<雪女と蟹を食う>最終回までの全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

国内ドラマ

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

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重岡大毅が主演を務めるドラマ「雪女と蟹を食う」が2022年7月8日より放送を開始した。

冤罪により人生を狂わされた男・北(重岡)が死ぬ前に蟹を食べようと思い立ち、図書館で出会ったセレブ妻・彩女(入山法子)を襲おうと家に押し入る。そこで彼女は思いもよらぬ行動をとり、謎の旅がはじまっていくというラブサスペンスドラマだ。

cinemas PLUSでは毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。

もくじ

・第1話ストーリー&レビュー

・第2話ストーリー&レビュー

・第3話ストーリー&レビュー

・第4話ストーリー&レビュー

・第5話ストーリー&レビュー

・第6話ストーリー&レビュー

・第7話ストーリー&レビュー

・第8話ストーリー&レビュー

・第9話ストーリー&レビュー

・第10話ストーリー&レビュー

・第11話ストーリー&レビュー

・第12話ストーリー&レビュー

・「雪女と蟹を食う」作品情報

第1話ストーリー&レビュー

第1話のストーリー

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冤罪で全てを失い、人生に絶望した男・北(重岡大毅)は命を絶とうとするがあと一歩が踏み出せずにいた。そんな時、グルメ番組を観て、人生で蟹を食べたことがないことに気づく。「蟹を食べてから死ぬ」と決意した北は、高級住宅街に住む人妻(入山法子)に狙いを定め、家に押し入った。そして金を要求するが、彼女の行動は全く予期せぬもので…。蟹を求め北海道へと向かう2人をロードムービー調で描く、文学的ラブサスペンス。

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第1話のレビュー

冒頭は重岡大毅演じる北の1人芝居で幕を開けた。自殺を決意し、部屋に吊るしたロープの前で葛藤する。涙を流しながら、自分を鼓舞してみたり、諦めたように笑ってみたり、「馬鹿にしやがって」と過去の怒りを思い出してみたり。しかし決意は固まらず、さらにとめどなく涙を流して「もう少しだけ待つ……ごめんなさい……ごめんなさい……」と、再び畳の上に寝転んだ。

2,3分のシーンだったが、この逡巡をここまでリアルに描くドラマはなかったのではないだろうか。筆者は自殺をしようとしている人を見たことがないので、あくまでも想像の域を出ないのだが、きっとこんな風に様々な感情が順番に噴出してくるのだろうと思わされた。重岡大毅の表現力あればこその説得力。圧巻のオープニングだった。

カップラーメンを食べる北。Tシャツが変わっていることから、日が変わっているのだろうということがわかる。決意こそしたものの、彼はまだ生きている。テレビで流れている北海道特集を見て、「人生最期の日は北海道で蟹を食べる」ことを思い立つ。

ところが図書館で北海道について調べていると、ジンギスカンや海鮮丼も食べたいし、ススキノでも遊んでみたいと、むくむくと欲が湧いてくる。「死のうと決めている」はずの北の、生への執着を感じた。

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それでもやはり、蟹だけにしようと決めた矢先、北は図書館の中で彩女とぶつかる。白いワンピースに身を包んだ、どこか浮世離れしたみたいな人。

北の目に彩女は、羨望と少しの憎悪の対象として映ったのだろう。左手の薬指には大きなダイヤの指輪をつけ、おそらくは平日の昼間から優雅に図書館での時間を楽しんでいたから。自分のように追い詰められた経験なんてないんだろう、と思ったはずだ。

ほとんど無意識のまま、彩女のあとをつけていく北。案の定、彼女は大きな一軒家に住み、庭には高級外車が停まっていた。それを見た北の顔は一変する。勢いのままに、玄関扉を開けたばかりの彩女に声を掛けた。

北は強盗に入ったのだ。この状況、どう考えても彩女のほうが恐怖を感じていていいはずなのに、彼女はおもむろに服を脱ぎだし、結果的に2人は身体を重ねることに。

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その後も笑顔で北と会話し、コーヒーまで出してくれる彩女。北は困惑と申し訳なさに打ちひしがれ、「警察に行きます」と言ったかと思えば、今度は「死にます」と泣き出す。北が今していることは許されることではない。でも冤罪で人生を狂わされる前の本来の彼は“普通のいい人”だったのだろうと容易に想像がついた。

そんな北を見た彩女は「私も食べたいです、蟹」と言い出す。かくして2人の奇妙な旅が幕を開けた。

本来関わることのなかっただろう2人だが「入道雲って見てると死にたくなりませんか?」「わかります。子どもの頃のわくわくする夏はもう自分の人生には訪れないってわかっているから」というやりとりから、彩女の闇がポツリとこぼれたように感じた。

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2人の旅は早くも栃木へ。ラーメンを食べる北のリアクションがあまりにも自然で、見ているこちらの心も和む。

しかしところどころで、痴漢の冤罪で捕まり、婚約破棄を言い渡される北の過去が回想され、現実に引き戻される。これは北の、現実からの逃避行。

夜、ホテルのベッドで子どものように眠る北。この状況で心置きなく安眠できるのはすごいが、この彼の隙こそ、冤罪に巻き込まれた理由なのかもしれない。

そんな北を横目に、何かを手帳に書き記す彩女。先ほど北の逃避行と書いたが、では彩女は? 一体彼女は何の目的があって、見ず知らずの男と旅をしているのだろう。その謎がわかったとき、果たして北はどんな反応を見せるのか。
 

初回から見応えたっぷりだった「雪女と蟹を食う」。特筆すべきは重岡の演技の幅の広さだろう。絶望、困惑、諦念、憤怒、愉楽……ここまで様々な表情を堪能できるとは、なんと贅沢なことか。重岡が北に体温を吹き込んでいるからこそ、自殺を決意してはいるものの、北があくまでも普通の人間であることが伝わる。それとは対照的に、彩女の掴みどころのなさを再現している入山もすごい。彼女が画面に映ると、ひんやりと冷たさを感じるようだった。

東京から、北海道へ。圧倒的な映像美と、2人の役者の体当たりの演技で紡がれるロードムービー。ここからどんな景色を見られるのか、楽しみだ。

※この記事は「雪女と蟹を食う」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第2話ストーリー&レビュー}–

第2話ストーリー&レビュー

第2話のストーリー

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人生に絶望した男・北(重岡大毅)は、死ぬ前に北海道で蟹を食べるため、強盗に入った家の人妻・彩女(入山法子)と車で不思議な旅を始める。日光の街並みを走り抜け、中禅寺湖へ。湖畔のホテルで一泊し、会津若松に辿り着く。この旅を「大人の夏休み」と言い、ご当地グルメや観光地を楽しむ彩女に対し、どこか振り切れない様子の北。そして、二人は次なる目的地に山形の銀山温泉を選ぶのだが…。

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第2話のレビュー

車の中で逡巡したのち、栃木名物・レモン牛乳を飲みながらの「蟹を食べて、そして、死ぬ」という北(重岡大毅)のナレーションがあまりに不釣り合いだった。1話の冒頭であんなにも近くまで迫ったはずの死の現実味が薄らいでいる。

