“生田斗真”への期待|Netflixドキュメンタリー「生田斗真 挑む」

俳優・映画人コラム

Netflixドキュメンタリー『生田斗真 挑む』全世界独占配信中

見入ってしまった。
 
俳優・生田斗真が歌舞伎に挑戦した姿を追うドキュメンタリー「生田斗真 挑む」。

歌舞伎俳優・尾上松也が主宰する歌舞伎自主公演シリーズの最終公演『「挑む」Vol.10~完~』に特別出演した生田。初のかつら合わせの日から、公演千秋楽までの約2カ月半に密着したドキュメンタリーだ。

→「生田斗真 挑む」Netflix配信ページ

役者のドキュメンタリー、しかし多くの人の心に刺さる

「挑む」Vol.10の演目は新作歌舞伎「赤胴鈴之助」。

尾上の父、故・六代目尾上松助が子役時代に同名漫画が原作のテレビドラマ版の主役を務めている。当時はドラマも生放送の時代。録画も残っていないため、尾上は父の演技を観ることはできなかったが、思い入れのある作品だという。尾上が赤胴鈴之介を、生田は鈴之介の兄弟子でライバルの竜巻雷之進を演じた

高校の同級生だという生田と尾上は「いつか2人で同じ舞台に立つ」という約束を交わしていた。

11歳から芸能活動をスタートさせた生田と、5歳で歌舞伎役者として舞台に立った尾上。そんなふたりの稽古風景は穏やかではあるが、プロ同士の気合に満ち溢れている。歌舞伎役者ばかりの中で生田がどんな演技を見せるのか、というところがポイントではあるが、素人目から見ても生田のすごさがわかる。小さいころからの経験が必要な歌舞伎というジャンルの中で堂々とした振舞い。

同時に尾上の歌舞伎役者としての凄みも伝わってくる。足を踏み鳴らすにしても、音が違う。が、見本を見せてすぐに飲み込む生田もすごい。

37歳。芸歴はそれぞれ26年と32年、ということになるのだろうか。積み重ねてきた役者としての経験が垣間見える。

とは言え、経験のない生田が歌舞伎の舞台に上がることは異例のこと。劇団☆新感線を始めとして多くの舞台を踏んできた生田がなぜ、新しい挑戦をするのか。

ドキュメンタリーの中でのインタビューで、生田は「自分のお芝居に飽きてくる瞬間がたまにある」と言う。

「また同じ芝居やってんな、とか悲しいときってこういう顔してるな、楽しいときってこういう顔してるな、また俺同じパターンやってるよ、って悲しくなってしまう瞬間がたまにある」

歌舞伎という新しい世界で俳優としての殻を破りたい。同じ状態では満足しない。
年齢を重ねていく中で、どうやって俳優・生田斗真を改革し続けていくか。

生田と同世代からするとドキリとする言葉でもある。同じような仕事の仕方で良いのか、楽なほうに流れてしまいがちなところをどう変えていくか(これは同ドキュメンタリーの中でインタビューに応じていた小栗旬も述べている)。

生田斗真と、尾上松也のドキュメンタリーではある。が、30代から40代が観ると必ず何かが刺さるドキュメンタリーでもある。

–{どの作品にも「同じ生田斗真」はいない}–

どの作品にも「同じ生田斗真」はいない

生田の「また同じ芝居やってんな」という言葉から思わず振り返ってしまうのは、彼が出演したこれまでの作品である。

彼らが本気で編むときは、』ではトランスジェンダーの介護士役、『先生!、、、好きになってもいいですか?』では女子高生に想いを寄せられるクールな世界史教師役。かと思えば『土竜の唄』ではぶっ飛んだ潜入捜査官を演じている。新たな作品を観るたびに「これも生田斗真なのか!」と驚かされる。

しかし、ドキュメンタリーを観たあとだと、それぞれの役にたどり着くまでに想像以上の作り込みがあったのだろう、ということが想像できる。

きっと、「どの作品の生田斗真が好きか」というアンケートを取れば大きく分かれるだろう。サイコパス役も演じていれば、光源氏も演じている。生田斗真というベースにはどんな役も乗せられるのではないか。

そんな中、記憶に新しいのは『元彼の遺言状』だ。綾瀬はるか演じる剣持麗子の元彼である森川栄治と、栄治の兄・富治を演じた。容姿がよく似ているため、人違いされることが多いという設定だが、朗らかな栄治と、落ち着いていてどこか人生を達観しているように見える富治は明らかに別人だ。このドラマを生田本人が観たとき、どのような感想を抱いたたのだろう。果たして、俳優としての殻は破れたのか。

三度目の大河、「鎌倉殿の13人」

そんな生田が大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に源仲章役として出演する。「軍師官兵衛」の高山右近役「いだてん~東京オリムピック噺~」三島弥彦役に続いて三度目の大河出演となる。

仲章は後白河法皇の近臣・源光遠の子。のちに後鳥羽上皇に使えながらも、源実朝の教育係となって幕府にも出入りする。キャスト発表時のコメントによると、「スパイのような役回りをしていたのではないかと言われる人物」だという。

緊迫する幕府と京の間でどのような立ち居振る舞いを見せるのか。

「義時と上皇の間で暗躍」というが、義時を演じるのは生田とも親交がある小栗旬。そして後鳥羽上皇を演じるのは尾上松也だ。同世代で切磋琢磨し合う役者たちが鎌倉を舞台にどのような物語を展開してくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

同時にこの世代の役者たちの今後の活躍に、胸が高鳴る。

(文:ふくだりょうこ)