“NHKのドラマ”というと、大河ドラマや朝の連続テレビ小説を思い浮かべる人が多いかもしれないが、夜ドラマにも魅力的な作品が数多くある。
本記事では、現在放送中の作品から過去放送作品までを挙げて、おすすめしたいNHKドラマ作品を紹介する。
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「プリズム」
何に対しても本気になれず中途半端な皐月(杉咲花)は、声優を目指していたが諦めかけていた。だがガーデンデザイナーの森下陸(藤原季節)との出会いをきっかけに、世界が広がっていく。あらたに頑張りたい仕事を見つけ、陸との距離も縮まっていくが、2人の前にある人物が現れたーー
仕事も恋も、何ひとつうまくいかない皐月の人生が、陸との出会いをきっかけにいい方向に変化していく。彼女の心境の変化が、杉咲花の演技によってすっと入ってくるのだ。
皐月と陸の2人が近づいたと思ったら突然一夜限りの(?)関係を結んだり、かと思いきやまた新鮮な関係に見えたり、2人の仲が近づいたと思ったら現れた白石(森山未來)は陸と同性同士ながら深い関係だった相手だったり……と、いい意味で次の展開が想像できなくて引き込まれる。
皐月が恋に本気になれないのは、彼女の両親が父親の浮気(相手は男性)によって離婚したことにもあった。それでも同じ東京に住む父には、生活に困ると定期的にお金をもらいに行っていた。だが、今も一緒に住む父のパートナーには一度も会っていなかった。序盤で、陸と一緒に食事に行った店で父と相手の男性に鉢合わせし、皐月は帰ろうとするが陸の立ち回りによって一緒に話すことになり……というシーンがある。自分の家庭を壊した人でもある彼に会ったら怒りたくなるかもと想像していた皐月だったが、実際に話したら意外にも楽しく話もはずみ、陸に感謝したのだった。
父を吉田栄作、父のパートナーを岡田義徳が演じており、2人の演技の深みが何とも言えずたまらないのだ。特に皐月と偶然会って別れた帰りの道で、パートナーの彼が涙するシーンが印象的だった。皐月からは家族が奪われたことしか見えなかったが、彼には彼の苦悩があったんだなというのが伝わってきた。
白石が現れ、陸と白石が深い仲だったことが視聴者にはわかる。最終的には母(若村麻由美)と同じ運命をたどることになってしまうのでは……という嫌な予感もしてしまうのだが、ドラマのうたい文句は「3人が織りなす、優しい関係の物語」となっている。3人がどんな関係になっていくのか、今後の展開も楽しみだ。
「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」
“ショートショートの神様”星新一が発表した作品を、令和のいまあらためて映像化。ワクワクするSFやファンタジーの要素を含み、人間や社会に対する「おかしみ」や「皮肉」をまじえた目線で描かれる物語である。1話15分(一部は前後編で30分)の映像におさめられる。
筆者は星新一の作品を、小中学生の頃に多く読んだ覚えがある。一つひとつは短くて読みやすく、SF要素にワクワクしたり、ダークな展開にゾワゾワしたり……面白くて一気に読んでしまったものだ。細かいストーリーまで覚えていない作品も多かったのだが、今回のドラマ化ではその時感じたワクワクやゾワゾワを再体験できるものが多く、あらためて短編集を読んでみたくなった。
今回ドラマ化された作品は1950~80年に発表されたもの。服装や設定、登場人物の話し方に当時を感じ懐かしい気持ちになる作品もあれば、何十年も前に書かれた作品なのにいまの日本が抱えている問題とリンクしているような作品、近未来を感じさせる作品もあり、それぞれが新鮮な気持ちにさせてくれた。
