしまうことはなかなかないです。
みんなの想いを乗せて舞いあがった舞(福原遥)。
必死で足を動かして飛び続けます。やっぱりスワン号のスワンは白鳥は優雅に見えて水面下では足をすごく動かしていることと通じているように思います。
機体の内部に文字が書いてあるのがリアルでいい。
最初は気分よかったのが機体が熱くなって舞が疲労してきます。
そこへ風が入ってきて……。
日下部(森田大鼓)、藤谷(山形匠)……同期の仲間たちが風が入るように穴を空けてくれたからです(余談ですが、日下部役の森田さん、お名前が「つづみ」。珍しいお名前です)。
持ち直す舞。
みんなの想いを思い浮かべ、涙目になって漕ぎ続けます。
涙と汗が混ざってーー
「飛んで…飛んで…飛んで」
「みんなの夢背負ってんねん こんなところで終わられへんのに」
…と踏ん張ったけれど……。
目標に届かず落ちてしまいました。
飛べて爽快! で終わらず、残念な結果になる週の半ばの水曜日ではありましたが、それでは終わりません。みんな、笑顔です。
「岩倉は10分飛んだ 3.5キロも飛んだんや」と讃える由良(吉谷彩子)
刈谷(高杉真宙)はこう言います。
このフライトのためにすべてを賭けられたことを誇りに思う
舞はみんなに「一緒に空飛んでもろてほんとうにありがとうございました」と言います。“一緒に”と舞は言うのです。
また、この回の琵琶湖シーンの前後に、舞を思いやるめぐみ(永作博美)と浩太(高橋克典)のシーンを挟んでいるところも良かったです。舞は両親にも「ありがとう」とメールしています。
舞は暮れなずむ琵琶湖を見て、充実感を覚え、もっと先へ進もうと考えます。
子供のときに祥子(高畑淳子)から教わった失敗してもいいという精神をここで実感したことでしょう。
爽快、不穏、風の音、回想、涙……王道過ぎる構成ですが、実際、俳優たちが体を動かして汗かいてるので、その鼓動が画面を通して感じられて臨場感あります。コクピットが別撮りでしょうけれど、福原さんが足を動かしている、そこは本物です。お芝居のなかに本物の部分があることが感動を呼ぶのです。「舞いあがれ!」にはこの大事な基本があるから信じられます。
【朝ドラ辞典 水に落ちる(みずにおちる)】「朝ドラあるある」にヒロインが水に落ちるというものがある。ヒロインの規格外のパワーを表現するためか、物語の初期に、川や海に落ちるのだ。例:「あまちゃん」の海、「ごちそうさん」の川など。「舞いあがれ!」では舞が琵琶湖に落ちた。一回落ちて、ずぶ濡れになりながら、這い上がっていく暗喩でもあるだろう。水に落ちたらヒットするジンクスも?
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第29回のレビュー}–
第29回のレビュー
もっと高く、もっと長く、空飛びたい
試験飛行が終わり、気持ちはすでに来年度。舞(福原遥)はもう一回パイロットをやろうと励みます。由良(吉谷彩子)は「来年は私が飛ぶわ」とからりと言い、舞も「私も負けません」と明るい対抗心を振りまきます。これはなかなか難しい関係に思えますが、このふたりにはネガティブ要素が1ミリもありません。
結果、来年度は由良に決まります。これで舞にまた決まったらいよいよ関係性が悪化しそうですが、そういう展開にはなりません。
舞は人力飛行機に乗ることはさっぱり諦めて、本格的パイロットになろうと考えるようになりました。
パイロットの本を読んでるところに由良が来て、彼女は航空学校を身長制限で諦めざるを得なかったと語ります。舞の身長なら大丈夫で、舞はがぜん、やる気になります。
このドラマでは一切遺恨が描かれませんが、由良の気持ちを思うと、切ないです。
身長の低い吉谷さんをキャスティングしたのは、実力はもちろんのこと、体格の壁を描く理由もあったのかと思うと、切ない。
