2022年8月6日より『ONE PIECE FILM RED』が公開されている。ここでは、4DX上映をおすすめしたい理由を中心に、魅力や特徴を紹介していこう。
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前置き1:「歌(ウタ)」を中心にした「本気」
『ワンピース』は言わずと知れた超特大ヒットコンテンツ。2022年8月4日に単行本の全世界累計発行部数が5億部を超えたことが発表され、少年ジャンプで連載中の本編が「最終章」に突入したこともあり、さらに盛り上がりが増している。
そして、今回の映画『ONE PIECE FILM RED』は作り手の本気が、「歌」という魅力を推し出していることからもわかる。何しろ、今回の重要キャラクター「ウタ」の歌唱を担当するのは、若者を中心に絶大な支持を得ている歌手のAdo(声の演技の担当は声優の名塚佳織)なのだ。
しかも、中田ヤスタカ、Mrs.GREEN APPLE、Vaundy、FAKE TYPE.、澤野弘之、折坂悠太、秦基博と豪華アーティストたちによる楽曲が提供された。その7曲すべてのミュージックビデオが作られるという徹底ぶりとなっている。それぞれのファンにとっても、見逃せない作品だろう。
なお、前作『ONE PIECE STAMPEDE』と同様に原作からのキャラクターが数多く登場する作品ではあるが、基本的に今回から登場するウタを中心とした話であり、何より彼女が歌う楽曲の魅力は絶大なので、『ワンピース』を全く知らない人でも楽しめる内容ではあると思う。原作の第1話から登場するも、意外に謎の多い人物である「シャンクス」の活躍を喜ぶファンも多いだろう。
前置き2:「ライブ」を映画館で楽しむ喜び
そのハイクオリティの楽曲の数々、そしてどゴージャスかつ大迫力の演出によって、本作はまるで「音楽ライブ」を映画館で観ている感覚にもなる。
コロナ禍でライブエンターテインメントに行きにくくなり、今なお演者本人の感染による中止や延期が相次ぐ中、厳しい換気基準が設けられ、しかも音響設備も整った、継続的にコンテンツを提供できる場所でライブを楽めるということから、映画館という場所の価値も改めて考えさせられた。
そして、詳しくは後述するが、この『ONE PIECE FILM RED』はその「音楽」を推した内容こそが、さまざまな演出を楽しめる4DXとの相性が抜群だった。過去に『ボヘミアン・ラプソディ』の時にも思ったのだが、意外にもライブというシチュエーションにも4DXが合うことを再確認できたのだ。
前置き3:魅力的な4DXが大渋滞!
現在、『トップガン マーヴェリック』の4DX上映が、公開から2ヶ月以上経った今でも継続している。こちらは「4DX史上最高傑作」とも評される出来栄えであり、ごく一部の映画館で実施されている「4DX SCREEN」も未だに満席が相次ぐ盛況ぶりとなっている。
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しかもこちらも最高クラスの相性を見せていた『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の4DXも、一週前から上映されている。
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そのためというべきか、8月上旬現在の『ONE PIECE FILM RED』の4DX上映は1日2回〜3回程度と少なく、熾烈なチケット争奪戦状態となっているので、ぜひ予約の上で鑑賞してほしい。
前置き4:MX4Dより4DXをおすすめしたい理由
座席の移動や各種演出が楽しめる上映方式には4DXとMX4Dがあるが、今回は(も)ぜひ4DXの方をおすすめしたい。
なぜなら、4DXにはあって、MX4Dにはない演出に、「雨」「雪」「シャボン玉」がある。今回の『ONE PIECE FILM RED』ではこれらのいずれか(どれが具体的に使われているかは後述する)がこれ以上なく効果的に使われており、感動を倍増させてくれたのだ。
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すっかり前置きが長くなったが、ここからは『ONE PIECE FILM RED』の具体的な4DXの魅力を記していこう。決定的なサプライズ要素は明確には記さないようにしたが、「どういう演出があるか」も知りたくないという方は、先にご覧になってほしい。
–{『ONE PIECE FILM RED』の4DXのここがすごい!}–
魅力1:ライブ会場に「いる」感覚をさらに底上げしてくれる!
