2022年4月11日より放映スタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。
沖縄の本土復帰50年に合わせて放映される本作は、復帰前の沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかける主人公と支え合う兄妹たちの絆を描くストーリー。「やんばる地域」で生まれ育ち、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見出していくヒロイン・比嘉暢子を黒島結菜が演じる。
cinemas PLUSでは毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事では<東京編>となった26回から50回までの記事を集約。1記事で感想を読むことができる。
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- もくじ
- 第26回:暢子、東京へ!(でも鶴見は神奈川)
- 第27回レビュー
- 第28回レビュー
- 第29回レビュー
- 第30回:まさかやー
- 第31回:朝8時から深夜11時まで連続10日間働く暢子
- 第32回レビュー
- 第33回:恋と料理勝負と
- 第34回:石川(山田裕貴)が良子(川口春奈)にプロポーズ
- 第35回:暢子VS房子 ペペロンチーノ勝負
- 第36回:あれから1年半……再び、クビ宣言
- 第37回:暢子と和彦、10年ぶりの再会
- 第38回:和彦の取材、歌子のオーディション
- 第39回:オーディション、出産、記事探し
- 第40回:料理人の最後の晩餐とは…
- 第41回:暢子、店の味を変える
- 第42回レビュー
- 第43回:おでんは前途多難、ニーニーはまた金の無心
- 第44回:お父さんの思い出が出てくるとホッとする
- 第45回:暢子、料理の基本に立ち返る
- 第46回:暢子、5年めで花形ポジションへーー
- 第47回:「ちむどんどん」に恋のターン、到来?
- 第48回:優子と歌子が上京
- 第49回レビュー
- 第50回:暢子、ストーブ前をゲット
- 「ちむどんどん」作品情報
もくじ
第26回:暢子、東京へ!(でも鶴見は神奈川)
第6週「はじまりのゴーヤーチャンプルー」(演出:木村隆志)は比嘉暢子(黒島結菜)が1972年、5月15日、沖縄がアメリカ統治から日本に返還された日に東京にやって来ます。
まずは銀座に降り立ちました。72年の5月15日は月曜日でしたが、先に上京していた前田早苗(高田夏帆)に迎えられた日は日曜日のようです。銀座が歩行者天国です。当時は、沖縄から東京まで行くのにどれくらい時間がかかったのでしょうか。いや、筆者の認識不足で当時はいつでも歩行者天国ぽかったのかもしれません。
通りではカップ麺を食べている人がいて、おそらくまんぷくラーメンではないかと想像します。やんばるの共同売店にも置いてありましたね。
人、人、人でごった返した雰囲気に慣れない暢子はいきなり「やんばるに帰るー」と叫びますが、イタリアンレストラン・アッラ・フォンターナに早苗が連れていってくれてたちまち機嫌が回復します。
アッラ・フォンターナはすごく素敵なところで、オーナー・大城房子役は原田美枝子さん、料理長・二ツ橋光二役は高嶋政伸(たかははしごだか)さん、店員・矢作知洋役は井之脇海さんと豪華キャスティングです。ランチも美味しそう。
8年前、暢子が那覇のレストランで食べた海鮮サラダの美味しさの正体ーーオリーブオイルを知ります。
8年前の味をちゃんと覚えているのがすごいですね。
オーナーも料理長もお客さんチェックが鋭く、気が利きまくりなのですが、「ここでの食事もきっと最初で最後ね」と決めつけたり、「まさかやー様」とか若干、ばかにしたように呼んだり、なんだかすこし上目線な気もしつつも、最初は主人公に冷たい感じに見せて……というパターンでしょうからスルーします。
美味しいものをおごりで食べて「やんばるのみんなにも食べさせてあげたい」と暢子がつぶやくと場面は沖縄へ。良子(川口春奈)や歌子(上白石萌歌)の近況が描かれました。これからもこんな感じで、東京と沖縄が交互に描かれそうですね。
なにはともあれ、美味しそうな料理が出てきて楽しくなってきたところ、またしても暗雲。賢秀(竜星涼)のボクシングジムを暢子が訪ねると、すでに彼の姿はありません。借金したまま消えてしまったとか……。
兄が時々飲みに行っていたと聞いて鶴見に探しにやって来ていきなり酔っぱらい数人にからまれる暢子。早苗に泊めてほしいと電話したら違う人が出たのもなんだか不穏です。
実際だったら洒落にならない猥雑なシチュエーションを童話調にやわらかめに描いているつもりなのでしょうけれど、子ども向きの娯楽だってこわいところはそれなりにこわく描くからこそ物語の意味を成すわけで。自然のない都会をもっと極端に暢子にとってこわいものとして豊かに表現できたらいいのになあと思ったりしました。
さすがに「千と千尋の神隠し」みたいにしてとは言いませんが。暢子をプリキュアのキャラのように置き換えると、酔っぱらいにからまれて長い手足を振り回して脱兎のごとく走るというシチュエーションが似合いそうなんですけどね。
朝ドラをたくさん観てきて思うのは、社会性のある難しい題材を描くことに迷ったとき、ほんのちょっとだけ要素を出しながら深く追求しないというパターンに逃げがちだと感じます。それだと知っている人には物足りず、知らない人にはまったく伝わらない。朝ドラの今後の課題は、難しい問題をどうやったら難しくなさ過ぎず、でも逃げずに、たくさんの人たちに伝えるか、その方法を考えることではないでしょうか。
とはいえ、沖縄問題にもっと切り込むべきだとも筆者は思いません。70年代の沖縄を舞台にして、でも複雑な問題だから触れないっていうどっちつかずなムードが視聴者を不安な気持ちにさせると感じているだけです。まさかと思いますが、この”どっちつかず”に沖縄の状況を重ねているのでしょうかね。
比嘉家に借金がつきまとってくるのは、未だに「半沢直樹」ヒット幻想(金融もの+逆転劇が好まれる)を引きずっているのかなという気もしないではありません。
でも、安里会長(具志堅用高)の言葉「人生のリングでは簡単にダウンするな」のように「ちむどんどん」も余計なお世話ですがダウンしないで。勝負はこれから〜
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第27回レビュー}–
第27回レビュー
暢子、沖縄県人会会長に救われる
泊まる当てがなく横浜・鶴見に来て酔っぱらいにからまれ雨にまで降られ……と上京第一日めで暢子(黒島結菜)ピンチ!……となりそうなところ、三線の音色に導かれたどり着いた先は、沖縄県人会会長・平良三郎(片岡鶴太郎)の立派なお家。
沖縄県人の二世である三郎は何かと同県人の世話をしていました。沖縄二世として苦労があったらしく、困っている沖縄の人を見逃せないようです。
「ちむどんどん」では本土に暮らす沖縄の人にフォーカスするのでしょうか。脚本家の羽原大介さんは「マッサン」で日本に来た外国人・エリー(シャーロット・ケイト・フォックス)を描いているので、異なる文化の出会いを描く視点は備わっていることでしょう。
暢子は日本そばをご馳走になり、泊めてもらい、就職も世話してもらいます。その就職先はあのイタリアン・レストランという奇遇。オーナーの大城房子(原田美枝子)も二世でした。
朝ドラヒロインあるある、場当たり的行動と運の良さ。「あさイチ」の博多大吉さんがそれを「準備不足」と指摘してSNSで盛り上がっていました。
はじめて外国旅行に行くときなど、電車の乗り方や電話のかけ方、電圧や貨幣の違いなどを事前にしっかり確認していくものだと思うのですが(筆者はたくさんメモしてリスト化しました)、暢子はそういうのが全然なく、市外局番のない早苗(高田夏帆)の電話番号にかけて間違い電話になってしまいます。
土曜日の総集編の第5週ではジョン・カビラさんが暢子と同じ72年にはじめて東京に来たとき「最寄りの駅に電車を観にいきました」と語っています。沖縄には電車がなかった? ということは暢子は電車に乗るのもひと苦労あるいは大興奮だったことでしょう。
本土復帰したばかりの沖縄から東京行きは、やっぱり海外旅行のようなものだったと思います。むしろ暢子の何も準備せずに飛び込んでいく感じは頼もしいです。
平良三郎役の片岡鶴太郎さんはボクシングもやっていたからジムの会長役でも良かった気がしますが、その役は具志堅用高さんというプロがいるので、県人会会長に落ち着いたという感じでしょうか。三郎さんもボクシングもやっているかもしれませんね。
で、やっぱり、今日もお金の話
沖縄では良子(川口春奈)と石川(山田裕貴)が打算的な結婚について語り合っています。あのマウント女・里見(松田るか)はお金持ちと見合いしたそうです。
「結婚は家と家の経済的な結びつきという面もある」
石川は頭ごなしに批判はできないと言います。
これで良子と石川の仲を割く人はいない……と思いきや、良子にしつこく言い寄る金吾(渡辺大知)がいます。良子も家族のために打算的な結婚をすることがすこし頭をよぎっているようです。賢秀(竜星涼)が借金して失踪してしまったことがわかったからです。
悩む良子は風呂を沸かしながら、歌子(上白石萌歌)と語り合います。「おかえりモネ」(2020年度前期)では東京編の主舞台が銭湯(をリノベーションした下宿)が舞台だったにもかかわらず一度も出てこなかったヒロインやメインキャストの入浴シーン。
「ちむどんどん」では上白石萌歌がなくても問題なさそうな入浴シーンに臨みました。などと注目したらハラスメントになるのでしょうか。などと考えることも織り込み済みで作っているのでしょうから、軽く触れるだけにしておきます。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第28回レビュー}–
第28回レビュー
暢子(黒島結菜)はアッラ・フォンターナで料理のテストを受けることになりました。
結果は合格。
すごいぞ暢子。
でも、味覚は合格で、まだ次のテストがありました。
第2テストでは残念ながら落ちてしまいますが、もう一度チャンスをもらいます。
料理が大好きな暢子はちむどんどんしている一方で、沖縄の比嘉家は借金問題が洒落にならない状況になっています。
賢秀(竜星涼)の借金をボクシングジムに返済するためまた借金したいので賢吉(石丸謙二郎)に保証人を頼む比嘉家。ええ〜 叔父さんじゃなくても呆れますよ。
賢吉は良子(川口春奈)にお金持ちと結婚しろと言いだし、そこへタイミングよく金吾(渡辺大知)が親・銀蔵(不破万作)を連れてやってきて……。
「火の車から抜け出す最後のチャンス」と賢吉は大喜びです。
賢吉はいつも比嘉家に厳しいけれど、こんだけ借金しても怒りながらもつきあっているから根は悪くないのではないかという気がしてきます。というか実はお人好し?
