時間が有限ということはわかっている。だが、7月が始まった今、注目作が大渋滞を起こしているので、2022年7月1日(または2日)より劇場公開されたおすすめ映画を10選を一挙に紹介しよう!
- 1.『エルヴィス』: 華やかで切ない音楽映画
- 2. 『リコリス・ピザ』: ビジネスパートナー以上、恋人未満な関係
- 3. 『わたしは最悪。』: 人生の選択に悩むオトナな恋愛映画
- 4. 『マーベラス』: 『レオン』のその後のような師弟コンビ
- 5. 『ブラック・フォン』: 監禁された少年の決死の脱出劇!
- 6: 『哭悲/THE SADNESS』: 史上最悪級(褒め言葉)のゾンビ映画
- 7. 『モガディシュ 脱出までの14日間』: リアルな舞台での脱出劇&銃撃戦アクション
- 8. 『バズ・ライトイヤー』: 他人を頼れないヒーローの成長物語
- 9. 『映画 ゆるキャン△』: 社会人に沁みわたる優しい物語
- 10. 『映画 バクテン!!』(2022/7/2公開): 男子新体操を描く王道スポ根もの
- その他にも気になる7月1日公開の映画が…!
1.『エルヴィス』: 華やかで切ない音楽映画
エルヴィス・プレスリーの生涯を描いた映画だ。『ムーラン・ルージュ』(2001)や『華麗なるギャツビー』(2013)のバズ・ラーマン監督らしい、ゴージャスな演出が全編にわたって施されている。
その見た目の華やかささや煌びやかさこそが、中傷や批判を浴びながらの音楽活動や、トム・ハンクス演じる一筋縄ではいかないマネージャーとの愛憎入り混じる関係など、切なさも感じさせる物語を相対的に際立たせていた。
こだわり抜かれた美術や画作りにより、1960年〜70年代当時のアメリカにタイムスリップしたような感覚も得られるだろう。オースティン・バトラーが約2年、ボーカルトレーニングや役作りに費やしたからこその、エルヴィスが「憑依」したかのような熱演を見届けてほしい。
2. 『リコリス・ピザ』: ビジネスパートナー以上、恋人未満な関係
第94回アカデミー賞で作品賞と監督賞と脚本賞の3部門にノミネートされた青春ラブストーリーだ。監督は『マグノリア』(99)のポール・トーマス・アンダーソンで、その監督作『ブギーナイツ』(97)とはハリウッド近郊のサンフェルナンド・バレーが舞台ということが一致している。
物語は、15歳の少年が、カメラアシスタントの25歳の女性に一目惚れをすることから始まる。出会った女の子と正当な恋愛関係を結ぶより前に、ビジネスパートナーになるという流れは、まるで『天気の子』(19)のようだ。前述の『エルヴィス』と同様の、少し昔(1970年代)のアメリカの雰囲気を追体験できるのも魅力だろう。
ちなみに、リコリス・ピザとは実在のレコード・チェーン店の名前で、リコリス(甘草)が無料で配られていて、レコードをその場で視聴したり、お客と店主が語り合ったりする雰囲気であったそう。自由気ままで楽しい(でも少し切ない)青春が描かれた本作にはぴったりのタイトルだ。
3. 『わたしは最悪。』: 人生の選択に悩むオトナな恋愛映画
第94回アカデミー賞で国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされた作品であり、『母の残像』(15)や『テルマ』(17)などで注目されるデンマークのヨアキム・トリアー監督の最新作だ。主人公は自分の道が定まらずにキャリアを転々としてきた、30歳を迎えて将来に悩んでいる女性。彼女の日常と人生の変化を、序章+12章+終章という全14章で語る内容となっている。
年上の恋人は、彼女に妻や母といったポジションをすすめてくるため、居心地が悪い。そして、若くて魅力的な男性と浮気してしまい、そこには罪悪感もあるが、恋の勢いに乗ってより良い人生の選択をしようと奮闘する。その過程の会話劇には「人生の決断」に至るまでのあれこれが詰まっているためスリリング。冷徹で正直なナレーションも上手く機能していて、時にはハッと驚く映画ならではの演出も施されている。
『私は最悪。』という邦題は発表時には不評も呼んでいたが、実際に観ると「主観的」かつ「(句点で)自己完結」している印象が、内容にとても合っていた。性的な話題が多くR15+指定だが、それも作品に必要なものだろう。苦くて切ないオトナな恋愛映画を求める方に大プッシュでおすすめだ。
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4. 『マーベラス』: 『レオン』のその後のような師弟コンビ
『007 カジノ・ロワイヤル』(06)のマーティン・キャンベル監督×『イコライザー』(14)の脚本家リチャード・ウェンク×『ジョン・ウィック』の製作スタジオという、ゴリゴリのアクション映画に携わってきた作り手が送り出す、「ちょうどいい感じ」のバイオレンスアクションだ。
親子のような絆で結ばれていた師弟コンビが、物腰は柔らかいが恐るべき本性を隠している敵と戦うプロットで、一歩間違えば鮮血を撒き散らして死んでしまうキレの良いアクションがたくさん繰り出される内容となっている。マギー・Qが演じる女性暗殺者と、サミュエル・L・ジャクソン扮する護衛者という関係性が、名作『レオン』(94)のマチルダとレオンの「その後」を観ているような印象になれるのも好きだ。
ただ、会話で状況を説明する場面が多く、キャラクターの関係性が直感的にわかりにいのは難点だろう。「そんなことになる?」と思わざるを得ない妙な展開もあるが、個人的にはそれも含めて楽しかった。次第に「ああコイツやばい」と演技力を持ってわからせてくれるマイケル・キートンが見たい方にもおすすめだ。
5. 『ブラック・フォン』: 監禁された少年の決死の脱出劇!
