『アイの歌声を聴かせて』のBlu-ray&DVDが7月27日に発売、同時にレンタル配信とデジタルセル配信もスタートした。詳しくは公式サイトを参照してほしい。
もしも、この記事を目にしている時点で、『アイの歌声を聴かせて』を観たことがない方が、万が一にでもいて、お時間があれば、今すぐ観ていただきたい。複数回観ればこその気づきや感動もあるため、一度だけしか観ていないという方も再見してほしいと、心から願う。
筆者は年間400本近い映画を観るただの映画ファンであり、『アイの歌声を聴かせて』をまだたったの14回しか観ていない、Blu-rayを5枚しか買ってない身で言うのも恐縮だが、生涯ベスト1位の映画はぶっちぎりで本作である。老若男女が楽しめるアニメ映画史上最高の大傑作(断言)であり、その存在を認識した瞬間に観るべきであり、そして国民的映画としての知名度をさらに爆上げしないといけない理由は、以下の記事および文中に記した関連記事を参照してほしい。
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さらに、公開時に本作を上映&応援してくれていた奈良県のイオンシネマ西大和(8月21日閉館予定)では8月5日から、兵庫県の塚口サンサン劇場では8月19日から(こちらは1週間限定)の再上映も決定した。映画館で観ればさらなる感動があるのは間違いないので、お近くに住まわれている方はこの機会を逃さないでほしい。
さて、本作は本編以外にも「神」と呼ばれる作品がある。それは劇場公開から2週間経って公開されたプロモーションビデオだ。
このPVは圧倒的な口コミが多数寄せられたタイミングで公開され、PVそのものに絶賛に次ぐ絶賛が寄せられていた。そして、このPV制作を手がけた予告編ディレクターの横山裕一朗さんにお話を伺ったところ、なぜここまで感動的な内容に仕上がったのか、その理由がはっきりとわかったのである。
以下から、『アイの歌声を聴かせて』のPVにまつわる、横山裕一朗さんへのロングインタビューを記していこう。本編の内容に触れるため、まずはPVを観て、可能であれば映画本編をご覧になってから読んでいただきたい。PVを確認しながら読むのもおすすめだ。
『アイの歌声を聴かせて』
最新ロングPVを担当させて頂きました!絶賛上映中!吉浦康裕さん原作・脚本・監督のオリジナル長編アニメ映画。本当に素晴らしく、感動と興奮で全身鳥肌のまさに劇場体感型✨マジで大傑作です✨
1回の鑑賞で僕は5回泣きました。
是非とも沢山の方々にご覧頂きたいです! https://t.co/lPX1JfIeM3— 横山裕一朗 (@nokkuknock0727) November 11, 2021
もっとも訴求したいことは、やはり「感動」
――PVは劇場公開日から2週間後というタイミングで公開されました。いつ頃にPVの制作の依頼があったのでしょうか。
横山裕一朗(以下、横山):公開日の2021年10月29日に、松竹さんよりご依頼いただきました。公開日当日にお話をいただくのは初めてだったので驚きました。
当時、『アイの歌声を聴かせて』については、キャラクターデザインにとても魅力を感じていたのですが、正直に申し上げてあまり宣伝を追いかけていなかったので、「合唱部が舞台の学園モノか何かかな?」という初期のイメージをそのまま持ち続けていました。ところが実際に本編を拝見したら、もう大傑作で……ボロボロ泣きながら「この映画の素晴らしさを伝えたい!」と強く思いました。
――PVの大まかなコンセプトを教えてください。
横山:もっとも訴求すべきだと思ったのは、やはりシンプルに感動するということ。次に、それがミュージカルという形で打ち出されることです。今回のPVには、号泣必至であることや、映画館で観ればさらなる感動が待っていることが、少しでも伝わることを目標にしました。
――どういった経緯で制作が進んでいったのでしょうか。
横山:松竹さんとの打ち合わせでは「柔道ミュージカル」のシーンでかかる「Lead Your Partner」を、土屋太鳳さんが大人っぽく歌うカッコいい楽曲だから使うということだけが決まっていました。
ただ、それだけを使ってPVを作ったとしても、大きな後押しにはならない気がしました。解禁済みの予告編からも「Umbrella」の歌唱シーンが入っていたりと、ドラマチックで感動しそうな雰囲気はとても伝わってきます。
ただ、本編の中には熱いPVを作れそうな素晴らしい要素がまだまだたくさん残っていたので……一旦、もう好き放題に暴れてみようかなと(笑)。
自由度も高かったので、スケール感ある劇伴や、その楽曲との相性も良さそうでオーケストラが盛り上げてくれる「You’ve Got Friends〜あなたには友達がいる〜」が使用OKかなどをお聞きして、取り入れていきました。逆にこの時点では、明るいノリでアニメの画との相性が良すぎる楽曲「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」は使わない、と決めていました。