パイロットには身長制限があるのかーと思って、ネットで検索してみました。コクピットで操作を過不足なく行える体格が必要ということで、航空会社でも航空学校でも身長制限を設けている場合もあるようでした。由良、残念。でも、本気で飛行機に乗りたいなら、他にも可能性があるかもしれないですよ。
舞はめぐみ(永作博美)に航空学校に行きたいと相談しようとしますが、お金に関する作業をしているめぐみを見て、言い出せなくなります。
目標が変わったことに後ろめたさを感じる舞。彼女の性格からすると、これまで無理して学校に行かせてもらったと思ったら言い出せないでしょう。
でも密かに勉強をはじめる舞。
休憩に部屋から空を眺めていると、向かいの貴司(赤楚衛二)も窓から顔を出し、こう言います。
星、全然見えへんな
貴司のこのセリフはあとから効いてきます。
クリスマス、幼馴染の三人で会って、舞は、夢を語ります。
舞ちゃん、ほんまの自分を見つけたんやな 羨ましいわ
と言う貴司は会社でやりたくない仕事をやっているようです。
久留美(山下美月)の父・佳晴(松尾諭)は警備員をやっていますが、過去「ドーベルマン望月」と呼ばれていた実力を発揮する場所が見つからず、経済的にはあまり恵まれていないようです。
由良は舞に比べて夢に全然届かなくなっています。
舞にはいま希望の星が見えているけれど、星が見えてない人たちがたくさんいます。
彼ら、彼女らをどう描くか、それが作家の見せどころでしょう。
【朝ドラ辞典 冬子(ふゆこ)】冬子という名前のヒロインが過去にいた。「てるてる家族」で石原さとみが演じていた。冬子の姉妹は、春子、夏子、秋子と四季の名前で統一されていた。父親が春男。朝ドラの登場人物は四季の名前がつくことがよくあって、「あまちゃん」ではヒロインはアキ。母が春子、祖母が夏。「おちょやん」ではヒロイン千代の姪が春子。「花子とアン」では嘉納伝助の娘が冬子。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第30回のレビュー}–
第30回のレビュー
2005年になり、次の人力飛行機はアイビス号。みんなで研究していると舞(福原遥)は心ここにあらずで、部活動を休みたいと言い出します。航空学校を受験するための勉強とバイトをするためで。由良(吉谷彩子)以外は一瞬、反対しますが、すぐに理解を示し応援に回ります。
麗しくも見えますが、由良が飛ぶまではサークルで頑張ろうという滅私の気持ちがないのが意外ではありました。もちろん、他者に気兼ねして自分のやりたいことを諦める必要はないし、舞は由良の代わりに頑張ったのだからお役御免でもいいのかもしれません。が、結果的に空を飛ぶという最高の快感を得られたわけで、その恩返しとして、次に飛ぶ人に協力していくことも大事なのではないかしらとも思いました。飛ぶ鳥、後を濁さず的な。序盤、他人思い過ぎるほどの舞ちゃんだったからこそ余計に気になってしまって……。
なぜそんなに気になるかといえば、部員が少なくなってしまっていたからです。新たな戦力がいれば託せる気がしますが、頼もしい先輩たちが引退して明らかに戦力不足に見えるからです。例えば、眼鏡キャラが3人も。眼鏡差別するつもりはないです。ただ、残った部員6人中、3人が眼鏡で彼らはどうも体力なさそうなんですよ。
心配になるではないですか。
ただ、場合によって、舞がパワー全開、バイトと勉強と部活をやり遂げて航空学校に入ったら入ったで、体力あり過ぎ、こんなになんでもできるわけないと思われますから、苦渋の決断で何かを諦めることに今回はなったのかもしれません。
その頃、貴司(赤楚衛二)は行きつけの古書店デラシネが閉店すると知ってショック。八木(又吉直樹)はなにかに呼ばれたから行くのだと謎の言葉を吐きます。会社ではうまくいかず、頼りの人物と場所がなくなると途方にくれる貴司に短歌を作ることを勧める八木。
嬉しさは
忘れんために
悲しさは忘れるために
短歌にしてみ
