川口春奈が主演、目黒蓮(Snow Man)が相手役となる「silent」が2022年10月6日スタート。
主人公・紬(川口春奈)は突然別れを告げられた元恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会。彼は難病により、ほとんど聴力を失っていた……。
音のない世界でもう一度“出会い直す”ことになった二人と、それを取り巻く人々が織り成す、せつなくも温かい物語。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
もくじ
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
高校時代に彼の声と紡ぐ言葉に惹かれた青羽紬(川口春奈)は3年の時に佐倉想(目黒蓮)と同じクラスになる。中学からの幼馴染である戸川湊斗(鈴鹿央士)の紹介もあり、二人は音楽という共通の趣味をきっかけに仲良くなり、愛おしいかけがえのない時間を過ごしていた。
大学進学というタイミングで東京と群馬で離れ離れになるも、何も心配することはないと思っていた紬だったが、紬は想から一方的に別れを告げられてしまう。何が理由なのかもわからないまま振られた紬。8年という時が過ぎ、紬は心残りはありながらも、今は大型CDショップで大好きな音楽に囲まれて働きながら、湊斗と幸せな日々を送り、2人の将来を考えるようになっていた。
しかし、そんなある日、駅で想の姿を偶然見かける。思わず声をかける紬だったが、彼にはその声が届いていなかった。なぜなら彼は…
第1話のレビュー
事前の予告や俳優陣から、非常に期待していたこの作品。
期待の何倍も上をいく素晴らしさだった。
冒頭の高校時代の回想シーン。青空のなか降りしきる雪を見て
「雪降ると静かだね」と大声ではしゃぐ紬(川口春奈)に、笑顔で「青羽の声うるさい」と言うシーン。予告やストーリーを確認しているとその後のことを知っているから、「静か」「うるさい」というワードに切なくなってしまう。
そして思った。制服を着た目黒蓮と待ち合わせしたい人生だった。
上京後、CD屋でフリーターをしている紬。優しい恋人の湊斗(鈴鹿央士)とは、もうすぐ同棲をする様子。一緒に住んでいる弟の光(板垣李光人)はちょっと生意気だけど姉思いで料理もしてくれる。開始5分、ここまで綺麗な顔の男しか出てこない。
同棲する物件の内見に行く日、電車を乗り換えながら湊斗と電話する紬。話しながら見かけたのは、昔の恋人・想(目黒蓮)だった。声をかけたが彼は言ってしまい、見失ってしまった。電話がつながったままだったので、湊斗にも「佐倉くん」と呼ぶ紬の声は聴こえていた。
特に隠すこともなく、想を見かけて電車に乗り遅れたと伝える紬だったが、湊斗の表情は複雑そう。そうか、3人は同級生だったんだ。夜、湊斗は高校からの友人たちと飲み、想の話題を出す。彼が突然いなくならなかったら紬と付き合えてないだろ、的なことを言われる湊斗。
ここで再び、高校時代の回想へ。
想と湊斗はかなり仲のいい友達だった。呼び方や笑顔だけでそれがわかる。湊斗は紬とも友達で、2人にそれぞれを紹介する。お互い相手が気になっている2人をくっつけてあげたのも湊斗だった。でも多分当時から紬のことを好きで、親し気に話す2人を見てそっと教室から出る湊斗、切ない…湊斗、多分めちゃくちゃいいやつだ。
「彼氏いるの? って想が言ってたよ」と聞いて「彼氏いない、1人もいない、ぜんっぜんいない!」と言ったのに、本人を前にすると照れ隠しで違う話をしちゃう紬がかわいい。甘酸っぱい。
イヤホンをしていて「ん?なに」と聞く想がたまらない。こんなに素敵な「ん?なに」の言い方ある……? おそらく知らない音楽を知ってると言い張る紬。お見通しで「今度貸すね」と言う想。音楽を通じて仲良くなる2人がとてもいいなぁ。iPodを階段から落とすのは危険だと思うけど……!
イヤホンをしている想には言えたけど、いざ外されると言えなかった「好きです、付き合ってください」。でも想から「好き、付き合って」「すき!つきあって!」と言われて、その後スピッツの「魔法のコトバ」を聴かせてもらう、ものすごいいい青春……!
そしてスピッツ……! スピッツーーー!
きっと同じようにぶっ刺さった人が多いのではと思うが、筆者も高校時代にスピッツを聴いていたので、ああーーとなった。スピッツといえば「楓」をバンドでコピーしたなぁと思いながら観ていたら、東京のバイト先で紬が聴いているのが「楓」。曲のチョイスがたまらない。
「楓」のサビは「さよなら 君の声を 抱いて歩いていく」という歌詞で、もともと名曲だけど、まさしくこの物語の紬と想はお互いそうなんじゃないかと思えるびったり具合で、曲のこともこのドラマのこともより好きになってしまう。おそらく脚本家の生方さんも、音楽が好きなんだろうなと思う場面がたくさんあり、この後の音楽にまつわるエピソードも楽しみだ。
「好きな声だった、好きな声で好きな言葉をつむぐ人だった」
「名前を呼びたくなる後ろ姿だった」
声、音楽、おしゃべり、イヤホン。想は本当に音楽が好きだったんだなと伝わってくる。紬の想に対する思い出も音にあふれていて、一緒に振り返ると愛おしい。愛おしさや初々しさ、青春のキュンとする感じを味わう一方で、それは全部想が失ったものなんだなぁ……と絶望的な気持ちになる。
ある日、「好きな人がいる。別れたい」というメッセージだけですべて打ち切られた2人の関係。おそらく、耳のことが原因だと思うのだが。
言葉通りだと思っている紬は「好きだった人の好きな人ってどんな人ですか」と心でつぶやく。
湊斗は、想を探していた。「俺もう青羽いらないから。やるよ。あげる」と言われたらしい。失礼すぎるひどい言葉だが、想はあえて嫌われるようにそんなつらい言葉を言ったのだろうと思うと、しんどい。大好きな音楽が聴けなくなって、大事な人たちを自ら突き放したなんて、つらすぎる。そしてその言葉を紬には言わずにいた湊斗もえらい。
実家に帰って想の家を訪れた湊斗は、想の妹の萌(桜田ひより)に話を合わせて連絡先を聞き出そうとして、彼の耳が聴こえなくなったという事実も知ってしまう。「お兄ちゃんて人に甘えられないのが唯一の欠点だよね」という言葉からも、想の人柄が伝わってくる。
紬と2人で想の話になって「声が好きだった」という話を聞き、泣きそうになってしまう湊斗。一人で飲みに入った先で手話を教えている男性・正輝(風間俊介)に会い、チラシを渡されて「できれば覚えたくないですね。また普通に話したいです」というセリフも切ない。ゆくゆく振られてしまう予感しかしないけど、湊斗のこともすでに大好きでつらい思いをしないでほしいと願ってしまう。それはそうと、「普通に話す」ってなんだろう、と考えさせられる。
想の友達(恋人?)で、先天性の難聴者である奈々を演じる夏帆さんが、言葉を選ばずにいうと手話といい表情といい、接したことのある難聴の方のようですごいなと思った。なんとなく、彼女はただの友達のような気もするけど、落ちた本を両手で丁寧にひろってくれたり、表情からいい人そうだなと思う。
そして2人が本格的に再会するシーンは忘れられない。
想に会えるかもと思って降りた世田谷代田駅、落としてしまったワイヤレスイヤホンを拾ってくれた、座っていた人が想だった。紬に気づくなり黙って歩いて行ってしまう想に一生懸命話しかけるが、振り返ることはない。肩を掴んで話しかけるが、想は困惑した表情のまま。「私と話すのそんなに嫌?」と言う紬に、想が手話で話し出す。
「言葉で話しかけないで、一生懸命話されても、何言ってるかわかんないから、聞こえないから」
「楽しそうに話さないで、嬉しそうに笑わないで」
「何で電話出なかったのか、わかったのか、これでわかっただろ?」
「もう青羽と話したくなかったんだよ」
「いつか電話もできなくなる、一緒に音楽も聴けない、声も聞けなくなる」
「そうわかってて一緒にいるなんてつらかったから」
「好きだったから」
「だから会いたくなかった」「嫌われたかった」「忘れてほしかった」
言葉がなくて、もちろん字幕が出ているから言っている内容がわかるのだが、それ以上に目黒蓮の表情や息遣いから彼のつらい切ない気持ちが伝わってきて、観ているこちらも彼と一緒に徐々に涙があふれてきてしまうような、すごいシーンだった。
手話をマスターすること自体大変だっただろうに、手話をしながらこれだけの演技ができることに純粋に驚いてしまった。ある程度演技ができる人とは思っていたけど想像以上というか、このドラマの今後の演技も楽しみでたまらない。
当然相手が何と言っているかわからない紬を演じる川口春奈も、笑顔からどんどん悲しい顔になっていき、でも話しかけるときは笑顔になろうとする表情がよかった。
「何言ってるかわからないだろ」「俺たちもう話せないんだよ」
「うるさい」「お前うるさいんだよ」
引き止める紬を振り払って、行ってしまった。
離れたところで泣き崩れる想。
「一緒に音楽も聴けない」のところの手話がイヤホンを表すようなところもつらいし、「好きだったから」という言葉と表情が刺さる。
むかし笑いながら話した「うるさい」を、こんな形で全く別の意味で使うことになってしまったのも悲しい。
難聴の方が出てくるドラマというと、真っ先に思い浮かぶのが「愛していると言ってくれ」や「オレンジデイズ」(ともに北川悦吏子脚本)で、特に「愛していると言ってくれ」は当時子どもだった視点で観ても名作だった印象があるが、初回を観て、そんな名作たちと並ぶ作品になるかもしれないと思った。
本気で泣ける、‟本格ラブストーリー“が作りたいという本作、誰が主役を張ってもおかしくない、演技派ぞろいの俳優陣からも、数々の名作を手掛けた精鋭たち+ヤングシナリオ大賞受賞の新人というスタッフ陣からも、そして何より初回の素晴らしさから、フジテレビの本気を感じた。
初回からホームランをかっ飛ばされた感覚なので、次回以降もいい意味で期待を超えて行ってくれるのではないかとドキドキしている。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
青羽紬(川口春奈)は8年ぶりに佐倉想(目黒蓮)と偶然の再会を果たすも、手話で一方的に話され、状況が把握できずに立ちすくむ。一方、想はこの8年間の想いが募り、行き場のない気持ちを消化できずに紬のもとから立ち去る。そんな様子をみていた桃野奈々(夏帆)は、想のもとに駆け寄り、そっと寄り添うのだった。
想は高校卒業のころに耳に違和感を抱くようになり、その異変にいち早く気づいた母の律子(篠原涼子)が病院に連れて行くと、遺伝性の可能性があると診断された。自分のせいかもしれないと責任を感じ、なかなか受け入れられない律子に対し、想は申し訳なく感じ、そのまま上京することを決め、紬にも病気のことは隠して別れを告げた過去があった。
戸川湊斗(鈴鹿央士)は紬と想が再会したことに不安はぬぐえないものの、想いとは裏腹に、春尾正輝(風間俊介)の手話教室を紹介する。想と話せるようになりたいと思う紬は手話教室に通うことを決意し、想に「もう一度会って話したい」と告げるが…。
第2話のレビュー
あまりにつらい再会シーンに泣かされた第1話は、放送2日目でTver「見逃し配信」160万再生を突破し、フジテレビの過去最速記録となるなど大きな評判を呼んだ。
どんな展開がくるのかと身構えていたが、思った以上に優しさにあふれていて、紬(川口春奈)と想(目黒蓮)はもちろん、湊斗(鈴鹿央士)のこともより好きになってしまう回だった。だって3人ともそれぞれ、優しくていい人なんだもん。
冒頭の回想、「紙を42回折ったら月に届く」という会話。計算したり月への距離を知っていることから、想は結構勉強ができたほうだったのかもと思う。なんとなく彼が所属するSnow Manのメンバー、阿部亮平を思い出してしまった。
ちなみに2人は先生に「お前らが付き合って学校中が失恋パラダイスだよ!」と言われる。美男美女だもんね。
卒業後、上京する想と地元に残る紬は遠距離恋愛する予定だったが、想は何の問題も感じていなかった。
何もかもがうまくいっていると思われた卒業式の帰り、耳が聴こえづらくなって耳鳴りがした。家で家族に話しかけられても気づかないことがあり、母親の律子(篠原涼子)に病院に連れていかれる。
病気が発覚し、遺伝性かもしれないと聞いて、自分のせいではと悲しむ律子。そんな母親を見て心を痛め、上京するときに「ごめんね」という想が切ない。いい子だよなぁ。
地元に帰って紬と公園で会ったとき、おそらく想は別れを告げようと思っていた。元気のなさそうな想を見て、紬は背中をなでながらたくさんの言葉で励ます。
「佐倉くんに向けられる悪意ってね、全部嫉妬だから気にしなくていいんだよ」
「悪口って言っていい人には言っていいんだよ。私言っていい人だから、寝たら忘れるから」
「泣いとこ泣いとこ、男の子だって泣いていいんだよ。私、寝たら忘れるから」
「何かあったら電話して。何もなくても電話して。佐倉くんがしたいときに電話して。私、電話したくないときないから。24時間体制だから」