比嘉一族、根本的に経済の仕組みというものを理解していないのではないかと思えてきます。もちろんちゃんと理解してない人が少なくないとはいえ(筆者もわかっていませんが)、お金に限りがあると思っていないのではないでしょうか。
この手の、真っ直ぐで貧しい主人公、悪人、お金持ち……等々の類型的キャラクターによるドタバタは、コントのようです。劇伴もコントふうで、お料理のときの楽しい曲、ちむどんどんするときのぐいぐいくる曲、哀しいときのものすごく悲しげな曲……と曲がすごく立っています。
たとえば「LIFE!」のようなコント番組であればそれでいいのでしょうけれど、”連続テレビ小説”と名乗っている以上はそのコンセプトに則って作ってほしいなあと思うのですが、どうでしょうか。
”朝ドラ”は愛称であって、正式なシリーズ名は連続テレビ小説なのです。NHKの広報さんに原稿を見せると必ず「連続テレビ小説」と付け加えられるのです。
筆者は60年を超える歴史ある番組へのリスペクトの意味をこめて自主的に原稿の最初には ”朝ドラ”こと連続テレビ小説”と書くようにしています。
原田美枝子さんや高嶋政伸さんは、その物腰から、役の人生がただよってくるような重厚な演技を見せてくださっていますのでもったいない。
いっそのこと、たまにコントもやる幅広い”朝ドラ”にリニューアルしまうのも良いのではないかと思います。そして、今回の朝ドラはコントです。とあらかじめ宣言してほしい。そうすれば、リアリティーを求めて頭を悩ますこともなくなります。
朝のそれなりに大事な15分、まちがい探しみたいなことばかりに時間を使うのは残念なので、誰もが楽しめて、ほっとできて、ちょっぴり勉強にもなる部分もあるような時間を作ってほしいなあと願います。例えば、今回の「ちむどんどん」だったら、沖縄のことをもっと知りたいなあと大人も子供も思うようなそんな気持ちにすっとなれるようなものを。
それでも黒島結菜さんの一生懸命さや笑顔はすてきです。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第29回レビュー}–
第29回レビュー
原田美枝子さんの堂々たる姿よ
すばらしいです。イタリアンレストランアッラ・フォンターナのオーナー・大城房子役の原田美枝子さんは「ちむどんどん」のコントのような雰囲気にいっさい流れることなく、上品で毅然とした王妃のように存在しています。
氷の女王のように冷たく見えますが、比嘉暢子(黒島結菜)が敗者復活テストで沖縄そばを作ると、ほんの少しだけ微笑んだように見えます。
それから、暢子が形見に持っているお父さん賢三(大森南朋)の包丁を見たときの意味深な表情。物語が立ち上ります。
俳優はセリフがなくてもその前後左右になる物語を感じさせるのも大切なお仕事です。料理長・二つ星じゃなくて二ツ橋光二役の高嶋政伸(たかははしごだか)さんも房子の忠実な理解者なのでしょう。房子が厳しい分、フォローに回る役割を担っているように感じます。
高島さんはエキセントリックな役もお似合いですが、”忠実”な役もバツグンです。
”ニーニーのことは置いといて…”「あさイチ」渾身のテロップ
お父さんの言葉を思い出して敗者復活テストでおいしい沖縄そばを作った暢子は無事合格。下宿は鶴見の沖縄料理店あまゆの2階に決まりました。
あまゆとは沖縄の言葉で「甘い世の中 苦しいことのない世界」という意味。
苦しいことのない世界。あったらいいですよね。
労働者の街・鶴見はリトルオキナワ。沖縄から来た人たちが集まって助け合って暮らしている場所で暢子も守られていくのでしょう。県人会会長の平良三郎(片岡鶴太郎)が保証人で安心。
同じ沖縄の人でも、本土で生まれて沖縄そのものを知らない二世もいるし、考え方の違う人がいて争ったりもするようです。それをとりまとめるのが三郎。弱い者が助け合う。その精神を持っています。
1階のお店・あまゆは沖縄ムード満点。三郎の弾く三線の伴奏でみんなが盛り上がると、暢子は賢三の幻影を見ます。
賢三は沖縄の心であり、暢子の人生の指針として包丁に宿り暢子を見守ってくれることでしょう。
ちょっとホッとしたのもつかの間、お店にニーニーこと賢秀(竜星涼)がやって来て……。
勘定払わず帰ったにもかかわらずまた飲みに来ているという相変わらずの調子の良さですが、暢子は「ニーニー」と抱きつきます。
感動の再会。でもニーニーは疫病神や貧乏神のような存在なので不安しかありません。
今日の一回くらいは暢子のいい話だけで終了しても良さそうなところ、ニーニーが出てきたため、また心がざわつきました。邪気がいっさいないので嫌いにはなれない人物なんですけどね……。
「あさイチ」では朝ドラ受けはなく、その代わり、冒頭のテロップに「ニーニーのことは置いといて…」と入っていました。テロップなので事前に用意したものでしょう。スタッフの人たちも協力的ですねー。新たな朝ドラ受けのスタイルが発明されて、今日も日本は平和です。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第30回レビュー}–
第30回:まさかやー
「ちむどんどん」第30回は主題歌「燦燦」からはじまって、清らかな気分になりました。
オープニング開けは、良子(川口春奈)の入浴シーン。まさかやー。歌子(上白石萌歌)に続いて良子。サービス、サービス〜としか思えません。
残るのは暢子(黒島結菜)の入浴シーンのみです。いつかあるでしょうか。そんな暢子は鶴見でニーニーこと賢秀(竜星涼)と再会。彼はちゃっかり(?)暢子の下宿に泊まります。お勘定はどうしたんでしょうか。
並んで寝ながら、ニーニーと話す暢子。良子の結婚に反対な理由は結婚したら家族がバラバラになるから。自分は東京に出てきてるのに。暢子はその矛盾に気づいていません。でも人は矛盾のなかで生きているものなのです。
朝、ニーニーは暢子の所持金をもって「部(倍)にして返す」と置き手紙して姿を消します。漢字も相変わらず間違えています。その後、ギャンブル(競馬)してました。まさかやー
ニーニーのこの感じが、誤振り込みされた4630万円をネットカジノにつぎ込んでしまったという2022年の現実の事件とかぶります。ある意味、時代を読んだドラマとも言えるでしょう。
いつの時代でもお金の常識が通用しない人がいるのです。
困ったニーニーでも家族。ひとりよりいてくれたほうがいいって感じ、これは依存ではないでしょうか。でも、依存はだめと説くのではなく、良いことも悪いこともその人の選択に任されているのだと、良子のエピソードが物語ります。
冒頭で入浴していた良子は、目下、結婚問題で悩み中。家の経済状態を打開するため資産家(金吾〈渡辺大知〉)との結婚を視野にいれていますが、石川博夫(山田裕貴)のことが気になって決めきれません。
「弱いわけさぁ、結局。だからすぐ誰かに意見を求める。打算に傾くのか。善か悪か。とっくに結論は出てる。だけど人生には打算的にならなきゃならない場面もある。その矛盾をひとりで乗り越えられない。誰かに背中を押してもらいたいと願ってる」
良子の言う”矛盾”こそ、回想シーンとして出てきた、父・賢三(大森南朋)が生きてきた頃、家族で食べたゴーヤーチャンプルーの苦い味と同じなのでしょう。
善と悪、わかっていても、選ばざるを得ないこともあるという人生の苦さを喜劇仕立てで描く「ちむどんどん」。はたして入浴シーンは善か悪か。「ちむどんどん」の来週の展開に期待しましょう。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第31回レビュー}–
第31回:朝8時から深夜11時まで連続10日間働く暢子
「ちむどんどん」第6週「ソーミンチャンプルーVSペペロンチーノ」(演出:松園武大)は華麗な劇伴ではじまりました。
イタリアンレストラン〈アッラ・フォンターナ〉で雇ってもらえた暢子(黒島結菜)ですが、オーナー・大城房子(原田美枝子)はスパルタ。朝8時から深夜11時まで連続10日間働くことを命じます。新人だからと手加減なし。
慣れない仕事にすっかり疲れきってしまう暢子。失敗して怒られたり寝坊して遅刻したりしますがへこたれません。
暢子の発する沖縄の言葉がどれも明るいトーンなので暗い感じにならないのがいいですね。
厨房の先輩たちは暢子を「まさかやー」とあだ名をつけ、彼女がいつ辞めるか賭け始めます。
職人の修業の道は厳しいものとはいえ、いくらなんでも房子は厳しいと思って観ていると、二ツ橋(高嶋政伸〈たかははしごだか〉が視聴者の気持ちを代弁してくれました。すると房子が「因縁がある」と意味深な言葉を……。
房子の思惑を知る由もない暢子はどんなに疲れても、沖縄に電話するときは弱音を吐きません。「うちは元気もりもり」と「職場も下宿もみんないい人で何も心配ないよ」とけろっとした言い方をします。それが彼女らしさなのでしょう。
10日連続出勤してやっと休める日も、下宿の店の手伝いをする暢子。えらい!