さらにその頃、久留美(山下美月)は、父・佳晴(松尾諭)が怪我して警備会社をやめてしまいます。父子家庭で、ふたりを支えるはずの父が夢を失い経済的基盤ももろく、精神的にも元気がないため、久留美が幼い頃からいろいろなことを我慢して、経済的にも負荷を負ってきました。看護学校の学費はがんばって勉強して学費免除を受けています。ものすごく明るく見えますが、かなり大変なのです。
子供のときは憂いを全面に出していましたが、成長とともに内面を見せないように明るく振る舞う術を知ったのでしょう(勝手な妄想ですけど)。内面を正直に出す人よりも隠している人のほうが忍耐強いし、その分、メンタルにも負担がかかっていると思われます。
そんな久留美が雨のなか、舞を訊ねて来て、相談します。離れている母から連絡が来ているものの久留美はこれまで連絡をとっていないようで、でもちょっと心が揺れています。久留美のお母さんはどうしていなくなってしまったのでしょうね。そしてなぜ久留美はお父さんを選んだのでしょう。
幼馴染の貴司と久留美に比べると、舞は家の工場は経営が順調で、父母の仲もよく、夢にも向かってまっしぐらできる環境は整っています。部活もかなり充実していますし……。
おまけに、サークルの由良も舞と比べてついてないことが多いです。
主人公は恵まれていて、その他の人たちは恵まれていない。物語ではどうしてもそういう図式になりがち。そうならないために、お父さんは困った人に設定して、主人公が奮起する契機にするパターンがあったわけですが、お父さんが困った人だと視聴者がしんどい気持ちになるからか、主人公ではない人物のお父さんに悩みを背負わせるパターンが「おかえりモネ」や「舞いあがれ!」です。そうなったらそうなったで、主人公が恵まれ過ぎている!となるので、どうすりゃ良いんだ? と作り手はいつも悩ましいことでしょう。
【朝ドラ辞典 壁(かべ)】朝ドラに限ったことではなく、物語にはたいてい主人公の進路に壁が立ち塞がる。それを乗り越えることがドラマになるから。ただ、朝ドラではとてもわかりやすい書き割りのような壁が出てきがち。類語:試練、悩み、進路
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第31回のレビュー}–
第31回のレビュー
第7週「パイロットになりたい」(演出:田中 正)
飛行機を作る夢からパイロットになる夢へと変化した舞(福原遥)。なかなか両親に相談できなかったがついに大学を中退して航空学校に行きたいと告白しました。
このときの舞のしっかりした口調はこれまでの舞とは違います。
当然ながら困惑するめぐみ(永作博美)と浩太(高橋克典)。
舞はお母ちゃんも中退してお父ちゃんと結婚して後悔してないでしょうと反論します。
あとで、その話を聞いた悠人(横山裕)は、遅れてきた反抗期と笑います。
今までの舞は親に従順ないい子でしたが、はじめて自分の考えを押し通そうとする。それだけ本気なのでしょう。
次のターン(たぶん、航空学校編)に向かってのつなぎのようにも見えますが、登場人物ひとりひとりのキャラが見えます。
舞はある意味のんきな青春時代を終えて自立していく過渡期にあります。
めぐみは中退して駆け落ちして今がありますが、今、落ち着くまでには後悔や葛藤や苦労があったであろうことは過去の五島編で感じられます。その後、工場の経営難もありました。だからこそ、娘には何かを捨てたときの痛みを味わってほしくないのでしょう。さらに言えば、浩太の夢ーー舞の作った飛行機に部品を提供するも消えてしまうことが残念なのでしょう。
舞の話を聞いて皮肉を言う悠人は、いい人ばかりのこの物語のなかで唯一、それを客観的に見て軽く笑う役割です。悠人みたいな人がいないと善人ばかりでほっとするとはいえさすがにぬるま湯気分になってしまうので、差し湯的存在として必要でしょう。
舞は自分の好きなことをやれる環境にあるだけ恵まれていて、幼馴染の久留美(山下美月)、貴司(赤楚衛二)は好きなことよりも生活することでいっぱいいっぱいです。
