あの不朽の名作『トップガン』が36年の時を超えて帰ってきた!
無茶とやんちゃで国を救った英雄マーヴェリック(トム・クルーズ)が、教官としてギラつく訓練生を導く。これだけで泣けてくる話である。もちろん、前作を観ていなくても心配無用。ハイスピードで急旋回、急上昇、急降下する空中戦の没入感や、教官と訓練生がぶつかり合う熱いドラマ。そして、トム・クルーズの明るくも数々の修羅場を乗り越えてきたであろう面構えが、ハラハラドキドキの火を絶やすことなく131分華麗に舞い続けるのだ。
1986年の『トップガン』を観た上で観賞すると、あまりにパワーアップしたドラマとアクションにハンカチ必携、号泣必至である。そこで今回は、前作を踏まえた考察をしていく。
※『トップガン』『トップガン マーヴェリック』の核心に触れるネタバレ記事となっているため、観賞後にお読みください。
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ノスタルジーをバネに更なる高みへ急上昇
■あのオープニングを完全再現
『フットルース』や『アルマゲドン』など、1980〜90年代にかけて音楽が映画の看板になる作品が大量に製作された。
『トップガン』は、そのマスターピースといえる作品である。製作のジェリー・ブラッカイマーはドン・シンプソンと『フラッシュダンス』を手掛けた。主題歌である「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」を聴けば、誰しも『フラッシュダンス』をイメージするように映画と音楽を強力に結びつけた。
次作『ビバリーヒルズ・コップ』でその技術をものとし、3作目『トップガン』で究極に達した。特にオープニングは印象的だ。時代背景の説明が、重厚感ある金属音と共に流れ、黄金色に染まる飛行甲板で技術者たちが汗水を垂らしながらフライトの準備をする。そして、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」が流れる。
『トップガン マーヴェリック』では、これを超えるオープニングを生み出すことができるのだろうか。
音楽が流れ始める。重厚感ある金属音と共に以下の説明が表示される。
1969年3月3日米海軍はトップ1%のパイロットのためにエリート学校を設立した。
目的は、失われつつある空中戦の技術訓練。
世界最高のパイロット学校の呼び名は…トップガン
黄金色に染まる飛行甲板で技術者たちがフライトの準備をする。「デンジャー・ゾーン」が流れる。
お気づきだろうか?
『トップガン』のオープニングを完全再現するところから物語は始まるのだ。頂点を極めた演出に、真正面から向き合う。『トップガン』の音楽といえば「デンジャー・ゾーン」。それを完璧に踏襲することで、30年以上前を知る者には懐かしさが、今回はじめてこの世界観に浸る者は当時と変わらぬ高揚感を抱くことができる。
■教官目線の『トップガン』
トップガンを卒業してから海軍大佐になったマーヴェリック。彼はパイロットとして活躍し続けるために昇進を断り、引退もせず、30年以上現役で高みを目指してきた。しかし、時代の流れで海軍は無人機の開発に予算投入することとなり、マーヴェリックのプロジェクトが凍結される危機にあった。そこで引き下がる彼ではない。無許可でテスト飛行を行い、目標のマッハ10を出すことに成功するのだ。しかし、調子に乗って更なる速さを求めた結果、テスト機を大破させてしまう。これがきっかけでマーヴェリックは赴任を言い渡される。
かつて、敵機MIG-28を追い払う成果をあげるも、パニック状態となった仲間を救うために命令を無視し、上官からの叱咤と共にトップガンへ赴任することになったマーヴェリックが、今回は教官として異動となるのだ。
核兵器開発用プラントを破壊するため、トップガンを卒業したエリートを集めて指導することになったマーヴェリック。様子を確認しにBARへ訪れる。BARはマーヴェリックにとって思い出の場所でもある。彼がトップガンの訓練生だった頃、BARでチャーリー(ケリー・マクギリス)に一目惚れした。グイグイ口説いて親密になったと思ったら、教官だったのだ。
若者で賑わい、混沌とするBAR。思い出と訓練生の未来を考えているうちに、飲み代が足りなくなる。そして、事情を知らぬ訓練生たちによってバーから追い出された。後日、教員紹介の場でマーヴェリックが登壇し、訓練生たちをニヤつかせる。本作は教官目線の『トップガン』であり、前半における話の骨格は同じである。
では『トップガン マーヴェリック』は、過去の再現にすぎないのか?
答えは「否」である。
ノスタルジーをバネに更なる高みへ急上昇していくのだ。
–{「ルールは君らの安全のためにある」への完璧なアンサー}–
「ルールは君らの安全のためにある」への完璧なアンサー
■メトカフ中佐から言われた「ルールは君らの安全のためにある」
トップガンに赴任したての頃、マーヴェリックは訓練で教官ジェスター(マイケル・アイアンサイド)の背後を取ることに成功する。しかし、曲芸に近い方法で勝利を収めた挙句、管制塔近くを疾走するパフォーマンスを魅せたせいで呼び出される。メトカフ中佐(トム・スケリット)は「ルールは君らの安全のためにある」と指導する。しかし、結局のところ実践の場においてルールは存在しないもの同然。曲芸のような無茶でもってエースであるアイスマン(ヴァル・キルマー)を救い、強力な敵機を撃墜することに成功した。
ルールを破り続けること早30年。彼が教壇に立ち、何を語るのか?
本作はここに着目している。
■君ら全員を生還させるためにルールを破る
まず、教壇に立つや否や、マニュアルをゴミ箱に捨てるところから始まる。
なぜマニュアルをゴミ箱に捨てたのか?