暢子からの電話を受けた良子(川口春奈)も悩みを抱えていますが、心配させないように明るく振る舞っています。
比嘉家はみんな弱音を吐かない人たちばかりです。
良子は相変わらず金吾(渡辺大知)に追いかけまわされています。今回は
山本リンダの「どうにもとまらない」の曲に合わせて、お店のなかをくるくる追いかけ回されたすえ、指輪を差し出されるという流れがテンポよく楽しく観ることができました。
理屈ばかりで煮え切らない石川(山田裕貴)よりもお金持ちで人がよさそうな金吾のほうが良いと考える視聴者が増えているようです。
最初は、しつこく追いかけ回す金吾がうざく、知的で紳士的な石川のほうが
素敵に見えていたのですが、人間ってわからないものですね。表面的な印象だけで判断してはいけない気がします。
「ちむどんどん」の魅力ももしかして金吾のようなものかもしれません。
ちなみに、神奈川県・鶴見から銀座って遠くないの? と思って調べたら、
2022年の時点では3、40分で行けるようです。70年代だともうちょっとかかるかもしれませんね。
深夜11時まで働いて帰宅するのは0時過ぎてしまうのではないでしょうか。暢子は気力と体力は人一倍ありそうなので、きっと大丈夫。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第32回レビュー}–
第32回レビュー
智(前田公輝)がニーニーだったら……
智が沖縄から鶴見にやって来ました。こっちで働くことにしたのです。沖縄料理店あまゆで智と暢子(黒島結菜)の歓迎会が行われました。
あまゆ常連たちの苦労話を聞く暢子。智は大阪までの交通費しかなく、いったん大阪で重労働して稼いでから来たと言います。
智がニーニーこと賢秀(竜星涼)だったら良かったのにと心から思う瞬間。彼がこんな状況ということはニーニーはどうやって東京に来たのでしょう。暢子だって東京にちゃんと来ることができていました。やっぱり比嘉家はなんだかんだで意外と蓄えがあるのでしょうか。
それとも、以前、ニーニーがこっそり働いていた姿を智が目撃していたように、ニーニーもこっそり短期重労働してお金を細々と得ながらなんとかやっているのでしょうか。そういうところを決して人には見せず陽気に振る舞っているのでしょうか。
でももう彼が出て来ると、暗澹たる気持ちになるようになってしいました。今日もまた……
オーナーに勝負を挑む暢子
比嘉家はなにかちょっと空気が読めない人たちの集まりです。主にニーニーと暢子ですが。
10日間連続労働の後の休み明けも暢子はへこたれず出勤します。ある日、暢子は大城房子(原田美枝子)に「オーナーは自分で料理しないくせに偉そうです」と言い放ち、ペペロンチーノ勝負を挑みます。
暢子としては賄いを作ることが昇進試験であると聞いて、勝負してみたいと心はやっただけなのでしょうけれど、ちょっと遠慮がなさすぎです。
雇ってもらった相手に「自分で料理しないくせに偉そうです!」はないですよねえ。上下関係のないフラットな考え方とも言えば聞こえがいいですが、そこまでかばいきれません。
「みんなそう言ってます」と言うのも感心しません。暢子は鶴見の人たちから房子の悪口を聞いたのでそう言ったわけですが、厨房の人たちはぎょっとなります。内心そう思っていてもそんなこと房子に知られたくないに
決まっています。
カチンとなる房子。このときの彼女はよそいきの澄ました口調がやや崩れ、
やんちゃな性格がのぞきます。成功して県人会を辞めて、いまは上品ぽく振る舞っていますが、きっと勝ち気な叩き上げなのでありましょう。原田美枝子さんは上品でやさしい印象の役が多いですが、意外とやんちゃ感も似合います。
その頃、良子は……
バスのなかで泣くはめになっています。喜納金吾(渡辺大知)との結婚を石川博夫(山田裕貴)に相談しますが、相変わらず煮えきらず……。
良子と石川のシーンだけトーンが違い、オーソドックスな昭和の朝ドラ風味です。
暢子やニーニーのターンが平成朝ドラ風味。沖縄と東京も行ったり来たりで、一粒で二度も三度も美味しい朝ドラを目指しているのでしょうか。
工夫は感じつつも、和食と沖縄料理とイタリアンといろいろ並んだ朝のバイキング形式は目移りしちゃうんですよねえ……。
ところで、朝ドラ送り
視聴者の気持ちを代弁するような「あさイチ」の「朝ドラ受け」が好調です。
一方、高瀬アナが抜けた「おはよう日本 関東版」は「朝ドラ送り」の試行錯誤中。
昼のニュースの朝ドラ再放送明けの表情がニュアンスがあって人気だった三條アナの「送り」が期待されています。
今朝は、房子と賢三(大森南朋)との「因縁」について「新聞記者になった和彦くんが何か調べてくれるんじゃないかなあと勝手に期待」とコメント。
今後出て来る和彦(宮沢氷魚)についての話題がちょっと早い感じでした。ニュースキャスターとしての情報の取り扱いの速度はさすがです。でも朝ドラに関してはもうちょっとゆっくりめがいいかもしれません。視聴者目線はレビューでも大事なところなので自戒もこめて。その点、あさイチコンビの「受け」はすっかりコツを掴んでいる感じです。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第33回レビュー}–
第33回:恋と料理勝負と
暢子(黒島結菜)は無謀にもオーナー・大城房子(原田美枝子)に料理勝負を挑みます。
暢子が勝ったら賄いを作らせてもらえる。負けたらクビ。かなりハイリスクな勝負ですが、暢子は課題のペペロンチーノの試作に励みます。
シンプルだけど奥が深いペペロンチーノ。あまゆの主人夫婦・金城順次(志ぃさー)、トミ(しるさ)と智(前田公輝)に味見をしてもらいながら、何度も何度も作ります。
シンプルとはいえ炭水化物。7回も食べたら、美味しさなんてわからなくなりそうですが……。
智がなんとかお金を作ってまで鶴見にやって来たのは暢子が気になっているから。就職先もアッラ・フォンターナと関わることのできるところを選んだと遠回しに言ってみるものの、暢子は料理に夢中で智の話をまったく聞いていません。
切ない智。このままずっと暢子をひそかに守る役割及び、ニーニーにはない勤勉さを発揮する役割のみで終わってしまうのでしょうか。
その頃、沖縄では、良子(川口春奈)が喜納金吾(渡辺大知)と結婚することを決意しますが、歌子(上白石萌歌)は良子が完全にふっきったとは思えなくて石川博夫(山田裕貴)に会いに行きます。
歌子「幸せ……ですか?」
石川「ごめん そういう勧誘には興味なくて」
このやりとりはちょっとおもしろかった。
恥ずかしがり屋で人見知りの歌子が勇気を出して、石川に良子を止めてほしいと頼みます。
姉のために健気な行動をとっている歌子とは大違いで、ニーニーこと賢秀(竜星涼)は喜納銀蔵(不破万作)に石川に手切れ金を渡すと持ちかけて……。
「まさかやー」です。
賢秀には「悪い」という概念がないのでしょう。じつに無邪気に見えます。
悪びれない賢秀を見ていると労働とお金の常識は誰かが勝手に決めたことであり、それが正しいわけではないのではないかという思いがよぎります。
お金なんてもっと流動的でよくて、資産家のところに集まり過ぎているのではないか。だから必要な人がもっと気軽に借りられるようになるべきなんじゃないか。そんな根源的なところに立ち返ってゆくのです。
「ちむどんどん」はペペロンチーノのように単純に見えて奥深いドラマなのかもしれませんよ。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第34回のレビュー}–
第34回:石川(山田裕貴)が良子(川口春奈)にプロポーズ
石川「別れてない」
賢秀「何? 別れてないわけ?」
石川「別れるどころかまだつきあってもいません」
第33回の「幸せですか」に続いて2日連続、笑える冴えたセリフがありました。
良子が喜納金吾(渡辺大知)と結婚することを決め、両家の顔合わせをしているところに石川が現れます。
手切れ金と偽って銀蔵(不破万作)からお金をもらっている賢秀(竜星涼)は
焦って石川の邪魔をしますが、名前も知らなくて勝手に「中村」と呼びます。ここもおもしろかった。
今まで口数の少なかった石川がいろいろな思いをぶちまけます。
「良子のことが好きだから!」って伝説の月9「101回目のプロポーズ」(91年)の武田鉄矢さんの「あなたが好きだから(僕は死にません)」みたいなテンションでした。ちょっと古い?(なにせ30年前)。どちらかといえばチャンドンゴンの「死ぬほど好きだから」のほうでしょうか。
それはともかく。石川の言葉に涙する良子のアップが美しい。
結婚する決意をした良子と石川を見て、金吾は意外とあっさり祝福して去っていきます。去り際の笑顔が爽やかでした。
もともと良子につきあっている人はいないのかと確認していた金吾。ほかに好きな人がいるなら身を引くという極めて紳士的な考え方の持ち主なのです。
銀蔵もさほど怒らず、手切れ金のことも追求しません。
優子(仲間由紀恵)は良子に「謝らないでいいよ」と寛容です(顔合わせのため着物を着ていてそれが素敵でした)。
すてきな劇伴がかかってなんかいいムードに流されてしまいますが、よくよく考えると、比嘉家は喜納家の好意を軽〜く踏みにじっています。
思えば、暢子が就職を決めたときも、東京で料理人になりたいと就職先の人もいる前で公言していて、比嘉家の人たちは、好意を示してくれている人たちに遠慮なくやりたいことを追求する。
家族の絆は重く受け止めるけど他人の好意の価値を軽んじているように見えるんですよね。
会社の人も喜納家もさほどダメージはないでしょうけれど、一番、迷惑を被っているのは、世話役の善一(山路和弘)ではないでしょうか。たぶん、いつだって善一が各所に頭を下げてまわっている気がします。
いや、でも金吾は最後は笑って身を引いたとはいえそれなりに傷ついていると思うのです。
他人に頼ったすえ、ちゃぶ台返しする態度を幾度も繰り返す比嘉家。このように自分たちの幸せを優先しまわりに配慮のない人物を観ると筆者は胸がちくりとうずきます。
おそらく、SNSで比嘉家の生き方が指摘されがちなのは、常に自分ファーストで他者に配慮がない比嘉家の人たちの行動が苦手だと感じる人が少なくないからではないでしょうか。
とはいえ、他人を気にしてやりたいことを我慢することはありませんし、他人を巻き込まないように熟考しながら生きていきたい。「ちむどんどん」ではそんな堅苦しいことを考えてがんじがらめになっている人に違う視点を提示します。
他人をどんどん頼るべし。
そして違うと思ったら他人に遠慮しないで方向転換していい。
人は持ちつ持たれつである。
お金は天下の周りもの。
だから賢秀は手切れ金としてちゃっかりせしめたお金をもって颯爽と家を去って行くのです。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第35回レビュー}–
第35回:暢子VS房子 ペペロンチーノ勝負
暢子(黒島結菜)とオーナー大城房子(原田美枝子)の料理勝負が行われました。
課題はペペロンチーノ。
まず暢子は、母・陽子(仲間由紀恵)のソーミンチャンプルーの味を生かし、島にんにくを使いました。
結果は好評。さすが、暢子、料理のセンスがあります。
次は房子の番です。
房子はペペロンチーノにシークワーサーの皮を使いました。後味がよくて絶品、暢子は潔く負けを認めます。
暢子は美味しさが基準なのでそこに感情は入りません。美味しいものの前では誰もが平等。
シークワサーは暢子の好物。それを暢子が使わず、房子が使うとは皮肉であります。それも暢子が厨房に持ってきたものでした。
「料理の基本は目の前にある材料を最大限に引き出す。そしてなにより食べる人のことを第一に考えること」
房子が料理の話をするときの表情はいつものクールな顔とは違ってとても楽しそう。料理が好きなのがわかります。
食べる人のことを考えて、2食目のペペロンチーノだから軽い口当たりのものにしたという房子。智たちに7皿も味見につきあわせる暢子とは大違いであります。
房子は戦後、闇市から包丁一本でたたきあげてきた伝説の料理人だったらしいのです。
「闇市」というワードが出るとたちまち骨太が香りが……。房子は戦争経験世代なんですね。
勝負に負けた暢子ですが、クビにしないでくださいと頼み込み、わりとあっさりクビの皮が繋がりました。
その後はさくさく話が進み、半年後、良子(川口春奈)の結婚式が行われ、暢子はいったん沖縄に帰ります。
式には賢秀(竜星涼)は参加しないで手紙(誤字あり)だけ届きました。彼はビッグなビジネスをはじめようとしているとか……。