実は前回紬に、正直で裏表がない反面、ちょっと相手の気持ちに鈍感なところもあるなと感じていたけど、紬は紬ですごくまっすぐで一生懸命でいい子だなと思った。
「電話好きだね」と言った想は「声が聞けるから。佐倉くんの声、好きな声だなって思う」と聞いて、自分がいずれそれを叶えられなくなると思い知る。
想だけが別れを決意した、帰り際の会話が切ない。
「あのさ、名前、言ってもらっていい」と言われて「紬?」と自分の名前を言っちゃう紬がかわいい。すぐに気づいて「佐倉くん」「想くん」と言う。下の名前で呼んだのは初めてと恥ずかしがっていてかわいい。
と同時に、ああ想は、この紬が自分を呼ぶ声を胸に、この後一人で生きていこうとしているんだなぁとわかってしまって、前回流れたスピッツの「楓」を思い出す。つらい。
結局別れを告げられず「ほんとごめんね」と謝る想に「そんなに謝らないで」と言う紬は、「ごめんね」にいろんな意味が詰まっているのを知らなかった。
「またね、想くん」手を振る紬を見て、背を向けた瞬間、泣きながら帰る想。つらい……。
再会した紬に手話でまくしたてて拒絶し、別れた先で泣き崩れた想。
一部始終を見ていた奈々(夏帆)に優しく話しかけられ、カフェに入る。
しょんぼりして目をまんまるくしながら話す想、あまり見たことのない目黒蓮の表情で、不謹慎ながらちょっとかわいい。
拾った紬のワイヤレスイヤホンを持ってきてしまったことに気づいた想は、「返さなきゃ」と奈々に話す(手話だが、彼らにとっては会話なので話すと表現する)。
2人がイヤホンの値段を調べるくだりがちょっと微笑ましかった。紬の落としたイヤホンが4万円すると知り、びっくりする。「イヤホンてそんなするの?」と聞く想に「知らないよ、使ったことないもん」と笑顔で答える奈々。奈々は生まれつき耳が聴こえないから、そりゃそうなのだ。そんな話を問題なくできるくらいの気の知れた仲なんだなとわかる。
「相当の音楽好きか、お金持ちなんだね」という推理をする奈々がかわいい。
紬と会ったことで想が号泣したのを観ていた奈々は、「きっとお金持ちのほうだから、困ったらまた新しいのを買うよ」と言ってくれたが、想は「音楽好きのほうだから返さなきゃ」と言う。
二度と会わないくらいの気持ちであれだけ話したのだと思うけど、真面目な性格なんだなと思う。
一方、想と再会できたと思ったら涙ながらの手話で拒絶され、二重にショックを受けた紬。電話をかけてきた湊斗の優しい完璧彼氏っぷりが半端ない。
「大丈夫」と繰り返す紬の声の様子から、ただならぬ状況だと気づいた湊斗。
「お迎え行くから待ってて、乗り換えるとこだよね」
「この電話切ったら、動画、検索して」
「パンダ スペース 落ちる って。可愛いの出てくるから、それ見て待ってて。わかった?」
そして登場し、「コーヒーとコンポタ、どっちがいい?」と聞いてくれ、紬が「コンポタ」と答えると優しく微笑んで「コンポタもあります」と鞄から出す。
いや、めちゃくちゃ優しい彼氏すぎるだろ。
想と何かあったんだろうなと思っていたところ、前回無視していたのに想から「青羽の連絡先わかる?」と連絡がくる。イヤホンを返したいからだけど、勘繰っちゃうよね。しかもしかも、複雑なのに、先日出会った春尾正輝(風間俊介)の手話教室を紹介してしまうのだ。いい奴すぎて心配だよ湊斗。幸せになってほしいよ湊斗。
イヤホンを返したいと想から連絡があり、カフェで待ち合わせすることになった紬は、イヤホンだけ渡して立ち去ろうとした想を引き止める。
文字を打とうとする紬に、文字を音声に変換するアプリを出す想。硬い表情だったが、何言いたいか整理したいから待ってとアプリ相手にあわてる紬(ぜんぶ変換されている)を見て笑ってしまう。前回のラストシーンで、耳が聴こえなくなって笑顔もなくなってしまったのかと思ったけど、優しい笑顔は昔と変わらなくてよかった。
紬は手話教室に入会。授業後、もともと耳が聴こえた人が聴こえなくなると、声も出せなくなるのかと尋ね、失聴だけで話せなくなることはないが、話したくないと思う人はいるかもしれないと聞く。「はじめからないのと、あったものがなくなるのは違う感覚だと思うので」そうだよな。
突然「すごく好きだけど両想いになれなかったり、なれても別れてしまったり。そういうとき思いません? 初めから出会わなければよかったって。この人に出会わなければ、こんなに悲しい思いしなくてすんだのにって思いません?」と言い出す正輝。初対面の人に話すことではない気がするし、さっきまでの優しそうな表情が消え、目に光がないように見えてちょっと怖い。前回の湊斗との会話しかり、闇がありそうだ。
でも「好きになってよかったって思います、思いたいです」と答える紬は、強い人だなと思った。
筆談だから変わらないという想に「顔を見て話したい」と言ってまた会う約束をする紬。紬が手話で自己紹介をし、覚えたと聞いて驚く。前回のラストを思い出して怒ったりするのでは、と一瞬ハラハラしたが、優しく笑って手話で自己紹介してくれた。紬は習った年齢や家族構成などを手話で伝えるが、ぜんぶ「知ってる」と言われてしまう。
紬は耳が聴こえなくなった理由を聞き、最後に公園で会ったとき、電話したい、声が好きと言ってしまって嫌な思いをさせたと謝る。
優しい笑顔で「嬉しかったよ」と返す想に、泣きそうになってしまった。どうやら「好きな人がいる」という別れのメッセージの「好きな人」は、紬のことだったらしい(そんなことある!?)。
「悲しませたくなかった」という文字を見て、笑おうとしたけど泣いてしまう数秒の表情の変化が、紬という人をよく表していると思った。泣き出した紬を見て自分も涙を流し、そのままくしゃっと笑って「このこと知ったらそうやって泣くと思ったから」という想もしかりで、2人とも自分がつらい中で相手のことを考えられる人なんだな。
「振られて泣いたし! 今よりもっと泣いたし!」と切り返す明るさがいい。
「今は、青羽のこと泣かせない優しい人がいるの?」という質問に「いるよ、会ってよ」と返すのはよくわからない、会わないだろ……。それに「え~」という顔をする想、たぶん今も紬のこと好きなんだろうな。
このドラマ、目黒くんの期待を超えた演技にいい意味で驚かされているが、演技すごい一方で、このくしゃっとした優しい笑顔やスマホのフリック入力できない感じは目黒くんそのもので、たまらんな……! と思った。
なにより、2人がまた話せたことがうれしい。
笑顔で踏切のところで別れようとした2人。そこへ湊斗から電話がかかってくる。家の近くまできたから……と話していた湊斗が突然しゃべらなくなる。少し離れたところに、湊斗がいた……。表情が凍り付く3人。主題歌が流れていたのに、この瞬間無音になって衝撃が増した。
三角関係が激化しそうな予感。次回予告を見ると、湊斗は三角関係に苦しむと同時に、友達としての想への思いもありそうでより切ない。3人とも笑顔になってほしいと願ってしまうが、そんなルートはないか……。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
青羽紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)、どちらも大切な存在だからこそ本当の気持ちを伝えることができなかった高校時代から8年の時が経つ。戸川湊斗(鈴鹿央士)は、今は自分が紬の一番近くにいるという自負と、心のどこかに残る不安を抱えながら過ごしていた。そんな中、紬と想が一緒にいるところに遭遇してしまった湊斗は気持ちの整理がつかない。
想は桃野奈々(夏帆)と一緒にいる時に、一方で紬は春尾正輝(風間俊介)から手話レッスンを受ける中で、聞こえる人と聞こえない人との間にある距離感を、実感をもって感じていく。そんなある日、想はあることのために紬の家へ向かうが、そこに紬の姿はなく…
第3話のレビュー
第3話は、湊斗(鈴鹿央士)回だった。
紬(川口春奈)と想(目黒蓮)が一緒にいるところを湊斗が見てしまうという、衝撃の再会で終わった前回。去っていく想に呼びかけたが、彼は振り返らなかった。聞こえないので、仕方ないのだが。内緒にしていたわけではないが、湊斗は苛立っている様子で、誘おうとしていたハンバーグの予定をまたにしようと言って帰ってしまう。
湊斗が思い出したのは高校時代のこと。紬に映画『ハチミツとクローバー』をおすすめされた湊は「『人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった』ってこんな感じか」と、想を好きになる紬を見て実感してしまう。
くぅ~! 第1話の告白シーンで想が紬に聴かせた曲、スピッツの「魔法のコトバ」は映画『ハチミツとクローバー』の主題歌だ。セリフ自体は真山なんだけど、湊斗の境遇は竹本だな……この伏線回収と、視聴者に絶妙に刺さるエンタメを出してくる感じがたまらない。
紬と想を近づけて、2人が付き合ったことも
「すごく仲の良い友達とすごく好きな人だったから、すごくうれしかった」
「すごく切なくて、ちょっとだけうれしかった」
「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、うれしかった」
と振り返っていて、切ないしいい奴すぎるだろと思う。
紬が新卒で上京してきたとき、終業後に明日までの資料を作らせたり、朝の挨拶のときに身体を触ってくる上司がいるような職場で働いていると知り、
「やればできるって、やらせるための呪文だよ」
「期待と圧力は違うよ」
「俺、人を殴ったことないし殴ったこともないのね。でも、その青羽の職場にいる青羽に挨拶するやつは、俺多分殴っちゃうと思う」
そう訴えかけ、紬は翌日退職願を出した。
だから紬はフリーターだったのか。湊斗、ずっと紬のためにいろんなことをして助けてきたんだな。
紬の弟・光(板垣李光人)と、想の妹・萌(桜田ひより)がそれぞれ姉・兄を想う気持ちも見えた回だった。湊斗と想が出くわしたことを知った光は湊斗のところに行って「湊斗くんはいなくなった人(想)の代わりなんかじゃないから」と言う。母親代わりに面倒を見てくれたという紬への想いもわかる場面だった。
萌は、紬が手話を習って想と会っているのをありがたいと思う反面、ずっと知らないでその間湊斗くんと楽しく過ごしていたくせに、と複雑な気持ちがあった。想が知らせなかったので仕方ないわけなのだが、彼の苦しみを知っているだけにそう感じてしまうのだろう。手話を完璧にマスターしていてすごい。
萌の前では想が声を出すのが聞けて、ちょっとうれしかった。
2人とも、めちゃくちゃ姉・兄想いのいい子だ。
想は、紬に「湊斗に悪いから2人で会うのはやめよう」と言うが、紬は「私、湊斗のことすごい好きなんだよね」「佐倉くんは違う」「好きじゃない」と言う。さすがに手話がわからず、変換アプリで伝えたので、想は文面でこれを見た。ちょっとひどい。いやそこまで言うことないだろなんだこの人……と一瞬思ってしまったが、想が去った後、紬は一人泣くのだった。
それってやっぱり、想が好きっていうことなんだろうか。
この前のくだり、バイト中の紬にたまたま会った想が「終わるまで待ってていい?」というところ、想がおりこうな大型のワンちゃんみたいでとてもかわいかった(伝わるだろうか)。
想がとある用があり紬の家に向かうと、紬は留守で湊斗が留守番をしていた。
慌てて帰る紬、湊斗は想を家に連れ帰って待つ。
想にビールを渡し、ソファに座る彼の背に話しかける。想のほうが先に誕生日があるから、湊斗の二十歳の誕生日に一緒に飲む約束をしていたのにもう26になってしまった。もちろん想には聞こえない。泣き出す湊斗の気配を感じたのか、振り返る想。
だから紬と別れたの? 想らしいけど、とまくしたて、
「何で俺に何も言ってくれなかったの?」
「力になれ…なれないけど、何かできるかもしれなかったのに」
ちょうど紬と光が帰ってきて、泣きながら飛び出す湊斗。
追ってきた紬にこう言って泣き崩れる。
「取られるんじゃないかって、そういうこと気にしてイライラしてるほうが楽だったから」
「想のこと悪く思えば、楽だったから」
「友達の病気受け入れるより、ずっと楽だったから」
「名前呼んで、振り返ってほしかっただけなのに」
湊斗がつらかったのは、紬を想に取られるかもしれないことよりも、友達である想が自分に何も言ってくれなかったこと、何より想が病気になったことだったのだ。なんて優しい人なんだ……。
湊斗が思い出したのが、高校時代名前を読んだら一瞬知らないふりをして歩いて行ってしまい、笑顔でいたずらっぽく振り返った想だというのがまた切ない。
1話のラストと同じく、湊斗の涙と一緒にこちらもどんどん泣いてしまうような、そんな演技だった。すごい、すごいなこのドラマ。
てんとう虫を逃がしてやるシーンとか、言葉以外でも湊斗の優しさが伝わってきた。あと想の家の来客でピカピカ光るシーン、名作ドラマ「愛していると言ってくれ」を思い出した。そしてろう者は8割ろう者同士で結婚する話をしてくる正輝(風間俊介)、やはりなんか闇を感じるな……。好きだった人がそうだったのだろうか。
来週が待てない……!
