舞台『薔薇王の葬列』公開稽古レポ——両性具有の主人公を演じる若月佑美・有馬爽人らが意気込みを語る

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上段左から:星波、瀬戸祐介、高本 学、君沢ユウキ、加藤 将、廣野凌大、藤岡沙也香、松崎史也、下段左から:谷口賢志、佃井皆美、有馬爽人、若月佑美、和田琢磨、田中良子

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2022年6月10日(金)より開幕する舞台『薔薇王の葬列』。2022年5月20日(金)、本公演に先駆けて、主要キャストが集結する公開稽古と囲み取材が行われた。

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15世紀イングランドを舞台に、両性具有の主人公・リチャードがたどる数奇で残酷な運命をドラマティックに描く本作。原作は「月刊プリンセス」にて連載され、今年1月に本編も完結を迎えた菅野文によるダークファンタジー。

演出の松崎史也から演技指導を受ける若月、和田。一つのシーンを何度も繰り返し、丁寧に作り上げていく

公開稽古では、若月佑美/有馬爽人が演じる主人公・リチャードと和田琢磨演じるヘンリーが出会うシーンと、大勢のキャスト陣が入り乱れる圧巻のアクションシーンが披露された。

宿敵と知らず惹かれていく、リチャード(若月佑美)とヘンリーの出会いを描いたシーン

リチャード(有馬爽人)とヘンリーの抱擁シーンは、思わず息を飲むほど繊細に描かれている

リチャード(若月佑美)にナイフを突きつける、ヘンリー六世の息子・エドワード王太子(廣野凌大)

リチャードが両性具有のキャラクターということで、男女によるWキャストという珍しい取り組みをする本作。同じ殺陣シーンひとつとっても違いのある、若月、有馬それぞれが作り上げるリチャードの姿に期待が高まる

稽古後の囲み取材では、演出を担当する松崎史也にどのように作品を捉えているかとの質問が飛ぶと「原作がとても好き。シェイクスピアのリチャード三世はダークヒーローとして描かれているが、『薔薇王の葬列』では両性具有で母親に愛されていない人物と描くことで、ねじれて曲がった部分を表現している。ジェンダーレス、ネグレクトなど、現代的なテーマにアップデートされているところが特に素晴らしい」と原作への愛を語りつつ、「この座組でやるならやりたいことが山程ある」と意欲を見せた。

大人数での殺陣シーンを始める前には、舞台セットの模型を使っての説明が行われていた


激しいアクションシーンを前に、細かな動きを入念にチェックしていく

さらに、この日はまだ明かされていなかったジャンヌダルク役に佃井皆美がキャスティングされたことも発表。松崎は「僕は彼女のことを演劇界のジャンヌ・ダルクだと思っている。ジャンヌは彼女しかありえませんでした」と納得の配役であることを明かした。

–{若月佑美「面白い舞台になると思うし、そうしなければとも思っています」}–

Wキャストとして両性具有という難しい役どころとなるリチャードを演じる若月佑美は「これから稽古で詰めていきますが、キャストの皆さんにたくさん影響をいただきながら頑張ろうと思っています。面白い舞台になると思うし、そうしなければとも思っています」とやや緊張をにじませた表情で率直な想いを口にし、同じくリチャード役の有馬爽人は「殺陣の稽古など初めてのことが多く、僕にとっても新たな挑戦。本番までにリチャードをもっと追求していきたい」と目を輝かせた。

リラックスした様子で松崎とコミュニケーションを取る和田

ヘンリーにひざまずくヨーク公爵リチャード(谷口賢志)の真意は……

リチャードの宿敵・ヘンリーを演じる和田琢磨は「自分の地位や権威、人の欲望、愚かさ、醜さをすごく美しく描かれている作品」と原作の印象を語り、「いろんな役者の表情を間近で観られることが個人的にも楽しみ。そしてそれをお客様に伝えられるように頑張っていきたい」と意気込む。

リチャードの兄でヨーク家の長男・エドワード役の君沢ユウキは、男女でのWキャストという本作ならではの配役について触れ、「個人的にはリチャードとヘンリーの関係性が好き。男性キャストがやる上での女性になれないという苦しみ、女性キャストがやる上での男性になれないという苦しみが、全然違うように見えると思うので楽しみにしてほしい」と熱弁し、次男・ジョージを演じる高本学は「最近の2.5次元舞台は歌やダンスの表現が織り込まれている中、『薔薇王の葬列』はお芝居だけでやるというのがチャレンジだなと感じた。演劇の持つパワーで原作の世界観を真摯に伝えていきたい」と力強く宣言。