彩女(入山法子)も彩女でガイドブックを買い、明日は会津若松へ行こう、と誘う。大人の夏休みをはじめるらしい。

中禅寺湖のほとりで1泊する2人。夜、北は彩女の誘いから逃げる。そして煙草を吸いながら、この旅路の果てに待っているものについて考える。にもかかわらず彼の脳裏によぎるのは、彩女と笑顔でTシャツを選ぶ場面だった。楽しそうで、はたから見たら普通のカップルだ。明日も明後日も、きっとその先も、こんな日々を続けていくはずの。

今回のタイトルは「死より残酷な死」。北にとって辛いことを手放すための選択肢だったはずなのに、彩女との旅で楽しさを感じてしまったからこそ、この後の死がより残酷なものになろうとしている。生への心残りを自覚した自死なのだから。

ならばいっそここで……北にとって忌々しい記憶を想起させる蝉の声が頭の中で響き、ベランダから身を乗り出しかける。しかしそれは彩女によって阻止された。「死なないでくださいね、蟹を食べるまでは。絶対に」と発した彩女は、一体北に何を求めているのか。

北は、煙草を吸う彩女の横顔を見、煙草にすら嫉妬する。彼女の本心は見えないが、北は図らずも彩女から生きる希望をもらっている。傷付いた過去を癒やしてくれる存在。そこに恋愛とは異なったとしても、なんらかの愛情が芽生えるのは至極当然な流れだ。

濃密な時間を過ごす2人。「今日は優しいですね」と言った彩女の声が、今までよりもよく聞こえる。ただの行為ではなくなっているのだろう。心情に変化が生じている北、それを行動の端々で感じはじめている彩女。心が通い合いつつある。

しかし、彼女は夢を見る。誰かが迎えに来る夢だ。うなされて起きたところから、悪夢だとわかる。横ではまた北が爆睡している。ここだけを見ると、明らかに彩女のほうが苦悩を抱えているように感じた。

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翌日は、会津若松へ。お互いその次の日が誕生日だと知り、お祝いをしようとはしゃぐ彩女。揃いのお猪口を購入する。そんな彩女に隠れて、北も指輪を購入。今にもバレてしまいそうな不器用さで店員とやりとりをする北がかわいい。

その夜は馬刺しや鯉のうま煮に舌鼓を打つ。北は料理と日本酒を愉しむ彩女に「変わりましたね」と声を掛ける。それを受けて彩女は「享楽に耽ることでしか救われないことがある」と最近気づいたと言う。

この享楽ばかりの旅路で救われているのは北だけではなかったのだ。「蟹を食べたくて盗みを働くなんてすごい発想」「バカ」と彩女に言われる、このやりとりのなんと自然なことか。

その後の「快楽を素直に享受できる人間だけが、幸せを貪れる」という彩女の台詞がじんわりと染みた。死を決意し、北がやぶれかぶれになったからこそ辿り着けた享楽の中に、今2人はいるのだ。

しかし北は、先に寝てしまった彩女の頭を撫でる。そこにはこの瞬間の享楽に溺れるだけではない確かな感情が見え隠れする。「おやすみ」という優しい声に、それが豊かに含まれていた。

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朝起きると、体調を崩してしまったらしい彩女。足元はおぼつかず、ホテルのロビーで倒れるも彼女はどうしても銀山温泉へ行きたいと言う。

北が購入した指輪はまだ渡せていないのに、彩女の指には光るものが。図書館で北が見た、あの高そうな指輪だ。そこで北はふと我に返る。帰る場所のない自分と、いずれは旦那の元へ帰るはずの彩女。彼女と時間を過ごせば過ごすほど、その先に待つ死の残酷さが色を濃くする。芽生えた愛情が嫉妬に変わる。また蝉の声に誘われ、北はアクセルを踏み込んだ。ここで一緒に死んでしまえば、彩女を旦那の元へ返さなくて済むから。

結局寸でのところで事故にはならなかったが、北の中で欲望が次第に膨れ上がっている。この旅路と北の愛情は、どこへ行き着くのだろう。

※この記事は「雪女と蟹を食う」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第3話ストーリー&レビュー}–

第3話ストーリー&レビュー

第3話のストーリー

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死ぬ前に蟹を食べるため北海道へ向かう北(重岡大毅)と同行する謎多きセレブ人妻・彩女(入山法子)は山形・銀山温泉を次の目的地に北上していた。そんな中、体調を崩した彩女を目の前にした北は、ふと自分の辛い過去を振り返る。銀山温泉に到着し、彩女の看病をする北だったが、彩女が婚約指輪を付けていることに気づき複雑な気持ちに。さらに翌日、道中で書店に寄った北は、偶然彩女の夫・一騎(勝村政信)の小説を見つけ…。

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第3話のレビュー

薬局の駐車場で倒れた彩女(入山法子)に駆け寄り、抱き締める北(重岡大毅)。その強さ、がむしゃらさは、まるでバラバラになってしまった大事なものを繋ぎ止めようとするみたいだった。

今回、ついに北の過去が明らかになった。冤罪で捕まってしまった彼は、しかし親友にも、恋人にも、家族にすら信じてもらえなかった。そればかりか「生まれなければよかった」「顔も見たくない」といった暴言を浴びせられる。そんなものだろうか。

そして壊れたように笑う。見ていて不安になるような笑いだった。社会的に、そして、精神的に、彼はこの時、1度死んでいる。

さらに、その後も職場の同僚と思しき人たちから「変態野郎」とレッテルを貼られてからかわれる。反論をしようとするも、堪えきれずにトイレで嘔吐。

「俺が一体何をした」と当時の北は言うが、それが自業自得であったと思い至る。大事な人たちを、大事にできなかった。その報いなのだ、と。

それに気付いたからこそ、強く強く彩女を抱きしめたのかもしれない。もう2度と失う痛みを味わいたくないと叫んでいるようだった。

銀山温泉で迎えた夜、彩女は体調が悪いにもかかわらず、北にキスも、それ以上も求める。明らかに様子がおかしい。そして、北はそれが自暴自棄なのだと悟る。

北の目がまた暗く沈んだ。自分は愛を感じていたのに、その相手が自分を受け入れてくれていたのは愛ではく、自棄ゆえ。北の思いは届かないのだろうか。

翌日、早くも北海道へ渡ろうと言い出した彩女に対し、田沢湖や弘前城へ寄ることを提案する北。死にたがっていたはずの北の、生への執着がまたしても表出した。

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しかし、すでに手持ちの現金が70万円を切ったということで、フェリー乗り場へ向かうことに。道中、北海道のガイドブックを買いに立ち寄った書店で、北は雪枝一騎という作家の小説を手に取る。彩女の夫は作家で、彩女の苗字もまた雪枝だ。

実話に基づいているというその小説の内容は壮絶だった。作家の若く美しい妻は、作家を執筆活動に専念させるために自分を犠牲にして生計を立てた。そのことに重さを感じた作家は不倫に走るも、妻はそれを咎めない。そして、妻を捨てる……。