ビッグとピッグを掛けているのか。それはともかく、賢秀が出てくると、良くも悪くもほかのシーンの余韻が吹っ飛んでしまいます。行動は決して感心できるものではないですがなかなかキョーレツなキャラで、注目せざるを得ません。
賢秀の場面を辛みとニオイの強い”にんにく”だとすると、ラストの雪は房子の”シークワサー”のようなもので後味をよくしました。
料理勝負、良子の結婚(大叔父さんも喜んでた)、ニーニーといろんな味が混ざっていたのをラストに雪の清らかさとはじめて見る雪にはしゃぐ暢子の無邪気さで爽やかに。
どんな人でも、工夫次第でその味を生かすことはできる。「ちむどんどん」ではそこに挑んでいるのかもしれません。
第8週からはまた違うお料理が出てきそうですよ。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第36回レビュー}–
第36回:あれから1年半……再び、クビ宣言
1973年、10月、暢子(黒島結菜)がアッラ・フォンターナに勤めはじめて1年半が経ちました。
前菜の一部を任されるようになったものの、料理以外の知識がかなり不足している暢子。その日の新聞を野菜を包むのに使ってしまったり(新聞を読まないから気づけない)、大事なお客様で演劇評論家の淀川春夫(本田博太郎)相手にとんちんかんな会話をしてしまったり。
ここで淀川先生が”演劇評論家”設定なのが70年代だなあと感じます。この頃は演劇の文化的価値がいまより全然高かったのであります。
暢子は東京に来て1年半も働いていてもまだ全然洗練されていません……さすがにもうすぐ2年だったら、少しは常識も覚えるのではないかという気もしないではないですが、1年半って意外と過ぎるのは速いので暢子も前菜が作れるようになるまで大変だったと思うことにします。
オーナー大城房子(原田美枝子)は暢子の無教養が許容できません。再び「クビ」発言。とはいえ彼女は「クビ」と言うけれどすぐに取り下げて代わりの条件を出してくる。暢子を試しているのでしょう。
クビの代わりに、新聞社でバイト(ボーヤ)することになった暢子。全然違う環境であたふたがはじまりました。
ある程度の教養や知識をもった者から見たら、暢子や賢秀(竜星涼)は無知、無教養に思えて顔をしかめざるを得ませんが。少なくとも暢子には知識を与える人物(房子)が現れたのです。
房子自身、小学校しか出ていないにもかかわらず勉強して広い知識と視野を手に入れました。そういう先輩を見倣って暢子も立派な教養ある料理人に成長していくのでしょうか。
筆者が以前、とある人気占い師に取材したとき、多くの人の悩みは主として知識が不足しているから起こることで、知識を持ってほしいと語っていらっしゃいました。家庭のこと経済のこと、知識があれば自身で解決できることもあるのですが、それがないとたちまち迷路に入ってしまうのです。
比嘉家の混迷の要因はこの知識不足によるものでしょう。本来、比嘉家には教師をやっている知識ある良子(川口春奈)がいるわけですが、彼女が家族を導くわけにもいかず。ひとりひとりが勉強しないとならないのです。そして良子も結婚して妊娠し子育てのために教師を辞める選択をします。
その頃、歌子(上白石萌歌)が歌手のオーディションを受けようかと考えはじめていました。そこでラジオからかかっているのは南沙織の「17歳」。71年にデビューした沖縄出身のトップアイドル歌手であります。歌子はこんなふうになりたいと憧れているのでしょう。南沙織こそ、沖縄の一番星☆
一番星を目指す賢秀がビッグなビジネスを目指して働いている養豚場でも「17歳」がかかっています。おそらくですが、同じ曲をかけることで、同じ時期であることを表しているのではないかと思います。
何ひとつ長続きしない賢秀が長居するつもりはないと言いながら1年半も養豚場にいるとは珍しい。彼もいよいよ一番星になれるチャンスが来たのかもしれません?
淀川先生役の本田博太郎、東洋新聞社のデスク・田良島甚内役の山中崇が軽妙なせりふ回しでキャラを立たせて場面を弾ませます。新展開に期待。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第37回レビュー}–
第37回:暢子と和彦、10年ぶりの再会
第8週「再会のマルゲリータ」(演出:中野亮平)では、オーナー大城房子(原田美枝子)が暢子(黒島結菜)の教養のなさに業を煮やし、東洋新聞社に送り込みます。
そこはアッラ・フォンターナの厨房とはまた全然違う喧騒が……。目の回る忙しさのなか、新聞記者になった和彦と再会!
喜んでいると、和彦は暢子の下宿にまで引っ越してきて、一気に10年の空白が埋まったようでした。
ひよわそうだった和彦がしゅっとかっこよくなって、記者としても優秀そうな雰囲気を漂わせ、もうそれだけで気分のいい第37回。
彼がなぜ鶴見に住んでいるのか、その理由なども述べられている、和彦役の宮沢氷魚さんのインタビューも合わせてお読みください。
【関連記事】「ちむどんどん」出演の宮沢氷魚が語る、沖縄との縁と“朝ドラ”で感じた変化
和彦にはどうやらおつきあいしている女性・大野愛(飯豊まりえ)がいて……。
暢子は一般常識もないうえ、恋の概念もなさそうで、いまのところ、愛の存在を気にしてはいないようですが、それ意外に気になることはいくつもあります。
”朝ドラあるある”ではありますが、まず、和彦は10年前東京に帰るとき手紙を書くと言っていたのに、いつの間にか連絡をとりあわなくなってしまったのはなぜなのでしょうか。
長い人生、そういうこともよくあるとはいえ、朝ドラでは縁がぷっつり切れることが多過ぎるのです。
狙いとしてはいつか再会するサプライズのためと推測します。裏設定では連絡をとりあっていたとしても、そこはあえて描写しないことが多々あります。
直近の例としては「カムカムエヴリバディ」。ヒロインるい(深津絵里)がお世話になった親代わりのような大阪の竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)と連絡をとっていないように見えるのはなぜ? と視聴者はやきもきしました。
後々になって、最初はやりとりしていたが平助(村田)が病気で故郷に引っ越したことで少し縁遠くなったという説明がされました。
「ちむどんどん」の和彦は真面目でまめに連絡をとりそうなキャラですし、また、愛に暢子ややんばるの話をよくしていたようなのに、連絡をとってないのもちょっと不思議であります。お父さん(戸次重幸)が亡くなったら一報入れてもよさそうですが比嘉家に心配かけたくなくて連絡しなかったのかもしれません。
ドラマで描かれない時間について真剣に考えてはいけません。それが朝ドラの常識。
朝ドラを楽しむ秘訣:不自然なまでに描かれないことは、あとで出番がある印。そういうルールと思っていると気が楽になります。
もうひとつ気になったことがありました。暢子が新聞社でしきりにメモしていました。そういえば暢子はなんでもメモするメモ魔でした。フォンターナの1年半、様々な経験をメモしていなかったのだろうか。ちょっとした会話に出てくる地理や歴史や仕事の常識などなんでもメモしていそうだけれど……と思ってもいけません。暢子は料理を覚えることで精一杯だったのですたぶん。
よくある新卒教育では、専門職を学ぶ前に一般常識を学ばせるものですが、房子はそうせず、暢子の個性を伸ばすことを優先したのでしょう。それはそれで常識にとらわれない教育方法として興味深いです。
考えてみたら、一般常識に秀でても肝心の料理に意外と才能がなかったらそこにいることが無駄になってしまいますから合理的ともいえます。
もうひとつは、智(前田公輝)。和彦登場で最強ライバルと警戒しないのでしょうか。単純に歓迎してましたが、むむっという顔をワンカット入れてもいいような気もしましたが、それもまたあとでゆっくりということなのでしょう。
以上、好意的に捉えてみました。あえて描かない。それは代々受け継がれる朝ドラ秘伝なのかもしれません。
ただ、暢子と再会したらすぐに社食の美味しいものを紹介している和彦に、暢子との約束をちゃんと覚えている優しさを感じました。こどもに優しいお兄ちゃんなのもいい感じでした。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第38回レビュー}–
第38回:和彦の取材、歌子のオーディション
東洋新聞社でボーイ(お手伝い)をはじめ半月が経った暢子(黒島結菜)ですがなかなか新聞に親しめません。
デスクの田良島(山中崇)が「取材も料理も同じ」と説きます。料理は食べてもらう人のことを思ってつくる。取材も読んでもらう人のことを思って書く。
田良島の話を聞いた暢子は、オーディションであがって歌えなくなった歌子(上白石萌歌)に「取材」を
「歌」に置き換えてアドバイスします。
「うちも東京で揉まれて大人になったわけさあ」
こんなふうに言う暢子の調子の良さは、ニーニー(竜星涼)に似ている気がしました。
たちまち歌子はリラックスして、家族のことを想って、得意の「翼をください」を透明感のある声で歌います。
「あさイチ」の博多華丸が、このシーンでは意地悪だった審査員の表情が変わるところを映したほうがよかったのではないかと意見していました。確かにそういうのがあったほうが盛り上がるようにも思いますね。
ただ、審査員の顔は映ってなかったですが、背後のオーディションを受ける人の表情がみるみる変わっているのは見てとれました。そのひとは、審査員の表情もちらっと確認して自信をなくしたような顔もしています。
歌子を中心にしたワンカットでこのオーディション会場の空気が歌子の歌で変わったことが表現されています。無駄のないいい場面です。
ヤング大会のときも感じてレビューに書きましたが、「ちむどんどん」はエキストラの芝居がしっかりしています。エキストラ自身が優秀なのもあるでしょうし、おそらくエキストラを担当して指示を出す助監督がしっかりしているのだと思います。
表情をワンカット入れたらいいのでは感想は、第37回で筆者も智(前田公輝)が和彦(宮沢氷魚)を見て
ライバル?と意識する顔を入れたほうがいいのではないかと書きましたが、智はシンプルな性格でしょうから、大野愛(飯豊まりえ)も一緒に来ていたので安心しているのかもしれません。
さて、和彦です。東洋新聞の人気企画「最後の晩餐」の取材をすることになりました。
ミラノの料理人・タルデッリ(パンツェッタ・ジローラモ)は「最後の晩餐」に食べたいものはピッツァ・マルゲリータでしたが、記事を読んだ田良島はイタリア北部・ミラノ出身のタルデッリが南部のピザを好むのは食文化的におかしいと指摘します。
なぜピザなのか理由を聞いても答えてもらえず時間がなかったと言い訳する和彦ですが、取材の予定時間を過ぎてから、記事のテーマをおまけのように聞くのはミスですよねえ。最近の「最後の晩餐」に不満があり、自分なりの切り口で取材して書いてみたいという気持ちもわかりますが……。
”最後の晩餐”という形骸化されたものがつまらないと感じて、もっと深い食文化に切り込みたいと勇んでしまった。要するに、朝ドラよりも土曜ドラマのような社会派のドラマをやりたいというような感覚でしょう。でも朝ドラなら朝ドラ、最後の晩餐なら最後の晩餐のルールに則ったうえでいいものにしないといけません。
文化部に配属になったばかりの和彦のやる気の空回り。彼もまた読者のことを考えずにひとりよがりになってしまっているようです。
タルデッリの謎は、暢子がフォンターナで、淀川先生(本田博太郎)にフォンターナではピザを置くはずがないと言われた謎ともつながりそうですね。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第39回レビュー}–
第39回:オーディション、出産、記事探し
暢子(黒島結菜)、良子(川口春奈)、歌子(上白石萌歌)にそれぞれ試練が。
暢子の場合は、彼女の問題というよりは和彦(宮沢氷魚)。貴重な取材を失敗して、追加取材をしないといけなくなった和彦のお手伝いをします。
ミラノの料理人はなぜ「最後の晩餐」にピッツァマルゲリータを挙げたのか。幸い、房子(原田美枝子)のコネで追加取材ができることになりましたが、条件があります。60年代の読者欄からピッツァマルゲリータの記事を見つけること。