それは、ルールと現状を照らし合わせているうちに殺されることをマーヴェリックは知っているからだ。飛行訓練では高度制限を無視し、容赦なく訓練生の背後を取っていく。にこやかに煽り、恐怖心を与え続けていくのだ。無茶な訓練ができるようにルールの改訂申請も行う。彼の指導法はメトカフ中佐と異なり型破りである。
また、以前であれば恋愛を優先してビーチで仲間と絆を深める機会を犠牲にしていたが、率先して訓練生と一緒にビーチで遊ぶ。「短い時間なのに訓練もせず遊んでて大丈夫なのか」と訊かれると、ビーチを指す。チームとしての絆の高まりを魅せつけるのだ。短い時間だからと焦って、ルールに従い詰め込み教育を行うことは悪手だ。チームワークの大切さを知っている彼は、遊びを通じて絆を深めていたのだ。
特に、今回のメンバー編成には非業の死を遂げた相棒の息子ルースター(マイルズ・テラー)がいる。彼の母の想いを背負い、ルースターがパイロットになることを妨害してきたマーヴェリック。それでもルースターはこの危険なミッションに参加することとなった。ルースターの命を預かることは、マーヴェリックにとって十字架を背負っているようなもの。それも彼の恨みが染み込んだ十字架を。
だからこそ、犠牲は仕方がないと考える作戦本部に対して、誰も死なせない意志を持つ彼はルールを破り続けるのだ。リハーサルが行き詰まり、本部が作戦を変更しようものなら、マーヴェリック自身が無許可で練習エリアに入る。そして実演し、不可能に見える作戦が「可能」であることを証明する。現役パイロットとして、自らが突破口を開くのだ。この情熱に訓練生の心を揺さぶっていき、成長の上限を超えさせてみせる。
若気の至りとしてのルール破り。それを強調するために、中佐は「ルールは君らの安全のためにある」と発した。あれから30年が経ち、マーヴェリックは「仲間を守るためにルールを破る」哲学をものにしたのである。まさしく中佐への完璧なアンサーといえよう。
不可能を可能にする男たちは感動のために死ぬことはない
■いくつもの映画的奇跡を積み重ねる男トム・クルーズ
主演のトム・クルーズといえば『ミッション:インポッシブル』シリーズをはじめとして、様々な不可能を可能にしてきた俳優である。そんな彼に不可能はない。
本作では「一人残らず生還させてみせます」と語る一方で、死亡フラグが次々と立っていく。しかし、紙一重で乗り越えていく。この華麗さに胸躍らされる。
訓練生を守るために、自らミサイルの餌食となって墜落したマーヴェリック。なんとか生き延びるが、目の前に軍用機が現れて袋のネズミとなる。絶体絶命だと思ったら、ルースターが軍用機を破壊する。そのままルースターの戦闘機も不時着する。敵地にいるふたりは、F-14を盗み脱出を図る。だが、そこにも修羅場がある。最先端の戦闘機との勝ち目ない空中戦が始まってしまうのだ。見たこともないようなアクロバティックなミサイル回避をする敵機。銃弾数も少なく、あっという間に30発程度になってしまう。
直感的飛行で、なんとか撃墜するものの、そこにさらに敵機が現れる。銃弾は最後の抵抗で底をついた。いよいよ死が目前に迫る。マーヴェリックもルースターも国を守るために死んでしまうのか?
ミサイルが放たれる。すると、敵機ごと爆発する。仲間が間一髪で、助けに来たのだ。
作戦会議のシーンで、奇跡を2回起こす必要があると語っていたが実際には、
・最初の爆弾投下
・第二の爆弾投下
・ミサイル総攻撃からの脱出
・墜落する自機からの生還×2回(マーヴェリック、ルースター)
・軍用機から生身で逃げ切る
・最先端の戦闘機に空中戦で勝つ×2回
と1つのミッションで8つもの奇跡を起こしているのだ。現実世界ではありえないだろう。しかし、これは映画だ。虚構の中で、奇跡はいくらだって起きてもいいはずなのである。映画の中で不可能を可能にし続ける男トム・クルーズの安心感を背に、仲間が誰一人死ぬことなく生還した。
昨今のブロックバスター映画では、主役格の人物が犠牲的に死ぬことでカタルシスを生む演出が散見される。しかし、この映画において確かにアイスマンこそ老衰で亡くなれど、マーヴェリックやルースターが感動のために死ぬ必要はなかった。後部座席から、開いた口が塞がらぬまま曲芸で修羅場を切り抜けていく爽快さ。そこに感動と興奮が詰まっていたのだ。
『トップガン マーヴェリック』は、2022年最強のアクション超大作であることに間違いない。
(文:CHE BUNBUN)
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–{『トップガン マーヴェリック』作品情報}–
『トップガン マーヴェリック』作品情報
【あらすじ】
アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校トップガンに、伝説のパイロット、マーヴェリックが教官として帰ってきた。空の厳しさと美しさを誰よりも知る彼は、守ることの難しさと戦うことの厳しさを教えるが、訓練生たちはそんな彼の型破りな指導に戸惑い反発する。その中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした相棒グースの息子ルースターの姿もあった。ルースターはマーヴェリックを恨み、彼と対峙するが……。
【予告編】
【基本情報】
キャスト:/トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/チャールズ・パーネル/バシール・サラディンほか
監督:ジョセフ・コジンスキー
製作国:アメリカ