これが事実なのであれば、彩女は夫のために働きながら、最終的には捨てられてしまったということになる。そこにどんな苦悩があったかはわからない。だが、少なくとも、彼女が自棄を起こしたきっかけを知ることができた。

銀山温泉での夜、婚約指輪をお守りと表現した彩女の姿が勝手にフラッシュバックしてきた。あれは、彼女がまだ夫に愛されていた記憶の象徴だ。“氷みたいな石”からしか、温かさを感じられない日々を送ってきたのだろう。これまでほとんど見えてこなかった彩女の内面を、少しだけ感じられた瞬間だった。

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そして、北は彩女に「死ぬつもりで俺についてきた?」と問いかける。すると彩女は驚いたようにそれを肯定する。彼女があの日言った「いいですね」は、蟹を食べることだけに、ではなかった。

「この夏が終わったら、私がしれっと元の生活に戻ってしまうと思っていたのに、優しくしてくれていたのね」「でも大丈夫」「私もあなたと一緒だから」……彩女はそう言って、北を抱き締めた。

彩女の死への渇望は、北よりもずっとずっと強い。というより、北はすでに当初の目的を失っているのではないかとすら感じる。その証拠に、ここでは北は彩女のハグをただ立ち尽くして受け止めているだけだった。薬局の駐車場では彩女のことをあんなにも強く抱きしめていたにもかかわらず。

恐らくは長い間、静かに死を渇望してきた彩女と、彩女と過ごすことで生への希望を見出しはじめた北。念願の北海道へ足を踏み入れた2人は、この後どんな道を辿っていくのだろう。

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–{第4話ストーリー&レビュー}–

第4話ストーリー&レビュー

第4話のストーリー

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死ぬ前に蟹を食べるため北海道へ向かう、人生に絶望した男・北(重岡大毅)と謎多きセレブ人妻・彩女(入山法子)。彩女が死ぬためにこの旅についてきたと知った北は、彩女の冷たい表情に何も言えなくなってしまう。函館へと向かうフェリーへ乗り込んだ2人だったが、狭い客室で気持ちがすれ違い…。そんな中、彩女は北に「本当は死ぬのが怖くなったのではないか」と問う。北が出した答えとは…。

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第4話のレビュー

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

「私もあなたと一緒だから」と、北(重岡大毅)を抱き締めた彩女(入山法子)。あなたを1人で死なせはしないという抱擁だが、北はそれに応じることができなかった。彩女が死を望んでいることを受け入れられずにいる。

そして「死から逃れられるなら、浮気のひとつやふたつしてやればいい」と彩女に言う。このときの北には、このまま何事もなく日常に戻り、彩女が寂しいときには自分と会ってくれればいい、という下心があった。北は、それだけで生きられると思えたのだろう。

しかし、彩女は旦那に浮気をされて寂しいからというだけで死を決意したのではないらしい。彩女が望んでいたのは「本当の幸せ」。私というつまらない人間の物語を終わりにしたいのだと答える。彩女が描く彼女自身の物語。それは一体、どんな物語なのか気になるところだ。

彩女は北に、死ぬのが怖くなったのではないかと問いかける。そして、残りのお金を半分あげるから、北海道に着いたら飛行機で帰ればいいと提案した。「やり残したことがあると感じるうちは、死なないほうがいい」。

彩女の揺るぎない死への覚悟を前に、一瞬戸惑いを見せる北。それは彼女の手を骨だけに錯覚させるほどに強烈な戸惑いだ。しばし思案した後、北は1人になるくらいなら彩女と一緒にいるほうを選んだ。冤罪をきっかけに周囲から孤立してしまった経験が、北にこの選択をさせたのだろう。

「だから約束して。絶対1人で死なないで」と彩女に言う北の表情は強く、なのにどこか不安気だ。人生への諦めと、子どものようなあどけなさが混在しているようだった。

北と出会い、死ぬきっかけを得た彩女。今や自身と彩女を独りぽっちにさせたくない一心で死を受け入れている北。2人は自分たちの欲望を実感することで、生を感じ取る。一時は愛のある行為へ変化したかに見えたものの、また切ない痛みが襲う。2人で幸せになれるなら、それが1番いいはずなのに、そんなのは夢物語だと打ち消されていくようだった。

それでも彩女は「こんなに他人と深く繋がれたと思うのは、人生で初めてかもしれない」「好きよ」と言う。しかし北は、その想いから逃げるように、部屋を出て行ってしまった。愛情がすれ違う。

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そして、彩女は自身の過去に思いを馳せる。それは学生時代の記憶だった。教師との目と目で交わすやりとり。旅の途中も何度かペンを走らせる描写があったが、10代の彩女も何かを書いているようだった。

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お弁当を買って戻ってきた北。先ほどの微妙な空気はすでにどこかへ行っていた。そのことで気が緩んだのか、北は思わず彩女の手料理が食べたいと口走る。そんな場面、訪れるわけもないのに。「時々忘れてしまう。俺たちは壊れた歯車同士で、これは決して戻ることのない旅ってことを」という北の心の声。いつもより少しだけ乾いて聞こえるその響きが、より切なさを増長させていた。

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食事の後、なぜお互いを選んだのかと尋ね合う2人。彩女は北を選んだ理由として、「あなたは私と同じだから」と話す。寂しさを浮き彫りにする夏、そこに“似たもの同士”の北が現れたから。夏の孤独を、セミの幼虫に例える。地上に出られるたった数日のために、何年もの間を過ごす。土の中だから、他者との関わり合いもない。たしかに、深い孤独の象徴かもしれない。

彩女は夫・雪枝一騎の小説「蝉時雨」を、「これは失敗作よ、色んな意味で」と断じた。実話かどうかは明言せぬまま。果たして、この言葉の真意とは。

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一騎(勝村政信)と電話をする彩女。回想シーンに登場したあの教師は、彩女の未来の夫だった。ヘミングウェイなどの単語が聞こえる。小説家の妻だからなのか、彼女も文学にはかなり精通しているようだ。一騎の傍らには、女性の姿。無言のまま腕を絡める様子に、2人の関係性が浮き彫りになる。しかも2人は北海道にいるようだ。

北が読み進めていた「蝉時雨」では、最終的に妻が夫を包丁で刺す描写があった。3話で北が訪れた書店のポスターには「実話をもとにした」とのコピーが添えられていた。実際に一騎は彩女ではない女性といることから、不倫をしたことは間違いないだろう。しかし、それ以外は一体どこまでが事実なのか。

結局、彩女の心の内も、死にたい理由も、よくわからないままだ。気になるのは、彩女が一騎の小説を「失敗作」と表現したこと。あんなに書店でスペースを取って陳列していたのだから、売れていない、という意味ではないだろう。彩女が言っていた「本当の幸せ」と何か関係があるのだろうか。

フェリーは順調に進み、ついに北海道へ到着してしまった。早くも最後の地に進んだこの旅路を静かに見守りたい。2人の幸せを、ひそかに祈りながら。

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–{第5話ストーリー&レビュー}–

第5話ストーリー&レビュー

第5話のストーリー

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死ぬ前に蟹を食べるため北海道へ向かう北(重岡大毅)と彩女(入山法子)。遂に二人は北海道へと到着する。フェリーで函館港に降り立った2人は、函館の朝市を巡ることに。その風景になんとなく既視感を覚えた北。そこはかつてテレビ番組で見た朝市だった。更に、彩女もその市場にはある思い入れがあり…。2人は人生最期の地を稚内と決め、さらに北へと向かうが、ホテルでのある会話をきっかけに想いがすれ違ってしまい…。