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
青羽紬(川口春奈)の家で鉢合わせした佐倉想(目黒蓮)、戸川湊斗(鈴鹿央士)、光(板垣李光人)。思わずその場を去ろうとする湊斗に、紬は想と二人でちゃんと話した方がいいと諭す。
湊斗は8年ぶりに想と向き合う中で何も変わっていないと感じ、高校仲間のフットサルに参加してみないかと誘う。そんな湊斗に対して、紬と想の復縁を懸念する同級生たち。だが、横井真子(藤間爽子)は、紬が今は湊斗のことを本当に大切に思っていることを理解する。 迎えた当日、フットサル場で待つ同級生たち。そのとき、想は…。
第4話のレビュー
湊斗(鈴鹿央士)に泣かされた前回・第3話。彼が本当につらいのは、想(目黒蓮)に紬(川口春奈)を取られるかもと心配することより、友達だった想の病気を受け入れることだったとわかった。
湊斗は紬に「想に謝っておいて」というが、紬は「自分で話したほうがいい。私と話したんじゃ意味ない、伝わんない」と、家に2人を置いて弟・光(板垣李光人)と食事に出かける。湊斗が泣き崩れたところからスピーディーにこの行動ができる紬、結構すごい。「帰ったら死体があったらどうするよ、成人男性2人どこに埋める?」と心配し、「今頃私の悪口で盛り上がってるよ」と紬が言うと「元カノと今カノの悪口言うの? ウケる」と発想もツボも独特な光、ちょっと面白い。
2人になった想と湊斗。スマホで文字を打とうとしている湊斗に音声を文字に変換するアプリを差し出して”どうぞ”とする想、なんだかかわいい。2人はすっかり話が盛り上がって、ビールを数缶空けていた。前と同じような空気感に、つい湊斗は話しながら台所に行ってしまう。でも想には聞こえない。ドラマが一瞬無音になり、想にとってはこの状態が現実なんだと思い知らされる。
でも、ネガティブな表現で終わらなかった。ちょっと悩んだ顔をした想は、「湊斗」と声を出す。耳が聞こえなくなってから家族の前以外、元カノである紬の前でも出さなかった声を、湊斗の前では出したことになんだかじーんときてしまった。前回湊斗が泣きながら言った「また名前を呼んでほしかっただけなのに」が叶った。1話で想が言った「もうしゃべれない」も2話で紬が手話を覚えたことによって叶ったし、また話そうとすることで不可能だと思ったことが可能になっていく、そんな光景を見せてくれるドラマだ。
「しゃべったほうがいい?」と声を出して聞いた想に「しゃべりたくなかったからしゃべんなかったんでしょ、だったらいいよ、想の好きなほうで」「想、全然変わんないね」「ごめん、大丈夫だよ、久しぶりでびっくりしただけ」高校のときからずっと、湊斗はこんな感じに優しかったんだろうなと思った。
コンビニで光と鉢合わせた想は、飲んだ缶ビールを返す。さっき「佐倉くん邪魔だから」と言ったのを気にしていたのか、「1個まけてあげる」と渡そうとした。「俺わからないから、感じ取って」ときょとんとする想のほっぺに缶を当てる。これはこれでコミュニケーションだな。
一方で、目に見えない断絶を感じる描写も多かった。奈々(夏帆)が友人と話しているシーンで、想とは付き合っていないことがわかる。奈々は気がないわけでもなさそうだが、友だちとしか思われていないよと話し、友人いわく「(想は)つい最近まで聞こえてたんでしょ? 理解し合えないことあって当たり前だよ」。聞こえない人の中にも、そういう隔たりがあるのだとあらためて身に沁みた。
また、正輝(風間俊介)は耳が聞こえない同僚に、手話でコミュニケーションが取れるのに僕たちに一線置いているのが前から気になっていた、どうして? と指摘される。「特別扱いも違うし、ただ平等に接するのが正しいとも思わなくて」「手話ができるってだけでわかった気になりたくないんです」と伝える。やはり正輝は、以前聞こえない人との間に何かあったのかもしれない。
想と仲の良かった同級生たちを引き合わせるため、フットサルの人集めを手伝ってほしいと友達に頼む湊斗。でも友達は「想だって気を遣うだろ」「どう接していいかわからない」と言う。冷たいようにも感じるし、残酷な現実だなと感じる。が、筆者も友人が病気で以前のように話せない状態で再会したことがあり、実際どう接したらいいのか、自分の態度や反応で相手を傷つけてしまうのではないかと思ったことがあるので、ちょっとこの友人の気持ちもわかる気がした。会いたくないわけではなく、戸惑っているのだと思う。
実家(群馬らしい)に帰っている光と電話する湊斗、「光も手話覚えればいいのに」という言葉から何かを察し「なんでそんなこと言うの。なんで手話覚えろとか言うの」と言う光。ここで物語は再び無音になり、湊斗が何かを決意しているんじゃないかと不安になる。紬と2人で歩いていたときも、「前は別れたくないから彼女と付き合うのを悩んだが、別れても楽しいことが多ければそれでいいのにね」というニュアンスのことを言っていたし、まさか……。
想の実家でお父さんらしき人が登場し、萌(桜田ひより)と手話で話していたのも気になった。今まで出たことないから母子家庭かと思っていた。
さっき渋っていた友達は、湊斗の「会えば想が変わってないってわかるから」と強く言ったことに押されたのか、人を集めてくれた。「想がこなかったらいつもの感じ、想がきてもいつもの感じで」と。そして当日、通訳係として紬も呼ばれ、同級生たちが集まる。先生、手話がわからなくてもジェスチャーで話しかけていてコミュ力高いなと思った。でも「ごめん、なんもしてやれなくて」と言っていて切ない。
同級生たち、実際会うと昔と変わらない、続きのような感じで想に話しかける。それでいてさりげなくハイタッチや肩をさわりながら話すなど、想に伝わりやすいようにしていた。耳が聞こえないのは大きなことだけど、そうじゃなくても例えば友達が怪我をしていたら荷物を持ったりするし、そういう当たり前の気遣いの延長で接することができればいいのかも。不安が一掃された瞬間に、そしてこの場を湊斗が作ったということに、涙が出た。
ベンチで紬と2人になり、紬が想のことを話すのを聞き、友達と楽しそうにフットサルする想を見ながら、湊斗の顔は真剣になっていく。
「紬、お願いがあるんだけど……」
「別れてほしい。別れよう」
ああ……。予告のときからそんな予感はしていたけど、そんな……。
「好きな人がいるから」
「好きな人」というのは、湊斗が紬を好きだからとも取れるし、さらに湊斗が(友達として)想のことを好きだからとも取れるし、紬に好きな人(想)がいるからとも取れるし、全部かもしれない。
でもこの言葉、むかし想が紬に別れを告げたときに言った言葉(好きな人がいる 別れたい)でもあり、紬にとってはより言われたくない言葉だったと思う。奇しくも想も湊斗も、紬のことを思った結果この言葉になってしまうとは……。もし言葉の詳細を知っていたら湊斗は同じ言葉を使わなさそうだから、そこまでは知らなかったのだろうか。
湊斗が自動販売機で飲み物を買おうとすると、後ろからコンポタのボタンを押され、コンポタを買ってしまった。想がいたずらっぽい顔で笑う。「も~、思い出してきたわこの感じ」と湊斗も笑い、想は自分で買った水を湊斗に渡す。
音声変換アプリを出して、湊斗は話しだす。さっき紬に別れ話をする前に「間違えて買った」とコンポタを渡していたし、冷めちゃったと言っていたから、たぶん想との話のほうが先なのだろう。
「紬、ご飯食べてるかだけ気にしてあげてね。この3年、本当は楽しくなかったと思う。行きたいとこ、食べたいもの、欲しいもの、俺全部、何でもいいよ、紬の好きでいいよって言うから、つまんなかったと思う。紬が教えてくれた音楽とか映画とか、いいねって感想しか言えなくて、俺ほんとつまんないから、想は違うからいいんだけど、大丈夫なんだけど、紬、想の横にいるときが一番かわいいんだよね。知らなかったでしょ、いつでも自分が見てきたあの紬だと思ってるんでしょ」
湊斗の意図に気づき、スマホに手を当てて会話をさえぎろうとし、泣きそうな顔で「耳、聞こえないんだよ」と声を出して言う想。
「耳、聞こえないだけでしょ。他に何にもかわってないから」
「すっごい性格歪んでないかなとかちょっと期待したのに」
「想のためとかじゃなくて、どっちかというと紬のためで、本当に本音を言えば自分のため。俺がしんどいだけ。2人見てて、2人がどう思ってるか、何考えてるか、わかるから」
「言ったじゃん。みんな戻れると思うって。戻れたら俺はうれしいって」
「湊斗」
「呼んであげて、紬もつむぎって。喜ぶから」
ううう……「みんな戻れる」に紬と想の関係も入ってたのか、湊斗……。「紬、想の横にいるときが一番かわいいんだよね」というのは、ずっと紬を、想を好きになる前から紬を知っていて、見ていたから言えることで。多分、自己犠牲だけではなく、元に戻ったらうれしいというのも嘘じゃないんだろうと思う。湊斗は自分が身を引いても好きな人たちが幸せならそのほうがいいって思える人なんだと思う。でもこんな、泣いた赤鬼の青鬼みたいなことを……。
「紬、本当に湊斗のこと好きなんだね」と言われるシーンもあったが、紬の気持ちはどうなるのだろう。「佐倉くんに寝とられるんじゃ」という友達に「寝取られません」とはっきり言っていたし(寝取られるっていう表現を出してしまうところにちょっと笑った)。湊斗の底なしの優しさに涙する一方で、ちょっと一方的すぎる気もしてしまった。もう、2人とも優しすぎてつらいから、いっそ間を取って想と湊斗が付き合えばいいのでは……? と思ってしまうほど心がしんどい展開だ。紬と想だって、そんなこと言われても「ならよりを戻しましょう」というわけにもいかないだろう。
でも想、いろんなことができなくなったと思っていたのに「耳が聞こえないだけでしょ、何も変わってない」と言われたことはうれしかっただろうな。この三角関係、どう転べばいちばんいいのか、みんな幸せになれるのかわからないまま次号を待つ……。もはや三角関係というか、1対1が3組あるだけな気もする。それぞれがそれぞれにとって大事だけど、どうかみんな自分の幸せも優先してほしい。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
>>>「silent」第5話の予告をYouTubeで見る
戸川湊斗(鈴鹿央士)から突然の別れを告げられた青羽紬(川口春奈)は、なかなか気持ちの整理がつかないでいた。そして佐倉想(目黒蓮)もまた、2人の関係がくずれたのは自分のせいではないかと懸念し古賀良彦(山崎樹範)に相談する。
紬は春尾正輝(風間俊介)に湊斗の話をする中で、自分が彼のことを大切に思い、本当に好きだったことを実感するとともに、聞こえる聞こえないに関係なく相手に思いを伝えることの難しさを痛感する。そんな中、紬の携帯に湊斗から着信が入って…。
第5話のレビュー
想(目黒蓮)と同級生たちを再会させたフットサル会場で、紬(川口春奈)に別れを切り出した湊斗(鈴鹿央士)。「本当にこのまま別れちゃうの?」と思ったが、第5話は納得いかない気持ちがありつつも、ゆっくりじっくり「ああ、本当にこの2人は別れるんだな」と思い知らされた回だった。
紬は「別れたくない」と言うが、湊斗は譲らない。
「この3年、ずっと考えてた。今、紬が想と再会したらって」
「ずっと考えてたし、ずっと不安だった」
「別れよう、もう無理しなくていいよ」
「俺がもう無理、俺が無理。このまま紬と一緒にいたら、無理になる。優しくできなくなる。紬にも、想にも。別れよう」
「嫌われたくない。紬にも、想にも」
自分がつらいんだ、無理なんだと言う湊斗。それは優しさでもあるし、本音でもあるんだろう。この作品を観ている限りではいつも紬に「いいよ」と言っていた湊斗が、はじめて自分を曲げなかったことだった。握った紬の手も、振りほどいた。
翌日紬が一人で目覚め、晴れているシーンは、第1話で彼女が目覚め、雨が降っていて隣に湊斗が寝ていたシーンと対照的だった。
心配した想に「別れたよ、心配しないで」と送る湊斗、そんなこと送ったら心配するに決まってんだろーーという内容だ。「ちゃんと別れたから心配しないで」という意味にも取れるし、あえてちょっとくらい心配させたかったのかもしれない。
古賀セン、ナイス!