失踪事件が起きる田舎町で、気の弱い少年がその犯人に監禁され、なぜか断線しているはずの黒電話が鳴り響く……!というホラー・サスペンス映画だ。監督は『エミリー・ローズ』(05)や『フッテージ』(12)のスコット・デリクソンであり、当初監督を務める予定だった『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(22)(サム・ライミ監督作)を「創造上の違い」という理由で降板した後にメガホンを撮った映画となる。
「イーサン・ホーク扮する凶悪な誘拐犯 VS 囚われの美少年」というわかりやすい構図があり、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』的な、子どもが大活躍するオトナ向けの怖い作品を求める方であれば満足できる案件ではないだろうか。
現実にはあり得ない超常現象的な設定と、知恵と勇気を振り絞り犯人の監視の目を掻い潜っての脱出劇を上手く組み合わせていることが最大の魅力だろう。青春ジュブナイルものとしても堅実に作られていて、口が悪いけど兄思いな妹が愛おしいというのも魅力的。こうした小粒だが「しっかり面白い」作品こそ、映画館で見逃さないでほしい。
–{史上最悪級(褒め言葉)のゾンビ映画も}–
6: 『哭悲/THE SADNESS』: 史上最悪級(褒め言葉)のゾンビ映画
人間の「凶暴性」を暴走させるウイルスが蔓延した台湾を舞台にした、史上最悪(超褒めてる)級のスプラッターホラーだ。鮮血がゴージャスに吹き出し、何食ったらこれ思いつくのレベルのグチャドロがたっぷりと詰まった、R18+限界ギリギリを突っ走る地獄絵図の数々が良い意味で本当に酷いことになっている。
しかも「再会しようと奔走するカップル」というシンプルな構図を基とした、上映時間100分で駆け抜ける娯楽作としても良い出来だ。一応ジャンルとしてはゾンビ映画ではあるが、劇中の感染者はこれまでのどのゾンビより酷いことをするので、グロいのが平気という方も気分が悪くなる可能性は大。少なくとも、一定の傷跡を残すだろう。
「最悪な暴力を振るう感染者がなぜか涙を流している」というビジュアルも強烈で、後に明かされる設定も極悪すぎる。終盤の展開も良くもまあこんなものを思いつくなと、作り手の底意地の悪さも褒めるしかない。上映館は少ないが、エログロバッチ来いな方は、ぜひ映画館で観て良い意味で後悔してほしい。
7. 『モガディシュ 脱出までの14日間』: リアルな舞台での脱出劇&銃撃戦アクション
韓国最大の映画の祭典「青龍映画賞」で2021年に作品賞、監督賞ほか5部門を受賞し、本国で大ヒットを記録した映画だ。タイトルからお堅い印象を持つかもしれないが、実際は内戦に巻き込まれた人々の「実話」を描きながら、恐ろしい銃撃戦ととんでもないアクションが展開する、重圧かつエンタメも盛り盛りな「体感映画」だった……!