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第5話のレビュー

北(重岡大毅)と彩女(入山法子)は、ついに北海道・函館に降り立つ。ついに終わりの地に着いてしまった。

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活イカの踊り丼という、都内では食べることが叶わなさそうな衝撃の料理を前にする2人。食べるときの笑顔が、いつだって自然体だ。彩女はおもむろに「ずっと憧れだったんです、北海道」と呟く。「とても幸せ」という彩女に、幸せそうに微笑みかける北。しかし、当の本人は全然幸せそうじゃなかった。

市場を歩いていると、北は既視感に囚われる。そこは北が「死ぬ前に蟹を食べよう」と決意したあの日、テレビで目にしたまさにその店だった。そしてその番組を見ていたのは北だけでない。彩女も見ていた。蟹を、というより、食レポをするレポーターの背後で、自身の夫・一騎(勝村政信)が自分以外の女性と席につき、顔を寄せ合ってメニューを選ぼうとしているところを。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

こんな偶然ってあるだろうか。あまりに残酷すぎやしないか。彩女は北海道のガイドブックを手にしていたようだったから、旅行の計画でもしていたのだろう。そんなタイミングで北海道の番組を選ぶのは必然だとして、見るともなく見ていた画面の中に、知った顔を見つけてしまう確率ってどれくらいだろう。あの瞬間、彼女は一体どんな気持ちになったのか、想像するのも辛い。

そして、例えその先に死を決意していたとしても北がもう少し生きようと思うきっかけになった映像が、もしかすると彩女の死を1歩進めてしまったかもしれないものと同じである現実も辛すぎる。

最期の地を稚内に定め、車の中でGLAYを流す(エキストラとしてTERUが出演していたのには驚いた)。地面に寝そべり溢れんばかりの星を眺めていたときは、まるで世界に2人しかいないみたいで美しく楽しげだったが、彩女はずっと元気がない。北も声はかけずとも心配しているのに、蟹のイラストに「たこ」と書かれたTシャツを着ているからいまいち緊迫感に欠ける。

彩女は、相変わらず熱心に何かを書き続けていた。気になる北は、彩女がシャワーを浴びに行っている隙にノートを見ようと試みる。記されていたのは「雪女と蟹を食う」というタイトルのようなものと、北と出会ってからこれまでの軌跡だった。「なんだよこれ」と狼狽える北。自分と過ごした時間が克明に記録されていたら、誰だってそんな風に思うだろう。

そこへ彩女が戻ってくる。人のものを見るなんて、と言いながらも、その声も表情も、冷たいくらいに冷静だった。彩女はそれを「日記」と一蹴したが、本当にそうなのだろうか?

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「あなたのことを知りたい」と言う北に、「死ぬ覚悟ができていない」と返す彩女。そして「同じ景色を見ている人だと思った」「でも、あなたはもう違う景色を見ている」と続けた。旅が始まったとき、たしかに2人は入道雲を見ながら、夏になると死にたくなると共感し合っていたはずだった。北はきっと、今の夏にそこまでの絶望感を見出せないだろう。「生きているのにどこかひとつ欠けてるの」と口だけで笑む彩女に、背筋が凍った。

煙草を切らした北は、1人で買い物へ。ところが道に迷ってしまい、夜になって職務質問を受ける。北にとって警察はトラウマだ。パニックに陥って逃走し、北はますます自分の居場所を見失った。

セイコーマートの前で雨に打たれ、空腹に震える北。マリア(久保田紗友)と呼ばれた女性が、そんな北を見かねてか「生きろ」と唐突に声を掛けた。あまりにも唐突で少々面食らったが、死の空気が濃くなっていく物語の中で、端的で率直な言葉が重く響いた。どんなことがあったとしても、今、生きてここにいるという事実を突きつけられたような気分だ。

マリアというだけあって聖母のような彼女は、北にご飯までご馳走してくれた。まるでヒグマへの餌付けを見ているようだったが、マリアがこんなにも親切なのは、自分もかつて人から助けられた経験があったからだった。「過去のツケを払っているだけ」と言ったマリアも一筋縄ではいかない人生を送ってきたことが伝わってくるが、マリアの周りにはキラキラとした生の迫力が漂っていた。

マリアの助けにより、無事にホテルに到着できた北。ところが、すでに彩女はチェックアウトしてしまった後だった。荷造りをしていた彩女が、鞄の奥底から包丁を取り出していたのが気になる。

 
ところで、彩女が北に「死ぬ覚悟」を問うているのは今回が2回目だったと記憶している。本人が死を望んでいると明言しているのに、なぜ何度も尋ねるのか? これは筆者の希望的推測だが、彩女は北に生きていてほしいと思っているのではないだろうか。生きて、できれば幸せになってほしい、北にはまだその未来を享受する可能性があるはずだ、と。だからすでにチェックアウトしてしまっていたのも、帰ってこない北を見離したり、逆に自分が見離されたと考えたりしたのではなく、自分の死に巻き込みたくないからなのではないか。

そうだとすると、彩女のことをもっと知りたいと言った北を突き放したのにも合点がいく。また共感し合い、死への思いを強くすることを避けたかったのではないか。「好き」だからこそ、生きていてほしいと思う。それはごく当たり前の感情であるように思う。

「好き」ゆえに彩女のことを知りたい北と、「好き」ゆえにできれば北に生きてほしい彩女……。

とはいえ、彩女の本心はずっと読めない。引き続き推測しながら、物語の世界を楽しみたいと思う。

※この記事は「雪女と蟹を食う」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第6話ストーリー&レビュー}–

第6話ストーリー&レビュー

第6話のストーリー

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ついに北海道までたどり着いた北(重岡大毅)と彩女(入山法子)だったが、札幌の地ではぐれてしまう。彩女は一人、教会で一騎(勝村政信)との過去を思い出す。その一方、彩女に会う手がかりを掴めない北は、札幌の街をさまよい自暴自棄になっていた。死ぬために蟹を食べようとするが、実行できず暑さと空腹により気を失ってしまう…。北が目を覚ますと、そこはマリア(久保田紗友)が働くすすきののニュークラブの控室で…。

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第6話のレビュー

彩女(入山法子)に置いてかれる格好となった北(重岡大毅)。見上げたビルの隙間からは、入道雲がわずかに覗いていた。北はまたきっと、絶望している。2人のそれぞれの旅がはじまった。

「彩女さんを好きになる資格なんてない」「一緒にいてくれればそれでいい」、そう言いながら空腹を抱えて公園のベンチに横たわる。このままここにいたら死ねるのかな、とぼんやり考えるも、人がそんなに簡単に死ねるわけもないことを、本当に死のうとしたことがある北だからこそわかる。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