本作の4DXの演出は、「ライブ会場にいる」という感覚をさらに底上げしてくれている。何しろ、歌の「リズム」に合わせて座席の揺れることで「歌(空気)の振動」を、さらに劇場内で風が吹くことで「ライブ会場の広い空間」を擬似体験させてくれるのだ。
さらに劇場内が光る「フラッシュ」も、ライブのとシンクロしている場面もあるし、その他にもライブに合わせて細かい演出が仕込まれている。豪華アーティストの楽曲、そしてAdoの歌声を、より「全身で体感する」喜びが得られるのだ。
魅力2:キャラの技をも擬似体験!特に「エアー」がすごい!
前作『ONE PIECE STAMPEDE』もそうだったが、今回も人気キャラクターたちが必殺技をつるべうちのように放ちまくるとアクションシーンがある。それぞれで単純に座席が動くだけでなく、技の特徴に合わせてあらゆる演出が大盤振る舞いとなっていたのだ。
特に、ルフィが放つ「ゴムゴムのガトリング(拳の連打)」が、座席横から「プシュッ」と吹き付けるエアーの連続で表現されているのが楽しい。ここまで矢継ぎ早にエアーが出るというのは4DX史上でも珍しいと思うので、ルフィはもちろん、キャラクターそれぞれの攻撃を喰らいたい(?)方にもおすすめだ。
魅力3:レアな演出も存分にシンクロしていた!
4DXにはさまざまな演出があるが、作品によってはその全てが使われないことも使われないことがある。だが、今回は「香り」と、そしてMX4Dにはない4DX限定の「シャボン玉」の演出が効果的に使われていたのだ。
香りの演出は、「良い香りがしている」というシーンではないにも関わらず、物語上での「感情」を表現しているようでもあった。そして、シャボン玉が細かい「粒子」のように見えることもまた、本編の内容とマッチしていたのだ。
魅力4:クライマックスでは演出がフルスロットル!
具体的なシチュエーションはネタバレになるので書かないでおくが、本作のクライマックスでは4DXの座席の振動を中心とした、さまざまな演出がフルスロットル、遠慮など一切なしの大盤振る舞いとなっている。
まるでジェットコースターのように揺れまくる様、その「過剰さ」は賛否両論も呼ぶかもしれないが、これはサービスと受け止めた方がいいだろう。まさに、アトラクションとしての4DXを大いに楽しんでほしい。
魅力5:まさかの「4DX演出がない」シーンにも感動が!
これまたネタバレになるので詳しくは書かないでおくが、本作には4DXの演出が突然ピタリと止むシーンがある。これもまた感動を呼ぶのだ。
映画館で映画を観る醍醐味には、迫力の音と映像もあるが、実は他に邪魔が入らないからこその「静寂」もあるとは思ってはいたが、4DXもまた「静寂」という魅力を提供してくれるとは思ってもみなかった。そのピタリと止む瞬間に息を飲み、そして「再び動き出す」カタルシスも味わっていただきたい。
そして、これより予告編がある意味でミスリードであり、賛否両論を呼んでいる、「こんな映画だとは思わなかった」理由も記していく。具体的なネタバレはしていないつもりだが、物語の印象は綴っているので、予備知識なく観たい方はご注意いただきたい。
–{賛否両論を呼ぶ、そして戸惑った理由は……}–
実は悲しくて怖い物語だった
今回の『ONE PIECE FILM RED』を観てもっとも驚いたのは、物語が「悲しく」「怖い」ことだった。
はっきりとホラー的な演出もあり、あるキャラクターの表情や言動にもゾッとする瞬間があった。歴代の劇場版の中では、ファンからも賛否両論が激しい『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』が近い内容だとは、思ってもみなかったのだ。
だが、原作の『ワンピース』でも「過去」ではとても辛く苦しい出来事、いや「人生」が描かれることは多くあった。だからこそルフィたち麦わらの一味がその不幸の連鎖を断ち切るために戦うという意義があり、今回ははっきりと原作の名エピソード「アーロンパーク編」を連想させるルフィのセリフもあった。