※以下、『アイの歌声を聴かせて』の本編の内容に一部触れています。
–{開始6秒でいきなり「面白い」}–
開始6秒でいきなり「面白い」
――なるほど。そこから、どのようにPVを構成していったのでしょうか。
横山:まず、構成としては初めの6秒くらいに、何か面白いと思わせることを起こそうとしました。具体的には、いきなりヒロインのシオンが「今、幸せ?」と、そのかわいらしさを見せ、作品レビューでの話題性や、客観的な満足度を訴求します。
その直後に、そのシオンがお腹から機械を出して、バグるというか機能停止します。本編をご覧になった方には笑っていただけたら嬉しいし、未見の方には「この子ロボットなの?」サトミたち同様に「ええーっ!?」と驚いていただけたらなと。
――その6秒で、いきなりコメディとして面白い感じがします。
横山:他にも、シオンがボールをすごい速さで投げたりとか、黒板に難しい式をスラスラと書いたりとか、人ならざる存在であることをコメディタッチで見せるシーンを入れました。シオンのパワーを際立たせたくて、本編上にはない効果音も追加しています。柔道技をかける瞬間、テンポに合わせて「衣擦れ」の音を追加したり、ボールを投げるシーンに「ズバン!」と勢いある音を入れたり。
――本当だ! 言われて初めて気づきました!
横山:あとは、PVの前半では「AIと高校生の楽しい青春ムービーです」という部分を推したかったです。先ほど申し上げていた、本作を観る前から自分が抱いていた「キャラデザがかわいいな」「爽やかな青春映画かな?」と思った時の印象をそのまま前半に置いた感じです。
そして、中間ではシオンをホシマエレクトロニクスという企業に襲わせる様を見せて、お話がどんどん変わっていく流れを目指しました。
――たったの40秒くらいでそれらが示されています。『アイの歌声を聴かせて』は、青春物語やミュージカルやアクションなど、とても要素が多い作品なのですが、それらを短い時間で入れ込んでいるのが素晴らしいです。そして、その後は「感動のつるべうちが待ってます!」と転換していっています。
横山:王道っぽいのに予想外、という本編の良さを出来るだけ凝縮できるよう意識しました。
絶妙なタイミングのコメントや歌詞
――著名人のコメント、例えばアニメ特撮研究家・大学教授の氷川竜介さんの「クレバーなユーモアに胸が踊る」や、漫画家の幸村誠さんの「泣かせるなぁ…泣いてしまった」などが、絶妙なタイミングで入っているのも素晴らしいと思いました。
横山:「Lead Your Partner」の楽曲を入れることしか決まっていない時に、いろいろな方からコメントをもらっているお話を聞いたので、細かい内容よりも、映画を大きく捉えるコメントを入れようと思いました。リストアップした中で、まずは声優の岡本信彦さんの「吉浦監督の最高傑作」というコメントは、吉浦監督のファンからすれば『イヴの時間』の声優さんのコメントだから「ささる」と思って、後半に入れました。
前半では、いただいたコメントと映像の構成を考えつつ、マッチする順番で入れていきました。脚本家の吉野弘幸さんの「極上の青春映画」というコメントを早めに入れて、まさに「青春ムービーだ!」ということを前半に示しつつ、後半では岡本信彦さんの言う最高傑作が、具体的にどう最高傑作なのかを、見せていった感じです。
また、ほぼ偶然なんですが、アニメ監督の入江泰浩さんの「幸せな気持ちになれる」を皮切りに、さらに感動のコメントを並べようとは思っていたんですが、テロップ表示の直後の「You’ve Got Friends」の歌い出しの「きっとあなたは幸せだよ」とも、タイミングが合ったなと。
――本当ですね。音楽を入れるタイミングも「これしかない!」と思えるものでした。
横山:グッと来るところに、メインテーマとも言えるであろう「You’ve Got Friends」を持ってきて、ガッツリ音楽が聴けるMVのようなパートを設けました。セリフも終盤までは一切なしで、この曲にいろいろと託した形です。メロディや歌詞が持つパワーや中毒性が、PVを何度も繰り返し再生したり、SNSで拡散したくなるような動きに繋がってくれたら嬉しいな、という気持ちで試行錯誤を繰り返しました。
――細かくシーンをカットして、矢継ぎ早に入れているところもあります。
横山:打ち上げ花火で締める前に、様々な出来事を「点描」っぽく細かく入れてみました。
――最後に、シオンの記憶がバァッと一気に映るのですが、その過去の出来事を一挙に見せる様とリンクしているように思いました。
横山:そこはあまり考えてなかったです(笑)。シンプルに「最後にきっと笑顔になれる」という文言に呼応するシーンをたくさん入れたかったんです。シオンが「さぁ、手を繋ごう」と歌う瞬間には、サトミとトウマが手を繋ごうとしているカットを被せてみました。
――確かに、そこでまさに手をつなごうとしていますね!