一方、彩女は教会を訪れていた。太宰治の「斜陽」を手に学生時代を思い出す。当時教師だった雪枝(勝村政信)との会話の大人っぽい湿り気が、とても高校生とは思えない。意味深に映るおだまきの花。以前、彩女は雪枝に指名され、とある小説のおだまきの描写について「恋の煉獄の渦中にいる」と表現していた。そして、彩女は「マイ・チェーホフ」と呟き、2人は唇を重ねる。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

なんとも文学的なシーンだった。教師と学生の、いわゆる禁断の恋。他の人には理解ができないだろう完璧な2人だけの世界。10代の彩女は、それはそれは雪枝に心酔しただろうと想像する。それもまた、雪枝の重荷になってしまったのかもしれない。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

何の因果かマリア(久保田紗友)も教会にやって来る。「HIKARI」と掘られた十字架を、許しを請うように握りしめていた。

転んでしまった子どもを助けたことをきっかけに、言葉を交わすことになった彩女とマリア。マリアは楽しそうに北の話をし、彩女は北海道にいる理由を「人を待ってる」と答える。彩女が待っているのは北なのだろうか、それとも……。

空腹に耐えかねて、蟹専門店に入る北。「この店で1番高いものを」と注文し、提供された蟹を前に思い出すのは「美味しい」と笑顔を浮かべる彩女だった。人と食事をともにする楽しさと、美味しいねと笑い合うことで増す美味しさを、今の北は知っている。なにより、蟹は彩女と最期に食べると約束していた。

だから北は、出された蟹にもビールにも手を付けることなく、ふらふらとお店を出て行こうとした。そして当然のように、無銭飲食で店員に捕まる。厨房で金を払えと言われる北だったが、もちろんお金なんて持っていない。「もう殺してください」と泣く北が痛々しかった。

結局お店を追い出され徘徊する北を、またしてもマリアが見つけてくれる。空腹で意識ももうろうとしているのに座り込まず歩き続けていたのは、彩女を探していたからだと思いたい。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

マリアが働くキャバクラのバックヤードで意識を取り戻した北は、マリアからお弁当を恵まれる。そして「どうして腹が減るんだよ」と、泣きながら貪り食う。死にたいはずなのに、お腹は空くし食べる手は止められない。自分の矛盾に混乱し、情けなさすら感じているだろう北。人間の底に沈んだものを混ぜ返して見せつけられているようだった。複雑な感情をリアルだと感じさせる重岡大毅の表現力に、ただただ感服した。

お弁当を食べ終わり立ち去ろうとする北だったが、マリアは北を家に連れて帰ると宣言する。それはきっと、北が死のうとしていることを知ってしまったから。マリアは、子どものことを忘れないために教会で祈っていたと言った。何も残らなかったから、と。死ぬことの意味、その喪失感に、苦しめられたことがある人の重い言葉だと感じた。だからマリアは、死ぬことを許さない。

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その頃、彩女は誰かに電話をかけていた。相手は雪枝ではなかったようだが、一体……?

そして、無感情のままにスープカレーに口をつける。同じお店に、雪枝が女性を伴って入ってきたのは、果たして偶然だろうか。彩女の見えない本心がますます気になる展開になってきた。


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–{第7話ストーリー&レビュー}–

第7話ストーリー&レビュー

第7話のストーリー

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札幌で彩女(入山法子)と離れ離れになってしまった北(重岡大毅)は、路上で倒れていたところを再びマリア(久保田紗友)に拾われ、マリアの家に身を寄せていた。素性を明かさない北を「コタロー」と呼びながら、何気ない日常に幸せを感じるマリア。ある日、マリアから「生きがい」を問われた北はふと彩女のことを思い出す…。一方、彩女は夫・一騎(勝村政信)の編集担当・巡(淵上泰史)ととある教会で落ち合っていて…。

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第7話のレビュー

彩女(入山法子)とはぐれた北(重岡大毅)は再びマリア(久保田紗友)の家に居候することになる。名乗りもせず、働くことも拒む北を「コタロー」と呼び、マリアは甲斐甲斐しく世話をする。芯の強さがありながらも、ちょっと心配になるくらい優しいマリア。

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そんなマリアが勤務先のキャバクラで酔い潰れてしまい、北が迎えに行くことに。おぶられながら、マリアは夢を見ていた。

幸せそうにお腹をさするマリアには、今よりも少しあどけなさが残る。隣には既婚者と思しき男性がいるが、封筒を手渡し去っていってしまう。先ほどの幸せから一変、絶望して道端に座り込む。マリアと彩女が出会った、あの教会のそばで。

北の背中で、マリアは涙を流していた。夢、というより、マリアの過去なのだろう。妊娠していたかつてのマリア。「女の子がいいな」などと笑顔で話していたことから、1度は相手も受け入れたのだろうと推測できる。でもそれは叶わず、わずかなお金を渡して、つまり子どもの中絶とともに別れを告げられたのだろう。

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3人で生きる未来が目の前にあったのに。辛く、悲しい過去だ。この経験が彼女の芯の強さと優しさを育んだのかもしれない。そして、だからこそ、人の生き死にに敏感なのだろう。彼女の言う「生かされているのだから」という言葉にぐっと重みが増す。

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一方の彩女は、教会である男性と落ち合っていた。巡(淵上泰史)というその男は、雪枝(勝村政信)の編集者らしい。北といた数日間、あんなにも柔和な雰囲気をまとうようになっていた彩女から、表情も感情も消えてしまったように見える。北には心を許していたのだな、と改めて気付かされる。

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何を考えているかわからない男女、探り合いのような会話。彩女は彼との食事で蟹を選ばなかったが、流されるように一夜を共にする。巡が彩女に好意を抱いているのはまず間違いないが、では、彩女は? 一体北海道に巡を呼びつけて、何をしようとしているのだろう。

北も北で、常連客の妻から嫉妬により刃物を向けられ不安げなマリアを受け入れて身体を重ねる。されるがままの北だったが、伸ばされた手を、それでも握り返していた。

そもそもあのとき、北は危険を顧みず咄嗟にマリアをかばった。死にたいから後先を考えなかった? 日頃の恩義からマリアを守らねばと判断した? もちろん色んな思いがあっただろうが、筆者には自然に身体が動いたように見えた。つまり、マリアを守りたい対象だと捉えている……少しずつ気持ちが傾いているんじゃないだろうか。

だが、北が彩女のことを忘れたわけではない。マリアに生きがいを問われ、思い浮かべたのは彩女だったのだから。

彩女か、マリアか。それはそのまま死ぬか生きるかの選択を迫られていることでもある。北の揺れ動く気持ちを、重岡大毅が余すことなく体現する。

北には生きていてほしいと思う。でも、このまま彩女を放っておいてほしくないとも思う。次第に周囲の人を巻き込みはじめた物語の行方を見守りたい。

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–{第8話ストーリー&レビュー}–

第8話ストーリー&レビュー

第8話のストーリー

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ニュークラブで客の妻に襲われたところを北(重岡大毅)に助けられたマリア(久保田紗友)。北と一夜を共にした翌日、教会で彩女(入山法子)と再会する。そこで彩女の“待ち人”について聞いたマリアは、あまりにも「コタロー」に似ていることに驚き…。そんな中、店に呼び出された北。マリアは命を救ってもらったお礼として一人で北をもてなすことに。まっすぐに想いを告げる彼女に対し、北は自身の過去と犯した罪を打ち明ける。