滅多に取材を受けない料理人が取材を受けたのは房子の頼みもあったと思いますが東洋新聞の「最後の晩餐」取材と聞いて、東洋新聞の昔の投書欄を思い出したのかもしれません。その話をしようと思って取材を受けたら、ちっともその話にならず、終わりにちょろっと聞かれてがっかりしたのではないでしょうか。
記事は明日の朝までに探さないといけません。暢子と和彦と愛(飯豊まりえ)が新聞縮刷版を片っ端から探します。
いろいろ読んでいると、沖縄から上京した人の投稿や、教師の投稿、病弱の母の看病する娘の投稿などががあって、暢子は親近感を覚えます。ここは、家族が借金ばかりするという悩みを入れてほしかったですねえ。
暢子は興味津々で記事を読んでいますが、和彦は諦め気味。でもそんな彼に暢子はなにかと前向きに励まします。
かたわらに恋人・愛がいるのにわきまえのない暢子。だいじょうぶ? と心配になりましたが愛はムッとしたり不安な気持ちになったりしないようで、にこにこ微笑んでいます。
愛が善人で良かった、と思うものの、毎度こういうことが続いたら、だんだん暢子と和彦に対してネガティブな気持ちになっていきそうな気がしますが、どうでしょうか。
それにしても和彦。優秀な若き新聞記者かと思ったら、彼女とバイトの幼馴染に助けられていて、へたれぽく見えて、ちょっとだいじょうぶ? と心配になりました。まあそこは少年時代と変わっていないようです。
同僚の記者たちは和彦を手伝ってるひまはないでしょうから、バイトの暢子、しかもイタリア料理人修業中だからちょうどいいのでしょう。
暢子が昔の新聞記事で家族を思い出すと、その頃、良子はオーディションの二次審査に出ることになっていました。が、肝心のときに熱が出て……。
良子は先生、暢子はコック、なのになぜ自分は何にもなれないのかと悔し泣きする歌子。優子(仲間由紀恵)は精神論で歌子を肯定しますが、いや、まずは医者に診てもらうべき。
貧しいから病院に行けないのだという理由は通用しないでしょう。何度も借金するくらいだったら、歌子を大きな病院で診てもらうことくらいできると思います。
ニーニー(竜星涼)は野放し、暢子は東京に行かせ、歌子は熱出したら寝かせておくだけという、優子の優先基準がよくわかりません。もしかして生まれた順番? あるいは近代医学を信用していない?
「あさイチ」で案の定、「一回大きな病院に行ったほうがいいよ」と博多大吉さんに心配されていました。
ゲストの上白石萌歌さん自身も大吉さんに同意して……こういう朝ドラと朝ドラ受けの連携も楽しいですけれど、大吉さんはそもそもこんなにベタなリアクションをするかただったでしょうか。
「あさイチ」の司会を引き受けた以上、郷に入っては郷に従えなのでしょう。まさに田良島(山中崇)が語った、読む人のことを考えることと同じ、視聴者のことを考えてのリアクション。プロフェッショナルです。
つっこみエンタメ路線まっしぐらのなか、良子が産気づきます。苦しむ良子に頼まれて歌子が「椰子の実」を歌い、無事、女の子が生まれます。
赤ちゃんが生まれる場面はすべてを凌駕します。やんばるの森が美しく輝きます。でも暢子が主人公なのに暢子のシーンではなく赤ちゃんが生まれてよかったよかったで「つづく」になるのも斬新な気がしました。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第40回レビュー}–
第40回:料理人の最後の晩餐とは…
ミラノの料理人・タルデッリ(パンツェッタ・ジローラモ)が追加取材を受ける条件に出した60年代の新聞記事を見つけた暢子(黒島結菜)。それを携えて和彦(宮沢氷魚)は再び、タルデッリの取材を行います。
新聞記事はタルデッリが戦争の影響で日本にいたとき、恋愛した女性・歌川光子が彼との思い出をつづったものでした。
当時、ふたりが一緒に暮らしていたとき、食べていたのがピザ・マルゲリータ。
ふたりは離れ離れになってしまいましたが、お互いその頃の思い出を大切に生きてきて、タルデッリは自身オリジナルのピザも作っていました。
戦争中、イタリアの軍艦に乗って同盟国・日本に来たタルデッリは、イタリアが連合軍に降伏したため運命が大きく変わります。タルデッリはそのまま日本に残って米軍施設のレストランで働くことになりました。
戦争に人生を翻弄されたのです。
暢子の故郷・沖縄も戦争によってついこの間までアメリカに統治されて、ようやく日本に返還されたところです。タルデッリが敵だったアメリカの施設で働くはめに陥ったことと重なるように感じます。故郷の北部と南部ではずいぶん環境が違うところも。
沖縄のみならず、ほかの国の人の戦争体験を織り交ぜることで、沖縄だけのお話ではない視野の広いお話になりました。
田良島(山中崇)の厳しい直しを受けた和彦の原稿は論説委員にも褒めてもらえました。
田良島と暢子の会話が印象的でした。
ピザの思い出をつらい思い出と捉えた田良島と、一緒に過ごした楽しい思い出と捉えた暢子。
同じ出来事でも見方が180度違います。
ここで暢子の徹底的な前向きさ、明るさがわかります。彼女の暮らしは貧しかったけれど、みんなでご飯を食べた楽しい思い出のほうが勝っているのです。
取材に同行した経験から、暢子は新聞記事に「ちむどんどん」できるようになりました。
田良島は「ちむどんどん」と聞いて「ちむ」は「肝」=「心」だとすぐ気づきます。さすが70年代の新聞記者は教養があります。
厳しいけれど思いやりがあり知性と教養のある田良島は多くの視聴者の高い支持を得ているようです。
新聞社の仕事も熱心にやるようになった暢子でしたが、房子(原田美枝子)からフォンターナに戻ることを許可されました。
あっという間に復帰した暢子は今度は、淀川先生(本田博太郎)に料理の説明ができるようになりました。
月日は流れ、姪が生まれたことで「強いおばさんになる」と誓った歌子(上白石萌歌)は高校卒業後、就職し、その給料で家に電話を引きます。もしかして歌子が一番、高い給料を家に入れているのでは……。
いい話でいい週末を過ごせそうと思ったら、ニーニー(賢秀)が出てきて、養豚場からまた給料を前借りして去っていくエピソードが挿入されました。
ここに長居するつもりはない と言っていたけれど、なんでまた前借り。また「部」にして返す。
「部」と書き続けている間は、倍にして返せない気がします。
ニーニーは借りたものはいつか返すつもりでいるだけなんですね。返せてないだけで。
「世の中の出来事は回り回って必ず自分とつながっているのかって思いました」
そう暢子は言っていました。ニーニーの前借りしたお金も回り回っていつか返っていくのかもしれません。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第41回レビュー}–
第41回:暢子、店の味を変える
第9週「てびち!てびち!てびち!!」(演出:大野陽平)は暢子の料理人修業が続きます。今度は「おでん!? おでん? おでん…」サブタイトルに掛けたラストがなかなかよかったですね。
時代は1974年11月に。アッラ・フォンターナで働きはじめて暢子(黒島結菜)も3年、20歳になりました。髪の毛もすっきりまとめて大人ぽい。
前菜を任された暢子、はりきって自分のアイデアで店の味に手を入れはじめます。
「今まで誰も食べたことのない新しい料理に挑戦してみたくて」という暢子のやる気もわかりますが、店の味というものがあって、その味を好きで常連客がいるのですから味を変えてはいけないでしょう。
冒頭でオーナーの大城房子(原田美枝子)も時代の変化とともに多種多様な考えが台頭してきてもフォンターナはお客様と基本を大事にしたいと雑誌の取材に応えていました。
その理念に気づいていない暢子。案の定、店のファンである東洋新聞社の論説委員・天城勇一(金子昇)と田良島(山中崇)は暢子のつくった前菜の味に首を傾げます。
それでも二ツ橋(高嶋政伸)は暢子の悪気ないやる気を頭ごなしに否定はしません。やんわりと助言します。
暢子「シェフのはいつもの味で美味しい。でもうちのくふうも悪くないと思います」
二ツ橋「新しい工夫も大切ですが基本も大事」
暢子のちょっと生意気な態度に二ツ橋はあくまで穏やかです。
和彦「新しい味を勝手に?」
暢子「昔どおりの味ばっかりでは流行に取り残されるから もっとどんどん進化していかないと」
和彦も、暢子の先走った考え方に心配そうです。
ひと昔前のドラマ、いや、現実でもですが、新人がこのような態度をとったら、厳しく叱る人物がいたのではないでしょうか。でもいまはハラスメントに厳しい時代、叱って育てる時代は終わろうとしています。
そんな時代の変わり目、若者をどうやって導こうか悩み中の大人には、二ツ橋や房子が見本になってくれそうです。
暢子を否定しないで自分で気づかせること。彼らは辛抱強く、寛容な態度で暢子に接するのです。
房子は暢子に、またも出向(?)を命じます。とある店の立て直しの手伝いですが、話を持ちかけるとき、あくまで彼女の自尊心を損なわないように気遣っているように感じます。最初の頃はわりと厳しかった房子ですが、暢子の料理のセンスや人柄は認めているのでしょう。
暢子を見ていて破天荒と型破りという間違いやすい言葉を思い出しました。破天荒は前人未到のことをやること。型破りは単なるルールを破る、乱暴者です。暢子の場合、破天荒のつもりの型破りです。でも型を破るには型を知らなくてはなりません。
型破りといえば、あのひと。ニーニーこと賢秀(竜星涼)です。詐欺だった我那覇良昭(田久保宗稔)と組んで紅茶豆腐というあやしい健康食品販売をはじめています。世間のルールにまったく沿わない賢秀は型破りというか外れ者です。
我那覇は自分も騙されたのだと言っていますが、そんなこと信じちゃってーーと視聴者はやきもきします。
賢秀を見ていると、お金もない、学もない、導いてくれる親(父)もいない、そんな寄る辺のない者は、物事の善し悪しを判断する以前に、甘い言葉にすがってしまうのだなあと切ない気持ちになります。
その頃、良子(川口春奈)はいまでいうワンオペ育児にストレスがたまって離婚したいと考えはじめます。
運送会社に勤めて1年経った歌子(上白石萌歌)の前には職場の同僚・花城真一(細田善彦)という人物が現れ……。このひとが出てきたときの劇伴があやしくて気になりましたが、それはそのあとの良子のいらいらにつながる曲のようでした。
劇伴の使い方もミスリードを狙ってる? 脚本も演出もなにかとオーソドックスにしないのは暢子のように「昔どおりの味ばっかりでは流行に取り残されるから もっとどんどん進化していかないと」という思いからでしょうか。
真一に指摘された”好きな人”とは智(前田公輝)。その智はフォンターナに仕事で出入りしてにやにやと暢子の仕事を見つめています。以前はもっと硬派キャラだった気がするのですがすっかりデレてばかりのひとになってしまいました。時代とともに変わってしまったのでしょうか。
我々視聴者も房子や二ツ橋のように辛抱強くあるべきでしょうか。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第42回レビュー}–
第42回レビュー
暢子、イタリア風おでんを作る
暢子(黒島結菜)は大城房子(原田美枝子)から鶴見のおでん屋台の立て直しを頼まれました。
イタリア料理修業のはずが、まさかのおでん屋。しかも、暢子はおでんを食べたことがありませんでした。
オイルショックのあおりを受けて経済的に困窮し、おでん屋をはじめたもののうまくいかずに悩んでいた我孫子ヨシを演じる大島蓉子さんは、人気ドラマ「トリック」の大家さんとして有名な俳優です。
「や〜まだ〜」と仲間由紀恵さんに家賃を取り立てていた大島さんが、黒島さんといいコンビで屋台をやっていってくれたら楽しそうと期待しましたが、「あっと驚く為五郎〜」とか「ヨッコイショウイチ」とか昭和ギャグを言ったりしながら、ヨシは暢子におでんの基本を教えると、屋台を任せて去っていきました。出番少なめでしょうか。残念。
大家さんもたまに出てくるだけで鮮烈だったので、たまに出てきてほしいものです。
暢子はイタリアふうおでんを作ります。目新しくて、好評です。
ところが様子を見に来た房子(ちゃんと代金払って味見しているところがさすがです)はこのままでは数日で客足が途絶えると冷たい態度。そしてまた「あの屋台を立て直せなかったら、あなたはクビ」と「クビ」宣言、また出ました。
見た感じだと美味しそうなのです。でも確かにふつうのおでんを食べたい人には拍子抜けかもしれません。これはアッラ・フォンターナの新メニューにしたらいい感じですね。
暢子がどう対処するかはこれからのお楽しみにしましょう。まだ火曜日ですし。
厳しさは親戚ゆえの愛?