本編が丁寧な「リップシンク」をされているからこそ……
――PVを作っていて、特にここは難しかったという部分はありますか。
横山:カットと音声をずらしても、違和感がないようにすることです。例えば、「You’ve Got Friends」の歌唱シーンでは、他のシーンも入れながらシオンが歌っています。PVで「きっとあなたは〜♪」と歌っている場面では、本編では彼女は違うことを歌っていて、以降も花火のシーンと他のシーンがどんどん入れ替わっていきます。
――なるほど、本編の歌唱シーンは、日本語の歌詞に合わせた口の動き、「リップシンク」も考えられているから、音と画面を少しでもズラすと、違和感が表出してしまうということですか。
横山:はい。別のシーンと別の音声を合わせるのは、短い尺の中で良いセリフと画を見せていく予告編制作では度々ある(もちろんNGなケースもあります)のですが、吉浦監督がミュージカルシーンでは細かくリップシンクに拘られてて、歌っている時の口の動作はとてつもなく丁寧に作られていました。だからこそ、失礼な言い方で大変申し訳ないですが、大変やりづらかったです(笑)。極力合うようにしようと、けっこう悩みながら制作していました。
――そう言われて初めて気づきましたから、つまりは全く違和感がない、これ以上なく自然に見えるようになっている、ということだと思います。
横山:それは良かったです! あとは、「月明かりの綺麗な空の下で♪」と歌うシーンが大好きなんです。あそこで一旦、楽曲も盛り上がる前に静かになります。合わせて、ソーラーパネルに月が反射している2ショットを入れました。
すごく細かいことですが、終盤にかけて緩急をつけて最大限盛り上げるために、静かなシーンはもっと静かにしたらいいのではないかと、MA(Multi Audio、映像作品の音の最終調整作業)のミキサーさんと検証しました。ここではあえて一気に音量を下げて、その後「さぁ!」をキッカケに音量をガーッと一気に上げています。
――それも、全く気づいていませんでした。どれだけ自然に、感動を打ち出していたか、ということだと思います。そういえば、物語の流れは明確に描いているのですが、トウマが手を差し伸べているシーンでは音声を入れてなかったりして、核心部分だけはネタバレしていないのも見事だと思いました。
横山:松竹さんからは、PV解禁時にはすでに映画も公開されているから、ある程度のネタバレをしてもいいんじゃないかと提案がされましたので、感動的なシーンは遠慮なく示そうと思いました。それと同時に、この映画は核心部分のネタバレをせずとも感動を伝えることができる、とも思っていました。
吉浦監督と大河内一楼さんが共同で手がけられた脚本に込めた想いを最大限に汲みつつ、私も本編で最高の気分にさせてもらえた身として、映画館に来られた方にビックリしていただきたかったので(笑)。
サトミのあのカット、かわいいと思うんですよ。ドラマチックなとても良い表情をしていて、恋愛要素も匂わせたかったので。サトミは全編通して、色々な表情を見せてくれますよね。
――横山さん、めちゃくちゃサトミが好きですね。
横山:好きですね(笑)。完全にサトミ推しなのでサトミのスピンオフとかあったら100%観ます(笑)。
–{いちばん重要なことは、最初と最後のセリフにあった}–
いちばん重要なことは、最初と最後のセリフにあった
横山:この『アイの歌声を聴かせて』には、「AIが人の幸せを問う」ことから始まって、最終的に「人間がAIの幸せを問う」という物語の流れがあります。それが作品を通して、吉浦監督がひとつの軸として表現したかったことなんだろうなと考えていました。PVの初めのセリフを覚えていますか?
――「今、幸せ?」です。
横山:逆にPVのラストではサトミが「シオンは今、幸せ?」と聞いています。初めは「AIが人の幸せを問う」、逆にラストは「人間がAIの幸せを問う」。PVも本編に近い構成を目指しました。
――(拍手)ありがとうございます! この作品のいちばん重要なことを打ち出していただき、ありがとうございます!