例えば真の平和を求めるために、戦争の“せ”の字を発することすら禁じられた世界を描いた「白い服の男」や役所勤めの男2人がとある職務にあたる「生活維持省」は未来を思わせるし、「地球から来た男」はテレポーテーションの設定には未来感があるが、街の風景は現代を思わせ、妻の話し方には昭和っぽさも感じる。
「ものぐさ太郎」には、今は持っていない家庭も多い「家の電話」で電話帳片手にほうぼうに電話する様子には懐かしさがった。もしかしたら、発表当時はどれも「未来にありそうな話」だったものが、時を経て「近々ありそう」な設定のものも出てきたのかもしれない。
数々の短編ドラマのなかでも、特に印象的だった作品をいくつか挙げて紹介したい。
■「生活維持省」
出演:永山瑛太/渋川清彦/品川徹 飯田基祐岡本あずさ/中村ゆり/西田尚美
役所の2人が担当する任務とは、老若男女関係なく無作為に選ばれた人間を特殊な銃で処刑すること。その任務によって国民の生活と平和を保っている……という恐ろしい設定だった。主人公の男(永山瑛太)は、任務を忠実に遂行しつつ、将来を共にしようとする恋人(中村ゆり)もいた。
逃げようとする人を顔色ひとつ変えずに殺してきた彼だったが、異動願いを出していたということは、どこかで疑問を感じていたのだろうか。一方で「このままずっと平和だといいな」というセリフからは、自分たちの行いを正しいと信じて疑わない印象もあった。
ある日相棒(渋川清彦)に「次の任務はどこだ」と聞かれて「見晴らしのいいところがいいな」と答える主人公。変な答えに笑う相棒だったが、今回対象として選ばれたのは主人公だったのだ。自分たちがしてきたことによって命を奪われることになった男と、これまで任務をともにしてきた男を殺すことになった相棒の最後のやり取りは、昔見たSFアニメのワンシーンを思わせた。
■「逃走の道」
出演:村杉蝉之介 コウメ太夫/大塚ヒロタ 影山徹 竹井亮介 AMI 橋本美和
「逃走の道」は、コウメ太夫が白塗りではない姿で出ていることも話題となり、個人的には本作がいちばん怖かった。
強盗をして逃げている最中、列車に隠れた2人の男。動き出した列車に車庫に向かう列車か臨時列車かと喜び、この後の夢を語り合う。だがどうも様子がおかしい。客席へ出てみると、座っているのはみんな人形だった。奇妙な状況に混乱する2人。運転席に行くと運転士も人形で、列車はものすごいスピードを出している。連絡もつながらず大パニックに。
その頃列車の向かう先にいる作業員たちがしていた会話によると、列車に最速のスピードを出させ、急停車させることでどんなダメージを受けるのか実験しているらしい。人体にどんな影響が出るかを確認するために、人間と同じ重さの人形を乗せている、と……つまり2人が乗ったのは死へと向かう列車だったのだ。強盗したうえに勝手に乗り込んだのだから自業自得ともいえるが、あまりに大きな代償だ。
まさか人間が乗っているとは知らないのだから仕方がないのだが、画期的な実験に高揚した表情で急停車する列車を見つめる人々の顔が恐ろしく感じてしまった。今回のドラマシリーズはエンディングテーマが作品の不気味さをより強めるようなエンディング曲も印象的なのだが、この作品のときは本編でも流れていたショパンの別れの曲なのだ。いつもと違う穏やかな曲調なのに、いつも以上に恐ろしく感じるなんて思わなかった。