久留美も貴司も家に帰らない日があり、舞も航空学校に反対されて思わず家を飛び出し、少しだけ久留美たちに近づきましたが、ふたりの家を出る感覚とはやっぱり違う。そう、舞だけまだ社会生活することの実感がないのです。
舞には社会生活のノイズがまだありません。だからつるっときれいなまま。彼女がどう変化していくのか、これから先が見どころです。
【朝ドラ辞典 野球(やきゅう)】「舞いあがれ!」第31回で、貴司の父・勝(山口智充)が近鉄バッファローズ55年の歩みを綴った新聞の特集記事を見ている。2005年3月に近鉄バッファローズは解散、ファンの勝はユニフォームを店内に飾っていることもあり、解散はショックなことであろう。野球は庶民男性の娯楽の最大公約数的アイテム。朝ドラでは男性の生活描写に野球が欠かせない。朝ドラで描かれる時代は昭和が多く、サッカー人気にはまだ早く、庶民(主として男性)の娯楽が野球だった時代である。例えば、「カムカムエヴリバディ」ではラジオから「早慶戦」の漫才が流れていた。「エール」では主人公が甲子園の歌「栄冠は君に輝く」、阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」を作った。元阪神タイガース選手の掛布雅之は「エール」と「ふたりっ子」にゲスト出演し話題になっている。「ふたりっ子」の主人公の父は阪神ファン。「ごちそうさん」では菅田将暉演じる主人公の息子が野球少年だった。多様性を模索する新時代、今後、野球が登場することも減っていくかもしれない。「舞いあがれ!」の佳晴(松尾諭)は野球でなくラグビー選手である。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第32回のレビュー}–
第32回のレビュー
舞(福原遥)の「私、なんも知らんかった」は「おかえりモネ」の「私、何もできなかった」のオマージュでしょうか。
舞が知らなかったのは、貴司が限界に来ていたこと。昼夜問わず、しょっちゅう会社からケータイで呼び出され、「干からびた犬」を自分になぞらえるなどしていたとはいえ、「大丈夫」と終始穏やかに微笑んでいたため、舞は見逃してしまっていたのです。貴司の心の変化を。
貴司は会社を3日前に辞めて行方不明になっていました。舞が古書店デラシネを訊ねると閉店していて呆然……。
崖に置かれた貴司のケータイの着信音がブーブー鳴っているカットに、貴司、ケータイ置いて、海に??? と心配になりましたが、ちゃんと生きてました。
母・雪乃(くわばたりえ)の電話には出ないけれど、舞の電話には折返します。これは、舞の兄・悠人(横山裕)と同じ。
母からの電話は息子には面倒くさいもののようです。「舞いあがれ!」では父と子の関係のほうが良好で、母と子の関係はすごく悪いわけではありませんが、何か素直になれない感じがあるような気がします。
舞とめぐみ(永作博美)の場合、舞が子供の頃、めぐみに遠慮して言いたいことが言えなかったし、貴司と雪乃は、母が溺愛し過ぎているし、久留美(山下美月)は母と離れ離れになっていて、父・佳晴(松尾諭)とふたり暮らしです。母のほうが近くにいすぎて面倒な気持ちになるのでしょうか。
さて、貴司は以前、舞から送られた絵葉書の写真にあった五島の大瀬崎灯台にいました。「もう限界なんよ」と言う貴司を心配して、舞と久留美も五島に向かいます。
貴司と電話がつながった翌日に、舞は五島に向かいましたが、貴司は夜はどこかに泊まって、翌日もまた灯台に行ったのでしょうか。それとも一晩、灯台にいたのでしょうか。
また、舞が出かけにうめづに立ち寄らなかったら雪乃のお弁当はどうなったのでしょう。行きに寄ってねと頼んであったのかな。
無事に3人が出会えて何より。
五島の福江島・最西端の大瀬崎灯台は五島で一番日が落ちるのが遅い場所だそうです。きっと夕景がきれいなことでしょう。断崖絶壁にあるため最寄りの駐車場から行きは歩いて20分、帰りは40分!もかかるそうです。撮影はさぞや大変だったことでしょう。
五島市観光サイトには映画「悪人」のロケ地と記されていますが、今後、朝ドラ「舞いあがれ!」の名前も追加されるかもしれませんね。