2人が別れたことに責任を感じる想に、声をかける古賀先生(山崎樹範)の返しが絶妙だ。
「2人が別れたのが佐倉のせいだったとして、だから何」
「自分だって同じ女の子振ってんじゃん、もっと残酷な感じで。そーれなのに納得いかないって言ってんのは、なーんかちょっとダサいわ」
「佐倉ダサいわぁ」とわざわざアプリに向かって言い直すのには笑う。
「この8年とか? まったく2人を見てなかった佐倉に分かるわけないと思うよ」
味方でいてくれるしこんな本音も言ってくれる先生、いいなぁ。
別れるという点においては頑なな湊斗。流されないし、呼び方も”紬”から”青羽”に変えた。でも、やっぱり優しさが垣間見えてしまう。荷物を取りにきた紬と、別れたのにのほほんとした雰囲気で出会った頃の話をできる感じが湊斗だからだし、この2人の関係性だったんだなと思う。
キラキラとポワポワ
紬の親友・真子(藤間爽子)が湊斗に伝えた「想といるときの紬はキラキラしてたけど、湊斗といるときの紬はポワポワしてた」という話は非常に印象的で、的確にそれぞれとの違いを言い表していた。そしてはじめは紬は圧倒的に想が好きなのかと思っていたけど、湊斗のこともちゃんと好きだったんだなとあらためて納得した。
「ポワポワして落ち着いてて、うれしいこと教えたくなる感じ、無意識に戸川くんが基準になる感じ」
「女の子のこと、キラキラさせる男もすげえなって思うけど、ポワポワさせるのも才能」
真子なりに考え直してほしくて伝えたことだったけど、もしかしたら湊斗に「やっぱり自分ではないな」とあらためて思わせてしまったのかもしれない。湊斗が前回「紬、想といるときがいちばん可愛いんだよ」と言ったように、湊斗がいちばん可愛いと思うのは”キラキラした紬”だった。大好きな人が自分と別れたくないと言っていても、他の人といる相手のほうが素敵に見えて、大好きな人と一緒にいると嫌な自分になってしまいそうなのは、つらい。
キラキラとポワポワというオノマトペが印象的で、何度も耳の中で繰り返した。ほかにもこの作品のセリフは、同じ言葉の繰り返しがすごく多い。小学生のとき朗読した国語の教科書のような、何度も耳の中で繰り返されて記憶に残るような感じだ。まだ現在進行形だけど、この作品のセリフを、いつかふと思い出すのだろうか。勝手に想像して、勝手にさみしい。
弟・光(板垣李光人)が気を利かせた電話でも、紬はどんな風に好きだったかを伝えるけど、たぶん彼女の中でも別れる覚悟が決まったようだった。「私なんか、ポワポワしてたと思う。好きだったよ、戸川くんのこと。好きだったよ、この3年間、ずっと一番好きだった人だよ。知らなかったでしょ」「うん、知らなかった」という会話はもらい泣きしてしまいそうだった。
翌朝、想に会う紬が一瞬、湊斗が”想が好き”と言っていたポニーテールにしようとしてやめるシーン。いや、無意識にポニーテールにしようとして、湊斗のことを思い出してやめたのかもしれない。言葉がないけど伝わってくるシーンが秀逸だ。
影と光の対比が印象的
そして今回、湊斗の顔に影が落ちているシーンがいつになく多かったように思う。特に紬と電話しながら泣いているシーンは、薄暗い中で涙を流す湊斗と、台所の灯りに照らされながら涙を流す紬が対照的だった。
そして電話を切ってそのまま眠りについた湊斗、朝になって顔に光が当たり、目を開けると隣には紬の顔が。一瞬「どういうこと?」と思ったが、2人が話していた、「紬が初めて湊斗の家に泊まった日」「前髪をとめるふわふわの百均のヘアピン」の回想シーンなのだ。そして湊斗の顔には光が当たり、心底幸せそうな顔をしている。決定的に終わってからこの繋ぎ、非常に苦しいし心に刺さった。
一方、メインの3人以外のセリフも印象的だった。想の母・律子(篠原涼子)の「誰のせいでもないことが一番厄介なの、そういうもんなの」という言葉、萌(桜田ひより)を悪く言った律子に対して姉の華(石川恋)が言った、「想の人間関係がうまくいかないのは、萌のせいなの? ごめんね、お母さんが聞きたいのは想の本音なのにね。私たちばっかしゃべってごめんね」という言葉。
律子は想の病気に負い目を感じてどうしても彼のことを気遣ってしまうが、他の2人は自分を見てもらえないようで、それぞれ傷ついていたのだろう。
想が伝えたかった想いとは?
想に「顔を見て話したい」と言われて「今佐倉くんの顔を見るのつらい」と断る紬に、2話を思い出す。あのときの想も紬の顔を見るのはつらかったかもしれないけど、結局折れて会ったけどな、とちょっと紬を身勝手に感じたが、湊斗にちゃんと別れを告げた紬は「来れたらきて」と言われたカフェに現れる。
想が紬に想いを伝えたノート。
これは #目黒蓮 さん直筆です❕#silent pic.twitter.com/hiHS4ASuox
— 「silent」川口春奈×目黒蓮(Snow Man)❄️6話は11月10日OA 木10ドラマ公式❄️ (@silent_fujitv) November 4, 2022
想はノートを用意していて、紙芝居のように1ページに少しずつ書いたメッセージを見せていく。自分と再会したせいで2人が別れたなら、再会しなきゃよかったと思った。でも、紬と手話で話せて、湊斗たちとフットサルできて、うれしかった。だから、2人には悪いけど、再会できてよかった、と。
ここも、2話で紬が言った「好きになってよかったって思います、思いたいです」というセリフを思い出した。この作品に出てくる人みんな、「よかった」と思えるような結末につながることを願いたい。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
戸川湊斗(鈴鹿央士)から突然の別れを告げられた青羽紬(川口春奈)は、なかなか気持ちの整理がつかないでいた。そして佐倉想(目黒蓮)もまた、2人の関係がくずれたのは自分のせいではないかと懸念し古賀良彦(山崎樹範)に相談する。
紬は春尾正輝(風間俊介)に湊斗の話をする中で、自分が彼のことを大切に思い、本当に好きだったことを実感するとともに、聞こえる聞こえないに関係なく相手に思いを伝えることの難しさを痛感する。そんな中、紬の携帯に湊斗から着信が入って…。
第6話のレビュー
紬(川口春奈)と湊斗(鈴鹿央士)が別れ、想(目黒蓮)と二人で会っている関係は継続していた前回。
三角関係が早々に終わりを迎え、今後どう展開していくのか気になっていた第6話。
ここ数話でうすうす感じていたが、当初とんでもなく優しい物語だと思ったこの作品は、もしかしたらとんでもなく残酷な物語なのかもしれない……そう感じるような、苦しいエピソードだった。
耳が聞こえなくなり、ひとりぼっちの想に手を差し伸べたのは…
大学時代の想の回想シーンは、見ているこちらもつらくなった。
スポーツ推薦で入った東京の大学、親を心配させたくなくてそのまま入学したが、耳が聞こえなくなっていったため「あいつは指示を聞かない」と外され、部活(サッカー部)を辞めることに。
その噂を聞きつけたフットサルサークルのメンバーに声をかけられるが、呼びかけられても気づかず、近くで大きな声を出され(この時点では完全に聞こえなくはなっていない)、陰口を叩かれる。
補聴器をつけて自転車に乗ると警官に呼び止められ、イヤホンを外すように言われる……さまざまな出来事に傷つき、自分が悪いわけじゃないのに謝るくせがついてしまった。
そんなとき、就活セミナーで出会ったのが奈々(夏帆)だった。
別の友達に留学に行ってきて楽しかったと話していて、耳が聞こえないながらもいろいろなチャレンジをして、充実した生活をしていたのであろうことがわかる。奈々は想が自分を見ていたのに気づき、筆談で話す。
(通常このような場合「声をかけた」と書くことが多いのだが、奈々は話すわけではないから不適切だし、表現が難しい)
想は初めて、自分の苦しい胸の内を人に話すことがきた。
同じ「想が苦しみを吐露する場面」でも、1話ラストのどんどん感情が爆発していくような感じとはまた違い、静かに少しずつ、苦しさを絞り出すような演技だった。
「違うのに。ただ、誰かに聞いてほしかった。静かに話だけ聞いてほしかったんです」
「ただ不安だってことを、言葉にできないのが苦しかっただけで」
「声出さないから大丈夫。静かに話聞いてあげられる」
そう書いた奈々。もちろん静かに聞いてほしかった=話さないでほしかったというわけではないだろうが、このときの想には、どんなにうれしいことだっただろうか。
「私は生まれつき耳が聞こえない。でも、幸せ」
「音がなくなることは悲しいかもしれないけど、音のない世界は悲しい世界じゃない」
「私は生まれてからずっと悲しいわけじゃない。悲しいこともあったけど嬉しいこともいっぱいある」
「それは、聴者もろう者も同じ。あなたも同じ」
「同じ」という手話を笑顔で真似した想は、久しぶりに笑ったのかもしれない。
奈々は想にとって、つらい暗闇から救い出してくれた人だったんだ。
紬への嫉妬で、取り乱す奈々が苦しい
回想の奈々は、明るく生き生きとしていて魅力的だった。物語序盤でも想を気遣い、明るく接している場面を何度も見ていた。リュックのチャックをわざと開けておくのがあざといという声もあったが、それも想を好きだからだと思えばかわいいの範疇だし、少なくとも想を優しく見守る味方だったはずだ。
でも、想と紬が接近したのを知り、二人でいるところを見てしまい、さらに「話がある」と想に呼び出され、何かと思えば紬とのことを切り出そうとされ、自分の気持ちには気づかれてないと思っていたのに「ずっと気持ち無視して曖昧な態度だったけど」なんて言われてしまった奈々は、もう冷静ではいられなかった。
さすがにそんな言い方をされてしまったらみじめすぎるし、いっそ気づかないふりをしてほしかった。想は基本優しいと思うけど、たまに相手を思ってかえって傷つけるところある。こればかりは奈々がかわいそうだ。
奈々はまくしたてる。
「昔の恋人と昔の親友、想くんと再会したせいで別れちゃったんだ、可哀想だね」
「どうしたの? 手話わかんない? 筆談しようか?」
「あの子(紬)に聞こえない想くんの気持ちはわからないよ」
「18歳で難聴になって23歳で失聴した女の子探して恋愛しなよ」
言ってはいけない、言うべきではないひどい言葉だけど、奈々自身も苦しかったし傷ついたのではなかろうか。
こんなことを言ったり想を傷つけたりしたいわけじゃないけど、言わずにはいられないような状態だったのかもしれない。
恋愛でみっともなくなる自分、恋愛に限らず言ってはいけないことを言ってしまっている自分を痛感するのはしんどい。湊斗が聖人すぎただけで、奈々の反応が普通だよなという気もする。
想は多分それをわかっていて、怒るというより悲しそうな、心配そうな顔をした。
「奈々、よくそういうこと言うよね、自分はろう者だから聴者と分かり合えないって」
そう言った想に「私たち、誰も分かり合えないね」と言ってしまう奈々。
