映画『ゆるキャン△』がまだまだ公開中だ。公開から5週目の入場者特典となる、映画の名シーンをピックアップした「フィルム風のしおり」も配布中(2022年8月4日配布終了予定)なので、ぜひリピーターの方もチェックしてほしい。
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?今週7⃣月2⃣9⃣日(金)より配布開始!!
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?映画『ゆるキャン△』入場者特典第5⃣弾?映画の名シーンをピックアップしてフィルムコマ風しおり(10種・ランダム)でお届け✨
中にはシークレットなシーンも…!!!??入場者特典情報はこちらhttps://t.co/V4GHNSmetH#ゆるキャン #映画館で野外活動 pic.twitter.com/7aVWdJqxep
— アニメ『ゆるキャン△』シリーズ公式【映画7/1公開】 (@yurucamp_anime) July 26, 2022
『ゆるキャン△』の原作は漫画作品であり、テレビアニメ化だけでなくドラマ化もされ、今に至るキャンプブームを牽引している人気作。今回の映画の内容は「社会人の女性5人がキャンプ場作りをする」とシンプルであり(だが深い)、関連作品を知らなくても問題なく楽しめる(キャラクターを知っているとさらに面白い)ので、より多くの方に観てほしいと願うばかりだ。
そして、今回の映画は作品そのもののクオリティが高く、かつ社会人こそが感涙できる物語になっている。詳しくは後述するが、仕事への向き合い方について、ポジティブなメッセージを受け取れることは間違いないので、「仕事に疲れたなあ」「社会人ってしんどいな」と思った時にこそ、観てほしいのだ。
「聖地巡礼」も楽しもう!
「ゆるキャン△」は実在する山梨県の(たまに静岡県も)キャンプ場や温泉施設をモデルとしているため、いわゆる「聖地巡礼」も楽しめるコンテンツでもある。
今回の映画でのメインの舞台はみのぶ自然の里をモデルとしており、筆者も実際に行ってみたのだが、「映画そのままだ!」と心から思えたことにも感動があったので、ぜひキャンプそのものを楽しむ目的でも訪れてみてほしい。
待望の映画
『ゆるキャン△』㊗️公開✨公開にあたり
やっと皆様に告げられる~皆様が
すでにご存知のとおり
映画に出てくる鉄骨は
みのぶ自然の里に実在する
キャンプ場の【鉄骨サイト】が
モデルになってます‼️私共としましても
光栄でとても嬉しいことです?#ゆるキャン#ゆるキャン映画 pic.twitter.com/cwWJ4rfquz— みのぶ自然の里 (@minobunosato) July 2, 2022
近隣では、ショートアニメ「へやキャン△」11話に登場したみたまの湯、漫画の13巻で登場する佐野川温泉もおすすめの温泉だ。アニメの舞台となっている静岡県・山梨県、JR東海とのコラボイベントも2022年8月31日まで実施中なので、ぜひチェックしてみてほしい。
さて、ここからは本編のネタバレ全開で、「映画『ゆるキャン△』のここがすごい!」ポイントを解説していこう。細かいセリフや演出に至るまで、本当に丁寧につくられた、観れば観るほどに「沁みる」内容だと、はっきりとわかったのだ。言うまでもないが、本編をご覧になってからお読みになってほしい。
※これより、映画『ゆるキャン△』の結末を含むネタバレに触れています
–{序盤に「いつもの」ことがなくなっている}–
1:「声が聞こえなくなった」理由
主人公の1人であるしまりんは、地方ローカル誌の編集者として働いていたが、名古屋のカフェ巡りの企画がボツになってしまう。そして、後にキャンプ場作りをすることになる地に千明と共に向かって、そこで何気なしに松ぼっくりを拾う。これまでの「ゆるキャン△」での松ぼっくりは、こういう時に「コンニチワ」などと語りかけてくれるのだが、この時のしまりんには何も聞こえてこないのである。