【朝ドラ辞典 電話(でんわ)】ヒロインが地元から都会に出ると、地元とのコミュニケーションは電話か手紙になり、電話は大活躍。固定電話と手紙の時代は相手との間に距離があり風情を感じる小道具だったが、ケータイ時代になるといつでもどこでも気軽につながることができるので情緒は失せる。朝ドラでは現代ものが少ないのでケータイが登場する機会も多くはない。「舞いあがれ!」はケータイが大活躍中。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第33回のレビュー}–
第33回のレビュー
貴司(赤楚衛二)は大瀬崎灯台に3日いたというセリフがありました。
3日! スーツで? 野宿? すでに放浪詩人の域であります。
観光地に、しかも断崖絶壁に、3日もの間、スーツ姿の男がふらついていたらあやしまれそうですけれど……。小綺麗な赤楚さんだから許容される行為でしょう。
ひとりになりたいとき、知らない人ばかりのところへ行く。貴司の気持ちを慮る舞(福原遥)。でも心配で会いに行く舞と久留美(山下美月)。
ひとりになりたいときでも、自分の境界線に入ってもいい人たちがわずかにいて、その人達が来てくれたら嬉しいものです。お母さんには入ってきてほしくないけれど、舞と久留美なら良いのだと思います。お母さんかわいそうですけど仕方ないですね。
前半、7分間ほど、貴司の自分語り。赤楚衛二の声のトーンがやわらかく、海の波の音や風の音や鳥の声と混ざって、聞き心地が良かったです。デラシネの八木(又吉直樹)のしゃべりかたにちょっと似ているような……。
そして貴司は舞の祖母・祥子(高畑淳子)の家へーー。
祥子が迎えに来るところは書かず、さらりと祥子の船に乗って港に着きます。こういう省略はありです。すでに祥子が船の仕事をしてることを視聴者は知っているから。
「おばあちゃん かっこええな」と久留美が祥子のことを言うだけでいい。
桟橋を降りるとき、貴司が久留美の手をとりますが、舞は手を貸してもらう必要がありません。島でしばらく暮らしているし人力飛行機の訓練で足腰を鍛えているから頼もしいのです。
以前、とある女性の俳優が小舟から降りるとき手を貸してもらう必要はないと言っていたことを思い出しました。そういう行為になんか笑ってしまうとか。なかにはそういう人もいるのです。むしろ、貴司のほうが手が必要そうに見えます。
祥子の家でお風呂に入って、すっきりした貴司。ご飯を食べながら、「変わり者は変わり者で堂々と生きたらよか」と祥子の飾らないシンプルな話で、逆に楽になります。変わりたいと思っていた貴司が変わらなくていいと覚悟を決めるのです。
お風呂上がりの爽やかな貴司を偶然見た一太(若林元太)は、舞がフィアンセを連れてきたと勘違い。
成長した一太は、少年時代の面影のある素朴な青年でした。
【朝ドラ辞典 海(うみ)】朝ドラに限らず、気持ちを整える場面では海が格好のロケ地。朝ドラでも、ここぞというとき、海が出てくる。遠くまで広がる海(貴司いわく「無限の青やで」)、高い空、風に吹かれる俳優たち。それだけで名場面の完成です。海が舞台の朝ドラも多数。沢口靖子主演で銚子が舞台の「澪つくし」、気仙沼が舞台の「おかえりモネ」、北三陸でロケした「あまちゃん」など。☆浜辺あるある。腰を下ろすのにちょうどいい流木がさりげなく配置されている。「舞いあがれ!」第33回ではそれがなく、砂の上に直座りしていて、新鮮だった。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第34回のレビュー}–
第34回のレビュー
貴司(赤楚衛二)を探して五島に来た舞(福原遥)。木戸(哀川翔)が鯛をもって来ます。婚約者を連れてきたと聞いてお祝いのつもりだったのです。
まだ学生なのに……と舞は戸惑いますが、めぐみ(永作博美)は学生のときに浩太(高橋克典)を連れて来たと聞いて、それがきっかけでめぐみと祥子(高畑淳子)は長いこと喧嘩別れすることになったことを思うのです。