(ろう者は音声言語を取得する前に失聴した人なので、想は現在ろう者でも聴者でもなく、中途失聴者と呼ばれるらしい)
でもこの場合は明確に聴力の差があるけど、そういった差がなかったとしても、相手と全く同じ状況で気持ちをわかるなんて無理に近いと思う。それでも分かり合いたいとお互い歩み寄ることが人付き合いだという気もする。人と人の関係って、難しい。
しんどすぎる、奈々の”叶わない夢”
ショーウインドーで眺めていた、”青いハンドバッグ”を持って歩く奈々。
電話がかかってきて、通話する奈々。
……ここで何かおかしいとわかる。だって奈々は、電話できない。
反対側の道に同じく電話をしながら笑顔で歩いてくる想。
奈々と出会ったとき、すでに想はほとんど聞こえなくなっていたから、これもまたありえない。
二人は手をつないで道を歩く。
できないのは、電話をするだけじゃない。
ハンドバッグを持つことも、手をつなぐことも、手話を使う奈々にはできない。
映画『ラ・ラ・ランド』にも出てきたような、「叶わなかったことを見せる」映像がしんどすぎた。
前回の湊斗の回想タイミングもしかり、序盤は「なんて優しい物語なんだろう」と思っていたこの作品が、「なんて心をえぐるような見せ方をするんだろう」とちょっと思ってしまった。
道でばったり会った紬をカフェに連れていく奈々(ええ……)。
紬に手話のことを聞いて「プレゼント使いまわされた気持ち」「好きな人にあげたプレゼント、包み直して他人に渡された気分」と手話で言う奈々。想に手話を教えたのは奈々だった。
奈々だって想が人とコミュニケーションを取るために教えたんだし、実際想が友達がいないのを気にかけて、自分の友達と引き合わせようとしたこともあった。だから、そんなことを言うのはお角違いだってきっと奈々だってわかっている。
でも想は、手話をかなりマスターしてきた頃、奈々に「奈々にだけ伝わればいいから」と言っていた。
実際ほかに友達がいなかったし、奈々が大切な人なのは事実だったのだろうけど、そんな思わせぶりなことを言われたら期待してしまう。ひどい。そんな風に言った手話を、今は紬と話すために使っている。それは奈々にはつらいことだったし、裏切られたような気持になってしまったのかもしれない。
喫茶店を飛び出した奈々は、想とばったり会い、泣きながらスマホを耳に当てるのだった。
一度も言葉を話したことのない奈々が、それでも声がわかってしまうほど嗚咽していてつらい。
しかし、想と出会った頃の朗らかな奈々と、苦しさのあまりひどい言葉をたくさん言ってしまう奈々の表情が全然違って、夏帆の演じ分けに圧倒されてしまった。
これまでのストーリーだと、それなりに楽しそうに見える奈々を見て、同じ聞こえない人でも、生まれつき聞こえない人よりもともと聞こえたけど聞こえなくなった人がつらいのかな? となんとなく思ってしまっていたが、浅はかだった。もともと聞こえない人にも、願っても叶わないことがたくさんあるのだ。
想と奈々、出会った頃と今の対比がつらい
たびたびこの物語で使われる手法だが、今回も対比の使い方が印象的だった。
「聴者もろう者も同じ あなたも同じ」という言葉で想を救った奈々が「みんな分かり合えないね」という状況。
「私は生まれつき耳が聞こえない。でも、幸せ」と言っていた奈々が「たまに夢に見る、好きな人と電話したり手繋いで声で話すの。 憧れるけど恋が実ってもその夢は叶わない」と言わずにはいられない状況。
きっと想と会うまでだったいろいろあった奈々が、想を救ってくれた奈々が、想とのことでこんな気持ちになってしまっていることが、しんどいなぁ。
奈々と正輝(風間俊介)の関係が気になる
「聞こえる人と聞こえない人は分かり合えない」という発言や相関図も隣、ドラマ内でも正輝のシーンの後に奈々のシーンが流れるなど、この二人に過去に何かあったと想像していた人も多かったのではないだろうか。
次回予告で二人が会うシーンがあるように見え、どういう関係なのか非常に気になるところだ。
奈々にだって幸せになってほしい。
紬と想を素直に応援しづらくなってくる展開
初回を観た後は、この二人がなんとかまたよりを戻せるといいなと願っていたが、湊斗のことや奈々のことを考えると、何となくまっすぐに応援しづらい人も出てきそうだ。
少なくとも想はいい人だしなとも思っていたが、今回の奈々への発言(回想含む)はうーんと思うところもあった。紬が想に一方的に「佐倉くんは違う」と告白されてないのに振るみたいな言い方をしたときに「え、何を言い出すの」と思ったけれど、想もほぼ同じことをしていた。湊斗にはさんざん想と会うことなど平気で言っていたのに、奈々と想との関係を気にする紬にももやっとした。
もちろんまたうまくいってほしいと思っているけど、それでもそう思う。完璧にいい人なんていないってことだよな。ちなみに奈々を「唯一二人で会える友達」と言った想に「ねえ俺は? 今二人で会ってるんですけど」と拗ねる湊斗、可愛すぎた。っていうかいい奴だな、湊斗。
想の妹・萌(桜田ひより)の涙がつらい
想の部屋のCDを夫に捨てさせようとする母・律子(篠原涼子)。本人に聞いてからにした方がという夫の意見は最もだ。そこへ「萌がもらう」と言った萌。「お兄ちゃんが好きなの聴かないでしょ」と言われるが、「お兄ちゃんだって聴くから取っておいたわけじゃないでしょ」と言う。
律子は想のことを想っているようで、捨てようとしたのは自分がつらいからのようにも見えた。
こっそりCDを運ぶのを手伝ったお父さんに頭を撫でられ、微笑んだ瞬間に泣き出す桜田ひよりの演技がすごかった。当たり前だけど、失調者本人だけでなく、家族の苦しみもあるんだな。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
>>>「silent」第7話予告をYouTubeで見る
佐倉想(目黒蓮)は、桃野奈々(夏帆)が泣いていたのは自分に原因があると感じていた。そのことで青羽紬(川口春奈)に心配をかけまいと「紬とは関係ない」と線を引くが、紬はそんな想の態度に壁を感じてしまう。
一方、律子(篠原涼子)は、想が高校時代の友達と関わりをもつようになったことに不安を感じていた。
そんな律子の態度に萌(桜田ひより)は苛立ちをおさえきれない。そんな中、奈々はある決意をもって、想に借りていた本を返しにくる。紬は、想が声で話さないことに疑問を感じ、質問してみるが…。
第7話のレビュー
想(目黒蓮)の耳が聞こえなくなってからできた唯一の友達で、生まれつき耳が聞こえない奈々(夏帆)。明るく見えた彼女にも、焦がれても叶わないものがあるのだとわかり、切なかった前回。第7話は、紬(川口春奈)の自分の気持ちに正直すぎる言動にええ、と思うところもありつつ、ラストの展開に持っていかれた。
「振らなくていいよ」奈々の気遣い
想に背を向けて立ち去った奈々、少しして想を振り返るけど、想は紬の後姿に駆け寄っていて、心がぎゅっとなった。想に借りていた本をまとめて返しにきて、ドアにかけて立ち去ろうとしたがちょうど想が帰ってきてしまいビクッとなっているのがちょっとかわいい。2人のやりとりで長いこといい友人だったのだなとわかるし、笑いあってしまう感じにほっこりする。仲いい友達同士でどちらかが好きになってしまって、もともとの友達関係が消えてしまうの、仕方ないことだけど切ないよな。
想の好きな本、難しいけど好きなふりをしていたという話に、はじめて想と話したとき、よく知らないのに「知ってる」と言った紬を思い出した。紬のCDは想が本当は知らないことに気づいて「今度貸すね」と言ったところと、言われるまで奈々もその本が好きなんだと思っていたところは違うけれど、好きな人の好きなものを好きになりたい気持ち、恋だなぁ。
あらためて何か言おうとする想に「振らなくていいよ」「振ったほうが悪者みたくなりでしょ? 勝手に好きになられただけなのに」「悪者にならなくていいよ」と言う奈々の言葉に、確かに振る=罪悪感につながってしまうなと思った。解像度の高さがさすがだ。そして奈々、いい子だな。前回のひどい言葉は、コップに水があふれてしまった結果だったのかな。
すれ違う紬と想
一方紬と想は、ちょっとギクシャクしていた。ちょうど職場の出版社に直接行くことになり、「声って出せないの?」と聞かれる想。相手も悪気があったわけではなく、何気なく聞いただけだったのだが、おそらく想に取ってはあまり触れられたくないところで、相手の人に謝られる感じになってしまった。その後待ち合わせしたファミレスで、紬は「声でしゃべらないの、何で?」「途中で聞こえなくなった人は声で話す人が多いって聞いたから、何でかなって思って」と聞いてしまったのである。出版社での出来事からの蓄積もあり、想は「声が好きなんだもんね」とちょっと卑屈な言葉をスマホで打つが、見せずに伏せる。
想のほうがずっと大変な状況だが、この気持ち、少しだけわかる気がする。筆者は斜視で、特に疲れると視点が定まらないときがあり「どこ見てるの?」と聞かれることがたまにあった。相手に悪気がないことはわかっているのだが、気にしていることを聞かれることも、説明すると決まって相手が申し訳なさそうな空気になってしまうのもどっちも嫌というか、ちょっと疲れてしまう感じがあった。多分今なら同じように聞かれても気にならないけど、想は失聴して数年しか経っていないし、気になるだろうな。
気になったことを聞くのが紬なのはわかってるし、タイミングも悪かったと思うんだけど、「聞かれたら嫌とか考えないのだろうか?」とちょっとだけ思った。
紬、さすがに無神経すぎるのでは……?
帰宅後、家で真子(藤間爽子)と飲む紬。そこへ爽子のスマホに湊斗からの着信があり、紬は湊斗に想と話したことあるか、想が声を出したことがあるかを聞く。付き合ってるときも想の話めっちゃするのちょっと気になったが、自分より想のほうが紬に合っていると思ったのもあって別れた湊斗に想のこと聞くんかーい。
湊斗に「名前は呼ばれたけど、湊斗って」「しゃべったほうがいいって聞かれたんだけど、しゃべりたくないなら、ね、無理にしゃべることないし。嫌なことの理由ってわざわざ言いたくないことも、あると思うし」と言われ、自分が聞いてしまったことに落ち込む紬。ちょっと気の毒だけど、ちょっとだけ「いいぞ湊斗」「気遣いできる人はそう思うよなぁ」と思ってしまった。
「奈々さんて知ってる? 声出さなくていいから、気を許せるのかもね」と言われるが、湊斗はすぐに「余計なことを言ったかも」と気づく。真子にも「(中途失聴者で声で話さない人は)少ないってだけで、いるのにね」と反省した紬。
だがその次の行動がわれわれの予想を超えていた。「奈々さんと話したいんだけど、連絡先教えてもらっていい?」「奈々さんてどんな人?」
……なんでそうなる??? 奈々的に今、紬はいちばん会いたくない相手では……? 紬は話したいかもしれないけど、奈々の気持ち考えたりできないの?? とハテナでいっぱいだった。
「おすそ分けしたって気持ち」奈々、天使なのでは?