「いつもは聞こえているはずの声が聞こえてこない」のは、それだけじゃない。序盤のLINE(的なメッセージアプリ)でも、メッセージが画面に表示されるだけで、いつもの「野クル」のメンバーの声が聞こえてこないのだ。
この時のしまりんは、声に出さなくても、「趣味であるキャンプを楽しむどころじゃない」ほどに落ち込んでいたのかもしれない。声を出さない松ぼっくりを拾った直後に、キャンプ場予定地の端っこまで行って「ここまでか」と言ったのは、社会人としての「限界」そのものを示しているようにも思える。
声が聞こえるようになったのは、しまりんがその場で富士山から登ってきた朝日を見た後、千明からなでしこへの「(名古屋から山梨へタクシーで向かうから)メーターガンガン上がってやばいぜ〜!」のメッセージからだ。そして、みんなで「テスト」のキャンプをしたときに、松ぼっくりはやっと「コンニチワ」と言ってくれる。
そして、縄文土器が発掘されキャンプ場作りそのものがなくなってしまった後に、なでしこからのメッセージは再び「無音」になっていた。どんな時にも弱音を吐かない、クールに見えたしまりんであっても、日々の仕事への悩み、そして「どうにもならないこと」への無力感が蓄積されていたのかもしれない、と思わせるのだ。
また、しまりんが「ひとくちつかポン」というお菓子の夢を見るシーンがある。その中では、つかポンに変身した同僚のみんなが、「無条件で」「嬉しそう」にしまりんを見送ってくれていた。現実のしまりんは、自分がキャンプ場作りにばかり目を向けていて、その企画自体がなくなった上、その皺寄せが先輩社員の刈谷に向かってしまったという自責の念にも囚われていたのだろう。この夢はしまりんの理想がそのまま表れていた、とも言えるかもしれない。
2:「雨」の表現
映画の中の「雨」は、登場人物の「涙」を示すことが多い。これを踏まえて観ると、本作はさらに味わい深くなる。
例えば、閉校となった小学校を見ていたあおいは、「先生をやめるわけやないんやし……まあ、さみしいはさみしいけど……」などとしんみりと心境を言うが、すぐに「ウソやでー」といつものおどけ方をする。その直前にあおいを傘の外へ押し出していたりもした千明は、今度は傘を後ろに放り捨てて、「こいつ〜!」と言いながら、あおいの雨の中で楽しそうに追いかけるのだ。
この時の千明の行動には、「自分も雨の中にいる」ことで、あおいと泣きたくなるほどさみしい気持ちを共有している、だけどいつものようにふざけあって明るくしようとする、そのような友達想いの健気さが表れたように思えたのだ。
その直後に、恵那はチワワのちくわの希望に答えるように玄関の外を一旦観るが、雨のために一旦はやめてしまう。その後に晴れた日に散歩をするちくわは、周りの犬と比べて遅く歩いていても、恵那は「ゆっくりでいいんだよ」と言ってくれる。
悲しい出来事が起きて、それこそ雨が降るように泣いてしまいたくなることもあるかもしれないけど、いつかは晴れるし、ゆっくりと歩いて行っていい。恵那とおじいちゃんになったちくわの関係からは、そのような優しさを感じるのだ。
そして、キャンプ場作りが再開した後、完成間近になった時にも激しい雨が降ったりもするが、みんなは「退避〜!」と言って逃げ込むという、「らしい」ギャグめいた対応をしている。雨=悲しみには負けないぞ!な彼女たちのたくましさが、そこで思いっきり表れたように見えた。
3:「タイミング」の物語
冒頭では、富士山と花火を同時に見たなでしこが「花火大会に合わせて(キャンプに)来て良かったよ!」と言う。つまりは「タイミングがぴったり合った」ことを喜んでいるのだが、その後には社会人になったみんなの「予定が合わない」という事実が多く示されている。