おでん屋台で、和彦(宮沢氷魚)と賢秀(竜星涼)が再会。ニーニーは悪びれず、紅茶豆腐を和彦たちに
プレゼント。
紅茶キノコという謎の栄養食品がありましたが(いまもある?) あれはキノコに栄養がありそうですけれど、豆腐の栄養だとなにかちょっと違う気がしますよね。
賢秀は房子が大叔母(賢三の叔母)と聞いて、さっそくフォンターナにやってきます。ああ、こわい、この厚かましさに身震いします。親戚とか友人、知人とかいう関係にたちまち甘えてくる人っていますよね。
独身の大叔母の資産を相続できるのではと考える賢秀、こわい。いままでは無邪気な人物だと思っていましたが、相続という考えを思いつくくらいの知識はあると思うと、単なる無邪気ではない、卑しさのある
人物に見えてきます。いや、もうこれ以上、賢秀のマイナスポイントを増やさないでほしいです。
暢子は房子の厳しさは親戚ゆえの”親心”と思い込みます。せっかく引き取るという申し出を蹴っておいて、その後、なんの連絡もとらなかったのに、暢子も厚かましいですよね。
房子は親戚とか関係ないとクールですが、ほんとは少しは温情もあるかもしれませんし、でもそんな単純な話しではない気もしますが、それも明日以降のお楽しみです。
それよりも、雑誌に載った房子の記事を読んだ優子(仲間由紀恵)が房子がかつて暢子が東京に預けられることになったときの大叔母さんだったことに気づくことに驚きました。房子はわざと黙っていたとしても、いくらなんでもそんなことあります?
こういうことを書いてはいますが、描かれる出来事をもはや真剣に批評する気はありません。お約束のツッコミをしているだけです。それがこのドラマの遊び方のルールだと思っています。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第43回レビュー}–
第43回:おでんは前途多難、ニーニーはまた金の無心
こんななじみのないものじゃなくて もっとありきたりなホッと心が安らぐ しみるような味のおでんを…。(和彦)
新しくて個性的なおでんにしないとうちがここに来た意味ないさ(暢子)
もっと地味で新鮮味はなくても 大切なことがきっとあるはずだよ。 そういう料理を暢子は志すべきだよ(和彦)
うちは料理のプロとして結果を出さないといけないわけ。詳しくないならえらそうに言わないでよ(暢子)
逸る暢子(黒島結菜)を諭す和彦(宮沢氷魚)。暢子のことを思って助言している和彦ですが、自分の腕に自信があり、自分が任された以上、新しいことをしないといけないと思い込んでいる暢子はムッとしてしまい、険悪になります。
このせりふの「おでん」を「朝ドラ」に置き換えてみましょう。
「こんななじみのないものじゃなくて もっとありきたりなホッと心が安らぐ しみるような味の朝ドラを…」
「新しくて個性的な朝ドラにしないとうちがここに来た意味ないさ」
「うちは朝ドラのプロとして結果を出さないといけないわけ。詳しくないならえらそうに言わないでよ」
どうですか、しっくりしませんか。
「ちむどんどん」とは暢子のつくる先走った味で、昔ながらのおでんを求める層には違和感なのではないでしょうか。
今日もまた、ニーニーこと賢秀(竜星涼)が優子(仲間由紀恵)に借金を頼んでいました。「いいかげんにして!」「どれだけお母ちゃんを悲しませたら気が済むわけ」と叱る良子(川口春奈)も離婚を決意し子供を連れて実家に戻ってきています。
家に電話を引くことができた働き者の歌子(上白石萌歌)ですが病弱なまま。暢子は周囲を気にせず斬新なことをやって暴走気味。第42回では「親心」と言ってた房子(原田美枝子)を第43回では「意地悪」と愚痴って、ヨシ(大島蓉子)にぴしゃりと叱られました。
朝ドラで主人公をはじめとして家族全員が問題を抱えて、共感しづらい人たちぞろいであることは珍しいです。暢子の料理のように斬新であります。
でもこういう人たちがいないとは言えません。いや、います。世界にはいるのです、こういう人たちが。「万引き家族」という映画がありましたよね。そういう感じです。万引で生計を立ててないだけましです。
おでんにほっこりする視聴者ではなく、斬新なイタリアふうおでんに目を輝かせる新しい視聴者のためのドラマ、それが
「ちむどんどん」。
ウチナーンチュじゃなくても同じ鶴見の仲間。縁がありゃお互い助け合うのが人の道だ(三郎)
三郎(片岡鶴太郎)が言うように、昔ながらのおでんが好きな人も斬新なおでんが好きな人も手を取り合っていきたいものです。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第44回レビュー}–
第44回:お父さんの思い出が出てくるとホッとする
暢子(黒島結菜)はおでん屋の我孫子ヨシ(大島蓉子)が戦後の闇市で房子(原田美枝子 過去:桜井ユキ)に助けられた話しを聞きます。
房子は戦争でたったひとりの妹を亡くしていました。親もすでに亡くなっていて房子がたったひとりで生きてきたことを暢子は知ってしんみりします。
ここで思い出してみましょう。
第8週はミラノの料理人のピザにまつわる戦争の思い出を暢子は知りました。
第9週はヨシのおでんと戦争の思い出を聞きました。
暢子は戦後の生まれで戦争のことを知りません。彼女の父母は戦争の話を娘にしていません。一度だけ
幼い暢子が母・優子(仲間由紀恵)が泣いている姿を目撃したことがあり、視聴者は優子が戦争体験を思い出していたことを知っています。
何も知らない暢子が食を通して、誰かの過去を知る。「最後の晩餐」的ないいコンセプトです。NHK のよるのドラマやBS ドラマの8〜10回シリーズだったら、大好評でありましょう。
ただそれを半年間、毎回やるわけにもいかないので途中にはさみこんでいるのだと思います。比嘉家のてんやわんやに心が疲れていた視聴者もいるでしょうから、ちょうどいい箸休め的な感じです。いや、戦争の記憶を箸休めにしたらいけないですね。たぶん、これから、何も知らない暢子は知らなかった世界を”食”を通して知っていくのでしょう。
賢秀(竜星涼)がまた我那覇(田久保宗稔)に騙されて「おれは疫病神」と凹んでいる(優子がまたお金を貸していたことに驚き。比嘉家はどんだけへそくってんだ)と、暢子は足てびちを差し出します。その味は比嘉家の思い出でした。
少年時代、賢秀がやんちゃして「おれは疫病神」とへそを曲げていたとき、みんなで食卓を囲んだこと。どんなときでも「家族」。おいしい食事を共にすれば仲直りです。
「邪魔者とかはいない。けんかしても仲直りできるのが家族。この先何があっても みんなおまえの家族」(賢三)
足てびちをお父さん・賢三(大森南朋)が作ってくれたこと、作り方を教えてくれたことを思い出す暢子。「迷子になったときは一回入り口に戻る。それが人生の基本だ」
三郎(片岡鶴太郎)の助言がここで効いてきます。暢子は父の教えを思い出し、おでんを煮込み始めました。
喧嘩した和彦(宮沢氷魚)の気持ちも理解できて……。
暢子は頭で考えずまず感情が先走ってしまうタイプですが、料理の構造に置き換えれば物事の理屈が理解できます。人には得意分野があってそれを生かせばいい。ニーニーもそれに出会えればいいんですよね。
それにしても、お父さんが沖縄そばだけでなく暢子に料理を教えていたのがわかって、こういうのをもっと子ども編で見たかったなあと思ったのですが、そうすると子ども時代が長くなってしまう。主人公の子ども時代が長いと視聴率が取りにくい。という過去の例からの判断だったのでしょう。ちょっともったいなかったですね。子ども編をじっくりやる朝ドラがあってもいいような気がします。
それはともかく、戦争の思い出のみならず、食の思い出が「ちむどんどん」のコンセプトなんだろうと思います。
そして「邪魔者とかはいない」も。だから賢秀がどんなことをしても邪魔者にしてはいけないのです。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第45回レビュー}–
第45回:暢子、料理の基本に立ち返る
おでん屋台の立て直しを図って1か月、暢子(黒島結菜)が基本に立ち返ったおでんは、我孫子ヨシ(大島蓉子)にも客にも好評を得ます。
嘘のように大繁盛しています。
様子を見に来た大城房子(原田美枝子)もぶたを使っただしとオリジナルのネタ・豚足を評価してくれました。
こうして暢子はアッラ・フォンターナに復帰を許されます。
暢子「10年前オーナーに引き取られるはずだった子供はうちなんです」
房子「知ってる」
暢子「えっ 知ってたんですか?」
この会話……。離れていたとはいえ親戚で、引き取る際に房子が優子に手紙を出しているのだからまったく知らない(気づかない)わけもないと思うのですが……。いやいや、こういうことも成立するのだとおわかりのかたもいるのかもしれません。そういうかたからしたらなぜ理解できないのかお腹立ちかと思いますが、ここは誰でもわかるような描写にしてほしいものです。もしくはもう全然描かないか。
余計なノイズは要りません。すきっとしたいのです。暢子は手ぬぐいで髪をすきっと覆った姿が似合います。テキパキと片付けものをしたりする動作も自然なので、黒島さん本人はとても利発なかたなのでしょう。つるっとした額が聡明さの証のようで美しいです。
そんな暢子のお母さん・優子(仲間由紀恵)はすぐに瞳をきょろきょろさせて、物事をあやふやにさせようとします。
賢秀(竜星涼)がお金の代わりに送ってきた大量の紅茶豆腐を目の前にして、
「困ってる時はお互い様 家族ならなおさらでしょう」と主張します。
この瞳をそらしながらあやふやなことを言う仕草を見て、仲間さんの出世作「トリック」の山田奈緒子を思い出す視聴者もいるのではないでしょうか。
山田奈緒子は貧乏なマジシャンで、「ちむどん」でヨシを演じた大島蓉子さん演じる大家さんの家賃の取り立てからしょっちゅう逃げ回っていました。
山田はインチキマジックをやり、家賃は払わず、でも悪びれない。賢秀に似ているといえば似ているし、賢秀よりも悪知恵が働き意地汚いところもあってけっこうクセモノですが、憎めないキャラでした。それは仲間さんのお力でありましょう。あと、堤幸彦監督のセンス。
「ちむどんどん」に堤幸彦的センスがあれば……。
いろいろ書いていますが、第45回は、おでんからちゃんと湯気が出ていたので良かったです。朝ドラの屋台ってたいてい冷えた感じがするので。