紬の要望に応じ、待ち合わせ場所で待つ奈々。まず会ってくれるだけでいい人だなと思う。
そして紬が手話で話したのは、想が奈々のことをどんな風に思っているかと、「今の想くんがいるのは奈々さんのおかげです、ありがとうございます」というお礼。
前者はうれしい内容かもしれないけど、おそらく想が好きな相手である紬から聞きたくないだろうし、後者は何目線なのか??? と思ってしまった。たまにドラマである、本妻が愛人に「この人がお世話になってます」というシーンを思い出した(逆の場合もあり)。
悪気ゼロなのはわかってるし、この内容を正輝(風間俊介)に頼んで手話にしてもらって覚えてきたのは正直にすごいんだけど、悪気なくこういうことしちゃうところが個人的に苦手かもしれない。これこそ水をかけられてもおかしくない状況だと思う。
でも、奈々は悪くは思わなかったようだ。「手話下手くそだね」と言いつつ「もっと想くんと話したほうがいいよ」と伝える。
その後図書館で想を見かけた奈々は、はじめ隠れようとしたが、男の子に「あれ取って」と言われているが、内容がわからない様子を見て気になってしまう。男の子を抱き上げることで解決した想を見て、なんともいえない表情をしていた。
奈々は想に、紬が下手くそな手話で一生懸命話してるのがすごく愛おしかったと言う。
想が紬に手話を教えたことを「プレゼント使いまわされた気持ち」と言ってしまったが、今は「おすそ分けしたって気持ち」「あげてよかったって気持ち」だと言う。想に手話を教えたのは自分が話したかったから、自己満足だよと。奈々、いい子すぎないか……。
紬のまっすぐすぎるところ、相手を気遣うより思ったことを口にしてしまうところを”無神経”と感じてしまったが、気遣って遠慮して言うのをやめたらそこから進まないし、そんな無神経さが物語や状況を進めているのかなとも思った。
あと、前回の感想として奈々に同情する声と、嫌なやつという声と両方あったが、ここでまたこんな風にバランスを取る、制作陣のさじ加減になるほどなとうならされる。完全にいい人も、完全に嫌な人もいない感じ。
”叶わない夢”の続きに涙
前回切なかった、奈々が見た夢。でも、想も全く同じ、奈々としゃべって荷物を持って話す夢を見ていたとわかって、ちょっと泣けてしまった。
「よかった」「私も似たような夢見るけど、音がないから」「想くんの夢のほうでちゃんと声出てるならよかった」「私にも想くんの声、聞こえてるならよかった」という奈々の言葉にも泣いた。なんだかでも、この夢が奈々にとってつらいだけのものじゃなくなって、よかった。
ハグ……!
高校のときにもらった想の作文の話になり、「読みにくる?」と家に誘ってちょっとしてあせる紬。想が家にきて、なんとなくお互い意識してしまうところに「最近覚えた手話は?」と聞かれて「片思い」と答えた紬に「覚えなくていいよ」と言う想、たまらん。
意識しつつこの間は無神経なことを言ってしまったけど、声でしゃべらなくても好きだからと伝える。作文を取りに行こうとする紬の手をつかんで引き止め、両手を握って話そうとする。「いい、いいよ、大丈夫。しゃべんなくていいよ」「この前無神経なこと言ったから、違うから、声が好きだったのは本当だけど、声以外も好きだから。しゃべんなくても好きだから、大丈夫」と手を握られているので言葉で言う紬。手話で伝え直そうとする紬を抱きしめる。「伝わった? 伝わってる」とわかる紬もすごいな。っていうかハグ……!
湊斗と別れてからあまり経っていないのは若干気になるけど、これはこれでよかった。
奈々と正輝、やはり知り合いだった
正輝の手話教室の前で立つ奈々。外から帰ってきた正輝は声をかけるが、奈々が自分のほうを見た瞬間表情が固まる。久しぶり、ということは、やはりこの2人知り合いだったのか……。
想の母・律子の「自己満足」
想が昔の仲間と会っていると聞いて、想に傷ついてほしくない、会ってほしくないと言い出す律子(篠原涼子)。このお母さん、心配なのはわかるけど想はもう26歳だし、ちょっと毒親だな……。想の妹・萌(桜田ひより)に「それはお母さんの自己満足だよ」と言われる。萌のほうがある意味大人かもしれない。
同じ「自己満足」でも、奈々の自己満足と律子の自己満足の違いがすごい。
このタイミングで来週が休みだなんて!!!
来週はワールドカップのため、放送はお休み。想と紬のその後も奈々と正輝の関係も気になるのに休みだなんて……! 今までの回を見返して耐えよう。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
佐倉想(目黒蓮)は青羽紬(川口春奈)に、声が出せないわけではないが、自分で感じとれないことへの怖さがあることを話し、紬はそれを受け入れる。しかし、2人の距離が縮まるほどに、想は自分と一緒にいるのが大変なのではないかと紬を気遣うようになり、紬は否定するものの、なかなか思いは伝わらない。
一方、桃野奈々(夏帆)は春尾正輝(風間俊介)との再会を果たす。「紬と想を見ていたら春尾くんのことを思い出して」と言う奈々。そんな中、紬は実家の群馬に帰り、母・和泉(森口瑤子)に想のことを話そうとするのだが…。
第8話のレビュー
2週間ぶりの待ち遠しい放送! 今回は、切ない場面もありながらも、ほっこり終わった回となった。
紬(川口春奈)の部屋で抱きしめあった紬と想(目黒蓮)。でも、まだ2人は付き合っていないらしい。
紬を幸せにし隊
その頃、紬の弟の光(板垣李光人)と紬の親友の真子(藤間爽子)は紬の元彼の湊斗(鈴鹿央士)の家で飲んでポテチをパーティー空けしていた。なんだかんだ楽しそうな3人、「紬を幸せにし隊」というLINEグループが作られ、知らぬ間に湊斗が隊長にされていた(隊長がいいならこのグループに想を入れてもいいらしい)。いや、別に湊斗は嫌じゃないんだろうけど、振ったとはいえ彼が身を引く形になったのに紬を幸せにし隊の隊長やらなきゃいけないのか……とちょっと思った(笑)。紬と想はなるなら勝手に自分たちで幸せになりそうなので、むしろ湊斗を幸せにし隊。
ついに明かされた、奈々(夏帆)と正輝(風間俊介)の過去
ずっと気になってたよ、知りたかったよその話……!
正輝の勤める手話教室の前に立っていた奈々。少しだけ話して、また来るねと去っていく。
後姿に「桃野さん!」と呼びかける正輝だが、もちろん振り返ることはなかった。
以前湊斗に「(耳の聞こえない人を)呼んでも振り返りませんよ」と言った彼らしくない行動だ。
「ニコッと笑う子だった。彼女が笑うと本当にニコッと音が出そうだった」
そんなモノローグから、回想は始まる。就活に苦戦していた大学生の正輝は、就活に有利になるためという理由で、耳が聞こえない学生のためにパソコンテイク(内容をPCでとること)のボランティアをしていた。
相手も耳が聞こえないから、コミュニケーションを取る必要もなくて楽だと、そんな冷めた一面のある人だった。
でも奈々の笑顔や、毎回最後にノートに「ありがとうございました」と書いて見せてくるところに少しずつ惹かれていった。
ある日、奈々が「授業サボりたいです。いつも横に人がいるから、みんなみたいにゲームしたり寝たりできない。一緒にサボってください」と話しかけ、2人で会うようになる。
パソコンテイク後の「ありがとう」を書いたやつを毎回見せればいいのに、と言うと「ありがとうって使いまわしていいの?」と返され、おそらくここで奈々を好きになる。ここで思い出すのは、自分が教えた手話を想が紬に教えたことを「プレゼント使いまわされた気持ち」と(手話で)言ったことだ。自分が人に対して誠実に接していたからこそ、裏切られたような気持になってしまったのかもしれない(もっともこれに関しては、前話で「おすそ分けした気持ち」に変わったが)。
「顔を見て話したいと思った。彼女の言うありがとうをそのまま受け取れる人になりたかった」
正輝のなかで何かが確実に変わった。奈々との仲を「障害があるほうが燃える的な? あの子はマジな障害ですけど」と言ってきた後輩に本気で怒っていた。
「奈々」と呼ばれて、聞こえないはずなのに振り返った奈々の、なんとかわいいことか。
「私の名前呼んだの?」「声が聞こえた」と無邪気に言う。
本当に2人は惹かれ合っていたんだと思う。
でも、正輝がよかれと手話サークルを立ち上げようとしたことに、手話通訳士のテキストが机に置かれていたことに、奈々は傷ついてしまった。あの人たちは手話をやりたいんじゃなくていい人だと思われたいだけだ、仕事にしてほしかったわけじゃない、と。
口論になり、「手話で話してよ! 唇読むの疲れる」「こっちだって手話するの疲れるよ」と売り言葉に買い言葉。どちらも言っちゃいけないことを言ってしまった感じだが、奈々は気持ちが高ぶるとひどいこと言ってしまうタイプなんだろうなぁ……。
「言葉は通じるようになったのに、顔を見て話せるようになったのに、押し付けた善意で終わった」
結局手話を仕事にした正輝は、どこかでずっと自分を責めてきたのかもしれない。
でも、再び遊びにきた奈々は「仕事にしたんだね、夢を叶えたんだね、おめでとう」「(紬と想が)うまくいってほしいって思ってる」と言った。奈々はもう大丈夫そうだ。話したことで、正輝も心のわだかまりが取れるといいのだが。
「ごめんね」と自分といることを気にする想に、紬は……
耳が聞こえない人向けの字幕ありの映画リストの中から映画を選んでもらうこと、カフェでバイト先の後輩(佐藤新)に会ったことなどから、自分と一緒にいると面倒だろうと謝る想。想が謝ることじゃないし、本当に気にしていないのに、なかなかわかってもらえない。
紬は里帰りし、母・和泉(森口瑤子)と再会。帰る前、光に「そういう人と付き合うって知って、お母さんに反対されたらどうする?」と言われてちょっと気にしている紬。紬と光の父が亡くなっているらしいことは何となくわかっていたが、紬がまだ小さく、光がお腹の中にいるときのことだったらしい。それはみんな、苦労をしただろうな。
あるとき、父は母に「もうお見舞いに来なくていいよ」と言ったらしい。「病気を治せるわけじゃないし、お父さんのために行ってるわけじゃないのにね」「ただいるだけなのにね」と、意気投合するお母さんと紬。途中から紬が思い浮かべていたのは、想のことだ。
それとなく想と再会し、耳が聞こえないことを伝えたら「で?」と返すお母さん。
「お母さん耳を聞こえるようにできるわけじゃないし、お母さんがやめなさいって言ったらやめるの? ならお母さんには関係ない」と言う。すごく素敵なお母さんだ。早くに夫を亡くし、今は子どもたちが巣立って一人暮らしだけど、いろいろと趣味も見つけて楽しそう。紬の性格はこの人の娘だからなのだろうとすごく納得した。
たくさんお土産を持たされ、「実家から帰るとき荷物増える現象に名前ほしいわ〜」と言う紬に「親の真心。言葉じゃ伝えきれないから物に託すの」と返した和泉。ああ、なんか本当にいい人だ。ちなみに、森口瑤子はこの作品の脚本家・生方美久が尊敬する人気脚本家・坂元裕二の妻。この縁にひそかに興奮する人、結構いるのではないだろうか。
プリンの手話
今回、やたらと出てきたプリンとプリンの手話。ばっちり覚えてしまったし、手の上でぷるぷる揺れるプリンがかわいい。そして夜なのに、プリンが食べたくなってしまった。
次回、実家に帰る想。つらい予感しかしない……。
紬の話を聞き、避けていた実家に帰る想。でも、予告を観た限りではつらいシーンがありそうだ……。
話を進めずいろいろ振り返っていくこの作品、くせになりそう。終わりが近づいているのがさみしい。無理だと思うけど、できたら終わらないでほしい。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
久しぶりに実家に帰ってきた佐倉想(目黒蓮)は、空になったCDラックを見て、大学にサッカー推薦で入ったものの、耳が聞こえにくくなったことで部活を辞めてしまったことや、青羽紬(川口春奈)に別れを告げると決めた日、母・律子(篠原涼子)に友達には病気のことを隠してしてくれと伝えたこと、そして大好きな音楽から自分を遠ざけてきた過去を思い出す。
一方の紬は、東京の部屋でCDを整理しながら音楽への想いについて考えていた。ある用事のために実家へ戻っていた戸川湊斗(鈴鹿央士)は、偶然にも同じタイミングで想も実家に帰っていることを知り、会いにいくことにするのだが…。
第8話のレビュー
紬(川口春奈)の母・和泉(森口瑤子)が登場した前回。相対的に想の母・律子(篠原涼子)を思い浮かべてしまった。病気になった想を心配するあまり、過保護な言動も目立ち、想の妹・萌(桜田ひより)や姉・華(石川恋)を傷つけてしまうこともある律子。今回は律子がそんな風になった経緯が、丁寧に描かれていた。
佐倉家の苦悩
思い出しても切ない2話の、想が紬と別れた(想はこれで最後と決めているが、紬は知らない)シーン。こ、このつらいシーンをまた別の角度から見せてくださるんですね……? 予告でつらいことは想像していたが、あらためて覚悟が必要そうだ。
実家に帰宅した後の想の様子が切ない。はじめは律子も、病気のことを隠さなくても、親しい人には伝えておいたほうが、と思っていたのだが、想は湊斗をはじめとした友達が家に来ても病気のことを言わないでと言う。助けてくれると言っても「誰がどう助けてくれるの?」と返され、何も言えなくなる。誰も想の病気を治すことはできないから、このときの想がこんな気持ちになってしまうのも無理はない。
耳が聞こえない人たちがやるサッカーがあると知り、想に勧める律子だが、まだ完全に聞こえなくなったわけではない想は「耳が聞こえないって言わないで」と耳をふさぐ。当たり前にできていたことができなくなる苦しみは、想像してもしきれない