恵那はペットのトリミングサロンの仕事で来れない時があった。5人揃った時には「週末戦隊作業着レンジャー」と自分たちを呼び、平日で3人しか集まれなかった時には「平日戦隊作業着レンジャー」と名乗っていた。そして、しまりんだけが大晦日も仕事で初詣に行けず、ひとりでカップそばを職場で食べていたこともあった。
これまでの「ゆるキャン△」でも、「全員参加」にならなくてもそれはそれで楽しいキャンプをする様、さらには孤独やさみしさも含めての「ソロキャンプ」も良さも示していた。今回の映画では、予定が合わないことが「社会人あるある」として打ち出されていると同時に、それでも気落ちをせずに明るくふるまう、みんなの「らしさ」がより強調されているように見えた。
そして、ラストではなでしこが「みんなで年越しキャンプをしようよ!今度はりんちゃんも一緒に!」と言って、しまりんが「とりあえず、考えとく」と、やはり「らしい」返答をして、映画は幕を閉じる。仕事が忙しくてなかなかタイミングが合わなくても、いつかは友達と一緒に楽しいこと(キャンプ)ができるかもしれない。その未来への「可能性」を示すこと、それ自体が社会人にとっての福音となり得るだろう。
–{善い行動と人の縁の伝播、そして連想する大ヒット映画}–
4:善い行動と人の縁の伝播
これまでの「ゆるキャン△」でも、「善い行動が伝播していき、善いことが起きる」「人と人の縁」が描かれてきた。例えば、「野クル」のメンバーそれぞれの出会いや、キャンプの活動そのものだ。それが「社会人」となったことでより鮮烈に、しかし優しく描かれていることが、今回の映画の最大の意義だろう。
そもそも、原作やテレビアニメ版やドラマ版の1話で、山梨へ引っ越して来たなでしこに、最初にキャンプの楽しさを教えたのはしまりんであり、2人はその時に共にカレーのカップ麺を食べていた。
今回の映画ではなでしこの方がしまりんを冬の山の中での「秘湯」へと誘い、その道中で「あの頃」のようにカップ麺を食べる。しまりんは母から非常食として送られてきたカレーのカップ麺を、なでしこは「工夫して変えてみた」シーフードのカップ麺を……そのチョイス自体にも、彼女たちの「これまで」の足跡が表れたようだった。
なでしこがその行動を起こしたきっかけが、自分の働くお店にキャンプ道具を買いに来ていた女子高生3人組を見かけ、そして再びやってきた時に「そんなに道具を揃えなくても、初めはインスタント食品を食べてもいい」というアドバイスをしたからというのも、感慨深い。なでしこは、自分自身の「経験」があったからこそ、その「ゆるさ」も含めたキャンプの良さを示すことができたのだから。
そして、みんなは縄文土器とキャンプ場を組み合わせた、「再生」という大元のコンセプトを変えないままで、新たな企画を提案する。記録映像を撮影していたこと、縄文人たちが土器を修繕して大事にしていたと聞いたこと、地元の人たちの手伝いもあったことも、確かな「意味」があったのだと、プレゼンの映像からは思い知らされた。
それを持って、本作は「歴史」「過去」「時間」そのものを肯定する。しまりんやなでしこがつないできた善い行動と人の縁の伝播は、それこそ縄文時代というはるか昔からあったこと。それは今に至るまで、人間が紡いできた尊い歴史そのものなのだ。
そして、みんなは大きな鳥籠をプラネタリウムに見立てる、ロボットのペッパーくんも子どもを迎えるじゃんけんをするマスコット的な立ち位置にする、閉校となった小学校からタイヤも持ってくる、そして縄文土器そのものもアクティビティとして生かすという、まさに「再生」というコンセプトそのままのキャンプ場を作ることに成功する。