ところでコウメ太夫の素顔を知らなかった筆者は、ずっと「どっちがコウメ太夫なの!?」ということでも混乱していた。素晴らしい演技だった。
■「善良な市民同盟」
出演:北山宏光(Kis-My-Ft2)/玉城ティナ/麿赤兒/細谷文昭 荒川浩平 緒川尊 白仁裕介
「善良な市民同盟」は悪徳不動産会社のセールスマン(北山宏光)が、騙そうと思って訪れた老人の家で「善良な市民同盟」という謎の組織と出会い、大きく運命が変わる……という物語。謎の伝染病をちらつかせて信者を増やし私腹を肥やす新興宗教のようなあやしい組織なのだが、伝染病という設定はコロナ禍今と重なってドキッとするし、「審判の日」という設定はノストラダムスの大予言を思い出してちょっと懐かしい気もする。しかしこの、伝染病で死ぬ人の映像が子どものころに観たら絶対トラウマになっていたレベルで怖い。
主人公を演じた北山の、陰の部分を集めたような演技も、組織を率いる麿赤兒の迫力も、どちらもすごかった。全体的に非常に不気味だった。結果主人公は組織の嘘に気づくが、組織と出会ったことで悪徳不動産を摘発して真っ当な職業につき、愛する女性(玉城ティナ)とも出会えたし、善人に生まれ変わった。組織自体は良くないものだったが、結局何が良かったのかわからないなという不思議な感情に包まれる話だった。
■「地球から来た男」
出演:高良健吾/川瀬陽太 水間ロン 松本若菜 和田虎白(子役) 原扶貴子 小沢日出晴/河井青葉
産業スパイがバレて捕まり、テレポーテーション装置で他の星へ追放された男(高良健吾)。たどり着いたのは元の地球とそっくりな星で、そこにいた人は「ここは地球だ」と言う。食べ物の味もお金も一緒、住んでいる場所も家族も一緒なのに、主人公は「ここは自分のいた地球ではない」と思い、自分のいた地球を懐かしく思い出す。
本当に彼がいるのは元居た場所とは違う「地球」なのか、もしくは元の地球なのに彼が「自分は他の星に追放された」と思い込んでいるのか、どちらなのかよくわからない。ただ彼は孤独と郷愁を感じている……という、余韻の残る作品だった。主人公の高良健吾は言わずもがな、優しい妻を松本若菜が演じていたのも印象的だった。「やんごとなき一族」や「復讐の未亡人」ではそれぞれタイプの違う悪女を演じているが、夫を気遣う優しい妻を演じていて、また新たな一面を見られた。
–{今からでも楽しみたい、過去放送のNHKドラマ}–
【イチオシ!】「空白を満たしなさい」
平野啓一郎の長編小説をドラマ化。「あなたは亡くなったんです、3年前に」ある日突然、身に覚えのない己の死から復活した徹生(柄本佑)。会社の屋上から転落したというが、何も思い出せない……。警察では自殺で処理されたらしいが、愛する妻・千佳(鈴木杏)と息子がいた自分が自殺などするはずがない。自分の死の真相を探るうち、生前佐伯(阿部サダヲ)という男に付きまとわれていたことを思い出す……。
死んでしまった人が生き返ったら……と、願う人は少なくないと思うが、実際に生き返ると喜びだけでは済まないことを目の当たりにする。帰宅した瞬間、妻・千佳(鈴木杏)の顔に浮かんだ表情は喜びではなく、困惑や恐れに見えた。徹生は自殺とされていたため、千佳をはじめとした周りの人たちは彼の死後、苦悩してきたのだった。さらに生き返ったことで保険金を返還しろと言われたり、彼ら”復生者”たちを排除しようとする人々も現れる。元の職場に戻れるわけでもなく、面接で復生者だとわかると相手の顔色が変わり、まともな職にもつけない。自分の死の真相について調べる徹生が辿り着く真実とは……!?