当時律子は、頻繁に都内の想の家へ訪れていた。同じ関東とはいえ、群馬からはそれなりに時間がかかるので大変だと思うが……。地元の友達とも縁を切り、スポーツ推薦で入った大学で部活も辞め、寮を出てふさぎ込む息子を放っておけなかったのだろう。姉の華が妊娠し、買い物に付き合う約束をしていたのに「ごめん、想のところに行かなきゃ」と言い出す始末。これは華の立場だったらつらすぎるし、さすがにいきすぎている気もしてしまう。そして自分が買い物を手伝うと、何とか場をおさめようとしている萌の気遣いが涙ぐましい。
ついに華は、想の病気が遺伝性なら、生まれてくる自分の子どもも耳が聞こえない可能性があるのでは、結婚相手にまだ伝えられていないと話し出す。「自分のことばっかり、想の気持ちも考えなさい」と声を荒げる律子に「自分のことじゃないよ、子どものことだよ」と言い返す。「私と萌も、お母さんの子どもだよ」という華のセリフがつらい。
華と萌が律子にないがしろにされているように感じて傷ついている場面は、これまでも何度か出てきた。きょうだいの中で男の子を大事にするタイプの母親はいるが、律子はそういうわけではなさそうだ。病気になってしまったから、こんな感じになってしまったのだろうが……。
最もつらかったのは、想が自室でCDを割ってしまうシーンだ。実家に帰り、高校時代に聴いていたiPodを取り出した想。紬に貸した、あのiPodだ。ほどなくして、想の部屋から何かを壊すような音が階下に響く。驚いて上がっていった家族たち。イヤホンが壊れてるみたいで音が聞こえない、壊れてるのはこっちかなと自分の耳をさわる想。
「声、出てないよね? しゃべってるつもりなんだけど聞こえなくて」「何か言ってよ」と泣く想。確実に想の耳が聞こえなくなっていっていることを表していて、言葉にならない。音楽が好きな想だ、聞こえなくなるなんて、聴けなくなるなんて、どんなにつらいだろう。一人部屋に残ったお父さんは、隣に座って励ますようにぽんぽんと叩く。
久しぶりの里帰りで、想が打ち明けた想い
時は現在に戻り、久しぶりに里帰りした想は湊斗と川辺で楽しそうに話す。それをたまたま見かけた律子はあいさつし、うちで話せばと言うが、想は嫌そうな顔をする。「あっそ!」と言う律子だが、なんだかうれしそうだ。帰宅した想に話しかけると、かしこまって近くに座る想。体が大きいから、ちょっと窮屈そう。
律子の心配に反して、想は萌が耳のことを湊斗に言ったおかげでまた話せるようになり、部活の仲間とも再会できてよかったと言う。つらい思いをさせるから耳のことを言わずに離れたけど、もっとつらい思いをさせてしまったことに気づいたと。なんで耳のことを隠そうと思ったんだろう、と。
「親だからってなんでも話さなきゃだめ、じゃないし。親だから話したくないことだってあるだろうし」
この言葉が律子から出てきたのは意外だった。でも心配はする、と。律子も、律子と想の関係も、もう大丈夫そうだ。
目黒蓮に頭を撫でられたい人生だった
自分のCDをあらためて眺める想。スピッツの歌詞カードを開いて眺める。律子に捨てられそうになったけど「また見たいかもって思って、萌が保護してた!」と伝えた萌の頭をわしゃわしゃっと撫でる想。萌はうざい! と言ったけど、「目黒蓮に頭を撫でられたい人生だった」と思った人、いますよね? 私は思いました。萌、本当にいい子だな~。想のこと大好きなんだろうな。想も萌に救われてきただろうな。
華も加わり、YUKIのCDが実は華のだったことがわかったり、華も想も萌に「割れてるやつあるからケガしないように気を付けて」と言ったり、騒がしく楽しむきょうだいたち。「昔から3人揃うとうるさかった」とうれしそうに言う夫婦。なんだか本当に、よかったなぁ。
「ごめんね」から「ありがとう」へ
東京に戻る想を車で送る律子。いつか見た光景、初回で想が状況したときと同じシチュエーションだ。
あのときは別れ際に「ごめんね」と言った想。今回は「ありがとう」と言った。もう、何か言おうとしている時点で言葉は予想できちゃったけど、それでもじーんときた。
音楽の楽しみを思い出した想
そのまま紬の働く渋谷タワレコにきた想は、スピッツの買っていなかったアルバムを買う。「実家に帰って、これ持ってなかったなって思い出して」「これ私持ってるよ、貸そうか?」と言うが、ちょっと考えて「自分で持ってたい」と言って買う。わかる。本当に好きなやつは自分で持っていたいよね。歌詞をネットで調べられる時代、光(板垣李光人)に言われたことを思い出して「ネットで検索した?」と聞く紬だが、「歌詞カードではじめに読みたくて」「それがいいよ」と会話する。わかる。
地元で、湊斗から、高校のとき紬がCDに入れたというメモを返された想。捨てたと言っていたけど、持っていたのだ。それを見せて取り返そうとする紬。「お願い聞いてくれたら返す」と、好きなCDを貸してと頼む。今は青羽のほうが詳しいでしょ、と。
2人とも音楽が好きな人なんだなぁとあらためて思ったし、音楽を好きな想の耳が聞こえなくなってしまったこと、本当に悲しく思っていたし、実際つらいところがないと言ったら噓になるけど、音楽の楽しみって曲を聴くだけじゃなくて、CDを買って開けて歌詞カードを見て……といろんな楽しみがあったなと気づかせてもらった。今はサブスクがあって便利だけど、本当に好きなものはCDで手元に持っておきたいの、すごくわかる感覚でうれしくなった。
想が過去イチかわいい件
紬の仕事が終わるのを待って、湊斗に渡されたメモを見せていたずらっぽく振る舞う想、お目目がきゅるきゅるでめちゃくちゃかわいい。空に月が出ているのを見て「晴れてる」と言うのも、昔のその口ぐせがうつって月を見ると同じ事を言っちゃう湊斗も、湊斗がそう言うのをおそらく見ていて「仲いいな……」とつぶやいた紬も、なんだかまるっと愛おしい。
いい感じに着地した9話だが、次回予告はやはりなんだか不穏である。またかなり接近したけれど付き合っていない2人。湊斗や紬のモノローグから、想はまた彼らから離れて行ってしまうのか……? と不安になる。今回のラスト、奈々(夏帆)から正輝(風間俊介)への手紙の内容も気になるところだ。
話を進めることにプライオリティを置いていないこのドラマ。ちょっと進んだと思ったら、登場人物の過去をしっかりと振り返る回が続いたりと、異色な構成だと思う。残り2話、どんな内容になるのか、どんな結末にたどり着くのか気になる。願わくば、みんなが笑えるラストだといいのだが。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{第10話ストーリー&レビュー}–
第10話ストーリー&レビュー
第10話のストーリー
青羽紬(川口春奈)の部屋にCDを借りにきた佐倉想(目黒蓮)は、2人の距離が近づいていく中で、紬の笑顔を見るたびにうれしくなる反面、ふと紬の声が自分に聞こえてこないことを寂しく感じてしまう。
横井真子(藤間爽子)から、どうして想と付き合わないのかを問われた紬は、そんな想の様子を心配し、なにか言いづらいことがあるのだろうから、呑気に付き合ってほしいなんて言えないと答えるのだった。
そんな2人の事情を紬の弟・青羽光(板垣李光人)から聞いた戸川湊斗(鈴鹿央士)は、あることを伝えるために想を呼び出すことに…。
第10話のレビュー
紬(川口春奈)の家にCDを借りにきた想(目黒蓮)。いくつかほかのCDが入っているケースがあり、高校生のときに貸したCDが返ってきたときもそうだったと笑う想。一瞬弟の光(板垣李光人)がいたずらしたかなぁ? と人のせいにするが、すぐに素直に謝る紬。新しく聴きたいCDのケースにとりあえず入ってたCDを入れるとそうなるよね、わかる。
想にしかわからない苦しみ
洗い物をする紬のポニーテールの毛先を引っ張ったりポンポンしたりして遊ぶ想。なんなの? 猫なの? かわいすぎるんだが??
好きな人でなければブチ切れ案件だが、想なのでかわいく見える。っていうか、これで付き合ってないってどういうことなのかよくわからない。
だが想は、洗い物で手がふさがっている紬が話し続けるのを見て、しょんぼりしてしまう。想目線の映像だと、楽しそうに話している紬がなんと言っているかわからない。そうだよなぁ……。CDはまた今度にするという。自分でちょっかいをかけて自分でテンション下がっちゃうの、やっぱり猫かよと思うけど、切ない。
手をつなごうとした紬の手を「手話できなくなるから」と拒否したり、夜一人で自分の病名と「遺伝」というワードでネット検索したり。じわじわと、いろんな「できない」に直面し、落ち込む姿が見られた。きっとこの何倍も何十倍も、こういうシーンはあるのだろう。紬もそんな様子、ときどきすごくさみしそうな顔をする想に気づき、話してほしいなと思っていた。
湊斗(鈴鹿央士)に「また青羽に伝えないで勝手にいなくなるとかは絶対許さないから」と言われた想は、紬の家に訪れる。そこで想が伝えた本音は、つらいものだった。紬の声が思い出せないという。
2話を見た人なら、想がどんな気持ちで、これで最後だと紬に自分の名前を呼んでもらったかわかるはずだ。ふたりが好きなスピッツの『楓』の歌詞「さよなら 君の声を抱いて歩いて行く」のように、一生この声を思い出して生きようと思ったのではないだろうか。それでも思い出せなくなってしまったというのは、つらい。
紬は、声を出しながら手話をするのをやめ、手話だけで「声で話せるよ」と言うが、想の気持ちは止まらず、1話の再会シーンで、自分が手話でなんと言っていたか伝える。「電話もできなくなるし、一緒に音楽も聞けなくなる。そうわかってて一緒にいるなんてつらかった。だから別れた」
「やっぱりつらかった。一緒にいたいだけって言ってくれて、顔を見て一生懸命手話で話しかけてくれてうれしかった」
「でも一緒にいるほど、話すほど、好きになるほどつらくなっていく」
「青羽があのころのままだってわかるほど、自分が変わったことを思い知る」
「声が聞きたい。もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」
1話のラストで紬を拒絶した想が、5話で「再会できてよかった」という心境になったことがうれしかった。
紬や湊斗と再会したことで、いい方向の気づきがたくさん生まれたのだと思っていた。前回はついに母・律子(篠原涼子)とのわだかまりも取れ、CDを新たに買う心境になるほど何かが変わったのだと思った。
でも甘かった。一瞬「このタイミングでそう言うのか」と思ったが、こちらが想像しきれていなかったのだ。想の立場や状況、その苦しみは想にしかわからない。
ふたりで泣く想と紬。こればっかりは誰にもどうにもできない。どうしたらいいのだろう。
弟も妹もかわいい…
忘れた学校のレポートを届けてくれた想に、ツンデレな感じで甘える紬の弟・光がかわいい。
「牛乳買わなきゃいけないけど、スマホより重いもの持てないから一緒にきて」って言うの、どんな理由だよと思うけど、光らしくていいなぁ。紬への報告でも「佐倉くんがどうしても俺と一緒にスーパー行きたいって言うから」「佐倉くんがどうしても払いたいって言うから」というツンデレの後に、「ちゃんとありがとう言ったから」と報告するかわいさよ。
一方想の妹・萌(桜田ひより)も、紬のバイト先にお礼を言いに行く。紬はお礼を言われた意味がよくわかっていなさそうだったけど、「ちゃんとありがとうと言った」と両親に報告していた。律子の表情や受け答えがだいぶ柔らかくなっていてほっとした。光も萌もいい子だな。
湊斗の笑顔、プライスレス
奈々(夏帆)にバカと言われつつ、想と仲がいいんですねと言われてとびきりの笑顔で「はい!」という湊斗、かわいいかよ……。守りたいこの笑顔。想を見かけ、メッセージアプリで「想!」と呼び、笑顔で歩いていくシーンは涙が出た。3話で湊斗が泣きながら、もう叶わないと思い出すシーンと変わらなかったからだ。想もうれしそうで、いっそ想と湊斗が付き合えば解決なのでは……? と少し思ってしまった。
あと、「俺が湊斗くんと結婚したいよ」と言う光をポンポンして笑う湊斗、かっこよすぎて「湊斗~! 俺だ~! 結婚してくれ~!」という気持ちになった。想にちゃんと言うこと言うところもいい。
奈々の手紙と「バーカ」
前回気になった奈々から正輝(風間俊介)への手紙。昔のことを謝りたい、春尾くんが仕事にするのが嫌だったわけじゃない、と当時の気持ちを打ち明け、最後に「通訳が必要なときは指名するね!」と書き添えるさわやかさ。いつもの居酒屋で飲むふたりの会話がよかった。
「桃野さんみたいな人は桃野さんしかいなかった」
「言葉の意味を理解することと、相手の想いがわかるってことは違った」
「結局は伝えたいとか 受け取ろうとか、そういう気持ちがあるかどうかなんだと思う」
すてき。2人の成長に乾杯したい。
後からやってきた湊斗が手話をわからないのをいいことに、言いたい放題言う奈々がよかった。
「お前が紬ちゃんのこと引き留めてたら、こうはならなかったのに」
「なんで好きなのに自分から振るの? バカなの?」
お前って(笑)。でもこれは奈々が乗り越えたから言えることだし、湊斗が紬に手話教室を教えてくれたから正輝と再会できたとお礼も言っていて、なんだか奈々、好きだわ~と思った。
いつの間にか紬の家に行くほど仲良くなっていて、いくらなんでもあのきっかけでここまで仲良くできるの、紬も奈々もすごい。
次回はとうとう最終回。毎回言ってる気がするけど、みんな幸せになってほしいよ~!