長い手足で華麗な殺陣を繰り出すケイツビー役の加藤将

ヨーク公爵リチャードに忠誠心を見せるウォリック伯爵(瀬戸祐介)。ヨーク家を取り巻く人間関係も本作の見どころ

リチャードが生まれた頃から仕えている世話係・ケイツビー役の加藤将は「ケイツビーとしてはWキャストの二人を最後まで見守る存在でいたい」と役さながらにコメントし、ヨーク公爵リチャードの参謀的存在・ウォリック伯爵を演じる瀬戸祐介は「シェイクスピアが題材になってはいるが、僕はスパイス的にしか意識していない。演出が信頼の置ける松崎さんなので“シェイク史也”として後世に語り継いでいきたい」と笑いを誘った。

ヘンリーの息子でリチャードに心惹かれるエドワード王太子役の廣野凌大は「それぞれが正義を持っていて、純粋に生と愛にしがみついている作品」とし「本作はそこまで映像や音楽に頼っておらず、あくまでも人間の力で演じる作品だと思う」と真っ直ぐに伝える。

ヨーク家の家族愛を感じさせる一幕。しかし、リチャードには葛藤が……

この日、初めて稽古に合流したというウォリック伯爵の長女・アンを演じる星波は「アンは素直で純粋な子なので、アンのピュアさを大切に演じていきたい」と真摯に語り、続けてリチャードの母親ながらリチャードを忌み嫌うセシリー役の藤岡沙也香も「周りに何を言われても自分の考えを貫いていくセシリーを歩んでいきたい」と笑顔を見せた。

ヘンリーの妻・マーガレット役の田中良子は「顔合わせの時に俳優さんたちを見て、原作にふさわしい俳優さんたちだと感じた」と第一印象を振り返りつつ「最終的にはただの一人の母親として存在していきたい」とコメント。

ヨーク公爵リチャード役の谷口賢志

役に入ると厳めしいオーラをまとう谷口も、松崎と演出プランをすり合わせながら笑顔をのぞかせる

リチャード、エドワード、ジョージの父であるヨーク公爵リチャードを演じる谷口賢志は、コロナ禍での演劇界についても言及。「演劇が社会にとって必要なのかというのは僕の中でもずっと考えている。心が苦しい時は楽しんだり癒される作品の方がいいと思うけど、それが果たして社会のためになるのか。今回僕たちは社会と繋がる覚悟を持って命がけで世界に演劇は必要なんだと胸を張って言えるように戦っていきたい」と真っ直ぐに前を見据えた。

そして、先ほど松崎から大絶賛を受けたジャンヌダルク役の佃井は「松崎さんに嬉しい言葉をいただいて気が引き締まる思い」とし、続けて「ジャンヌはリチャードとすごく関わりがあるので、お二人と関係を大切に作りながら素晴らしい作品を届けたい」とアピール。

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最後に有馬は「リチャードが主人公だけど、登場人物ひとりひとりが濃い作品。もし僕がお客様として観たとしたら、一回観ただけでは満足しないと思う。若月さんのリチャードとしての物語、僕のリチャードとしての物語はまた違ってくると思うし、他の人物での視点として観ても面白いはず」とファンの期待を煽った。

さらに若月は「皆様の原作へのリスペクトが半端ない。皆様と話すことでよりリチャードの感情が見えてきたり、こういう物語だったんだと気づくことが多い。カンパニーがちゃんと愛を持って『薔薇王の葬列』を上演したいと思っていることを一番にお伝えしたい。そして、お客様が観終わったあとにたくさん感想を言い合えるような舞台にしていきたい」と意気込んだ。

(撮影:編集部、取材・文:榎本麻紀恵)

–{舞台『薔薇王の葬列』作品情報}–

舞台『薔薇王の葬列』作品情報

公演:2022年6月10日(金)~19日(日)日本青年館ホール

原作:TVアニメ「薔薇王の葬列」

脚本:内田裕基

演出:松崎史也

【出演】
リチャード:若月佑美/有馬爽人(Wキャスト)
ヘンリー:和田琢磨
エドワード:君沢ユウキ
ジョージ:高本 学
ケイツビー:加藤 将
ウォリック伯爵:瀬戸祐介
エドワード王太子:廣野凌大
アン:星波
セシリー:藤岡沙也香
マーガレット:田中良子
ヨーク公爵リチャード:谷口賢志
ジャンヌダルク:佃井皆美

【あらすじ】
中世イングランド。

白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家による王座を巡る戦い——“薔薇戦争”。

ヨーク家の三男として生を受けたリチャードは、同じ名を持つ父の愛を一身に受けるが、実の母セシリーには「悪魔の子」と呼ばれ蔑まれていた。

戦乱の中、父・ヨーク公爵を王にすることを願うリチャードは、森で羊飼いの青年・ヘンリーと出会い、束の間の逢瀬に心を通わせる。互いの素性を知らぬ二人。しかしヘンリーの正体は、宿敵ランカスター家の王・ヘンリー六世その人であった。

リチャードは運命の戦禍を必死に生き抜いていく。その身に宿す「男」と「女」、二つの存在に身を引き裂かれそうになりながら―。

公式サイト:https://officeendless.com/sp/baraou_stage/