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第8話のレビュー

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一夜を共にしたかに見えた彩女(入山法子)と巡(淵上泰史)だったが、彩女はうっすら微笑み「やっぱり凡庸ね」と言い放ち、起き上がる。まだ巡がどんな人なのか見えてこないが、「あなたのことが何一つわからない」と発するあたり、1番視聴者に近い気がした。だからこそ“凡庸”なのかもしれないが。

「じゃああなたは、わたしのために死ねる?」と言った黒いワンピース姿の彩女が、一段と綺麗で妖艶で、何かへの入り口がぽっかり開いているみたいだった。入山法子という役者の佇まいの底知れなさを感じて怖くなる。

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札幌から稚内へ向かうことを決意した彩女。その前に、マリア(久保田紗友)に会うべく教会へ向かった。

コタローのことを話すマリア。秘密主義だし、働きたくない宣言するけど、根はいい奴、放っとけない、必要。
それに応じるように、彩女も北(重岡大毅)のことを話す。ごく普通に見えるけど実はそうではなかったり、頑固で強引なのに気が弱くてよく迷ったり、純粋で誰より優しい。

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コタローと北の共通点は“名前すら明かしてくれない”こと。マリアはコタローこそが彩女の探している北だと勘づいただろう。そしてたぶん彩女も、マリアが勘づいたことに気づいてる。同じ男を必要としている2人。

その頃、マリアの家で物思いにふける北。マリアとの未来を想像していた。子どもを膝に乗せ、食卓を囲む幸せそうな画だ。そんな人生もある、そう考えられるようになっただけ、北は随分と変わった。

マリアに呼び出され、マリアの店の面々とジンギスカンランチを楽しむ北。彼らはもう、北のことをマリアの彼氏として扱っていた。まだ迷いがある北にとっては、この場所はさぞ居心地が悪かったことだろう。彼らがいい人たちで、マリアの純粋な想いを感じているからこそ、なおさら。

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マリアを手伝うように言われ北が店へ行くと、そこにはドレスアップしたマリアがいた。命の恩人だからともてなしたかったらしい。ちょっと唐突だけど、こういう行動もマリアのかわいさの理由のひとつ。

改めて「ここで一緒に働かないか」と誘うマリア。しかし、北の顔はどんどん暗くなる。コタローをヒーローだと言い、これからの話をしようとしたマリアを「違う」と遮った。「俺はヒーローじゃない、俺は……」と言いかけた北の手を握り、ススキノに残ってほしいと明言するマリア。しかしそれを北は拒む。

そしてついに、自分の過去を打ち明ける。冤罪から土砂崩れのように失った“普通の日常”、周りの目が北を犯罪者だと追い詰めていく、あの忌まわしい光景。言葉を詰まらせながら、人妻を襲ったことまでを告白していく。自分への嫌悪が止まらないというように、涙とともに気持ち悪さがせり上がってきているようだった。

しかし、それでもマリアは「過去のことはいい」と北を引き留める。それでも心中するのだという北に「コタローは今、死にたいほど苦しいの?」と食い下がるマリア。北は核心を突かれたはずだ。今の北は、死など本心からは願っていない。

マリアも、子どもをおろして何度も何度も死のうとした過去を告白する。「あのときここにいたことをわたしが覚えてなきゃ。忘れてないよって伝え続けなきゃ。この子はわたしの光なの」。

「一緒に心中しようって誓った人を1人で死なせるような男はヒーローじゃない」と言った北。それってあまりにも悲しすぎるヒーローじゃないかと思った矢先、北は「彼女の死を止める」と明確に宣言した。これまで散々迷いながらも、どうしても死へいざなわれてしまっていた北が、生きることに前向きな言葉を口に出してくれた。安堵した。

マリアは、教会で会った彩女のことを話す。彼女がずっと“北さん”という人を待っていたことも。「早く行って」と言えるマリアの強さは、コタローを本当に好きになっていたからこその強さだった。強くて優しくてたくましくて愛嬌があって、そして人のことを心から思えるマリアの幸せを願いたい。

彩女からマリアへ、マリアから北へと繋がった「斜陽」を持って教会へと走る北。果たして、そこに彩女はいるのだろうか……?

今回、北とマリアが思いをぶつけ合うシーンに強く胸を打たれた。それはありのままの思いを、包み隠すことのない本心を、ちゃんと見せた上で言葉を投げかけていたからだろう。北と彩女も、そんな風になれるといいのだが。まずは2人が教会で出会えていることを願いつつ、第9話の放送を待ちたい。

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–{第9話ストーリー&レビュー}–

第9話ストーリー&レビュー

第9話のストーリー

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マリア(久保田紗友)から彩女(入山法子)の居場所を聞き、一心不乱に彩女の元を目指す北(重岡大毅)。再会した二人は小樽まで車を走らせる。海鮮丼を食べ、街を散策し、旅を楽しむ二人だが、北は、離れていた時間のことを一切尋ねてこない彩女に『蝉時雨』に出てくる妻を重ねていた。一方、一騎(勝村政信)は巡(淵上泰史)から彩女が男と北海道にいると聞かされ…。彩女と一騎の歪な夫妻関係。その過去が遂に明らかに…!

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第9話のレビュー

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マリア(久保田紗友)と別れた北(重岡大毅)は、教会で彩女(入山法子)と再会することができた。2人は小樽の街を楽しむなど、これまでの生活に戻ったかに見える。

ところが彩女は、北がいなくなっていた間のことを一切尋ねない。そのことに疑問を抱いた北は彩女を問い詰めるも、「感情に任せて怒る女性のほうが男の人から見れば可愛げがあるのかもしれませんね。でも私はもう泣きたくても涙が出なくなってしまったの」と表情のない顔で告げられる。

今回は、彩女がそんな風になってしまった過去が、一足先に稚内へ向かった彩女の夫・一騎(勝村政信)の目線で明かされた。

一騎に恋をした高校生の彩女は、教師を辞め小説家として生計を立てるという一騎についていくことに。しかし、数年後には生活がままならなくなり、ついに一騎は仕事を探すと彩女に言うのだった。

それを聞いた彩女は、お金のことは何とかすると言い残し一騎の元から姿を消した。1か月後、500万ほどのお金を作って戻ってくる。このお金をどうしたのか、と困惑する一騎を前に、彩女は微笑みながらその時の経験を綴った日記を託す。この日記こそ、一騎が書いたベストセラー小説「蝉時雨」の元となったものだった。

「おだまきの花のようだった少女が、冷たい雪女になり果ててしまった」と一騎は言ったけれど、一騎の前で彩女が笑う描写は、高校時代を含めてもお金と日記を渡す場面だけだったのではないか。

高校時代の彩女の言った「必ず先生の役に立ちます」という言葉も、大人になってからの「私があなたを日本一の作家にしてみせます」という言葉も、一貫して一騎を小説家にすることのみを指しているように聞こえる。お金は何とかすると言ったときだって、嬉々としているようにすら見えた。やっとこのときがきた、とでもいうように。