先着300万人限定の来場者プレゼント「四十億巻」では、原作者であり総合プロデューサーを務める尾田栄一郎による「来歴」が細かく綴られており(ネタバレなので鑑賞後に読むことを推奨)、この悲しくて怖い物語に真摯に向き合う姿勢が見てとれる。
『オマツリ男爵と秘密の島』という過去にとても暗い内容の劇場版があったこと、脚本家の黒岩勉も『ONE PIECE FILM GOLD』(2016)の他、『GANTZ:O』(2016)や『累-かさね- 』(2018)など「過酷な運命」を主とした漫画原作の映画を手がけてきた来歴を踏まえても、今回の『ONE PIECE FILM RED』が「こうなる」ことは納得できるのだ。
さらには、原作からある「世は大海賊時代」という触れ込み、そして「海賊」という概念そのものにも斬り込む、ほぼほぼ「否定」をしている言及があるのにも驚いた。コンテンツの主たる要素への否定があることは、まるで「ポケモンバトル」による哀しみを描いた『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』(1998)のようだ。
ただ、これらの印象は、予告編の華やかな印象とは全く異なるものだ。その本編とのミスマッチも意図的なものだろうが、期待していたものと違ったと思う方、悪い意味で複雑な気持ちになってしまったという方もいるだろう。
だが、個人的には『ONE PIECE FILM RED』は好きだ。悲劇的な出来事により、「信じること」「幸せ」に対して歪んだ価値観を持ってしまった人の狂気と苦しみの物語であり、明らかに現代のSNSを揶揄した「多くの人への伝播」、そして「多くの人にとって幸せとは何か?」という深い問いかけを含む、「寓話」になっていると思うからだ。
劇中の出来事は現実の世界ではあり得ないことだが、沸き起こる「感情」は現実にもあるものだ。折坂悠太が提供した「世界のつづき」の歌詞からも、その「信じること」「幸せ」について、さまざまな思索をめぐらせることができるだろう。
それでもモヤッとしてしまったのは、とある「顛末」がうやむやなまま終わってしまったような印象があったこと、そしてエンドロール後の最後のセリフ、その「言い方」だった。個人的には、これらは描いてきた物語に対して「不誠実」なものと思ってしまったのだ。劇中でたびたび繰り返される「どんでん返し」的な事実の提示にも、賛否両論はあるだろう。
だが、その賛否両論を呼ぶこと、議論をすることにも、この『ONE PIECE FILM RED』の価値がある。この物語から、同様の悲劇を起こさないためにできること、現実にフィードバックはできることは、きっとはずだから。
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(文:ヒナタカ)
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–{『ONE PIECE FILM RED』作品情報}–
『ONE PIECE FILM RED』作品情報
ストーリー
世界で最も愛されている歌手、ウタ。素性を隠したまま発信するその歌声は“別次元”と評されていた。 そんな彼女が初めて公の前に姿を現すライブが開催される。色めき立つ海賊たち、目を光らせる海軍、そして何も知らずにただ彼女の歌声を楽しみ にきたルフィ率いる麦わらの一味、ありとあらゆるウタファンが会場を埋め尽くす中、今まさに全世界待望の歌声が響き渡ろうとしていた。
物語は、彼女が“シャンクスの娘”という衝撃の事実から動き出すー。「世界を歌で幸せにしたい」とただ願い、ステージに立つウタ。ウタの過去を知る 謎の人物・ゴードン、そして垣間見えるシャンクスの影。音楽の島・エレジアで再会したルフィとウタの出会いは 12 年前のフーシャ村へと遡る。
基本情報
声の出演:田中真弓/中井和哉/岡村明美/山口勝平/平田広明/大谷育江/山口由里子/矢尾一樹 /チョー/宝亀克寿/名塚佳織/Ado/津田健次郎/池田秀一/山田裕貴/霜降り明星(粗品 せいや)/新津ちせ
監督:谷口悟朗
公開日:2022年8月6日(土)
製作国:日本