その善い行動や人の縁の伝播は、キャンプという趣味だけでなく、仕事そのものに必ずあるものだ。しまりんがなでしこと共に秘湯につかった時に言ったように、「社会人だからってなんでもできるわけじゃない」「ひとりでやっているわけじゃない」「みんなのお世話になっている」というのもその通り。でも、だからこそ社会はまわっているし、それこそが尊いのだと、改めて思い知らされたのだ。
そして、ラストでは利用者が思い思いのキャンプをしている様を、5人みんなで見届けることができた。それをもって、キャンプそのものの良さを示すと共に、忙しい社会人のみんなのタイミングが合ったという奇跡、転じて仕事そのものの喜びを示す結末の、なんと優しいことだろうか。このラストシーンが、冒頭の「5人みんなで富士山と花火を一緒に見る」ことと「対」になっているのも素晴らしい。
ところで、善い行動と人の縁の伝播という要素は、現在Blu-ray&DVDが発売中、レンタル配信とデジタルセルも実施中の『アイの歌声を聴かせて』にも完全に通じている。全人類が観るべきアニメ映画史上最高の大傑作であり、当然のその中には映画『ゆるキャン△』が好きな人も含まれているので、観てください。お願いします。
【関連記事】『アイの歌声を聴かせて』の予告編ディレクター・横山裕一朗ロングインタビュー
5:実質『トップガン マーヴェリック』だった
※以下の文は『トップガン マーヴェリック』のネタバレに触れています。未見の方はご注意ください。
現在も大ヒット記録を更新し続けている『トップガン マーヴェリック』、この映画と本作を連想する人も多いだろう。
『トップガン マーヴェリック』と映画『ゆるキャン△』との共通点は、前作(テレビアニメ版)から時間の隔たりがあり、種々のシーンから「変化」または「変わらない」ことが示されていることだろう。前者では若きパイロットたちの活躍や旧友が病に伏していたりする様が、後者では性格はそのままでも社会人になったみんなのたくましさがたっぷりと示されていた。
また、どちらも「空白の期間」があるが故に、その間に何があったのか、観客それぞれが想像できる楽しみもある。同世代の仲間たちだけでなく、年齢も性別も異なる人々も参加した上でのチームワークも描かれていることも共通項だ。
映画『ゆるキャン△』のクライマックスで見事なテント設営の手際を見せたなでしこが「さすがプロだねぇ」と称賛されることも、『トップガン マーヴェリック』の主人公が年をとっても変わらぬパイロットの技術を持っていることを思い出させた。
そして、『トップガン マーヴェリック』では窮地に陥った時に「旧機体」に乗り込んだことと同様に、この映画『ゆるキャン△』でしまりんは高校生の頃に乗っていた「ヤマハビーノ」に乗り込むのである(しかも「マカセロ」と言ってくれる)!
なんてアツい展開なんだ!
それもまた、「歴史」「過去」「時間」の肯定と言っていいだろう!
(文:ヒナタカ)
–{映画 『ゆるキャン△』作品情報}–
映画 『ゆるキャン△』作品情報
【あらすじ】
故郷の山梨を離れ、名古屋のちいさな出版社に就職し一人暮らしをしている志摩リン(声:東山奈央)。ある週末、ツーリングの計画を立てていたところ、高校時代の友人・大垣千明(声:原紗友里)から唐突にメッセージが届く。「今、名古屋にいるんだが……」山梨の観光推進機構に勤める千明は、数年前に閉鎖された施設の再開発計画を担当していた。やがて、リンの何気ない一言から動き出す千明。そして、東京のアウトドア店に勤める各務原なでしこ(声:花守ゆみり)、地元・山梨の小学校教師となった犬山あおい(声:豊崎愛生)、横浜のトリミングサロンで働く斉藤恵那(声:高橋李依)。かつてのキャンプ仲間が集まり、キャンプ場開発計画が始動する……。
【予告編】
【基本情報】
声の出演:花守ゆみり/東山奈央/原紗友里/豊崎愛生/高橋李依/黒沢ともよ/井上麻里奈/伊藤静 ほか
監督:京極義昭
上映時間:120分
ジャンル:アニメ
製作国:日本