つまり、彩女が愛していたのは一騎の小説家としての才能……というより、小説家として生きる一騎、一騎を一流の小説家たらしめる自分だったとしたら。

だって彼女は、ベストセラー作家となった後もあまりうれしそうではなく、その原因を自分が凡庸であることのせいにしていたのだから。「蝉時雨」で一騎を太宰治にできなかった、その一点を悔いていたのだろう。

そして一騎は、今回納得のいくものが書けなかったら、小説家を辞める覚悟だという。そのことを彩女が知っていたのなら、「蝉時雨」を超える体験を自分に課し、それを一騎に託そうとしているはずだ。今回の彼女の一連の行動の意味が、少しだけ理解できそうな気がする。

そうはいってもやはり、彩女の愛は歪だ。もちろん何をどう愛するかは人によって様々だが、彩女の強く歪な愛に戸惑い、心が離れてしまっていたとしても、一騎を責めることは難しいと筆者は感じる。

また、気になったのは巡(淵上泰史)が一騎と通じていたこと。2人は「蝉時雨」になぞらえて彩女が一騎を殺しにくる、と考えているらしい。彩女と一騎の再会がどのように訪れるのか、気になるところだ。

再びはじまった北との旅で、また表情を取り戻したように見える彩女。ところが、同じ入道雲も、もう同じようには見えていない。青空に伸び伸びと広がり蝉の声も聞こえない静かな北の入道雲に対し、狭い暗いところから切り取られた蝉の声が鳴り響く入道雲を見ている彩女。彼女はどんどん自分の内にこもっているようだ。

愛するもののために身を尽くし、裏切られて涙も枯れ果ててしまった彩女の心に、雪解けのときは訪れるのだろうか。2人の旅は、いよいよ稚内に突入する。

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–{第10話ストーリー&レビュー}–

第10話ストーリー&レビュー

第10話のストーリー

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北(重岡大毅)と彩女(入山法子)は、ついに“最期の地”と決めた稚内までたどり着く。ホテルのロビーで一編の詩に出会い「生」に想いを巡らせる北。北とは対照的に「死」への強い決意を感じさせる彩女。部屋に向かう途中、ふとブライダルサロンが目に入り、北は彩女が結婚式を挙げていないことを知る。彩女の表情からウエディングドレスへの憧れを感じた北は、なんとかして彩女にドレスを着させようとスタッフに掛け合うが…。

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第10話のレビュー

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

ついに日本のどん詰まり、稚内にやってきた。襲ったり襲われたり、だんだんと気持ちが芽生えたり、疑ったり戸惑ったり、いろんなことがあってここまできた。

宿泊するホテルで、結婚式の前撮りをするカップルに遭遇する北(重岡大毅)と彩女(入山法子)。白いドレスに身を包んだ笑顔あふれる新婦を、物言いたげに見つめる黒いワンピース姿の彩女。

我に返り、蟹を食べられるお店の話をし出す彩女は、生きることへの未練を振り払っているように見えた。物語の結末を変えたいという力強い北の目の中に、2人の未来への光を探したのは筆者だけではなかったはずだ。

北はウエディングドレスを着たことがない彩女のために「彼女もうすぐ死ぬんです」とまで言って、ドレスを着せてもらえるよう交渉する。彩女は北を止めようとしたけれど、押されるままにドレスを着ることに。

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ここのところ黒ばかり身に纏っていた彩女のウエディングドレス姿は、美しかった。いつもより柔らかいメイクが、張り詰めた時間を緩める。

印象的だったのは彩女を見たときの北。驚いて、呆然として、そのあと笑顔になって涙がこぼれる。表情だけで感情を雄弁に語る、俳優・重岡大毅の真骨頂のようなシーンだった。

北は幸せを実感していた。幸せはここにも、そこにも、どこにでもあるということを。夜空で見つけられなかった蟹座のように、たしかにそこにあったのに、見えていなかっただけだということを。絶望の淵から飛び降りるためにはじめた旅で、彩女と過ごす一瞬一瞬を幸せに感じられるようになっていた。

北は、ホテルに飾られた「人は生きるべき」と書かれた詩に感化され、生きねばという思いをさらに強くする。

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だが、その思いは彩女には届かない。北が彩女を抱きしめても抱きしめ返すことはなく、体を重ねても人形のように無反応だった。お風呂上がりのさっぱりとした無垢な顔の彩女に、背筋を冷たいものが走った。

北は彩女の本当の絶望を知らない。なぜそこまで死にたいのかと食い下がるが、理由は語らずも彩女の意志は固い。「明日、蟹を食べて死ぬ」。来てほしくない約束の日が、もう目の前に迫っている。

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–{第11話ストーリー&レビュー}–

第11話ストーリー&レビュー

第11話のストーリー

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彩女(入山法子)の死への決意を変えることができず葛藤する北(重岡大毅)。「明日、一緒に蟹を食べて、そして一緒に死ぬのよ」と言った彩女を思い出していると、彩女から特選蟹フルコースの予約が取れたと報告される。北は、彩女を救うため、自ら命を絶とうとしていた時のことを思い出すが、その中で自分は彩女によってとっくに救われていたことを実感し…。そして2人は、遂に“蟹を食べる日”を迎えてしまう。

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第11話のレビュー

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

蟹を食べることが決まり、北(重岡大毅)は死にたいと思っている人間をどうやって助ければいいのか悩んでいた。背後に映る「起点」と書かれた看板が、旅のはじまりに立ち返れと暗示しているみたいだった。

そして北は、これまで自分がいかに彩女(入山法子)本人と、彼女と過ごしてきた時間に救われていたかに気づき、泣きはじめる。赤すぎるほど真っ赤な太陽に見守られていることに、なんだか胸がざわざわした。

最初こそ緊張の面持ちだった北も、ついに念願だった蟹を食べ、みるみる表情がゆるんでいく。彩女も、とても楽しそうだ。誰も彩女が死を望んでいるとは思わないだろう。同時に、案外これくらいの距離で、死への渇望に接することがあるのかもしれないと感じて怖くなった。

ありとあらゆる方法で調理された蟹を食べつくした2人。北は不安気に表情を曇らせ、彩女は覚悟のさらに向こう側にいっているように見える。

誰にも迷惑をかけずに死ねそうな場所へ向かう。人も建物も何もない場所。それは、まだ若い2人が死ぬにはあまりに寂しい場所だった。

北は泣きながら、言葉を詰まらせながら、思いの丈をぶちまける。また旅をしよう、行っていないところはたくさんある、お金がなくなったら自分の内臓を売ってもいい……。

このときの北の頭の中には、死にたい人を助ける方法、という概念は消えてしまっていたのではないか。ただ、彩女と生き続けたい一心で、他にどうしようもなくてそうしている、まるで子どものように言葉を放る北に、そんなことを思った。

ずっと一緒にいようという言葉よりもずっとずっと重い内容だったが、彩女にとっては裏切りに等しい。彼女が北と一緒にいたのは、救うためでも救われるためでもなく、ただ死ぬためだったから。