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{最終話ストーリー&レビュー}–
最終話ストーリー&レビュー
最終話のストーリー
「一緒にいるほど、好きになるほど辛くなっていく。…声が聞きたい。もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」と青羽紬(川口春奈)に想いを伝えた佐倉想(目黒蓮)。紬はそんな想に自分の気持ちを伝えるが、想には響かない。
お互いの気持ちがすれ違う中で、紬は戸川湊斗(鈴鹿央士)から、想は桃野奈々(夏帆)から、それぞれある言葉を投げかけられる。そして、二人は別々にある場所へと向かう…。
…変わったものがあって、それでも変わらないものがある。8年という時を経て再び出会った二人がたどりつく結末とは…?
最終話のレビュー
私たちを惹きつけたこの物語も、とうとう最終回。前回は、想(目黒蓮)が紬(川口春奈)に「やっぱりつらかった」「声が聞きたい。もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」と言い、涙するシーンで終わった。これはハッピーエンドは難しいのか…? と悶々としながら過ごした1週間だった。
湊斗と奈々が、紬と想の背中を押す
冒頭出てきたのは、高校時代、2人が日直で黒板を消しているシーン。最終話もやはり、回想シーンは健在だ。楽し気な2人から一転、前回の続きの現在に引き戻される落差がすごい。
「声出さない」「笑わない」「電話しない」「音楽きかない」
紬はふせんにひとつひとつ書き出して見せるが、想は出て行ってしまった。
紬のもとに、湊斗(鈴鹿央士)が、袋いっぱいのパンダを持ってやってきた。
家から出てきた想とかち合い、ただならぬ雰囲気に気づいた光(板垣李光人)が、紬が頼んだ体にして呼んだのだ。「想の見てる青羽ってさ、高校生の紬ちゃんで止まってるんだよね」「見ている時間が8年分ずれてる」という湊斗の指摘にハッとしたし、そんな客観視を元カノと元カノの元彼だった親友相手にできる湊斗、やっぱりすごい。
「どこだったら話しやすい?」と想を呼び出そうとしてくれるところも、本当にいいやつすぎて……湊斗や想と高校で同じサッカー部だった野本(井上祐貴)に「湊斗くん、絶対幸せになってね」と言われていたが、ほんとそれ。全視聴者の総意だと思う(たぶん)。「今が幸せじゃないって決めつけんな」と返すのもさすがだ。本当に幸せになってほしい。
奈々(夏帆)に会った想。最終回の奈々、本当にかわいかった。正輝(風間俊介)が言っていたように、にこって音がするみたいに笑う。「彼(春尾)と私がうまくいかなかったのは、聴者とろう者だからじゃないよ、私が勝手にそう思いたかっただけ」「私たちはうつむいてたら、優しく声かけてもらっても気付けない。見ようとしないとダメだよ」いい言葉すぎる……。
紬と想を思って身を引いた湊斗と、想への恋心をあきらめた奈々。そんな2人が、紬と湊斗の仲のために背中を押そうとしてくれている。なんて優しい物語なのか……。
黒板と体育館と
最後に行きたいところがあると、高校で待ち合わせした2人。
今の自分でぶつかるために、髪を結ばなかった紬。
2人で思ったことをチョークで書く。「好きになれてよかった」と書いてまっすぐ想を見つめ、ぽろっとひと粒涙を流す紬ちゃんが美しい……。こんなのちょっとドキッとしてしまう。正直言うと、紬の良さがわからない瞬間もあったけれど、最終回はすごく紬の魅力が伝わってくる回だった。
「元気でね」と書いて去ろうとする紬に、思っていたことを書き出す想。一緒にいたいから「声出さない」「笑わない」「電話しない」「音楽きかない」と書く紬の言葉を、そばから消す想。紬が紬らしさをあきらめるのも、それはなんか違うしなぁ。
途中、書くのをやめて手話で話す2人。想は紬と一緒にいていいのか、悩んでいたことを明かす。
勝手に相手のことまで悩んで決めようとするのは、想の悪いくせかもしれない。
「それでも今は、一緒にいたい」
想がやっと本当の気持ちを言えて、よかった。
「人それぞれ違う考え方があって、違う生き方をしてきたんだから、分かり合えない事は絶対にある。それでも一緒にいたいと思う人と、一緒にいる為に、言葉があるんだと思う」
紬の言葉。もはやこれって、耳が聞こえるとか聞こえないとか関係なく、すべての人に言えることだ。
「たくさん話そう、言葉にできないときは黙って泣いてもいいよ、私も黙って背中をさするから」
いい女だなぁ紬は! 大学生のとき、公園でも背中をなでてくれていた。
紬の、男の子に何かしてもらおうとか思ってない、自分の大事な人とまっすぐ向き合って関わるために、自分で行動していくところが本当にすてき。
花束とおすそ分け、かすみ草の花言葉
湊斗がバスを待っていると、大きな花束を持った奈々が降りてきた。
湊斗に聞かれて、もらったんじゃなくてあげるの! と笑顔で花束を渡すジェスチャーをする奈々がかわいすぎて涙が出そう。
「お花は音がなくて、言葉があって、気持ちを乗せられる」
お花屋さんで聞いたというこの言葉、とてもすてきだった。
ふらっと花屋に寄って、誰かにプレゼントしたくなる。
そして、1本おすそ分けするという。手話を「おすそ分け」と話した奈々を思い出して心があたたかくなる。遠慮しようとする湊斗だが、奈々に負けて1本もらうことにした。
想と待ち合わせでカフェに座っていた紬。目の前に湊斗が座る。
「待ち合わせしてるんだけど」と困惑する紬に、想に頼んで時間もらったという湊斗。
「仲が良いのはわかるけど、ちょっと勝手だよ?」と言う紬。想と湊斗、ずっと仲良しでいてほしい。
湊斗が紬に渡したのは、奈々からもらったかすみ草だった。
1本好きなのをあげると言われて、いちばんささやかなかすみ草をもらうのも湊斗らしいし、「俺の分はいいよ」と言って、紬に「そういう人だよね」と言われていた。
想も、奈々からかすみ草をもらっており、紬と想は交換こする。
紬はバッグ、想はジャケットのポッケにかすみ草をさして歩いているのがなんだかかわいい。
かすみ草の花言葉は、「感謝」「幸福」「無邪気」「親切」。そして、お別れに使われることもあるらしい。
湊斗が紬に、奈々が想にこの花を贈ったことを考えると、なんだか胸が熱くなる。
感謝している人で、幸せになってほしい人で、でも恋心には別れを告げたのか。
かすみ草を見て「雪の結晶みたい」と言った紬の言葉から、主題歌であるOfficial髭男dism「Subtitle」のサビの歌詞「言葉はまるで雪の結晶」という言葉を思い出す。
歌詞では、1番2番ともに、ネガティブな言葉が続くけど、こうやって「君にプレゼント」できた瞬間を見せるのがなんだかいい。そして、いちばんはじめの紬と想が待ち合わせして、雪を見て話すシーンも思い出した。
できないと思っていたことが、できていた
耳が聞こえないと電話をしたりバッグを持ったり手をつないだりできないんだと、この作品を見て知ったけど、紬と想は手をつないで歩いていたし、待ち合わせに向かう途中でテレビ電話で話していた。
奈々は、正輝に花束をあげて「お返しがほしい」「ほしいバッグがあるの」と話していた(そしてそれを聞く正輝の顔もとてつもなく優しくて幸せそう。よかった……)。
なかなか難しいことだけど、相手次第ではできるんだ。
実際やりづらいことではあると思うけど、決めつけることはないんだと教わった気がする。
いろんな人の、言葉の花束
最終話は、今まで出てきた登場人物たちがほぼすべて出てきて、それぞれが誰かに温かい言葉を贈っていた。
紬の親友・真子(藤間爽子)は、「私に何かできることある?」「背中さする練習しとくわ」と言い、母・和泉(森口瑤子)は「お別れのときは全部ぶつけるの」と言った。紬に「(お父さんが)死んじゃう前に全部ぶつけたの?」と聞かれ「とってある。すっごい美化されてるから、思い出すたび楽しい」と答えるお母さん、やはりすごい人だなぁ。最愛の人が亡くなって、こんな捉え方をして明るく生きられる人もいるんだ。
紬と想の母・律子(篠原涼子)が話すシーンもよかった。想について共感して盛り上がった後に「楽しいことよりも傷つかないことを優先してほしいと思っていたけど、楽しそうなのがやっぱりいちばんほっとする」。
想の妹・萌(桜田ひより)が、想より早く本で勉強して手話を覚えた話も涙が出そうだった。めちゃくちゃいい子。そして、その本を借りてこっそり手話を覚えようとする光もまた健気。久しぶりの出演となった古河セン(山崎樹範)も久々に見られてうれしい。紬のバイト先の後輩、田畑(佐藤新)だけは人にやさしい言葉をかけるところまでいっていないけど、紬の言葉に何か感じていたようだった。
想の「青羽の声、思い出せないしもう聴けない。でも、青羽の声が見えるようになってよかった」というセリフが印象的だ。
何気なく使っている言葉、親しい人にほど思わずきつい言葉をかけてしまったりするけれど、花束のように、優しい気持ちで渡すこともできる。聞こえるとか聞こえないとか関係なく、言葉や気持ちについてあらためて考えるきっかけになった。
いろんな人の言葉が詰まった、やさしい花束のような作品、そして最終回だった。
「silent」にもらったこの気持ちを、きっとずっと忘れないと思う。
※この記事は「silent」の各話を1つにまとめたものです。
–{「silent」作品情報}–
「silent」作品情報
キャスト
青羽 紬…川口春奈
佐倉 想…目黒 蓮(Snow Man)
戸川湊斗…鈴鹿央士
佐倉萌…桜田ひより
青羽 光…板垣李光人
/
桃野奈々…夏帆
/
春尾正輝…風間俊介
佐倉律子…篠原涼子
スタッフ
脚本…生方美久
(第33 回フジテレビヤングシナリオ大賞 『踊り場にて』)
音楽…得田真裕
(『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『グッド・ドクター』、『監察医 朝顔』シリーズ、 『アンナチュラル』、『MIU404』他)
主題歌…Official髭男dism 「Subtitle」(ポニーキャニオン)
プロデュース…村瀬 健
(『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう 』、『信長協奏曲』、映画『キャラクター』 、映画『約束のネバーランド 』 他)
演出
風間太樹
(『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』、『うきわ ―友達以上、不倫未満―』、『脚本芸人』、映画『チア男子‼︎』 『チェリまほTHE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』他)
髙野 舞
(『アライブ がん専門医のカルテ』、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』他)
品田俊介
(『ミステリと言う勿れ』、『信長協奏曲』、『失恋ショコラティエ』、『隣の家族は青く見える』他)
制作著作…フジテレビ