さて、賢秀です。
また、養豚所に戻って働き始めた賢秀。これからどうなるんでしょうか。
朝ドラはじまって以来の困ったお兄さんとしてニーニーが注目されているところ、第45回放送終了後、「あさイチ」のプレミアムトークのゲストに竜星涼さんが登場しました。矢沢永吉さんが好きな話もされました。「成り上がり」が愛読書ってなんかすごい。
現在の注目度「役者冥利に尽きる」と語った竜星さん。全国区で顔と名前を印象づける意味ではひじょうにいい役でもあります。
先日、TBS で放送していた即興劇「スジナシ」に出たときも、笑福亭鶴瓶さんに「おもしろいですよ、だらしない役は」と肯定的に言われてました。
鶴瓶さんは昔、悪い役をやったとき見た人にいろいろ言われたと「CMもこなくなりました」と不吉なことも言ってましたが……。
鶴瓶さんは山田洋次監督の映画「おとうと」(10年)で姉(吉永小百合)を困らせる弟役を演じていたことがあります。山田監督が自作の寅さんをさらに現代に置き換えて苦い方向に進化させたような役でした。
集団にはひとり異質な人物がいたほうが硬直化を防げていいんですよね。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第46回レビュー}–
第46回:暢子、5年めで花形ポジションへーー
第10週、「あの日、イカスミジューシー」(演出:木村隆志)は1976年。
暢子(黒島結菜)はアッラ・フォンターナで働き始めて5年。ストーブ前を任せてもらえそうになります。また帽子から毛先を出していますが、入ったときと比べたら、分量は少なめ(後ろで一部縛っています)。
厳しい淀川晴夫(本田博太郎)にも12年通い続けて食べたミネストローネのなかで一番と太鼓判を押されます。
淀川先生の良さは、その後、調子に乗る暢子に、どんどん減点していくこと。最終的に70点。
淀川先生のようなキャラがいると相対化されて暢子の良さも良くなさもナットクできます。ただこれ、文字だけだったら、採点してやな感じという印象にもなりかねない。本田博太郎さんの独得の言い回しと、最後の笑い方と黒島さんの反応で楽しく見られるのです。淀川先生に、ずっと採点し続けてほしい。
暢子は「ストーブ前」という花形ポジションをお試しでやらせてもらえそうで、順調。でも5年も経って「見た目が大事」とメモっているのは淀川先生的にはマイナス10点ではと思ったりしますが、料理の世界は素人にはわからないものかもしれません。
一方、良子(川口春奈)はそろそろ職場復帰したい気持ちが高まっていました。「私の名前は『晴海ちゃんのお母さん』じゃない」という訴えは平成後半から令和的な発想です。が、70年代にもこういうふうに思っていた人はいるでしょう。良子は先進的な考えの持ち主です。
石川博夫(山田裕貴)とは結婚前、新しい社会について学ぶ関係だったような気がしますが、勉強(理想)と実際は違うみたいです。
そして、大きな動きがあるのは、実家。
就職してなんとかやっていた歌子(上白石萌歌)ですが、また寝込むようになって休みがちに。
優子(仲間由紀恵)はついに歌子を大きな病院で診てもらう決意をします。
「もっと早くちゃんとした検査を受けさせてればよかったと後悔しているさー」と暢子に語る優子。ですよねえ。なんでだったんですかねえ。
お金がなかったわけでもないし、物語の都合ですよねえ。
そして、話題の人、真の主役と言っても過言ではない賢秀(竜星涼)は、また猪野養豚場に戻って働いています。豚の世話に関しては天性のものがあるようで……。豚の貯金箱が彼に富と幸福をもたらすのは豚であると暗示しているように見えます。早く賢秀の才能が開かれますように。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第47回レビュー}–
第47回:「ちむどんどん」に恋のターン、到来?
二ツ橋(高嶋政伸、たかはハシゴダカ)の茨城の実家から連絡があって、父母がもう高齢のため実家の洋食屋を継いでほしいと頼まれます。
二ツ橋は房子(原田美枝子)の右腕として働き続けたいけれど、彼女はクールにいつ辞めてもいいと言うので、落ち込む二ツ橋。わざわざ鶴見のあまゆまで来てやけ酒を煽ります。
「醜い。私の人生はあまりにも醜い」(二ツ橋)
なんだか口調が本田博太郎さんみたいになっていました。第46回でも「醜い」という言葉を使っていた二ツ橋。「醜い」という言葉が好きみたいです。
二ツ橋は三郎(片岡鶴太郎)にからみます。どうやら房子と二ツ橋には過去になにかあったようで……
「恋する男の気持ちは恋する男にしかわからんか」(智)
二ツ橋の気持ちを察する智(前田公輝)と和彦(宮沢氷魚)ですが、暢子(黒島結菜)はピンと来ていません。
智と和彦と暢子はなにげない幼馴染3人の関係のようですが、この3人も今後展開がありそうな、そんな暗示を感じしてしまいます。暢子への気持ちがだだ漏れの智、まったく気づいてない暢子、恋人もいてマイペースの和彦。はたして今後の展開は……。
智が、二ツ橋が「最後の賭けに出た」と言ったのは、辞めると言って引き止めてほしいと思っていたことを察したのでしょう。とすると、智が過去、暢子が東京に行くとき、
俺は見送らないよ と言ったのも同じようなことだったのかもしれません。思っていることと逆を言ってしまう。二ツ橋も智も損な人たちなのです。
その頃、歌子は、会社を辞めることになりました。
会社を辞める日、あのやけに優しい花城(細田善彦)が会社の経理の女性社員と結婚を発表。良子(川口春奈)に花城はきっと歌子のことが好きなのだと焚き付けられ、歌子自身もまんざらではなかったため、拍子抜け。
本来、歌子は智一筋だったけど、彼は暢子ひと筋で東京に行ってしまったし、花城は悪い人ではなさそうだし……とちょっと思っていたでしょう。はじめて花束までもらって。そんなときの、結婚発表。このときの上白石萌歌さんの期待した自分が恥ずかしいというような表情がおみごと。コミカルにしないで生真面目な感じも歌子らしいです。
以前、お見舞いにもらった芸能雑誌も結婚相手の『もう要らないっていうから」と言ったものでした。この「要らない」という言葉がなにげにきつい。
まあでも、歌子はもともと花城には興味なく、良子に言われて意識してしまった感じなので、味わわなくてもいい失恋気分を味わってしまっただけ。一旦、会社を辞めて、東京の病院で診てもらって心機一転するのが一番だと思います。
海を見つめる歌子を見つめるまもるちゃん(松原正隆)。ああ勘違いの苦い経験にやけにいい感じの曲がかかっていいエピソードと化しました。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第48回レビュー}–
第48回:優子と歌子が上京
歌子(上白石萌歌)の体調を案じて、ついに東京の病院で診てもらうことにした優子(仲間由紀恵)。東京の華やかさに気圧されます。
迎えに来たのは智(前田公輝)と和彦(宮沢氷魚)。見違えた和彦に歌子と優子は驚きます。
最近の智は暢子(黒島結菜)にすっかりデレデレしていて、ご主人が大好きで尻尾をちぎれるほど振ってまとわり付く大型犬みたいな感じですが、優子と歌子の前では節度ある好青年です。こっちの智のほうがいいなあと思うのですが、好きな人の前では人は変わってしまうものなのでしょうか。
夜はあまゆで優子と歌子の歓迎会。このときも智はテンションあげあげで暢子推ししています。そんな彼の気持ちに歌子は気づいて、胸がちくりと傷んでいる様子。
暢子と智が中心になって盛り上がっているテーブルからひとり離れている歌子。疲れたからと2階に上がります。
昔、智からもらった紙で作った金メダルを大事に持ってきていますが、虚しい歌子。
おとなしい歌子にあまり構うのも……と遠慮しているのかもしれませんが、今日来た歌子をひとりにして、暢子と智と和彦と愛(飯豊まりえ)と田良島(山中崇)がひとつのテーブルでわいわいやってたことに、自分のことのように寂しい気持ちになってしまいました。
たまたま、同じテーブルの優子と三郎(片岡鶴太郎)がちょっと席をあけて、多江(長野里美)がちゃんと身体を、歌子と暢子たちのテーブルをつなぐような向きにして座っているとはいえ、距離が遠い。
気を使われて、そばに集まって来られたり、たくさん話しかけられたり、話題の中心になるようなことは好まない。そうされても話すことがあまりないから。でも、目の前で姉は話題の中心で楽しくやっているのに、自分は何も話すこともない(新しい世界に踏み出したけれどその会社も辞めてしまっている)と事実を突きつけられるのはきつい。
いたたまれず、2階にあがる気持ち、わかります。うまく輪のなかに入りたいけど入れない自分がいやなんでしょうね。
こういうとき、どうしたらいいのだろう。そっとしておくしかないのでしょうか。
優子が持ってきたサーターアンダギーを「え」「え」「手作りですか! 手作りですか」「え」「いいんですか」「やったー」と大喜びでもらってすぐに袋を開けた田良島は、新聞社ではクールに振る舞っていますが、たぶん、優子に気を使って盛り上げようとしたのだと思います。
例えば、撮影現場で誰かが差し入れを持ってきたとき、さほどのものではなくてもすごく喜んでみせる人がいます。嘘でも嬉しいものなのです。
そんな気遣いのできる田良島でも、歌子がひとりテーブルでポツンとしているときは手出しできませんでした。ここは智か暢子か和彦なわけですが、和彦は会社の話で地雷を踏んでしまっているのでないでしょう。
暢子だって、二ツ橋(高嶋政伸/たかははしごだか)がやってきたとき、彼に料理の味見を頼みます。それは、元気のない二ツ橋のアイデンティティである料理に関する相談をすることで、彼の存在意義を高めようとしたのでしょう。鈍感な彼女なりの気遣いなんじゃないかと思います。
だから、暢子が歌子にさほど構わないのは、それがいままでふつうのことだったのかなとも思いますが、最近の歌子がかなり追い詰められていることに暢子は気づけていませんでした。
ほんとは智が隣に座ってあげるべきなんですが、すっかり暢子に夢中で気づけなかったのでしょう。金メダルをくれた智は遠い。
上白石萌歌さんの瞳が寂しさいっぱいでした。なんでしょう、この雨の朝のような憂いの表現力!