横山:もちろん、そういうことに気づいて欲しくて作っているわけではないのですが、感覚的に作っているところと、そうしたロジックに基づいて作っているところの、両方があります。
――その横山さんのセンス、作品への理解、はたまた尽力が合わさって、素晴らしいPVになったのだと確信しました。聞けば聞くほど、細部までよく練られ考えられているPVであると、思い知らされました。依頼があってから2週間足らずで作るのは、大変だったのではないでしょうか。
横山:たしかに大変だったかもしれませんが、こういう仕事が好きですから、とても楽しかったです。構成や細かい調整は悩みましたが、「ここで音楽だ~!」「ここで感動を煽るんじゃ〜!」とずっと高いテンションで作らせていただきました。素敵な機会をいただけて、本当に感謝しております。
映画館で映画を観てほしい
――今になっての質問で恐縮ですが、そもそも予告編ディレクターとはどういう仕事なのでしょうか。
横山:まだまだ業界を語れるような器ではないのですが、私は邦画や洋画の宣伝のための予告編やTVCMをメインにしつつ、TVアニメやドラマ・特撮・配信コンテンツ等のプロモーションのお手伝いをさせていただいております。
――どのような経緯で、この仕事に携わるようになったのでしょうか。
横山:業界に足を踏み入れるキッカケになったのは、映画の劇伴、音楽が好きだったことです。大学生の頃、予告編に使われている音楽が、本編やサウンドトラックCDに入っていなくて、そこから予告編の音楽に興味を持って、予告編そのものにも興味を持ち始めました。
映像の編集を始めたのは中学3年生の頃で、自分の手持ちの映像と、フリーの効果音や洋画のサントラCD音源を映像に当てたりしていました。高校生の時も映像の部活を自分で立ち上げて、第1回映画甲子園に出品して、初めて映像にまつわる賞をいただいたりしていました。その後は上京して大学で映画の勉強をしつつ、現場に行ったり、自主制作もしていて、卒業後はすぐこの業界に入って今に至ります。10代の頃から、やってる事がずっと同じなんですよね(笑)。
――最後に、予告編ディレクターとして、読者の方にお伝えしたいことなどありますでしょうか。
横山:本当に小物なので大した事も言えませんが……映画館に足を運んでの映画鑑賞は、素晴らしい体験だと確信しております。もちろん、映像作品を家でくつろぎながら観るのも良いことなのですが、大きなスクリーンとスピーカーで、物語の世界に没入・体感できるのは、唯一無二だと思うんです。少しでもお時間があれば、ぜひ、映画館で映画を楽しんでいただきたいですね。あとは、劇場で予告編もチェックしていただけると嬉しいですね。WEBでも気に入ったものがあればSNSで拡散して欲しいです(笑)。今回のPVは制作期間が超短期間でしたが、半年以上かけて、多くの方々が心血を注ぐ予告編も、たくさんありますので!
――ありがとうございます。最後に、この『アイの歌声を聴かせて』のBlu-ray&DVDの発売日であり、この記事が掲載される7月27日が、横山さんのお誕生日とお聞きました。お誕生日、おめでとうございます。
横山:ありがとうございます!
横山裕一朗さんは、数々の作品の予告編やPVを制作中。公式サイトやTwitterから、ぜひ最新の仕事もチェックしてみてほしい。
(取材・文:ヒナタカ)
–{『アイの歌声を聴かせて』Blu-ray&DVD/レンタル配信、デジタルセル配信詳細}–
■『アイの歌声を聴かせて』Blu-ray&DVD/レンタル配信、デジタルセル配信詳細
【Blu-ray&DVD】
Blu-ray特装限定版 価格:10,780円(税込)
■ 特典BDディスク(2枚)
〈映像特典(※本編ディスクに収録)〉
■ 特報/予告編/PV/ロングPV/劇場幕間映像/TVスポット集
Blu-ray通常版 価格:6,380円(税込)
〈映像特典〉
■ 特報/予告編/PV/ロングPV/劇場幕間映像/TVスポット集
DVD通常版 価格5,280円(税込)
〈映像特典〉
■ 特報/予告編/PV/ロングPV/劇場幕間映像/TVスポット集
【レンタル配信】
配信期間:2022年7月27日(水)0:00~
販売価格:HD/SD 550円(税込)
視聴時間:72時間
配信内容:本編のみ
配信サービス:
Amazon Prime Video GYAO!ストア Google Play Store J:COMオンデマンド TELASA dアニメストア dTV DMM.com ニコニコチャンネル HAPPY!動画 バンダイチャンネル ひかりTV ビデオマーケット milplus music.jp ムービーフル U-NEXT Rakuten TV
【デジタルセル配信】
配信期間:2022年7月27日(水)0:00~
販売価格:HD 2,546円(税込)/ SD 2,037円(税込)
配信内容:本編のみ
配信サービス:
Amazon Prime Video Google Play Store ひかりTV ビデオマーケット Rakuten TV
※販売開始日程・配信期間・販売価格・視聴時間は配信サービスによって異なる場合がございます。
詳しくは取扱いの配信サービスにてご確認ください。