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彩女は、ついに北と旅を続けてきた理由を明かす。夫・一騎(勝村政信)の小説家としての素質を愛し、自らが彼の文字となることで日本一の作家にしたいと考えていた。北は“凡庸な私=彩女”のもとに舞い降りたチャンスだったのだ。

なぜ死ななければならないのかと問う北に、「あなたにはわからない」と答えた彩女。自らの命を賭し、夫の作品の文字になる。そのことは夫にとって未来永劫消せない呪縛にこそなれ、彩女への愛にはならないだろう。この不毛なすれ違いゆえに、誰の幸せも見えてこない。

しかし、彩女は一切を振り切るように、1人で海に入って行く。稚内の海は暗く濁り、荒れていた。気迫に押されて波打ち際で叫ぶことしかできない北に対し、気付けば肩まで浸かりそうな位置まで来ている彩女。「生まれ変わったらあなたのような人になりたい」と言い残し、波の間に消えていった。この場面でのこの言葉は、これ以上ない愛の言葉にも聞こえる。

だが、北が彩女の前で時に優しく、時に愛情深く、そしてたまに愉快であったのは、北自身が振り返っていたようにすべて彩女が北に優しくしたからだ。人は鏡。今の北は、彩女がいてこその北なのだ。

果たして、彩女はどうなってしまうのか。次週、ついに最終回。2人の旅路の行く末を見守りたい。

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–{第12話ストーリー&レビュー}–

第12話ストーリー&レビュー

第12話のストーリー

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死ぬ前に蟹を食べようと北海道まで旅をしてきた北(重岡大毅)と彩女(入山法子)。北の想いは届かず、彩女は自ら海に入っていった。北はなんとか彩女を浜に引き上げるが彩女の意識は戻らないまま…。残された北は彩女から託された日記を読み、彼女の本当の想いを知る。そして、彩女を訪ねてきた一騎(勝村政信)がホテルへやってくると、北は一騎を海へ連れていき…。北と彩女の不思議な二人旅はどんな結末を迎えるのか…?

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第12話のレビュー

自ら海に入って行ってしまった彩女(入山法子)は、なんとか北(重岡大毅)に救出されて病院へ。しかし、彩女の意識は戻らない。

北はホテルへ戻って彩女の日記を読み、本心を押し殺して雪女としての“私”を演じていたことを知る。

とめどなく流れる涙は、重岡大毅の最大の武器だ。彩女への愛情、失うかもしれないという恐怖がどれほどのものかが痛いほど伝わってくる。日記が濡れて文字が滲む。彩女が儚く消えていってしまうことを予感させるようで心が落ち着かない。

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翌日、彩女に呼ばれてホテルへやってきた雪枝(勝村政信)と話す北。

北は彩女を呪縛から解いてやれと懇願する。だが、果たして呪縛に苦しめられていたのは彩女だけだろうか?

彩女が雪枝との唯一の思い出だと書き残していたらしい包丁を涙ながらに握りしめる雪枝を見ていると、この人もまた呪縛に苦しんでいるのだろうと確信する。

雪枝の呪縛とは、彩女からの過剰な期待と、世間に注目を浴びた「蝉時雨」が彩女の体験をもとにした物語であったこと、そしてそれが本人の意に反して純文学ではなく大衆文学だと言われてしまったことだ。雪枝の創作は彩女の犠牲の上に成り立っており、小説家としての存在をほとんどすべて彩女に依存していたともいえる。

当初は年若い妻を置いて愛人との不倫旅行を楽しむふてぶてしい小説家のように見えていた雪枝が、小さく哀しく映る。教師を辞めて上京し、小説家として生きようと決めた人なのだから、これまでさぞ苦しかったことだろう。彩女への愛情がねじれていってしまうのも頷ける。

だが、彩女がまだ生きていると知って泣いてるわけで、雪枝にもまだ気持ちはあるのだ。愛と情が入り混じったものではあるだろうけれども。

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雪枝から彩女の日記を見せられた編集者の巡(淵上泰史)は小説化を勧めるが、雪枝はそれを固辞する。それでは雪枝の呪縛は解けないし、きっと彩女を解放することもできないから。彩女が命を懸けて書き上げた日記が燃やされていく。「愛する人の文字になりたい」、彩女の思いが灰になる。

そして雪枝は、彩女の日記には頼らない新たな小説を発表する。タイトルには「雪女」が入っていた。きっとこれまでの2人の過去を浄化する物語になっているのだろうと想像する。

サイン会には、高校生の頃の彩女(坂口風詩)が並んでいた。もちろん雪枝の目にそう映っただけだろうが、その彼女が笑いかけてくれた刹那、きっと本当の意味で雪枝も呪縛から解放されたはずだ。

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無事に意識を取り戻した彩女を、北はある場所へ連れて行く。それは一面に花が咲き乱れる、広大な場所だった。さまざまな色が画面にあふれたあの瞬間、生きていることの素晴らしさを感じるようだった。矛盾しているし陳腐だけれど、天国ってもしかしたらこんな場所なのかもしれないと思う。

その場所では、毎年違う景色が見られるという。北は、この景色を毎年見せたい、と彩女に伝える。ただ好きだの愛してるだのと言われるよりも、温度のある決意の言葉だと感じた。今はお金も仕事も、何も持っていない北の、等身大の愛情表現。2人は、北の大地で共に生きることを選ぶ。

かくして、死にたかった男女の旅は終わりを迎えた。想像しうる中で最も幸せなラストだった。もう2人が迷うことがなければいい、と願う。

全12話、毎回心を揺さぶられながら楽しく鑑賞していたが、思えば半分以上が重岡大毅と入山法子の2人芝居だったのではないだろうか。

自暴自棄になったり感情を爆発させたりしながらもそこにしっかり脈絡が感じられる重岡の北。この作品において、北がかっこよく見えたのは、店で客の妻に襲われたマリア(久保田紗友)を助けたときと、最後に彩女に思いを告げたときだけだった(ファンの皆さん、ごめんなさい)。つまり、普段アイドルをしている重岡の影を、一切感じていなかったのだ。表情からまとう空気から、すべてが異なっていた。恐るべし、重岡大毅。

それに対して流れるような静かさが美しく、放っておいたら消えてしまいそうな恐怖を覚える入山の彩女がとても好相性で、見応えがあった。

良質な作品を堪能できたことに感謝しつつ、レビューを締めくくりたい。

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–{「雪女と蟹を食う」作品情報}–

「雪女と蟹を食う」作品情報

出演者

重岡大毅(ジャニーズWEST)
入山法子
村瀬紗英
平岡亮
永井秀樹
五十嵐美紀

原作

Gino0808『雪女と蟹を食う』(講談社「ヤンマガKC」刊)

脚本

イ・ナウォン

監督・演出

内田英治 ほか

主題歌

ジャニーズWEST「星の雨」(Johnny’s Entertainment Record)

エンディングテーマ

ヒグチアイ「悪い女」(ポニーキャニオン)

制作

テレビ東京 DASH

製作著作

「雪女と蟹を食う」製作委員会