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第49回レビュー}–
第49回レビュー
それから一週間、歌子は上野の動物園にパンダを観に行くこともなく、暢子の部屋で過ごしました(ナレーション:ジョン・カビラ)
歌子(上白石萌歌)が検査に出かけました。結果は一週間後。智(前田公輝)が気遣って上野にパンダを観に行こうと提案しますが歌子は遠慮します。
検査のことも気になるし、智の気持ちが自分にないから、拗ねた気持ちなのでしょう。
万が一、暢子(黒島結菜)も参加して3人で行ったら、暢子と智がキャッキャして地獄でしょうし。
気に病むとカラダにも悪いですよね。歌子はいろいろ気に病み過ぎなのかもしれません。第48回では、仕事も結婚もできないまま死ぬのだと絶望していました。なんとなく
ここまで来ると歌子の病気は心の問題のような気がしてきました。
暢子は智の気持ちにも気づいていませんが、二ツ橋(高嶋政伸 たかははしごだか)がフォンターナを辞めることになり、その引き継ぎで外回りしているうちに、彼の房子(原田美枝子)への気持ちに気づきます。
どこをどう聞いても好きだとしか思えません(暢子)
さすがの暢子も、二ツ橋のわかりやすい言い方には気づいたようです。当人は自分の気持を隠しているつもりですが、ダダ漏れでした。
二ツ橋さんは昔、房子にプロポーズまでしていたようで、そこは一人芝居形式で振り返ります。ただ、後輩の話しとして。自分だと言うのが恥ずかしいとき友人がーとか後輩がーとか別の人にすり替えて話すのはよくあること。暢子にもそれはすぐわかります。
さらに暢子は、その話しから三郎(片岡鶴太郎)がその恋に関わっていることに気づきます。
二ツ橋の片思いよりも、房子と三郎の深い関係のほうがびっくりしました。
「ちむどんどん」はこころの内を外に出さない(出せない)人たちばかりです。
二ツ橋は房子が厳しく見えるが愛情に溢れた人だと惚れ込んでいます。
男性陣は意地っ張りなわりに微妙に感情がだだ漏れするへたれが多いけれど、房子は凛として何も言わずかっこいい。原田美枝子さんがさすがの貫禄です。
わかっててもわかってないふりをしたほうがいいことある(田良島)
あまゆの店主と将棋しながら田良島(山中崇)がさらっと世の真理をまとめます。
人には誰にも言いたくないことがあるもので、それに気づくこともときには必要だけれど、気づかないふりをしたほうがいいこともあるのです。こうしていたら絶対にうまくいくノウハウなんてありません。
頑張っても頑張ってもどうにもならないことが人生(田良島)
田良島はほかにもいろいろ続け、そのとおりのことばかりのいいことを言います。
どんなことがあっても最後は希望を捨てないこと。
そして、暢子は歌子の好物を作りはじめました。
自分のことばっかり考えて突進していた暢子が、他者の気持ち(主に秘めた恋)に気づけるようになってきたようです。
まあでも不器用な二ツ橋の気持ちに気づくことができるなら、智の気持ちも気づきそうなものですが……。いや、これからこれから、ゆっくりゆっくり。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{第50回レビュー}–
第50回:暢子、ストーブ前をゲット
「偉い人にならなくてもいい。お金が稼げなくても 夢がかなえられなくてもいい。 ただ幸せになることを諦めないて生きてくれればそれだけでお母ちゃんは幸せだから」(優子)
検査したものの病名がわからず、歌子(上白石萌歌)はどうせ死ぬと自暴自棄になってしまいました。
原因がわかれば治療することができますが不明ではどうしようもありません。せっかく勇気を出して検査したのに解決策が見つからない。歌子の落胆もわかります。
ただここで歌子の病気は多分に精神的なものという線が濃厚になってきました。
優子(仲間由紀恵)が歌子を涙ながらに励まし(上記のセリフ)、暢子(黒島結菜)が
歌子の好きなイカスミジューシーを作り、ふたりの愛情によって歌子は「生きててよかった」と元気になり、暢子とフランス料理を食べに行き、上野動物園にパンダも観に行き、銀座の横断歩道を走って渡るほど元気になります。
比嘉家の伝家の宝刀・掌返し。心配していた問題を華麗にひっくり返します。たぶん、これが幸せになる秘訣です。自分の思う通りに生きればいいのです。
暢子はイカスミジューシーをヒントにイカスミパスタをフォンターナのメニューに提案、みごと、ストーブ前を任せてもらうことになりました。
二ツ橋(高嶋政伸 たかははしごだか)も見た目は黒くて良くないが味に深みのあるイカスミパスタに感銘を受けて、心変わり。実家に戻るのをやめてフォンターナに残ることにします。一件落着です。
優子は房子(原田美枝子)に挨拶に来て(やっとふたりが出会いました)、房子と賢三(大森南朋)の過去を知ります。さらに房子が暢子に愛情を感じていることも……。
房子がじょじょに暢子に心を開いていってることは原田美枝子さんの演技でわかっていたのでここで一気に告白しても唐突感はありませんでした。優子はそれを聞いてもそれ以上は深堀りしません。微笑み今後とも宜しくお願いしますとだけ言います。
房子が愛情を注いだ賢三が沖縄で優子と結婚することを選んだ。ふたりの子供・暢子が
今度は房子の元に来た。房子と優子の間には複雑な関係はありますが、そこに多くの言葉は要らない。そこがかっこいいと感じました。
男同士の場面に、言葉の少ないものがよくありますが、女同士でそれを描いたところに注目したいです。
優子が、どうしようもないことがあっても幸せになることを諦めず生きていかないといけないと歌子を諭したとき、どれほど辛いことがあっても決して弱音をはかず生きてきたことの切実さが仲間由紀恵さんの演技で伝わってきました。
房子も優子も重いものを背負ってひたすら山を登るように生きているのですね。
涙をぬぐって「あーお腹すいた」という黒島さんの懸命にケロッと見せる演技も良かったし、歌子がイカスミジューシーをまず食べるのを見守ろうとする和彦(宮沢氷魚)も
あたたかさを感じました。
また、フォンターナの従業員がイカスミを食べて歯が黒くなっているのを笑い合っているのも微笑ましかったです。
ただひとり、ストーブ前から外された矢作(井之脇海)がこのまま暢子の料理を食べて「うまい」と反応する役割ばかりなのか気になります。井之脇海さんがキャスティングされているのですからそれだけじゃないですよねきっと。
※この記事は「ちむどんどん」の各話を1つにまとめたものです。
–{「ちむどんどん」作品情報}–
「ちむどんどん」作品情報
大好きな人と、おいしいものを食べると、誰でも笑顔になる―――
ふるさと沖縄の料理に夢をかけたヒロインと、支えあう兄妹たち。
“朝ドラ”第106作は個性豊かな沖縄四兄妹の、本土復帰からの歩みを描く
笑って泣ける朗らかな、50年の物語。
放送予定
2022年4月11日(月)~
<総合テレビ>
月曜~土曜: 午前8時~8時15分 午後0時45分~1時(再放送)
※土曜は一週間を振り返ります。
日曜: 午前11時~11時15分(再放送)翌・月曜: 午前4時45分~5時(再放送)
※日曜、翌・月曜は、土曜版の再放送です。
<BSプレミアム・BS4K>
月曜~金曜: 午前7時30分~7時45分
土曜: 午前9時45分~11時(再放送)※月曜~金曜分を一挙放送。
出演
黒島結菜
仲間由紀恵
大森南朋
竜星涼
川口春奈
上白石萌歌
宮沢氷魚
山田裕貴
前田公輝
山路和弘
片桐はいり
石丸謙二郎
渡辺大知
きゃんひとみ
あめくみちこ
川田広樹
戸次重幸
原田美枝子
高嶋政伸
井之脇海
飯豊まりえ
山中崇
中原丈雄
佐津川愛美
片岡鶴太郎
長野里美
藤木勇人
作:
羽原大介
語り:
ジョン・カビラ
音楽:
岡部啓一 (MONACA)
高田龍一 (MONACA)
帆足圭吾 (MONACA)
主題歌:
三浦大知「「燦燦」
沖縄ことば指導:
藤木勇人
フードコーディネート:
吉岡秀治 吉岡知子
制作統括:
小林大児 藤並英樹
プロデューサー:
松田恭典
展開プロデューサー:
川口俊介
演出:
木村隆 松園武大 中野亮平 ほか