ソマリアで内戦が勃発し、各国の大使館が略奪や焼き討ちに合う地獄絵図の中、北朝鮮の大使が職員と家族たちを連れて逃げ惑う様が描かれる。リアルな舞台で『ニューヨーク1997』(81)のような大規模な脱出劇が描かれること、そして「圧倒的不利な立場の集団が死地を潜り抜けて目的地を目指す」様がこれ以上なくスリリングだ。
それでいて、その脱出劇までの政治的な駆け引きの皮肉を描いた作品としても面白い。「話を複雑にするな」「大統領の周りにはチンピラばかりだ」といった言葉は笑うに笑えないが、だからこそ「もう逃げるしかない」主人公たちの窮地に説得力を持たせていた。
8. 『バズ・ライトイヤー』: 他人を頼れないヒーローの成長物語
『トイ・ストーリー』シリーズのおもちゃのバズ、その「元」となったスペース・レンジャーの活躍を描くSFアニメ映画だ。序盤のネタバレ厳禁のサプライズ、冒険を楽しくスリリングにするギミックや危機の数々など、ディズニー&ピクサーの力をまたも見せつける、万人向けの娯楽となっていた。
同性愛要素が物議を醸しているが、実際の本編を観ると『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)や『デッドプール2』(18)と同様の、「サラッとあたりまえのこととして描いてくれて嬉しい」と心から思えるものだった。しかも、それ以上の「同性パートナーがいることの幸せ」を短い時間でたっぷりと描いてくれたような感動もある。
しかも『トイ・ストーリー』およびピクサー作品にリンクする尊い価値観と、さらなるアップデートもされたメッセージもある。優秀すぎるがあまり、他人を頼ることができなかったヒーローの成長物語としても、面白く仕上がっていた。いろいろなポイントでネタバレを踏みやすい内容と言えるので、ぜひ早めに観てほしい。エンドロールの最後にもおまけがあるので、お見逃しなく。
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9. 『映画 ゆるキャン△』: 社会人に沁みわたる優しい物語
人気マンガを原作にしたテレビアニメ「ゆるキャン△」の劇場版だ。これまでのシリーズと違うのは、「大人になったみんな」を描く「映画オリジナルストーリー」ということ。そこに不安を抱いたファンを大納得させるほどのキャラクターへの愛情に満ちていて、そして「社会人物語」として普遍的に響く物語になっていることが最大の特徴だろう。
物語は「みんなが再会してキャンプ場作りをする」というシンプルなもの。「優しい世界」だけど「甘やかさない」話運びが見事であるし、ご飯が美味しそうすぎてお腹が鳴りそうな「飯テロ」具合も凄まじく、スクリーン映えする細やかな背景描写や丁寧な演出も見どころだ。そして、缶コーヒーのCMのような「世界は誰かの仕事でできている」といった、仕事や社会人の「当たり前のこと」を今一度認識させてくれる物語は、とてつもない優しさに溢れていた。
原作およびアニメを全く知らなくても問題なく楽しめる上、キャラクターに思い入れがあるとさらなる感動があるというバランスも見事。「テレビアニメの劇場版」としても最上級の出来栄えであるし、何より2時間で語り切る「映画」ならではの醍醐味を作り出しているのが素晴らしい。個人的にはここで紹介した映画の中でイチオシ。2022年ベスト級の大傑作だ。
10. 『映画 バクテン!!』(2022/7/2公開): 男子新体操を描く王道スポ根もの
宮城県岩沼市を舞台に、男子新体操に情熱を燃やす高校生たちの青春を描いた、テレビアニメの劇場版だ。仲間内の切磋琢磨や、挫折を経験しても再び歩み出す過程など、「王道の青春スポ根」の面白さがたくさん詰まった内容となっている。
何より、今はプロ制度もない男子新体操に対する熱い想い、何より男子新体操を「もっと知ってほしい」という願いが、迫力のパフォーマンス及び、努力と友情を尊く描いた物語から大いに伝わってくる。一本の映画としても過不足なくまとまっており、テレビアニメ版を見ていなくても問題なく、豪華声優陣による個性豊かなキャラクターたちがすぐに大好きになれるのも長所だろう。
また、本作は2021年に劇場公開されたアニメ映画『岬のマヨイガ』と『フラ・フラダンス』と同じく、東北大震災の被災地を舞台とする「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の1つでもある。この試みそのものを応援したいし、作品のクオリティをもってアニメファンの期待に応えているのが素晴らしい。何より、男子新体操の演技を最高の環境で堪能できる映画館でこそ、観てほしい。
その他にも気になる7月1日公開の映画が…!
この他、1977年のテリー・ギリアム監督の単独長編監督デビュー作『ジャバーウォッキー』の4Kレストア版のリバイバル、自主映画制作をする小学生たちの夏を描く青春映画『ラストサマーウォーズ』なども7月1日より公開されおり、こちらが気になる方もいるだろう。
わかっていただけだろうか。正直、映画ファンには時間が足らなすぎることも痛感したが、それでも上記に挙げた映画が、1人でも多くの方に届くことを願っている。
(文:ヒナタカ)