食事をしながら、過去の母子の確執について祥子から聞く舞。
回想シーンの祥子は、今よりもっと性格がきつそうで、大学を途中で辞めて結婚して相手の工場の手伝いをすることを許しません。
「いっときの気持ちでこれまで頑張ってきたことば放り出すちゅうとや間違っちょるっち思ってな」
と舞に当時の心境を語ります。
これって、今の舞も同じ状況です。本人は目の前のことに夢中ですがめぐみは心配しています。
祥子の言葉に舞はどう感じたでしょうか。すこし胸がうずいたでしょうか。
祥子は第33回で貴司の生き方に寛容でした。めぐみにきつく言っていた昔の祥子とは別人のようです。
自身の許容範囲が狭かったがためにひとり娘を手放してしまった祥子の、長い長い孤独な時間は途方もないもので。めぐみとのことを大いに反省して、いろいろな生き方を受け入れようと考えるようになったに違いありません。
ジャム作りは、めぐみが戻ってきたときにできる仕事をと思ってはじめたと木戸が舞に教えます。祥子は娘思いなのです。
おりしも祥子に東大阪から電話がかかってきて、舞を迎えにめぐみと浩太がやって来ます。
めぐみは舞に、なぜ大学を中退してまで、難しいパイロットを目指すのか訊ね、舞は
しっかり自分の意見を言い、説得します。
めぐみはめぐみで舞を心配しているから反対するのです。それはかつての祥子の気持ちです。
舞の説得に来ためぐみですが、過去の祥子と対立したときの、祥子の気持ちをようやく実感できました。
祥子は祥子で、過去、頭ごなしに叱らず、めぐみの話を聞けばよかったと反省するのです。
台所で並んで鯛(たぶん)の調理をしている祥子とめぐみは仲の良かった頃のふたりに戻ったようでした。
【朝ドラ辞典 回想シーン(かいそうしーん)】朝ドラには回想シーンもつきもの。実際の役を演じている俳優が過去を演じることもあれば、子役やもう少し若い俳優を起用することもある。「舞いあがれ!」では祥子とめぐみを高畑淳子と永作博美が共に過去も演じた。たいてい回想は少し無理が出るものだが、高畑淳子の場合、若い頃のほうが本人に合っているようにも見えた。つまり、老いた姿こそ少し負荷をかけて演じているということである。でもその老いた姿も不自然な、無理に老婆を演じているようでもなく、リアリティーがある。これぞ名演技。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
–{第35回のレビュー}–
第35回のレビュー
舞(福原遥)と幼馴染の貴司(赤楚衛二)と久留美(山下美月)と、父母・めぐみ(永作博美)と浩太(高橋克典)と祖母・祥子(高畑淳子)は五島で、それぞれの過去に決着をつけたり、未来に向かったりします。
ここでいったん区切りをつけて、舞の航空学校編のはじまりになります。舞の岩倉家は、祥子がめぐみと浩太のことをゆるし、めぐみは舞が航空学校に行くことを認め……と順風満帆です。
久留美は、舞や貴司のことを見ながら、自分も母との確執に決着をつけようと思ったようで、母・松下久子(小牧芽美)のいる福岡に立ち寄ります。五島に一緒に来たのは、福岡に行く理由をつけたかったのかもしれません。ちょうど東大阪と五島の途中に寄れる場所ですから。
久留美の母は誕生日にカードを送ってくれていましたが、対面で話すのは出ていったとき以来のようで、なぜ、出て行ったかようやく語ります。
第34回、祥子が舞に、めぐみと祥子の喧嘩別れの話をしたこともそうで、子供のときには話せなかったことも大人になったら話せるときが来るのです。母や祖母の気持ちが理解できる年頃になったと言うことです。
久子の話を聞くと、佳晴(松尾諭)は怪我がショックとはいえ困った人だなあと思いますが、そんな父を久留美は選んだのです。というか、「いけへん、私、お父ちゃんとおる」と言うことで、母が考え直してくれるのではと思ったら、お母さんはそのまま行ってしまったという哀しいすれ違いでした。