非常に考えさせられるテーマだ。徹生が「自分が自殺なんかするはずがない」と苦悩する一方で、人助けをして死んだ人が「自分は英雄扱いされているが、本当はそんなに善人だったわけではない」と苦悩する人もいる。それぞれに苦悩しつつ支え合おうとする柄本佑と鈴木杏が素晴らしく、他のキャスティングが想像つかない。苦しみをともないそうな感情の揺れを演じきった2人に、心から拍手を贈りたい気持ちだ。
そしてこの作品の大きなキーとなっているのが、阿部サダヲ演じる佐伯だ。もう、本当に怖い。映画『死刑に至る病』では連続殺人鬼役で私たちを恐怖に陥れた彼だが、この作品では不潔で自分が目を背けたい、耳をふさぎたくなるような言葉ばかりぶつけてくる異常な男を演じている。『死刑に至る~』でも思ったが、彼の声は聞いちゃいけないとわかっていても聞いてしまうような、恐ろしい魅力がある。
この物語が印象的なのは、前半は徹生が”なぜ自分は死んだのか”を探るのに対し、自分の死の真相を知ってからは”自分が人に何を伝えられるか”、”何を遺せるか”……ということにフォーカスしていく点だ。また、原作の平野啓一郎作品にたびたび出てくる「分人」という考え方も印象的だ。「たった一人の自分」が存在するのではなく、相手や環境によって複数の自分が存在するという考え方。最終回でとある人物が言うセリフが心に残った。「つきあう人の数だけ、いくつも自分を持っている」 「まずは好きな自分を見つけることです」 「その相手と一緒にいるときの自分を大事にしていくんです」
死を扱う物語だが、観た後に「生きたい」「自分の人生やまわりの人、彼らとの関係を大切にしたい」そんな気持ちにさせてくれるドラマだった。筆者もまず、好きな自分を見つけたい。
他にもおすすめしたい、過去放送のNHKドラマ
■「恋せぬふたり」
人を好きになったことがなく、恋愛やセックスがわからない主人公・咲子(岸井ゆきの)が恋愛もセックスもしたくない男・高橋(高橋一生)と出会い、同居生活を送ることから始まる物語。自分は普通ではないと悩みつつ家族や周りの人に無理して合わせていた咲子が、高橋と出会うことで自分について認識し、自分にとっての幸せな生き方を模索していく。
難しいテーマではあるが、主人公だけでなく凝り固まった価値観をもっていた家族や元恋人、友人
たちの“変化”も自然に描いているため、考えさせられることが多い。
何より主人公が自分にとっての幸せを定義していく姿は、性自認に限らず周囲と異なる部分をコンプレックスに感じたことがある人は励まされる内容だろう。
■「ここは今から倫理です。」
原作同名漫画の実写化作品。独特な教師・高柳を演じた山田裕貴の再現度がすごく高かったし、毎回それぞれの生徒が持つ問題について、観る側の価値観も問われた。自分も高柳の生徒になったような気持ちで見入ってしまう作品だった。
熱血なわけでもないし爽やかなわけでもないが、ある意味ものすごくかっこいい先生像だ。
■「今ここにある危機とぼくの好感度について」
トラブルを避けたいあまりに当たり障りのないことを言い続け、人気低迷したアナウンサー・真(松坂桃李)の薄っぺらいく開き直った役が秀逸だった。恩師に誘われ大学の広報となった彼は、相変わらずペラッペラだったが、どこかで変わるのか、変わらないのか……。
真やその周りの人物たちはかなり極端に描かれていてツッコミどころ満載なのだが、そんな自分だって我が身かわいさに指摘できなかったことや、穏便に済むほうを選んでしまったこと、あるよな……と自分を映す鏡のようでもある作品だった。
■「カナカナ」
「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」の前の15分枠ドラマ。元ヤン青年・マサ(眞栄田郷敦)が人の心が読める5歳の女の子・佳奈花(加藤柚凪)を助けたことから始まるハートフルコメディーである。
見た目は怖いがどこまでも純粋なマサと、年齢にしては大人っぽい佳奈花のやり取り笑わせられたりジーンときたり。佳奈花の能力に気づいていて悪用しようと近づく叔父(武田真治)・2人をあたたかく見守るおばちゃん(宮崎美子)・お調子者だがいい奴な親友(前田旺志郎)・マサに逆恨みする警察署長(桐山漣)など、2人を取り巻く俳優陣も素晴らしい。悪役も結局憎めないあたりも魅力だった。
あらためて振り返る、NHKドラマの魅力
失礼ながら、昔は夜のドラマ=民放というイメージがあったが、今はNHKも楽しみなドラマが数多くある。
直近のものを中心に作品を振り返ってみて、NHKドラマの魅力は企画の良さと絶妙なキャスティングにあると感じた。挑戦的なテーマにも取り組んでいるし、それぞれの作品をしっかりとした作り込みか感じられる。
また、確かな演技力を持った俳優をキャスティングしているのはもちろん「この人にこんな役を演じさせるのか」と新たな発見となるような役だったり、「脇にこの人を持ってくるのか~!」という当たりくじを引いたようなうれしさを感じることも多く、新しさがある。
今後NHKがどんなドラマを生み出すのか、今後にも期待したい。
(文:ぐみ)
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