久子は当時、久留美が佳晴を選んだと思いこみショックだった様子。視聴者としてここでショックだったのは、久子が部屋を覗いたときに寝ている佳晴に久留美が覆いかぶさっている画。すぐに久留美だとわかるとはいえ、一瞬、佳晴は浮気をしていたの? と焦りました。
へんな勘違いをする己の汚れた心を恥じる一方で、言い訳もしたい。なぜなら寝ている父にしがみつく背中から振り返って久留美の顔という、フラッシュフォワード的なカットが思わせぶり過ぎて、第32回の、行方不明になった貴司に電話したら、崖の上にケータイが乗っている画だけ映して不安をかきたてるものに近いように感じたのです。
あとで、もう一回、久留美が「いけへん、私、お父ちゃんとおる」としがみつく、時間軸に沿ったカットが出てくるのです。この「いけへん、私、お父ちゃんとおる」が大事なのだから、そこから見せてもいいはずなのに〜。まあ冷静に見ていれば女児の背中なので、久留美だとわかりますから、やっぱり筆者の目が汚れているのでしょう。熊野CP の取材会で聞いたら思いもよらない話のように笑われてしまいました。「舞いあがれ!」にはドロドロはないそうです。
あるいは、お父ちゃんが倒れていて、久留美がしがみついているようにも見えますし、とにかく不安感を煽ってどうなるの〜? と気にさせる演出です。基本、淡々とゆったりしているから、この手の俗っぽい演出はそぐわないようにも感じます。
それはともかく、久留美の久は久子の久からとったのでしょうし、久留美は母の仕事と同じ看護師を目指していることから、離れていてもつながっていることが感じられます。ここは、祥子とめぐみの和解ともリンクして見えます。
さて、貴司は東大阪にいったん戻り「旅しながらその土地で働いて自分の居場所を探したい」と父母・勝(山口智充)と雪乃(くわばたりえ)に気持ちを吐き出します。そんなことなかなか理解できない雪乃、勝は広く受け止めます。これは父母の違いですね。
浩太、勝はよくできた父で、佳晴だけ少しうまくいってない父。めぐみと雪乃は心配症の溺愛母で久子は子を育てることよりも夫との関係に絶望して去った母、久留美だけ親に恵まれていない感じで、すこし気の毒になります。
【朝ドラ辞典 初恋(はつこい)】初恋は甘酸っぱい経験。朝ドラでは初恋は実らないことが多い。一度失恋して、そのあとであった人と結ばれる。初恋は人生の過渡期。「舞いあがれ!」では舞はまだ初恋を知らないが、五島の一太(若林元太)が舞に初恋して、でもその思いは実らないところを担っているように見える。
※この記事は「舞いあがれ!」の各話を1つにまとめたものです。
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–{「舞いあがれ!」作品情報}–
「舞いあがれ!」作品情報
放送予定
2022年10月3日(月)~
<総合テレビ>
月曜~土曜: 午前8時~8時15分 午後0時45分~1時(再放送)
※土曜は一週間を振り返ります。
日曜: 午前11時~11時15分(再放送)
翌・月曜: 午前4時45分~5時(再放送)
※日曜、翌・月曜は、土曜版の再放送です。
<BSプレミアム・BS4K>
月曜~金曜: 午前7時30分~7時45分
土曜: 午前9時45分~11時(再放送)
※月曜~金曜分を一挙放送。
出演
福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月 、目黒蓮、高杉真宙、長濱ねる、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、鈴木浩介、哀川翔/吉川晃司、高畑淳子 ほか
作
桑原亮子 、嶋田うれ葉、佃 良太
音楽
富貴晴美
語り
さだまさし
主題歌
back number「アイラブユー」
制作統括
熊野律時、管原 浩
プロデューサー
上杉忠嗣 三鬼一希 結城崇史ほか
演出
田中 正、野田雄介、小谷高義、松木健祐 ほか